説明

柄癖可視化装置、柄癖可視化方法、及びプログラム

【課題】 表面に凹凸模様を有する媒体の柄癖を、画像にて確認可能な柄癖可視化装置、意匠確認方法、及びプログラムを提供する。
【解決手段】 柄癖可視化装置1において、制御部3は、入力されたハイトフィールドに対して、操作者により設定されるか、或いは予め定められた一つまたは複数の角度方向に視点及び光源により生じる陰影及びオクルージョンを画素毎に判定する。陰影及びオクルージョンとなる画素については輝度値を例えば0とする。陰影及びオクルージョンがない画素については、注目画素の周囲の画素からの影響を考慮して、光源からの拡散反射、鏡面反射の各成分を足し合わせた輝度値を算出する。更に制御部3は、算出された各画素の輝度値を、例えば濃淡情報や色相情報等として表した画像を出力する。この結果、陰影及びオクルージョンを考慮し、柄癖を正確に表した画像を生成できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面に凹凸模様を有する媒体の表面深度データ(ハイトフィールド)を用いて、媒体の意匠の確認を支援する柄癖可視化装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、表面に凹凸模様を有する壁紙や合成皮革等の媒体を製造するため、まずコンピュータ等を用いて所望の柄の表面深度データ(以下、ハイトフィールドという)を生成し、次に、このハイトフィールドに基づいて、金属または樹脂製のエンボス版に対して彫刻またはエッチング等を施すことにより、表面に凹凸模様を形成し、このエンボス版に上記媒体を押し当てることにより凹凸模様を写し取っていた。
エンボス版の製造に関しては、例えば、特許文献1等に記述がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−358662号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述のエンボス製品には柄癖が生じやすい。
柄癖とは、物体表面に照射された光によって生じた反射光や陰影により、光の強度が強い領域と弱い領域とが不均一に表れ、その不均一さが新たな柄に見える現象である。
このような柄癖のうち、意匠として不都合なものは製品に表れないように削除、修正されるが、従来は、柄癖があるか否かを確認するために、エンボス版を試作し、その後に確認作業を行っていた。エンボス版は彫刻やエッチング等の工程を経て得られるものであり、その製造には時間を要するものであった。また柄癖があれば、そのエンボス版はその後は使用されないため無駄となっていた。
【0005】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたもので、表面に凹凸模様を有する媒体の柄癖を、画像で確認可能な柄癖可視化装置、柄癖可視化方法、及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前述した課題を解決するため第1の発明は、入力されたハイトフィールドに対して設定される視点及び光源により生じる陰影及びオクルージョンを反映して、前記ハイトフィールドの各画素の輝度値を算出し、所定の投影面へ投影した投影画像を生成する演算手段と、前記演算手段により生成された投影画像を出力する出力手段と、を備える柄癖可視化装置である。
【0007】
ここで、オクルージョンとは、物体に遮られて視点位置から見えない領域をいう。
【0008】
第1の発明の柄癖可視化装置によれば、入力されたハイトフィールドに対して設定される視点及び光源により生じる陰影及びオクルージョンを反映して、前記ハイトフィールドの各画素の輝度値を算出し、所定の投影面へ投影した投影画像を生成し、出力する。このため、表面に凹凸模様を有する媒体の柄癖を、画像で確認できるようになり、柄癖確認用のエンボス版を製造する必要がなくなる。また、視点方向や光源方向に応じた影及びオクルージョンを考慮するため、柄癖を正確に可視化できる。
【0009】
また、前記演算手段は、前記ハイトフィールドの各画素について前記陰影またはオクルージョンか否かを判定する判定手段を備え、前記判定手段によって陰影またはオクルージョンがあると判定された画素については前記輝度値を0とするか、または他の画素より小さく算出することが望ましい。
これにより、陰影またはオクルージョンとなる画素を他の画素より暗くできるため、実環境と同様に柄癖を表現できる。
【0010】
