説明

核果類果実加工食品の製造方法

【課題】核果類果実加工食品の製造方法およびそれを用いた核果類加工食品を提供する。
【解決手段】本発明の製造方法は、硬核期以前の核果類果実の中果皮に凝固点降下作用を有する保護溶液を浸透させる浸透工程(ステップ101)と、浸透工程ののち、内果皮の凝固点温度以下であり、かつ中果皮の凝固点温度を上回る温度領域において核果類果実を冷凍する一次冷凍工程(ステップ102)と、一次冷凍工程ののち、中果皮の凝固点温度以下の温度領域で核果類果実を冷凍する二次冷凍工程(ステップ103)とを含む。中果皮には保護溶液が浸透しているので冷凍による細胞破壊が抑制されるが、保護溶液が浸透しにくい内果皮については冷凍による細胞破壊が進み、内果皮と中果皮の両者の食感および味付け濃度を均質化することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬核期以前の核果類の果実を用いた加工食品およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
桃等の核果類では、高品質な果実をできるだけ多く収穫するために、摘果による適正結果数の調整が行なわれる。この摘果により摘み取られた果実は、そのまま廃棄される場合もあるが、甘露煮あるいはシロップ煮等の加工食品に加工される場合もある。硬核期以前の核果類の果実では、内果皮の核が硬化して種子となる前の段階であり、内果皮が硬化する初期段階までであれば、中果皮のみならず核を含む内果皮全体についても食用とすることが可能である。例えば、シロップ煮であれば、摘み取った果実に糖液を数日に分けて少量ずつ加えながら内果皮が柔らかくなるまで煮込むことにより、果実全体を食することができるように加工される。
【0003】
しかし、このように時間をかけて煮込むと、製造に時間を要し、効率的ではないという問題があった。また、内果皮が柔らかくなるまで煮込むと、中果皮が柔らかくなりすぎてしまい、果肉の煮崩れが生じやすいという問題や、果実全体としての硬さおよび味付け濃度を調節することができないという問題もあった。一方、煮込み時間が足りないと、中果皮は柔らかくなるものの内果皮が十分に柔らかくならず、食感が悪いばかりか、内果皮への味付けが薄く、中果皮と同程度の味付けにできないという問題もあった。核果類果実では、硬核期以前であっても内果皮の細胞組織にはリグニン等が多く含まれており、中果皮よりもやや硬めであること、また、リグニン等は内果皮の細胞を取り囲むように存在するため調味料の浸透を阻害する要因になっているためである。
【0004】
また、果実を煮込む前に外果皮を剥く工程においては、従来は、果実を加温した水酸化ナトリウム水溶液に浸漬し、その後、水晒しを行ないながら外果皮を洗い流して除去していた。しかし、水酸化ナトリウム水溶液の温度が低いと外果皮が剥けにくく、逆に温度が高すぎると果肉である中果皮が損傷を受けて崩れやすくなるという問題があった。
【0005】
なお、果実の外果皮剥離方法としては、果肉を急速冷凍させたのち、表面のみの氷を溶かしてブラッシング、ハイドロブラッシング、または手剥きにより皮を剥く方法が提案されている(特許文献1参照)。しかしながら、この方法では冷凍および解凍の操作により果肉である中果皮の細胞が損傷を受けやすいため、外果皮を剥いたのち果実を煮込むと果肉の煮崩れが生じやすく、内果皮の硬さが柔らかくなるまで煮込むには相当の時間がかかり、結果として果実全体の食感が低下してしまうので好ましくなかった。
【0006】
一方、果実、野菜、肉、魚介類などの生鮮食品の凍結時に生成する氷結晶による細胞組織の破壊を防止し、解凍後における食品の鮮度や食感を維持する為に、所定成分の水溶液を食品に浸透させてから冷凍する技術が開示されている(特許文献2参照)。しかしながら、内果皮と中果皮の硬さを均質化することにより果実全体の食感を調整する技術については開示されていない。
【0007】
したがって、短時間で中果皮の崩れを防止しつつ内果皮まで柔らかくすることができ、内果皮と中果皮の硬さを均質化することにより果実全体の食感を調整することができる核果類果実加工食品の製造方法の開発が待ち望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭57−118782号公報
【特許文献2】特開2007−53969号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような問題に基づきなされたものであり、その第1の目的は、内果皮と中果皮の両者の硬度および浸透率を均質化することにより、味付け調理による果実全体の歯ごたえ等の食感および味付け濃度の均質化を図ることが可能な、新規な核果類果実加工食品の製造方法、およびそれを用いた核果類果実加工食品を提供することにある。
【0010】
