説明

未反応モノマーを除去する方法および装置

【課題】 α-ヒドロキシカルボン酸の環状二量体の開環重合反応によるポリマーの製造において、未反応モノマーであるα−ヒドロキシカルボン酸の環状二量体を除去し、得られるポリマーの品質低下を防止する手段を提供する。
【解決手段】 α-ヒドロキシカルボン酸の環状二量体の開環重合反応によるポリマーの製造において未反応のα−ヒドロキシカルボン酸の環状二量体を除去する方法であって、該開環重合反応の反応生成物に、酸化防止剤と触媒失活剤とα-ヒドロキシカルボン酸の環状二量体との混合物を添加し、混合とα-ヒドロキシカルボン酸の環状二量体の減圧脱気とを行うことを含む、前記方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、α-ヒドロキシカルボン酸の環状二量体の開環重合反応によるポリマーの連続的な製造において、重合装置から排出される反応生成物中の未反応モノマーの量を低減し、ポリマーの品質低下を防止する方法およびそのための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ラクチド等のα-ヒドロキシカルボン酸の環状二量体を開環重合させてポリマーを得る重合プロセスにおいて、重合装置より排出されるポリマー中に未反応のモノマー、例えばラクチドが残存すると、大気中の水分により残存ラクチドは加水分解されて乳酸を生成し、ポリマーの品質を劣化させるだけでなく、ポリマーの分解を促進するおそれがある。
【0003】
これまで、α-ヒドロキシカルボン酸の環状二量体を開環重合させてポリマーを得る重合プロセスにおいて、触媒添加量、重合装置内の温度分布または滞留時間等の操作因子を最適化してポリマーの転化率を高める、すなわち未反応モノマーの量を低減する工夫がなされている。しかし、この開環重合反応ではバルク相で重合が進行するため、重合の進行に伴って、モノマーが高粘度のポリマー中に拡散して触媒の存在する部位に到達し、その場で反応してしまうため、濃度拡散の制約を受けやすい。
【0004】
その他の種類の重合反応においては、反応温度の上昇、滞留時間の延長、または触媒濃度を高めるといった方法によって、重合反応の転化率の向上を達成できる可能性がある。しかし、α-ヒドロキシカルボン酸の環状二量体の開環重合では、上記のような方法による反応転化率の向上には限界があり、重合装置出口において、通常はポリマー中に1〜10%程度の未反応モノマーが残存する。これはポリマーの転化率に換算すると、99〜90%である。
【0005】
これに対して、特許文献1には、二段の重合装置のうちの初段の重合装置の途中で触媒を追加供給して転化率を上げ、未反応モノマーの量を低減させる方法が記載されている。しかし、当該方法では重合反応の転化率を十分に向上させることはできず、現実的な方法ではない。
【0006】
一方、重合反応後に生成したポリマーに混入した未反応モノマーの量を低減する技術、すなわち脱モノマー技術についても報告されている。特許文献2及び3では、α-ヒドロキシカルボン酸の環状二量体の開環重合において、重合装置から排出される溶融状態の反応生成物から、減圧脱気により未反応モノマーを除去する方法が提案されている。しかし、これらの方法は、高温での真空脱気により未反応モノマーを除去するものであるため、高温に曝されたポリマーが酸化劣化を受け、着色するおそれがある。このため、特許文献2には脱モノマーの際に、不活性ガスを流通させて酸化を防止することが提案されている。
【0007】
また、高温での処理により、残存する触媒が重合反応を進行させ、ポリマーの重合度が所定の範囲を逸脱するおそれもある。これを避ける方法として、特許文献3には、リン酸または亜リン酸化合物などの触媒失活剤を加えて真空脱気する方法が記載されている。
【0008】
ポリマーの酸化劣化の防止、および触媒不活性化による重合反応の停止は、いずれもポリマーの品質安定化のためには必須の対策であり、酸化防止剤および触媒失活剤をポリマーに添加することは公知の技術である。しかし、酸化防止剤及び触媒失活剤の添加量は、高々1%以下のオーダーであり、ポリマーに対して微量である。加えて、酸化防止剤及び触媒失活剤といった添加剤の溶融状態における粘度は高々1Pa・s程度であるのに対して、ポリマー、例えばポリ乳酸の200℃における粘度は5,000Pa・s程度と非常に高い。このように、ポリマーと酸化防止剤または触媒失活剤等の添加剤とは、その量および溶融状態における粘度が大きく異なるため、これらを均一に混合するのは非常に困難である。そして、触媒失活剤および酸化防止剤等の添加剤がポリマーと均一に混合されない場合には、これらの添加剤が充分機能せず、局所的な酸化分解によるポリマーの着色や、重合反応の暴走による分子量の上昇が発生するおそれがある。
【特許文献1】特許第2850776号公報
【特許文献2】特許第2714454号公報
【特許文献3】特許第3419609号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、α-ヒドロキシカルボン酸の環状二量体の開環重合反応によるポリマーの製造において、未反応モノマーであるα−ヒドロキシカルボン酸の環状二量体を除去し、得られるポリマーの品質低下を防止する手段を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、鋭意検討を行った結果、酸化防止剤と触媒失活剤を重合反応のモノマーであるα-ヒドロキシカルボン酸の環状二量体と混合して、重合反応の反応生成物に添加することにより、酸化防止剤と触媒失活剤をポリマー中に均一に混合できるとともに、未反応モノマーを効果的に除去できることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は以下の発明を包含する。
(1)α-ヒドロキシカルボン酸の環状二量体の開環重合反応によるポリマーの製造において未反応のα−ヒドロキシカルボン酸の環状二量体を除去する方法であって、該開環重合反応の反応生成物に、酸化防止剤と触媒失活剤とα-ヒドロキシカルボン酸の環状二量体との混合物を添加し、混合とα-ヒドロキシカルボン酸の環状二量体の減圧脱気とを行うことを含む、前記方法。
