説明

材料吐出装置

【課題】 複数のピストンを採用することで各ピストンを小型化するという要請に対応できるとともに、圧力供給部を最小限のものとして各ピストンに十分な圧力付与を行うことを可能とし、弁孔の開閉を精度良く行うことができる材料吐出装置を提供すること。
【解決手段】 シリンジケース11内の弁孔18を開閉するニードル弁17を備えたピストンロッド12と、当該ピストンロッドに取り付けられた上部ピストン14及び下部ピストン15と、これらピストンに圧力を付与する開放圧力供給部21及び閉塞圧力供給部22と、シリンジケースのチャンバ19内に材料を供給する材料供給部20とを備えている。ピストンロッドは、前記開放圧力供給部及び閉塞圧力供給部から供給される流体圧力を各ピストンにそれぞれ付与する第1ないし第4の開口部45A〜45Dと第1及び第2のキー溝46A、46Bを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は材料吐出装置に係り、更に詳しくは、高粘度材料を吐出することに適した材料吐出装置の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
接着剤やシール材等を吐出する装置は、吐出対象となる材料が高粘度であるため、ポンプによる圧力付与のみで材料吐出のON−OFF制御を行うことが困難である。そのため、従来では、ピストンに空気圧を付与するようにし、ピストンロッドに連結されたニードル弁で弁孔を開閉して材料吐出のON−OFF制御を行う構成が採用されている。
【0003】
特許文献1には、前述した高粘度材料の吐出を行うことに適合した材料吐出装置が開示されている。同文献1に記載された装置は、ニードル弁に連なるピストンロッドにピストンが固定され、当該ピストンの上下二箇所に形成された室内に空気を選択的に供給することで、ニードル弁が弁孔を開閉する構成となっている。
【0004】
【特許文献1】特開平1−281968号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、シール材が塗布される対象物の小型化に伴い、塗布ロボットに取り付けられる吐出装置自体も小型化が要請されるようになっている。この場合、吐出装置の構成部品に含まれるピストンの直径も必然的に小径化が要求されることとなる。
しかしながら、特許文献1に記載されたタイプの装置にあっては、高粘度材料を吐出装置に供給するポンプの圧力を高く設定する必要があるため、ピストンを小径化させると、当該ピストンに付与される圧力が相対的に低くなる。従って、ニードル弁により弁孔を素早く開放、閉塞する動作を行う制御が困難となり、これにより、材料の漏れを生じたり、材料塗布の開始時や終了時の材料塗布量がばらついてしまう、という不都合を招来する。
【0006】
このような場合、ピストンの小径化をバックアップすべく、複数のピストンを設ける構成とし、各ピストンにそれぞれ圧力を付与できるようにすれば、これらの総和となる圧力を得ることが可能となり、高粘度材料の供給圧力に対しても、弁孔を素早く開閉させることが可能となる。
【0007】
しかしながら、複数のピストンにそれぞれ対応した圧力供給構造を採用した場合には、各ピストンに圧力を付与する供給部の数が増加するばかりでなく、圧力供給を行うためのチューブ若しくは配管経路を複雑にする、という別異の不都合を招来する。
【0008】
[発明の目的]
本発明は、このような不都合に着目して案出されたものであり、その目的は、複数のピストンを採用することで各ピストンを小型化するという要請に対応できるとともに、圧力を供給するための供給部を最小限のものとして各ピストンに十分な圧力付与を行うことを可能とし、弁孔の開閉を精度良く行うことができる材料吐出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するため、本発明は、シリンジケース内の弁孔を開閉する弁棒と、この弁棒に連結されるとともに、当該弁棒と共に進退可能に設けられたピストンロッドと、このピストンロッドの軸方向複数箇所に取り付けられた複数のピストンと、これらピストンに圧力を付与する圧力付与手段と、前記弁孔の上流側に形成されたチャンバ内に材料を供給する材料供給部とを備え、前記弁孔を開放させることでチャンバ内の材料が吐出可能に設けられた材料吐出装置において、
