説明

材料の欠陥検出方法及び欠陥検出システム

【課題】鋼板等の材料が搬送されている、或いは移動している場合でも、精度良く材料の表面欠陥及び表層欠陥を検出できるようにする。
【解決手段】材料を薄板鋼板とした場合を例にすると、薄板鋼板100の表面欠陥及び表層欠陥101を検出する鋼板の欠陥検出システムであって、薄板鋼板100の表面を加熱する加熱装置1と、加熱装置1により加熱中もしくは加熱した直後の表面領域(検査エリアS)の熱画像データを取得する赤外線サーモグラフィカメラ2と、赤外線サーモグラフィカメラ2により取得された熱画像データが表す表面温度から放射率の変化量Δε(x,y)を求め、欠陥の有無を検出する検出装置3とを備え、赤外線サーモグラフィカメラ2により検査エリアSの熱画像データを取得する際に、加熱装置1により放射される熱エネルギーが鋼板100での反射等により赤外線サーモグラフィカメラ2に入射しないようにされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、材料の表面欠陥及び表層欠陥を検出するのに好適な材料の欠陥検出方法及び欠陥検出システムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、薄板鋼板を製造する過程において、薄板鋼板の表面や表層には、ロール等により押し込まれて形成される押し込み疵や、溶融亜鉛浴のドロスが亜鉛めっき層に咬み込んで形成されるドロス疵、鋳造中にアルゴンガスが鋳片内に捕捉されて圧延されることにより鋼板内部に点在するブローホール欠陥、亜鉛めっき層の厚みが不均一であることにより生じる表面疵等、種々の欠陥が発生することがある。
【0003】
これら欠陥のうち、正常部位と比較して光学的に異なった色に見えるものは、これまでは作業者による目視検査で検出していた。
【0004】
また、鋼板の欠陥検出に関して、鋼板の表面をCCDカメラ等によって撮像し、その撮像データに基づいて欠陥検出を行う技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−219177号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】R. Gonzalez and R. Woods Digital Image Processing, Addison-Wesley Publishing Company, 1992
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、目視検査を行う場合は、ラインスピードを減速せざるを得ず、また、作業者によって精度にばらつきが生じてしまう。さらに、近年では、品質管理の厳格化に伴って、目視では確認することが困難な微小な欠陥を検出することも要求されている。
【0008】
また、鋼板の表面をCCDカメラ等によって撮像する手法では、鋼板の表層に存在する欠陥は表面からは見え難い場合が多く、検出能が高いとはいえない。
【0009】
本発明は、上記のような点に鑑みてなされたものであり、鋼板等の材料が搬送されている、或いは移動している場合でも、精度良く材料の表面欠陥及び表層欠陥を検出できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の材料の欠陥検出方法は、材料の表面欠陥及び表層欠陥を検出する材料の欠陥検出方法であって、材料の表面を加熱装置により加熱する加熱手順と、前記加熱手順において加熱中もしくは加熱した直後の前記材料における表面領域の熱分布を示す熱画像データを、赤外線を用いたカメラにより取得する熱画像データ取得手順と、前記熱画像データ取得手順において取得された熱画像データが表す表面温度から放射率の変化量を算出し、前記算出した放射率の変化量に基づいて少なくとも欠陥の有無を検出する検出手順とを有することを特徴とする。
【0011】
本発明の材料の欠陥検出システムは、材料の表面欠陥及び表層欠陥を検出する材料の欠陥検出システムであって、材料の表面を加熱する加熱装置と、前記加熱装置により加熱中もしくは加熱した直後の前記材料における表面領域の熱分布を示す熱画像データを、赤外線を用いて取得するカメラと、前記カメラにより取得された熱画像データが表す表面温度から放射率の変化量を算出し、前記算出した放射率の変化量に基づいて少なくとも欠陥の有無を検出する検出装置とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、加熱装置により加熱した後の冷却中の表面領域の熱画像データを取得し、その熱画像データが表す表面温度から放射率の変化量を求め、該変化量を用いて欠陥の有無を検出することにより、材料が搬送されている、或いは移動している場合でも、精度良く材料の表面欠陥及び表層欠陥を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本実施形態に係る薄板鋼板の欠陥検出システムの概略構成例を示す図である。
【図2】検出装置の画像処理部での画像処理のイメージを示す図である。
【図3】検出対象となりうる欠陥を示す図である。
【図4】赤外線サーモグラフィカメラを用いた非破壊検査を説明するための図である。
【図5】数式処理計算に用いる画素の関係を示す図である。
【図6】赤外線サーモグラフィカメラにより取得された熱画像データが表す表面温度を示す特性図である。
【図7】図6の温度特性線に対応する放射率の変化量を示す特性図である。
【図8】表層の温度分布曲線を示す特性図である。
【図9】熱画像データにガウシアンフィルタ処理を施した効果を示す特性図である。
【図10】検出装置として機能するコンピュータシステムのハードウェア構成例を示す図である。
【図11】表層に異物或いは空隙が存在する鋼板について欠陥検出を行った実施例の画像を示す図である。
【図12】表面に微小な凸部が形成された鋼板について欠陥検出を行った実施例の画像を示す図である。
【図13】表面に微小な鋭角凹部が形成された鋼板について欠陥検出を行った実施例の画像を示す図である。
【図14】表面に異物が付着した鋼板について欠陥検出を行った実施例の画像を示す図である。
【図15】表層に異物の混入している樹脂製自動車用燃料タンクについて欠陥検出を行った実施例の画像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について、材料を薄板鋼板とした場合を例に説明する。
【0015】
まず、図3を参照しながら、本実施形態で検出対象となり得る欠陥について説明する。薄板鋼板の欠陥には種々の形態があり、例えば、散砂状、柳葉状、斑状といった形態がある。
【0016】
図3(a)に示す例は、薄板鋼板100の表層に異物が咬み込んだり、空隙が形成されたりして生じた欠陥101aであり、溶融亜鉛浴のドロスがめっき層に咬み込んで形成されるドロス疵や、鋳造中にアルゴンガスが鋳片内に捕捉されて圧延されることにより鋼板内部に空隙が形成されるブローホール欠陥等が該当する。このタイプでは、異物や空隙によって形成された欠陥101aの熱伝導率が鋼板自体に比べて低いために、鋼板表面において欠陥101aに対応する部位が正常部位に比べて加熱・冷却され易くなる。
【0017】
図3(b)に示す例は、薄板鋼板100の表面に微小な凸部101bが形成された欠陥であり、亜鉛めっき層の一部が厚くなった欠陥等が該当する。このタイプでは、表面積が大きくなるために、凸部101bが正常部位に比べて加熱・冷却され易くなる。また、欠陥部分が凸状であるため、凸部101bでの放射量が、同じ領域面積の正常部位での放射量に比べて小さくなる。
【0018】
図3(c)に示す例は、薄板鋼板100の表面に微小な鋭角凹部101cが形成された欠陥であり、ロールに付着した異物が原因で形成される押し込み疵等が該当する。このタイプでは、欠陥部分が鋭角な形状であるため、鋭角凹部101cでの放射量が、同じ領域面積の正常部位での放射量に比べて小さくなる。
【0019】
図3(d)に示す例は、薄板鋼板100の表面にゴミ等の異物101dが付着した欠陥である。このタイプでは、異物101dの放射率が鋼板自体に比べて小さいために、異物101dの放射量が、同じ領域面積の正常部位での放射量に比べて小さくなる。
【0020】
図1は、本実施形態に係る薄板鋼板の欠陥検出システムの概略構成例を示す図である。
本実施形態における薄板鋼板の欠陥検出システムでは、図1(a)に示すように、加熱装置1、赤外線サーモグラフィカメラ2及び検出装置3を用いて、厚さ数mm程度の薄板鋼板100の表面欠陥及び表層欠陥(以下、欠陥101と称する)を検出する。
【0021】
本実施形態では、赤外線サーモグラフィカメラ2により取得された熱画像データが表す表面温度から、以下の式(1)を基に放射率の変化量Δε(x,y)を求める。すると、放射率の変化量Δε(x,y)の絶対値が欠陥101部位では正常部位に比べて大きくなる。さらに、放射率の変化量Δε(x,y)の正負により欠陥101のタイプが表現される。
【0022】
【数1】

