説明

架橋ポリマー組成物およびその使用方法

【課題】生来の表面の間の接着を達成し組織の増強を達成する
【解決手段】架橋ポリマー組成物は、共有結合により複数の求電子性基を有する第2の合成ポリマーに結合される複数の求核性基を含む第1の合成ポリマーを含む。第1の合成ポリマーは、好ましくは、複数の求核性基を含むように修飾された、合成ポリペプチドまたはポリエチレングリコールである。第2の合成ポリマーは、親水性または疎水性合成ポリマーであってもよく、これは、2個以上の求電子性基を含むか、または含むように誘導体化されている。本組成物は、さらに、他の成分を含み得る。また、架橋ポリマー組成物を使用することにより、第1の表面と第2の表面との間の接着を達成する方法、組織増強を達成する方法、外科的接着の形成を防止する方法、および合成インプラントの表面をコーティングする方法も開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(相互参照)
本出願は、米国特許出願第08/573,799号(1995年12月18日出願)の一部継続出願である。この出願は、そのすべてにおいて本明細書中において参考として援用される。そしてこの出願に基づいて、本出願人は、米国特許法第120条による優先権を主張する。
【0002】
(発明の分野)
本発明は、一般的に、複数の求電子性基を含む第2の合成ポリマーを用いて架橋した複数の求核性基を含む第1の合成ポリマーを含む架橋ポリマー組成物、ならびにそのような組成物を、生物接着剤として使用する方法、組織増強のために使用する方法、外科的接着の防止に使用する方法、および合成インプラントの表面のコーティングのために使用する方法、薬物送達マトリックスとして使用する方法、ならびに眼科的用途のために使用する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
(発明の背景)
Rheeら、および本発明の譲受人に共有される米国特許第5,162,430号(1992年11月10日発行)は、コラーゲンを合成親水性ポリマー(例えば、ポリエチレングリコールの様々な誘導体)に共有結合させることにより調製されるコラーゲン合成ポリマー結合体を開示する。
【0004】
Rheeらに共有される米国特許第5,324,775号(1994年6月28日発行)は、合成、非免疫原性、親水性ポリエチレングリコールポリマーに共有結合した、様々な挿入、天然に存在する、生体適合性ポリマー(例えば、ポリサッカライド)を開示する。
【0005】
Rheeらに共有される米国特許第5,328,955号(1994年7月12日発行)は、ポリエチレングリコールの様々な活性化形態およびコラーゲンを生成するのに使用され得る様々な結合−ある範囲の物理的および化学的特性を有する合成ポリマー結合体を開示する。
【0006】
共有される、同時係属中の米国特許出願第08/403,358号(1995年3月14日出願)は、疎水性架橋剤または親水性架橋剤と疎水性架橋剤との混合物を用いて調製される架橋生物材料組成物を開示する。好ましい疎水性架橋剤は、2個以上のスクシンイミジル基を含むかまたは含むように化学的に誘導体化され得る任意の疎水性ポリマーを含む。
【0007】
共有される、同時係属中の米国特許出願第08/403,360号(1995年3月14日出願)は、基質材料および抗接着結合剤(anti−adhesion binding agent)を含む、外科的接着の防止に有用な組成物を開示する。ここで、当該基質材料は、好ましくは、コラーゲンおよび結合剤を含み、好ましくは、少なくとも1つの組織反応性官能基および少なくとも1つの基質反応性官能基を含む。
【0008】
Rheeらに共有される米国特許出願第08/476,825号(1995年6月7日出願)は、多官能性に活性化された合成親水性ポリマーを用いて架橋されたコラーゲンを含む、生物接着剤組成物、ならびにそのような組成物を用いて、第1の表面と第2の表面との間の接着を達成する方法(ここで、第1の表面および第2の表面のうちの少なくとも1つは、好ましくは、生来の組織表面である)を開示する。
【0009】
日本国特許公報第07090241号は、材料を加工デバイスに取り付けるため、レンズ材料の支持体への仮の接着に使用される組成物を開示する。この組成物は、1000〜5000の範囲の平均分子量を有するポリエチレングリコール、および30,000〜200,0000の範囲の平均分子量を有するポリ−N−ビニルピロリドンの混合物を含む。
【0010】
WestおよびHubbell、Biomaterials (1995) 16:1153〜1156は、光重合したポリエチレングリコール−コ−乳酸ジアクリレートヒドロゲルおよび物理的に架橋したポリエチレングリコール−コ−ポリプロピレングリコールヒドロゲル、Poloxamer 407(登録商標)を使用する手術後(post−operative)接着の防止を開示する。
【0011】
上記および本明細書中で引用したそれぞれの刊行物は、それが引用された主題を記載しそして開示するために、その全体が本明細書中に参考として援用される。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、ここで本発明の好ましい実施態様の詳細な説明を開示する。本発明の好ましい実施態様は、複数の求電子性基を含む合成ポリマーを用いて架橋された、複数の求核性基を含む合成ポリマーを含む架橋ポリマー組成物と、第1の表面および第2の表面(ここで、第1の表面および第2の表面のうちの少なくとも1つは、好ましくは、生来の表面である)の間の接着を達成するため、または組織の増強を達成するため、あるいは外科的接着を防止するため、あるいは合成インプラントの表面をコーティングするため、あるいは薬物もしくは他の活性な薬剤を送達するため、あるいは眼的用途のためのこれらの組成物の使用方法を含む。
【0013】
本発明によると、以下の項目1〜65が提供され、上記目的が達成される。
【0014】
(項目1)求核性基を有する第1の合成ポリマーおよび求電子性基を有する第2の合成ポリマーを含む組成物であって、ここで、該求核性基および該求電子性基が反応し得ることにより該第1の合成ポリマーと該第2の合成ポリマーとの間に共有結合を形成し得、その結果として3次元マトリックスの形成をもたらす、組成物。
【0015】
(項目2)前記第1の合成ポリマーがm個の求核性基を有し、そして前記第2の合成ポリマーがn個の求電子性基を有し、ここで、mおよびnがそれぞれ2以上であり、そしてm+nが5以上である、項目1に記載の組成物。
【0016】
(項目3)mが2以上であり、そしてnが2である、項目2に記載の組成物。
【0017】
(項目4)mが2であり、そしてnが2以上である、項目2に記載の組成物。
【0018】
(項目5)mおよびnがそれぞれ3以上である、項目2に記載の組成物。
【0019】
(項目6)前記第1の合成ポリマーが、1級アミノ基およびチオール基から選択される、2個以上の求核性基を含む合成ポリペプチドである、項目1に記載の組成物。
【0020】
(項目7)前記第1の合成ポリマーが、2個以上のリジン残基を含む合成ポリペプチドである、項目6に記載の組成物。
【0021】
(項目8)前記合成ポリペプチドがポリ(リジン)である、項目7に記載の組成物。
【0022】
(項目9)前記第1の合成ポリマーが、2個以上のシステイン残基を含む合成ポリペプチドである、項目6に記載の組成物。
【0023】
(項目10)前記第1の合成ポリマーが、1級アミノ基およびチオール基から選択される2個以上の求核性基を含むように修飾されているポリエチレングリコールである、項目1に記載の組成物。
【0024】
(項目11)前記第2の合成ポリマーが、2個以上の求電子性基を含む合成親水性ポリマーである、項目1に記載の組成物。
【0025】
(項目12)前記合成親水性ポリマーが2個以上のスクシンイミジル基を含む、項目10に記載の組成物。
【0026】
(項目13)前記合成親水性ポリマーがポリエチレングリコール誘導体である、項目10に記載の組成物。
【0027】
(項目14)前記第2の合成ポリマーが、2個以上のスクシンイミジル基を含む合成疎水性ポリマーである、項目1に記載の組成物。
【0028】
(項目15)前記合成疎水性ポリマーが、ジスクシンイミジルスベレート、ビス(スルホスクシンイミジル)スベレート、ジチオビス(スクシンイミジルプロピオネート)、ビス(2−スクシンイミドオキシカルボニルオキシ)エチルスルホン、3,3’−ジチオビス(スルホスクシンイミジルプロピオネート)、ならびにそれらのアナログおよび誘導体からなる群から選択される、項目11に記載の組成物。
【0029】
(項目16)前記合成疎水性ポリマーが、2個以上のスクシンイミジル基を含むように化学的に誘導体化されている、項目13に記載の組成物。
【0030】
(項目17)前記疎水性ポリマーがポリ酸である、項目15に記載の組成物。
【0031】
(項目18)前記ポリ酸が、トリメチロールプロパンベースのトリカルボン酸、ジ(トリメチロールプロパン)ベースのテトラカルボン酸、ヘプタン二酸、オクタン二酸、およびヘキサデカン二酸からなる群から選択される、項目16に記載の組成物。
【0032】
(項目19)ポリサッカライドまたはタンパク質をさらに含む、項目1に記載の組成物。
【0033】
(項目20)前記ポリサッカライドがグリコサミノグリカンである、項目18に記載の組成物。
【0034】
(項目21)前記グリコサミノグリカンが、ヒアルロン酸、キチン、コンドロイチン硫酸A、コンドロイチン硫酸B、コンドロイチン硫酸C、ケラチン硫酸、ケラト硫酸、ヘパリン、およびそれらの誘導体からなる群から選択される、項目19に記載の組成物。
【0035】
(項目22)前記タンパク質がコラーゲンまたはその誘導体である、項目18に記載の組成物。
【0036】
(項目23)1級アミノ基を有する第1のポリエチレングリコール、およびスクシンイミジル基を有する第2のポリエチレングリコールを含む組成物。
【0037】
(項目24)前記第1のポリエチレングリコールが、m個の1級アミノ基を有し、そして前記第2のポリエチレングリコールがn個のスクシンイミジル基を有し、ここで、mおよびnはそれぞれ2以上であり、そしてm+nが5以上である、項目23に記載の組成物。
【0038】
(項目25)mが3より大きく、そしてnが2である、項目24に記載の組成物。
【0039】
(項目26)mが2であり、そしてnが3以上である、項目24に記載の組成物。
【0040】
(項目27)mおよびnがそれぞれ3以上である、項目24に記載の組成物。
【0041】
(項目28)天然のポリサッカライドまたは天然のタンパク質をさらに含む、項目23に記載の組成物。
【0042】
(項目29)前記天然のポリサッカライドがグリコサミノグリカンである、項目28に記載の組成物。
【0043】
(項目30)前記グリコサミノグリカンが、ヒアルロン酸、キチン、コンドロイチン硫酸A、コンドロイチン硫酸B、コンドロイチン硫酸C、ケラチン硫酸、ケラト硫酸、ヘパリン、およびそれらの誘導体からなる群から選択される、項目29に記載の組成物。
【0044】
(項目31)前記天然のタンパク質がコラーゲンまたはその誘導体である、項目28に記載の組成物。
【0045】
(項目32)第1の表面の第2の表面への非外科的な付着を達成するための方法であって、以下の工程を包含する、方法:
求核性基を含む第1の合成ポリマーおよび求電子性基を含む第2の合成ポリマーを提供する工程;
該第1の合成ポリマーおよび該第2の合成ポリマーを混合して架橋を開始する工程;
実質的な架橋が起こる前に、該混合物を第1の表面に塗布する工程;および
該第1の表面を第2の表面に接触させて、該第1の表面と該第2の表面との間の接着を達成する工程。
【0046】
(項目33)前記第1の合成ポリマーがm個の求核性基を有し、そして前記第2の合成ポリマーがn個の求電子性基を有し、ここで、mおよびnがそれぞれ2以上であり、そしてm+nが5以上である、項目32に記載の方法。
【0047】
(項目34)前記第1の表面および前記第2の表面のうちの1つが生来の組織表面であり、そして該第1の表面および該第2の表面のうちの他方が非生来の組織表面および合成インプラントの表面から選択される、項目32に記載の方法。
【0048】
(項目35.前記第1の表面および前記第2の表面の両方が生来の組織表面である、項目32に記載の方法。
【0049】
