説明

架橋フッ素樹脂層を有する非回転加圧部材とその製造方法

【課題】耐摩耗性が顕著に優れた架橋フッ素樹脂層を離型層として有する非回転加圧部材を提供すること。
【解決手段】
電子写真方式の画像形成装置の定着ユニットに配置される非回転加圧部材であって、該非回転加圧部材は、基材上に架橋フッ素樹脂層が形成された架橋フッ素樹脂複合材料であり、かつ、該架橋フッ素樹脂層は、架橋フッ素樹脂層上に、ナイロン不織布に研磨砥粒を均一に塗布し接着させた3次元構造を持つ研磨材と2kgfの重りをこの順で載せて、該研磨材と重りの両者からなる回転体を200rpmで回転させたとき、10万回の積算回転数での摩耗減量が10μm以下の架橋フッ素樹脂層である非回転加圧部材;及びその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材上に架橋フッ素樹脂層が形成された非回転加圧部材、及びその製造方法に関する。本発明の非回転加圧部材は、架橋フッ素樹脂層の耐摩耗性が顕著に優れるため、電子写真方式の画像形成装置の定着ユニットにおいて、定着ローラまたは定着ベルトに対向・圧接して配置される非回転加圧部材として好適に利用することができる。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式(静電記録方式を含む)の複写機、ファクシミリ、レーザービームプリンタなどの画像形成装置においては、一般に、感光体の表面を一様かつ均一に帯電する帯電工程;像露光を行って、感光体上に静電潜像を形成する工程;静電潜像にトナー(現像剤)を付着させて、トナー像を形成する現像工程;感光体上のトナー像を、紙やOHP(オーバーヘッドプロジェクタ)シートなどの記録媒体上に転写する転写工程;及び記録媒体上の未定着トナー像を定着する定着工程;を含む一連の工程によって、画像を形成している。
【0003】
定着工程では、一般に、記録媒体上の未定着トナー像を加熱・加圧して、該記録媒体上に定着している。定着工程では、通常、電熱ヒータなどの加熱手段を内蔵する定着ローラと、該定着ローラに対向して配置された加圧ローラとからなるローラ対を備えた定着ユニット(「定着装置」と呼ぶことがある)を使用している。両ローラを圧接して形成したニップ部に、未定着トナー像を形成した記録媒体を通過させて、加熱・加圧して、未定着トナー像を記録媒体上に定着させる。
【0004】
前記の定着ユニットでは、定着ローラと加圧ローラとからなるローラ対を、それぞれ回転自在に支持し、かつ、同期して回転させる必要があるため、装置の構造が複雑となる上、装置の小型化が困難である。定着ローラは、内蔵する加熱手段によって、その表面温度を定着温度にまで上昇させるのに時間がかかるため、画像形成装置への電源投入から運転可能となるまでの待ち時間が長くなる。これらの問題の一部または全部を解決するために、様々な構造を有する定着ユニットが提案されている。
【0005】
例えば、特開2000−194210号公報(特許文献1)には、フィルム加熱方式の加熱装置、及び定着ユニットとして該加熱装置を備えた画像形成装置が開示されている。図1に断面略図を示すように、該加熱装置は、固定された加熱体5、該加熱体5の表面を摺動するエンドレスベルト状のフィルム4、及び該フィルム4を介して該加熱体5に対向・圧接してニップ部を形成する非回転加圧部材3を有している。加熱体5は、フィルム4内で、加熱体保持部材6により保持されている。非回転加圧部材3は、保持部材2上に固定されている。加圧部材3に隣接して、小型の回転加圧部材1が配置されている。この回転加圧部材1が駆動ローラとなり、フィルム4を回動させる。
【0006】
非回転加圧部材3は、例えば、図2に示すように、断熱性が良好な耐熱性の弾性材料から形成されたパッド状押圧部材21上に、フッ素樹脂から形成された離型層22を設けた構造を有している。弾性材料としては、シリコーンゴム、フッ素ゴム、発泡シリコーンゴム、ポリウレタンスポンジなどが用いられる。フッ素樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)などが用いられる。
【0007】
回動するフィルム4の外周面は、非回転加圧部材3の面に対して摺動する。被加熱材として、未定着トナー像8を載せた記録媒体7を加熱装置に搬送すると、該記録媒体7は、回動するフィルム4と小型の回転加圧部材1とによって、フィルム4と回転加圧部材1及び非回転固定部材3とがそれぞれ圧接する2つのニップ部に搬送され、そこで加熱・加圧される。その結果、未定着トナー像8が記録媒体7上に定着される。
【0008】
特許文献1に開示されている加熱装置は、セラミックヒータなどの低熱容量の加熱体5を用いることができ、かつ、伝熱部材として薄肉の低熱容量のフィルム4を用いることができるため、短時間で加熱体5の温度が上昇し、フィルム4と非回転加圧部材3とは圧接するニップ部を所定の定着温度に迅速に昇温することができる。非回転加圧部材3を用いることにより、ニップ部の幅を広くすることができるため、大型の加圧ローラを使用する必要がなくなる。そのため、大型の加圧ローラを用いた場合に、該加圧ローラ側に奪われる熱量を低減することができる。
【0009】
特開平8−115003号公報(特許文献2)には、内部にヒータランプと反射板とを配置した金属製の弾性変形可能な円筒状の耐熱性ベルトを、平板状の案内板と対向させて配置し、耐熱性ベルトが案内板に圧接するときの半径方向の弾性変形により、未定着トナー像を形成した記録紙を加熱・加圧する定着装置が開示されている。平板状の案内板は、断熱部材上に配置されている。断熱部材は、偏心カムによって上下方向に移動させることができる。平板状の案内板は、固定されており、非回転加圧部材としての役割を果たすものである。この定着ユニットを用いると、円筒状の耐熱性ベルトと案内板との間に形成されるニップ幅を可変自在とすることができる。案内板の摩擦係数を小さくし、離型性を向上させるために、案内板の表面をPTFEなどのフッ素樹脂で被覆する。
【0010】
特開平8−241000号公報(特許文献3)には、定着ローラと、該定着ローラの外周面に圧接して配置された加圧部材とを備え、定着ローラと加圧部材との間に未定着トナー像を有する記録材を搬送することにより、該記録材に未定着トナー像を定着させる定着装置において、定着ローラと加圧部材との間にガラス繊維を基材とする耐熱シートを配置した定着装置が開示されている。耐熱シートは、ガラス繊維基材に、PFA、PTFEなどのフッ素樹脂を被覆または含浸して形成したものである。耐熱シートは、非回転の固定加圧シートである。
【0011】
特開平9−179422号公報(特許文献4)には、特許文献3に記載の定着装置と同様の構造を有し、PTFEにポリイミドを含有させた合成樹脂材料から形成された耐熱シートを用いた定着装置が開示されている。
【0012】
特開平9−179441号公報(特許文献5)及び特許第3158030号公報(特許文献6)には、特許文献3に記載の定着装置と同様の構造を有し、PFA、PTFEなどのフッ素樹脂に耐熱性フィラーを混入した合成樹脂材料から形成された耐熱シートを用いた定着装置が開示されている。
【0013】
