説明

架橋するフルオロカーボンを含む定着組成物

【課題】定着器部材の熱的性質、機械的性質および/または電気的性質を改良する材料組成物の提供。
【解決手段】画像形成装置および定着器部材110で使用する新規組成物。特に、新規組成物は、シラン結合によって結合したフルオロカーボン鎖を含む網目構造のハイブリッド構造である。新規組成物を、基材102と、基材の上に配置されたトップコート層106とを備える定着器部材で用いてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本実施形態は、材料組成物に関し、より詳細には、画像形成装置および定着器部材で使用する新規組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真式印刷プロセスでは、媒体の上にあるトナー画像は、定着器サブシステム内にある定着器部材と加圧部材とで作られたニップによって媒体を供給し、定着用ニップを加熱し、媒体の上にあるトナー画像を、定着器部材表面と接触させることによって固定される。加熱によってトナーが粘着性になり、媒体に付着する。しかし、トナー画像のトナー粒子は、媒体に付着するだけではなく、定着器部材にも付着することがあり、その結果、画像の裏移りが起こることがある。定着器上に裏移りした画像がクリーニングされない場合、次の回転で媒体に印刷されてしまい、印刷物に望ましくない画像の欠陥が生じることがある。定着プロセス中に直面するこのような問題を克服するために、定着器部材は、典型的には、表面エネルギーが低いフルオロポリマー、例えば、ペルフルオロアルコキシポリマー樹脂(PFA)(TEFLONの商品名でも知られている)、フルオロエラストマー(VITONの商品名でも知られている)で構成されるトップコート材料を含む。これらの材料は、耐熱性および耐摩耗性、順応性、定着用ニップでの剥離性を付与すると予想される。しかし、これらの材料は、性能上の問題のような末端用途での問題にも関わりがある。例えば、PFAコーティングは、表面損傷を受けやすく、加工するのに高温が必要であり、一方、フルオロエラストマーは、剥離させるためにポリジメチルシロキサン(PDMS)系の定着油を用いると、剥離が不十分である。
【0003】
このように、定着器部材の性質および性能を大きく改良するような、定着器部材で用いるための新規組成物を見いだすことに大きな関心が寄せられている。特に、表面エネルギーが低く、表面損傷(例えば、へこみまたは傷)に対する構造安定性が高く、トナーの剥離性が高く、油を用いないで融合させることが可能な、新規定着組成物が必要とされている。さらに、この新しい定着組成物を、実現可能な処理技術によって処理することができることが望ましいだろう。
【0004】
したがって、従来技術のかかえる問題を克服し、電子写真式印刷デバイスおよび処理で用いる定着器部材の熱的性質、機械的性質および/または電気的性質を改良する材料組成物を提供することが必要である。
【発明の概要】
【0005】
本実施形態によれば、シラン結合によって結合したフルオロカーボン鎖を含む網目構造のハイブリッド構造が提供される。この網目構造の(架橋した)コーティングは、剥離させるためにフッ素含有量がかなり多い部分を含むフルオロカーボン鎖を組み込むことによって、定着用途で有用である。これらのコーティングを、例えば、トップコート層のように、定着器部材をコーティングするのに用いることができる。
【0006】
特に、本実施形態は、フッ素化した有機鎖が架橋している網目構造と、有機シラン化合物とを含む剥離コーティング組成物を提供する。実施形態では、この組成物のフッ素含有量は50%より大きく、さらに、この組成物は、ケイ素−酸素結合を含まない。
【0007】
さらなる実施形態では、基材と、基材に配置されたトップコート層とを含み、トップコート層が、フッ素化した有機鎖が架橋している網目構造と、有機シラン化合物とを含む、定着器部材が提供される。実施形態では、トップコート層のフッ素含有量は50%より大きく、さらに、トップコート層は、ケイ素−酸素結合を含まない。
【0008】
さらに他の実施形態では、ヒドロシリル化に対し触媒活性のある触媒量の不均一白金族金属触媒を含む媒体中で、ペルフルオロヘキサジエンおよび化合物中にシロキサンを含む有機化合物を与えることと、媒体中でヒドロシリル化反応を行い、ペルフルオロヘキサジエンおよび化合物中にシロキサンを含む有機化合物のヒドロシリル化反応生成物を含む組成物を製造することとを含む、定着器部材のためのコーティング組成物を与える方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本実施形態の例示的な印刷装置の模式図である。