前記圧力付与手段は、弁棒が弁孔を開放する方向に前記ピストンに圧力を付与する単一の開放圧力供給部と、弁棒が弁孔を閉塞する方向に前記ピストンに圧力を付与する単一の閉塞圧力供給部とを含み、
前記ピストンロッドは、前記開放圧力供給部及び閉塞圧力供給部から供給される流体圧力を各ピストンにそれぞれ付与する通路を備えて構成されている。
【0010】
本発明において、前記ピストンロッドは、外筒部と、当該外筒部内に収容される内側軸部とからなり、これら外筒部と内側軸部との間に前記通路が形成される、という構成を採ることが好ましい。
【0011】
なお、本発明において、「高粘度材料」とは、粘度50Pa・s〜1,000Pa・s程度のものについて用いられる。また、圧力を付与する媒体は、空気の他、オイル等の流動体も含む。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、それぞれ単一の開放圧力供給部と閉塞圧力供給部により各ピストンに圧力を同時に付与することが可能となり、構成を簡易なものとすることができるとともに、ピストンを小径化しても、弁孔の開閉を素早く行わせる制御が可能となる。
【0013】
また、ピストンに形成される通路が、外筒部と内側軸部との間に形成される構成としたことにより、軸状をなすピストンにおける通路形成を極めて容易に行うことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の好ましい実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0015】
図1には、本実施形態に係る材料吐出装置の概略断面図が示され、図2(A)には平面図が示されている。また、図2(B)には図1の右側面図が示されている。これらの図において、材料吐出装置10は、上端部が図示しないロボットアームに取り付けられる一方、下端部にノズルが取り付けられるシリンジケース11と、当該シリンジケース11内に配置されるとともに、軸方向に沿って進退可能に設けられたピストンロッド12と、このピストンロッド12の軸方向に沿う上下二箇所位置に取り付けられた上部ピストン14及び下部ピストン15と、ピストンロッド12の図中下端に連結された弁棒としてのニードル弁17によって開閉される弁孔18と、当該弁孔18の上部に設けられたチャンバ19内に高粘度材料を供給する材料供給部20と、前記上部ピストン14及び下部ピストン15に圧力を付与する圧力付与手段としての開放圧力供給部21及び閉塞圧力供給部22とを備えて構成されている。
【0016】
前記シリンジケース11は平面視略方形の外形をなし、下部ケース11Aに中間ケース11Bを介して設けられた上部ケース11Cを含む。下部ケース11Aには、その下端部にノズル取付口25が形成されているとともに、当該ノズル取付口25の上部に弁孔18が位置し、また、側面部に前記チャンバ19に連なる材料供給部20が形成されている。チャンバ19の上部において、ニードル弁17回りには、シール部材29が配置され、当該シール部材29は、上部に設けられたシール押さえ30によって一定位置に保たれている。
【0017】
前記中間ケース11Bは、上部ケース11Cの上端コーナー部から挿入される4本のボルト32によって下部ケース11Aとの間に介在する状態で固定されている。この中間ケース11Bにおいて、上下方向略中央部の内周にはフランジ部36が形成され、当該フランジ部36と上部ケース11Cとの間に上部室37が形成されている一方、フランジ部36と当該フランジ部36の下部に配置されたロッドガイド39との間に下部室40が形成されている。
【0018】
前記ピストンロッド12は、前記フランジ部36及びロッドガイド39内を貫通して延びる外筒部45と、当該外筒部45内に収容される内側軸部46とからなり、前記外筒部45の下端部に前記ニードル弁17が袋ナット48を介して連結されている。外筒部45は、上端を開放する細長い有底の筒状をなしており、その周壁部分に第1ないし第3の開口部45A,45B,45Cが形成されている。
【0019】