特開平8−69189号公報(特許文献7)には、定着ローラを、該定着ローラの外周面に配置した耐熱性部材に圧接させた構造を有する定着装置が開示されている。定着ローラは、薄肉アルミニウム製円筒体の表面にシリコーンゴムの被覆層を設けたものであり、その軸芯部には、ヒーターランプが挿入されている。耐熱性部材は、耐熱性の弾性部材からなり、その表面には、摩擦係数が小さく、耐熱性を有するフッ素樹脂の被覆層が設けられている。耐熱性部材は、フレームに固定されている。
【0014】
特開2004−246132号公報(特許文献8)には、定着ローラと非回転の固定加圧シート部材とを備えた定着装置が開示されている。非回転の固定加圧シートを定着ローラに圧接させて、その間に未定着トナー像を形成した要旨を搬送させて定着を行う。非回転の固定加圧シート部材は、ポリイミドシートの表面に、PTFEを被覆したものである。
【0015】
特許文献1〜8に開示されている定着装置は、装置の小型化、省エネルギー化などに寄与することができる。定着ローラに代えて定着ベルト(エンドレスベルト状のフィルム)を用いた定着装置は、画像形成装置の立ち上がり時間を大幅に短縮させることができる。しかし、これらの定着装置は、非回転加圧部材の耐久性が不十分であるという問題があった。
【0016】
具体的に、引用文献1に開示されている非回転の加圧部材は、パッド状押圧部材上にフッ素樹脂からなる離型層を設けた構造を有している。この離型層の表面に、エンドレスベルト状のフィルムを圧接させながら摺動させる。離型層とフィルムとの間には、未定着トナー像を形成した記録媒体を搬送して、加熱・加圧する。フッ素樹脂から形成された離型層は、摩擦係数が小さく、トナー離型性に優れるものの、耐摩耗性が十分ではない。
【0017】
定着ローラと加圧ローラを対向・圧接させて、両ローラを回転させても、加圧ローラ表面に設けたフッ素樹脂層が早期に摩耗することはない。これに対して、定着ローラまたは定着ベルトを非回転加圧部材の表面に摺動させる方式では、摺動による強い摩擦力が非回転加圧部材のフッ素樹脂層に加わることになり、フッ素樹脂層の摩耗が進行しやすくなる。そのため、上記構造の加熱装置(定着ユニット)は、画像形成を繰り返して行うにしたがって、非回転加圧部材上のフッ素樹脂からなる離型層が、フィルムとの摺動などによる摩擦を受けて早期に摩耗してしまう。
【0018】
フッ素樹脂の被覆層を形成した平板状の案内板(特許文献2)、フッ素樹脂を被覆または含浸したガラス繊維基材からなる耐熱シート(特許文献3)、PTFEにポリイミドを含有させた合成樹脂材料から形成された耐熱シート(特許文献4)、フッ素樹脂に耐熱性フィラーを混入した合成樹脂材料から形成された耐熱シート(特許文献5及び6)、弾性部材の表面にフッ素樹脂の被覆層を形成した耐熱性部材(特許文献7)、及びポリイミドシートの表面にPTFEを被覆した非回転の固定加圧シート部材(特許文献8)でも、フッ素樹脂の摩耗による耐久性不足の問題が存在している。
【0019】
フッ素樹脂からなる離型層が早期に摩耗すると、回転若しくは回動する定着ローラまたは定着ベルトと非回転加圧部材との間に、記録媒体を円滑に通過させることができなくなる。フッ素樹脂層の厚みを増せば、早期の摩滅を防ぐことができるものの、フッ素樹脂層の不均一な摩耗に起因する定着不良や画質の低下、基材からのフッ素樹脂層の剥離などの問題が生じやすくなる。そのため、フッ素樹脂層を有する非回転加圧部材を用いた定着ユニットの実用化に当って、非回転式加圧部材の耐久性の飛躍的な向上が強く求められている。
【0020】
フッ素樹脂に電子線やγ線などの放射線を照射して架橋させると、機械特性、耐クリープ性、耐放射線性、耐摩耗性、他材に対する密着性などの特性が向上することが知られている。フッ素樹脂は、化学的に安定であり、常温で放射線を照射すると容易に分解する。フッ素樹脂に、酸素不存在下、その融点以上の温度で電子線やγ線などの放射線を照射すると、網目状の架橋構造を導入することができる。
【0021】
例えば、特開2002−225204号公報(特許文献9)には、基材表面をフッ素樹脂で被覆し、次いで、フッ素樹脂被膜の表面に無酸素雰囲気下で電離性放射線を照射することにより、フッ素樹脂の架橋反応とフッ素樹脂と基材表面との化学反応を同時に生じさせ、それによって、両者の強固な接着を達成する改質フッ素樹脂被覆材の製造方法が開示されている。
【0022】
従来、電子写真方式の画像形成装置の定着ユニットに配置される非回転加圧部材に、離型層として、放射線の照射により架橋された架橋フッ素樹脂層を設けることは提案されていない。さらに、従来法によれば、未架橋フッ素樹脂層に比べて耐摩耗性が向上した架橋フッ素樹脂層を形成することができるものの、定着ユニットの非回転加圧部材の離型層に要求される高度の耐摩耗性を達成することは極めて困難な課題であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0023】
【特許文献1】特開2000−194210号公報
【特許文献2】特開平8−115003号公報
【特許文献3】特開平8−241000号公報
【特許文献4】特開平9−179422号公報
【特許文献5】特開平9−179441号公報
【特許文献6】特許第3158030号公報
【特許文献7】特開平8−69189号公報
【特許文献8】特開2004−246132号公報
【特許文献9】特開2002−225204号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
本発明の課題は、電子写真方式の画像形成装置の定着ユニットに配置される非回転加圧部材であって、耐摩耗性が顕著に優れた架橋フッ素樹脂層を離型層として有する非回転加圧部材とその製造方法を提供することにある。
【0025】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、基材上に未焼成かつ未架橋のフッ素樹脂層を形成した後、該フッ素樹脂の融点以上の温度で焼成し、次いで、焼成した未架橋フッ素樹脂層を、特定の酸素濃度の雰囲気下、特定の範囲内の温度で、かつ、特定の照射線量の放射線を照射する方法により、耐摩耗性が顕著に改善された架橋フッ素樹脂層を備えた複合材料の得られることを見出した。
【0026】
このような選択された複数の条件の組み合わせを採用することによって、フッ素樹脂を劣化させることなくフッ素樹脂層の架橋を効果的に生じさせ、耐摩耗性が顕著に向上した架橋フッ素樹脂層を形成することができる。本発明の製造方法により得られた複合材料は、その架橋フッ素樹脂層が非回転加圧部材に求められる高度の耐摩耗性を発揮するものである。本発明は、これらの知見に基づいて完成するに至ったものである。
【課題を解決するための手段】
【0027】
本発明によれば、電子写真方式の画像形成装置の定着ユニットに配置される非回転加圧部材であって、該非回転加圧部材は、基材上に架橋フッ素樹脂層が形成された架橋フッ素樹脂複合材料であり、かつ、該架橋フッ素樹脂層は、本明細書に開示されている回転摩耗試験法に従って、架橋フッ素樹脂層上に、ナイロン不織布に研磨砥粒を均一に塗布し接着させた3次元構造を持ち、直径75mmφの断面円形の研磨材と2kgfの重りをこの順で載せて、該研磨材と重りの両者からなる回転体を200rpmで回転させたとき、10万回の積算回転数での摩耗減量が10μm以下の架橋フッ素樹脂層であることを特徴とする非回転加圧部材が提供される。
【0028】
また、本発明によれば、電子写真方式の画像形成装置の定着ユニットに配置される非回転加圧部材の製造方法であって、
(1)基材上に、未焼成かつ未架橋のフッ素樹脂層を形成する工程1;
