説明

架橋結合アラミドポリマー

本発明はポリ(メタ)アクリル酸を通して第2アラミド主鎖と架橋されている第1アラミド主鎖を含んでなる架橋結合アラミドポリマーに関する。架橋結合アラミドポリマーは、モノマーの芳香族ジアミンをモノマーの芳香族二酸、もしくはハロゲン化物またはこれらのエステルとともにポリ(メタ)アクリル酸の存在下で重合し、続いて硬化工程に付すことによって得られる。架橋結合アラミドポリマーはそのアミド結合によって架橋されそして繊維、フィルムまたはフィブリドに製造される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は架橋結合アラミドポリマー、アラミドポリマーの架橋結合方法、および得られた製品に関する。
【背景技術】
【0002】
アラミドポリマーは何十年にもわたり知られているが、その特性のいくつかを改良することは依然として求められている。本発明の目的は、アラミド誘導体および高圧縮特性、高靭性、および高破断力を有するアラミド誘導体および繊維を提供することである。
一般に重合体繊維、および特にアラミド繊維の圧縮特性を改良するいくつかの試みが知られている。スウィーニー(Sweeny)は、鎖間共有結合をつくるための、活性化アリールハロゲンの熱除去、それに続くアリル遊離基の結合を報告した(Sweeny,W.,架橋結合による高モジュラス繊維の圧縮特性の改良.J.Polym.Sci.,Part A:Polym.Chem.,1992,30(6):p.1111−1122)。圧縮特性の増加は繊維靭性の重大な下落に伴うものであった。マルコスキー(Markoski)(Markoski,L.J.,ほか、ポリ(パラフェニレンテレフタルミド)の架橋結合性重合体;Chem Mat.,1993,5(3):p.248−250)は、ポリ(パラフェニレンテレフタルミド)中で架橋結合性ベンゾシクロブテンを含むテレフタル酸によってテレフタル酸の(部分)置換を研究した。後処理のいくつかのタイプを基にした他の研究は、アラミド繊維の圧縮特性における熱処理の影響を研究したスウィーニー(Sweeney)(Sweeney,D.J.,ほか、Kevler−29繊維の跳ね返り圧縮強度における熱処理条件の影響.High Perform.Polym.,2002,14(2):p.133−143)によって報告されたが、それは引張強度を犠牲にしてしまうものであった。
【0003】
JP11172012にアラミドシリコーンポリマーの架橋結合が記載されているが、この工程は典型的なアラミドポリマーではない混合ポリマーを用いて行なわれている。この物質は、コンタクトレンズを作るのに適しており、圧縮強度改良については発見されていず、開示されていない。
WO2008/028605に、カルボン酸基とヒドロキシ基で置換することによって架橋結合性ポリマーを得るために、アラミドの芳香族基が変性されたアラミドの架橋が記載されている。これらのアラミドはその芳香族ヒドロキシ基および/またはカルボン酸基を通じて架橋結合されている。