【図2】図1に示すような本実施形態の例示的な定着器部材の断面の模式図である。
【図3A】本実施形態の架橋するフルオロカーボンを含むコーティングを製造する、シラン前駆体とペルフルオロジエンの反応を示す図である。
【図3B】本実施形態の架橋するフルオロカーボンを含むコーティングを製造する、シラン前駆体とペルフルオロジエンの代替的な反応を示す図である。
【図3C】本実施形態の架橋するフルオロカーボンを含むコーティングを製造する、シラン前駆体とペルフルオロジエンの代替的な反応を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本実施形態は、材料組成物に関し、より詳細には、画像形成装置および定着器部材で使用する新規組成物に関する。
【0011】
本実施形態の材料組成物は、シラン結合によって結合したフルオロカーボン鎖を含む網目構造のハイブリッド構造である。この網目構造の(架橋した)コーティングは、剥離させるためにフッ素含有量がかなり多い部分を含むフルオロカーボン鎖を組み込むことによって、定着用途で有用である。これらのコーティングを、例えば、トップコート層のように、定着器部材をコーティングするのに用いることができる。この網目構造のコーティングの利点は、1種類または数種類の成分を用い、低温処理によって構造安定性の高いコーティングを反応によって生成することができ、材料系の固有の性質を調節することができることである。それに加えて、網目構造のコーティングは、PFAを溶融させるのに必要な高温(300℃よりも高い)での処理に関連する、基材が分解するという問題がない。シリコーンゴム基材は、250℃付近で分解が始まる。その結果、本実施形態の組成物の性質は、一定の処理および高い熱に耐える画像形成装置および定着器部材に特に有用である。
【0012】
図1は、例示的な印刷装置100を模式的に示す。例示的な印刷装置100は、電子写真用感光体172と、電子写真用感光体172を均一に帯電させるための帯電ステーション174とを備えていてもよい。図1は、ある実施形態の単なる例示を意味し、したがって、ドラム式感光体にのみ限定されるものではない。電子写真用感光体172は、図1に示すようなドラム式感光体であってもよく、ベルト式感光体であってもよい(図示せず)。例示的な印刷装置100は、画像形成ステーション176も備えていてもよく、このステーションで、電子写真用感光体172の上に潜像を作成するために、元々の書類に光源をあててもよい。さらに、例示的な印刷装置100は、潜像を目に見える画像に変換するための現像サブシステム178を電子写真用感光体172に備えていてもよく、媒体120の上にある目に見える画像を転写するための転写サブシステム179を備えていてもよい。印刷装置100は、媒体120の上にある目に見える画像を固定するための定着器サブシステム101も備えていてもよい。定着器サブシステム101は、定着器部材110、加圧部材112、給油サブシステム(図示せず)、クリーニングウェブ(図示せず)のうち、1つ以上を備えていてもよく、定着器部材および/または加圧部材112は、シラン結合によって結合したフルオロカーボンの架橋した網目構造を含むトップコート層を有していてもよい。ある種の実施形態では、定着器部材110は、図1に示しているように、定着器ロール110であってもよい。他の実施形態では、定着器部材110は、図5に示しているように、定着器ベルト515であってもよい。種々の実施形態では、加圧部材112は、図1に示しているように加圧ロール112であってもよく、または加圧ベルトであってもよい(図示せず)。
【0013】
定着器部材は、1つ以上の機能性層が形成された基材を備えていてもよい。基材としては、例えば、円柱またはベルトを挙げることができる。1つ以上の機能性層は、シリコン中にテクスチャ処理された部分を作成することによって、疎水性および/または撥油性、超疎水性および/または超撥油性、または高疎水性および/または高撥油性であり、表面濡れ性を有する最外層またはシリコンがテクスチャ処理された上部層を備えている。画像支持材料(例えば、紙のシート)の上にある融合したトナー画像からのトナー剥離性が良好であり、この性質を維持し、さらに、紙をはがしやすくするために、このような定着器部材を、高速高品質の電子写真印刷のための油を用いない定着部材として用いてもよい。別の実施形態では、シリコンがテクスチャ処理された表面によって、油を用いない固定プロセスのための、油を用いない、例えば、ワックスを用いないトナー設計を行うことができる。
【0014】
