柑橘類の果皮からのポリメトキシフラボノイドの回収方法
【課題】従来のエタノール抽出処理方法に代わり、柑橘類からポリメトキシフラボノイドを比較的高い精製度でしかも比較的短時間で回収できる、新規且つ有用な方法を提供する。
【解決手段】140〜180℃の亜臨界水に5分以下の時間で柑橘類の果皮を接触させることで前記亜臨界水中にポリメトキシフラボノイド、例えばノビレチンやスダチチンを抽出する。抽出物の全体量、ジエチルエーテルで抽出されるエーテル抽出物の全量、ノビレチンやスダチチンの抽出量のすべての項目において、亜臨界水抽出処理を行った方がエタノール抽出処理を行った場合よりも大きいことが確認された。
【解決手段】140〜180℃の亜臨界水に5分以下の時間で柑橘類の果皮を接触させることで前記亜臨界水中にポリメトキシフラボノイド、例えばノビレチンやスダチチンを抽出する。抽出物の全体量、ジエチルエーテルで抽出されるエーテル抽出物の全量、ノビレチンやスダチチンの抽出量のすべての項目において、亜臨界水抽出処理を行った方がエタノール抽出処理を行った場合よりも大きいことが確認された。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柑橘類の果皮からのポリメトキシフラボノイドの回収方法に係り、特に亜臨界水による抽出作用を利用した柑橘類の果皮からのポリメトキシフラボノイドの回収方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ノビレチン(Nobiletin)はミカン等の柑橘類の果皮で含まれるポリメトキシフラボノイドの一種であって以下の化学式に示す構成を有しており、発ガン抑制作用やアルツハイマー型認知症の予防効果が期待されている。
【0003】
【化1】
【0004】
したがって、今後はノビレチンを試薬として使用して動物実験を行い、その効能を客観的に証明した上で、臨床利用への途を開くことが求められている。
ノビレチンの回収方法としては、特許文献1でも教示されているように柑橘類からエタノールを溶媒として使用して抽出することが提案されているが、この方法では脂溶分も一緒に抽出されてしまうので、その後さらに別の有機溶媒で抽出して精製しようとしても純度を高くすることは難しい。而して、試薬は純度が高くないと、その効用を信頼性高く証明したことにはならない。
また、エタノール抽出の場合には抽出時間がかなり長くなってしまうことから、その時間の短縮化も急務の課題となっている。
【0005】
また、スダチチン(Sudachitin)はスダチ等の柑橘類の果皮で含まれる、やはりポリメトキシフラボノイドの一種であって以下の化学式に示す構成を有しており、ノビレチンの前駆体である。
【0006】
【化2】
【0007】
スダチチンの全ての水酸基をメトキシ化してノビレチンに化学変換することが可能と考えられており、スダチチンの抽出は、ノビレチンを生産するための有効な手段と期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−145824号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記した課題を解決するものであり、柑橘類からポリメトキシフラボノイドを比較的高い精製度でしかも比較的短時間で回収できる、新規且つ有用な方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、試行錯誤の結果、ポリメトキシフラボノイドは典型的な脂溶性物質ながら、最適条件下での亜臨界水との接触により、水中に抽出させることができることを見出し、それに基づいて一つの回収方法を提案するに至った。
すなわち、本発明のポリメトキシフラボノイドの回収方法は、最適条件下の亜臨界水に柑橘類を接触させることで抽出作用を利用してポリメトキシフラボノイドを回収することを特徴とするものである。
【0011】
出発原料となる柑橘類としては、みかん、イヨカン、ハッサク、ネーブルオレンジ、シークワーサー、スダチ等が挙げられる。また、本発明における果皮とは、未使用のものだけでなく、ジュース用等に絞った後の搾りカスでもよい。そのため、本発明の方法によれば、生産過剰の果皮を利用できるだけでなく、ジュース加工工場から出される絞りカスも廃棄物とせずに有効活用できる。
【0012】
亜臨界水の最適条件は、温度が最も重要になっており、140〜180℃、好ましくは180℃である。この温度の亜臨界水に柑橘類を接触させて亜臨界水中にノビレチンやスダチチンといったポリメトキシフラボノイドを抽出させる。但し、180℃の条件で5分を超えると急速にポリメトキシフラボノイドが分解されていくことが確認されているので、上記した亜臨界水に接触させる時間は安全率を見込んで5分以内とすることを推奨する。
なお、抽出後の亜臨界水抽出液からは有機溶媒を溶離液として、カラムクロマトグラフィーによりポリメトキシフラボノイドを単離精製できる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の方法によれば、柑橘類からポリメトキシフラボノイドを水中に抽出することができるのでその時点で脂肪分と分離でき、さらにその後有機溶媒を利用して分液したときに、ポリメトキシフラボノイドを含むその有機溶媒に可溶のものだけ有機溶媒相に抽出することになるので、結果的にポリメトキシフラボノイドを単離精製することができる。しかも、亜臨界水抽出方法によるため、その抽出時間も従来のエタノールを利用した抽出方法による場合に比べて著しく短時間で済む。
