木造多重塔の制振構造
【課題】 塔身と木製心柱とが独立して挙動する木造多重塔において、地震や台風等により木造多重塔が振動しても、木製心柱の損傷を抑制する制振構造を提供する。
【解決手段】 塔身4と、その内部に設置されて前記塔身4と独立に挙動する木製心柱2と、を有する木造多重塔1の振動を制御する構造において、木造多重塔1の振動発生時に、木製心柱2における相輪2a頂部の変位を吸収するダンパーを、木製心柱2と塔身4の相対変位の最も大きな位置に設置した。このダンパー10により、木製心柱2と塔身4の相対変位は、ダンパー10に吸収され、木製心柱2の損傷を抑制することが可能となる。
【解決手段】 塔身4と、その内部に設置されて前記塔身4と独立に挙動する木製心柱2と、を有する木造多重塔1の振動を制御する構造において、木造多重塔1の振動発生時に、木製心柱2における相輪2a頂部の変位を吸収するダンパーを、木製心柱2と塔身4の相対変位の最も大きな位置に設置した。このダンパー10により、木製心柱2と塔身4の相対変位は、ダンパー10に吸収され、木製心柱2の損傷を抑制することが可能となる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木造多重塔に係り、特にその制振構造に関する。
【背景技術】
【0002】
社寺等における三重,五重,七重又は十三重などの木造多重塔として知られる塔は、日本古来の木造建築物である。前記木造多重塔1は、図11に示すように、内部中心に吹き抜けが形成されて階層を重ねた塔身4と、その塔身4の吹き抜け状の内部中心に設けられた木製心柱2と、を有する。前記木製心柱2は、その上端が塔身4の最上層の屋根3から上部に突き出ており、この部分が相輪2aと呼ばれている。また、前記木製心柱2は、下端部が地上から自立しているものや、地上から浮いて振り子のように揺動可能に設けられているものがある。
【0003】
前記木造多重塔1は、地盤や構造など細かい相違点はあるものの、古来より耐震性に優れていることが指摘されている。特に、地震による木造五重塔の被災記録に限ると、塔身に甚大な被害を受けた記録は残っていない(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】大山瑞穂,藤田香織「伝統的木造五重塔の振動特性に関する研究 その1 歴史地震による被災状況」、日本建築学会学術講演便覧集、2002年8月、p.249〜250。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記木造多重塔1は、上述したとおり塔身4に甚大な被害を受けた記録はないが、木製心柱2に損傷を受けた記録が報告されている。
【0006】
この木製心柱2の損傷は、地震により相輪2aの根元と塔身4とが接触することが起因と考えられる。さらに、木造多重塔1の木製心柱2は、デザイン上その太さが決められており、強度を増すために直径寸法を大きくすることができないという問題点があった。
【0007】
また、上述したとおり、木造多重塔1は地震に強い構造と考えられているが、台風によって倒壊した事例も報告されている。
【0008】
さらに、木造多重塔1の木製心柱2は塔身4の全重量に対して1〜2%程度の重量しかなく、既存の制振構造では本問題を解決することができない。
【0009】
また、木造多重塔1のほとんどは、経験に基づいて定性的に設計されたものであり、定量的な評価はされていなかった。
【0010】
以上示したようなことから、木造の塔身と木製心柱とが独立して挙動する木造多重塔において、地震や台風等により木造多重塔が振動しても、木製心柱の損傷を抑制する制振構造を提供することが主な課題となる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、前記従来の問題に鑑み、案出されたもので、塔身と、その内部に設置されて前記塔身と独立に挙動する木製心柱と、を有する木造多重塔の振動を制御する構造であって、木造多重塔の振動発生時に、木製心柱における相輪頂部の変位を吸収するダンパーを、木製心柱と塔身の相対変位の最も大きな位置に設けたことを特徴とする。
【0012】
また、その一態様として、前記塔身は、その内部中心に吹き抜けを形成して階層を重ねて構成されており、前記木製心柱は、前記塔身の内部吹き抜けに、下端部が地上から浮いて、かつ、上端部が塔身の屋根から上部に突き出た状態で、吊下部材によって吊下げられていることを特徴とする。
【0013】
また、その別の態様として、前記塔身は、その内部中心に吹き抜けを形成して階層を重ねて構成されており、前記木製心柱は、前記塔身の内部中心の吹き抜けに、下端部が地上から自立し、かつ、上端部が塔身の屋根から上部に突き出ていることを特徴とする。
【0014】
また、その一態様として、前記ダンパーは、複数個で木製心柱の外周一周を囲い、周方向に連結して木製心柱を抱持固定する抱持部材と、前記抱持部材のそれぞれに一端が固定された複数個のダンパー本体と、前記複数個のダンパー本体の他端と塔身との間に介挿される架台と、を有し、前記抱持部材とダンパー本体、ダンパー本体と架台は、互いに穿設されたピン孔にピンを挿通して、回動自在に支持されたことを特徴とする。
【0015】
また、その一態様として、前記抱持部材は、略弧状に形成された基部と、前記基部の木製心柱側端部から垂直に立設した当接部と、前記基部の周方向両端から垂直に立設した連結壁と、を有し、隣り合う抱持部材の連結壁を、バネ部材に挿通されたボルトとナットで連結することを特徴とする。
【0016】