また、第2の目的は、第1の目的に加えて、果肉である中果皮の崩れを抑制しつつ、外果皮を容易に剥くことができる核果類果実加工食品の製造方法、およびそれを用いた核果類果実加工食品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1構成は、硬核期以前の核果類果実の中果皮に、凝固点降下作用を有する保護溶液を浸透させる浸透工程と、浸透工程ののち、核果類果実の内果皮の凝固点温度以下であって、かつ中果皮の凝固点温度を上回る温度領域において核果類果実を冷凍する一次冷凍工程と、一次冷凍工程ののち、中果皮の凝固点温度以下の温度領域で核果類果実を冷凍する二次冷凍工程と、二次冷凍工程ののち、核果類果実を解凍する解凍工程とを含むことを特徴とする。
【0012】
核果類の内果皮の硬さおよび調味料の浸透を阻害する要因は、内果皮に多く存在するリグニンやヘミセルソースによるものである。特に核果類の内果皮に存在するリグニン等は、内果皮の細胞内腔の外側を構成する細胞二次壁や細胞壁同士の層間に存在し、内果皮の細胞同士の接着物質および骨格構造の補強物質として機能して、硬核期以後の核(種子)の外殻形成、硬質化の役割を担っている。硬核期前は内果皮の細胞組織にリグニン等が徐々に蓄積される段階で、中果皮の明らかな硬質化には至っていないがリグニンを含有する内果皮の細胞組織構造のほうが中果皮の細胞組織構造よりも強固で硬い傾向となり、内果皮の食感は中果皮よりも硬く歯ごたえがあるものとなっている。また、内果皮に存在するリグニン等は内果皮の細胞を取り囲むように存在するため、結果として内果皮の全体が中果皮側の細胞組織から隔離されることとなり保護溶液や調味料の浸透を阻害する大きな要因となっている。
【0013】
本発明の浸透工程では、凝固点降下作用を有する保護溶液を中果皮細胞内に浸透させることにより、中果皮の細胞内溶液の凝固点温度を内果皮の細胞内溶液の凝固点温度よりも引き下げることを目的とする。保護溶液としては、生鮮食品類の細胞内溶液の濃度を高めるとともに、保護溶液自体が生鮮食品類の内部に浸透して行き、生鮮食品類の細胞内溶液に対する凝固点降下作用を有するものであればよい。両者の凝固点温度の差は冷凍装置で容易に制御できることが好ましい。
【0014】
一次冷凍工程では、内果皮の細胞内溶液の凝固点温度以下の温度領域まで冷凍することで内果皮の細胞内において氷結晶を成長(肥大化)させて、内果皮細胞のみ物理的な破壊を行なう。内果皮の細胞内における氷結晶の成長を促進する観点からは内果皮の細胞内溶液の凝固点温度を若干下回る温度領域まで徐冷凍することが好ましい。一方、内果皮の細胞内溶液の凝固点温度付近の温度領域では、中果皮の細胞内溶液の凝固点温度には達しておらず中果皮の細胞内溶液が凍結しないため中果皮の細胞破壊は生じない。
【0015】
二次冷凍工程では、中果皮の細胞溶液の凝固点温度以下の温度領域まで冷凍する。中果皮には保護溶液が浸透されているので、中果皮の細胞内における氷の結晶成長が抑制され、中果皮の細胞破壊は抑制される。中果皮の細胞内における氷の結晶成長を抑制し、中果皮の細胞保護を行なう観点からは中果皮の細胞内溶液の凝固点温度以下の温度領域まで急速冷凍することが好ましい。
【0016】
上記浸透工程、一次冷凍工程および二次冷凍工程により、内果皮の細胞組織は破壊され、中果皮の細胞組織は保護されるため、その後の加熱工程、味付け工程などにおいては、内果皮と中果皮の両者の硬度および溶液浸透率が均質化され、果実全体の歯ごたえ等の食感および味付け濃度の均質化が図られることとなる。また、内果皮の内側に存在する胚については内果皮のような硬さはないが、内果皮と同様に保護溶液が浸透しにくいので冷凍による細胞破壊が進むため、加熱工程や調味工程などにより軟化しすぎることはあるが、果実全体に対する胚の容積は小さく果実全体の食感に対する影響はほとんどないことに加え、冷凍工程以降の調理に伴う果実の崩れ(外果皮の破れや果実形状の崩壊など)に影響することはない。解凍工程以降は、通常一般の加熱工程、調味工程などを採用すればよいことになる。
【0017】
本発明の第2構成は第1構成において、更に、前記解凍工程ののち、前記核果類の果実を加熱する加熱工程を含むことを特徴とする。前記解凍工程ののち加熱すれば、内果皮は冷凍による細胞破壊が進んでいるので、加熱により細胞破壊がより促進される一方、中果皮は冷凍による細胞破壊が抑制されているので、加熱による細胞破壊が抑制される。
【0018】
本発明の第3構成は第1構成または第2構成のいずれか1において、前記冷凍工程ののち、冷凍された前記核果類の果実の表面のみを解凍して外果皮を剥く外果皮剥離工程を含むことを特徴とする。冷凍された核果類の果実の表面のみを解凍して外果皮を剥くようにすれば、表面以外は凍っているので、温度の上昇が抑制され、果肉の崩れが抑制される。
【0019】
本発明の第4構成は第1構成から第3構成のいずれか1において、更に、前記解凍工程ののち、または前記解凍工程と共に、前記核果類の果実に調味料を浸透させて味付けをする味付け工程を含むことを特徴とする。
【0020】