また、亜臨界水を利用した抽出装置は比較的単純な構成で設計されており、且つ使用溶媒は安価な水である。
従って、本発明の方法によれば、結果的にノビレチンについて商用ベースへの試薬の製造を可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施例1における、ノビレチンの抽出量に及ぼす抽出温度の影響を示すグラフである。
【図2】実施例1における、ノビレチンの抽出量に及ぼす抽出時間の影響を示すグラフである。
【図3】実施例1における、ノビレチンの抽出量に及ぼす抽出圧力の影響を示すグラフである。
【図4】実施例1における、ノビレチンの抽出量に及ぼす抽出圧力(上限側)の影響を示すグラフである。
【図5】実施例1における、ノビレチンの抽出量に及ぼす抽出圧力(下限側)の影響を示すグラフである。
【図6】実施例1における、ノビレチンの抽出量に及ぼす抽出圧力(下限側)の影響を示すグラフである。
【図7】実施例2における、各種溶媒による抽出処理によるノビレチンの抽出量を比較して示すグラフである。
【図8】実施例2における、エーテル抽出物全量とノビレチンの抽出量を比較して示すグラフである。
【図9】実施例3における、種々の溶媒を使用して更に分液した場合のノビレチンの抽出量を比較して示すグラフである。
【図10】実施例4における、種々の柑橘類からのノビレチンの抽出量を示すグラフである。
【図11】実施例5における、すだちの亜臨界水抽出処理によるスダチチンの抽出を示すUPLC−TOF MS分析の結果図である。
【図12】実施例5における、MeOH画分へのスダチチンの溶出を示す結果図である。
【図13】実施例6における、すだちの亜臨界水抽出処理によるスダチチンの抽出を示す、UPLC−TOF MS分析の結果図である。
【図14】実施例6における、すだちの亜臨界水抽出処理によるスダチチンの抽出を示す、NMR解析の結果図である。
【図15】実施例7における、エーテル相と水相の抽出量を比較して示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
亜臨界水抽出は、実験室レベルでは、市販の亜臨界水抽出装置を使用して行うことができる。
この抽出装置では、電熱ヒーターが密閉耐圧容器に取り付けられており、容器内の温度を上げることで圧力も上げるように構成されている。
本発明では、柑橘類、例えば柑橘類の水洗いした果皮やその搾りカスを含水状態のまま、適度な量の水と共に適当な密閉耐圧容器に入れて密閉し、撹拌しながら、容器内に亜臨界状態を作り出している。
【0016】
22MPa、375℃が臨界点であり、この臨界点より低いがそれに近い温度、圧力での状態を亜臨界状態という。上記した密閉耐圧容器内を加熱すると、温度上昇とともに内部圧力も上昇し、容器内の水が上記した亜臨界水となる。亜臨界水の存在領域には有る程度は広さがあるが、その領域のどこでも良いわけではなく、最適範囲から外れればポリメトキシフラボノイドが有意量どころか痕跡量も抽出されない。
従って、以下で亜臨界水を利用したポリメトキシフラボノイドの最適な抽出条件について詳細に説明する。
【0017】
先ず、「抽出温度」は、140〜180℃、好ましくは180℃に設定する。ここで、「抽出温度」とは、亜臨界水の温度制御における目標温度のことである。180℃を上限としたのでは、それを超えると急激に抽出量が落ちるからである。140〜180℃と範囲に幅があるが、通常はその中の一点を温度制御の目標温度に設定する。なお、現在使用できる亜臨界水抽出装置の温度制御の精度限界から、±3℃程度は常時温度変動しており、その範囲で上記した抽出温度と実際の温度との間にズレは生じるが、その程度のズレは誤差範囲内であり、目標温度が上記した「抽出温度」に含まれる限り、本発明の方法を実施したことになる。
【0018】
亜臨界水を利用した抽出処理は既に幾例が提案されており、本出願人も、特開2009−248049号公報において、ヘマトコッカス藻からアスタキサンチンを抽出することを提案しているが、その最適な抽出温度は210〜220℃である。亜臨界水による抽出機構は未だ解明されていないが、上記の場合も含めて殆どが200℃以上の比較的高温にすることを教示していることから、200℃未満のかなり低温が最適な抽出温度であったことは予測外であった。
【0019】
次に、「抽出時間」は、5分以内である。それより長いとポリメトキシフラボノイドの分解が急速に始まるからである。ここで、「抽出時間」とは、亜臨界水を上記した「抽出温度」まで上昇させた後にその温度に保持する時間であり、通常は「抽出温度」は温度制御の目標温度の一点であるから、「抽出時間」は引き続きその目標温度に温度制御している時間となる。
したがって、現在使用できる亜臨界水抽出装置では、抽出温度まで上げるのに20分程度は掛かるが、その昇温時間は抽出時間に含まれないことになる。抽出時間が0分とは、抽出時間が最も短い場合のことであり、「抽出温度」まで上げた途端に冷却して温度を下げたことを意味する。因みに、冷却は電熱ヒーターをオフにすることで行うが、比較的急速に進み、数分で常温に戻る。
【0020】
次に、「抽出圧力」は、3〜10MPaにするのが好ましい。ここで、「抽出圧力」とは、測定の便宜上、窒素ボンベから窒素ガスを供給して容器内を置換したときの初期設定圧力のことであり、水が亜臨界領域まで上げると、それから3MPa程度は上がるものと思われる。
