説明

杭抜機及び杭抜方法

【課題】杭の引き抜き力を低減するとともに、杭のみを地盤から引き抜くことができ、さらに、杭のリサイクルに係る費用を低減することができる杭抜機を提供することを課題とする。
【解決手段】杭抜機1であって、二本の支柱11,11によって、上枠体12が支持されている門型フレーム10と、上枠体12から吊り下げられた打撃ハンマー20と、上枠体12から吊り下げられ、杭Pを把持するチャック30と、を備え、打撃ハンマー20が各支柱11,11に案内されて昇降するとともに、チャック30が打撃ハンマー20の側方を通過して昇降することを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤に埋設された杭を引き抜くための杭抜機、及びその杭抜機を用いた杭抜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地盤に埋設されたH形鋼や鋼板などの杭を引き抜くための杭抜機としては、所定間隔を離して立設された二本の支柱によって、上枠体が支持されている門型フレームと、上枠体に設けられたホイストから吊り下げられたチャックと、を備えているものがある。
この杭抜機では、門型フレームを地上面に設置し、杭の上端部を把持したチャックを上昇させることで、杭を地盤から引き抜くことができる(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2002−004281号公報(段落0015〜0016、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、地盤に埋設された杭の周囲にセメントなどの固結材を充填して硬化させることで、杭の沈下を防ぐとともに、杭の支持力を高めることができる。このように、杭の周囲に固結材が充填されている場合には、杭を引き抜いたときに、固結材も杭に付着した状態で引き抜かれる。したがって、杭の引き抜き力が大きくなるとともに、固結材が引き抜かれることで地盤に形成された穴部を埋め戻す必要がある。さらに、引き抜いた杭はリサイクルすることが望ましいが、杭に付着した固結材を剥離する必要があるため、杭のリサイクルに係る費用が高くなっている。
【0005】
そこで、本発明では、前記した問題を解決し、杭の引き抜き力を低減するとともに、杭のみを地盤から引き抜くことができ、さらに、杭のリサイクルに係る費用を低減することができる杭抜機及び杭抜方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するため、本発明の杭抜機は、ベースマシンのアームに取り付けられる杭抜機であって、所定間隔を離して立設された二本の支柱によって、上枠体が支持されている門型フレームと、前記上枠体からハンマー用ワイヤによって吊り下げられた打撃ハンマーと、前記上枠体からチャック用ワイヤによって吊り下げられ、地盤に埋設された杭を把持するチャックと、を備え、前記門型フレームの前記上枠体に前記ベースマシンの前記アームが取り付けられ、前記ハンマー用ワイヤ及び前記チャック用ワイヤは、前記ベースマシンの巻上装置に巻架されており、前記巻上装置によって前記ハンマー用ワイヤを巻き取り又は繰り出すことで、前記打撃ハンマーが前記各支柱に案内されて昇降するとともに、前記巻上装置によって前記チャック用ワイヤを巻き取り又は繰り出すことで、前記チャックが前記打撃ハンマーの側方を通過して昇降することを特徴としている。
【0007】
前記課題を解決するため、本発明の杭抜方法は、前記した杭抜機を用いた杭抜方法であって、地盤に埋設された杭の周囲には固結材が充填されて硬化しており、前記打撃ハンマーを前記杭の上端部に打撃して、前記杭を前記固結材から縁切りさせる工程と、前記杭の上端部を前記チャックによって把持し、前記チャックを上昇させることで、前記杭を吊り上げる工程と、を含むことを特徴としている。
【0008】
本発明の杭抜機及び杭抜方法では、地盤から杭を引き抜く前に、杭の上端部を打撃ハンマーで打撃して杭に振動を付与することで、杭を地盤や固結材から縁切りすることができるため、杭の引き抜き力を低減することができる。
また、杭を地盤や固結材から縁切りすることで、杭を吊り上げたときに、杭のみが地盤から引き抜かれるため、杭を引き抜いた後に、地盤を埋め戻す量が少なくなり、作業効率を高めることができる。
また、杭を地盤や固結材から縁切りすることで、引き抜いた杭に土や固結材が付着しないため、杭を引き抜いた状態でリサイクルすることができ、杭のリサイクルに係る費用を低減することができる。