図1および図2に示されている定着器部材110を再び参照すると、基材102は、当業者には知られているように、剛性および構造の完全性を維持するために、ポリマー材料(例えば、ポリイミド、ポリアラミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリフタルアミド、ポリアミド−イミド、ポリケトン、ポリフェニレンスルフィド、フルオロポリイミドまたはフルオロポリウレタン)、または金属材料(例えば、アルミニウムまたはステンレス鋼)から作られていてもよい。基材は、さらに、高温プラスチック基材であってもよく、例えば、ポリイミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリアミドイミド、ポリケトン、ポリフタルアミド、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリアリールエーテルケトンであってもよい。基材は、特定の構造に依存して、非導電性または導電性の適切な材料を用い、例えば、円柱(例えば、円筒管)、円柱状のドラム、ロール、ベルトまたは膜のような種々の形状で作成されてもよい。ベルト構造の基材102の厚みは、約50μm〜約300μm、ある場合には、約50μm〜約100μmであってもよい。円柱構造またはロール構造の基材102の厚みは、約2mm〜約20mm、ある場合には、約3mm〜約10mmであってもよい。
【0015】
機能性層の例としては、フルオロシリコーン、シリコーンゴム、例えば、室温加硫(RTV)シリコーンゴム、高温加硫(HTV)シリコーンゴム、低温加硫(LTV)シリコーンゴムが挙げられる。これらのゴムは既知であり、商業的に簡単に入手可能であり、例えば、SILASTIC(登録商標)735ブラックRTVおよびSILASTIC(登録商標)732 RTV(いずれもDow Corning製)、106 RTV Silicone Rubberおよび90 RTV Silicone Rubber(いずれもGeneral Electric製)、JCR6115CLEAR HTVおよびSE4705U HTVシリコーンゴム(Dow Corning Toray Silicones製)である。他の適切なシリコーン材料としては、シロキサン(例えば、ポリジメチルシロキサン)、フルオロシリコーン(例えば、Silicone Rubber 552(Sampson Coating(Richmond Virginia)から入手可能))、液体シリコーンゴム、例えば、ビニル架橋した熱硬化性ゴム、またはシラノールを室温で架橋した材料などが挙げられる。別の特定の例は、Dow Corning Sylgard 182である。市販のLSRゴムとしては、Dow Corning製のDow Corning Q3−6395、Q3−6396、SILASTIC(登録商標)590 LSR、SILASTIC(登録商標)591 LSR、SILASTIC(登録商標)595 LSR、SILASTIC(登録商標)596 LSR、SILASTIC(登録商標)598 LSRが挙げられる。機能性層は、弾力性を付与し、必要な場合には、例えば、SiCまたはAlのような無機粒子と混合してもよい。
【0016】
また、機能性層の例としては、フルオロエラストマーも挙げられる。フルオロエラストマーは、(1)フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレンのうち、2つのコポリマー、(2)フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレンのターポリマー、(3)フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン、キュアサイトモノマーのテトラポリマーといった種類に由来する。これらのフルオロエラストマーは、種々の名称、例えば、VITON A(登録商標)、VITON B(登録商標)、VITON E(登録商標)、VITON E 60C(登録商標)、VITON E430(登録商標)、VITON 910(登録商標)、VITON GH(登録商標)、VITON GF(登録商標)、VITON ETP(登録商標)で商業的に知られている。VITON(登録商標)という名称は、E.I.DuPont de Nemours,Incの商標である。キュアサイトモノマーは、4−ブロモペルフルオロブテン−1、1,1−ジヒドロ−4−ブロモペルフルオロブテン−1、3−ブロモペルフルオロプロペン−1、1,1−ジヒドロ−3−ブロモペルフルオロプロペン−1、または任意の他の適切な既知のキュアサイトモノマー(例えば、DuPontから市販されているもの)であってもよい。