【0021】
上記の最適な抽出条件での亜臨界水による抽出処理を行うと、水中にポリメトキシフラボノイドが抽出する。溶媒として水を使用しているので、当然ながら脂肪分は抽出されない。
その後、酢酸エチルやジエチルエーテルで再度抽出すると、それらの有機溶媒に可溶なものが溶媒中に抽出することになる。水相と有機溶媒相の二相に綺麗に分離する。ノビレチンは有機溶媒相に抽出するので、この段階で更に精製度が高まることになる。
したがって、結果として、従来のエタノールを使用した場合より、ポリメトキシフラボノイドを高い精製度で回収でき、しかも収率を高くできる。
【実施例1】
【0022】
温州みかんの果皮1gと水200mLを上記の市販の亜臨界抽出装置の容器に入れ攪拌してから、抽出条件を変えて抽出処理を行い、それぞれの抽出物をろ紙でろ過した後、HPLCで定量して、ノビレチンの抽出量を比較した。
【0023】
(抽出温度、抽出時間)
図1、図2、図3の結果から、140〜180℃、好ましくは180℃の抽出温度と、5分以内の抽出時間の抽出条件下で行うことにより、有意量のノビレチンを抽出できることが確認された。
【0024】
(抽出圧力)
抽出圧力に関しては、さらに上限側では抽出温度:180℃、抽出時間:0分、抽出圧力:9MPaと10MPaのそれぞれの抽出条件で抽出処理を行い、ノビレチンの抽出量を比較したところ、図4に示すように、2つの圧力条件の違いによる差は見られなかったことから10MPaまでは広げられることが確認された。
一方、下限側では、抽出温度:180℃、抽出時間:0分、抽出圧力:0.1MPa(常圧相当)と3MPaのそれぞれの抽出条件で抽出処理を行い、ノビレチンの抽出量を比較したところ、図5(a)に示すように、2つの圧力条件の違いによる差は見られなかった。しかしながら、図5(b)に示すように、0.1MPaの条件では容器内温度が180℃に達するまでの時間が3MPa以上の条件に比べて2倍以上長くかかった。
【0025】
そこで3MPaの条件で抽出処理を行い、容器内温度が180℃に達する時間を調べ、それと同時間今度は常圧の条件で抽出処理を行ったところ、図6(a)に示すように、容器内温度は16分43秒の時点で3MPaの条件では180℃に達し、常圧の条件ではその時点では未だ151℃であった。両者のノビレチンの抽出量を比較したところ、図6(b)で示すように、3MPaの条件の方が多かった。
以上の結果は、亜臨界水抽出処理を行う際、一定の圧力を加えた方が、180℃に達する時間が短いこと、さらに同じ時間条件では温度効果により抽出効率が高まることが確認された。
【実施例2】
【0026】
温州みかんの果皮1gに対して、実施例1の亜臨界水抽出処理(水:200mL、抽出温度:180℃、抽出時間:0分、抽出圧力:3MPa)と、その他の攪拌抽出処理(水、エタノール、またはヘキサン:200mL、抽出時間:30分、抽出圧力:常圧)とを行い、それぞれの抽出物をろ紙でろ過した後、抽出物全量とノビレチンの抽出量をそれぞれHPLCで定量して比較した。その結果は、図7に示すように、抽出物全量とノビレチンの抽出量のどちらにおいても、亜臨界水抽出処理を行った場合が最大であった。
さらに、エタノール抽出処理と亜臨界水抽出処理による抽出物に等量のジエチルエーテルを加え、エーテル相を回収した。この抽出を3回行い、回収したエーテル相をすべてあわせて濃縮し、HPLCで定量して比較した。その結果は、図8に示すように、エーテル抽出物全量とノビレチンの抽出量のどちらにおいても、亜臨界水抽出処理を行った方がより多かった。
以上の結果から、抽出物の全体重量、ジエチルエーテルで抽出されるエーテル抽出物の全量、ノビレチンの抽出量のすべての項目において、亜臨界水抽出処理を行った方がエタノール抽出処理を行った場合よりも大きいことが確認された。
したがって、亜臨界水抽出処理は、目的物質の種類の選択性より、抽出効率の増大、すなわち高い精製度での目的物質の回収により効果があると考えられる。
【実施例3】
【0027】
温州みかんの絞りカス10gに対して、実施例1の亜臨界水抽出処理(水:200mL、抽出温度:180℃、抽出時間:0分、抽出圧力:3MPa)を行い、ろ紙でろ過した後、さらに酢酸エチル、ジエチルエーテル、ヘキサンの各種溶媒を用いてカラムクロマトグラフィーにより分液し、各種溶媒相をそれぞれHPLCで定量して比較した。その結果は、図9に示すように、酢酸エチルとジエチルエーテルを用いた分液ではそれぞれの有機溶媒相にノビレチンがほぼ全量抽出、すなわち回収された。
以上の結果から、分液するときには使用できる溶媒と使用できない溶媒とが有ることが確認された。
【実施例4】
【0028】
温州みかんの果皮1g、摘果みかんの果皮1g、シークワーサーの果皮1gに対して、実施例1の亜臨界水抽出処理(水:200mL、抽出温度:180℃、抽出時間:0分、抽出圧力:3MPa)を行い、ろ紙でろ過した後、それぞれHPLCで定量して比較した。その結果は、図10に示すように、シークワーサーからのノビレチンの抽出量が突出して多かった。
【実施例5】
【0029】
すだちの果皮1gに対して、実施例1の亜臨界水抽出処理(水:200mL、抽出温度:180℃、抽出時間:0分、抽出圧力:3MPa)を行った後、ろ紙でろ過を行った。得られた抽出物をUPLC−TOF MS分析にかけたところ、図11に示す結果が得られ、質量とUVスペクトルから11.6分のピークをスダチチンと推定した。