また、チャックが打撃ハンマーの側方を通過して昇降するため、チャックによって杭を吊り上げるときに、門型フレームから打撃ハンマーを撤去する必要がない。したがって、杭の打撃と引き抜きを連続して行うことができるため、作業効率を高めることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の杭抜機及び杭抜方法によれば、杭の引き抜き力を低減するとともに、杭のみを地盤から引き抜くことができ、さらに、杭のリサイクルに係る費用を低減することができる。また、杭の打撃と引き抜きを連続して行うことができ、作業効率を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
次に、本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下の説明において、前後左右方向とは、各図に示した前後左右方向に対応している。
本実施形態では、地盤に埋設されたH形鋼の杭を引き抜く場合を例として説明する。本実施形態では、図2に示すように、地盤に掘削された穴部Hに杭Pが挿入されており、杭Pの上端部が地上面から突出している。また、杭Pと穴部Hとの隙間には、固結材Cが充填されて硬化している。本実施形態では、固結材Cとしてセメントを用いており、この固結材Cによって、杭Pの沈下を防ぐとともに、杭Pの支持力を高めている。
【0011】
杭抜機1は、図2に示すように、所定間隔を離して立設された二本の支柱11,11によって、上枠体12が支持されている門型フレーム10と、上枠体12からハンマー用ワイヤ43によって吊り下げられた打撃ハンマー20と、上枠体12からチャック用ワイヤ44によって吊り下げられたチャック30と、を備えている。
門型フレーム10の上枠体12には、ベースマシン40(図1参照)のアーム41が取り付けられており、ハンマー用ワイヤ43及びチャック用ワイヤ44は、ベースマシン40の巻上装置(図示せず)に巻架されている。
【0012】
ベースマシン40は、図1に示すように、既存の移動式クレーン(本実施形態ではラフタークレーン)であり、上下方向に傾動自在で、長手方向に伸縮自在なアーム41が、水平方向に旋回可能な旋回体42に取り付けられている。
旋回体42には、ハンマー用ワイヤ43及びチャック用ワイヤ44の基端側が巻架された巻上装置(図示せず)が設けられており、ハンマー用ワイヤ43及びチャック用ワイヤ44の先端側は、アーム41の先端部に掛け渡されている。
アーム41の先端部は、門型フレーム10の上枠体12に対してピンジョイントによって取り付けられており、アーム41を傾動、伸縮及び旋回させることで、門型フレーム10を移動させることができる。
【0013】
門型フレーム10は、図2に示すように、平面視でコの字形状の板状部材である底版13と(図3(b)参照)、左右方向に所定間隔を離して底版13上に立設されている二本の支柱11,11と、各支柱11,11の上端部に支持されている上枠体12と、を備えている。
各支柱11,11の下端部は、底版13の上面に対して回動自在な状態で取り付けられており、各支柱11,11は下端部を回動中心として後方に傾斜させることができる。
【0014】
支柱11は、図3(b)に示すように、矩形断面の部材であり、四隅にガイドレール11a・・・がそれぞれ取り付けられている。ガイドレール11aは、丸パイプによって形成されており、支柱11の隅部に沿って上下方向に延びている。
【0015】
上枠体12は、図2に示すように、左右の支柱11,11の上端部に架設された部材であり、上面にはベースマシン40のアーム41の先端部をピンジョイントによって取り付けるためのブラケット12aが突設されている。
【0016】
上枠体12の下部には、縦回転するフレーム側滑車14が取り付けられているとともに、縦回転する八体の滑車が並設されたフレーム側滑車群15が取り付けられている。フレーム側滑車14及びフレーム側滑車群15は、上枠体12の左右方向の中央部に配置されている。図1に示すように、フレーム側滑車群15は、上枠体12の前後方向の中央部に配置され、フレーム側滑車14は、フレーム側滑車群15よりも上方で、フレーム側滑車群15よりも前側に配置されている。
【0017】
打撃ハンマー20は、図2に示すように、円柱状の打撃部材21と、この打撃部材21の左右両側に取り付けられたスライダ22,22と、を備えている。