(2)開環重合反応の反応生成物に、酸化防止剤と触媒失活剤とα-ヒドロキシカルボン酸の環状二量体との混合物を添加後、ギヤポンプを用いて混合する工程を含む、(1)記載の方法。
(3)開環重合反応の反応生成物に、酸化防止剤と触媒失活剤とα-ヒドロキシカルボン酸の環状二量体との混合物を添加後、横型二軸攪拌装置において混合と減圧脱気とを行う工程を含む、(1)または(2)記載の方法。
(4)開環重合反応の反応生成物に、酸化防止剤と触媒失活剤とα-ヒドロキシカルボン酸の環状二量体との混合物を添加後、二軸押出機において混合と減圧脱気とを行う工程を含む、(1)〜(3)のいずれかに記載の方法。
(5)開環重合反応の反応生成物に、酸化防止剤と触媒失活剤とα-ヒドロキシカルボン酸の環状二量体との混合物を添加後、ギヤポンプを用いて混合し、続いて横型二軸攪拌装置において混合および減圧脱気を行い、さらに二軸押出機において混合および減圧脱気を行うことを含む、(1)記載の方法。
(6)α-ヒドロキシカルボン酸の環状二量体がラクチドである、(1)〜(5)のいずれかに記載の方法。
(7)α-ヒドロキシカルボン酸の環状二量体の開環重合反応によるポリマーの製造において未反応のα−ヒドロキシカルボン酸の環状二量体を除去する装置であって、該開環重合反応の反応生成物に、酸化防止剤と触媒失活剤とα-ヒドロキシカルボン酸の環状二量体との混合物を添加する装置と、該混合物と該反応生成物とを混合する少なくとも1つの撹拌装置と、未反応のα-ヒドロキシカルボン酸の環状二量体を除去するための少なくとも1つの減圧脱気装置とを有する、前記装置。
(8)撹拌装置としてギヤポンプを有する、(7)記載の装置。
(9)撹拌装置として横型二軸攪拌装置を有し、該横型二軸攪拌装置に減圧脱気装置が設置されている、(7)または(8)記載の装置。
(10)撹拌装置として二軸押出機を有し、該二軸押出機に減圧脱気装置が設置されている、(7)〜(9)のいずれかに記載の装置。
(11)撹拌装置として、ギヤポンプと、その後段の横型二軸攪拌装置と、さらに後段の二軸押出機とを有し、該横型二軸攪拌装置と該二軸押出機にそれぞれ減圧脱気装置が設置されている、(7)記載の装置。
(12)α-ヒドロキシカルボン酸の環状二量体がラクチドである、(7)〜(11)のいずれかに記載の装置。
(13)(7)〜(12)のいずれかに記載の装置を含む、α-ヒドロキシカルボン酸の環状二量体の開環重合反応によりポリマーを製造する装置。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、α-ヒドロキシカルボン酸の環状二量体の開環重合反応により得られるポリマーの品質を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明は、α-ヒドロキシカルボン酸の環状二量体の開環重合反応によるポリマーの製造、特に連続的または間欠的なポリマーの製造において、未反応のα−ヒドロキシカルボン酸の環状二量体を除去する方法に関する。
【0014】
α−ヒドロキシカルボン酸の環状二量体とは、α−ヒドロキシカルボン酸の2分子から水2分子を脱水することにより得られる環状二量体エステルである。
【0015】
α−ヒドロキシカルボン酸としては、例えば、グリコール酸、L−及び/またはD−乳酸、α−ヒドロキシ酪酸、α−ヒドロキシイソ酪酸、α−ヒドロキシ吉草酸、α−ヒドロキシカプロン酸、α−ヒドロキシイソカプロン酸、α−ヒドロキシヘプタン酸、α−ヒドロキシオクタン酸、α−ヒドロキシデカン酸、α−ヒドロキシミリスチン酸、α−ヒドロキシステアリン酸、α−ヒドロキシ安息香酸及びこれらのアルキル置換体などを挙げることができる。本発明は、特に、乳酸の環状二量体であるラクチドの開環重合反応により得られるポリマーであるポリ乳酸の製造において好適に用いられる。
【0016】
本発明においてポリ乳酸は、乳酸を主成分とする重合体を意味し、ポリL−乳酸ホモポリマー、ポリD−乳酸ホモポリマー、ポリL/D−乳酸コポリマー、これらのポリ乳酸に他のエステル結合形成性成分、例えば、他のヒドロキシカルボン酸、ラクトン類、ジカルボン酸とジオールなどを共重合したポリ乳酸コポリマー及びそれらに副次成分として添加物を混合したものが包含される。ヒドロキシカルボン酸の例としては、上記のものなど、ラクトンの例としては、ブチロラクトン、カプロラクトンなど、ジカルボン酸の例としては炭素数4〜20の脂肪族ジカルボン酸、およびフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸、ジオールの例としては、炭素数2〜20の脂肪族ジオールがあげられる。ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレンエーテルなどのポリアルキレンエーテルのオリゴマー及びポリマーも共重合成分として用いられる。同様にポリアルキレンカーボネートのオリゴマー及びポリマーも共重合成分として用いられる。添加物の例としては、触媒、酸化防止剤、触媒失活剤、安定剤、紫外線吸収剤、顔料、着色剤、無機粒子、各種フィラー、離型剤、可塑剤、その他類似のものが挙げられる。これらの共重合成分及び添加剤の添加率は任意であるが、主成分は乳酸又は乳酸由来のもので、共重合成分及び添加剤は50重量%以下、好ましくは30重量%以下、より好ましくは10重量%以下とすることが好ましい。
【0017】
本発明においては、上記α−ヒドロキシカルボン酸の環状二量体の開環重合反応の反応生成物に、酸化防止剤と触媒失活剤とα−ヒドロキシカルボン酸の環状二量体との混合物を添加する。本明細書中、酸化防止剤と触媒失活剤とα−ヒドロキシカルボン酸の環状二量体との混合物を添加剤混合物と称する場合もある。
【0018】
α−ヒドロキシカルボン酸の環状二量体の開環重合反応の反応生成物は、重合反応によって生成したポリマーを主成分とするが、未反応のモノマーであるα−ヒドロキシカルボン酸の環状二量体を含む。通常、α−ヒドロキシカルボン酸の環状二量体を、1〜20重量%程度含む。本明細書中、α−ヒドロキシカルボン酸の環状二量体の開環重合反応から得られる、ポリマーを主成分とするが未反応モノマー等その他の成分を含有する混合物を、開環重合反応の反応生成物または重合反応生成物と称する場合もある。