また、その一態様として、前記木製心柱におけるダンパーの設置位置に、炭素繊維板が貼り付けられたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、木造の塔身と木製心柱とが独立して挙動する木造多重塔において、地震や台風等により木造多重塔が振動しても、木製心柱の損傷を抑制する制振構造を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施形態における木造多重塔の断面図である。
【図2】実施形態における木造多重塔の側面図である。
【図3】実施形態における木造多重塔の平面図である。
【図4】実施形態における木製心柱とダンパーの縦断面図である。
【図5】実施形態における木製心柱とダンパーの横断面図である。
【図6】実施形態におけるダンパー本体の詳細図である。
【図7】実施形態における抱持部材の平面図である。
【図8】実施形態における木製心柱を示す図である。
【図9】実施形態における木製心柱の断面図である。
【図10】応答解析に用いた地震動のグラフである。
【図11】従来の一般的な木造多重塔の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本願発明者は、伝統的木造建築物である木造多重塔を定量的に解析し、木製心柱の特定の位置にダンパーを設置することによって、木製心柱の損傷を抑制する木造多重塔の制振構造を見出した。本発明は、この結果から、塔身と木製心柱とが独立して挙動する木造多重塔についての制振構造を提供するものである。以下、実施形態において、具体的な木造多重塔の制振構造を説明する。
[実施形態]
図1は、本実施形態における木造多重塔1を示す縦断面図,図2は側面図,図3は横断面図である。なお、図3の横断面図は、(a)初重層,(b)二重層,(c)三重層,(d)四重層,(e)五重層,を示す。
【0020】
図1〜図3に示すように、本実施形態における木造多重塔(五重塔)1は、塔身4と、その塔身4の中心内部に設けられた木製心柱2と、を有する。
【0021】
前記塔身4は、内部中心に吹き抜けを形成して、地上層(初重層)4aから最上層(五重層)4eまで階層を重ねて構成されている。この塔身4は、地上層4aから最上層4eまでの通し柱を持たず、各階層を支える構造は、各階層で分断された側柱6a,四天柱6bおよび外壁6cで構成されている。
【0022】
前記塔身4における二重層4b以上の内部空間は、使用することが目的とされていないため、側柱6aは太く短い柱が用いられている。なお、塔身4の各部は、貫やホゾなどの伝統的工芸に基づいて接合されており、木造住宅のような取付金具等による強固な接合ではない。そのため、木造多重塔1の変形時に生じる木材同士のめり込みに対する剛性を考慮して設計する必要がある。
【0023】
前記木製心柱2は、前記塔身4における内部中心の吹き抜けに吊下部材(例えば、鎖等)5によって吊られており、その下端部が地上から浮いて振り子のように揺動可能に設けられている。また、前記木製心柱2は、図4に示すように、当該木製心柱2の変位を吸収するダンパー10を介して塔身4に支持されている。
【0024】
前記木製心柱2の頂部は、図1,図2に示すとおり、最上層の屋根3の中心部から突き出ており、この部分が相輪2aとなる。前記相輪2aは、露盤,伏鉢,請花,九輪,水煙,竜車,宝珠等の装飾が施された仏教上のシンボルであり、卒塔婆の形状に由来するとされている。
【0025】
前記ダンパー10は、図5に示すように、木製心柱2を抱持固定する複数個の抱持部材12と、その抱持部材12のそれぞれに一端が固定された複数個のダンパー本体13と、前記ダンパー本体13の他端と塔身4との間に介挿される複数個の架台11と、を具備する。前記架台11は、四天柱6bを跨って架設する横フレーム8bに設置されている。
【0026】
図6(a)平面図,(b)側面図は、前記ダンパー本体13の構成図である。前記ダンパー本体13は、2枚のプレート13a1,13a1と、そのプレート13a1の長手方向に若干ずらして当該2枚のプレート13a1,13a1の間に配設された1枚のプレート13a2と、を有し、前記2枚プレート13a1,13a1と1枚のプレート13a2との間に、粘弾性体(例えば、下記表1に示す配合のジエン系粘弾性体SDM−1)13bが介設されている。
【0027】
【表1】
【0028】
また、前記2枚のプレート13a1の一端は塔身側ブラケット13c1に支持され、1枚のプレート13a2の一端は心柱側ブラケット13c2に支持されている。この塔身側ブラケット13c1,心柱側ブラケット13c2には、それぞれピン孔13f,13fが穿設されており、前記架台11,抱持部材12にも、同様のピン孔が穿設されている。
【0029】
この塔身側ブラケット13c1のピン孔13fと架台11とのピン孔にピン13dを挿通することにより、ダンパー本体13が架台11に回動自在に支持される。同様に、心柱側ブラケット13c2のピン孔13fと抱持部材12のピン孔にピン13dを挿通することにより、ダンパー本体13が抱持部材12に回動自在に支持される。なお、前記ピン13dには、ピン孔13fに挿通された状態で留め輪13e,13eが巻着され、ピン孔13fからの抜止めが施されている。
【0030】
前記抱持部材12は、図7に示すように、複数個で木製心柱2の外周一周を囲い、周方向に連結して木製心柱2を抱持固定するものである。本実施形態では、4つの抱持部材12によって木製心柱2の外周一周を囲い、各抱持部材12は中心角90°の略弧状に形成されている。
【0031】