(2)該フッ素樹脂層を、該フッ素樹脂の融点(Tm)から該融点より150℃高い温度(Tm+150℃)までの範囲内の温度に加熱して焼成する工程2;
(3)焼成した未架橋フッ素樹脂層の温度を、該フッ素樹脂の融点(Tm)より50℃低い温度(Tm−50℃)から該融点より50℃高い温度(Tm+50℃)までの範囲内の温度に調整する工程3;及び
(4)温度調整した該未架橋フッ素樹脂層に、酸素濃度が0.1〜1000ppmの雰囲気下、照射線量が1〜1000kGyの範囲内の放射線を照射して、未架橋フッ素樹脂を架橋する工程4;
により、架橋フッ素樹脂層を形成する工程を含む非回転加圧部材の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、耐摩耗性が顕著に向上した架橋フッ素樹脂層を有する非回転加圧部材が提供される。フッ素樹脂層の耐摩耗性は、後記の回転摩耗試験により評価することができる。本発明の製造方法により得られた架橋フッ素樹脂層を有する非回転加圧部材は、研磨材と重りの両者からなる回転体を200rpmで回転させたとき、その積算回転数を10万回とした場合でも、摩耗減量が極めて低い値を示す。本発明の架橋フッ素樹脂層を有する非回転加圧部材は、耐摩耗性が顕著に優れる上、架橋フッ素樹脂層にクラックの発生がなく、架橋フッ素樹脂層と基材との間の密着性にも優れている。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】フィルム加熱方式の定着装置の一例を示す断面図である。
【図2】非回転加圧部材の一例を示す断面図である。
【図3】図3は、回転摩耗試験の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明で使用するフッ素樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、及びテトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)が挙げられる。これらのフッ素樹脂は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0032】
これらのフッ素樹脂の中でも、耐熱性と耐摩耗性の観点から、PTFE、PFA、及びこれらの混合物が好ましく、PTFE単独、及びPTFEとPFAとの混合物がより好ましい。高度の耐摩耗性を有する架橋フッ素樹脂層を形成するには、PTFE単独の使用が特に好ましい。PTFEとPFAを組み合わせて使用する場合、両者の質量比は、好ましくは10:90〜90:10、より好ましくは30:70〜70:30、特に好ましくは40:60〜60:40の範囲内である。
【0033】
フッ素樹脂としては、基材上への塗工性の観点から、水系媒体中にフッ素樹脂粒子がコロイド状に分散しているPTFEディスパージョン、PFAディスパージョン、FEPディスパージョンなどのディスパージョンの形態で用いることが好ましい。これらのフッ素樹脂ディスパージョンは、2種以上のフッ素樹脂を含有するものであってもよい。フッ素樹脂として、所望により、粉体塗料を使用することもできる。
【0034】
フッ素樹脂としては、未焼成かつ未架橋のものを使用する。フッ素樹脂の融点は、示差走査熱量計(DSC)を用いて、10℃/分の昇温速度で昇温したときに融解ピークとして検出される結晶融点(Tm)を意味する。各フッ素樹脂の代表的な融点は、以下の通りである。PTFEの融点は、327℃である。PFAの融点は、310℃である。FEPの融点は、275℃である。
【0035】
各フッ素樹脂が少量の第二成分または第三成分を共重合成分として含む共重合体である場合には、その融点は、上記の代表的な融点の値から変動することがある。本発明において、2種以上のフッ素樹脂を組み合わせて用いる場合、その融点は、それらのフッ素樹脂の融点の中で最も高い融点を意味する。例えば、PTFEとPFAとの混合物からなるフッ素樹脂を用いる場合、フッ素樹脂の融点とは、PTFEの融点(Tm=327℃)を意味するものとする。
【0036】
本発明において、フッ素樹脂の融点(Tm)とは、出発原料として使用する未焼成かつ未架橋のフッ素樹脂の融点として定義される。フッ素樹脂は、焼成や架橋などによって、その融点が変動することがあるが、焼成温度及び照射温度を決定する際の融点とは、原料として使用する未焼成かつ未架橋のフッ素樹脂の融点を意味するものとする。
【0037】
フッ素樹脂には、所望により、有機または無機の充填剤、着色剤、可塑剤、安定剤などの添加剤成分を含有させることができる。充填剤としては、例えば、ガラス繊維、ボロンナイトライド、炭化ケイ素、アルミナなどを挙げることができる。フッ素樹脂に、ボロンナイトライドや炭化ケイ素などの熱伝導性フィラーを充填すると、非回転加圧部材が蓄熱するため、エネルギー効率を高めることができる。ボロンナイトライドや炭化ケイ素などの熱伝導性フィラーをカプセル化したフッ素樹脂粉体を用いることもできる。フッ素樹脂の非粘着性、ノンブリード性、耐薬品性、耐熱性などの特性を維持しながら、架橋フッ素樹脂層の耐摩耗性を大幅に向上させる観点からは、添加剤成分を含有しないフッ素樹脂を用いることが好ましい。
【0038】
基材としては、一般に、フッ素樹脂の焼成温度と照射温度で熱的安定性を示す材質からなるものが用いられる。基材を構成する材質としては、アルミニウム、鉄、銅、ステンレスなどの金属;酸化アルミニウム、窒化ケイ素、炭化ケイ素、タングステンカーバイトなどのセラミックス;ガラス;ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂などの耐熱性合成樹脂;などが挙げられる。金属は、合金であってもよい。ステンレスとしては、磁性または非磁性のステンレスを用いることができる。
【0039】
本発明の製造方法によれば、照射温度をフッ素樹脂の融点未満の温度とすることが可能であり、かつ、短時間の照射工程を採用することができるため、基材の材質として、フッ素ゴム、シリコーンゴム、熱可塑性エラストマーなどのゴム材料を用いることもできる。
【0040】
基材の形状は、特に限定されず、例えば、板、フィルム(シートを含む)、ブロックなど、各種定着装置において非回転加圧部材として使用可能な形状であればよい。基材としては、金属板、合成樹脂板、合成樹脂フィルム、ガラス繊維シート、及び弾性部材(例えば、パッド状弾性部材)であることが好ましい。基材は、単層であっても、それぞれ材質の異なる複数の層を有する多層であってもよい。多層基材としては、例えば、アルミニウム/ステンレスの層構成を持つ複合基材などを挙げることができる。
【0041】
基材は、表面処理を行うことなく使用することができる。基材と架橋フッ素樹脂層との間の密着性を高めるために、基材の表面をエッチング処理またはサンドブラスト処理することができる。化学的または電気化学的なエッチング処理により、基材の表面に微細な凹凸を形成して、未架橋フッ素樹脂層及び架橋フッ素樹脂層と基材との間の密着性を高めることができる。
【0042】
金属基材は、その表面にエッチング処理することが好ましいことが多い。例えば、アルミニウム基材を用いる場合、該アルミニウム基材を陽極とし、塩化アンモニウム水溶液中で通電することにより、電気化学的エッチング処理を行うことができる。基材の表面処理法として、サンドブラスト処理法を採用することができる。表面処理に代えて、基材の表面にプライマーを塗布することによっても、基材と架橋フッ素樹脂層との間の密着性を高めることができる。ただし、高度の耐熱性が求められる技術分野では、プライマー処理は適していない。
