説明

染色レンズおよびその製造方法

【課題】380nm〜450nmの短波長光吸収性能に優れた染色レンズおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】染色レンズは、下記一般式[I]で表される化合物(式中、Rは分岐していてもよいアルキル基若しくはアラルキル基、Rは−CN若しくは−COOR、Rは置換基があってもよいアルキル基若しくはアラルキル基(ただしRがメチル基である場合はエチル基を除く)を示す)を用いて染色される。[化1]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、染色レンズおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、眼鏡レンズでは、軽量で耐衝撃性に優れ、かつ染色しやすいとの利点からプラスチックレンズが多用されている。
紫外線は人体に対し種々の悪影響を与えると言われており、眼鏡レンズにおいても紫外線から目を保護するための紫外線カットレンズへの要望が高まってきている。プラスチックレンズに紫外線カット能を付与する方法として、特定の紫外線吸収剤をプラスチックレンズモノマーに添加し、重合してプラスチックレンズとする方法が開示されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4681820号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
最近の研究より、紫外線だけでなく、可視光線の青色領域(380nm〜500nm)をカットすることにより、眩しさが低減され視認性、コントラストが向上することが明らかとなった。
また、目の健康に対して、可視光線の青色領域はエネルギーが強いため、網膜などの損傷、眼疾患、視界のチラツキ、コントラスト低下の原因と原因になると言われている。青色光による損傷を「ブルーライトハザード」といい、この領域の光をカットすることが望ましいと言われている。
【0005】
さらに一般的に光のエネルギーは光の波長に半比例することが知られており、レイリー散乱の散乱光エネルギーは波長の4乗に半比例することが知られている。よって380〜450nmの短波長光をカットすることにより目が受ける光エネルギーを減らすことが、網膜などの損傷、眼疾患、視界のチラツキ、コントラスト低下の有効な対策であると考えられる。
しかし、従来の染色レンズでは380nm〜450nmのカット能はまだ十分ではなく、この領域の光を効果的にカットした染色レンズの開発が望まれている。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、380nm〜450nmの短波長光吸収性能に優れた染色レンズおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明の染色レンズは、下記一般式[I]で表される化合物(式中、Rは分岐していてもよいアルキル基若しくはアラルキル基、Rは−CN若しくは−COOR、Rは置換基があってもよいアルキル基若しくはアラルキル基(ただしRがメチル基である場合はエチル基を除く)を示す)を用いて染色されたことを特徴とする。
【0008】
【化1】

【0009】
上記課題を解決するため、本発明の染色レンズの製造方法は、上記本発明の染色レンズを製造する方法であって、プラスチック基材の少なくとも一方の表面を、上記一般式[I]で表される化合物を用いて染色することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、380nm〜450nmの短波長光吸収性能に優れた染色レンズおよびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例1および比較例1の染色レンズの透過率曲線である。
【図2】実施例2の染色レンズの透過率曲線である。
【図3】実施例3〜6の染色レンズおよび比較例2のプラスチックレンズの透過率曲線である。
【図4】実施例7および比較例3の染色レンズの透過率曲線である。
【図5】実施例8および比較例4の染色レンズの透過率曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の染色レンズおよびその製造方法について詳細に説明する。
