説明

架橋されたゼラチン状材料を基剤とする中空断面体を製造する方法、及び中空断面体の形態を成すインプラント

本発明の目的は、広範囲にわたって影響を与えることができる特性を有する吸収性中空断面体を製造する簡単な方法を考え出すことである。これを目的として、中空断面体の製造方法は、多角形断面と、管腔を取り囲む壁とを含む、架橋されたゼラチン状材料を使用する。本発明による方法は下記工程、すなわち:a) ゼラチン状材料の水溶液を製造し;b) 溶解されたゼラチン状材料を部分的に架橋し;c) この溶液を、管腔を画定する成形要素の表面に被着し;そしてd) 架橋されたゼラチン状材料を基剤とする中空断面体を形成しながら、この溶液を成形要素上で少なくとも部分的に乾かしておく、工程を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、架橋されたゼラチン状材料を基剤とする中空断面体を製造する方法に関する。
本発明はまた、中空断面体の形態を成すインプラントに関する。
【背景技術】
【0002】
中空断面体の形態を成すインプラント、すなわち具体的には管状インプラントは、種々様々な医療分野で利用される。重要な使用分野は、これに関しては、管状器官又は組織の管腔を開いたままにするため、そして血管壁の圧潰を防止するために、この種類のインプラントを挿入することである。この種類のインプラントはステントとも呼ばれ、例えば血管、腸、及び食道内で使用される。
【0003】
他の事例において、ドレナージ機能を果たすために、すなわち例えば炎症部位からの組織液を導くために、中空断面体が埋め込まれる。
【0004】
上記インプラントは部分的に、耐久性材料、例えばステンレス鋼から形成され、従ってこれらの機能を果たすことがもはや必要でなくなったときには再び取り外さなければならない。従って、患者に対するこのような更なる介入(一部は手術による)を割愛するために、所定の時間後に身体によって分解される吸収性バイオポリマー、例えばゼラチン、コラーゲン、又はキトサンのようなバイオポリマーから成るインプラントが重要な代替物である。
【0005】
本発明の目的は、簡単に実施することができ、また製造された断面体の特性を広範囲にわたって調節することができるような、吸収性中空断面体の製造方法を提供することである。
【発明の開示】
【0006】
この目的は、本発明によれば、多角形断面と、管腔を取り囲む壁とを含む、架橋されたゼラチン状材料を基剤とする中空断面体を製造する方法であって、この方法が:
a) ゼラチン状材料の水溶液を調製し;
b) 溶解されたゼラチン状材料を部分的に架橋し;
c) この溶液を、管腔を画定する成形要素の表面に被着し;そして
d) この溶液を成形要素上で少なくとも部分的に乾かしておき、架橋されたゼラチン状材料を基剤とする中空断面体を形成する
ことを含む、中空断面体を製造する方法
によって達成される。
【0007】
多角形断面とは、本発明に関しては、有限数又は無限数の角を有する中空断面体のあらゆる断面、すなわち具体的には長円形、楕円形又は円形断面を意味すると理解するべきである。円形断面を有する中空断面体、すなわち円筒形中空断面体は、本発明の範囲内では、最も簡単な事例であり、そして実際に最も広く必要とされる形状である。
【0008】
管腔を画定する成形要素を使用して中空断面体を本発明に従って製造することは、他の製造方法と比較して明らかな利点を有する。本発明の方法は、技術的な複雑さをほとんど伴わずに実現することができ、中空断面体の寸法及びその断面形状は、成形要素を選択することにより容易に変えられ、また高い精度レベルで特定することができる。
【0009】
中空断面体の押し出しは、著しく高い費用を伴うことになる。加えてここの場合、ゼラチンを出発材料とする本発明による使用事例(その利点に関しては下でさらに詳しく述べる)では、押し出しは、ゼラチンの部分的な熱分解を招くような温度条件下でしか実施することはできない。
【0010】
中空断面体の更なる製造可能性は、平らな材料、例えば膜を巻き上げることである。しかしながらこのことは必然的に、少なくとも継ぎ目に沿って中空断面体の不均質な材料特性をもたらし、これらの方法は実際に、中空断面体の極めて小さな直径のために用いることはできない。
【0011】
成形要素の表面に溶液を被着することは、本発明の好ましい実施態様の場合、成形要素を溶液中に浸漬することにより達成される。このようにすれば、成形要素への溶液の極めて均一な被着が保証され、このことは、実質的に均一な厚さの壁を有する中空断面体をもたらす。中空断面体は少なくとも部分的に乾かしておかれた後、成形要素から取り外すことができる。
【0012】
