説明

架橋ポリエチレンを含有するポリマー組成物及びそれの製造方法

【課題】超高分子量ポリエチレンを含有する既知のポリマー組成物に関連していっそう低い剛性を示すポリマー組成物だけでなく、該ポリマー組成物を製造する方法をも得る必要性が存在する。
【解決手段】ポリマー組成物であって、(a)自由体積を有する、架橋ポリエチレン分子のマトリックスと、(b)スクアラン、脂肪酸、グリセリド、ポリイソプレノイド、コレステロール、コレステロールエステル、及びそれらの混合物から成る群から選ばれている少なくとも1種の非極性生体親和性脂質であって、前記マトリックスの前記自由体積の少なくとも一部分を満たしている非極性生体親和性脂質とを含有している、ポリマー組成物を提供する。更に、該ポリマー組成物の製法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【開示の内容】
【0001】
〔発明の分野〕
本発明は、架橋ポリエチレンを含有するポリマー組成物及びそれの製造方法に関する。
【0002】
〔発明の背景〕
超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)は通常、人工股関節のような整形外科インプラントにおけるベアリング材料(bearing material)として用いられる。例えば、超高分子量ポリエチレンは、股関節の寛骨臼カップ(acetabular cup)のためのライナー(liner)として使用され、股関節において、該ライナーは、寛骨臼カップ内における大腿骨骨頭の咬交運動(articulating movement)を容易にするベアリング(bearing;支点)としての役割を果たす。
【0003】
超高分子量ポリエチレンは、大抵のベアリング用途において、比較的低い磨耗率を示すことがあるが、超高分子量ポリエチレンの弾性率が比較的高いために、軟骨組織のような軟組織と接触する必要のある用途における超高分子量ポリエチレンの使用法が制限される。例えば、そのような用途において、比較的硬質の超高分子量ポリエチレンは、インプラントの咬交(articulation)が繰り返された後、軟骨組織に損傷を与えることがあり、軟骨組織と超高分子量ポリエチレンとが互いに向かい合う点が比較的大きい荷重を受ける場合は、とりわけ、そうである。従って、超高分子量ポリエチレンの弾性率を減少させるように処理された超高分子量ポリエチレンを含有するインプラント又はインプラント部品を提供するための試みが行われてきた。例えば、米国特許第5,721,334号明細書には、約500〜800MPaの弾性率を有する超高分子量ポリエチレンから造形品を製造するための方法であって、該物品を型で作る間、特定の温度と圧力とのプロフィルを用いる方法が開示されている。米国特許第5,721,334号明細書に記述されている方法は、従来のやり方で製造される類似物品の弾性率よりも小さい弾性率を示す物品を製造することができるが、該方法は、超高分子量ポリエチレンの弾性率の中程度の減少を達成することができるのみであり、該方法は、幾つかのベアリング用途における、超高分子量ポリエチレンを使用することによって生じる軟組織の損傷に関する問題に取り組むには十分ではないであろう。
【0004】
超高分子量ポリエチレンの弾性率よりも小さい弾性率を有する、ポリウレタンのような他の耐磨耗性ポリマーを利用することによって、適切なベアリング材料を提供することに関する問題に取り組む試みを行った人々もいる。これらのポリマーを使用すれば、ベアリング表面が向かい合う軟組織に対していっそう小さい外傷を生じさせる該ベアリング表面が提供されることがあるが、当該技術分野の中には、これら代替のベアリング材料によって作り出される磨耗破片(wear debris)に対する患者の反応に関する問題を表明する人々がいる。例えば、ポリウレタンベアリングによって作り出される磨耗破片に呼応する、潜在的な組織壊死(tissue necrosis)及び/又は骨溶解(osteolysis)に関する問題を表明する人々がいる。
【0005】
従って、超高分子量ポリエチレンを含有する既知のポリマー組成物に関連していっそう低い剛性を示すポリマー組成物だけでなく、該ポリマー組成物を製造する方法をも得る必要性が存在する。本発明は、そのようなポリマー組成物と方法とを提供する。本発明のこれらの利点及び他の利点だけでなく、発明の更なる特徴もまた、本明細書に提供される、本発明に関する記述から明らかになるであろう。
【0006】
〔発明の概要〕
本発明は、ポリマー組成物であって、自由体積を有する、架橋ポリエチレン分子のマトリックスと、スクアラン、脂肪酸、グリセリド、ポリイソプレノイド、コレステロール、コレステロールエステル、及びそれらの混合物から成る群から選ばれている少なくとも1種の非極性生体親和性脂質であって、前記マトリックスの前記自由体積の少なくとも一部分を満たしている(fills) 少なくとも1種の非極性生体親和性脂質とを含有している、ポリマー組成物を提供する。
【0007】
本発明は更に、ポリマー組成物の製造方法であって、(a)約400,000原子質量単位以上の重量平均分子量を有する超高分子量ポリエチレンを含有するプリフォームを提供する工程、(b)スクアラン、脂肪酸、グリセリド、ポリイソプレノイド、コレステロール、コレステロールエステル、及びそれらの混合物から成る群から選ばれる少なくとも1種の非極性生体親和性脂質を含有する溶液を提供する工程、(c)前記プリフォームの少なくとも一部分を前記溶液と接触させて、前記超高分子量ポリエチレンを膨潤させ、かつ、前記非極性生体親和性脂質を該プリフォームの少なくとも一部分の中に拡散させる工程、並びに、(d)工程(c)において前記溶液と接触した前記プリフォームの少なくとも前記一部分に照射して、その中に含有される前記超高分子量ポリエチレンの少なくとも一部分を架橋し、かつ、自由体積を有する架橋済みポリエチレン分子のマトリックスを含有するポリマー組成物を形成する工程であって、前記の少なくとも1種の生体親和性脂質が該マトリックスの該自由体積の少なくとも一部分を満たす工程、を包含する、製造方法を提供する。
【0008】
本発明はまた、ポリマー組成物の製造方法であって、(a)約400,000原子質量単位以上の重量平均分子量を有する超高分子量ポリエチレンを含有するプリフォームを提供する工程、(b)前記プリフォームの少なくとも一部分に放射線を照射して、その中に含有される前記超高分子量ポリエチレンの少なくとも一部分を架橋し、かつ、自由体積を有する架橋済みポリエチレン分子のマトリックスを含有するポリマー組成物を形成する工程、(c)スクアラン、脂肪酸、グリセリド、ポリイソプレノイド、コレステロール、コレステロールエステル、及びそれらの混合物から成る群から選ばれる少なくとも1種の非極性生体親和性脂質を含有する溶液を提供する工程、並びに、(d)前記プリフォームの少なくとも一部分を前記溶液と接触させて、前記超高分子量ポリエチレンを膨潤させ、かつ、前記非極性生体親和性脂質を前記マトリックスの前記自由体積の少なくとも一部分の中に拡散させる工程、を包含する、製造方法を提供する。
