説明

柿渋の発色促進剤

【課題】柿渋を簡便且つ早期に発色させ得る柿渋の発色促進方法を提供すること。
【解決手段】本発明の発色促進剤は、塩基性の水溶性化合物又はその水溶液からなり、柿渋に混合されて用いられる。本発明の柿渋の発色促進方法は、塩基性の水溶性化合物又はその水溶液を柿渋に添加した後、該柿渋を被塗装物に塗装する。また、本発明の柿渋の発色促進方法は、柿渋を被塗装物に塗布した後、その上から塩基性の水溶性化合物の水溶液を塗布するか、被塗装物に塩基性の水溶性化合物の水溶液を塗布した後、その上から柿渋を塗布する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柿渋の発色促進剤、柿渋の発色促進方法及び柿渋塗装物に関する。
【背景技術】
【0002】
木造住宅等の木製建造物における、柱、梁、床材、羽目板、手摺り、カウンター、ドア等や、家具等の多くは、木部の保護や美観の向上を目的に塗装されることが多い。今日、使用されている塗料の殆どは、優れた性能や取り扱いの簡便さのために、石油系の合成樹脂を主成分とした合成塗料である。このような合成樹脂の代表的なものとしては、ラッカー樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、フツ素樹脂、ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂、アクリルシリコーン樹脂等があるが、これらは資源の枯渇問題や地球温暖化ガスの放出問題等の環境問題を抱えている。
また、合成樹脂塗料の溶媒には、主として有機溶媒が用いられており、これらは揮発性有機化合物であるため、シックハウス症候群の一因である可能性が指摘されている。
【0003】
これまでに塗料業界の努力により、これら合成樹脂塗料に含まれる有機溶剤の量を減らし、水性化された水性塗料、もしくは水性エマルジョン樹脂塗料と呼ばれるものが開発、上市されているが、これらにも少なからず有機溶剤は含まれている。また、水性化に伴い生じる種々の問題を解決するために、梼々な化学物質が添加剤として加えられることが多い。
近年、環境保護意識や身近な物質に対する安全意識の高まりから、自然素材を積極的に活用しようとする機運が高まっている。
【0004】
日本の伝統的な自然塗料の一つとして柿渋がある。
柿渋を用いた技術として、製材した木材に柿渋を塗布した後、火炎で焦げ目を付け、更に柿渋を塗布することにより、木材の表面に、年代を経た古代色を呈するような着色を付ける技術が知られている(特許文献1参照)。
【0005】
【特許文献1】特開2003−53707号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
柿渋は、木材、綿、紙などに塗布して乾燥・養生させると、ゆっくりと発色が進行し、数週間から半年以上かけて独特の赤褐色から茶褐色の色を呈するようになる。
この柿渋特有の色合いや質感は、日本建築の歴史において、木材の風合いを引き出す仕上げ方法として親しまれてきた。
しかしながら、近年では、発色が遅いために室内デザインの色合い調整が難しかったり、太陽光の当たる部分のみ発色が先行することが不都合であったり、あるいは、初期からの発色を望み、半年や1年も発色に時間を要するのを待てないといった声も聞かれる。
柿渋を発色させるには、太陽光下に暴露して、紫外線により柿渋成分の呈色を促進させたり、または、紫外線を人工的に照射したり、もしくは、酸化剤を柿渋に予め添加して、酸化させること等が考えられる。しかしながら、太陽光下に暴露したり、人工的に紫外線を照射したりする方法は時間がかかったり、天候に左右されたり、広い場所や専用の設備が必要であったりする上に、発色はそれほど早くはない。また、酸化剤の多くはその成分の安全面に問題があったり、自然塗料の主旨になじまない合成化合物であったりするので、同様にしてふさわしくない。
尚、顔料や染料を加えて着色させることは、柿渋の発色を促進させる本発明の目的にそぐわない。
【0007】