【0019】
酸化防止剤は、ポリマーの酸化を防止しうるものであれば特に制限されず、当技術分野で通常用いられるものを使用できるが、例えば、N,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミンなどのアミン系の酸化防止剤、2,5−ジ−(t−アミル)ヒドロキノンなどのヒドロキノン系の酸化防止剤、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾールなどのフェノール系の酸化防止剤、5,7−ジ−t−ブチル−3−(3,4−ジメチルフェニル)−3H−ベンゾフラン−2−オンなどのラクトン系の酸化防止剤、トリフェニルホスファイトなどのホスファイト系の酸化防止剤、3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル構造を主要構造として持つヒンダードフェノール系の酸化防止剤などが挙げられる。本発明においては、ヒンダードフェノール系の酸化防止剤を用いるのが好ましく、特にイルガノックスと総称される一連の化合物を用いるのが好ましい。ヒンダードフェノール系の酸化防止剤の具体例としては、ペンタエリスリトール−テトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,6−ヘキサンジオール−ビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリエチレングリコール−ビス[3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、3,9−ビス{2−[3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ]−1,1−ジメチルエチル}−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、1,1,3−トリス[2−メチル−4−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニルプロピオニルオキシ)−5−t−ブチルフェニル]ブタンなどが挙げられる。酸化防止剤の添加量は、重合反応生成物に対して、通常、1重量%以下、好ましくは0.1〜1重量%である。
【0020】
触媒失活剤は、当業者であれば、開環重合反応に使用した触媒に応じて適宜好適なものを選択できる。α−ヒドロキシカルボン酸の環状二量体の開環重合反応の触媒としては、従来公知の重合用触媒を用いることができ、例えば、周期表IA族、IVA族、IVB族及びVA族からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属又は金属化合物を含む触媒を用いることができる。IVA族に属するものとしては、例えば、有機スズ系の触媒(例えば、乳酸スズ、酒石酸スズ、ジカプリル酸スズ、ジラウリル酸スズ、ジパルミチン酸スズ、ジステアリン酸スズ、ジオレイン酸スズ、α−ナフトエ酸スズ、β−ナフトエ酸スズ、オクチル酸スズ等)、及び粉末スズ等が挙げられる。IA族に属するものとしては、例えば、アルカリ金属の水酸化物(例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等)、アルカリ金属と弱酸の塩(例えば、乳酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、オクチル酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、乳酸カリウム、酢酸カリウム、炭酸カリウム、オクチル酸カリウム等)、アルカリ金属のアルコキシド(例えば、ナトリウムメトキシド、カリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムエトキシド等)等が挙げられる。IVB族に属するものとしては、例えば、テトラプロピルチタネート等のチタン系化合物、ジルコニウムイソプロポキシド等のジルコニウム系化合物等が挙げられる。VA族に属するものとしては、例えば、三酸化アンチモン等のアンチモン系化合物等が挙げられる。これらの中でも、有機スズ系触媒又はスズ化合物、特に2−エチルヘキサンスズが活性の点から特に好ましい。
【0021】
触媒失活剤の具体例としては、例えば、リン酸化合物、亜リン酸化合物、アルキルアシッドホスフェートおよびアルキルアシッドホスファイト等のリン含有酸性化合物ならびに芳香族スルホン酸化合物などが挙げられる。リン含有酸性化合物の具体例としては、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、ピロリン酸、ポリリン酸、ポリリン酸モノエステル、ポリリン酸ジエチルエステル、リン酸トリエチル、リン酸トリフェニル、ピロリン酸テトラエチル、ピロリン酸テトラフェニル、亜リン酸トリエチル、亜リン酸トリフェニル、ATP(アデノシントリホスフェート)、リン酸三カルシウム、フェニルリン酸、モノメチルアシッドホスフェート、モノメチルアシッドホスファイト、ジメチルアシッドホスフェート、ジメチルアシッドホスファイト、モノブチルアシッドホスフェート、モノブチルアシッドホスファイト、ジブチルアシッドホスフェート、ジブチルアシッドホスファイト、モノステアリルアシッドホスフェート、ジステアリルアシッドホスフェート等が挙げられる。芳香族スルホン酸化合物の具体例としては、p−トルエンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸メチル、p−トルエンスルホン酸エチル、p−トルエンスルホン酸プロピル、p−トルエンスルホン酸ブチル、p−トルエンスルホン酸ペンチル、p−トルエンスルホン酸ヘキシル、p−トルエンスルホン酸オクチル、p−トルエンスルホン酸フェニル、p−トルエンスルホン酸フェネチル、p−トルエンスルホン酸ナフチル等が挙げられる。触媒失活剤の添加量は使用する触媒の種類および量に基づき、当業者であれば適宜設定できる。触媒の使用量は、原料モノマーであるα−ヒドロキシカルボン酸の環状二量体に対して通常100ppm程度であり、これを失活させるための触媒失活剤の添加量は、重合反応生成物に対して、通常1重量%以下、好ましくは0.01〜1重量%である。