また、前記投影画像の各画素に対して、ぼかし処理を施すぼかし手段を更に備え、前記出力手段によって出力される画像は、前記ぼかし手段によるぼかし処理が施された画像を含むことが望ましい。
これにより、遠方から意匠を観察したような画像を出力でき、壁紙等の大判の対象についての柄癖確認作業に好適である。
【0011】
また、前記投影画像は、前記演算手段により算出された各画素の輝度値を、濃淡情報、二値情報、または色相情報として表した画像であることが望ましい。
これにより、画像の濃淡、二値(白/黒等)、または色相によって柄癖の観察を行えるので、確認作業が容易となる。
【0012】
第2の発明は、入力されたハイトフィールドに対して設定される視点及び光源により生じる陰影及びオクルージョンを反映して、前記ハイトフィールドの各画素の輝度値を算出し、所定の投影面へ投影した投影画像を生成する演算ステップと、前記演算ステップにより生成された投影画像を出力する出力ステップと、を含む柄癖可視化方法である。
【0013】
ここで、前記演算ステップは、前記ハイトフィールドの各画素について前記陰影またはオクルージョンか否かを判定する判定ステップを備え、前記判定ステップにおいて陰影またはオクルージョンがあると判定された画素については前記輝度値を0とするか、または他の画素より小さく算出することが望ましい。
【0014】
また、前記投影画像の各画素に対して、ぼかし処理を施すぼかしステップを更に備え、前記出力ステップによって出力される画像は、前記ぼかし処理が施された画像を含むことが望ましい。
【0015】
また、前記投影画像は、前記演算ステップにより算出された各画素の輝度値を、濃淡情報、二値情報、または色相情報として表した画像であることが望ましい。
【0016】
第3の発明は、コンピュータにより読み取り可能なプログラムであって、入力されたハイトフィールドに対して設定される視点及び光源により生じる陰影及びオクルージョンを反映して、前記ハイトフィールドの各画素の輝度値を算出し、所定の投影面へ投影した投影画像を生成する演算ステップと、前記演算ステップにより生成された投影画像を出力する出力ステップと、を含むことを特徴とするプログラムである。
【0017】
第3の発明のプログラムによれば、コンピュータを用いて、入力されたハイトフィールドに対して設定される視点及び光源により生じる陰影及びオクルージョンを反映して、前記ハイトフィールドの各画素の輝度値を算出し、所定の投影面へ投影した投影画像を生成し、出力させることができる。このため、表面に凹凸模様を有する媒体の柄癖を、コンピュータにて確認きるようになる。
【発明の効果】
【0018】
本発明により、表面に凹凸模様を有する媒体の柄癖を、画像で確認可能な柄癖可視化装置、柄癖可視化方法、及びプログラムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】柄癖可視化装置1のハードウエア構成図
【図2】柄癖可視化処理の流れを説明するフローチャート
【図3】入力されるハイトフィールド29の一例
【図4】光源方向、視点方向の設定の一例を示す図
【図5】影及びオクルージョンについて説明する図
【図6】注目画素についての影・オクルージョン判定について説明する図
【図7】影・オクルージョン判定処理の流れを説明するフローチャート
【図8】注目画素の法線ベクトルの一例を示す図、
【図9】媒体表面の視点ベクトル、光源ベクトル、法線ベクトル、正反射ベクトルの一例を示す図
【図10】出力画像を色相情報で表現する際の色設定例を示す図
【図11】出力画像の一例を示す図
【図12】実際の柄癖確認作業における意匠の確認位置の例を示す図
【図13】出力画像に更にぼかし処理を施した出力画像の一例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面に基づいて本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
図1は、本実施の形態の柄癖可視化装置1のハードウエア構成を示す図である。
【0021】
柄癖可視化装置1は、図1に示すように、例えば、制御部3、記憶部5、メディア入出力部7、通信制御部9、入力部11、表示部13、周辺機器I/F部15等がバス17を介して接続されて構成される。
【0022】
制御部3は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Accsess Memory)等により構成される。
