説明

木造長尺部材の補修補強方法

【課題】木造長尺部材にかかる曲げモーメントを受け持てる十分な引張抵抗を得るとともに木造長尺部材の繊維方向の直行方向のはらみや膨らみを防止する。
【解決手段】第1の繊維強化シート6を木造梁1の繊維方向に沿って木造梁1に生じた割れ部2を被覆して貼り付ける。次に第2の繊維強化シート7を第1の繊維強化シート6に重ねて木造梁1の割れ部2の位置から両端を割れ部の相反する側に掛けて木造梁1の繊維方向に斜めに交差して巻装して貼り付け、続いて別の第2の繊維強化シート7´を木造梁1の割れ部2の位置から両端を割れ部の相反する側に掛けて第2の繊維強化シート7に交互に重ねて貼り付ける。次に、第3の繊維強化シート8を第1の繊維強化シート6および第2の繊維強化シート7,7´に重ねて木造梁1の繊維方向に直行して巻装して貼り付ける。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、木造梁や木造柱などの木造長尺部材の補修および補強にかかり、特に、繊維強化シートを用いた木造長尺部材の補修補強方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来の木造長尺部材の補修補強方法は、第1のシート状高強度長繊維と第2のシート状高強度長繊維とを用いるものである。第1のシート状高強度長繊維は、梁1の下面に軸線方向に沿って重ね合わされるとともに、梁の両端にその両端部が接着剤を介して定着区間として定着され、かつ、中間部分が梁に定着されずに補強区間として固定される。第2のシート状高強度長繊維は、第1のシート状高強度長繊維の補強区間内でこれの上に重ね合わせるように、梁の側面から第1のシート状高強度長繊維にかけて接着剤で貼付される。これにより、梁にかかる曲げモーメントが梁自体の曲げ強度と梁下面における第1のシート状高強度長繊維の引張抵抗に加え、梁側面における第2のシート状高強度長繊維の引張抵抗によって受け持たれる(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】
特公平4−77104号公報
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上述した従来の木造長尺部材の補修補強方法では、第2のシート状高強度長繊維が梁の側面から第1のシート状高強度長繊維にかけて貼付され、梁の上面にかけて設けられていない。これにより、第2のシート状高強度長繊維では、梁にかかる曲げモーメントを受け持てる十分な引張抵抗が得られないおそれがある。
【0005】
なお、第2シート状高強度長繊維が梁の上面に設けられない要因は、梁と直行する直行梁が梁の上面に存在することと考えられる。この直行梁の直下の梁の部分には、比較的大きい曲げモーメントがかかり、割れなどが起こり易く補強すべき部分である。このように、従来では、直行梁の存在によって梁の上面に第2シート状高強度長繊維が設けられないことから、補強すべき部分にもかかわらず、梁にかかる曲げモーメントを受け持てる十分な引張抵抗が得られないこととなる。
【0006】
また、木造梁や木造柱などの長尺部材は、老化や繊維方向(長手方向)への圧縮力によって繊維方向の直行方向に、はらみや膨らみが生じる。しかしながら、従来では、第2のシート状高強度長繊維が梁の側面から第1のシート状高強度長繊維にかけてのみ貼付され、梁の繊維方向の直行方向にかけて配されていないため、はらみや膨らみを防止することが困難である。
【0007】
