説明

柔軟性PTC発熱体

【課題】繰り返し荷重が加わっても発熱体に折り皺などが生じることなく、長時間使用可能な柔軟性PTC発熱体を提供すること。
【解決手段】第1の樹脂層1と第1の繊維層2を積層してなる基材3と、前記基材の前記樹脂層1の面に形成されてなる一対の電極4と、前記一対の電極4の面に形成されるPTC抵抗体5と、前記基材3と前記電極4と前記PTC抵抗体5の表面全体を被覆すると共に前記第1の樹脂層1に熱融着可能な第2の樹脂層7と第2の繊維層8を積層してなる被覆材9と、前記一対の電極の端部に形成された一対の給電部6よりなる柔軟性PTC発熱体において、前記柔軟性PTC発熱体の一部に応力を緩和する複数の応力緩和部10を備えた柔軟性PTC発熱体を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、暖房、加熱、乾燥などの熱源として用いることのできる柔軟性PTC発熱体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の面状発熱体の発熱部には、ベースポリマーと、カーボンブラック、金属粉末、グラファイトなどの導電性物質を溶媒に分散して、特にベースポリマーとして結晶性樹脂を用いてPTC特性を持たせたものが多い。
【0003】
図7(a)は従来のPTC特性を持たせた面状発熱体の平面図で、図7(b)は図7(a)のx−y線の断面図である。図7(a),(b)に示したように、面状発熱体は、ポリエステルシートなどの電気絶縁性の基材50上に、導電性ペーストを印刷・乾燥して得られる一対の櫛形状電極51、52と、これにより給電される位置に高分子抵抗体インクを印刷・乾燥して得られる高分子抵抗体53を設け、さらに基材50と同様の材質の被覆材54で櫛形状電極51、52及び高分子抵抗体53を被覆して保護する構成としたものである。
【0004】
基材50及び被覆材54としてポリエステルフィルムを用いる場合には被覆材54に例えばポリエチレン系の熱融着性樹脂55を予め接着しておき、熱を与えながら加圧する(熱時加圧)ことにより、基材50と被覆材54とを熱融着性樹脂55を介して接合される。これにより、櫛形状電極51、52及び高分子抵抗体53は外界から隔離され、長期信頼性を付与される。前記した熱時加圧の手段としては、2本の加熱ロールからなるラミネーターが一般的である。
【0005】
PTC特性とは、温度上昇によって抵抗値が上昇し、ある温度に達すると抵抗値が急激に増加する抵抗温度特性(抵抗が正の温度係数を有する意味の英語 Positive Temperature Coefficient の頭文字を取っている)を意味しており、PTC特性を有する高分子抵抗体53は、自己温度調節機能を有する面状発熱体を提供できる。
さらにこれら発熱体を柔軟性材料により構成することにより柔軟性機能を付与させた例として、例えば、特許文献1,2が挙げられる。
【特許文献1】特開2003−109804号公報
【特許文献2】特開2005−174629号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記従来の、ポリエステルシートなどの電気絶縁性の基材50に印刷した櫛形状電極51、52及び高分子抵抗体53を同じく電気絶縁性の被覆材54で保護する多層構造では、基材50や被覆材54の材質やその厚さによっては、柔軟性に欠け、この面状発熱体を椅子などに用いた場合の着座感や、暖房ウェアなどに用いた場合の着心地感が損なわれるといった問題があった。
【0007】
また、椅子用やウェア用のヒータとして用いた場合には、加熱対象となる部位が局面を有していることから、形状が平面状のヒータに荷重が加わった場合、その力が面状発熱体の全体にまで及んで変形し、その変形の形状によっては、面状発熱体の端ほど変形量が増え、面の一部に折り皺などが生じてしまい、その折り皺部分の印刷した電極及び高分子抵抗体に亀裂などが生じ耐久的に劣化するなどの心配があった。
【0008】
さらに、通気性のないポリエステルシートなどの電気絶縁性の基材50や被覆材54で構成されているため、椅子などに用いた場合や暖房ウェアに用いた場合に湿度がこもりやすく、長時間使用するとやはり着座感や着心地感が損なわれてしまう問題があった。