(項目36)架橋合成ポリマー組成物を哺乳動物検体の体内の組織中に導入するための方法であって、以下の工程を包含する、方法: 求核性基を含む第1の合成ポリマーおよび求電子性基を含む第2の合成ポリマーを提供する工程;
該第1の合成ポリマーおよび該第2の合成ポリマーを同時に組織に投与する工程;および
該第1の合成ポリマーおよび該第2の合成ポリマーをインサイチュで架橋させる工程。
【0050】
(項目37)前記第1の合成ポリマーがm個の求核性基を有し、そして前記第2の合成ポリマーがn個の求電子性基を有し、ここで、mおよびnがそれぞれ2以上であり、そしてm+nが5以上である、項目36に記載の方法。
【0051】
(項目38)前記組織が柔組織である、項目36に記載の方法。
【0052】
(項目39)前記組織が硬組織である、項目36に記載の方法。
【0053】
(項目40)前記第1の合成ポリマーおよび前記第2の合成ポリマーが、2区画シリンジの別々の円筒部に含まれ、そして該2区画シリンジから投与される、項目36に記載の方法。
【0054】
(項目41)前記第1の合成ポリマーおよび前記第2の合成ポリマーを投与の前に混合することにより混合物を形成するさらなる工程を含み、ここで、該混合物が混合後60秒以内に投与される、項目36に記載の方法。
【0055】
(項目42)第1の組織および第2の組織の接着を防止する方法であって、以下の工程を包含する、方法:
求核性基を含む第1の合成ポリマーおよび求電子性基を含む第2の合成ポリマーを提供する工程;
該第1の合成ポリマーおよび該第2の合成ポリマーを混合することにより混合物を形成して、架橋を開始する工程;
実質的な架橋が起こる前に該混合物を該第1の組織に塗布する工程;および
該第1の合成ポリマーおよび該第2の合成ポリマーをインサイチュで架橋させ続ける工程。
【0056】
(項目43)前記第1の合成ポリマーがm個の求核性基を有し、そして前記第2の合成ポリマーがn個の求電子性基を有し、ここで、mおよびnがそれぞれ2以上であり、そしてm+nが5以上である、項目42に記載の方法。
【0057】
(項目44)合成インプラントの表面をコーティングする方法であって、以下の工程を包含する、方法:
求核性基を含む第1の合成ポリマーおよび求電子性基を含む第2の合成ポリマーを提供する工程;
該第1の合成ポリマーおよび該第2の合成ポリマーを混合することにより混合物を形成して、架橋を開始する工程;
該混合物を合成インプラントの表面に塗布する工程;および
該第1の合成ポリマーおよび該第2の合成ポリマーを該合成インプラントの表面上で互いに架橋させる工程。
【0058】
(項目45)前記第1の合成ポリマーがm個の求核性基を有し、そして前記第2の合成ポリマーがn個の求電子性基を有し、ここで、mおよびnがそれぞれ2以上であり、そしてm+nが5以上である、項目44に記載の方法。
【0059】
(項目46)前記合成インプラントが、人工血管、人工心臓弁、血管グラフト、血管ステント、血管ステント/グラフトの組み合わせ、外科用膜、外科用メッシュ、および胸部インプラントからなる群から選択される、項目44に記載の方法。
【0060】
(項目47)前記混合物が中性の正味電荷を有する、項目44に記載の方法。
【0061】
(項目48)負に帯電した化合物の哺乳動物検体への送達に有用な、負に帯電した化合物を含有するマトリックスを調製する方法であって、以下の工程を包含する、方法:
求核性基を含む第1の合成ポリマーおよび求電子性基を含む第2の合成ポリマーを提供する工程;
該第1の合成ポリマーおよび該第2の合成ポリマーを混合することにより混合物を形成して、架橋を開始する工程であって、ここで、該第1の合成ポリマーは、該第2の合成ポリマーに比較してモル過剰で該混合物中に存在する、工程;
該第1の合成ポリマーおよび該第2の合成ポリマーを架橋させ続けて正に帯電した架橋合成ポリマーマトリックスを形成する工程;および
該マトリックスを該負に帯電した化合物と反応させる工程。
【0062】
(項目49)前記第1の合成ポリマーがm個の求核性基を有し、そして前記第2の合成ポリマーがn個の求電子性基を有し、ここで、mおよびnがそれぞれ2以上であり、そしてm+nが5以上である、項目48に記載の方法。
【0063】
(項目50)前記第1の合成ポリマーが、ポリエチレングリコールであり、そして前記求核性基が、1級アミノ基およびチオール基から選択される、項目48に記載の方法。
【0064】
(項目51)前記第2の合成ポリマーがポリエチレングリコール誘導体であり、そして前記求電子性基がスクシンイミジル基である、項目48に記載の方法。
【0065】
(項目52)前記負に帯電した化合物がスクシニル化コラーゲンである、項目48に記載の方法。
【0066】
(項目53)前記負に帯電した化合物が、ヒアルロン酸ナトリウム、ケラタン硫酸、ケラト硫酸、コンドロイチン硫酸Aナトリウム、デルマタン硫酸Bナトリウム、コンドロイチン硫酸Cナトリウム、ヘパリン、エステル化コンドロイチン硫酸C、エステル化ヘパリン、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、負に帯電したグリコサミノグリカン誘導体である、項目48に記載の方法。
【0067】
(項目54)正に帯電した化合物の哺乳動物検体への送達に有用な、正に帯電した化合物を含有するマトリックスを調製する方法であって、以下の工程を包含する、方法:
求核性基を含む第1の合成ポリマーおよび求電子性基を含む第2の合成ポリマーを提供する工程;
該第1の合成ポリマーおよび該第2の合成ポリマーを混合することにより混合物を形成して、架橋を開始する工程であって、ここで、該第2の合成ポリマーは、該第2の合成ポリマーに比較してモル過剰で該混合物中に存在する、工程;
該第1の合成ポリマーおよび該第2の合成ポリマーを架橋させ続けて負に帯電した架橋合成ポリマーマトリックスを形成する工程;および
該マトリックスを該正に帯電した化合物と反応させる工程。
【0068】
(項目55)前記第1の合成ポリマーがm個の求核性基を有し、そして前記第2の合成ポリマーがn個の求電子性基を有し、ここで、mおよびnがそれぞれ2以上であり、そしてm+nが5以上である、項目54に記載の方法。
【0069】
(項目56)前記第1の合成ポリマーが、ポリエチレングリコールであり、そして前記求核性基が、1級アミノ基およびチオール基から選択される、項目54に記載の方法。
【0070】
(項目57)前記第2の合成ポリマーがポリエチレングリコールであり、そして前記求電子性基がスクシンイミジル基である、項目54に記載の方法。
【0071】
(項目58)前記正に帯電した化合物がメチル化コラーゲンである、項目54に記載の方法。
【0072】
(項目59)前記正に帯電した化合物が、エステル化脱アセチル化ヒアルロン酸、エステル化脱アセチル化脱硫酸化コンドロイチン硫酸A、エステル化脱アセチル化脱硫酸化コンドロイチン硫酸C、脱アセチル化脱硫酸化ケラチン硫酸、脱アセチル化脱硫酸化ケラト硫酸、エステル化脱硫酸化ヘパリン、キトサン、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、グリコサミノグリカン誘導体である、項目54に記載の方法。
【0073】
(項目60)合成レンズの作成方法であって、以下の工程を包含する、方法:
求核性基を含む第1の合成ポリマーおよび求電子性基を含む第2の合成ポリマーを提供する工程;
該第1の合成ポリマーおよび該第2の合成ポリマーを混合することにより混合物を形成して、架橋を開始する工程;
該混合物をレンズ形状の型の中に、または目の表面上に配置する工程;および
該第1の合成ポリマーおよび該第2の合成ポリマーを架橋させ続けて透明なレンズを形成する工程。
【0074】
(項目61)前記第1の合成ポリマーがm個の求核性基を有し、そして前記第2の合成ポリマーがn個の求電子性基を有し、ここで、mおよびnがそれぞれ2以上であり、そしてm+nが5以上である、項目60に記載の方法。
【0075】
(項目62)前記第1の合成ポリマーが、ポリエチレングリコールであり、そして前記求核性基が、1級アミノ基およびチオール基から選択される、項目60に記載の方法。
【0076】
(項目63)前記第2の合成ポリマーがポリエチレングリコール誘導体であり、そして前記求電子性基がスクシンイミジル基である、項目60に記載の方法。
【0077】
(項目64)さらにタンパク質を含む、項目60に記載の方法。
【0078】
(項目65)前記タンパク質がコラーゲンまたはその誘導体である、項目64に記載の方法。
【0079】
(発明の要旨)
本発明は、2個以上の求核性基を含む第1の合成ポリマーおよび2個以上の求電子性基を含む第2の合成ポリマーを含み、これらが互いに共有結合して3次元マトリックスを形成し得る、架橋ポリマー組成物を開示する。
【0080】
本発明の好ましい組成物は、第1の合成ポリマーとしての、2個以上の1級アミノ基を含むポリエチレングリコールと、第2の合成ポリマーとしての、2個以上のスクシンイミジル基(本明細書中で−N(COCHとして表される5員環構造)を含むポリエチレングリコールとを含む。
【0081】
負に帯電した化合物(例えば、タンパク質または薬物)を送達するための組成物を調製する一般的な方法において、2個以上の求核性基を含む第1の合成ポリマーは、2個以上の求電子性基を含む第2の合成ポリマーと反応する。ここで第1の合成ポリマーは、第2の合成ポリマーと比較してモル過剰で存在し、正に帯電したマトリックスを形成し、次いで負に帯電した化合物と反応する。正に帯電した化合物を送達するためのマトリックスを調製する一般的な方法において、2個以上の求核性基を含む第1の合成ポリマーは、2個以上の求電子性基を含む第2の合成ポリマーと反応する。ここで第2の合成ポリマーは、第1の合成ポリマーと比較してモル過剰で存在し、負に帯電したマトリックスを形成し、次いで正に帯電した化合物と反応する。
【0082】
第1の表面の第2の表面への非外科的な付着を達成するための一般的な方法において、2個以上の求核性基を含む第1の合成ポリマーは、2個以上の求電子性基を含む第2の合成ポリマーと混合されて反応混合物を提供し;反応混合物は、実質的な架橋が起こる前に、第1の表面に塗布され;そして第1の表面は、第2の表面に接触させられて、2つの表面の間の接着を達成する。
【0083】
哺乳動物検体の体内の柔組織または硬組織を増強する一般的な方法において、2個以上の求核性基を含む第1の合成ポリマーおよび2個以上の求電子性基を含む第2の合成ポリマーは、増強が必要とされる組織部位に同時に投与され、そして反応混合物は、インサイチュで架橋させられて組織の増強を達成する。あるいは、第1の合成ポリマーおよび第2の合成ポリマーは、架橋反応の主要部がインビボで進行するように、組織部位に投与される直前に混合され得る。
【0084】
手術後の接着の形成を防止する一般的な方法において、2個以上の求核性基を含む第1の合成ポリマーは、2個以上の求電子性基を含む第2の合成ポリマーと混合されて反応混合物を提供し;求核性基と求電子性基との間の実質的な架橋が起こる前に、反応混合物は、手術部位を含む、手術部位を囲む、もしくは手術部位に隣接する組織に塗布され;反応混合物は、架橋の平衡が達成されるまで、インサイチュでの架橋を継続させられ;そして手術部位は、従来の方法により閉じられる。
【0085】
合成インプラントの表面をコーティングする一般的な方法において、2個以上の求核性基を含む第1の合成ポリマーは、2個以上の求電子性基を含む第2の合成ポリマーと混合されて反応混合物を提供し; 反応混合物は、合成インプラントの表面に塗布され;そして反応混合物の成分は、インプラントの表面上で互いに架橋させられる。
【0086】
本発明の特徴は、架橋ポリマー組成物が光学的に透明であり、本発明の組成物および方法が、光学的透明度が要求される眼的用途における使用に特に適切になることである。さらに、本発明の組成物は、生体適合性、非免疫原性成分で構成され、投与される組織部位において毒性の、潜在的に炎症性または免疫原性の反応産物を残さない。
【0087】
本発明の別の特徴は、架橋ポリマー組成物が高い圧縮強度および高い膨潤性(swellability)を有すること、すなわち、乾燥された組成物は、再水和の際にその乾燥サイズの3倍(またはそれ以上)に膨潤すること、およびより「弾性的」であることである。これらのポリマーは、一般的に非常に親水性であるので、これらは、より容易に注射される。すなわち、架橋組成物は、細いゲージ(gague)(27〜30ゲージ)の針を通して注射される際、「粘着性の塊」として存在する。
【0088】