従って、本発明の目的は、柿渋を簡便且つ早期に発色させ得る、柿渋の発色促進剤を提供することにある。
また、本発明の目的は、柿渋を簡便且つ早期に発色させ得る柿渋の発色促進方法を提供することにある。
また、本発明の目的は、早期に色が安定する柿渋塗装物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記問題を解決すべく鋭意検討したところ、塩基性の水溶性化合物を柿渋に添加することにより、発色を促進させ得ることを見い出した。
本発明は、このような知見に基づき、さらに検討を重ねて完成されたものである。
【0009】
本発明は、塩基性の水溶性化合物又はその水溶液からなり、柿渋に混合されて用いられる、柿渋の発色促進剤を提供することにより前記目的を達成したものである(以下、第1発明というときはこの発明をいう)。
【0010】
また、本発明は、塩基性の水溶性化合物又はその水溶液を柿渋に添加した後、該柿渋を被塗装物に塗装することを特徴とする、柿渋の発色促進方法を提供することにより前記目的を達成したものである(以下、第2発明というときはこの発明をいう)。
【0011】
また、本発明は、柿渋を被塗装物に塗布した後、その上から塩基性の水溶性化合物の水溶液を塗布するか、又は、被塗装物に塩基性の水溶性化合物の水溶液を塗布した後、その上から柿渋を塗布することを特徴とする、柿渋の発色促進方法を提供することにより前記目的を達成したものである(以下、第3発明というときはこの発明をいう)。
また、本発明は、前記発色促進方法により得られる柿渋塗装物を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の柿渋の発色促進剤及び発色促進方法によれば、柿渋を簡便且つ早期に発色させることができる。
本発明の柿渋塗装物によれば、早期に色が安定する柿渋塗装物を提供することができる。
尚、本発明においては、染料や顔料を用いる必要がない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明をその好ましい実施形態に基づいて詳細に説明する。
第1発明の柿渋の発色促進剤は、塩基性の水溶性化合物又はその水溶液からなり、柿渋に混合されて用いられる。
第2発明の柿渋の発色促進方法においては、塩基性の水溶性化合物又はその水溶液を柿渋に添加した後、該柿渋を被塗装物に塗装する。
【0014】
本発明における塩基性の水溶性化合物は、柿渋の発色を促進させる発色促進剤として機能する。
発色促進剤として用いる塩基性の水溶性化合物(以下、単に発色促進剤ともいう)は、その水溶液が塩基性を示すものを特に制限なく用いることができる。そのような、塩基性の水溶性化合物の例としては、水酸化ナトリウムに代表されるアルカリ金属の水酸化物と弱酸との塩、水酸化カルシウムに代表されるアルカリ土類金属の水酸化物と弱酸の塩、アミン(アンモニア等)と弱酸の塩等を例示することができる。発色促進剤としては、弱酸とアルカリ金属の塩、弱酸とアルカリ土類金属の塩、又は、弱酸とアミンの塩が好ましい。塩基性の水溶性化合物は、一種を単独で又は2以上を組み合わせて用いることができる。
【0015】
水酸化ナトリウム等の強塩基や炭酸ナトリウム等の比較的塩基性の強い弱塩基でも発色を促進する効果はあるが、これらの塩基、特に強塩基は、十分に希薄な溶液として添加しなければ、柿渋のゲル化や変性沈殿物が生じる。従って、柿渋に加水をしたくない場合等には、これら強塩基や比較的塩基性の強い弱塩基は不都合である。
このような観点から、酢酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、アジピン酸ナトリウム、サリチル酸ナトリウム、リン酸ナトリウム等の弱酸のアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩(但し、水溶液がアルカリ性を示すものに限る)が好ましく、弱酸がカルボン酸又はリン酸である金属塩がより好ましく、特に安全性や価格の観点から酢酸ナトリウムを用いることが好ましい。
【0016】