【0009】
〔発明の詳細な記述〕
本発明は、架橋ポリエチレン分子のマトリックスを含有しているポリマー組成物を提供する。該ポリマー組成物中に存在するポリエチレン分子のマトリックスは、自由体積を有している。本明細書で用いる用語「自由体積(free volume)」とは、架橋ポリエチレン分子のマトリックスの中に存在するポリエチレン分子の間の隙間空間(interstitial spaces)によって形成される空体積(empty volume)をいう。このように、ポリマー組成物の自由体積は、典型的には個々のポリマー分子の運動を可能にする、該組成物中の空間(unoccupied space)である。
【0010】
該ポリマー組成物中に存在するポリエチレン分子は、ポリエチレンの適切ないずれかの源から誘導することができる。該ポリマー組成物中に存在するポリエチレン分子は、約400,000原子質量単位以上、より好ましくは約1,000,000原子質量単位以上(例えば、約2,000,000原子質量単位以上又は約3,000,000原子質量単位以上)の重量平均分子量を有する超高分子量ポリエチレンから誘導することが好ましい。該超高分子量ポリエチレンの重量平均分子量は典型的には、約10,000,000原子質量単位以下、より好ましくは約6,000,000原子質量単位以下である。本発明において使用するのに適した超高分子量ポリエチレンは、例えば、ティコナ社(Ticona)(ニュージャージー州サミット)からのGUR1050粉末超高分子量ポリエチレン(約4,000,000〜約6,000,000原子質量単位の重量平均分子量)及びGUR1020粉末超高分子量ポリエチレン(約2,000,000〜約4,000,000原子質量単位の重量平均分子量)のような市販の超高分子量ポリエチレンを包含するが、それらに限定されない。
【0011】
該ポリマー組成物は、架橋ポリエチレン分子のマトリックスの中に存在する自由体積の少なくとも一部分を満たしている少なくとも1種の非極性生体親和性脂質を含有する。該ポリマー組成物は、適切ないずれかの非極性生体親和性脂質を含有することができる。該非極性生体親和性脂質は、飽和炭化水素(例えば、スクアラン)、脂肪酸(例えば、ステアリン酸)、グリセリド(例えば、トリステアリンのようなトリグリセリド)、ポリイソプレノイド(例えば、スクアレン)、コレステロール、コレステロール誘導体(例えば、ステアリン酸コレステリル及びパルミチン酸コレステリルのようなコレステロールエステル)、及びそれらの混合物から成る群から選ばれるのが好ましい。該非極性生体親和性脂質は、スクアラン、又はスクアレンのようなポリイソプレノイドであるのが更に好ましい。
【0012】
上述のように、該非極性生体親和性脂質は、該マトリックスの自由体積の少なくとも一部分を満たす。該非極性生体親和性脂質は、該自由体積の適切な如何なる部分をも満たすことができる。該非極性生体親和性脂質で満たされている、該自由体積の該特定部分は、少なくとも一部分、架橋ポリエチレン分子の該マトリックスの中に存在する全自由体積と該組成物中に存在する特定の非極性生体親和性脂質と該ポリマー組成物の所望の最終特性とによって決まることが理解されるであろう。
【0013】
該非極性生体親和性脂質は、該ポリマー組成物中に適切な如何なる量でも存在することができる。例えば、該非極性生体親和性脂質は典型的には、該ポリマー組成物の全重量の約1重量%以上、好ましくは約1.5重量%以上、更に好ましくは約3重量%以上、最も好ましくは約5重量%以上の割合を占める。しかし、該ポリマー組成物中に含有され得る脂質の最大量は、少なくとも一部分、架橋ポリエチレン分子の該マトリックスの中に存在する全自由体積と該組成物中に存在する特定の非極性生体親和性脂質とによって決まることが理解されるであろう。更に、該ポリマー組成物中に含有される非極性生体親和性脂質の量は、該ポリマー組成物が圧縮荷重又は引張り荷重のような機械荷重を受ける時、該非極性生体親和性脂質のかなりの量が該ポリマー組成物から放出されるほど大きくないのが好ましい。従って、該非極性生体親和性脂質は典型的には、該ポリマー組成物の全重量の約60重量%以下、好ましくは約55重量%以下の割合を占める。
【0014】
本発明のポリマー組成物は、該非極性生体親和性脂質の濃度勾配を示すことがある。従って、所定のポリマー組成物において、該ポリマー組成物の表面付近の非極性生体親和性脂質の濃度は、該ポリマー組成物の内部付近の非極性生体親和性脂質の濃度よりも大きいことがある。
【0015】
本発明のポリマー組成物は、超高分子量ポリエチレンを含有する他のポリマー組成物と比べて少なくとも1種の改善された機械特性を示すのが好ましい。例えば、本発明のポリマー組成物は、超高分子量ポリエチレンを含有する他のポリマー組成物と比べていっそう低い弾性率(例えば、ヤング率)及び/又はいっそう低い摩擦係数を示すのが好ましい。本発明のポリマー組成物はまた、超高分子量ポリエチレンを含有する他のポリマー組成物と比べていっそう大きい靭性を示すのが好ましい。特定のいずれかの理論に拘束されることを望む訳ではないが、架橋ポリエチレン分子のマトリックスの自由体積の内部に含有される非極性生体親和性脂質は、本発明のポリマー組成物について観察されるいっそう低い弾性率及び/又は摩擦係数に寄与し、同時に、該ポリマー組成物の靭性を増大させることもできるものと思われる。
【0016】
該ポリマー組成物は、適切な如何なるヤング率(E)をも有することができる。本明細書で用いる用語「ヤング率(Young's modulus)」とは、該材料が張力を受けて弾性的に挙動するときの、[応力]対[対応する歪み]比をいう。該ポリマー組成物のヤング率は、適切な如何なる技術を用いても測定することができる。例えば、該ポリマー組成物のヤング率は、ASTM基準D638−03、タイプVに記載の技術を用いて測定することができ、また、本明細書に列挙したヤング率の値は、そのようにして測定されたものと見なすことができる。該ポリマー組成物は典型的には、純粋な超高分子量ポリエチレンのヤング率(例えば、約280MPa以下、又は約225MPa以下)よりも低いヤング率を有する。該ポリマー組成物は、約215MPa以下、いっそう好ましくは約200MPa以下、更にいっそう好ましくは約150MPa以下、最も好ましくは約100MPa以下(例えば、約50MPa以下、約30MPa以下、又は約5MPa〜約30MPa)のヤング率(E)を有するのが好ましい。