本発明のさらに別の特徴は、第1の合成ポリマーの求核性基が、投与の組織部位でコラーゲン分子のリジン残基上の1級アミノ基に共有結合し得、事実上、組成物を宿主組織に「生物学的に固着(anchor)させる」ことである。
【0089】
本発明の1つの特徴は、組成物の成分が非免疫原性であり、そして処置を開始する前に、現在利用可能な異種間のコラーゲン組成物(例えば、ウシの皮膚から製造されるもの)において行われているように「皮膚試験」をする必要がないことである。
【0090】
本発明の別の特徴は、コラーゲンと異なり、本発明の組成物が、マトリックスメタロプロテイナーゼ(例えば、コラゲナーゼ)により酵素的切断に供されないことであり、そしてそれゆえに、インビボにおいて容易に分解せず、従来技術のコラーゲン組成物よりもインビボにおいて、非常に長期の持続性を有することが期待されることである。
【0091】
さらに別の特徴は、利用されるポリマーのそれぞれの基が反応してアミド結合を形成する際に、本発明の組成物の製造が、高度に制御され得、より均一な製品の品質となることである。
【0092】
(発明の好ましい実施態様の詳細な説明)
本発明によれば、2個以上の求核性基を含む第1の合成ポリマーを、第1の合成ポリマーの求核性基と共有結合し得る2個以上の求電子性基を含む第2の合成ポリマーと反応させることにより、架橋ポリマー組成物が調製される。
【0093】
本発明の組成物は、非免疫原性であり、そして例えば、異種間コラーゲンのような、処置開始前の「皮膚試験」を必要としない。また、コラーゲンと異なり、本発明の組成物は、マトリックスメタロプロテイナーゼ(例えば、コラゲナーゼ)による酵素的切断に供されず、そしてそれゆえ、現在利用可能なコラーゲン組成物よりも、インビボにおいて、非常に長期の持続性を有することが期待される。
【0094】
本発明の背景の概念は、複数の求核性基(以下「X」として表される)を含む合成ポリマーが複数の求電子性基(以下「Y」として表される)を含む合成ポリマーと反応して、結果として以下のような共有結合ポリマーネットワークが得られることである。
【0095】
ポリマー−X + ポリマー−Y → ポリマー−Z−ポリマー
ここで、m>2、n>2であり、そしてm+n>5であり;
Xは、−NH、−SH、−OH、−PH、−CO−NH−NHなどであり、そして同じであってもよくまたは異なってもよく;
Yは、−CON(COCH、−COH、−CHO、−CHOCH、−N=C=O、−SOCH=CH、−N(COCH))、−S−S−(CN)などであり、そして同じであってもよくまたは異なってもよく;そして
Zは、求核性基(X)および求電子性基(Y)の結合から得られる官能基である。
【0096】
上記のように、XおよびYは、同じであってもよくまたは異なってもよく、すなわち、ポリマーは、2個の異なる求電子性基を有してもよく、または2個の異なる求核性基を有してもよい(例えば、グルタチオンのように)こともまた本発明により意図される。
【0097】
各ポリマーの骨格は、好ましくは、アルキレンオキサイドであり、特に、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、およびそれらの混合物である。2官能性アルキレンオキサイドの例は、以下で表される:
X−ポリマー−X Y−ポリマー−Y
ここでXおよびYは、上記の通りであり、そして用語「ポリマー」は、
−(CHCHO)− または −(CH(CH)CHO)− または −(CHCHO)−(CH(CH)CHO)− を表す。
【0098】
必要な官能基XまたはYは、結合基(以下「Q」として表される)により共通してポリマー骨格にカップリングされ、それらの多くは、公知であるか、または可能である。様々な官能性化ポリマーを調製する多くの方法がある。そのいくつかを以下に示す:
ポリマー−Q−X + ポリマー−Q−Y → ポリマー−Q−Z−Q−ポリマー−
ここで
【0099】
【数1】


ここでnは、それぞれの場合において1〜10であり;
は、H、CH、Cなどであり;
は、CH、CO−NH−CHCHである。
およびQは、同じであってもよく、または異なってもよい。
【0100】
例えば、QがOCHCHであり(この場合Qはない);Yが−CON(COCHであり;そしてXが−NH、−SH、または−OHである場合、得られる反応およびZ基は、以下の通りである:
ポリマー−NH + ポリマー−OCHCHCO−N(COCH
ポリマー−NH−OCHCHCO−ポリマー
(アミド)
ポリマー−SH + ポリマー−OCHCHCO−N(COCH
ポリマー−S−OCHCHCO−ポリマー
(チオエステル)
ポリマー−OH + ポリマー−OCHCHCO−N(COCH
ポリマー−O−OCHCHCO−ポリマー
(エステル)
架橋ポリマー組成物のインビボでの分解を増加させるために(例えば、薬物送達用途の使用のため)、さらなる基(以下に「D」と表す)が、ポリマーと結合基との間に挿入され得る。
【0101】
ポリマー−D−Q−X + ポリマー−D−Q−Y →
ポリマー−D−Q−Z−Q−D−ポリマー−
いくつかの有用な生分解性基「D」は、ラクチド、グリコリド、ε−カプロラクトン、ポリ(α−ヒドロキシ酸)、ポリ(アミノ酸)、ポリ(酸無水物)、および様々なジ−ペプチドもしくはトリ−ペプチドを含む。
【0102】
(合成ポリマー)
本発明の組成物を調製するために、1級アミノ酸またはチオール基のような、2個以上の求核性基を有する第1の合成ポリマー、およびその合成ポリマー上の求核性基と共有結合する能力のある2個以上の求電子性基を含む第2の合成ポリマーを提供する必要がまずある。
【0103】
本明細書中で使用される用語「ポリマー」は、とりわけポリアルキル、ポリアミノ酸およびポリサッカライドをいう。加えて、外用および経口用のためにはポリマーはポリアクリル酸またはカルボポールであり得る。
【0104】
本明細書中で使用される用語「合成ポリマー」は、天然には存在せず、化学合成を経て生成されるポリマーをいう。そのようなものとして、コラーゲンのような天然のタンパク質およびヒアルロン酸のような天然のポリサッカライドは特別に除外される。合成コラーゲン、および合成ヒアルロン酸、およびその誘導体が包含される。求核性基または求電子性基のいずれかを含む合成ポリマーはまた、本明細書中で「多官能性に活性化された合成ポリマー」といわれる。用語「多官能性に活性化された(または、単に「活性化」)は、互いに反応させて(すなわち、求核性基が求電子性基と反応する)共有結合を形成し得る2個以上の求核性基または求電子性基を有するか、または有するように化学的に修飾された合成ポリマーのことをいう。多官能性に活性化された合成ポリマーのタイプは2官能性に活性化された、4官能性に活性化された、および星状ポリマーを含む。
【0105】
本発明での使用のための多官能性に活性化された合成ポリマーは、複数の求核性基を含む合成ポリマー(すなわち「多求核性ポリマー」)との三次元架橋ネットワークを形成するためには、少なくとも2個の、より好ましくは、少なくとも3個の官能基を含まなければならない。言い換えるならば、それらは、少なくとも2官能性に活性化されねばならず、そして、より好ましくは3官能性か4官能性に活性化される。第1の合成ポリマーが2官能性活性化合成ポリマーである場合、3次元架橋ネットワークを形成するためには、第2の合成ポリマーは、3個以上の官能基を含まなければならない。最も好ましくは、第1および第2の合成ポリマーの両方は少なくとも3個の官能基を含む。
【0106】
(複数の求核性基を含む合成ポリマー)
複数の求核性基を含む合成ポリマーはまた、本明細書中では一般的に「多求核性ポリマー」といわれる。本発明における使用のために、多求核性ポリマーは少なくとも2個、より好ましくは少なくとも3個の求核性基を含まなければならない。2個しか求核性基を含まない合成ポリマーを使用する場合、3次元架橋ネットワークを得るためには、3個以上の求電子性基を含む合成ポリマーを使わなければならない。
【0107】
本発明の組成物および方法での使用のために好ましい多求核性ポリマーは、複数の1級アミノ基およびチオール基のような求核性基を含むか、あるいは含むように修飾された合成ポリマーを含む。好ましい多求核性ポリマーは以下のものを含む:(i)2個以上の1級アミノ基またはチオール基を含むように合成された合成ポリペプチド;および(ii)2個以上の1級アミノ基またはチオール基を含むように修飾されたポリエチレングリコール。一般的に、チオール基と求電子性基の反応は1級アミノ基と求電子性基の反応よりも遅く進行する傾向がある。
【0108】
好ましい多求核性ポリペプチドは、1級アミノ基を含むアミノ酸(例えば、リジン)および/またはチオール基を含むアミノ酸(例えば、システイン)を組み込むように合成された合成ポリペプチドである。アミノ酸リジン(分子量145)で合成したポリマーであるポリリジンは特に好まれる。ポリリジンは任意の場所に6〜約4000の1級アミノ基、分子量で約870〜約580,000に相当するものを有するように調製された。
【0109】
本発明での使用のためのポリリジンは好ましくは、約1,000〜約300,000の範囲の分子量を有し、より好ましくは、約5,000〜約100,000の範囲であり;最も好ましくは、約8,000〜約15,000の範囲である。多様な分子量のポリリジンは、商業的に、Peninsula Laboratories, Inc.(Belmont, CA)から入手可能である。
【0110】
ポリエチレングリコールは、例えば、Poly(ethylene Glycol) Chemistry: Biotechnical and Biomedical Applications, J Milton Harris編、Plenum Press, NY(1992)の第22章に記載された方法に従って複数の1級アミノ基またはチオール基を含むように化学的に修飾され得る。2個以上の1級アミノ基を含むように修飾されたポリエチレングリコールを、本明細書中では「多アミノPEG」という。2個以上のチオール基を含むように修飾されたポリエチレングリコールは、本明細書中では「多チオールPEG」といわれる。本明細書中で使用される用語「ポリエチレングリコール」は、修飾および/または誘導体化されたポリエチレングリコールを包含する。
【0111】
多アミノPEGの多様な形態は、Shearwater Polymers (Huntsville, AL)およびTexaco Chemical Company (Houston, TX)から、「Jeffamine」という名称で商業的に入手可能である。本発明で有用な多アミノPEGはTexaco社のJeffamineジアミン(「D」シリーズ)およびトリアミン(「T」シリーズ)を含み、これらはそれぞれ1分子当たり2個または3個の1級アミノ基を含む。Jeffamineジアミンおよびトリアミンの一般構造式は図3に示される。
【0112】
エチレンジアミン(HN−CHCH−NH)、テトラメチレンジアミン(HN−(CH−NH)、ペンタメチレンジアミン(カダベリン)(HN−(CH−NH)、ヘキサメチレンジアミン(HN−(CH−NH)、ビス(2−ヒドロキシエチル)アミン(HN−(CHCHOH))、ビス(2−アミノエチル)アミン(HN−(CHCHNH)、およびトリス(2−アミノエチル)アミン(N−(CHCHNH)のようなポリアミンもまた、複数の求核性基を含む合成ポリマーとして使用され得る。
【0113】
(複数の求電子性基を含む合成ポリマー)
複数の求電子性基を含む合成ポリマーもまた、ここでは「多求電子性ポリマー」といわれる。本発明での使用のために、多官能性に活性化された合成ポリマーは、多求核性ポリマーとの3次元架橋ネットワークを形成するためには、少なくとも2個、より好ましくは、少なくとも3個の求電子性基を含まなければならない。
【0114】
本発明の組成物における使用のために好ましい多求電子性ポリマーは、2個以上の、他の分子の求電子性基と共有結合を形成し得るスクシンイミジル基を含むポリマーである。スクシンイミジル基は、多アミノPEG、ポリリジン、またはコラーゲンのような1級アミノ基(−NH)を含有する材料と反応性が高い。スクシンイミジル基は、多チオールPEGまたは複数のシステイン残基を含む合成ポリペプチドのようなチオール基を含む材料とは僅かに反応性が低い。
【0115】
