説明

柑橘類セスキテルペンシンターゼ、その生成方法、及び使用方法

本発明は、セスキテルペン芳香化合物であるバレンセンの生産における重要酵素、柑橘類セスキテルペンシンターゼ類に関する。詳細には、本発明は、被子植物種由来、とりわけ柑橘類植物由来のバレンセンシンターゼをコードする核酸配列、該配列を含有するベクター、前記配列を含有する宿主細胞、及び前記配列を発現するトランスジェニック植物に関する。本発明はさらに、組換え体バレンセンシンターゼを生成する方法、その生成物、及びその使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セスキテルペン芳香化合物であるバレンセンの生成における重要酵素、柑橘類セスキテルペンシンターゼに関する。詳細には、本発明は、被子植物種由来、とりわけ柑橘類植物由来のバレンセンシンターゼをコードする核酸配列、該配列を含有するベクター、前記配列を含有する宿主細胞、並びに前記配列を発現するトランスジェニック植物及び微生物に関する。本発明はさらに、組換え体バレンセンシンターゼを生成する方法、その生成物、及びその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
風味及び芳香は、それらの多くが植物に由来し、人類の文化において常に重要な役割を有していた。最も芳香の強い植物として、柑橘類植物種が挙げられる。柑橘類植物種の風味及び芳香は、可溶性化合物、主として酸、糖類、及びフラボノイドと、揮発性化合物との複雑な組合せから構成される。後者は、通常、バレンセンシンターゼの酵素活性から得られる二次代謝物であるモノテルペン及びセスキテルペンから成り、これらは柑橘類精油の主要成分となっている。
【0003】
様々な柑橘類植物種における揮発性テルペノイドのプロフィール、及び芳香化合物としてのそれらの重要性は当技術分野で周知である。柑橘類最終生成物における揮発性テルペノイドのレベルを増大させるための努力がなされている。例えば、米国特許第4970085号は、分別過程による改善された水性柑橘類エッセンスを作製する方法を開示し、この方法では、水性柑橘類エッセンスを固体吸着剤に通し、それによって、エッセンス化合物の一部は吸着剤から第1の流出液中に流出し、一部は吸着剤表面に残留し、次に第1の流出液を吸着剤に再循環させて、残留している化合物の分画を回収し、第2の流出液を生成させる。米国特許第4973485号は、より望ましくないオレンジ風味化合物に対するより望ましいオレンジ風味化合物の比率が高い水性オレンジストリッパーエッセンス及びオレンジストリッパーオイルを開示し、これらエッセンス及びオイルは、(1)原料オレンジジュース流を約37.7〜71℃の温度に加熱するステップと;(2)加熱された原料ジュースを、37.7〜71℃、及び絶対圧で9インチHg未満のストリッピングカラム圧力でストリッピングするステップと;(3)ストリップされた揮発性物質を濃縮するステップと;(4)ディスク重層連続式気密遠心分離機(continuous stacked disk hermetic centrifuge)で濃縮物を遠心して、透明な2相を得るステップと;(5)水性オレンジストリッパー相を取り出すステップとを含む方法によって得られる。米国特許第4970085号及び第4973485号で開示された方法は、柑橘果実からの望ましいエッセンス及びオイルの生成を対象とするものであるが、望ましいオイル及びエッセンスを先天的により高い比率で含む柑橘果実を提供するという問題には取り組んでいない。
【0004】
芳香族化合物を合成する方法には多くの開示があり、なかでも米国特許第5847226号及び第6200786号が挙げられる。米国特許第5847226号は、適当な反応媒体中において、不飽和脂肪酸ヒドロペルオキシドの存在下でバレンセンを酸化させることによって、ヌートカトン、ヌートカトール又はこれらの混合物をin vitroで調製する方法を開示する。米国特許第6200786号は、ヌートカトンをin vitroで生成する方法を開示し、この方法は、(a)バレンセンと、ラッカーゼ活性を有する組成物とを酸素源の存在下で反応させて、バレンセンヒドロペルオキシドを生成するステップと;(b)該ヒドロペルオキシドを分解してヌートカトンを形成するステップと;(c)ヌートカトンを回収するステップとを含む。しかし、ヌートカトンを望ましいレベルで生成できる細胞又は生物を提供する試みは、それがいかなるレベルのものも全く開示されていなかった。さらに、植物内で芳香族化合物の生成を行う完全な生理学的経路及び生化学経路、並びに遺伝調節は、未だ未解明のままである。
【0005】
テルペノイド類は、すべての植物で見出されており、フィトアレキシン類、病害虫抑制物質類、毒素類、成長調節物質類、花粉媒介者誘引物質類、光合成色素類、及び電子受容体類などのような、様々生理的役割を有する。米国特許第6258602号は、アブラムシ警報フェロモンであるE−ベータファルネセンを生成するセスキテルペンシンターゼのペパーミントcDNAクローンの単離及び細菌発現を開示する。
【0006】
本発明の発明者らによる本願の優先日の後に、セスキテルペンシンターゼをコードする遺伝子であるCstps1の単離及び発現が、Sharon−Asaら(The Plant Journal、36:664−674、2003年)に発表されており、この開示を参照により全体として本明細書に援用する。Sharon−Asaらは、Cstps1によってコードされた組換え体酵素が、ファルネシル二リン酸を、バレンセンとして同定された単一のセスキテルペン生成物に変換することを示した。
【0007】
ケンタッキー大学のBryan T.Greenhagen氏による博士論文は、ルビーグレープフルーツのバレンセンシンターゼのクローニングと、その使用とを概説する。この論文が一般に閲覧できるようになったのは、本願の優先日の後である。
【0008】
果実芳香の生化学的調節及び遺伝子的調節がより大きな関心を集めるようになったのは最近のことである。果実の芳香に関与する遺伝子のうち、記載されているものはごく少数であり、従って、果実における芳香形成の調節についてはあまり知られていない。このような研究の状況は、天然果実の芳香を、農業、食品、及び化粧品産業が使用する可能性を制限するが、それらは、これらの産業の生成物に極めて望ましいものである。
【0009】
従って、果実芳香の形成を対象とした調節経路に関与する特定の遺伝的構成要素の必要性が認識されており、また、それらの同定は極めて有益なものであろう。そして、そのような芳香を含む望ましい量の芳香化合物を生成できる宿主細胞又は生物を提供することは、さらに有益であろう。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、主として柑橘類植物種に見出される芳香化合物であるセスキテルペンバレンセンの生成における重要酵素に関する。
【0011】
本発明は、セスキテルペンシンターゼファミリーの新たなメンバーを提供し、このファミリーは、ファルネシルピロリン酸(FPP、ファルネシル二リン酸若しくはFDPとしても知られている)をセスキテルペンに変換するテルペン生合成経路に関与する。一態様によれば、このセスキテルペンシンターゼはバレンセンシンターゼである。本発明は、組換え体DNA分子を含めた、セスキテルペンシンターゼをコードするポリヌクレオチド配列を提供する。本発明はさらに、ベクター及び宿主細胞を提供し、これらには、本発明のポリヌクレオチドを含むベクター、本発明のポリヌクレオチドを含有するように操作された宿主細胞、及び本発明のポリヌクレオチドを発現するように操作された宿主細胞が含まれる。従って、本発明は、(i)相当量の組換え体バレンセンシンターゼ、又は、後で使用するためのその一次生成物及び二次生成物を生成、単離、及び精製するのを容易にするために、組換え体のセスキテルペンシンターゼ、詳細にはバレンセンシンターゼを発現させる方法と;(ii)微生物又は植物において、セスキテルペンシンターゼ、詳細にはバレンセンシンターゼを発現させるか、或いはその発現を促進する方法と;(iii)セスキテルペンシンターゼ、詳細にはバレンセンシンターゼの発現調節を、この酵素並びにその酵素生成物及び誘導体を生成するのにそのような発現調節が望ましい環境で行う方法とを提供する。
【0012】
本発明はさらに、限定されるものではないが、ハイブリダイゼーションプローブ、PCR用、染色体マッピング用、及び遺伝子マッピング用のオリゴマー、並びに同様のものとしての使用を含めた、分子生物学分野の当業者に知られている様々な方法及び技法での使用に供する、ファルネシルピロリン酸(FPP)をバレンセンに変換することを特徴としたセスキテルペンシンターゼ、詳細にはバレンセンシンターゼをコードするポリヌクレオチド配列を提供する。
【0013】
本発明はさらに、農業、化粧品、及び食品から選択された産業応用における、セスキテルペンシンターゼの酵素生成物、詳細にはバレンセンの使用方法を提供する。
【0014】
一態様によれば、本発明は、バレンセンシンターゼをコードするポリヌクレオチド配列を含む単離されたポリヌクレオチドを提供し、このバレンセンシンターゼは、FPPをバレンセンに変換することができる。
【0015】
一実施形態によれば、該単離されたポリヌクレオチドは、配列番号1又はその相補鎖に対して少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%の相同性を有する核酸配列を含む。
【0016】
別の実施形態によれば、該単離されたポリヌクレオチドは、配列番号1又はその相補鎖に対して少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%の相同性を有する核酸配列にハイブリッド形成できる核酸配列を含む。
【0017】
さらに別の実施形態によれば、該単離されたポリヌクレオチドは、配列番号2に対して少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%の相同性を有するアミノ酸配列を含むバレンセンシンターゼをコードする核酸を含む。一部の実施形態によれば、本発明は、配列番号2に対して少なくとも80%の相同性、好ましくは少なくとも90%の相同性を有するアミノ酸配列を含むバレンセンシンターゼをコードする核酸配列にハイブリッド形成できる単離されたポリヌクレオチドを提供する。
【0018】
さらに別の実施形態によれば、該単離されたポリヌクレオチドは、配列番号2に対して少なくとも80%の相同性を有するアミノ酸配列を含むバレンセンシンターゼをコードする核酸配列を含み、該アミノ酸は、連続したアミノ酸からなるDDXXDという配列(配列番号3)のコンセンサスモチーフを少なくとも1つ含み、配列中、Xは任意のアミノ酸に対応する。一部の実施形態によれば、本発明は、前記核酸配列にハイブリッド形成できる単離されたポリヌクレオチドを提供する。
【0019】
別の態様によれば、本発明は、バレンセンシンターゼの活性を有するアミノ酸配列を含む単離されたポリペプチドを提供し、該活性は、ファルネシルピロリン酸をバレンセンに変換できることを特徴とする。
【0020】
一実施形態によれば、該単離されたポリペプチドは、配列番号2に対して少なくとも80%の相同性、好ましくは少なくとも90%の相同性を有するアミノ酸配列を含む。
【0021】
別の実施形態によれば、該単離されたポリペプチドは、配列番号2に対して少なくとも80%の相同性を有するアミノ酸配列を含むバレンセンシンターゼをコードし、該アミノ酸は、DDXXDという連続したアミノ酸配列(配列番号3)のコンセンサスモチーフを少なくとも1つ含み、配列中、Xは任意のアミノ酸に対応する。
【0022】
本発明の範囲は、相同体、類似体、変異体、及び誘導体を包含し、これらには、ファルネシルピロリン酸(FPP)をバレンセンに変換するセスキテルペンシンターゼの能力を、これらの変異体及び修正物が保持しなければならないという条件の下にさらに短いか、若しくはさらに長いポリペプチド、タンパク質、及びポリヌクレオチドと、1つ又は複数のアミノ酸置換又は核酸置換を有するポリペプチド類似体、タンパク質類似体、及びポリヌクレオチド類似体と、当技術分野で知られているアミノ酸若しくは核酸誘導体、非天然のアミノ若しくは核酸、及び合成のアミノ酸若しくは核酸とが含まれることが、明らかに理解されよう。詳細には、活性なポリペプチド又はタンパク質のいかなる活性断片も、そして、伸長物、結合体、及び混合物も、本発明の原理に従って開示する。
【0023】
一実施形態によれば、バレンセンシンターゼは柑橘類植物種、好ましくはオレンジに由来する。
【0024】