CPUは、記憶部5、ROM、記録媒体等に格納されるプログラムをRAM上のワークメモリ領域に呼び出して実行し、バス17を介して接続された各部を駆動制御する。制御部3のCPUは後述する柄癖可視化処理(図2参照)を実行する。
【0023】
ROMは、コンピュータのブートプログラムやBIOS等のプログラム、データ等を恒久的に保持する。RAMは、ロードしたプログラムやデータを一時的に保持するとともに、制御部3が各種処理を行うために使用するワークエリアを備える。
【0024】
記憶部5は、HDD(ハードディスクドライブ)であり、制御部3が実行するプログラムや、プログラム実行に必要なデータ、OS(オペレーティング・システム)等が格納されている。これらのプログラムコードは、制御部3により必要に応じて読み出されてRAMに移され、CPUに読み出されて実行される。
【0025】
メディア入出力部7(ドライブ装置)は、例えば、フロッピー(登録商標)ディスクドライブ、PDドライブ、CDドライブ、DVDドライブ、MOドライブ等のメディア入出力装置であり、データの入出力を行う。
【0026】
通信制御部9は、通信制御装置、通信ポート等を有し、ネットワーク19との通信を媒介する通信インタフェースであり、通信制御を行う。
入力部11は、例えば、キーボード、マウス等のポインティング・デバイス、テンキー等の入力装置であり、入力されたデータを制御部3へ出力する。
【0027】
表示部13は、例えば液晶パネル、CRTモニタ等のディスプレイ装置と、ディスプレイ装置と連携して表示処理を実行するための論理回路(ビデオアダプタ等)で構成され、制御部3の制御により入力された表示情報をディスプレイ装置上に表示させる。
【0028】
周辺機器I/F部15は、コンピュータに周辺機器を接続させるためのポートであり、周辺機器I/F部15を介してコンピュータは周辺機器とのデータの送受信を行う。周辺機器I/F部15は、USBやIEEE1394やRS−232C等で構成されており、通常複数の周辺機器I/Fを有する。周辺機器との接続形態は有線、無線を問わない。
【0029】
バス17は、各装置間の制御信号、データ信号等の授受を媒介する経路である。
【0030】
次に、図2〜図13を参照して、柄癖可視化装置1の動作について説明する。
図2は、柄癖可視化装置1が行う柄癖可視化処理の流れを示すフローチャートである。
【0031】
柄癖可視化装置1の制御部3は、記憶部5から図2の柄癖可視化処理に関するプログラム及びデータを読み出し、このプログラム及びデータに基づいて処理を実行する。
【0032】
まず、柄癖可視化装置1に対して、処理対象とする媒体であるハイトフィールド29のデータが入力される(ステップS101)。入力されるハイトフィールド29の一例を図3に示す。図3では、ハイトフィールド29の深さ方向の情報が濃淡で表現されている。
制御部3は、入力されたハイトフィールド29に対して仮想的に光源方向及び視点方向を設定するための処理を実行する。光源方向及び視点方向の設定処理は、入力部11及び表示部13を利用したユーザとの対話的な処理によって行われることが望ましい(ステップS102)。
例えば、図4に示すように、ハイトフィールド29に対して平行な投影面(XY平面)33に対して投影方向は鉛直方向となるようにする。また光源方向及び視点方向は任意の方向に設定される。
【0033】
次に、柄癖可視化装置1の制御部3は、ハイトフィールド29の影及びオクルージョンの判定処理を実行する(ステップS103)。
【0034】
ここで、図5を参照して、影及びオクルージョンについて説明する。
影とは、光源の光が直接反射されない領域をいい、オクルージョンとは、視点から見えない領域をいう。これらの領域は他の領域より暗くなる。
図5に示すように、表面に凹凸のある媒体(ハイトフィールド29)に対して光源及び視点が所定の角度をもって設定されると、隣接する領域より深い領域では、影及びオクルージョンが発生することがある。本実施の形態では、影及びオクルージョンの領域については、輝度値を0または他の領域より小さい値とする。
【0035】
ステップS103の影・オクルージョンの判定処理では、ハイトフィールド29の各画素について影・オクルージョンがあるか否かを判定する。影・オクルージョンがあるか否かは、注目画素が光源位置から見えるか、或いは注目画素が視点位置から見えるかを判定すればよい。これを換言すると、任意の点Pから注目画素Qが見えるか否かの判定に他ならない。なお、光源と視点は、この判定処理においては同じものと定義する。
【0036】