前記内側軸部46は、外筒部45内に収容されて当該外筒部45に保持されている。内側軸部46は、周方向二箇所位置において、軸線方向に沿う第1及び第2のキー溝46A,46Bが形成されており、第1のキー溝46Aの上部及び下部に対応して前記第1及び第2の開口部45A,45Bがそれぞれ位置する一方、第2のキー溝46Bの下部に前記第3の開口部45Cが位置するように構成されている。なお、第2のキー溝46Bの上端は第4の開口部45Dとして上部室37内に連通するように構成されている。ここにおいて、前記第1ないし第4の開口部45A〜45Dと前記第1及び第2のキー溝46A、46Bにより、開放圧力供給部21及び閉塞圧力供給部22から供給される流体圧力を各ピストン14,15にそれぞれ付与する通路が構成されている。
【0020】
前記ピストンロッド12に固定された上部ピストン14は、上部室37内において、前記第1の開口部45Aの上部であって前記第4の開口部45Dよりも下方に位置するように配置されている。また、上部ピストン14と上部ケース11Cとの間にはコイルばね49が介装され、これにより、ピストンロッド12及びニードル弁17は、常に下向きに付勢された状態に保たれる。また、前記下部ピストン15は、第2の開口部45Bの上方であって前記第3の開口部45Cの下方に位置するように配置されている。
【0021】
前記圧力付与手段を構成する前記開放圧力供給部21は、前記中間ケース11Cにおけるフランジ部36の一箇所に形成されている。この開放圧力供給部21は、図示しないポンプに接続されるようになっており、当該開放圧力供給部21に供給された空気は、前記上部室37内の上部ピストン14の下面側に供給されて当該上部ピストン14に上昇力を付与すると同時に、前記第1の開口部45A、第1のキー溝46A及び第2の開口部45Bを通じて下部ピストン15の下面側に供給されて当該下部ピストン15にも上昇力を付与するようになっている。
【0022】
この一方、前記閉塞圧力供給部22は、前記上部ケース11Cにおける一側面の一箇所に形成されている。この閉塞圧力供給部22は、前記開放圧力供給部21に接続されるポンプに接続され、図示しない切換弁を介して選択的に圧力供給がなされるように設けられている。閉塞圧力供給部22に供給された空気は、前記上部室37内の上部ピストン14の上面側に供給されると同時に、前記第4の開口部45D、第2のキー溝46B及び第3の開口部45Cを通じて下部室40内における下部ピストン15の上面側に供給され、これにより、上下の各ピストン14,15に下降力を付与するようになっている。
【0023】
なお、図1中符号50は下部ケース11Aに形成された覗き穴を示し、符号51はピストンロッド12の上昇限を規制するストッパ軸である。このストッパ軸51の下端中央部には反転凹状部52が形成されており、当該反転凹状部52は、ピストンロッド12の上端がストッパ軸51の下端に突き当たった場合でも、前記第4の開口部45Dを閉塞することがない内径に設定されている。また、ストッパ軸51の下端外周には通路穴54が形成されており、当該通路穴54により、反転凹状部52と上部室37とが連通するようになっている。
【0024】
次に、本実施形態に係る材料吐出装置10の動作について説明する。
【0025】
ここでは、図1に示されるように、ニードル弁17の先端すなわち下端が弁孔18を閉塞した位置にあるものとし、前記材料供給部20より高粘度材料が所定の圧力でチャンバ19内に充填されているものとする。
【0026】
材料の吐出を行う場合には、開放圧力供給部21から空気が導入され、当該空気は上部ピストン14の下面側とフランジ部36との間の空間内に供給される。同時に、第1の開口部45Aから第1のキー溝46A及び第2の開口部45Bを介して下部ピストン15の下面側に空気が供給される。これにより、上部ピストン14及び下部ピストン15には、それぞれ上昇圧力が付与されることとなり、これらピストン14,15を固定保持しているピストンロッド12と共にニードル弁17上昇して弁孔18が開放され、チャンバ19内の高粘度材料が図示しないノズル先端より吐出されることとなる。
【0027】
吐出停止を行う場合には、開放圧力供給部21からの圧力供給を切り換えて閉塞圧力供給部22から空気が供給される。閉塞圧力供給部22から供給された空気は、上部ピストン14の上面に圧力を付与して下降力を生じせしめると同時に、第4の開口部45Dから第2のキー溝46B及び第3の開口部45Cを通って下部ピストン15の上面に圧力を付与して下降力を生じせしめ、これにより、ニードル弁17が下降して弁孔18を閉塞し、以後の材料吐出を停止することとなる。