【0043】
表面処理によって、基材の表面粗さが過度に大きくなると、架橋フッ素樹脂層の表面粗さが大きくなりすぎて、非粘着性が低下する。他方、架橋フッ素樹脂層の表面粗さが小さすぎると、ニップ部における記録媒体(転写紙)の円滑な通過が阻害されることがある。架橋フッ素樹脂層の表面粗さRa(JIS B 0601)は、通常0.08μm以上、好ましくは0.45μm以上、より好ましくは1.0μm以上とすることが望ましい。架橋フッ素樹脂層の表面粗さRaの上限値は、通常5μm、多くの場合3μm程度である。基材の表面粗さは、架橋フッ素樹脂層に望まれる表面粗さを達成できるように調整することが好ましい。
【0044】
本発明の非回転加圧部材の製造方法は、以下の工程1乃至4:
(1)基材上に、未焼成かつ未架橋のフッ素樹脂層を形成する工程1;
(2)該フッ素樹脂層を、該フッ素樹脂の融点(Tm)から該融点より150℃高い温度(Tm+150℃)までの範囲内の温度に加熱して焼成する工程2;
(3)焼成した未架橋フッ素樹脂層の温度を、該フッ素樹脂の融点(Tm)より50℃低い温度(Tm−50℃)から該融点より50℃高い温度(Tm+50℃)までの範囲内の温度に調整する工程3;及び
(4)温度調整した該未架橋フッ素樹脂層に、酸素濃度が0.1〜1000ppmの雰囲気下、照射線量が1〜1000kGyの範囲内の放射線を照射して、未架橋フッ素樹脂を架橋する工程4;
を含むものである。
【0045】
工程1では、基材上に、未焼成かつ未架橋のフッ素樹脂層を形成する。基材上にフッ素樹脂層を形成するには、通常、フッ素樹脂ディスパージョンをディッピング法、スピンコーティング法、スプレーコーティング法などにより基材上に塗工し、乾燥する方法が採用される。基材上にフッ素樹脂の粉体塗料を塗工する方法によっても、フッ素樹脂層を形成することができる。粉体塗料の塗工法としては、静電塗装法や流動浸漬法などが挙げられる。均一で薄い塗膜を形成しやすい点で、フッ素樹脂ディスパージョンの塗工法を採用することが好ましい。
【0046】
フッ素樹脂層の厚みは、電子線などの放射線が透過して均一な架橋構造を形成することができる範囲内とすることが好ましい。フッ素樹脂層の厚みは、架橋フッ素樹脂層を有する非回転加圧部材に必要とされる耐摩耗性、機械物性などの特性を十分に発揮し得る範囲内とすることが望ましい。該フッ素樹脂層の厚みは、通常1〜200μm、好ましくは3〜150μm、より好ましくは4〜100μm、特に好ましくは5〜50μmの範囲内である。放射線の照射によって架橋したフッ素樹脂層は、耐摩耗性に優れるため、その厚みを薄くすることができる。多くの場合、フッ素樹脂層の厚みを5〜30μmの範囲内とすることによって、良好な結果を達成することができる。
【0047】
工程2では、基材上のフッ素樹脂層を、該フッ素樹脂の融点(Tm)から該融点より150℃高い温度(Tm+150℃)までの範囲内の温度に加熱して焼成する。この温度は、焼成温度と呼ばれる。
【0048】
焼成温度は、Tm〜(Tm+150℃)、好ましくは(Tm+5℃)〜(Tm+135℃)、より好ましくは(Tm+10℃)〜(Tm+125℃)の範囲内である。フッ素樹脂がPTFE(Tm=327℃)である場合、該焼成温度は、327〜477℃、好ましくは332〜462℃、より好ましくは337〜452℃の範囲内である。焼成温度が低すぎると、均一で平坦なフッ素樹脂層を形成することが困難となり、架橋フッ素樹脂層にクラックが生じるおそれもある。他方、焼成温度が高すぎると、フッ素樹脂の熱劣化が生じやすくなる。
【0049】
焼成時間は、焼成温度にもよるが、通常、1〜60分間、好ましくは5〜40分間、より好ましくは10〜30分間の範囲内である。焼成時間が短すぎると、厚みが均一で、表面が平坦なフッ素樹脂層を形成することが困難となる。焼成時間が長すぎると、フッ素樹脂が熱劣化することに加えて、生産効率やエネルギー効率が低下する。焼成により、照射工程後、耐摩耗性と基材に対する密着性に優れた架橋フッ素樹脂層を形成することができる。
【0050】
焼成は、未焼成かつ未架橋のフッ素樹脂層を形成した基材を、焼成温度に保持した加熱炉内に保持する方法により、バッチ式で行うことができる。フッ素樹脂層を形成した基材をホットプレート上に載置し、所定温度で所定時間加熱する方法により、焼成してもよい。フッ素樹脂層が形成された基材を、該基材側でホットプレート上に載せて、ホットプレートに内蔵した加熱ヒータに通電するか、外部の加熱手段によってホットプレートを加熱する。ホットプレートを用いることにより、フッ素樹脂層の温度を所望の範囲内に正確に設定することができる。
【0051】
焼成を連続的工程で行う場合には、未焼成かつ未架橋のフッ素樹脂層を形成した基材をコンベアベルトに載せて走行させながら、加熱炉(焼成炉)内の加熱ゾーンを通過させる方法を採用することができる。加熱ゾーンとしては、上下に対向して配置した加熱ヒータのセットを、コンベアベルトの走行方向に沿って複数個配置した構造のものを例示することができる。フッ素樹脂層が形成された基材をホットプレート上に載せて、これを更にコンベアベルトに載せて走行させる方法を採用することもできる。
【0052】
工程3では、前記工程2で焼成した未架橋フッ素樹脂層の温度を、該フッ素樹脂の融点(Tm)より50℃低い温度(Tm−50℃)から該融点より50℃高い温度(Tm+50℃)までの範囲内の温度に調整する。この温度は、照射温度と呼ばれる。すなわち、工程3は、焼成後の未架橋フッ素樹脂層を所定の照射温度に設定するための工程である。
【0053】
照射温度は、(Tm−50℃)〜(Tm+50℃)の範囲内であるが、耐摩耗性の観点から、好ましくは(Tm−35℃)〜(Tm+35℃)、より好ましくは(Tm−30℃)〜(Tm+30℃)の範囲内である。照射温度が低すぎると、架橋フッ素樹脂層の耐摩耗性が不十分となりやすい。照射温度が高すぎると、熱劣化が生じるおそれがある上、耐摩耗性が低下傾向を示す。
【0054】
フッ素樹脂がPTFEの場合、照射温度は、277〜377℃、好ましくは292〜362℃、より好ましくは297〜357℃の範囲内である。フッ素樹脂がPTFEとPFAとの混合物である場合も、上記範囲内の照射温度とすることが好ましい。
【0055】
焼成後の未架橋フッ素樹脂層は、既に融点以上の高温で焼成されているため、照射温度を高くすると、熱劣化を生じるおそれがある。このような場合、本発明の製造方法では、前記工程3において、焼成した未架橋フッ素樹脂層の温度を、該フッ素樹脂の融点(Tm)より35℃低い温度(Tm−35℃)から該融点未満までの範囲内の温度に調整することが好ましく、(Tm−30℃)から融点未満の範囲内の温度に調整することがより好ましい。このように、照射温度を低く抑えることにより、未架橋フッ素樹脂層の熱劣化を抑制し、エネルギーコストも低減することができる。
【0056】
照射温度をフッ素樹脂の融点(Tm)以上の温度とする場合も、前記工程3において、焼成した未架橋フッ素樹脂層の温度を、該フッ素樹脂の融点(Tm)から該融点より35℃高い温度(Tm+35℃)までの範囲内の温度に調整することが好ましく、融点から(Tm+30℃)の範囲内の温度に調製することがより好ましく、融点から(Tm+25℃)の範囲内の温度に調整することが特に好ましい。このように、照射温度を低く抑えることにより、未架橋フッ素樹脂層の熱劣化を抑制し、エネルギーコストも抑制しながら、耐摩耗性に優れた架橋フッ素樹脂層を形成することができる。