【0017】
本発明のポリマー組成物は、超高分子量ポリエチレンを含有する他のポリマー組成物と比べて、相対的に低い割線係数を示すのが好ましい。本明細書で用いる用語「割線係数(secant modulus)」とは、応力−歪み曲線の原点から、特定の歪みに対応する応力−歪み曲線上の点に引いた直線の勾配(即ち、[応力]対[歪み]比)をいう。該ポリマー組成物の割線係数は、応力−歪み曲線の適切な如何なる点を用いても測定することができる。例えば、該ポリマー組成物の割線係数は、該ポリマー組成物の20%伸び率に対応する、応力−歪み曲線上の点を用いて決定することができる。該ポリマー組成物は典型的には、純粋な超高分子量ポリエチレンの、20%伸び率における割線係数(例えば、約100MPa以下、又は約93MPa以下)よりも小さい、同一伸び率における割線係数を有する。該ポリマー組成物は、20%伸び率において約90MPa以下(例えば、約88MPa以下)、いっそう好ましくは約80MPa以下、更にいっそう好ましくは約70MPa以下、最も好ましくは約60MPa以下(例えば、約50MPa以下、約40MPa以下、約30MPa以下、約25MPa以下、又は約10MPa〜約25MPa)の割線係数を有するのが好ましい。
【0018】
本発明のポリマー組成物は、超高分子量ポリエチレンを含有する他のポリマー組成物と比べていっそう低い貯蔵弾性率(E’)を示すのが好ましい。本明細書で用いる用語「貯蔵弾性率(storage modulus)」とは、歪みで割った、歪みと同位相である加えられた応力の成分をいう。該ポリマー組成物の貯蔵弾性率は、ASTM基準D4065−01に略述されている技術に従う動的機械分析(Dynamic Mechanical Analysis)のような、適切な如何なる技術を用いても測定することができる。本明細書に列挙した貯蔵弾性率の値は、そのようにして測定されたものと見なすことができる。該ポリマー組成物は、約550MPa以下、いっそう好ましくは約500MPa以下(例えば、約475MPa以下)、最も好ましくは約450MPa以下(例えば、約425MPa以下、約400MPa以下、約375MPa以下、又は約350MPa〜約400MPa)の貯蔵弾性率を有するのが好ましい。
【0019】
本発明のポリマー組成物は、超高分子量ポリエチレンを含有する他のポリマー組成物と比べていっそう低い損失弾性率(E”)を示すのが好ましい。本明細書で用いる用語「損失弾性率(loss modulus)」とは、材料が変形させられたときの、熱として散逸するエネルギーの大きさをいう。該ポリマー組成物の損失弾性率は、ASTM基準D4065−01に略述されている技術に従う動的機械分析のような、適切な如何なる技術を用いても測定することができる。本明細書に列挙した損失弾性率の値は、そのようにして測定されたものと見なすことができる。該ポリマー組成物は、約45MPa以下、いっそう好ましくは約40MPa以下(例えば、約37MPa以下)、最も好ましくは約35MPa以下(例えば、約33MPa以下、又は約30MPa〜約35MPa)の損失弾性率を有するのが好ましい。
【0020】
本発明のポリマー組成物は、超高分子量ポリエチレンを含有する他のポリマー組成物と比べていっそう大きいtanδを示すのが好ましい。本明細書で用いる用語「tanδ」とは、[損失弾性率(E”)]対[貯蔵弾性率(E’)]の比をいう。損失弾性率及び貯蔵弾性率の測定法は、本明細書に記載されている。該ポリマー組成物は、0.085より大きい(例えば、約0.086以上、約0.087以上、又は約0.088以上の)tanδを有するのが好ましい。
【0021】
本発明のポリマー組成物は、超高分子量ポリエチレンを含有する他のポリマー組成物と比べていっそう低い結晶化度を示すのが好ましい。該ポリマー組成物の結晶化度は、例えば、示差走査熱量測定法(DSC)のような、適切な如何なる技術を用いても測定することができる。当業者には理解されるであろうが、示差走査熱量測定法を用いて該ポリマー組成物のために得られる結晶化度の値は、該ポリマー組成物内部に含有される非極性生体親和性脂質を考慮して修正する必要がある。本明細書に列挙される結晶化度の値は、そのようにして測定されたものと見なすことができる。該ポリマー組成物は、約49重量%未満、いっそう好ましくは約48重量%以下、最も好ましくは約47重量%以下(例えば、約46重量%以下、又は約45.5重量%以下)の結晶化度を示すのが好ましい。
【0022】
本発明のポリマー組成物は、適切な如何なる硬度をも示すことができる。しかし、該ポリマー組成物は、純粋な超高分子量ポリエチレンの硬度(例えば、約65未満のショアー押込み硬度(Shore D hardness))よりも小さい硬度(例えば、ジュロメーター硬さ)を示すのが好ましい。該ポリマー組成物は、約60以下(例えば、約50以下、又は約40以下)、いっそう好ましくは約30以下のショアー押込み硬度を有するのが好ましい。該ポリマー組成物の硬度は、適切な如何なる技術を用いても測定することができる。該ポリマー組成物の硬度(例えば、ショアー押込み硬度)は、ASTM基準D2240−04に記述されている技術を用いて決定するのが好ましい。また、本明細書に列挙されている硬度の値は、そのようにして測定されたものと見なすことができる。
【0023】
本発明のポリマー組成物は、適切な方法又はプロセスであれば如何なるものを使用しても製造することができる。しかし、本発明は更に、該ポリマー組成物の製造方法を提供する。
【0024】
1つの具体例において、本発明は、ポリマー組成物の製造方法であって、(a)約400,000原子質量単位以上の重量平均分子量を有する超高分子量ポリエチレンを含有するプリフォームを提供する工程、(b)飽和炭化水素、脂肪酸、グリセリド、ポリイソプレノイド、コレステロール、コレステロールエステル、及びそれらの混合物から成る群から選ばれる少なくとも1種の非極性生体親和性脂質を含有する溶液を提供する工程、(c)前記プリフォームの少なくとも一部分を前記溶液と接触させて、前記超高分子量ポリエチレンを膨潤させ、かつ、前記非極性生体親和性脂質を該プリフォームの少なくとも一部分の中に拡散させる工程、並びに、(d)工程(c)において前記溶液と接触した前記プリフォームの少なくとも前記一部分に放射線を照射して、その中に含有される前記超高分子量ポリエチレンの少なくとも一部分を架橋し、かつ、自由体積を有する架橋済みポリエチレン分子のマトリックスを含有するポリマー組成物を形成する工程であって、前記の少なくとも1種の生体親和性脂質が該マトリックスの該自由体積の少なくとも一部分を満たす工程、を包含する、製造方法を提供する。
【0025】