本発明で用いる柿渋は、柿を搾汁することで得られる液状物を発酵させたものであり、柿渋としては、各種公知のものを特に制限なく用いることができる。市販されている柿渋も好ましく用いることができる。柿の品種、柿渋の発酵年数、発酵に用いられる菌種、柿渋のタンニン含有量、ボーメ度、酸性度、添加物の有無等についても特に制限されない。
好ましく用いられる柿渋の一例としては、品種は天王柿で、発酵年数が半年、タンニン含有量が5%で、酸性度が3〜4のものを挙げることができる。柿渋は、例えば、タンニンの含有割合が0.5〜10重量%、特に1〜5重量%となるように調整して用いることが好ましい。
【0017】
柿渋に対する発色促進剤の添加量は、対象となる柿渋の種類、濃度や含有物によって異なり、一律に規定することはできないが、一例として、柿渋100部に対して、0.1〜10部添加することが好ましく、より好ましくは0.5〜5部、さらに好ましくは1〜3部である。なお、水溶液として添加する場合の発色促進剤の添加量は、溶解前に換算した重量部が、上記の範囲内であることが好ましい。
ここで、「部」は「重量部」である。また、発色促進剤を水溶液として添加する場合の該水溶液の添加量は0.1〜300部とすることが好ましい。
【0018】
発色促進剤は、柿渋に対して粉末等の固体の状態で添加しても良いし、水溶液として添加しても良い。添加後は混合することが好ましい。混合方法は、各種公知の方法を特に制限なく採用することができ、各種の攪拌機やミキサー等を用いることもできるし、容器に柿渋及び発色促進剤を入れた後、該容器を振っても良い。
【0019】
第2発明においては、柿渋に発色促進剤を添加した後、該柿渋を被塗装物に塗装する。被塗装物としては、木材、紙、綿等のセルロース材料が好ましい。木材は、無垢材の他、各種の木質材であっても良い。木質材としては、合板、単板積層材(LVL)、パーティクルボード、MDF等が挙げられる。塗工方法は、木材の塗装において公知の各種の塗工方法を特に制限なく用いることができる。紙としては、和紙やクラフト紙等、各種公知の紙を用いることができる。本発明の柿渋塗装物は、例えば、被塗装物に発色促進剤を添加した柿渋を塗装した後、乾燥させて得られる。乾燥方法としては、木材の塗装等において公知の各種の乾燥方法を特に制限なく用いることができ、例えば、自然乾燥、熱風乾燥等が挙げられる。
【0020】
発色促進剤の添加によって改質された柿渋は、発色性が従来の柿渋と比較して飛躍的に向上しており、所望の程度の柿渋の発色を極めて簡便、且つ、早期に得ることができる。このような効果は、発色促進剤として、例えば酢酸ナトリウムのような人体に対して安全性の高い添加物のみを用いても得ることができる。また、従来の上市されている自然系塗料と異なり、有機溶剤を含ませなくても良く、挿発性有機化合物発生の原因となりにくい。
なお、発色促進剤と柿渋の混合物は、本発明の効果を妨げないことを限度として、pH調整剤や緩衝剤、乾燥を促進させるアルコール、塗膜性能を高める無機充填剤等の他の添加剤を含んでいても良い。
【0021】
第3発明の柿渋の発色促進方法においては、柿渋を被塗装物に塗布した後、その上から塩基性の水溶性化合物の水溶液を塗布するか、被塗装物に塩基性の水溶性化合物の水溶液を塗布した後、その上から柿渋を塗布する。第3発明について特に説明しない点は、第1又は第2発明と同様であり、特に説明しない点は、上述した第1又は第2発明の説明が適宜適用される。
【0022】
(1)柿渋を被塗装物に塗布した後、その上から塩基性の水溶性化合物の水溶液を塗布する場合、水溶液の塗布は、被塗装物に先に塗布した柿渋が、乾燥した状態で行うことが好ましい。
(2)被塗装物に塩基性の水溶性化合物の水溶液を塗布した後、その上から柿渋を塗布する場合、柿渋の塗布は、被塗装物に先に塗布した塩基性の水溶性化合物の水溶液が乾燥した状態で行うことが好ましい。
また、(1)及び(2)のいずれの場合も、水溶性化合物の水溶液中の水溶性化合物の割合は、溶媒である水100部に対して、溶解前の水溶性化合物の重量が0.1〜50部であることが好ましく、0.5〜30部であることが好ましい。