打撃ハンマー20の左右のスライダ22,22は、図3(a)に示すように、左右の支柱11,11にそれぞれ取り付けられている。具体的には、スライダ22は、支柱11の内側に配置された二本のガイドレール11a,11aに対して、上下方向にスライド自在な状態で取り付けられている。
打撃部材21は、各支柱11,11の前後方向の中央部よりも前側に配置されており、打撃部材21の一部は、各支柱11,11の前面よりも前側に突出している。
また、打撃部材21の上端部には、図2に示すように、ベースマシン40から上枠体12のフレーム側滑車14に掛け回されたハンマー用ワイヤ43の先端部(下端部)が連結されている。したがって、ベースマシン40の巻上装置(図示せず)によって、ハンマー用ワイヤ43を巻き取り又は繰り出すことで、打撃ハンマー20は二本の支柱11,11に案内されて昇降する。
【0018】
チャック30は、H型鋼である杭Pのウェブを把持する既存の保持具であり、縦方向に形成された把持溝31内に杭Pのウェブを挿入し、把持溝31内で杭Pのウェブを挟み込むことによって、杭Pを保持することができる。
チャック30は、上枠体12の前後方向の中央部、すなわち、左右の支柱11,11の間に配置されている。
また、チャック30の上端部には、縦回転する八体の滑車が並設されたチャック側滑車群32が取り付けられている。チャック側滑車群32の各滑車と、門型フレーム10の上枠体12に取り付けられたフレーム側滑車群15の各滑車とには、チャック用ワイヤ44が交互に掛け回されている。したがって、ベースマシン40の巻上装置(図示せず)によって、チャック用ワイヤ44を巻き取り又は繰り出すことで、チャック30は二本の支柱11,11の間で昇降する。
【0019】
このような杭抜機1によって地盤から杭Pを引き抜く場合には、まず、図1に示すように、打撃ハンマー20が杭Pの直上に配置されるように、ベースマシン40を用いて門型フレーム10を地上面に設置する。
【0020】
続いて、図4に示すように、ベースマシン40からハンマー用ワイヤ43を繰り出して、打撃ハンマー20を降下させ、地上面から突出している杭Pの上端部に、打撃ハンマー20の打撃部材21を打撃する。これにより、杭Pに振動が付与され、杭Pが固結材Cから縁切りされた状態となる。
【0021】
杭Pと固結材Cとを縁切りした後に、杭Pの直上にチャック30が配置されるように、ベースマシン40を用いて門型フレーム10を移動させる。このとき、門型フレーム10の各支柱11,11は下端部を回動中心として僅かに後方に傾斜させる。これにより、各支柱11,11の上端部に設けられた上枠体12は、各支柱11,11の下端部に対して後方に移動することになる。すなわち、上枠体12から垂直に吊り下げられたチャック30は、各支柱11,11よりも後方に吊り下げられた状態となり、各支柱11,11の前側に取り付けられた打撃ハンマー20とチャック30とは、チャック30を昇降させたときに、チャック30が打撃ハンマー20に干渉しない位置関係となる。
そして、図5に示すように、チャック30を下降させ、チャック30の把持溝31に杭Pのウェブを挿入して把持する。このとき、チャック30は打撃ハンマー20の側方(後方)を通過して下降する。
【0022】
図6に示すように、チャック30が杭Pの上端部を把持した状態で、ベースマシン40の巻上装置(図示せず)によってチャック用ワイヤ44を巻き上げて、チャック30を上昇させることで、杭Pを吊り上げる。このとき、杭Pと固結材Cとは縁切りされているため、杭Pを吊り上げたときに、杭Pは固結材Cから分離して引き抜かれ、固結材Cは地盤内に残される。
【0023】
以上のような杭抜機1、及びその杭抜機1を用いた杭抜方法によれば、図4に示すように、地盤から杭Pを引き抜く前に、杭Pの上端部を打撃ハンマー20で打撃して杭Pに振動を付与することで、杭Pを固結材Cから縁切りすることができるため、杭Pの引き抜き力を低減することができる。
なお、本実施形態では、門型フレーム10の上枠体12に取り付けられたフレーム側滑車群15と、チャック30に取り付けられたチャック側滑車群32とにチャック用ワイヤ44が掛け回されており、滑車群15,32を用いることでチャック用ワイヤ44の張力が増大されているため、低出力の巻上装置を用いることができ、ベースマシン40(図1参照)を小型化することができる。
【0024】
