説明

柑橘系果実由来の食品添加用色素材の製造方法

【課題】簡便な方法で、柑橘系果実の表皮の色固定を可能とした、柑橘系果実由来の食品添加用色素材の製造方法を提供する。
【解決手段】柑橘系果実の表皮が有する色を固定化して食品添加用の色素材として利用される柑橘系果実由来の食品添加用色素材の製造方法であって、柑橘系果実を重曹水に浸す工程と、柑橘系果実の表皮を削り取って表皮片を作製する工程と、表皮片を加熱する工程とを有する柑橘系果実由来の食品添加用色素材の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柑橘系果実の表皮を素材とする食品添加用色素材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
柑橘系果実は、様々な食品に加工されて利用されているが、柑橘系果実の表皮は独特の鮮やかな色を有しているため、柑橘系果実の表皮を食品添加用の色素材として使用できると、色感の優れた食品とすることができる。しかし、柑橘系果実の表皮をそのまま添加しても、時間の経過とともに変色するため、食品添加用の色素材として用いることはできない。そのため、時間が経過しても、変色することのない加工方法が求められており、これを達成するためには、色固定の技術が必要となる。
果実の色固定に関する技術の一例が、特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−163956号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載のものは、梅果実を主たる材料として、オレンジやかぼす等の柑橘系果実に対しても色固定を行うものであり、銅製の容器中に入れられた水が果実に浸透することが色固定のために必要な要件となっている。
しかし、食品加工の現場において通常良く使用されるものは鉄製の鍋であり、鉄製の鍋を用いた通常の加熱処理によって色固定を実現することができれば便利であり、安全性の点でも優れている。
【0005】
本発明は、このような事情を考慮してなされたもので、簡便な方法で、柑橘系果実の表皮の色固定を可能とした、柑橘系果実由来の食品添加用色素材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以上の課題を解決するために、本発明の柑橘系果実由来の食品添加用色素材の製造方法は、柑橘系果実の表皮が有する色を固定化して食品添加用の色素材として利用される柑橘系果実由来の食品添加用色素材の製造方法であって、柑橘系果実を重曹水に浸す工程と、前記柑橘系果実の表皮を削り取って表皮片を作製する工程と、前記表皮片を加熱する工程とを有することを特徴とする。
【0007】
重曹水に浸された柑橘系果実の表皮を削って表皮片を作製し、この表皮片に対して加熱することにより、柑橘系果実が本来有している色彩を長時間保持することができる。そのため、安全性が高く、鮮やかな色彩を放つ食品添加用色素材として利用することができる。
【0008】
本発明においては、前記表皮片は、前記柑橘系果実の表皮の最外層を除去した後の表皮を削り取って作製されるようにすることができる。
表皮の最外層は、表皮の中でも葉緑素の割合が多い部分であるため、最外層を除去せずに表皮片を作製すると、濃い緑色で色固定がなされるが、最外層を除去して表皮片を作製すると、淡い緑色の表皮片が得られ、鮮やかな緑色で色固定することができる。
【0009】
本発明においては、前記表皮片を加熱する工程は、鉄製の鍋に満たされた常温の水中に前記表皮片を投入し、その後加熱する工程であることが好ましい。
これにより、色固定を充分に行うことができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、安全性が高く、鮮やかな色彩を放つ食品添加用色素材を簡便な方法で製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明をその実施形態に基づいて説明する。
以下の実施形態においては、柑橘系果実の一例として、かぼすを対象とした色固定について説明するが、レモン等の他の柑橘系果実に対しても同様の製造方法を適用することができる。
本発明の実施形態に係る柑橘系果実由来の食品添加用色素材の製造方法は、下準備工程と、表皮片作製工程と、保存処理工程とからなっている。以下、この工程に沿って説明する。
【0012】
最初に、下準備工程について説明する。
下準備工程では、表面に腐りや傷等の異常の無いかぼすを選別し、加工対象となるかぼすを、浄水器を通して得られた浄水を流しながら洗う。この浄水のpHは、7〜10程度であればよい。洗浄後のかぼすをざるに上げて水切りし、速やかに重曹水を満たした水槽に浸し、適宜かき混ぜながら約30分間室温で放置する。このとき、全てのかぼすが重曹水に浸るようにし、浮き上がるかぼすがあれば重曹水中に沈める。
【0013】
その後、水槽内の重曹水を捨てて、水槽内を浄水で満たし、浄水中で専用のスポンジを用いて、かぼすを擦るように丁寧に洗い、洗い終わったかぼすをざるに保存する。全てのかぼすに対してこの洗浄作業が終了したら、かぼすを再度水槽に移し、専用のスポンジによる洗浄作業を2回繰り返す。その後、ざるに上げられたかぼすを1個ずつ晒し木綿を用いて丁寧に拭いて水分を拭き取る。
【0014】
次に、表皮片作製工程について説明する。