或いは、成形要素上にゼラチン状材料の溶液を噴霧することも可能である。しかしこの場合、特別な用心なしには、極めて均一な被着を達成することはできない。
成形要素は好ましくは、平滑な表面を有する不活性材料、例えばステンレス鋼から形成されるべきである。続いて行われる中空断面体の引き出しを容易にするために、成形要素は、溶液の被着前に、離型剤(例えばワックス)で処理されてよい。
【0013】
管腔の寸法、すなわち具体的には中空断面体の内径は、管腔を画定する成形要素によって決定することができる一方、壁の厚さは、被着される溶液の量に依存する。この量は、特に成形要素が浸漬工程において使用される場合には、主として溶液の粘度によって調節することができる。
【0014】
工程c)及びd)が、工程d)に続いて1回又は2回以上繰り返されるならば、中空断面体の壁厚をさらに増大させることができる。具体的には、これは成形要素を溶液中に複数回浸漬することに関し、均一な材料塗膜が毎回被着される。
【0015】
成形要素にゼラチン状材料の溶液を被着することについて先ず第一に説明してきたので、ここで材料の組成及び架橋に関して、以下の文において詳細に説明することにするが、架橋は本発明によれば、成形要素へ溶液を被着する前に行わなければならない。
【0016】
生理学的条件下では不溶性であるがしかし吸収性である中空断面体を製造するために、ゼラチンを本発明に従って使用することは極めて有利である。それというのも、ゼラチンは、痕跡なしに身体によって吸収することができるからである。ゼラチンに関連する材料コラーゲンとは対照的に、高い純度及び再現可能な組成を有するゼラチンが利用可能であり、このゼラチンは、身体による防衛反応を引き起こし得る免疫原性テロペプチドを含まない。
【0017】
製造される中空断面体の医療用途における最適な生体適合性を保証するために、材料は好ましくは、エンドトキシンの含有率が特に低いゼラチンを含有する。エンドトキシンは代謝産物、又は動物性原材料中に存在する微生物部分である。ゼラチンのエンドトキシン含有率は、1グラム当たりの国際単位(I.U./g)で特定され、そしてLAL試験、つまりEuropean Pharmacopoeiaの第4版(Ph. Eur. 4)に記載された試験を行うことにより測定される。
【0018】
エンドトキシンの含有率をできるだけ低くしておくために、ゼラチン調製過程において微生物をできるだけ早期に全滅させることが有利である。さらに、適切な衛生基準を調製プロセス中に観察するべきである。
【0019】
従って、ゼラチンのエンドトキシン含有率は、特定の方策によって調製プロセス中に大幅に低下させることができる。これらの方策の中には、主として、保存時間の回避を伴う新鮮な原材料(例えば豚皮)の使用、ゼラチン調製開始直前の製造設備全体の徹底した清浄化、及び任意には製造設備内のイオン交換体及びフィルタ系の交換が属する。
【0020】
本発明の範囲内で使用されるゼラチンのエンドトキシン含有率は、好ましくは1,200 I.U./g以下、より好ましくは200 I.U./g以下である。最適には、エンドトキシン含有率は、LAL試験に従ってそれぞれに事例において測定して50 I.U.以下である。これと比較して、商業的に入手可能な多くのゼラチンのエンドトキシン含有率は、20,000 I.U./gを上回る。
【0021】
中空断面体を製造するために使用されるゼラチン状材料は、好ましくは大部分がゼラチンから形成される。これは、具体的には60重量%以上、好ましくは75重量%以上のゼラチン比率を含む。ゼラチンと同様に、材料は、中空断面体の特性プロフィールを特定の用途に一層具体的に適合させるために、例えばさらに別のバイオポリマー、例えばアルギン酸塩、又はヒアルロン酸を含有することができる。
【0022】
本発明の好ましい実施態様において、ゼラチン状材料は加えて、可塑剤を含む。この種類の添加剤によって、製造される中空断面体の可撓性が乾燥状態で有意に高められる。このことは、例えば植え込み中に高い曲げ弾性が中空体に対して望まれる場合に有利である得る。グリセリン、オリゴグリセリン、オリゴグリコール、及びソルバイトが可塑剤として適しており、グリセリンが最も好ましい。
【0023】
中空断面体の所期可撓性は、可塑剤の量によって調節することができる。好ましくは、材料中の可塑剤の比率は、12〜40重量%である。このために特に有利なのは、16〜25重量%の比率である。特定した重量パーセンテージはここでは、工程a)に基づく溶液中、及び製造される中空断面体内の両方に存在するゼラチン状材料の成分全ての総質量に関連する。
【0024】
本発明による方法の更なる実施態様の場合、特に、可塑剤が添加されない場合には、材料は実質的に完全にゼラチンから形成される。
【0025】
