説明

木造建築物における外壁の形成方法

【課題】工期を短縮し、通気層の形成が容易で、ひび割れせず、出来上がりのバラつきの小さい外壁形成方法を提供する。
【解決手段】下地にモルタルを用いず、窯業系のサイディング材(工業製品化された外壁材であり、セメント、セラミック、金属を材料とするもの)を使用する。仕上げ材に弾性の高い素材と、建物全体をカバーするガラス繊維ネットを使用する。胴縁に窯業系サイディング材を取付け、下地材を下塗りして、ガラス繊維ネットを張る。1日以上養生させ、弾性の高い上塗り材を塗り込む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木造建築物の外壁に施す塗り壁の工法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の木造建築物の外壁の塗り壁の工法は、モルタルを下地とする方法が主である。モルタル下地の外装仕上げを行う場合、富調合(セメントの分量の多い)のモルタルを下塗りし、養生期間を取り、十分ヒビが発生してから、貧調合(セメントの分量の少ない)モルタルを上塗りし、さらに十分な養生期間を経て仕上げ材を塗装する。
【特許文献1】特開平 10−266377号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
モルタル下地の場合の問題点が四点ほどある。第一に、乾燥のための養生期間が長くかかる(気候・気温の変化に大きく左右される)。第二に、木造外壁の劣化を防止するための「通気層」を形成することがやや面倒である。第三に、建物の揺れや動きによりひび割れしやすい。第四に、現場での作業工程が多いため、施工者の技術により出来上がりにバラつきが出やすい。
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、工期を短縮し、通気層の形成が容易で、ひび割れせず、出来上がりのバラつきの小さい外壁形成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
下地にモルタルを用いず、窯業系のサイディング材(工業製品化された外壁材であり、セメント、セラミック、金属を材料とするもの)を使用する。仕上げ材に弾性の高い素材と、建物全体をカバーするガラス繊維ネットを使用する。
【発明の効果】
【0006】
本発明の外壁形成方法によれば、モルタルを用いないので工期の短縮が実現し、現場コストが下がる。
【0007】
木造建築物の外壁の劣化防止性能が向上し、建物を長持ちさせることができる。
【0008】
木造建築物の外観の美しさが長く保たれ、メンテナンスにかかるコストを削減できる。
【0009】
仕上がりの均一性の管理がしやすい。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、施工対象の木造建築物に本発明に係る外壁形成方法を施す概略イメージを示す外観斜視図である。
【図2】図2は、本発明に係る外壁形成方法に使用する材料のうち、窯業系サイディング材(不燃外装材)とガラス繊維ネットの外観及び大きさを示す斜視図である。
【図3】図3は、本発明に係る外壁形成方法の施工手順を説明する説明図である。
【図4】図4は、窯業系サイディング材の取り付け工程を説明する図である。
【図5】図5は、窯業系サイディング材の割付を示す図である。
【図6】図6は、コーナー部(出隅部)の窯業系サイディング材の取り付けを示す図である。
【図7】図7は、コーナー部(入隅部)の窯業系サイディング材の取り付けを示す図である。
【図8】図8は、開口部の窯業系サイディング材の取り付けを示す図である。
【図9】図9は、軒部の窯業系サイディング材の取り付けを示す図である。
【図10】図10は、下塗り材及びガラス繊維ネットの施工を示す図である。
【図11】図11は、ガラス繊維ネットの取り付け要領を示す図である。
【図12】図12は、上塗り材のうち、プライマーの施工を示す図である。
【図13】図13は、上塗り材のうち、仕上材の施工を示す図である。
【図14】図14は、仕上材の塗り付けを示す図である。
【図15】図15は、本発明に係る外壁の構造説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施形態を枠組壁工法(ツーバイフォー工法)の構造躯体に施す場合について説明する。第1工程から第8工程までからなる。第2工程(防水材の張付け)と第7工程(防湿材の張付け)は省略することもできる。本発明の最も特徴である工程は、第5工程(窯業系サイディング材の取付け)と第6工程(下塗り、ガラス繊維ネット張り、上塗り)である。従来、モルタル下地としていたものをこれに置き換えるものである。第1工程から第4工程まで、そして第7工程、第8工程は、従来からあるものである。外壁形成工法全体の中での位置付けを明確にすべく、特徴部分だけではなく前後の工程をも併せて説明する。