本発明者らは、可視光線の短波長領域(380〜450nm)の吸収性能に優れた染色レンズを開発すべく、可視光線の短波長領域の光を吸収する特性を有する種々の化合物を用いて、プラスチック基材を染色する方法の検討を行った。その結果、単に短波長領域の光吸収能を有する化合物を用いて染色を行うだけでは所望の光透過率特性を有する染色レンズを得られないことが判明した。詳述すると、後述の比較例4に示すように、短波長領域の光吸収能を有する染料を用いてプラスチック基材を染色した場合には、得られる染色レンズは波長380〜450nmの短波長光をいくらか吸収するものの、波長450〜500nm付近にも吸収を有し、染色レンズが着色しやすくなり、所望の色味のレンズが得られないという問題があった。本発明者らは鋭意研究の結果、下記一般式[I]で表される化合物を用いてプラスチック基材を染色した場合、380nm〜450nmの短波長光のみを効果的にカットした染色レンズを提供できることを見出し本発明に至った。
【0013】
本発明の染色レンズは、下記一般式[I]で表される化合物(式中、Rは分岐していてもよいアルキル基若しくはアラルキル基、Rは−CN若しくは−COOR、Rは置換基があってもよいアルキル基若しくはアラルキル基(ただしRがメチル基である場合はエチル基を除く)を示す)を用いて染色されたことを特徴とする。
【0014】
【化2】

【0015】
上記一般式[I]において、Rとしては分岐鎖状を有してもよい炭素数1〜12のアルキル基若しくはアラルキル基が挙げられる。具体的には、メチル基、エチル基、プロプル基、イソプロピル基、イソブチル基、tert−ブチル基、n−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基、ドデシル基、ベンジル基などが挙げられる。
は、ニトリル基(−CN)若しくはエステル基(−COOR)である。Rとしては、置換基を有してもよい炭素数1〜20のアルキル基若しくはアラルキル基が挙げられる。Rの具体例としては、上記Rで例示したもの及びβ−シアノエチル基、β−クロロエチル基、エトキシプロピル基、ヒドロキシアルキル基、アルコキシアルコキシアルキル基、アルコキシアルキル基が挙げられる。但し、Rがメチル基である場合、Rはエチル基ではない。
【0016】
本発明の染色レンズは、レンズ基材となるプラスチック基材の少なくとも一方の表面を、上記一般式[I]で表される化合物を含む染色液を用いて染色することにより得られる。
【0017】
プラスチック基材は、例えば透明なプラスチックであるアクリル系樹脂、チオウレタン系樹脂、メタクリル系樹脂、アリル系樹脂、エピスルフィド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、エピスルフィド樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂ポリ4−メチルペンテン−1樹脂、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート樹脂(CR−39)、ポリ塩化ビニル樹脂、アリルジグリコールカーボネート樹脂、ハロゲン含有共重合体、イオウ含有共重合体等によって形成されたものである。
また、本実施形態では、プラスチック基材の屈折率(nd)としては、例えば、1.50、1.60、1.67、及び1.74のうちから選択されたものが用いられる。なお、プラスチック基材の屈折率を1.60以上にする場合、プラスチック基材としては、アリルカーボネート系樹脂、アクリレート系樹脂、メタクリレート系樹脂、及びチオウレタン系樹脂、エピスルフィド系樹脂等を使用することが好ましい。
【0018】
本発明において、プラスチック基材の染色に用いる染色液の組成は、上記一般式[I]で表される化合物を含有していれば特に限定されないが、上記一般式[I]で表される化合物と、バインダー樹脂と、溶剤を含んでなることが好ましい。また、染色液には、さらに染料が含有されていることも好ましい。
【0019】
染色液中の上記一般式[I]で表される化合物の含有量は、特に制限されないが、0.01質量%〜10質量%が好ましく、0.05質量%〜5質量%がより好ましい。染色液における上記一般式[I]で表される化合物の含有量を前記範囲とすることにより、効果的な短波長カット能力を有し、着色が少ない染色レンズを得ることができる。
【0020】