【0009】
上記従来の技術の問題点に鑑み、本発明が解決しようとする課題は、外力により変形する形状になじむ柔軟性を付与し、器具に装着した際の面状発熱体の使用感と耐久性等の信頼性を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明の柔軟性PTC抵抗体は、第1の樹脂層と第1の繊維層を積層してなる基材と、前記基材の前記樹脂層の面に形成されてなる一対の電極と、前記一対の電極の面に形成されるPTC抵抗体と、前記基材と前記電極と前記PTC抵抗体の表面全体を被覆すると共に前記第1の樹脂層に熱融着可能な第2の樹脂層と第2の繊維層を積層してなる被覆材と、前記一対の電極の端部に形成された一対の給電部とを有する柔軟性PTC発熱体であって、前記柔軟性PTC発熱体の一部に応力を緩和する複数の応力緩和部を備えたものである。
【0011】
上記した構成によって、柔軟性を有する繊維を基材として用いることにより柔軟性が発現され、さらに複数の応力緩和部が、PTC発熱体の外力により変形する形状に馴染んで変形するため、PTC発熱体の柔軟性がさらに増し、かつ外力を吸収しPTC発熱体の全体にまで及ばなくなり、器具に装着した際のPTC発熱体の使用感がよく、かつ耐久性が向上し、結果として器具の使用感と信頼性の向上にも繋がるものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の柔軟性PTC抵抗体は、外力により変形した形状に容易になじむ柔軟性を示すPTC抵抗体にでき、かつ外力がPTC抵抗体の全体にまで及ばなくでき、使用感と信頼性を向上できるとともに、柔軟性PTC抵抗体を使用した器具の使用感と信頼性も向上できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
第1の発明は、第1の樹脂層と第1の繊維層を積層してなる基材と、前記基材の前記樹脂層の面に形成されてなる一対の電極と、前記一対の電極の面に形成されるPTC抵抗体と、前記基材と前記電極と前記PTC抵抗体の表面全体を被覆すると共に前記第1の樹脂層に熱融着可能な第2の樹脂層と第2の繊維層を積層してなる被覆材と、前記一対の電極の端部に形成された一対の給電部を有する柔軟性PTC発熱体であって、前記柔軟性PTC発熱体の一部に応力を緩和する複数の応力緩和部を備えた柔軟性PTC発熱体である。
【0014】
第2の発明は、第1の繊維層または第2の繊維層の少なくとも一方が、特定方向に揃って配列した長繊維補強層を含むものである。
【0015】
上記構成とすることにより、繊維層により発現される柔軟性のみならず、ある程度の伸張抑制機能も加えることが可能となり、電極部や抵抗体部に加えられる外力に対してしなやかさを示すと共に、その外力が除去された際に復元力を示すこととなる。
【0016】
第3の発明は、特に第2の発明において、電極が対向した一対の主電極と前記主電極より交互で、かつ相手側に向かって導出した複数の枝電極とを有し、PTC抵抗体の発熱部に形成される主電極を前記長繊維補強層と平行方向となるよう様に形成することによって、外力による変形がPTC抵抗体に及んでも、主電極と同一方向の伸縮性を制限することができるものである。
【0017】
上記構成とすることにより、主電極方向の伸縮性に関する強度が保障されると共に、複数箇所に応力緩和部を有するので、外力による変形にも充分耐えることができ、耐久性、長期信頼性と、柔軟性を両立させることができる。また通気性も付与されるので湿度のこもりも防止できる。
【0018】
従って、外力による変形がPTC抵抗体の全体に及んで面の一部に折り皺の発生するのを防止でき、かつ通気性があって、例えば椅子などに用いた場合の着座感や、暖房ウェアなどに用いた場合の着心地感の向上と、前記折り皺による電極及び高分子抵抗体等への悪影響が解消され信頼性を向上できる。
【0019】
第4の発明は、特に第1〜第3のいずれか1つの発明の複数の応力緩和部が、スリット、細長あるいは楔型形状の切れ込みとしたことにより、PTC抵抗体部の発熱性能を充分に保持させながら、柔軟性、通気性も発現させることができるものである。
