説明

未同定の一塩基置換型ポリヌクレオチドの同定方法及びプライマー対

【課題】
簡便、迅速に未同定一塩基置換型ポリヌクレオチドを同定する方法の提供。
【解決手段】
フォワードプライマー(FP)の3’末端の塩基に対応する鋳型ポリヌクレオチド(TP)の塩基及び/又はリバースプライマー(RP)の3’末端の塩基に対応する(TP)の塩基が一塩基置換されたポリヌクレオチドであるか否かを同定するための未同定一塩基置換型ポリヌクレオチドの同定方法であって
3’末端がTPと相補し、3’末端の1又は2つ隣の塩基がTPの塩基と相補しないFPと
3’末端がTPと相補し、3’末端の1又は2つ隣の塩基がTPの塩基と相補しないRPとからなるプライマー対を用いてPCRを行う工程
ポリヌクレオチドの増幅の有無を判定する工程
増幅ポリヌクレオチドに対応するプライマー対からプライマー対に対応するTPを特定することにより未同定一塩基置換型ポリヌクレオチドの塩基配列を同定する工程
を有する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、未同定の一塩基置換型ポリヌクレオチドを同定するための同定方法及びプライマー対に関する。
【背景技術】
【0002】
1塩基の違いを区別するために、3’末端の塩基から5塩基以内に、鋳型ポリヌクレオチドとミスマッチする塩基を入れたプライマーを用いて、核酸増幅反応をマイクロ流体デバイス上で行い、増幅の有無をもってポリヌクレオチドの一塩基多型あるいは変異の有無の判定方法が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−168350号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の判定方法を用いた場合、鋳型ポリヌクレオチドによってそれぞれ厳密なPCRの条件設定が必要であり、汎用的な技術に至っていない。
本発明の目的は、簡便かつ迅速に、未同定の一塩基置換型ポリヌクレオチドを同定する方法及びこの方法に最適なPCR用プライマー対を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の同定方法の特徴は、フォワードプライマー(FP)の3’末端の塩基(SB1)に対応する鋳型ポリヌクレオチド(TP)の塩基(TP1)及び/又はリバースプライマー(RP)の3’末端の塩基(SB2)に対応する鋳型ポリヌクレオチド(TP)の塩基(TP3)が一塩基置換されたポリヌクレオチドであるか否かを同定するための未同定一塩基置換型ポリヌクレオチドの同定方法であって、
3’末端の塩基(SB1)が、鋳型ポリヌクレオチド(TP)の塩基(TP1)と相補する塩基であり、この塩基(SB1)の1つ又は2つ隣の塩基が鋳型ポリヌクレオチド(TP)の塩基(TP2)と相補しない塩基であるフォワードプライマー(FP)と、
3’末端の塩基(SB2)が、鋳型ポリヌクレオチド(TP)の塩基(TP3)と相補する塩基であり、この塩基(SB2)の1つ又は2つ隣の塩基が鋳型ポリヌクレオチド(TP)の塩基(TP4)と相補しない塩基であるリバースプライマー(RP)とからなるプライマー対を用いてPCRを行うPCR工程(1);
PCRによるポリヌクレオチドの増幅の有無を判定する判定工程(2);及び
増幅したポリヌクレオチドに対応するプライマー対から、このプライマー対に対応する鋳型ポリヌクレオチドを特定することにより、未同定の一塩基置換型ポリヌクレオチドの塩基配列を同定する同定工程(3)を有する点を要旨とする。
【0006】
本発明のPCR用プライマー対の特徴は、フォワードプライマー(FP)の3’末端の塩基(SB1)に対応する鋳型ポリヌクレオチド(TP)の塩基(TP1)及び/又はリバースプライマー(RP)の3’末端の塩基(SB2)に対応する鋳型ポリヌクレオチド(TP)の塩基(TP3)が一塩基置換されたポリヌクレオチドであるか否かを同定するためのフォワードプライマー(FP)及びリバースプライマー(RP)からなり、
3’末端の塩基(SB1)が、鋳型ポリヌクレオチド(TP)の塩基(TP1)と相補する塩基であり、この塩基(SB1)の1つ又は2つ隣の塩基が鋳型ポリヌクレオチド(TP)の塩基(TP2)と相補しない塩基であるフォワードプライマー(FP)と、