【0012】
第1工程は、下地組及び構造用面材の取付けである。下地組においてたて枠は、反り曲がりのないものを使用し、土台に垂直に500mm以下の間隔で取り付ける。構造用面材は、たて枠の表面に構造用面材用留付材を用いて取り付ける。
【0013】
第2工程は、防水材の張付けである。防水材を張付ける場合は、横張または縦張とし、上下・左右の重ね代を100mm以上で、防水材固定用留付材を用いてたるみ、しわのないよう構造用面材の表面に取付ける。
【0014】
第3工程は、断熱材の取付けである。断熱材は、たて枠間に充填する。
【0015】
第4工程は、胴縁の取付けである。胴縁は、防水紙または構造用面材の表面に胴縁固定用留付材を用いて取付ける。
【0016】
第5工程は、窯業系サイディング材の取付けである。窯業系サイディング材は、胴縁の表面に窯業系サイディング材固定用留付材を用いて取付ける。
【0017】
第6工程は、塗材の施工である。まず下塗りをする。こて圧を十分にかけて塗付け、3mm厚程度に下こすりする。次に、ガラス繊維ネットを張る。ガラス繊維ネットの併せ代は100mm以上とし、たるみ、しわが生じないよう施工する。ガラス繊維ネット張り後、1日以上養生期間をとり、3mm厚程度に弾性の高い上塗り材を塗り込む。
【0018】
第7工程は、防湿材の張付けである。防湿材は横張または縦張とし、上下・左右の重ね代を100mm以上で、防湿材固定用留付材を用いてたるみ、しわのないよう内装材の内側に取付ける。
【0019】
第8工程は、内装材の取付けである。内装材は、内装材固定用留付材を用い、たて枠に取付ける。目地部にはせっこう系パテを施す。
【実施例1】
【0020】
以下、図面を参照しつつ、本発明の特徴部分である第5工程(窯業系サイディング材の取付け)、第6工程(塗材の施工)を中心に詳しく説明する。
【0021】
図1は、施工対象の木造建築物に本発明に係る外壁形成方法を施す概略イメージを示す外観斜視図である。窯業系サイディング材10は、セメントと木質系成分を混合して製造される不燃外装材であって、本来、外壁材として、最も外側に露出するものであるが、本発明に係る工法にあっては、その窯業系サイディング材10を塗り壁の下地として用いる。窯業系サイディング材10の具体例としては、クボタ松下電工外装株式会社の提供するセラディール(セラディールはクボタ松下電工外装株式会社の商標)を用いることができる。
【0022】
本発明に係る外壁形成方法をおおまかにいうと、図1に示すように、窯業系サイディング材10を胴縁の表面に取付けて(第5工程)、下塗り材11を下塗りし、ガラス繊維ネット12を張り、1日養生した後、上塗り材を塗り込むものである(第6工程)。施工にあたっては、近接する他の部材(サッシ・玄関ドア・下屋根等)及び他の仕上面を破損しないように紙貼り・シート掛け・板囲い等を行い、施工面以外の部分を養生する。下塗り材11、上塗り材13等を塗付ける際、周りに飛散する可能性があるので、仮囲い・シート囲い等を行う。寒冷期には、暖かい日中を選んで施工する。気温が4℃以下の場合は、作業を中止する。窯業系サイディング10及びガラス繊維ネット12の保存をする場所も4℃以下にならない場所を選ぶ。仕上材等に表記している一缶あたりの塗装面積は目安に過ぎないので、余裕を持って用意する必要がある。
【0023】
図2は、本発明に係る外壁形成方法に使用する材料のうち、窯業系サイディング材(不燃外装材)10とガラス繊維ネット12の外観及び大きさを示す斜視図である。窯業系サイディング材10は、横幅3,030mm、高さ455mm、厚さ13mmで提供されており、2枚ずつ梱包され、固定用の釘が付属している。ガラス繊維ネット12は、横幅965mm、長さ45mのものが巻かれた状態で提供されている。ガラス繊維ネット12は、雨にあたらぬよう養生をする。使用する際、水を含んでいると付着力が低下するからである。
【0024】
図3は、本発明に係る外壁形成方法の施工手順を説明する説明図である。下塗り材11としては、専用ベース材とセメントとを容積比率1:1で混合して使用する。下塗り材を塗ってから、ガラス繊維ネット12を張り、1日の養生期間を置いてから、その上に塗る上塗り材13は、はじめに塗るプライマーと、仕上げ材である。仕上げ材には、骨材が入ったものであって、弾性の高いものを用いる。骨材の大きさを0.3mm、1.2mm、3.0mmと異なるものにすることで仕上がりの質感が異なる風合いのものとなる。下塗り材を塗ってガラス繊維を張るのを一日目、プライマーを塗るのを二日目、仕上げ材を塗るのを三日目とするのが標準的な工程である。
