材料シミュレーションシステム、材料シミュレーション方法、および、材料シミュレーションプログラム
【課題】破断ひずみを含む広いひずみ域におよぶ材料の動特性を算出すること。高ひずみ速度域を含む広いひずみ速度域で、破断ひずみを含む広いひずみ域におよぶ材料のシミュレーションをすること。
【解決手段】材料の試験片に対して準静的ひずみ速度での引張りと停止と除荷とが繰り返されるように検力ブロック式高速材料試験機が制御され、停止ごとの試験片の真応力が算出され(S21)、停止または除荷ごとの試験片の真ひずみが算出され(S22)、算出された真応力および真ひずみに基づき真応力−真ひずみ曲線を示す数式(1)の計数値k1,k2が算出され(S25)、k1,k2を代入した数式(1)にひずみ量εPが代入されて当該ひずみ量εPに対応する流動応力σSが算出され(S25)、数式(3)への流動応力σSの代入、数式(3)のパラメータの採用により全ひずみ域かつ任意のひずみ速度でのひずみεPに対応する応力σが算出される(S26)。
【解決手段】材料の試験片に対して準静的ひずみ速度での引張りと停止と除荷とが繰り返されるように検力ブロック式高速材料試験機が制御され、停止ごとの試験片の真応力が算出され(S21)、停止または除荷ごとの試験片の真ひずみが算出され(S22)、算出された真応力および真ひずみに基づき真応力−真ひずみ曲線を示す数式(1)の計数値k1,k2が算出され(S25)、k1,k2を代入した数式(1)にひずみ量εPが代入されて当該ひずみ量εPに対応する流動応力σSが算出され(S25)、数式(3)への流動応力σSの代入、数式(3)のパラメータの採用により全ひずみ域かつ任意のひずみ速度でのひずみεPに対応する応力σが算出される(S26)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、材料シミュレーションシステム、材料シミュレーション方法、および、材料シミュレーションプログラムに関し、特に、材料の成形、加工の数値シミュレーションや車両の衝突解析に適した材料シミュレーションシステム、材料シミュレーション方法、および、材料シミュレーションプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、材料の引張試験は、図12に示すように、材料引張試験機を用いて、試験片を引張力P(N)で引っ張ることによって行なわれる。ここで、試験片のゲージレングス部の変形前の長さをl0(mm)、直径をd0(mm)、断面積をA0(mm2)として、変形後の長さの変化量をΔl(mm)、直径の変化量をΔd(mm)とする。そして、破断に至るまでの応力σn(MPa)(=P/A0)やひずみεn(=Δl/l0)の変化を計測することによって、応力σnの最大値、すなわち引張強さσBなどの材料の特性を知ることができる。なお、ここでの応力σnおよびひずみεnは、それぞれ、変形前の断面積A0や長さl0で除して算出した公称応力(nominal stress)および公称ひずみ(nominal strain)である。
【0003】
あるひずみεを生じさせるのにt(秒)かかったとすると、その間の平均のひずみ速度は、ε/tで算出することができる。たとえば、ひずみε=0.3、時間t=30(秒)であれば、ひずみ速度は0.3/30=10-2(1/秒)である。また、ひずみε=0.3、時間t=0.003(秒)であれば、ひずみ速度は0.3/0.003=102(1/秒)である。
【0004】
ひずみ速度が102〜103(1/秒)のオーダの高ひずみ速度域での応力−ひずみ曲線を求める場合に、従来の高速材料引張試験装置を用いた試験結果では、図13に示すように、ひずみの立上がり時に応力が振動することがあった。
【0005】
特許文献1に示す材料試験機のような検力ブロック式高速材料試験機(たとえば、株式会社鷺宮製作所製SBTS(Sensing Block Type High Speed Material Testing System))を用いれば、図14に示すような試験片を用いることによって、高ひずみ速度域であっても、図15に示すように、ノイズが少なく高精度な応力−ひずみ曲線を得ることができる。
【0006】
また、図16の鉄や鋼の応力−ひずみ曲線で示すように、応力とひずみとの関係はひずみ速度の影響を受ける。図17に示す曲線は、あるひずみεPにおけるひずみ速度と流動応力の関係を示す。応力とひずみとの関係がひずみ速度の影響を受けることは、図18〜図22に示す曲線でも表現される。
【0007】
前述したように、通常の材料試験機では高ひずみ速度域での試験はできず、試験できるひずみ速度の範囲は、10-4〜101(1/秒)の範囲である。ところが、現実の成形、加工などにおけるひずみ速度域は、101〜105または106の範囲である。このように、通常の材料試験により得られるデータは、実際の成形、加工や衝突解析のひずみ速度の範囲とずれた範囲のデータである。
【0008】
また、中ひずみ速度域での材料試験機(油圧サーボ式材料試験機など)や高ひずみ速度域での材料試験機(ホプキンソン棒法を用いた高速材料試験装置など)を用いた材料試験によるデータは、実用上必要となる広いひずみ速度範囲で系統的にまとめられたものはなく、十分に活用される状態ではない。
【0009】
前述したような検力ブロック式高速材料試験機を用いれば、10-3から103のオーダに及ぶ広いひずみ速度域での応力−ひずみ曲線を従来にない高精度で測定できる。図18から図21までで示すグラフは、検力ブロック式高速材料試験機を用いた材料試験によって得られた複数のひずみ速度のそれぞれにおける公称応力−ひずみ曲線のグラフである。また、図22で示すグラフは、複数のひずみ速度のそれぞれにおける真応力−ひずみ曲線のグラフである。
【0010】
ここで、真応力(true stress)σtは、σt=P/A=σnA0/A=σn(1+εn)で表される。また、真ひずみ(true strain,logarithmic strain)εtは、εt=ln(l/l0)=ln(1+εn)=ln(A0/A)で表される。
【特許文献1】特開2001−59803号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
前述したように、ひずみ速度が102〜103(1/秒)のオーダの高ひずみ速度域を含むひずみ速度が10-3〜103(1/秒)のオーダの広いひずみ速度域での破断ひずみを含む広いひずみ域におよぶ材料の応力とひずみとの関係が統一的にまとめられていないため、広いひずみ域におよぶ材料の特性を算出したり、広いひずみ速度域での広いひずみ域におよぶ材料のシミュレーションを行なったりすることは困難であるといった問題があった。
【0012】
この発明は上述の問題点を解決するためになされたもので、この発明の目的の1つは、破断ひずみを含む広いひずみ域におよぶ材料の動特性を算出することが可能な材料シミュレーションシステム、材料シミュレーション方法、および、材料シミュレーションプログラムを提供することである。
【0013】
この発明の他の目的は、高ひずみ速度域を含む広いひずみ速度域で、破断ひずみを含む広いひずみ域におよぶ材料のシミュレーションをすることが可能な材料シミュレーションシステム、材料シミュレーション方法、および、材料シミュレーションプログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上述の目的を達成するために、この発明のある局面によれば、材料シミュレーションシステムは、材料の試験片に対して準静的ひずみ速度での引張りと停止と除荷とを繰り返すように検力ブロック式高速材料試験機を制御する制御部と、制御部によって停止されるごとの試験片の真応力σtを算出する真応力算出部と、制御部によって停止または除荷されるごとの試験片の真ひずみεtを算出する真ひずみ算出部と、真応力算出部によって算出された真応力σtおよび真ひずみ算出部によって算出された真ひずみεtに基づいて、真応力−真ひずみ曲線を示す数式(1)
【0015】
【数1】
【0016】
における計数値k1,k2を算出する計数値算出部と、計数値算出部によって算出された計数値k1,k2を代入した真応力−真ひずみ曲線を示す数式(1)にひずみ量εPを代入して当該ひずみ量εPに対応する流動応力σSを算出する流動応力算出部とを備える。
【0017】
この発明に従えば、材料シミュレーションシステムによって、材料の試験片に対して準静的ひずみ速度での引張りと停止と除荷とが繰り返されるように検力ブロック式高速材料試験機が制御され、検力ブロック式高速材料試験機が停止されるごとの試験片の真応力が算出され、検力ブロック式高速材料試験機が停止または除荷されるごとの試験片の真ひずみが算出され、算出された真応力および真ひずみに基づいて、真応力−真ひずみ曲線を示す数式(1)における計数値k1,k2が算出され、算出された計数値k1,k2を代入した真応力−真ひずみ曲線を示す数式(1)にひずみ量εPが代入されて当該ひずみ量εPに対応する流動応力σSが算出される。
【0018】
真応力を算出するためには試験片のネッキング部の最小横断面積を測定しなければならないが、ネッキング部を測定するためには引張りを一時停止する必要がある。このたび、引張りと停止と除荷とを繰り返しながら、停止されたときの真応力および停止または除荷されたときの真ひずみを算出して導出した数式(1)で示される真応力−ひずみ曲線は、停止および除荷をせずに引張りを続行した結果得られる真応力−ひずみ曲線と良好に一致して、ひずみ時効の影響は無視できる程度であることを発明者は確かめた。また、準静的ひずみ速度(たとえば、10-3(1/秒))での真破断ひずみまでの全ひずみ域の応力−ひずみ曲線が、実験材料のすべての曲線に対して、数式(1)の形で良好に表示できることを発明者は新規に見出した。また、数式(1)における指数の値n1,n2が、それぞれ、全実験材料に対してn1=0.15,n2=2.5であることを発明者は発見した。
【0019】
このため、真破断ひずみまでの全ひずみ域の真応力−真ひずみ曲線における計数値k1,k2が算出されることによって、数式(1)が用いられてひずみ量εPに対応する流動応力σSが算出される。その結果、破断ひずみを含む広いひずみ域におよぶ材料の動特性を算出することが可能な材料シミュレーションシステムを提供することができる。
【0020】
好ましくは、材料シミュレーションシステムは、制御部によって停止されたときの試験片を引っ張る引張力Pを測定する引張力測定部と、制御部によって停止または除荷されたときの試験片のネッキング部の最小横断面積Aを測定する断面積測定部とをさらに備え、真応力算出部は、引張力測定部によって測定された引張力Pを断面積測定部によって測定された最小横断面積Aで除すことによって、真応力σtを算出し、真ひずみ算出部は、試験片の変形前の横断面積A0を断面積測定部によって算出された最小横断面積Aで除したものの自然対数をとることによって、真ひずみεtを算出する。
【0021】
この発明に従えば、材料シミュレーションシステムによって、検力ブロック式高速材料試験機が停止されたときの試験片を引っ張る引張力Pが測定され、検力ブロック式高速材料試験機が停止または除荷されたときの試験片のネッキング部の最小横断面積Aが測定され、測定された引張力Pが測定された最小横断面積Aで除されることによって、真応力σtが算出され、試験片の変形前の横断面積A0が算出された最小横断面積Aで除されたものの自然対数がとられることによって、真ひずみεtが算出される。
【0022】
好ましくは、
【0023】
【数2】
【0024】
で示される数式(2)に材料の引張強さσBを代入して真破断ひずみεfを算出する真破断ひずみ算出部をさらに備え、計数値算出部は、真破断応力σfと真破断ひずみεfとの近似的に一定の関係をさらに参照して計数値k1,k2を算出する。
