説明

板紙用コーティング組成物および板紙の製造方法

【課題】本発明の目的は、コーティング組成物のpHを適切に制御することにより、青筋を低減するものである。
【解決手段】
すなわち、板紙用のコーティング組成物において、スチレン・ブタジエン系ラテックス、白色顔料をコーティング組成物全体の10.0質量%以上を含有し、分散されたpH9.5〜10.0の水性分散液に、有機着色顔料を添加混合する。また、有機着色顔料の分散剤として、ノニオン系分散剤およびアニオン系分散剤を併用すると好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は板紙用コーティング組成物に関するものであり、さらに詳しくは、着色顔料の分散不良に伴う青味浮きを低減させる板紙用コーティング組成物と板紙の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
板紙には様々な種類があるが、特に高白高光沢系の板紙は、人の目を引きつけること、もしくは高級感を想像させることが商品として重要な要素となる。例えば、化粧品、靴、鞄、財布などの箱、さらに、近年では限定物の菓子箱などが挙げられる。
【0003】
高白系の特色を出すために、コーティング組成物に対する一般的な方法として、高白系の顔料を使用すること、バインダーとして澱粉、カゼインなどを極力使用せずにスチレン・ブタジエン系汎用ラテックスを使用すること、有機着色顔料および蛍光染料などを添加することが挙げられる。しかし、スチレン・ブタジエン系汎用ラテックスと有機着色顔料は相溶性が悪く、有機着色顔料がコーティング組成物中に良く分散されないと、例えば青味浮きのような現象が現れる。この青味浮きの生じたコーティング組成物を特にロッドコーターで塗工すると、青味顔料の粒子が凝集し、板紙の塗工表面に青筋として残り、著しく商品価値を損ねてしまう。
【0004】
対策として、着色顔料の分散剤(硫酸エステル塩やスルホン酸塩などのアニオン系界面活性剤および非イオン系界面活性剤)や保護コロイド剤(カゼイン、酸化澱粉、エステル化澱粉、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシルエチルセルロース、アルギン酸など)の添加により十分水に分散せしめたものをpH7.5〜11.5のアルカリpH領域の塗工用白色顔料とラテックスとを主成分として分散したコーティング組成物中に添加する方法がある(例えば、特許文献1)。しかし、近年の高品質化および低コスト化に伴い、従来の方法では青味浮きを十分に低減できなくなってきた。例えば、コーティング組成物の高濃度化を進めると、コーティング組成物の基材への落ち込みが少なくなると共に品質が向上し、また、乾燥負荷が低減の効果も見込める。そのため、生産速度の向上およびコストダウンとなる一方で、有機着色顔料は凝集しやすくなる。また、比較的高価なスチレン・ブタジエン系汎用ラテックスを高濃度化すると、配合部数を少なくできるためコストダウンとはなる一方で、スチレン・ブタジエン系汎用ラテックス自体の分散剤必要量が多くなる傾向があり、有機着色顔料との相溶性は悪化する。また、品質面では高白なものが好まれるため、塗工用白色顔料としてより白いカオリンもしくは炭酸カルシウムが使用されることが多く、特に分散性が比較的悪い軽質炭酸カルシウムなども使用されるようになってきた。従って、従来の方法では青味浮きを十分に低減できなくなってきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭58−31194号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、青筋を低減する板紙用コーティング組成物である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の問題を解決すべく鋭意研究した結果、以下の板紙用コーティング組成物を発明するに至った。
【0008】
すなわち、スチレン・ブタジエン系ラテックス、白色顔料がコーティング組成物全体で10.0質量%以上を含有する十分に分散されたpH9.5〜10.0の水性分散液に、有機着色顔料を添加混合する板紙用コーティング組成物である。また、白色顔料が軽質炭酸カルシウム、有機着色顔料が銅フタロシアニンを含有する板紙用コーティング組成物であると好ましい。有機着色顔料の分散剤として、ノニオン系分散剤およびアニオン系分散剤を併用するとさらに好ましい。
【0009】
本発明は、塗工装置を用いて、上記板紙用コーティング組成物を原紙の少なくとも片面に、1層以上のコーティング層を設けた板紙の製造方法である。塗工装置がブレード又はエアナイフであると好ましい。特に、ロッドコーターであると効果が高い。
【発明の効果】
【0010】
本発明のコーティング組成物を用いることにより、青筋発生を低減することができる。特にロッドコーターを使用する場合にその効果が顕著である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明のコーディング組成物と板紙の製造方法について、詳細に説明する。
