説明

架橋ポリエステル樹脂の製造方法

【課題】 取り出し当初の樹脂と取り出し後半の樹脂で軟化温度のバラツキが小さい、均一なポリエステル樹脂を提供する。
【解決手段】 3価以上のカルボン酸または3価以上のアルコールを含む、多価カルボン酸と多価アルコールをエステル化反応した後、(1)式を満たす条件で縮重合する、ポリエステル樹脂の製造方法。
−0.0027T+0.6849≦P≦−0.0027T+0.6909・・・(1)
(T:縮重合温度(℃)、P:全仕込み量に対する縮重合触媒の質量%)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真法、静電記録法、静電印刷法等に用いられるトナー用結着樹脂に適したポリエステル樹脂の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル樹脂は、低温定着性に優れ、トナー用結着樹脂として有用である。また、トナーの高画質化に対する要求の高まりに伴いトナー品質のバラツキが重要な因子となり、結着樹脂に用いられるポリエステル樹脂にも均一な物性が要求される。
【0003】
しかしながら、ポリエステル樹脂は縮重合反応により生成するため、従来の大ロットでの製造方法においては、所定の重合度に達した後、得られた樹脂を順次取り出す間も、反応装置中では重合反応が進行するため、取り出し当初の樹脂と取り出し後半の樹脂では重合度が異なり軟化温度に相違が生じ、軟化温度のバラツキが生じる。
【0004】
このため特許文献1では、反応系の圧力を調整することで縮重合反応速度を制御することにより、所望の重合度に達した時点で反応を停止させるポリエステルの製造法が記載されている。
【特許文献1】特開昭63−280729号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしこの方法は、取り出し当初の樹脂と取り出し後半の樹脂の軟化温度のバラツキを防ぐには十分ではない。本発明はこれらの問題点を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の要旨は、3価以上のカルボン酸または3価以上のアルコールを含む、多価カルボン酸と多価アルコールをエステル化反応した後、(1)式を満たす条件で縮重合する、ポリエステル樹脂の製造方法にある。
【0007】
−0.0027T+0.6849≦P≦−0.0027T+0.6909・・・(1)
(T:縮重合温度(℃)、P:全仕込み量に対する縮重合触媒の質量%)
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、取り出し当初の樹脂と取り出し後半の樹脂で軟化温度のバラツキの小さい、均一なポリエステル樹脂を得ることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明のポリエステル樹脂の製造方法は、3価以上のカルボン酸または3価以上のアルコールを含む、多価カルボン酸と多価アルコールをエステル化反応した後に、(1)式を満たす条件で縮重合する。
【0010】
−0.0027T+0.6849≦P≦−0.0027T+0.6909・・・(1)
(T:縮重合温度(℃)、P:全仕込み量に対する縮重合触媒の質量%)
なお、全仕込み量とは、エステル化反応開始時に仕込む多価カルボン酸、多価アルコール、縮重合触媒および添加剤の量の合計をいう。
【0011】
3価以上のカルボン酸または3価以上のアルコールを含む多価カルボン酸と多価アルコールのエステル化反応は、公知の方法で行えばよく、例えば、多価カルボン酸と多価アルコール、縮重合触媒、および添加剤を反応容器に仕込み、加圧下、反応温度を240℃以上になるように加熱し、圧力を徐々に常圧に戻しながら、水留出がなくなるまで反応を行えばよい。
【0012】
次いで、エステル化反応終了後、反応系を減圧し、所定の縮重合温度で反応系からジオール成分を留出させながら縮重合反応を行う。反応系の粘度上昇とともに真空度を上昇させ、攪拌翼のトルクが所望の軟化温度を示す値となるまで縮重合反応を行い、所定のトルクを示した時点で反応系を常圧に戻し、縮重合反応を終了する。
【0013】
本発明では、縮重合反応を行う際に(1)式を満たすことが必要である。
【0014】
−0.0027T+0.6849≦P≦−0.0027T+0.6909・・・(1)
所定の縮重合温度に対し、全仕込み量に対する縮重合触媒の質量%(P)が適正値よりも少ない場合、縮重合時間が遅延し高温に保持される時間が長くなり、ポリエステル樹脂の取り出し中にも、反応系内の潜熱によりポリエステル樹脂が熱分解を起こし、その結果取り出し時の軟化温度のバラツキが起こる。
【0015】