前記抱持部材12は、略弧状に形成された基部12cと、前記基部12cの木製心柱側端部から垂直に立設した当接部12aと、前記基部12cの周方向両端から垂直に立設した連結壁12b,12bと、で形成されている。なお、本実施形態は、木製心柱2が横断面八角形状に形成されているため、基部12cの内周も八角形状に形成されている。
【0032】
前記抱持部材12により木製心柱2を抱持固定する際には、4つの抱持部材12を木製心柱2の外周一周を囲うように配置し、隣り合う連結壁12b,12bのボルト孔にボルト14を挿通してナット14aで締め付ける。ここで、ボルト14とナット14aを強く締め付け、周方向に隣り合う抱持部材12同士を接近させる程、木製心柱2は抱持部材12に強く抱持固定されることとなる。
【0033】
また、本実施形態では、前記ボルト14の頭部と連結壁12bとの間に当該ボルト14に挿通された状態でバネ部材(例えば、スプリング)14bが設けられている。
【0034】
このように、ダンパー10を設置することにより、木造多重塔1に振動が発生した際には、木製心柱2の変位のエネルギーがダンパー本体10により吸収される。すなわち、前記プレート13a1,13a2の長手方向に対する木製心柱2の変位のエネルギーは、粘弾性体13bの弾性力により吸収される。また、ダンパー本体13が架台11および抱持部材12に対して回動自在に支持されているため、前記プレート13a1,13a2の厚み方向に木製心柱2が変位した際には、ダンパー本体13は、木製心柱2の変位に伴って回動する。
【0035】
本実施形態では、木製心柱2に4方向からダンパー本体13を設けているため、どの方向に木製心柱2が変位したとしても、何れか2つ以上のダンパー本体13の弾性力によって、木製心柱2における変位のエネルギーは吸収されることとなる。
【0036】
また、ボルト14の頭部と連結壁12bとの間にバネ部材14bを設けることにより、ボルト14とナット14aの締め付けが緩んでも、隣り合う抱持部材12同士は接近された状態が維持される。そのため、木材から成る木製心柱2は経年に共って次第に痩せ直径寸法が小さくなる可能性はあるものの、木製心柱2は抱持部材12により強く抱持固定された状態が維持される。
【0037】
次に、木製心柱2について、図8に基づき詳細に説明する。木製心柱2は接合部が無い木材を基本とするが、本実施形態では、図8(a:木製心柱2の側面図)に示すように、1番木2b,2番木2c,3番木2dを長さ方向に2箇所で接合して形成されている。前記1番木2bの天端,2番木2cの下端には継ぎ手(例えば、貝の口継ぎ手)7が形成されており、1番木2bの天端と2番木2cの下端とが接合される。同様に、2番木2cの天端と3番木2dの下端には継ぎ手7が形成されており、2番木2cの天端と3番木2dの下端とが接合される。前記継ぎ手7には補強リング7aが巻かれると共に、貫通ボルト7bが挿通され、接合が補強される。
【0038】
また、木製心柱2には、ヒノキ,杉等の木材が使用され、前記木製心柱2の重量は、木造多重塔1全体の重量よりも遥かに軽く、木造五重塔を例にすると全体の1〜2パーセント程度である。
【0039】
図8(b:木製心柱2の下端部および初重層4a天井の図)に示すように、初重層4aの天井部には、前記四天柱6b間を跨って横フレーム8aが架設され、前記横フレーム8aには前記木製心柱2を囲う枠材8が支持されている。これにより、木製心柱2下端部の水平方向の揺れが抑制される。
【0040】
図9は、ダンパー10設置位置における木製心柱2の断面図を示す。前記木製心柱2の断面は、略八角形状に形成されており、各辺に切り欠き2bが形成されている。前記切り欠き2bには、炭素繊維板9が貼り付けられる。木製心柱2は、デザインによって直径寸法が決められてしまい太くすることができないが、炭素繊維板9を貼り付けることにより、ダンパー10設置位置における強度が確保される。また、木製心柱2の断面形状を円形から八角形に変更することにより、炭素繊維板9の貼付作業や強度計算が容易になる。
【0041】
次に、ダンパー10の設置位置の決定方法について説明する。ダンパー10の設置位置の決定は、以下の手順により行われる。
(1)木造五重塔の仕口を回転剛性とせん断剛性を持つバネとして解析モデルを作成する。ここでは、塔身4から吊下部材5で吊るされた木製心柱2にダンパー10を設置した木造五重塔を解析に用いたものとして説明する。
(2)木製心柱2は、通常、上方へ向かうにしたがって細くなっていくものが多いため、各重で区切ってモデル化し、部材同士を剛接合する。
(3)塔身4と木製心柱2に対して振動解析を行い、塔身4と木製心柱2との相対変位が最も大きくなる位置を特定する。
(4)前記相対変位が最も大きくなる位置に、ダンパー10の設置が可能かを検討する。ダンパー10の設置が不可能な場合には、(3)に戻り、その他の位置で相対変位が最も大きな位置を探す。
(5)(4)により特定された位置にダンパー10を設置し、再度振動解析を行う。
(6)ダンパー10の設置前後における振動解析の結果を比較し、効果が得られていることを確認する。
【0042】
前記(1)〜(6)の手順により、本実施形態では、木製心柱2の相輪2a根元付近の位置にダンパー10を設置することが決定された。
【0043】
次に、本実施形態における木造多重塔1の地震応答解析結果について説明する。下記表2は、解析に用いた地震動のデータを示す。
【0044】
【表2】
【0045】
前記表2において、(a)神戸L2はJMA神戸NSにおけるL2(極めて稀に発生する地震;震度6〜7)の位相を用いた模擬地震動,(b)八戸L2は八戸NSにおけるL2の位相を用いた模擬地震動,(c)福岡L2は福岡西方沖地震FK006におけるL2の位相を用いた模擬地震動,(d)福岡REは福岡西方沖地震FK006を現地(建設予定地)地盤で引き戻した地震動を示す。