【0057】
焼成した未架橋フッ素樹脂層を照射温度に調整するには、未架橋フッ素樹脂層が形成された基材(複合材料)を所定の温度に維持した加熱炉内で保持するか、基材側でホットプレート上に載せて、ホットプレートに内蔵した加熱ヒータに通電するか、外部の加熱手段によってホットプレートを加熱する。ホットプレートを用いると、未架橋フッ素樹脂層の温度を所望の範囲内の照射温度に正確に設定することができる。
【0058】
焼成した未架橋フッ素樹脂層を連続的な工程で照射温度に調整するには、焼成した未架橋フッ素樹脂層が形成された基材をコンベアベルトに載せて走行させながら、加熱炉内の加熱ゾーンを通過させる方法を採用することができる。加熱ゾーンとしては、上下に対向して配置した加熱ヒータのセットを、コンベアベルトの走行方向に沿って複数個配置した構造のものを例示することができる。この連続的な加熱工程は、前記の連続的な焼成工程に続く工程として配置することが好ましい。この場合、加熱炉内の加熱ゾーンの前半部分の加熱ヒータの温度を焼成温度に設定し、後半部分の加熱ヒータの温度を照射温度に設定する。未架橋フッ素樹脂層が形成された基材をホットプレート上に載せて、これを更にコンベアベルトに載せて走行させる方法を採用することもできる。
【0059】
焼成した未架橋フッ素樹脂層は、既に高温に加熱された状態にあるため、照射温度に調整する時間を短くすることができる。照射温度に調整する時間は、未架橋フッ素樹脂層の厚みや焼成温度、照射温度、放射線の種類などにもよるが、通常、3〜60秒間、好ましくは5〜40秒間、より好ましくは10〜30秒間の範囲内である。このように、照射温度に調整する時間は、短くすることができ、かつ、短いほど効率的であるが、所望により、その上限を5分間または30分間程度にすることができる。
【0060】
工程4では、温度調整した該未架橋フッ素樹脂層に、酸素濃度が0.1〜1000ppmの雰囲気下、照射線量が1〜1000kGyの範囲内の放射線を照射して、未架橋フッ素樹脂を架橋する。この工程4によって、放射線の照射により架橋されたフッ素樹脂を含有する架橋フッ素樹脂層を形成する。
【0061】
放射線としては、α線(α崩壊を行う放射性核種から放出されるヘリウム−4の原子核の粒子線)、β線(原子核から放出される陰電子及び陽電子)、電子線(ほぼ一定の運動エネルギーを持つ電子ビーム;一般に、熱電子を真空中で加速してつくる)などの粒子線;γ線(原子核、素粒子のエネルギー準位間の遷移や素粒子の対消滅、対生成などによって放出・吸収される波長の短い電磁波)などの電離放射線を用いることができる。
【0062】
これらの放射線の中でも、架橋効率や操作性の観点から、電子線及びγ線が好ましく、電子線がより好ましい。特に電子線は、電子線照射装置が入手しやすいこと、照射操作が簡単であること、連続的な照射工程を採用することができることなどの利点を有している。
【0063】
焼成後の未架橋フッ素樹脂層の温度を照射温度にまで調整した後、直ちに放射線を照射することが、熱劣化を避け、エネルギー効率を高める上で好ましい。放射線の照射線量は、1〜1000kGyの範囲内である。照射線量は、耐摩耗性の観点から、好ましくは50〜1000kGy、より好ましくは65〜1000kGy、特に好ましくは70〜1000kGyの範囲内である。未架橋フッ素樹脂層の厚みが比較的薄い場合には、照射線量の上限値を、好ましくは250kGy、より好ましくは200kGyにまで下げることができる。
【0064】
照射線量は、引張破断伸びが大きく、可撓性に優れた架橋フッ素樹脂層を得る観点からは、好ましくは65〜250kGy、より好ましくは70〜200kGyの範囲内の低水準とすることが望ましい。照射線量は、顕著に優れた耐摩耗性を有する架橋フッ素樹脂層を得る観点からは、その下限値を、好ましくは80kGy、より好ましくは90kGy、特に好ましくは100kGyとすることが望ましい。
【0065】
照射線量が少なすぎると、架橋密度を十分に高くすることができないため、架橋フッ素樹脂層の基材に対する密着性や耐摩耗性を十分に向上させることが困難となる。照射線量が多すぎると、架橋フッ素樹脂層の基材に対する密着性や耐摩耗性は向上するものの、架橋フッ素樹脂層の伸びが低下して、クラックが発生するおそれがある。
【0066】
放射線の照射領域の雰囲気を、酸素濃度が0.1〜1000ppmの雰囲気とする。従来、フッ素樹脂の照射架橋は、酸素不存在下または無酸素雰囲気下に行うことが必要であると考えられていた。本発明者らの研究結果によれば、酸素濃度を一定の範囲内に調整することが、むしろ架橋フッ素樹脂層の耐摩耗性の向上に寄与することが判明した。放射線の照射領域の酸素濃度は、耐摩耗性の観点から、好ましくは1〜100ppm、より好ましくは2〜50ppm、特に好ましくは3〜20ppmの範囲内である。
【0067】
放射線の照射領域の酸素濃度を上記範囲内に保持するには、例えば、照射領域を密閉して真空引きするか、照射領域に窒素ガスなどの不活性ガスを流すか、あるいは照射領域の空気を真空引きして除いた後、不活性ガスを流す方法を採用することができる。不活性ガスとしては、酸素濃度が低い窒素ガスを用いることが効率的で、コスト面でも有利である。
【0068】
より具体的に、放射線の照射領域の酸素濃度を上記範囲内に保持する方法としては、上面にチタン箔からなる照射窓を設けたチャンバーを用いて、該チャンバー内を真空引きして空気を除去する方法;該チャンバー内を真空引きした後に、不活性ガスを流す方法;該チャンバー内に不活性ガスを流す方法;などを挙げることができる。不活性ガスを流しながら、チャンバー内に被照射物(焼成後、照射温度に加熱した未架橋フッ素樹脂層を有する基材)を連続的に搬送して、電子線を照射すれば、連続的工程で照射架橋を行うことができる。被照射物を連続的に搬送するには、コンベアベルトを用いることができる。被照射物をホットプレート上に載置して、照射温度に精密に制御しながら、コンベアベルトで順次搬送する方法を採用することもできる。
【0069】
連続的な工程で照射を行う他の方法としては、連続焼成炉を用いる方法を挙げることができる。連続焼成炉としては、上下に対向して配置した加熱ヒータのセットを、コンベアベルトの走行方向に沿って複数個配置した構造のものを例示することができる。加熱ゾーンの前半部分の加熱ヒータ温度を焼成温度に設定し、後半部分の加熱ヒータ温度を照射温度に設定する。加熱ゾーンの終端に照射装置を配置する。照射装置の後には、冷却部を設ける。
【0070】
加熱ゾーン、照射領域、及び冷却部の全体をハウジングまたはチャンバーで囲み、その内部に不活性ガスを流しながら、焼成工程と照射工程を連続的に実施する。照射領域では、チタン箔からなる照射窓を配置して、外部の空気が流れ込まないようにする。
【0071】
照射領域を密閉しても、外部から微量の空気が混入する。ガスボンベから酸素濃度が低い窒素ガスなどの不活性ガスを流し続け、かつ、外部環境からの微量の空気の混入を考慮して、照射領域の酸素濃度を精密に制御することが望ましい。そのため、照射領域の酸素濃度は、使用する不活性ガス中の酸素濃度と照射領域での酸素濃度の実測値に基づいて制御することが好ましい。照射領域の酸素濃度は、架橋フッ素樹脂層の耐摩耗性と必ずしも比例関係にはない。照射領域の酸素濃度が高すぎても低すぎても、耐摩耗性が低下傾向を示す。照射温度をフッ素樹脂の融点未満の温度に制御すると、架橋フッ素樹脂層の耐摩耗性は、照射領域の酸素濃度に対する依存性を低くすることができる。