さらに別の態様によれば、本発明は、バレンセンシンターゼをコードする核酸配列を含む発現ベクターを提供し、バレンセンシンターゼはFPPをバレンセンに変換できる。
【0025】
一実施形態によれば、該ベクターは、プラスミド又はウイルスである。一部の実施形態によれば、該ベクターは、バレンセンシンターゼをコードするポリヌクレオチドに作用可能に連結したプロモーター、選択マーカー、シグナル配列、複製開始点、エンハンサー、及び転写終結配列からなる群から選択された少なくとも1つのエレメントをさらに含む。
【0026】
さらに別の態様によれば、本発明は、発現ベクターを含む宿主細胞を提供し、該発現ベクターは、バレンセンシンターゼをコードする核酸配列を含み、バレンセンシンターゼはFPPをバレンセンに変換できる。
【0027】
一実施形態によれば、宿主細胞は、原核細胞又は真核細胞である。別の実施形態によれば、宿主細胞は原核細胞であり、バレンセンシンターゼをコードする核酸配列を含むポリヌクレオチド配列がゲノム中に安定に組み込まれている。好ましい実施形態によれば、原核細胞は、細菌細胞、好ましくは大腸菌(E.coli)である。
【0028】
さらに別の実施形態によれば、宿主細胞は、バレンセン、ヌートカトン以外のバレンセン代謝産物、及びヌートカトンからなる群から選択された少なくとも1つの化合物を生成する。
【0029】
さらに別の態様によれば、本発明はさらに、組換え体バレンセンシンターゼ、及び組換え体バレンセンを生成する方法を提供し、この方法は、
(a)発現ベクターを含む宿主細胞を培養するステップであって、発現ベクターが、バレンセンシンターゼをコードする核酸配列を含み、バレンセンシンターゼが、前記バレンセンシンターゼの発現に適した条件下で、FPPをバレンセンに変換できるステップと、任意選択で、
(b)前記バレンセンシンターゼを回収するステップと
を含む。
【0030】
代替の実施形態によれば、ステップ(b)は、バレンセンを回収することを含む。
【0031】
本発明による宿主細胞の中で生成されたバレンセンは、テルペン生合成経路においてバレンセンシンターゼの下流で活性な、宿主細胞内に存在する酵素によって、別の化合物を生成するための基質として用いることができる。本明細書では、そのような化合物を「バレンセン代謝産物」と名付ける。
【0032】
別の実施形態によれば、ステップ(b)は、
少なくとも1つのバレンセン代謝産物を回収すること
を含む。
【0033】
好ましい実施形態によれば、該少なくとも1つのバレセン代謝産物がヌートカトンである。
【0034】
さらに別の実施形態によれば、宿主細胞が、原核細胞又は真核細胞である。
【0035】
さらに別の実施形態によれば、宿主細胞が原核細胞であり、バレンセンシンターゼをコードする核酸配列を含むポリヌクレオチド配列がゲノム中に安定に組み込まれている。
【0036】
さらに別の実施形態によれば、宿主細胞は、バレンセン、ヌートカトン以外のバレンセン代謝産物、及びヌートカトンからなる群から選択された少なくとも1つの化合物を生成する。好ましい実施形態によれば、原核細胞は、細菌細胞、好ましくは大腸菌(E.coli)である。
【0037】
さらに別の態様によれば、本発明は、バレンセンシンターゼをコードするポリヌクレオチド配列を含む植物を提供し、バレンセンシンターゼはFPPをバレンセンに変換できる。
【0038】
一実施形態によれば、バレンセンシンターゼをコードするポリヌクレオチド配列が、該植物のゲノム中に安定に組み込まれている。
【0039】
別の実施形態によれば、該植物は、バレンセン、ヌートカトン以外のバレンセン代謝産物、及びヌートカトンからなる群から選択された少なくとも1つの化合物を生成する。
【0040】
さらに別の態様によれば、本発明は、本発明の方法のいずれか一つによって得られたバレンセン及びバレンセン代謝産物を提供する。
【0041】
さらに別の態様によれば、本発明は、農業、化粧品、及び食品からなる群から選択された産業応用における、本発明の方法によって得られたバレンセン及びバレンセン代謝産物の使用を提供する。
【0042】
本発明の他の対象、特徴、及び利点は、以下の記述及び図から明らかとなるだろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0043】
本発明は、新しいタイプのセスキテルペンシンターゼ、詳細にはバレンセンシンターゼに関する。
【0044】
古代文明において、植物が栽培され、そして大事にされていたのは、それらの栄養的な価値のためだけではなく、それらの風味、芳香、及び薬用としての特性のためでもあった。しかし、西洋文明における商業的な大規模農業の発展の結果、貯蔵期間が長いこと、外見、及び収率など、植物生産における商業的関心及び市場の関心が強調されるようになった。二次代謝物、すなわち、代謝における明確な役割をもたず、その存在が特定の組織に限定されている代謝産物の含有量は、栄養価及び芳香に有意な影響を与えるにもかかわらず、見過ごされることが多かった。最近、健康的な植物生成物及び風味豊かな植物生成物に対する認識が増大している。表面的に魅力的でも、風味も芳香もない果物は、「人工的」と感知され、一方、香りのよい果物は、より「自然である」と感知される。自然な風味及び芳香を果物に「戻す」ことに対する、一般の関心が増大しており、これは、それに関連した生合成経路、酵素、遺伝子、及び関与している調節メカニズムを解明することの重要性を強調するものである。化粧品産業及び食品産業も、自然な芳香及び風味を求めている。
【0045】
最も芳香の強い植物として、柑橘類植物種が挙げられる。柑橘類は、世界全体での植樹及び栽培において、ブドウのみに次ぐ第2位であり、栄養、健康、及び産業応用に用いる二次代謝産物(例えばテルペノイド、フラボノイド、及び他のポリフェノール)の重要な供給源である。柑橘類の風味及び芳香は、可溶性化合物、主として酸、糖類、及びフラボノイドと、揮発性化合物の複雑な組合せによって構成されている。後者は、通常、モノテルペン及びセスキテルペンから成り、これらは、柑橘類精油の主要成分であり、フラベド(皮の外側部分)における特定の油腺、及び果汁嚢における油体の中に蓄積する。
【0046】
通常、柑橘類植物種から得られる精油成分の90%超がモノテルペンであるリモネンによって占められるが、いくつかの独特のセスキテルペン化合物がごく少量存在しており、これらが柑橘類植物種の風味及び芳香に大きな影響を与えている。例えば、セスキテルペンであるバレンセン、α−及びβ−シネンサールは、オレンジに少量存在しており、オレンジ果実の全体的な風味及び芳香において重要な役割を有する。ヌートカトンはバレンセンの推定上の誘導体である含酸素セスキテルペンであり、これは、精油において占める割合は小さいが、グレープフルーツの風味及び芳香に支配的な役割をもつ。
【0047】
モノテルペン及びセスキテルペンは、バレンセンシンターゼの酵素活性から得られる二次代謝産物の中でも最も重要なものとして挙げられ、果実及び花の芳香に関与している。モノテルペン及びセスキテルペンの生成を導く生合成経路のバックボーンは、すべての植物種に共通して存在するが、テルペンの組成は、種相互で、又は品種相互においてさえしばしば劇的に異なり、それによって、柑橘類栽培品種における風味の多様性が生じている。この多様性は、主として、生合成経路における重要酵素、すなわちテルペンシンターゼ及び下流の他の修飾酵素の特異的な組成及び発現に由来するものと思われる。相同性分析によって、異なった植物種のテルペンシンターゼ相互では、配列保存性は高くないが、保存されている別個のドメインが存在していることが判明しており、これは有意な構造的及び機能的類似性を示唆する。これらの保存ドメインは、テルペンシンターゼをコードする多くの遺伝子を、縮重プライマーベースのRT−PCRを用いて様々な植物から単離する基盤となっている。
【0048】
果実発育及び成熟の研究には長い歴史があり、これらの過程の大部分、中でもクリマクテリック型の果実におけるこれらの過程は、これらの長い年月の間に明らかになっている。しかし、果実芳香の生化学的及び遺伝的調節に対する関心が増大してきたのは、近年になってからであり、果実芳香に関与する遺伝子は、ほとんど記載されておらず、その結果、果実における芳香形成の調節に関してはわずかにしか知られていない。このような研究の状況は、天然の果実芳香を、農業、食品、及び化粧品産業が使用する可能性を制限するが、それらは、これらの産業の極めて望ましい生成物である。
【0049】
本発明は、重要遺伝子の単離及び特性分析と、前記重要遺伝子によってコードされている対応する酵素、すなわちバレンセンシンターゼとを開示し、前記遺伝子/酵素は柑橘果実の芳香形成の重要要素である。組換え体酵素のin−vitro活性は、バレンセンとして同定された単一のセスキテルペン生成物を示す。バレンセンの蓄積及びバレンセンシンターゼ遺伝子発現のパターンに関する研究は、柑橘果実におけるバレンセンの生成が、以下の通りに転写生成物レベルで調節されていることを示す。すなわち、(1)バレンセンシンターゼの発現は、発育によって調節されており、果実成熟過程の最終段階になって初めて現れ、バレンセンの蓄積と密接な相関関係にあり、(2)バレンセンの蓄積、及びバレンセンシンターゼの発現は、エチレン処理に対して反応性である。
【0050】
(定義)
「柑橘類」又は「柑橘類植物種」という用語は、本明細書において、柑橘(Citrus)属のいかなる植物又は果実を定義するのにも互換性をもって使用され、柑橘属は、暖かい地域で生育する、しばしばとげを有するミカン(Rutaceae)科の木及び低木からなる属である。ほとんどの柑橘果実は、オレンジ、レモン、グレープフルーツ、ライム、キンカン、マンダリン、及びザボンのように食用に適し、また、堅くて、厚くて、汁の多い果肉を有する。
【0051】
本明細書で使用する場合、「アミノ酸」(“amino acid”及び“amino acids”)という用語は、天然に存在する全てのL−α−アミノ酸又はそれらの残基を指す。アミノ酸は、1文字表記又は3文字表記で特定する。
【0052】
本明細書で使用する場合、「ヌクレオチド」という用語は、糖残基(五炭糖)、リン酸、及び含窒素複素環塩基を含有するDNA又はRNAのモノマー単位を意味する。塩基は、グリコシド炭素(五炭糖の1’炭素)を介して糖残基に連結されており、この塩基及び糖の組合せをヌクレオシドと呼ぶ。ヌクレオチドは塩基によって特徴付けられ、DNAにおける4種類の塩基は、アデニン(「A」)、グアニン(「G」)、シトシン(「C」)、チミン(「T」)、及びイノシン(「I」)である。4種類のRNA塩基は、A、G、C、及びウラシル(「U」)である。本明細書に記載のヌクレオチド配列は、隣接した五炭糖の3’炭素及び5’炭素の間のホスホジエステル結合で連結された一直線配列のヌクレオチドを含む。
【0053】
「相同性」又は「同一性パーセント」という用語は、本明細書において、2つのアミノ酸配列、又は2つの核酸配列を隣り合わせに整列させた際に、同一の相対位置を占めるアミノ酸又はヌクレオチドの割合を定義するのに互換性をもって使用される。
【0054】
「類似性パーセント」という用語は、比較された2つのタンパク質配列相互にある関連性の程度の統計的な尺度である。類似性パーセントは、比較されたアミノ酸の各対に、化学的類似性(例えば、比較されたアミノ酸が酸性、塩基性、疎水性、芳香族であるかどうかなど)、及び/又は、比較されているある1対のアミノ酸の一方のメンバーをコードするコドンを、その対のもう一方のメンバーをコードするコドンに変換するのに必要な塩基対変換の最小限の数によって計測される進化距離に基づいて数値を割り当てるコンピュータプログラムによって計算される。計算は、2つの配列の最良適合アライメントが、すべての可能なアライメントの反復的な比較によって経験的に作製された後に行われる(Henikoffら、Proc Nat’l. Acad. Sci. USA 89:10915−10919、1992年)。
【0055】
「オリゴヌクレオチド」は、ホスホジエステル結合を介して連結されたデオキシリボヌクレオチドの、短い長さの一本鎖配列又は二本鎖配列を指す。オリゴヌクレオチドは、既知の方法によって化学合成し、ポリアクリルアミドゲル上で精製する。
【0056】
「セスキテルペンシンターゼ」という用語は、本明細書において、FPPからのセスキテルペンの生成を触媒できる酵素を意味するものとして使用される。「バレンセンシンターゼ」は、本明細書において、セスキテルペンであるバレンセンの、FPPからの生成を触媒する酵素を意味するものとして使用される。
【0057】