【0020】
第5の発明は、特に第1〜第4のいずれか1つの発明において、スリットあるいは細長の切れ込みからなる複数の応力緩和部が、枝電極と平行方向となるように形成することにより、主電極の伸張抑制と発熱体の柔軟性を両立させることができる。
【0021】
第6の発明は、特に第1〜第5のいずれか1つの発明の複数の応力緩和部が、外力により大きく変形する柔軟性PTC発熱体の部分に配置した応力緩和部を、前記柔軟性PTC発熱体の他部分の応力緩和部より大きく形成しており、大きな外力が加わる部分の大きな変形に充分耐えることができ、PTC抵抗体の全体において変形度合いに差があっても容易に対応でき、着座感を一層向上させることができる。
【0022】
第7の発明は、特に、第1〜第6のいずれかの発明の第1の繊維層または第2の繊維層の少なくとも一方が、長繊維を特定方向に揃って配列させた補強層と、繊維交絡によって形成された不織布よりなるものである。長繊維を特定方向に揃って配列させた補強層と、繊維交絡によって不織布を形成することにより、比較的安価でかつ、充分に薄く軽い素材を用いて、特定方向に対する伸縮性を制限した基材を効率よく得ることができる。
【0023】
第8の発明は、特に第1〜第7のいずれかの発明の第1の繊維層または第2の繊維層の少なくとも一方が、ポリエステル系不織布より形成されてなるものである。ポリエステル系の素材は、熱収縮が小さく、強度が大きいために、エラストマ性状を有すると共に形状寸法的に不安定になりやすい第1の樹脂層あるいは第2の樹脂層の補強層として適性を示すものである。また抵抗体を形成する工程での温度、張力、薬品に対する抵抗力が強く、さらに高絶縁性や低吸湿性などPTC抵抗体にとって不可欠な物性を併せ持つ素材である。ポリステル系の素材を用いることにより、伸縮性を示しながら安定な抵抗特性を示すだけでなく、極めて信頼性の高い抵抗体を得ることができる。
【0024】
第9の発明は、特に第1〜第8のいずれかの発明の第1の樹脂層が、オレフィン系熱可塑性エラストマを含有してなるものである。オレフィン系熱可塑性エラストマは、耐熱性に優れ、かつ柔軟性も示すことから、その上に抵抗体や電極などを塗布する際にも安定性を有する素材である。
【0025】
以下本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお本実施の形態によって本発明が限定されるものではない。
【0026】
本発明における、繊維層とは不織布や織布からなる層を意味する。
【0027】
また本発明における応力緩和部の断面形状としては、発熱体を貫通したものでも良いし
、発熱対象となる部位の形状や取付け形態によって、柔軟性を発現するに充分な程度の切り欠き部を基材側あるいは被服側のどちらか一方、あるいはそれらどちらかの一部に設けたものでも良い。また応力緩和部の形態は、短い長さからなる繰り返しでも構わないし、それらが連続した形状のものでも構わない。またそれら末端の形状は、負荷のかかる程度に応じて、切れ込みを工夫することが望ましい。
【0028】
また本発明における抵抗体や電極の形状としては、その機能を大きく損なわないかぎりどの用なものでも可能であり、例えば、台形型、ひし形型、丸形、などでも構わない。
(実施の形態1)
図1(a)は本発明の実施の形態1の柔軟性PTC発熱体の平面図で、図1(b)は図1(a)のx−y線の断面図である。
【0029】
図1において、第1の繊維層1は、ポリエチレンテレフタレート繊維を交絡させた不織布である。第1の樹脂層2は、融点が160℃の熱可塑性ウレタンエラストマを50μmの厚さに成形したものであり、極めて柔軟であり、あらゆる方向に自在に伸縮可能である。第1の繊維層1と第1の樹脂層2は熱融着によって、第1の樹脂層2が第1の繊維層1に接着しているが含浸はしていない状態となるように積層し、基材3として形成している。この基材3は積層されているが含浸構造ではないために、引張応力を加えるとエラストマ特有の伸縮性が得られる。電気的に正側と負側となる一対の電極4は、基材3の第1の樹脂層2の面に導電性ペーストを印刷、乾燥することによって形成した。