【0022】
本発明では、上記酸化防止剤と触媒失活剤を、重合反応のモノマーであるα−ヒドロキシカルボン酸の環状二量体と混合し、この混合物を、開環重合反応の反応生成物に添加する。α−ヒドロキシカルボン酸の環状二量体の添加量は、重合反応生成物に対して、通常1〜20重量%、好ましくは3〜15重量%、より好ましくは5〜10重量%となる量とする。
【0023】
酸化防止剤及び触媒失活剤を、重合反応のモノマーであるα−ヒドロキシカルボン酸の環状二量体と混合してから重合反応生成物に添加及び混合することにより、添加物の容量が増すため、酸化防止剤及び触媒失活剤をポリマー中に効果的に拡散させることができる。添加剤混合物は、重合装置から排出される重合反応生成物と同程度の温度、すなわちポリマーの溶融温度よりも少し高い温度、例えばポリ乳酸では175〜230℃に加熱してから添加することが好ましい。添加剤混合物を加熱することにより、より効果的に混合することができる。
【0024】
酸化防止剤や触媒失活剤は、α-ヒドロキシカルボン酸の環状二量体の開環重合により生成するポリマーとは分子構造が大きく異なっており、ポリマーに対する親和性が低いのに対し、α-ヒドロキシカルボン酸の環状二量体は、重合反応生成物の主成分であるポリマーの構成要素であるモノマーであり、ポリマーにおける繰り返し単位と酷似した分子構造を持っているため、ポリマーに対する親和性がきわめて高い。従って、α-ヒドロキシカルボン酸の環状二量体に少量の酸化防止剤及び触媒失活剤を添加した混合物は、ポリマーになじみやすく、混合が容易に進行する。
【0025】
未反応モノマーであるα−ヒドロキシカルボン酸の環状二量体が残存する重合反応生成物中に、新たにモノマーを添加することになるが、新たに添加したモノマーと残存する未反応モノマーは、共に後段の減圧脱気処理により除去される。本発明においては、酸化防止剤および触媒失活剤が十分に混合され機能することから、後段の減圧脱気処理におけるポリマーの酸化や分解を抑制し、ポリマーの品質低下を防止できる。さらに、減圧脱気された排出ガスを冷却してモノマーを回収し、再び反応原料として使用することもでき、また、酸化防止剤および触媒失活剤と混合して添加剤混合物として使用することもできる。
【0026】
本発明の方法は、上記の酸化防止剤と触媒失活剤とα-ヒドロキシカルボン酸の環状二量体との混合物を添加後、混合とα-ヒドロキシカルボン酸の環状二量体の減圧脱気とを行う。
【0027】
重合反応生成物と添加剤混合物との混合は、両者が均一に混合されるように行う。双方の液滴を微細化し、かつ微細化された後者の液滴が前者の液滴群内に分散されるように混合を行うのが好ましい。添加剤混合物の液滴が重合反応生成物中に十分に分散されれば、濃度差による拡散が機能し、最終的には分子レベルまで混合させることができる。
【0028】
重合反応生成物の主成分であるポリマーは粘度が高いため、ポリマーの液滴を微細化して上記のような混合を行うためには、ポリマーに大きなせん断力を作用させ、強く切断することが好ましい。
【0029】
本発明における重合反応生成物と添加剤混合物とを混合するための手段としては、両者を均一に混合できるものであれば特に制限されず、いかなる撹拌装置も使用できる。1つの撹拌装置で混合を行ってもよいが、好ましくは複数の撹拌装置を組み合わせて使用する。好ましくは前段においてせん断力の大きな撹拌装置を使用する。本発明における撹拌装置には、通常の撹拌装置だけでなく攪拌機能を有する装置であればいずれも包含される。本発明において撹拌装置は、通常、回転軸を中心とした回転により攪拌を行う攪拌手段を有する。また、撹拌装置には、通常、ポリマーを溶融状態に維持するための加熱装置を設置する。撹拌装置としては、例えば、横型撹拌装置、縦型撹拌装置、ギヤポンプ、押出機、ニーダー、スクリューポンプ、スクリューフィーダー、混錬機等が挙げられる。横型撹拌装置とは、その回転軸が地面に対して実質的に水平になるように設置された攪拌手段を有する撹拌装置をさし、縦型撹拌装置とは、その回転軸が地面に対して実質的に垂直になるように設置された攪拌手段を有する撹拌装置をさす。ただし、ここで水平や垂直とは、攪拌手段の回転軸が厳密に水平や垂直であることを意図するものではない。本発明においては、横型撹拌装置を用いるのが好ましい。横型撹拌装置は、内容物の露出面積が大きくなるので、α−ヒドロキシカルボン酸の環状二量体をより効率的に蒸発させることができる。
【0030】
攪拌手段としては、例えば、円形、長円形、3角形、4角形及び多葉形などの攪拌翼が回転軸上に間隔をあけて2枚以上設置された一軸または互いに噛み合う二軸以上のもの、スクリュー状のもの、およびギア状のものが挙げられる。攪拌手段は、一軸のものでも、二軸以上のものでもよいが、本発明においては二軸以上の攪拌手段が好ましい。互いに噛み合う二軸以上の撹拌手段を有する撹拌装置は、撹拌手段の回転軸や槽の内壁に粘度の高い内容物が付着するのを防止することができるため、セルフクリーニング作用の観点からも好ましい。また、複数の攪拌翼を有する二軸以上の攪拌手段を使用する場合は、各回転軸の攪拌翼が互い違いに設置されているのが好ましく、また、各回転軸を逆方向に回転させるのが好ましい。また、攪拌翼や撹拌軸の間隔を可能な限り狭くして、図3に示すギヤポンプと同様に、大きなせん断力を実現できる方式が好ましい。大きなせん断力により高粘度のポリマーを継続的に切断し、新たな表面を継続的に露出させ、この新たな表面から未反応モノマーを効率的に蒸発させることができるため、減圧脱気によるモノマーの除去に要する時間を短縮することができる。その結果、ポリマーの酸化、重合反応の暴走およびポリマーの分解を抑制し、ポリマーの品質低下を防止することができる。
【0031】