【0023】
図1(a)において、1は加熱装置(ヒータ)であり、検査ライン上の薄板鋼板100の表面を加熱する。この場合に、薄板鋼板100の温度が、常温より高く、材質への影響を避けるために、好ましくは100℃未満程度(さらに好ましくは60℃程度)となるようにするのが好適である。検査ライン上の薄板鋼板100は、所定のラインスピード(0〜300mpm程度)で図1(a)に示す矢印方向に搬送される。
【0024】
2は赤外線サーモグラフィカメラであり、薄板鋼板100に対して加熱装置1の反対側に配置され、加熱装置1により加熱中の表面領域を検査エリアSとして撮像し、該検査エリアSの2次元熱画像データを取得する。ここで、熱画像とは、検査対象物である薄板鋼板100の表面から放出される放射熱量分布、即ち、表面温度分布を表す画像である。赤外線サーモグラフィカメラ2は、赤外線センサを有する撮像部及び信号処理部(不図示)を備え、各画素に対して割り当てられた温度情報を色情報に変換して熱画像データを得る。
【0025】
ここで、赤外線サーモグラフィカメラ2は加熱装置1と同一面側に配置してもよいが、赤外線サーモグラフィカメラ2により検査エリアSの熱画像データを取得する際に、加熱装置1により放射される熱エネルギーが鋼板100での反射等により赤外線サーモグラフィカメラ2に入射しないようにする必要がある。そのために、赤外線サーモグラフィカメラ2は加熱装置1の下流側に配置し、加熱装置1と赤外線サーモグラフィカメラ2との間に熱遮蔽部材(不図示)を配置する。例えば、鋼板100の加熱後、加熱装置1の電源をオフにするようにしても、加熱装置1には残熱が発生するため、その残熱による熱エネルギーも赤外線サーモグラフィカメラ2に入射されないようにするのが望ましい。なお、図1(b)には、図1(a)の例とは異なる角度で赤外線サーモグラフィカメラ2が取り付けられている例を示しているが、その取り付け角度や設置箇所は限定されるものではない。
【0026】
また、赤外線サーモグラフィカメラ2のフレームレートやインテグレーションタイム等は、ラインスピードに合わせて適宜設定される。例えば、市販の赤外線サーモグラフィカメラのインテグレーションタイムは0.01ms程度であり、150mpmで走行する鋼板でも、1フレーム撮影する間の鋼板の移動量は0.025mm程度である。画像の質に及ぼす影響は、0.25mm以上の画素では10%以下となるので、殆ど無視することができる。
【0027】
3はパーソナルコンピュータ等からなる検出装置であり、赤外線サーモグラフィカメラ2により取得された熱画像データが表す表面温度から放射率の変化量Δε(x,y)を求め、欠陥101の有無を検出し、更には欠陥101のタイプを判定する。既述したように、放射率の変化量Δε(x,y)の絶対値が欠陥101部位では正常部位102に比べて大きくなる。また、放射率の変化量Δε(x,y)の正負により欠陥101のタイプが表現される。したがって、検査エリアSにおいて欠陥101が存在する場合は、その部位の放射率の変化量Δε(x,y)の絶対値が正常部位102での放射率の変化量Δε(x,y)の絶対値に比べて大きく検出されると共に、放射率の変化量Δε(x,y)の正負により欠陥101のタイプを判定することができる。
【0028】
検出装置3において、301は入力部であり、赤外線サーモグラフィカメラ2により取得した熱画像データを入力する。
【0029】
302は画像処理部であり、入力部301に入力された熱画像データに所定の画像処理を施す。図2は、画像処理部302により画像処理されたイメージの一例を示す図である。例えば、図2(a)に示すような熱画像データが入力部301に入力されると、式(1)を基に数式処理し、図2(b)に示すような画像データを生成する。そして、数式処理した後の画像データを二値化処理し、図2(c)に示すような画像データを生成する。数式処理は、図2(a)の熱画像データが示す温度ムラによる影響を抑えると共に、後述するように薄板鋼板100の表面及び表層での熱収支を把握するために行われる。なお、表層とは、表面近傍であって表面と近似できる程度の範囲、例えば板厚が1〜2mm程度である場合には、表面から板厚の1/4程度の深さの範囲をいう。
【0030】
前述したように、数式処理により、検査エリアSにおいて欠陥101部位では放射率の変化量Δε(x,y)の絶対値が大きく検出されるので、かかる画像処理によって、例えば、図2(c)の黒色部分に示すように、欠陥101が取り出された画像が生成される。また、放射率の変化量Δε(x,y)の正負により欠陥101のタイプを判定することができる。
【0031】
303は出力部であり、例えば、画像処理部302によって画像処理された画像データを不図示のモニタに出力してその画像を表示する。
【0032】
以下、本実施形態による薄板鋼板の表面欠陥及び表層欠陥の検出手法の原理について詳しく説明する。
【0033】
赤外線サーモグラフィカメラを用いた非破壊検査は各種分野において実施されており、図4に示すように、例えば、異物の混入や空隙の形成といった検査対象物401内部の欠陥402の有無を検出することが行われている。この場合、検査対象物401及び欠陥402の熱伝導率の相違により、検査対象物401の表面401aの放射熱量が異なってくる。したがって、赤外線サーモグラフィカメラによって検査対象物401の表面401aの放射熱量分布を経時的に捉えることにより、検査対象物401内部の欠陥402の有無を検出することが可能である。
【0034】
この場合、検査対象物401及び欠陥402の熱伝導率が大きく相違していれば、精度良く欠陥402を検出することは可能であるが、熱伝導率が同程度である場合、例えば、図3(b)及び図3(c)に示す例のように、検査対象物(薄板鋼板100)及び欠陥の熱伝導率に差異がない場合には適用することができない。
【0035】
また、既存手法では放射熱量分布から欠陥部位の温度異常を判定しているが、検査対象物401の2次元表面方向(x−y方向)の熱拡散の影響を受けるため、欠陥部位の放射熱量が減衰し、欠陥部位の判定精度の低下を引き起こすという問題がある。
【0036】
それに対して、本実施形態に係る欠陥検出手法では、赤外線サーモグラフィカメラ2によって検査対象物(薄板鋼板100)の表面の放射熱量分布を捉えるが、既述したように、式(1)により求めた放射率の変化量Δε(x,y)の絶対値が欠陥101部位では正常部位102に比べて大きくなるので、検査エリアSにおいて欠陥101が存在すれば、その部位の放射率の変化量Δε(x,y)の絶対値が大きく検出される。
【0037】
ここで、放射率の変化量Δε(x,y)の算出に用いる画素(着目画素)における鋼板表面温度のラプラシアンΔT(x,y)は、以下の式(2)で記述することができる。
【0038】
【数2】