他の市販されているフルオロポリマーとしては、FLUOREL 2170(登録商標)、FLUOREL 2174(登録商標)、FLUOREL 2176(登録商標)、FLUOREL 2177(登録商標)、FLUOREL LVS 76(登録商標)が挙げられ、FLUOREL(登録商標)は、3M Companyの登録商標である。さらなる市販材料としては、AFLAS(商標)というポリ(プロピレン−テトラフルオロエチレン)、FLUOREL II(登録商標)(LII900)というポリ(プロピレン−テトラフルオロエチレンビニリデンフルオリド)(これらも、3M Companyから入手可能)、FOR−60KIR(登録商標)、FOR−LHF(登録商標)、NM(登録商標)FOR−THF(登録商標)、FOR−TFS(登録商標)、TH(登録商標)、NH(登録商標)、P757(登録商標)TNS(登録商標)T439(登録商標)、PL958(登録商標)、BR9151(登録商標)、TN505(登録商標)として特定されるTecnoflon(Ausimontから入手可能)が挙げられる。
【0017】
3種類の既知のフルオロエラストマーの例は、(1)フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレンのうち、2つのコポリマー類、例えば、VITON A(登録商標)として商業的に知られているもの、(2)VITON B(登録商標)として商業的に知られている、フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレンのターポリマー類、(3)VITON GH(登録商標)またはVITON GF(登録商標)として商業的に知られている、フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン、キュアサイトモノマーのテトラポリマー類である。
【0018】
フルオロエラストマーであるVITON GH(登録商標)およびVITON GF(登録商標)は、フッ化ビニリデンの量が比較的少ない。VITON GF(登録商標)およびVITON GH(登録商標)は、約35重量%のフッ化ビニリデンと、約34重量%のヘキサフルオロプロピレンと、約29重量%のテトラフルオロエチレンと、約2重量%のキュアサイトモノマーとを有している。
【0019】
添加剤およびさらなる導電性フィラーまたは非導電性フィラーが、基材または機能性層に存在していてもよい。種々の実施形態では、他のフィラー材料または添加剤(例えば、無機粒子を含む)を、コーティング組成物に用いてもよく、その後に形成される表面層に用いてもよい。本明細書で用いられる導電性フィラーとしては、カーボンブラック、グラファイト、フラーレン、アセチレンブラック、フッ素化カーボンブラックなどのようなカーボンブラック、カーボンナノチューブ、金属酸化物およびドープされた金属酸化物、例えば、酸化スズ、二酸化アンチモン、アンチモンがドープされた酸化スズ、二酸化チタン、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化インジウム、インジウムがドープされた三酸化スズなど、およびこれらの混合物を挙げることができる。特定のポリマー、例えば、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリ(p−フェニレンビニレン)、ポリ(p−フェニレンスルフィド)、ピロール、ポリインドール、ポリピレン、ポリカルバゾール、ポリアズレン、ポリアゼピン、ポリ(フッ素)、ポリナフタレン、有機スルホン酸塩、リン酸エステル、脂肪酸エステル、アンモニウム塩またはホスホニウム塩、およびこれらの混合物を、導電性フィラーとして用いてもよい。種々の実施形態では、当業者に知られている他の添加剤を入れ、開示されているコンポジット材料を作成することもできる。
【0020】
ローラー構造の場合、機能性層の厚みは、約0.5mm〜約10mm、または約1mm〜約8mm、または約2mm〜約7mmであってもよい。ベルト構造の場合、機能性層は、約25μm〜約2mm、または約40μm〜約1.5mm、または約50μm〜約1mmであってもよい。
【0021】
種々の実施形態では、定着器部材110は、1つ以上の任意要素の接着層も含んでいてもよく、任意要素の接着層は、基材102とトップコート層108との間に配置されていてもよい。任意要素の接着層の例示的な材料としては、限定されないが、エポキシ樹脂、ポリシロキサンが挙げられる。接着層を、厚みが約2nm〜約10,000nm、または約2nm〜約1,000nm、または約2nm〜約5000nmになるまで、基材または外側層にコーティングしてもよい。接着剤を、スプレーコーティングまたはワイピングを含む既知の任意の適切な技術によってコーティングしてもよい。
【0022】
