説明

架線用吊金具

【課題】空中に張設されたワイヤへの係脱作業が安全かつ容易であり、ワイヤにワークを吊り下げる態様だけでなく、既設構造物からワイヤを吊り下げて張設する態様にも好適に利用しうる架線用吊金具を提供するものである。
【解決手段】外形が六角柱状をなす吊金具本体2には、その軸方向一端部寄りから他端部寄りにわたって、軸方向と直交する方向に吊金具本体2を貫通する架線係脱孔21が形成される。架線係脱孔21は吊金具本体2の他端側で吊金具本体2の側面に開口する。吊金具本体2の軸芯には雌ネジ孔25が形成されて、この雌ネジ孔25にボルト3が螺合され、架線係脱孔21に挿入された架線6をボルト3の先端と吊金具本体2との間に挟持する。締めナット4を締め付けると緩み止めになる。ボルト3の軸芯には貫通孔35が形成されて、吊りワイヤ5が抜け止め状態で取り付けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空中に張設したワイヤ、ロープ、ケーブルその他の線状部材の任意の位置に、様々な機器や設備、工具、資材等を吊り下げたり、あるいは前記のような線状部材を適宜の構造体から吊り下げて張設したりするのに好適な架線用吊金具に関する。
【背景技術】
【0002】
空中に張設した架線に各種の物品を吊り下げる技術的手段に関しては、いわゆるメッセンジャーワイヤ工法に利用されるものが公知である。メッセンジャーワイヤ工法とは、電柱間や建物の高所空間等に数ミリ径のワイヤを先行架設して案内線となし、そのワイヤに沿って、より大径のケーブルを張設したり、ワイヤの適所に各種の通信機器や中継機器類、照明器具、天井材その他の資材等を吊り下げたりする工法である。特許文献1〜4等には、かかる工法においてワイヤにケーブルや機器類を吊持させる装置類の具体的構成が開示されている。
【0003】
特許文献1に開示された装置は、通信機器の筐体の上部に横向きのボルト差込部を形成して、その内側に係止具を挿入し、係止具の一端は略U字状に湾曲したワイヤ係止部を設けている。そして、このワイヤ係止部をボルト差込部の外方に突出させた状態でワイヤに係止させ、係止具の他端に螺合させた引込みボルトの回転操作によって、係止具をボルト差込部内に引き込み、ワイヤへの係止状態を拘束する。
【0004】
特許文献2に開示された装置は、通信機器の筐体の上部に横向きの嵌合凹部を形成して、その内側にメッセンジャ固定金具を挿入し、メッセンジャ固定金具の一端には略U字状に湾曲したワイヤ締付面を設けている。そして、このワイヤ締付面を嵌合凹部の外方に突出させた状態でワイヤに係止させ、メッセンジャ固定金具の他端に螺合させた締付ボルトの回転操作によって、メッセンジャ固定金具を嵌合凹部内に引き込むようにしたものである。よって、この機構的原理は特許文献1に開示された装置と類似している。
【0005】
特許文献3に開示された吊金具は、金具本体の一辺縁側に断面略く字状に屈曲した押さえ金部を設け、この金具本体と略平板状の締め金とを対向させて、両者を操作ボルトにより締結し、押さえ金部と締め金との間に架線を挟圧把持せしめるものである。吊り下げられる機器類等は、金具本体の他辺縁側に適宜の止めねじで連結される。
【0006】
特許文献4に開示された装置は、通信機器の筐体の上部に、上方拡がりのV字凹面を有する受台を取り付け、そのV字凹面内にワイヤを挿通させた状態で、ワイヤの上方からV字状の押圧駒を受台に対してボルト締結することにより、受台と押圧駒との間にワイヤを挟持せしめるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】実開昭62−74446号公報
【特許文献2】特開平5−14758号公報
【特許文献3】特開平8−4714号公報
【特許文献4】特開平9−45389号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記各文献に開示された従来の技術は、いずれも、ワイヤに係止部材を係止させただけの状態では係止状態が不安定であり、少しの揺れや傾きによってワイヤから脱落しかねない。したがって、現場での施工に際しては、ワイヤに係止させた機器類を片手で支承しながら、他方の手でボルトの締付作業を行わなければならない。そのため、施工効率が悪く、係止部材に結合されている機器等の重量が大きければ作業中の負担も大きくなる。かかる事情から、ワイヤに係止部材を係止させた状態での安定感に優れ、より簡単迅速に締結作業できるような吊金具が求められるところである。