【0039】
式(2)の右辺は、図5に示すように、赤外線サーモグラフィカメラ2により取得された熱画像データが表す表面温度のうち、着目画素での表面温度T(x,y)と、その上下左右の画素での表面温度T(x+1,y)、T(x,y+1)、T(x−1,y)、T(x,y−1)とを用いて計算することができる。なお、本実施形態では着目画素として1画素を単位として計算する例を説明したが、複数画素からなるブロック(2×2ブロック等)を単位として計算するようにしてもよい。
【0040】
一方、薄板鋼板100内部の熱移動現象は、以下の式(3)〜式(5)で記述した3次元定常熱伝導方程式により近似することができる。
【0041】
【数3】

【0042】
さらに、正常部位の放射率をεとして、ε1=ε+Δε(x,y)、ε2=εを式(4)及び式(5)に代入して両辺の差をとると、以下の式(6)が得られる。
【0043】
【数4】

【0044】
また、板厚みhが非常に小さい場合(板厚みhが5mm以下の場合)、板温度Tを、以下の式(7)で近似することができる。
【0045】
【数5】

【0046】
その結果、式(3)は、以下の式(8)のように書き換えることができる。
【0047】
【数6】

【0048】
また、式(7)からは、以下の式(9)及び式(10)が得られる。このとき、板厚hは非常に小さいため、式(10)の右辺は、hの高次の項を無視している。
【0049】
【数7】

【0050】
また、式(9)及び式(10)を式(6)に代入すると、以下の式(11)が得られる。
【0051】
【数8】

【0052】
一方、伝熱の平衡条件(放射伝熱量の釣り合い)から以下の式(12)が得られる。
【0053】
【数9】

【0054】
そして、式(12)を用いると、式(11)は以下の式(13)のように書き換えることができる。
【0055】
【数10】

【0056】
さらに、式(8)及び式(13)から以下の式(14)が得られる。また、式(14)を変形することにより、式(1)を導出できる。
【0057】
【数11】