本発明において、染色液に含有されるバインダー樹脂としては、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリアミド、ポリエチレン、ポリカーボネート、ポリスチレン、フェノール樹脂、ポリプロピレン、フッ素樹脂、ブチラール樹脂、メラミン樹脂、ポリビニルアルコール、セルロース樹脂、アルキド樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、シリコン樹脂等が挙げられる。これらの樹脂は1種単独で、または2種以上を混合して使用することができ、さらに共重合体を使用することも可能である。
染色液中のバインダー樹脂の含有量は、特に制限されないが、0.01質量%〜5質量5が好ましく、0.05質量%〜3質量%がより好ましい。染色液におけるバインダー樹脂の含有量を前記範囲とすることにより、レンズ基材となるプラスチック基材の少なくとも一方の表面を染色する際の作業性が良くなる。
【0021】
本発明において、染色液に含有してもよい染料としては、分散染料、反応染料、直接染料、複合染料、酸性染料、金属錯塩染料、建染染料、硫化染料、アゾ染料、蛍光染料、樹脂着色用染料、その他機能性染料等が挙げられ、これら以外にも染料であれば特に制限されず使用可能である。これらの染料は1種単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用することも可能である。
染色液に染料を含有する場合、染色液中の染料の含有量は、0.1質量%〜99.9質量%まで可能であるが、好ましくは0.001質量%〜10質量%、より好ましくは0.01質量%〜5質量%である。染色液の染料の含有量が前記範囲よりも少ない場合、充分な染色レンズが得にくくなる可能性がある。また、前記範囲よりも染料が多い場合、染料によっては凝集などを生じて使用困難となる可能性がある。
【0022】
本発明において、染色液に含有される溶剤としては、例えばメタノール、エタノール、メチルエチルケトン、エチレングリコールモノエチルエーテル、アセトン、イソブチルアルコール、エチルエーテル、クロロベンゼン、酢酸イソブチル、酢酸イソプロピル、酢酸イソペンチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸ペンチル、酢酸メチル、シクロヘキサノール、1,4−ジオキサン、N,N−ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、1,1,1−トリクロロエタン(メチルクロロホルム)、トルエン、1−ブタノール、2−ブタノール、メチルイソブチルケトン、メチルシクロヘキサノン、メチルブチルケトン、アセトフェノン、安息香酸エステル、メチルシクロヘキサン等が挙げられ、上記一般式[I]で表される化合物および染料が十分溶解されるものであればどのようなものでもよく、1種若しくは2種以上の混合物を用いてもよい。
【0023】
染色液には必要に応じて、pH調整剤、粘度調整剤、レベリング剤、つや消し剤、安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤等の各種添加剤を併用してもよい。
【0024】
上記一般式[I]で表される化合物を含有する染色液を用いて、プラスチック基材の少なくとも一方の表面を染色し、染色レンズを得る方法としては、下記2通りの方法が挙げられる。
(1)染色液をプラスチック基材(レンズ)の表面にコーティングして加熱し、染色液中レンズ表面を染色する方法(コート法)
(2)染色液中にプラスチック基材(レンズ)を浸漬して、レンズ表面を染色する方法(ディップ法)
これら2種の方法のうち、染色液の使用量が少なく、生産コストを抑えられるので、上記(1)のコート法が好ましい。
【0025】
コート法におけるプラスチック基材への染色液の塗布(コーティング)方法としては、刷毛塗り、ディップ、スピンコート、ロール塗り、スプレー塗装、流し塗り、インクジェット型塗布などの通常の塗布方法を用いることができる。塗布面に関しては、プラスチック基材(レンズ)片面にコートしてもよいし、染色濃度をさらに上げるために両面コートしてもよい。プラスチック基材への染色液のコート厚は、特に制限されず、適宜調整可能であり、例えば、0.01μm〜10μmの範囲とすることができる。
【0026】