【0009】
さらに、前記各文献に開示された従来の技術は、いずれも、機器類をワイヤに近接させて取り付けるためのものであって、ワイヤから上下方向に適当な距離を隔てて物品を吊持する、という態様には利用しづらいものとなっている。吊金具類の適所に吊り下げ用のワイヤやボルト等を別途、連結し、それを介して物品を吊り下げることも可能ではあるが、それによって吊金具類の構造が複雑化したり、吊持バランスが崩れたりするおそれもあるから、予め吊り下げ用のワイヤを一体化されたものがあれば、より望ましい。
【0010】
また、前記各文献に開示された従来の技術は、空中に張設したワイヤから物品を吊り下げるという利用態様しか想定しておらず、上下方向を反転させた態様、つまり、高所に構築した構造部材等から吊り下げ部材を介してワイヤを所定の位置や高さに張設する、といった態様には利用できないものである。
【0011】
本発明は前記のような事情に鑑みてなされたもので、空中に張設されたワイヤへの係脱作業を安全かつ容易に行うことができるとともに、ワイヤの下方へ適宜の距離を隔てて物品を吊り下げる態様や、その反対に、既設構造物からワイヤを吊り下げて張設する態様にも好適に利用しうる、利便性に優れた吊金具を提供するものである。
【0012】
なお、本発明は、ワイヤの種類や材質を限定するものではないので、以下の説明においては、ワイヤ及びそれに準じて利用可能なロープ、ケーブル、棒鋼、鉄筋その他の線状部材を包括的に「架線」と称するものとする。また、本発明は、それらの架線に吊り下げられる物品類の種類を限定するものでもないので、それらの物品(各種機器・設備類、工具、資材等)を包括的に「ワーク」と称するものとする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記した目的を達成するため、本発明の架線用吊金具は、互いに螺合される吊金具本体とボルト、及び該ボルトに挿装される締めナットとからなり、吊金具本体には、吊金具本体の軸方向における一端部寄りから他端部寄りにわたって、吊金具本体の軸方向と直交する方向に当該吊金具本体を貫通し、その他端側において吊金具本体の側面に開口する架線係脱孔が形成されるとともに、吊金具本体の軸芯には、前記架線係脱孔の内面から吊金具本体の他端面にわたって連続する雌ネジ孔が形成されて、この雌ネジ孔にボルトが螺合され、前記架線係脱孔に挿入された架線を、前記ボルトの先端で吊金具本体の一端部側に挟圧し、締めナットを吊金具本体の他端面に締め付けることによって、吊金具本体及びボルトが架線に固定されるように構成されている。
【0014】
さらに、本発明の架線用吊金具は、前記ボルトが、吊金具本体に螺合される側の反対端に六角頭部を有し、ボルトの軸芯には貫通孔が形成されて、この貫通孔に挿入された吊りワイヤが貫通孔内で抜け止めされたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
上述のように構成される本発明の架線用吊金具は、架線係脱孔を形成した吊金具本体を架線に係止させて、吊金具本体の軸方向に螺合されるボルトと、該ボルトに挿装した締めナットを締結することより架線を挟持するものであるから、機構が簡素で小型化に適し、安価で製作することができる。また、ワイヤへの係脱が簡単であり、ボルトや締めナットの締結操作も容易である。架線係脱孔の呑み込み高さを適度に確保すれば、吊金具本体をワイヤに係止させただけの状態でも姿勢が安定し、吊金具本体がワイヤから脱落しにくくなって、作業性や安全性が向上する。
【0016】
この架線用吊金具は、上下左右の向きを問わずに使用可能であるから、空中に張設した架線の任意の位置からワークを吊り下げる態様、及び既設構造物の下方空間に架線を吊り下げて支持する態様のいずれにおいても好適に利用することができる。
