説明

柄変形を抑えた液圧転写方法並びにこの方法によって転写された液圧転写品

【課題】 被転写体の端部付近等において発生し易い転写パターンの柄変形を極力抑えるようにした新規な液圧転写手法を提供する。
【解決手段】 本発明は、転写インクにより担持シート上に適宜の転写パターンPが塗着された転写フィルムFを、転写槽2内の液面上に浮遊支持し、その上方から被転写体Wを押し付け、これによって生じる液圧によって、被転写体Wに適宜の転写パターンPを転写する手法であり、転写時には、被転写体Wの両外側に、被転写体Wに模した疑似体62を設けて液圧転写を行い、これにより転写フィルムFが被転写体Wの端部において背面側に回り込むことを防止し、当該部位に生じる転写パターンPの柄変形を抑えるようにしたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、あらかじめ適宜の転写パターンが形成されて成る転写フィルムを、液面上で浮遊状態に支持し、ここに被転写体を押し当て、転写液中に没入させることにより、フィルム上の転写パターンを被転写体に転写する液圧転写手法に関するものであって、特に被転写体の端部付近において発生し易い転写パターンの歪み(柄変形)を極力抑えるようにした新規な液圧転写手法に係るものである。
【背景技術】
【0002】
あらかじめ適宜の転写パターンが形成されて成る転写フィルムを、液面上で浮遊状態に支持し、ここに被転写体を押し付け、その液圧によって、フィルム上の転写パターンを被転写体に転写する液圧転写手法が知られている。この転写パターンは、転写インクによって転写フィルムに乾燥状態に塗着されており、転写時に塗布される活性剤により、このインクが溶解され、転写フィルムの粘着性が高まり、転写可能な状態となる。このため、転写時、転写フィルムにおける転写パターンは、活性化すなわち担持シートの膨潤に伴い多少拡大するが、基本的には転写フィルムに塗着された当初の柄模様が、そのまま転写されるものである。
【0003】
しかしながら、被転写体の形状や転写状況等によっては、転写フィルム上の転写パターンがそのまま被転写体に転写されずに、変形して転写される場合があった。
すなわち、例えば図7(a)に示すように、被転写体Wが、転写を要する加飾面S1に開口部OPを有している場合、転写後の液圧転写品W1′には開口部付近(開口部OPとほぼ同時に転写を受ける部位)に転写パターンPの歪みや曲がり等が生じることが多かった。これは、開口部付近では、転写時に膨潤、軟化した転写フィルムFが被転写体Wの背面(裏面)や側面に引っ張られるためである。なお、本明細書では、このような転写パターンPの歪みや曲がり等を総称して「転写パターンの柄変形」もしくは単に「柄変形」と称している。
【0004】
また、例えば図7(b)に示すように、被転写体Wを複数同時に転写する場合、最も外側に位置した両方の被転写体Wの端部にも、転写パターンPが変形して転写されることが多かった。これも、最も外側に位置した被転写体Wに接触する液面上の転写フィルムFが、やはり被転写体Wの背面や側面に引っ張られて外方を迂回するかのように曲がるために起こる現象である。もちろん、このような柄変形は、複数の被転写体Wを同時に転写するときだけでなく、一枚の被転写体Wを単独で転写するときにも、その端部に生じ得る現象であるが、複数の被転写体Wを同時に転写した場合に、特に柄変形が顕著となるため、上記図7(b)ではこの場合を例示した。
【0005】
このような転写時の柄変形は、当然生じさせないことが望ましいが、転写パターンPの種類や転写インクの性状、あるいは活性化状態における転写フィルムFの粘性や膨潤度合い等、種々の条件が異なるため、転写時における転写フィルムの挙動をコントロールすることは極めて難しかった。このため、転写フィルムFに塗着されていた転写パターンPを、そのまま被転写体Wに再現することは極めて難しく、現実にはその再現状況は、一回ごとの転写の成り行きに任されていた。