本明細書中で用いられる用語「2個以上のスクシンイミジル基を含む」は、2個以上のスクシンイミジル基を含む市販されているポリマー、ならびに2個以上のスクシンイミジル基を含むように化学的に誘導体化されるべきポリマーを包含することを意味する。本明細書中で用いられる用語「スクシンイミジル基」は、スルホスクシンイミジル基および他の「総称的な」スクシンイミジル基の変形を包含するように意図される。スルホスクシンイミジル基の亜硫酸ナトリウム部分の存在がポリマーの可溶性の増加に寄与する。
【0116】
(親水性ポリマー)
親水性ポリマーおよび、特に、多様なポリエチレングリコールは、本発明の組成物における使用について好まれる。本明細書中で用いられる用語「PEG」は、(OCHCHの繰り返し構造を有するポリマーをいう。
【0117】
特定の4官能性に活性化されたいくつかのPEGの構造は、4官能性活性化PEGと多アミノPEGとを反応させて得られた一般的な反応生成物として図4〜13に示される。図に示したように、スクシンイミジル基は、−N(COCHで表される5員環である。図4〜13で、記号^^^は開結合を示す。
【0118】
図4は、本明細書中でSG−PEGとした、4官能性活性化PEGスクシンイミジルグルタレートと多アミノPEGとの反応ならびにそれによって得られる反応生成物を示す。
【0119】
別のPEGの活性化形態は、PEGスクシンイミジルプロピオネートといわれる(SE−PEG)。4官能性活性化SE−PEG、および多アミノPEGと反応することによって得られる反応生成物の構造式を図5に示す。この化合物の一般構造式では、下付きの3をmで置き換える。図4の実施様態では、mが3であり、そこではPEGのどちらかの側にCH基が3回繰り返して存在する。
【0120】
図5の構造は、加水分解を受けにくい「エーテル」結合を含む結合体を示す。これは、図4で示された結合体とは異なっていて、ここではエステル結合が提供される。エステル結合は生理的条件下では加水分解を受ける。
【0121】
さらに別の官能性に活性化された形態のポリエチレングリコールで、mが2の場合のものを、4官能性活性化PEGと多アミノPEGとを反応させることによって形成した結合体として図6に示す。
【0122】
mが1の場合には、図5および6の化合物に類似した別の官能性に活性化されたPEGが提供される。4官能性活性化PEGの構造式、および活性化PEGを多アミノPEGと反応させて得られた結合体を図7に示す。この結合体はエーテル結合およびペプチド結合の両方を含むことを言及しておく。これらの結合は生理的条件下で安定である。
【0123】
別の官能性に活性化された形態のPEGは、PEGスクシンイミジルスクシンアミド(SSA−PEG)といわれる。この化合物の4官能性に活性化された形態の構造式、および多アミノPEGと反応することによって得られた反応生成物を図8に示す。図8に示された構造式はmが2であり;しかし、mが1またはmが3〜10の関連化合物の場合もまた、本発明の組成物において使用され得る。
【0124】
図8の構造式は前述のエーテル結合のように加水分解しにくく、従ってエステル結合以上に安定であるアミド結合を含む結合体を示す。
【0125】
mが0の場合に、さらに別のPEGの活性化された形態が提供される。この化合物はPEGスクシンイミジルカルボネート(SC−PEG)として参照される。4官能性活性化SC−PEGの構造式、および多アミノPEGと反応することによって得られた結合体を図9に示す。
【0126】
以上に議論したように、本発明における使用のための好ましい活性化ポリエチレングリコール誘導体は、反応基としてのスクシンイミジル基を含む。しかし、異なる活性基がPEG分子の長さに沿った部位に結合し得る。例えば、PEGは官能性に活性化されたPEGプロピオンアルデヒド(A−PEG)を、すなわち図10で示した4官能性に活性化された形態を形成するように誘導体化され得る。これは、結合体がA−PEGと多アミノPEGとの反応によって形成されるためである。図10に示された結合は、mが10の場合の−(CH−NH−結合として参照される。
【0127】
さらに別の形態の活性化ポリエチレングリコールは、官能性に活性化されたPEGグリシジルエーテル(E−PEG)であり、図11で示したように4官能性に活性化された化合物である。これは、結合体が多アミノPEGとそのように反応して形成したからである。
【0128】
ポリエチレングリコールの別の活性化誘導体は、官能性に活性化されたPEG−イソシアネート(I−PEG)であり、これは、多アミノPEGとの反応により形成された結合体と共に、図12に示される。
【0129】
ポリエチレングリコールの別の活性化誘導体は、官能性に活性化されたPEG−ビニルスルホン(V−PEG)であり、これは、多アミノPEGとの反応により形成された結合体と共に、図13の下部に示される。
【0130】
本発明の組成物における使用のための好ましい多官能性に活性化されたポリエチレングリコールは、スクシンイミジル基を含むポリエチレングリコール、例えば、SG−PEGおよびSE−PEG(図4〜7に示される)であり、好ましくは、3官能性または4官能性の活性化形態である。
【0131】
上記の活性化形態のポリエチレングリコールの多くは、Shearwater Polymers, Huntsville, Alabama、およびUnion Carbide, South Charleston, West Virginiaから、現在市販されている。
【0132】
(疎水性ポリマー)
疎水性ポリマーもまた、本発明の組成物を調製するために使用され得る。本発明における使用のための疎水性ポリマーは、好ましくは2個以上の求電子性基(例えば、スクシンイミジル基)、最も好ましくは2個、3個、または4個の求電子性基を含むか、または含むように誘導体化され得る。本明細書中で使用される用語「疎水性ポリマー」は、相対的に小さな割合の酸素原子または窒素原子を含むポリマーをいう。
【0133】
既に2個以上のスクシンイミジル基を含む疎水性ポリマーには、以下が挙げられるがこれらに限定されない:ジスクシンイミジルスベレート(DSS)、ビス(スルホスクシンイミジル)スベレート(BS)、ジチオビス(スクシンイミジルプロピオネート)(DSP)、ビス(2−スクシンイミドオキシカルボニルオキシ)エチルスルホン(BSOCOES)、および3,3’−ジチオビス(スルホスクシンイミジルプロピオネート)(DTSPP)、ならびにそれらのアナログおよび誘導体。上記参照のポリマーは、Pierce(Rockford, IL)から、それぞれ、カタログナンバー21555、21579、22585、21554、および21577によって入手可能である。上記参照のポリマーの構造式、ならびにこれらのポリマーの各々とアミノPEGとの反応により得られる一般化された反応生成物の構造式は、それぞれ、図14〜18の下部に示される。
【0134】
本発明における使用のための好ましい疎水性ポリマーは、一般的に、約14炭素原子を越えない炭素鎖を有する。実質的に14炭素原子よりも長い炭素鎖を有するポリマーは、一般的に、水溶液中での溶解度が非常に乏しく、そしてそのために、複数の求核性基を含む合成ポリマーの水溶液と混合される場合、反応時間が非常に長い。
【0135】
(官能基を含むためのポリマーの誘導体化)
特定のポリマー(例えば、ポリ酸)は、2個以上の官能基(例えば、スクシンイミジル基)を含むように誘導体化され得る。本発明における使用のためのポリ酸には、以下が挙げられるがこれらに限定されない:トリメチロールプロパンベースのトリカルボン酸、ジ(トリメチロールプロパン)ベースのテトラカルボン酸、ヘプタン二酸、オクタン二酸(スベリン酸)、およびヘキサデカン二酸(タプシン酸)。これらのポリ酸の多くは、DuPont Chemical Companyから市販されている。
【0136】
一般的な方法に従って、ポリ酸は、N,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)の存在下で、適切なモル量のN−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)との反応により、2個以上のスクシンイミジル基を含むように化学的に誘導体化され得る。
【0137】
ポリアルコール(例えば、トリメチロールプロパンおよびジ(トリメチロールプロパン))は、共有に係る同時出願の米国特許出願第08/403,358号に記載のように、種々の方法を使用してカルボン酸形態へと変換され得、次いで、DCCの存在下で、NHSとの反応によってさらに誘導体化されて、それぞれ、3官能性または4官能性の活性化ポリマーを生成し得る。ポリ酸(例えば、ヘプタン二酸(HOOC−(CH−COOH)、オクタン二酸(HOOC−(CH−COOH)、およびヘキサデカン二酸(HOOC−(CH14−COOH))は、スクシンイミジル基の付加によって誘導体化されて、2官能性の活性化ポリマーを形成し得る。
【0138】
ポリアミン(例えば、エチレンジアミン(HN−CHCH−NH)、テトラメチレンジアミン(HN−(CH−NH)、ペンタメチレンジアミン(カダベリン)(HN−(CH−NH)、ヘキサメチレンジアミン(HN−(CH−NH)、ビス(2−ヒドロキシエチル)アミン(HN−(CHCHOH))、ビス(2−アミノエチル)アミン(HN−(CHCHNH)、およびトリス(2−アミノエチル)アミン(N−(CHCHNH))は、ポリ酸へと化学的に誘導体化され得、次いでこれは、米国特許出願第08/403,358号に記載のように、DCCの存在下で、適切なモル量のN−ヒドロキシスクシンイミドとの反応により、2個以上のスクシンイミジル基を含むように誘導体化され得る。これらのポリアミンの多くは、DuPont Chemical Companyから市販されている。
【0139】
(架橋ポリマー組成物の調製)
本発明の架橋ポリマー組成物を調製するための一般的方法において、複数の求核性基を含む第1の合成ポリマーは、複数の求電子性基を含む第2の合成ポリマーと混合される。3次元架橋ネットワークの形成が、第1の合成ポリマー上の求核性基と第2の合成ポリマー上の求電子性基との間の反応の結果として生じる。
【0140】
以下、用語「第1の合成ポリマー」は、2個以上の求核性基を含む合成ポリマーをいうように使用され、そして用語「第2の合成ポリマー」は、2個以上の求電子性基を含む合成ポリマーをいうように使用される。本発明の組成物を調製するために使用される、第1の合成ポリマーおよび第2の合成ポリマーの濃度は、使用される特定の合成ポリマーの種類および分子量、ならびに所望の最終の使用目的を含む、多数の因子に依存して変化する。
【0141】
一般的に、本発明者らは、第1の合成ポリマーとして多アミノPEGを使用する場合、それが好ましくは最終組成物の約0.5〜約20重量%の範囲の濃度において使用され、一方で第2の合成ポリマーが最終組成物の約0.5〜約20重量%の範囲の濃度において使用されることを見出した。例えば、1グラム(1000ミリグラム)の総重量を有する最終組成物は、約5〜約200ミリグラムの多アミノPEG、および約5〜約200ミリグラムの第2の合成ポリマーを含む。
【0142】
第1および第2の両合成ポリマーのより高い濃度の使用は、より密な架橋ネットワークの形成を生じ、より硬くより強固なゲルを生成する。そのために、組織増強における使用が意図される組成物は、好ましい濃度範囲の上限へと向かう第1および第2の合成ポリマー濃度を一般的に使用する。生物接着剤としての使用、または接着防止における使用が意図される組成物は、堅固である必要はなく、従ってより低いポリマー濃度を含み得る。
【0143】
複数の求電子性基を含むポリマーは水とも反応するので、第2の合成ポリマーは、加水分解による架橋能力の喪失(これは典型的に、そのような求電子性基の水性媒体への曝露によって生じる)を防ぐために、一般的に無菌の乾燥形態で貯蔵されそして使用される。無菌の乾燥形態の複数の求電子性基を含む親水性合成ポリマーを調製するための方法は、1995年6月30日に出願された、共有に係る同時出願中の米国特許出願第08/497,573号に記載される。例えば、乾燥合成ポリマーは、薄いシートまたは膜へと圧縮成型され、次いでこれはγ線を使用して、または好ましくは電子線を使用して、滅菌され得る。得られた乾燥膜またはシートは、所望のサイズへと切断され得るか、あるいはより小さなサイズの粒子へと刻まれ得る。
【0144】
複数の求電子性基を含むポリマーは、一般的に水と反応性ではなく、従って水溶液中に貯蔵され得る。
【0145】
架橋ポリマー組成物はまた、X線または19F−MRIをそれぞれ介する投与後の組成物の可視化を助けるために、様々な造影剤(例えば、ヨウ素もしくは硫酸バリウム、またはフッ素)を含むように調製され得る。