「誘導体」、「類似体」、及び「変異体」という用語は、それぞれ、配列番号2に記載のアミノ酸配列を有する柑橘類バレンセンシンターゼ、又は配列番号1に記載のポリヌクレオチドによってコードされている柑橘類バレンセンシンターゼと比較して、それらの配列に何らかの相違を有するバレンセンシンターゼ分子、又はそれらをコードするポリヌクレオチドを指す。通常、変異体は、上記に定義したバレンセンシンターゼ、又はそれをコードするポリヌクレオチドに対して、少なくとも約80%の相同性、好ましくは少なくとも約90%の相同性有するであろう。本発明の範囲内にあるバレンセンシンターゼの配列変異体は、「改変」、すなわち、置換、欠失、及び/又は挿入を、ある特定の位置に有する。バレンセンシンターゼの配列変異体は、所望の酵素活性の促進を得るために使用されることも、或いは基質利用性又は生成物の分布の改変を得るために使用されることもある。
【0058】
「置換」を包含するバレンセンシンターゼ変異体は、配列番号2に記載のバレンセンシンターゼ配列における少なくとも1アミノ酸残基が除去され、そして、その代わりに、同じ位置に異なったアミノ酸が挿入されているものである。置換は、単一置換でもよく、その場合には、その分子中の1アミノ酸のみが置換され、或いは、それらは多重置換でもよく、その場合には、同一分子中で2つ以上のアミノ酸が置換される。あるアミノ酸を、電荷及び/又は構造が天然のアミノ酸とは有意に異なる側鎖で置換することによって、本発明のバレンセンシンターゼ分子の活性にかなりの変化を生じさせることができる。このタイプの置換は、置換領域における、ポリペプチドバックボーンの構造、及び/又は、分子の電荷若しくは疎水性に影響を与えることが予測されよう。
【0059】
あるアミノ酸を、天然の分子と電荷及び/又は構造が類似した側鎖で置換することによって、本発明のバレンセンシンターゼ分子の活性に中程度の変化が生じることが予測されよう。このタイプの置換は、保存的置換と呼ばれ、置換領域における、ポリペプチドバックボーンの構造も、分子の電荷量若しくは疎水性も実質的に改変しないことが予測されよう。
【0060】
「挿入」を包含するバレンセンシンターゼ変異体は、配列番号2に記載するバレンセンシンターゼのアミノ酸配列中にある特定の位置のアミノ酸に直ちに隣接して、1つ又は複数のアミノ酸が挿入されているものである。あるアミノ酸に直ちに隣接するとは、そのアミノ酸のα−カルボキシ官能基又はα−アミノ官能基のいずれかに連結していることを意味する。挿入は、1アミノ酸でも、複数のアミノ酸でもよい。通常、挿入は、1つ又は2つの保存アミノ酸からなるであろう。挿入部位に隣接したアミノ酸に、電荷及び/又は構造が類似したアミノ酸を、保存的であると定義する。別法として、挿入部位に隣接したアミノ酸とは実質的に異なる電荷及び/又は構造を有するアミノ酸の挿入も、本発明に含まれる。
【0061】
「欠失」を包含するバレンセンシンターゼ変異体は、配列番号2に記載するバレンセンシンターゼのアミノ酸配列中にある1つ又は複数のアミノ酸が除去されているものである。通常、欠失変異体では、1つ又は2つのアミノ酸が、バレンセンシンターゼ分子の特定の領域で除去されているであろう。
【0062】
「生物活性」、「生物学的に活性な」、「活性」、及び「活性な」という用語は、セスキテルペンシンターゼがファルネシルピロリン酸(FPP)を一群のセスキテルペンに変換する能力を指し、その中では、バレンセンが、バレンセンシンターゼによって合成される主要かつ特徴的なセスキテルペンである。
【0063】
「コードするDNA配列」、「コードするDNA」、「コードする核酸配列」、「コードするポリヌクレオチド配列」という用語は、デオキシリボ核酸の鎖に沿ったデオキシリボヌクレオチドの順序又は配列を指す。これらのデオキシリボヌクレオチドの順序は、翻訳されたポリペプチド鎖に沿ったアミノ酸の順序を決定する。DNA配列は、従って、アミノ酸配列をコードする。
【0064】
本明細書で使用する場合、「ハイブリダイゼーション」という用語は、一本の核酸の鎖が、塩基対形成を介して相補鎖と結合するいかなる過程も指す。
【0065】
本明細書で使用する場合、「ストリンジェントな条件」又は「ストリンジェンシー」という用語は、核酸、塩、及び温度によって定義されるハイブリダイゼーションの条件を指す。これらの条件は当技術分野で周知であり、同一又は関連したポリヌクレオチド配列を同定又は検出するために変更することができる。低ストリンジェンシー若しくは高ストリンジェンシーを含めた多数の同等な条件は、配列の長さ及び性質(DNA、RNA、塩基組成)、標的の性質(DNA、RNA、塩基組成)、環境(溶液中にあるのか、或いは固体基質上に固定されているのか)、塩及び他の成分(例えば、ホルムアミド、硫酸デキストラン、及び/又はポリエチレングリコール)の濃度及び反応温度(プローブの溶解温度の約5℃下から約25℃下までの範囲内)などの因子に依存する。低ストリンジェンシー条件、又は高ストリンジェンシー条件を生成するために1つ又は複数の因子を改変することができる。
【0066】
「複製可能な発現ベクター」及び「発現ベクター」という用語は、通常は二本鎖である、一片のDNAを指し、その中に、一片の外来DNAを挿入することができる。外来DNAは、異種DNAとして定義し、これは、天然には宿主中に見出されないDNAである。ベクターは、外来DNA又は異種DNAを適当な宿主細胞内に輸送するのに使用される。ひとたび宿主細胞内に入れば、ベクターは、宿主の染色体DNAから独立して、或いは同時発生的に複製を行うことができ、数コピーのベクターと、それに挿入された(外来)DNAとを生成することが可能となる。加えて、ベクターは、ポリペプチドへの外来DNAの翻訳を可能にするのに必要なエレメントを含有する。このようにして、外来DNAによってコードされたポリペプチドの多数の分子を迅速に合成することができる。
【0067】
「形質転換された宿主細胞」、「形質転換された」、及び「形質転換」という用語は、細胞内へのDNAの導入を指す。この細胞を「宿主細胞」と呼び、それは原核細胞であることも、真核細胞であることもある。典型的な原核細胞の宿主細胞には、大腸菌(E.coli)の様々な株が含まれる。典型的な真核細胞の宿主細胞は、植物細胞、酵母細胞、昆虫細胞、又は動物細胞である。導入されるDNAは、通常、挿入DNA片を含有したベクターの形態にある。導入されたDNA配列は、宿主細胞と同じ種に由来するものでも、宿主細胞とは異なった種に由来するものでもよく、また、いくらかの外来DNAと、いくらかの宿主生物種由来のDNAとを含有するハイブリッドDNA配列でもよい。
【0068】
(新規セスキテルペンシンターゼ)
一態様によれば、本発明は、セスキテルペンシンターゼ、詳細にはバレンセンシンターゼをコードするポリヌクレオチドに関する。
【0069】
柑橘類のテルペノイド芳香化合物には、大きな多様性が見出されている。この多様性によって、そのようなすべての化合物の生合成に関与するすべての遺伝子を単離するための逆遺伝学アプローチの有効性が制限されている。そのため、テルペンシンターゼをコードする遺伝子の単離は、含有量の高い標的組織から単離されたmRNAの徹底的なスクリーニングによって着手された。バレンセン及びヌートカトンなどのいくつかの重要な柑橘類セスキテルペンフレーバ化合物が、果実成熟に向けて蓄積されること、そして、主としてフラベド(外皮)に蓄積されることに気づいたので、含有量の高い標的組織として、成熟に向けた発育における遅い時期に採取されたバレンシア(商標)オレンジ(シトラス シネンシス(アマダイダイ)のバレンシア栽培品種(Citrus sinensis cv. Valencia))から得たフラベドを選択した。ほとんどのモノテルペンシンターゼ及びセスキテルペンシンターゼに存在する短い保存配列エレメントに基づいた縮重プライマーを使用し、RT−PCRを用いて、バレンシア(商標)オレンジのフラベドのmRNAから部分cDNA断片を単離した。予測された大きさのPCR断片を、クローニングし、配列決定した。完全長cDNAクローニングには、テルペンシンターゼに特有の内部保存配列エレメントを含有する適切なクローンを選択した。ある完全長cDNAは、その配列が植物セスキテルペンシンターゼの配列に類似しており、この完全長cDNAをCstps1と名付けた。
【0070】
一態様によれば、本発明は、バレンセンシンターゼをコードするポリヌクレオチド配列を含む単離されたポリヌクレオチドを提供し、このバレンセンシンターゼは、FPPをバレンセンに変換することができる。
【0071】
一実施形態によれば、該単離されたポリヌクレオチドは、配列番号1又はその相補鎖に対して少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%の相同性を有する核酸配列を含む。
【0072】
別の実施形態によれば、該単離されたポリヌクレオチドは、配列番号1又はその相補鎖に対して少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%の相同性を有する核酸配列にハイブリッド形成できる核酸配列を含む。
【0073】
さらに別の実施形態によれば、該単離されたポリヌクレオチドは、配列番号2に対して少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%の相同性を有するアミノ酸配列を含むバレンセンシンターゼをコードする核酸を含む。
【0074】
さらに別の実施形態によれば、該単離されたポリヌクレオチドは、配列番号2に対して少なくとも80%の相同性を有するアミノ酸配列を含むバレンセンシンターゼをコードする核酸配列を含み、該アミノ酸は、連続したアミノ酸からなるDDXXDという配列(配列番号3)のコンセンサスモチーフを少なくとも1つ含み、配列中、Xは任意のアミノ酸に対応する。
【0075】
バレンセンシンターゼをコードするcDNAの単離は、この機能的な酵素の効率的な発現システムの開発を可能にし;バレンセン生合成の発育調節を検査する有益な手段を提供し;この独特の酵素の反応メカニズムの研究を可能し;かつ、バレンセン生合成をde novoに導入するため、そして、内在性のバレンセン生合成を改変するための、広範囲の生物の形質転換を可能にする。
【0076】
本発明はさらに、セスキテルペンシンターゼ活性、詳細にはバレンセンシンターゼ活性を有するポリペプチドに関し、従って、本発明のポリペプチドは、FPPをセスキテルペン、詳細にはバレンセンに変換することができる。
【0077】
別の態様によれば、本発明は、バレンセンシンターゼ活性を有する単離されたポリペプチドを提供し、前記活性は、ファルネシルピロリン酸(FPP)をバレンセンに変換することを特徴とする。
【0078】
一実施形態によれば、該単離されたポリペプチドは、配列番号2に対して少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%の相同性を有するアミノ酸配列を含む。
【0079】
別の実施形態によれば、該単離されたポリペプチドは、配列番号2に対して少なくとも80%の相同性を有するアミノ酸配列を含むバレンセンシンターゼをコードし、該アミノ酸は、DDXXDという連続したアミノ酸配列(配列番号3)のコンセンサスモチーフを少なくとも1つ含み、配列中、Xは任意のアミノ酸に対応する。
【0080】
本発明の範囲は、相同体、類似体、変異体、及び誘導体を包含し、これらには、ファルネシルピロリン酸(FPP)をバレンセンに変換するセスキテルペンシンターゼの能力を、これらの変異体及び修正物が保持しなければならないという条件の下に、さらに短いか、若しくはさらに長いポリペプチド、タンパク質、及びポリヌクレオチドと、1つ又は複数のアミノ酸置換又は核酸置換を有するポリペプチド類似体、タンパク質類似体、及びポリヌクレオチド類似体と、当技術分野で知られているアミノ酸若しくは核酸誘導体、非天然のアミノ若しくは核酸、及び合成のアミノ酸若しくは核酸とが含まれることが、明らかに理解されよう。詳細には、活性なポリペプチド又はタンパク質のいかなる活性断片も、そして、伸長物、結合体、及び混合物も、本発明の原理に従って開示する。
【0081】
一実施形態によれば、バレンセンシンターゼは、柑橘類植物種、好ましくはオレンジに由来する。
【0082】
さらに別の態様によれば、本発明は、バレンセンシンターゼをコードする核酸配列を含む発現ベクターを提供し、このバレンセンシンターゼは、FPPをバレンセンに変換することができる。
【0083】