【0025】
この発明に従えば、材料シミュレーションシステムによって、数式(2)に材料の引張強さσBが代入されて真破断ひずみεfが算出され、真破断応力σfと真破断ひずみεfとの近似的に一定の関係がさらに参照されて計数値k1,k2が算出される。なお、引張強さσBは公称応力である。
【0026】
このたび、真破断ひずみεfが、従来の材料試験機によって計測される引張強さσBと一定の関係で近似でき、数式(2)で与えられることを発明者は発見した。
【0027】
このため、より精度よく、真破断ひずみまでの全ひずみ域の真応力−ひずみ曲線を示す数式(1)を算出することができる。
【0028】
好ましくは、
【0029】
【数3】
【0030】
で示される数式(3)に流動応力算出部によって算出された流動応力σSを代入することおよび数式(3)のパラメータ値の組合せ(この組合せは、対象とする材料グループ内の任意の材料に適用できる)を採用することによって、真破断ひずみを含む全ひずみ域で、かつ広いひずみ速度域内の任意のひずみ速度でのひずみεPに対応する応力σを算出する応力算出部をさらに備える。
【0031】
この発明に従えば、材料シミュレーションシステムによって、算出された流動応力σSが数式(3)に代入されることおよび数式(3)のパラメータ値の組合せを採用することによって、真破断ひずみを含む全ひずみ域で、かつ広いひずみ速度域内の任意のひずみ速度でのひずみεPに対応する応力σが算出される。
【0032】
このたび、すでに公表済みの数式(3)において、高ひずみ速度域を含む広いひずみ速度域で、破断ひずみを含む広いひずみ域における、鉄および鋼の材料グループの中の任意の材料に適用し得るパラメータ値の組合せを発明者は発見した。
【0033】
このため、このような数式(3)および数式(3)のパラメータ値の組合せを採用することによって、真破断ひずみを含む全ひずみ域で、かつ広いひずみ速度域内の任意のひずみ速度でのひずみεPに対する応力σが算出される。その結果、高ひずみ速度域を含む広いひずみ速度域で、破断ひずみを含む広いひずみ域におよぶ材料のシミュレーションをすることができる。
【0034】
好ましくは、応力算出部によって算出された広いひずみ速度域内の任意のひずみ速度での応力σとひずみ量εPとの関係を表現する構成モデルを用いて材料を用いた対象物の応力、ひずみおよびひずみ速度の状態を算出する対象物状態算出部をさらに備える。
【0035】
この発明に従えば、材料シミュレーションシステムによって、算出された広いひずみ速度域内の任意のひずみ速度での応力σとひずみ量εPとの関係を表現する構成モデルが用いられて材料を用いた対象物の応力、ひずみおよびひずみ速度の状態が算出される。
【0036】
このため、高ひずみ速度域を含む広いひずみ速度域で、破断ひずみを含む広いひずみ域におよぶ材料を用いた対象物のシミュレーションをすることができる。
【0037】
この発明の他の局面によれば、材料シミュレーション方法は、コンピュータが材料をシミュレーションする方法であって、材料の試験片に対して準静的ひずみ速度での引張りと停止と除荷とを繰り返すように検力ブロック式高速材料試験機を制御するステップと、検力ブロック式高速材料試験機が停止されるごとの試験片の真応力σtを算出するステップと、検力ブロック式高速材料試験機が停止または除荷されるごとの試験片の真ひずみεtを算出するステップと、算出された真応力σtおよび真ひずみεtに基づいて、真応力−真ひずみ曲線を示す数式(1)
【0038】
【数4】
【0039】
における計数値k1,k2を算出するステップと、算出された計数値k1,k2を代入した真応力−真ひずみ曲線を示す数式(1)にひずみ量εPを代入して当該ひずみ量εPに対応する流動応力σSを算出するステップとを含む。
【0040】
この発明に従えば、破断ひずみを含む広いひずみ域におよぶ材料の動特性を算出することが可能な材料シミュレーション方法を提供することができる。
【0041】
好ましくは、算出された流動応力σSを数式(3)に代入することおよび数式(3)のパラメータ値の組合せ(この組合せは、対象とする材料グループ内の任意の材料に適用できる)を採用することによって、真破断ひずみを含む全ひずみ域で、かつ広いひずみ速度域内の任意のひずみ速度でのひずみεPに対応する応力σを算出するステップをさらに含む。
【0042】
この発明に従えば、高ひずみ速度域を含む広いひずみ速度域で、破断ひずみを含む広いひずみ域におよぶ材料のシミュレーションをすることができる。
【0043】
この発明のさらに他の局面によれば、材料シミュレーションプログラムは、コンピュータに材料をシミュレーションさせるためのプログラムであって、材料の試験片に対して準静的ひずみ速度での引張りと停止と除荷とを繰り返すように検力ブロック式高速材料試験機を制御するステップと、検力ブロック式高速材料試験機が停止されるごとの試験片の真応力σtを算出するステップと、検力ブロック式高速材料試験機が停止または除荷されるごとの試験片の真ひずみεtを算出するステップと、算出された真応力σtおよび真ひずみεtに基づいて、真応力−真ひずみ曲線を示す数式(1)
【0044】
【数5】
【0045】
における計数値k1,k2を算出するステップと、算出された計数値k1,k2を代入した真応力−真ひずみ曲線を示す数式(1)にひずみ量εPを代入して当該ひずみ量εPに対応する流動応力σSを算出するステップとをコンピュータに実行させる。
【0046】
この発明に従えば、破断ひずみを含む広いひずみ域におよぶ材料の動特性を算出することが可能な材料シミュレーションプログラムを提供することができる。
【0047】
好ましくは、算出された流動応力σSを数式(3)に代入することおよび数式(3)のパラメータ値の組合せ(この組合せは、対象とする材料グループ内の任意の材料に適用できる)を採用することによって、真破断ひずみを含む全ひずみ域で、かつ広いひずみ速度域内の任意のひずみ速度でのひずみεPに対応する応力σを算出するステップをさらにコンピュータに実行させる。
【0048】
この発明に従えば、高ひずみ速度域を含む広いひずみ速度域で、破断ひずみを含む広いひずみ域におよぶ材料のシミュレーションをすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0049】
以下、この発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中の同一または相当部分については、同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0050】
また、断りのない限り応力およびひずみは、真応力および真ひずみを意味するものとする。また、上添字(p)はその量が非弾性変形と関連付けられることを示し、下添字(s)はその量が準静的ひずみ速度における値であることを表す。
【0051】
図1は、本発明の実施の形態における材料シミュレーションシステム1の機能を示す機能ブロック図である。図1を参照して、材料シミュレーションシステム1は、検力ブロック式高速材料試験機10と、その制御をする制御装置20と、材料試験の試験結果のデータを収集して処理するデータ処理装置100とを含む。
【0052】
検力ブロック式高速材料試験機10は、電気油圧サーボ式の負荷方式のアクチュエータ11と、試験片2に負荷されている荷重を計測するためのひずみゲージや試験片2の伸縮を計測するための変位センサを含むセンサ12とを含む。また、検力ブロック式高速材料試験機10に対して、試験前後の試験片2のゲージレングス部を撮影できるように、マイクロスコープ13が併設される。
【0053】
制御装置20は、オペレータによる操作や外部からの制御信号やアクチュエータ11からのフィードバック信号や予め設定された制御方法に基づいてアクチュエータ11を制御する制御部21と、外部からの制御信号を受信したり外部に制御状態などを出力する通信部22とを含む。
【0054】
アクチュエータ11は、検力ブロック式高速材料試験機に設置された材料の試験片2に引張りや圧縮の負荷を掛けることができ、所定の荷重やひずみ速度を試験片2に与えることができる。センサ12およびマイクロスコープ13は、それぞれ、試験片2の計測信号および画像信号をデータ処理部100に出力する。
【0055】
本実施の形態においては、制御部21は、材料の試験片2に対する引張りと停止と除荷とを繰り返すように予め設定された制御方法に基づいてアクチュエータ11を制御する。そして、引張り中、停止中、または、除荷中などの制御状態を示す制御状態信号が通信部22を介して、データ処理装置100に送信される。
【0056】
データ処理装置100は、CPU(Central Processing Unit)やメモリ(外部記憶装置を含む)を含みメモリに記憶されたプログラムに従ってCPUがメモリをワークエリアとしてデータの演算やメモリへの記憶を行なう制御部110と、外部から信号の入力を受付ける信号入力部130と、外部と通信するための通信部140とを含む。
【0057】
制御部110は、制御状態取得部111と、引張力測定部112と、断面積測定部113と、真応力算出部114と、真ひずみ算出部115と、真破断ひずみ算出部116と、真破断応力算出部117と、計数値算出部121と、流動応力算出部122と、応力算出部123と、対象物状態算出部124とを含む。
【0058】
制御状態取得部111は、制御装置20におけるアクチュエータ11の制御状態を取得し、取得した制御状態を引張力測定部112および断面積測定部113に出力する。
【0059】
引張力測定部112は、制御状態取得部111からの制御状態信号が停止中であることを示すときに、センサ12およびマイクロスコープ13から信号を取得する。また、引張力測定部112は、取得された信号に基づいて、試験片2を引っ張る引張力Pを算出する。つまり、引張力測定部112は、試験片2の引張りが停止されたときの引張力Pを測定する。具体的には、引張力測定部112は、均一変形終了後、破断までの変形域に対して、引張り停止ごとの引張力Pを順次、P1,P2,・・・として測定する。
【0060】
断面積測定部113は、制御状態取得部111からの制御状態信号が除荷中であることを示すときに、センサ12およびマイクロスコープ13から信号を取得する。また、断面積測定部113は、取得された信号に基づいて、試験片2のゲージレングス部のネッキング部の最小横断面積Aを算出する。つまり、断面積測定部113は、試験片2が除荷されたときの最小横断面積Aを測定する。具体的には、断面積測定部113は、均一変形終了後、破断までの変形域に対して、除荷ごとの最小横断面積Aを順次、A1,A2,・・・として測定する。なお、断面積測定部113は、試験片2の引張りが停止されたときの最小横断面積Aを測定するようにしてもよい。
【0061】
真応力算出部114は、引張力測定部112によって測定された引張力P、および、断面積測定部113によって測定された最小横断面積Aに基づいて、真応力σt(=P/A)を算出する。つまり、真応力算出部114は、試験片2の引張りが停止されるごとの試験片2の真応力σtを算出する。具体的には、真応力算出部114は、均一変形終了後、破断までの変形域に対して、引張り停止ごとの真応力σtを順次、σt1,σt2,・・・として算出する。なお、σt=P/A=σnA0/A=σn(1+εn)であるので、この数式に基づいた他の方法で真応力σtを算出するようにしてもよい。ここで、公称応力σn=P/A0、公称ひずみεn=Δl/l0=A0/A−1である。
【0062】