3’末端の塩基(SB2)が、鋳型ポリヌクレオチド(TP)の塩基(TP3)と相補する塩基であり、この塩基(SB2)の1つ又は2つ隣の塩基が鋳型ポリヌクレオチド(TP)の塩基(TP4)と相補しない塩基であるリバースプライマー(RP)とからなる点を要旨とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の同定方法によると、簡便かつ迅速に、未同定の一塩基置換型ポリヌクレオチドを同定するができる。また、本発明のPCR用プライマー対を用いると、簡便かつ迅速に、未同定の一塩基置換型ポリヌクレオチドを同定するができる。また、本発明の同定方法を2対の染色体のそれぞれに適用すると、一塩基置換のタイプがホモ型か、ヘテロ型かを判定できる。
【0008】
したがって、本発明の同定方法及び本発明のPCR用プライマーを用いると、鋳型ポリヌクレオチドによってそれぞれ厳密なPCRの条件設定が不必要であり、汎用的な技術として、広く適用できる。
また、鋳型ポリヌクレオチド(TP)が病原微生物DNAである場合、迅速な医療処置が可能になり、人命救助に極めて大きく貢献できる。
また、鋳型ポリヌクレオチド(TP)がヒトゲノムDNAである場合、DNAと、疾患、薬物代謝又は薬物反応性等との相関が解明できるため、遺伝子診断等、医療分野に大きく貢献できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の同定方法は、フォワードプライマー(FP)の3’末端の塩基(SB1)に対応する鋳型ポリヌクレオチド(TP)の塩基(TP1)及び/又はリバースプライマー(RP)の3’末端の塩基(SB2)に対応する鋳型ポリヌクレオチド(TP)の塩基(TP3)が一塩基置換されたポリヌクレオチドであるか否かを同定するための未同定一塩基置換型ポリヌクレオチドの同定方法であり、ポリヌクレオチドの一塩基多型又は変異を同定する方法である。
【0010】
本発明において、PCRとは、polymerase chain reaction(核酸増幅反応)を意味する。また、塩基とは、アデニン、チミン、シトシン、グアニン又はウラシルを意味する。
【0011】
鋳型ポリヌクレオチドとは、複数のヌクレオチド(核酸)が重合したものであり、ヌクレオチドの数は特に限定されないが、少なくとも20個が好ましく、さらに好ましくは少なくとも30個、特に好ましくは少なくとも40個、最も好ましくは少なくとも50個である。
【0012】
鋳型ポリヌクレオチドは、全血、血清、糞便由来物又は尿等の生体に由来するものでもよいし、動物、植物又はウイルス等の細胞組織又は細胞培養物に由来するものでもよく、飲料物又は缶詰等の加工食品に由来するものであってもよい。
鋳型ポリヌクレオチドのうち、DNAが好ましく、さらに好ましくはヒトゲノムDNA及び病原微生物DNA(たとえば、ウイルス、結核菌、コレラ菌、ボツヌルス菌、腸チフス菌及びBSE菌)である。
【0013】
鋳型ポリヌクレオチドは、塩基配列が既知のものであり、同定対象である一塩基置換型ポリヌクレオチドの塩基配列の全部又は一部に対応する。そして、鋳型ポリヌクレオチドに対応する複数種類のフォワードプライマー(FP)及びリバースプライマー(RP)を公知の方法により、予め合成しておき、これらをPCR工程(1)に使用する。
【0014】
フォワードプライマー(FP)は、3’末端の塩基(SB1)が鋳型ポリヌクレオチド(TP)の塩基(TP1)と相補する塩基であり、この塩基(SB1)の1つ又は2つ隣の塩基が鋳型ポリヌクレオチド(TP)の塩基(TP2)と相補しない塩基である。
【0015】
リバースプライマー(RP)は、3’末端の塩基(SB2)が、鋳型ポリヌクレオチド(TP)の塩基(TP3)と相補する塩基であり、この塩基(SB2)の1つ又は2つ隣の塩基が鋳型ポリヌクレオチド(TP)の塩基(TP4)と相補しない塩基である。
【0016】
フォワードプライマー(FP)及びリバースプライマー(RP)の塩基数については特に限定がないが、PCRの反応効率等の観点から、10〜50塩基が好ましく、さらに好ましくは15〜40塩基、特に好ましくは20〜35塩基である。
【0017】