【0046】
図10に、前記表2で示した(a)神戸L2,(b)八戸L2,(c)福岡L2,(d)福岡REの地震動を、縦軸に加速度(cm/s2),横軸に時刻(s)で表したグラフを示す。
【0047】
下記表3は、前記(a)〜(d)の地震動発生時における木製心柱2頂部(相輪2a頂部)の応答変位を表にして示したものである。この表3では、ダンパー10を設置した場合の木製心柱2頂部の変位,ダンパー10を設置しなかった場合の木製心柱2頂部の変位、ダンパー10を設置した場合と設置しなかった場合の木製心柱2頂部の変位の割合を示している。
【0048】
【表3】
【0049】
上記表3から見て取れるように、地震動によって差はあるものの、ダンパー10を設置した場合は、設置しなかった場合と比較して、平均4割弱ほど木製心柱2頂部(相輪2a頂部)の応答変位が減少している。
【0050】
このように、ダンパー10を木製心柱2と塔身4の相対変位の最も大きな位置に設置することにより、地震や台風により木造多重塔1が振動しても、木製心柱2の変位を抑制することができる。その結果、木造多重塔1の木製心柱2は、塔身4の全重量に対して1〜2%程度の重量しかないものの、木製心柱2と塔身4の相対変位が抑制され、心柱2が塔身4に接触して損傷を受けることを抑制することが可能となる。
【0051】
また、ダンパー10を設置することにより、木製心柱2に支点ができてしまうものの、木製心柱2のダンパー10設置位置に炭素繊維板9を設けることにより、木製心柱2の強度が増し、木製心柱2の損傷を抑制することが可能となる。さらに、木製心柱2のダンパー10設置付近を横断面八角形状に形成することにより、炭素繊維板9を貼り付けるための切り欠き2bを設けることや、炭素繊維板9の貼付作業が容易となり、さらに、木製心柱2の強度計算も容易となる。
【0052】
さらに、木製心柱2に4方向からダンパー本体13を設け、ダンパー本体13をピン13dによって、架台11,抱持部材12に回動自在に支持することにより、地震動や台風により木造多重塔1が多方向に振動しても、木製心柱2の変位のエネルギーを吸収することが可能となる。
【0053】
また、隣り合う抱持部材12をボルト14とナット14aによって接続する際、ボルト14にバネ部材14bを挿通させることにより、木材から成る木製心柱2が、経年と共にやせ細っても、強く抱持固定された状態を維持することが可能となる。
【0054】
以上、本発明において、記載された具体例に対してのみ詳細に説明したが、本発明の技術思想の範囲で多彩な変形および修正が可能であることは、当業者にとって明白なことであり、このような変形および修正が特許請求の範囲に属することは当然のことである。
【0055】
例えば、実施形態では、木製心柱2が塔身4に吊られており、その下端部が地上から浮いている木造多重塔1について説明したが、木製心柱2が自立(例えば、基壇(初重層の床)や初重層天井裏から自立)した木造多重塔でもよい。
【0056】
また、実施形態のダンパー本体13は、粘弾性ダンパーを適用したが、それ以外のオイルダンパー,粘性ダンパー,摩擦ダンパーを適用してもよい。
【符号の説明】
【0057】
1…木造多重塔
2…木製心柱
2a…相輪
4…塔身
5…吊下部材
9…炭素繊維板
10…ダンパー
11…架台
12…抱持部材
12a…当接部
12b…連結壁
12c…基部
13…ダンパー本体
13d…ピン
13e…ピン孔
14…ボルト
14a…ナット
14b…バネ部材
【技術分野】
【0001】
本発明は、木造多重塔に係り、特にその制振構造に関する。
【背景技術】
【0002】
社寺等における三重,五重,七重又は十三重などの木造多重塔として知られる塔は、日本古来の木造建築物である。前記木造多重塔1は、図11に示すように、内部中心に吹き抜けが形成されて階層を重ねた塔身4と、その塔身4の吹き抜け状の内部中心に設けられた木製心柱2と、を有する。前記木製心柱2は、その上端が塔身4の最上層の屋根3から上部に突き出ており、この部分が相輪2aと呼ばれている。また、前記木製心柱2は、下端部が地上から自立しているものや、地上から浮いて振り子のように揺動可能に設けられているものがある。
【0003】
前記木造多重塔1は、地盤や構造など細かい相違点はあるものの、古来より耐震性に優れていることが指摘されている。特に、地震による木造五重塔の被災記録に限ると、塔身に甚大な被害を受けた記録は残っていない(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】大山瑞穂,藤田香織「伝統的木造五重塔の振動特性に関する研究 その1 歴史地震による被災状況」、日本建築学会学術講演便覧集、2002年8月、p.249〜250。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記木造多重塔1は、上述したとおり塔身4に甚大な被害を受けた記録はないが、木製心柱2に損傷を受けた記録が報告されている。
【0006】
この木製心柱2の損傷は、地震により相輪2aの根元と塔身4とが接触することが起因と考えられる。さらに、木造多重塔1の木製心柱2は、デザイン上その太さが決められており、強度を増すために直径寸法を大きくすることができないという問題点があった。
【0007】
また、上述したとおり、木造多重塔1は地震に強い構造と考えられているが、台風によって倒壊した事例も報告されている。
【0008】
さらに、木造多重塔1の木製心柱2は塔身4の全重量に対して1〜2%程度の重量しかなく、既存の制振構造では本問題を解決することができない。
【0009】