本発明は、上記実情に鑑みて、曲げモーメントを受け持てる十分な引張抵抗を得るとともに、繊維方向の直行方向のはらみや膨らみを防止することができる木造長尺部材の補修補強方法を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するために、本発明の請求項1に係る木造長尺部材の補修補強方法は、第1の繊維強化シートを木造長尺部材の繊維方向に沿って前記木造長尺部材の一側に貼り付ける工程と、第2の繊維強化シートを前記第1の繊維強化シートに重ねて前記木造長尺部材の一側から両端を他側に掛けて前記木造長尺部材の繊維方向に斜めに交差して巻装して貼り付けるとともに、別の第2の繊維強化シートを前記木造長尺部材の一側から両端を他側に掛けて前記第2の繊維強化シートに交互に重ねて貼り付ける工程と、第3の繊維強化シートを前記第1の繊維強化シートおよび前記第2の繊維強化シートに重ねて前記木造長尺部材の繊維方向に直行して巻装して貼り付ける工程とを含むことを特徴とする。
【0009】
この発明によれば、第2の繊維強化シートを木造長尺部材の繊維方向に斜め交差して貼り付けているので、木造長尺部材の繊維方向にかかる曲げモーメントおよびせん断力が受け持たれる。また、第3の繊維強化シートを木造長尺部材の繊維方向に直行して巻装して貼り付けているので、木造長尺部材の繊維方向へのはらみや膨らみが防止できる。
【0010】
また、本発明の請求項2に係る木造長尺部材の補修補強方法は、第1の繊維強化シートを木造長尺部材の繊維方向に沿って前記木造長尺部材に生じた割れ部を被覆して貼り付ける工程と、第2の繊維強化シートを前記第1の繊維強化シートに重ねて前記木造長尺部材の前記割れ部の位置から両端を前記割れ部の相反する側に掛けて前記木造長尺部材の繊維方向に斜めに交差して巻装して貼り付ける工程と、第3の繊維強化シートを前記第1の繊維強化シートおよび前記第2の繊維強化シートに重ねて前記木造長尺部材の繊維方向に直行して巻装して貼り付ける工程とを含むことを特徴とする。
【0011】
この発明によれば、第2の繊維強化シートを割れ部の位置から木造長尺部材の繊維方向に斜め交差して貼り付けているので、木造長尺部材に生じた割れ部にかかる曲げモーメントおよびせん断力が受け持たれる。また、第3の繊維強化シートを木造長尺部材の繊維方向に直行して巻装して貼り付けているので、木造長尺部材の繊維方向へのはらみや膨らみが防止できる。
【0012】
また、本発明の請求項3に係る木造長尺部材の補修補強方法は、木造長尺部材に生じた割れ部を横断する溝を設けて前記溝に補強部材を埋設する工程と、第1の繊維強化シートを木造長尺部材の繊維方向に沿って前記木造長尺部材の割れ部を被覆して貼り付ける工程と、第2の繊維強化シートを前記第1の繊維強化シートに重ねて前記木造長尺部材の前記割れ部の位置から両端を前記割れ部の相反する側に掛けて前記木造長尺部材の繊維方向に斜めに交差して巻装して貼り付ける工程と、第3の繊維強化シートを前記第1の繊維強化シートおよび前記第2の繊維強化シートに重ねて前記木造長尺部材の繊維方向に直行して巻装して貼り付ける工程とを含むことを特徴とする。
【0013】
この発明によれば、木造長尺部材に生じた割れ部を横断する溝に補強部材を埋設したので、より確実に割れ部を補強できる。
【0014】
また、本発明の請求項4に係る木造長尺部材の補修補強方法は、木造長尺部材に生じた割れ部を横断する溝を設けて、前記溝に補強部材を埋設する工程と、前記木造長尺部材に生じた割れ部に充填剤を充填する工程と、前記木造長尺部材の外周にプライマーを塗布する工程と、前記木造長尺部材の外周にパテ剤を平滑に均す工程と、第1の繊維強化シートを木造長尺部材の繊維方向に沿って前記木造長尺部材の割れ部を被覆して貼り付ける工程と、第2の繊維強化シートを前記第1の繊維強化シートに重ねて前記木造長尺部材の前記割れ部の位置から両端を前記割れ部の相反する側に掛けて前記木造長尺部材の繊維方向に斜めに交差して巻装して貼り付ける工程と、第3の繊維強化シートを前記第1の繊維強化シートおよび前記第2の繊維強化シートに重ねて前記木造長尺部材の繊維方向に直行して巻装して貼り付ける工程とを含むことを特徴とする。
【0015】
この発明によれば、プライマーによって木造長尺部材の補修を容易にし、かつ、パテ剤によって各繊維強化シートの貼り付けを良好にする。