様々なタイプのベクターを本発明の実施に用いることができる。特定のベクタータイプの使用は、発現が望まれている宿主細胞に応じて、当業者に知られている通りに、そして、本明細書における下記に記載の通りに行われる。ベクターは、通常、複製部位、形質転換細胞の表現型選択を提供するマーカー遺伝子、1つ又は複数のプロモーター、及び外来DNAを挿入するためのいくつかの制限部位を含有するポリリンカー領域を有する。例えば、大腸菌(E.coli)の形質転換に通常使用されるプラスミドには、pBR322、pUC18、pUC19、pUC118、pUC119、及びBluescript M13が含まれ、これらすべては、Sambrookら(「分子クローニング:実験室マニュアル(Molecular Cloning: A Laboratory Manual)」、第3版、2001年、Cold Spring Harbor Laboratory Press社)のセクション1.12〜1.20に記載されている。これらのベクターは、アンピシリン耐性、及び/又はテトラサイクリン耐性をコードする遺伝子を含有し、それらは、これらのベクターで形質転換された細胞がこれらの抗生物質の存在下で増殖するのを可能にする。しかし、選択マーカーをコードする異なった遺伝子を保持する、他の多くの適当なベクターも利用可能である。複製配列、調節配列、表現型選択遺伝子、及び注目しているバレンセンシンターゼDNAをコードするDNAを含有する適当なベクターの構築は、標準的な組換えDNA操作法を用いて行う。当技術分野で周知の通りに(例えばSambrookら、同上を参照)、単離されたプラスミド及びDNA断片を特定の順序で切断し、適切な処理を施し、ひとつに連結して所望のベクターを生成する。
【0084】
ベクターの構成要素には通常、シグナル配列、複製開始点、1つ又は複数のマーカー遺伝子、エンハンサーエレメント、プロモーター、及び転写終結配列のうちの1つ又は複数が含まれるが、これらに限定されない。これらのベクターの発現エレメントは、それらの強度及び特異性が相違している。多くの適当な転写エレメント及び翻訳エレメントのうち任意の一つを、使用する宿主及びベクターのシステムに応じて用いることができる。例えば、原核細胞システムにクローニングする場合には、原核細胞ゲノムから単離されたプロモーター(例えば細菌トリプトファンプロモーター)を用いることができる。組換えDNA技術又は合成技術によって生成したプロモーターも、挿入配列の転写を提供するのに使用できる。
【0085】
「シグナル配列」は、ベクターの構成要素である場合もあり、或いは、ベクターに挿入された本発明のタンパク質をコードする核酸の一部である場合もある。シグナル配列は、天然に存在する配列でも、天然には存在しない配列でもよい。シグナル配列は、宿主細胞によって認識され、プロセシングされるものであるべきである。
【0086】
「複製開始点」は、宿主生物の複製開始が行われる特有の部位を指す。
【0087】
クローニングベクター及び発現ベクターは、「選択可能マーカー」又は「選択マーカー」とも呼ばれる選択遺伝子を含むことが望ましい。この遺伝子は、選択培養培地中で培養されている形質転換宿主細胞の生存又は増殖に必要なタンパク質をコードする。選択遺伝子を含有するベクターで形質転換されなかった宿主細胞は、該培養培地中では生き残らないであろう。典型的な選択遺伝子は、抗生物質若しくは他の毒素、例えばアンピシリンに対する耐性を付与するタンパク質、栄養要求性の欠損を補完するタンパク質、又は、複合培地から得ることのできない重要な栄養物を供給するタンパク質をコードする。選択スキームの一例では、宿主細胞の成長を停止させる薬物を利用する。異種遺伝子によって成功裏に形質転換された細胞は、薬剤抵抗性を付与するタンパク質を発現し、それによって選択措置を生き残る。原核細胞の宿主細胞で用いられる発現ベクターは、転写の終止、及びmRNAの安定化に必要な配列を含有するであろう。
【0088】
上記の構成要素のうち1つ又は複数を含有し、かつ、所望のコード配列及び調節配列を含む適当なベクターの構築は、標準的な連結技法を用いて行われる。単離されたプラスミド断片又は核酸断片を切断し、適切な処理を施し、再び連結して必要なプラスミドを生成する。
【0089】
一実施形態によれば、該発現ベクターは、配列番号1又はその相補鎖に対して少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%の相同性を有する核酸配列を含む。
【0090】
別の実施形態によれば、該発現ベクターは、配列番号1又はその相補鎖に対して少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%の相同性を有する核酸配列にハイブリッド形成できる核酸配列を含む。
【0091】
さらに別の実施形態によれば、該発現ベクターは、配列番号2に対して少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%の相同性を有するアミノ酸配列を含むバレンセンシンターゼをコードする核酸を含む。
【0092】
さらに別の実施形態によれば、該発現ベクターは、配列番号2に対して少なくとも80%の相同性を有するアミノ酸配列を含むバレンセンシンターゼをコードする核酸配列を含み、該アミノ酸は、連続したアミノ酸からなるDDXXDという配列(配列番号3)のコンセンサスモチーフを少なくとも1つ含み、配列中、Xは任意のアミノ酸に対応する。
【0093】
本発明は、本発明によるバレンセンシンターゼ及びその酵素活性による生成物の生成、単離、及び精製を行う方法を提供する。
【0094】
さらに別の態様によれば、本発明はさらに、組換え体バレンセンシンターゼを生成する方法を提供し、この方法は、
(a)発現ベクターを含む宿主細胞を培養するステップであって、発現ベクターが、バレンセンシンターゼをコードする核酸配列を含み、バレンセンシンターゼが、前記バレンセンシンターゼの発現に適した条件下でFPPをバレンセンに変換できる、ステップと、任意選択で、
(b)前記バレンセンシンターゼを回収するステップと
を含む。
【0095】
代替の実施形態によれば、ステップ(b)は、
相当量の前記バレンセンシンターゼを回収すること
を含む。
【0096】
別の代替的実施形態によれば、ステップ(b)は、
バレンセンを回収すること
を含む。
【0097】
本発明による宿主細胞の中で生成されたバレンセンは、テルペン生合成経路においてバレンセンシンターゼの下流で活性な、宿主細胞内に存在する酵素によって別の化合物を生成するための基質として用いることができる。本明細書では、そのような化合物を「バレンセン代謝産物」と名付ける。
【0098】
別の実施形態によれば、ステップ(b)は、
少なくとも1つのバレンセン代謝産物を回収すること
を含む。
【0099】
好ましい実施形態によれば、該少なくとも1つのバレセン代謝産物がヌートカトンである。
【0100】
さらに別の実施形態によれば、宿主細胞が、原核細胞又は真核細胞である。
【0101】
さらに別の実施形態によれば、宿主細胞が原核細胞であり、バレンセンシンターゼをコードする核酸配列を含むポリヌクレオチド配列がゲノム中に安定に組み込まれている。好ましい実施形態によれば、原核細胞は、細菌細胞、好ましくは大腸菌(E.coli)である。さらに別の実施形態によれば、宿主細胞は、バレンセン、ヌートカトン以外のバレンセン代謝産物、及びヌートカトンからなる群から選択された少なくとも1つの化合物を生成する。
【0102】
さらに別の実施形態によれば、該ポリヌクレオチド配列は、配列番号1又はその相補鎖に対して少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%の相同性を有する核酸配列を含む。
【0103】
別の実施形態によれば、該ポリヌクレオチド配列は、配列番号1又はその相補鎖に対して少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%の相同性を有する核酸配列にハイブリッド形成できる核酸配列を含む。
【0104】
さらに別の実施形態によれば、該ポリヌクレオチド配列は、配列番号2に対して少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%の相同性を有するアミノ酸配列を含むバレンセンシンターゼをコードする核酸を含む。
【0105】
さらに別の実施形態によれば、該ポリヌクレオチド配列は、配列番号2に対して少なくとも80%の相同性を有するアミノ酸配列を含むバレンセンシンターゼをコードする核酸配列を含み、該アミノ酸配列は、連続したアミノ酸からなるDDXXDという配列(配列番号3)のコンセンサスモチーフを少なくとも1つ含み、配列中、Xは任意のアミノ酸に対応する。
【0106】
Cstps1 cDNAクローンの推定上の完全長アミノ酸配列(配列番号2、図2)は、最もよく保存されている金属イオン結合モチーフDDXXD(配列番号3)を含めた、モノテルペンシンターゼ及びセスキテルペンシンターゼに特徴的な保存エレメントを示した。保存配列エレメントは、四角で囲み、モノテルペンシンターゼ及びセスキテルペンシンターゼに共通して保存されているモチーフDDxxD(配列番号3)は、星印でアンダーラインした。
【0107】
Cstps1は、被子植物のセスキテルペンシンターゼに対して最も類似性が高く、柑橘類のβ−ファルネセンシンターゼに対して最も高いレベルの類似性(61%)を示し(Maruyamaら、Biol Pharm Bull、2001年、24(10):1171−5)、それにワタのδ−カジネンシンターゼ(50%類似性)(Chenら、Arch. Biochem. Biophys、1995年、324:255−266)が続く。
【0108】
柑橘類バレンセンシンターゼCstps1の推定アミノ酸配列は、系統学的には、被子植物セスキテルペンシンターゼのグループに属し(図3)、これは、被子植物及び裸子植物のモノテルペンシンターゼ、セスキテルペンシンターゼ、及びジテルペンシンターゼの無根系統分析で得られた5つの明確なグループのうちの1つであった(BioEdit及びTreeviewソフトウェア、それぞれ、Hall、Nucl. Acids. Symp. Ser、1999年、41:95−98;及びPage、Comput Appl Biosci、1996年、12(4):357−8)。被子植物セスキテルペングループの中では、バレンセンシンターゼ(Cstps1)と、柑橘類ファルネセンシンターゼ(Maruyamaら、同上)と、本発明の発明者によって開示された、柑橘類の花から単離された別のセスキテルペンシンターゼ遺伝子(Cmtps1)とが、明確な柑橘類サブグループを形成した。
【0109】
天然のバレンセンシンターゼアミノ酸配列に加えて、欠失、置換、変異、及び/又は挿入によって生成された配列変異体も、本発明の範囲内にあることが意図されている。本発明のバレンセンシンターゼアミノ酸配列変異体は、通常、部位特異的変異導入と呼ばれる技法などを用いることによって、野生型シンターゼをコードするDNA配列に変異導入することによって構築することもできる。当業者に周知の様々なPCR技術によって、本発明のバレンセンシンターゼをコードする核酸分子に変異導入することができる。例えば、「PCRストラテジー(PCR Strategies)」、M.A.Innisら編集、1995年、Academic Press社、San Diego,Calif(第14章);及び「PCRプロトコール:方法及び応用のためのガイド(PCR Protocols:A Guide to Methods and Applications)」、M.A.Innis、D.H.Gelfand、J.J.Sninsky、及びT.J.White編集、Academic Press社、NY(1990年)を参照のこと。
【0110】
非限定的な例として、Clonetech社製のTransformer部位特異的変異導入キットで用いられている2プライマーシステムを、本発明のバレンセンシンターゼ遺伝子に部位特異的変異導入するのに用いることができる。このシステムにおける標的プラスミドの変性に続いて、2種類のプライマーをプラスミドに同時にアニールさせるが、これらのプライマーのうち1つは、所望の部位特異的変異を含有し、もう1つは、プラスミド中の別位置における変異を含有し、制限部位の除去をもたらす。次に、第2鎖合成を行い、それによってこれらの2つの変異が密接に連結され、そして、この結果得られたプラスミドで、大腸菌(E.coli)のmutS株を形質転換する。形質転換された細菌からプラスミドDNAを単離し、適当な制限酵素で制限を行い(それによって、変異していないプラスミドを線状化する)、その後、大腸菌(E.coli)に再導入して形質転換を行う。このシステムは、発現プラスミドに直接的に変異導入するのを可能にし、一本鎖ファージミドの追加又は生成を必要としない。2つの変異を密接に連結させ、それに続いて、変異していないプラスミドを線状化することによって、変異の効率が高くなり、スクリーニングを最小限に抑えることが可能となる。最初の制限部位プライマーを合成した後では、この方法で使用する必要がある新規プライマーは、変異部位1箇所あたり1種類のみである。部位特異的変異体をそれぞれ別々に調製する代わりに、所与の部位に望ましい変異のすべてを同時に導入するために、1セットの「設計された縮重」オリゴヌクレオチドプライマーを合成することもできる。形質転換体は、変異導入した領域全体にわたってプラスミドDNAの配列決定を行うことによってスクリーニングすることができ、それによって変異体クローンの同定及び選別を行う。その後、他の改変が該配列中に生じていないことを確認するために、各変異DNAの制限及び分析を行うことができる(例えば、変異していない対照とのバンドシフト比較によって)。