図6は、X,Y,Z平面に設定されたハイトフィールド29に、任意の光源(または視点)Pが設定された図である。
視点Pから注目画素QへのベクトルをPQとし、点Q、点PをXY平面に垂直に投影した画素を画素Q’、画素P’とし、画素Q’と画素P’の高さをそれぞれQh,Phとする。また、画素Q’と画素P’を結ぶ直線上のある画素を走査対象とし、画素R’を走査画素と呼ぶこととする。走査画素R’をベクトルPQ(すなわち視線)上に垂直に投影した点を点Rとする。また、走査画素R’のハイトフィールド29の高さをRhとする。
【0037】
ステップS103の影・オクルージョンの判定処理では、制御部3は、注目画素Q’を始点として画素P’までXY平面の走査画素R’を走査する。走査方向はベクトルQ’P’の方向とする。図7に、走査画素R’毎に行われる影・オクルージョン判定処理の流れを示す。
【0038】
図7に示すように、まず制御部3は、ある走査画素R’の位置及び走査画素R’におけるハイトフィールド29の高さRhを取得する(ステップS201)。
次に、制御部3は、ハイトフィールド29から始点画素Q’の高さQhを取得し、また、走査画素R’における視線PQまでの距離(ベクトルRR’の長さ)を算出する(ステップS202)。
走査画素R’におけるベクトルRR’の長さは以下の式(1)によって算出する。
【0039】
【数1】

【0040】
次に、制御部3は、ベクトルRR’の長さと走査画素R’の高さRhを比較する(ステップS203)。RR’<Rhならば(ステップS203;Yes)、点Qから点Pは画素R’の高さRhによって妨げられ、見えないことを意味し、点Qは影またはオクルージョンである旨の判定結果を出力する(ステップS204)。制御部3は、本判定処理を終了して判定結果を図2のステップS103へ返す。ステップS103において、注目画素Q’が影またはオクルージョンであるという判定結果を得た場合は、この画素Q’の輝度値は、影またはオクルージョンの輝度値に設定される。本実施の形態では、影及びオクルージョンの輝度値は、0または他の領域より小さい値とする。
【0041】
一方、図7のステップS203の比較処理において、RR’がRh以上ならば(ステップS203;No)、点Qから点Pは見えると判断される。制御部3は、走査線P’Q’上の全ての画素について走査が終了したか否かを判定し(ステップS205)、走査終了していなければ(ステップS205;No)走査画素R’の位置を次の画素に移し(ステップS206)、次の走査画素R’について、ステップS201〜ステップS205の処理を繰り返し実行する。
【0042】
繰り返し処理にて、走査画素R’が影またはオクルージョンと判定された場合(ステップS203;Yes)には、点Qは影またはオクルージョンとなる。一方、走査線P’Q’上の全ての画素R’について、影またはオクルージョンと判定されなければ(ステップS205;Yes)、点Qは影またはオクルージョンでない旨の判定結果を図2のステップS103へ返し(ステップS207)、本判定処理を終了する。
【0043】
図2のステップS103において、注目画素が影でもオクルージョンでもないと判定された場合は、その注目画素の輝度値を算出する(ステップS105)。
【0044】
輝度値の算出処理において、柄癖可視化装置1の制御部3は、注目画素と隣接する周囲4近傍の画素との高度差を示す接線ベクトルを算出する。図8に示すように、右側の隣接画素との接線ベクトルをT、下側の隣接画素との接線ベクトルをT、左側の隣接画素との接線ベクトルをT、上側の隣接画素との接線ベクトルをTとし、位置(x,y)での表面形状の高度をzx,y、左右に隣接する画素との距離、すなわちハイトフィールドの幅方向をΔx、上下に隣接する画素との距離、すなわちハイトフィールドの縦方向をΔyとすると、各接線ベクトルは、次の式(2)〜(5)で表される。
【0045】
=(Δx,0,(zx+1,y−zx,y))・・・・(2)
=(0,Δy,(zx,y+1−zx,y))・・・・(3)
l=(−Δx,0,(zx―1,y−zx,y))・・・・(4)
=(0,−Δy,(zx,y―1−zx,y))・・・・(5)
【0046】
次に、制御部3は、注目画素の周囲4近傍の法線ベクトルの平均である法線ベクトルNi,jを算出する。
まず制御部3は、注目画素の4近傍の接線ベクトルT、T、T、Tの外積から次の式(6)〜(9)で表される法線ベクトルを算出する。
【0047】
lu=T×T・・・・(6)
ur=T×T・・・・(7)