もちろん、このような液圧転写を、より精巧に行うべく、鋭意研究、開発が行われており(例えば特許文献1、2、3参照)、本出願人も既に特許取得に至っている(特許文献1、3)。
【0006】
このうち特許文献1は、例えば箱型素材を転写対象とし、このものの側壁内面に防液壁を立設して液圧転写を行うものである。そして、この防液壁により、転写前に転写形成面に転写液が入り込むのを防止し、未転写部分を生じさせないようにしたものである。
また特許文献2は、長尺物を転写対象とし、これを水圧転写する際に、長尺物の両側に設けたワイヤ部材により転写フィルムを分離するものである。そして、長尺物の沈下に合わせてワイヤ部材を長尺物に寄せて、長尺物の側面に転写フィルムを巻き込ませるようにしたものである。
また特許文献3は、転写時、転写フィルムを伸張させるように張力を加えながら転写するものであり、これにより接触開始部でインク厚を最も厚く形成し、そこから徐々にインク厚を漸減させて行くものである。これにより、一定厚の転写フィルムからグラデーションないしは、ぼかし状の液圧転写を可能としている。
【0007】
このように、液圧転写手法に関しては種々の研究・開発が行われているものの、いずれの特許文献においても転写パターンをそのまま精緻に再現するという発想のものはなく、上述したように、従来、転写時の転写フィルムの挙動は成り行きに任されていた。また、このため転写パターンの変形は、外観上、目立たなければ製造上の限界として甘受される傾向にあった。
しかしながら、この種の液圧転写手法においては、上述したように転写時の転写フィルムの挙動をコントロールし、転写パターンの変形を極わずかに抑えることができれば、液圧転写品の意匠性やデザイン性を高め、その商品価値をより一層向上させることができ、極めて有用な技術であり、その実用化が望まれていた。
【特許文献1】特開平10−297194号公報
【特許文献2】特開2002−52689公報
【特許文献3】特開平7−117326号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような背景を認識してなされたものであって、例えば複数の被転写体を同時に転写する場合等において、転写パターンの柄変形をほとんど生じさせないようにした新規な液圧転写方法並びにこの方法によって転写された液圧転写品の開発を試みたものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち請求項1記載の柄変形を抑えた液圧転写方法は、転写インクにより担持シート上に適宜の転写パターンが塗着された転写フィルムを、転写槽内の液面上に浮遊支持し、その上方から被転写体を押し付け、これによって生じる液圧によって、被転写体に転写パターンを転写する方法において、前記被転写体の両外側には、被転写体にほぼ連続して被転写体があるかのような疑似体を設けて液圧転写を行うものであり、これにより被転写体の端部付近に転写される柄変形を防止するようにしたことを特徴として成るものである。
【0010】
また請求項2記載の柄変形を抑えた液圧転写方法は、前記請求項1記載の要件に加え、前記被転写体は、複数のものが適宜の間隔をあけて設けられるものであり、また前記疑似体は、この間隔をほぼ維持して、複数の被転写体の更に両外側に設けられることを特徴として成るものである。
【0011】
また請求項3記載の柄変形を抑えた液圧転写方法は、前記請求項1または2記載の要件に加え、前記疑似体は、直径5mm以下の孔が多数開孔されたパンチングメタルによって形成されることを特徴として成るものである。
【0012】
また請求項4記載の柄変形を抑えた液圧転写方法によって転写された液圧転写品は、転写インクにより担持シート上に適宜の転写パターンが塗着された転写フィルムを、転写槽内の液面上に浮遊させ、その上方から被転写体を押し付け、これによって生じる液圧によって、被転写体に適宜の転写パターンを施すようにした液圧転写品であって、前記被転写体の両外側には、被転写体にほぼ連続して被転写体があるかのような疑似体を設けて転写液中に没入させるものであり、これにより柄変形を抑制した転写パターンが被転写体の端部付近に転写されるようにしたことを特徴として成るものである。