また、木造多重塔1のほとんどは、経験に基づいて定性的に設計されたものであり、定量的な評価はされていなかった。
【0010】
以上示したようなことから、木造の塔身と木製心柱とが独立して挙動する木造多重塔において、地震や台風等により木造多重塔が振動しても、木製心柱の損傷を抑制する制振構造を提供することが主な課題となる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、前記従来の問題に鑑み、案出されたもので、塔身と、その内部に設置されて前記塔身と独立に挙動する木製心柱と、を有する木造多重塔の振動を制御する構造であって、木造多重塔の振動発生時に、木製心柱における相輪頂部の変位を吸収するダンパーを、木製心柱と塔身の相対変位の最も大きな位置に設けたことを特徴とする。
【0012】
また、その一態様として、前記塔身は、その内部中心に吹き抜けを形成して階層を重ねて構成されており、前記木製心柱は、前記塔身の内部吹き抜けに、下端部が地上から浮いて、かつ、上端部が塔身の屋根から上部に突き出た状態で、吊下部材によって吊下げられていることを特徴とする。
【0013】
また、その別の態様として、前記塔身は、その内部中心に吹き抜けを形成して階層を重ねて構成されており、前記木製心柱は、前記塔身の内部中心の吹き抜けに、下端部が地上から自立し、かつ、上端部が塔身の屋根から上部に突き出ていることを特徴とする。
【0014】
また、その一態様として、前記ダンパーは、複数個で木製心柱の外周一周を囲い、周方向に連結して木製心柱を抱持固定する抱持部材と、前記抱持部材のそれぞれに一端が固定された複数個のダンパー本体と、前記複数個のダンパー本体の他端と塔身との間に介挿される架台と、を有し、前記抱持部材とダンパー本体、ダンパー本体と架台は、互いに穿設されたピン孔にピンを挿通して、回動自在に支持されたことを特徴とする。
【0015】
また、その一態様として、前記抱持部材は、略弧状に形成された基部と、前記基部の木製心柱側端部から垂直に立設した当接部と、前記基部の周方向両端から垂直に立設した連結壁と、を有し、隣り合う抱持部材の連結壁を、バネ部材に挿通されたボルトとナットで連結することを特徴とする。
【0016】
また、その一態様として、前記木製心柱におけるダンパーの設置位置に、炭素繊維板が貼り付けられたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、木造の塔身と木製心柱とが独立して挙動する木造多重塔において、地震や台風等により木造多重塔が振動しても、木製心柱の損傷を抑制する制振構造を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施形態における木造多重塔の断面図である。
【図2】実施形態における木造多重塔の側面図である。
【図3】実施形態における木造多重塔の平面図である。
【図4】実施形態における木製心柱とダンパーの縦断面図である。
【図5】実施形態における木製心柱とダンパーの横断面図である。
【図6】実施形態におけるダンパー本体の詳細図である。
【図7】実施形態における抱持部材の平面図である。
【図8】実施形態における木製心柱を示す図である。
【図9】実施形態における木製心柱の断面図である。
【図10】応答解析に用いた地震動のグラフである。
【図11】従来の一般的な木造多重塔の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本願発明者は、伝統的木造建築物である木造多重塔を定量的に解析し、木製心柱の特定の位置にダンパーを設置することによって、木製心柱の損傷を抑制する木造多重塔の制振構造を見出した。本発明は、この結果から、塔身と木製心柱とが独立して挙動する木造多重塔についての制振構造を提供するものである。以下、実施形態において、具体的な木造多重塔の制振構造を説明する。
[実施形態]
図1は、本実施形態における木造多重塔1を示す縦断面図,図2は側面図,図3は横断面図である。なお、図3の横断面図は、(a)初重層,(b)二重層,(c)三重層,(d)四重層,(e)五重層,を示す。
【0020】
図1〜図3に示すように、本実施形態における木造多重塔(五重塔)1は、塔身4と、その塔身4の中心内部に設けられた木製心柱2と、を有する。
【0021】
前記塔身4は、内部中心に吹き抜けを形成して、地上層(初重層)4aから最上層(五重層)4eまで階層を重ねて構成されている。この塔身4は、地上層4aから最上層4eまでの通し柱を持たず、各階層を支える構造は、各階層で分断された側柱6a,四天柱6bおよび外壁6cで構成されている。
【0022】
前記塔身4における二重層4b以上の内部空間は、使用することが目的とされていないため、側柱6aは太く短い柱が用いられている。なお、塔身4の各部は、貫やホゾなどの伝統的工芸に基づいて接合されており、木造住宅のような取付金具等による強固な接合ではない。そのため、木造多重塔1の変形時に生じる木材同士のめり込みに対する剛性を考慮して設計する必要がある。
【0023】
前記木製心柱2は、前記塔身4における内部中心の吹き抜けに吊下部材(例えば、鎖等)5によって吊られており、その下端部が地上から浮いて振り子のように揺動可能に設けられている。また、前記木製心柱2は、図4に示すように、当該木製心柱2の変位を吸収するダンパー10を介して塔身4に支持されている。
【0024】
前記木製心柱2の頂部は、図1,図2に示すとおり、最上層の屋根3の中心部から突き出ており、この部分が相輪2aとなる。前記相輪2aは、露盤,伏鉢,請花,九輪,水煙,竜車,宝珠等の装飾が施された仏教上のシンボルであり、卒塔婆の形状に由来するとされている。