【0111】
ある特定の部位特異的変異の設計においては、通常、最初に非保存的な置換(例えば、Cys、His、Gluの代わりにAla)を導入して、その結果として活性が大きく損なわれたかどうか判定することが望ましい。その後、機能の変化に対する敏感な指標として、動態パラメーターであるK及びkcatに特に注意して、変異導入されたタンパク質の特性を検査する。K及びkcatから、それらを天然の酵素と比較することによって、結合及び/又は触媒それ自体における変化を推定することができる。その残基が活性の欠損又はノックアウトに重要であることが明らかになれば、次に、側鎖長を改変するGluからAspへの置換、CysからSerへの置換、又はHisからArgへの置換など、保存的置換を導入することができる。疎水性セグメントに関しては、芳香族をアルキル側鎖で置換することもできるが、一般的には、大きさの改変が有効である。正常な生成物の分布に変化が生じた場合、それは、逐次的反応におけるどのステップが変異によって改変されたかを示すものでありうる。基質に対する結合立体配座を変化させるには、疎水性ポケットの改変を利用することができる。
【0112】
本発明のヌクレオチド配列には、他の部位特異的変異技法も利用することができる。例えば、Sambrookら(同上)のセクション15.3に記載の通り、DNAを制限エンドヌクレアーゼ消化して、それに続いて連結を行うのも、バレンセンシンターゼの欠損変異体を生成するのに使用できる。Sambrookら(同上)のセクション15.3に記載の通り、挿入変異体を構築するのに類似のストラテジーを用いることもできる。
【0113】
本発明の置換変異体を調製するには、オリゴヌクレオチド特異的な変異導入を用いることもできる。これは、本発明の欠失変異体及び挿入変異体の調製にも好都合に使用することができる。この技法は当技術分野で周知であり、例えば、Adelmanら(DNA2:183、1983年);及びSambrookら(同上)によって記述されている。
【0114】
本発明のバレンセンシンターゼをコードする核酸分子において2ヌクレオチド以上を挿入、除去、又は置換するには、通常、少なくとも25ヌクレオチドの長さのオリゴヌクレオチドを用いる。最適なオリゴヌクレオチドは、変異をコードするヌクレオチドのいずれの側にも、完全一致した12から15ヌクレオチドを有するであろう。本発明の天然バレンセンシンターゼをコードする核酸に変異導入するには、適当なハイブリダイゼーション条件下で該オリゴヌクレオチドを一本鎖DNA鋳型分子にアニールさせる。その後、DNA重合酵素、通常は大腸菌(E.coli)DNAポリメラーゼIのクレノウ断片を添加する。この酵素は、該オリゴヌクレオチドをプライマーとして用いて、DNAの変異保有鎖の合成を完遂する。そのようにして、DNAの一方の鎖がベクターに挿入された天然のシンターゼをコードし、そして、DNAの第2の鎖が同じベクターに挿入された変異型のシンターゼをコードするヘテロ二重鎖分子が形成される。次に、このヘテロ二重鎖分子を適当な宿主細胞内に導入して形質転換を行う。
【0115】
複数のアミノ酸で置換された変異体は、いくつかある方法のうちの1つで生成することができる。それらのアミノ酸がポリペプチド鎖中で共に近接して位置している場合、所望のアミノ酸置換すべてをコードする1つのオリゴヌクレオチドを用いることによって、それらを同時に変異させることができる。しかし、それらのアミノ酸が互いからある程度離れて位置している(例えば10アミノ酸を超えて離れている)場合には、所望の変化すべてをコードする単一のオリゴヌクレオチドを生成することが、より困難となる。その代わり、2つの代替方法のうち1つを利用することができる。第1の方法では、置換されるアミノ酸のそれぞれに対して別々のオリゴヌクレオチドを生成させる。その後、該オリゴヌクレオチドを一本鎖の鋳型DNAに同時にアニールさせれば、鋳型から合成された第2のDNA鎖は、所望のアミノ酸置換をすべてコードするであろう。これに対する代替方法の1つでは、所望の変異体を生成するのに2ラウンド以上の変異生成を行う。第1ラウンドは、単一の変異体に関して記載した通りであり、天然のバレンセンシンターゼDNAを鋳型に用い、所望のアミノ酸置換のうち第1のものをコードするオリゴヌクレオチドをこの鋳型にアニールさせ、その後、ヘテロ二重鎖DNA分子を生成させる。第2ラウンドの変異生成は、第1ラウンドの変異生成で生成された変異型DNAを鋳型として用いる。したがって、この鋳型は既に1つ又は複数の変異を含有している。その後、追加される所望のアミノ酸置換をコードするオリゴヌクレオチドをこの鋳型にアニールさせれば、その結果得られるDNA鎖は、この時点で、第1ラウンド及び第2ラウンドの変異生成の両方による変異をコードしている。この変異型DNAは、次に、第3ラウンドの変異生成における鋳型として用いることができ、そして以下同様である。
【0116】
現在において好ましい一実施形態によれば、本発明のバレンセンシンターゼは、柑橘類植物種由来のもの、詳細にはオレンジ由来のもの、任意選択でバレンシア(商標)オレンジ由来のものである。
【0117】
バレンシア(商標)オレンジ(シトラス シネンシス(アマダイダイ)のバレンシア栽培品種(Citrus sinensis cv. Valencia))は、商業的な収穫がイスラエルで4月に開始される、オレンジの晩熟スペイン品種である。バレンシア(商標)オレンジの発育及び成熟過程における、バレンセンの蓄積を分析した(図4)。そのために、2003年のシーズン(図4A)又は2001年のシーズン(図4B)に一ヶ月間隔で、バレンシア(商標)オレンジ果実の収穫を行った。2003年には、全RNAを果実のフラベドから抽出し、Cstps1特異的プライマーを用いた定量的RT−PCR分析に供した(図4A)。結果は、18SリボソームRNA参照遺伝子の増幅を参照にして提示する。
【0118】
2001年には、全RNAを果実のフラベドから抽出し、Cstps1プローブを用いてRNAブロット解析に供した。リボソームRNAは、エチジウムブロマイド蛍光によって可視化し、RNAブロット解析のローディング参照として用いる(図4B)。
【0119】
バレンセンの小さいピークが、10月中に採取された果実で観測された。しかし、有意なレベルのバレンセンは、1月(果実の色割れの約1〜2カ月後)に検出され始め、果実が完全に成熟する(5月)まで蓄積され続ける。定量的RT−PCR及びRNAブロット法を用いて、バレンシア(商標)オレンジにおけるCstps1転写生成物のレベルを、果実の発育及び成熟過程を通して測定した。Cstps1転写生成物は、12月に検出され始め(両方の検出システムで)(図4A〜B)、果実の成熟に向けて蓄積され続けており、したがって、バレンセン蓄積のタイミングとよく一致している。
【0120】
柑橘類は非クリマクテリック果実として分類されるが、柑橘類果実の成熟の様々な局面にエチレンが関連付けられている。したがって、3月中に採取され、7日間のエチレン処理を受けたバレンシア(商標)オレンジ果実におけるバレンセンの蓄積をモニターした。エチレン処理を受けた果実は、空気処理の果実で測定されたレベルより、20%増しを超えたレベルまでバレンセンを蓄積した(図5A)。これと相関して、48時間のエチレン処理を受けた果実では、空気処理の果実と比較して、Cstps1の発現が8倍を超えて増大していることが定量的RT−PCR分析によって示された(図5B)。
【0121】
バレンセンシンターゼをコードする遺伝子は、テルペンを合成することのできるいかなる生物にも、それに由来した細胞培養にも組み入れることができる。
【0122】
バレンセンをコードする遺伝子は、限定されるものではないが、バレンセンシンターゼの生成、バレンセンの生成、バレンセンの下流生成物の生成、及び風味化合物及び芳香化合物の生成又は改変を含めた様々な目的で生物中に組み込むことができる。
【0123】
さらに別の態様によれば、本発明は、バレンセンシンターゼをコードする核酸配列を含む発現ベクターを含む宿主細胞を提供し、このバレンセンシンターゼはFPPをバレンセンに変換できる。
【0124】
宿主細胞は、上記の本発明の発現ベクター又はクローニングベクターで形質移入、好ましくは形質転換し、プロモーターの誘導、形質転換体の選択、又は所望の配列をコードする遺伝子の増幅に適するように改変された従来の栄養培地中で培養する。
【0125】
本発明による発現ベクターを用いた宿主細胞の形質転換は、外来核酸配列を原核又は真核の宿主細胞に導入するための、いかなる既知の方法を用いて行ってもよい。この形質転換過程の結果として、挿入されたDNAの発現が起こり、それによって、形質転換された遺伝子改変細胞、すなわちトランスジェニック細胞への受容細胞の変化などが起こる。
【0126】
バレンセンシンターゼ及びその生成物であるバレンセン、並びにテルペン生合成経路における下流のバレンセン代謝産物を生成するには、原核細胞の発現系を用いることも、真核細胞の発現系を用いることもできる。両方の発現系とも、酵素の適切な活性を可能にする翻訳後修飾に必要なエレメントを含み、同様に、バレンセン合成に必要な基質、及び下流のバレンセン代謝産物を合成するための酵素も含む。
【0127】
当業者に知られている通り、大腸菌(E.coli)株、並びに、枯草菌(Bacillus subtilis)などの桿菌、ネズミチフス菌(Salmonella typhimurium)又は霊菌(Serratia marcesans)などの他の腸内細菌科、及び様々なシュードモナス属(Pseudomonas)諸種を含めた他の多くの種及び属の原核生物を含めた多くの菌株が、本発明によるセスキテルペンシンターゼを過剰発現するための宿主細胞として適当である。原核細胞の宿主細胞、又は堅い細胞壁を有する他の宿主細胞は、Sambrookら(同上)のセクション1.82に記載されている通り、塩化カルシウム法を用いて形質転換することが好ましい。別法として、これらの細胞の形質転換にエレクトロポレーションを用いることもできる。原核生物の形質転換技法は当技術分野で周知であり、例えば、「遺伝子操作、その原理と方法(Genetic Engineering, Principles and Methods」における、Dower,W.J.、12:275−296、Plenum Publishing Corp.社、1990年;及びHanahanら、Meth. Enzymol.、204:63、1991年に記載されている。
【0128】
Cstps1によってコードされているリーディングフレームは主として植物セスキテルペンシンターゼに類似しており、それらは細胞質に含まれており、外見上、輸送ペプチドをコードする配列は存在しない(Target Pソフトウェア:Emanuelssonら、J. Mol. Biol.、2000年、300:1005−1016によって予測)ので、細菌中で触媒活性を有する組換え体酵素を得るために、Cstps1のリーディングフレーム全体を発現ベクターにクローニングした。
【0129】
可溶性かつ機能性の酵素を得る見通しを向上させるため、以下に示す、組換え体酵素を産生させるための2つのシステムを利用した。(1)発現ベクターpRSETb(Invitrogen社、オランダ)を用いて、アミノ末端ヒスチジンタグを含有するほぼ自然な状態の組換え体タンパク質の生成を行ったところ、64KDaの組換え体産物が得られた。(2)発現ベクターpTYB2(New England Biolabs社、MA、米国)を用いて、大きな融合タンパク質(55kDaのインテイン−CBDとの融合タンパク質)の一部として生成を行ったところ、120kDaの組換え体産物が得られた。相当量の可溶性かつ酵素的に活性な遺伝子生成物を得るための条件を検討し、決定した。組換え体Cstps1(両方のコンストラクトから得た組換え体)を過剰発現した細菌から調製され、さらにMg2+を補足された溶菌物は、本明細書中の下記(図2)に例示する通り、放射性標識されたFPPをヘキサン可溶性生成物に変換することが判明した。Cstps1挿入配列をもたない発現プラスミドを保持する細菌から得られた細菌溶菌物中には、そのような生成物は得られなかった。