変性共重合体が使用された先行技術の試みの多くとは逆に、本発明は架橋結合性共重合体を得るため通常使用される芳香族ジアミンと芳香族二塩化物以外の他のモノマーを含むことによってアラミド主鎖を変性させることなく、架橋結合アラミドポリマーを提供する。本発明のアラミドポリマーは、それ故、共重合体を架橋可能にするために、ヒドロキシ基とカルボン酸基を含まない。困難であるがまたは不可能であることが証明された、先に述べた繊維紡糸の試行とは対照的に、標準的なスピンドープ調製およびドライジェットウェットスピニング技術は変性することなく使用できた。圧縮歪が0.63%で圧縮強度が0.88GPaの強度を有する繊維が本発明の混合物から調製され、非架橋アラミドよりも破断靭性の重大な減少はなくまた低い破断力損失であった。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
このことから本発明はポリ(メタ)アクリル酸を経て第2アラミド主鎖と架橋結合された第1のアラミド主鎖を含む架橋結合アラミドポリマーに関する。第1のアラミド主鎖は、それによってアミド基を通して第2アラミド主鎖のアミド基と架橋結合されている。
【発明を実施するための形態】
【0005】
スピンドープの調製および繊維紡糸工程はポリメタクリル酸の結合部の取り込みによって大きく影響されない。架橋結合されたポリパラフェニレンテレフタルアミド(PPTA)からなる繊維はうまく調製でき、また改良された性質、特に圧縮強度に関して対照のPPTAヤーン(架橋結合されていない)に比較して改良が見られる。
本発明はまた一般に離液性溶液から紡糸された高配向重合繊維に関する。加えて、本発明は、前述のスピンドープから紡糸された、改良された物理的および機械的特性を示す繊維、フィルム、およびフィブリドに関する。
【0006】
本発明の他の目的は、モノマーの芳香族ジアミンをモノマーの芳香族二酸もしくはハロゲン化物またはこれらのエステルとともにポリ(メタ)アクリル酸の存在下で重合させ、続いて硬化工程によって架橋結合アラミドポリマーを得る方法に関する。好ましくは、モノマーの芳香族ジエステルまたは二塩化物(例えば二カルボキシル塩化物)が使用され、これらは芳香族ヒドロキシもしくは芳香族カルボニル酸、または共重合体を架橋結合可能とする他の置換基を含まない。上記モノマーは、硫酸、NMP、NMP/CaClおよびこれらと同様の一般的な溶剤中で一緒に混合される。
【0007】
硬化工程は熱硬化工程でよく、任意に真空下で行われる。好ましくは、硬化は300〜450℃の間で行われる。好ましいポリマーはPPTAおよびTechnora(登録商標)のような、アミド基を経る架橋結合を妨害し得る芳香族置換基を含まないパラアミドである。
ポリマー混合物の架橋結合の程度は通常の硬化および溶解試験によって容易に決定できる。溶解試験は未硬化ポリマーと硬化ポリマー間で識別する。もし直径約50μmのアラミド粒子がHSOに溶解しなければこの粒子は硬化(すなわち架橋結合)されていると考えられる。
上記アラミドポリマーはポリ(メタ)アクリル酸(PPA)で架橋結合されており、その構造は下記のようである。
【0008】
【化1】