工程a)に基づく水溶液中のゼラチンの濃度は好ましくは5〜45重量%、最も好ましくは10〜30重量%である。この範囲の濃度は、溶液中に成形要素を浸漬するのに特に適している。
【0026】
本発明によれば、ゼラチン状材料は、工程b)に従って部分的に架橋され、ゼラチン自体が好ましくは架橋される。ゼラチンは本質的に水溶性であるので、この架橋は、中空断面体の過度に急速な分解を阻害し、そして生理学的条件下で十分な寿命を保証するために必要である。
【0027】
これと関連して、ゼラチンは、架橋された材料の吸収速度、又は完全な吸収までの時間の長さを、架橋度を選択することによって広い範囲にわたって調節できるという付加的な利点を提供する。
【0028】
本発明による方法の具体的な実施態様はさらに、中空断面体内に含まれる材料の架橋(工程e))を含む。好ましくは、この更なる架橋において、具体的にはゼラチンが架橋される。
【0029】
この種類の2段階架橋の利点は基本的に、より高い架橋度、そして結果として分解までの長い時間を達成する能力にある。このことは、架橋剤の濃度を高めることによる単一段階法では、同じ程度まで実現することはできない。それというのも、溶解された材料が余りにも強く架橋されていることにより、材料はもはや加工することができず、また成形要素の表面に被着することもできないからである。
【0030】
他方において、架橋されていない材料を使用し、そして専ら中空断面体の製造後に材料を架橋することも適当ではない。それというのもこの場合、中空断面体の内側領域におけるよりも外側からアクセス可能な境界面が、より強く架橋されるからである。このことは、不均一な分解挙動に反映される。
【0031】
工程e)に従う第2の架橋は、架橋剤の水溶液の作用によって行われてよいが、しかし好ましくは気体状架橋剤の作用によって達成される。
架橋は化学的又は酵素的に行うことができる。
【0032】
好ましい化学的架橋剤は、アルデヒド、ジアルデヒド、イソシアネート、カルボジイミド、及びジハロゲン化アルキルである。特に好ましいのは、特に気相における第2の架橋のためのホルムアルデヒドである。中空断面体の滅菌がこれにより同時に実現される。
酵素的架橋剤としては、酵素トランスグルタミナーゼが好ましくは使用され、トランスグルタミナーゼは、グルタミンと、タンパク質の、特にまたゼラチンのリシン側鎖との結合を生じさせる。
【0033】
本発明による中空断面体は、生理学的条件下で著しく長い寿命を有することができ、そして架橋度によって極めて具体的にこれらの寿命を設定することが可能である。標準的な生理学的条件下での吸収安定性はこのような寿命の尺度を提供する。こうして、例えば1週間よりも長い時間、2週間よりも長い時間、又は4週間よりも長い時間にわたって標準的な生理学的条件下で安定であり続ける中空断面体を製造することができる。
【0034】
安定性という概念は、中空断面体が、乾燥状態での保存中、及び標準的な生理学的条件(PBS緩衝剤、pH7.2、37℃)下での特定の時間中の両方においてその元の形状を実質的に維持し、そして続いて初めて、加水分解作用により実質的な程度まで構造的に分解する効果を意味するものと理解することができる。インプラントとしての使用中に中空断面体が曝される生理学的条件は、主として温度、pH値、及びイオン強度によって特徴づけられ、上述の標準的な生理学的条件下でのインキュベーションにより、in vitroでシミュレートすることができる。
【0035】
驚くべきことに、中空断面体は高い架橋度で製造することもできる。高い架橋度はそれにもかかわらず、可塑剤の添加によって比較的高い可撓性を提供し、すなわち、寿命と可撓性とを、互いに独立して或る程度まで調節することができる。
【0036】
本発明による方法の別の実施態様の場合、中空断面体は、工程d)に続いて、長手方向に延伸される。この種類の延伸は、種々様々な観点において好都合な効果を有することができる。1つには、好ましい方向に沿ったゼラチン分子の少なくとも部分的な整列は、中空断面体のための機械特性を改善し、すなわち、引裂強さ及び/又は極限伸びを特に長手方向において高める。このことは或る使用分野において極めて有利であり得る。
【0037】
さらに、極めて小さな内径を有する中空断面体の製造を容易にする。それというのも長手方向の延伸は、中空断面体の半径方向の収縮を招くからである。管腔を画定する成形要素によってだけでは容易に実現することができなかった相応に小さな直径が、例えば末梢神経系用の神経ガイドに用いられる中空断面体に提供される。
ゼラチン状材料が可塑剤を含む場合には、中空断面体は特に効果的に延伸することができる。
【0038】