【発明の効果】
【0013】
これら各請求項記載の発明の構成を手段として前記課題の解決が図られる。
すなわち請求項1記載の発明によれば、被転写体の両外側に、被転写体に似せた疑似体を設けて液圧転写を行うため、転写液面上の転写フィルム(転写パターン)が被転写体の端部外方から背面側に引っ張られて曲がることを防止でき、従来、液圧転写品の端部付近に生じることがあった転写パターンの変形を防止することができる。
【0014】
また請求項2記載の発明によれば、複数の被転写体の更に外側に疑似体を設けて液圧転写を行うため、複数の被転写体に所望の転写パターンを均一に転写することができる。
【0015】
また請求項3記載の発明によれば、疑似体をパンチングメタルによって形成するため、液圧転写工程以外の作業性も考慮しながら柄変形を効果的に抑えることができる。すなわち、例えば被転写体や疑似体(パンチングメタル製)を、治具を介して被転写体搬送装置に取り付けて液圧転写を行う場合には、転写後も被転写体を治具に取り付けたままトップコート塗装に供することが多く、この際、パンチングメタルの小孔によって、塗料吹き付け時の余剰塗料の跳ね返りを極力抑えることができ、より綺麗なトップコートが行える。
【0016】
また請求項4記載の発明によれば、被転写体の両外側に疑似体を設けて転写を行い、液圧転写品を得るため、特に被転写体の端部付近において、転写パターンの変形がほとんどない液圧転写品を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の柄変形を抑えた液圧転写方法を装置とともに示す斜視図であるが、図1(a)は本発明に関連する参考例である。
【図2】本発明に関連する参考例と、本発明に係る一実施例とによる二種の液圧転写方法と、この方法によって転写された液圧転写品を示す説明図である。
【図3】開口部を閉塞体で塞ぐ参考例において種々の仮固定方法を示す説明図である。
【図4】転写後の液圧転写品の開口部に、最終的にスイッチ等の組み込み部材を組み込んだ際、開口部と組み込み部材との間隙から開口部内側の見え方を示す説明図である。
【図5】本発明における被転写体の設置例を示す斜視図である。
【図6】開口部を閉塞体で塞ぐとともに、被転写体の外側に疑似体を設けて液圧転写を行った場合を示す斜視図である。
【図7】従来の液圧転写手法において、転写フィルム上の転写パターンがそのまま被転写体に再現されない二種の場合を、液圧転写品と併せ示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明を実施するための最良の形態は、以下の実施例に述べるものをその一つとするとともに、更にその技術思想内において改良し得る種々の手法を含むものである。
【実施例】
【0019】
説明にあたっては、まず本発明に適用し得る液圧転写装置1の一例について概略的に説明し、その後、本発明の柄変形を抑えた液圧転写方法について説明する。
ここで、本明細書では液圧転写印刷が施される対象ワークを被転写体Wとし、これに所望の液圧転写印刷が施されたものを液圧転写品W1とする。また被転写体Wや液圧転写品W1における面を定義すると、まず、液圧転写が施される印刷面を加飾面S1とする。つまり、この加飾面S1は、転写フィルムFに塗着されていた転写パターンPが、ほぼ変形することなく、そのまま転写される面であり、図1に示す実施例では被転写体Wの主に正面部分がこれに該当する。また、液圧転写を要しない面を転写不要面S2とし、図1に示す実施例では被転写体Wの主に背面部分がこれに該当し、ここには転写パターンPが歪んだ状態で転写されても構わないものとする。
【0020】