印刷装置100を再び参照すると、印刷装置100は、図1に示しているように、ゼログラフィー式印刷機であってもよい。再び定着器部材110を参照すると、図2は、例示的な定着器部材110の断面を模式的に示す。種々の実施形態では、例示的な定着器部材110は、基材102の上に配置されたトップコート層108を備えていてもよい。トップコート層108は、シラン結合で結合したフルオロカーボン鎖で構成される網目構造のハイブリッド構造106を含む。網目構造の材料106は、トップコート層108の塊全体に実質的に均一に分散しており、さらなる定着器油を加える必要なく、表面損傷に対して構造安定性を示し、良好な剥離性を示し、表面エネルギーが低い表面が得られる。したがって、本実施形態の定着器部材は、自己剥離性の表面をもつ。本明細書で用いる場合、用語「自己剥離性の表面」とは、少量の定着油を用いるか、または定着油を用いずに媒体を剥離させる表面を指す。実施形態では、トップコート層の厚みは、約10μm〜約100μm、または約20μm〜約40μmである。
【0023】
上述のように、本実施形態の組成物は、シラン結合によって結合したフルオロカーボン鎖を含む架橋した材料である。この組成物から作られたコーティングは、剥離させるためにフッ素含有量がかなり多い部分を含むフルオロカーボン鎖を組み込むことによって、定着用途で有用である。コーティングは、化学薬品安定性で熱安定性のシラン結合を含み、この結合は、融合条件で分解しないだろう。例えば、網目構造のコーティング組成物は、PFAを溶融させるのに必要な高温(300℃よりも高い)での処理に関連する、基材が分解するという問題がない。この網目構造のコーティングまたは架橋したコーティングのさらなる利点は、1種類または数種類の成分を用い、低温処理によって、構造安定性の高いコーティングを反応によって生成することができ、材料系の固有の性質を調節することができることである。
【0024】
さらに、シラン結合は、化学薬品安定性であり、機械的に構造安定性をもつ結合であり、直鎖または分枝鎖の延びた構造を作成するためにこの結合を用いてもよい。シラン結合によってフルオロカーボン鎖の網目構造が延び、高度に化学結合した材料系が得られる。このようにシラン結合によってフルオロカーボンの網目構造の架橋がかなり多く、その結果、この系の可とう性の鎖、分岐、アモルファス性の特徴のために、靭性が高く、かつ可とう性が高い材料が得られる。さらに、フルオロカーボン鎖によって高いフッ素含有量が得られ、表面の剥離性が良好になる。
【0025】
このように、本実施形態のシランが結合したフルオロカーボン網目構造は、高性能融合のような用途向けの新規材料を提供する。新規組成物は、従来の定着材料に比べ、定着の際に例えば、(1)表面が損傷しにくい丈夫な表面、(2)PFA(300℃を超える)と比べて比較的低温での処理(すなわち、250℃未満)、(3)フルオロシランの化学薬品安定性かつ熱安定性、(4)調節可能な材料系といった利点を与える。
【0026】
架橋するフルオロカーボンコーティングは、他のフルオロカーボンを含有するコーティングで起こることが知られているように、フルオロカーボン鎖が長くなるにつれて、表面エネルギーの計算値も小さくなると予想される。この材料から作られるコーティングは、可とう性であり、シリコーン基材に十分に結合する。これらの材料から作られるフッ素含有量の高いコーティングは、ワックスを含有するトナーに対し、良好な剥離性を示すと予想される。一般的に、本実施形態のコーティング組成物は、フッ素化した有機鎖が架橋している網目構造と、有機シラン化合物とを含む。有機シラン化合物は、フッ素化されていてもよく、フッ素化されていなくてもよい。フッ素化した有機鎖は、ヒドロシリル化反応によって架橋し、架橋した網目構造を形成する。特定の実施形態では、フルオロカーボンが架橋している網目構造は、ペルフルオロブタジエン、ペルフルオロヘキサジエン、またはペルフルオロオクタジエンを含むフッ素化した有機鎖、ペルフルオロヘキサジシラン、またはテトラアリルシランを含む有機シラン、またはこれらの混合物から作られる。
【0027】
定着器部材で用いられる場合、本実施形態のコーティング組成物は、シラン結合によって結合したフッ素化した有機鎖が架橋している網目構造を含まない定着器部材よりも高い耐摩耗性を示す定着器部材を提供する。同様に、定着器部材で用いられる場合、本実施形態のコーティング組成物は、シラン結合によって結合したフッ素化した有機鎖が架橋している網目構造を含まない定着器部材よりも高い化学薬品安定性および熱安定性を示す定着器部材を提供する。摩耗は、印刷した表面の画像において示される欠陥を生じるような、定着器部材の表面で生じる材料の損傷として定量化することができる。トップコートが材料の損傷を受けにくくなることは、「耐摩耗性」と定義することができる。化学薬品安定性は、水または空気との反応に対する耐性であると定義することができ、シラン結合した材料は、この耐性をもつことが知られている。熱安定性は、繰り返し行う定着サイクルの融合温度で化学結合が破壊または分解することを指す。トップコートは、定着材料としての用途で熱安定性でなければならない。