【0072】
基材が、フィルムやシート、板などの平坦な形状以外の立体的な形状を持つものである場合には、例えば、基材を回転させながら、電子線などの放射線を未架橋フッ素樹脂層全体に均一に照射することが望ましい。照射時間は、走査型電子線照射装置を用いると、実質的に瞬時である。
【0073】
本発明の非回転加圧部材は、架橋フッ素樹脂層の耐摩耗性が顕著に優れる上、架橋フッ素樹脂層の耐クラック性、基材と架橋フッ素樹脂層との間の密着性にも優れている。そのため、架橋フッ素樹脂層にクラックが発生したり、架橋フッ素樹脂層が剥離したりすることがない。
【0074】
基材と架橋フッ素樹脂層との間の密着性は、碁盤目試験〔JIS K 5400(1998年版)〕によって評価することができる。碁盤目試験は、フッ素樹脂層に1mm角の大きさの貫通傷を付けて、100個の碁盤目を作製し、その上に粘着テープを貼り付けて、剥がす操作を行う試験である。本発明の架橋フッ素樹脂複合材料は、碁盤目試験を300回繰り返しても、100個の碁盤目が剥離することがない。
【0075】
架橋フッ素樹脂層の耐摩耗性は、回転摩耗試験により評価することができる。回転摩耗試験は、複合材料の基材を固定し、架橋フッ素樹脂層の上に3M社製のスコッチブライト(登録商標)#3000(直径75mmφ)と2kgfの重りをこの順で載せ、スコッチブライト#3000と重りとからなる回転体を200rpmで回転させて、積算回転数(回)と摩耗による膜厚減少量(摩耗減量)との関係を測定する試験法である。スコッチブライトとは、ナイロン不織布に研磨砥粒(酸化アルミニウムまたはシリコンカーバイト)を均一に塗布し接着させた3次元構造を持つ研磨材である。
【0076】
本発明の架橋フッ素樹脂層は、回転摩耗試験での積算回転数を10万回とした場合でも、架橋フッ素樹脂層の膜厚減少量(摩耗減量)が、10μm以下、好ましくは8.0μm以下、より好ましくは5.0μm以下、特に好ましくは4.0μm以下であり、優れた耐摩耗性を示す。照射架橋条件を制御することにより、架橋フッ素樹脂層の摩耗減量を3.0μm以下、さらには2.0μmまたは1.0μm以下にまで低下させることができる。
【0077】
本発明の架橋フッ素樹脂層は、基材との間の密着性に優れる上、照射条件を選択することによって、架橋フッ素樹脂層が剥離したり、クラックが発生したりするのを防ぎつつ、耐摩耗性を顕著に高めることができる。
【0078】
照射条件としては、前記工程3において、焼成した未架橋フッ素樹脂層の温度を、該フッ素樹脂の融点(Tm)より35℃低い温度(Tm−35℃)から該融点未満までの範囲内の温度に調整し、次いで、前記工程4において、温度調整した該未架橋フッ素樹脂層に、酸素濃度が1〜100ppmの範囲内の雰囲気下、照射線量が65〜1000kGyの範囲内の放射線を照射して、未架橋フッ素樹脂を架橋する方法を挙げることができる。
【0079】
前記の照射条件において、照射温度は、(Tm−30℃)から融点未満までの範囲内の温度とすることがより好ましい。酸素濃度は、より好ましくは2〜50ppm、特に好ましくは3〜20ppmの範囲内である。照射線量の下限値は、好ましくは70kGy、特に好ましくは100kGyである。
【0080】
他の好ましい照射条件としては、該工程3において、焼成した未架橋フッ素樹脂層の温度を、該フッ素樹脂の融点(Tm)から該融点より35℃高い温度(Tm+35℃)までの範囲内の温度に調整し、次いで、該工程4において、温度調整した該未架橋フッ素樹脂層に、酸素濃度が1〜100ppmの範囲内の雰囲気下、照射線量が65〜1000kGyの範囲内の放射線を照射して、未架橋フッ素樹脂を架橋する方法を挙げることができる。
【0081】
前記の照射条件において、照射温度は、より好ましくは融点から(Tm+30℃)、特に好ましくは融点から(Tm+25℃)の範囲内の温度とすることが望ましい。酸素濃度は、より好ましくは2〜50ppm、特に好ましくは3〜20ppmの範囲内である。照射線量の下限値は、好ましくは70kGy、特に好ましくは100kGyである。
【0082】
本発明の非回転加圧部材の具体例としては、アルミニウム合金やステンレスなどの金属板上に架橋フッ素樹脂層を形成したプレート状の非回転加圧部材(非回転加圧プレート);ポリイミドフィルム等の合成樹脂フィルム上に架橋フッ素樹脂層を形成した非回転加圧部材;ガラス繊維シート上に架橋フッ素樹脂層を形成した非回転加圧部材;弾性部材(例えば、パッド状弾性部材)上に架橋フッ素樹脂層を形成した非回転加圧部材;などが挙げられる。
【0083】
本発明の非回転加圧部材が配置される定着ユニットとしては、例えば、以下の構造を有するものを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0084】
1)加熱手段を内蔵する定着ローラ、及び該定着ローラに対向・圧接してニップ部を形成する非回転加圧部材を備え、回転する該定着ローラと固定した該非回転加圧部材との間の該ニップ部に、未定着トナー像を形成した記録媒体を搬送し、加熱・加圧して、該未定着トナー像を該記録媒体上に定着させる定着ユニット。
【0085】
上記定着ユニットでは、定着ローラを駆動させることにより、回転する定着ローラと固定した非回転加圧部材との間のニップ部に、未定着トナー像を形成した記録媒体を搬送し、加熱・加圧する。定着ローラは、通常、アルミニウム、鉄、ステンレス(SUS)などからなる中空円筒状芯金の表面に、直接または必要に応じてシリコーンゴムなどの耐熱性ゴム層を介して、フッ素樹脂層を形成したものである。非回転加圧部材としては、プレート基材上に架橋フッ素樹脂層を設けた非回転加圧プレートが代表的なものであるが、架橋フッ素樹脂層を形成したフィルム(シートを含む)を支持体上に固定した構造のものなど、他の構造を有するものであってもよい。
【0086】
2)固定された加熱体、内側に該加熱体が配置された定着ベルト、該定着ベルトに対向・圧接する駆動ローラ、及び該定着ベルトに対向・圧接してニップ部を形成する非回転加圧部材を備え、該駆動ローラによって回動する該定着ベルトと固定した該非回転加圧部材との間の該ニップ部に、未定着トナー像を形成した記録媒体を搬送し、加熱・加圧して、該未定着トナー像を該記録媒体上に定着させる定着ユニット。
【0087】
上記定着ユニットでは、駆動ローラにより、定着ベルトを回動させる。定着ベルトは、ポリイミドフィルムや薄肉SUSスリーブなどのフレキシブルチューブの表層に、直接またはシリコーンゴムなどの耐熱性ゴム層を介して、フッ素樹脂層を形成したものである。加熱体は、定着ベルトの内側に配置されており、定着ベルトの内周面に摺動するものではない。加熱体として、電熱ヒータであっても、ヒーターランプと反射板との組み合わせであってもよい。
【0088】
3)固定された加熱体、内周面で該加熱体と摺動する定着ベルト、該定着ベルトを介して該加熱体の一部に対向・圧接しニップ部を形成する駆動ローラ、及び該定着ベルトを介して該加熱体の一部に対向・圧接しニップ部を形成する非回転加圧部材を備え、該駆動ローラによって該定着ベルトを回動させるとともに、該2つのニップ部に、未定着トナー像を形成した記録媒体を搬送し、加熱・加圧して、該未定着トナー像を該記録媒体上に定着させる定着ユニット。