真ひずみ算出部115は、試験片2のゲージレングス部の変形前の横断面積A0、および、断面積測定部113によって測定された最小横断面積Aに基づいて、真ひずみεt(=ln(A0/A)を算出する。つまり、真ひずみ算出部115は、試験片2が除荷されたときの真ひずみεtを算出する。具体的には、真ひずみ算出部115は、均一変形終了後、破断までの変形域に対して、除荷ごとの真ひずみεtを順次、εt1,εt2,・・・として算出する。なお、εt=ln(l/l0)=ln(1+εn)=ln(A0/A)であるので、この数式に基づいた他の方法で真ひずみεtを算出するようにしてもよい。なお、断面積測定部113によって試験片2の引張りが停止されたときの最小横断面積Aが測定されたときには、真ひずみ算出部115は、試験片2の引張りが停止されたときの真ひずみεtを算出するようにする。
【0063】
【数6】
【0064】
図2は、真破断ひずみεfと引張強さσBとの関係のグラフを示す図である。図2を参照して、材料によらず、真破断ひずみεfと引張強さσBとについてプロットした点はほぼ数式(2)で示される曲線の近傍にあることが分かる。ここで、引張強さσBは公称応力である。
【0065】
真破断ひずみ算出部116は、数式(2)に材料の引張強さσBを代入して真破断ひずみεfを算出する。引張強さσBは、従来の材料試験機による材料試験で求められた値として、各材料グループの材料ごとに予め制御部110のメモリに記憶される。なお、オペレータによる引張強さσBの入力を受付けるようにしてもよい。
【0066】
図3は、ひずみ速度と真破断応力σfとの関係のグラフを示す図である。図3を参照して、ひずみ速度に対する真破断応力σfは、各材料ごとにほぼ一定であることが分かる。図4は、ひずみ速度と真破断ひずみεfとの関係のグラフを示す図である。図4を参照して、ひずみ速度に対する真破断ひずみεfは、各材料ごとにほぼ一定であることが分かる。図5は、真破断ひずみεfと真破断応力σfとの関係のグラフを示す図である。図3および図4で示した関係によって、真破断応力σfおよび真破断ひずみεfは、図5に示すような近似的に一定の関係があることが導出される。
【0067】
真破断応力算出部117は、図5に示す一定の関係を用いて、真破断ひずみ算出部116で算出された真破断ひずみεfから真破断応力σfを算出する。
【0068】
【数7】
【0069】
計数値算出部121は、真応力算出部114によって算出された真応力σt、および、真ひずみ算出部115によって算出された真ひずみεtに基づいて、真応力−真ひずみ曲線を示す数式(1)における計数値k1,k2を算出する。
【0070】
図6は、公称応力−公称ひずみ曲線および真応力−真ひずみ曲線のグラフを示す図である。図6を参照して、公称応力−公称ひずみ曲線においてB点に至るまでは、試験片2のゲージレングス部には、くびれが発生せずに均一に変形する。つまり、B点に至るまでの領域を均一変形域という。また、B点における応力σBを引張強さという。そして、さらに試験片2を引っ張ると、F点で試験片2は破断し、このF点を破断点という。
【0071】
この公称応力−公称ひずみ曲線における公称応力と公称ひずみとの関係を真応力と真ひずみとの関係に換算した曲線が、真応力−真ひずみ曲線である。真応力−真ひずみ曲線においてB点に対応する点はB’点である。この真応力−真ひずみ曲線を示す数式が数式(1)である。計数値算出部121は、真応力算出部114および真ひずみ算出部115によって算出された真応力σtと真ひずみεtとの組合せ(σt1,εt1),(σt2,εt2),・・・が数式(1)を満たすように、計数値k1,k2を算出する。
【0072】
なお、全実験材料に対して、n1=0.15、n2=2.5であることを発明者は見出した。また、この計数値k1,k2は、各材料ごとに一定の値となることも発明者は見出した。たとえば、SPFC590材では、k1=1050MPa,k2=208MPaである。同様に、SPFC440材では、k1=761MPa,k2=157MPa、SPCC材では、k1=630MPa,k2=150MPa、IF材では、k1=450MPa,k2=107MPa、LW(純鉄)材ではk1=420MPa,k2=69MPaである。したがって、対象の材料について、計数値k1,k2が、予め算出されている場合は、計数値算出部121は、予め算出された計数値k1,k2を読み出すようにしてもよい。
【0073】
図7は、準静的ひずみ速度域における各材料の真応力−真ひずみ曲線のグラフを示す図である。図7を参照して、SPFC590材、SPFC440材およびSPCC材のそれぞれを試験片2としたときの真応力算出部114および真ひずみ算出部115によって算出された真応力σtと真ひずみεtとの組合せ(σt1,εt1),(σt2,εt2),・・・および真応力−真ひずみ曲線である。
【0074】
また、計数値算出部121は、真破断応力算出部117および真破断ひずみ算出部116によってそれぞれ算出された真破断応力と真破断ひずみとの組合せ(σf,εf)をさらに参照して、計数値k1,k2を算出する。具体的には、計数値算出部121は、真応力σtと真ひずみεtとの組合せ(σt1,εt1),(σt2,εt2),・・・に加えて、真破断応力と真破断ひずみとの組合せ(σf,εf)が数式(1)を満たすように、計数値k1,k2を算出する。なお、本実施の形態においては、真破断応力と真破断ひずみとの組合せ(σf,εf)をさらに参照するようにするが、参照しなくてもよい。
【0075】
流動応力算出部122は、計数値算出部121によって算出された計数値k1,k2を代入した真応力−真ひずみ曲線を示す数式(1)にひずみ量εPを代入して当該ひずみ量に対応する流動応力σSを算出する。なお、σSは基準とするひずみ速度(10-3(1/s))での流動応力(均一変形域で平均の応力)である。
【0076】
【数8】
【0077】
応力算出部123は、流動応力算出部122によって算出された流動応力σSを数式(3)に代入することおよび数式(3)のパラメータ値の組合せを採用することによって真破断ひずみを含む全ひずみ域で、かつ広いひずみ速度域内の任意のひずみ速度でのひずみεPに対する応力σを算出する。なお、すでに公表済みの数式(3)において、102〜103(1/s)のオーダの高ひずみ速度域を含む10-3〜103(1/s)のオーダの広いひずみ速度域で、破断ひずみを含む広いひずみ域における、鉄および鋼の材料グループの中の任意の材料に適用し得るパラメータ値α,β,σCR,m,Bの組合せを発明者は見出した。
【0078】
図8は、LW1材の各ひずみ速度における真応力−真ひずみ曲線のグラフを示す図である。図9は、SPFC590材の各ひずみ速度における真応力−真ひずみ曲線のグラフを示す図である。図8および図9を参照して、ここでは、ひずみ速度500,100,10,1,0.001(1/s)におけるひずみεPに対する応力σのグラフを示す。
【0079】
これらの図中の太い破線(Estimated curve)が基準とするひずみ速度(10-3(1/s)での流動応力σSの算出結果であり、数式(3)にこれらの値を代入し、両材料に対して、数式(3)のパラメータ値の同じ組合せを採用して算出することにより、各ひずみ速度での真応力−真ひずみ曲線(Simulated curve)を求めた結果がこれら図中の細い破線で示されている。両図より、本発明による流動応力σSの算出法と、数式(3)にその算出結果を代入し、数式(3)のパラメータ値の組合せ(この組合せは、対象としている材料グループに属する全ての材料に適用できるもの)を採用して算出した結果が、破断ひずみを含む全ひずみ域で、かつ広いひずみ速度域での応力、ひずみおよびひずみ速度の関係が、両材料において、良好に表現(シミュレーション)できていることが確認でき、かつ、太い実線で示されている均一変形域での実測結果(Obtained curve)とも好適に一致していることがわかる。
【0080】
図10は、ひずみ速度の自然対数をとった値と流動応力との関係のグラフを示す図である。図10を参照して、数式(3)において、C=(αεP+β)(1−σS/σCR)である。
【0081】
対象物状態算出部124は、応力算出部によって算出された、広いひずみ速度域内の任意のひずみ速度での応力σとひずみ量εPとの関係を表現する構成モデル(数学モデルの一種)を用いて対象材料を用いた対象物の応力、ひずみおよびひずみ速度の状態を算出する。なお、対象物は、成形、加工や衝突解析の対象となる物である。
【0082】
ここでは、対象物状態算出部124は、データ処理装置100の制御部110に含まれるようにした。しかし、対象物状態算出部124が実行する機能は、演算負荷が大きい。このため、大型汎用コンピュータで実行され対象物の応力、ひずみおよびひずみ速度の状態を算出するソフトウェアに上述の構成モデルを組込むことによって、対象物状態算出部124の機能を実現するようにしてもよい。
【0083】
制御状態取得部111、引張力測定部112、断面積測定部113、真応力算出部114、真ひずみ算出部115、真破断ひずみ算出部116、真破断応力算出部117、計数値算出部121、流動応力算出部122、応力算出部123、および、対象物状態算出部124の機能は、電子回路などのハードウェアによってデータ処理装置100に備えられてもよいし、図11で説明するようにソフトウェアが制御部110によって実行されることによってデータ処理装置100に一時的に備えられるものであってもよい。
【0084】
図11は、本発明の実施の形態におけるデータ処理装置100で実行されるシミュレーション処理の流れを示すフローチャートである。図11を参照して、ステップS11で、制御部110は、制御装置20におけるアクチュエータ11の制御状態を取得し、取得した制御状態が試験片2の引張りの停止中であることを示すか否かを判断する。
【0085】
引張りの停止中であると判断した場合(ステップS11でYESの場合)、ステップS12で、制御部110は、センサ12およびマイクロスコープ13から信号を取得し、取得した信号に基づいて、試験片2を引っ張る引張力Pnを算出し記憶する。つまり、引張力Pnを測定し制御部110のメモリに記憶する。なお、nの初期値は1であり、Pnが算出されるごとに1ずつ加算される。
【0086】
引張りの停止中でないと判断した場合(ステップS11でNOの場合)、または、ステップS12の後、ステップS13で、制御部110は、取得した制御状態が試験片2の除荷中であることを示すか否かを判断する。
【0087】
除荷中であると判断した場合(ステップS13でYESの場合)、ステップS14で、センサ12およびマイクロスコープ13から信号を取得し、取得した信号に基づいて、試験片2のゲージレングス部のネッキング部の最小横断面積Anを算出し記憶する。つまり、最小横断面積Anを測定し制御部110のメモリに記憶する。
【0088】
除荷中でないと判断した場合(ステップS13でNOの場合)、または、ステップS14の後、ステップS15で、制御部110は、取得した制御状態が試験片2が破断したことを示すか否かを判断する。破断したことを示さないと判断した場合(ステップS15でNOの場合)、制御部110は、実行する処理をステップS11の処理に戻す。
【0089】
一方、破断したことを示すと判断した場合(ステップS15でYESの場合)、ステップS21で、制御部110は、ステップS12で記憶された引張力Pn、および、ステップS14で記憶された最小横断面積Anに基づいて、真応力σt,n(=Pn/An)を算出する。
【0090】
次に、ステップS22で、制御部110は、試験片2のゲージレングス部の変形前の横断面積A0、および、ステップS14で記憶された最小横断面積Anに基づいて、真ひずみεt,n(=ln(A0/An)を算出する。
【0091】
また、ステップS23で、制御部110は、数式(2)に材料の引張強さσBを代入して真破断ひずみεfを算出する。引張強さσBは、従来の材料試験機による材料試験で求められた値として、各材料グループの材料ごとに予め制御部110のメモリに記憶される。
【0092】