【0017】
さらに、本発明の架線用吊金具においては、ボルトの長さを適宜延長して、その他端に任意の機器類や、ターンバックルその他の緊結具を連結することができる。また、ボルトに貫通孔を形成して吊りワイヤを取り付け、架線とワークとの間、あるいは構造物と架線との間を、吊りワイヤを介して斜め方向や横方向に引っ張ることもできる。延長したボルト及び吊りワイヤのいずれを用いる態様にあっても、吊金具本体の軸方向に無理なく荷重を作用させることができるので、構造的にバランスのよい吊持状態が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施の形態に係る架線用吊金具の斜視図である。
【図2】前記架線用吊金具の正面図である。
【図3】前記架線用吊金具の側面図であって(a)はボルト及び締めナットを締め付けた状態、(b)はボルト及び締めナットを緩めた状態を示す。
【図4】同じく、前記架線用吊金具の縦断面であって(a)はボルト及び締めナットを締め付けた状態、(b)はボルト及び締めナットを緩めた状態を示す。
【図5】前記架線用吊金具の上面図である。
【図6】前記架線用吊金具の底面図である。
【図7】前記架線用吊金具の利用態様を示す斜視図である。
【図8】前記架線用吊金具の、他の利用態様を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。図1〜図5は、本発明の実施の形態に係る架線用吊金具の構成を示す。この架線用吊金具1の主要な構成要素は、互いに螺合される吊金具本体2とボルト3、及びボルト3に挿装される締めナット4である。
【0020】
吊金具本体2は、全体として六角柱状の外形をなし、その軸方向と直交する方向に吊金具本体2の対向二面間を貫通する架線係脱孔21が形成されている。架線係脱孔21は、吊金具本体2の軸方向における一端部寄りから他端部寄りにわたって、吊金具本体2の一つの側面幅よりもやや小さい幅で延設され、その他端側が吊金具本体2の軸方向と直交するように拡張して吊金具本体2の側面に開口した、側面視略L字状の孔部である。この架線係脱孔21を形成することによって、吊金具本体2の一端部が略フック状の架線係止部23となる。
【0021】
架線係止部23をメッセンジャーワイヤその他の架線6に係止すれば、吊金具本体2の自重により、吊金具本体2が縦向きの姿勢で架線6に仮止めされる。例示形態にあっては、架線6への係止状態を安定させるため、架線係脱孔21の呑み込み深さd(図3参照)を、係止される架線6の直径の概ね2倍程度、確保している。
【0022】
吊金具本体2の軸芯には、ボルト3を螺合するための雌ネジ孔25(図4参照)が形成されている。雌ネジ孔25は、その一端が吊金具本体2の他端面に開口し、他端が前記架線係脱孔21に連通している。雌ネジ孔25の径は架線係脱孔21の幅よりもやや大きいため、図4に示すように、架線係脱孔21の内面にも等ピッチで連続するネジ山が形成されている。
【0023】
雌ネジ孔25に螺合されるボルト3は、吊金具本体2に螺合される側の反対端に六角頭部31を有している。吊金具本体2の架線係止部23を架線6に係止させた状態でボルト3を締め込み方向に回動させると、十分な長さを有するボルト3の脚部33が架線係脱孔21の奥部まで進入し、架線係止部23との間に架線6を挟持する。ボルト3の先端は、架線係脱孔21の内側に形成されたネジ山にも螺合するので、強固な締結力が得られる。例示形態にあっては、ボルト3の締め込み作業に際して、ボルト3の六角頭部31と吊金具本体2とを同じサイズのスパナ等で把持しうるように、両部材の外形二面幅が揃えられている。
【0024】
ボルト3に挿装された止めナットは一般的な六角ナットであって、この外形二面幅も、ボルト3の六角頭部31及び吊金具本体2の二面幅と同寸に揃えられている。吊金具本体2を架線6に係止してボルト3で挟持した状態から、さらに締めナット4を吊金具本体2の他端面に締め付けることにより、ボルト3の締付状態が確実に拘束されて緩み止めとなる。
【0025】
