説明

架空被覆長尺物

【課題】降水を伴う強風状態においても抗力係数の増加を低く抑えて抗力係数の見積り誤りをなくすと共に、耐トラッキング性能が良好である架空被覆長尺物を提供する。
【解決手段】導体2と前記導体の周りに押出成形によって形成された被覆体3からなる架空被覆長尺物であって、前記被覆体3の横断面における外表面の形状が、直径dの円に内接する、N個の等しい長さの辺を有する多角形からなっており、辺数Nと直径dとの関係が、dが約10mmのときNが15又は16、dが約18mmのときNが20以上24以下、dが約40mmのときNが26以上30以下であるもの。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、架空に布設される絶縁電線、ケーブル、これら電線、ケーブルを保護する筒状のプロテクタ等の架空被覆長尺物に関し、特に強風および降水状態における抗力係数(空気抵抗係数)の増加を抑えると共に、耐トラッキング性能に優れる架空被覆長尺物に関する。
【背景技術】
【0002】
架空被覆長尺物、例えば架空絶縁電線は、銅又はアルミニウムなどからなる導体すなわちアルミニウム撚線、鋼心アルミニウム撚線、あるいは銅撚線等の外周に、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、架橋ポリエチレン等の絶縁材料を押出成形して形成される被覆体(シースを含む。以下同様)を設けたものである。また、架空被覆長尺物には、上述した絶縁材料、または、その他ゴム、プラスチック材料を筒状に押出成形して形成され、電線、ケーブルに被せて使用される筒状のプロテクタ等もある。
【0003】
このような架空被覆長尺物において、風圧荷重の低減と難着雪効果を図るものとして、例えば、架空絶縁電線における被覆体の外表面に周方向に所定の間隔で多数の弧状の凸部と凹部を交互に設けた架空絶縁電線が知られている(特許文献1参照)。
【0004】
また、降雨下での風圧荷重低減を図ったものとして、断面形状を正多角形とし、当該正多角形が内接する円の直径d(単位mm)と辺の数Nとの関係が、6.785+0.575d−0.006732d≦N≦6.949+0.8380d−0.009694dである架空絶縁電線が提案されている(特許文献2参照)。
【0005】
【特許文献1】特開2001−118434号公報
【特許文献2】特開2005−056652号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の絶縁電線は、低風圧効果を有するものの降雨時に低風圧特性が悪化する問題があった。
【0007】
特許文献2の絶縁電線は上述の問題の解決を図るために開発されたものである。この絶縁電線によれば、降雨を伴う強風下でも風圧荷重の低減効果が得られ、降雨時の抗力係数の増加を抑制できることが判明した。
【0008】
ところで、このような特許文献2の絶縁電線は、風の強い海岸地帯でも使用したいという要請がある。そこで検討したところ、このような塩害の厳しい地域に低風圧電線として配置されるような架空絶縁電線等に対しては、強風が収まった後の平時において、通常より優れた耐トラッキング性能が求められことがあることが判った。
【0009】
従って、この発明の目的は、降水を伴う強風状態においても抗力係数の増加を低く抑えて抗力係数の見積り誤りをなくすと共に、耐トラッキング性能が良好である架空被覆長尺物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した従来の問題点を解決するために実験を重ねた。その結果、架空被覆長尺物の横断面を等しい長さの辺を有する多角形の辺の数をNとするとき、この多角形が内接する円の直径dと辺の数Nとの関係を適切に規定することによって、強風および降水が同時に生じる条件下における低風圧効果を満足しつつ、優れた耐トラッキング性が得られることが判明した。この発明は、上述した研究結果に基づきなされたものである。
【0011】
この発明に係る架空被覆長尺物は、押出成形によって形成された被覆体を有するもの(絶縁電線、ケーブル等)又は押出成形によって形成された被覆体からなるもの(筒状のプロテクタ等)であって、前記被覆体の横断面における外表面の形状が、直径dの円に内接する、N個の等しい長さの辺を有する多角形からなっており、辺数Nと直径dとの関係が、dが約10mmのときNが15又は16、dが約18mmのときNが20以上24以下、dが約40mmのときNが26以上30以下であることを特徴とするものである。
【0012】