【0146】
(架橋合成ポリマーへの他の成分の組み込み)
天然のタンパク質(例えば、コラーゲン)、および種々の天然のポリサッカライドの誘導体(例えば、グリコサミノグリカン)が、本発明の組成物にさらに組み込まれ得る。また、これらの他の成分が合成ポリマー上の官能基と反応する官能基を含む場合、第1および第2の合成ポリマーの混合の間および/または架橋の間のそれらの存在は、架橋合成ポリマー−天然のポリマーのマトリックスの形成を生じる。特に、天然のポリマー(タンパク質またはポリサッカライド)がまた、求核性基(例えば、1級アミノ基)を含む場合、第2の合成ポリマー上の求電子性基は、これらの成分上の1級アミノ基、ならびに第1の合成ポリマー上の求核性基と反応し、これらの他の成分がポリマーマトリックスの一部になるようにする。
【0147】
一般的に、グリコサミノグリカンは、合成ポリマー分子上の求電子性基との反応に利用可能な1級アミノ基を含むように、脱アセチル化、脱硫酸化、またはその両方によって化学的に誘導体化されなければならない。前述の方法のいずれかまたはその両方に従って誘導体化され得るグリコサミノグリカンには、以下が挙げられる:ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸A、コンドロイチン硫酸B(デルマタン硫酸)、コンドロイチン硫酸C、キチン(キトサンに誘導体化され得る)、ケラタン硫酸、ケラト硫酸、およびヘパリン。脱アセチル化および/または脱硫酸化によるグリコサミノグリカンの誘導体化、ならびに得られたグリコサミノグリカンの親水性合成ポリマーとの共有結合は、1993年11月3日に出願された、共有に係る許可された米国出願第08/146,843号に、さらに詳細に記載される。
【0148】
同様に、第2の合成ポリマー上の求電子性基は、特定の天然のタンパク質の、リジン残基上の1級アミノ基またはシステイン残基上のチオール基と反応する。リジンの豊富なタンパク質(例えば、コラーゲンおよびその誘導体)は、合成ポリマー上の求電子性基と特に反応的である。本明細書中で使用される用語「コラーゲン」は、任意の供給源に由来する任意の種類のコラーゲンを含むことが意図され、これには以下が挙げられるが、これらに限定されない:組織から抽出されたコラーゲンまたは組換え的に生成されたコラーゲン、コラーゲンアナログ、コラーゲン誘導体、修飾されたコラーゲン、および変性されたコラーゲン(例えば、ゼラチン)。コラーゲンの親水性合成ポリマーへの共有結合は、1992年11月10日にRheeらに発行された、共有に係る米国特許第5,162,430号に詳細に記載される。
【0149】
一般的に、任意の供給源由来のコラーゲンは、本発明の組成物において使用され得る;例えば、コラーゲンは、ヒトまたは他の哺乳動物(例えば、ウシまたはブタの真皮およびヒトの胎盤)の供給源から抽出され、そして精製され得、または組換え的にもしくは別の方法で産生され得る。ウシの皮膚由来の、精製された実質的に非抗原的なコラーゲンの溶液の調製は、当該分野で周知である。共有に係る米国特許第5,428,022号(1995年6月27日に発行された、Palefskyら)は、ヒトの胎盤由来のコラーゲンの抽出および精製方法を開示する。共有に係る同時継続中の米国特許出願番号第08/183,648号(1994年1月18日に出願された)は、トランスジェニック動物(トランスジェニックウシを含む)の乳中の組換えヒトコラーゲンの産生方法を開示する。本明細書中で使用する用語「コラーゲン」または「コラーゲン材料」は、コラーゲンの全ての形態(処理され、または別の方法で修飾されたコラーゲン含む)を言う。
【0150】
任意のタイプのコラーゲン(タイプI、II、III、IV、またはそれらの任意の組合せを含むが、これらに限定されない)は、本発明の組成物において使用され得るが、タイプIが一般的に好ましい。アテロペプチド含有コラーゲンまたはテロペプチド含有コラーゲンのいずれかが使用され得る;しかし、異種間の供給源由来のコラーゲン(例えば、ウシのコラーゲン)が使用される場合、テロペプチド含有コラーゲンと比較して低減された免疫原性のために、アテロペプチドコラーゲンが一般的に好ましい。
【0151】
あらかじめ熱、照射、または化学的架橋剤のような方法により架橋されていないコラーゲンが、本発明の組成物における使用に好ましいが、あらかじめ架橋したコラーゲンも使用され得る。非架橋アテロペプチド原繊維性コラーゲンは、Collagen Corporation(Palo Alto,CA)により、35mg/mlおよび65mg/mlのコラーゲン濃度で、それぞれZyderm(登録商標)I CollagenおよびZyderm II Collagenの商標の下で市販される。グルタルアルデヒド架橋アテロペプチド原繊維性コラーゲンは、Collagen Corporationにより、35mg/mlのコラーゲン濃度で、Zyplast(登録商標) Collagenの商標で市販される。
【0152】
本発明における使用のためのコラーゲンは、一般的に約20mg/ml〜約120mg/mlの間の濃度の懸濁水溶液である;好ましくは、約30mg/ml〜約90mg/mlの間である。
【0153】
インタクトなコラーゲンが好ましいが、変性コラーゲン(一般的に、ゼラチンとして知られる)がまた、本発明の組成物において使用され得る。ゼラチンは、コラーゲンよりもより早く分解性であるさらなる利点を有し得る。
【0154】
その付着性の(tacky)コンシステンシーのために、非原繊維性コラーゲンは、一般的に、生物接着剤としての使用が意図される本発明の組成物における使用に好ましい。用語「非原繊維性コラーゲン」は、コラーゲンの懸濁水溶液の光学的透明度(optical clarity)により示されるように、pH7で実質的に非原繊維性の形態である、任意の修飾または未修飾のコラーゲン材料を言う。
【0155】
既に非原繊維性の形態のコラーゲンは、本発明の組成物において使用され得る。本明細書中で使用する用語「非原繊維性コラーゲン」は、自然の形態が非原繊維性であるコラーゲンのタイプ、ならびに化学的に修飾されて中性のpHまたはその付近で非原繊維性の形態となるコラーゲンを含むことが意図される。自然の形態で非原繊維性(または微小原繊維性)であるコラーゲンのタイプは、タイプIV、VI、およびVIIを含む。
【0156】
中性のpHで非原繊維性の形態である化学的に修飾されたコラーゲンは、スクシニル化されたコラーゲンおよびメチル化されたコラーゲンを含み、その両方は、米国特許第4,164,559号(1979年8月14日に発行された、Miyataら、その全体を本明細書中で参考として援用する)に記載された方法に従って調製され得る。共有に係る米国特許出願番号第08/476,825号において開示されるように、その固有の接着性により、メチル化されたコラーゲンが、生物接着剤組成物における使用のために特に好ましい。
【0157】
本発明の架橋ポリマー組成物における使用のためのコラーゲンは、原繊維性の形態で出発し、次いで1つ以上の繊維分解剤の添加により非原繊維性を与えられた。繊維分解剤は、上記のように、pH7でコラーゲンに実質的に非原繊維性を与えるために十分な量で存在しなければならない。本発明における使用のための繊維分解剤は、限定はされないが、種々の生体適合性のアルコール、アミノ酸、無機塩、および炭水化物を含み、生体適合性のアルコールが特に好ましい。好ましい生体適合性のアルコールは、グリセロールおよびプロピレングリコールを含む。非生体適合性のアルコール(例えば、エタノール、メタノール、およびイソプロパノール)は、それらを受けた患者の体における潜在的に有害な効果のために、本発明における使用のために好ましくない。好ましいアミノ酸は、アルギニンを含む。好ましい無機塩は、塩化ナトリウムおよび塩化カリウムを含む。炭水化物(例えば、スクロースを含む種々の糖)は本発明の実施において使用され得るが、それらはインビボで細胞毒性の効果を有するので、他のタイプの繊維分解剤と同様に好ましくない。
【0158】
原繊維性コラーゲンは不透明であり、そして非原繊維性コラーゲンよりも付着性が弱いので、原繊維性コラーゲンは生物接着剤の組成物における使用のためにあまり好ましくない。しかし、共有に係る米国特許出願番号第08/476,825号において開示されるように、原繊維性コラーゲンまたは非原繊維性コラーゲンと原繊維性コラーゲンとの混合物は、光学的透明度が必要ではない場合に、インビボでの長期間の持続性を意図された接着剤組成物における使用のために好ましくあり得る。
【0159】
組織増強における使用を意図された組成物について、原繊維性コラーゲンが好ましい。なぜなら、非原繊維性コラーゲンを使用して調製したゲルよりも、インビボでのより長期間の持続性を有する、より強い架橋ゲルを形成する傾向があるからである。
【0160】
一般的に、コラーゲンは、第1の合成ポリマーに添加され、次いでコラーゲンおよび第1の合成ポリマーを徹底的に混合して均一な組成物を得る。次いで、第2の合成ポリマーを、コラーゲン/第1の合成ポリマー混合物に添加し、そして混合する。ここで、それは、第1の合成ポリマー上の1級アミノ基またはチオール基、およびコラーゲン上の1級アミノ基に共有結合して、均一な架橋ネットワークの形成を生じる。種々の脱アセチル化されたおよび/または脱硫酸化されたグリコサミノグリカン誘導体は、コラーゲンについての上記の方法のような類似の方法で組成物に組み込まれ得る。
【0161】
以下で議論されるような組織接着における使用について、細胞接着を促進するために、タンパク質(例えば、アルブミン、フィブリン、またはフィブリノーゲン)を架橋ポリマー組成物内に組み込むことがまた望ましくあり得る。
【0162】
さらに、親水コロイド(例えば、カルボキシメチルセルロース)の導入は、組織接着および/または膨張能力を促進し得る。
【0163】
(架橋合成ポリマー組成物の投与)
本発明の組成物は、第1および第2の合成ポリマーの架橋の前、その間、またはその後に投与され得る。組織増強のような特定の使用(以下により詳細に記載される)は、組成物が投与の前に架橋されることを必要とする。それに対して、他の適用(例えば、組織接着)は、架橋が「平衡」に達する前に組成物が投与されることを必要とする。架橋が平衡に達する点は、組成物がもはや接触に対して付着性または粘着性を感じなくなる点として本明細書中で定義される。
【0164】
組成物を架橋の前に投与するために、第1の合成ポリマーおよび第2の合成ポリマーは、2区画シリンジの別々の円筒部内に含まれ得る。この場合において、2つの合成ポリマーは、2つのポリマーがシリンジの針の先端部から患者組織に押し出される点まで実際に混合しない。これは、大多数の架橋反応がインサイチュで起こることを可能にし、これは、2つの組成物をあまりに早く混合した場合、およびシリンジの針からの送達の前に2つの組成物間の架橋が既にあまりに進行した場合に一般的に生じる針の封鎖の問題を回避する。上記のように、2区画シリンジの使用はより小さい直径の針の使用を可能にし、これは、繊細な顔面組織(例えば、目の周辺の組織)における柔組織増強を実施する場合に有利である。
【0165】
あるいは、第1の合成ポリマーおよび第2の合成ポリマーは、組織部位への送達の前に上記の方法に従って混合され得、次いで混合後に直ちに(好ましくは、約60秒以内)所望の組織部位に注入される。
【0166】
本発明の別の実施態様では、第1の合成ポリマーおよび第2の合成ポリマーは混合され、次いで押し出され、そしてシートまたは他の固体形状に架橋される。次いで、架橋固体は脱水され実質的に全ての結合していない水が除去される。生じた乾燥固体は、粒子に擦り砕かれるかまたは粉砕され得、次いで非水性の液体のキャリア(限定はされないが、ヒアルロン酸、デキストラン硫酸、デキストラン、スクシニル化された非架橋コラーゲン、メチル化された非架橋コラーゲン、グリコーゲン、グリセロール、ブドウ糖、マルトース、脂肪酸のトリグリセリド(例えば、トウモロコシ油、ダイズ油、およびゴマ油)、ならびに卵黄のリン脂質)に再懸濁され得る。粒子の懸濁液は、小ゲージ針を介して組織部位へ注入され得る。組織内では、架橋ポリマー粒子は再水和し、そして少なくとも5倍のサイズで膨張する。
【0167】
(帯電した化合物を送達するための架橋合成ポリマーの使用)