【0028】
上述の問題は、架橋するフルオロカーボンコーティングを用いれば避けることができる。架橋するフルオロカーボンコーティングを用いると、材料の欠陥や、融合中に材料の損傷を生じかねない硬化中の収縮が起こらないだろう。シラン結合による架橋は、材料の機械的強度、耐摩耗性の向上に寄与する。シラン結合による架橋は、化学薬品安定性および熱安定性にも寄与する。したがって、本実施形態は、50%よりも大きい高いフッ素含有量をもつ新しい種類の網目構造のコーティングを提供し、このコーティングは、油を用いない融合中に裏移り温度が高く、良好な剥離性を付与する。図3A、3B、3Cは、本実施形態の架橋するフルオロカーボンを含むコーティングで使用するためのシラン前駆体とペルフルオロジエンとの反応を示す。図3A、3B、3Cは、シラン前駆体とペルフルオロジエンとの反応を示している。得られた生成物は、シラン結合(長方形の影によって示されている)に結合したフッ素化した鎖(楕円形の網かけで示されている)を含む。
【0029】
図3Aは、三級ジシランを用いて作られる直鎖を製造する反応を示す。これらの系は直鎖であり、厳密にいえば架橋していない。架橋した系を製造するには、図3Bおよび3Cに記載されているような分岐した系が含まれなければならない。図3Bは、二級ジシランから作られる分岐した網目構造を製造する反応を示す。図3Cは、ペンタシランを用いて作られる分岐した網目構造を製造する反応を示す。これらの反応スキームは、単なる具体例であり、本実施形態によって想定される全反応を包含することは意図していない。それに加えて、ある種の実施形態では、これら3種のスキームを全部組み合わせて、混合系を作成してもよい。
【0030】
記載されているように、本実施形態は、シラン結合によって結合したフルオロカーボン鎖を含む網目構造のハイブリッド構造である組成物を提供する。シラン結合は、化学薬品安定性であり、機械的に構造安定性をもつ結合であり、直鎖または分枝鎖の延びた構造を作成するためにこの結合を用いてもよい。本実施形態は、フルオロカーボン鎖を網目構造に架橋するために、二重に結合したセグメント全体でヒドロシリル化反応を利用する。ヒドロシリル化反応は、定着表面で汚染を促進することによって定着性能を悪化させかねない副生成物を生成しないため、有利である。ヒドロシリル化反応による架橋は、網目構造を生成する間に、収縮を生じ得るような材料の損失がないため、かなり収縮する材料による定着トップコート層で生成し得るような欠けまたは他の欠陥が最低限になるため、さらに有利である。本発明の材料の収縮が小さいため、厚みをさまざまに変えることもできる。
【0031】
網目構造の系は、多官能成分または分岐成分を導入することが必要である。例えば、三級ジシランは、ペルフルオロジエンと直鎖のみを形成するが、二級ジシランは、架橋セグメントを形成し、図3Bに示し、Larry N.Lewis et al、Hydrosilylation Catalyzed by Metal Colloids:A Relative Activity Study,Organometallics 9:621〜625(1990)に記載されているように、架橋した系を生じる場合があり、この文献は、引用することで内容全体が本明細書に組み込まれる。または、示されているペンタシランのような分岐したシランをペルフルオロジエンと反応させ、図3Cに示され、Teixidor et al、Modular Construction of Neutral and Anionic Carboranyl−Containing Carbosilane−Based Dendrimers,Macromolecules 40:5644〜5652(2007)に記載されるような完全に分岐した網目構造を形成してもよく、この文献は、内容全体が参考として本明細書に組み込まれる。構造的安定性をもち、可とう性である以外に、本実施形態は、特定のパラメーターを満たすように調節することができる。系の架橋、可とう性、機械的強度を調節するという目的で、示されている3種類のヒドロシリル化反応を種々の比率で合わせてもよい。もっと特定的には、材料および表面特性は、フルオロカーボンおよび/またはシラン前駆体を選択することによって調節してもよい。
【0032】