【0025】
図4は、窯業系サイディング材10の取り付け工程を説明する図である。窯業系サイディング材10は、横長にして用いる板上のものであり、下部にさねが設けられており、上部には、さねを受ける溝が設けられており、上下の連結がなされる。最下部に貼る窯業系サイディング材10については、本体下部のさねを切り取って平らにして、水切り8との間を10mm開けて貼る。毛細管現象の防止・結露水の排水・躯体の荷重による変形吸収のためである。図4(a)には、土台に垂直に500mm以下の間隔でたて枠が取付けられ、そのたて枠の表面に構造用面材5が取付けられ、防水材9が張られ、胴縁7が取付けられた上に窯業系サイディング材10が下から順に取付けられていく様子が示されている。図4(b)には、40mmのステンレス釘にて窯業系サイディング材10、胴縁7、構造用面材5が貫かれて固定される様子が示されている。図4(c)には、隣り合う窯業系サイディング材10同士が5mmの間隔を離されて取付けられる様子が示されている。これら図4(a),(b),(c)を併せて見ることにより、窯業系サイディング材10と構造用面材5との間であって、胴縁7のない部分は、通気層として構成されることがわかる。この通気層は、躯体内に空気の通り道をつくり、湿気を放出して住宅の耐久性と快適性を向上する上で重要な機能を果たす部分である。
【0026】
図5は、窯業系サイディング材10の割付を示す図である。窯業系サイディング材10は、コーナーから取り付ける。下から取付けていき、一段毎に上下の目地が重ならないよう横へずらして取り付ける。窯業系サイディング材同士の間の縦目部分は5mm開ける。上下の間隔は開けずに隙間なく、施工する。
【0027】
図6は、コーナー部(出隅部)の窯業系サイディング材の取り付けを示す図である。出隅部の窯業系サイディング材10の取付けは、片方を突き出して施工する。もう一方の窯業系サイディング材10については、突き出した窯業系サイディング材10に5mm間隔を開け、取付ける。図6(a)は、上から見た図であり、図6(b)は外から見た斜視図である。
【0028】
図7は、コーナー部(入隅部)の窯業系サイディング材の取り付けを示す図である。入隅部の窯業系サイディング材10の取付けは、隙間を開けずに施工する。図7(a)は、上から見た図であり、図7(b)は外から見た斜視図である。
【0029】
図8は、開口部の窯業系サイディング材の取り付けを示す図である。サッシ枠・玄関ドア枠などの開口部においては、それに併せて窯業系サイディング材10をカットする。サッシと窯業系サイディング材10の間は10mm開け、コーキング22で埋める。コーキングは1液ウレタン弾性シーリング材を使うことができる。
【0030】
図9は、軒部の窯業系サイディング材の取り付けを示す図である。窯業系サイディング材10と軒天井(軒部・ポーチ天井・バルコニー天井)との間は、隙間なく張り上げる。取り合い部分は三角コーキングで埋める。
【0031】
図10は、下塗り材及びガラス繊維ネットの施工を示す図である。下塗り材11は、専用ベース材とセメントとを体積比率1:1で混合し、水を適宜入れ、撹拌機等でよく混ぜた後、5分ほど寝かせる。金ゴテを用い、コテ圧を十分にかけてこすり塗りをする。窯業系サイディング材10の目地部分にも、塗りこめる。2mmから3mm程度の厚さで塗り込める。ガラス繊維ネット12が隠れる程度である。下塗り材11は、速乾性であるため、塗り付け後すぐにガラス繊維ネット12を貼ることになるので、幅およそ960mm(ガラス繊維ネット12の幅)を塗り付けてはガラス繊維ネット12を貼るという作業を繰返し行う。
【0032】
図11は、ガラス繊維ネット12の取り付け要領を示す図である。窯業系サイディング材10の下端から5mm程度離したところから張り始める。継ぎ目は100mm重ねる。縦張りで施工し、下塗り材11の塗付け後すぐに貼り付けていく。金ゴテでこすりつけるように張り付けていき、たわみ、しわのないよう施工する。ガラス繊維ネット12が完全に隠れるまでこすりつける。
【0033】
図12は、上塗り材13のうち、プライマー14の施工を示す図である。液状のプライマー14にカラーボトルにて色を付け、撹拌機でよく混ぜてから、ローラー等を用いて塗付ける。周囲に飛散するおそれがあるので、隣地に近接する部分には養生ネット等で飛散防止措置をとる。
【0034】