さらに、この抽出物を、図12に示すように、粗分画して、MeOH画分を回収し、濃縮乾固してスペクトルを確認したところ、MeOH画分に目的のピークが含まれていたことが確認された。
【実施例6】
【0030】
すだちの果皮12.41gと13.45gのそれぞれに対して、実施例1の亜臨界水抽出処理(水:200mL、抽出温度:180℃、抽出時間:0分、抽出圧力:3MPa)を行った後、ろ紙でろ過を行った。その後、酢酸エチル400mLを加え分液した後、エーテル相に水を加え、エーテル相を回収した。このエーテル相回収は2回行い、回収したエーテル相をすべてあわせて濃縮乾固したところ、得られた抽出物は1.02gであった。
その抽出物を、カラムクロマトグラフィーにて以下の条件で分析したところ、得られた抽出物は55.8mgであった。
カラム : Shiseido Capcell Pak UG-120 C18
(20×250mm)
移動相 : 50% MeOH
流速 : 9mL/min
検出 : UV343nm
さらに、分取HPLCにて以下の条件で分取したところ、得られた抽出物は6.08mgであった。
カラム : Shiseido Capcell Pak UG-120 C18
(20×250mm)
移動相 : 30% MeCN(0.1% TFA)
流速 : 8mL/min
検出 : UV343nm
この精製物をUPLC−TOF MS分析にかけたところ、図13に示すように、精製物の質量とUVスペクトルは文献値と一致した。また、NMR解析をしたところ、図14に示すように、1H−NMRスペクトルが得られ、その各シグナルを帰属した結果、文献値と一致した。
従って、スダチチンが6.08mg抽出できたことが確認された。
すだちの果皮1g当たりに換算すると、約235μgであり、抽出率をノビレチンと比較すると5倍以上多くなっている。
【実施例7】
【0031】
すだちの果皮1gに対して、実施例1の亜臨界水抽出処理(水:200mL、抽出温度:180℃、抽出時間:0分、抽出圧力:3MPa)を行い、ろ紙でろ過した後、さらに等量の酢酸エチルを用いてカラムクロマトグラフィーにより分液し、各相をそれぞれHPLCで定量して比較した。その結果は、図15に示すように、エーテル相にスダチチンがほぼ全量抽出、すなわち回収されたことが確認された。
【実施例8】
【0032】
温州みかんの果皮20.22gと33.50gのそれぞれに対して、実施例1の亜臨界水抽出処理(水:200mL、抽出温度:180℃、抽出時間:0分、抽出圧力:3MPa)を行った後、ろ紙でろ過を行った。その後、ジエチルエーテル200mLを加え分液した後、エーテル相に水を加え、エーテル相を回収した。このエーテル相回収は2回行い、回収したエーテル相をすべてあわせて濃縮乾固したところ、得られた抽出物は256.1mgであった。
その抽出物を、順相系充填剤(シリカゲル60)をカラム(25×450mm)に充填したカラムクロマトグラフィーにより、ヘキサン:酢酸エチル(3:7)を展開溶媒として分画した。なお、抽出物は展開溶媒と同一組成の溶液に溶解した上で使用した。
画分(各4mLずつ)1〜52が得られ、各画分を薄膜クロマトグラフィーにより分析したところ、画分35〜43にノビレチンが含まれると考えられたため回収し、5.02mgの精製物が得られた。
HPLCを用いた標品との一致により、得られた精製物はノビレチンであることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明の方法を、柑橘類からのノビレチンやスダチチンの回収に利用すれば、商用ベースでの試薬の製造を可能とするので、ノビレチンの効用の確認に大いに資するものと考える。
代表的な食用柑橘類であるみかん等は、現在生産過剰な場合には未利用で廃棄されたり、ジュース加工工場から搾りカスもその後は廃棄されたりしているが、本発明の利用により、これらの有効活用への途を開くものと期待される。
また、ノビレチンやスダチチンは亜臨界水抽出処理により効率良く抽出でき、さらに容易に単離精製できるので、ノビレチンを大量生産するための有効な手段となるものと思われる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、柑橘類の果皮からのポリメトキシフラボノイドの回収方法に係り、特に亜臨界水による抽出作用を利用した柑橘類の果皮からのポリメトキシフラボノイドの回収方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ノビレチン(Nobiletin)はミカン等の柑橘類の果皮で含まれるポリメトキシフラボノイドの一種であって以下の化学式に示す構成を有しており、発ガン抑制作用やアルツハイマー型認知症の予防効果が期待されている。
【0003】
【化1】
【0004】
したがって、今後はノビレチンを試薬として使用して動物実験を行い、その効能を客観的に証明した上で、臨床利用への途を開くことが求められている。
ノビレチンの回収方法としては、特許文献1でも教示されているように柑橘類からエタノールを溶媒として使用して抽出することが提案されているが、この方法では脂溶分も一緒に抽出されてしまうので、その後さらに別の有機溶媒で抽出して精製しようとしても純度を高くすることは難しい。而して、試薬は純度が高くないと、その効用を信頼性高く証明したことにはならない。
また、エタノール抽出の場合には抽出時間がかなり長くなってしまうことから、その時間の短縮化も急務の課題となっている。