【0016】
また、本発明の請求項5に係る木造長尺部材の補修補強方法は、上記請求項2〜4の何れか一つにおいて、前記第2の繊維強化シートを前記割れ部の生じた方向に略直交するように貼り付けることを特徴とする。
【0017】
この発明によれば、第2の繊維強化シートが割れ部の状態に略直交しているので、せん断割れ部の状態にも応じた補強が適宜行える。
【0018】
また、本発明の請求項6に係る木造長尺部材の補修補強方法は、上記請求項2〜4の何れか一つにおいて、前記第2の繊維強化シートを前記第1の繊維強化シートに重ねて前記木造長尺部材の前記割れ部の位置から両端を前記割れ部の相反する側に掛けて前記木造長尺部材の繊維方向に斜めに交差して巻装して貼り付けるとともに、別の第2の繊維強化シートを前記木造長尺部材の前記割れ部の位置から両端を前記割れ部の相反する側に掛けて前記第2の繊維強化シートに交互に重ねて貼り付ける工程を含むことを特徴とする。
【0019】
この発明によれば、第2の繊維強化シートと別の第2の繊維強化シートにより、割れ部の位置をたすき掛けとし、木造長尺部材に生じた割れ部にかかる曲げモーメントを十分に受け持つ。
【0020】
【発明の実施の形態】
以下に添付図面を参照して、本発明に係る木造長尺部材の補修補強方法の実施の形態を説明する。図1(a)乃至図1(f)は本実施の形態における木造長尺部材の補修補強方法の手順を示す図である。
【0021】
本実施の形態の木造長尺部材の補修補強方法は、例えば、木造梁や木造柱あるいは桔木などの木造長尺部材を対象とし、この木造長尺部材を補修および補強するための方法である。また、以下に説明する実施の形態では、木造長尺部材として木造梁を一例として説明する。
【0022】
図1(a)に示すように、木造梁1には、屋根下地や小屋組みを含む屋根の重みがかかる。このため、図1(a)中矢印A方向に生じる曲げモーメントによって木造梁1の下側に割れ部2が生じることが多い。そこで、以下の如く割れ部2を補修し木造梁1の補強を行う。
【0023】
まず、図1(a)に示すように、割れ部2にエポキシ樹脂などの充填剤3を充填する。
【0024】
次に、図1(b)に示すように、割れ部2からはみ出した充填剤3を清掃して、木造梁1の外周にプライマー4を塗布する。そして、プライマー4が指触硬化後、木造梁1の外周にエポキシパテなどのパテ剤5を平滑に均す。なお、木造梁1が、補修後に乾燥収縮が進むような材料である場合などでは、木造梁1の周面を補強する後述の繊維強化シートによる拘束によって割れが生じることが考えられる。この場合、プライマー4として吸撥水性のある材料や、ある程度の弾性のある材料を用いることが好ましい。
【0025】
次に、図1(c)に示すように、パテ剤5が硬化後、木造梁1の下側であって、割れ部2を被覆するように、木造梁1の繊維方向(長手方向)に沿って第1の繊維強化シート6を貼り付ける。
【0026】
第1の繊維強化シート6は、炭素繊維、ガラス繊維、ビニロン繊維、アラミド繊維などからなり、その繊維方向を縦横に配向してシート状に形成することが可能である。なお、主となる繊維方向は繊維強化シートの長辺方向と一致している。また、第1の繊維強化シート6を貼り付ける際には、貼り付け部分にエポキシ樹脂などからなる接着剤を塗布する。その後、第1の繊維強化シート6を貼り合わせローラなどで押圧して接着剤を第1の繊維強化シート6に含浸させる。このように貼り付けられる第1の繊維強化シート6は、多層に貼り付けられる。一例としては、300g/m目付で幅500mmのものを4層重ねて貼り付ける。なお、上記寸法、重ね数などは、木造梁1への応力状態、木造梁1の傷み具合や木造梁1の寸法により適宜変更できる。
【0027】