また、Pが適正値よりも多い場合、縮重合触媒自身がポリエステルの分解に関与し、ポリエステル樹脂の取り出し中にも、ポリエステル樹脂が分解し、その結果取り出し時の軟化温度のバラツキが起こる。
【0016】
なお、縮重合温度(T)は210℃以上、240℃以下が好ましい。縮重合温度が210℃未満では反応速度が著しく減少し、工業的に適正な時間内において所望の樹脂が得られなくなりやすく、240℃を超えると、ポリエステル樹脂の熱分解が起こり、取り出し時の軟化温度のバラツキが発生しやすい。
【0017】
さらに本発明では、縮重合反応終了後、得られたポリエステル樹脂の温度を2時間以内に40℃以下まで冷却する冷却工程を有することが好ましい。
【0018】
40℃以下まで冷却する冷却時間が2時間を越えるとポリエステル樹脂が熱分解を引き起こし、取り出し時の軟化温度のバラツキが起こりやすくなる。
【0019】
縮重合反応終了後、ポリエステルを冷却するための冷却装置としては、スチールベルトクーラー(日本ベルティング(株)製、サンドビック(株)製)、ドラムクーラー(菱化テクノ(株)製、三井三池化工機(株)製)等が挙げられるが、熱交換容量の観点から、スチールベルトクーラーが好ましい。なお、冷却装置による冷却効率をより高める観点からは、圧延しながら冷却する方法が好ましい。
【0020】
また本発明では、3価以上のカルボン酸、または3価以上のアルコールを含むことによりポリエステル分子内または分子間の架橋構造が形成され、ポリエステル樹脂のタフネスを付与する効果があり、トナー用結着樹脂に適したポリエステル樹脂が得られる。
【0021】
3価以上のカルボン酸としては、1,2,4−ベンゼントリカルボン酸、1,2,5−ベンゼントリカルボン酸、1.2,4−シクロヘキサンジカルボン酸、2,5,7一ナフタレントリカルボン酸,1,2,4−ナフタレントリカルボン酸、1,2,7,8−オクタンテトフカルボン酸及びこれらの酸無水物等が挙げられ、特に1,2,4−ベンゼントリカルボン酸及びその酸無水物(無水トリメリツト酸)が好ましい。
【0022】
また、3価以上のアルコールとしてグリセリン、ペンタエリスリト−ル、トリメチロ−ルプロパン、ソルビド−ル等が挙げられ、特にトリメチロ−ルプロパンが好ましい。
【0023】
また、多価カルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸又はそれらの低級アルキルエステルなどが挙げられる。テレフタル酸、イソフタル酸の低級アルキルエステルの例としては、テレフタル酸ジメチル、イソフタル酸ジメチル、テレフタル酸ジエチル、イソフタル酸ジエチル、テレフタル酸ジブチル、イソフタル酸ジブチル等を挙げることができるが、ハンドリング性及びコストの点でテレフタル酸やイソフタル酸が好ましい。これらのジカルボン酸またはその低級アルキルエステルは、それぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて用いられる。
【0024】
他に有用なジカルボン酸の例としては、フタル酸、セバシン酸、イソデシルコハク酸、ドデセニルコハク酸、マレイン酸、フマル酸、アジピン酸、又はそれらのモノメチル、モノエチル、ジメチル、ジエチルエステル又はそれらの酸無水物が挙げられる。これらのジカルボン酸は、トナーの定着性や耐ブロッキング性といった基本特性に関係する。
【0025】
また、多価アルコールとしては、例えば、ポリオキシエチレン−(2.0)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシプロピレン−(2.0)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシプロピレン(2.2)−ポリオキシエチレン−(2.0)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシプロピレン(6)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシプロピレン(2.2)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシプロピレン−(2.4)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシプロピレン(3.3)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン等の芳香族ジオール成分が挙げられ、これらは単独でまたは混合で使用することができる。
芳香族ジオール成分は、ガラス転移温度を上げる効果があるため、得られるトナーの耐ブロッキング性が良好となる。特に、ポリオキシプロピレンもしくはポリオキシエチレン単位の数nが2.1≦n≦8であるポリオキシプロピレン(n)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン及び2.0≦n≦3.0であるポリオキシエチレン(n)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンが好ましい。