フォワードプライマー(FP)及びリバースプライマー(RP)は、同じ塩基配列であっても、異なる塩基配列であってもよい。フォワードプライマー(FP)及びリバースプライマー(RP)がそれぞれ相違することが好ましい。
【0018】
フォワードプライマー(FP)及びリバースプライマー(RP)は、鋳型ポリヌクレオチドにアニーリングし、未同定の一塩基置換型ポリヌクレオチドがフォワードプライマー(FP)の3’末端の塩基(SB1)と相補し、かつ/又は、リバースプライマー(RP)の3’末端の塩基(SB2)と相補する場合、PCR伸長反応が進行する。
【0019】
一方、フォワードプライマー(FP)及びリバースプライマー(RP)は、鋳型ポリヌクレオチドにアニーリングし、未同定の一塩基置換型ポリヌクレオチドがフォワードプライマー(FP)の3’末端の塩基(SB1)と相補せず、かつ、リバースプライマー(RP)の3’末端の塩基(SB2)と相補しない場合、PCR伸長反応が進行しない。
【0020】
すなわち、未同定の一塩基置換型ポリヌクレオチドが、フォワードプライマー(FP)の3’末端の塩基(SB1)及び/又はリバースプライマー(RP)の3’末端の塩基(SB2)と相補する場合、PCR伸長反応が進行し、未同定の一塩基置換型ポリヌクレオチドが、3’末端の塩基(SB1)及び3’末端の塩基(SB2)と相補しない場合、PCR伸長反応が進行しない。
【0021】
本発明の好ましい態様において、フォワードプライマー(FP)及びリバースプライマー(RP)は、鋳型ポリヌクレオチドにアニーリングし、未同定の一塩基置換型ポリヌクレオチドがフォワードプライマー(FP)の3’末端の塩基(SB1)と相補し、かつ、リバースプライマー(RP)の3’末端の塩基(SB2)と相補する場合、PCR伸長反応が進行する。
【0022】
一方、フォワードプライマー(FP)及びリバースプライマー(RP)は、鋳型ポリヌクレオチドにアニーリングし、未同定の一塩基置換型ポリヌクレオチドがフォワードプライマー(FP)の3’末端の塩基(SB1)と相補せず、及び/又は、リバースプライマー(RP)の3’末端の塩基(SB2)と相補しない場合、PCR伸長反応が進行しない。
【0023】
すなわち、未同定の一塩基置換型ポリヌクレオチドが、フォワードプライマー(FP)の3’末端の塩基(SB1)及びリバースプライマー(RP)の3’末端の塩基(SB2)と相補する場合、PCR伸長反応が進行し、未同定の一塩基置換型ポリヌクレオチドが、3’末端の塩基(SB1)及び/又は3’末端の塩基(SB2)と相補しない場合、PCR伸長反応が進行しない。
【0024】
従来のポリヌクレオチドの一塩基多型あるいは変異の有無の判定方法では、フォワードプライマーのみに工夫がなされており、リバースプライマーは共通プライマーを用いている。しかし、塩基配列が完全に相補的でないにもかかわらず、しばしばPCR伸長反応が進行してまうことがある。
これに対して、本発明の同定方法を適用すると、未同定の一塩基置換型ポリヌクレオチドと、フォワードプライマー(FP)及び/又はリバースプライマー(RP)の3'末端の塩基とが相補した場合に限り、PCR伸長反応が進行する。この場合、フォワードプライマー(FP)の1つ及び/又はリバースプライマー(RP)の1つの塩基が相補していないにもかかわらず、PCR伸長反応が進行する。したがって、本発明の同定方法を適用すると、未同定の一塩基置換型ポリヌクレオチドの同定が著しく正確に行うことができる。
【0025】
本発明の好ましい態様において、本発明の同定方法を適用すると、未同定の一塩基置換型ポリヌクレオチドと、フォワードプライマー(FP)及びリバースプライマー(RP)の3'末端の両方の塩基とが相補した場合に限り、PCR伸長反応が進行する。この場合、フォワードプライマー(FP)の1つ及びリバースプライマー(RP)の1つの塩基が相補していないにもかかわらず、PCR伸長反応が進行する。したがって、本発明の同定方法を適用すると、未同定の一塩基置換型ポリヌクレオチドの同定が著しく正確に行うことができる。
【0026】
フォワードプライマー(FP)及びリバースプライマー(RP)は、通常、等量で用いられるが、これらのうち一方の使用量を多く用いる非対称PCRも適用できる。