【0130】
したがって、本発明は、Cstps1遺伝子生成物の活性による、放射性標識されたFPPから、推定上のセスキテルペンオレフィンへの変換を開示する。同様の調製物は、ゲラニル二リン酸(GPP)をモノテルペンオレフィンに変換することができなかった(図6)。
【0131】
本明細書において下記に詳述するように、組換え体酵素の活性による生成物を、そのような生成物の分析化学を可能にするのに十分な量生成させるために、放射性標識されていないFPP基質を使用する、スケールアップされたin−vitroアッセイを用いた。Cstps1遺伝子をもたない細菌の抽出物を用いて行った対照アッセイと比較して、組換え体Cstps1を産生する細菌の抽出物を用いて行ったアッセイでは、それに特有のセスキテルペンピークが検出された(図7A及び7C)。このピークを質量スペクトロメトリーによって分析し、(1)該ピークの保持時間とバレンセンの保持時間との比較によって(図7A〜B);そして、(2)得られた質量スペクトルと、質量スペクトル内部ライブラリーから得られたバレンセンのスペクトルとの比較、及び本発明のアッセイによって得られたバレンセンのスペクトルとの比較によって(図7D〜F)、バレンセンとして同定した。したがって、バレンセンは、組換え体Cstps1によってFPPから生成された唯一の生成物である。したがって、本発明は、Cstps1によってコードされている酵素がバレンセンシンターゼであることを開示する。
【0132】
バレンセンは、オレンジ/木材/柑橘類として特徴付けられるにおいを発し、柑橘類精油における低濃度ではあるが重要な生成物の1つである。食品産業及び化粧品産業にとって、バレンセンは、それ自体で、そして、支配的なグレープフルーツ/柑橘類芳香を発する物質であるヌートカトンを合成するための基質として関心の深いものである。バレンセンからヌートカトンへの酸素添加は、これらの産業においては単純な化学変換であり、柑橘果実中では、ヒドロキシル化と、それに続く脱水素とを介して起こることが示唆されているが(del Rioら、J. Agric. Food Chem.、1992年、40:1488−1490)、in−plantaにおけるこの経路の直接的証拠は得られていない。バレンシアオレンジでは、果実成熟過程を通して継続的にバレンセンが蓄積し(図8)、一方、グレープフルーツでは、推定上の下流化合物(2−ヒドロキシバレンセン、及びそれに続くヌートカトン:del Rioら、1992年、同上)の出現と同時に蓄積が停止するという観察は、オレンジではバレンセンが最終生成物であり、グレープフルーツでは、そうではないということと一致している。
【0133】
さらに別の態様によれば、本発明は、バレンセンシンターゼをコードするポリヌクレオチド配列を含む植物を提供し、このバレンセンシンターゼは、FPPをバレンセンに変換することができる。
【0134】
一実施形態によれば、バレンセンシンターゼをコードするポリヌクレオチド配列が、該植物のゲノム中に安定に組み込まれている。
【0135】
別の実施形態によれば、該植物は、バレンセン、ヌートカトン以外のバレンセン代謝産物、及びヌートカトンからなる群から選択された少なくとも1つの化合物を生成する。
【0136】
本発明によるバレンセンシンターゼを含むトランスジェニック植物は、例えば、植物での発現に必要な調節エレメントと、選択可能マーカー遺伝子、例えばカナマイシンに対する耐性をコードするkan遺伝子とを含むバレンセンシンターゼをコードするプラスミドを、ヘルパーTiプラスミドを含有するアグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)の中に導入することによって得ることができる。この形質転換は、当技術分野で知られている操作法を用いて、例えば、欧州特許第116718号に開示されている通りに行うことができる。
【0137】
別法では、植物細胞を形質転換するのに任意のタイプのベクターを用いることができ、直接遺伝子導入(例えばマイクロインジェクション又はエレクトロポレーションによる)、花粉媒介形質転換(例えば、欧州特許第270356号、国際公開第085/01856号、及び米国特許第4684611号に記載の通り)、植物RNAウイルス媒介形質転換(例えば欧州特許第067553号及び米国特許第4407956号に記載の通り)、リポソーム媒介形質転換(例えば米国特許第4536475号に記載の通り)、及び同様のものなどの方法を適用する。
【0138】
微粒子銃などの他の方法も適当である。主要穀類などの単子葉植物の細胞は、国際特許出願公開第92/09696号に記載の通り、緊密胚形成カルス(compact embryogenic callus)を形成することができる創傷及び/又は酵素分解された緊密胚形成組織、或いは創傷及び/又は分解された未熟胚を用いて形質転換することができる。この結果得られた形質転換植物細胞は、その後、従来の方法で形質転換植物を再生させるのに用いることができる。
【0139】
得られた形質転換植物は、同じ特徴を有するさらに多くの形質転換植物を生成するために、或いは、同一植物種若しくは近縁の植物種の他の品種、又はハイブリッド植物にバレンセンシンターゼを導入するために、従来の育種スキームにおいて使用することができる。形質転換植物から得られた種子は、安定したゲノム挿入配列としてバレンセンシンターゼを含有する。形質転換植物から得られたそれらの種子、果実、根、及び他の器官、又はそれらの単離された器官は、安定したゲノム挿入配列として本発明のキメラ遺伝子を含有し、これらも本発明によって包含される。
【0140】
ブドウの花がバレンセンを発することが報告されており、この化合物がセロリ(Apium graveolens)、マンゴー(Mangifera indica)、オリーブ(Olea europea)、そしてサンゴにさえ低量検出されているが、バレンセンは主として柑橘果実に付随している。バレンセンシンターゼをコードする他の遺伝子は、他のいかなる属に由来するものも知られていない。
【0141】
本発明は、バレンセンシンターゼをコードする遺伝子を初めて開示するものである。この新規のバレンセンシンターゼは、ミカン属の中で進化した可能性が最も高い。本明細書において上述した通り、セスキテルペンシンターゼをコードする他の2つの柑橘類遺伝子は、公表されている他のセスキテルペンシンターゼのいずれよりも、バレンセンシンターゼに対する類似性が高いことが判明した。したがって、他の属に関して以前に指摘されているように、セスキテルペンシンターゼの多様性の多くは、種分化の後に柑橘類で進行したと推測することができる。
【0142】
さらに別の態様によれば、本発明は、セスキテルペン生合成経路の下流で生成され、本発明の方法によって、産業で使用するために得られたバレンセン及びバレンセン代謝産物を提供する。
【0143】
一実施形態によれば、本発明は、農業、化粧品、及び食品から選択された産業応用における、本発明の方法で得られたバレンセン及び少なくとも1つのバレンセン代謝産物の使用を提供する。
【0144】
別の実施形態によれば、該少なくとも1つのバレセン代謝産物がヌートカトンである。
【0145】
本発明の原理は、新規のセスキテルペンシンターゼ、それをコードするポリヌクレオチド、生成する方法、及び使用する方法を開示するものであるが、非限定的な以下の実施例を参照することにより、さらに良く理解されよう。
【実施例】
【0146】
(植物材料)
シトラス シネンシス(アマダイダイ)・バレンシア栽培品種(Citrus sinensis cv. Valencia)の果実は、Eliezer Goldschmidt教授の提供で、RehovotのHebrew大学農学部果樹園から採取した。生育によるバレンセンの蓄積及び遺伝子発現の分析に用いた果実は、1ヶ月間隔で採取した。フラベド組織を単離して、使用するまで−80℃で凍結した。エチレンに対する反応を測定するのに使用した果実は、収穫の後でエチレン(14μl/l)又は空気で48時間若しくは7日間処理し;フラベド組織を単離して、使用するまで−80℃で凍結した。
【0147】
(RNAの抽出及び分析)
全RNAは、以前に記載されている(Jacob−Wilkら、Plant J.、1999年、20(6):653−61)通りに、オレンジのフラベドから抽出した。RT−PCRに適用するために、PolyAtract(登録商標)mRNA単離システムIII(Promega社、WI、米国)によってポリA RNAを精製した。全RNA(1レーン当たり20μg)を用い、標準的方法(Sambrookら、同上)に従ってノーザン分析を行った。リボソームRNAをローディング参照として用い、エチジウムブロマイド染色によって可視化した。
【0148】
ABI Prism 7000配列検出システム及びSyberGreenキット(Applied Biosystems社、Warrington、英国)を、製造業者の指示に従って使用して、定量的PCRを行った。各試料から得た5μgの全RNAを、反応体積20μlで、製造業者の指示に従ってMMLV逆転写酵素(Gibco−BRL社、MD、米国)を使用して逆転写させた。定量的PCR反応液は、最終容積20μlに、10μlのマスター混合物(Applied Biosystems社、Warrington、英国)、3μlのアンプリコンプライマー(2μM)、及び1μlの逆転写反応液(18SリボソームRNA参照遺伝子の場合は、逆転写反応液を10倍に希釈した)から成っていた。
【0149】
次のプライマーを用いたCstps1のアンプリコンは、150bpから成っていた。
【化1】


次のプライマーを用いた18SリボソームRNA参照遺伝子のアンプリコンは、150bpから成っていた。
【化2】

【0150】
各試料をトリプリケートで分析し、結果は正規化された平均及び標準偏差を表す。
【0151】
(実施例1:cDNA Cstps1の単離)
バレンシア(商標)オレンジのフラベドから得たポリA RNA(500ng)を、Superscript(商標)II逆転写酵素(BRL Life Technologies社、英国)と、10ピコモルの改変オリゴ−(dT)プライマー(5’CGGCTAGCATGCTTTTTTTTTTTTTTT、配列番号10)とを用いて逆転写した。様々なモノテルペンシンターゼ及びセスキテルペンシンターゼで保存されている配列エレメントに一致する2種類の縮重プライマーを用いてPCRを行った。
【化3】

【0152】
予測されている110bpのバンドを増大させる条件を検討して、決定し(94℃で20秒間;44℃で20秒間;72℃で20秒間を40増幅サイクル)、このバンドを精製して、pGEM−Tプラスミド(Promega社、WI、米国)にクローニングした。配列中のテルペンシンターゼ内部保存エレメントの存在に基づいて、適切なクローンを選択した。
【0153】
5’及び3’のRACE法(cDNA末端の迅速増幅(rapid amplification of cDNA ends))によって完全なcDNAを単離するために、1つのクローンを選択した。このクローンから得た配列情報を用いて、各方向でのRACEあたり1つ、すなわち、2つの遺伝子特異的プライマーを設計した。
【化4】

【0154】
ほとんど熟しているバレンシアオレンジのフラベドのcDNAライブラリーから抽出されたDNAを用い、遺伝子特異的プライマー1つ(上述)と、ユニバーサルプライマー1つ(5’RACE用にはT3、そして3’RACE用にはT7)とを使用して、cDNAの5’セグメント及び3’セグメントの増幅を行った(Jacob−Wilkら、同上)。完全長のcDNAは、Cstps1と名付けられ、図1に記載の通り1647ヌクレオチドを含む。
【0155】
(実施例2:大腸菌における組換え体Cstps1のクローニング)
Cstps1のリーディングフレーム全体を、EXTAQ(商標)ポリメラーゼ(タカラバイオ株式会社、日本)を使用したPCRによってcDNAライブラリーから増幅し、適切な制限部位で消化し、発現ベクターpTYB2(New England Biolabs社、MA、米国)及びpRSET(Invitrogen社、オランダ)にクローニングした。pTYB2のNdeI及びSmaI制限部位にクローニングするのに、次のプライマーを用いてPCR増幅を行った。