図示の形態に係るボルト3の軸芯には、吊りワイヤ5が取り付けられている。この吊りワイヤ5は、架線6の下方にワークを吊り下げたり、あるいは架線6を上方に吊り上げたりするのに利用される。吊りワイヤ5は、図4に示すように、ボルト3の軸芯に形成された貫通孔35に挿通される。吊りワイヤ5の自由端部には、一端に大径部を形成するなどしたスリーブ状の止め金具51がカシメ固定されている。また、ボルト3の貫通孔35における脚部33側の開口端には、前記止め金具51の大径部を落とし込むための拡径段部37が形成されて、止め金具51がこの拡径段部37に係止されることにより抜け止めとなる。吊りワイヤ5によって吊持される荷重は、ボルト3の軸方向に作用するので、吊金具本体2の係止姿勢も安定する。
【0026】
上述のように構成される架線用吊金具1の利用態様を図7及び図8に例示する。図7は、本発明の架線用吊金具1を介して、架線6にワークを吊り下げる態様を示す。図中の架線6は適宜の張設手段を介して、例えば電柱間や建物の高所空間等に先行架設されている。その架線6の適所に本発明の架線用吊金具1を複数個、係止する。吊金具本体2に螺合するボルト3には、適宜長さの寸切りボルトを用いる。ボルト3の下端には、その雄ネジ部を利用して照明器具81等を取り付けたり、フック状の部材83を結合するなどして太径ケーブル85を架線6に沿って配設したりすることができる。あるいは、上述したように、吊金具本体2に吊りワイヤ5付きのボルト3を螺合し、下方に垂下させた吊りワイヤ5にはワイヤチャックその他、適宜の固定手段を介して、照明器具や天井材その他のワークを所望の高さに取り付けることができる。
【0027】
図8は、既設構造物から本発明の架線用吊金具1を介して架線6を吊り下げる態様を示す。架線6に係止させた吊金具本体2に、吊りワイヤ5付きのボルト3を螺合して、その吊りワイヤ5を上向きに引っ張り、例えば建物の屋根や上層階の床組を構成する梁材、床支持材その他の構造材87に、適宜の結合手段を介して結合する。あるいは、吊金具本体2に適宜長さの寸切りボルト30を螺合し、寸切りボルト30の上部を構造材87等に結合する。寸切りボルト30の途中には、必要に応じてターンバックルその他の緊結具39を介在させてもよい。かかる態様において、吊りワイヤ5や寸切りボルト3は、斜め方向や横方向に引っ張ることもできる。
【符号の説明】
【0028】
1 架線用吊金具
2 吊金具本体
21 架線係脱孔
25 雌ネジ孔
3 ボルト
31 六角頭部
35 貫通孔
4 締めナット
5 吊りワイヤ
51 止め金具
87 構造材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに螺合される吊金具本体とボルト、及び該ボルトに挿装される締めナットとからなり、
吊金具本体には、吊金具本体の軸方向における一端部寄りから他端部寄りにわたって、吊金具本体の軸方向と直交する方向に当該吊金具本体を貫通し、その他端側において吊金具本体の側面に開口する架線係脱孔が形成されるとともに、
吊金具本体の軸芯には、前記架線係脱孔の内面から吊金具本体の他端面にわたって連続する雌ネジ孔が形成されて、この雌ネジ孔にボルトが螺合され、
前記架線係脱孔に挿入された架線を、前記ボルトの先端で吊金具本体の一端部側に挟圧し、締めナットを吊金具本体の他端面に締め付けることによって、吊金具本体及びボルトが架線に固定されるように構成された架線用吊金具。
【請求項2】
請求項1に記載の架線用吊金具において、ボルトは、吊金具本体に螺合される側の反対端に六角頭部を有し、ボルトの軸芯には貫通孔が形成されて、この貫通孔に挿入された吊りワイヤが貫通孔内で抜け止めされたことを特徴とする架線用吊金具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−169117(P2010−169117A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−10091(P2009−10091)
【出願日】平成21年1月20日(2009.1.20)
【出願人】(501390965)大阪コートロープ株式会社 (9)
【Fターム(参考)】