【0058】
ここで、薄板鋼板100を搬送せずに観測面の裏側から加熱中の検査エリアSの熱画像データを赤外線サーモグラフィカメラ2により取得し、図6に示すような温度特性線T1〜T3が得られた場合を考える。このとき、赤外線サーモグラフィカメラ2の画素サイズは、欠陥101の大きさの2倍程度の0.4mmに設定している。
【0059】
温度特性線T1は、正常部位102での温度特性を表し、この位置での放射率の変化量Δε(x,y)を図7の特性線E1に示す。図7の特性線E1に示すように、放射率の変化量Δε(x,y)は、ノイズを含みながらも、殆どゼロ近傍の値になる。
【0060】
一方、温度特性線T2は、図3(a)又は図3(b)に示すタイプの欠陥が形成された部位での温度特性を表し、この位置での放射率の変化量Δε(x,y)を図7の特性線E2に示す。図3(a)又は図3(b)に示すタイプの欠陥が存在すると、図7の特性線E2に示すように、放射率の変化量Δε(x,y)は正値となる。これは、図8に示すように、温度特性線t1に示す正常部位の表層の温度分布に対して、欠陥部位では放熱量が大きく、温度特性線t2に示すように表層では正常部位よりも温度が低くなっており、凹形状の温度分布(ΔxyTが正値)になっていることを意味している。
【0061】
また、温度特性線T3は、図3(c)又は図3(d)に示すタイプの欠陥が形成された部位での温度特性を表し、この位置での放射率の変化量Δε(x,y)を図7の特性線E3に示す。図3(c)又は図3(d)に示すタイプの欠陥が存在すると、図7の特性線E3に示すように、放射率の変化量Δε(x,y)は負値となる。これは、図8に示すように、温度特性線t1に示す正常部位の表層の温度分布に対して、欠陥部位では放熱量が小さく、温度特性線t3に示すように表層では正常部位よりも温度が高くなっており、凸形状の温度分布(ΔxyTが負値)になっていることを意味している。
【0062】
図9は、熱画像データにガウシアンフィルタ処理を施した効果を示す特性図である。
赤外線サーモグラフィカメラ2により取得される熱画像データにノイズが混入する場合は、ガウシアンフィルタ処理を施してノイズを除去する。図9に示す特性線Eは、ノイズが混入したまま熱画像データに数式処理を施した結果を示しており、ノイズの影響により放射率の変化量が大きく振動している。それに対して、図9に示す特性線E´は、熱画像データにガウシアンフィルタ処理を施した後に数式処理を施した結果を示しており、特性線Eで観察された振動が抑制される。なお、ノイズ除去のためのフィルタ処理は、平滑化を行うものであれば、ガウシアンフィルタ処理に限定されるものではない。ここで例を挙げたガウシアンフィルタ処理については、例えば、非特許文献1に開示されている方法を用いる。
【0063】
以上述べたように、赤外線サーモグラフィカメラ2により取得された熱画像データが表す表面温度から放射率の変化量Δε(x,y)を求めると、放射率の変化量Δε(x,y)の絶対値が欠陥101部位では正常部位に比べて大きくなる。これにより、欠陥101を検出するようにしたので、ラインスピードを減速させることなく、かつ、精度良く鋼板の表面欠陥及び表層欠陥を検出することができる。
【0064】
また、熱拡散効果により温度が欠陥101部位の影響を受ける領域は拡大するので、CCDカメラを用いた光学式疵検査装置と比較して画素サイズを大きく設定できる。
【0065】
図10は、本実施形態に係る検出装置3のハードウェア構成例を示すブロック図である。
図10に示すように、本実施形態に係る検出装置3は、CPU51と、入力装置52と、表示装置53と、記憶装置54と、通信装置55とを含み、各部はバス56を介して接続されている。記憶装置54はROM、RAM、HD等により構成されており、上述した検出装置3としての動作を制御するコンピュータプログラムが格納されている。CPU51がコンピュータプログラムを実行することによって検出装置3の機能、又は処理を実現する。なお、検出装置3は、一つの装置である必要はなく、複数の機器から構成されてもよい。また、本実施形態では、加熱装置1、赤外線サーモグラフィカメラ2及び検出装置3をそれぞれ異なる装置にて構成しているが、上記3つの装置が1つの装置によって構成されていてもよく、1つのCPUにより加熱装置等に対して制御するようにしてもよい。
【0066】
(実施例)