導電性ペーストはエポキシ樹脂中に導電性付与材として銀粉末を分散したものを使用している。また、抵抗体5は正抵抗温度特性を有し、エチレン酢酸ビニル共重合体とカーボンブラックの混練物をペースト化したものを、電極4が形成された第1の樹脂層2の面に印刷、乾燥して形成したものである。電極4は、相対向するように幅の広い一対の主電極部と、それぞれの主電極部から交互に相手側の主電極部に向って複数の枝電極部を導出した櫛形形状になっており、これに重なるように配設した抵抗体5に多数の枝電極部より給電すると抵抗体5に電流が流れ発熱する。給電部6は一対の電極4の給電部分に一対形成されている。第2の樹脂層7は、融点120℃の共重合ポリエステルを50μm厚みに成形したものであり、特に、柔軟性と伸縮性に優れたグレードを選定した。第2の繊維層8は、ポリエチレンテレフタレート繊維を絡ませた不織布を用いている。第2の樹脂層7は第2の繊維層8と熱融着によって積層され、被覆材9として形成した。被覆材9は基材3の上に形成された、電極4、抵抗体5、及び給電部6のすべてを被覆するように全体に熱融着によって積層され、基材3の面全体を密封する。第2の繊維層8は、単体では、引張応力によって容易に伸びるが、第2の樹脂層7を含浸させることによって引張強度が増し、復元力も得られるようになる。なお、第1の樹脂層2の融点は、第2の樹脂層7の融点よりも40℃高くなるようなグレードを選定しているために、表面温度150℃ラミネートロールで被覆材9を溶融させ、抵抗体5を形成した基材3に熱融着させた結果、基材3側の熱変形は極めて小さく、実用上問題となるような寸法変化は発生しなかった。
【0030】
本実施の形態1では、複数のスリットからなる応力緩和部10を、電極4の主電極に挟まれた2つの抵抗体5の間に、主電極と平行方向となるように、発熱体を貫通するようにして形成した。
【0031】
ここでは、応力緩和部10の効果を検証するために、実施の形態1として、図1(a)、(b)に示すように、複数のスリットからなる応力緩和部を有するものを用意し、比較例1として、スリットを全く含まないがそれ以外の構成は実施の形態1と全く同様のものを用意した。
【0032】
柔軟性PTC発熱体が座席シート内部で用いられることを想定し、骨盤の模型として、半径120mmの半球面体を用意し、その球面にクッション材を介して発熱体を押しつけ
ることによって3次元変位を与え、この操作を繰り返した後の発熱体の表面のしわの発生の様子を観察した。結果、実施の形態1として用いたシートにはしわは発生しなかったが、応力緩和部を有さない比較例1では、発熱体のコーナー近傍などの3次元変位に対して充分追随できない箇所で、しわが発生していることが認められた。このように、構成の柔軟性PTC発熱体に外力が加わる場合、応力緩和部10が存在することにより外力が吸収されて折り皺などの発生により電極4や抵抗体5に亀裂を生じさせる危険等が解消され、耐久性の高い柔軟性PTC発熱体を得ることができる。
(実施の形態2〜6)
実施の形態2〜6は、それぞれ図2〜6に対応する抵抗体形状及びスリット形状を有し、それ以外の構成部材1〜9は、実施の形態1に示したものと同様の材料、方法により作成した。
【0033】
実施の形態2に対応する図2(a)、(b)では、2本のスリット11が枝電極と平行方向に配置され、またその長さは実施の形態1に比較して連続した形状を取ることができるため、実施の形態1に比較して、柔軟性に富む発熱体を得ることができる。
【0034】
実施の形態3に対応する図3(a)、(b)では、細長形状の応力緩和部12と楔形形状の応力緩和部13をそれぞれ2つずつ有しており、外部からの応力に対して、充分な適応性を示す。
【0035】
実施の形態4に対応する図4(a)、(b)では、主電極4と抵抗体5の間に応力緩和部14を複数本有し、発熱部となる抵抗体5には分割形状がないことから、枝電極間に印加された電圧は効率良く抵抗体で発熱されるため、省エネかつ、柔軟性に優れた発熱体を得ることができる。
【0036】
実施の形態5に対応する図5(a)、(b)では、電極4(主電極と枝電極)及び抵抗体5からなる2組の発熱体が並列に接続され、その発熱体間に細長形状の応力緩和部15を有する。1組の電極部と抵抗体部との間には応力緩和部が存在せず、安定かつ効率のよい発熱体を得ることができる。