帯電した化合物(例えば、タンパク質または薬物)の送達のためのマトリックスを調製するために、第1の合成ポリマーおよび第2の合成ポリマーの相対的なモル量を変化させることにより、生じる架橋ポリマー組成物の正味の電荷を変更することが可能である。このような場合、帯電したタンパク質または薬物の送達(通常、中性のキャリアのマトリックスから迅速に拡散する)は、制御され得る。
【0168】
例えば、複数の求核性基を含むモル過剰の第1の合成ポリマーが使用される場合、得られたマトリックスは正の正味電荷を有し、そして負に帯電した化合物とイオン結合して、これらを送達するために使用され得る。これらのマトリックス由来であり得る負に帯電した化合物の例は、種々の薬剤、細胞、タンパク質、およびポリサッカライドを含む。負に帯電したコラーゲン(例えば、スクシニル化されたコラーゲン)およびグリコサミノグリカン誘導体(例えば、ヒアルロン酸ナトリウム、ケラタン硫酸、ケラト硫酸、コンドロイチン硫酸Aナトリウム、デルマタン硫酸Bナトリウム、コンドロイチン硫酸Cナトリウム、ヘパリン、エステル化されたコンドロイチン硫酸C、およびエステル化されたヘパリン)は、上記のように、架橋ポリマーのマトリックスに効率的に組み込まれ得る。
【0169】
複数の求電子性基を含むモル過剰の第2の合成ポリマーが使用される場合、得られるマトリックスは負の正味電荷を有し、正に帯電した化合物とイオン結合して、これらを送達するために使用され得る。これらのマトリックス由来であり得る正に帯電した化合物の例は、種々の薬剤、細胞、タンパク質、およびポリサッカライドを含む。正に帯電したコラーゲン(例えば、メチル化されたコラーゲン)およびグリコサミノグリカン誘導体(例えば、エステル化され脱アセチル化されたヒアルロン酸、エステル化され脱アセチル化され脱硫酸化されたコンドロイチン硫酸A、エステル化され脱アセチル化され脱硫酸化されたコンドロイチン硫酸C、脱アセチル化され脱硫酸化されたケラタン硫酸、脱アセチル化され脱硫酸化されたケラト硫酸、エステル化され脱硫酸化されたヘパリン、およびキトサン)は、上記のように、架橋ポリマーのマトリックスに効率的に組み込まれ得る。
【0170】
(生物学的に活性な薬剤を送達するための架橋合成ポリマーの使用)
本発明の架橋ポリマー組成物もまた、様々な薬物および他の生物学的に活性な薬剤の局所的な送達のために使用され得る。生物学的に活性な薬剤(例えば、増殖因子)が、組織治癒および再生を容易にするために、組成物から局所の組織部位へ送達され得る。
【0171】
本明細書中で使用される用語「生物学的に活性な薬剤」または「活性な薬剤」は、インビボで生物学的効果を発揮する有機分子をいう。活性な薬剤の例は、酵素、レセプターアンタゴニストまたはアゴニスト、ホルモン、増殖因子、自己骨髄、抗生物質、抗菌剤、および抗体を含むが、これらに限定されない。用語「活性薬剤」はまた、本発明の組成物に組み込まれ得る種々の細胞種および遺伝子を含むことが意図される。用語「活性薬剤」はまた、先に定義された2つ以上の活性薬剤の組合せまたは混合物を含むことが意図される。
【0172】
本発明の組成物における使用のための好ましい活性な薬剤は、増殖因子(例えば、トランスフォーミング増殖因子(TGF)、線維芽細胞増殖因子(FGF)、血小板由来増殖因子(PDGF)、上皮増殖因子(EGF)、結合組織活性化ペプチド(CTAP)、骨芽細胞形成因子、およびそのような増殖因子の生物学的に活性なアナログ、フラグメント、ならびに誘導体を含む。多機能性調節タンパク質であるトランスフォーミング増殖因子(TGF)スーパー遺伝子ファミリーのメンバーは、特に好ましい。TGFスーパー遺伝子ファミリーのメンバーは、トランスフォーミング増殖因子β(例えば、TGF−β1、TGF−β2、TGF−β3);骨形態形成タンパク質(例えば、BMP−1、BMP−2、BMP−3、BMP−4、BMP−5、BMP−6、BMP−7、BMP−8、BMP−9);ヘパリン結合増殖因子(例えば、線維芽細胞増殖因子(FGF)、上皮増殖因子(EGF)、血小板由来増殖因子(PDGF)、インスリン様増殖因子(IGF))、インヒビン(例えば、インヒビンA、インヒビンB);増殖分化因子(例えば、GDF−1)、およびアクチビン(例えば、アクチビンA、アクチビンB、アクチビンAB)を含む。
【0173】
増殖因子は、自然のまたは生来の供給源から(例えば、哺乳動物細胞から)単離され得るかまたは合成的に(例えば、組換えDNA技術によってまたは種々の化学的プロセスによって)調製され得る。さらに、これらの因子のアナログ、フラグメント、または誘導体が、もしそれらが生来の分子の少なくともいくらかの生物学的活性を示すならば、使用され得る。例えば、アナログは、部位特異的突然変異誘発または他の遺伝子工学技術によって改変された遺伝子の発現によって調製され得る。
【0174】
生物学的に活性な薬剤は、混合によって架橋合成ポリマー組成物に組み込まれ得る。あるいは、薬剤は、合成ポリマー上に官能基を有するこれらの薬剤を結合することによって、上記のように架橋ポリマーマトリックスに組み込まれ得る。官能性に活性化されたポリエチレングリコールを使用する、生物学的に活性な薬剤(例えば、増殖因子)を共有結合するためのプロセスは、一般に譲渡された1992年11月10日に発行の米国特許第5,162,430号(Rheeら)に記載される。好ましくは、このような組成物は、容易に生分解され得る結合を含む。例えば、酵素的な分解の結果として生分解され得、これは標的組織への活性な薬剤の放出を生じ、ここでそれはその所望の治療上の効果を発揮する。
【0175】
求核性基を含有する生物学的に活性な薬剤を架橋ポリマー組成物へ組込むための単純な方法は、第2の合成ポリマーを添加する工程の前に第1の合成ポリマー(または第1の合成ポリマー/コラーゲン混合物)と活性な薬剤を混合する工程を包含する。この手順は、架橋ポリマー組成物への活性な薬剤の共有結合を生じ、これは、非常に効果的な徐放組成物を生成する。
【0176】
使用される活性な薬剤の種類および量は、他の因子の中でも、治療すべき特定の部位および症状ならびに選択された活性な薬剤の生物学的な活性および薬物動態に依存する。
【0177】
(細胞または遺伝子を送達するための架橋合成ポリマーの使用)
本発明の架橋ポリマー組成物はまた、新たな組織を形成するために、種々の種類の生存細胞または遺伝子を所望の投与部位へ送達するために使用され得る。本明細書中で使用される用語「遺伝子」は、天然供給源からの遺伝的物質、合成核酸、DNA、アンチセンス−DNA、およびRNAを含むことが意図される。
【0178】
細胞を送達するために使用される場合、例えば、間葉幹細胞が、それらが送達される組織と同じ種類の細胞を産生するように送達され得る。間葉幹細胞は、分化しておらず、従って、活性な薬剤の存在または局所組織環境の効果(化学的、物理的など)によって、種々の種類の新たな細胞を形成するように分化し得る。間葉幹細胞の例は、骨芽細胞、軟骨細胞、および線維芽細胞を含む;骨芽細胞は、新たな骨を産生するために骨欠損の部位に送達され得る;軟骨細胞は、新たな軟骨を産生するために軟骨欠損の部位に送達され得る;線維芽細胞は、新たな結合組織が必要とされる任意の部位へコラーゲンを産生するために送達され得る;神経外胚葉細胞は、新たな神経組織を形成するために送達され得る;上皮細胞は、新たな上皮性組織(例えば、肝臓、膵臓など)を形成するために送達され得る。
【0179】
細胞および遺伝子は、起源において同種または異種のいずれかであり得る。例えば、組成物は、遺伝的に改変された他の種由来の細胞または遺伝子を送達するために使用され得る。本発明の組成物はインビボで容易に分解されず、架橋ポリマー組成物内に包括された細胞および遺伝子は、患者自身の細胞から隔離されるので、それ自身では患者内で免疫応答をもたらさない。細胞および遺伝子を、架橋ポリマーマトリックス内に包括するために、第1のポリマーおよび細胞または遺伝子は、前もって混合され得、次いで第2のポリマーが、第1のポリマー/細胞または遺伝子の混合物に混合されて架橋マトリックスを形成し、それによってマトリックス内に細胞または遺伝子を包括する。
【0180】
生物学的に活性な薬剤について上記で議論したように、細胞または遺伝子を送達するために使用される場合、好ましくは、合成ポリマーはまた、送達を意図する部位に細胞または遺伝子の制御された放出を補助するために生分解性基を含む。
【0181】
(生物接着剤としての架橋合成ポリマーの使用)
本発明者らは、本発明の好ましい組成物が、著しく高い粘性を有する傾向があり、これは、組成物を生物接着剤としての使用、特に外科手術における使用に適切にすることを見出した。本明細書中で使用される用語「生物接着剤」、「生物学的接着剤」、および「外科用接着剤」は、相互交換可能に使用され、二つの生来の組織の表面間または生来の組織表面と非生来の組織表面もしくは、合成インプラント表面間の一時的または持続的付着をもたらし得る生体適合性組成物をいう。
【0182】
第1の表面の第2の表面への付着を達成するための一般的な方法において、第1の合成ポリマーおよび第2の合成ポリマーは、第1の表面に塗布され、次いで第1の表面は、第2の表面に接触され、第1の表面と第2の表面間の接着を達成する。好ましくは、第1の合成ポリマーおよび第2の合成ポリマーはまず混合されて架橋を開始し、次いで、第1の合成ポリマー上の求核性基と第2の合成ポリマー上の求電子性基との間で実質的な架橋が生じる前に第1の表面に送達される。次いで第1の表面は、第2の表面に接触(好ましくは直ちに)され、二つの表面間の接着を達成する。好ましくは、第1および第2の表面の少なくとも1つは、生来の組織表面である。
【0183】
例えば、第1の合成ポリマーおよび第2の合成ポリマーは、一般に、別々のシリンジで提供される。次いで、その内容物は、第1の表面に送達される直前にシリンジからシリンジへの(syringe−to−syringe)混合技術を使用して混合される。好ましくは、第1の合成ポリマーおよび第2の合成ポリマーは、適切な混合を確実にするために最少20回のパス(好ましくは、20〜100回;より好ましくは、30〜60回)で混合される。一般的に、二つの合成ポリマー上の対応する反応基間の架橋は、混合工程の間に開始するので、反応混合物を、混合後可能な限り速やかに第1の表面に送達することが重要である。
【0184】
反応混合物は、シリンジの開口部または他の適切な押出デバイスから、第1の表面に押し出され得る。塗布後、押し出された反応混合物は、必要ならばスパーテルを使用して第1の表面に広げられ得る。あるいは、第1の合成ポリマーおよび第2の合成ポリマーは、適切な混合シャーレまたは容器中で一緒に混合され得、次いでスパーテルを使用して第1の表面に塗布され得る。
【0185】
反応混合物を調製するための別の方法において、第1の合成ポリマーおよび第2の合成ポリマーは、スプレイ缶もしくはノズルを有するボトルまたは他の適切なスプレイ用デバイスの別々のチャンバーに収容される。このシナリオにおいて、第1および第2のポリマーは、スプレイ用デバイスのノズルから一緒に吹き出されるまで、実際に混合しない。反応混合物のコラーゲン含有表面への塗布の後、第1の表面は、第2の表面に接触される。もし実質的な架橋が合成ポリマーと架橋剤との間で起こる前に、二つの表面が接触されるならば、架橋剤上の反応基はまた、表面のいずれかかまたは両方に存在するコラーゲン分子のリジン残基上の1級アミノ基に共有結合し、これは向上した接着を提供する。
【0186】
反応が完了するまでの間、二つの表面は、手で共に保持され得るかまたは他の適切な手段を使用して共に保持され得る。第1の合成ポリマーおよび第2の合成ポリマーの混合の後、架橋は、典型的には5〜60分内に完了する。しかし、完全な架橋が起こるために必要とされる時間は、多くの因子(これは、二つの合成ポリマーの種類および分子量を含み、最も詳細には二つの合成ポリマーの濃度(すなわち、より高濃度は、より速い架橋時間を生じる)を含む)に依存する。
【0187】
好ましくは、第1の表面および第2の表面の少なくとも一つは、生来の組織の表面である。本明細書に使用される用語「生来の組織」は、治療される特定の患者の体に対して生来である生物学的な組織をいう。本明細書に使用される用語「生来の組織」は、移植のためにある患者の体の一部から取り出されたかまたは同一の患者の体の別の部分へ移した(例えば、骨自己移植、皮膚切片自己移植など)生物学的な組織を含むことが意図される。例えば、火傷患者の場合のように、本発明の組成物は、患者の体のある部分の皮膚片を体の別の部分へ接着するために使用され得る。
【0188】