【0005】
また、スダチチン(Sudachitin)はスダチ等の柑橘類の果皮で含まれる、やはりポリメトキシフラボノイドの一種であって以下の化学式に示す構成を有しており、ノビレチンの前駆体である。
【0006】
【化2】
【0007】
スダチチンの全ての水酸基をメトキシ化してノビレチンに化学変換することが可能と考えられており、スダチチンの抽出は、ノビレチンを生産するための有効な手段と期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−145824号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記した課題を解決するものであり、柑橘類からポリメトキシフラボノイドを比較的高い精製度でしかも比較的短時間で回収できる、新規且つ有用な方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、試行錯誤の結果、ポリメトキシフラボノイドは典型的な脂溶性物質ながら、最適条件下での亜臨界水との接触により、水中に抽出させることができることを見出し、それに基づいて一つの回収方法を提案するに至った。
すなわち、本発明のポリメトキシフラボノイドの回収方法は、最適条件下の亜臨界水に柑橘類を接触させることで抽出作用を利用してポリメトキシフラボノイドを回収することを特徴とするものである。
【0011】
出発原料となる柑橘類としては、みかん、イヨカン、ハッサク、ネーブルオレンジ、シークワーサー、スダチ等が挙げられる。また、本発明における果皮とは、未使用のものだけでなく、ジュース用等に絞った後の搾りカスでもよい。そのため、本発明の方法によれば、生産過剰の果皮を利用できるだけでなく、ジュース加工工場から出される絞りカスも廃棄物とせずに有効活用できる。
【0012】
亜臨界水の最適条件は、温度が最も重要になっており、140〜180℃、好ましくは180℃である。この温度の亜臨界水に柑橘類を接触させて亜臨界水中にノビレチンやスダチチンといったポリメトキシフラボノイドを抽出させる。但し、180℃の条件で5分を超えると急速にポリメトキシフラボノイドが分解されていくことが確認されているので、上記した亜臨界水に接触させる時間は安全率を見込んで5分以内とすることを推奨する。
なお、抽出後の亜臨界水抽出液からは有機溶媒を溶離液として、カラムクロマトグラフィーによりポリメトキシフラボノイドを単離精製できる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の方法によれば、柑橘類からポリメトキシフラボノイドを水中に抽出することができるのでその時点で脂肪分と分離でき、さらにその後有機溶媒を利用して分液したときに、ポリメトキシフラボノイドを含むその有機溶媒に可溶のものだけ有機溶媒相に抽出することになるので、結果的にポリメトキシフラボノイドを単離精製することができる。しかも、亜臨界水抽出方法によるため、その抽出時間も従来のエタノールを利用した抽出方法による場合に比べて著しく短時間で済む。
また、亜臨界水を利用した抽出装置は比較的単純な構成で設計されており、且つ使用溶媒は安価な水である。
従って、本発明の方法によれば、結果的にノビレチンについて商用ベースへの試薬の製造を可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施例1における、ノビレチンの抽出量に及ぼす抽出温度の影響を示すグラフである。
【図2】実施例1における、ノビレチンの抽出量に及ぼす抽出時間の影響を示すグラフである。
【図3】実施例1における、ノビレチンの抽出量に及ぼす抽出圧力の影響を示すグラフである。
【図4】実施例1における、ノビレチンの抽出量に及ぼす抽出圧力(上限側)の影響を示すグラフである。
【図5】実施例1における、ノビレチンの抽出量に及ぼす抽出圧力(下限側)の影響を示すグラフである。
【図6】実施例1における、ノビレチンの抽出量に及ぼす抽出圧力(下限側)の影響を示すグラフである。
【図7】実施例2における、各種溶媒による抽出処理によるノビレチンの抽出量を比較して示すグラフである。
【図8】実施例2における、エーテル抽出物全量とノビレチンの抽出量を比較して示すグラフである。
【図9】実施例3における、種々の溶媒を使用して更に分液した場合のノビレチンの抽出量を比較して示すグラフである。
【図10】実施例4における、種々の柑橘類からのノビレチンの抽出量を示すグラフである。
【図11】実施例5における、すだちの亜臨界水抽出処理によるスダチチンの抽出を示すUPLC−TOF MS分析の結果図である。
【図12】実施例5における、MeOH画分へのスダチチンの溶出を示す結果図である。
【図13】実施例6における、すだちの亜臨界水抽出処理によるスダチチンの抽出を示す、UPLC−TOF MS分析の結果図である。
【図14】実施例6における、すだちの亜臨界水抽出処理によるスダチチンの抽出を示す、NMR解析の結果図である。
【図15】実施例7における、エーテル相と水相の抽出量を比較して示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
亜臨界水抽出は、実験室レベルでは、市販の亜臨界水抽出装置を使用して行うことができる。
この抽出装置では、電熱ヒーターが密閉耐圧容器に取り付けられており、容器内の温度を上げることで圧力も上げるように構成されている。