図11に、図3(a)に示すような表層に異物或いは空隙が存在する鋼板を試験片として欠陥検出を行った例を示す。ここでは、観測面の裏側にヒータを配置して鋼板温度が50℃程度を維持するようにヒータのパワーを調整し、加熱中に赤外線サーモグラフィカメラにより熱画像データを取得した。赤外線サーモグラフィカメラの画素数は200×200であり、画素サイズは0.25mmである。また、赤外線サーモグラフィカメラと鋼板との距離25cmとし、赤外線サーモグラフィカメラを鋼板表面に対して垂直に配置している。
【0067】
図11(a)は、赤外線サーモグラフィカメラにより取得された熱画像を示す図であり、図11(b)は、熱画像データを数式処理した画像を示す図である。また、図11(c)は、数式処理後の画像データを二値化処理した画像を示す図である。なお、図11(a)〜図11(c)は、実際に得られた各画像(ズームアップ画像)を模式的に図示したものである。図11(c)に示すように、欠陥(異物或いは空隙)1101が取り出された画像が生成され、良好な結果が得られた。
【0068】
図12には、図3(b)に示すような表面に微小な凸部が形成された鋼板を試験片として欠陥検出を行った例を示す。ここでは、観測面の裏側にヒータを配置して鋼板温度が50℃程度を維持するようにヒータのパワーを調整し、加熱中に赤外線サーモグラフィカメラにより熱画像データを取得した。赤外線サーモグラフィカメラの画素数は200×200であり、画素サイズは0.25mmである。また、赤外線サーモグラフィカメラと鋼板との距離25cmとし、赤外線サーモグラフィカメラを鋼板表面に対して垂直に配置している。
【0069】
図12(a)は、赤外線サーモグラフィカメラにより取得された熱画像を示す図であり、図12(b)は、熱画像データを数式処理した画像を示す図である。また、図12(c)は、数式処理後の画像データを二値化処理した画像を示す図である。なお、図12(a)〜図12(c)は、実際に得られた各画像(ズームアップ画像)を模式的に図示したものである。図12(c)に示すように、欠陥(微小な凸部)1201が取り出された画像が生成され、良好な結果が得られた。なお、図12(a)〜図12(c)に現れているライン状の模様1202は、予め異物を目視して位置を確認し、欠陥を囲むようにマーキングしたものであり、誤検出ではない。
【0070】
図13には、図3(c)に示すような表面に微小な鋭角凹部が形成された鋼板を試験片として欠陥検出を行った例を示す。ここでは、観測面の裏側にヒータを配置して鋼板温度が65℃程度を維持するようにヒータのパワーを調整し、加熱中に赤外線サーモグラフィカメラにより各熱画像データを取得した。赤外線サーモグラフィカメラの画素数は200×200であり、画素サイズは0.25mmである。また、赤外線サーモグラフィカメラと鋼板との距離25cmとし、赤外線サーモグラフィカメラを鋼板表面に対して垂直に配置している。
【0071】
図13(a)は、赤外線サーモグラフィカメラにより取得された熱画像を示す図であり、図13(b)は、熱画像データを数式処理した画像を示す図である。また、図13(c)は、数式処理後の画像データを二値化処理した画像を示す図である。なお、図13(a)〜図13(c)は、実際に得られた各画像(ズームアップ画像)を模式的に図示したものである。図13(c)に示すように、欠陥(微小な鋭角凹部)1301が取り出された画像が生成され、良好な結果が得られた。
【0072】
図14には、図3(d)に示すような表面に異物が付着した鋼板を試験片として欠陥検出を行った例を示す。ここでは、観測面の裏側にヒータを配置して鋼板温度が45℃程度を維持するようにヒータのパワーを調整し、加熱中に赤外線サーモグラフィカメラにより熱画像データを取得した。赤外線サーモグラフィカメラの画素数は200×200であり、画素サイズは0.25mmである。また、赤外線サーモグラフィカメラと鋼板との距離25cmとし、赤外線サーモグラフィカメラを鋼板表面に対して垂直に配置している。
【0073】
図14(a)は、赤外線サーモグラフィカメラにより取得された熱画像を示す図であり、図14(b)は、熱画像データを数式処理した画像を示す図である。また、図14(c)は、数式処理後の画像データを二値化処理した画像を示す図である。なお、図14(a)〜図14(c)は、実際に得られた各画像(ズームアップ画像)を模式的に図示したものである。図14(c)に示すように、欠陥(異物)1401が取り出された画像が生成され、良好な結果が得られた。
【0074】