他の組織表面は、生来の組織表面、非生来の組織表面、または合成インプラントの表面であり得る。本明細書中で使用される「非生来の組織」は、移植のためのドナー患者(レシピエント患者以外の同種かまたは異種であり得る)の体からレシピエント患者の体へ移された生物学的な組織をいう(例えば、組織移植および器官移植)。例えば、本発明の架橋ポリマー組成物は、レシピエント患者の眼へドナー角膜を接着するために使用され得る。
【0189】
本明細書に使用される用語「合成インプラント」は、生来の組織および非生来の組織についての上記の定義によって含まれない患者の体への移植について意図される任意の生体適合性の材料をいう。例えば、合成インプラントは、人工血管、心臓弁、人工器官、骨プロテーゼ、移植可能なレンズ核、血管グラフト、ステント、およびステント/グラフトの組合せなどを含む。
【0190】
(眼科分野における架橋合成ポリマーの使用)
コラーゲンを含まない本発明の架橋ポリマー組成物は、光学的に透明なので、眼科分野での使用に、特によく適している。例えば、視力矯正用の合成水晶体が、本発明の方法を用いて、患者の眼の角膜のボーアン層に付着され得る。同一人に譲渡されたRheeらによる特許された米国出願番号08/147,227(1993年11月3日出願)に開示のように、pH7で実質的に非原繊維性化学的修飾コラーゲン(例えば、スクシニル化またはメチル化コラーゲン)は、合成親水性ポリマーを用いて、架橋し、次に所望の水晶体形状に成形し、そして完全に架橋し得る。得られる架橋コラーゲン水晶体は、次に本発明の方法を用いて、患者の眼の非上皮化角膜のボーマン層に付着し得る。第1および第2の合成ポリマーからなる反応混合物を角膜の前部の表面に塗布し、次に実質的な架橋が起こる前に、角膜の前部の表面を水晶体の後部の表面と接触させることによって、第2の合成ポリマー上の求電子性基はまた、角膜組織および水晶体の両方のコラーゲン分子と共有結合し、水晶体を適所に固定する。(代わりに、反応混合物を、最初に水晶体の後部の表面に塗布し、次に角膜の前部の表面に接触させることができる。)
本発明の組成物はまた、、硝子体液の代替物における使用に適している。
【0191】
(組織増強における架橋合成ポリマー組成物の使用)
本発明の架橋ポリマー組成物はまた、哺乳動物検体の体内の柔または硬組織の増強のために使用され得る。それらはより免疫原性でなくおよびより持続性なので、それらは柔組織増強のための現状の市販のコラーゲンベース材料の製品よりも良いものであり得る。柔組織増強の適用の例は、括約筋(例えば、泌尿器、肛門、食道)、括約筋増強、ならびにしわおよび傷跡の処置を含む。硬組織増強の適用の例は、骨および/または軟骨組織の修復および/または置換を含む。
【0192】
本発明の組成物は、特に、骨関節炎の関節における骨液流体の置換材料としての使用に適している。ここで、架橋ポリマー組成物は、関節中の軟質ヒドロゲルネットワークを修復することによって、関節痛の低減および関節機能の改良を供する。架橋ポリマー組成物はまた、、損傷した椎間板の髄核用の置換材料として使用され得る。損傷した椎間板の髄核は、最初、除かれ、次に架橋ポリマー組成物が椎間板の中心に注入されるか、あるいは導入される。組成物は、椎間板への導入の前に架橋されても良いし、またその場で架橋されても良い。
【0193】
哺乳動物検体の体内の組織増強をもたらすための通常の方法では、第1のおよび第2の合成ポリマーは、増強が必要とされる組織部位に小さいゲージ(例えば、25〜32ゲージ)の針を介して同時に注入される。一旦、患者の体内に入ると、第1の合成ポリマー上の求核性基および第2の合成ポリマー上の求電子性基は、互いに反応して、その場で架橋ポリマーネットワークを形成する。第2の合成ポリマー上の求電子性基はまた、、患者自身の組織内のコラーゲン分子のリジン残基上の1級アミノ基と反応し得、組成物と宿主組織との「生物学的固着」を与える。
【0194】
(架橋合成ポリマー組成物の接着防止のための使用)
本発明の架橋ポリマー組成物の他の用途は、内部組織または器官への外科手術または傷害に続く接着の形成を防ぐため、組織をコーティングすることである。外科手術後の接着の形成を防ぐために、組織をコーティングする通常の方法において、第1のおよび第2の合成ポリマーは混合されて、次に、第1の合成ポリマー上の求核性基および第2の合成ポリマー上の求電子性基の間に実質的な架橋が起こる前に、反応混合物の薄層が、手術部位を含む、それを取り囲むおよび/またはそれに隣接する組織に塗布される。反応混合物の組織部位への塗布は、押出し、刷毛塗り、スプレイ(上記のような)によって、また、任意の他の簡便な手段によってなされ得る。
【0195】
反応混合物の手術部位への塗布に続き、架橋が外科切開の縫合の前にその場で続けられ得る。一旦、架橋が平衡に達すると、コーティングされた組織に接触するようになる組織は、コーティングされた組織に貼り付かない。この時点で、手術部位は、通常の方法(縫合など)を用いて閉じられ得る。
【0196】
通常、比較的短時間内(すなわち、第1の合成ポリマーおよび第2の合成ポリマーの混合後5〜15分)で、完全な架橋に到達した組成物が、外科接着の防止における使用に好ましく、手術部位は、外科手術手順の完了後、比較的まもなく閉じられ得る。
【0197】
(架橋合成ポリマーのコーティングインプラントへの使用)
本発明の架橋ポリマー組成物の他の用途は、合成インプラントのためのコーティング材料としてである。合成インプラントの表面をコーティングするための通常の方法では、第1のおよび第2の合成ポリマーが混合され、次に、第1の合成ポリマー上の求核性基と第2の合成ポリマー上の求電子性基との間に、実質的な架橋が起こる前に、反応混合物の薄層が、インプラントの表面に塗布される。コーティングされたインプラントへの細胞の反応および繊維状の反応を最小にするために、反応混合物は、好ましくは中性の正味電荷を有するように調製される。反応混合物のインプラント表面への塗布は、押出し、刷毛塗り、スプレイ(上記のように)によって、あるいは、任意の他の簡便な手段によってなされ得る。反応混合物のインプラント表面への塗布に続いて、完全な架橋が達成されるまで、架橋が続けられ得る。
【0198】
この方法は、任意のタイプの合成インプラントの表面をコーティングするのに使用され得るが、血栓形成の減少が重要な考慮すべき事柄であるインプラント用(例えば、人工血管、人工心臓弁、血管グラフト、血管ステントおよびステント/グラフトの組合せ)に特に有用である。該方法はまた、移植可能な外科用膜(例えば、ポリプロピレンのモノフィラメント)またはメッシュ(例えば、ヘルニア修復用途)のコーティングに使用され得る。胸部インプラントはまた、、莢膜収縮筋を最小化するために、上記の方法を用いてコーテイングされ得る。
【0199】
本発明の組成物はまた、天然または人工ポリマーのどちらかからなる水晶体をコーティングするために使用され得る。
【0200】
(架橋合成ポリマーの動脈瘤の処置への使用)
本発明の架橋ポリマー組成物は、ひもまたはコイルの形状に、押出しまたは成形し、次に脱水し得る。得られる脱水ひもまたはコイルは、血管閉塞および完全に奇形を修復する目的で、カテーテルを経由して、血管奇形(例えば、動脈瘤)の部位に送達され得る。脱水ひもまたはコイルは縮小サイズで送達され得、そして血管内で再水和し、その脱水状態と比較して、大きさは数倍に膨潤し、一方、その本来の形状を維持する。
【0201】
(架橋合成ポリマーの他の使用)
同一人に譲渡された、同時係属中の出願番号08/574,050(1995年12月18日出願)(これは、本明細書中で、参考として援用する)で論じているように、本発明の架橋ポリマー組成物は、哺乳動物検体の体内の種々の管腔および空隙を塞ぎあるいは充填するのに使用され得る。組成物はまた、組織または構造体(例えば管)内の割れ目、または裂を封止するバイオシーラント(biosealant)または、血液、または他の生物学的流体の漏れを防ぐための隣接する組織または構造体間の継ぎ目として使用され得る。
【0202】
架橋ポリマー組成物はまた、外科手術または、放射線手順の間に、例えば、骨盤への放射線の計画過程の間に腸を保護するための、体腔における器官置換用の大きい空間充填デバイスとして使用され得る。
【0203】
本発明の架橋ポリマー組成物はまた、生理学的管腔(例えば血管または輸卵管)の内表面上にコーティングされ、それによって、医学処置後の管腔の再狭窄を防ぐシーラントとして供され得る(例えば、血管の内表面から動脈プラーク付着物を除くためのバルーンカテーテル化あるいは、輸卵管内部からの傷跡組織または子宮内膜組織の除去)。反応混合物の薄層は好ましくは、第1のおよび第2の合成ポリマーの混合に続いて直ちに、管の内部表面に(例えば、カテーテルを経由して)塗布される。本発明の組成物は、インビボでは、容易に分解され得ないので、コーティングの分解による再狭窄の可能性は最小化される。中性の正味電荷を有する架橋ポリマー組成物の使用はさらに再狭窄の可能性を最小化する。
【実施例】
【0204】
以下の実施例は、当業者に結合体、組成物、およびデバイスの好ましい実施態様の実施方法の完全な開示および記載を提供するために示され、そして、本発明者が本発明とみなす範囲を限定する意図はない。使用する数字(例えば、量、温度、分子量など)に関しては、正確性を確保するように努力したが、いくらかの実験誤差および偏差は考慮されるべきである。特に示さない限り、部は重量部、分子量は重量平均分子量、温度は摂氏の度、および圧力は大気圧またはその付近である。
【0205】
(実施例1)
(架橋多アミノPEG組成物の調製)
水250ul中、ジアミノPEG(3400MW,Shearwater Polymers,Huntsville,ALから入手)0.15gを、シリンジからシリンジへの混合を用いて、3官能に活性化されたSC−PEG(5000MW,同様にShearwater Polymersから入手)0.1gと混合した。反応混合物をペトリ皿上に押出し、そして室温で軟質ゲルを形成した。水250μl中、ジアミノPEG 0.15gを、シリンジからシリンジへの混合を用いて、4官能性に活性化されたSE−PEG(同様にShearwater Polymersから入手)0.1gと混合した。反応混合物をペトリ皿上に押出し、そして室温で軟質ゲルを形成した。
【0206】
(実施例2)
(架橋多アミノPEG組成物の調製)
以下の種々のジアミノPEGの貯蔵溶液を調製した:
Jeffamine ED−2001(Texaco Chemical Company,Houston,TXから入手)10gを水9mlに溶解した。
【0207】
Jeffamine ED−4000(同様にTexaco Chemical Companyから入手)10gを水9mlに溶解した。
【0208】
ジアミノPEG(3400MW,Shearwater Polymers,Huntsville,ALから入手)0.1gを水300μlに溶解した。
【0209】
以下の表1で示すように、上記で調製した3種のジアミノPEG溶液それぞれを、3官能性に活性化されたSC−PEG(TSC−PEG,5000MW,同様にShearwater Polymersから入手)の水溶液と混合した。
【0210】
【表1】


ジアミノPEGおよびTSC−PEGの溶液をシリンジからシリンジへの混合を用いて混合した。各々の材料を、シリンジから押出し、そして37℃で1時間保持した。各々の材料は、ゲルを形成した。一般に、ゲルは、水含有量が増加するにつれて、より柔らかくなる;最も少ない量の水性溶媒(水またはPBS)を含むゲルが最も硬い。
【0211】
(実施例3)
(架橋多アミノPEG組成物の特徴付け)
0.5ml PBS中の50mgのテトラアミノPEG(10,000MW、Shearwater Polymers, Huntsville, ALより得た)を、シリンジからシリンジへの混合を用いて、0.5ml PBS中50mgの4官能性に活性化されたSE−PEG(「テトラSE−PEG」、10,000MW、これもまたShearwater Polymersから得た)または3官能性に活性化されたSC−PEG(「トリSC−PEG」、5000MW、これもまたShearwater Polymersから得た)と共に混合した。
【0212】
2つの混合物の各々を含むシリンジを37℃で約16時間インキュベートした。両組成物とも弾性のあるゲルを形成した。ゲルをシリンジから押出し、下記のような圧縮および膨潤試験に使用するために、5mmの直径を有する5〜6mmの厚さのディスクに薄く切った。
【0213】