本発明においては、撹拌装置として、ギヤポンプ、横型二軸撹拌装置および二軸押出機を用いるのが好ましい。より好ましくは、添加剤混合物を添加した後最初の段にギヤポンプを使用し、その後段で横型二軸撹拌装置を使用し、さらに後段で二軸押出機を用いる。図3にギヤポンプの動作原理を示す。二つのギヤ56が重合反応生成物と添加剤混合物との混合物を噛み込んで、ギヤの間に挟まれた混合物に極めて大きなせん断力を発生させる。これにより粘稠な液体であっても強く切断され、微細化が進行し、混合が進みやすくなる。横型二軸攪拌装置においても、攪拌翼の噛み合いによるせん断力により、混合物は細かく切断され、切断された混合物の表面からモノマーが蒸発する。
【0032】
本発明においては、減圧脱気によりα−ヒドロキシカルボン酸の環状二量体を蒸発により除去することを含む。減圧脱気は、混合と同時に行ってもよいし、交互に行ってもよいが、好ましくは混合と同時に行う。減圧脱気のみ、または混合のみを行う工程が含まれていてもよい。減圧脱気は、撹拌装置に設置した減圧脱気装置により実施できる。減圧脱気装置としては、当技術分野において通常用いられるものを使用でき、例えば、油回転真空ポンプ等の液封式真空ポンプ、ルーツ型、ダイヤフラム型、ピストン型、スクロール型、スクリュー型等のドライ式真空ポンプ、ターボ分子ポンプ、拡散ポンプ、イオンポンプ、エジェクタ等の真空排気装置を使用できる。減圧脱気装置は、撹拌装置のいずれかに設置されていればよいが、撹拌装置のすべてに設置されていてもよい。例えば、撹拌装置として、ギヤポンプ、横型二軸撹拌装置および二軸押出機を組み合わせて用いる場合、横型二軸撹拌装置および二軸押出機のみに減圧脱気装置を設置してもよい。
【0033】
減圧脱気の条件は、合成したポリマーの種類により、当業者であれば適宜設定できるが、通常、0.01〜100Torr、好ましくは0.1〜10Torrで、通常、ポリマーの溶融温度より5℃高い温度、好ましくは10℃高い温度以上、かつポリマーの溶融温度より100℃高い温度以下、好ましくは70℃高い温度以下で、通常30分〜3時間、好ましくは1〜2時間実施する。ラクチドの開環重合によりポリ乳酸を合成する場合には、0.01〜100Torr、好ましくは0.1〜10Torrで、175〜300℃、好ましくは180〜250℃、より好ましくは185〜240℃の温度で、通常30分〜2時間にわたって減圧脱気を行う。
【0034】
本発明においては、重合反応生成物に添加剤混合物を添加後、まず、ポリマーの溶融温度より少し高い温度、好ましくは5〜30℃高い温度、より好ましくは10〜20℃高い温度で、20分〜3時間、好ましくは30分〜2時間減圧脱気を行い、その後、より高い温度、好ましくはポリマーの溶融温度より40〜100℃高い温度、好ましくは50〜80℃高い温度で、1〜20分、好ましくは3〜10分減圧脱気を行う。ラクチドの開環重合によりポリ乳酸を合成する場合には、175〜200℃、好ましくは180〜195℃の温度で20分〜2時間、好ましくは30分〜1時間減圧脱気を行い、続いて、210〜250℃、好ましくは220〜240℃の温度で、1〜10分、好ましくは3〜7分減圧脱気を行う。
【0035】
最初に低温で長時間にわたり減圧脱気を行った後、より高温で短時間の減圧脱気を行うことにより、ポリマーの酸化や分解を防止し、ポリマーの品質を低下させることなくモノマーを効果的に除去することができる。また、本発明においては、酸化防止剤および触媒失活剤が十分に拡散されているため、減圧脱気処理において生じうるポリマーの酸化や分子量の不均一化も防止することができる。
【0036】
添加剤混合物を添加後、最初の段にギヤポンプを使用し、その後段で減圧脱気装置を設置した横型二軸撹拌装置を使用し、さらに後段で減圧脱気装置を設置した二軸押出機を用いる実施形態では、横型二軸撹拌装置において上記低温での長時間にわたる減圧脱気を行い、二軸押出機において上記高温での短時間の減圧脱気を行うのが好ましい。
【0037】
本発明はまた、α-ヒドロキシカルボン酸の環状二量体の開環重合反応によるポリマーの製造において未反応のα−ヒドロキシカルボン酸の環状二量体を除去する装置に関する。本発明の装置は、該開環重合反応の反応生成物に、酸化防止剤と触媒失活剤とα-ヒドロキシカルボン酸の環状二量体との混合物を添加する装置と、該混合物と該反応生成物とを混合する少なくとも1つの撹拌装置と、未反応のα-ヒドロキシカルボン酸の環状二量体を除去するための少なくとも1つの減圧脱気装置とを有する。
【0038】
該開環重合反応の反応生成物に、酸化防止剤と触媒失活剤とα-ヒドロキシカルボン酸の環状二量体との混合物を添加する装置の形態は、特に制限されないが、通常、酸化防止剤の貯槽、触媒失活剤の貯槽およびα-ヒドロキシカルボン酸の環状二量体の貯槽、および酸化防止剤と触媒失活剤とα-ヒドロキシカルボン酸の環状二量体とを混合する混合器を有する。混合器としては、当技術分野において通常用いられるものを使用できる。酸化防止剤と触媒失活剤とα-ヒドロキシカルボン酸の環状二量体との混合物は、重合反応生成物と同程度の温度に加熱して添加するのが好ましいので、該混合器は、好ましくは加熱装置を備える。
【0039】
撹拌装置および減圧脱気装置については、既に記載したとおりである。本発明においては、撹拌装置として、ギヤポンプと、その後段の横型二軸攪拌装置と、さらに後段の二軸押出機とを有し、該横型二軸攪拌装置と該二軸押出機にそれぞれ減圧脱気装置が設置されている装置が好ましい。
【0040】
本発明の装置は、α−ヒドロキシカルボン酸の環状二量体の開環重合によりポリマーを製造する装置、特に連続的または間欠的にポリマーを製造する装置に設置することができる。本発明の装置を、開環重合反応を行う重合装置の後段に設置することにより、未反応モノマーを効率的に除去することができ、生成するポリマーの品質の低下を防止することができる。従って、本発明はまた、上記α-ヒドロキシカルボン酸の環状二量体の開環重合反応によるポリマーの製造において未反応のα−ヒドロキシカルボン酸の環状二量体を除去する装置を含む、α−ヒドロキシカルボン酸の環状二量体の開環重合によりポリマーを製造する装置に関する。
【0041】
以下、ラクチドの開環重合によるポリ乳酸の製造プロセスを例に、図1及び図2を参照することにより本発明の一実施態様を説明する。本実施態様では、ラクチドとして光学活性なL−ラクチドを使用し、触媒としては2−エチルヘキサン酸スズを、重合開始剤としては高級アルコールである1−ドデカノールを使用する。