そして、ステップS24で、制御部110は、図5で示した一定の関係を用いて、ステップS23で算出された真破断ひずみεfから真破断応力σfを算出する。
【0093】
次に、ステップS25で、制御部110は、ステップS21で算出された真応力σt,nと、ステップS22で算出された真ひずみεt,nと、ステップS23で算出された真破断ひずみεfと、ステップS24で算出された真破断応力σfと基づいて、真応力−真ひずみ曲線を示す数式(1)における計数値k1,k2を算出する。
【0094】
そして、ステップS26で、制御部110は、ステップS25で算出された計数値k1,k2を代入した真応力−真ひずみ曲線を示す数式(1)にひずみ量εPを代入して当該ひずみ量に対応する流動応力σSを算出し、算出した流動応力σSを数式(3)に代入することによって各ひずみ速度でのひずみεPに対する応力σを算出する。
【0095】
最後に、ステップS27で、制御部110は、ステップS26で算出された応力σとひずみ量εPおよびひずみ速度との関係を表現する構成モデル(数学モデルの一種)を用いて、対象材料を用いた対象物の応力、ひずみおよびひずみ速度の状態を算出する。
【0096】
ここでは、ステップS27で、対象材料を用いた対象物の応力、ひずみおよびひずみ速度の状態を算出するようにした。しかし、ステップS27の処理は演算負荷が大きい。このため、大型汎用コンピュータで実行され対象物の応力、ひずみおよびひずみ速度の状態を算出するソフトウェアに上述の構成モデルを組込むことによって、ステップS27の処理を実現するようにしてもよい。
【0097】
なお、前述した実施の形態において、均一変形域に対して材料の動特性をより精度良くモデル化する場合のために、粘性項(数式(3)の右辺第3項)のより高精度な関係、および、数式(3)のパラメータの値を
【0098】
【数9】
【0099】
とすることによってさらに、均一変形域に対して、より正確にモデル化することができる。
【0100】
本実施の形態においては、材料シミュレーションシステム1の発明として説明したが、コンピュータが材料をシミュレーションする材料シミュレーション方法、および、コンピュータに材料をシミュレーションさせるための材料シミュレーションプログラムとして発明を捉えることができる。また、材料をシミュレーションするデータ処理装置100として発明を捉えることができる。
【0101】
対象物状態算出部119の構成を含まないようにしてもよい。この場合は、データ処理装置100は、あるひずみ速度におけるひずみ量εPに対応する応力σを算出する装置となり、材料シミュレーションシステム1は、あるひずみ速度におけるひずみ量εPに対応する応力σをシミュレーションするシステムとなる。
【0102】
対象物状態算出部119および応力算出部118の構成を含まないようにしてもよい。この場合は、データ処理装置100は、ひずみ量εPに対応する流動応力σSを算出する装置となり、材料シミュレーションシステム1は、ひずみ量εPに対応する流動応力σSをシミュレーションするシステムとなる。
【0103】
なお、本実施の形態においては、制御装置20およびデータ処理装置100は、別々の構成としたが、これに限定されず、1台のコンピュータに制御装置20およびデータ処理装置100の両方の機能を含むようにしてもよい。
【0104】
また、本実施の形態においては、鉄系の材料グループについて説明したが、これに限定されず、銅系、チタニウム系、アルミ系、その他の材料グループに本願発明を適用することができる。
【0105】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した説明ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0106】
【図1】本発明の実施の形態における材料シミュレーションシステムの機能を示す機能ブロック図である。
【図2】真破断ひずみと引張強さとの関係のグラフを示す図である。
【図3】ひずみ速度と真破断応力との関係のグラフを示す図である。
【図4】ひずみ速度と真破断ひずみとの関係のグラフを示す図である。
【図5】真破断ひずみと真破断応力との関係のグラフを示す図である。
【図6】公称応力−公称ひずみ曲線および真応力−真ひずみ曲線のグラフを示す図である。
【図7】準静的ひずみ速度域における各材料の真応力−真ひずみ曲線のグラフを示す図である。
【図8】LW1材の各ひずみ速度における真応力−真ひずみ曲線のグラフを示す図である。
【図9】SPFC590材の各ひずみ速度における真応力−真ひずみ曲線のグラフを示す図である。
【図10】ひずみ速度の自然対数をとった値と流動応力との関係のグラフを示す図である。
【図11】本発明の実施の形態におけるデータ処理装置で実行されるシミュレーション処理の流れを示すフローチャートである。
【図12】応力およびひずみを説明するための図である。
【図13】従来の高速材料試験装置による材料の引張試験の試験結果の応力−ひずみ曲線のグラフを示す図である。
【図14】検力ブロック式高速材料試験機で用いられる試験片の形状を示す平面図である。
【図15】検力ブロック式高速材料試験機による材料の引張試験の試験結果の応力−ひずみ曲線のグラフを示す図である。
【図16】複数のひずみ速度に対する公称応力−ひずみ曲線のグラフを示す図である。
【図17】ひずみ速度と流動応力との関係のグラフを示す図である。
【図18】検力ブロック式高速材料試験機を用いた材料の引張試験の試験結果の公称応力−ひずみ曲線のグラフを示す第1の図である。
【図19】検力ブロック式高速材料試験機を用いた材料の引張試験の試験結果の公称応力−ひずみ曲線のグラフを示す第2の図である。
【図20】検力ブロック式高速材料試験機を用いた材料の引張試験の試験結果の公称応力−ひずみ曲線のグラフを示す第3の図である。
【図21】検力ブロック式高速材料試験機を用いた材料の引張試験の試験結果の公称応力−ひずみ曲線のグラフを示す第4の図である。
【図22】検力ブロック式高速材料試験機を用いた材料の引張試験の試験結果の真応力−ひずみ曲線のグラフを示す図である。
【符号の説明】
【0107】
1 材料シミュレーションシステム、2 試験片、10 検力ブロック式高速材料試験機、11 アクチュエータ、12 センサ、13 マイクロスコープ、20 制御装置、21 制御部、22 通信部、100 データ処理装置、110 制御部、111 制御状態取得部、112 引張力測定部、113 断面積測定部、114 真応力算出部、115 真ひずみ算出部、116 真破断ひずみ算出部、117 真破断応力算出部、121 計数値算出部、122 流動応力算出部、123 応力算出部、124 対象物状態算出部、130 信号入力部、140 通信部。
【技術分野】
【0001】
本発明は、材料シミュレーションシステム、材料シミュレーション方法、および、材料シミュレーションプログラムに関し、特に、材料の成形、加工の数値シミュレーションや車両の衝突解析に適した材料シミュレーションシステム、材料シミュレーション方法、および、材料シミュレーションプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、材料の引張試験は、図12に示すように、材料引張試験機を用いて、試験片を引張力P(N)で引っ張ることによって行なわれる。ここで、試験片のゲージレングス部の変形前の長さをl0(mm)、直径をd0(mm)、断面積をA0(mm2)として、変形後の長さの変化量をΔl(mm)、直径の変化量をΔd(mm)とする。そして、破断に至るまでの応力σn(MPa)(=P/A0)やひずみεn(=Δl/l0)の変化を計測することによって、応力σnの最大値、すなわち引張強さσBなどの材料の特性を知ることができる。なお、ここでの応力σnおよびひずみεnは、それぞれ、変形前の断面積A0や長さl0で除して算出した公称応力(nominal stress)および公称ひずみ(nominal strain)である。
【0003】
あるひずみεを生じさせるのにt(秒)かかったとすると、その間の平均のひずみ速度は、ε/tで算出することができる。たとえば、ひずみε=0.3、時間t=30(秒)であれば、ひずみ速度は0.3/30=10-2(1/秒)である。また、ひずみε=0.3、時間t=0.003(秒)であれば、ひずみ速度は0.3/0.003=102(1/秒)である。
【0004】
ひずみ速度が102〜103(1/秒)のオーダの高ひずみ速度域での応力−ひずみ曲線を求める場合に、従来の高速材料引張試験装置を用いた試験結果では、図13に示すように、ひずみの立上がり時に応力が振動することがあった。
【0005】
特許文献1に示す材料試験機のような検力ブロック式高速材料試験機(たとえば、株式会社鷺宮製作所製SBTS(Sensing Block Type High Speed Material Testing System))を用いれば、図14に示すような試験片を用いることによって、高ひずみ速度域であっても、図15に示すように、ノイズが少なく高精度な応力−ひずみ曲線を得ることができる。
【0006】
また、図16の鉄や鋼の応力−ひずみ曲線で示すように、応力とひずみとの関係はひずみ速度の影響を受ける。図17に示す曲線は、あるひずみεPにおけるひずみ速度と流動応力の関係を示す。応力とひずみとの関係がひずみ速度の影響を受けることは、図18〜図22に示す曲線でも表現される。
【0007】
前述したように、通常の材料試験機では高ひずみ速度域での試験はできず、試験できるひずみ速度の範囲は、10-4〜101(1/秒)の範囲である。ところが、現実の成形、加工などにおけるひずみ速度域は、101〜105または106の範囲である。このように、通常の材料試験により得られるデータは、実際の成形、加工や衝突解析のひずみ速度の範囲とずれた範囲のデータである。
【0008】
また、中ひずみ速度域での材料試験機(油圧サーボ式材料試験機など)や高ひずみ速度域での材料試験機(ホプキンソン棒法を用いた高速材料試験装置など)を用いた材料試験によるデータは、実用上必要となる広いひずみ速度範囲で系統的にまとめられたものはなく、十分に活用される状態ではない。
【0009】
前述したような検力ブロック式高速材料試験機を用いれば、10-3から103のオーダに及ぶ広いひずみ速度域での応力−ひずみ曲線を従来にない高精度で測定できる。図18から図21までで示すグラフは、検力ブロック式高速材料試験機を用いた材料試験によって得られた複数のひずみ速度のそれぞれにおける公称応力−ひずみ曲線のグラフである。また、図22で示すグラフは、複数のひずみ速度のそれぞれにおける真応力−ひずみ曲線のグラフである。
【0010】
ここで、真応力(true stress)σtは、σt=P/A=σnA0/A=σn(1+εn)で表される。また、真ひずみ(true strain,logarithmic strain)εtは、εt=ln(l/l0)=ln(1+εn)=ln(A0/A)で表される。
【特許文献1】特開2001−59803号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
前述したように、ひずみ速度が102〜103(1/秒)のオーダの高ひずみ速度域を含むひずみ速度が10-3〜103(1/秒)のオーダの広いひずみ速度域での破断ひずみを含む広いひずみ域におよぶ材料の応力とひずみとの関係が統一的にまとめられていないため、広いひずみ域におよぶ材料の特性を算出したり、広いひずみ速度域での広いひずみ域におよぶ材料のシミュレーションを行なったりすることは困難であるといった問題があった。
【0012】
この発明は上述の問題点を解決するためになされたもので、この発明の目的の1つは、破断ひずみを含む広いひずみ域におよぶ材料の動特性を算出することが可能な材料シミュレーションシステム、材料シミュレーション方法、および、材料シミュレーションプログラムを提供することである。