【0027】
PCR工程(1)で使用される試薬及び装置は特に制限されず、通常の試薬及び装置等が適用できる。
【0028】
ポリメラーゼは、逆転写酵素や核酸増幅能をもつ酵素であれば任意のもの等が使用できるが、熱安定性のポリメラーゼが好ましい。
【0029】
PCR工程(1)では、迅速性及び簡便性(自動化)等の観点から、マイクロ流体デバイス(特許文献1等)又は複数個のチューブを持つプレート(特開2003−102477号公報等)を用いて行うことが好ましい。
【0030】
PCR工程(1)の前に、鋳型ポリヌクレオチドに共通する共通プライマー(CP)を用いて、未同定の一塩基置換型ポリヌクレオチドをプレ増幅するPCR工程(4)を有することが好ましい。PCR工程(4)を行うことにより、未同定の一置換型ポリヌクレオチドが微量であっても、PCR工程(4)により、同定に十分な測定試料を確保することができる。また、同定する必要のないポリヌクレオチドが含まれている場合、同定対象のポリヌクレオチドだけ増幅反応により増やすことができ、同定する必要のないポリヌクレオチドを排除することができる。
【0031】
共通プライマー(CP)としては、鋳型ポリヌクレオチドに共通する共通プライマーであれば制限なく使用できる。たとえば、鋳型ポリヌクレオチドが病原微生物DNAの場合、16SリボソームRNAに対応する共通プライマーが好ましい。
【0032】
PCRによる増幅の有無を判定する判定工程(2)は、公知の方法(特許文献1及び特開2003−102477号公報)等によって増幅の有無が判定できる。たとえば、ゲル電気泳動方法及び蛍光標識方法等によって、PCRによる増幅の有無を判定することができる。これらのうち、迅速性及び簡便性(自動化)等の観点から、蛍光標識による方法が好ましい。
【0033】
同定工程(3)では、判定工程(2)でPCRによる増幅が確認されたポリヌクレオチドに対応するプライマー対から、このプライマー対に対応する鋳型ポリヌクレオチドを特定した後、この鋳型ポリヌクレオチドの塩基配列から、未同定の一塩基置換型ポリヌクレオチドの塩基配列を同定する(未同定の一塩基置換型ポリヌクレオチドの塩基配列が、鋳型ポリヌクレオチドの塩基配列を含む。)。
【0034】
PCR工程(1)、判定工程(2)及び同定工程(3)のいずれか、または全てをメカトロニクス技術等により自動化することができ、正確性、迅速性及び簡便性(自動化)等の観点から、PCR工程(1)、判定工程(2)及び同定工程(3)の全てを自動化することが好ましい。
【0035】
本発明のPCR用プライマー対は、フォワードプライマー(FP)及びリバースプライマー(RP)からなり、上記の同定方法に好適であるが、上記以外の同定方法にも適用できる。また、本発明のPCR用プライマー対は、フォワードプライマー(FP)及びリバースプライマー(RP)が混合されていてもよく、フォワードプライマー(FP)及びリバースプライマー(RP)が別々になっていてもよい。また、溶液状であってもよく、乾燥状態でもよい。すなわち、PCR反応において、共に用いられるものであれば、形態等に制限はない。
【0036】
本発明のプライマー対は、フォワードプライマー(FP)及びリバースプライマー(RP)がそれぞれ相違することがこのましい。また、本発明のプライマー対は、対応する鋳型ポリヌクレオチド(TP)が病原微生物DNA又はヒトゲノムDNAであることが好ましい。
【実施例】
【0037】
<実施例1>
細菌性食中毒菌のみを国立バイオテクノロジー情報センター(National Center for Biotechnology Information;NCBI)から、表1に示した菌の16S rRNA塩基配列27種を取得し、この菌配列27種について、ClustalW(国立遺伝学研究所のホームページ)を用いたアライメントにより、相同な配列と非相同な配列を特定した。
【0038】
【表1】



【0039】
相同な配列を用いて、病原菌の16S rRNA領域が増幅される次の共通プライマー(cp1)(配列番号1及び2)を設計した。
【0040】
CF: 5'-gaacgctggc ggcaggccta a-3'
CR: 5'-ggtgtgacgg gcggtgagta caa-3'