もう1つの具体例において、本発明は、ポリマー組成物の製造方法であって、(a)約400,000原子質量単位以上の重量平均分子量を有する超高分子量ポリエチレンを含有するプリフォームを提供する工程、(b)前記プリフォームの少なくとも一部分に放射線を照射して、その中に含有される前記超高分子量ポリエチレンの少なくとも一部分を架橋し、かつ、自由体積を有する架橋済みポリエチレン分子のマトリックスを含有するポリマー組成物を形成する工程、(c)飽和炭化水素、脂肪酸、グリセリド、ポリイソプレノイド、コレステロール、コレステロールエステル、及びそれらの混合物から成る群から選ばれる少なくとも1種の非極性生体親和性脂質を含有する溶液を提供する工程、並びに、(d)前記プリフォームの少なくとも一部分を前記溶液と接触させて、前記超高分子量ポリエチレンを膨潤させ、かつ、前記非極性生体親和性脂質を前記マトリックスの前記自由体積の少なくとも一部分の中に拡散させる工程、を包含する、製造方法を提供する。
【0026】
本発明の方法で利用するプリフォームは、適切な如何なる形状(configuration)でも提供することができる。とは言え、該プリフォームは典型的には、所望の量の前記非極性生体親和性脂質を所望の時間の範囲内で前記超高分子量ポリエチレンの中に拡散させることのできる寸法又は形状で提供されることが理解されるであろう。例えば、最終ポリマー組成物を医療インプラント又は医療インプラント部品として用いる場合、プリフォームは、医療インプラント又は医療インプラント部品が該プリフォームから容易に機械加工され得るような大きさに作るか又はそのような形に作ることができる。代替的に、該プリフォームは、本発明の方法によって製造される最終ポリマー組成物が医療インプラント又は医療インプラント部品と実質的に同一の形状になるような(即ち、該最終ポリマー組成物が、所望の形状を有する医療インプラント又は医療インプラント部品を製造するために、機械加工を全く必要としないか又は最小限の機械加工しか必要でないような)大きさに作るか又はそのような形に作ることができる。本発明のポリマー組成物から作ることのできる適切な医療インプラント又は医療インプラント部品の諸例は、寛骨臼カップ(acetabular cup)、寛骨臼カップのインサート若しくはライナー、又は人工股関節のジョイントベアリング(trunnion bearings)、脛骨プラトー(tibial plateau;脛骨高平部)、膝蓋骨ボタン(patellar button)(膝蓋大腿関節)、並びに、人工膝関節のジョイントベアリング構成部分若しくは他のベアリング構成部分、人工足関節の距骨表面(脛距関節)及び他のベアリング構成部分、橈骨−上腕骨関節(radio-humeral joint)、尺骨−上腕骨関節(ulno-humeral joint)、及び人工肘関節の他のベアリング構成部分、関節窩−上腕骨関節(glenoro-humeral articulation)及び人工肩関節の他のベアリング構成部分、脊柱のための椎間板置換及び面関節置換、側頭−顎関節、並びに指関節を包含するが、それらに限定されない。
【0027】
プリフォームに含有される超高分子量ポリエチレンは、約400,000原子質量単位以上、いっそう好ましくは約1,000,000原子質量単位以上(例えば、約2,000,000原子質量単位以上、又は約3,000,000原子質量単位以上)の重量平均分子量を有するのが好ましい。該超高分子量ポリエチレンの重量平均分子量は典型的には、約10,000,000原子質量単位以下、いっそう好ましくは約6,000,000原子質量単位以下である。本発明において使用するのに適した超高分子量ポリエチレンは、例えば、ティコナ社(ニュージャージー州サミット)からのGUR1050粉末超高分子量ポリエチレン(約4,000,000〜約6,000,000原子質量単位の重量平均分子量)及びGUR1020粉末超高分子量ポリエチレン(約2,000,000〜約4,000,000原子質量単位の重量平均分子量)のような市販の超高分子量ポリエチレンを包含するが、それらに限定されない。
【0028】
本発明の方法において利用する溶液は、少なくとも1種の非極性生体親和性脂質を含有するか、それから本質的に成るか、又はそれから成る。該非極性生体親和性脂質は、飽和炭化水素(例えば、スクアラン)、脂肪酸(例えば、ステアリン酸)、グリセリド(例えば、トリステアリンのようなトリグリセリド)、ポリイソプレノイド(例えば、スクアレン)、コレステロール、コレステロール誘導体(例えば、ステアリン酸コレステリル及びパルミチル酸コレステリルのようなコレステロールエステル)、及びそれらの混合物から成る群から選ぶのが好ましい。該非極性生体親和性脂質は、スクアラン、又はスクアレンのようなポリイソプレノイドであるのが更に好ましい。
【0029】
前記プリフォームは、前記超高分子量ポリエチレンを膨潤させ、かつ、前記非極性生体親和性脂質を該プリフォームの少なくとも一部分の中に分散させるのに十分な時間の間、かつ、そうさせるのに十分な条件の下、少なくとも1種の非極性生体親和性脂質を含有する溶液と接触させる。該プリフォームは、適切な如何なる時間の間、該溶液と接触させてもよい。該プリフォームを該溶液と接触させる時間が、例えば、該溶液中に存在する非極性生体親和性脂質の種類、該溶液が維持されている温度、及び該プリフォームの中に拡散させるべき非極性生体親和性脂質の所望の量、のような幾つかの因子によって決まることがあることは理解されるであろう。該プリフォームは典型的には、約2時間以上(例えば、約3時間〜約12時間)の間、該溶液と接触させる。
【0030】
前記の少なくとも1種の非極性生体親和性脂質を含有する溶液は、適切な如何なる温度にも維持することができる。該溶液のための最適温度が、例えば、該溶液中に存在する非極性生体親和性脂質の種類、該プリフォームが該溶液と接触している時間、及び該プリフォームの中に拡散させるべき非極性生体親和性脂質の所望の量、のような幾つかの因子によって決まることがあることは理解されるであろう。該溶液は、約80℃〜約150℃(例えば、約90℃〜約150℃、又は約100℃〜約150℃)、いっそう好ましくは約100℃〜約130℃の温度で維持するのが好ましい。
【0031】