【0042】
図2に示すように、ラクチド貯槽11を設け、その温度はL−ラクチドの融点である98℃より高い温度に設定し、L−ラクチドを溶融させる。一般的にはL−ラクチドが溶融し、かつ重合反応の進行が抑制できる110〜130℃の温度が望ましい。溶融したL−ラクチドはラクチド貯槽11から搬送手段5を介して混合器9に導かれる。搬送手段5としては、L−ラクチドを溶融させた条件下で定量的な送液が可能であるものであれば何でもよい。混合器9としては、攪拌軸を挿入して外部からの駆動により攪拌混合するものであっても、あるいは内部に固定した邪魔板等を設けたものでもよい。
【0043】
触媒及び重合開始剤は、それぞれ温度をラクチド貯槽11と同じ温度に設定した触媒貯槽12及び重合開始剤貯槽13から混合器9に導かれる。混合器9において触媒及び重合開始剤は溶融ラクチドと混合される。触媒の濃度はラクチドに対して10〜100ppmが望ましい。重合開始剤の濃度は、目的とするポリ乳酸の分子量に応じて定める必要がある。ポリ乳酸の重量平均分子量を200,000程度とするなら、重合開始剤の濃度は700ppmとする。
【0044】
ラクチドと触媒と重合開始剤の混合物は、搬送手段5を介して横型重合装置14に投入される。搬送手段5としては、L−ラクチドと触媒と重合開始剤との混合物を溶融させた条件下で定量的な送液が可能であるものであれば何でもよい。横型重合装置14の入口温度は、例えば重合反応が始まる130℃程度、出口温度は170℃程度とするのが望ましい。横型重合装置14には攪拌手段2が取り付けられ、駆動装置1により横型重合装置14内を攪拌する。攪拌手段2及び駆動装置1の構造及び機能に関しては、上記温度範囲での稼動が可能であるものであれば制限はない。重合装置に関しては縦型でも槽型でもよい。横型重合装置14内の滞留時間は、重合反応の進行を確保できる範囲であればよい。
【0045】
横型重合装置14から排出されたプレポリマーは、搬送手段6を介して縦型重合装置15に投入される。搬送手段6に関しては、重合反応の進行により粘度が上昇するため、高粘度液の送液が可能なものが望ましい。縦型重合装置15の入口温度は、横型重合装置14の出口温度と同じ170℃程度、出口温度は重合反応の完了に必要な200℃〜250℃程度が望ましい。縦型重合装置15には攪拌手段3が取り付けられ、駆動装置1により縦型重合装置15内を攪拌する。駆動装置1の構造及び機能に関しては、上記温度範囲での稼動が可能であれば制限はない。撹拌手段2に関しては、重合反応の進行により粘度が上昇するため、高粘度液の攪拌が可能なものが望ましい。縦型重合装置15内の滞留時間は、重合反応を完了させるに充分であり、かつ酸化分解等が抑制できる時間であればよい。
【0046】
縦型重合装置15から排出されるポリ乳酸は、粘度が5000Pa・s程度で、重量平均分子量はおよそ200,000程度である。上記条件で重合させた場合、このポリ乳酸中には5〜20%程度の未反応のラクチドが混入している。転化率に換算すれば95〜80%である。この未反応ラクチドを除去するため、本発明の処理を実施する。
【0047】
図1に示すように縦型重合装置15の出口にはギヤポンプ17が設置される。縦型重合装置15から排出されるポリマーを主成分とする重合反応生成物と同じ温度に加熱した酸化防止剤51と触媒失活剤52とラクチド53との混合物は、ギヤポンプの手前で重合反応生成物に添加される。酸化防止剤51としては、ヒンダードフェノール系の酸化防止剤、例えばイルガノックスを使用する。添加量は、ポリマーに対して0.1〜1重量%の範囲が望ましい。触媒失活剤52としては、リン酸もしくは亜リン酸化合物またはアルキルアシッドホスフェート系の触媒失活剤、例えば商品名アデカスタブAX−71を使用する。添加量はポリマーに対して0.1〜1重量%の範囲が望ましい。ラクチド53の添加量は重合反応生成物に対して1〜10重量%の範囲が望ましい。
【0048】
ギヤポンプ17において、重合反応生成物はギヤの噛み合いによるせん断力により切断されて酸化防止剤51と触媒失活剤52とラクチド53との混合物と混合され、後段に設置された横型二軸撹拌装置18に送られる。横型二軸撹拌装置18には減圧脱気装置20が取り付けられ、温度を縦型重合装置15の出口と同じ温度に設定して減圧脱気される。横型二軸撹拌装置18においても、攪拌翼の噛み合いによるせん断力により、重合反応生成物と添加剤混合物との混合物は細かく切断され、切断された混合物の表面からラクチドが蒸発する。横型二軸撹拌装置18内の混合物の滞留時間は1時間程度が望ましい。
【0049】
続いて混合物は、さらに未反応モノマーの排出を促進するために、温度を縦型重合装置15出口よりもやや高い温度に設定した二軸押出機19に送られる。二軸押出機にも減圧脱気装置20が取り付けられ、攪拌翼の噛み合いによるせん断力により、混合物は細かく切断され、切断された混合物の表面からラクチドが蒸発する。二軸押出機19内の混合物の滞留時間は、高温での処理によりポリ乳酸が劣化を受けるのを抑制するために、5分程度の短時間とするのが望ましい。
【0050】
以上の操作により、二軸押出機19から排出されたポリマー55に混入する未反応モノマーの量は500ppm以下とすることができる。酸化防止の効果は、ポリマーの着色により判断することができる。すなわち、酸化が抑制できていれば、ポリマーへの着色はないが、酸化分解が進行していれば、ポリマーには黄色ないし褐色の着色が認められる。残存触媒による反応の暴走は、分子量に影響を与えるが、指標である平均分子量の数値だけからは、触媒失活剤の効果は明確には判断しづらい。
【0051】
ポリマー中に残存する未反応モノマーの量を低減し、ポリマーの酸化分解を抑制することにより、ポリマーの品質の低下を低減することができる。二軸押出機19から排出されたポリマー55は、例えば一定速度で紐状に引き伸ばされて冷却され、一定の長さでペレット状に切断され、次の工程においてさまざまの形状の製品に加工される。
【実施例】
【0052】
(実施例1)
図1及び図2に示すスキームに従い、L−ラクチドの開環重合によりポリ乳酸を合成した。ラクチド貯槽11の温度は110℃に設定した。ラクチド貯槽11から溶融したラクチドは搬送手段5を介して混合器9に導かれる(図2)。