次に、第1の繊維強化シート6を貼り付ける接着剤の硬化後、木造梁1の下側であって割れ部2の位置から両端を割れ部2と相反する側に掛けて木造梁1の繊維方向(長手方向)に斜めに交差して第2の繊維強化シート7を巻装する。第2の繊維強化シート7は、上記第1の繊維強化シート6と同じく形成され、第1の繊維強化シート7と同じく接着剤で貼り付けられる。
【0028】
続いて、第2の繊維強化シート7を上記の如く貼り付けるとともに、別の第2の繊維強化シート7´を木造梁1の割れ部2の位置から両端を割れ部2と相反する側に掛けて第2の繊維強化シート7に交互に重ねて貼り付ける。すなわち、第2の繊維強化シート7,7´は、割れ部2の位置にて重なり、たすき掛けの要領で貼り付けられる。また、たすき掛けとなる割れ部2の位置には、第2の繊維強化シート7,7´を多層(例えば4層)重ねて貼り付ける。また、第2の繊維強化シート7と別の第2の繊維強化シート7´とは、互いの端部が木造梁1の上側にて重合して貼り付けられる。この重合部分は、本実施の形態では例えば200mmとする。なお、上記寸法、重ね数などは、木造梁1への応力状態、木造梁1の傷み具合や木造梁1の寸法により適宜変更できる。
【0029】
なお、第2の繊維強化シート7は、割れ部2の状態に応じて貼り付けると良い。具体的には、図2に示すように、木造梁1へのせん断力により割れ部2が木造梁1の繊維方向(長手方向)に対して斜めに生じた場合、第2の繊維強化シート7を割れ部2の生じた方向に略直行するように貼り付け、これを多層重ねて貼り付ける。すなわち、別の第2の繊維強化シート7´を用いず、たすき掛けにしない。
【0030】
次に、第2の繊維強化シート7,7´を貼り付ける接着剤の硬化後、第1の繊維強化シート6および第2の繊維強化シート7,7´に重ねて、第3の繊維強化シート8を木造梁1の繊維方向(長手方向)に直行して巻装して貼り付ける。第2の繊維強化シート7は、上記第1の繊維強化シート6と同じく形成され、第1の繊維強化シート7と同じく接着剤で貼り付けられる。また、第3の繊維強化シート8は、その両端部が木造梁1の上側にて重合して貼り付けられる。この重合部分は、本実施の形態では例えば200mmとする。また、上記の如く貼り付けられる第3の繊維強化シート8は、多層(例えば4層)重ねて貼り付けられる。なお、上記寸法、重ね数などは、木造梁1への応力状態、木造梁1の傷み具合や木造梁1の寸法により適宜変更できる。
【0031】
なお、第3の繊維強化シート8を多層重ねて貼り付ける際には、1層目の隣同士を重ねず端部を付き合わせて貼る。そして、2層目は前記付き合わせ部を覆うようにずらして貼り付ける。さらに、3層目以降も同様にして付き合わせ部位置を他層とずらして貼り付ける。第3の繊維強化シート8は、このようにして多層重ねて貼り付けることが好ましい。なお、上記寸法、重ね数などは、木造梁1への応力状態、木造梁1の傷み具合や木造梁1の寸法により適宜変更できる。
【0032】
したがって、上述した木造長尺部材の補修補強方法では、第2の繊維強化シート7,7´が、木造梁1の繊維方向に交差して貼り付けられている。これにより、木造梁1にかかる図1(a)中矢印A方向の曲げモーメントを受け持てる引張抵抗を得ることが可能となる。この第2の繊維強化シート7,7´は、木造梁1の割れ部2の位置で交互に重ねて貼り付けられて、たすき掛けにされてなる。これにより、割れ部2にかかる曲げモーメントおよびせん断力を受け持てる十分な引張抵抗が得られる。
【0033】
さらに、第2の繊維強化シート7,7´は、木造梁1の繊維方向に交差して貼り付けられている。これにより、図4に示すように、木造梁1の上側に直交梁11が存在していても、この直交梁11を避けるようにして第2の繊維強化シート7,7´を貼り付けることが可能である。すなわち、比較的大きい曲げモーメントがかかる直交梁11の直下の木造梁1の部分の補修および補強が可能である。
【0034】
また、別の第2の繊維強化シート7´を用いず、第2の繊維強化シート7を割れ部2の生じた方向に略直行するように貼り付けた場合(図2参照)、せん断割れ部2の生じた状態にも応じて適宜補強することが可能である。