rd=T×T・・・・(8)
dl=T×T・・・・(9)
【0048】
そして、制御部3は、上述の法線ベクトルNlu,Nur,Nrd,Ndlの平均を算出し、注目画素の法線ベクトルNi,jとする。注目画素の法線ベクトルNi,jは以下の式(10)で表される。
【0049】
i,j=(Nlu+Nur+Nrd+Ndl)/4 ・・・・(10)
【0050】
次に、制御部3は、ステップS102の光源方向・視点方向設定処理にて設定した光源方向から、図9に示す光源ベクトルLを算出する。光源の仰角をθ、方位角をφとすると、光源ベクトルLは次の式(11)のように表される。
【0051】
L=(cosθcosφ,cosθsinφ,sinθ)・・・・(11)
【0052】
制御部3は、注目画素の法線ベクトルNと光源ベクトルLから、光線の正反射ベクトルRを算出する。正反射ベクトルRは次の式(12)のように表される。
【0053】
R=(2×N)×(L・N)−L ・・・・(12)
【0054】
視点方向の視点ベクトルWについても、光源ベクトルLと同様に、ステップS102で設定した視点方向から式(11)のように表される。
【0055】
次に制御部3は、視点ベクトルWと正反射ベクトルRのなす角の余弦を算出する。ここで、視点ベクトルWと正反射ベクトルRのなす角をαとする。余弦cosαは次の式(13)により算出される。
【0056】
cosα=(W・R)/(|W|×|R|) ・・・(13)
【0057】
次に制御部3は、法線ベクトルNと光源ベクトルLのなす角の余弦を算出する。ここで、法線ベクトルNと光源ベクトルLのなす角をβとする。余弦cosβは次の式(14)により算出される。
【0058】
cosβ=(L・N)/(|L|×|N|) ・・・(14)
【0059】
光源から照射された光による媒体の各画素の輝度値は、拡散反射と鏡面反射の各成分を足し合わせることにより求められる。
【0060】
拡散反射光による輝度値Iは、ランバートの余弦則に基づき、次の式(15)で表される。
【0061】
=I・k・cosβ ・・・(15)
【0062】
また、鏡面反射光による輝度値Iは、フォンの反射モデルに基づき、次の式(16)で表される。
【0063】
=I・k・cosα ・・・(16)
【0064】
ここで、入射光の強さをI、拡散反射光による輝度値をI、鏡面反射光による輝度値をI、反射の強さを表す拡散反射率をk、光沢の強さを表す鏡面反射率をk、光沢の鋭さを表す係数をnとしている。
入射光の強さI、拡散反射率k、鏡面反射率k、光沢の鋭さを表す係数nは定数で、固定値としてもよいし、ユーザが設定するようにしてもよい。これらは媒体の材質によって定まるものである。
【0065】
以上より、制御部3は、光源から照射された光による媒体の各画素の輝度値Ioを、次の式(17)により算出する。
【0066】
Io=I+I=I(kcosβ+kcosα) ・・・(17)
【0067】
以上の演算により各画素に輝度値が設定されると、次に、柄癖可視化装置1の制御部3は、ステップS104またはS105で算出した各画素の輝度値を媒体の鉛直方向に投影変換する(ステップS106)。
平行投影の場合、変換前後で注目画素のx、y座標は変わらないため、算出した輝度値を元の画素のx、y位置での値とする。なお、投影変換は、平行投影に限らず、例えば、透視投影でもよい。
制御部3は投影変換後の画素の輝度値を輝度データメモリに格納する(ステップS107)。
【0068】
次に、柄癖可視化装置1の制御部3は、ハイトフィールド29の全画素についてステップS103〜ステップS107の処理が終了したか否かを判定し(ステップS108)、全画素の処理が終了していなければ、次の画素に移動し(ステップS109)、ステップS103〜ステップS107の処理を繰り返し実行する。繰り返し処理によってハイトフィールド29の全画素についてステップS103〜ステップS107の処理が行われると(ステップS108;Yes)、制御部3は、輝度データメモリに格納された各画素の輝度値に応じた画像を出力画像として出力する(ステップS110)。
【0069】
ステップS110において、柄癖可視化装置1の制御部3は、輝度値を階調数に応じた値(例えば、0から255といった所定範囲の整数や0か1の整数等)に正規化し、グレースケール画像または色相画像として表示したり、ファイル出力したり、印刷装置に印刷させたりする。
【0070】
輝度値を0から255の整数に正規化し、その数値を濃度値に変換して出力した場合は、256階調のグレースケール画像が出力される。また輝度値を0か1の整数に正規化した場合は、2値画像として出力される。