好ましくは、中空断面体は、温度及び/又は水含有量を上昇させることにより、延伸の直前に熱可塑性状態にさせられる。このことは、例えば中空断面体を熱蒸気に曝すことにより達成することができる。中空断面体の延伸は、有利には延伸比1.4〜8で行われ、最大4の延伸比が好ましい。
【0039】
本発明による方法の更なる実施態様の場合、中空断面体は延伸前に最大4週間にわたって、好ましくは室温で保存される。このようにして、本発明に従って製造された中空断面体の引裂強さをさらに高めることができる。この場合、たった約3日の保存時間後でさえ有意な効果を観察できるのに対して、約7日の保存時間からは、更なる有意な増大を基本的には達成することはできない。
【0040】
第2の架橋(工程e))が行われる場合には、これは好ましくは中空断面体の延伸後に達成される。このことは、部分的に架橋された材料中の分子が、まだ十分な運動自由度を有しており、従って好ましい方向に沿って少なくとも部分的に整列し、そしてこの整列状態にとどまることができるので有利である。
【0041】
本発明による方法の更なる実施態様の場合、工程a)によって製造された溶液に、強化用材料が添加される。このようにすると、高められた機械強度を有する強化された中空断面体を製造することができる。具体的には、外科的な縫合中の中空断面体の断裂をこれにより阻止することができる。強化用材料は、生理学的に適合可能であるべきであり、最良の場合にはまた吸収可能であるべきである。
【0042】
強化用材料の選択に応じて、機械特性に対して作用すると共に、吸収メカニズムに関する安定性に或る程度影響を与えることができる。具体的には、強化用材料の吸収安定性は、中空断面体のためのゼラチン状材料の成分とは独立して選択することができる。
強化用材料は、5重量%の比率でさえ、中空断面体の機械特性における顕著な改善を示す。重量比率はこの場合、工程a)に従った溶液中の総乾燥質量、すなわち水を除く溶液の全ての成分に関する。
【0043】
比率が60重量%を上回ると、通常、達成される更なる顕著な改善はなく、且つ/又は、中空断面体の所期吸収特性、又は所要可撓性を達成できるとしても、そのためには必ず困難が伴う。
強化用材料は、粒子及び/又は分子強化用材料、並びにこれらの混合物から選択することができる。
【0044】
粒子強化用材料の場合、強化用繊維の使用が特に推奨される。このための繊維は、好ましくは多糖繊維及びタンパク質繊維、特にコラーゲン繊維、絹及び綿繊維、並びにポリアクチド繊維、及び前記のもののうちのいずれかの混合物から選択される。
他方において、機械特性を改善するために、また所望の場合には、中空断面体の吸収安定性をも改善するために、分子強化用材料も好適である。
【0045】
好ましい分子強化用材料は、具体的にはポリアクチドポリマー及びこれらの誘導体、セルロース誘導体、並びにキトサン及びその誘導体である。分子強化用材料を混合物として使用することもできる。
本発明の更なる目的は、種々様々に使用することができ、そして特性を特定の要件に適合させることができる、中空断面体の形態を成す吸収性インプラントを提供することである。
【0046】
この目的は、本発明によれば、多角形断面と、管腔を取り囲む壁とを含む、架橋されたゼラチン状材料を基剤として製造された中空断面体の形態を成すインプラントによって達成される。
【0047】
その特性を用途の特定の要求に適合させることを目的とした、この種類の中空体の考えられ得る多様な改変形については、本発明による方法と関連して既に上に詳しく説明している。
【0048】
本発明によるインプラントの好ましい製造方法は、上記の方法である。
架橋されたゼラチン状材料を使用することにより達成することができる具体的な利点については、本発明による方法と関連して既に上に詳しく説明している。
【0049】
本発明によるインプラントの好ましい実施態様は、食道のためのステントに関する。この種類のステントは、先天性又は後天性(例えば化学火傷による)であり得る食道狭窄の場合に使用される。主として小児に発生する先天性食道狭窄の場合には、食道の筋系の発達異常が存在するので、これはステントによって開いた状態で保持されることを必要とする。
【0050】
例えばステンレス鋼から成る、食道のためのコンベンショナルなステントが使用される場合、ステントは特定の時間後に取り外されなければならない。このことは、患者に加えられる付加的な歪みを意味し、負傷のリスクを伴う。対照的に、本発明による吸収性ステントは、もはや必要とされなくなるか、又は新しいステントを挿入しなければならないときに、具体的な規定された時間後に身体によって分解されるという利点を提供する。新しいステントの挿入は、例えば小児の成長による事例に当てはまる。
【0051】