【0041】
病原菌の16S rRNA領域中の非相同な配列を用いて、Escherichia coli(以下、E. coliと略する。) JM109ゲノムDNAに対して特異的に増幅できるプライマーを、非相同部をプライマーの3’末端の塩基にして、この3’末端の塩基(SB1)の1つ又は2つ隣の塩基をミスマッチさせて、次のフォワードプライマー及びリバースプライマーを設計した(大文字で記載した箇所がミスマッチさせた箇所である。)。なお、非相同部には非相同配列が一塩基のみであった。
【0042】
<フォワードプライマー(配列番号3〜8)>
A1:5'-gtcga acggt aacag gaaCa-3'
A2:5'-gtcga acggt aacag gaaTa-3'
A3:5'-gtcga acggt aacag gaGga-3'
A4:5'-gtcga acggt aacag gaCga-3'
B1:5'-tgctc ttcgc tgacg agtAc-3'
B2:5'-tgctc ttcgc tgacg agtCc-3'
【0043】
<リバースプライマー(配列番号9〜13)>
C1:5'-gcaaa ggtat taact ttCct-3'
D1:5'-tctgc gggta acgtc aatAa-3'
D2:5'-tctgc gggta acgtc aatTa-3'
D3:5'-tctgc gggta acgtc aaCga-3'
E1:5'-gtccc cctct ttggt cttgc-3'
【0044】
E. coli及びSalmonella typhimurium(以下、Salmonellaと略記する。)をそれぞれ核酸抽出して、濃度を1ng/μlに調整し、鋳型ポリヌクレオチドとして、共通プライマー(cp1)(10pmol/μl)を用いて、PCRを行った。次いで、ポリヌクレオチドの増幅の有無を、電気泳動法(臭化エチル、UV照射)により判定し、増幅産物を得た。
【0045】
増幅産物(1ng/μl)を鋳型ポリヌクレオチドとして、表2に示したプライマー対(フォワードプライマー及びリバースプライマーの溶液、それぞれ10pmol/μl)を用いて、PCRを行った。次いで、ポリヌクレオチドの増幅の有無を、電気泳動法(臭化エチル、UV照射)により判定し、E. coliから抽出した測定試料について、増幅したが、Salmonellaから抽出した測定試料について、増幅が見られなかったことを確認した。
測定試料、フォワードプライマー及びリバースプライマーは、それぞれ、TE Buffer(10mMTris−HClBuffer/1mMEDTA(PH7.5))の溶液として用いた。
【0046】
なお、PCRの条件は以下の通りである。
10×NHReaction Buffer5μl(Bioline社)
2.5mM dNTP Mix4μl(Bioline社)
50mMMgCl5μl
測定試料1μl
フォワードプライマー1μl
リバースプライマー1μl
耐熱性DNAポリメラーゼBio Taq(5U/μl)0.5μl(Bioline社)
滅菌蒸留水35.5μl
反応時間30秒
反応温度95℃
変性時間10秒
変性温度95℃
アニーリング時間20秒
アニーリング温度55℃
伸長時間1分(30サイクル後に2分間伸長反応をした)
伸長温度72℃
サイクル数30回
【0047】
【表2】



【0048】
<実施例2>
病原菌の16S rRNA領域中の非相同な配列を用いて、SalmonellaゲノムDNAに対して特異的に増幅できるプライマーを、非相同部をプライマーの3’末端の塩基にして、この3’末端の塩基(SB1)の1つ又は2つ隣の塩基をミスマッチさせて、実施例1と同様にして、フォワードプライマー及びリバースプライマーを設計した。なお、非相同部には非相同配列が一塩基のみであった。
【0049】
<フォワードプライマー(配列番号14)>
F1:5'-gctga cgagt gccgg acAgt-3'
【0050】
<リバースプライマー(配列番号15)>
G1:5'-tgagc ccggg gattt caAac-3'
【0051】