【0071】
また、輝度値を例えば0から255の整数に正規化し、その数値を図10に示すようなR・G・Bの組み合わせからなる色相データに変換して出力した場合は、色相画像が出力される。
【0072】
図11に示す出力画像は、図3に示す織物調の意匠のハイトフィールド29に対して本柄癖可視化処理を施し、柄癖が表現された画像である。図3の入力画像には本柄癖可視化処理の効果を分かり易くするために、本来の意匠とは異なる柄癖として、アルファベットの大文字「A」の模様をすり込んでいる。すり込むための具体的な方法は、大文字「A」の部分は光の強度が強くなる形状を含む傾向を高くし、大文字「A」以外の領域では光の強度が強くなる形状を含む傾向を低くしている。図11をディスプレイ装置上で目視すると、視点角度によっては部分的に濃淡が浮き出し、アルファベットの大文字「A」が柄癖として認識できる。図11は柄癖を濃淡で示しているが、色相の変化で表現すれば、より明確に認識できる。
【0073】
実際の柄癖確認作業では、図12に示す3パターンの位置からの意匠の確認が行われる。
(a)意匠の施された壁紙から所定距離(数メートル程度)離れた位置に確認者が立ち、斜め方向(γ=15°程度)から光をあて、その反対の方向(γ=15°程度)から確認者が目視する。
(b)壁紙の配置を90度回転させて、上述の(a)と同様に確認者が目視する。
(c)光源の位置は(a)と同様にし、視点は光源の方位角と90度をなす方向とする。
【0074】
従って、図2の柄癖可視化処理のステップS102で設定する光源方向及び視点方向も、図12(a),(b),(c)に示すパターンで、光源方向及び視点方向を設定することが望ましい。ただし、この他の光源方向及び視点方向に設定することを妨げるものではなく、必要に応じて適当な光源方向及び視点方向の設定が行われることが望ましい。
【0075】
また、通常、壁紙等は、数メートル離れた位置から視認されることが多いため、柄癖を見る際には視覚的にぼやけることがある。
そこで、図11の出力画像に対して、更に、ぼかし処理を施すようにしてもよい。
【0076】
ぼかし処理とは、例えば、注目画素の周辺の画素(ぼかすときの範囲)に重みをかけた後、足し合わせ、画素数で除した値とすることである。このぼかすときの範囲、すなわちフィルタの形状は正方形、長方形、円形、楕円形などが一般的であるが、本発明の柄癖可視化装置1においては、楕円形を採用することが好適である。これは、観察者が壁紙を見るときの視点位置が壁紙に対して斜め方向にあるため、観察者が投影面での円を見ていても、壁紙では楕円形の領域が投影されているからである。すなわち、観察者は楕円形の領域の輝度値を積算した値を観察しているとみなせる。
図13は、図11の出力画像に対して、ぼかし処理を施した画像である。本来の意匠とは異なる柄癖であるアルファベットの大文字「A」が中央に確認できる。
【0077】
以上説明したように、本発明の実施の形態に係る柄癖可視化装置1は、媒体表面に対する光源方向と視点方向を設定し、媒体のハイトフィールド29、設定された光源方向、視点方向を用いて、影及びオクルージョンを考慮した輝度値を算出し、投影面33に投影し、この投影画像を出力する。出力される投影画像は、グレースケール画像、二値画像、または色相画像等の出力画像に変換して出力される。よって、媒体表面の凹凸により生じる柄癖を画像として確認できるようになり、柄癖確認用のエンボス版を製造する必要がなくなる。また、視点方向や光源方向に応じた影及びオクルージョンを考慮するため、柄癖を正確に可視化できる。
【0078】
また、制御部3は、ハイトフィールド29の各画素について陰影またはオクルージョンが有るか否かを判定し、陰影またはオクルージョンがあると判定された画素については、その画素の輝度値を0とするか、または他の画素より小さく設定するので、陰影またはオクルージョンとなる画素を他の領域より暗くでき、実環境と同様に柄癖を表現できる。
【0079】
また、出力画像にぼかし処理を施せば、遠方から意匠を観察したような画像を出力でき、壁紙等の大判の対象についての柄癖確認作業に好適である。
また、出力画像は、濃淡情報、二値情報、または色相情報として表されるため、画像の濃淡、二値(白/黒)、または色相によって柄癖の観察を容易に行うことが可能となる。
【0080】