【0025】
前記ダンパー10は、図5に示すように、木製心柱2を抱持固定する複数個の抱持部材12と、その抱持部材12のそれぞれに一端が固定された複数個のダンパー本体13と、前記ダンパー本体13の他端と塔身4との間に介挿される複数個の架台11と、を具備する。前記架台11は、四天柱6bを跨って架設する横フレーム8bに設置されている。
【0026】
図6(a)平面図,(b)側面図は、前記ダンパー本体13の構成図である。前記ダンパー本体13は、2枚のプレート13a1,13a1と、そのプレート13a1の長手方向に若干ずらして当該2枚のプレート13a1,13a1の間に配設された1枚のプレート13a2と、を有し、前記2枚プレート13a1,13a1と1枚のプレート13a2との間に、粘弾性体(例えば、下記表1に示す配合のジエン系粘弾性体SDM−1)13bが介設されている。
【0027】
【表1】
【0028】
また、前記2枚のプレート13a1の一端は塔身側ブラケット13c1に支持され、1枚のプレート13a2の一端は心柱側ブラケット13c2に支持されている。この塔身側ブラケット13c1,心柱側ブラケット13c2には、それぞれピン孔13f,13fが穿設されており、前記架台11,抱持部材12にも、同様のピン孔が穿設されている。
【0029】
この塔身側ブラケット13c1のピン孔13fと架台11とのピン孔にピン13dを挿通することにより、ダンパー本体13が架台11に回動自在に支持される。同様に、心柱側ブラケット13c2のピン孔13fと抱持部材12のピン孔にピン13dを挿通することにより、ダンパー本体13が抱持部材12に回動自在に支持される。なお、前記ピン13dには、ピン孔13fに挿通された状態で留め輪13e,13eが巻着され、ピン孔13fからの抜止めが施されている。
【0030】
前記抱持部材12は、図7に示すように、複数個で木製心柱2の外周一周を囲い、周方向に連結して木製心柱2を抱持固定するものである。本実施形態では、4つの抱持部材12によって木製心柱2の外周一周を囲い、各抱持部材12は中心角90°の略弧状に形成されている。
【0031】
前記抱持部材12は、略弧状に形成された基部12cと、前記基部12cの木製心柱側端部から垂直に立設した当接部12aと、前記基部12cの周方向両端から垂直に立設した連結壁12b,12bと、で形成されている。なお、本実施形態は、木製心柱2が横断面八角形状に形成されているため、基部12cの内周も八角形状に形成されている。
【0032】
前記抱持部材12により木製心柱2を抱持固定する際には、4つの抱持部材12を木製心柱2の外周一周を囲うように配置し、隣り合う連結壁12b,12bのボルト孔にボルト14を挿通してナット14aで締め付ける。ここで、ボルト14とナット14aを強く締め付け、周方向に隣り合う抱持部材12同士を接近させる程、木製心柱2は抱持部材12に強く抱持固定されることとなる。
【0033】
また、本実施形態では、前記ボルト14の頭部と連結壁12bとの間に当該ボルト14に挿通された状態でバネ部材(例えば、スプリング)14bが設けられている。
【0034】
このように、ダンパー10を設置することにより、木造多重塔1に振動が発生した際には、木製心柱2の変位のエネルギーがダンパー本体10により吸収される。すなわち、前記プレート13a1,13a2の長手方向に対する木製心柱2の変位のエネルギーは、粘弾性体13bの弾性力により吸収される。また、ダンパー本体13が架台11および抱持部材12に対して回動自在に支持されているため、前記プレート13a1,13a2の厚み方向に木製心柱2が変位した際には、ダンパー本体13は、木製心柱2の変位に伴って回動する。
【0035】
本実施形態では、木製心柱2に4方向からダンパー本体13を設けているため、どの方向に木製心柱2が変位したとしても、何れか2つ以上のダンパー本体13の弾性力によって、木製心柱2における変位のエネルギーは吸収されることとなる。
【0036】
また、ボルト14の頭部と連結壁12bとの間にバネ部材14bを設けることにより、ボルト14とナット14aの締め付けが緩んでも、隣り合う抱持部材12同士は接近された状態が維持される。そのため、木材から成る木製心柱2は経年に共って次第に痩せ直径寸法が小さくなる可能性はあるものの、木製心柱2は抱持部材12により強く抱持固定された状態が維持される。
【0037】
次に、木製心柱2について、図8に基づき詳細に説明する。木製心柱2は接合部が無い木材を基本とするが、本実施形態では、図8(a:木製心柱2の側面図)に示すように、1番木2b,2番木2c,3番木2dを長さ方向に2箇所で接合して形成されている。前記1番木2bの天端,2番木2cの下端には継ぎ手(例えば、貝の口継ぎ手)7が形成されており、1番木2bの天端と2番木2cの下端とが接合される。同様に、2番木2cの天端と3番木2dの下端には継ぎ手7が形成されており、2番木2cの天端と3番木2dの下端とが接合される。前記継ぎ手7には補強リング7aが巻かれると共に、貫通ボルト7bが挿通され、接合が補強される。
【0038】
また、木製心柱2には、ヒノキ,杉等の木材が使用され、前記木製心柱2の重量は、木造多重塔1全体の重量よりも遥かに軽く、木造五重塔を例にすると全体の1〜2パーセント程度である。
【0039】
図8(b:木製心柱2の下端部および初重層4a天井の図)に示すように、初重層4aの天井部には、前記四天柱6b間を跨って横フレーム8aが架設され、前記横フレーム8aには前記木製心柱2を囲う枠材8が支持されている。これにより、木製心柱2下端部の水平方向の揺れが抑制される。