本発明では、柑橘類、例えば柑橘類の水洗いした果皮やその搾りカスを含水状態のまま、適度な量の水と共に適当な密閉耐圧容器に入れて密閉し、撹拌しながら、容器内に亜臨界状態を作り出している。
【0016】
22MPa、375℃が臨界点であり、この臨界点より低いがそれに近い温度、圧力での状態を亜臨界状態という。上記した密閉耐圧容器内を加熱すると、温度上昇とともに内部圧力も上昇し、容器内の水が上記した亜臨界水となる。亜臨界水の存在領域には有る程度は広さがあるが、その領域のどこでも良いわけではなく、最適範囲から外れればポリメトキシフラボノイドが有意量どころか痕跡量も抽出されない。
従って、以下で亜臨界水を利用したポリメトキシフラボノイドの最適な抽出条件について詳細に説明する。
【0017】
先ず、「抽出温度」は、140〜180℃、好ましくは180℃に設定する。ここで、「抽出温度」とは、亜臨界水の温度制御における目標温度のことである。180℃を上限としたのでは、それを超えると急激に抽出量が落ちるからである。140〜180℃と範囲に幅があるが、通常はその中の一点を温度制御の目標温度に設定する。なお、現在使用できる亜臨界水抽出装置の温度制御の精度限界から、±3℃程度は常時温度変動しており、その範囲で上記した抽出温度と実際の温度との間にズレは生じるが、その程度のズレは誤差範囲内であり、目標温度が上記した「抽出温度」に含まれる限り、本発明の方法を実施したことになる。
【0018】
亜臨界水を利用した抽出処理は既に幾例が提案されており、本出願人も、特開2009−248049号公報において、ヘマトコッカス藻からアスタキサンチンを抽出することを提案しているが、その最適な抽出温度は210〜220℃である。亜臨界水による抽出機構は未だ解明されていないが、上記の場合も含めて殆どが200℃以上の比較的高温にすることを教示していることから、200℃未満のかなり低温が最適な抽出温度であったことは予測外であった。
【0019】
次に、「抽出時間」は、5分以内である。それより長いとポリメトキシフラボノイドの分解が急速に始まるからである。ここで、「抽出時間」とは、亜臨界水を上記した「抽出温度」まで上昇させた後にその温度に保持する時間であり、通常は「抽出温度」は温度制御の目標温度の一点であるから、「抽出時間」は引き続きその目標温度に温度制御している時間となる。
したがって、現在使用できる亜臨界水抽出装置では、抽出温度まで上げるのに20分程度は掛かるが、その昇温時間は抽出時間に含まれないことになる。抽出時間が0分とは、抽出時間が最も短い場合のことであり、「抽出温度」まで上げた途端に冷却して温度を下げたことを意味する。因みに、冷却は電熱ヒーターをオフにすることで行うが、比較的急速に進み、数分で常温に戻る。
【0020】
次に、「抽出圧力」は、3〜10MPaにするのが好ましい。ここで、「抽出圧力」とは、測定の便宜上、窒素ボンベから窒素ガスを供給して容器内を置換したときの初期設定圧力のことであり、水が亜臨界領域まで上げると、それから3MPa程度は上がるものと思われる。
【0021】
上記の最適な抽出条件での亜臨界水による抽出処理を行うと、水中にポリメトキシフラボノイドが抽出する。溶媒として水を使用しているので、当然ながら脂肪分は抽出されない。
その後、酢酸エチルやジエチルエーテルで再度抽出すると、それらの有機溶媒に可溶なものが溶媒中に抽出することになる。水相と有機溶媒相の二相に綺麗に分離する。ノビレチンは有機溶媒相に抽出するので、この段階で更に精製度が高まることになる。
したがって、結果として、従来のエタノールを使用した場合より、ポリメトキシフラボノイドを高い精製度で回収でき、しかも収率を高くできる。
【実施例1】
【0022】
温州みかんの果皮1gと水200mLを上記の市販の亜臨界抽出装置の容器に入れ攪拌してから、抽出条件を変えて抽出処理を行い、それぞれの抽出物をろ紙でろ過した後、HPLCで定量して、ノビレチンの抽出量を比較した。
【0023】
(抽出温度、抽出時間)
図1、図2、図3の結果から、140〜180℃、好ましくは180℃の抽出温度と、5分以内の抽出時間の抽出条件下で行うことにより、有意量のノビレチンを抽出できることが確認された。
【0024】
(抽出圧力)
抽出圧力に関しては、さらに上限側では抽出温度:180℃、抽出時間:0分、抽出圧力:9MPaと10MPaのそれぞれの抽出条件で抽出処理を行い、ノビレチンの抽出量を比較したところ、図4に示すように、2つの圧力条件の違いによる差は見られなかったことから10MPaまでは広げられることが確認された。
一方、下限側では、抽出温度:180℃、抽出時間:0分、抽出圧力:0.1MPa(常圧相当)と3MPaのそれぞれの抽出条件で抽出処理を行い、ノビレチンの抽出量を比較したところ、図5(a)に示すように、2つの圧力条件の違いによる差は見られなかった。しかしながら、図5(b)に示すように、0.1MPaの条件では容器内温度が180℃に達するまでの時間が3MPa以上の条件に比べて2倍以上長くかかった。
【0025】
そこで3MPaの条件で抽出処理を行い、容器内温度が180℃に達する時間を調べ、それと同時間今度は常圧の条件で抽出処理を行ったところ、図6(a)に示すように、容器内温度は16分43秒の時点で3MPaの条件では180℃に達し、常圧の条件ではその時点では未だ151℃であった。両者のノビレチンの抽出量を比較したところ、図6(b)で示すように、3MPaの条件の方が多かった。