【0037】
実施の形態6に対応する図6(a)、(b)では、応力緩和部以外の部分は実施の形態5と同じ構造を有する。実施の形態6では、短い細長形状の応力緩和部16が2つと、長い細長形状の応力緩和部17を1つ中央に有する形状となっており、発熱体の中央部に外力が加えられ、大きく変形しても長い細長形状の応力緩和部17で緩和することが可能となり、発熱体として最小限度の応力緩和部を設けることにより、充分な強度と柔軟性を合わせ持った発熱体が得られる。
【0038】
実施の形態2〜6に関して、実施の形態1で行ったと同様に、応力緩和部を有さない場合と比較して、外部応力を加えた際の発熱体のしわ発生の様子を観察したが、どの場合も比較例に対し、優れた耐久性を示すことがわかった。
(実施の形態7)
実施の形態7においては、図2に示した構造を有する発熱体を下記方法により作成した。
【0039】
図2において、第1の繊維層1は、ポリエチレンテレフタレート繊維を交絡させた不織布とポリエチレンテレフタレートの長繊維を特定方向に配列させた不織布を積層したものである。この長繊維は引張強度が高く、配列された方向への伸縮性を制限することができる。第1の樹脂層2は、融点が170℃のオレフィン系熱可塑性エラストマを50μmの厚さに成形したものであり、極めて柔軟であり、あらゆる方向に自在に伸縮可能である。第1の繊維層1と第1の樹脂層2は熱融着によって、第1の樹脂層2が第1の繊維層1に
接着しているが含浸はしていない状態となるように積層し、基材3として形成している。この基材3は積層されているが含浸構造ではないために、それぞれの層の物性を足し合わせたような特異な物性、すなわち、引張応力を加えるとエラストマ特有の伸縮性が得られるが、特定の方向ではほとんど伸縮性を示さないことが確認されている。電気的に正側と負側となる一対の電極4は、基材3の第1の樹脂層2の面に導電性ペーストを印刷、乾燥することによって形成した。電極4は一対の主電極部が対向する方向が第1の繊維層1に存在する長繊維の配列方向と同一となるように形成されていて、一対の主電極部が対向する方向の伸縮性が制限されるようになっている。導電性ペーストはエポキシ樹脂中に導電性付与材として銀粉末を分散したものを使用している。また、抵抗体5は正抵抗温度特性を有し、エチレン酢酸ビニル共重合体とカーボンブラックの混練物をペースト化したものを、電極4が形成された第1の樹脂層2の面に印刷、乾燥して形成したものである。電極4は、相対向するように幅の広い一対の主電極部と、それぞれの主電極部から交互に相手側の主電極部に向って複数の枝電極部を導出した櫛形形状になっており、これに重なるように配設した抵抗体5に多数の枝電極部より給電すると抵抗体5に電流が流れ発熱する。給電部6は一対の電極4の給電部分に一対形成されている。第2の樹脂層7は、融点120℃の共重合ポリエステルを50μm厚みに成形したものであり、特に、柔軟性と伸縮性に優れたグレードを選定した。第2の繊維層8は、ポリエチレンテレフタレートの長繊維同士を直交方向に絡ませた繊維布を用い、その片方の繊維方向が、第1の繊維層1に存在する長繊維の配列方向と同一となるように形成した。第2の樹脂層7は第2の繊維層8と熱融着によって積層され、被覆材9として形成した。被覆材9は基材3の上に形成された、電極4、抵抗体5、及び給電部6のすべてを被覆するように全体に熱融着によって積層され、基材3の面全体を密封する。第2の繊維層8は、単体では、引張応力によって容易に伸びるが、第2の樹脂層7を含浸させることによって引張強度が増し、復元力も得られるようになる。なお、第1の樹脂層2の融点は、第2の樹脂層7の融点よりも50℃高くなるようなグレードを選定しているために、表面温度150℃ラミネートロールで被覆材9を溶融させ、抵抗体5を形成した基材3に熱融着させた結果、基材3側の熱変形は極めて小さく、実用上問題となるような寸法変化は発生しなかった。
【0040】