このため加飾面S1は、液圧転写品W1を最終的にアッセンブリ等として組み付けた状態において外観的に目視される部分となり、転写不要面S2は、組み付け状態で外観的に目視されない部分となることが多い。なお図1に示す被転写体W(特に図1(b))において、正面と背面との境界となる側面部分は、加飾面S1または転写不要面S2のいずれにもなり、例えば図1に示す被転写体Wの場合、転写の初期もしくは最終段階で転写フィルムFに接触する下側と上側の側面部分は加飾面S1となり、転写開始から転写終了まで転写パターンPが回り込むように接触する両サイド側面は転写不要面S2となり得る。
【0021】
次に液圧転写装置1について説明する。液圧転写装置1は、一例として図1に示すように、転写液Lを貯留する転写槽2と、この転写槽2に転写フィルムFを送り込む転写フィルム供給装置3と、転写フィルムFを活性化し転写可能な状態とする活性剤塗布装置4と、転写槽2に浮遊支持された転写フィルムFの上方から適宜の姿勢で被転写体Wを押し付ける被転写体搬送装置5とを具えて成るものである。以下、これらについて更に説明する。
まず転写槽2について説明する。このものは、処理槽21とオーバーフロー槽22とを具えて成り、図1に示す実施例では、処理槽21内に水などの転写液Lが貯留されており、この処理槽21から溢れ出た転写液Lがオーバーフロー槽22を経た後、循環管路23を経由してポンプ24により液面の波立ちのない状態で処理槽21に緩やかに還流するように構成される。なお、転写液Lとしては、転写フィルムFの担持シートを膨潤ないし、または溶解し得るものであれば、水に代えてその他の液体を用いることが可能である。
【0022】
また処理槽21内には、左右の両側壁の近傍にスプロケットに巻装された一対のチェーンコンベヤ25が設けられており、このチェーンコンベヤ25は上方の液面循環側において転写フィルムFがオーバーフロー槽22側に向けて進行するのを補助するよう、同じ向きに駆動されるものである。なお、処理槽21の始端側上方には、送風装置26を設けることが可能であり、これにより転写フィルムFの周囲への均一な延展を図るとともに、転写フィルムFのオーバーフロー槽22側への進行を補うものである。
【0023】
次に、転写フィルム供給装置3について説明する。転写フィルム供給装置3は、ロール巻きされた転写フィルムFから成るフィルムロール31と、このフィルムロール31から引き出された転写フィルムFを加熱するヒートロール32と、転写フィルムFを引き出す引出ロール33とを具えて成るものである。なお、引出ロール33の上方側は、活性剤塗布面を擦ることのないよう転写フィルムFの両端のみに接触することが好ましい。
【0024】
ここで転写フィルムFについて説明する。転写フィルムFは、例えばゼラチン、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルアルコール樹脂等から成る水溶性フィルムを担持シートとするものであり、この担持シートの一方の面に、転写インクによって適宜の転写パターンP(柄模様)が乾燥状態に形成されている(この面をインク面とする)。なお、このインク面を形成する転写インクは、これが活性化された場合に、担持シートから転移し得るバインダー成分を含有して成るものである。
【0025】
次に、活性剤塗布装置4について説明する。活性剤塗布装置4は、一例として転写フィルム供給装置3のヒートロール32と引出ロール33との間に設けられ、転写フィルムFに所要の活性剤Kを塗布するローラコータ41を具えて成るものである。なお、図1に示す実施例では、活性剤塗布装置4をヒートロール32と引出ロール33との間に設け、転写フィルムFの活性化を図ってから、これを転写槽2に供給するものであるが、活性剤塗布装置4は引出ロール33の後段に設けることも可能である。すなわち、この場合には、例えば転写フィルムFが転写槽2に供給される直前に上方から活性剤Kを塗布する形態や、転写フィルムFが転写槽2に供給され、着水した後、上方から活性剤Kを塗布する形態が採り得る。
【0026】