【0009】
もしR=Hであれば上記構造はポリアクリル酸であり、R=CHであればこれはポリメタクリル酸であり、そしてnは2〜14000の値をとることができる。
【0010】
下記の架橋結合反応は知られていないが、おそらく下記(R=Hについて表示されている)のようなプロトン引き抜き反応によって始まるものと思われる。
【0011】
【化2】

【0012】
ここでp+q+1=0
上記図におけるアラミドは第1の主鎖である。第2のアラミド主鎖は次いでポリメタクリル酸部分の他のカルボキシル基の1つと同様によって反応する。さらなる架橋結合が同様に可能である。その場合、ポリメタクリル酸部分の他のカルボキシル基の1つと同様に、第3、第4、等々のアラミド主鎖が反応することができる。本発明による架橋結合はアミド基を経るが、先行技術で用いられたような芳香族部分における置換基を経るものではない。高分子量芳香族ポリアミドの異方性溶液から紡糸された繊維は文献で知られている。芳香族ポリアミドを製造する方法はクオレック(Kwolek)らによってUS3,063,966に教示されている。異方性溶液から全芳香族ポリアミド繊維を紡糸する方法はUS3,154,610とUS3,414,645に教示されている。芳香族ポリアミドの異方性ドープの調製はUS 再発行特許(RE)30,352に開示されている。
【0013】
上記繊維は硫酸中の芳香族ポリアミドの異方性溶液から紡糸されうるが、NMP/塩化カルシウム(CaCl)のような他の溶剤も同様に使用できる。高分子量芳香族ポリアミドやポリ(メタ)アクリル酸はともに慣用の重縮合反応技術を用いることによって調製あるいはこれらは商業的に入手された。前記スピンドープは2つの成分を混合しそして硫酸と混合することによって調製されうる。上記繊維は公知のドライジェットウェットスピニング法によって紡糸されうる。
もうひとつの態様ではアラミドポリマーは硫酸存在下でポリ(メタ)アクリル酸と混合され、任意に繊維のような製品に成形され、例えば洗浄処置によって、硫酸は除去され、続いて硬化工程を経る。このような硬化はポリマーまたは成形された製品を加熱することでなされる。
【実施例】
【0014】
本発明をさらに下記の実施例によって説明する。
【0015】
重合
機械的撹拌機、窒素の入口と出口および真空供給口を備えた清潔かつ乾燥した2Lフラスコに、21.649gのPPD(パラフェニレンジアミン;アルドリッチ社)、0.974gのポリアクリル酸(アルドリッチ社)および300mLの、CaCl濃度が10.6wt%の乾燥NMP/CaCl(NMP=N−メチルピロリドン)を充填した。上記反応装置は窒素で2回パージし、上記混合物は超音波処理をしつつ40分間150rpmで撹拌した。
上記フラスコを氷水で10℃まで冷却した。冷却水を除去した後、撹拌速度を320rpmにセットしそして40.643gのTDC(二塩化テレフタロイル;デュポン社)を漏斗を通して容器中に装入した。このフラスコを150mLの乾燥NMP/CaClを用いて2回洗滌した。上記容器は閉じ、混合物を窒素フラッシ下少なくとも20分間反応させた。
【0016】
粉々にされた製品を脱イオン水とともにCondux LV15 15/N3凝固装置内に静かに加えそしてその混合物をステンレススチールフィルター上に捕集した。上記製品を5Lの脱イオン水で4回洗浄し、2Lのガラスビーカーに集めそして24時間80℃で真空乾燥し相対粘度が5.77の粉状製品を得た。
比較として、ポリアクリル酸を用いずに得たPPTA(ポリパラフェニレンテレフタラミド)は相対粘度が5.58である。
【0017】
硬化
上記ポリマーの約0.5gの試料をテストチューブに入れ、排気しそして表1に示された時間と温度まで加熱した。
【0018】
顕微鏡による検査
ガラス製スライド状に載せた粉体試料または短いフィラメントに数滴の硫酸(99.8%)を慎重に加えた。上記試料を大きいガラス製カバースリップで覆いそしてオリンパス BX−51光学顕微鏡を用いフェーズコントラストモードで観察した。画像はColorview III CCDカメラで撮影しanalySIS Vで処理した。
上記の結果は表1(粉体試料)および表2(ヤーン)に示した。
線型学的特性はEP1805248に記載されているとおりに決定した。
破断力損失は次のように計算される:
BFloss=−(BF−BF)/BF*100%
ここでBF=熱処理されたヤーンの破断力およびBF=熱処理前のヤーンの破断力である。
【0019】
圧縮強度はディー.シンクレア(D.Sinclair),J.App.Phy.,vol.21(1950),380−385およびジェイ.エイチ.グリーンウッドとピー.ジー.ローズ(J.H.Greenwood and P.G.Rose),Journal of Materials Science 9(1974),1809−1814に記載されたとおり弾性ループ試験(ELT)によって決定され、そして次のように計算した:
C.S.=1.43 * M.d/c’
ここでC.S.は圧縮強度、Mはモジュラス、dはフィラメントの直径、c’はc/a比が1.34から離れていくc−axの値である。
【0020】
【表1】