実施例1と同様にして、E. coli及びSalmonellaをそれぞれ核酸抽出して、濃度を1ng/μlに調整し、鋳型ポリヌクレオチドとして、共通プライマー(cp1)(10pmol/μl)を用いて、PCRを行った。次いで、ポリヌクレオチドの増幅の有無を、電気泳動法(臭化エチル、UV照射)により判定し、増幅産物を得た。
【0052】
実施例1と同様にして、増幅産物(1ng/μl)を鋳型ポリヌクレオチドとして、プライマー対(19)(フォワードプライマー(F1)及びリバースプライマー(G1)の溶液(それぞれ10pmol/μl)を用いて、PCRを行った。次いで、ポリヌクレオチドの増幅の有無を、電気泳動法(臭化エチル、UV照射)により判定し、Salmonellaから抽出した測定試料について、増幅したが、E. coliから抽出した測定試料について、増幅が見られなかったことを確認した。
【0053】
<実施例3>
E. coli、Salmonella、Vibrio cholerae及びClostridium botulinumをそれぞれ核酸抽出して、濃度を1ng/μlに調整し、鋳型ポリヌクレオチドとして、共通プライマー(cp1)(10pmol/μl)を用いて、PCRを行った。次いで、ポリヌクレオチドの増幅の有無を、電気泳動法(臭化エチル、UV照射)により判定し、増幅産物を得た。それぞれの増幅産物を混合して、1ng/μlに調整し、測定試料とした。測定試料について、共通プライマー(CF/CR)を用いて、実施例1と同様にして混合増幅産物を得た。
【0054】
引き続き、混合増幅産物について、表2に示したプライマー対(1)及び実施例2で得たプライマー対(19)(F1/G1)を用いて、実施例1と同様にしてPCRを行った。
次いで、ポリヌクレオチドの増幅の有無を判定したところ、プライマー対(1)を用いた場合増幅し、プライマー対(19)を用いた場合増幅は見られなかった。
したがって、プライマー対(1)から、測定試料はE. coliに由来するポリヌクレオチドであると同定した。
【0055】
<実施例4>
実施例3で調製した混合増幅産物について、表2に示したプライマー対(2)及び実施例2で得たプライマー対(19)(F1/G1)を用いて、実施例1と同様にしてPCRを行った。
次いで、ポリヌクレオチドの増幅の有無を判定したところ、プライマー対(19)を用いた場合増幅し、プライマー対(1)を用いた場合増幅は見られなかった。
したがって、プライマー対(19)から、測定試料はSalmonellaに由来するポリヌクレオチドであると同定した。
【0056】
<実施例5>
骨粗鬆症関連多型遺伝子(ER遺伝子多型3種類、VDR 遺伝子多型3種類)計6種類をニプロ株式会社総合研究所から取得した。なお、これらDNA断片はPCR反応により増幅された2本鎖DNA(1stPCR産物)であり、その遺伝子配列上に遺伝子多型1箇所を含んでいる。また、ER遺伝子多型についてはG/Gタイプ、G/Aタイプ、A/Aタイプの3種類であり、VDR遺伝子多型についてはT/Tタイプ、T/Cタイプ、C/Cタイプの3種類である。
【0057】
骨粗鬆症関連多型遺伝子配列6種について、3’末端から二番目又は三番目の塩基配列がミスマッチするような二種類のプライマー(フォワードプライマー及びリバースプライマー)を設計した。なお、リバースプライマーの3’末端プライマーの配列が遺伝子多型のゲノム上の位置に相当するように設計した。また、フォワードプライマーについては3’末端の配列が1stPCR産物の配列と相同な配列となるように設計した。この二種類のプライマーを用いてPCR反応を行ない、増幅できるかどうかによって各型の骨粗鬆症の遺伝子配列を決定した。
【0058】
フォワードプライマー及びリバースプライマーの塩基配列を以下に示す。
大文字で記載した箇所が恣意的にミスマッチさせた箇所である。フォワードプライマーの3’末端は1stPCR産物と相同な配列であり、リバースプライマーの3’末端の配列は遺伝子多型のゲノム上の位置に相同又は非相同な配列である。
【0059】
<フォワードプライマー(配列番号16〜18)>
ER遺伝子:
EF4:5’- ctgtg ttgtc catca gtAca-3’
VDR遺伝子:
VF5:5’- ctata taggc agaac caCct-3’
VF6:5’- ctata taggc agaac caGct-3’