本発明は他の材料にも適用可能であり、図15には、薄板鋼板に代えて表層に異物の混入している樹脂製自動車用燃料タンクを試験材として欠陥検出を行った例を示す。ここでは、観測面の裏側にヒータを配置して燃料タンク温度が70℃程度を維持するようにヒータのパワーを調整し、加熱中に赤外線サーモグラフィカメラにより熱画像データを取得した。赤外線サーモグラフィカメラの画素数は80×80であり、画素サイズは0.25mmである。また、赤外線サーモグラフィカメラと燃料タンクとの距離25cmとし、赤外線サーモグラフィカメラを燃料タンク表面に対して垂直に配置している。
【0075】
図15(a)は、赤外線サーモグラフィカメラにより取得された熱画像を示す図であり、図15(b)は、熱画像データを数式処理した画像を示す図である。また、図15(c)は、数式処理後の画像データを二値化処理した画像を示す図である。なお、図15(a)〜図15(c)は、実際に得られた各画像(ズームアップ画像)を模式的に図示したものである。図15(c)に示すように、欠陥(表層異物)1501が取り出された画像が生成され、良好な結果が得られた。
【0076】
本発明は、原理として、材料表面及び表層での伝熱現象の特異点を検出するものであり、伝熱現象はあらゆる材料において発生し、また、表面及び表層の欠陥であればどのような形状であってもサーモグラフィーの計測で検出可能であるため、鋼板や樹脂に限らず、その他あらゆる材料に適用可能である。
【0077】
また、図11〜15に示す実施例では、鋼板又は燃料タンクを固定して欠陥検出を行っているが、搬送されている鋼板又は燃料タンクの欠陥を検出できることは上述したとおりである。例えば市販の赤外線サーモグラフィカメラのインテグレーションタイムは0.01ms程度であり、150mpmで走行する鋼板の欠陥を検出する場合でも、1フレーム撮影する間の鋼板の移動量は0.025mm程度である。画像の質に及ぼす影響は、0.25mm以上の画素では10%以下となるので、殆ど無視することができる。
【0078】
(本発明に係る他の実施形態)
前述した本発明の実施形態における処理は、コンピュータのRAMやROMなどに記憶されたプログラムが動作することによって実現できる。このプログラム及び前記プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体は本発明に含まれる。
【0079】
また、本発明は、例えば、システム、装置、方法、プログラムもしくは記録媒体等としての実施形態も可能であり、具体的には、複数の機器から構成されるシステムに適用してもよいし、また、一つの機器からなる装置に適用してもよい。
【0080】
なお、本発明は、前述した実施形態の機能を実現するソフトウェアのプログラムを、システムまたは装置に直接、または遠隔から供給する場合も含む。そして、そのシステムまたは装置のコンピュータが前記供給されたプログラムコードを読み出して実行することによっても達成される場合を含む。
【0081】
したがって、本発明の機能処理をコンピュータで実現するために、前記コンピュータにインストールされるプログラムコード自体も本発明を実現するものである。つまり、本発明は、本発明の機能処理を実現するためのコンピュータプログラム自体も含まれる。
【0082】
その場合、プログラムの機能を有していれば、オブジェクトコード、インタプリタにより実行されるプログラム、OSに供給するスクリプトデータ等の形態であってもよい。
【0083】
プログラムを供給するための記録媒体としては、例えば、フレキシブルディスク、ハードディスク、光ディスク、光磁気ディスクなどがある。さらに、MO、CD−ROM、CD−R、CD−RW、磁気テープ、不揮発性のメモリカード、ROM、DVD(DVD−ROM、DVD−R)などもある。
【0084】
その他、プログラムの供給方法としては、クライアントコンピュータのブラウザを用いてインターネットのホームページに接続する方法がある。そして、前記ホームページから本発明のコンピュータプログラムそのもの、もしくは圧縮され自動インストール機能を含むファイルをハードディスク等の記録媒体にダウンロードすることによっても供給できる。
【0085】
さらに、その他の方法として、まず記録媒体から読み出されたプログラムが、コンピュータに挿入された機能拡張ボードやコンピュータに接続された機能拡張ユニットに備わるメモリに書き込まれる。そして、そのプログラムの指示に基づき、その機能拡張ボードや機能拡張ユニットに備わるCPUなどが実際の処理の一部または全部を行い、その処理によっても前述した実施形態の機能が実現される。
【符号の説明】
【0086】
1 加熱装置
2 赤外線サーモグラフィカメラ
3 検出装置
301 入力部
302 画像処理部
303 出力部
100 薄板鋼板
101 欠陥
102 正常部位