【0023】
第3発明の発色促進方法によっても、柿渋を簡便に且つ早期に発色させることができる。
尚、第2発明は、第3発明に比して塗装作業が一度で済むという利点があり、第3発明は、第2発明に比して塗装後にも発色の調整が可能であるという利点がある。
第3発明の方法により柿渋と塩基性の水溶性化合物の水溶液とを被塗装物に塗布して乾燥させて得られる柿渋塗装物も、本発明の柿渋塗装物の一実施形態である。
【0024】
以上、本発明(第1〜第3発明)の一実施形態について説明したが、各発明は、上記の実施形態に制限されず適宜に変更可能である。
【実施例】
【0025】
次に、実施例により本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明は、かかる実施例によって何ら限定されるものではない。本実施例において「部」は特に明記しない限り「重量部」である。
【0026】
実施例1
〔発色促進剤(弱塩基性の塩)の添加量と発色の程度の関係の検証〕
市販の柿渋((株)トミヤマ製,液状)を用いて、以下の評価を行った。
前記市販の柿渋は、タンニンを5重量%程度含む液状のもので、以下の実施例においては、それを希釈せずに柿渋液として用いた。
柿渋液100部に対して酢酸ナトリウム(固体)を0部、1.5部又は3部添加し、それぞれ充分に混ざり合うまで攪拌した。得られた水溶液を、酢酸ナトリウム(発色促進剤)の添加量が少ない順に水溶液1,2,3とした。
次に、水溶液1、2、3をスギ板に塗布し、自然乾燥させた。この塗布及び乾燥の操作を3回繰返して、各水溶液に対応する柿渋塗装物のサンプルを得た。
各サンプルについて、それぞれの色彩の変化を色彩色差計(ミノルタ社製CR−200)を用いて経時的に測定し、色差ΔEを計算した。
なお、ΔEはL***表色計より、ΔE=〔(ΔL*2+(Δa*2+(Δb*21/2として算出した(ただし、L*:明度、a*、b*:彩度である)。
【0027】
色彩(L*、a*、b*)及びΔEの変化を表1及び図1に示した。
表1及び図1中、「コントロール」は、水溶液1(酢酸ナトリウム添加量0部)を塗布乾燥させて用いて得たサンプルであり、「1.5部」は、水溶液2(酢酸ナトリウム添加量1.5部)を塗布乾燥させて得たサンプルであり、「3.0部」は、水溶液3(酢酸ナトリウム添加量3.0部)を塗布乾燥させて得たサンプルである。
【0028】
【表1】

【0029】
表1から明らかなように、コントロールのサンプルは、色彩の変化が極めて緩慢であった。一方、柿渋に酢酸ナトリウムを添加して得たサンプル(「1.5部」及び「3.0部」)は、添加直後(0日目)こそ3つの試験体において色彩にほとんど差がないものの、添加3日目以降は、酢酸ナトリウムを添加したものにおいて、顕著に明度(L*)が低くなり、同時に彩度(a*、b*)も低下している。すなわち、柿渋の発色(褐色化)が効果的に促進されていると言える。
図1から明らかなように、酢酸ナトリウムをごく少量添加した場合(1.5部)でも十分に発色が促進されており、しかも、従来(コントロール)に比して、極めて短期間に発色が完了している。
尚、酢酸ナトリウム自体は透明の結晶であり、その水溶液もまた無色透明である。また、酢酸ナトリウム水溶液のみを木材などに塗布しただけでは木材は変色しない。したがって、本試験で観察された発色が酢酸ナトリウムの柿渋への作用によって生じる現象であることは明らかである。
また、実施例1において、酢酸ナトリウムを添加した柿渋を塗布乾燥してサンプルの60日経過後の色は、柿渋のみを塗工して得られる従来の柿渋塗装物の長期間経過後の色と同様の色彩を呈し、柿渋特有の赤褐色〜茶褐色の色を発色していた。
【0030】
実施例2
イオン交換水、酢酸ナトリウムをイオン交換水100部に対して1.5部溶解して得た水溶液、及び酢酸ナトリウムをイオン交換水100部に対して3.0部溶解して得た水溶液(順に水溶液1、2、3とする)を、それぞれ、スギ板に塗布し、自然乾燥させた。この操作(塗布及び乾燥)を、3回繰り返した。