また、杭Pを固結材Cから縁切りすることで、図6に示すように、杭Pを吊り上げたときに、杭Pのみが地盤から引き抜かれ、固結材Cは地盤内に残される。したがって、杭Pを引き抜いた後に、地盤に大きな穴部が形成されず、地盤を埋め戻す量が少なくなるため、作業効率を高めることができる。
【0025】
また、引き抜いた杭Pに固結材が付着しないため、杭を引き抜いた状態でリサイクルすることができ、杭Pのリサイクルに係る費用を低減することができる。
【0026】
また、チャック30が打撃ハンマー20の側方を通過して昇降するため、チャック30によって杭Pを吊り上げるときに、門型フレーム10から打撃ハンマー20を撤去する必要がない。したがって、杭Pの打撃と引き抜きを連続して行うことができ、作業効率を高めることができる。
【0027】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は前記実施形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜に設計変更が可能である。
例えば、地盤に埋設された杭の周囲に固結材が充填されていない場合であっても、杭と地盤とが結合している場合には、図1に示す本発明の杭抜機1によって、杭を地盤から引き抜く前に、杭の上端部を打撃して、杭と地盤とを縁切りさせることで、杭の引き抜き力を低減させるとともに、杭のみを地盤から引き抜くことができ、さらに、杭に付着する土砂が少なくなるため、杭のリサイクルに係る費用を低減することができる。
【0028】
また、本実施形態では、門型フレーム10の各支柱11,11を後方に傾斜させることで、チャック30が打撃ハンマー20に干渉しないように構成されているが、各支柱11,11を傾斜させなくても、チャック30が打撃ハンマー20に干渉しないように、打撃ハンマー20の取り付け位置を設定することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本実施形態の杭抜機を示した側面図である。
【図2】本実施形態の杭抜機を示した正面図である。
【図3】本実施形態の杭抜機を示した図で、(a)は打撃ハンマーの平面図、(b)は底版の平面図である。
【図4】本実施形態の杭抜方法を示した図で、打撃ハンマーによって杭を打撃したときの正面図である。
【図5】本実施形態の杭抜方法を示した図で、チャックによって杭を把持したときの正面図である。
【図6】本実施形態の杭抜方法を示した図で、チャックによって杭を吊り上げたときの正面図である。
【符号の説明】
【0030】
1 杭抜機
10 門型フレーム
11 支柱
11a ガイドレール
12 上枠体
14 フレーム側滑車
15 フレーム側滑車群
20 打撃ハンマー
21 打撃部材
22 スライダ
30 チャック
32 チャック側滑車群
40 ベースマシン
41 アーム
42 ハンマー用ワイヤ
43 チャック用ワイヤ
P 杭
C 固結材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベースマシンのアームに取り付けられる杭抜機であって、
所定間隔を離して立設された二本の支柱によって、上枠体が支持されている門型フレームと、
前記上枠体からハンマー用ワイヤによって吊り下げられた打撃ハンマーと、
前記上枠体からチャック用ワイヤによって吊り下げられ、地盤に埋設された杭を把持するチャックと、を備え、
前記門型フレームの前記上枠体に前記ベースマシンの前記アームが取り付けられ、前記ハンマー用ワイヤ及び前記チャック用ワイヤは、前記ベースマシンの巻上装置に巻架されており、
前記巻上装置によって前記ハンマー用ワイヤを巻き取り又は繰り出すことで、前記打撃ハンマーが前記各支柱に案内されて昇降するとともに、
前記巻上装置によって前記チャック用ワイヤを巻き取り又は繰り出すことで、前記チャックが前記打撃ハンマーの側方を通過して昇降することを特徴とする杭抜機。
【請求項2】
請求項1に記載された杭抜機を用いた杭抜方法であって、
地盤に埋設された杭の周囲には固結材が充填されて硬化しており、
前記打撃ハンマーを前記杭の上端部に打撃して、前記杭を前記固結材から縁切りさせる工程と、
前記杭の上端部を前記チャックによって把持し、前記チャックを上昇させることで、前記杭を吊り上げる工程と、を含むことを特徴とする杭抜方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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