コート法による染色において、プラスチック基材(レンズ)全面に均一な染色濃度で染色(着色加工)を行う場合には、染色液をレンズ表面にコートした後に加熱処理を行うことにより、染色液中の上記一般式[I]で表される化合物および染料をレンズ表面に浸透、拡散させることが好ましい。染色液をコートしたプラスチック基材(レンズ)の加熱条件としては、加熱温度は70℃〜180℃が好ましく、加熱時間は10〜180分間が好ましい。加熱方法としては、エアオーブン加熱以外に、遠赤外線照射加熱、UV照射加熱なども用いることができる。
【0027】
コート法による染色において、プラスチック基材(レンズ基材)になだらかな濃度勾配をもった染色(着色加工)を行う場合には、染色液をレンズにコートした後、コーティング液面(染色液面)を加熱領域が徐々に変化するようにしながら加熱することにより、レンズ基材内部に前記濃度勾配に対応した量の染料を浸透させることができる。
【0028】
染色液をコートしたプラスチック基材(レンズ基材)を加熱処理した後、レンズ基材を洗浄することにより、レンズ基材表面上のコート層(塗布された染色液)を除去することにより、本発明の染色レンズを得ることができる。加熱処理後のレンズ基材の洗浄方法としては、レンズ基材表面のコート層(塗布された染色液)を除去することができれば特に限定されないが、有機溶剤による拭き取りもしくはアルカリ洗浄剤による洗浄が好ましい。中でも、有機溶剤としてアセトンまたはメチルエチルケトンを使用して拭き取ることがさらに好ましい。
【0029】
ディップ法によりプラスチック基材(レンズ基材)を染色する場合は、染色液中にレンズ基材を浸漬して、レンズ基材表面から染色液中の上記一般式[I]で表される化合物および染料を浸透、拡散させることにより、染色レンズを得ることができる。
ディップ法による染色においては、80℃〜95℃に加熱した染色液にレンズ基材を浸漬することが好ましい。
浸漬終了後のレンズ基材を、例えば水洗い、溶剤による拭き取りなどにより洗浄してレンズ外面に付着した染色液を除去することにより、本発明の染色レンズを得ることができる。
【0030】
本発明の染色レンズは、上記一般式[I]で表される化合物を用いて染色されていることにより、プラスチック基材(レンズ基材)の表面からレンズ基材内部に上記一般式[I]で表される化合物が浸透、拡散している。
【0031】
本発明の染色レンズは、可視光線の短波長領域(380nm〜450nm)の光を効果的にカットし、短波長光吸収性能に優れている。
さらに、本発明の染色レンズは、厚さ2mm換算した光線透過率(%)を波長(nm)に対して、光線透過率(%)を縦軸、波長(nm)を横軸としてプロットした透過率曲線(光線透過率曲線、分光透過率曲線)の、波長420nm〜440nmにおける平均傾きが0.7〜3.0(%/nm)の範囲内となる分光特性を有することもできる。ここで、光線の透過率曲線は、染色レンズの透過率曲線を測定した後にレンズ厚さ2mmあたりの透過率に換算することで得られたものを示すが、その他、レンズ中心厚を2mmとして、レンズ中心における光線透過率を測定し、波長(nm;横軸)に対して光線透過率(%;縦軸)をプロットした透過率曲線をそのまま採用することもできる。
【0032】
なお、本発明において、「透過率曲線の波長420nm〜440nmにおける平均傾き」とは、波長420nmの光線透過率をT420(%)、波長440nmの光線透過率をT440(%)としたとき、下記式(A)で表される。
平均傾き(%/nm)=(T440−T420)/(440−420)・・・式(A)
【0033】
このような光透過性能を有する本発明の染色レンズは、網膜などの損傷、眼疾患、視界のチラツキ、コントラスト低下の原因と原因になると言われている380nm〜450nmの短波長光の吸収性能に特に優れているため、眼鏡レンズとして特に好適である。
【実施例】
【0034】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0035】
(実施例1)
上記一般式[I]で表される化合物、染料、バインダー樹脂、溶剤から染色液を調製した。イエロー染料としてカヤロンポリエステルイエローAL染料0.1質量%、レッド染料としてカヤロンポリエステルレッドAUL−S染料0.2質量%、ブルー染料としてカヤロンポリエステルブルーAUL−S染料(いずれの染料も日本化薬株式会社製)0.3質量%、上記一般式[I]においてR=−CH、R= ―CNである化合物0.5質量%を、ポリビニルアルコール20質量%、メチルエチルケトン73質量%と一昼夜撹拌することにより、染色液を調製した。