以上、添付図面を参照して、本発明に係る柄癖確認装置等の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されない。当業者であれば、本願で開示した技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0081】
1・・・・・・柄癖可視化装置
3・・・・・制御部
5・・・・・記憶部
7・・・・・メディア入出力部
9・・・・・通信制御部
11・・・・入力部
13・・・・表示部
15・・・・周辺機器I/F部
17・・・・バス
19・・・・ネットワーク
29・・・・ハイトフィールド
33・・・・投影面
P・・・・・視点(光源)
Q・・・・・注目画素のハイトフィールド
Q’・・・・・注目画素
R・・・・・走査画素R’における視線PQの高さ位置
R’・・・・・走査画素

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力されたハイトフィールドに対して設定される視点及び光源により生じる陰影及びオクルージョンを反映して、前記ハイトフィールドの各画素の輝度値を算出し、所定の投影面へ投影した投影画像を生成する演算手段と、
前記演算手段により生成された投影画像を出力する出力手段と、
を備える柄癖可視化装置。
【請求項2】
前記演算手段は、
前記ハイトフィールドの各画素について前記陰影またはオクルージョンか否かを判定する判定手段を備え、
前記判定手段によって陰影またはオクルージョンがあると判定された画素については前記輝度値を0とするか、または他の画素より小さく算出することを特徴とする請求項1に記載の柄癖可視化装置。
【請求項3】
前記投影画像の各画素に対して、ぼかし処理を施すぼかし手段を更に備え、
前記出力手段によって出力される画像は、前記ぼかし手段によるぼかし処理が施された画像を含むことを特徴とする請求項1に記載の柄癖可視化装置。
【請求項4】
前記投影画像は、前記演算手段により算出された各画素の輝度値を、濃淡情報、二値情報、または色相情報として表した画像であることを特徴とする請求項1に記載の柄癖可視化装置。
【請求項5】
入力されたハイトフィールドに対して設定される視点及び光源により生じる陰影及びオクルージョンを反映して、前記ハイトフィールドの各画素の輝度値を算出し、所定の投影面へ投影した投影画像を生成する演算ステップと、
前記演算ステップにより生成された投影画像を出力する出力ステップと、
を含む柄癖可視化方法。
【請求項6】
前記演算ステップは、
前記ハイトフィールドの各画素について前記陰影またはオクルージョンか否かを判定する判定ステップを備え、
前記判定ステップにおいて陰影またはオクルージョンがあると判定された画素については前記輝度値を0とするか、または他の画素より小さく算出することを特徴とする請求項5に記載の柄癖可視化方法。
【請求項7】
前記投影画像の各画素に対して、ぼかし処理を施すぼかしステップを更に備え、
前記出力ステップによって出力される画像は、前記ぼかし処理が施された画像を含むことを特徴とする請求項5に記載の柄癖可視化方法。
【請求項8】
前記投影画像は、前記演算ステップにより算出された各画素の輝度値を、濃淡情報、二値情報、または色相情報として表した画像であることを特徴とする請求項5に記載の柄癖可視化方法。
【請求項9】
コンピュータにより読み取り可能なプログラムであって、
入力されたハイトフィールドに対して設定される視点及び光源により生じる陰影及びオクルージョンを反映して、前記ハイトフィールドの各画素の輝度値を算出し、所定の投影面へ投影した投影画像を生成する演算ステップと、
前記演算ステップにより生成された投影画像を出力する出力ステップと、
を含むことを特徴とするプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図12】
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【図3】
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【図11】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−103097(P2011−103097A)
【公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−258501(P2009−258501)
【出願日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】