【0021】
ヤーンの特性
PPTAおよびPPTA/PAAヤーンをEP1805248に記載された方法に従って製造した。
PPTA19.5重量部を20mm2軸押出機(40D)中に投入した。HSO/PAA=98/2 81.5重量部を4.75Dで2軸押出機中に注入した。上記硫酸は99.8%の純度を有していた。全押出量は800g/hであった。押出機の速度は約300rpmであった。脱気のための減圧は約50mbar(絶対圧)であった。押出機の出口圧はほぼ30barであった。溶解工程の温度は85℃であった。繊維は水浴中で51穴/75μmの紡糸口金を用いる空隙紡糸によって紡糸し、続いてヤーンを洗浄および乾燥して得た。空隙は約5mmであった。
上記ヤーンは表IIに示す温度(250から400℃)において滞留時間28秒間で実施された、窒素のガスシール下の熱処理加工に付された。
【0022】
比較例
PPTA19.5重量部を20mm2軸押出機(40D)中に投入した。HSO81.5重量部を4.75Dで2軸押出機に注入した。上記硫酸は99.8%の純度を有していた。全押出量は800g/hであった。押出機の速度は約300rpmであった。脱気のための減圧は約50mbar(絶対圧)であった。押出成形機の出口圧はほぼ30barであった。溶解工程の温度は85℃であった。繊維を水浴中で51穴/75μmの紡糸口金を用いて空隙紡糸によって紡糸し、続いてヤーンを洗浄および乾燥させて得た。空隙は約5mmであった。
上記ヤーンは表IIに示す温度(250〜400℃)において滞留時間28秒間で実施した、窒素のガスシール下の熱処理加工に付した
上記ヤーンの特性および必須機械設定は表IIに示す:
【0023】
【表2】

【0024】
熱処理されたPPTA/PAAヤーンは硫酸中で膨張したが、熱処理されたPPTAヤーンは2分間で溶解した。
これらの結果は、PPTAおよびPPTA/PAAヤーンの圧縮強度はともにオーブン温度が上昇する熱処理で0.88GPaまで増加するが、しかしPPTAとは反対に、PPTA/PAAヤーンは高靭性(PPTA/PAAの靭性損失は1.5%;PPTAの靭性損失は7.5%)と破断力をはるかに良く保持している、ことを示している。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ(メタ)アクリル酸によって第2アラミド主鎖のアミド基とアミド基を経て架橋結合されている第1アラミド主鎖を含む架橋結合アラミドポリマー。
【請求項2】
両アラミド主鎖は架橋結合可能な共重合体となる単量体を含む変性がされていない請求項1に記載の架橋結合アラミドポリマー。
【請求項3】
両アラミド主鎖はヒドロキシおよび/またはカルボキシル酸基を含むことによって変性されていない請求項2に記載の架橋結合アラミドポリマー。
【請求項4】
両アラミド主鎖がPPTAである請求項1に記載の架橋結合アラミドポリマー。
【請求項5】
モノマーの芳香族ジアミンをモノマーの芳香族二酸もしくはハロゲン化物またはこれらのエステルと、ポリ(メタ)アクリル酸の存在下で重合し、続いて硬化工程を経るか;またはアラミドポリマーを硫酸の存在下でポリ(メタ)アクリル酸と混合し、硫酸を除去した後硬化工程を経ることによって、請求項1〜4のいずれかに記載の架橋結合アラミドポリマーを得る方法。
【請求項6】
重合の前にモノマーの芳香族ジアミンとモノマーの芳香族二酸、ハロゲン化物またはこれらのエステルが溶媒中で混合される請求項5に記載の方法。
【請求項7】
溶媒が硫酸、NMPまたはNMP/CaClである請求項6に記載の方法。
【請求項8】
硬化工程が熱硬化であり、任意に真空下で行われる、請求項5〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
モノマーの芳香族ジアミンとモノマーの芳香族二酸、ハロゲン化物またはこれらのエステルが架橋結合可能な重合体となる単量体を含む変性がされていない請求項5〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
アラミドポリマーがPPTAである請求項5〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
架橋結合アラミドポリマーが紡糸工程によって繊維もしくはフィブリドに、またはキャスト工程によってフィルムに変換される請求項5〜10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
請求項1〜4のいずれかに記載の架橋結合アラミドポリマーからなる繊維、フィルム、またはフィブリド。


【公表番号】特表2011−518908(P2011−518908A)
【公表日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−505498(P2011−505498)
【出願日】平成21年4月22日(2009.4.22)
【国際出願番号】PCT/EP2009/054819
【国際公開番号】WO2009/130244
【国際公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【出願人】(501469803)テイジン・アラミド・ビー.ブイ. (48)
【Fターム(参考)】