【0040】
図9は、ダンパー10設置位置における木製心柱2の断面図を示す。前記木製心柱2の断面は、略八角形状に形成されており、各辺に切り欠き2bが形成されている。前記切り欠き2bには、炭素繊維板9が貼り付けられる。木製心柱2は、デザインによって直径寸法が決められてしまい太くすることができないが、炭素繊維板9を貼り付けることにより、ダンパー10設置位置における強度が確保される。また、木製心柱2の断面形状を円形から八角形に変更することにより、炭素繊維板9の貼付作業や強度計算が容易になる。
【0041】
次に、ダンパー10の設置位置の決定方法について説明する。ダンパー10の設置位置の決定は、以下の手順により行われる。
(1)木造五重塔の仕口を回転剛性とせん断剛性を持つバネとして解析モデルを作成する。ここでは、塔身4から吊下部材5で吊るされた木製心柱2にダンパー10を設置した木造五重塔を解析に用いたものとして説明する。
(2)木製心柱2は、通常、上方へ向かうにしたがって細くなっていくものが多いため、各重で区切ってモデル化し、部材同士を剛接合する。
(3)塔身4と木製心柱2に対して振動解析を行い、塔身4と木製心柱2との相対変位が最も大きくなる位置を特定する。
(4)前記相対変位が最も大きくなる位置に、ダンパー10の設置が可能かを検討する。ダンパー10の設置が不可能な場合には、(3)に戻り、その他の位置で相対変位が最も大きな位置を探す。
(5)(4)により特定された位置にダンパー10を設置し、再度振動解析を行う。
(6)ダンパー10の設置前後における振動解析の結果を比較し、効果が得られていることを確認する。
【0042】
前記(1)〜(6)の手順により、本実施形態では、木製心柱2の相輪2a根元付近の位置にダンパー10を設置することが決定された。
【0043】
次に、本実施形態における木造多重塔1の地震応答解析結果について説明する。下記表2は、解析に用いた地震動のデータを示す。
【0044】
【表2】
【0045】
前記表2において、(a)神戸L2はJMA神戸NSにおけるL2(極めて稀に発生する地震;震度6〜7)の位相を用いた模擬地震動,(b)八戸L2は八戸NSにおけるL2の位相を用いた模擬地震動,(c)福岡L2は福岡西方沖地震FK006におけるL2の位相を用いた模擬地震動,(d)福岡REは福岡西方沖地震FK006を現地(建設予定地)地盤で引き戻した地震動を示す。
【0046】
図10に、前記表2で示した(a)神戸L2,(b)八戸L2,(c)福岡L2,(d)福岡REの地震動を、縦軸に加速度(cm/s2),横軸に時刻(s)で表したグラフを示す。
【0047】
下記表3は、前記(a)〜(d)の地震動発生時における木製心柱2頂部(相輪2a頂部)の応答変位を表にして示したものである。この表3では、ダンパー10を設置した場合の木製心柱2頂部の変位,ダンパー10を設置しなかった場合の木製心柱2頂部の変位、ダンパー10を設置した場合と設置しなかった場合の木製心柱2頂部の変位の割合を示している。
【0048】
【表3】
【0049】
上記表3から見て取れるように、地震動によって差はあるものの、ダンパー10を設置した場合は、設置しなかった場合と比較して、平均4割弱ほど木製心柱2頂部(相輪2a頂部)の応答変位が減少している。
【0050】
このように、ダンパー10を木製心柱2と塔身4の相対変位の最も大きな位置に設置することにより、地震や台風により木造多重塔1が振動しても、木製心柱2の変位を抑制することができる。その結果、木造多重塔1の木製心柱2は、塔身4の全重量に対して1〜2%程度の重量しかないものの、木製心柱2と塔身4の相対変位が抑制され、心柱2が塔身4に接触して損傷を受けることを抑制することが可能となる。
【0051】
また、ダンパー10を設置することにより、木製心柱2に支点ができてしまうものの、木製心柱2のダンパー10設置位置に炭素繊維板9を設けることにより、木製心柱2の強度が増し、木製心柱2の損傷を抑制することが可能となる。さらに、木製心柱2のダンパー10設置付近を横断面八角形状に形成することにより、炭素繊維板9を貼り付けるための切り欠き2bを設けることや、炭素繊維板9の貼付作業が容易となり、さらに、木製心柱2の強度計算も容易となる。
【0052】
さらに、木製心柱2に4方向からダンパー本体13を設け、ダンパー本体13をピン13dによって、架台11,抱持部材12に回動自在に支持することにより、地震動や台風により木造多重塔1が多方向に振動しても、木製心柱2の変位のエネルギーを吸収することが可能となる。
【0053】
また、隣り合う抱持部材12をボルト14とナット14aによって接続する際、ボルト14にバネ部材14bを挿通させることにより、木材から成る木製心柱2が、経年と共にやせ細っても、強く抱持固定された状態を維持することが可能となる。
【0054】
以上、本発明において、記載された具体例に対してのみ詳細に説明したが、本発明の技術思想の範囲で多彩な変形および修正が可能であることは、当業者にとって明白なことであり、このような変形および修正が特許請求の範囲に属することは当然のことである。
【0055】
例えば、実施形態では、木製心柱2が塔身4に吊られており、その下端部が地上から浮いている木造多重塔1について説明したが、木製心柱2が自立(例えば、基壇(初重層の床)や初重層天井裏から自立)した木造多重塔でもよい。
【0056】
また、実施形態のダンパー本体13は、粘弾性ダンパーを適用したが、それ以外のオイルダンパー,粘性ダンパー,摩擦ダンパーを適用してもよい。
【符号の説明】
【0057】
1…木造多重塔
2…木製心柱
2a…相輪
4…塔身
5…吊下部材
9…炭素繊維板