幾つかの具体例において、該溶液は、該溶液と接触している前記プリフォームの一部分が、該溶液と接触している間、半透明外観に変化する(即ち、該プリフォームの一部分が、典型的には固体超高分子量ポリエチレンに関連する不透明外観から、それの融点を超える温度まで加熱されてしまった超高分子量によって示される半透明外観に類似する半透明外観に変化する)のに十分高い温度で維持するのが好ましい。超高分子量ポリエチレンの光透過率のそのような変化は典型的には、超高分子量ポリエチレンがそれの融点以上の温度まで加熱されてしまったときにのみ観察されるが、その移行(transition;変わり目)は、幾つかの種類の非極性生体親和性脂質のような幾種類かの溶媒の存在下では超高分子量ポリエチレンの融点よりも低い温度で生じる。更に、溶媒の種類は、その移行が観察される温度に影響を及ぼす。特定のいずれかの理論に拘束されることを望む訳ではないが、前述の移行は、非極性生体親和性脂質のような幾種類かの溶媒によって引き起こされることのある超高分子量ポリエチレンの膨潤に起因して、該超高分子量ポリエチレンの融点よりも低い温度で生じるものと思われる。更に、該プリフォーム中に含有されている超高分子量ポリエチレンがそのような半透明外観に移行してしまったとき、個々のポリエチレン分子の移動性(mobility)が増大し、そのことは、非極性生体親和性脂質が該超高分子量ポリエチレンの中に拡散する速度を増大させるのに役立つものと思われる。
【0032】
前記プリフォームには、適切な如何なる方法を用いても、放射線を照射することができる。例えば、該プリフォームには、それを適切な量のγ線、X線、又は電子ビームの放射線に暴露することによって放射線を照射することができる。該プリフォームには、当該技術分野における既知の方法を用いて、その本体を約0.5〜約10Mrad(例えば、約1.5〜約6Mrad)のγ線に暴露することによって放射線を照射するのが好ましい。該プリフォームは、前述の範囲を超える放射線の量に曝露することができるが、そのような量の放射線は、不満足な特性を有するポリマー組成物を生成する傾向がある。とりわけ、放射線量が約0.5Mrad未満であれば、一般に超高分子量ポリエチレンの架橋は不十分となる。更に、10Mradより大きい線量を使用することができるが、そのような高い放射線量から得られる比較的高いレベルの架橋では、結果的に、該超高分子量ポリエチレンの脆性は増大することがある。
【0033】
前記プリフォームは、不活性雰囲気又は減圧雰囲気の中で照射することができる。該プリフォームを不活性(即ち、非酸化性)雰囲気又は減圧雰囲気の中で照射すれば、酸化雰囲気中で照射する間に生じることのある酸化反応及び鎖切断反応の影響が減少する。該プリフォームは典型的には、照射工程の間、酸素不透過性パッケージの中に置く。適切な酸素不透過性パッケージ材料は、アルミニウム、ポリエステル被覆済み金属箔[例えば、帝人デュポンフィルム社(Dupont Teijin Films)から入手することのできる製品、Mylar(登録商標)]、ポリエチレンテレフタレート、及びポリ(エチレンビニルアルコール)を包含するが、それらに限定されない。該プリフォームに照射する間に生じる酸化の量を更に減少させるために、該酸素不透過性パッケージは、該プリフォームをその中に置いてしまった後、排気する(evacuated)ことができる(例えば、該パッケージ内の圧力を、雰囲気圧力未満に減圧することができる)及び/又は不活性ガス(例えば、窒素、アルゴン、ヘリウム、若しくはそれらの混合物)でフラッシュを行う(flushed)ことができる。
【0034】
本発明の方法の幾つかの具体例において、該方法は、前記プリフォームに放射線を照射する間、前記超高分子量ポリエチレンの中に作り出されるフリーラジカルのかなりの部分を消滅させる工程を更に包含することができる。例えば、該プリフォームの放射線照射済み部分の内部に含有されるフリーラジカルは、該放射線照射済みプリフォームを、酸素が減少した非反応性雰囲気の中で、該プリフォーム中に存在するフリーラジカルの数を減少させるのに十分な時間に渡って、室温と超高分子量ポリエチレンの融点との間の温度に加熱することによって消滅させることができる(米国特許第5,414,049号、同第6,174,934号及び同第6,228,900号明細書を参照されたい)。代替的に、該プリフォームの放射線照射済み部分の内部に含有されるフリーラジカルは、該放射線照射済みプリフォームを、酸素が減少した非反応性雰囲気の中で、該プリフォーム中に存在するフリーラジカルの数を減少させるのに十分な時間に渡って、超高分子量ポリエチレンの融点以上の温度に加熱することによって消滅させることができる(米国特許第6,017,975号、同第6,228,900号、同第6,242,507号及び同第6,316,158号明細書を参照されたい)。
【0035】
本発明の方法は、前記のプリフォーム又はポリマー組成物を乾燥して、過剰の非極性生体親和性脂質を除去し、かつ、所望の最終濃度の非極性生体親和性脂質を有するプリフォーム又はポリマー組成物を生じさせる工程を更に含有することができる。例えば、該プリフォームを前記溶液と接触させて、前記超高分子量ポリエチレンを膨潤させ、かつ、該非極性生体親和性脂質を該プリフォームの少なくとも一部分の中に拡散させてしまった後、該プリフォームは乾燥させることができる。代替的には、該プリフォームに放射線を照射してポリマー組成物を生成してしまった後、該プリフォームは乾燥させることができる。そのプリフォーム又はポリマー組成物は、適切な如何なる方法を用いても乾燥させることができる。そのプリフォーム又はポリマー組成物は、それを減圧雰囲気中で高温にさらすことによって乾燥させるのが好ましい。当然、該ポリマー組成物は、該非極性生体親和性脂質の全てが該ポリマー組成物から除去される程までには乾燥されない。
【0036】
本発明の方法は、適切ないずれかのプロセスを用いて前記ポリマー組成物を殺菌する工程を更に包含することができる。該ポリマー組成物は、適切な如何なる時点ででも殺菌することができるが、前記プリフォームに放射線を照射してしまった後、殺菌するのが好ましい。適切な非放射線照射殺菌技術は、当該技術分野において知られている、気体プラズマ法又は酸化エチレン法を包含するが、それらに限定されない。例えば、該ポリマー組成物は、PlazLyte(登録商標)殺菌装置[アブトックス社(Abtox, Inc.)、イリノイ州マンダライン(Mundelein)]を用いるか又は米国特許第5,413,760号及び同第5,603,895号明細書に記載の気体プラズマ殺菌法に従って、殺菌することができる。
【0037】
本発明の方法によって製造されたポリマー組成物は、適切な如何なるパッケージ材料ででも包装することができる。該パッケージ材料は、該パッケージ材料が破られるまで、該ポリマー組成物の無菌状態を維持するのが望ましい。
【0038】
次の諸実施例は、本発明を更に例示するが、もちろん、決して本発明の範囲を制限するものと解釈すべきではない。
【0039】
〔実施例1〕