定着表面で剥離性を付与するには、網目構造のフッ素含有量がかなり多いことが必要である。シラン結合した系の利点は、表1に示されるように、結合成分の組み込み量が比較的少なくても、得られ得る網目構造のフッ素含有量が、一般的に50%よりも大きいことである。特定の実施形態では、フッ素含有量は、約50〜約70%である。延ばしたフルオロカーボン鎖を用いるか、系に結合し、表面エネルギーを顕著に下げることが可能なフルオロカーボンの「毛」を形成することが可能な一官能フルオロカーボン鎖を組み込むことによって、フッ素含有量をさらに高めてもよい。表1は、ペルフルオロヘキサジエンおよび種々のシラン前駆体を用いたフッ素含有量の計算値および分岐度を示す。
【表1】

【0033】
記載されている架橋する網目構造は、シロキサンを含む任意の成分、例えば、ポリジメチルシロキサン、ポリジエチルシロキサン、ポリジビニルシロキサン、または他の重合したシロキサンまたはオリゴマー化したシロキサンを含有していない。シロキサンは、ケイ素−酸素(Si−O)結合が存在することを特徴とし、重合したシロキサンまたはオリゴマー化したシロキサンの場合では、1種類の鎖に存在するか、または繰り返し鎖に存在する場合がある。また、架橋する網目構造は、シロキサン官能基を含む架橋剤、例えば、AO700(N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン)、3−(N−スチリルメチル−2−アミノエチルアミノ)プロピルトリメトキシシラン塩酸塩および(アミノエチルアミノメチル)フェネチルトリメトキシシランのようなアミノシランも含まない。シロキサンは加水分解を受ける可能性があるため、シロキサンが存在しない組成物を作成することが望ましい。
【0034】
実施形態では、触媒を含む媒体中でヒドロシリル化反応を行うことを含む、定着器部材のためのコーティング組成物を与える方法が提供される。例えば、媒体は、ヒドロシリル化に対して触媒活性がある不均一な白金族金属触媒を触媒量含む。フルオロカーボン、例えば、ペルフルオロヘキサジエンと、化合物中にシロキサンを含む有機化合物とを媒体に加え、この媒体中でヒドロシリル化反応を行う。次いで、媒体から触媒を除去し、ヒドロシリル化反応生成物を含む組成物を得る。
【0035】
定着器サブシステムの部材を作成する方法は、さらに、本実施形態のコーティング組成物を基材に塗布し、コーティングされた基材を作成する工程を含んでいてもよい。分散物を基材の一領域に塗布するために、例えば、スプレーコーティング、浸漬コーティング、ブラシコーティング、ローラーコーティング、スピンコーティング、キャスト成型、フローコーティング、他のコーティング方法のような任意の適切な技術を用いてもよい。
【0036】
前駆体を希釈せずに適切なヒドロシリル化触媒と合わせてもよく、または溶液状態で合わせてもよい。コーティングした後に、反応性の混合物を熱処理によって架橋し、硬化させる。または、コーティングの前に前駆体を部分的に反応させ、架橋させてもよい。シラン結合したコーティングをロールまたはベルトの基材(例えば、シリコーン基材)と直接反応させ、プライマーを含まない定着器部材のトップコートを得てもよい。
【0037】
また、この方法は、コーティングされた基材を硬化させ、基材の上にトップコート層を作成する工程と、トップコート層の表面に自己剥離性の表面が作られるようにトップコート層を研磨する工程とを含んでいてもよい。種々の実施形態では、硬化は、約40℃〜約400℃の範囲で行ってもよい。硬化工程は、約20〜約300分間行われてもよい。任意の適切な研磨方法(例えば、パッドを用いた機械的な研磨)を用いてもよい。
【0038】
特定の実施形態では、基材にコーティング組成物を塗布し、コーティングされた基材を作成する工程は、基材の上に柔軟層を作成することと、この柔軟層にコーティング組成物を塗布し、コーティングされた基材を作成することとを含んでいてもよい。限定されないが、シリコーン、フルオロシリコーン、フルオロエラストマーのような任意の適切な材料を用い、柔軟層を作成してもよい。
【実施例】
【0039】
実施例1
(ジシリルペルフルオロカーボン前駆体の調製)
シラン結合した網目構造のコーティングを作成するのに適切なフッ素化されたシランを調製するために、フルオロカーボンシラン前駆体の合成を行った。三級ジシリルペルフルオロヘキサンを得るための以下の反応を5gスケールで行った。
【化1】

【0040】
実施例2
(シラン結合したフルオロカーボン鎖の調製)
