説明

板圧延機およびその制御方法

【課題】非定常部のない高精度、高応答な形状制御または板厚分布制御を安定して実現できる板圧延機およびその制御方法を提供すること。
【解決手段】圧延材3を挟んで対向配置される一対の作業ロール1,2の少なくとも一方に設置された分割補強ロール4によって前記作業ロールの少なくとも一方を直接支持する形式の板圧延機の制御方法において、分割補強ロール位置制御量Nの出力によって生じる他方の作業ロール系の変形量についても考慮して、分割補強ロール位置制御量Nを演算することを特徴とする板圧延機およびその制御方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、個別ロードセルを有する分割補強ロールで作業ロールを直接支持する形式の板圧延機(以下、知能圧延機と称する)およびその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
図4に例示する新型式圧延機は、個別に荷重検出装置6と圧下機構7を備える分割補強ロール4によって上側の作業ロール1を直接支持する機構であり、荷重検出装置6で測定された分割補強ロール荷重等から、前記作業ロール1と圧延材3の間に作用している幅方向圧延荷重分布または幅方向板厚分布をリアルタイムに推定して制御することで、非定常部のない高精度、高応答な形状制御または板厚分布制御をできるのが特徴となっている(例えば、特許文献1〜2、非特許文献1参照)。
【0003】
例えば、特許文献1は、作業ロール〜分割補強ロール間に作用する荷重の測定値から、圧延材〜作業ロール間に作用する圧延荷重分布を推定し、これに基づいて形状良好な圧延を行うための幅方向圧延荷重分布の目標値を算出し、この目標値に向かって圧延材〜作業ロール間の圧延荷重分布を近づける制御を行えば、形状良好な圧延板を得ることができるとしている。
【0004】
しかしながら、特許文献1は圧延材〜作業ロール間に作用する圧延荷重分布の推定方法については開示しているが、これを目標値に制御するための具体的手法については何ら開示していない。
【0005】
そこで、本発明者は、特許文献1には開示されていない、目標値に圧延荷重分布を近づけるための制御手法として、圧延中の作業ロールのたわみ演算値を固定して圧延荷重分布目標値に釣り合う分割補強ロール荷重目標値を計算し、この分割補強ロール荷重を実現するための分割補強ロール変形量、そして分割補強ロール圧下位置目標値を演算する新たな手法を考え出し、当該手法を用いた圧延材の形状制御を試みた。より具体的には、図2に示すフローチャートにしたがって圧延材の形状制御を実施した。以下、制御の1サイクル分の手続きを説明する。
【0006】
まず、各々の分割補強ロールが備える圧下機構から得られる分割補強ロール位置実績値A、および各々の分割補強ロールが備える荷重検出装置から得られる分割補強ロール荷重検出値Bを受けて、予め同定しておいた分割補強ロール系の変形特性を用いて分割補強ロール変形量演算値Cを演算し、分割補強ロール位置実績値Aを考慮して、分割補強ロール絶対位置演算値Dを演算する。
そして、この分割補強ロール絶対位置演算値Dから、分割補強ロールに当接する作業ロール1の鉛直方向たわみ演算値Eを演算する。
次いで、作業ロール1の鉛直方向たわみ演算値Eと分割補強ロール荷重検出値Bから、圧延材〜作業ロール間に作用する圧延荷重の幅方向分布、すなわち、幅方向圧延荷重分布演算値Fを演算する。
【0007】
次に、この幅方向圧延荷重分布演算値Fを幅方向圧延荷重分布目標値に向かって制御するために、幅方向圧延荷重分布目標値が実現したときに作業ロール1の鉛直方向たわみが前記演算値Eに一致するような分割補強ロール荷重を求め、これを分割補強ロール荷重目標値Kとする。
そして、分割補強ロール系の変形特性を用いて、この分割補強ロール荷重目標値Kから分割補強ロール変形量演算値Lを演算し、これと作業ロール1の鉛直方向たわみ演算値Eから、分割補強ロール位置目標値Mを演算する。
【0008】