【0036】
調製した染色液を屈折率1.67のプラスチックレンズ(ニコン・エシロール社製、製ニコンライト4AS、サイズ80φ、中心厚2mm)の片面全面にスピンコートし、膜厚約0.3μmのコート層を形成した。表面にコート層を形成したプラスチックレンズをエアオーブンで150℃、2時間加熱を行い、レンズ表面に染料および上記一般式[I]で表される化合物を浸透、拡散させてレンズ表面を染色した。その後、レンズを冷却し、アセトンで拭き取ることにより表面の樹脂層(コート層)を取り除いた。
【0037】
次に、染色されたプラスチックレンズ表面に、厚さ約1μmのウレタン系耐衝撃性向上コート、厚さ約2μmのシリコーン系耐擦傷性向上ハードコートを形成した。更にその上に真空蒸着法により厚さ約0.3μmの無機酸化物により形成される多層膜反射防止コートを成膜することにより染色レンズを得た。
【0038】
得られた染色レンズのレンズ中心部における分光透過率を測定し、その透過率曲線を比較例1と共に図1に記載した。その結果、実施例1の染色レンズは波長380nm〜450の短波長光を効果的にカットしており、波長420nm〜440nmにおける透過率曲線の平均傾きは1.9(%/nm)であった。
【0039】
(比較例1)
染料、バインダー樹脂、溶剤から染色液を調製した。イエロー染料としてカヤロンポリエステルイエローAL0.1質量%、レッド染料としてカヤロンポリエステルレッドAUL−S染料0.2質量%、ブルー染料としてカヤロンポリエステルブルーAUL−S染料(いずれの染料も日本化薬株式会社製)0.3質量%を、ポリビニルアルコール20質量%、メチルエチルケトン73.5質量%と一昼夜撹拌することにより、染色液を調製した。
【0040】
調製した染色液を屈折率1.67のプラスチックレンズ(ニコン・エシロール社製、ニコンライト4AS、サイズ80φ、中心厚2mm)の片面全面にスピンコートし、膜厚約0.3μmのコート層を形成した。表面にコート層を形成したプラスチックレンズをエアオーブンで150℃、2時間加熱を行い、レンズ表面に染料を浸透、拡散させてレンズ表面を染色した。その後、レンズを冷却し、アセトンで拭き取ることにより表面の樹脂層(コート層)を取り除いた。
【0041】
次に、実施例1と同様にして染色されたプラスチックレンズ表面に、厚さ約1μmのウレタン系耐衝撃性向上コート、厚さ約2μmのシリコーン系耐擦傷性向上ハードコートを形成した。更にその上に真空蒸着法により厚さ約0.3μmの無機酸化物により形成された多層膜反射防止コートを成膜することにより染色レンズを得た。
【0042】
得られた染色レンズのレンズ中心部における分光透過率を測定し、その透過率曲線を実施例1と共に図1に記載した。その結果、比較例1の染色レンズは波長430nm以下の短波長光が効果的にカットされておらず、波長420nm〜440nmにおける透過率曲線の平均傾きは0.6(%/nm)であった。
【0043】
(実施例2)
表1に示す配合比で、上記一般式[I]においてR=−CH、R=−CNである化合物と、ポリビニルアルコールと、メチルエチルケトンとを配合し、一昼夜撹拌することにより、染色液を調製した。
【0044】
調製した染色液を屈折率1.60のプラスチックレンズ(ニコン・エシロール社製、ニコンライト3AS、サイズ75φ、中心厚2mm)の片面全面にスピンコートし、膜厚約0.3μmのコート層を形成した。表面にコート層を形成したプラスチックレンズをエアオーブンで150℃、2時間加熱を行い、レンズ表面を染色した。その後、レンズを冷却し、アセトンで拭き取ることにより表面の樹脂層(コート層)を取り除いた。
【0045】
次に、実施例1と同様にして染色されたプラスチックレンズ表面に、耐衝撃性向上コート、耐擦傷性向上ハードコートおよび多層膜反射防止コートを成膜することにより染色レンズを得た。
【0046】
得られた染色レンズのレンズ中心部における分光透過率を測定し、その透過率曲線を図2に記載した。また、各サンプルの波長420nm〜440nmにおける透過率曲線の平均傾きを表1に併記した。
図2および表1に示す結果より、上記一般式[I]で表される化合物を含む染色液を用いて染色したサンプル1〜サンプル6の染色レンズは、波長380nm〜450nmの短波長光を効果的にカットしていた。
【0047】
【表1】

【0048】
(実施例3)