希釈していないジシリルペルフルオロヘキサン(0.1g)とペルフルオロヘキサジエン(0.075g)とのヒドロシリル化反応を、0.02%のKarstedt触媒存在下で行った。0時のNMR分析から、2種類の出発物質が未反応のままで存在していることが示された。この材料を撹拌しつつ、55℃で16時間反応させた。その後のNMR分析から、ジシランプロトンが生じていることが示され、さらに、メチルの化学シフトがシフトしていることが示され、このことは、ジエン出発物質が完全に反応したことを示している。生成物は、シランが結合した直鎖フルオロカーボン鎖の場合で予想されるように、ゲル化の証拠が存在しない液体であった。
【化2】

【0041】
実施例3
(網目構造の材料を調製)
ジシリルペルフルオロヘキサン、ペルフルオロヘキサジエン、テトラアリルシランの反応をヒドロシリル化反応によって行い、網目構造の材料に組み込まれるテトラアリルシランの比率によって架橋度を変えた重合材料を得た。
【化3】

【0042】
反応A:0.1gのジシランと、0.75gのジエンを混合し、0.016mgのKarstedt触媒を加える。
【0043】
反応B:0.1gのジシランと、0.71gのジエンと、2mgのテトラアリルシランを混合し、0.016mgのKarstedt触媒を加える。
【0044】
反応物Aと反応物Bを7gのメチルイソブチルケトン(MIBK)と組み合わせて反応溶液を得た。シリコーンゴム基材で覆われた短い金属ロールに溶液をスプレーコーティングした。この短いロールを120℃まで熱処理した。スプレーコーティングした溶液は、加熱した短いロールと接触するとすぐに乾燥するようであった。
【0045】
コーティングされた短いロールを150℃のオーブンで1時間熱処理し、次いで、200℃のオーブンで1時間、次いで、300℃のオーブンで20分間熱処理した。得られたコーティング表面は、光沢があり、平滑であった。欠けまたは脆さを示す証拠はなかった。シリコーンゴム表面への接着は、こすったり引っかいたりしても機械的安定性を保っているようであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
剥離コーティング組成物であって、
フッ素化した有機鎖が架橋している網目構造と、
有機シラン化合物とを含み、この組成物は、フッ素含有量が50%よりも大きく、さらに、この組成物がケイ素−酸素結合を含まない、剥離コーティング組成物。
【請求項2】
前記有機シラン化合物がフッ素化されているか、またはフッ素化されていない、請求項1に記載の剥離コーティング組成物。
【請求項3】
前記フッ素化した有機鎖が架橋している網目構造が、シラン結合によって結合している、請求項1に記載の剥離コーティング組成物。
【請求項4】
前記フッ素化した有機鎖がヒドロシリル化反応によって架橋し、架橋した網目構造を形成する、請求項1に記載の剥離コーティング組成物。
【請求項5】
前記フルオロカーボンが架橋している網目構造は、ペルフルオロブタジエン、ペルフルオロヘキサジエン、ペルフルオロオクタジエン、有機シランおよびこれらの混合物を含むフッ素化した有機鎖から作られる、請求項1に記載の剥離コーティング組成物。
【請求項6】
前記組成物のフッ素含有量は約50〜約70%である、請求項1に記載の剥離コーティング組成物。
【請求項7】
基材と、
基材に配置されたトップコート層と、を備え、前記トップコート層は、
フッ素化した有機鎖が架橋している網目構造と、
有機シラン化合物とを含み、前記トップコート層は、フッ素含有量が50%より大きく、さらに、このトップコート層がケイ素−酸素結合を含まない、定着器部材。
【請求項8】
前記基材と前記トップコート層との間に1つ以上の柔軟層をさらに備える、請求項7に記載の定着器部材。
【請求項9】
前記トップコート層のフッ素含有量が50%より大きい、請求項7に記載の定着器部材。
【請求項10】
定着器部材のためのコーティング組成物を与える方法であって、
ヒドロシリル化に対し触媒活性のある触媒量の不均一白金族金属触媒を含む媒体中で、ペルフルオロヘキサジエンおよび化合物中にシロキサンを含む有機化合物を与えることと、
媒体中で前記ヒドロシリル化反応を行なうことと、
前記媒体から前記触媒を除去し、前記ペルフルオロヘキサジエンおよび化合物中にシロキサンを含む前記有機化合物の前記ヒドロシリル化反応生成物を含む組成物を製造することと、を含む、方法。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【公開番号】特開2012−198519(P2012−198519A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−42536(P2012−42536)
【出願日】平成24年2月28日(2012.2.28)
【出願人】(596170170)ゼロックス コーポレイション (1,961)
【氏名又は名称原語表記】XEROX CORPORATION
【Fターム(参考)】