なお、活性剤Kは、転写フィルムFのインク面に塗着された乾燥状態の転写インクに粘着性を付与して転写可能の状態とするものであり、例えばシンナー等の溶剤成分のみから成るものの適用が可能であるが、本実施例では、樹脂成分、溶剤成分、可塑剤成分、体質顔料等の混合物を適用する。これは、溶剤成分が転写インクを溶解し粘着性を回復する作用を担い、樹脂成分が初期密着性を確保するとともにインクの拡散を防止し、また可塑剤成分が樹脂成分に可塑性を付与する作用を担い、更に体質顔料がインク表面の見掛け乾燥化を計るとともにインクズレを規制しつつ伸展性を与える作用を担うなど、各成分がそれぞれ機能を分担ないし補完し得るためである。
【0027】
次に、被転写体搬送装置5について説明する。被転写体搬送装置5は、コンベヤ51に対し、被転写体Wを把持するホルダ52を具えて成るものであり、駆動モータ等によって転写フィルムFの移送速度と対応して連続的に駆動される。コンベヤ51は、例えば図1に示すように、側面から視て三角形状の搬送軌道を形成し、その下部において被転写体Wを一定時間、液面に押し付け、適宜の転写パターンPを被転写体Wに付与(転写)した後、再び引き上げるように構成されている。なお、図1に示した搬送装置は、ホルダ52に直接、被転写体Wをセットする取付形態を示したが、必ずしもこの取付手法に限定されるものではなく、適宜、治具Jを介在させて、被転写体Wを被転写体搬送装置5(ホルダ52)に取り付けることも可能である。
【0028】
液圧転写装置1は、以上のような基本構造を有するものであるが、この装置は、本発明を実施し得る装置の一例であって、種々の改変が可能である。例えば、上記説明の中でも多少触れたが、転写フィルムFを活性化するのは、このものを転写槽2に供給する以前の段階に限らず、転写槽2に供給した後の着水後に活性化しても構わない。
また上述した液圧転写装置1では、ロール巻きしたフィルムロール31から順次、転写フィルムFを転写槽2に繰り出すように説明したが、例えば最初から矩形状にカットされた転写フィルムFを一枚ごと転写槽2に供給し、この上方から被転写体Wを押し付けることも可能である。
また、上記説明では、被転写体搬送装置5として三角形状の搬送軌道を形成する装置を例に挙げたが、この装置は、被転写体Wを適宜の転写姿勢に保持しながら転写槽2に没入させるものであるため、マニピュレータ等の適用も可能である。
【0029】
ここで図1(a)、図2(a)に示すものは、加飾面S1に開口部OPを有した被転写体Wを液圧転写する手法であり、本発明に関連する参考例である。この場合、転写にあたっては開口部OPを閉塞体61で塞いで液圧転写印刷を行う。すなわちこの参考例では、転写フィルムFの流れ方向から視た開口部OPに閉塞体61を設けることにより、開口部付近に転写される転写フィルムF(転写パターンP)が被転写体Wの背面や側面に引っ張られることを防止するものであり、これにより開口部付近の柄変形を抑制した液圧転写品W1を得るものである。
【0030】
なお、図1(a)では、平板状の閉塞体61を、ほぼ加飾面S1と同一面上を形成するように設けている。また、閉塞体61は、開口部OPより一回り小さく形成されており、このスキをクリアランスCとする。すなわち参考例では、閉塞体61を、開口部OPに対して、ほぼ一定のクリアランスCをあけて設けている。
【0031】
ここで、閉塞体61を開口部OPに取り付ける際の種々の固定方法(最終的に閉塞体61は取り外されるため、この固定を仮固定方法と称する)について説明する。まず図3(a)は、被転写体Wの背面(転写不要面S2)側から閉塞体61を粘着テープTなどで貼り付けて仮固定する手法である。
また、図3(b)は、閉塞体61を例えば合成ゴム等の弾性素材で、開口部OPとほぼ同じ大きさ、もしくは開口部OPよりも幾分大きめに形成した参考例であり、この場合、閉塞体61を開口部OPに取り付けるには、閉塞体61を周囲から縮めるようにして押し込み、開口部OPに密着状態に嵌め込むものである。なお、ここでは、閉塞体61の背面側に突出状の把持ガイド63を設け、開口部OPに嵌め込んだ閉塞体61を取り外し易いように考慮している。また、このような把持ガイド63は、閉塞体61の嵌め込み位置を規制することもでき、着脱作業がより一層行い易くなるものである。なお、このように弾性素材から成る閉塞体61を開口部OP内に密着させる手法では、開口部OPと閉塞体61とのクリアランスCは0となる。