【0012】
青筋対策としては、コーティング組成物に保護コロイド剤となるもの(カゼイン、酸化澱粉、エステル化澱粉、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシルエチルセルロース、アルギン酸など)の配合量を増加することが挙げられる。しかし、コーティング組成物の液粘度が増加し易いため、配合部数を増加させると、コーティング組成物の液粘度上昇分を液濃度希釈で調整することが必要になる。コーティング組成物の液濃度の希釈は、品質低下および乾燥負荷の増大に伴うコスト増となるため、保護コロイド剤の増量は現実的な対策ではない。
【0013】
調査の結果、理由は明らかではないが、軽質炭酸カルシウムをコーティング組成物全体の10.0質量%以上含むコーティング組成物をpH10.0以下に調整した後に有機着色顔料を添加すると、pH10.0超に調整した後に添加した場合に比べ、青筋がはるかに低減することが確認された。理由は明らかではないが、コーティング組成物中の白色顔料、着色有機顔料、ラテックス、保護コロイド剤および増粘剤として使用されるアクリル酸エステル共重合樹脂水系エマルジョンなど多くの粒子の等量点により、pH10.0を境界に変化するものと推測される。
【0014】
また、コーティング組成物をpH9.5未満に調整した後に有機着色顔料を添加すると、逆に青筋が増加することが確認された。理由は明らかではないが、コーティング組成物中の白色顔料として比較的分散性の悪い軽質炭酸カルシウムの分散性がpH9.5を境界に変化すると推測される。また、その他、有機着色顔料、ラテックス、保護コロイド剤および増粘剤として使用されるアクリル酸エステル共重合樹脂水系エマルジョンなど多くの粒子の等量点により、pH9.5を境に変化すると推測される。
【0015】
軽質炭酸カルシウムがコーティング組成物全体の10.0質量%未満である場合は、pHの変化に伴う青筋の発生傾向の変化は確認されなかった。推測ではあるが、軽質炭酸カルシウム、有機着色顔料、ラテックス、保護コロイド剤および増粘剤として使用されるアクリル酸エステル共重合樹脂水系エマルジョンなど多くの粒子の分散性が、軽質炭酸カルシウムのコーティング組成分全体の10.0質量%を境に変化すると考えられる。
【0016】
さらに、対策としては、有機着色顔料として、銅フタロシアニンを含む有機着色顔料への対策を検討した結果、ノニオン系界面活性剤単独で使用するよりも、硫酸エステル塩やスルホン酸塩などのアニオン系界面活性剤とノニオン系界面活性剤を併用することで、青筋が軽減することが確認された。
【0017】
銅フタロシアニンは極めて凝集性の高い顔料として知られていることから、有機着色顔料への対策として、銅フタロシアニンを含まない有機着色顔料へ変更することが挙げられる。しかし、多くの場合、銅フタロシアニンの鮮やかさを得ることができなくなることから、ユーザーの品質要求を見極めてから変更する必要があり、本願発明が有用であることが明確にわかる。
【0018】
また、塗工方法の中では、ロッドコーター塗工で青筋が発生し、ブレード塗工およびエアナイフ塗工では青筋が発生しない。推測ではあるが、青筋要因となる着色顔料の凝集形態は軟凝集に近く、比較的高速塗工で、かつ、塗工時に剪断応力がかかるブレード塗工では軟凝集が解消されてしまうことが推測される。また、エアナイフ塗工もまた、塗層表面にエアによる剪断応力がかかり、同様に軟凝集が解消されてしまうと推測される。
【0019】
本発明において、用いることのできる白色顔料は、特に限定されるものではなく、例えば、各種カオリン、タルク、重質炭酸カルシウム(粉砕炭酸カルシウム)などの精製した天然鉱物顔料、軽質炭酸カルシウム(合成炭酸カルシウム)、炭酸カルシウムと他の親水性有機化合物との複合合成顔料、サチンホワイト、リトポン、酸化チタン、シリカ、アルミナ、水酸化アルミニウム、酸化亜鉛、炭酸マグネシウム、焼成カオリン、中空有機顔料などが挙げられる。
【0020】
コーティング組成物に用いられる接着剤としては、スチレン・ブタジエン系共重合体ラテックスが必要である。ただし、操業性および品質調整のために、それ以外のバインダーを使用することは特に限定されない。
【0021】
また、コーティング組成物に用いられる増粘剤としては、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸ソーダ、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カゼインなどの水溶性高分子、ポリアクリル酸塩、スチレン−マレイン酸無水共重合体などの合成重合体、珪酸塩などの無機重合体などが挙げられる。
【0022】
また、必要に応じて、分散剤、消泡剤、耐水化剤、着色剤などの通常使用されている各種助剤、およびこれらの各種助剤をカチオン化したものが好適に用いられる。
【実施例】
【0023】