また本実施の形態7では、スリット形状からなる応力緩和部11を2ヶ所、枝電極と平行方向に、発熱体を貫通するように配置した。第1の繊維層には、主電極と平行方向に長繊維を補強してあるために、実施の形態2の、第1の繊維層に長繊維が補強されていない場合に比べ、外部応力を加えた場合の耐久性が更に向上し、抵抗値の長期安定化を図ることができる。
【0041】
以上、本実施の形態7で得られる発熱体は特定方向への伸縮が制限されているものの、他の方向への伸縮は自在であるために、3次元曲面の被加熱体への装着が可能である。また、伸縮性が必要とされる方向に伸縮可能な方向を合わせることによって、伸縮性を発揮することができる。また、伸縮するのは発熱体の抵抗値に寄与しない方向であるために、伸縮性と抵抗値の安定性を両立できる。
【0042】
なお、本実施の形態では、第1の繊維層1がポリエチレンテレフタレート繊維を交絡させた不織布とポリエチレンテレフタレートの長繊維を特定方向に配列させた不織布を積層したものを使用し、第2の繊維層8はポリエチレンテレフタレートの長繊維同士を直交方向に絡ませた繊維布を用いているが、第1の繊維層1と第2の繊維層8はこの組み合わせに限定されるものではない。
【0043】
第1の繊維層1は特定方向の伸縮性を制限する作用と緩衝材的な物性を合わせ持つものであるから、これを第2の繊維層8に用いても本実施の形態と同等の作用効果を得ることができる。また第2の繊維層8は、元来の緩衝材的な物性に加えて、樹脂層を含浸させることによって特定方向の伸縮性を制限する物性を合わせ持つことができるものであるから
、第1の繊維層1と第2の繊維層8を共に繊維を交絡させた不織布としても、本実施の形態と同等の作用効果を得ることができる。長繊維を特定方向に配列させた構成を繊維層に含む場合は、含浸しにくい高融点の樹脂層や流動性の低い樹脂層を使用しても、特定方向の伸縮性を制限する物性が得られるという特長があり、印刷後の乾燥工程のように耐熱性を必要とされる基材としての利用価値が高く、繊維を交絡させた不織布のみを繊維層に含む場合は、ラミネート工程で樹脂層を含浸できるので被覆材としての利用価値が高い。
(実施の形態8〜11)
実施の形態8〜11は、それぞれ図3〜6に対応する抵抗体形状及びスリット形状を有し、それ以外の構成部材1〜9は、実施の形態7に示したものと同様の材料、方法により作成した。
【0044】
実施の形態8に対応する図3(a)、(b)では、細長形状の応力緩和部12と楔形形状の応力緩和部13をそれぞれ2つずつ有しており、外部からの応力に対して充分な柔軟性を示し、また主電極と同一方向では伸縮性を制限する効果も併せ持った構成とすることができる。
【0045】
実施の形態9に対応する図4(a)、(b)では、主電極4と抵抗体5の間に応力緩和部14を複数本有し、発熱部となる抵抗体5には分割形状がないことから、枝電極間に印加された電圧は効率良く抵抗体で発熱されるため、省エネかつ、柔軟性、耐久性に優れた発熱体を得ることができる。
【0046】
実施の形態10に対応する図5(a)、(b)では、電極4(主電極と枝電極)及び抵抗体5からなる2組の発熱体が並列に接続され、その発熱体間に細長形状の応力緩和部15を有する。1組の電極部と抵抗体部との間には応力緩和部が存在せず、信頼性に優れ、効率のよい発熱体を得ることができる。
【0047】
実施の形態11に対応する図6(a)、(b)では、応力緩和部以外の部分は実施の形態10と同じ構造を有する。実施の形態11では、短い細長形状の応力緩和部16が2つと、長い細長形状の応力緩和部17を1つ中央に有する形状となっており、発熱体の中央部に外力が加えられ、大きく変形しても長い細長形状の応力緩和部17で緩和することが可能となり、発熱体として最小限度の応力緩和部を設けることにより、充分な強度と柔軟性、さらには充分な耐久性能を合わせ持った発熱体が得られる。
【0048】
実施の形態8〜11に関して、実施の形態1で行ったと同様に、応力緩和部を有さない場合と比較して、外部応力を加えた際の発熱体のしわ発生の様子を観察したが、どの場合も比較例に対し、優れた耐久性を示すことがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0049】