ゼラチン状材料の架橋度を上記のように特定することができるので、ステントが分解するのに必要な時間は、特定の処理状況に必要とされるように設定することができる。典型的には、ステントが分解するのに必要とされる時間は1〜2週間である。
【0052】
本発明によるインプラントのための別の有利な使用分野は、腸のためのステントである。これらは特に、関連する腸区分における外科的介入の事例において、漏れが生じた場合に腸の内容物が流出するのを防止するために使用される。同時に、例えば縫合(又は炎症又は疾患部位)を保護することができ、そしてステントの外側に治癒が生じることができる。この場合にも、ステントが分解するのに必要とされる時間を特定する能力が、特に有利であることが判る。
【0053】
本発明によるインプラントのための別の考えられ得る使用分野は、気管のためのステントである。
上記ステントの内径は好ましくは5〜30mmであり、8〜20mmの内径が、大抵の使用例にとって特に好ましい。
【0054】
具体的な用途に応じて、本発明によるインプラントの場合、ゼラチン状材料は、管腔に隣接する壁の内側領域内で、外側領域とは異なる架橋度を有してよい。腸又は食道のためのステントの場合、架橋度が外側で若干低いことが好ましい場合がある。これを理由として、中空断面体は、外側から或る程度ゲル化されるようになり、これにより食道又は腸に付着することができる。内側から外側まで、ステントは対照的にできる限り固体であり続け、これにより、良好な滑り品質を提供する。
【0055】
上記分野と共に、本発明によるインプラントは、他の器官又は組織、具体的には血管、尿管、尿道、卵管、及び胆嚢管のためのステントとして使用することもできる。
これらの事例の多くの場合、インプラント又はステントは、組織の一時的な代替物として、且つ/又は組織の再生のためのマトリックスとして役立つこともできる。この種類の用途の場合、切断された血管(又は他の上記組織)の端部を両側からインプラント内に導入し、ひいては結合する。中空管はこの場合、組織の成長及び再生を促進するマトリックスとして機能することができる。同時に、インプラントは、場合によっては治癒を妨害するおそれのある外来細胞に対する側方バリヤを提供する。インプラントが分解するのに必要とされる時間は、組織の再生に必要とされる時間にもう一度適合させることができる。
【0056】
本発明によるガイド構造のための特別な使用分野は、切断された神経線維(軸索)の再生のために使用される神経ガイドである。このために、中空断面体は、好ましくは800〜1,200μmの極めて小さな内径を有さなければならない。
【0057】
最後に、本発明によるインプラントの別の実施態様は、ドレーンに関する。この種類のドレーンは、特に炎症又は負傷部位から液体(例えば血液又は組織液)の流出を容易にするために、使用される。本発明によるインプラントの直径を、分解に必要となる時間と同様にカスタマイズされるように選択できるという事実は、極めて多くの種々異なる身体部位におけるドレーンとして使用するのを可能にする。
本発明によるインプラントは、特に眼のためのドレナージとして使用することもできる。極めて細い細管が該当するこの種類のドレーンは、緑内障の事例において眼球から眼液を取り除くために使用される。
【0058】
眼のための本発明によるドレーンは好ましくは、内径が50〜200μmである。
例えば神経ガイド及び眼用ドレーンのために必要とされるような小さな直径を有する、本発明によるインプラントは、特に、中空管を上述のように延伸する本発明による方法によって製造することができる。
【実施例】
【0059】
例1:本発明によるインプラントの製造
この例は、内径1cmの中空断面体の形態を成すインプラントの、本発明による方法による製造に関する。
【0060】
このために、豚皮ゼラチン(ブルーム強度300g)130gを、初めに、可塑剤としての468gの水と52gのグリセリンとの混合物中に60℃で溶解し、溶液を超音波によって脱ガスした。これは、ゼラチン及びグリセリンの重量を基準として、約29重量%の材料中の可塑剤比率に相当する。
【0061】
2.0重量%のホルムアルデヒド水溶液6.5g(ゼラチンに対して1000ppmの架橋剤)を添加した後、溶液を均質化し、再び脱ガスし、そして表面から泡を除去した。予め離型ワックスを噴霧された成形要素として役立つ直径1cmのステンレス鋼マンドレルを、長さ約10cmまで溶液中に短時間浸漬した。マンドレルを溶液から引き出した後、付着した溶液ができる限り均一な層を形成するように、マンドレルを回転させた。
ほぼ1日間にわたって25℃及び相対湿度30%で乾燥させた後、形成された中空断面体をマンドレルから取り外した。こうして製造された内径1cmのインプラントは、例えば食道のためのステントとして使用することができる。
【0062】