【0035】
また、上述した木造長尺部材の補修補強方法では、第3の繊維強化シート8が、木造梁1の繊維方向(長手方向)に直行して巻装して貼り付けられている。これにより、老化や繊維方向(長手方向)への圧縮力によって木造梁1の繊維方向の直行方向に、はらみや膨らみが生じようとしても、第3の繊維強化シート8によって、はらみや膨らみを防止することが可能である。
【0036】
ところで、図1(a)において割れ部2にエポキシ樹脂などの充填剤3を充填する以前に、図3に示すように、木造梁1に割れ部2を横断する溝9を設けて、この溝9内に補強部材10を埋設しても良い。補強部材10には、鉄筋、鋼線、ストランドや、炭素繊維、アラミドファイバー、グラスファイバーの束などがある。また、補強部材10の溝9への埋設には、割れ部2に充填するエポキシ樹脂などの充填剤3(接着剤でもよい)が用いられる。このように、補強部材10を設けることで、より確実に割れ部2の補強を行うことが可能となる。
【0037】
なお、上述した実施の形態では、割れ部2が生じた木造梁1の補修および補強の方法について説明したが、割れ部2が生じる以前の場合でも木造梁1の補修および補強を行うことも可能である。
【0038】
この場合、図1(b)に示すように、木造梁1の外周にプライマー4を塗布する。そして、プライマー4が指触硬化後、木造梁1の外周にエポキシパテなどのパテ剤5を平滑に均す。
【0039】
次に、図1(c)に示すように、パテ剤5が硬化後、木造梁1の下側(一側)に木造梁1の繊維方向(長手方向)に沿って第1の繊維強化シート6を貼り付ける。
【0040】
次に、第1の繊維強化シート6を貼り付ける接着剤の硬化後、木造梁1の下側(一側)から両端を(上側)他側に掛けて木造梁1の繊維方向(長手方向)に斜めに交差して第2の繊維強化シート7を巻装する。これとともに、別の第2の繊維強化シート7´を木造梁1の下側(一側)から両端を上側(他側)に掛けて第2の繊維強化シート7に交互に重ねて、たすき掛けの要領で貼り付ける。
【0041】
次に、第2の繊維強化シート7,7´を貼り付ける接着剤の硬化後、第1の繊維強化シート6および第2の繊維強化シート7,7´に重ねて、第3の繊維強化シート8を木造梁1の繊維方向(長手方向)に直行して巻装して貼り付ける。
【0042】
このように、割れ部2が生じる以前の木造梁1の補修および補強が行われる。また、この場合も上述した直交梁11(図4参照)を避けて第2の繊維強化シート7,7´を貼り付けることが可能である。
【0043】
なお、上述した全ての実施の形態では、木造長尺部材として木造梁1を一例として説明したが、木造柱あるいは桔木(不図示)の場合でも同様に補修および補強を行うことが可能である。この場合、第1の繊維強化シート6は、割れ部2が生じた木造柱の一側、あるいは曲げモーメントがかかる木造柱の一側に貼り付けられる。また、第2の繊維強化シート7,7´は、上記木造柱の一側から両端を他側に掛けて木造柱の繊維方向(長手方向)に斜めに交差して貼り付けられ、他側にて端部が重合して貼り付けられる。また、第3の繊維強化シート8は、上記木造柱の一側から木造柱の繊維方向に直行して貼り付けられ、他側にて端部が重合して貼り付けられる。
【0044】
また、上述した全ての実施の形態では、継手部の無い一連の木造長尺部材を図示して説明したが、各種継手部のある木造長尺部材として、その継手部の補修および補強にも上述した補修補強方法を採用することが可能である。この場合、第2の繊維強化シート7,7´は、割れ部2への貼り付けと同様に継手部の位置で交互に重ねて貼り付けられて、たすき掛けにする。これにより、継手部にかかる曲げモーメントおよびせん断力を受け持てる十分な引張抵抗が得られる。
【0045】