【0013】
この発明の他の目的は、高ひずみ速度域を含む広いひずみ速度域で、破断ひずみを含む広いひずみ域におよぶ材料のシミュレーションをすることが可能な材料シミュレーションシステム、材料シミュレーション方法、および、材料シミュレーションプログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上述の目的を達成するために、この発明のある局面によれば、材料シミュレーションシステムは、材料の試験片に対して準静的ひずみ速度での引張りと停止と除荷とを繰り返すように検力ブロック式高速材料試験機を制御する制御部と、制御部によって停止されるごとの試験片の真応力σtを算出する真応力算出部と、制御部によって停止または除荷されるごとの試験片の真ひずみεtを算出する真ひずみ算出部と、真応力算出部によって算出された真応力σtおよび真ひずみ算出部によって算出された真ひずみεtに基づいて、真応力−真ひずみ曲線を示す数式(1)
【0015】
【数1】
【0016】
における計数値k1,k2を算出する計数値算出部と、計数値算出部によって算出された計数値k1,k2を代入した真応力−真ひずみ曲線を示す数式(1)にひずみ量εPを代入して当該ひずみ量εPに対応する流動応力σSを算出する流動応力算出部とを備える。
【0017】
この発明に従えば、材料シミュレーションシステムによって、材料の試験片に対して準静的ひずみ速度での引張りと停止と除荷とが繰り返されるように検力ブロック式高速材料試験機が制御され、検力ブロック式高速材料試験機が停止されるごとの試験片の真応力が算出され、検力ブロック式高速材料試験機が停止または除荷されるごとの試験片の真ひずみが算出され、算出された真応力および真ひずみに基づいて、真応力−真ひずみ曲線を示す数式(1)における計数値k1,k2が算出され、算出された計数値k1,k2を代入した真応力−真ひずみ曲線を示す数式(1)にひずみ量εPが代入されて当該ひずみ量εPに対応する流動応力σSが算出される。
【0018】
真応力を算出するためには試験片のネッキング部の最小横断面積を測定しなければならないが、ネッキング部を測定するためには引張りを一時停止する必要がある。このたび、引張りと停止と除荷とを繰り返しながら、停止されたときの真応力および停止または除荷されたときの真ひずみを算出して導出した数式(1)で示される真応力−ひずみ曲線は、停止および除荷をせずに引張りを続行した結果得られる真応力−ひずみ曲線と良好に一致して、ひずみ時効の影響は無視できる程度であることを発明者は確かめた。また、準静的ひずみ速度(たとえば、10-3(1/秒))での真破断ひずみまでの全ひずみ域の応力−ひずみ曲線が、実験材料のすべての曲線に対して、数式(1)の形で良好に表示できることを発明者は新規に見出した。また、数式(1)における指数の値n1,n2が、それぞれ、全実験材料に対してn1=0.15,n2=2.5であることを発明者は発見した。
【0019】
このため、真破断ひずみまでの全ひずみ域の真応力−真ひずみ曲線における計数値k1,k2が算出されることによって、数式(1)が用いられてひずみ量εPに対応する流動応力σSが算出される。その結果、破断ひずみを含む広いひずみ域におよぶ材料の動特性を算出することが可能な材料シミュレーションシステムを提供することができる。
【0020】
好ましくは、材料シミュレーションシステムは、制御部によって停止されたときの試験片を引っ張る引張力Pを測定する引張力測定部と、制御部によって停止または除荷されたときの試験片のネッキング部の最小横断面積Aを測定する断面積測定部とをさらに備え、真応力算出部は、引張力測定部によって測定された引張力Pを断面積測定部によって測定された最小横断面積Aで除すことによって、真応力σtを算出し、真ひずみ算出部は、試験片の変形前の横断面積A0を断面積測定部によって算出された最小横断面積Aで除したものの自然対数をとることによって、真ひずみεtを算出する。
【0021】
この発明に従えば、材料シミュレーションシステムによって、検力ブロック式高速材料試験機が停止されたときの試験片を引っ張る引張力Pが測定され、検力ブロック式高速材料試験機が停止または除荷されたときの試験片のネッキング部の最小横断面積Aが測定され、測定された引張力Pが測定された最小横断面積Aで除されることによって、真応力σtが算出され、試験片の変形前の横断面積A0が算出された最小横断面積Aで除されたものの自然対数がとられることによって、真ひずみεtが算出される。
【0022】
好ましくは、
【0023】
【数2】
【0024】
で示される数式(2)に材料の引張強さσBを代入して真破断ひずみεfを算出する真破断ひずみ算出部をさらに備え、計数値算出部は、真破断応力σfと真破断ひずみεfとの近似的に一定の関係をさらに参照して計数値k1,k2を算出する。
【0025】
この発明に従えば、材料シミュレーションシステムによって、数式(2)に材料の引張強さσBが代入されて真破断ひずみεfが算出され、真破断応力σfと真破断ひずみεfとの近似的に一定の関係がさらに参照されて計数値k1,k2が算出される。なお、引張強さσBは公称応力である。
【0026】
このたび、真破断ひずみεfが、従来の材料試験機によって計測される引張強さσBと一定の関係で近似でき、数式(2)で与えられることを発明者は発見した。
【0027】
このため、より精度よく、真破断ひずみまでの全ひずみ域の真応力−ひずみ曲線を示す数式(1)を算出することができる。
【0028】
好ましくは、
【0029】
【数3】
【0030】
で示される数式(3)に流動応力算出部によって算出された流動応力σSを代入することおよび数式(3)のパラメータ値の組合せ(この組合せは、対象とする材料グループ内の任意の材料に適用できる)を採用することによって、真破断ひずみを含む全ひずみ域で、かつ広いひずみ速度域内の任意のひずみ速度でのひずみεPに対応する応力σを算出する応力算出部をさらに備える。
【0031】
この発明に従えば、材料シミュレーションシステムによって、算出された流動応力σSが数式(3)に代入されることおよび数式(3)のパラメータ値の組合せを採用することによって、真破断ひずみを含む全ひずみ域で、かつ広いひずみ速度域内の任意のひずみ速度でのひずみεPに対応する応力σが算出される。
【0032】
このたび、すでに公表済みの数式(3)において、高ひずみ速度域を含む広いひずみ速度域で、破断ひずみを含む広いひずみ域における、鉄および鋼の材料グループの中の任意の材料に適用し得るパラメータ値の組合せを発明者は発見した。
【0033】
このため、このような数式(3)および数式(3)のパラメータ値の組合せを採用することによって、真破断ひずみを含む全ひずみ域で、かつ広いひずみ速度域内の任意のひずみ速度でのひずみεPに対する応力σが算出される。その結果、高ひずみ速度域を含む広いひずみ速度域で、破断ひずみを含む広いひずみ域におよぶ材料のシミュレーションをすることができる。
【0034】
好ましくは、応力算出部によって算出された広いひずみ速度域内の任意のひずみ速度での応力σとひずみ量εPとの関係を表現する構成モデルを用いて材料を用いた対象物の応力、ひずみおよびひずみ速度の状態を算出する対象物状態算出部をさらに備える。
【0035】
この発明に従えば、材料シミュレーションシステムによって、算出された広いひずみ速度域内の任意のひずみ速度での応力σとひずみ量εPとの関係を表現する構成モデルが用いられて材料を用いた対象物の応力、ひずみおよびひずみ速度の状態が算出される。
【0036】
このため、高ひずみ速度域を含む広いひずみ速度域で、破断ひずみを含む広いひずみ域におよぶ材料を用いた対象物のシミュレーションをすることができる。
【0037】
この発明の他の局面によれば、材料シミュレーション方法は、コンピュータが材料をシミュレーションする方法であって、材料の試験片に対して準静的ひずみ速度での引張りと停止と除荷とを繰り返すように検力ブロック式高速材料試験機を制御するステップと、検力ブロック式高速材料試験機が停止されるごとの試験片の真応力σtを算出するステップと、検力ブロック式高速材料試験機が停止または除荷されるごとの試験片の真ひずみεtを算出するステップと、算出された真応力σtおよび真ひずみεtに基づいて、真応力−真ひずみ曲線を示す数式(1)
【0038】
【数4】
【0039】
における計数値k1,k2を算出するステップと、算出された計数値k1,k2を代入した真応力−真ひずみ曲線を示す数式(1)にひずみ量εPを代入して当該ひずみ量εPに対応する流動応力σSを算出するステップとを含む。
【0040】
この発明に従えば、破断ひずみを含む広いひずみ域におよぶ材料の動特性を算出することが可能な材料シミュレーション方法を提供することができる。
【0041】
好ましくは、算出された流動応力σSを数式(3)に代入することおよび数式(3)のパラメータ値の組合せ(この組合せは、対象とする材料グループ内の任意の材料に適用できる)を採用することによって、真破断ひずみを含む全ひずみ域で、かつ広いひずみ速度域内の任意のひずみ速度でのひずみεPに対応する応力σを算出するステップをさらに含む。
【0042】
この発明に従えば、高ひずみ速度域を含む広いひずみ速度域で、破断ひずみを含む広いひずみ域におよぶ材料のシミュレーションをすることができる。
【0043】
この発明のさらに他の局面によれば、材料シミュレーションプログラムは、コンピュータに材料をシミュレーションさせるためのプログラムであって、材料の試験片に対して準静的ひずみ速度での引張りと停止と除荷とを繰り返すように検力ブロック式高速材料試験機を制御するステップと、検力ブロック式高速材料試験機が停止されるごとの試験片の真応力σtを算出するステップと、検力ブロック式高速材料試験機が停止または除荷されるごとの試験片の真ひずみεtを算出するステップと、算出された真応力σtおよび真ひずみεtに基づいて、真応力−真ひずみ曲線を示す数式(1)
【0044】
【数5】
【0045】
における計数値k1,k2を算出するステップと、算出された計数値k1,k2を代入した真応力−真ひずみ曲線を示す数式(1)にひずみ量εPを代入して当該ひずみ量εPに対応する流動応力σSを算出するステップとをコンピュータに実行させる。
【0046】
この発明に従えば、破断ひずみを含む広いひずみ域におよぶ材料の動特性を算出することが可能な材料シミュレーションプログラムを提供することができる。
【0047】
好ましくは、算出された流動応力σSを数式(3)に代入することおよび数式(3)のパラメータ値の組合せ(この組合せは、対象とする材料グループ内の任意の材料に適用できる)を採用することによって、真破断ひずみを含む全ひずみ域で、かつ広いひずみ速度域内の任意のひずみ速度でのひずみεPに対応する応力σを算出するステップをさらにコンピュータに実行させる。
【0048】
この発明に従えば、高ひずみ速度域を含む広いひずみ速度域で、破断ひずみを含む広いひずみ域におよぶ材料のシミュレーションをすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0049】
以下、この発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中の同一または相当部分については、同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0050】
また、断りのない限り応力およびひずみは、真応力および真ひずみを意味するものとする。また、上添字(p)はその量が非弾性変形と関連付けられることを示し、下添字(s)はその量が準静的ひずみ速度における値であることを表す。
【0051】