【0026】
他に有用な多価アルコールとしては、エチレングリコール、ブタンジオール、ポリエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、水添ビスフェノールAなどを挙げることができ、これらは単独でまたは混合で使用することができる。
【0027】
さらに本発明では、トナー用結着樹脂として用いる際の、ワックスの分散性を向上するための添加剤としてポリアルキレンアルコールやポリアルキレンカルボン酸化合物を含んでいても良い。
【0028】
ポリエステル樹脂の重縮合触媒については、特に限定はないが、例えば、チタンテトラブトキシド、ジブチルスズオキシド、酢酸スズ、酢酸亜鉛、2硫化スズ、3酸化アンチモン、2酸化ゲルマンニウム等を用いることができる。
【実施例】
【0029】
以下に本発明の実施例を示す。また、本実施例で示される樹脂の評価方法は以下の通りである。
【0030】
(ポリエステル樹脂の軟化温度のバラツキ)
樹脂取り出し中における軟化温度の最高値と最低値の差ΔT(℃)で評価した。樹脂の取り出しの開始から終了まで、10分毎に樹脂をサンプリングし、軟化温度を測定する。得られた軟化温度の値について、最高値と最低値の差をΔT(℃)とする。ΔTが10以下であれば軟化温度のバラツキに問題はない。
【0031】
なお、軟化温度は以下の方法で測定した。
【0032】
島津製作所(株)製フローテスターCFT−500を用い、1mmφ×10mmのノズルにより、荷重294N(30Kgf)、昇温速度3℃/分の等速昇温下で測定した時、サンプル1.0g中の1/2が流出した温度を軟化温度とした。
【0033】
(実施例1〜4)
コンデンサー、圧力調節設備、及び攪拌機を備え付けた6m3 のバッチ式反応装置に、表1に示す組成の多価カルボン酸と多価アルコールと、重縮合触媒として3酸化アンチモンを投入した。
【0034】
次いで、反応装置中の圧力を450kPa、攪拌翼の回転数を130rpmに保ち、昇温を開始し、反応系内の温度が265℃になるように加熱し、この温度を保持した。反応系から水が留出し、エステル化反応が開始してから150分後、15分間かけて圧力を0kPaとし、更に10分間保持した後、水の留出がなくなった時点で、エステル化反応を終了した。
【0035】
次いで、表1に示す縮重合温度に保ち、反応容器内を約30分かけて減圧し、真空度を15.0mmHgとし、反応系からジオール成分を留出させながら縮重合反応を行った。
【0036】
反応とともに反応系の粘度が上昇し、粘度上昇とともに真空度を上昇させ、攪拌翼のトルクが、樹脂の軟化温度が142℃となる値を示すまで縮重合反応を実施した。
【0037】
攪拌翼のトルクが所定のトルクを示した時点で反応系を常圧に戻し、加熱を停止し縮重合反応を終了した。
【0038】
ついで、取り出しバルブを開放してスチールベルトクーラー(日本ベルティング(株)製)に溶融物を流し、窒素により加圧して表1に示す取り出し時間にて、36℃に冷却したポリエステル樹脂を取り出した。
【0039】
また、樹脂の取り出しの開始から終了まで、10分毎に樹脂をサンプリングし、軟化温度の最高値と最低値の差ΔT(℃)を求めた。
【0040】
(比較例1〜2)
縮重合温度を表1の値に変更した以外は、実施例2と同様にして、ポリエステル樹脂を得た。
【0041】
比較例1は、縮重合温度の温度が高く、比較例2は、縮重合温度の温度が低く、(1)式を満足せず得られたポリエステル樹脂は、いずれも軟化温度のバラツキが大きいものであった。
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
3価以上のカルボン酸または3価以上のアルコールを含む、多価カルボン酸と多価アルコールをエステル化反応した後、(1)式を満たす条件で縮重合する、ポリエステル樹脂の製造方法。
−0.0027T+0.6849≦P≦−0.0027T+0.6909・・・(1)
(T:縮重合温度(℃)、P:全仕込み量に対する縮重合触媒の質量%)
【請求項2】
縮重合反応終了後、得られたポリエステル樹脂の温度を2時間以内に40℃以下まで冷却する冷却工程を有する請求項1記載のポリエステル樹脂の製造方法。

【公開番号】特開2010−6928(P2010−6928A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−166915(P2008−166915)
【出願日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】