次いで、制御ゲイン等を考慮して、この分割補強ロール位置目標値Mと分割補強ロール位置実績値Aとの差異から、分割補強ロール位置制御量Nを演算し、これに基づいて分割補強ロール位置制御を実行する。
以上の制御によれば、幅方向圧延荷重分布の現在値が目標値に一致した時点で、分割補強ロール荷重目標値が現在値に一致するので、安定した圧延材の形状制御を実現できるはずである。
【0009】
しかしながら、圧延素材の板厚変動や温度変動等の種々の外乱が大きい場合には、上記制御サイクルの間に圧延素材の幅方向板厚分布や変形抵抗等が変化して、目標とする幅方向圧延荷重分布が実現されないまま圧延が終了してしまう場合もあり、常に安定した形状制御を実現できるわけではないことが新たに判明した。
【0010】
また、特許文献2では、分割補強ロールの測定荷重から圧延材〜作業ロール間に作用する幅方向圧延荷重分布を推定し、これに基づいて演算された現在の幅方向板厚分布を予め与えられた目標値に向かって近づける制御を行えば、迅速な圧延材の幅方向板厚分布制御が可能であるとしている。
【0011】
しかしながら、特許文献2は圧延材〜作業ロール間に作用する幅方向圧延荷重分布の推定方法や、これに基づく現在の幅方向板厚分布の演算方法については開示しているが、これを目標値に制御するための具体的手法については何ら開示していない。
【0012】
そこで、本発明者は、特許文献2には開示されていない、幅方向板厚分布を目標値に近づけるための制御手法として、圧延中の作業ロール1のたわみ演算値を基準として、幅方向板厚分布演算値と目標値との差異分だけ作業ロール1のたわみを変化させるように圧延荷重分布の変化量も考慮して、分割補強ロール荷重目標値を計算し、この分割補強ロール荷重と作業ロール1のたわみ変化を実現するための分割補強ロール変形量、そして分割補強ロール圧下位置目標値を演算する新たな手法を考え出し、当該手法を用いた圧延材の板厚分布制御を試みた。より具体的には、図3に示すフローチャートにしたがって圧延材の板厚分布制御を実施した。以下、制御の1サイクル分の手続きを説明する。
【0013】
まず、幅方向圧延荷重分布演算値Fを演算するところまでは図2のフローチャートと同じであって、その後は、幅方向圧延荷重分布演算値Fに基づき、作業ロール1とは反対側の作業ロール2について鉛直方向たわみ演算値Gを演算し、これに上下作業ロール1、2のロール偏平変形量の演算値を加えて、圧延材の幅方向板厚分布の現在値である幅方向板厚分布演算値Hを演算する。
【0014】
次に、この幅方向板厚分布演算値Hを幅方向板厚分布目標値に向かって制御するために、幅方向板厚分布目標値が実現できるように分割補強ロール位置を変更して作業ロール1のたわみを変化させる。すなわち、幅方向圧延荷重分布および作業ロール2の鉛直方向たわみは前記演算値FおよびGから変化しないものと仮定して、幅方向板厚分布目標値を達成するように、作業ロール1の鉛直方向たわみ目標値Jを演算する。
【0015】
次に、幅方向圧延荷重分布演算値Fを前提として、作業ロール1の鉛直たわみ目標値Jが実現されるように分割補強ロール荷重を求め、これを分割補強ロール荷重目標値Kとする。
そして、分割補強ロール系の変形特性を用いて、この分割補強ロール荷重目標値Kから分割補強ロール変形量演算値Lを演算し、これと作業ロール1の鉛直たわみ目標値Jから、分割補強ロール位置目標値Mを演算する。
【0016】
次いで、制御ゲイン等を考慮して、この分割補強ロール位置目標値Mと分割補強ロール位置実績値Aとの差異から、分割補強ロール位置制御量Nを演算し、これに基づいて分割補強ロール位置制御を実行する。
以上の制御によれば、幅方向板厚分布の現在値が目標値に一致した時点で、分割補強ロール荷重目標値が現在値に一致するので、安定した圧延材の板厚分布制御を実現できるはずである。
【0017】
しかしながら、この手法においても圧延素材の板厚変動や温度変動等の種々の外乱が大きい場合には、上記制御サイクルの間に圧延素材の幅方向圧延荷重分布や変形抵抗等が変化して、目標とする幅方向板厚分布が実現されないまま圧延が終了してしまう場合もあり、常に安定した幅方向板厚分布制御を実現できるわけではないことが新たに判明した。