また、この発明に係る架空被覆長尺物は、押出成形によって形成された被覆体を有するもの又は押出成形によって形成された被覆体からなるものであって、前記被覆体の横断面における外表面の形状が、直径dの円に内接する、N個の等しい長さの辺を有する多角形からなっており、辺数Nと前記直径d(単位mm)との関係が、7.949+0.838d+0.009694d≦N≦6.1818+1.1106d−0.0129dの式を満たすものと規定することもできる。
【0013】
なお、辺数Nは自然数である。上記のdを含む式で得られる小数点一位以下の端数は四捨五入される(以下同じ)。
【0014】
また、この発明に係る架空被覆長尺物は、押出成形によって形成された被覆体を有する又は押出成形によって形成された被覆体からなる架空被覆長尺物であって、前記被覆体の横断面における外表面の形状が、直径dの円に内接する、N個の等しい長さの辺を有する多角形からなっており、辺数Nと直径dとの関係が、次の(1)、(2)の条件を満たすことを特徴とする架空被覆長尺物、と規定することもできる。
(1)dを横軸、Nを縦軸とする直角座標で、dが10mmでNが16の点、dが18mmでNが24の点、dが約40mmでNが30の点を結んだ線以下である。
(2)7.949+0.838d−0.009694d≦Nである。
【0015】
なお、辺数Nは自然数であり、上記のdを含む式で得られる小数点一位以下の端数は四捨五入される点は、前述のとおりである(以下同じ)。
【0016】
また、この発明に係る架空被覆長尺物は、通常の場合、導体の外周に、絶縁材料を押出成形することにより絶縁被覆が形成された架空絶縁電線である。
【0017】
また、この発明に係る架空被覆長尺物は、通常の場合、電柱に架設されるものである。
【0018】
また、この発明に係る架空被覆長尺物は、架空絶縁電線又はケーブルに被せて使用される筒状のプロテクタである場合もある。
【0019】
また、この発明に係る架空被覆長尺物は、導体と前記導体の周りに押出成形によって形成された被覆体からなる架空被覆長尺物であって、前記被覆体の横断面における外表面の形状が、直径dの円に内接する、等しい長さのN個の辺を有する多角形からなっており、辺数Nと直径dとの関係が、dが約10mmのときNが15又は16、dが約18mmのときNが20以上24以下、dが約40mmのときNが26以上30以下であることを特徴とする架空被覆長尺物、と規定することもできる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の架空被覆長尺物は、強風および降水が同時に生じる状態においても抗力係数が低く押えられて、風圧荷重を低減させることができる。更に、耐トラッキング性能をより向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
図1は本発明に係る架空被覆長尺物の一実施形態である架空絶縁電線を示す横断面図である。この架空絶縁電線1は、例えば、銅撚線からなる導体2と、その外周に絶縁材料であるポリエチレン樹脂を押出成形して被覆形成された絶縁層である被覆体3とから構成される。
【0022】
そして、被覆体3はその押出成形の際、横断面における外表面の形状が、直径dの円に内接するように、辺数Nが13以上の等辺を周方向に連接させている。これによって、外表面の形状は、横断面において周方向に等間隔であり、且つ軸線方向において電線1の長手方向に沿って軸線に略平行(電線製造、架設時に自然に緩くねじれる場合を含む)に延びる辺数Nと同数の三角状山部3aを有する角型形状になっている。即ち、図1に示すように、この発明の架空絶縁電線1の横断面は、辺数Nの概ね正多角形からなっている。
この正多角形の外接円の直径がdである。
【0023】
実験のために試作された架空絶縁電線1の直径d及び辺数N、並びに各電線1に対する強風および降水が同時に生じる状態における抗力係数の測定値は表1に示す通りである。被覆体は、外接円の直径dが、10mm、18mm、40mmの3種類になるようにした。辺数Nは、直径10mmの場合、13、15、16について測定した。直径18mmの場合、17、20、24について測定した。直径40mmの場合、22、26、30について測定した。
【0024】
風洞実験により、架空線路設備設計時に用いられる最高風速40m/s、且つ、降水条件5mm/10分間、10mm/10分間、15mm/10分間のそれぞれの降水量の範囲内で、強風および降水が同時に生じる状態における抗力係数の測定を行った。表1には、10分間降水量が15mmの場合を示している。なお、風速・降水条件は、過去に観察された台風における強風および降水量の記録から採用した値である。
【0025】