この実施例は、本発明の方法によるポリマー組成物の製造と、本発明のポリマー組成物の機械特性とを例示する。約5,000,000〜約6,000,000原子質量単位の分子量を有するGUR1050ラム押出し(ram-extruded)超高分子量ポリエチレンの3種の類似試料(ポリマー組成物1A〜1C)を、約5Mrad(50KGy)のγ線に曝露して、その中に含有されている超高分子量ポリエチレンの少なくとも一部分を架橋させた(cross-link;交差結合させた)。それら試料は、次いで、該超高分子量ポリエチレンの融点より低い温度まで加熱して、その照射工程の間に該超高分子量ポリエチレンの中に作り出されるフリーラジカルのかなりの部分を消滅させた。ポリマー組成物1B及び1C(本発明)は、次いで、該ポリエチレンを膨潤させ、かつ、スクアランの少なくとも一部分をそれら試料の中に拡散させるのに十分な条件の下、該スクアラン中に浸漬させた。とりわけ、ポリマー組成物1Bは、約90℃の温度で約24時間の間、スクアラン中に浸漬させ、また、ポリマー組成物1Cは、約120℃の温度で約72時間の間、スクアランに浸漬させた。ポリマー組成物1A(比較)は、脂質に浸漬させなかった。
【0040】
次いで、ポリマー組成物1B及び1Cを秤量して、それら試料の各々に含有されている脂質(即ち、スクアラン)の量を決定した。最後に、それらポリマー組成物の各々について試験を行って、それの(20%伸び率における)割線係数とそれのジュロメーター硬さ(即ち、ショアー押込み硬度)とを決定した。これら測定の結果は、下記の表1に示す。
【表1】

【0041】
上記に示す表1のデータによって明示されるように、架橋ポリエチレンマトリックスの自由体積の中に非極性生体親和性脂質を含有する本発明のポリマー組成物は、非極性生体親和性脂質を含有しない類似のポリマー組成物に比べていっそう低い割線係数といっそう低い硬度とを示す。とりわけ、それらポリマー組成物の各々の割線係数を比較すれば、ポリマー組成物の脂質含有量が増大するにつれて、ポリマー組成物の割線係数は減少することが明らかとなる。更に、それらデータによって、ポリマー組成物の脂質含有量が増大するにつれて、ポリマー組成物の硬度は同様に減少することが例証される。
【0042】
〔実施例2〕
この実施例は、本発明の方法によるポリマー組成物の製造と、本発明のポリマー組成物の機械特性とを例示する。約5,000,000〜約6,000,000原子質量単位の分子量を有するGUR1050ラム押出し超高分子量ポリエチレンの3種の類似試料(ポリマー組成物2A〜2C)を、約5Mrad(50KGy)のγ線に曝露して、その中に含有されている超高分子量ポリエチレンの少なくとも一部分を架橋させた。それら試料は、次いで、該超高分子量ポリエチレンの融点より低い温度まで加熱して、その照射工程の間に該超高分子量ポリエチレンの中に作り出されるフリーラジカルのかなりの部分を消滅させた。それらポリマー組成物は、次いで、約140℃の温度で約8時間の間、スクアレン中に浸漬させた。それらポリマー組成物は、次いで、それぞれ60℃、100℃及び115℃の温度で約24時間の間、真空炉で乾燥させた。
【0043】
それらポリマー組成物を秤量して、それら試料の各々に含有されている脂質(即ち、スクアレン)の量を決定した。それらポリマー組成物の各々について更に試験を行い、それの(20%伸び率における)割線係数とそれのジュロメーター硬さ(即ち、ショアー押込み硬度)とを決定した。これら測定の結果は、下記の表2に示す。
【表2】

【0044】
上記に示す表2のデータによって明示されるように、ポリマー組成物の自由体積の中に非極性生体親和性脂質を含有する本発明のポリマー組成物は、相対的に低い割線係数と低い硬度とを示す。更に、それらデータによって、ポリマー組成物の機械特性(例えば、割線係数及び硬度)は、例えば、ポリマー組成物の自由体積の中に含有される脂質の量に左右されることが例証される。
【0045】
〔実施例3〕
この実施例は、本発明の方法によるポリマー組成物の製造と、本発明のポリマー組成物の動的機械特性とを例示する。約5,000,000〜約6,000,000原子質量単位の分子量を有するGUR1050ラム押出し超高分子量ポリエチレンの2種の類似試料(ポリマー組成物3A及び3B)を、約5Mrad(50KGy)のγ線に曝露して、その中に含有されている超高分子量ポリエチレンの少なくとも一部分を架橋させた。それら試料は、次いで、該超高分子量ポリエチレンの融点より低い温度まで加熱して、その照射工程の間に該超高分子量ポリエチレンの中に作り出されるフリーラジカルのかなりの部分を消滅させた。ポリマー組成物3B(本発明)は、次いで、約120℃の温度で約8時間の間、スクアレン中に浸漬させた。結果として得られた、ポリマー組成物3Bの脂質含有量は、該ポリマー組成物の全重量に基づき約2.9重量%であることが確認された。ポリマー組成物3A(比較)は、非極性生体親和性脂質に浸漬させなかった。
【0046】
それらポリマー組成物の各々について、動的機械分析(Dynamic Mechanical Analysis)を用いて試験を行い、それの貯蔵弾性率と損失弾性率とを決定した。それらポリマー組成物のtanδもまた、損失弾性率を貯蔵弾性率で割ることによって計算した。これらの測定及び計算の結果は、下記の表3に示す。
【表3】

【0047】
上記に示す表3のデータによって明示されるように、ポリマー組成物の自由体積の中に非極性生体親和性脂質を含有する本発明のポリマー組成物は、非極性生体親和性脂質を含有しない類似のポリマー組成物に比べていっそう低い貯蔵弾性率といっそう低い損失弾性率とを示す。
【0048】
〔実施例4〕
この実施例は、本発明の方法によるポリマー組成物の製造と、本発明のポリマー組成物の動的機械特性とを例示する。約5,000,000〜約6,000,000原子質量単位の分子量を有するGUR1050ラム押出し超高分子量ポリエチレンの4種の類似試料(ポリマー組成物4A〜4D)を、約5Mrad(50KGy)のγ線に曝露して、その中に含有されている超高分子量ポリエチレンの少なくとも一部分を架橋させた。それら試料は、次いで、該超高分子量ポリエチレンの融点より低い温度まで加熱して、その照射工程の間に該超高分子量ポリエチレンの中に作り出されるフリーラジカルのかなりの部分を消滅させた。ポリマー組成物4B、4C及び4D(本発明)は、次いで、該ポリエチレンを膨潤させ、かつ、スクアランの少なくとも一部分をそれら試料の中に分散させるのに十分な条件の下、該スクアラン中に浸漬させた。とりわけ、ポリマー組成物4Bは、約90℃の温度で約24時間の間、スクアラン中に浸漬させ、ポリマー組成物4Cは、約100℃の温度で約72時間の間、スクアラン中に浸漬させ、また、ポリマー組成物4Dは、約120℃の温度で約72時間の間、スクアランに浸漬させた。ポリマー組成物4A(比較)は、非極性生体親和性脂質に浸漬させなかった。
【0049】