以上の結果は、亜臨界水抽出処理を行う際、一定の圧力を加えた方が、180℃に達する時間が短いこと、さらに同じ時間条件では温度効果により抽出効率が高まることが確認された。
【実施例2】
【0026】
温州みかんの果皮1gに対して、実施例1の亜臨界水抽出処理(水:200mL、抽出温度:180℃、抽出時間:0分、抽出圧力:3MPa)と、その他の攪拌抽出処理(水、エタノール、またはヘキサン:200mL、抽出時間:30分、抽出圧力:常圧)とを行い、それぞれの抽出物をろ紙でろ過した後、抽出物全量とノビレチンの抽出量をそれぞれHPLCで定量して比較した。その結果は、図7に示すように、抽出物全量とノビレチンの抽出量のどちらにおいても、亜臨界水抽出処理を行った場合が最大であった。
さらに、エタノール抽出処理と亜臨界水抽出処理による抽出物に等量のジエチルエーテルを加え、エーテル相を回収した。この抽出を3回行い、回収したエーテル相をすべてあわせて濃縮し、HPLCで定量して比較した。その結果は、図8に示すように、エーテル抽出物全量とノビレチンの抽出量のどちらにおいても、亜臨界水抽出処理を行った方がより多かった。
以上の結果から、抽出物の全体重量、ジエチルエーテルで抽出されるエーテル抽出物の全量、ノビレチンの抽出量のすべての項目において、亜臨界水抽出処理を行った方がエタノール抽出処理を行った場合よりも大きいことが確認された。
したがって、亜臨界水抽出処理は、目的物質の種類の選択性より、抽出効率の増大、すなわち高い精製度での目的物質の回収により効果があると考えられる。
【実施例3】
【0027】
温州みかんの絞りカス10gに対して、実施例1の亜臨界水抽出処理(水:200mL、抽出温度:180℃、抽出時間:0分、抽出圧力:3MPa)を行い、ろ紙でろ過した後、さらに酢酸エチル、ジエチルエーテル、ヘキサンの各種溶媒を用いてカラムクロマトグラフィーにより分液し、各種溶媒相をそれぞれHPLCで定量して比較した。その結果は、図9に示すように、酢酸エチルとジエチルエーテルを用いた分液ではそれぞれの有機溶媒相にノビレチンがほぼ全量抽出、すなわち回収された。
以上の結果から、分液するときには使用できる溶媒と使用できない溶媒とが有ることが確認された。
【実施例4】
【0028】
温州みかんの果皮1g、摘果みかんの果皮1g、シークワーサーの果皮1gに対して、実施例1の亜臨界水抽出処理(水:200mL、抽出温度:180℃、抽出時間:0分、抽出圧力:3MPa)を行い、ろ紙でろ過した後、それぞれHPLCで定量して比較した。その結果は、図10に示すように、シークワーサーからのノビレチンの抽出量が突出して多かった。
【実施例5】
【0029】
すだちの果皮1gに対して、実施例1の亜臨界水抽出処理(水:200mL、抽出温度:180℃、抽出時間:0分、抽出圧力:3MPa)を行った後、ろ紙でろ過を行った。得られた抽出物をUPLC−TOF MS分析にかけたところ、図11に示す結果が得られ、質量とUVスペクトルから11.6分のピークをスダチチンと推定した。
さらに、この抽出物を、図12に示すように、粗分画して、MeOH画分を回収し、濃縮乾固してスペクトルを確認したところ、MeOH画分に目的のピークが含まれていたことが確認された。
【実施例6】
【0030】
すだちの果皮12.41gと13.45gのそれぞれに対して、実施例1の亜臨界水抽出処理(水:200mL、抽出温度:180℃、抽出時間:0分、抽出圧力:3MPa)を行った後、ろ紙でろ過を行った。その後、酢酸エチル400mLを加え分液した後、エーテル相に水を加え、エーテル相を回収した。このエーテル相回収は2回行い、回収したエーテル相をすべてあわせて濃縮乾固したところ、得られた抽出物は1.02gであった。
その抽出物を、カラムクロマトグラフィーにて以下の条件で分析したところ、得られた抽出物は55.8mgであった。
カラム : Shiseido Capcell Pak UG-120 C18
(20×250mm)
移動相 : 50% MeOH
流速 : 9mL/min
検出 : UV343nm
さらに、分取HPLCにて以下の条件で分取したところ、得られた抽出物は6.08mgであった。
カラム : Shiseido Capcell Pak UG-120 C18
(20×250mm)
移動相 : 30% MeCN(0.1% TFA)
流速 : 8mL/min
検出 : UV343nm
この精製物をUPLC−TOF MS分析にかけたところ、図13に示すように、精製物の質量とUVスペクトルは文献値と一致した。また、NMR解析をしたところ、図14に示すように、1H−NMRスペクトルが得られ、その各シグナルを帰属した結果、文献値と一致した。
従って、スダチチンが6.08mg抽出できたことが確認された。
すだちの果皮1g当たりに換算すると、約235μgであり、抽出率をノビレチンと比較すると5倍以上多くなっている。
【実施例7】
【0031】
すだちの果皮1gに対して、実施例1の亜臨界水抽出処理(水:200mL、抽出温度:180℃、抽出時間:0分、抽出圧力:3MPa)を行い、ろ紙でろ過した後、さらに等量の酢酸エチルを用いてカラムクロマトグラフィーにより分液し、各相をそれぞれHPLCで定量して比較した。その結果は、図15に示すように、エーテル相にスダチチンがほぼ全量抽出、すなわち回収されたことが確認された。
【実施例8】
【0032】