【0032】
また図3(c)に示すものは、治具Jを介して、被転写体Wを被転写体搬送装置5に取り付ける場合であって、この場合には、閉塞体61を予め治具Jに取り付けておいたり、閉塞体61を治具Jの一部として一体的に構成しておくことが可能である。すなわち、この場合には、被転写体Wを治具Jにセットすれば、自然に開口部OPに閉塞体61が収まるものである。なお、この場合、被転写体Wを治具Jに取り付ける際には、実際、幾らかのズレ(誤差)が生じ得るため、開口部OPと閉塞体61とのクリアランスCは、柄変形を生じさせない範囲で極力大きく(一例として5mm程度)確保することが好ましい。
【0033】
また、図3(d)は、閉塞体61を合成樹脂などで被転写体Wと一体に形成した参考例である。すなわち、この手法は、被転写体Wが合成樹脂材料によって射出成形される場合に採り得る手法であって、例えば、被転写体Wを射出成形する際に閉塞体61を開口部OPの内側に併せて形成しておくものである。この際、例えば閉塞体61と被転写体Wとを二カ所程度で接合させておけば(ここを接合部64とする)、転写後、この部分を切り離すことで、閉塞体61を被転写体Wから容易に取り除くことができる。
なお、このような形態は、特に被転写体W(加飾面S1)が大きく湾曲していたり、複雑な三次元曲面を形成していて、フラットな閉塞体61で開口部OPを塞ぐと、閉塞体61と加飾面S1とのズレ(凹凸状の段差)による悪影響が加飾面S1に現れ易い場合に適した手法と考えられる。逆に言えば、この手法は、被転写体Wを射出成形する金型を適用して閉塞体61を併せて形成するため、加飾面S1の曲面形状を忠実に再現した閉塞体61が実現でき、より一層精巧な液圧転写が見込めるものである。
【0034】
ここで上述した開口部OPと閉塞体61とのクリアランスCについて総括的に説明する。液圧転写を行う際の理想から言えば、クリアランスCは0設定が好ましいが、これでは、実際、上記図3(b)に示したように、弾性素材から成る閉塞体61を被転写体Wの背面側から嵌め込む手法に限定されてしまう。しかしながら、実際には上述したように種々の取り付け手法が考えられ、必ずしもクリアランスCを0にすることは現実的でない。例えば上記図3(c)に示すように、治具Jを利用して被転写体Wを被転写体搬送装置5に取り付ける場合には、被転写体Wを取り付ける際に、位置ズレが不可避的に生じるため、クリアランスCを0に設定すると、取付時、閉塞体61が開口部OPと接触してしまうが、あまりクリアランスCを大きくすると、今度は、液圧転写時に、このクリアランスCによる柄変形が懸念される。このため、現実にはクリアランスCを0〜5mm程度に設定し、被転写体Wの治具Jへの取付作業性を考慮しつつ、柄変形の発生も抑えるようにしたものである。
なお、治具Jを用いて被転写体Wを被転写体搬送装置5に取り付ける際には、同一の治具Jで類似形状の被転写体Wを取り付けたい場合もあり、特にその場合には、クリアランスCは、柄変形を生じさせない範囲で、出来る限り大きく確保することが好ましい。
【0035】
なお、開口部OPと閉塞体61との間に、ほぼ一定のクリアランスCを設けることにより、以下のような効果も奏する。例えば図4に示すように、液圧転写品W1を最終的にアッセンブリ等として他の部材と組み付けた場合には、開口部OPに組み込まれる部材(例えばスイッチ等)は、通常、開口部OPより一回り小さく、従って組み付け状態では、開口部OPと組み込み部材Bとの間隙から、開口部内側が見える。このためクリアランスCを設けて液圧転写を行うことにより、実際には被転写体Wにおいて開口部OPの内周縁まで転写を施すことができ、完成品(液圧転写品W1)としての外観的な見栄えを向上させるものである。