なお、風洞実験設備の概要を図2に示す。この実験設備は、風洞11内に電線サンプル12を水平に配置し、風洞11の入口(吹出し口)の直後に気流を乱さないように設置された降水グリッド13から、風速40m/sの条件下で水を噴射するものである。噴射された水は気流に拡散し、気流と共に電線サンプル12に達し、風洞内を通り抜ける。電線サンプル12にかかる風圧は風洞11の両側に設置された3分力検出器14(荷重計)で検出する。
【0026】
抗力係数Cdの定義は次式のとおりである。
Cd=測定荷重/(0.5ρVA)
ここで、測定荷重は風洞の両側に設置した荷重計の総和、ρは空気密度、Vは気流速度の2乗、Aは電線サンプルの風上投影断面積である。0.5ρVは風圧値で、単位面積あたりの風圧荷重である。標準大気圧状態で風速40m/sでは、ρ=1.293kg/mとなり、風圧値は980.7N/mとなる。
【0027】
表1中の評価で、「効果大」のものは抗力係数が0.80未満、「効果中」のものは抗力係数が0.80〜1.05未満、「効果小」のものは抗力係数が1.05以上であったことを示す。なお、断面が円形の絶縁電線の場合は、抗力係数は1.2程度である。
【0028】
また、耐トラッキング性能の評価は、JIS C3005の15に規定される方法に従って行った。概要を説明すると、この評価方法は、図3に示すような耐トラッキング試験装置5を用いて、長さ300mmの電線サンプル1をセットし、塩化ナトリウムを含む試験水を規定のサイクルで噴霧し、電線サンプル1の一端に露出させた導体2と、電線サンプル1の他端側に巻き付けた電極6の間に交流電圧60Hz、4kVの交流電圧を印加するものである。その結果を表1に併せて示す。
【0029】
表1の無風時の耐トラッキング試験結果で、噴霧回数101回において焼損しなかった場合を「○」とした。「△」は試料の焼損50mm以下、「×」試料の焼損50mm以上であったことを示す。
【0030】
【表1】

【0031】
表1の結果より次のようなことが分かる。即ち、いずれの試料においても風圧低減の効果は中以上であり所望の効果が得られる。被覆体3の直径dが10mmのサイズでは辺数Nが15又は16、18mmのサイズでは辺数Nが20以上24以下、40mmのサイズでは辺数Nが26以上30以下において、無風時の耐トラッキング性能が○で示され良好であると判断できる。なお、△でもJIS規格の基準を満たしているが、○で示された試料は、より優れた性能を備えており、例えば、海岸に近い重塩害地域のような場所に配置される等、より優れた耐トラッキング性能が求められる場合でもこれを満足することができる。
【0032】
以上の実験結果を総合すると、架空絶縁電線の断面の辺数Nとこの断面が内接する円の直径dとの関係は、降水を伴う強風時の低風圧効果だけでなく、平時の耐トラッキング性にも影響を与えることが判る。そしてこれらを両立するには、Nとdとを所定の範囲で選択すればよいことが判る。すなわち、dが約10mmのときNが15又は16、dが約18mmのときNが20以上24以下、dが約40mmのときNが26以上30以下であるとき、強風および降水が同時に生じる状態における抗力係数が0.80〜1.05未満に抑制され、かつ無風時の耐トラッキング性能が良好であるといえる。
【0033】
また、上記の実験結果をグラフにプロットすると、図4のようになり、これを近似式で表すと、7.949+0.838d−0.009694d≦辺数N≦6.1818+1.1106d−0.0129dと表すことができる。この式をグラフに示すと図4の2本の曲線のようになる。したがって、直径dと辺数Nは、上記の式の範囲内にあるように選定してもよい。
【0034】
あるいは、図5に示すように、直径dと辺数Nは、dが10mmでNが16の点、dが18mmでNが24の点、dが約40mmでNが30の点を結んだ線以下であり、且つ7.949+0.838d−0.009694d≦Nとなる範囲内にあるように選定してもよい。
【0035】
以上のように、架空絶縁電線1において、被覆体3の外表面の断面形状が、これが内接する円の直径dに対して上記式を満足するような範囲内に選定された辺数Nを有する角型形状になると、強風および降水が同時に生じる状態においても抗力係数が低く押えられて、風圧荷重を低減させることができる。
更に、耐トラッキング性能がより良好な電線とすることができる。
【0036】
なお、被覆体3の外表面の各三角状山部を結ぶ辺は直線状であるが、若干外凹状に緩くわん曲していてもよい。更に、本発明に係る架空被覆長尺物は前記電線1以外にゴム、プラスチック材料を筒状に押出成形して形成され、電線、ケーブルに被せてこれらを保護する被覆体からなる筒状のプロテクタ等にも適用でき、前記電線1の場合と同様な風圧荷重の低減と耐トラッキング効果が得られるものである。