インプラントの生理学的崩壊のための時間を長くするために、インプラントに含有されたゼラチンに、更なる架橋を施した。これのために、インプラントを17時間にわたって乾燥器内で、室温で17重量%のホルムアルデヒド水溶液の平衡蒸気圧に曝した。
例えば専ら中空断面体の管腔を通って案内されるホルムアルデヒド蒸気によって、内側領域により高い架橋度を有するインプラントをこの事例において得ることもできる。或いは、種々異なる濃度の架橋剤を有する溶液中に順次浸漬されたマンドレルによって、異なる架橋度を実現することもできる。
【0063】
言うまでもなく、具体的にはマンドレル又は成形要素のサイズ及び形状、溶液中のゼラチン、可塑剤、及び架橋剤の比率、浸漬工程数、並びに後続の架橋の強度を特定の要件に合わせることができる点で、多くの種々異なる方法で、ここに記載したインプラントの特性を改変することができる。
【0064】
例2:本発明による更なるインプラントの製造
この例は、小さな内径約2,000μm、1,100μm、及び150μmを有する中空断面体の形態を成すインプラントの、本発明による方法による製造に関する。
可塑剤としての260gの水と40gのグリセリンとの混合物中の、豚皮ゼラチン(ブルーム強度300g)100gの溶液を、例1に記載したように調製した。これは、ゼラチン及びグリセリンの重量を基準として、約29重量%の材料中の可塑剤比率に相当する。
【0065】
2.0重量%のホルムアルデヒド水溶液4g(ゼラチンに対して800ppmの架橋剤)を添加した後、溶液を均質化し、再び脱ガスし、そして表面から泡を除去した。予め離型ワックスを噴霧された直径2mmの一連のステンレス鋼ピンを、長さ約3cmまで溶液中に短時間浸漬した。ピンを溶液から引き出した後、付着した溶液ができる限り均一な層を形成するように、ピンを鉛直方向に保持した。
【0066】
ほぼ1日間にわたって25℃及び相対湿度30%で乾燥させた後、形成された中空断面体(細管)をステンレス鋼ピンから取り外すことが可能であった。これらの中空断面体の内径は約2,000μm、そして平均壁厚は約300μmであり、これは光学顕微鏡によって立証された。
さらに小さな内径を有する中空断面体を製造するために、細管を5日間にわたって25℃及び相対湿度45%で保存し、次いで延伸した。
延伸のために、細管の両端を把持し、そして細管を熱蒸気作用によって軟化させた。この熱可塑性状態で、細管を延伸比約1.4で伸ばし、この条件で固定し、そして23℃及び相対湿度45%で16時間にわたって乾燥させた。
【0067】
細管の生理学的崩壊のための時間を長くするために、細管に、延伸後、例1に記載したように、気相における更なる架橋を施すことができる。このために、外側からのみ架橋が生じるように、細管の端部を閉じることができる。
図1において、こうして製造された長さ約3cmのいくつかの細管10が、ガラス容器12内にある状態で示されている。
【0068】
図2は、延伸された細管のうちの1つの断面を光学顕微鏡を使用して撮影した画像である。これは、内径約1,100μm、そして壁厚約200μmであり、細管の断面形状及び壁厚の双方は極めて一貫している。
これらの寸法を有するインプラントは、神経ガイドとして使用するのに特に適している。また、細管が外側から出発してより強く架橋されていることも、この用途にとって有利である。それというのも、このようになっていると、インプラントは、神経細胞が成長するのにつれて、内側から出発して分解するようになることができるからである。
【0069】
延伸比を高めることにより、さらに小さな内径を有する本発明によるインプラントを製造することもできる。これらのインプラントは他の用途にとって有利である。具体的には、本発明による方法を用いることによって、150μmの範囲の内径を有する極めて細い細管を製造することが可能である。このような細管は眼用ドレーンとして使用することができる。
【0070】
本発明のこれらの及び更なる利点を、図面に関連する添付の例に基づいてより詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】図1は、本発明によるインプラントを示す写真の図である。
【図2】図2は、本発明によるインプラントの断面を光学顕微鏡を使用して撮影した画像である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多角形断面と、管腔を取り囲む壁とを含む、架橋されたゼラチン状材料を基剤とする中空断面体を製造する方法であって、該方法が:
a) ゼラチン状材料の水溶液を調製し;
b) 溶解されたゼラチン状材料を部分的に架橋し;
c) 該溶液を、該管腔を画定する成形要素の表面に被着し;そして