【特許文献1】特開平5−69010号公報
【特許文献2】特開平6−262228号公報
【非特許文献1】第58回塑性加工連合講演会講演論文集(2007)、pp153−154
【非特許文献2】松本ら、塑性と加工vol.23 no.263(1982−12) pp.1201〜1208
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
知能圧延機は、本来、圧延機後面のセンサーに依存する従来型圧延機と比べて迅速かつ高精度な形状制御あるいは幅方向板厚分布制御が可能であって非定常部の極めて少ない圧延制御を実現できるのが特徴であるが、上記したように従来型の制御方法では、種々の外乱によってこの利点を十分に発揮できない場合がある。本発明はこの問題を解決するものである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
知能圧延機の最大の制御手段は、分割補強ロールの圧下位置制御であるが、本発明者は、上記問題の原因が、分割補強ロールの圧下位置変更に伴う圧延状態変化のすべてを考慮しないで制御量を決定していることに起因することを知見した。
すなわち、前記した従来型の制御方法では、独立に荷重検出装置を有する分割補強ロールに支持されている作業ロール1とは反対側の作業ロール2については、分割補強ロールの圧下位置変更に伴うロール変形量の変化を一切考慮していない。このため、実際には1制御サイクルの分割補強ロール位置変更後は圧延荷重分布の変化に伴って作業ロール2の変形量が変化しているので、この分だけ作業ロール1のたわみ目標値に誤差が生じて、その結果として圧延荷重分布あるいは板厚分布の目標値に誤差が生じることを知見した。
本発明は、当該知見に基づいて完成されたものであり、その要旨とするところは以下のとおりである。
【0020】
(A)圧延材を挟んで対向配置される一対の作業ロールの少なくとも一方に設置された、各々が圧下機構と荷重検出装置を備える3以上の分割補強ロールによって前記作業ロールの少なくとも一方を直接支持する形式の板圧延機の制御方法において、(1)各々の分割補強ロールが備える圧下機構から得られる各分割補強ロールの位置実績値Aと、各々の分割補強ロールが備える荷重検出装置から得られる各分割補強ロールの荷重検出値Bから、各分割補強ロールの変形量Cの演算を経て、各分割補強ロールの絶対位置Dを演算する工程と、(2)当該分割補強ロールの絶対位置Dから、分割補強ロールに当接する一方の作業ロールの鉛直方向たわみEを演算する工程と、(3)当該一方の作業ロールの鉛直方向たわみEと各分割補強ロールの荷重検出値Bから、圧延材と前記一方の作業ロールの間に作用する幅方向圧延荷重分布Fを演算する工程と、(4)当該幅方向圧延荷重分布Fから、他方の作業ロールの鉛直方向たわみGの演算を経て、圧延材の幅方向板厚分布Hを演算する工程と、(5)幅方向圧延荷重分布目標値が実現された場合の他方の作業ロールの鉛直方向たわみ目標値Iを演算する工程と、(6)当該他方の作業ロールの鉛直方向たわみ目標値Iと圧延材の幅方向板厚分布目標値から、前記一方の作業ロールの鉛直方向たわみ目標値Jを演算する工程と、(7)当該一方の作業ロールの鉛直方向たわみ目標値Jと幅方向圧延荷重分布目標値から、各分割補強ロールの荷重目標値Kを演算する工程と、(8)当該分割補強ロールの荷重目標値Kから各分割補強ロールの変形量Lを演算する工程と、(9)当該分割補強ロールの変形量Lと前記一方の作業ロールの鉛直方向たわみ目標値Jから、各分割補強ロールの位置目標値Mを演算する工程と、(10)当該分割補強ロールの位置目標値Mと各分割補強ロールの位置実績値Aとの差異から、各分割補強ロールの位置制御量Nを演算する工程をこの順に行い、当該分割補強ロールの位置制御量Nに基づいて各分割補強ロールが備える圧下機構によって各分割補強ロールの位置を制御することを特徴とする板圧延機の制御方法。
【0021】