【化5】

【0156】
pRSETのNheI及びSalI制限部位にクローニングするのに、次のプライマーを用いてPCR増幅を行った。
【化6】

【0157】
pTYB2コンストラクトは、大腸菌(E.coli)ER2566(New England Biolabs社、MA、米国)中で、製造会社の指示に従って、誘導の後6時間、25℃で発現させた。pRSETコンストラクトは、大腸菌(E.coli)BL21(DE3)LysE(Invitrogen社、オランダ)中で、製造会社の指示に従って、誘導の後6時間、25℃で発現させた。細菌細胞を試料緩衝液中で溶菌し、SDS−PAGE(Laemmli、Nature、1970年、227(259):680−5)に供するか、或いは凍結させて、使用するまで−20℃で保存した。
【0158】
(実施例3:Cstps1活性によって生じた生成物の同定及び分析)
(細菌の増殖及びCstsp1発現のための誘導)
組換え体BL21(D3)pLysS細菌を、50μg/mlアンピシリン及び34μg/mlクロラムフェニコールを含有するLB寒天上にプレーティングした。組換え体細菌は、空のプラスミド(対照)、若しくはCstsp1遺伝子(アッセイ)を含むプラスミドのいずれかを含有していた。個々のコロニーを、50μg/mlアンピシリンを含有する2mlのLB液体培地中で終夜、培養し、開始培養物として用いた。500μlの細菌細胞懸濁液を、アンピシリンを含有する50mlのLB液体培地中に移し、OD600が0.6に達するまで振盪(200rpm)させながら37℃で培養した。そして、IPTGを最終濃度0.3mMになるように添加し、この培養物をさらに5時間、室温で生育した。2mlポリプロピレンチューブに、1.5mlアリコートを移した。4℃、20000gで10分間、遠心することによって、細胞を採取し、使用するまで−20℃に凍結させた。
【0159】
(細菌溶菌物の調製)
個々の細菌ペレットを、10%v/vグリセロール、10mM DTT、及び5mMメタ重亜硫酸ナトリウムを含有する50mMビス−トリス緩衝液pH6.9(反応緩衝液)、500μlに懸濁した。10μg/mlニワトリ卵白塩化リゾチーム(グレードVI、Sigma社、60000u/mgタンパク質)を添加した。試料を激しく撹拌し、氷水(4℃)中で、15分間、インキュベートした。細胞を溶解させた後、懸濁液を遠心した(4℃、20000gで10分間)。酵素活性の特性分析は、新鮮な上清を用いて、遺伝子生成物を検査することによって行った。
【0160】
(放射性(マイクロ)アッセイ)
組換え体酵素を含有する溶解物のアリコート(10から40μl)を、10mM MgCl、及びセスキテルペンシンターゼ活性試験用のH−FPP(比活性20.5Ci/mmole、Sigma社)又はモノテルペンシンターゼ活性試験用のH−GPP(比活性15Ci/mmole、ARC社)のいずれか0.015μCiと混合し、反応緩衝液で全容積を100μlとした。この反応液に1mlのヘキサンを上層し、短時間ボルテックスし、遠心して、その後、30℃で1から2時間インキュベートした。その後、試料をボルテックスし、遠心し、そして、上層のヘキサン850μlを、10から50mgのSilica Gel 60(Merck社、Darmstaad、独国)を含有する新しいチューブに移した。これらのチューブをボルテックスして、室温、10000gで、1分間、遠心し、600μlを、3mlのシンチレーション液[2,5フェニルオキサゾール(PPO、4g/l)、2,2−p−フェニレン−ビス5−フェニルオキサゾール(POPOP、0.05g/l)、及び30%(v/v)トリトンを含むトルエン]を含有している5mlシンチレーションチューブに移した。放射活性は液体シンチレーションカウンター(Kontron社製モデル810)を用いて定量化した。酵素活性は、基質の比活性に基づき、シンチレーション機械の計数効率に関する適切な修正係数を用いて計算した(Shalitら、J Agric Food Chem.、2001年、49(2):794−9)。Cstps1遺伝子を発現する組換え体細菌から得られた溶解物は、FDPをヘキサン可溶性の生成物に変換することが判明し、この生成物は、使用された実験条件下ではシリカゲルに結合しなかった(図2)。Cstps1挿入配列をもたない発現プラスミドを保持する細菌から得られた対照溶解物からは、そのような生成物が得られなかった。この結果は、放射性標識されたFPPが、推定上のセスキテルペンオレフィンに変換されることを示した。
【0161】
(Cstsp1活性による生成物のスケールアップ生成)
放射性アッセイを、アルミホイルでふたをしたガラス管内でスケールアップさせた。1μMの非放射性ファルネル二リン酸(Sigma社、MO、米国)、10mM MgCl、及び400μlの細菌溶菌物を全容積2mlの反応緩衝液中に混合し、2mlのヘキサンを上層し、30℃で終夜、インキュベートした。各チューブを振盪させ、2mlのヘキサンで繰り返し抽出する(3から5回)。in vitroで生成されたセスキテルペンを含有するヘキサン層をプールし、シリカゲルで満たした短いパスツールピペットを通過させ、硫酸ナトリウムで乾燥させて、Turbo Vac II(Zymark社、MA、米国))で、最終容積400μlに濃縮した。
【0162】
GC‐MS分析:上記の通りに得られた揮発性化合物を、HP−5(30m X 0.25mm)溶融シリカ毛細管カラムを備えたHP−GCD装置で分析した。展開ガスとしてヘリウム(1ml/分)を用いた。注入器の温度は250℃であり、スプリットレス注入に設定した。オーブンを70℃、2分間に設定し、温度を4℃/分の割合で200℃まで高め、6分間の保持を設定した。検出器の温度は280℃であった。質量範囲は、70eVの電子エネルギーで45から450m/zまで記録した。バレンセンの同定は、質量スペクトルの比較、並びに、柑橘類試料(トマトに関して、Lewinsohnら、Plant Physiol.、2001年、127:1256−1265に記載されている通りに抽出した)で知られているバレンセンの保持時間データ、及びバレンセン(Frutarom、イスラエル)のデータとの比較によって、そしてワイリーGC‐MSライブラリーデータベースに保存されているデータを補足して行う。図7に示す通り、組換え体細菌の溶菌物から得られた抽出物では、1つのピークのみが観測されており、生成された、ヘキサン可溶性かつ検出可能な生成物はただ1つであったことを示す。このピークを、市販されている精製バレンセンで得られたピークと比較し、さらに、ライブラリーデータベースと比較したところ、Cstps1活性による生成物は、バレンセンであると同定された。したがって、本発明のCstps1ポリペプチドをバレンセンシンターゼと名付けた。
【0163】
(実施例4:配列分析及び進化系統樹ソフトウェアツール)
一般的な配列データ操作及び相同性検索は、CuraTools(商標)を組み込んだ生命情報学ツール(Curagen社、CT、米国)を用いて行った。輸送ペプチド分析は、Target P(Emanuelssonら、2000年、同上)によって行った。進化系統樹は、以下のソフトウェア、すなわち、BioEdit(商標)(Hall、1999年、同上)及びTreeview(Page、同上)を用いて得た。使用した配列のアクセッション番号は次の通りである。
【化7】


図3に提示する通り、柑橘類セスキテルペンシンターゼ(進化系統樹における番号10、11、及び12)は、既知の被子植物セスキテルペンシンターゼにおける明確なサブグループを形成する。進化系統樹を得るには、アライメント及び進化系統樹プログラムである、BioEdit(Hall、1999年、同上)及びTreeView(Page、同上)を用いた。
【0164】
(実施例5:Cstps1遺伝子を用いたカボチャでのバレンセン生成)
柑橘類バレンセンシンターゼをコードするcDNA Cstps1(Sharon−Asaら、同上)を、ZYMVベースのウイルス発現ベクターに、ウイルスのポリプロテイン配列とインフレームになるようにクローニングした。カボチャの子葉を感染させるのに、挿入配列無し(AG)、又はCstps1挿入配列を含有する(AG−Cstps1)ウイルスベクターを用いた。典型的な感染症候の外見と、ELISA分析による確認とに従って、ウイルスベクターに感染した植物の葉(各植物の3番目、4番目、及び5番目の本葉)の採取を、感染後、約18日目に行った。対応する年齢の野生型植物の葉を採取した。他の植物組織(Sharon−Asaら、同上)に関する以前の記載に従って、すべての葉から揮発性物質を抽出し、GC‐MSを用いてバレンセンの存在を分析した。
【0165】
感染していないカボチャ植物、及び「空」のウイルスベクターに感染した植物(AG)は、セスキテルペンであるバレンセンを蓄積しなかった。バレンセンは柑橘類では一般的であるが、カボチャ属(cucurbits)では全く記録されていない。柑橘類バレンセンシンターゼ(AG−Cstps1)を含有するウイルスベクターに感染した植物類のみが、セスキテルペンであるバレンセンを蓄積することが判明した(表1)。
【表1】

【0166】
特定の実施形態に関する以上の記述は、本発明の一般的な性質をかくも完全に明らかにするであろうから、他の者も、現在の知識を適用することによって、過度の実験をせずに、また、一般的な概念から逸脱せずに、そのような特定の実施形態を容易に改変し、かつ/又は様々な適用に適応させることができ、したがって、そのような適応及び改変は、開示された実施形態の等価物の意味及び範囲の中にあると理解されるべきであり、また、そのように意図されている。本明細書に使用された術語又は用語は、限定ではなく、説明を目的としたものであることが理解されよう。開示された様々な化学構造及び機能を実施する方法、物質、及びステップは、本発明から逸脱せずに、様々な代替形態をとることができる。
【図面の簡単な説明】
【0167】
【図1】Cstps1のヌクレオチド配列、すなわち配列番号1を示す図である。
【図2】セスキテルペンシンターゼCstps1(配列番号1)と、タバコ種(Nicotiana tabacum)から得られたセスキテルペンシンターゼであるエピ−アリストロケンシンターゼ(配列番号4、アクセッション番号AAG17667)及びワタ(Gossypium arboreum)から得られたカジネンシンターゼ(配列番号5、アクセッション番号CAA77191)とのアミノ酸アライメントを示す図である。
【図3】テルペンシンターゼの系統マップにおけるバレンセンシンターゼの位置を示す模式図である。
【図4】2003年のシーズン中(A)又は2001年のシーズン中(B)に1ヶ月間隔で収穫された果実における、果実成熟中のバレンシア商標オレンジフラベドでのCstps1の系時発現を示す図である。
【図5】7日間(A)又は48時間のエチレン処置に続く、柑橘類フラベドにおけるCstps1発現及びバレンセンの蓄積に対するエチレンの効果を示す図である。
【図6】組換え体Cstps1の活性アッセイを、1時間の反応時間当たりのpmole生成物として示す図である。
【図7】組換え体Cstps1セスキテルペン生成物のGC‐MS識別を示す図である。(A)バレンセンのクロマトグラム;(B)組換え体Cstps1を発現する細菌の溶菌物を用いたアッセイから得られた生成物のクロマトグラム;(C)対照プラスミドpTYBを保持する細菌の溶菌物を用いたアッセイから得られた生成物のクロマトグラム;(D)バレンセンの単一イオンクロマトグラム(m/z=107);(E)組換え体Cstps1を発現する溶菌物から得られた生成物の単一イオンクロマトグラム(m/z=107);(F)バレンセンの単一イオンクロマトグラムプロフィール(Wiley GC‐MSライブラリーデータベース)。
【図8】柑橘類果実発育中におけるバレンセンの蓄積を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バレンセンシンターゼをコードする核酸配列を含む単離されたポリヌクレオチドであって、前記バレンセンシンターゼがファルネシルピロリン酸をバレンセンに変換できる、単離されたポリヌクレオチド。
【請求項2】
バレンセンシンターゼが柑橘類植物種由来である、請求項1に記載の単離されたポリヌクレオチド。
【請求項3】
バレンセンシンターゼがオレンジ由来である、請求項2に記載の単離されたポリヌクレオチド。
【請求項4】
配列番号1又はその相補鎖に対して少なくとも80%の相同性を有する核酸を含む、請求項1に記載の単離されたポリヌクレオチド。
【請求項5】
配列番号1又はその相補鎖に対して少なくとも90%の相同性を有する核酸を含む、請求項4に記載の単離されたポリヌクレオチド。