上記一般式[I]においてR=−CH、R=−CNである化合物0.5質量部を、ポリビニルアルコール20質量部、メチルエチルケトン73質量部と一昼夜撹拌することにより、染色液を調製した。
【0049】
調製した染色液を屈折率1.60のプラスチックレンズ(ニコン・エシロール社製、ニコンライト3AS、サイズ75φ、中心厚2mm)の片面全面にスピンコートし、膜厚約0.3μmのコート層を形成した。表面にコート層を形成したプラスチックレンズをエアオーブンで150℃、2時間加熱を行い、レンズ表面を染色した。その後、レンズを冷却し、アセトンで拭き取ることにより表面の樹脂層(コート層)を取り除いた。
【0050】
次に、実施例1と同様にして染色されたプラスチックレンズ表面に、耐衝撃性向上コート、耐擦傷性向上ハードコートおよび多層膜反射防止コートを成膜することにより染色レンズを得た。
【0051】
(実施例4)
染色液における上記一般式[I]においてR=−CH、R=−CNである化合物の配合量を1.0質量部に変更したこと以外は、実施例3と同様の方法および手順で染色レンズを得た。
【0052】
(実施例5)
上記一般式[I]においてR=−CH、R=−COOCである化合物0.5質量部を、ポリビニルアルコール20質量部、メチルエチルケトン73質量部と一昼夜撹拌することにより、染色液を調製した。
【0053】
調製した染色液を屈折率1.60のプラスチックレンズ(ニコン・エシロール社製、ニコンライト3AS、サイズ75φ、中心厚2mm)の片面全面にスピンコートし、膜厚約0.3μmのコート層を形成した。表面にコート層を形成したプラスチックレンズをエアオーブンで150℃、2時間加熱を行い、レンズ表面を染色した。その後、レンズを冷却し、アセトンで拭き取ることにより表面の樹脂層(コート層)を取り除いた。
【0054】
次に、実施例1と同様にして染色されたプラスチックレンズ表面に、耐衝撃性向上コート、耐擦傷性向上ハードコートおよび多層膜反射防止コートを成膜することにより染色レンズを得た。
【0055】
(実施例6)
染色液における上記一般式[I]においてR=−CH、R=−COOCである化合物の配合量を1.0質量部に変更したこと以外は、実施例5と同様の方法および手順で染色レンズを得た。
【0056】
(比較例2)
染色は行わずに、屈折率1.60のプラスチックレンズ(ニコン・エシロール社製、ニコンライト3AS、サイズ75φ、中心厚2mm)表面に、実施例1と同様にして耐衝撃性向上コート、耐擦傷性向上コートおよび多層膜反射防止コートを成膜することにより染色なしのプラスチックレンズを得た。
【0057】
得られた実施例3〜6の染色レンズおよび比較例2のプラスチックレンズについて、レンズ中心部における分光透過率を測定し、その透過率曲線を図3に記載した。また、実施例3〜6の染色レンズおよび比較例2のプラスチックレンズの波長420nm〜440nmにおける透過率曲線の平均傾きを表2に示す。その結果、実施例3〜6の染色レンズは波長380nm〜450nmの短波長光を効果的にカットしていた。
【0058】
【表2】

【0059】
(実施例7)
イエロー染料としてカヤロンポリエステルイエローAL染料0.5質量%、レッド染料としてカヤロンポリエステルレッドAUL−S染料1.1質量%、ブルー染料としてカヤロンポリエステルブルーAUL−S染料0.7質量%(いずれの染料も日本化薬株式会社製)、上記一般式[I]においてR=−CN、R=−COOCである化合物0.5質量部を、ポリビニルアルコール20質量部、メチルエチルケトン73質量部と一昼夜撹拌することにより、染色液を調製した。
【0060】
調製した染色液を屈折率1.67のプラスチックレンズ(ニコン・エシロール社製、ニコンライト4AS、サイズ80φ、中心厚2mm)の片面全面にスピンコートし、膜厚約0.3μmのコート層を形成した。表面にコート層を形成したプラスチックレンズをエアオーブンで150℃、2時間加熱を行い、レンズ表面を染色した。その後、レンズを冷却し、アセトンで拭き取ることにより表面の樹脂層(コート層)を取り除いた。
【0061】
次に、実施例1と同様にして染色されたプラスチックレンズ表面に、耐衝撃性向上コート、耐擦傷性向上ハードコートおよび多層膜反射防止コートを成膜することにより染色レンズを得た。
【0062】