(B)圧延材の形状制御を目的として、圧延材〜作業ロール間に作用する幅方向圧延荷重分布の目標値を予め与え、圧延材の幅方向板厚分布目標値は、圧延中の幅方向板厚分布演算値に等値するか、または圧延中の幅方向板厚分布演算値を基準として圧延荷重分布演算値と圧延荷重分布目標値との差異に基づく圧延材の弾性変形量を演算して決めることを特徴とする前記(A)記載の板圧延機の制御方法。
【0022】
(C)圧延材の板厚分布制御を目的として、圧延材の幅方向板厚分布目標値を予め与え、圧延中の幅方向板厚分布演算値とこれに対応する幅方向圧延荷重分布演算値を基準として幅方向板厚分布が前記幅方向板厚分布目標値に変化した時の幅方向圧延荷重分布を演算して、これを圧延材〜作業ロール間に作用する幅方向圧延荷重分布目標値とすることを特徴とする前記(A)記載の板圧延機の制御方法。
【0023】
(D)圧延材を挟んで対向配置される一対の作業ロールの少なくとも一方に設置された、各々が圧下機構と荷重検出装置を備える3以上の分割補強ロールによって前記作業ロールの少なくとも一方を直接支持する形式の板圧延機において、(1)各々の分割補強ロールが備える圧下機構から得られる各分割補強ロールの位置実績値Aと、各々の分割補強ロールが備える荷重検出装置から得られる各分割補強ロールの荷重検出値Bから、各分割補強ロールの変形量Cの演算を経て、各分割補強ロールの絶対位置Dを演算する手段と、(2)当該分割補強ロールの絶対位置Dから、分割補強ロールに当接する一方の作業ロールの鉛直方向たわみEを演算する手段と、(3)当該一方の作業ロールの鉛直方向たわみEと各分割補強ロールの荷重検出値Bから、圧延材と前記一方の作業ロールの間に作用する幅方向圧延荷重分布Fを演算する手段と、(4)当該幅方向圧延荷重分布Fから、他方の作業ロールの鉛直方向たわみGの演算を経て、圧延材の幅方向板厚分布Hを演算する手段と、(5)幅方向圧延荷重分布目標値が実現された場合の他方の作業ロールの鉛直方向たわみ目標値Iを演算する手段と、(6)当該他方の作業ロールの鉛直方向たわみ目標値Iと圧延材の幅方向板厚分布目標値から、前記一方の作業ロールの鉛直方向たわみ目標値Jを演算する手段と、(7)当該一方の作業ロールの鉛直方向たわみ目標値Jと幅方向圧延荷重分布目標値から、各分割補強ロールの荷重目標値Kを演算する手段と、(8)当該分割補強ロールの荷重目標値Kから各分割補強ロールの変形量Lを演算する手段と、(9)当該分割補強ロールの変形量Lと前記一方の作業ロールの鉛直方向たわみ目標値Jから、各分割補強ロールの位置目標値Mを演算する手段と、(10)当該分割補強ロールの位置目標値Mと各分割補強ロールの位置実績値Aとの差異から、各分割補強ロールの位置制御量Nを演算する手段を備え、当該分割補強ロールの位置制御量Nに基づいて各分割補強ロールが備える圧下機構によって各分割補強ロールの位置を制御することを特徴とする板圧延機。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係る板圧延機およびその制御方法は、圧延材を挟んで対向配置される一対の作業ロールの少なくとも一方に設置された分割補強ロールによって前記作業ロールの少なくとも一方を直接支持する形式の板圧延機およびその制御方法であって、分割補強ロール位置制御量Nの出力によって生じる他方の作業ロール系の変形量についても考慮して、分割補強ロール位置制御量Nを演算することを特徴とする。したがって、分割補強ロール位置制御量Nを出力した後の制御サイクルで観測される分割補強ロール荷重検出値Bは、直前の制御サイクルで計算された分割補強ロール荷重目標値Kにその分布が近くなり、このため幅方向圧延荷重分布目標値および幅方向板厚分布目標値を極めて少ない制御サイクルで迅速に実現できる。
【0025】
さらに、本発明に係る板圧延機およびその制御方法では、常に幅方向圧延荷重分布目標値と幅方向板厚分布目標値の双方を達成するための制御を行う。このため、圧延材の形状制御を目的とする場合と、圧延材の板厚分布制御を目的とする場合との差異は、目標値の与え方に反映するだけでよい。したがって、常に一貫した高精度・高応答な制御が実現できるとともに、必要に応じて制御の途中において形状制御から板厚分布制御へ、あるいはその逆へと制御モードを切り換えることも容易にできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、図4に示した新型式圧延機を適用例として用いて、本発明に係る制御方法を示すフローチャートである図1を参照して、本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【0027】