【請求項6】
(a)配列番号2に対して少なくとも70%の相同性;及び(b)少なくとも1つの、連続したアミノ酸の配列番号3に記載のコンセンサスモチーフを有するアミノ酸配列を含むバレンセンシンターゼをコードする核酸を含む、請求項1に記載の単離されたポリヌクレオチド。
【請求項7】
配列番号2に対して少なくとも80%の相同性を有するアミノ酸配列を含むバレンセンシンターゼをコードする核酸を含む、請求項1に記載の単離されたポリヌクレオチド。
【請求項8】
配列番号2に対して少なくとも90%の相同性を有するアミノ酸配列を含むバレンセンシンターゼをコードする核酸を含む、請求項7に記載の単離されたポリヌクレオチド。
【請求項9】
請求項1から8までのいずれか一項に記載のポリヌクレオチドにハイブリッド形成することができる核酸を含む単離されたポリヌクレオチド。
【請求項10】
バレンセンシンターゼの活性を有するアミノ酸配列を含む単離されたポリペプチドであって、前記活性が、ファルネシルピロリン酸をバレンセンに変換できることを特徴とする、単離されたポリペプチド。
【請求項11】
バレンセンシンターゼが柑橘類植物種由来である、請求項10に記載の単離されたポリペプチド。
【請求項12】
バレンセンシンターゼがオレンジ由来である、請求項11に記載の単離されたポリペプチド。
【請求項13】
(a)配列番号2に対して少なくとも70%の同一性;及び(b)少なくとも1つの、連続したアミノ酸配列の配列番号3に記載のコンセンサスモチーフを有するアミノ酸配列を含む、請求項10に記載の単離されたポリペプチド。
【請求項14】
配列番号2、並びにその断片、誘導体、及び類似体に対して少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項10に記載の単離されたポリペプチド。
【請求項15】
配列番号2、並びにその断片、誘導体、及び類似体に対して少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項14に記載の単離されたポリペプチド。
【請求項16】
バレンセンシンターゼをコードする核酸配列を含む発現ベクターであって、前記バレンセンシンターゼがファルネシルピロリン酸をバレンセンに変換できる発現ベクター。
【請求項17】
バレンセンシンターゼが柑橘類植物種由来である、請求項16に記載の発現ベクター。
【請求項18】
バレンセンシンターゼがオレンジ由来である、請求項17に記載の単離されたポリヌクレオチド。
【請求項19】
前記核酸配列が配列番号1又はその相補鎖に対して少なくとも80%の相同性を有する、請求項16に記載の発現ベクター。
【請求項20】
前記核酸配列が配列番号1又はその相補鎖に対して少なくとも90%の相同性を有する、請求項19に記載の発現ベクター。
【請求項21】
前記核酸配列が、(a)配列番号2に対して少なくとも70%の相同性;及び(b)少なくとも1つの、連続したアミノ酸の配列番号3に記載のコンセンサスモチーフを有するアミノ酸配列を含むバレンセンシンターゼをコードする、請求項16に記載の発現ベクター。
【請求項22】
前記核酸配列が、配列番号2に対して少なくとも80%の相同性を有するアミノ酸配列を含むバレンセンシンターゼをコードする、請求項16に記載の発現ベクター。
【請求項23】
配列番号2に対して少なくとも90%の相同性を有するアミノ酸配列を含むバレンセンシンターゼをコードする核酸を含む、請求項22に記載の発現ベクター。
【請求項24】
プラスミド又はウイルスから選択された、請求項16から23までのいずれか一項に記載の発現ベクター。
【請求項25】
バレンセンシンターゼをコードするポリヌクレオチドに作用可能に連結したプロモーター、選択マーカー、シグナル配列、複製開始点、エンハンサー、及び転写終結配列からなる群から選択された少なくとも1つのエレメントをさらに含む、請求項16から23までのいずれか一項に記載の発現ベクター。
【請求項26】
発現ベクターを含む宿主細胞であって、前記発現ベクターがファルネシルピロリン酸をバレンセンに変換できるバレンセンシンターゼをコードする核酸配列を含む、宿主細胞。
【請求項27】
バレンセンシンターゼが柑橘類植物種由来である、請求項26に記載の宿主細胞。
【請求項28】
バレンセンシンターゼがオレンジ由来である、請求項27に記載の宿主細胞。
【請求項29】
前記核酸配列が配列番号1又はその相補鎖に対して少なくとも80%の相同性を有する、請求項26に記載の宿主細胞。
【請求項30】
前記核酸配列が配列番号1又はその相補鎖に対して少なくとも90%の相同性を有する、請求項29に記載の宿主細胞。
【請求項31】
前記核酸配列が、(a)配列番号2に対して少なくとも70%の相同性;及び(b)少なくとも1つの、連続したアミノ酸の配列番号3に記載のコンセンサスモチーフを有するアミノ酸配列を含むバレンセンシンターゼをコードする、請求項26に記載の宿主細胞。
【請求項32】
前記核酸配列が、配列番号2に対して少なくとも80%の相同性を有するアミノ酸配列を含むバレンセンシンターゼをコードする、請求項26に記載の宿主細胞。
【請求項33】
配列番号2に対して少なくとも90%の相同性を有するアミノ酸配列を含むバレンセンシンターゼをコードする核酸を含む、請求項32に記載の宿主細胞。
【請求項34】
原核細胞又は真核細胞である、請求項26から33までのいずれか一項に記載の宿主細胞。
【請求項35】
バレンセン、ヌートカトン以外のバレンセン代謝産物、及びヌートカトンからなる群から選択される少なくとも1つの化合物を生成する、請求項34に記載の宿主細胞。
【請求項36】
細菌細胞である、請求項35に記載の宿主細胞。
【請求項37】
大腸菌(E.Coli)である、請求項36に記載の宿主細胞。
【請求項38】
原核細胞であり、バレンセンシンターゼをコードする核酸配列が、前記細胞のゲノム中に安定に組み込まれている、請求項34に記載の宿主細胞。
【請求項39】
組換え体バレンセンシンターゼを生成する方法であって、
発現ベクターが、バレンセンシンターゼをコードする核酸配列を含み、バレンセンシンターゼが、前記バレンセンシンターゼの発現に適した条件下で、FPPをバレンセンに変換できる、発現ベクターを含む宿主細胞を培養するステップを含む、方法。
【請求項40】
前記バレンセンシンターゼを回収するステップ
をさらに含む、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
バレンセンを回収するステップ
をさらに含む、請求項39に記載の方法。
【請求項42】
少なくとも1つのバレンセン代謝産物を回収するステップ
をさらに含む、請求項39に記載の方法。
【請求項43】
前記少なくとも1つのバレンセン代謝産物がヌートカトンである、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
バレンセンシンターゼが柑橘類植物種由来である、請求項39に記載の方法。
【請求項45】
バレンセンシンターゼがオレンジ由来である、請求項44に記載の方法。
【請求項46】
前記核酸が配列番号1又はその相補鎖に対して少なくとも80%の相同性を有する、請求項39に記載の方法。
【請求項47】
前記核酸が配列番号1又はその相補鎖に対して少なくとも90%の相同性を有する、請求項46に記載の方法。
【請求項48】
前記核酸が、(a)配列番号2に対して少なくとも70%の相同性;及び(b)少なくとも1つの、連続したアミノ酸の配列番号3に記載のコンセンサスモチーフを含むアミノ酸配列を有するアミノ酸配列を含むバレンセンシンターゼをコードする、請求項39に記載の方法。
【請求項49】
前記核酸が、配列番号2に対して少なくとも80%の相同性を有するアミノ酸配列を含むバレンセンシンターゼをコードする、請求項39に記載の方法。
【請求項50】
前記核酸が、配列番号2に対して少なくとも90%の相同性を有するアミノ酸配列を含むバレンセンシンターゼをコードする、請求項49に記載の方法。
【請求項51】
宿主細胞が原核細胞又は真核細胞から選択される、請求項39に記載の方法。
【請求項52】
宿主細胞が原核細胞であり、バレンセンシンターゼをコードする核酸配列が、前記細胞のゲノム中に安定に組み込まれている、請求項51に記載の方法。
【請求項53】
宿主細胞が細菌細胞である、請求項51に記載の方法。
【請求項54】
宿主細胞が大腸菌(E.Coli)である、請求項53に記載の方法。
【請求項55】
発現ベクターがプラスミド又はウイルスから選択される、請求項39に記載の方法。
【請求項56】
発現ベクターが、バレンセンシンターゼをコードするポリヌクレオチドに作用可能に連結したプロモーター、選択マーカー、シグナル配列、複製開始点、エンハンサー、及び転写終結配列からなる群から選択された少なくとも1つのエレメントをさらに含む、請求項55に記載の方法。
【請求項57】
農業、化粧品、及び食品からなる群から選択された産業応用における、請求項39から56までのいずれか一項に記載の方法で得られたバレンセンの使用。
【請求項58】
バレンセンシンターゼをコードする核酸配列を含む植物であって、前記バレンセンシンターゼがファルネシルピロリン酸をバレンセンに変換できる植物。
【請求項59】
バレンセンシンターゼが柑橘類植物種由来である、請求項58に記載の植物。
【請求項60】
バレンセンシンターゼがオレンジ由来である、請求項59に記載の植物。
【請求項61】
前記核酸配列が配列番号1又はその相補鎖に対して少なくとも80%の相同性を有する、請求項58に記載の植物。
【請求項62】
前記核酸配列が配列番号1又はその相補鎖に対して少なくとも90%の相同性を有する、請求項61に記載の植物。
【請求項63】
前記核酸配列が、(a)配列番号2に対して少なくとも70%の相同性;及び(b)少なくとも1つの、連続したアミノ酸の配列番号3に記載のコンセンサスモチーフを有するアミノ酸配列を含むバレンセンシンターゼをコードする、請求項58に記載の植物。
【請求項64】
前記核酸配列が、配列番号2に対して少なくとも80%の相同性を有するアミノ酸配列を含むバレンセンシンターゼをコードする、請求項58に記載の植物。
【請求項65】
配列番号2に対して少なくとも90%の相同性を有するアミノ酸配列を含むバレンセンシンターゼをコードする核酸を含む、請求項64に記載の植物。
【請求項66】
バレンセン、ヌートカトン以外のバレンセン代謝産物、及びヌートカトンからなる群から選択された少なくとも1つの化合物を生成する、請求項58から65までのいずれか一項に記載の植物。
【請求項67】
バレンセンシンターゼをコードする核酸配列が、植物のゲノム中に安定に組み込まれている、請求項58に記載の植物。


【図1】
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【図2】
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【図2cont.(1)】
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【図2cont.(2)】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図7C】
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【図7D】
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【図7E】
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【図7F】
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【図8】
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【公表番号】特表2007−517496(P2007−517496A)
【公表日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−525264(P2006−525264)
【出願日】平成16年9月2日(2004.9.2)
【国際出願番号】PCT/IL2004/000795
【国際公開番号】WO2005/021705
【国際公開日】平成17年3月10日(2005.3.10)
【出願人】(304042504)ステート オブ イスラエル、ミニストリー オブ アグリカルチャー、 アグリカルチュラル リサーチ オーガナイゼイション (3)
【Fターム(参考)】