図1は、本発明の実施の形態における材料シミュレーションシステム1の機能を示す機能ブロック図である。図1を参照して、材料シミュレーションシステム1は、検力ブロック式高速材料試験機10と、その制御をする制御装置20と、材料試験の試験結果のデータを収集して処理するデータ処理装置100とを含む。
【0052】
検力ブロック式高速材料試験機10は、電気油圧サーボ式の負荷方式のアクチュエータ11と、試験片2に負荷されている荷重を計測するためのひずみゲージや試験片2の伸縮を計測するための変位センサを含むセンサ12とを含む。また、検力ブロック式高速材料試験機10に対して、試験前後の試験片2のゲージレングス部を撮影できるように、マイクロスコープ13が併設される。
【0053】
制御装置20は、オペレータによる操作や外部からの制御信号やアクチュエータ11からのフィードバック信号や予め設定された制御方法に基づいてアクチュエータ11を制御する制御部21と、外部からの制御信号を受信したり外部に制御状態などを出力する通信部22とを含む。
【0054】
アクチュエータ11は、検力ブロック式高速材料試験機に設置された材料の試験片2に引張りや圧縮の負荷を掛けることができ、所定の荷重やひずみ速度を試験片2に与えることができる。センサ12およびマイクロスコープ13は、それぞれ、試験片2の計測信号および画像信号をデータ処理部100に出力する。
【0055】
本実施の形態においては、制御部21は、材料の試験片2に対する引張りと停止と除荷とを繰り返すように予め設定された制御方法に基づいてアクチュエータ11を制御する。そして、引張り中、停止中、または、除荷中などの制御状態を示す制御状態信号が通信部22を介して、データ処理装置100に送信される。
【0056】
データ処理装置100は、CPU(Central Processing Unit)やメモリ(外部記憶装置を含む)を含みメモリに記憶されたプログラムに従ってCPUがメモリをワークエリアとしてデータの演算やメモリへの記憶を行なう制御部110と、外部から信号の入力を受付ける信号入力部130と、外部と通信するための通信部140とを含む。
【0057】
制御部110は、制御状態取得部111と、引張力測定部112と、断面積測定部113と、真応力算出部114と、真ひずみ算出部115と、真破断ひずみ算出部116と、真破断応力算出部117と、計数値算出部121と、流動応力算出部122と、応力算出部123と、対象物状態算出部124とを含む。
【0058】
制御状態取得部111は、制御装置20におけるアクチュエータ11の制御状態を取得し、取得した制御状態を引張力測定部112および断面積測定部113に出力する。
【0059】
引張力測定部112は、制御状態取得部111からの制御状態信号が停止中であることを示すときに、センサ12およびマイクロスコープ13から信号を取得する。また、引張力測定部112は、取得された信号に基づいて、試験片2を引っ張る引張力Pを算出する。つまり、引張力測定部112は、試験片2の引張りが停止されたときの引張力Pを測定する。具体的には、引張力測定部112は、均一変形終了後、破断までの変形域に対して、引張り停止ごとの引張力Pを順次、P1,P2,・・・として測定する。
【0060】
断面積測定部113は、制御状態取得部111からの制御状態信号が除荷中であることを示すときに、センサ12およびマイクロスコープ13から信号を取得する。また、断面積測定部113は、取得された信号に基づいて、試験片2のゲージレングス部のネッキング部の最小横断面積Aを算出する。つまり、断面積測定部113は、試験片2が除荷されたときの最小横断面積Aを測定する。具体的には、断面積測定部113は、均一変形終了後、破断までの変形域に対して、除荷ごとの最小横断面積Aを順次、A1,A2,・・・として測定する。なお、断面積測定部113は、試験片2の引張りが停止されたときの最小横断面積Aを測定するようにしてもよい。
【0061】
真応力算出部114は、引張力測定部112によって測定された引張力P、および、断面積測定部113によって測定された最小横断面積Aに基づいて、真応力σt(=P/A)を算出する。つまり、真応力算出部114は、試験片2の引張りが停止されるごとの試験片2の真応力σtを算出する。具体的には、真応力算出部114は、均一変形終了後、破断までの変形域に対して、引張り停止ごとの真応力σtを順次、σt1,σt2,・・・として算出する。なお、σt=P/A=σnA0/A=σn(1+εn)であるので、この数式に基づいた他の方法で真応力σtを算出するようにしてもよい。ここで、公称応力σn=P/A0、公称ひずみεn=Δl/l0=A0/A−1である。
【0062】
真ひずみ算出部115は、試験片2のゲージレングス部の変形前の横断面積A0、および、断面積測定部113によって測定された最小横断面積Aに基づいて、真ひずみεt(=ln(A0/A)を算出する。つまり、真ひずみ算出部115は、試験片2が除荷されたときの真ひずみεtを算出する。具体的には、真ひずみ算出部115は、均一変形終了後、破断までの変形域に対して、除荷ごとの真ひずみεtを順次、εt1,εt2,・・・として算出する。なお、εt=ln(l/l0)=ln(1+εn)=ln(A0/A)であるので、この数式に基づいた他の方法で真ひずみεtを算出するようにしてもよい。なお、断面積測定部113によって試験片2の引張りが停止されたときの最小横断面積Aが測定されたときには、真ひずみ算出部115は、試験片2の引張りが停止されたときの真ひずみεtを算出するようにする。
【0063】
【数6】
【0064】
図2は、真破断ひずみεfと引張強さσBとの関係のグラフを示す図である。図2を参照して、材料によらず、真破断ひずみεfと引張強さσBとについてプロットした点はほぼ数式(2)で示される曲線の近傍にあることが分かる。ここで、引張強さσBは公称応力である。
【0065】
真破断ひずみ算出部116は、数式(2)に材料の引張強さσBを代入して真破断ひずみεfを算出する。引張強さσBは、従来の材料試験機による材料試験で求められた値として、各材料グループの材料ごとに予め制御部110のメモリに記憶される。なお、オペレータによる引張強さσBの入力を受付けるようにしてもよい。
【0066】
図3は、ひずみ速度と真破断応力σfとの関係のグラフを示す図である。図3を参照して、ひずみ速度に対する真破断応力σfは、各材料ごとにほぼ一定であることが分かる。図4は、ひずみ速度と真破断ひずみεfとの関係のグラフを示す図である。図4を参照して、ひずみ速度に対する真破断ひずみεfは、各材料ごとにほぼ一定であることが分かる。図5は、真破断ひずみεfと真破断応力σfとの関係のグラフを示す図である。図3および図4で示した関係によって、真破断応力σfおよび真破断ひずみεfは、図5に示すような近似的に一定の関係があることが導出される。
【0067】
真破断応力算出部117は、図5に示す一定の関係を用いて、真破断ひずみ算出部116で算出された真破断ひずみεfから真破断応力σfを算出する。
【0068】
【数7】
【0069】
計数値算出部121は、真応力算出部114によって算出された真応力σt、および、真ひずみ算出部115によって算出された真ひずみεtに基づいて、真応力−真ひずみ曲線を示す数式(1)における計数値k1,k2を算出する。
【0070】
図6は、公称応力−公称ひずみ曲線および真応力−真ひずみ曲線のグラフを示す図である。図6を参照して、公称応力−公称ひずみ曲線においてB点に至るまでは、試験片2のゲージレングス部には、くびれが発生せずに均一に変形する。つまり、B点に至るまでの領域を均一変形域という。また、B点における応力σBを引張強さという。そして、さらに試験片2を引っ張ると、F点で試験片2は破断し、このF点を破断点という。
【0071】
この公称応力−公称ひずみ曲線における公称応力と公称ひずみとの関係を真応力と真ひずみとの関係に換算した曲線が、真応力−真ひずみ曲線である。真応力−真ひずみ曲線においてB点に対応する点はB’点である。この真応力−真ひずみ曲線を示す数式が数式(1)である。計数値算出部121は、真応力算出部114および真ひずみ算出部115によって算出された真応力σtと真ひずみεtとの組合せ(σt1,εt1),(σt2,εt2),・・・が数式(1)を満たすように、計数値k1,k2を算出する。
【0072】
なお、全実験材料に対して、n1=0.15、n2=2.5であることを発明者は見出した。また、この計数値k1,k2は、各材料ごとに一定の値となることも発明者は見出した。たとえば、SPFC590材では、k1=1050MPa,k2=208MPaである。同様に、SPFC440材では、k1=761MPa,k2=157MPa、SPCC材では、k1=630MPa,k2=150MPa、IF材では、k1=450MPa,k2=107MPa、LW(純鉄)材ではk1=420MPa,k2=69MPaである。したがって、対象の材料について、計数値k1,k2が、予め算出されている場合は、計数値算出部121は、予め算出された計数値k1,k2を読み出すようにしてもよい。
【0073】
図7は、準静的ひずみ速度域における各材料の真応力−真ひずみ曲線のグラフを示す図である。図7を参照して、SPFC590材、SPFC440材およびSPCC材のそれぞれを試験片2としたときの真応力算出部114および真ひずみ算出部115によって算出された真応力σtと真ひずみεtとの組合せ(σt1,εt1),(σt2,εt2),・・・および真応力−真ひずみ曲線である。
【0074】
また、計数値算出部121は、真破断応力算出部117および真破断ひずみ算出部116によってそれぞれ算出された真破断応力と真破断ひずみとの組合せ(σf,εf)をさらに参照して、計数値k1,k2を算出する。具体的には、計数値算出部121は、真応力σtと真ひずみεtとの組合せ(σt1,εt1),(σt2,εt2),・・・に加えて、真破断応力と真破断ひずみとの組合せ(σf,εf)が数式(1)を満たすように、計数値k1,k2を算出する。なお、本実施の形態においては、真破断応力と真破断ひずみとの組合せ(σf,εf)をさらに参照するようにするが、参照しなくてもよい。
【0075】
流動応力算出部122は、計数値算出部121によって算出された計数値k1,k2を代入した真応力−真ひずみ曲線を示す数式(1)にひずみ量εPを代入して当該ひずみ量に対応する流動応力σSを算出する。なお、σSは基準とするひずみ速度(10-3(1/s))での流動応力(均一変形域で平均の応力)である。
【0076】
【数8】
【0077】
応力算出部123は、流動応力算出部122によって算出された流動応力σSを数式(3)に代入することおよび数式(3)のパラメータ値の組合せを採用することによって真破断ひずみを含む全ひずみ域で、かつ広いひずみ速度域内の任意のひずみ速度でのひずみεPに対する応力σを算出する。なお、すでに公表済みの数式(3)において、102〜103(1/s)のオーダの高ひずみ速度域を含む10-3〜103(1/s)のオーダの広いひずみ速度域で、破断ひずみを含む広いひずみ域における、鉄および鋼の材料グループの中の任意の材料に適用し得るパラメータ値α,β,σCR,m,Bの組合せを発明者は見出した。
【0078】
図8は、LW1材の各ひずみ速度における真応力−真ひずみ曲線のグラフを示す図である。図9は、SPFC590材の各ひずみ速度における真応力−真ひずみ曲線のグラフを示す図である。図8および図9を参照して、ここでは、ひずみ速度500,100,10,1,0.001(1/s)におけるひずみεPに対する応力σのグラフを示す。
【0079】