前記したように従来型の制御方法では、独立に荷重検出装置6を備える分割補強ロール4に支持されている作業ロール1の反対側の作業ロール2については、分割補強ロールの圧下位置の変更に伴うロール変形量の変化を一切考慮していない。すなわち、1制御サイクルの分割補強ロールの位置変更後には、圧延荷重分布の変化に伴って作業ロール2は実際には変形しているものの、当該変化量を一切考慮していないため、この分だけ作業ロール1のたわみ目標値に誤差が生じて、その結果として圧延荷重分布あるいは板厚分布の目標値に誤差が生じることとなる。
【0028】
さらに、この誤差の幅方向分布は、作業ロール2とこれを支持する下補強ロール5の変形特性に依存し、一般には圧延材側の外乱に依存する幅方向圧延荷重分布誤差あるいは幅方向板厚分布誤差のパターンとは異なったものになるため、多くの制御サイクルを経ても制御誤差が残ってしまうことになる。
そこで、本発明では図1に示す板圧延機の制御方法によってこの問題を解決する。以下、制御の1サイクル分の手続きを説明する。
【0029】
図1のフローチャートにおいても幅方向圧延荷重分布演算値Fの演算を行い、次に作業ロール2の鉛直方向たわみ演算値Gの演算を行って、圧延材の幅方向板厚分布演算値Hを演算するところまでの手続きは、従来技術の例である図3のフローチャートと全く同じである。
【0030】
図1のフローチャートでは、幅方向板厚分布演算値Hの演算の後に、幅方向圧延荷重分布目標値が実現されたと仮定して作業ロール2の鉛直方向たわみ目標値Iを計算することが特徴となっている。このとき、当然ながら作業ロール2を支持する補強ロールの変形も同時に計算することで、作業ロール2の鉛直方向たわみ目標値Iを正確に計算することができる。なお、作業ロール2を支持する下補強ロール5は、図4に示すような一体ロール形式であっても分割補強ロール形式であっても、本発明は同様に適用することができる。
【0031】
ここで、幅方向圧延荷重分布目標値は、形状制御が目的の場合は、幅方向均一荷重分布が基本となる。これは、圧延材の変形抵抗の幅方向分布が均一であれば幅方向均一荷重分布で圧延することにより、圧延によって与えられる伸びひずみの幅方向分布が均一になって形状フラットが実現できるためである。
【0032】
別の例として、圧延材の変形抵抗が幅方向に分布している場合は、この分布を考慮して当該圧延によって与える伸びひずみの幅方向分布が均一になるように、圧延荷重計算式を用いて幅方向圧延荷重分布目標値を決めればよい。この場合の幅方向圧延荷重分布目標値は、ほぼ変形抵抗分布に相似な分布形状となる。
【0033】
さらに別の例として、圧延材の幅方向温度分布が均一でない場合は、温度分布起因の変形抵抗分布を考慮するのに加えて、圧延材の熱膨張ひずみを考慮して冷却後に形状フラットとなるように熱膨張ひずみを相殺するように伸びひずみの幅方向分布を与えて、幅方向圧延荷重分布目標値を決めるのが好ましい。
【0034】
一方、幅方向板厚分布制御が目的の場合は、幅方向板厚分布演算値Hと幅方向板厚分布目標値の差異から圧延荷重計算式を用いて幅方向圧延荷重分布目標値を決定する。なお、この幅方向圧延荷重分布の計算の際には、伸びひずみ分布の変化に伴う張力のフィードバック効果を考慮した一般化2次元圧延理論等を用いることが好ましい(一般化2次元圧延理論については、非特許文献2等を参照)。
【0035】
次に、本発明に係る制御方法においては、作業ロール2の鉛直方向たわみ目標値Iと圧延荷重分布目標値による上下作業ロール1、2のロール偏平変形量を考慮して、圧延材の幅方向板厚分布目標値から、作業ロール1の鉛直方向たわみ目標値Jを演算する。
【0036】