もちろんクリアランスCは、上述したように0に設定することも可能であり、これは、組み付け状態でも開口部OPと組み込み部材Bとの間隙から開口部内側が見え難い場合や、被転写体Wの素材と転写パターンPとの区別が明確でない場合、あるいは意図的に転写面と非転写面との境(いわゆる見切り線)を一種のデザイン的なアクセントとして利用したい場合等に適している。
【0036】
次に閉塞体61の素材や性状等について総括的に説明する。閉塞体61は、上記説明でも触れたように合成樹脂素材で形成することが可能であるが、これに限定されるものではなく、金属や木材あるいはゴム等の素材で形成することも可能である。またパンチングメタル等、表面に孔を有した多孔性部材で形成することも可能であり、例えば図2(a)は、多孔性部材で形成した閉塞体61を図示している。なお、液圧転写(工程)のみを重視すれば、パンチングメタル等の孔は、できる限り小さくするか、非開孔状の閉塞体61(例えば孔の無い板状)が好ましい。しかしながら、被転写体Wは、その後、印刷面上にトップコート塗装が施されることが多く、治具Jにセットされて液圧転写が行われた被転写体Wは、このトップコートも治具Jに取り付けられた状態で行われるのが一般的である。このため、トップコートでは、ある程度の孔径を有したパンチングメタル(閉塞体61)の方が、塗料吹き付け時の余剰塗料の跳ね返りが少なくなり、良好な塗装が行える。このため、現実にはパンチングメタルの孔の大きさを、直径5mm以下に設定し、トップコートの塗装作業性を考慮しつつ、柄変形の発生も抑えるようにしたものである。なお、パンチングメタルを適用した閉塞体61は、熱風乾燥においても好ましいものである。また、パンチングメタルは、JIS規格に従い、均一に形成されており、また入手し易く、加工も行い易いため、閉塞体61として利用し易い素材である。
【0037】
本発明は、一例として図1(b)、図2(b)に示すように、複数の被転写体Wを同時に液圧転写する場合に、被転写体Wの更に外側に、疑似体62を設けて液圧転写を行うものである。なお、本実施例では、複数の被転写体Wを挟むように設けた両サイドの疑似体62は、複数の被転写体W(加飾面S1)に連続するように、ほぼ同一の姿勢で設けられる。そして、この疑似体62により、転写フィルムFが被転写体Wの端部から背面に引っ張られることを防止し、最も外側に位置した被転写体Wの端部に柄変形のほとんどない転写を行うものである。なお、図中符号6は、参考例の閉塞体61と、本実施例の疑似体62とを総称する変形防止体である。
【0038】
因みに疑似体62には、転写フィルムFに形成されている転写パターンPが緻密に再現される必要はないので、疑似体62の肉厚は被転写体Wと異なっても構わない。更に、疑似体62は、その内隣に位置した被転写体Wにおいて転写フィルムF(転写パターンP)の背面側への引っ張りを解消するものであれば良いため、必ずしも被転写体Wと同様の形状(加飾面S1)を有する必要もない。また被転写体Wと疑似体62との設置間隔は、被転写体W同士の間隔に一致させることが好ましいが、これも内隣の被転写体Wにおける転写フィルムFの回り込みを解消できれば良いため、必ずしも一致させる必要はない。また、疑似体62も、上述した閉塞体61と同様に多数の小孔が穿設された多孔性部材(パンチングメタル等)によって形成することが可能である。
このように、本実施例では、複数設けた被転写体Wの更に外側に疑似体62を設けるため、複数の被転写体Wを同時に転写する際、転写パターンPの柄変形を抑えた転写が行え、しかもこの転写パターンPが各被転写体Wにおいて、ほぼ完全に一致し、均一な液圧転写が行えるものである。
【0039】
次に、疑似体62の設置形態について説明する。通常、この種の液圧転写においては、上述したように被転写体Wを適宜の転写姿勢にするために被転写体搬送装置5を用いる。特に、本実施例では、複数の被転写体Wを一挙に転写するため、通常、これらを一挙に保持すべく、治具Jを適用することが多い。具体的には、図5(a)に示すように、複数の被転写体Wや両側の疑似体62を、治具Jを介して被転写体搬送装置5に取り付けるものである。