d) 該溶液を該成形要素上で少なくとも部分的に乾かしておき、該架橋されたゼラチン状材料を基剤とする中空断面体を形成する
ことを含む、中空断面体を製造する方法。
【請求項2】
該中空断面体が円形断面を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程c)が、該成形要素を該溶液中に浸漬することによって達成される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
工程c)及びd)が、工程d)に続いて1回又は2回以上繰り返される、請求項1から3までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
該ゼラチンのエンドトキシン含有率が、LAL試験によって測定して、1,200 I.U./g以下、特に200 I.U./g以下である、請求項1から4までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
該材料は大部分が、ゼラチンから形成されている、請求項1から5までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
該材料が可塑剤を含む、請求項1から6までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
該可塑剤が、グリセリン、オリゴグリセリン、オリゴグリコール、及びソルバイトから選択される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
該材料中の可塑剤の比率が、12〜40重量%である、請求項7又は8に記載の方法。
【請求項10】
該材料中の可塑剤の比率が、16〜25重量%である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
該材料が、実質的に完全にゼラチンから形成されている、請求項1から5までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
該溶液中のゼラチンの濃度が5〜45重量%、好ましくは10〜30重量%である、請求項1から11までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
該ゼラチンが、工程b)に従って部分的に架橋される、請求項1から12までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
さらに:
e) 該中空断面体内に含まれる材料を架橋する
ことを含む、請求項1から13までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
該ゼラチンが、工程e)に従って架橋される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
工程e)に従う架橋が、気相における架橋剤の作用によって行われる、請求項14又は15に記載の方法。
【請求項17】
工程b)及び/又は任意には工程e)に従う架橋が、化学的に行われる、請求項1から16までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
工程b)及び/又は任意には工程e)に従う架橋が、酵素的に行われる、請求項1から17までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
該中空断面体が、工程d)に続いて、長手方向に延伸される、請求項1から18までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
該中空断面体が、温度及び/又は水含有量を上昇させることにより、延伸の直前に熱可塑性状態にさせられる、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
延伸が延伸比1.4〜8で行われる、請求項19又は20に記載の方法。
【請求項22】
延伸が最大4の延伸比で行われる、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
該中空断面体が延伸前に最大4週間にわたって保存される、請求項19から22までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
該中空断面体が延伸前に3〜7日間にわたって保存される、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