このように、上述した木造長尺部材の補修補強方法によれば、木造梁1(木造柱)の曲げモーメントを受け持てる十分な引張抵抗を得ることが可能である。また、木造梁1(木造柱)の繊維方向の直行方向のはらみや膨らみを防止することが可能である。特に、上述した木造長尺部材の補修補強方法は、既存部分を補修および補強する方法であるため、歴史的建造物の保存など、木造建物の既存部材を取り替えることが困難な場合において有用である。
【0046】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の木造長尺部材の補修補強方法によれば、第2の繊維強化シートが木造長尺部材の繊維方向に斜め交差して貼り付けられているので、木造長尺部材の繊維方向にかかる曲げモーメントを受け持つ引張抵抗を得ることができる。特に、第2の繊維強化シートは、木造長尺部材の繊維方向に斜め交差しているので、木造長尺部材に直交する梁などがあっても、この梁を避けた上で梁のある部分にかかる曲げモーメントを受け持つ十分な引張抵抗を得ることができる。また、第3の繊維強化シートが木造長尺部材の繊維方向に直行して巻装して貼り付けられているので、木造長尺部材の繊維方向へのはらみや膨らみを防止することができる。
【0047】
また、第2の繊維強化シートが割れ部の位置から両端を割れ部の相反する側に掛けて木造長尺部材の繊維方向に斜め交差して貼り付けられているので、木造長尺部材に生じた割れ部にかかる曲げモーメントを受け持つことができる。特に、割れ部は、木造長尺部材に直交する梁などがある部分で生じることが多いが、第2の繊維強化シートが木造長尺部材の繊維方向に斜め交差しているので、梁を避けた上で梁のある部分に生じた割れ部にかかる曲げモーメントを受け持つことができる。
【0048】
また、木造長尺部材に生じた割れ部を横断する溝に補強部材を埋設することにより、確実に割れ部を補強することができる。
【0049】
また、木造長尺部材の外周にプライマーを塗布することにより、木造長尺部材の補修および補強部分の防水性を高めることができる。さらに、木造長尺部材の外周にパテ剤を平滑に均すことにより、各繊維強化シートの貼り付けを良好にすることができる。
【0050】
また、第2の繊維強化シートを割れ部の生じた方向に略直交するように貼り付けることにより、せん断割れ部の状態にも応じて適宜補強することができる。
【0051】
また、第2の繊維強化シートを木造長尺部材の割れ部の位置から両端を割れ部の相反する側に掛けて木造長尺部材の繊維方向に斜めに交差して巻装して貼り付け、別の第2の繊維強化シートを割れ部の位置から両端を割れ部の相反する側に掛けて第2の繊維強化シートに交互に重ねて貼り付けることにより、第2の繊維強化シートと別の第2の繊維強化シートが割れ部の位置で重なり、たすき掛けとなるので、割れ部にかかる曲げモーメントを十分に受け持つことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】(a)〜(f)本実施の形態における木造長尺部材の補修補強方法の手順を示す図である。
【図2】割れ部に応じた第2の繊維強化シートの貼り方を示す図である。
【図3】補強部材を用いた場合を示す図である。
【図4】直交梁がある場合の各繊維強化シートの貼り方を示す図である。
【符号の説明】
1    木造梁(木造長尺部材)
2    割れ部
3    充填剤
4    プライマー
5    パテ剤
6    第1の繊維強化シート
7,7´ 第2の繊維強化シート
8    第3の繊維強化シート
9    溝
10    補強部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の繊維強化シートを木造長尺部材の繊維方向に沿って前記木造長尺部材の一側に貼り付ける工程と、