次いで、ポリマー組成物4B、4C及び4Dを秤量して、それら試料の各々に含有されている脂質(即ち、スクアラン)の量を決定した。示差走査熱量測定(DSC)を用いて、それらポリマー組成物の各々について更に試験を行い、それの結晶化度を決定した。次いで、ポリマー組成物4B、4C及び4Dのための示差走査熱量測定試験によって生じた測定結晶化度値は、それらポリマー組成物の各々に含有されている脂質を考慮して修正した。これらの測定及び計算の結果は、下記の表4に示す。
【表4】

【0050】
上記に示す表4のデータによって明示されるように、ポリマー組成物の自由体積の中に非極性生体親和性脂質を含有する本発明のポリマー組成物は、非極性生体親和性脂質を含有しない類似のポリマー組成物に比べていっそう低い結晶化度を示す。
割線係数プリフォームプリフォームプリフォームプリフォームプリフォームプリフォームプリフォームプリフォームプリフォームプリフォームプリフォーム
【0051】
本明細書で引用されている、刊行物、特許出願明細書及び特許明細書を包含するあらゆる引用文献は、あたかも各々の引用文献が、言及することによって、個々にかつ具体的に組み入れられるように指示されており、しかも、本明細書にそっくりそのまま開示されているのと同一程度に、言及することによって本明細書に組み入れる。
【0052】
本発明を説明している文脈における(とりわけ、特許請求の範囲の文脈における)用語「1つの(a)」及び「1つの(an)」及び「その(the;該)」及び類似の指示物の使用は、本明細書において別段の指摘がないか又は文脈によって明らかに否定されていない限り、単数と複数との両方を取り扱っているものと解釈されるべきである。用語「〜を包含(含有)する(comprising)」、「〜を有する(having)」、「〜を含有する(including)」、及び「〜を含有する(containing)」は、別段の記述がない限り、制限のない用語(open-ended terms)[即ち、「〜を包含(含有)するが…に限定されない(including, but not limited to)」を意味する用語]と解釈されるべきである。本明細書における数値の範囲の列挙は単に、本明細書において別段の指摘がない限り、その範囲に入る各々の離れた数値を別々に表わす略記法として役立つように意図されている。また、各々の離れた数値は、あたかもそれが本明細書中で別々に列挙されているかのように、本明細書に組み入れる。本明細書に記載される全ての方法は、本明細書において別段の指摘がないか又はさもなければ文脈によって明らかに否定されていない限り、適切な如何なる順序で実施してもよい。本明細書に与えられている全ての例、又は典型的な用語(例えば、「〜のような(such as)」)は、本発明をより良く説明するように意図されているだけであって、別段の主張がされていない限り、本発明の範囲の制限を主張するものではない。本明細書における如何なる用語も、本発明を実施するのに不可欠である何らかの請求懈怠要素(non-claimed element)を表わしていると解釈されるべきである。
【0053】
本発明の好ましい諸具体例であって、本発明者らに知られている、本発明を実施するための最良の形態を包含する諸具体例が、本明細書に記載されている。それらの好ましい具体例の変形は、前記の記載を読めば、当業者には明らかになるであろう。本発明者らは、適切であるそのような変形を当業者が利用するものと思うし、また、本発明者らは、本明細書に具体的に記載されているもの以外の別のやり方で本発明が実施されることを意図している。従って、本発明は、準拠法によって認められる特許請求の範囲に列挙される主題(subject matter)の変形物及び同等物の全てを包含する。更に、それらの全ての潜在的変形物に関する上記諸要素のあらゆる組合せは、本明細書において別段の指摘がないか又はさもなければ文脈によって明らかに否定されていない限り、本発明に含まれる。
【0054】
〔実施の態様〕
(1)ポリマー組成物であって、
(a)自由体積を有する、架橋ポリエチレン分子のマトリックスと、
(b)スクアラン、脂肪酸、グリセリド、ポリイソプレノイド、コレステロール、コレステロールエステル、及び、それらの混合物から成る群から選ばれる少なくとも1種の非極性生体親和性脂質と、を含み、
前記少なくとも1種の非極性生体親和性脂質は、前記マトリックスの前記自由体積の少なくとも一部分を満たしている、を含有している、ポリマー組成物。
(2)実施態様1記載のポリマー組成物であって、
非極性生体親和性脂質はポリイソプレノイドである、ポリマー組成物。
(3)実施態様2記載のポリマー組成物であって、
前記非極性生体親和性脂質は、スクアラン、スクアレン、及び、それらの混合物から成る群から選ばれている、ポリマー組成物。
(4)実施態様1記載のポリマー組成物であって、
前記非極性生体親和性脂質は、前記ポリマー組成物の全重量に基づき該ポリマー組成物を1重量%〜60重量%含有している、ポリマー組成物。
(5)実施態様1記載のポリマー組成物であって、
前記組成物は、215MPa以下のヤング率(E)を有している、ポリマー組成物。
(6)実施態様1記載のポリマー組成物であって、
前記組成物は、20%伸び率における90MPa以下の割線係数(secant modulus)を有している、ポリマー組成物。
(7)実施態様1記載のポリマー組成物であって、
前記組成物は、550MPa以下の貯蔵弾性率(E’)を有している、ポリマー組成物。
(8)実施態様1記載のポリマー組成物であって、
前記組成物は、45MPa以下の損失弾性率(E”)を有している、ポリマー組成物。
(9)ポリマー組成物の製造方法であって、
(a)400,000原子質量単位以上の重量平均分子量を有する超高分子量ポリエチレンを含有するプリフォームを提供する工程と、
(b)スクアラン、脂肪酸、グリセリド、ポリイソプレノイド、コレステロール、コレステロールエステル、及びそれらの混合物から成る群から選ばれる少なくとも1種の非極性生体親和性脂質を含有する溶液を提供する工程と、
(c)前記プリフォームの少なくとも一部分を前記溶液と接触させて、前記超高分子量ポリエチレンを膨潤させ、かつ前記非極性生体親和性脂質を該プリフォームの少なくとも一部分の中に拡散させる工程と、
(d)工程(c)において前記溶液と接触した前記プリフォームの少なくとも前記一部分に放射線を照射して、その中に含有される前記超高分子量ポリエチレンの少なくとも一部分を架橋し、かつ、自由体積を有する架橋済みポリエチレン分子のマトリックスを含有するポリマー組成物を形成する工程であって、前記の少なくとも1種の生体親和性脂質が該マトリックスの該自由体積の少なくとも一部分を満たす工程と、
を包含する、製造方法。
(10)実施態様9記載の方法であって、
非極性生体親和性脂質はポリイソプレノイドである、方法。
(11)実施態様10記載の方法であって、
前記非極性生体親和性脂質は、スクアラン、スクアレン、及びそれらの混合物から成る群から選ぶ、方法。