以上のように、本発明にかかる柔軟性PTC発熱体は、外力により変形した応力を容易に緩和するため外力が柔軟性PTC発熱体の全体にまで及ばなくすることが可能になるので、暖房用ヒータとして自動車の座席、ハンドル、その他の暖房を必要とする器具、OA用の椅子やカーシート、マッサージチェアなどの座面や背中面、暖房ウェアの背中面、カーテンなどにも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】(a)本発明の実施の形態1における柔軟性PTC発熱体を示す平面図(b)同断面図
【図2】(a)本発明の実施の形態2,7における柔軟性PTC発熱体を示す平面図(b)同断面図
【図3】(a)本発明の実施の形態3,8における柔軟性PTC発熱体を示す平面図(b)同断面図
【図4】(a)本発明の実施の形態4,9における柔軟性PTC発熱体を示す平面図(b)同断面図
【図5】(a)本発明の実施の形態5,10における柔軟性PTC発熱体を示す平面図(b)同断面図
【図6】(a)本発明の実施の形態6,11における柔軟性PTC発熱体を示す平面図(b)同断面図
【図7】(a)従来の面状発熱体を示す平面図(b)同断面図
【符号の説明】
【0051】
1 第1の繊維層
2 第1の樹脂層
3 基材
4 電極
5 抵抗体
6 給電部
7 第2の樹脂層
8 第2の繊維層
9 被覆材
10〜17 応力緩和部




【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の樹脂層と第1の繊維層を積層してなる基材と、前記基材の前記樹脂層の面に形成されてなる一対の電極と、前記一対の電極の面に形成されるPTC抵抗体と、前記基材と前記電極と前記PTC抵抗体の表面全体を被覆すると共に前記第1の樹脂層に熱融着可能な第2の樹脂層と第2の繊維層を積層してなる被覆材と、前記一対の電極の端部に形成された一対の給電部を有する柔軟性PTC発熱体であって、前記柔軟性PTC発熱体の一部に応力を緩和する複数の応力緩和部を備えた柔軟性PTC発熱体。
【請求項2】
第1の繊維層または第2の繊維層の少なくとも一方が、特定方向に揃って配列した長繊維補強層を含む請求項1記載の柔軟性PTC発熱体。
【請求項3】
電極は、対向した一対の主電極と前記主電極より交互で、かつ相手側に向かって導出した複数の枝電極とを有し、PTC抵抗体の発熱部に形成される主電極を前記長繊維補強層と平行方向となるよう様に形成することによって主電極と同一方向の伸縮性を制限されてなる請求項2記載の柔軟性PTC発熱体。
【請求項4】
複数の応力緩和部がスリット、細長あるいは楔型形状の切れ込みである請求項1〜3のいずれか1項に記載の柔軟性PTC発熱体。
【請求項5】
スリットあるいは細長の切れ込みからなる複数の応力緩和部が、枝電極と平行方向となるように形成されてなる請求項1〜4のいずれか1項に記載の柔軟性PTC発熱体。
【請求項6】
複数の応力緩和部は、外力により大きく変形する柔軟性PTC発熱体の部分に配置した応力緩和部を、前記柔軟性PTC発熱体の他部分の応力緩和部より大きく形成してなる請求項1〜5のいずれか1項に記載の柔軟性PTC発熱体。
【請求項7】
第1の繊維層または第2の繊維層の少なくとも一方が、長繊維を特定方向に揃って配列させた補強層と、繊維交絡によって形成された不織布よりなる請求項1〜6のいずれか1項に記載の柔軟性PTC発熱体。
【請求項8】
第1の繊維層または第2の繊維層の少なくとも一方が、ポリエステル系不織布である請求項1〜7のいずれか1項に記載の柔軟性PTC発熱体。
【請求項9】
第1の樹脂層が、オレフィン系熱可塑性エラストマを含有してなる請求項1〜8のいずれか1項に記載の柔軟性PTC発熱体。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−227830(P2007−227830A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−49649(P2006−49649)
【出願日】平成18年2月27日(2006.2.27)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】