第2の繊維強化シートを前記第1の繊維強化シートに重ねて前記木造長尺部材の一側から両端を他側に掛けて前記木造長尺部材の繊維方向に斜めに交差して巻装して貼り付けるとともに、別の第2の繊維強化シートを前記木造長尺部材の一側から両端を他側に掛けて前記第2の繊維強化シートに交互に重ねて貼り付ける工程と、
第3の繊維強化シートを前記第1の繊維強化シートおよび前記第2の繊維強化シートに重ねて前記木造長尺部材の繊維方向に直行して巻装して貼り付ける工程と、
を含むことを特徴とする木造長尺部材の補修補強方法。
【請求項2】
第1の繊維強化シートを木造長尺部材の繊維方向に沿って前記木造長尺部材に生じた割れ部を被覆して貼り付ける工程と、
第2の繊維強化シートを前記第1の繊維強化シートに重ねて前記木造長尺部材の前記割れ部の位置から両端を前記割れ部の相反する側に掛けて前記木造長尺部材の繊維方向に斜めに交差して巻装して貼り付ける工程と、
第3の繊維強化シートを前記第1の繊維強化シートおよび前記第2の繊維強化シートに重ねて前記木造長尺部材の繊維方向に直行して巻装して貼り付ける工程と、
を含むことを特徴とする木造長尺部材の補修補強方法。
【請求項3】
木造長尺部材に生じた割れ部を横断する溝を設けて前記溝に補強部材を埋設する工程と、
第1の繊維強化シートを木造長尺部材の繊維方向に沿って前記木造長尺部材の割れ部を被覆して貼り付ける工程と、
第2の繊維強化シートを前記第1の繊維強化シートに重ねて前記木造長尺部材の前記割れ部の位置から両端を前記割れ部の相反する側に掛けて前記木造長尺部材の繊維方向に斜めに交差して巻装して貼り付ける工程と、
第3の繊維強化シートを前記第1の繊維強化シートおよび前記第2の繊維強化シートに重ねて前記木造長尺部材の繊維方向に直行して巻装して貼り付ける工程と、
を含むことを特徴とする木造長尺部材の補修補強方法。
【請求項4】
木造長尺部材に生じた割れ部を横断する溝を設けて、前記溝に補強部材を埋設する工程と、
前記木造長尺部材に生じた割れ部に充填剤を充填する工程と、
前記木造長尺部材の外周にプライマーを塗布する工程と、
前記木造長尺部材の外周にパテ剤を平滑に均す工程と、
第1の繊維強化シートを木造長尺部材の繊維方向に沿って前記木造長尺部材の割れ部を被覆して貼り付ける工程と、
第2の繊維強化シートを前記第1の繊維強化シートに重ねて前記木造長尺部材の前記割れ部の位置から両端を前記割れ部の相反する側に掛けて前記木造長尺部材の繊維方向に斜めに交差して巻装して貼り付ける工程と、
第3の繊維強化シートを前記第1の繊維強化シートおよび前記第2の繊維強化シートに重ねて前記木造長尺部材の繊維方向に直行して巻装して貼り付ける工程と、
を含むことを特徴とする木造長尺部材の補修補強方法。
【請求項5】
前記第2の繊維強化シートを前記割れ部の生じた方向に略直交するように貼り付けることを特徴とする請求項2〜4の何れか一つに記載の木造長尺部材の補修補強方法。
【請求項6】
前記第2の繊維強化シートを前記第1の繊維強化シートに重ねて前記木造長尺部材の前記割れ部の位置から両端を前記割れ部の相反する側に掛けて前記木造長尺部材の繊維方向に斜めに交差して巻装して貼り付けるとともに、別の第2の繊維強化シートを前記木造長尺部材の前記割れ部の位置から両端を前記割れ部の相反する側に掛けて前記第2の繊維強化シートに交互に重ねて貼り付ける工程を含むことを特徴とする請求項2〜4の何れか一つに記載の木造長尺部材の補修補強方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2004−143847(P2004−143847A)
【公開日】平成16年5月20日(2004.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2002−311410(P2002−311410)
【出願日】平成14年10月25日(2002.10.25)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】