なお、図5(b)に示す形態は、上記図5(a)の形態を更に発展させ、より多くの被転写体Wを一挙に治具Jに取り付けるようにしたものである。すなわち、図5(b)では、上下・左右に複数の被転写体Wを取り付けて、一挙に液圧転写が行えるようにしたものである。
【0040】
なお、上記図1(a)、図2(a)では、開口部OPを有した被転写体Wについては閉塞体61により開口部OPを塞ぎ、単独で転写するかのように図示した。しかしながら、この場合においても、転写フィルムFが被転写体Wの端部において背面側に回り込み、転写パターンPが変形してしまう場合には、例えば図6に示すように、開口部OPを閉塞体61で塞ぐとともに、被転写体Wの両外側に疑似体62を設けて液圧転写を行うことが好ましい。
【符号の説明】
【0041】
1 液圧転写装置
2 転写槽
3 転写フィルム供給装置
4 活性剤塗布装置
5 被転写体搬送装置
6 変形防止体
21 処理槽
22 オーバーフロー槽
23 循環管路
24 ポンプ
25 チェーンコンベヤ
26 送風装置
31 フィルムロール
32 ヒートロール
33 引出ロール
41 ローラコータ
51 コンベヤ
52 ホルダ
61 閉塞体
62 疑似体
63 把持ガイド
64 接合部
B 組み込み部材
C クリアランス
F 転写フィルム
J 治具
K 活性剤
L 転写液
OP 開口部
P 転写パターン
S1 加飾面
S2 転写不要面
T 粘着テープ
W 被転写体
W1 液圧転写品

【特許請求の範囲】
【請求項1】
転写インクにより担持シート上に適宜の転写パターンが塗着された転写フィルムを、転写槽内の液面上に浮遊支持し、その上方から被転写体を押し付け、これによって生じる液圧によって、被転写体に転写パターンを転写する方法において、
前記被転写体の両外側には、被転写体にほぼ連続して被転写体があるかのような疑似体を設けて液圧転写を行うものであり、これにより被転写体の端部付近に転写される柄変形を防止するようにしたことを特徴とする柄変形を抑えた液圧転写方法。
【請求項2】
前記被転写体は、複数のものが適宜の間隔をあけて設けられるものであり、また前記疑似体は、この間隔をほぼ維持して、複数の被転写体の更に両外側に設けられることを特徴とする請求項1記載の柄変形を抑えた液圧転写方法。
【請求項3】
前記疑似体は、直径5mm以下の孔が多数開孔されたパンチングメタルによって形成されることを特徴とする請求項1または2記載の柄変形を抑えた液圧転写方法。
【請求項4】
転写インクにより担持シート上に適宜の転写パターンが塗着された転写フィルムを、転写槽内の液面上に浮遊させ、その上方から被転写体を押し付け、これによって生じる液圧によって、被転写体に適宜の転写パターンを施すようにした液圧転写品であって、
前記被転写体の両外側には、被転写体にほぼ連続して被転写体があるかのような疑似体を設けて転写液中に没入させるものであり、これにより柄変形を抑制した転写パターンが被転写体の端部付近に転写されるようにしたことを特徴とする、柄変形を抑えた液圧転写方法によって転写された液圧転写品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−156871(P2011−156871A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−42620(P2011−42620)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【分割の表示】特願2006−78855(P2006−78855)の分割
【原出願日】平成18年3月22日(2006.3.22)
【出願人】(306026980)株式会社タイカ (62)
【Fターム(参考)】