得られた染色レンズのレンズ中心部における分光透過率を測定し、その透過率曲線を比較例3と共に図4に記載した。その結果、実施例7の染色レンズは波長380nm〜450nmの短波長光を効果的にカットしており、波長420nm〜440nmにおける透過率曲線の平均傾きは1.6(%/nm)であった。
【0063】
(比較例3)
染色液に上記一般式[I]で表される化合物を配合しなかったこと以外は、実施例7と同様の方法および手順で染色レンズを得た。
【0064】
得られた染色レンズのレンズ中心部における分光透過率を測定し、その透過率曲線を実施例7と共に図4に記載した。その結果、比較例3の染色レンズは波長380nm〜450nmの短波長光が効果的にカットされておらず、波長420nm〜440nmにおける透過率曲線の平均傾きは0.3(%/nm)であった。
【0065】
(実施例8)
上記一般式[I]においてR=−CH、R=−CNである化合物0.5質量部を、ポリビニルアルコール20質量部、メチルエチルケトン73質量部と一昼夜撹拌することにより、染色液を調製した。
【0066】
調製した染色液を屈折率1.60のプラスチックレンズ(ニコン・エシロール社製、ニコンライト3AS、サイズ75φ、中心厚2mm)の全面にスピンコートし、膜厚約0.3μmのコート層を形成した。表面にコート層を形成したプラスチックレンズをエアオーブンで150℃、2時間加熱を行い、レンズ表面を染色した。その後、レンズを冷却し、アセトンで拭き取ることにより表面の樹脂層(コート層)を取り除いた。
【0067】
次に、実施例1と同様にして染色されたプラスチックレンズ表面に、耐衝撃性向上コート、耐擦傷性向上ハードコートおよび多層膜反射防止コートを成膜することにより染色レンズを得た。
【0068】
得られた染色レンズのレンズ中心部における分光透過率を測定し、その透過率曲線を比較例4と共に図5に記載した。その結果、実施例8の染色レンズは波長380nm〜450nmの短波長光を効果的にカットしており、波長420nm〜440nmにおける透過率曲線の平均傾きは2.1(%/nm)であった。
【0069】
(比較例4)
上記一般式[I]で表される化合物に換えて、青色光(短波長光)の吸収能を有する染料であるカヤロンポリエステルイエローAL染料(日本化薬株式会社製)1.5質量部を配合して染色液を調製したこと以外は、実施例8と同様の方法および手順で染色レンズを得た。
【0070】
得られた染色レンズのレンズ中心部における分光透過率を測定し、その透過率曲線を実施例8と共に図5に記載した。その結果、比較例4の染色レンズは可視光の短波長領域(波長380nm〜450nmの短波長光)はいくらかカットされているが、波長450nm〜500nm付近にも吸収があり、実施例8の染色レンズと比較して、黄味がかっていた。比較例4の染色レンズの波長420nm〜440nmにおける透過率曲線の平均傾きは0.4(%/nm)であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式[I]で表される化合物(式中、Rは分岐していてもよいアルキル基若しくはアラルキル基、Rは−CN若しくは−COOR、Rは置換基があってもよいアルキル基若しくはアラルキル基(ただしRがメチル基である場合はエチル基を除く)を示す)を用いて染色されたことを特徴とする染色レンズ。
【化1】

【請求項2】
厚さ2mm換算した光線透過率(%)を波長(nm)に対してプロットした透過率曲線の波長420nm〜440nmにおける平均傾きが0.7〜3.0(%/nm)の範囲内であることを特徴とする請求項1に記載の染色レンズ。
【請求項3】
上記一般式[I]で表される化合物と染料を用いて染色されたことを特徴とする請求項1または2に記載の染色レンズ。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の染色レンズを製造する方法であって、
プラスチック基材の少なくとも一方の表面を、上記一般式[I]で表される化合物を用いて染色することを特徴とする染色レンズの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−54275(P2013−54275A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−193775(P2011−193775)
【出願日】平成23年9月6日(2011.9.6)
【出願人】(300035870)株式会社ニコン・エシロール (51)
【Fターム(参考)】