図13は、上塗り材13のうち、仕上材15の施工を示す図である。仕上材15は、骨材を含む。含む骨材の大きさにより仕上がりの表情が変わる。図13(a)は、0.2mmの骨材を含む仕上材15の質感を示す。図13(b)は、1.2mmの骨材を含む仕上材15の質感を示す。図13(c)は、3.0mmの骨材を含む仕上材15の質感を示す。仕上材15にカラーボトルで色を付ける。
【0035】
図14は、仕上材15の塗り付けを示す図である。仕上材15の塗厚は骨材の厚みを目安とする。仕上材15の重ね塗りはしない。速乾性であるから、一気に仕上げ、塗付け後、直ぐにコテを8の字を描くように使用し、コテむらをなくす作業をする。仕上の際には、多数の職人を用意し、外壁1面ずつ仕上がるように施工する。雨の日の施工は避け、仕上後24時間は雨に打たれないようにする。
【0036】
図15は、本発明に係る外壁の構造説明図である。図15(a)には、鉛直断面詳細図を示す。図15(b)には、水平断面詳細図を示す。防水材9、防湿材45は、それぞれなくすこともできる。
【実施例2】
【0037】
防水材の張り付け、防湿材の張り付けは、それぞれ省略することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0038】
実施形態及び実施例1ではツーバイフォー工法(枠組壁工法)を前提に適用する例を説明したが、木造軸組み工法についても同様に利用可能である。
【符号の説明】
【0039】
2 スタッド
3 貫
4 断熱材
5 構造用面材
6 釘位置
7 胴縁
8 水切り
9 防水材
10 窯業系サイディング材
11 下塗り材
12 ガラス繊維ネット
13 上塗り材
14 プライマー
15 仕上材
22 コーキング
23 三角コーキング
24 珪酸カルシウム板
30 通気層
40 内装材
41 下枠(躯体構造材)
42 側根太(躯体構造材)
43 頭つなぎ(躯体構造材)
44 上枠(躯体構造材)
45 防湿材
46 内装材固定用留付材
47 内装材用目地処理材
50 たて枠
51 防水材固定用留付材
52 胴縁固定用留付材
53 窯業系サイディング材固定用留付材
54 構造用面材固定用留付材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
木造建築物における外壁の形成方法であって、
反り曲がりのないたて枠を、土台に垂直に500mm以下の間隔で取り付ける下地組取付け工程と、
該下地組取付け工程にて取付けたたて枠の表面に構造用面材用留付材を用いて構造用面材を取り付ける構造用面材取付け工程と、
前記下地組取付け工程にて取付けたたて枠同士の間に断熱材を充填する断熱材充填工程と、
前記構造用面材取付け工程にて取付けた構造用面材の表面に胴縁固定用留付材を用いて胴縁を取付ける胴縁取付け工程と、
該胴縁取付け工程にて取付けた胴縁の表面に窯業系サイディング材固定用留付材を用いて窯業系サイディング材を取付ける窯業系サイディング材取付け工程と、
該窯業系サイディング材取付け工程にて取付けた窯業系サイディングの上にこて圧を十分にかけて下地材を塗付け、3mm厚程度に下こすりする下塗り工程と、
該下塗り工程にて下地材を塗付けた上に、ガラス繊維ネットを100mm以上の併せ代をとり、たるみ、しわが生じないよう張るガラス繊維ネット張り工程と、
該ガラス繊維ネット張り工程後、1日以上養生期間をとる養生工程と、
該養生工程後、弾性の高い上塗り材を3mm厚程度に塗り込む上塗り材塗り込み工程と、
内装材を、内装材固定用留付材を用い、たて枠に取付ける内装材取付け工程と、
該内装材取付け工程にて取付けた内装材の目地部にせっこう系パテを施す内装材目地部処理工程と
を有する外壁の形成方法。
【請求項2】
請求項1に記載した外壁の形成方法であって、
前記構造用面材取付け工程の後に、
該構造用面材の表面に防水材を横張または縦張とし、上下・左右の重ね代を100mm以上で、防水材固定用留付材を用いてたるみ、しわのないよう取付ける防水材張付け工程
を加え、前記胴縁取付け工程における胴縁の取付けは防水材張付け工程にて取付けた防水材の表面に胴縁固定用留付材を用いて取付けることを特徴とする外壁の形成方法。
【請求項3】
請求項1に記載した外壁の形成方法であって、
前記内装材取付け工程の前に、
防湿材を横張または縦張とし、上下・左右の重ね代を100mm以上で、防湿材固定用留付材を用いてたるみ、しわのないよう取付ける防湿材張付け工程
を加え、該防湿材張付け工程の後に前記内装材取付け工程を行うことを特徴とする外壁の形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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