この後の手続きは、図3の例と同じで、幅方向圧延荷重分布および作業ロール1の鉛直方向たわみ目標値Jを実現するための分割補強ロール荷重目標値Kを計算する。すなわち、作業ロール1の鉛直方向たわみ目標値Jと幅方向圧延荷重分布目標値から、分割補強ロールの圧延荷重目標値Kを演算する
そして、分割補強ロール系の変形特性を用いて、この分割補強ロール荷重目標値Kが作用した場合の分割補強ロール変形量演算値Lを演算し、これと作業ロール1の鉛直たわみ目標値Jから、分割補強ロール位置目標値Mを演算する。
【0037】
次いで、制御ゲイン等を考慮して、この分割補強ロール位置目標値Mと分割補強ロール位置実績値Aとの差異から、分割補強ロール位置制御量Nを演算し、これに基づいて分割補強ロール位置制御を実行し、1制御サイクルが終了する。
なお、以上の手続きの中で、一般に作業ロールのロール偏平変形の影響は小さいので、これについては無視しても差し支えない。
【0038】
以上のように本発明に係る制御方法においては、分割補強ロール位置制御量Nの出力によって生じる下ロール系の変形量の変化についても考慮して、分割補強ロール位置制御量Nを演算する。したがって、分割補強ロール位置制御量Nを出力した後の制御サイクルで観測される分割補強ロール荷重検出値Bは、直前の制御サイクルで計算された分割補強ロール荷重目標値Kにその分布が近くなり、このため幅方向圧延荷重分布目標値および幅方向板厚分布目標値を極めて少ない制御サイクルで迅速に実現できる。
【0039】
また、本発明に係る制御方法では、常に幅方向圧延荷重分布目標値と幅方向板厚分布目標値の双方を達成するための制御を行う。したがって、圧延材の形状制御を目的とする場合と圧延材の板厚分布制御を目的とする場合との差異は、目標値の与え方に反映するだけで良く、常に一貫した高精度・高応答な制御が実現できるとともに、必要に応じて制御の途中において形状制御から板厚分布制御へ、あるいはその逆へと制御モードを切り換えることも容易にできる。
【0040】
なお、図4の例では分割補強ロール4を圧延機入側に3個、出側に4個の合計7個を配備しているが、圧延材3の板幅範囲に応じて、さらに多くの分割補強ロール4を配備する場合がある。また、図4では圧延方向から見て圧延材3の上側に分割補強ロール4を配備しているが、圧延材の下側に設けても双方に設けてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明に係る制御方法を示すフローチャートである。
【図2】従来技術に係る制御方法を示すフローチャートである。
【図3】従来技術に係る制御方法を示すフローチャートである。
【図4】知能圧延機の構成図であり、(a)平面図、(b)正面図、(c)側面図である。
【符号の説明】
【0042】
1,2 作業ロール
3 圧延材
4 分割補強ロール
5 下補強ロール
6 荷重検出装置
7 圧下機構


【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧延材を挟んで対向配置される一対の作業ロールの少なくとも一方に設置された、各々が圧下機構と荷重検出装置を備える3以上の分割補強ロールによって前記作業ロールの少なくとも一方を直接支持する形式の板圧延機の制御方法において、
(1)各々の分割補強ロールが備える圧下機構から得られる各分割補強ロールの位置実績値Aと、各々の分割補強ロールが備える荷重検出装置から得られる各分割補強ロールの荷重検出値Bから、各分割補強ロールの変形量Cの演算を経て、各分割補強ロールの絶対位置Dを演算する工程と、
(2)当該分割補強ロールの絶対位置Dから、分割補強ロールに当接する一方の作業ロールの鉛直方向たわみEを演算する工程と、
(3)当該一方の作業ロールの鉛直方向たわみEと各分割補強ロールの荷重検出値Bから、圧延材と前記一方の作業ロールの間に作用する幅方向圧延荷重分布Fを演算する工程と、
(4)当該幅方向圧延荷重分布Fから、他方の作業ロールの鉛直方向たわみGの演算を経て、圧延材の幅方向板厚分布Hを演算する工程と、
(5)幅方向圧延荷重分布目標値が実現された場合の他方の作業ロールの鉛直方向たわみ目標値Iを演算する工程と、