(12)実施態様9記載の方法であって、
前記溶液は、工程(c)の間、80℃〜150℃の温度に維持する、方法。
(13)実施態様9記載の方法であって、
前記プリフォームは、工程(c)において、2時間以上の間、前記溶液と接触させる、方法。
(14)実施態様9記載の方法であって、
工程(c)において生成した前記プリフォーム又は工程(d)において生成した前記ポリマー組成物を乾燥して、過剰の非極性生体親和性脂質を除去し、かつ、所望の最終濃度の非極性生体親和性脂質を有するプリフォーム又はポリマー組成物を生じさせる工程を更に含有する、方法。
(15)ポリマー組成物の製造方法であって、
(a)400,000原子質量単位以上の重量平均分子量を有する超高分子量ポリエチレンを含有するプリフォームを提供する工程と、
(b)前記プリフォームの少なくとも一部分に放射線を照射して、その中に含有される前記超高分子量ポリエチレンの少なくとも一部分を架橋し、かつ、自由体積を有する架橋済みポリエチレン分子のマトリックスを含有するポリマー組成物を形成する工程と、
(c)スクアラン、脂肪酸、グリセリド、ポリイソプレノイド、コレステロール、コレステロールエステル、及びそれらの混合物から成る群から選ばれる少なくとも1種の非極性生体親和性脂質を含有する溶液を提供する工程と、
(d)前記プリフォームの少なくとも一部分を前記溶液と接触させて、前記超高分子量ポリエチレンを膨潤させ、かつ、前記非極性生体親和性脂質を前記マトリックスの前記自由体積の少なくとも一部分の中に拡散させる工程と
を包含する、製造方法。
(16)実施態様15記載の方法であって、
非極性生体親和性脂質はポリイソプレノイドである、方法。
(17)実施態様16記載の方法であって、
前記非極性生体親和性脂質は、スクアラン、スクアレン、及びそれらの混合物から成る群から選ぶ、方法。
(18)実施態様15記載の方法であって、
前記溶液は、工程(d)の間、80℃〜150℃の温度に維持する、方法。
(19)実施態様15記載の方法であって、
前記プリフォームは、2時間以上の間前記溶液と接触させる、方法。
(20)実施態様15記載の方法であって、
工程(d)において生成した前記ポリマー組成物を乾燥して、過剰の非極性生体親和性脂質を除去し、かつ、所望の最終濃度の非極性生体親和性脂質を有するポリマー組成物を生じさせる工程を更に含有する、方法。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー組成物であって、
(a)自由体積を有する、架橋ポリエチレン分子のマトリックスと、
(b)スクアラン、脂肪酸、グリセリド、ポリイソプレノイド、コレステロール、コレステロールエステル、及び、それらの混合物から成る群から選ばれる少なくとも1種の非極性生体親和性脂質と、を含み、
前記少なくとも1種の非極性生体親和性脂質は、前記マトリックスの前記自由体積の少なくとも一部分を満たしている、を含有している、ポリマー組成物。
【請求項2】
請求項1記載のポリマー組成物であって、
非極性生体親和性脂質はポリイソプレノイドである、ポリマー組成物。
【請求項3】
請求項2記載のポリマー組成物であって、
前記非極性生体親和性脂質は、スクアラン、スクアレン、及び、それらの混合物から成る群から選ばれている、ポリマー組成物。
【請求項4】
請求項1記載のポリマー組成物であって、
前記非極性生体親和性脂質は、前記ポリマー組成物の全重量に基づき該ポリマー組成物を1重量%〜60重量%含有している、ポリマー組成物。
【請求項5】
請求項1記載のポリマー組成物であって、
前記組成物は、215MPa以下のヤング率(E)を有している、ポリマー組成物。
【請求項6】
請求項1記載のポリマー組成物であって、
前記組成物は、20%伸び率における90MPa以下の割線係数(secant modulus)を有している、ポリマー組成物。
【請求項7】
請求項1記載のポリマー組成物であって、
前記組成物は、550MPa以下の貯蔵弾性率(E’)を有している、ポリマー組成物。
【請求項8】
請求項1記載のポリマー組成物であって、
前記組成物は、45MPa以下の損失弾性率(E”)を有している、ポリマー組成物。
【請求項9】
ポリマー組成物の製造方法であって、
(a)400,000原子質量単位以上の重量平均分子量を有する超高分子量ポリエチレンを含有するプリフォームを提供する工程と、
(b)スクアラン、脂肪酸、グリセリド、ポリイソプレノイド、コレステロール、コレステロールエステル、及び、それらの混合物から成る群から選ばれる少なくとも1種の非極性生体親和性脂質を含有する溶液を提供する工程と、
(c)前記プリフォームの少なくとも一部分を前記溶液と接触させて、前記超高分子量ポリエチレンを膨潤させ、かつ、前記非極性生体親和性脂質を該プリフォームの少なくとも一部分の中に拡散させる工程と、
(d)工程(c)において前記溶液と接触した前記プリフォームの少なくとも前記一部分に放射線を照射して、その中に含有される前記超高分子量ポリエチレンの少なくとも一部分を架橋し、かつ、自由体積を有する架橋済みポリエチレン分子のマトリックスを含有するポリマー組成物を形成する工程であって、前記の少なくとも1種の生体親和性脂質が該マトリックスの該自由体積の少なくとも一部分を満たす工程と、
を包含する、製造方法。
【請求項10】
ポリマー組成物の製造方法であって、
(a)400,000原子質量単位以上の重量平均分子量を有する超高分子量ポリエチレンを含有するプリフォームを提供する工程と、
(b)前記プリフォームの少なくとも一部分に放射線を照射して、その中に含有される前記超高分子量ポリエチレンの少なくとも一部分を架橋し、かつ、自由体積を有する架橋済みポリエチレン分子のマトリックスを含有するポリマー組成物を形成する工程と、
(c)スクアラン、脂肪酸、グリセリド、ポリイソプレノイド、コレステロール、コレステロールエステル、及び、それらの混合物から成る群から選ばれる少なくとも1種の非極性生体親和性脂質を含有する溶液を提供する工程と、
(d)前記プリフォームの少なくとも一部分を前記溶液と接触させて、前記超高分子量ポリエチレンを膨潤させ、かつ、前記非極性生体親和性脂質を前記マトリックスの前記自由体積の少なくとも一部分の中に拡散させる工程と、
を包含する、製造方法。

【公開番号】特開2006−176784(P2006−176784A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2005−370553(P2005−370553)
【出願日】平成17年12月22日(2005.12.22)
【出願人】(501384115)デピュイ・プロダクツ・インコーポレイテッド (216)
【Fターム(参考)】