【0089】
上記定着ユニットには、図1に示す構造のものが含まれる。小型の駆動ローラによって定着ベルトを回動させる。ニップ部は、加熱体と非回転加圧部材(例えば、非回転加圧プレート)との間、及び加熱体と駆動ローラとの間の2箇所にある。
【0090】
4)定着ローラ、該定着ローラに対向・圧接してニップ部を形成する非回転加圧部材、及び該非回転加圧部材と一体化した加熱手段を備え、回転する該定着ローラと固定した該非回転加圧部材との間の該ニップ部に、未定着トナー像を形成した記録媒体を搬送し加熱・加圧して、該未定着トナー像を該記録媒体上に定着させる定着ユニット。
【0091】
上記定着ユニットにおいて、定着ローラは、加熱手段を内蔵したものであっても、内臓していないものであってもよい。加熱手段には、基材の表面に架橋フッ素樹脂層を設けたプレートまたはフィルム(シートを含む)を固定する。加熱手段の形状によっては、定着ローラに対向・圧接する箇所に、直接、架橋フッ素樹脂層を形成したものであってもよい。この定着ユニットでは、転写紙などの記録媒体の裏面から加熱する。
【実施例】
【0092】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明についてより具体的に説明する。各種物性及び特性の測定法と評価法は、下記のとおりである。
【0093】
(1)クラック
放射線の照射によって架橋した架橋フッ素樹脂層を目視で観察し、クラックの発生の有無を評価した。未架橋のフッ素樹脂層についても同様に評価した。
【0094】
(2)碁盤目試験
日本工業規格のJIS K 5400(1998年版)の規定に従って、碁盤目試験を行った。基材上の架橋フッ素樹脂層に1mm角の大きさの貫通傷を付けて100個の碁盤目を作製し、その上に粘着テープ〔ニチバン(株)製CT405AP−18〕を貼り付け、剥がす操作を行った。各試料毎に粘着テープの貼付と剥離の操作を300回行い、300回目の碁盤目の残存枚数(枚/100)を調べた。
【0095】
(3)回転摩耗試験
図3に示す方法により、回転摩耗試験を行った。基材31上に架橋フッ素樹脂層32を形成した複合材料を、該基材31側で固定部材33の上にビス止めした。固定部材33と基材31と架橋フッ素樹脂層32とで固定部37を構成する。架橋フッ素樹脂層32の上に、直径75mmφ、厚み8mmで、重さ1.8gfの断面円形の研磨材35〔3M社製スコッチブライト#3000(登録商標)〕と2kgの重り34をこの順に載せる。研磨材35と重り34とで回転部36を構成する。回転部36を200rpm(毎分回転数)で回転させる。積算回転数が各所定値となった時点で架橋フッ素樹脂層の厚みの減少量を測定した。架橋フッ素樹脂層の厚みの減少量(摩耗減量)は、0.1μmの厚みの変化を検知し得る渦電流式デジタル式膜厚計〔(株)サンコウ電子研究所製EDY−II〕を用いて測定した。未架橋フッ素樹脂層の場合も同様に評価した。
【0096】
[実施例1]
基材として、アルミニウム合金(JIS−3003;Al−Mn系合金)から形成された直径360mm、厚み1.7mmの円板を用いた。アルミニウム円板を陽極とし、塩化アンモニウム水溶液中、25クーロン/cmの電気量で電気化学的エッチングを行い、アルミニウム円板の表面に微細な凹凸を形成させた。
【0097】
表面処理したアルミニウム円板上に、PTFEディスパージョン(ダイキン社製D−10FE)をスピンコートし、乾燥して、厚み11μmの未焼成かつ未架橋のPTFE層を形成した。この未架橋PTFE層を有する複合材料を、410℃に保持した加熱炉内で20分間保持して焼成した。
【0098】
焼成した未架橋PTFE層を有する基材をホットプレート上に載置し、300℃の温度に調整した。このホットプレートをコンベアベルトにより、NHVコーポレーション社製コンベア式電子線照射装置の照射領域に搬送した。電子線照射装置のチャンバー内は、酸素濃度0.1ppmの窒素ガスを流して、照射領域の酸素濃度を3.4ppmに維持させた。加速電圧1.16MeVの電子線を、照射線量が100kGyとなるように、未架橋PTFE層上から照射してPTFEを架橋した。このようにして得られた複合材料の架橋PTFE層の厚みは、11μmであった。結果を表1に示す。
【0099】
[実施例2〜8、及び比較例1〜3]
PTFE層の厚みと照射温度を表1及び2に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様にして、基材上に架橋フッ素樹脂層を形成した複合材料を作製した。結果を表1及び2に示す。
【0100】
【表1】

【0101】

【表2】

【0102】
(考察)
表1及び2の結果から以下のことが分かる。
【0103】
(1)フッ素樹脂層を照射架橋しなかった場合(比較例1)には、積算回転数が25,000回での摩耗減量が10μmを超えており、耐摩耗性が悪く、非回転加圧部材として耐久性が不足する複合材料である。
【0104】
(2)照射温度が低すぎる場合(比較例2及び3)は、積算回転数が50,000回または75,000回の時点で、摩耗量が10μmを超えており、非回転加圧部材としての耐久性と耐摩耗性が不十分な複合材料である。
【0105】
(3)実施例1〜5に示されるように、照射温度がPTFEの融点(327℃)未満であっても、該フッ素樹脂の融点(Tm)より50℃低い温度(Tm−50℃)から該融点未満まで、好ましくは該フッ素樹脂の融点(Tm)より35℃低い温度(Tm−35℃)から該融点未満までの範囲内の温度に調整し、次いで、酸素濃度を好ましくは1〜100ppm、より好ましくは2〜50ppm、特に好ましくは3〜20ppmの範囲内に制御した雰囲気下に、照射架橋することにより、積算回転数を100,000回としても、摩耗減量を3.0μm以下、さらには2.0μmまたは1.0μm以下にまで低下させることができる。
【0106】
(4)実施例5〜8に示されるように、照射温度がPTFEの融点(327℃)以上の温度であっても、該融点より50℃高い温度(Tm+50℃)までの範囲内の温度に調整することにより、積算回転数を100,000回としても、摩耗減量が10μm以下の複合材料を得ることができる。摩耗減量を好ましくは8.0μm以下、より好ましくは5.0μm以下、特に好ましくは4.0μm以下とするには、照射温度を、より好ましくは融点から(Tm+30℃)、特に好ましくは融点から(Tm+25℃)の範囲内の温度とすることが望ましいことが分かる。この照射温度でも、酸素濃度を好ましくは1〜100ppm、より好ましくは2〜50ppm、特に好ましくは3〜20ppmの範囲内に制御した雰囲気下に、照射架橋することが望ましい。
【0107】
[実施例9]
基材として、アルミニウム合金(JIS−3003;Al−Mn系合金)から形成された直径360mm、厚み1.7mmの円板を用いた。アルミニウム円板を陽極とし、塩化アンモニウム水溶液中、25クーロン/cmの電気量で電気化学的エッチングを行い、アルミニウム円板の表面に微細な凹凸を形成させた。
【0108】
表面処理したアルミニウム円板上に、PTFEディスパージョン(ダイキン社製D−10FE)をスピンコートし、乾燥して、厚み11μmの未焼成かつ未架橋のPTFE層を形成した。この未架橋PTFE層を有する複合材料を、410℃に保持した加熱炉内で20分間保持して焼成した。