該ゼラチン状材料の第2の架橋(工程e))が、該中空断面体の延伸後に行われる、請求項19から24までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項26】
工程a)によって製造される該溶液に、強化用材料が添加される、請求項1から25までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項27】
該強化用材料が、5重量%以上の乾燥質量の比率を有する、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
該強化用材料が、最大60重量%の乾燥質量の比率を有する、請求項26又は27に記載の方法。
【請求項29】
該強化用材料が、粒子及び/又は分子強化用材料から選択される、請求項26から28までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項30】
該粒子強化用材料が強化用繊維を含む、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
該強化用繊維が、多糖繊維及びタンパク質繊維、特にコラーゲン繊維、絹及び綿繊維、並びにポリアクチド繊維、及び前記のもののうちのいずれかの混合物から選択される、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
該分子強化用材料が、ポリアクチドポリマー及びこれらの誘導体、セルロース誘導体、並びにキトサン及びその誘導体から選択される、請求項30に記載の方法。
【請求項33】
中空断面体の形態を成すインプラントであって、多角形断面と、管腔を取り囲む壁とを含む、架橋されたゼラチン状材料を基剤として製造された中空断面体の形態を成すインプラント。
【請求項34】
該ゼラチン状材料が、特定の架橋度を有している、請求項33に記載のインプラント。
【請求項35】
該ゼラチン状材料が、管腔に隣接する壁の内側領域内で、外側領域とは異なる架橋度を有している、請求項33又は34に記載のインプラント。
【請求項36】
該インプラントが食道のためのステントである、請求項33から35までのいずれか1項に記載のインプラント。
【請求項37】
該インプラントが気管のためのステントである、請求項33から35までのいずれか1項に記載のインプラント。
【請求項38】
該インプラントが腸のためのステントである、請求項33から35までのいずれか1項に記載のインプラント。
【請求項39】
該ステントの内径が5〜30mm、特に8〜20mmである、請求項36から38までのいずれか1項に記載のインプラント。
【請求項40】
該ステントの平均壁厚が300〜1,500μmである、請求項36から38までのいずれか1項に記載のインプラント。
【請求項41】
該インプラントが血管のためのステントである、請求項33から35までのいずれか1項に記載のインプラント。
【請求項42】
該インプラントが尿道又は尿管のためのステントである、請求項33から35までのいずれか1項に記載のインプラント。
【請求項43】
該インプラントが卵管のためのステントである、請求項33から35までのいずれか1項に記載のインプラント。
【請求項44】
該インプラントが胆嚢管のためのステントである、請求項33から35までのいずれか1項に記載のインプラント。
【請求項45】
該インプラントが神経ガイドである、請求項33から35までのいずれか1項に記載のインプラント。
【請求項46】
該インプラントがドレーンである、請求項33から35までのいずれか1項に記載のインプラント。
【請求項47】
該インプラントが眼のためのドレーンである、請求項46に記載のインプラント。
【請求項48】
該ドレーンの内径は50〜200μmである、請求項47に記載のインプラント。
【請求項49】
請求項1から32までのいずれか1項に記載の方法に従って製造される、請求項33から48までのいずれか1項に記載のインプラント。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2009−515614(P2009−515614A)
【公表日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−540470(P2008−540470)
【出願日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際出願番号】PCT/EP2006/008948
【国際公開番号】WO2007/057067
【国際公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【出願人】(502084056)ゲリタ アクチェンゲゼルシャフト (25)
【Fターム(参考)】