温州みかんの果皮20.22gと33.50gのそれぞれに対して、実施例1の亜臨界水抽出処理(水:200mL、抽出温度:180℃、抽出時間:0分、抽出圧力:3MPa)を行った後、ろ紙でろ過を行った。その後、ジエチルエーテル200mLを加え分液した後、エーテル相に水を加え、エーテル相を回収した。このエーテル相回収は2回行い、回収したエーテル相をすべてあわせて濃縮乾固したところ、得られた抽出物は256.1mgであった。
その抽出物を、順相系充填剤(シリカゲル60)をカラム(25×450mm)に充填したカラムクロマトグラフィーにより、ヘキサン:酢酸エチル(3:7)を展開溶媒として分画した。なお、抽出物は展開溶媒と同一組成の溶液に溶解した上で使用した。
画分(各4mLずつ)1〜52が得られ、各画分を薄膜クロマトグラフィーにより分析したところ、画分35〜43にノビレチンが含まれると考えられたため回収し、5.02mgの精製物が得られた。
HPLCを用いた標品との一致により、得られた精製物はノビレチンであることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明の方法を、柑橘類からのノビレチンやスダチチンの回収に利用すれば、商用ベースでの試薬の製造を可能とするので、ノビレチンの効用の確認に大いに資するものと考える。
代表的な食用柑橘類であるみかん等は、現在生産過剰な場合には未利用で廃棄されたり、ジュース加工工場から搾りカスもその後は廃棄されたりしているが、本発明の利用により、これらの有効活用への途を開くものと期待される。
また、ノビレチンやスダチチンは亜臨界水抽出処理により効率良く抽出でき、さらに容易に単離精製できるので、ノビレチンを大量生産するための有効な手段となるものと思われる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
柑橘類の果皮からのポリメトキシフラボノイドの回収方法であって、140〜180℃の亜臨界水に5分以下の抽出時間で前記果皮を接触させることで前記亜臨界水中にポリメトキシフラボノイドを抽出することを特徴とする回収方法。
【請求項2】
請求項1に記載した柑橘類の果皮からのポリメトキシフラボノイドの回収方法において、180℃の亜臨界水に前記果皮を接触させることで抽出することを特徴とする回収方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載した柑橘類の果皮からのポリメトキシフラボノイドの回収方法において、3〜10MPaの抽出圧力下の亜臨界水に前記果皮を接触させることで抽出することを特徴とする回収方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載した柑橘類の果皮からのポリメトキシフラボノイドの回収方法において、ノビレチンまたはスダチチンを抽出することを特徴とする回収方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載した柑橘類の果皮からのポリメトキシフラボノイドの回収方法において、亜臨界水抽出液から有機溶媒を溶離液として、カラムクロマトグラフィーにより単離精製することを特徴とするポリメトキシフラボノイドの回収方法。
【請求項1】
柑橘類の果皮からのポリメトキシフラボノイドの回収方法であって、140〜180℃の亜臨界水に5分以下の抽出時間で前記果皮を接触させることで前記亜臨界水中にポリメトキシフラボノイドを抽出することを特徴とする回収方法。
【請求項2】
請求項1に記載した柑橘類の果皮からのポリメトキシフラボノイドの回収方法において、180℃の亜臨界水に前記果皮を接触させることで抽出することを特徴とする回収方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載した柑橘類の果皮からのポリメトキシフラボノイドの回収方法において、3〜10MPaの抽出圧力下の亜臨界水に前記果皮を接触させることで抽出することを特徴とする回収方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載した柑橘類の果皮からのポリメトキシフラボノイドの回収方法において、ノビレチンまたはスダチチンを抽出することを特徴とする回収方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載した柑橘類の果皮からのポリメトキシフラボノイドの回収方法において、亜臨界水抽出液から有機溶媒を溶離液として、カラムクロマトグラフィーにより単離精製することを特徴とするポリメトキシフラボノイドの回収方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図5】
【図2】
【図3】
【図4】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図5】
【公開番号】特開2011−153084(P2011−153084A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−14213(P2010−14213)
【出願日】平成22年1月26日(2010.1.26)
【出願人】(310019590)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年1月26日(2010.1.26)
【出願人】(310019590)
【Fターム(参考)】
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