【0053】
触媒には2−エチルヘキサン酸スズを、重合開始剤には1−ドデカノールを使用した。触媒及び重合開始剤は、それぞれ温度を110℃に設定した触媒貯槽12及び重合開始剤貯槽13から混合器9に導かれる。混合器9において触媒及び重合開始剤は溶融ラクチドと混合される。触媒の濃度はラクチドに対して20ppm、重合開始剤の濃度は700ppmとした。
【0054】
ラクチドと触媒と重合開始剤の混合物は、搬送手段5を介して横型重合装置14に投入される。横型重合装置14の入口温度は130℃、出口温度は170℃とした。横型重合装置14は撹拌手段2を備え、駆動装置1により2rpmの速度で重合装置内のラクチドと触媒と重合開始剤の混合物を攪拌する。横型重合装置14内の滞留時間は8時間とした。
【0055】
横型重合装置14を出た反応生成物(プレポリマー)は、搬送手段6を介して縦型重合装置15に投入される。縦型重合装置15の入口温度は170℃、出口温度は190℃とした。縦型重合装置15は撹拌手段3を備え、駆動装置1により0.5rpmの速度で重合装置内のプレポリマーを攪拌する。縦型重合装置15内の滞留時間は5時間とした。
【0056】
縦型重合装置15から排出されたポリ乳酸は、粘度が5000Pa・s程度で、重量平均分子量は230,000であった。このポリ乳酸に混入しているラクチドの量を、熱重量分析及びゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)により分析した。熱重量分析では窒素気流中で、10℃/minの昇温速度で300℃までの重量減少を、ラクチドの揮発によるものとしてラクチドの量を求めた。GPCでは、ポリ乳酸のピークと最後段のラクチドのピークの面積比より、ラクチドの量を算出した。それによると、いずれの方法においても11%の未反応のラクチドが含まれていた。これをポリマー転化率に換算すれば89%である。ポリマーの酸化分解による着色の状況を、JIS Z 8722に準拠して調べたところ、黄色の着色状況を示すb*の値は0.95であった。
【0057】
図1に示すように縦型重合装置15の出口にはギヤポンプ17が設置され、190℃に加熱した酸化防止剤51と触媒失活剤52とラクチド53の混合物は、ギヤポンプの手前で、ポリマーを主成分とする重合反応生成物に添加される。酸化防止剤51としては、ヒンダードフェノール系の酸化防止剤であるイルガノックス−1010を使用した。添加量は、重合反応生成物に対して0.5%である。触媒失活剤52としては、アデカスタブAX−71を使用した。添加量は重合反応生成物に対して0.05%である。ラクチド53の添加量は重合反応生成物に対して5%である。
【0058】
ギヤポンプ17において、重合反応生成物はギヤの噛み合いによるせん断力により切断されて酸化防止剤51と触媒失活剤52とラクチド53の混合物と混合され、後流に設置された横型二軸攪拌装置18に送られる。横型二軸攪拌装置18には、減圧脱気装置20が取り付けられ、温度190℃において圧力1Torrで減圧脱気される。横型二軸攪拌装置18においても、攪拌翼の噛み合いによるせん断力により、酸化防止剤と触媒失活剤とラクチドが添加された重合反応生成物は細かく切断され、切断により生じた表面からラクチドが蒸発する。横型二軸攪拌装置18内の重合反応生成物の滞留時間は1時間とした。
【0059】
続いて重合反応生成物は温度を230℃に設定された二軸押出機19に送られる。二軸押出機にも減圧脱気装置20が取り付けられ、圧力1Torrで減圧脱気される。二軸押出機の攪拌翼の噛み合いによるせん断力により、酸化防止剤と触媒失活剤とラクチドが添加された重合反応生成物は細かく切断され、切断により生じた表面からラクチドが蒸発する。二軸押出機19内の重合反応生成物の滞留時間は5分とした。
【0060】
二軸押出機19から排出されたポリマー55をクロロフォルムに溶解させて、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によりポリマー中に混入しているラクチドの量を定量したところ、370ppmであった。ポリマーの酸化分解による着色の状況を、JIS Z 8722に準拠して調べたところ、黄色の着色状況を示すb*の値は1.24であった。
【0061】
本実施例によれば、重合装置から排出された重合反応生成物中に11%含まれていた未反応モノマーであるラクチドの量は、酸化防止剤と触媒失活剤とラクチドを添加して、横型二軸攪拌装置及び二軸押出機で減圧脱気しながら混合することにより、370ppmまで低減させることができ、かつ酸化分解によるポリ乳酸の着色を抑制することができた。
【0062】
(比較例)
図2及び図4に示すスキームに従い、L−ラクチドの開環重合によりポリ乳酸を合成した。ラクチド貯槽11の温度は110℃に設定した。ラクチド貯槽11から溶融したラクチドは搬送手段5を介して混合器9に導かれる(図2)。
【0063】
上記実施例と同様の方法によって、ポリ乳酸を製造した。縦型重合装置15から排出されたポリ乳酸は、粘度が5000Pa・s程度で、重量平均分子量は220,000であった。このポリ乳酸に混入しているラクチドの量を、熱重量分析及びゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)により分析した。熱重量分析では窒素気流中で、10℃/minの昇温速度で300℃までの重量減少を、ラクチドの揮発によるものとしてラクチドの量を求めた。GPCでは、ポリ乳酸のピークと最後段のラクチドのピークの面積比より、ラクチドの量を算出した。それによると、いずれの方法においても10%の未反応のラクチドが含まれていた。転化率に換算すれば90%である。ポリマーの酸化分解による着色の状況を、JIS Z 8722に準拠して調べたところ、黄色の着色状況を示すb*の値は0.97であった。
【0064】
図4に示すように縦型重合装置15の出口にはギヤポンプ17が設置され、190℃に加熱した酸化防止剤51と触媒失活剤52の混合物は、ギヤポンプの手前で重合反応生成物に添加される。酸化防止剤51としては、ヒンダードフェノール系の酸化防止剤であるイルガノックス−1010を使用した。添加量は、重合反応生成物に対して0.5%である。触媒失活剤52としては、アデカスタブAX−71を使用した。添加量は重合反応生成物に対して0.5%である。