以下に、本発明の実施例を挙げて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。また、実施例において示す「部」および「%」は、特に明示しない限り、質量部および質量%を示す。
【0024】
<原紙>
LBKP(濾水度400mlcsf) 70部
NBKP(濾水度480mlcsf) 30部
軽質炭酸カルシウム(原紙中灰分で表示) 8部
市販カチオン化澱粉 1.0部
市販カチオン系ポリアクリルアミド歩留まり向上剤 0.03部
パルプ、内添薬品を上記の配合で1質量%スラリーに調製し、長網抄紙機で坪量103.9g/mの原紙を抄造した。
【0025】
(実施例1)〜(実施例8)および(比較例1)〜(比較例12)
下記の内容に従って、実施例1〜8および比較例1〜12のコーティング組成物を作製した。
<コーティング組成物>
コーティング組成物の顔料は以下の2通りを調製した。
[顔料A]
市販軽質炭酸カルシウム 20部
市販微粒カオリンクレー 45部
市販一級カオリンクレー 35部
【0026】
[顔料B]
市販軽質炭酸カルシウム 9部
市販微粒カオリンクレー 45部
市販一級カオリンクレー 46部
【0027】
また、顔料(A,B)以外の配合は以下の通りである。以下の部数は顔料100部に対する部数である。
市販ポリアクリル酸系分散剤 0.1部
市販ラテックスバインダー 15.0部
市販リン酸エステル化澱粉 5.0部
市販ステアリン酸カルシウム 0.6部
市販合成保水剤 0.1部
顔料A又は、顔料Bに上記配合した各コーティング組成物を、攪拌・分散して、固形分濃度を60%に調整した。
【0028】
上記で得られた各コーティング組成物をさらに、表1に記載のpHとなるよう水酸化ナトリウムにて調整し、さらに、銅フタロシアニンを含む着色顔料の分散剤としてノニオンタイプを使用しているもの、もしくは、ノニオン系とアニオン系が併用されているものを添加し十分に攪拌した。
【0029】
表1の各塗工液、塗工方式で、片面12g/mを両面塗工し、乾燥して坪量127.9g/mの塗工紙を作製した。さらに、得られた塗工紙に対し、オフラインでスーパーカレンダー装置(段数:10段、剛性ロール:外径400mmのチルドロール、弾性ロール:外径400mmのコットンロール、線圧:220kN/m)を用いてカレンダリング処理を施し、実施例1〜8および比較例1〜12の塗工紙を作製した。
【0030】
[青筋評価]
得られた実施例1〜8および比較例1〜12の塗工紙を、目視で検品し、青筋の発生数・大きさを官能評価した結果を表1に記載する。
◎ (非常に良好)
○ (良好)
△ (発生するも許容範囲内)
× (不良)
××(極めて不良)
【0031】
【表1】

【0032】
比較例1のようにpH9.4だと青筋の量・大きさとも品質不可となり、実施例1のようにpH9.5となると許容範囲となる。比較例2のようにpH10.0を超えると再び、青筋の量・大きさとも品質不可となる。従って、実施例1〜3のようにコーティング組成物のpHは9.5〜10.0が好ましい。また、銅フタロシアニンを含む有機着色顔料の分散剤を、ノニオン系単独からノニオン系とアニオン系の併用タイプに変更することにより、青筋の量が減少することがわかる。比較例7〜12のように、軽質炭酸カルシウムがコーティング組成分全体の10.0質量%以下の場合は、pHによる青筋の発生傾向に優位差は認められない。従って、本発明は、軽質炭酸カルシウムがコーティング組成物全体の10.0質量%以上の系に適用できるものといえる。また、実施例7、8のように、最も青筋の発生しやすい液であっても、塗工方式をブレード、もしくは、エアナイフ方式に変更することで、大幅に軽減させることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレン・ブタジエン系ラテックス、白色顔料がコーティング組成物全体で10.0質量%以上を含有し、分散されたpH9.5〜10.0の水性分散液に、有機着色顔料を添加混合することを特徴とする板紙用コーティング組成物。
【請求項2】
白色顔料が、軽質炭酸カルシウムである請求項1記載の板紙用コーティング組成物。
【請求項3】
有機着色顔料が、銅フタロシアニンを含有する請求項1記載の板紙用コーティング組成物。
【請求項4】
有機着色顔料の分散剤として、ノニオン系分散剤およびアニオン系分散剤を併用する請求項1記載の板紙用コーティング組成物。
【請求項5】
塗工装置を用いて、請求項1〜4記載の板紙用コーティング組成物を原紙の少なくとも片面に、1層以上のコーティング層を設けた板紙の製造方法。
【請求項6】
塗工装置がブレード又はエアナイフである請求項5記載の板紙の製造方法。

【公開番号】特開2010−236115(P2010−236115A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−83438(P2009−83438)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(000005980)三菱製紙株式会社 (1,550)
【Fターム(参考)】