次いで、水溶液1〜3を塗工したスギ板の表面が自然乾燥させた状態下に、該各スギ板の前記一面に、市販の柿渋((株)トミヤマ製,液状)を塗布し、自然乾燥させた。この柿渋の塗布及び乾燥の操作を3回繰返して柿渋塗装物のサンプルを得た。
それらのサンプルについて実施例1と同様にして評価を行った。
色彩(L*、a*、b*)及びΔEの変化を表2及び図2に示した。
表2及び図2中、「コントロール」は、水溶液1(酢酸ナトリウム添加量0部)を塗布した後に柿渋を塗布して得たサンプルであり、「1.5部」は、水溶液2(酢酸ナトリウム添加量1.5部)を塗布乾燥させて得たサンプルであり、「3.0部」は、水溶液3(酢酸ナトリウム添加量3.0部)を塗布乾燥させて得たサンプルである。
【0031】
【表2】

【0032】
表2及び図2から判るように、酢酸ナトリウム水溶液を塗布した後に、柿渋を塗布した場合にも、柿渋の発色が効果的に促進された。
【0033】
実施例3
実施例2において、柿渋と水溶液1、2、3の塗布の順序を逆にした以外は、実施例2と同様にして、柿渋塗装物のサンプルを得た。尚、柿渋は、塗布及び自然乾燥を3回繰り返した。また、水溶液1〜3の塗布は3回を行い、その後、自然乾燥した。
得られたサンプルについて実施例1と同様にして評価を行った。
色彩(L*、a*、b*)及びΔEの変化を表3及び図3に示した。
表3及び図3中、「コントロール」は、柿渋を塗布した後に水溶液1(酢酸ナトリウム添加量0部)を塗布して得たサンプルであり、「1.5部」は、柿渋を塗布した後に水溶液2(酢酸ナトリウム添加量1.5部)を塗布して得たサンプルであり、「3.0部」は、柿渋を塗布した後に水溶液3(酢酸ナトリウム添加量3.0部)を塗布して得たサンプルである。
【0034】
【表3】

【0035】
表3及び図3から判るように、酢酸ナトリウム水溶液を塗布した後に、柿渋を塗布した場合にも、柿渋の発色が効果的に促進された。
【0036】
参考例1
〔発色促進剤(強塩基性の塩)の添加量と発色の程度の関係の検証〕
実施例1において、酢酸ナトリウムに代えて水酸化ナトリウム(固体)を、柿渋(液状)100部に対して0部、1.5部又は3部添加する以外は、実施例1と同様にして柿渋塗装物のサンプルを得、それらのサンプルについて実施例1と同様にして評価を行った。
色彩(L*、a*、b*)及びΔEの変化を表4及び図4に示した。
表4及び図4中、「コントロール」は、水溶液1(水酸化ナトリウム添加量0部)を塗布乾燥させて用いて得たサンプルであり、「1.5部」は、水溶液2(水酸化ナトリウム添加量1.5部)を塗布乾燥させて得たサンプルであり、「3.0部」は、水溶液3(水酸化ナトリウム添加量3.0部)を塗布乾燥させて得たサンプルである。
【0037】
【表4】

【0038】
表4及び図4から判るように、発色促進剤として強塩基を用いた場合には、色差変化が小さいが、色彩も小さい。即ち、添加直後に即時的に着色していると言える。また、反応沈殿物ができやすい。
【0039】
参考例2
〔発色促進剤(強めの弱塩基性の塩)の添加量と発色の程度の関係の検証〕
実施例1において、酢酸ナトリウムに代えて炭酸ナトリウム(固体)を、柿渋(液状)100部に対して0部、1.5部又は3部添加する以外は、実施例1と同様にして柿渋塗装物のサンプルを得、それらのサンプルについて実施例1と同様にして評価を行った。
色彩(L*、a*、b*)及びΔEの変化を表5及び図5に示した。
表5及び図5中、「コントロール」は、水溶液1(炭酸ナトリウム添加量0部)を塗布乾燥させて用いて得たサンプルであり、「1.5部」は、水溶液2(炭酸ナトリウム添加量1.5部)を塗布乾燥させて得たサンプルであり、「3.0部」は、水溶液3(炭酸ナトリウム添加量3.0部)を塗布乾燥させて得たサンプルである。
【0040】
【表5】

【0041】
表5及び図5から判るように、発色促進剤として強めの弱塩基を用いた場合には、色差変化が小さいが、色彩もそれなりに小さい。即ち、添加直後に即時的に着色していると言える。また、反応沈殿物ができやすい。
【0042】
比較例
〔中性の塩の添加量と発色の程度の関係の検証〕