【特許請求の範囲】
【請求項1】
材料の表面欠陥及び表層欠陥を検出する材料の欠陥検出方法であって、
材料の表面を加熱装置により加熱する加熱手順と、
前記加熱手順において加熱中もしくは加熱した直後の前記材料における表面領域の熱分布を示す熱画像データを、赤外線を用いたカメラにより取得する熱画像データ取得手順と、
前記熱画像データ取得手順において取得された熱画像データが表す表面温度から放射率の変化量を算出し、前記算出した放射率の変化量に基づいて少なくとも欠陥の有無を検出する検出手順とを有することを特徴とする材料の欠陥検出方法。
【請求項2】
前記検出手順においては、前記熱画像データ取得手順において取得された熱画像データが表す表面温度から式(1)を基に放射率の変化量Δε(x,y)を算出し、該変化量Δε(x,y)に基づいて少なくとも欠陥の有無を検出することを特徴とする請求項1に記載の材料の欠陥検出方法。
【数1】

【請求項3】
前記検出手順においては、前記熱画像データ取得手順において取得された熱画像データが表す表面温度から式(2)を基に放射率の変化量Δε(x,y)の絶対値を算出し、前記算出した絶対値に基づいて欠陥の有無を判定することを特徴とする請求項1又は2に記載の材料の欠陥検出方法。
【数2】