これらの図中の太い破線(Estimated curve)が基準とするひずみ速度(10-3(1/s)での流動応力σSの算出結果であり、数式(3)にこれらの値を代入し、両材料に対して、数式(3)のパラメータ値の同じ組合せを採用して算出することにより、各ひずみ速度での真応力−真ひずみ曲線(Simulated curve)を求めた結果がこれら図中の細い破線で示されている。両図より、本発明による流動応力σSの算出法と、数式(3)にその算出結果を代入し、数式(3)のパラメータ値の組合せ(この組合せは、対象としている材料グループに属する全ての材料に適用できるもの)を採用して算出した結果が、破断ひずみを含む全ひずみ域で、かつ広いひずみ速度域での応力、ひずみおよびひずみ速度の関係が、両材料において、良好に表現(シミュレーション)できていることが確認でき、かつ、太い実線で示されている均一変形域での実測結果(Obtained curve)とも好適に一致していることがわかる。
【0080】
図10は、ひずみ速度の自然対数をとった値と流動応力との関係のグラフを示す図である。図10を参照して、数式(3)において、C=(αεP+β)(1−σS/σCR)である。
【0081】
対象物状態算出部124は、応力算出部によって算出された、広いひずみ速度域内の任意のひずみ速度での応力σとひずみ量εPとの関係を表現する構成モデル(数学モデルの一種)を用いて対象材料を用いた対象物の応力、ひずみおよびひずみ速度の状態を算出する。なお、対象物は、成形、加工や衝突解析の対象となる物である。
【0082】
ここでは、対象物状態算出部124は、データ処理装置100の制御部110に含まれるようにした。しかし、対象物状態算出部124が実行する機能は、演算負荷が大きい。このため、大型汎用コンピュータで実行され対象物の応力、ひずみおよびひずみ速度の状態を算出するソフトウェアに上述の構成モデルを組込むことによって、対象物状態算出部124の機能を実現するようにしてもよい。
【0083】
制御状態取得部111、引張力測定部112、断面積測定部113、真応力算出部114、真ひずみ算出部115、真破断ひずみ算出部116、真破断応力算出部117、計数値算出部121、流動応力算出部122、応力算出部123、および、対象物状態算出部124の機能は、電子回路などのハードウェアによってデータ処理装置100に備えられてもよいし、図11で説明するようにソフトウェアが制御部110によって実行されることによってデータ処理装置100に一時的に備えられるものであってもよい。
【0084】
図11は、本発明の実施の形態におけるデータ処理装置100で実行されるシミュレーション処理の流れを示すフローチャートである。図11を参照して、ステップS11で、制御部110は、制御装置20におけるアクチュエータ11の制御状態を取得し、取得した制御状態が試験片2の引張りの停止中であることを示すか否かを判断する。
【0085】
引張りの停止中であると判断した場合(ステップS11でYESの場合)、ステップS12で、制御部110は、センサ12およびマイクロスコープ13から信号を取得し、取得した信号に基づいて、試験片2を引っ張る引張力Pnを算出し記憶する。つまり、引張力Pnを測定し制御部110のメモリに記憶する。なお、nの初期値は1であり、Pnが算出されるごとに1ずつ加算される。
【0086】
引張りの停止中でないと判断した場合(ステップS11でNOの場合)、または、ステップS12の後、ステップS13で、制御部110は、取得した制御状態が試験片2の除荷中であることを示すか否かを判断する。
【0087】
除荷中であると判断した場合(ステップS13でYESの場合)、ステップS14で、センサ12およびマイクロスコープ13から信号を取得し、取得した信号に基づいて、試験片2のゲージレングス部のネッキング部の最小横断面積Anを算出し記憶する。つまり、最小横断面積Anを測定し制御部110のメモリに記憶する。
【0088】
除荷中でないと判断した場合(ステップS13でNOの場合)、または、ステップS14の後、ステップS15で、制御部110は、取得した制御状態が試験片2が破断したことを示すか否かを判断する。破断したことを示さないと判断した場合(ステップS15でNOの場合)、制御部110は、実行する処理をステップS11の処理に戻す。
【0089】
一方、破断したことを示すと判断した場合(ステップS15でYESの場合)、ステップS21で、制御部110は、ステップS12で記憶された引張力Pn、および、ステップS14で記憶された最小横断面積Anに基づいて、真応力σt,n(=Pn/An)を算出する。
【0090】
次に、ステップS22で、制御部110は、試験片2のゲージレングス部の変形前の横断面積A0、および、ステップS14で記憶された最小横断面積Anに基づいて、真ひずみεt,n(=ln(A0/An)を算出する。
【0091】
また、ステップS23で、制御部110は、数式(2)に材料の引張強さσBを代入して真破断ひずみεfを算出する。引張強さσBは、従来の材料試験機による材料試験で求められた値として、各材料グループの材料ごとに予め制御部110のメモリに記憶される。
【0092】
そして、ステップS24で、制御部110は、図5で示した一定の関係を用いて、ステップS23で算出された真破断ひずみεfから真破断応力σfを算出する。
【0093】
次に、ステップS25で、制御部110は、ステップS21で算出された真応力σt,nと、ステップS22で算出された真ひずみεt,nと、ステップS23で算出された真破断ひずみεfと、ステップS24で算出された真破断応力σfと基づいて、真応力−真ひずみ曲線を示す数式(1)における計数値k1,k2を算出する。
【0094】
そして、ステップS26で、制御部110は、ステップS25で算出された計数値k1,k2を代入した真応力−真ひずみ曲線を示す数式(1)にひずみ量εPを代入して当該ひずみ量に対応する流動応力σSを算出し、算出した流動応力σSを数式(3)に代入することによって各ひずみ速度でのひずみεPに対する応力σを算出する。
【0095】
最後に、ステップS27で、制御部110は、ステップS26で算出された応力σとひずみ量εPおよびひずみ速度との関係を表現する構成モデル(数学モデルの一種)を用いて、対象材料を用いた対象物の応力、ひずみおよびひずみ速度の状態を算出する。
【0096】
ここでは、ステップS27で、対象材料を用いた対象物の応力、ひずみおよびひずみ速度の状態を算出するようにした。しかし、ステップS27の処理は演算負荷が大きい。このため、大型汎用コンピュータで実行され対象物の応力、ひずみおよびひずみ速度の状態を算出するソフトウェアに上述の構成モデルを組込むことによって、ステップS27の処理を実現するようにしてもよい。
【0097】
なお、前述した実施の形態において、均一変形域に対して材料の動特性をより精度良くモデル化する場合のために、粘性項(数式(3)の右辺第3項)のより高精度な関係、および、数式(3)のパラメータの値を
【0098】
【数9】
【0099】
とすることによってさらに、均一変形域に対して、より正確にモデル化することができる。
【0100】
本実施の形態においては、材料シミュレーションシステム1の発明として説明したが、コンピュータが材料をシミュレーションする材料シミュレーション方法、および、コンピュータに材料をシミュレーションさせるための材料シミュレーションプログラムとして発明を捉えることができる。また、材料をシミュレーションするデータ処理装置100として発明を捉えることができる。
【0101】
対象物状態算出部119の構成を含まないようにしてもよい。この場合は、データ処理装置100は、あるひずみ速度におけるひずみ量εPに対応する応力σを算出する装置となり、材料シミュレーションシステム1は、あるひずみ速度におけるひずみ量εPに対応する応力σをシミュレーションするシステムとなる。
【0102】
対象物状態算出部119および応力算出部118の構成を含まないようにしてもよい。この場合は、データ処理装置100は、ひずみ量εPに対応する流動応力σSを算出する装置となり、材料シミュレーションシステム1は、ひずみ量εPに対応する流動応力σSをシミュレーションするシステムとなる。
【0103】
なお、本実施の形態においては、制御装置20およびデータ処理装置100は、別々の構成としたが、これに限定されず、1台のコンピュータに制御装置20およびデータ処理装置100の両方の機能を含むようにしてもよい。
【0104】
また、本実施の形態においては、鉄系の材料グループについて説明したが、これに限定されず、銅系、チタニウム系、アルミ系、その他の材料グループに本願発明を適用することができる。
【0105】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した説明ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0106】
【図1】本発明の実施の形態における材料シミュレーションシステムの機能を示す機能ブロック図である。
【図2】真破断ひずみと引張強さとの関係のグラフを示す図である。
【図3】ひずみ速度と真破断応力との関係のグラフを示す図である。
【図4】ひずみ速度と真破断ひずみとの関係のグラフを示す図である。
【図5】真破断ひずみと真破断応力との関係のグラフを示す図である。
【図6】公称応力−公称ひずみ曲線および真応力−真ひずみ曲線のグラフを示す図である。
【図7】準静的ひずみ速度域における各材料の真応力−真ひずみ曲線のグラフを示す図である。
【図8】LW1材の各ひずみ速度における真応力−真ひずみ曲線のグラフを示す図である。
【図9】SPFC590材の各ひずみ速度における真応力−真ひずみ曲線のグラフを示す図である。
【図10】ひずみ速度の自然対数をとった値と流動応力との関係のグラフを示す図である。
【図11】本発明の実施の形態におけるデータ処理装置で実行されるシミュレーション処理の流れを示すフローチャートである。
【図12】応力およびひずみを説明するための図である。
【図13】従来の高速材料試験装置による材料の引張試験の試験結果の応力−ひずみ曲線のグラフを示す図である。
【図14】検力ブロック式高速材料試験機で用いられる試験片の形状を示す平面図である。
【図15】検力ブロック式高速材料試験機による材料の引張試験の試験結果の応力−ひずみ曲線のグラフを示す図である。
【図16】複数のひずみ速度に対する公称応力−ひずみ曲線のグラフを示す図である。
【図17】ひずみ速度と流動応力との関係のグラフを示す図である。
【図18】検力ブロック式高速材料試験機を用いた材料の引張試験の試験結果の公称応力−ひずみ曲線のグラフを示す第1の図である。
【図19】検力ブロック式高速材料試験機を用いた材料の引張試験の試験結果の公称応力−ひずみ曲線のグラフを示す第2の図である。
【図20】検力ブロック式高速材料試験機を用いた材料の引張試験の試験結果の公称応力−ひずみ曲線のグラフを示す第3の図である。
【図21】検力ブロック式高速材料試験機を用いた材料の引張試験の試験結果の公称応力−ひずみ曲線のグラフを示す第4の図である。
【図22】検力ブロック式高速材料試験機を用いた材料の引張試験の試験結果の真応力−ひずみ曲線のグラフを示す図である。
【符号の説明】
【0107】
1 材料シミュレーションシステム、2 試験片、10 検力ブロック式高速材料試験機、11 アクチュエータ、12 センサ、13 マイクロスコープ、20 制御装置、21 制御部、22 通信部、100 データ処理装置、110 制御部、111 制御状態取得部、112 引張力測定部、113 断面積測定部、114 真応力算出部、115 真ひずみ算出部、116 真破断ひずみ算出部、117 真破断応力算出部、121 計数値算出部、122 流動応力算出部、123 応力算出部、124 対象物状態算出部、130 信号入力部、140 通信部。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