【0028】
なお、前記材料吐出装置10は、図示しないロボットアームに取り付けられた状態で、被塗布物に対して予めティーチングされた軌跡に沿って移動し、これにより、シール材等の高粘度材料の自動塗布を行うことができる。
【0029】
従って、このような実施形態によれば、開放圧力供給部21及び閉塞圧力供給部22がそれぞれ単一であっても、前記第1ないし第4の開口部45A〜45Dと、第1及び第2のキー溝46A、46Bにより、上部ピストン14及び下部ピストン15に上昇圧力、下降圧力を同時に付与することが可能となり、従って、上部ピストン14及び下部ピストン15を小径化しても、圧力不足を生じることが回避でき、ニードル弁17による弁孔18の開閉を素早く行うことが可能となる。
【0030】
本発明を実施するための最良の構成、方法などは、以上の記載で開示されているが、本発明は、これに限定されるものではない。
すなわち、本発明は、主に特定の実施の形態に関して特に図示し、且つ、説明されているが、本発明の技術的思想及び目的の範囲から逸脱することなく、以上に述べた実施の形態に対し、形状、材料、数量、その他の詳細な構成において、当業者が様々な変形を加えることができるものである。
従って、上記に開示した形状などを限定した記載は、本発明の理解を容易にするために例示的に記載したものであり、本発明を限定するものではないから、それら形状などの限定の一部若しくは全部の限定を外した部材の名称での記載は、本発明に含まれるものである。
【0031】
例えば、前記実施形態では、上部ピストン14及び下部ピストン15の二つを用いた場合を図示、説明したが、ピストンの数は、更に増加させることができる。この場合には、ピストンロッド12において、増加させたピストンの上下に位置する開口部を追加すれば足りる。このように構成することにより、更に小径となるピストンを採用した場合の圧力不足を効果的に回避し得ることとなる。
【0032】
また、前記実施形態では、ピストンロッド12が外筒部45と内側軸部46とにより構成される場合を示したが、単軸構造のピストンロッドを用いて開口部と溝を形成することも可能である。但し、前記実施形態の構成を採用すれば、ピストンロッドを製造する際の簡便性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本実施形態に係る材料吐出装置の全体構成であって、図2(A)におけるA−A線に沿う断面図。
【図2】(A)は前記材料吐出装置の平面図。(B)は、その右側面図。
【符号の説明】
【0034】
10 材料吐出装置
11 シリンジケース
12 ピストンロッド
20 材料供給部
21 開放圧力供給部(圧力付与手段)
22 閉塞圧力供給部(圧力付与手段)
45 外筒部
46 内側軸部
45A 第1の開口部(通路)
45B 第2の開口部(通路)
45C 第3の開口部(通路)
45D 第4の開口部(通路)
46A 第1のキー溝(通路)
46B 第2のキー溝(通路)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンジケース内の弁孔を開閉する弁棒と、この弁棒に連結されるとともに、当該弁棒と共に進退可能に設けられたピストンロッドと、このピストンロッドの軸方向複数箇所に取り付けられた複数のピストンと、これらピストンに圧力を付与する圧力付与手段と、前記弁孔の上流側に形成されたチャンバ内に材料を供給する材料供給部とを備え、前記弁孔を開放させることでチャンバ内の材料が吐出可能に設けられた材料吐出装置において、
前記圧力付与手段は、弁棒が弁孔を開放する方向に前記ピストンに圧力を付与する単一の開放圧力供給部と、弁棒が弁孔を閉塞する方向に前記ピストンに圧力を付与する単一の閉塞圧力供給部とを含み、
前記ピストンロッドは、前記開放圧力供給部及び閉塞圧力供給部から供給される流体圧力を各ピストンにそれぞれ付与する通路を備えて構成されていることを特徴とする材料吐出装置。
【請求項2】
前記ピストンロッドは、外筒部と、当該外筒部内に収容される内側軸部とからなり、これら外筒部と内側軸部との間に前記通路が形成されていることを特徴とする請求項1記載の材料吐出装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate