説明

材料試験機

【課題】 負荷部材の移動量の誤差を低減することができる材料試験機を提供する。
【解決手段】 ロータリエンコーダ51が出力した信号は、パルスレート変換回路60に入力された後、カウンタ62に出力されて計数される。しかる後、カウンタ62の計数値がテーブル21の移動量(移動距離)に換算され、表示部36に表示される。この発明に係る材料試験機では、ロータリエンコーダ51が出力した信号を、パルスレート変換回路60により変換することにより、プーリ53の直径誤差やワイヤー52の太さに違いによる直径誤差等、ストローク検出器34を構成する各部材が有する誤差に起因したロータリエンコーダ51の1回転あたりの出力パルス数のばらつきを低減している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、試験片に対して引張試験または圧縮試験を行う材料試験機に関する。
【背景技術】
【0002】
このような材料試験機は、テーブルと、このテーブルに支柱を介して連結された上部クロスヘッドと、テーブルと上部クロスヘッドとを同期して昇降させるラムシリンダと、支柱に沿って昇降可能な下部クロスヘッドと、この下部クロスヘッドを昇降させる一対のネジ棹と、テーブルまたは上部クロスヘッドと下部クロスヘッドとの間に負荷される試験力を検出する力検出センサとを備える。
【0003】
この材料試験機において引張試験を行う場合には、上部クロスヘッドに配設された上つかみ具と下部クロスヘッドに配設された下つかみ具により試験片の両端を把持した状態で、ラムシリンダの駆動により下部クロスヘッドに対して上部クロスヘッドを上昇させる。一方、この材料試験機において圧縮試験を行う場合には、下部クロスヘッドとテーブルとの間に試験片を配置した状態で、ラムシリンダの駆動により下部クロスヘッドに対してテーブルを上昇させる。
【0004】
このような材料試験機においては、ラムシリンダを一定の速度でストロークさせる定速制御試験を行うため、ラムシリンダのストローク量を検出するラムストローク検出装置が備えられている。この種のラムストローク検出装置として、一端がテーブルに固定され他端がテーブルとともに昇降する保持部材に固定されたワイヤーと、この保持部材の連結点に介装される緩衝用弾性体と、ワイヤーが回巻されワイヤーの移動に伴い回転するプーリと、このプーリの回転を検出するロータリエンコーダとを備えるものが知られている(特許文献1参照)。なお、緩衝用弾性体は、ワイヤーの緩みを防止し、ワイヤーに所定の張力を与えるためのものである。このような構成を有するラムストローク検出装置は、いわゆるワイヤー式変位検出器とも呼称されている。
【0005】
また、ワイヤー式変位検出器としては、特許文献2に記載された引張試験を行う材料試験機の伸び測定装置が知られている。この伸び測定装置では、ワイヤーは、基台に立設された支柱の上部に固定されたプーリに回巻されている。そして、ワイヤーの一端が、引張荷重を試験片に与えるために昇降するクロスヘッドに、基台に立設されたガイド棒に移動可能に配設されたレバーを介して接続され、ワイヤーの他端には、ワイヤーに所定の張力を与えるための分銅(錘)が接続されている。ワイヤーの移動に伴い回転するプーリの回転は、ロータリエンコーダにより検出される。
【0006】
このようなワイヤー式変位検出器では、テーブルやクロスヘッドなどの負荷部材の昇降によりワイヤーが移動する。そして、ワイヤーの移動に伴ったプーリの回転がロータリエンコーダに伝達され、回転量に応じた数のパルスが制御回路等に出力される。そうすると、テーブルの移動量、すなわちシリンダのストローク量や、クロスヘッドの移動量、すなわち試験片の伸び量(変位量)を知ることができる。なお、プーリ1回転あたりの負荷部材の移動量は、プーリの直径とワイヤーの直径の合計に円周率を乗じた値となる。したがって、ロータリエンコーダ1回転あたりの負荷部材の移動量もあらかじめ計算で求めることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】実公平4−21091号公報
【特許文献2】特開平11−281349号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところが、プーリの直径および円周長は加工誤差を含むものであり、ワイヤーの直径はワイヤー自体の伸び率により変化する。このため、ロータリエンコーダ1回転あたりのパルス数が、個々の変位検出器によりばらついてしまい、現実のロータリエンコーダ1回転あたりの負荷部材の移動量も計算値とは微妙に異なっている。このように、ロータリエンコーダ1回転あたりのラムシリンダのストローク精度や試験片の変位検出精度に影響が及んでいる。これに対し、ストローク精度や変位検出精度を規定値以内に収めるために直径の異なるワイヤーを複数用意しておき、目標精度を確保できるワイヤーに適宜張り替える等の対応がなされているが、ワイヤーの張り替えには手間がかかるという問題がある。また、プーリの加工精度をより精密なものとすることも考えられるが、装置が割高になるという問題がある。
【0009】
さらには、プーリの回転中心を、ロータリエンコーダの回転中心に正確に配置することは、技術的に極めて難しい。このため、プーリの回転中心とロータリエンコーダの回転中心との間に微妙なズレが生じている。このようなプーリとロータリエンコーダの回転軸との偏心に起因したロータリエンコーダ1回転未満のワイヤー移動量の誤差も、ストローク精度や変位検出精度に影響を及ぼしている。
【0010】
この発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、負荷部材の移動量の誤差を低減することができる材料試験機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に記載の発明は、互いに対向する負荷部材の間に試験片を配設し、前記負荷部材の一方をアクチュエータにより昇降させることにより引張または圧縮試験を行う材料試験機であって、前記アクチュエータの駆動により昇降する負荷部材に接続され、張力が与えられた状態でプーリに回巻されたワイヤーと、前記プーリに接続され、前記プーリの回転を検出して信号を出力する検出手段と、前記検出手段が出力した信号のパルスレートを変換するパルスレート変換部と、前記パルスレート変換部により変換された信号を計数するとともに、該計数値を前記アクチュエータの駆動により昇降する負荷部材の移動量に換算する計数処理部と、を備えることを特徴とする。
【0012】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記パルスレート変換部は、電子ギアを備え、前記電子ギアの電子ギア分子の値を、予め規定した複数の値の内のいずれかに変更する切換手段を備える。
【0013】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記パルスレート変換部は、電子ギアを備え、前記電子ギアの電子ギア分子の値を補正し、補正した電子ギア分子の値を前記パルスレート変換部に与える補正手段をさらに備える。
【0014】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の発明において、前記検出手段は、ロータリエンコーダであり、前記補正手段は、予め記憶手段に記憶された前記ロータリエンコーダ1回転分の位相と前記ロータリエンコーダの回転角の関数で表される補正値とを対応付けた校正値テーブルに基づいて、前記ロータリエンコーダの回転角に応じた電子ギア分子の値を決定する。
【0015】
請求項5に記載の発明は、請求項3に記載の発明において、前記検出手段は、ロータリエンコーダであり、前記補正手段は、予め記憶手段に記憶された前記ロータリエンコーダ1回転分の正弦波の位相と、正弦波の大きさおよびオフセット量を設定し、正弦波の位相と、正弦波の大きさおよびオフセット量に基づいて、前記ロータリエンコーダの回転角の関数として表される補正値を算出し、前記ロータリエンコーダの回転角に応じた電子ギア分子の値を決定する。
【0016】
請求項6に記載の発明は、請求項2から請求項5のいずれかに記載の発明において、前記パルスレート変換部は、入力された1つの信号ごとに前記切換手段により設定した所定の値を加えた電子ギア分子の正または負の値に該電子ギア分子の正または負の値の逆符号となる電子ギア分母の値を加算する動作を繰り返し、加算後の値を積算値として保持する累算器と、前記検出手段が検出した信号が正転か逆転かにより前記電子ギア分子および前記電子ギア分母の正または負の値を累算器に加える値として選択するセレクタと、を備え、前記積算値に前記電子ギア分子の値を加算したときの値と電子ギア分母の値との比較に基づいて信号を出力するとともに、前記積算値に前記電子ギア分子の正または負の値を加算したときの値の絶対値が電子ギア分母の値の2倍と等しいまたは電子ギア分母の値の2倍より大きくなるときには1つの入力信号に対して2つの出力信号を出力し、前記積算値に前記電子ギア分子の正または負の値を加算したときの値の絶対値が電子ギア分母の値と等しいまたは電子ギア分母の値より大きくなるときには1つの入力信号に対して1つの出力信号を出力し、前記積算値に前記電子ギア分子の正または負の値を加算したときの値の絶対値が電子ギア分母の値より小さくになるときには2つの入力信号に対して1つの出力信号を出力する。
【0017】
請求項7に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記アクチュエータの駆動により昇降する負荷部材は、テーブルである。
【0018】
請求項8に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記アクチュエータは、ラムシリンダである。
【発明の効果】
【0019】
請求項1から請求項8に記載の発明によれば、プーリの回転を検出する検出手段が出力した信号のパルスレートを、パルスレート変換部により変換することにより、プーリのワイヤーを張り替えることなく、プーリおよびワイヤーの加工誤差を吸収し、ワイヤーの移動量から求められる負荷部材の移動量の誤差を低減することができる。
【0020】
請求項2に記載の発明によれば、パルスレート変換部の電子ギアの電子ギア分子の値を変更する切換手段を備えることから、検出手段から入力されたパルスの変換レートを容易に切り換えることができる。
【0021】
請求項3に記載の発明によれば、電子ギア分子の値を補正する補正手段を備えることから、ワイヤー移動量の誤差を、より精密に補正することが可能となる。
【0022】
請求項4および請求項5に記載の発明によれば、ロータリエンコーダの回転角の関数として表される補正値を算出し、ロータリエンコーダの回転角に応じた電子ギア分子の値を決定する補正手段を備えることから、プーリとロータリエンコーダの回転軸の偏心によって発生する、ロータリエンコーダ1回転未満のワイヤー移動量の誤差を補正することが可能となる。
【0023】
請求項6に記載の発明によれば、パルスレート変換部は累算器を備え、累算器が保持する積算値に電子ギア分子の正または負の値を加算したときの値の絶対値が電子ギア分母の値の2倍以上になるときには1つの入力信号に対して2つの出力信号を出力し、積算値に電子ギア分子の正または負の値を加算したときの値の絶対値が電子ギア分母の値の1倍以上になるときには1つの入力信号に対して1つの出力信号を出力し,積算値に電子ギア分子の正または負の値を加算したときの値の絶対値が電子ギア分母の値より小さくなるときには2つの入力信号に対して1つの出力信号を出力することから、一連の出力信号の不連続点の位置を等間隔に分配することができ、プーリおよびワイヤーの加工誤差等を一定の間隔に分散して吸収させてパルスの全体的な接続を滑らかなものとすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】この発明に係る材料試験機の概要図である。
【図2】図1のA−A断面図である。
【図3】ストローク検出器34をプーリ53配設側から見た図である。
【図4】ストローク検出器34の側面図である。
【図5】この発明の第1実施形態に係る材料試験機におけるテーブル21の移動量の検出から表示部36への表示までの概要を示す図である。
【図6】パルスレート変換回路60のブロック図である。
【図7】パルスレート変換回路60の動作を説明するフローチャートである。
【図8】入力パルスと出力パルスの関係を示すグラフである。
【図9】この発明の第2実施形態に係る材料試験機におけるテーブル21の移動量の検出から表示部36への表示までの概要を示す図である。
【図10】ロータリエンコーダ51の回転角を説明する図である。
【図11】ワイヤー52を移動させてロータリエンコーダ51が1回転したときの校正器により検出した変位量とロータリエンコーダ51の位相との関係を模式的に示すグラフである。
【図12】この発明の第2実施形態に係る材料試験機におけるパルスレート変換回路60のブロック図である。
【図13】この発明の第3実施形態に係る材料試験機におけるテーブル21の移動量の検出から表示部36への表示までの概要を示す図である。
【図14】ワイヤー52を移動させてロータリエンコーダ51が1回転したときの校正器により検出した変位量とロータリエンコーダ51の位相との関係を模式的に示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、この発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1はこの発明に係る材料試験機の概要図であり、図2はそのA−A断面図である。
【0026】
この材料試験機は、テーブル21と、このテーブル21に一対の支柱22を介して連結された上部クロスヘッド24と、テーブル21と上部クロスヘッド24とを同期して昇降させるアクチュエータであるラムシリンダ25と、テーブル21と上部クロスヘッド24の間に昇降可能に配設された下部クロスヘッド26と、この下部クロスヘッド26の両端に設けられた図示しない回転駆動機構つきナットと螺合する一対のネジ棹23と、を備える。なお、下部クロスヘッド26は、図示しない電動モータもしくは油圧モータによりナットを回転させることにより昇降可能な構成となっている。また、一対のネジ棹23は、テーブル21を貫通してベース41に立設されている。
【0027】
上部クロスヘッド24には上つかみ具31が配設されており、下部クロスヘッド26には下つかみ具32が配設されている。引張試験がなされる試験片10は、これらの上つかみ具31および下つかみ具32によりその両端を把持される。また、下部クロスヘッド26には圧盤28が付設されており、圧縮試験がなされる試験片11は、この圧盤28とテーブル21とによりその上下端部を押圧される。
【0028】
ラムシリンダ25は、シリンダ室25aに圧油を供給することによりラム25bが伸長する構成を有する。そして、ラム25aが伸長することにより、テーブル21、一対の支柱22および上部クロスヘッド24が同期して上昇する。このテーブル21および上部クロスヘッド24の上昇により、引張試験を行うときには上つかみ具31および下つかみ具32によりその両端を把持された試験片10に引張荷重が付与され、圧縮試験を行うときには圧盤28とテーブル21との間に配置された試験片11に圧縮荷重が付与される。このラムシリンダ25の動作は、ラムシリンダ25に圧油を供給する油圧源38により駆動制御される。そして、この油圧源38は、制御部35により制御される。
【0029】
このときの試験力は、力検出センサとしての圧力センサ33により測定される。この測定値は、制御部35に送信され、必要に応じ表示部36に表示される。また、このときのテーブル21および上部クロスヘッド24の移動量は、ストローク検出器34により検出される。この検出値は、制御部35に送信され、表示部36に表示される。なお、制御部35には、材料試験の情報、試験データなどの各種情報を格納する記憶装置や、材料試験機を動作させるための制御情報を作出するための演算処理装置などが内装されている。
【0030】
図3は、ストローク検出器34をプーリ配設側から見た図である。図4は、ストローク検出器34の側面図である。
【0031】
このストローク検出器34は、テーブル21の下面に垂設されテーブル21とともに上下動する支持板54と、ベース41に立設されたスタンド55と、スタンド55に固定され、スタンド55を介してベース41に配設されたロータリエンコーダ51とを備える。ロータリエンコーダ51の回転軸にはプーリ53が固定されており、このプーリ53にはワイヤー52が巻回されている。ワイヤー52は、一方端(上端側)がコイルバネ56を介してラムシリンダ25の駆動により上下動するテーブル21に固定されており、他方の端が支持板54のテーブル21の接続端とは逆側の端部に固定されている。また、ワイヤー52の中央部付近はプーリ53に一回巻きにされ、テーブル21側に弾性部材であるコイルバネ56を介装させることにより緩みが出ないようになっている。なお、この実施形態ではワイヤー52の一端はテーブル21に直接的に接続されているが、他の部材(たとえば支持板54)を介して間接的に接続されていてもよい。
【0032】
ラムシリンダ25の駆動によりテーブル21が昇降すると、ワイヤー52が移動し、プーリ53を回転させる。ロータリエンコーダ51はプーリ53の回転を検出する検出手段として機能し、信号を後述するパルスレート変換回路60に出力する。なお、このパルスレート変換回路60は、この発明のパルスレート変換部として機能し、制御部35に配置された、FPGA(Field−Programmable Gate Array)により実現される。
【0033】
図5は、この発明の第1実施形態に係る材料試験機におけるテーブル21の移動量の検出から表示部36への表示までの概要を示す図である。ロータリエンコーダ51が出力した信号は、パルスレート変換回路60に入力された後、カウンタ62に出力されて計数される。しかる後、カウンタ62の計数値がテーブル21の移動量(移動距離)に換算され、表示部36に表示される。なお、カウンタ62と制御部35に内装された演算処理装置により、この発明の計数処理部が実現される。この発明に係る材料試験機では、ロータリエンコーダ51が出力した信号を、パルスレート変換回路60により変換することにより、プーリ53の直径誤差やワイヤー52の太さに違いによる直径誤差等、ストローク検出器34を構成する各部材が有する誤差に起因したロータリエンコーダ51の1回転あたりの出力パルス数のばらつきを低減している。
【0034】
パルスレート変換回路60におけるパルスの変換レートは、ロータリスイッチ61により変更可能となっている。このロータリスイッチ61は、後述する電子ギアの電子ギア分子の値に加算する4ビット符号付の整数を有し、変換レートを−8から+7までの16段階の中から選択して切り換える切換手段として機能する。
【0035】
図6は、パルスレート変換回路60のブロック図であり、図7は、パルスレート変換回路60の動作を説明するフローチャートである。
【0036】
このパルスレート変換回路60は、電子ギアと累算器であるアキュムレータ72を備え、ロータリエンコーダ51から入力された信号の1パルスごとに電子ギアを利用した出力調整を行い、パルスレートの変換を行う。このパルスレート変換回路60の電子ギアの電子ギア分母には、たとえば、固定値として2000が設定されている。また、ロータリスイッチ61が0に設定されている場合は電子ギアの電子ギア分子/電子ギア分母=2000/2000であり、ロータリスイッチ61の設定を変えることで、電子ギア分子の値を1992〜2007まで変更できる。なお、電子ギア分母の値は、この材料試験機においてプーリ53やワイヤー52の直径誤差に起因するロータリエンコーダ51の1回転あたりの出力パルス数のばらつきを吸収可能な値として実験的に求められたものであり、この実施形態に示す値に限定されるものではない。
【0037】
以下、ロータリエンコーダ51が正方向に回転(正転)し、ロータリスイッチ61が+2に設定されている場合を例に説明する。ロータリエンコーダ51が回転し、A/B相の位相が変化すると、ロータリエンコーダ51が出力したA/B相のパルスをこのパルスレート変換回路60で利用可能なU/D信号(UP/DOWNパルス)に変換する変換器78を介してUPパルスが、制御回路71に入力される。なお、制御回路71はこのパルスレート変換回路60の動作を制御するものである。
【0038】
ロータリスイッチ61が+2に設定されている場合、電子ギア分子の値は2002である。UPパルスが制御回路71に入力されると(ステップS1)、加算器77とレジスタ76からなるアキュムレータ72に+「分子」である+2002がセレクタ73により選択され加えられる(ステップS2)。このときアキュムレータ72の値は+2002(積算値0+電子ギア分子2002=2002)となり、この値はレジスタ76に保持される。なお、制御回路71にDOWNパルスが入力された場合(ステップS3)は、アキュムレータ72には−「分子」(たとえば−2002)が加えられる(ステップS4)。すなわち、セレクタ73は制御回路71に入力パルスがUPパルスであるかDOWNパルスであるかに応じて、正負のどちらの値をアキュムレータ72に加えるべきか選択している。
【0039】
アキュムレータ72の値が+2002のときに、UPパルスおよびDOWNパルスのいずれもが入力されないタイミングで出力タイミング信号(750Hz)が発生されると(ステップS5)、ステップS2での加算の後にレジスタ76に保持されたアキュムレータの値+2002と電子ギア分母の値+2000とが第1比較器74で比較される(ステップS6)。なお、出力タイミング信号には、カウンタ62が許容できるこのパルスレート変換回路60からの最大出力パルスレートである750Hzを設定している。
【0040】
この例では、第1比較器74での比較の結果、電子ギア分母の値2000が+2002よりも小さい値であるため、ステップS2で加算された電子ギア分子の正の値とは逆符号の電子ギア分母の負の値(−「分母」)である−2000がセレクタ73により選択されて加算器77に加えられ(ここでアキュムレータ72の値は2となり、この値は積算値として保持される)、制御回路71を介してUPパルスが出力される(ステップS7)。出力されたUPパルスはU/D信号をA/B相のパルスに変換する変換器79により変換された後、カウンタ62に送られ計数される。なお、比較器で電子ギア分母の値と比較が行われるアキュムレータ72の値が、たとえば−2002のような負の値の場合は、レジスタ76に保持されたアキュムレータ72の値−2002と−「分母」の値である−2000とが第2比較器で比較される(ステップS8)。この場合には、アキュムレータ72の−2002が−「分母」の−2000より小さいことから、セレクタ73により+「分母」の+2000が選択されて加算器77に加えられ、制御回路71からDOWNパルスが出力される(ステップS9)。すなわち、このパルスレート変換回路60の、第1比較器74はUPパルス用の比較器として、第2比較器75は、DOWNパルス用の比較器としてそれぞれ機能している。
【0041】
また、アキュムレータ72の値に−「分母」または+「分母」が加算(ステップS7,S9)された後、次のUPパルスまたはDOWNパルスの入力よりも速く出力タイミング信号が発生し、レジスタ76に保持されたアキュムレータの値が、分母より小さい、または、−分母より大きい値(ステップS6、S8)となる場合には、アキュムレータ72に−「分母」または+「分母」が加えられることなく次の信号の入力を待つ状態に戻る。
【0042】
ロータリエンコーダ51が正方向に回転し、アキュムレータ72の積算値が+2のときに、さらにロータリエンコーダ51から変換器78を介してUPパルスが制御回路71に入力されると(ステップS1)、アキュムレータ72に+「分子」である+2002がセレクタ73により選択されて加えられる(ステップS2)。このときアキュムレータ72の値は+2004(積算値2+電子ギア分子2002=2004)となる。ここで出力タイミング信号が発生されると(ステップS5)、レジスタ76に保持されたアキュムレータ72の値+2004と電子ギア分母の値2000とが第1比較器74で比較される(ステップS6)。この場合には、電子ギア分母が+2004よりも小さい値であるため、−「分母」である−2000がセレクタ73で選択されて加算器77に加えられ(ここでアキュムレータ72の値は4となる)、制御回路71を介してUPパルスが出力される(ステップS7)。
【0043】
以上のように、ロータリエンコーダ51が正方向に回転(正転)している場合は、パルスレート変換回路60にロータリエンコーダ51の信号が入力されると、図7のフローチャートのステップS1、S2、S5、S6、S7を経てカウンタ62に信号が出力される。また、ロータリエンコーダ51が逆方向に回転(逆転)している場合では、パルスレート変換回路60にロータリエンコーダ51の信号が入力されると、図7のフローチャートのステップS3、S4、S5、S8、S9を経てカウンタ62に信号が出力される。
【0044】
ロータリスイッチ61の設定が+2の場合に、パルスレート変換回路60の動作が繰り返されると、+「分子」の値+2002(UPパルス入力のとき)または−「分子」の値−2002(DOWNパルス入力のとき)を加算器77に加えたとき(ステップS2)に、アキュムレータ72の値が+4000または−4000、すなわち積算値に電子ギア分子の正または負の値を加えた値の絶対値が電子ギア分母の値の2倍と等しくなるときが来る。また、ロータリスイッチ61の設定が+3の場合に、パルスレート変換回路60の動作が繰り返されると、+「分子」の値+2003(UPパルス入力のとき)または−「分子」の値−2003(DOWNパルス入力のとき)を加算器77に加えたとき(ステップS2)に、アキュムレータ72の値が+4001または−4001、すなわち積算値に電子ギア分子の正または負の値を加えた値の絶対値が電子ギア分母の値の2倍より大きくなるときが来る。
【0045】
ロータリエンコーダ52が正方向に回転し、ロータリスイッチ61が+2に設定されている場合、アキュムレータ72の値が+4000となったときに、アキュムレータ72の値に−「分母」の値−2000を加算(ステップS7)した後のアキュムレータ72の値は+2000となる。さらにその後に、UPパルスまたはDOWNパルスの入力がなく出力タイミング信号が発生(ステップS5)した場合、レジスタ76に保持されている値は+2000であるため、第1比較器75による比較結果はレジスタ=分母となる(ステップS6)。そうすると、セレクタ73より−「分母」の−2000が選択されて加算器77に加えられ、UPパルスが出力される(ステップS7)。すなわち、ロータリエンコーダ51が正方向に回転し、ロータリスイッチ61が+2に設定されている場合の例では、2000回の入力信号のうちの2回は、1の入力パルスに対してUPパルスを2出力することがあることになる。これは、ロータリエンコーダ51のパルスレートが電子ギア分子/電子ギア分母=2002/2000の電子ギア比率での変換を受けていると言える。なお、ロータリエンコーダ51が逆方向に回転し、DOWNパルスが入力された場合や、ロータリスイッチ61の設定により電子ギア分子の値が異なる場合でも、同様の考え方が成立する。
【0046】
上述の例では、ロータリスイッチ61の設定が+2で電子ギア分子の値が電子ギア分母の値より大きい場合を説明したが、ロータリスイッチ61の設定が−8〜−1のいずれかで電子ギア分子の値が電子ギア分母の値より小さい場合には、パルスレート変換回路60の動作の繰り返しによりアキュムレータ72の値、すなわち積算値に電子ギア分子の正または負の値を加えた値の絶対値が電子ギア分母の値より小さくなるときが来ることになる。このときには、パルスレート変換回路60は、2の入力パルスに対し、1の出力パルスを出力することになる。たとえば、ロータリスイッチ61が−2に設定され、電子ギア分母に固定値2000が設定されている場合、電子ギア分子の値は1998である。この条件でパルスレート変換回路60の動作が繰り返されると、いずれ積算値は0となる。この状態でUPパルスまたはDOWNパルスの入力に対して+「分子」または−「分子」が加算(ステップS2、S4)され、出力タイミング信号が発生した(ステップS5)としても、このときにレジスタ76に保持されている値(+1998または−1998)は分母より小さく(ステップS6)、または、−分母より大きい(ステップS8)値になる。すなわち、積算値に電子ギア分子の正または負の値を加えた値の絶対値は、電子ギア分母の値より小さい。このときにはパルスの出力が見送られ、次のUPパルスまたはDOWNパルスの入力によりステップS7、S9が行われることになる。したがって、2の入力パルスに対し、1の出力パルスが出力されることになる。
【0047】
図8は、入力パルスと出力パルスの関係を示すグラフである。横軸はパルスレート変換回路60に入力された入力パルス数を示し、縦軸はパルスレート変換回路60から出力された出力パルス数を示している。なお、このグラフは、グラフ中に黒四角で示す各点を1つのパルスとして、電子ギア比の違いによる入力パルスと出力パルスの関係の違いを模式的に示すものである。
【0048】
電子ギア=1は、ロータリスイッチ61の設定が0で、上述の電子ギア分母の値が2000の例では、電子ギア分子/電子ギア分母=2000/2000のときの電子ギア比での入力パルスと出力パルスの関係を示している。電子ギア比が1のときには、1の入力パルスに対して1の出力パルスがある。
【0049】
電子ギア>1は、ロータリスイッチ61の設定が1〜7のいずれかのとき、すなわち、上述の電子ギア分母の値が2000の例では、電子ギア分子の値が2001〜2007になるときの電子ギア比での入力パルスと出力パルスの関係を示している。電子ギア比が1より大きい場合には、1の入力パルスに対して2の出力パルスがあるタイミング(入力パルスと出力パルスの関係が不連続となる点)が一定の間隔で現れる。この不連続点の位置を等間隔に分配することにより、パルスの全体的な接続は滑らか(直線的)になっている。
【0050】
電子ギア<1は、ロータリスイッチ61の設定が−8〜−1のいずれかのとき、すなわち、上述の電子ギア分母の値が2000の例では、電子ギア分子の値が1992〜1999になるときの電子ギア比での入力パルスと出力パルスの関係を示している。電子ギア比が1より小さい場合には、2の入力パルスに対して1の出力パルスがあるタイミングが一定の間隔で現れる。この場合も、不連続点の位置を等間隔に分配することにより、パルスの全体的な接続を滑らかなものとしている。
【0051】
この発明に係る材料試験機では、ロータリエンコーダ51とカウンタ62の間にパルスレート変換回路60を介在させることで、図8に示すように、1の入力パルスに対し1の出力パルスとはならない不連続点の位置を等間隔に分配し、ロータリエンコーダ51の1回転あたりのパルス数を微小に調整するのと同等の効果が得られている。また、このパルスレート変換回路60では、1の入力パルスごとに回路を動作させて出力パルスの出力タイミングを調整していることから、回路内に入力信号を溜めることがない、回路への負担が低減される構成となっている。そして、調整後の計算上のテーブル21の移動量と実際のテーブル21の移動量との誤差も、従来のようにストローク精度を規定値以内に収めるためにワイヤー52を目標精度にあったものに張り替えた場合よりも小さくすることができる。
【0052】
また、ロータリエンコーダ51とカウンタ62の間にパルスレート変換回路60を備えたことで、パルスレート変換回路60によりプーリ53およびワイヤー52の加工誤差等を吸収できることから、プーリ53の加工精度を従来よりも粗いものとすることができるとともに、ストローク検出器34のストローク精度を規定値以内に収めるためにワイヤー52を目標精度にあったものに張り替えなくてもよくなるという効果も得られる。
【0053】
なお、上述した実施形態では、負荷部材としてテーブル21の移動量をロータリエンコーダ51により検出する材料試験機について説明したが、たとえば、特開平8−152389号公報に記載されたような下つかみ具を支持する負荷部材を昇降させることにより試験片に試験力を付与する材料試験機において、下つかみ具を支持する負荷部材の移動量を検出する検出器としてベルト部材が巻き取り機構により伸縮するタイプのワイヤー式変位検出器を採用する場合にも、この発明のパルスレート変換回路60を備えることにより、上述の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0054】
上述した実施形態においては、パルスレート変換回路60の電子ギアにおける電子ギア分子の値を、ロータリスイッチ61により、予めロータリスイッチ61の接点数に対応する16個の値のいずれかに切り換えることで、パルスレート変換回路60における変換レートが変更される構成としている。以下に説明する実施形態では、このロータリスイッチ61を使用せず、ロータリエンコーダ51の位相に応じて補正した電子ギア分子の値をパルスレート変換回路60に与える構成としている。
【0055】
図9は、この発明の第2実施形態に係る材料試験機における、テーブル21の移動量の検出から表示部36への表示までの概要を示す図である。図10は、ロータリエンコーダ51の回転角を説明する概要図である。図11は、ワイヤー52を移動させてロータリエンコーダ51が1回転したときの校正器により検出した変位量とロータリエンコーダ51の位相との関係を模式的に示すグラフである。また、図12は、この実施形態に係る材料試験機におけるパルスレート変換回路60のブロック図である。なお、上述した実施形態と同様の構成については、同一の符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0056】
図9に示すように、この実施形態では、アドレス生成部81と、メモリ91とを有する補正回路90を備える。この補正回路90は、この発明における補正手段として機能する。メモリ91は、図12に示す電子ギア分子の値として、主にプーリ53とロータリエンコーダ51の偏心に起因したロータリエンコーダ51の1回転分のワイヤー52の移動量の誤差を補正可能な補正値を与えるための、校正値テーブルを記憶する、この発明の記憶手段として機能する。
【0057】
まず、メモリ91に記憶される校正値テーブルの作成について、図10および図11を参照して説明する。このロータリエンコーダ51は、A/B2相出力のインクリメンタル式のエンコーダであり、Z相信号出力時の回転角を0度とする。たとえば、ロータリエンコーダ51が2000(パルス/1回転)のものであったとすると、パルスカウンタのカウント値が500のとき、ロータリエンコーダ51の回転角は90度、カウント値が1500のとき、ロータリエンコーダ51の回転角は270度である。さらに、ロータリエンコーダ51を4逓倍で使用すると、図10に示すように、パルスカウンタのカウント値が2000のとき、ロータリエンコーダ51の回転角は90度、カウント値が6000のとき、ロータリエンコーダ51の回転角は270度、カウント値が7999のとき、ロータリエンコーダ51の回転角は359.955度となる。このように、ロータリエンコーダ51の位相を絶対座標に対応付けることができる。
【0058】
まず、校正器を用いて、ワイヤー52を移動させたときの、ロータリエンコーダ51から初めてZ相信号が出力された時点(カウント値=0)から、ロータリエンコーダ51から出力される信号を、パルスカウンタを利用したアドレス生成部81においてカウントする。そして、カウント値が7999になるまで、各カウント値について校正器により検出した変位量(ワイヤー52の移動量)と校正器の校正基準値との差分を計算し、図9に示すメモリ91に記憶させる。そして、ロータリエンコーダ51の1回転分について、ロータリエンコーダ51の回転角の関数f(θ)で表される電子ギア分子の補正値を8000アドレス分テーブル化し、それを予め校正値としてメモリ91に記憶させておく。すなわち、ロータリエンコーダ51の1回転分の各絶対角度θをアドレスとし、電子ギア分子の校正値(関数f(θ))をデータとしてメモリ91に記憶させる。
【0059】
校正器により検出した変位量とロータリエンコーダ51の位相との関係をグラフにしたものが図11に示すグラフである。図11においては、縦軸を変位量の差分(校正器が保持する校正基準値との差)、横軸をロータリエンコーダ51の位相に対応するカウント値(アドレス)として示しているが、図示の都合上、横軸のロータリエンコーダ51の1回転分のカウント値を20とし、20カウント分の差分をグラフにして示している。ここでの変位量の差分とは、ロータリエンコーダ51の1カウント分における実変位の変化分であり、ロータリエンコーダ51の1カウント分の重みに相当する。
【0060】
材料試験を開始し、ロータリエンコーダ51によりテーブル21の変位を計測する場合には、まず、試験を開始する前に、装置に電源が入ってから最初のZ相信号の入力があるまで、手動などでワイヤー52を移動させる。これは、ロータリエンコーダ51のカウント値と位相のゼロ点を合わせるためである。すなわち、ロータリエンコーダ51の回転角が0度となる位置を特定する。なお、ロータリエンコーダ51が電池を内蔵したアブソリュート式エンコーダであれば、このようなゼロ点合わせは不要である。
【0061】
ロータリエンコーダ51からZ相信号が出力された時点から、ロータリエンコーダ51が出力した信号は、図9に示すように、パルスレート変換回路60に入力された後、カウンタ62に出力されて計数される。しかる後、カウンタ62の計数値がテーブル21の移動量(移動距離)に換算され、表示部36に表示される。一方で、ロータリエンコーダ51が出力した信号は、パルスカウンタを利用したアドレス生成部81において、そのときのロータリエンコーダ51の回転角、すなわち、メモリ91に記憶した校正値テーブルから読み込む電子ギア分子の値のアドレス値を生成する。
【0062】
なお、アドレス生成部81ではパルスカウンタを利用しているが、このパルスカウンタは、メモリ91に記憶した校正値を呼び出すアドレスが得られるものであればよく、パルスカウンタに限定されない。このパルスカウンタは、上述したパルスレート変換器60からの出力パルスを計数するカウンタ62とは別のものである。
【0063】
アドレス生成部81でアドレス値が生成されると、メモリ91に記憶した校正値テーブルからそのアドレス値に対応する電子ギア分子の値が読み出され、パルスレート変換回路60に与えられる。すなわち、図12において、電子ギア分子に与えられる補正値が、補正回路90により求められる。なお、この補正回路90は、制御部35に配置された、FPGAを用いて実現される。
【0064】
パルスレート変換回路60は、たとえば、電子ギア分子に固定値として2000が設定され、電子ギア分子に2002(補正値)が与えられたとすると、図6から図8を参照して説明した第1実施形態と同様に、ロータリエンコーダ51の出力を、電子ギア分子/電子ギア分母=2002/2000の電子ギア比でパルスレートを変換してカウンタ62に出力するようになる。
【0065】
このように、この実施形態では、第1実施形態と同様にパルスレート変換回路60によりロータリエンコーダ51の1回転あたりのワイヤー52の移動量の誤差を補正できる。これに加えて、補正回路90により、プーリ53とロータリエンコーダ51の回転軸の偏心に起因したロータリエンコーダ51の1回転未満でのワイヤー52の移動量の誤差も補正できる。このため、この材料試験機のラムストローク検出器のような、いわゆるワイヤー式変位検出器を、より微少な変位を検出するための変位検出器として使用することが可能となる。
【0066】
また、この実施形態では、ロータリエンコーダ51の1回転分における1パルスの重みをパルスレート変換回路60に与える補正回路90について説明したが、メモリ91に記憶させておく校正値テーブルを作成しておけば、多回転ロータリエンコーダの全回転分(ストローク変位検出器の全ストローク分)について、各パルス位置における1パルスの重みを電子ギア分子の値としてパルスレート変換回路60に与えることも可能である。
【0067】
図13は、この発明の第3実施形態に係る材料試験機におけるテーブル21の移動量の検出から表示部36への表示までの概要を示す図である。図14は、ワイヤー52を移動させてロータリエンコーダ51が1回転したときの校正器により検出した変位量とロータリエンコーダ51の位相との関係を模式的に示すグラフである。なお、上述した実施形態の同様の構成は、同一の符号を付して詳細な説明は省略する。
【0068】
この実施形態では、上述した第2実施形態と同様に、ロータリエンコーダ51の位相に応じて補正した電子ギア分子の値をパルスレート変換回路60に与える構成としている。一方で、この実施形態では、パルスレート変換回路60に与える電子ギア分子の値を求める補正回路90に、メモリ92、乗算器93および加算器94を備え、さらにメモリ92、乗算器92、加算器93のそれぞれに、ロータリスイッチ95、96、97が接続されている。なお、ロータリスイッチ95、96、97は、上述した第1実施形態におけるロータリスイッチ61と同様に、16段階に切換可能な構成となっている。しかし、これらロータリスイッチ95、96、97の切換数は、16段階に限定されるものではない。
【0069】
この実施形態において、補正回路90により電子ギア分子の補正値を求めるには、上述した第2実施形態と同様に、校正器を用いて、校正器を用いて、ワイヤー52を移動させたときの、ロータリエンコーダ51から初めてZ相信号が出力された時点(カウント値=0)から、ロータリエンコーダ51から出力される信号を、パルスカウンタを利用したアドレス生成部81においてカウントする。そして、各カウント値について校正器により検出した変位量(ワイヤー52の移動量)と校正器の校正基準値との差分を計算する。そして、これらの値をメモリ92に記憶させる。
【0070】
校正器により検出した変位量とロータリエンコーダ51の位相との関係をグラフにしたものが図14に示すグラフである。この図14においては、図11と同様に、縦軸を変位量の差分とし、横軸をロータリエンコーダ51の位相に対応するカウント値(アドレス)として示しているが、図示の都合上、横軸のロータリエンコーダ51の1回転分のカウント値を20とし、20個の差分値をグラフにして示している。
【0071】
図14に示すように、ロータリエンコーダ51の1回転分の変位量の差分は、プーリ53のような回転体の偏心による周期誤差を示す正弦波(図14に一点鎖線で示す)と、正弦波の始まりがゼロとなるオフセット量とに分解できる。なお、正弦波は、主にプーリ53とロータリエンコーダ51との回転軸の偏心に起因した誤差と考えることができる。また、オフセット量は、誤差を含んだプーリ53の円周長およびワイヤー52の直径分と考えることができる。
【0072】
上述した第2実施形態においては、電子ギア分子の値を決定する関数f(θ)を、テーブル化してメモリ91に記憶させていた。しかし、この実施形態は、上述した第2実施形態とは異なり、電子ギア分子の値を決定する関数f(θ)を、正弦波とオフセット量とに分解し、正弦波の0度位相(シフト量)A、正弦波の大きさ(波高さ)B、オフセット量Cを、それぞれロータリスイッチ95、96、97で設定し、メモリ92、乗算器93、加算器94の計算を経て得ている。すなわち、正弦波の位相A、正弦波の大きさBおよびオフセット量Cに基づいて、ロータリエンコーダ51の回転角の関数f(θ)として表される補正値を算出している。なお、メモリ92は、正弦波の位相を記憶するこの発明の記憶手段として機能し、メモリ92には、正弦波が固定値として予め記憶されている。
【0073】
材料試験を開始し、ロータリエンコーダ51によりテーブル21の変位を計測する場合には、上述した第2実施形態と同様に、まず、試験を開始する前に、装置に電源が入ってから最初のZ相信号の入力があるまで、手動などでワイヤー52を移動させる。そして、ロータリエンコーダ51の回転角が0度となる位置を特定する。
【0074】
ロータリエンコーダ51からZ相信号が出力された時点から、ロータリエンコーダ51が出力した信号は、図13に示すように、パルスレート変換回路60に入力された後、カウンタ62に出力されて計数される。しかる後、カウンタ62の計数値がテーブル21の移動量(移動距離)に換算され、表示部36に表示される。一方で、ロータリエンコーダ51が出力した信号は、パルスカウンタを利用したアドレス生成部81において、そのときのロータリエンコーダ51の回転角に対応する正弦波成分の値をメモリ92から読み出すためのアドレス値を生成する。
【0075】
メモリ92に接続されているロータリスイッチ95は、16段階で正弦波の位相のシフト量を変化させることができる。すなわち、図14に示すグラフの横軸のカウント値を16分割した分ずつ、メモリ92に記憶されている正弦波の0度位相をシフトすることができる。
【0076】
乗算器93に接続されたロータリスイッチ96は、正弦波の大きさ(波高さ)を16段階で変更する。すなわち、プーリ53やワイヤー52の状態によっては、いくつか波高さの異なる波形が重なる波形になる場合もある。このような場合には、ゲインをロータリスイッチ96で16段階に変更することで、正弦波の大きさ(波高さ)を調整している。
【0077】