【0060】
<リバースプライマー(配列番号19〜22>
ER遺伝子
ERa4:5’-ccaat gctca tccca acAct-3’
ERg3:5’-ccaat gctca tccca actTc-3’
VDR遺伝子:
VRt2:5’-gggcc acaga caggc ctgAa-3’
VRc3:5’-gggcc acaga caggc ctgTg-3’
【0061】
PCRの条件は以下の通りである。
10×NHReaction Buffer0.4μl(Biolines社)
2.5mM dNTPS Mix1.6μl(Biolines社)
50 mM MgCl0.8μl
測定試料(1st PCR産物)0.4μl
フォワードプライマー0.4μl(4pmol)
リバースプライマー0.4μl(4pmol)
耐熱性DNAポリメラーゼ Bio Taq(5U/μl)0.2μl
滅菌蒸留水14.2μl
トータル 20μl
PCR反応条件:
94℃ 5min
94℃ 30sec
65℃ 30sec
72℃ 30sec
72℃ 7min
サイクル数30回または40回(VDR遺伝子多型判定時のみ)
プライマーの組み合わせは以下の表に示した
【0062】
【表3】



【0063】
表3において、プライマー対1の組み合わせによって特異的な増幅がみられ、かつプライマー対2の組み合わせでは増幅が見られない場合、ER遺伝子多型はA/Aタイプである。また、プライマー対1及び2の組み合わせで共に特異的な増幅が見られた場合、ER遺伝子多型はG/Aタイプである。また、プライマー対2の組み合わせのみで特異的な増幅が見られた場合、ER遺伝子多型はG/Gタイプである。
同様に、プライマー対3の組み合わせによって特異的増幅が見られ、プライマー対4の組み合わせで増幅が見られない場合、VDR遺伝子多型はT/Tタイプであり、プライマー対3及び4の組み合わせで共に特異的増幅が見られた場合、VDR遺伝子多型はT/Cタイプであり、プライマー対4の組み合わせのみで特異的増幅が見られた場合、VDR遺伝子多型はC/Cタイプである。
【0064】
各型の骨粗鬆症の遺伝子1st PCR産物を鋳型DNAとして、濃度10倍希釈して、上記に示したプライマー対を用いて、PCRを行った。次いで、目標の配列増幅の有無を、電気泳動法によって判定したところ、ER遺伝子型、VDR遺伝子型共に各遺伝子型に特異的な増幅を示し、遺伝子型の判定ができた。また、これらの結果は、予めABI社のDNAシーケンサーで決定した塩基配列と矛盾しなかった。
【0065】
<比較例1>
実施例3で調製した混合増幅産物について、プライマー対(20)(フォワードプライマー(A1)及びリバースプライマー(CR)、及びプライマー対(21)(フォワードプライマー(F1)及びリバースプライマー(CR)を用いて、実施例1と同様にしてPCRを行った。
次いで、ポリヌクレオチドの増幅の有無を判定したところ、プライマー対(20)を用いた場合も、プライマー対(21)を用いた場合も増幅が確認された。
【0066】
<比較例2>
実施例3で調製した混合増幅産物について、プライマー対(22)(フォワードプライマー(A2)及びリバースプライマー(CR)、及びプライマー対(21)(フォワードプライマー(F1)及びリバースプライマー(CR)を用いて、実施例1と同様にしてPCRを行った。
次いで、ポリヌクレオチドの増幅の有無を判定したところ、プライマー対(22)を用いた場合も、プライマー対(21)を用いた場合も増幅が確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フォワードプライマー(FP)の3’末端の塩基(SB1)に対応する鋳型ポリヌクレオチド(TP)の塩基(TP1)及び/又はリバースプライマー(RP)の3’末端の塩基(SB2)に対応する鋳型ポリヌクレオチド(TP)の塩基(TP3)が一塩基置換されたポリヌクレオチドであるか否かを同定するための未同定一塩基置換型ポリヌクレオチドの同定方法であって、
3’末端の塩基(SB1)が、鋳型ポリヌクレオチド(TP)の塩基(TP1)と相補する塩基であり、この塩基(SB1)の1つ又は2つ隣の塩基が鋳型ポリヌクレオチド(TP)の塩基(TP2)と相補しない塩基であるフォワードプライマー(FP)と、
3’末端の塩基(SB2)が、鋳型ポリヌクレオチド(TP)の塩基(TP3)と相補する塩基であり、この塩基(SB2)の1つ又は2つ隣の塩基が鋳型ポリヌクレオチド(TP)の塩基(TP4)と相補しない塩基であるリバースプライマー(RP)とからなるプライマー対を用いてPCRを行うPCR工程(1);
PCRによるポリヌクレオチドの増幅の有無を判定する判定工程(2);及び
増幅したポリヌクレオチドに対応するプライマー対から、このプライマー対に対応する鋳型ポリヌクレオチドを特定することにより、未同定の一塩基置換型ポリヌクレオチドの塩基配列を同定する同定工程(3)を有することを特徴とする同定方法。
【請求項2】
フォワードプライマー(FP)の3’末端の塩基(SB1)に対応する鋳型ポリヌクレオチド(TP)の塩基(TP1)及びリバースプライマー(RP)の3’末端の塩基(SB2)に対応する鋳型ポリヌクレオチド(TP)の塩基(TP3)が一塩基置換されたポリヌクレオチドであるか否かを同定するための未同定一塩基置換型ポリヌクレオチドの同定方法である請求項1に記載の同定方法。
【請求項3】
PCR工程(1)をマイクロ流体デバイス又は複数個のチューブを持つプレートを用いて行う請求項1又は2に記載の同定方法。
【請求項4】
PCR用フォワードプライマー(FP)及びPCR用リバースプライマー(RP)がそれぞれ相違する請求項1〜3のいずれかに記載の同定方法。
【請求項5】
鋳型ポリヌクレオチド(TP)が病原微生物DNA又はヒトゲノムDNAである請求項1〜4のいずれかに記載の同定方法。
【請求項6】
鋳型ポリヌクレオチド(TP)に共通する共通プライマー(CP)を用いて、未同定の一塩基置換型ポリヌクレオチドをプレ増幅するPCR工程(4)を有する請求項1〜5のいずれかに記載の同定方法。
【請求項7】
共通プライマー(CP)が、16SリボソームRNAに対応する共通プライマーである請求項6に記載の同定方法。
【請求項8】
フォワードプライマー(FP)の3’末端の塩基(SB1)に対応する鋳型ポリヌクレオチド(TP)の塩基(TP1)及び/又はリバースプライマー(RP)の3’末端の塩基(SB2)に対応する鋳型ポリヌクレオチド(TP)の塩基(TP3)が一塩基置換されたポリヌクレオチドであるか否かを同定するためのフォワードプライマー(FP)及びリバースプライマー(RP)からなり、
3’末端の塩基(SB1)が、鋳型ポリヌクレオチド(TP)の塩基(TP1)と相補する塩基であり、この塩基(SB1)の1つ又は2つ隣の塩基が鋳型ポリヌクレオチド(TP)の塩基(TP2)と相補しない塩基であるフォワードプライマー(FP)と、
3’末端の塩基(SB2)が、鋳型ポリヌクレオチド(TP)の塩基(TP3)と相補する塩基であり、この塩基(SB2)の1つ又は2つ隣の塩基が鋳型ポリヌクレオチド(TP)の塩基(TP4)と相補しない塩基であるリバースプライマー(RP)とからなることを特徴とするPCR用プライマー対。
【請求項9】
フォワードプライマー(FP)の3’末端の塩基(SB1)に対応する鋳型ポリヌクレオチド(TP)の塩基(TP1)及びリバースプライマー(RP)の3’末端の塩基(SB2)に対応する鋳型ポリヌクレオチド(TP)の塩基(TP3)が一塩基置換されたポリヌクレオチドであるか否かを同定するためのフォワードプライマー(FP)及びリバースプライマー(RP)からなる請求項8に記載のPCR用プライマー対。
【請求項10】
フォワードプライマー(FP)及びリバースプライマー(RP)がそれぞれ相違する請求項8又は9に記載のプライマー対。
【請求項11】
鋳型ポリヌクレオチド(TP)が病原微生物DNA又はヒトゲノムDNAである請求項8〜10のいずれかに記載のプライマー対。

【公開番号】特開2009−225787(P2009−225787A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−39891(P2009−39891)
【出願日】平成21年2月23日(2009.2.23)
【出願人】(507085667)長浜バイオラボラトリー株式会社 (4)
【出願人】(503303466)学校法人関西文理総合学園 (26)
【Fターム(参考)】