2つのゲルのずれに対する圧縮力を、上記のように調製した2つのゲルのディスクを用いて、2mm/分の圧縮速度で、Instron Universal Tester, Model 4202で測定した。ゲルのずれ(mm)に対する圧縮力(単位ニュートン)を、テトラSE−PEGおよびトリSC−PEGの各々を用いて調製したゲルについて、図1および2に示した。
【0214】
30〜35ニュートン程度の高さの圧縮力下では、ゲルは破壊せず、弾性を維持していた。
【0215】
上記のように調製した2つのゲルの各々のディスクを、重さを量り、寸法(直径および長さ)を測定した。次いでディスクをPBS中に浸し、37℃でインキュベートした。3日間インキュベートした後、ディスクをPBSから取り出し、重さを量り、寸法を測定した。膨潤試験の結果を以下の表2に示す。
【0216】
【表2】


上に示したように、ゲルは重量の2〜3倍に膨潤し、同時に直径および厚さの両方で平均して約50%膨潤した。
【0217】
(実施例4)
(架橋ポリ(リジン)組成物の調製)
0.1mlリン酸緩衝液(0.2M,pH=6.6)中の10mgのポリ−L−リジン臭化水素酸(8,000MW,Peninsula Laboratories, Belmont, CAから得た)を0.1ml PBS中の10mgの4官能性に活性化されたSE−PEG(10,000MW, Shearwater Polymers, Huntsville, ALから得た)と共に混合した。組成物はほとんど即時に軟らかいゲルを形成した。
【0218】
(実施例5)
(架橋多アミノPEG組成物の調製および機械的試験)
テトラアミノPEG(10,000MW, Shearwater Polymers, Huntsville, ALから得た)および1〜4%(重量)の4官能性に活性化されたSE−PEG(「テトラSE−PEG」,10,000MW,これもまたShearwater Polymers から得た)を含むゲルを、テトラアミノPEG(水中の濃度25mg/ml)とテトラSE−PEG(PBS中)とをペトリ皿で混合することによって調製した。得られたテトラアミノPEG/SE−PEG混合物を37℃で16時間インキュベートした。
【0219】
1%SE−PEG含有混合物は、SE−PEG濃度が低いためゲルを形成しなかった。2%SE−PEG含有混合物は、16時間のインキュベーション期間の間、いくつかの所でゲルを形成した。3および4%SE−PEG含有混合物は、混合して約4〜6分のうちにゲルを形成した。2%SE−PEG含有ゲルは、30ゲージ針を通じて容易に押出され得た;3%SE−PEG含有ゲルは27ゲージ針を通じて押出され得た。
【0220】
ゲル形成における温度上昇効果を評価した。テトラアミノPEGおよび2.5%(重量)テトラSE−PEGを含むゲルを調製し、温度37℃および40〜50℃でインキュベートした。温度上昇は、ゲル化時間に顕著な影響を有することが見い出された:37℃でインキュベートしたテトラアミノPEG/SE−PEG混合物は、約20〜25分以内にゲルを形成したが、一方、40〜50℃でインキュベートした混合物は、約5分以内にゲルを形成した。両方のゲルは27ゲージ針を通じて押出され得た。
ゲル形成におけるpH効果を評価した。テトラアミノPEGおよび2.5%(重量)テトラSE−PEGを含むゲルを以下の表3に示すように調製した。
【0221】
【表3】


27ゲージ針を通じての押出しを、テトラアミノPEGおよび1〜3%(重量)テトラSE−PEGを含むゲルについて評価した。ゲルを、1ccシリンジ内に入れた。5cm/分の速度でシリンジプランジャーを押し下げるために必要な力を、Instron Universal Tester, Model 4202を用いて測定した。押出し試験の結果を以下の表4に示す。
【0222】
【表4】


100N以下の押出し力が、シリンジ補助器具の補助なしで手動注入に対して受容可能であると判断される。
【0223】
テトラアミノPEGおよび2.5、5、および10%(重量)テトラSE−PEGを含む厚さ3mmのゲルの引っ張り強さ(すなわち弾性)を、 Instron Universal Tester, Model 4202を用いて測定した。種々の初期長さのゲルを10mm/分の速度で伸張させた。各々のゲルの長さ、破損時のひずみ(初期長さの%とした長さの変化)、および破損時の力を以下の表5に示す。
【0224】
【表5】


5および10%テトラSE−PEGを含むゲルは、破断前では約2倍の長さになった。2.5%SE−PEGを含むゲルは、破断前では約3倍の長さになったが、しかしより高度に架橋されたゲルよりかなり弱かった(すなわち、破損時の力がより低い)。
【0225】
(実施例6)
(テトラアミノPEG/テトラSE−PEG処方物のゲル形成におけるpHの影響)
pH6,7および8で、様々な濃度のテトラアミノPEGおよびテトラSE−PEGを含むゲルをペトリ皿で調製した。テトラアミノPEGおよびテトラSE−PEGを混合した後、皿を繰り返し傾けた;ゲル化時間は、処方物の流動が止まった点と見なした。様々なテトラアミノPEG/テトラSE−PEG処方物の、室温でのゲル化時間におけるpHの影響を以下の表6に示す。
【0226】
【表6】


ゲル形成に必要な時間は、pHの上昇およびテトラアミノPEGならびにテトラSE−PEG濃度の上昇に伴って短縮した。
【0227】
(実施例7)
(架橋多アミノPEGマトリックスにおける細胞培養)
30mgのテトラアミノPEG(10,000MW、 Shearwater Polymers, Huntsville, ALから得た)を、0.6ml PBS中に溶解し、次いで滅菌濾過した。30mgの4官能性に活性化されたSE−PEG(「テトラSE−PEG」、10,000MW、これもまたShearwater Polymersから得た)を0.6mlのPBS中に溶解し、次いで滅菌濾過した。
【0228】
テトラアミノPEGおよびテトラSE−PEG溶液を、ヒト上皮線維芽([HSF])細胞(CRL#1885,第4継代、American Tissue Type Culture Collection, Rockville, MDから得た)を含むペレットと共に混合した。250μlの得られた細胞含有テトラアミノPEG/テトラSE−PEG(PEG−PEG)溶液を、48ウェル培養プレート上の各々2つのウェルへ分配し、室温に約5分間おいてゲル化させた。1mlのダルベッコ改変イーグル培地(10%ウシ胎児血清、L−グルタミン、ペニシリン−ストレプトマイシン、および非必須アミノ酸を追加)を各々2つのウェルへ添加した。細胞濃度を、テトラアミノPEG/テトラSE−PEG溶液1mlあたり、約3×10細胞または1ウェルあたり7.5×10細胞とした。
【0229】
コントロールの調製のため、HSF細胞のペレットを1.2mlの完全培地へ懸濁した。250μlのコントロール混合物を、上記で用いたような同じ48ウェル培養プレート上の各々3つのウェルへ分配した。各々のウェルは、約7.5×10細胞を含むと推定された。各々のウェルへ、1日おきに新鮮な培地を与えた。
【0230】
最初、細胞含有テトラアミノPEG/テトラSE−PEGゲルは透明で、細胞は、密度が高く、回転楕円面形態であるように見られた。このことは、細胞とPEG/PEGゲルとの間の接着がほとんどなかったことを示す(細胞は、例えば、処理されたプラスティック組織培養プレートのような基質に接着している場合、通常平らで、紡錘体形態であると考えられ得る)。3日間37℃でインキュベートした後、PEG/PEGゲルを含有するウェル中の培地は、明るく色付いたようであり(ダルベッコ改変イーグル培地は通常赤色である)、このことは培地中のpHが変化したことを示す。これは、細胞が活動状態であり、かつ摂食していることを示していた。37℃で7日間のインキュベートでは、細胞は依然として回転楕円面形態のまま(ゲルへの接着が欠如していることを示す)であり、そして培地はさらに明るくなった。これは、細胞がまだ生存可能であり、かつ摂食を続けていたことを示す。
【0231】
7日目、組織学的評価のために、各ウェルの中身を10%ホルマリン溶液中に入れた。組織学的評価によると、PEG/PEGゲルを含むウェル中の細胞の推定75%が生存していたようであるが、再生はしていないようであった。
【0232】
実験の結果は、HSF細胞は、テトラアミノPEG/テトラSE−PEG架橋ゲル中で生存可能であるが、しかしゲルへは接着しないようであり、ゲルマトリックス中に包括されている間は再生していないようであったことを示している。上記のように、細胞の基質材料への接着および非接着は、細胞の形態に影響を与え得る。特定の型の細胞では、細胞形態が、次々に、特定の細胞機能に影響を与え得る。それゆえ、細胞のPEG−PEGゲルマトリックスへの非接着は、機能が細胞の形態により影響を受ける特定の細胞型の送達に有利であり得る。例えば、細胞外マトリックス材料を産生するための軟骨細胞の能力は、細胞の形態によって影響される:細胞が平らで紡錘体構成の場合、細胞は再生モード(mode)となる;細胞が回転楕円面構成の場合、再生は止まり、細胞は細胞外マトリックス成分を産生し始める。
【0233】
PEG−PEGゲルはインビボで容易に分解しないので、このゲルは、細胞が長時間マトリックス中に包括されたままであることが望ましい場合の細胞送達の適用に特に有用であり得る。
【図面の簡単な説明】
【0234】
【図1】図1は、4官能性活性化SE−PEG(10,000 MW)を用いて架橋したテトラ−アミノPEG(10,000 MW)を含む架橋ポリマー組成物のディスク(およその寸法:5mm厚み×5mm直径)についての、Instron Universal Tester、Model 4202を用いて、毎分2mmの圧縮速度で測定した圧縮力対ずれを示す。
【図2】図2は、3官能性活性化SC−PEG(5,000 MW)を用いて架橋したテトラ−アミノPEG(10,000 MW)を含む架橋ポリマー組成物のディスク(およその寸法:5mm厚み×5mm直径)についての、Instron Universal Tester、Model 4202を用いて、毎分2mmの圧縮速度で測定した圧縮力対ずれを示す。
【図3】図3は、2つの市販の、複数の1級アミノ基を含むポリエチレングリコールの化学構造を示す。
【図4】図4は、親水性ポリマーからの、様々な架橋合成ポリマー組成物の形成を示す。
【図5】図5は、親水性ポリマーからの、様々な架橋合成ポリマー組成物の形成を示す。
【図6】図6は、親水性ポリマーからの、様々な架橋合成ポリマー組成物の形成を示す。
【図7】図7は、親水性ポリマーからの、様々な架橋合成ポリマー組成物の形成を示す。
【図8】図8は、親水性ポリマーからの、様々な架橋合成ポリマー組成物の形成を示す。
【図9】図9は、親水性ポリマーからの、様々な架橋合成ポリマー組成物の形成を示す。
【図10】図10は、親水性ポリマーからの、様々な架橋合成ポリマー組成物の形成を示す。
【図11】図11は、親水性ポリマーからの、様々な架橋合成ポリマー組成物の形成を示す。
【図12】図12は、親水性ポリマーからの、様々な架橋合成ポリマー組成物の形成を示す。
【図13】図13は、親水性ポリマーからの、様々な架橋合成ポリマー組成物の形成を示す。
【図14】図14は、疎水性ポリマーからの、様々な架橋合成ポリマー組成物の形成を示す。
【図15】図15は、疎水性ポリマーからの、様々な架橋合成ポリマー組成物の形成を示す。
【図16】図16は、疎水性ポリマーからの、様々な架橋合成ポリマー組成物の形成を示す。
【図17】図17は、疎水性ポリマーからの、様々な架橋合成ポリマー組成物の形成を示す。
【図18】図18は、疎水性ポリマーからの、様々な架橋合成ポリマー組成物の形成を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書に記載の発明。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2009−35744(P2009−35744A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−274836(P2008−274836)
【出願日】平成20年10月24日(2008.10.24)
【分割の表示】特願2004−93835(P2004−93835)の分割
【原出願日】平成8年12月18日(1996.12.18)
【出願人】(506414587)アンジオデバイス インターナショナル ゲーエムベーハー (3)
【Fターム(参考)】