10…ダンパー
11…架台
12…抱持部材
12a…当接部
12b…連結壁
12c…基部
13…ダンパー本体
13d…ピン
13e…ピン孔
14…ボルト
14a…ナット
14b…バネ部材
【特許請求の範囲】
【請求項1】
塔身と、その内部に設置されて前記塔身と独立に挙動する木製心柱と、を有する木造多重塔の振動を制御する構造であって、
木造多重塔の振動発生時に、木製心柱における相輪頂部の変位を吸収するダンパーを、木製心柱と塔身の相対変位の最も大きな位置に設けたことを特徴とする木造多重塔の制振構造。
【請求項2】
前記塔身は、その内部中心に吹き抜けを形成して階層を重ねて構成されており、
前記木製心柱は、前記塔身の内部吹き抜けに、下端部が地上から浮いて、かつ、上端部が塔身の屋根から上部に突き出た状態で、吊下部材によって吊下げられていることを特徴とする請求項1記載の木造多重塔の制振構造。
【請求項3】
前記塔身は、その内部中心に吹き抜けを形成して階層を重ねて構成されており、
前記木製心柱は、前記塔身の内部中心の吹き抜けに、下端部が地上から自立し、かつ、上端部が塔身の屋根から上部に突き出ていることを特徴とする請求項1記載の木造多重塔の制振構造。
【請求項4】
前記ダンパーは、複数個で木製心柱の外周一周を囲い、周方向に連結して木製心柱を抱持固定する抱持部材と、前記抱持部材のそれぞれに一端が固定された複数個のダンパー本体と、前記複数個のダンパー本体の他端と塔身との間に介挿される架台と、を有し、
前記抱持部材とダンパー本体、ダンパー本体と架台は、互いに穿設されたピン孔にピンを挿通して、回動自在に支持されたことを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の木造多重塔の制振構造。
【請求項5】
前記抱持部材は、略弧状に形成された基部と、前記基部の木製心柱側端部から垂直に立設した当接部と、前記基部の周方向両端から垂直に立設した連結壁と、を有し、
隣り合う抱持部材の連結壁を、バネ部材に挿通されたボルトとナットで連結することを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の建築物の制振構造。
【請求項6】
前記木製心柱におけるダンパーの設置位置に、炭素繊維板が貼り付けられたことを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の建築物の制振構造。
【請求項1】
塔身と、その内部に設置されて前記塔身と独立に挙動する木製心柱と、を有する木造多重塔の振動を制御する構造であって、
木造多重塔の振動発生時に、木製心柱における相輪頂部の変位を吸収するダンパーを、木製心柱と塔身の相対変位の最も大きな位置に設けたことを特徴とする木造多重塔の制振構造。
【請求項2】
前記塔身は、その内部中心に吹き抜けを形成して階層を重ねて構成されており、
前記木製心柱は、前記塔身の内部吹き抜けに、下端部が地上から浮いて、かつ、上端部が塔身の屋根から上部に突き出た状態で、吊下部材によって吊下げられていることを特徴とする請求項1記載の木造多重塔の制振構造。
【請求項3】
前記塔身は、その内部中心に吹き抜けを形成して階層を重ねて構成されており、
前記木製心柱は、前記塔身の内部中心の吹き抜けに、下端部が地上から自立し、かつ、上端部が塔身の屋根から上部に突き出ていることを特徴とする請求項1記載の木造多重塔の制振構造。
【請求項4】
前記ダンパーは、複数個で木製心柱の外周一周を囲い、周方向に連結して木製心柱を抱持固定する抱持部材と、前記抱持部材のそれぞれに一端が固定された複数個のダンパー本体と、前記複数個のダンパー本体の他端と塔身との間に介挿される架台と、を有し、
前記抱持部材とダンパー本体、ダンパー本体と架台は、互いに穿設されたピン孔にピンを挿通して、回動自在に支持されたことを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の木造多重塔の制振構造。
【請求項5】
前記抱持部材は、略弧状に形成された基部と、前記基部の木製心柱側端部から垂直に立設した当接部と、前記基部の周方向両端から垂直に立設した連結壁と、を有し、
隣り合う抱持部材の連結壁を、バネ部材に挿通されたボルトとナットで連結することを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の建築物の制振構造。
【請求項6】
前記木製心柱におけるダンパーの設置位置に、炭素繊維板が貼り付けられたことを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の建築物の制振構造。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−117286(P2012−117286A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−267954(P2010−267954)
【出願日】平成22年12月1日(2010.12.1)
【出願人】(304026696)国立大学法人三重大学 (270)
【出願人】(591135174)松井建設株式会社 (3)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年12月1日(2010.12.1)
【出願人】(304026696)国立大学法人三重大学 (270)
【出願人】(591135174)松井建設株式会社 (3)
【Fターム(参考)】
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