材料の試験片に対して準静的ひずみ速度での引張りと停止と除荷とを繰り返すように検力ブロック式高速材料試験機を制御する制御手段と、
前記制御手段によって停止されるごとの前記試験片の真応力σtを算出する真応力算出手段と、
前記制御手段によって停止または除荷されるごとの前記試験片の真ひずみεtを算出する真ひずみ算出手段と、
前記真応力算出手段によって算出された前記真応力σtおよび前記真ひずみ算出手段によって算出された前記真ひずみεtに基づいて、真応力−真ひずみ曲線を示す数式(1)
【数1】
における計数値k1,k2を算出する計数値算出手段と、
前記計数値算出手段によって算出された前記計数値k1,k2を代入した前記真応力−真ひずみ曲線を示す数式(1)にひずみ量εPを代入して当該ひずみ量εPに対応する流動応力σSを算出する流動応力算出手段とを備える、材料シミュレーションシステム。
【請求項2】
前記材料シミュレーションシステムは、
前記制御手段によって停止されたときの前記試験片を引っ張る引張力Pを測定する引張力測定手段と、
前記制御手段によって停止または除荷されたときの前記試験片のネッキング部の最小横断面積Aを測定する断面積測定手段とをさらに備え、
前記真応力算出手段は、前記引張力測定手段によって測定された引張力Pを前記断面積測定手段によって測定された最小横断面積Aで除すことによって、前記真応力σtを算出し、
前記真ひずみ算出手段は、前記試験片の変形前の横断面積A0を前記断面積測定手段によって算出された最小横断面積Aで除したものの自然対数をとることによって、前記真ひずみεtを算出する、請求項1に記載の材料シミュレーションシステム。
【請求項3】
【数2】
で示される数式(2)に材料の引張強さσBを代入して真破断ひずみεfを算出する真破断ひずみ算出手段をさらに備え、
前記計数値算出手段は、真破断応力σfと前記真破断ひずみεfとの近似的に一定の関係をさらに参照して前記計数値k1,k2を算出する、請求項1または請求項2に記載の材料シミュレーションシステム。
【請求項4】
【数3】
で示される数式(3)に前記流動応力算出手段によって算出された流動応力σSを代入することおよび数式(3)のパラメータ値の組合せを採用することによって、真破断ひずみを含む全ひずみ域で、かつ広いひずみ速度域内の任意のひずみ速度でのひずみεPに対応する応力σを算出する応力算出手段をさらに備える、請求項1から請求項3までのいずれかに記載の材料シミュレーションシステム。
【請求項5】
前記応力算出手段によって算出される広いひずみ速度域内の任意のひずみ速度での応力σとひずみ量εPとの関係を表現する構成モデルを用いて前記材料を用いた対象物の応力、ひずみおよびひずみ速度の状態を算出する対象物状態算出手段をさらに備える、請求項4に記載の材料シミュレーションシステム。
【請求項6】
コンピュータが材料をシミュレーションする材料シミュレーション方法であって、
前記材料の試験片に対して準静的ひずみ速度での引張りと停止と除荷とを繰り返すように検力ブロック式高速材料試験機を制御するステップと、
前記検力ブロック式高速材料試験機が停止されるごとの前記試験片の真応力σtを算出するステップと、
前記検力ブロック式高速材料試験機が停止または除荷されるごとの前記試験片の真ひずみεtを算出するステップと、
算出された前記真応力σtおよび前記真ひずみεtに基づいて、真応力−真ひずみ曲線を示す数式(1)
【数4】
における計数値k1,k2を算出するステップと、
算出された前記計数値k1,k2を代入した前記真応力−真ひずみ曲線を示す数式(1)にひずみ量εPを代入して当該ひずみ量εPに対応する流動応力σSを算出するステップとを含む、材料シミュレーション方法。
【請求項7】
【数5】
で示される数式(3)に、算出された流動応力σSを代入することおよび対象とする材料グループ内の任意の材料に適用できる数式(3)のパラメータ値の組合せを採用することによって、真破断ひずみを含む全ひずみ域で、かつ広いひずみ速度域内の任意のひずみ速度でのひずみεPに対応する応力σを算出するステップをさらに含む、請求項6に記載の材料シミュレーション方法。
【請求項8】
コンピュータに材料をシミュレーションさせるための材料シミュレーションプログラムであって、
前記材料の試験片に対して準静的ひずみ速度での引張りと停止と除荷とを繰り返すように検力ブロック式高速材料試験機を制御するステップと、
前記検力ブロック式高速材料試験機が停止されるごとの前記試験片の真応力σtを算出するステップと、
前記検力ブロック式高速材料試験機が停止または除荷されるごとの前記試験片の真ひずみεtを算出するステップと、
算出された前記真応力σtおよび前記真ひずみεtに基づいて、真応力−真ひずみ曲線を示す数式(1)
【数6】
における計数値k1,k2を算出するステップと、
算出された前記計数値k1,k2を代入した前記真応力−真ひずみ曲線を示す数式(1)にひずみ量εPを代入して当該ひずみ量εPに対応する流動応力σSを算出するステップとを前記コンピュータに実行させる、材料シミュレーションプログラム。
【請求項9】
【数7】
で示される数式(3)に、算出された流動応力σSを代入することおよび対象とする材料グループ内の任意の材料に適用できる数式(3)のパラメータ値の組合せを採用することによって、真破断ひずみを含む全ひずみ域で、かつ広いひずみ速度域内の任意のひずみ速度でのひずみεPに対応する応力σを算出するステップをさらに前記コンピュータに実行させる、請求項8に記載の材料シミュレーションプログラム。
【請求項1】
材料の試験片に対して準静的ひずみ速度での引張りと停止と除荷とを繰り返すように検力ブロック式高速材料試験機を制御する制御手段と、
前記制御手段によって停止されるごとの前記試験片の真応力σtを算出する真応力算出手段と、
前記制御手段によって停止または除荷されるごとの前記試験片の真ひずみεtを算出する真ひずみ算出手段と、
前記真応力算出手段によって算出された前記真応力σtおよび前記真ひずみ算出手段によって算出された前記真ひずみεtに基づいて、真応力−真ひずみ曲線を示す数式(1)
【数1】
における計数値k1,k2を算出する計数値算出手段と、
前記計数値算出手段によって算出された前記計数値k1,k2を代入した前記真応力−真ひずみ曲線を示す数式(1)にひずみ量εPを代入して当該ひずみ量εPに対応する流動応力σSを算出する流動応力算出手段とを備える、材料シミュレーションシステム。
【請求項2】
前記材料シミュレーションシステムは、
前記制御手段によって停止されたときの前記試験片を引っ張る引張力Pを測定する引張力測定手段と、
前記制御手段によって停止または除荷されたときの前記試験片のネッキング部の最小横断面積Aを測定する断面積測定手段とをさらに備え、
前記真応力算出手段は、前記引張力測定手段によって測定された引張力Pを前記断面積測定手段によって測定された最小横断面積Aで除すことによって、前記真応力σtを算出し、
前記真ひずみ算出手段は、前記試験片の変形前の横断面積A0を前記断面積測定手段によって算出された最小横断面積Aで除したものの自然対数をとることによって、前記真ひずみεtを算出する、請求項1に記載の材料シミュレーションシステム。
【請求項3】
【数2】
で示される数式(2)に材料の引張強さσBを代入して真破断ひずみεfを算出する真破断ひずみ算出手段をさらに備え、
前記計数値算出手段は、真破断応力σfと前記真破断ひずみεfとの近似的に一定の関係をさらに参照して前記計数値k1,k2を算出する、請求項1または請求項2に記載の材料シミュレーションシステム。
【請求項4】
【数3】
で示される数式(3)に前記流動応力算出手段によって算出された流動応力σSを代入することおよび数式(3)のパラメータ値の組合せを採用することによって、真破断ひずみを含む全ひずみ域で、かつ広いひずみ速度域内の任意のひずみ速度でのひずみεPに対応する応力σを算出する応力算出手段をさらに備える、請求項1から請求項3までのいずれかに記載の材料シミュレーションシステム。
【請求項5】
前記応力算出手段によって算出される広いひずみ速度域内の任意のひずみ速度での応力σとひずみ量εPとの関係を表現する構成モデルを用いて前記材料を用いた対象物の応力、ひずみおよびひずみ速度の状態を算出する対象物状態算出手段をさらに備える、請求項4に記載の材料シミュレーションシステム。
【請求項6】
コンピュータが材料をシミュレーションする材料シミュレーション方法であって、
前記材料の試験片に対して準静的ひずみ速度での引張りと停止と除荷とを繰り返すように検力ブロック式高速材料試験機を制御するステップと、
前記検力ブロック式高速材料試験機が停止されるごとの前記試験片の真応力σtを算出するステップと、
前記検力ブロック式高速材料試験機が停止または除荷されるごとの前記試験片の真ひずみεtを算出するステップと、
算出された前記真応力σtおよび前記真ひずみεtに基づいて、真応力−真ひずみ曲線を示す数式(1)
【数4】
における計数値k1,k2を算出するステップと、
算出された前記計数値k1,k2を代入した前記真応力−真ひずみ曲線を示す数式(1)にひずみ量εPを代入して当該ひずみ量εPに対応する流動応力σSを算出するステップとを含む、材料シミュレーション方法。
【請求項7】
【数5】
で示される数式(3)に、算出された流動応力σSを代入することおよび対象とする材料グループ内の任意の材料に適用できる数式(3)のパラメータ値の組合せを採用することによって、真破断ひずみを含む全ひずみ域で、かつ広いひずみ速度域内の任意のひずみ速度でのひずみεPに対応する応力σを算出するステップをさらに含む、請求項6に記載の材料シミュレーション方法。
【請求項8】
コンピュータに材料をシミュレーションさせるための材料シミュレーションプログラムであって、
前記材料の試験片に対して準静的ひずみ速度での引張りと停止と除荷とを繰り返すように検力ブロック式高速材料試験機を制御するステップと、
前記検力ブロック式高速材料試験機が停止されるごとの前記試験片の真応力σtを算出するステップと、
前記検力ブロック式高速材料試験機が停止または除荷されるごとの前記試験片の真ひずみεtを算出するステップと、
算出された前記真応力σtおよび前記真ひずみεtに基づいて、真応力−真ひずみ曲線を示す数式(1)
【数6】
における計数値k1,k2を算出するステップと、
算出された前記計数値k1,k2を代入した前記真応力−真ひずみ曲線を示す数式(1)にひずみ量εPを代入して当該ひずみ量εPに対応する流動応力σSを算出するステップとを前記コンピュータに実行させる、材料シミュレーションプログラム。
【請求項9】
【数7】
で示される数式(3)に、算出された流動応力σSを代入することおよび対象とする材料グループ内の任意の材料に適用できる数式(3)のパラメータ値の組合せを採用することによって、真破断ひずみを含む全ひずみ域で、かつ広いひずみ速度域内の任意のひずみ速度でのひずみεPに対応する応力σを算出するステップをさらに前記コンピュータに実行させる、請求項8に記載の材料シミュレーションプログラム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【公開番号】特開2008−51768(P2008−51768A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−230774(P2006−230774)
【出願日】平成18年8月28日(2006.8.28)
【出願人】(595131215)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年8月28日(2006.8.28)
【出願人】(595131215)
【Fターム(参考)】
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