【0065】
ギヤポンプ17において、重合反応生成物はギヤの噛み合いによるせん断力により切断されて酸化防止剤51と触媒失活剤52とラクチド53の混合物と混合され、後流に設置された横型二軸攪拌装置18に送られる。横型二軸攪拌装置18には、減圧脱気装置20が取り付けられ、温度190℃において圧力1Torrで減圧脱気される。横型二軸攪拌装置18内の重合反応生成物の滞留時間は1時間とした。
【0066】
続いて重合反応生成物は温度を230℃に設定された二軸押出機19に送られる。二軸押出機にも減圧脱気装置20が取り付けられ、圧力1Torrで減圧脱気される。二軸押出機19内の重合反応生成物の滞留時間は5分とした。
【0067】
二軸押出機19から排出されたポリマー55をクロロフォルムに溶解させて、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によりポリマー中に混入しているラクチドの量を定量したところ、420ppmであった。ポリマーの酸化分解による着色の状況を、JIS Z 8722に準拠して調べたところ、黄色の着色状況を示すb*の値は3.18であった。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明の一実施形態を示す。
【図2】α-ヒドロキシカルボン酸の環状二量体の重合方式の一例を示す。
【図3】ギヤポンプの動作を示す。
【図4】比較例で使用した装置の概要を示す。
【符号の説明】
【0069】
1 − 駆動装置、2 − 撹拌手段、3 − 撹拌手段、5 − 搬送手段、
6 − 搬送手段、9 − 混合器、11 − ラクチド貯槽、12 − 触媒貯槽、
13 − 重合開始剤貯槽、14 − 横型重合装置、15 − 縦型重合装置、17 − ギヤポンプ、
18 − 横型二軸撹拌装置、19 − 二軸押出機、20 − 減圧脱気装置、
31 − モノマー供給系統、32 − 触媒供給系統、33 − 重合開始剤供給系統、
51 − 酸化防止剤、52 − 触媒失活剤、53 − モノマー、55 − ポリマー、
56 − ギヤ、57 − 供給流れ、58 − 排出流れ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
α-ヒドロキシカルボン酸の環状二量体の開環重合反応によるポリマーの製造において未反応のα−ヒドロキシカルボン酸の環状二量体を除去する方法であって、該開環重合反応の反応生成物に、酸化防止剤と触媒失活剤とα-ヒドロキシカルボン酸の環状二量体との混合物を添加し、混合とα-ヒドロキシカルボン酸の環状二量体の減圧脱気とを行うことを含む、前記方法。
【請求項2】
開環重合反応の反応生成物に、酸化防止剤と触媒失活剤とα-ヒドロキシカルボン酸の環状二量体との混合物を添加後、ギヤポンプを用いて混合する工程を含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
開環重合反応の反応生成物に、酸化防止剤と触媒失活剤とα-ヒドロキシカルボン酸の環状二量体との混合物を添加後、横型二軸攪拌装置において混合と減圧脱気とを行う工程を含む、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
開環重合反応の反応生成物に、酸化防止剤と触媒失活剤とα-ヒドロキシカルボン酸の環状二量体との混合物を添加後、二軸押出機において混合と減圧脱気とを行う工程を含む、請求項1〜3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
開環重合反応の反応生成物に、酸化防止剤と触媒失活剤とα-ヒドロキシカルボン酸の環状二量体との混合物を添加後、ギヤポンプを用いて混合し、続いて横型二軸攪拌装置において混合および減圧脱気を行い、さらに二軸押出機において混合および減圧脱気を行うことを含む、請求項1記載の方法。
【請求項6】
α-ヒドロキシカルボン酸の環状二量体がラクチドである、請求項1〜5のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
α-ヒドロキシカルボン酸の環状二量体の開環重合反応によるポリマーの製造において未反応のα−ヒドロキシカルボン酸の環状二量体を除去する装置であって、該開環重合反応の反応生成物に、酸化防止剤と触媒失活剤とα-ヒドロキシカルボン酸の環状二量体との混合物を添加する装置と、該混合物と該反応生成物とを混合する少なくとも1つの撹拌装置と、未反応のα-ヒドロキシカルボン酸の環状二量体を除去するための少なくとも1つの減圧脱気装置とを有する、前記装置。
【請求項8】
撹拌装置としてギヤポンプを有する、請求項7記載の装置。
【請求項9】
撹拌装置として横型二軸攪拌装置を有し、該横型二軸攪拌装置に減圧脱気装置が設置されている、請求項7または8記載の装置。
【請求項10】
撹拌装置として二軸押出機を有し、該二軸押出機に減圧脱気装置が設置されている、請求項7〜9のいずれか1項記載の装置。
【請求項11】
撹拌装置として、ギヤポンプと、その後段の横型二軸攪拌装置と、さらに後段の二軸押出機とを有し、該横型二軸攪拌装置と該二軸押出機にそれぞれ減圧脱気装置が設置されている、請求項7記載の装置。
【請求項12】
α-ヒドロキシカルボン酸の環状二量体がラクチドである、請求項7〜11のいずれか1項記載の装置。
【請求項13】
請求項7〜12のいずれか1項記載の装置を含む、α-ヒドロキシカルボン酸の環状二量体の開環重合反応によりポリマーを製造する装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−126601(P2007−126601A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−322169(P2005−322169)
【出願日】平成17年11月7日(2005.11.7)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】