(6)当該他方の作業ロールの鉛直方向たわみ目標値Iと圧延材の幅方向板厚分布目標値から、前記一方の作業ロールの鉛直方向たわみ目標値Jを演算する工程と、
(7)当該一方の作業ロールの鉛直方向たわみ目標値Jと幅方向圧延荷重分布目標値から、各分割補強ロールの荷重目標値Kを演算する工程と、
(8)当該分割補強ロールの荷重目標値Kから各分割補強ロールの変形量Lを演算する工程と、
(9)当該分割補強ロールの変形量Lと前記一方の作業ロールの鉛直方向たわみ目標値Jから、各分割補強ロールの位置目標値Mを演算する工程と、
(10)当該分割補強ロールの位置目標値Mと各分割補強ロールの位置実績値Aとの差異から、各分割補強ロールの位置制御量Nを演算する工程をこの順に行い、当該分割補強ロールの位置制御量Nに基づいて各分割補強ロールが備える圧下機構によって各分割補強ロールの位置を制御することを特徴とする板圧延機の制御方法。

【請求項2】
圧延材の形状制御を目的として、圧延材〜作業ロール間に作用する幅方向圧延荷重分布の目標値を予め与え、圧延材の幅方向板厚分布目標値は、圧延中の幅方向板厚分布演算値に等値するか、または圧延中の幅方向板厚分布演算値を基準として圧延荷重分布演算値と圧延荷重分布目標値との差異に基づく圧延材の弾性変形量を演算して決めることを特徴とする請求項1記載の板圧延機の制御方法。

【請求項3】
圧延材の板厚分布制御を目的として、圧延材の幅方向板厚分布目標値を予め与え、圧延中の幅方向板厚分布演算値とこれに対応する幅方向圧延荷重分布演算値を基準として幅方向板厚分布が前記幅方向板厚分布目標値に変化した時の幅方向圧延荷重分布を演算して、これを圧延材〜作業ロール間に作用する幅方向圧延荷重分布目標値とすることを特徴とする請求項1記載の板圧延機の制御方法。

【請求項4】
圧延材を挟んで対向配置される一対の作業ロールの少なくとも一方に設置された、各々が圧下機構と荷重検出装置を備える3以上の分割補強ロールによって前記作業ロールの少なくとも一方を直接支持する形式の板圧延機において、
(1)各々の分割補強ロールが備える圧下機構から得られる各分割補強ロールの位置実績値Aと、各々の分割補強ロールが備える荷重検出装置から得られる各分割補強ロールの荷重検出値Bから、各分割補強ロールの変形量Cの演算を経て、各分割補強ロールの絶対位置Dを演算する手段と、
(2)当該分割補強ロールの絶対位置Dから、分割補強ロールに当接する一方の作業ロールの鉛直方向たわみEを演算する手段と、
(3)当該一方の作業ロールの鉛直方向たわみEと各分割補強ロールの荷重検出値Bから、圧延材と前記一方の作業ロールの間に作用する幅方向圧延荷重分布Fを演算する手段と、
(4)当該幅方向圧延荷重分布Fから、他方の作業ロールの鉛直方向たわみGの演算を経て、圧延材の幅方向板厚分布Hを演算する手段と、
(5)幅方向圧延荷重分布目標値が実現された場合の他方の作業ロールの鉛直方向たわみ目標値Iを演算する手段と、
(6)当該他方の作業ロールの鉛直方向たわみ目標値Iと圧延材の幅方向板厚分布目標値から、前記一方の作業ロールの鉛直方向たわみ目標値Jを演算する手段と、
(7)当該一方の作業ロールの鉛直方向たわみ目標値Jと幅方向圧延荷重分布目標値から、各分割補強ロールの荷重目標値Kを演算する手段と、
(8)当該分割補強ロールの荷重目標値Kから各分割補強ロールの変形量Lを演算する手段と、
(9)当該分割補強ロールの変形量Lと前記一方の作業ロールの鉛直方向たわみ目標値Jから、各分割補強ロールの位置目標値Mを演算する手段と、
(10)当該分割補強ロールの位置目標値Mと各分割補強ロールの位置実績値Aとの差異から、各分割補強ロールの位置制御量Nを演算する手段を備え、当該分割補強ロールの位置制御量Nに基づいて各分割補強ロールが備える圧下機構によって各分割補強ロールの位置を制御することを特徴とする板圧延機。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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