【請求項4】
前記検出手順においては、前記熱画像データ取得手順において取得された熱画像データが表す表面温度から式(3)を基に放射率の変化量Δε(x,y)の正負を算出し、前記算出した正負によってさらに欠陥のタイプを判定することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の材料の欠陥検出方法。
【数3】

【請求項5】
前記熱画像データ取得手順においては、前記カメラにより表面領域の熱画像データを取得する際に、前記加熱装置により放射される熱エネルギーが前記カメラに入射しないように熱画像データを取得することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の材料の欠陥検出方法。
【請求項6】
材料の表面欠陥及び表層欠陥を検出する材料の欠陥検出システムであって、
材料の表面を加熱する加熱装置と、
前記加熱装置により加熱中もしくは加熱した直後の前記材料における表面領域の熱分布を示す熱画像データを、赤外線を用いて取得するカメラと、
前記カメラにより取得された熱画像データが表す表面温度から放射率の変化量を算出し、前記算出した放射率の変化量に基づいて少なくとも欠陥の有無を検出する検出装置とを有することを特徴とする材料の欠陥検出システム。
【請求項7】
前記検出装置は、前記カメラにより取得された熱画像データが表す表面温度から式(4)を基に放射率の変化量Δε(x,y)を算出し、該変化量Δε(x,y)に基づいて少なくとも欠陥の有無を検出することを特徴とする請求項6に記載の材料の欠陥検出システム。
【数4】

【請求項8】
前記検出装置は、前記カメラにより取得された熱画像データが表す表面温度から式(5)を基に放射率の変化量Δε(x,y)の絶対値を算出し、前記算出した絶対値に基づいて欠陥の有無を判定することを特徴とする請求項6又は7に記載の材料の欠陥検出システム。
【数5】

【請求項9】
前記検出装置は、前記カメラにより取得された熱画像データが表す表面温度から式(6)を基に放射率の変化量Δε(x,y)の正負を算出し、前記算出した正負によって欠陥のタイプを判定することを特徴とする請求項6〜8のいずれか1項に記載の材料の欠陥検出システム。
【数6】

【請求項10】
前記加熱装置より放射される熱エネルギーが前記カメラへ入射することを防止する入射防止手段をさらに有することを特徴とする請求項6〜9のいずれか1項に記載の材料の欠陥検出システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate


【公開番号】特開2011−237383(P2011−237383A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−111255(P2010−111255)
【出願日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】