実施例1において、酢酸ナトリウムに代えて酢酸アンモニウムを、柿渋(液状)100部に対して0部、1.5部又は3部添加する以外は、実施例1と同様にして柿渋塗装物のサンプルを得、それらのサンプルについて実施例1と同様にして評価を行った。
色彩(L*、a*、b*)及びΔEの変化を表6及び図6に示した。
表6及び図6中、「コントロール」は、水溶液1(酢酸アンモニウム添加量0部)を塗布乾燥させて用いて得たサンプルであり、「1.5部」は、水溶液2(酢酸アンモニウム添加量1.5部)を塗布乾燥させて得たサンプルであり、「3.0部」は、水溶液3(酢酸アンモニウム添加量3.0部)を塗布乾燥させて得たサンプルである。
【0043】
【表6】

【0044】
上記の実施例から明らかなように、塩基性の水溶性化合物、特に酢酸ナトリウムを柿渋に添加ないし接触させることによって、極めて短時間に効果的に柿渋の発色を促進させることができる。これに対し、表6及び図6から判るように、中性の塩では発色が殆ど促進されず、「コントロール」と変わらない。
発色が促進されることによって、柿渋塗装物の色が早期に安定しあるいは変化の傾向が判るため、室内デザインの色合い調整が容易となり、また、需要者の希望される色の柿渋塗装物を早期に提供することができる。また、発色を促進するために操作が容易であり、必要な装置も簡易であるため、色の安定した柿渋塗装物を安価に提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】図1(a)は酢酸ナトリウムの添加量と色差の関係を示すグラフであり、図1(b)は酢酸ナトリウムと色彩の関係を示すグラフである。
【図2】図2(a)は酢酸ナトリウムを塗布した後柿渋を塗布したときの色差の変化を示すグラフであり、図2(b)は酢酸ナトリウムを塗布した後柿渋を塗布したときの色彩の変化を示すグラフである。
【図3】図3(a)は柿渋を塗布した後酢酸ナトリウムを塗布したときの色差の変化を示すグラフであり、図3(b)は柿渋を塗布した後酢酸ナトリウムを塗布したときの色彩の変化を示すグラフである。
【図4】図4(a)は水酸化ナトリウムの添加量と色差の関係を示すグラフであり、図4(b)は水酸化ナトリウムと色彩の関係を示すグラフである。
【図5】図5(a)は炭酸ナトリウムの添加量と色差の関係を示すグラフであり、図5(b)は、炭酸ナトリウムと色彩の関係を示すグラフである。
【図6】図6(a)は酢酸アンモニウムの添加量と色差の関係を示すグラフであり、図6(b)は酢酸アンモニウムと色彩の関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩基性の水溶性化合物又はその水溶液からなり、柿渋に混合されて用いられる、柿渋の発色促進剤。
【請求項2】
塩基性の水溶性化合物又はその水溶液を柿渋に添加した後、該柿渋を被塗装物に塗装することを特徴とする、柿渋の発色促進方法。
【請求項3】
柿渋を被塗装物に塗布した後、その上から塩基性の水溶性化合物の水溶液を塗布するか、又は、被塗装物に塩基性の水溶性化合物の水溶液を塗布した後、その上から柿渋を塗布することを特徴とする、柿渋の発色促進方法。
【請求項4】
前記水溶性化合物が、弱酸とアルカリ金属との塩、弱酸とアルカリ土類金属の塩及び、弱酸とアミンの塩からなる群から選択される一種以上であることを特徴とする請求項2又は3記載の柿渋の発色促進方法。
【請求項5】
前記水溶性化合物が、酢酸ナトリウムであることを特徴とする請求項4記載の柿渋の発色促進方法。
【請求項6】
請求項2〜5の何れかに記載の発色促進方法により得られる柿渋塗装物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−163281(P2008−163281A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−494(P2007−494)
【出願日】平成19年1月5日(2007.1.5)
【出願人】(000183428)住友林業株式会社 (540)
【Fターム(参考)】