【0037】
また、最良の実施形態に例示した絶縁電線は、導体がアルミニウム撚線、鋼心アルミニウム撚線、硬銅単線等であっても良い。また被覆体はポリ塩化ビニル、架橋ポリエチレ等の絶縁材料で形成することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明に係る架空被覆長尺物の一実施形態である架空絶縁電線を示す断面図である。
【図2】図1に示す架空絶縁電線の風洞実験設備の概略構成を示す説明図である。
【図3】図1に示す架空絶縁電線の耐トラッキング効果を評価する耐トラッキング試験装置の説明図である。
【図4】図1の架空絶縁電線が強風および降水が同時に生じる状態において、所望の抗力係数を得るために必要な被覆体の直径dに対する辺数Nの範囲の一例を示すグラフである。
【図5】図1の架空絶縁電線が強風および降水が同時に生じる状態において、所望の抗力係数を得るために必要な被覆体の直径dに対する辺数Nの範囲の他の例を示すグラフである。
【符号の説明】
【0039】
1:架空絶縁電線
2:導体
3:被覆体
3a:三角状山部
5:耐トラッキング試験装置
6:導体
11:風洞
12:電線サンプル
13:降水グリッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
押出成形によって形成された被覆体を有する又は押出成形によって形成された被覆体からなる架空被覆長尺物であって、前記被覆体の横断面における外表面の形状が、直径dの円に内接する、N個の等しい長さの辺を有する多角形からなっており、辺数Nと直径dとの関係が、dが約10mmのときNが15又は16、dが約18mmのときNが20以上24以下、dが約40mmのときNが26以上30以下であることを特徴とする架空被覆長尺物。
【請求項2】
押出成形によって形成された被覆体を有する又は押出成形によって形成された被覆体からなる架空被覆長尺物であって、前記被覆体の横断面における外表面の形状が、直径dの円に内接する、N個の等しい長さの辺を有する多角形からなっており、辺数Nと前記直径d(単位mm)との関係が、7.949+0.838d−0.009694d≦N≦6.1818+1.1106d−0.0129dの式を満たすことを特徴とする架空被覆長尺物。
【請求項3】
押出成形によって形成された被覆体を有する又は押出成形によって形成された被覆体からなる架空被覆長尺物であって、前記被覆体の横断面における外表面の形状が、直径dの円に内接する、N個の等しい長さの辺を有する多角形からなっており、辺数Nと直径dとの関係が、次の(1)、(2)の条件を満たすことを特徴とする架空被覆長尺物。
(1)dを横軸、Nを縦軸とする直角座標で、dが10mmでNが16の点、dが18mmでNが24の点、dが約40mmでNが30の点を結んだ線以下である。
(2)7.949+0.838d−0.009694d≦Nである。
【請求項4】
導体の外周に、絶縁材料を押出成形することにより絶縁被覆が形成された架空絶縁電線であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の架空被覆長尺物。
【請求項5】
電柱に架設されるものであることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の架空被覆長尺物。
【請求項6】
架空絶縁電線又はケーブルに被せて使用される筒状のプロテクタであることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の架空被覆長尺物。
【請求項7】
導体と前記導体の周りに押出成形によって形成された被覆体からなる架空被覆長尺物であって、前記被覆体の横断面における外表面の形状が、直径dの円に内接する、等しい長さのN個の辺を有する多角形からなっており、辺数Nと直径dとの関係が、dが約10mmのときNが15又は16、dが約18mmのときNが20以上24以下、dが約40mmのときNが26以上30以下であることを特徴とする架空被覆長尺物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−165295(P2007−165295A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−309258(P2006−309258)
【出願日】平成18年11月15日(2006.11.15)
【出願人】(502308387)株式会社ビスキャス (205)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】