下準備工程を終えたかぼすの表皮を、グレーター(西洋おろし金)を用いて、薄く削り取る。この工程により、かぼすの表皮の最外層が除去される。グレーターで削り取られた表皮の最外層の色は、濃い緑色である。さらに、その下の淡い緑色の皮層を、ステンレス製のピーラーを用いて、厚さが1mm以下となるように掻き取って表皮片を作製し、この表皮片を2〜3リットルの浄水で満たした水槽に溜める。緑色の部分を全て剥ぎ取り、白い部分が見えたら、剥ぎ取りの作業を終了する。水槽としてステンレス容器等を用いることができる。水槽内の表皮片をざるに移し、水を切った後、浄水を流しながら濯ぐ。その後表皮片を再度ざるに移し、水を切る。
【0015】
かぼすの表皮の最外層は、表皮の中でも葉緑素の割合が多い部分であるため、最外層を除去せずに表皮片を作製すると、後述する保存処理工程によって濃い緑色で色固定がなされる。これに対し、最外層を除去して表皮片を作製すると、淡い緑色の表皮片が得られ、この表皮片に対して後述する保存処理工程を施すと、鮮やかな緑色で色固定することができる。いずれの色を選択するかは、用途によって定めることができる。また、かぼす以外の他の柑橘系果実についても、表皮中での葉緑素の分布傾向は同様であるため、最外層を除去せずに表皮片を作製するか、あるいは最外層を除去して表皮片を作製するかによって、色彩の異なる色素材を製造することができる。
【0016】
次に、保存処理工程について説明する。
表皮片作製工程において作製された表皮片を、常温の浄水で満たした鉄製の鍋に投入する。この鉄製の鍋をガスコンロにかけ、細かな泡立ちが見られるまで加熱し、その状態が保たれるように火力を調整して、泡立ちが見られ始めた時点から2時間加熱する。その間、表皮片が均等に加熱されるように、表皮片を撹拌する。また、鍋内の加熱水の量が減少したら、加熱水とほぼ同温の浄水を注ぎ足す。
【0017】
この加熱工程が終了したら、表皮片をざるに移して湯切りし、水槽に移して常温の浄水を流しながら冷却する。表皮片の温度が室温程度まで戻ったら、ざるに移して水切りする。その後、包丁を用いて表皮片が適切な大きさとなるように整形し、速やかにポリエチレン製の袋に入れ、袋の内部に空気が残らないようにして封をし、−25℃程度に温度設定した冷凍庫内に保存する。
【0018】
上述した工程を経ることにより、かぼすの表皮片に対して色固定がなされ、時間が経過しても変色することがない。従って、食品添加用の色素材として利用することができる。例えば、上記の表皮片を冷凍庫から取り出して自然解凍し、マーマレードに添加する。
本発明によって製造される食品添加用色素材は、それ自体が柑橘系果実由来のものであるため、安全性が高いばかりでなく、柑橘系果実本来の色彩を長期間維持することができるため、色彩を通じて食品のイメージを高めることができる点において、大きな意義を持つ。
【0019】
以上説明した実施形態と対比するための比較例について以下に説明する。
(比較例1)
下準備工程において、重曹水に全く浸漬させなかったかぼすについて、他の工程は同様にしてサンプルを作製したところ、緑色に色固定することはできなかった。このことから、色固定に関して、重曹水への浸漬は不可欠であることがわかる。
【0020】
(比較例2)
保存処理工程において、表皮片を常温の浄水で満たした鉄製の鍋に投入したままでは、表皮片は濃い茶色に変色してしまうが、これを加熱することによって、表皮片の色は緑色に復元した。このことから、色固定に関して、表皮片の加熱は不可欠であることがわかる。
【0021】
(比較例3)
保存処理工程において、浄水が泡立ち始めた後に表皮片を投入したサンプルよりも、常温の浄水に表皮片を投入した後に加熱したサンプルのほうが、色固定が充分になされた。このことから、色固定に関して、常温の浄水に表皮片を投入した後に加熱することが好ましい。
【0022】
(比較例4)
保存処理工程において、フッ素樹脂加工がなされた鍋を用いて表皮片を加熱したサンプルは、鉄製の鍋を用いて表皮片を加熱したサンプルに比べて、色固定が充分ではなかった。このことから、表皮片の加熱については、鉄製の鍋を用いることが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明は、安全性が高く、鮮やかな色彩を放つ食品添加用色素材を簡便な方法で製造する方法として利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
柑橘系果実の表皮が有する色を固定化して食品添加用の色素材として利用される柑橘系果実由来の食品添加用色素材の製造方法であって、柑橘系果実を重曹水に浸す工程と、前記柑橘系果実の表皮を削り取って表皮片を作製する工程と、前記表皮片を加熱する工程とを有することを特徴とする柑橘系果実由来の食品添加用色素材の製造方法。
【請求項2】
前記表皮片は、前記柑橘系果実の表皮の最外層を除去した後の表皮を削り取って作製されることを特徴とする請求項1記載の柑橘系果実由来の食品添加用色素材の製造方法。
【請求項3】
前記表皮片を加熱する工程は、鉄製の鍋に満たされた常温の水中に前記表皮片を投入し、その後加熱する工程であることを特徴とする請求項1または2記載の柑橘系果実由来の食品添加用色素材の製造方法。

【公開番号】特開2010−220545(P2010−220545A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−71516(P2009−71516)
【出願日】平成21年3月24日(2009.3.24)
【出願人】(509043319)株式会社つく実や (1)
【Fターム(参考)】