【0109】
焼成した未架橋PTFE層を有する基材をホットプレート上に載置し、300℃の温度に調整した。このホットプレートをコンベアベルトにより、NHVコーポレーション社製コンベア式電子線照射装置の照射領域に搬送した。電子線照射装置のチャンバー内は、酸素濃度0.1ppmの窒素ガスを流して、照射領域の酸素濃度を3.4ppmに維持させた。加速電圧1.16MeVの電子線を、照射線量が60kGyとなるように、未架橋PTFE層上から照射してPTFEを架橋した。架橋PTFE層の厚みは、12μmであった。結果を表3に示す。
【0110】
[実施例10〜16]
照射線量を表3に示すように変更したこと以外は、実施例9と同様にして、基材上に架橋PTFE層を形成した複合材料を作製した。結果を表3に示す。
【0111】

【表3】

【0112】
(考察)
表3の結果から、照射線量を1000kGyまで増大させても、耐摩耗性が顕著に優れた架橋フッ素樹脂層を形成できることがわかる。照射線量は、引張破断伸びが大きく、可撓性に優れた架橋フッ素樹脂層を得る観点からは、好ましくは65〜250kGy、より好ましくは70〜200kGyの範囲内の低水準とすることが望ましい。照射線量は、顕著に優れた耐摩耗性を有する架橋フッ素樹脂層を得る観点からは、その下限値を、好ましくは80kGy、より好ましくは90kGy、特に好ましくは100kGyとすることが望ましい。
【産業上の利用可能性】
【0113】
本発明の架橋フッ素樹脂層を有する非回転加圧部材は、電子写真方式の画像形成装置の定着ユニットに配置して利用することができる。
【符号の説明】
【0114】
1 小型の回転加圧部材
2 保持部材
3 非回転加圧部材
4 フィルム
5 加熱体
6 加熱体保持部材
7 記録媒体
8 未定着トナー像
21 パッド状押圧部材(基材)
22 離型層
31 基材
32 架橋フッ素樹脂層
33 固定部材
34 重り
35 研磨材
36 回転部
37 固定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子写真方式の画像形成装置の定着ユニットに配置される非回転加圧部材であって、
該非回転加圧部材は、基材上に架橋フッ素樹脂層が形成された架橋フッ素樹脂複合材料であり、かつ、
該架橋フッ素樹脂層は、本明細書に開示されている回転摩耗試験法に従って、架橋フッ素樹脂層上に、ナイロン不織布に研磨砥粒を均一に塗布し接着させた3次元構造を持ち、直径75mmφの断面円形の研磨材と2kgfの重りをこの順で載せて、該研磨材と重りの両者からなる回転体を200rpmで回転させたとき、10万回の積算回転数での摩耗減量が10μm以下の架橋フッ素樹脂層である
ことを特徴とする非回転加圧部材。
【請求項2】
該架橋フッ素樹脂層が、放射線の照射により架橋された架橋フッ素樹脂層である請求項1記載の非回転加圧部材。
【請求項3】
加熱手段を内蔵する定着ローラ、及び該定着ローラに対向・圧接してニップ部を形成する非回転加圧部材を備え、回転する該定着ローラと固定した該非回転加圧部材との間の該ニップ部に、未定着トナー像を形成した記録媒体を搬送し、加熱・加圧して、該未定着トナー像を該記録媒体上に定着させる定着ユニットにおいて用いられる非回転加圧部材である請求項1または2記載の非回転加圧部材。
【請求項4】
固定された加熱体、内側に該加熱体が配置された定着ベルト、該定着ベルトに対向・圧接する駆動ローラ、及び該定着ベルトに対向・圧接してニップ部を形成する非回転加圧部材を備え、該駆動ローラによって回動する該定着ベルトと固定した該非回転加圧部材との間の該ニップ部に、未定着トナー像を形成した記録媒体を搬送し、加熱・加圧して、該未定着トナー像を該記録媒体上に定着させる定着ユニットにおいて用いられる非回転加圧部材である請求項1または2記載の非回転加圧部材。
【請求項5】
固定された加熱体、内周面で該加熱体と摺動する定着ベルト、該定着ベルトを介して該加熱体の一部に対向・圧接しニップ部を形成する駆動ローラ、及び該定着ベルトを介して該加熱体の一部に対向・圧接しニップ部を形成する非回転加圧部材を備え、該駆動ローラによって該定着ベルトを回動させるとともに、該2つのニップ部に、未定着トナー像を形成した記録媒体を搬送し、加熱・加圧して、該未定着トナー像を該記録媒体上に定着させる定着ユニットにおいて用いられる非回転加圧部材である請求項1または2記載の非回転加圧部材。
【請求項6】
定着ローラ、該定着ローラに対向・圧接してニップ部を形成する非回転加圧部材、及び該非回転加圧部材と一体化した加熱手段を備え、回転する該定着ローラと固定した該非回転加圧部材との間の該ニップ部に、未定着トナー像を形成した記録媒体を搬送し加熱・加圧して、該未定着トナー像を該記録媒体上に定着させる定着ユニットにおいて用いられる非回転加圧部材である請求項1または2記載の非回転加圧部材。
【請求項7】
該基材が、金属板、合成樹脂板、合成樹脂フィルム、ガラス繊維シート、または弾性部材である請求項1乃至6のいずれか1項に記載の非回転加圧部材。
【請求項8】
電子写真方式の画像形成装置の定着ユニットに配置される非回転加圧部材の製造方法であって、
(1)基材上に、未焼成かつ未架橋のフッ素樹脂層を形成する工程1;
(2)該フッ素樹脂層を、該フッ素樹脂の融点(Tm)から該融点より150℃高い温度(Tm+150℃)までの範囲内の温度に加熱して焼成する工程2;
(3)焼成した未架橋フッ素樹脂層の温度を、該フッ素樹脂の融点(Tm)より50℃低い温度(Tm−50℃)から該融点より50℃高い温度(Tm+50℃)までの範囲内の温度に調整する工程3;及び
(4)温度調整した該未架橋フッ素樹脂層に、酸素濃度が0.1〜1000ppmの雰囲気下、照射線量が1〜1000kGyの範囲内の放射線を照射して、未架橋フッ素樹脂を架橋する工程4;
により、架橋フッ素樹脂層を形成する工程を含む非回転加圧部材の製造方法。
【請求項9】
該工程3において、焼成した未架橋フッ素樹脂層の温度を、該フッ素樹脂の融点(Tm)より35℃低い温度(Tm−35℃)から該融点未満までの範囲内の温度に調整し、次いで、該工程4において、温度調整した該未架橋フッ素樹脂層に、酸素濃度が1〜100ppmの範囲内の雰囲気下、照射線量が65〜1000kGyの範囲内の放射線を照射して、未架橋フッ素樹脂を架橋する請求項8記載の製造方法。
【請求項10】
該工程3において、焼成した未架橋フッ素樹脂層の温度を、該フッ素樹脂の融点(Tm)から該融点より35℃高い温度(Tm+35℃)までの範囲内の温度に調整し、次いで、該工程4において、温度調整した該未架橋フッ素樹脂層に、酸素濃度が1〜100ppmの範囲内の雰囲気下、照射線量が65〜1000kGyの範囲内の放射線を照射して、未架橋フッ素樹脂を架橋する請求項8記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−181621(P2010−181621A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−24922(P2009−24922)
【出願日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【出願人】(599109906)住友電工ファインポリマー株式会社 (203)
【Fターム(参考)】