加算器94に接続されたロータリスイッチ97は、メモリ92、乗算器93を経て修正された正弦波に加えるオフセット量を16段階に変更することができる。このロータリスイッチ97は、上述した第1実施形態におけるロータリスイッチ61と同様の役割を担うものである。たとえば、パルスレート変換回路60における電子ギアの分母の値が2000であり、ロータリスイッチ97の接続点に対応するオフセット量が1992〜2007の16個の値であったとする。このとき、乗算器93を得て修正されたロータリエンコーダ51のある位相における正弦波成分の値が3であり、ロータリスイッチ97の設定によるオフセット量が2002であったとすると、2002+3=2005が、電子ギア分子の値となる。このように、メモリ92、乗算器93、加算器94による計算を経て決定された電子ギア分子の値はパルスレート変換回路60に与えられる。すなわち、この実施形態でも、第2実施形態と同様に、ロータリエンコーダ51の瞬間の位相におけるエンコーダ1カウント分の重みをパルスレート変換回路60に与えることができる。
【0078】
パルスレート変換回路60は、電子ギア分子に固定値として2000が設定され、電子ギア分子に2005(補正値)が与えられたとすると、図6から図8を参照して説明した第1実施形態と同様に、ロータリエンコーダ51の出力を、電子ギア分子/電子ギア分母=2005/2000の電子ギア比でパルスレートを変換してカウンタ62に出力するようになる。
【0079】
このように、この実施形態では、第1実施形態と同様にパルスレート変換回路60によりロータリエンコーダ51の1回転あたりのワイヤー52の移動量の誤差を補正できる。これに加えて、第2実施形態と同様に、補正回路90により、プーリ53とロータリエンコーダ51の回転軸の偏心に起因したロータリエンコーダ51の1回転未満でのワイヤー52の移動量の誤差も補正できる。このように、この実施形態では、より細かい誤差補正をおこなっていることから、この材料試験機のラムストローク検出器のような、いわゆるワイヤー式変位検出器を、より微少な変位を検出するための変位検出器として使用することも可能となる。
【符号の説明】
【0080】
10 試験片
11 試験片
21 テーブル
22 支柱
23 ネジ棹
24 上部クロスヘッド
25 ラムシリンダ
26 下部クロスヘッド
27 モータ
28 圧盤
31 上つかみ具
32 下つかみ具
33 圧力センサ
34 ストローク検出器
35 制御部
36 表示部
37 操作部
41 ベース
51 ロータリエンコーダ
52 ワイヤー
53 プーリ
54 支持板
55 スタンド
56 コイルバネ
60 パルスレート変換回路
61 ロータリスイッチ
62 カウンタ
71 制御回路
72 アキュムレータ
73 セレクタ
74 第1比較器
75 第2比較器
76 レジスタ
81 アドレス生成部
90 補正回路
91 メモリ
92 メモリ
93 乗算器
94 加算器
95 ロータリスイッチ
96 ロータリスイッチ
97 ロータリスイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに対向する負荷部材の間に試験片を配設し、前記負荷部材の一方をアクチュエータにより昇降させることにより引張または圧縮試験を行う材料試験機であって、
前記アクチュエータの駆動により昇降する負荷部材に接続され、張力が与えられた状態でプーリに回巻され、前記負荷部材の昇降に伴って移動するワイヤーと、
前記プーリに接続され、前記プーリの回転を検出して信号を出力する検出手段と、
前記検出手段が出力した信号のパルスレートを変換するパルスレート変換部と、
前記パルスレート変換部により変換された信号を計数するとともに、該計数値を前記アクチュエータの駆動により昇降する負荷部材の移動量に換算する計数処理部と、
を備えることを特徴とする材料試験機。
【請求項2】
請求項1に記載の材料試験機において、
前記パルスレート変換部は、電子ギアを備え、
前記電子ギアの電子ギア分子の値を、予め規定した複数の値の内のいずれかに変更する切換手段を備える材料試験機。
【請求項3】
請求項1に記載の材料試験機において、
前記パルスレート変換部は、電子ギアを備え、
前記電子ギアの電子ギア分子の値を補正し、補正した電子ギア分子の値を前記パルスレート変換部に与える補正手段をさらに備える材料試験機。
【請求項4】
請求項3に記載の材料試験機において、
前記検出手段は、ロータリエンコーダであり、
前記補正手段は、予め記憶手段に記憶された前記ロータリエンコーダ1回転分の位相と前記ロータリエンコーダの回転角の関数で表される補正値とを対応付けた校正値テーブルに基づいて、前記ロータリエンコーダの回転角に応じた電子ギア分子の値を決定する材料試験機。
【請求項5】
請求項3に記載の材料試験機において、
前記検出手段は、ロータリエンコーダであり、
前記補正手段は、予め記憶手段に記憶された前記ロータリエンコーダ1回転分の正弦波の位相と、正弦波の大きさおよびオフセット量を設定し、正弦波の位相と、正弦波の大きさおよびオフセット量に基づいて、前記ロータリエンコーダの回転角の関数として表される補正値を算出し、前記ロータリエンコーダの回転角に応じた電子ギア分子の値を決定する材料試験機。
【請求項6】
請求項2から請求項5のいずれかに記載の材料試験機において、
前記パルスレート変換部は、
入力された1つの信号ごとに前記切換手段により設定した所定の値を加えた電子ギア分子の正または負の値に該電子ギア分子の値の正または負の逆符号となる電子ギア分母の値を加算する動作を繰り返し、加算後の値を積算値として保持する累算器と、
前記検出手段が検出した信号が正転か逆転かにより前記電子ギア分子および前記電子ギア分母の正または負の値を累算器に加える値として選択するセレクタと、を備え、
前記積算値に前記電子ギア分子の値を加算したときの値と電子ギア分母の値との比較に基づいて信号を出力するとともに、前記積算値に前記電子ギア分子の正または負の値を加算したときの値の絶対値が電子ギア分母の値の2倍と等しいまたは電子ギア分母の値の2倍より大きくなるときには1つの入力信号に対して2つの出力信号を出力し、前記積算値に前記電子ギア分子の正または負の値を加算したときの値の絶対値が電子ギア分母の値と等しいまたは電子ギア分母の値より大きくなるときには1つの入力信号に対して1つの出力信号を出力し、前記積算値に前記電子ギア分子の正または負の値を加算したときの値の絶対値が電子ギア分母の値より小さくなるときには2つの入力信号に対して1つの出力信号を出力する材料試験機。
【請求項7】
請求項1に記載の材料試験機において、
前記アクチュエータの駆動により昇降する負荷部材は、テーブルである材料試験機。
【請求項8】
請求項1に記載の材料試験機において、
前記アクチュエータは、ラムシリンダである材料試験機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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