本発明の第5構成は第1構成から第4構成のいずれか1に記載の核果類果実加工食品の製造方法により製造される核果類果実加工食品であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、中果皮に保護溶液を浸透させるようにしたので、一次冷凍工程において内果皮を冷凍することにより内果皮の細胞破壊を促進することができると共に、二次冷凍工程において中果皮における氷の結晶成長を抑制することができる。よって、中果皮の崩れを防止しつつ内果皮まで柔らかくすることができ、内果皮と中果皮の食感を均質化することができる。また、製造時間を大幅に短縮することができ、製造効率を向上させることができる。
【0022】
特に、解凍したのち更に加熱するようにすれば、冷凍による細胞破壊が進んでいる内果皮については、加熱により細胞破壊をより促進することができる。一方、中果皮は冷凍による細胞破壊が抑制されているので、加熱による細胞破壊も抑制することができる。よって、内果皮と中果皮の食感を均質化しながら、果実全体の硬さを調整することができる。
【0023】
また、冷凍された核果類の果実の表面のみを解凍し中果皮の解凍を抑制した状態で外果皮を剥くようにすれば、表面以外は凍っているので、果肉の崩れを抑制しつつ、容易に外果皮を剥くことができる。
【0024】
更に、解凍工程ののち、または解凍工程と共に、調味料を浸透させて味付けをするようにすれば、細胞破壊により内果皮の浸透率が中果皮の浸透率に近づいているので、内果皮および中果皮に調味料を同様に浸透させることができる。よって、味付け濃度の均質化を図ることができる。胚についても内果皮と同様に調味料が浸透し、味付け濃度の均質化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】硬核期以前における核果類の果実の構造を表す断面図である。
【図2】本発明の一実施の形態に係る核果類果実加工食品の製造方法における工程を表す流れ図である。
【図3】本発明の実施例と比較例の製造条件と得られた核果類果実加工食品の品質とを対比して表わす図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0027】
本発明の一実施の形態に係る核果類果実加工食品の製造方法は、硬核期以前の核果類の果実を加工した食品を製造するためのものであり、本発明の一実施の形態に係る核果類果実加工食品は、その核果類果実加工食品の製造方法により得られたものである。
【0028】
図1は本発明の一実施の形態に係る核果類果実加工食品の製造方法および核果類果実加工食品において用いる硬核期以前における核果類の果実の構造を表すものである。硬核期以前における核果類の果実は、一番外側に薄い果皮となる外果皮1があり、その中に肥大して果肉となる中果皮2があり、その内部に硬く木質化して核(種子)となる内果皮3があり、内果皮3の内部に胚4がある。核果類としては、桃、梅、スモモ、サクランボ、あんず、オリ―ブ、プルーンなどが挙げられる。なお、梅の場合、完熟した梅には毒性がないが、青梅の核にはアミグダリンという物質が含まれており、これが酵素で分解されると有毒な青酸を生成する。硬核期以前の未熟な梅は核が砕けやすく生で食べると中毒を起こす恐れがあるが、梅酒や梅干にしたり、また、甘露煮などのように熱処理すれば毒性はなくなる。
【0029】
果実の成長は、幼果期(第一肥大期)、硬核期(第二肥大期)、成熟期(第三肥大期)に分かれており、幼果期に細胞分裂が進み、幼果期から硬核期に近づくに従い、内果皮3のリグニン含有率が高くなる。リグニンは木質構造の細胞壁の主成分であり、内果皮3は中果皮2から徐々に隔離される。硬核期では、中果皮2の肥大が遅く、核の成熟期間となり、内果皮3の核が硬化して種子となる。成熟期では中果皮2の容積成長、重量成長が盛んになり、多くの果実では糖度が高まって収穫期となる。
【0030】
核果類の果実の加工食品としては、例えば、甘露煮、ジャム、ハチミツ煮、シロップ煮、醤油煮、佃煮、焼酎漬け等のアルコール漬け、シロップ漬け、酢漬け、醤油漬け、粕漬け、味噌漬け、糠漬け、塩漬け、からし漬け、乾燥果実がある。本発明は、これら例示した加工食品に限らず、いずれの加工食品についても適用することができる。
【0031】
図2は本発明の一実施の形態に係る核果類果実加工食品の製造方法の工程を表すものである。この核果類果実加工食品の製造方法では、まず、硬核期以前の核果類の果実を必要に応じて洗浄したのち、例えば、凝固点降下作用を有する保護溶液に浸漬し、中果皮2に保護溶液を浸透させる(浸透工程;ステップ101)。なお、内果皮3に存在するリグニン等は内果皮3の細胞を取り囲むように存在するため、結果として内果皮3の全体が中果皮2側の細胞組織から隔離されており、内果皮3に保護溶液はほとんど浸透しない。
【0032】
保護溶液としては、凝固点降下作用を有するものであればどのようなものでもよいが、例えば糖液が好ましい。味覚を損ねることがなく、かつ、高い効果を得ることができるからである。保護溶液における溶質の濃度は、例えば5質量%から10質量%程度とすることが好ましい。濃度が低いと中果皮2に保護溶液を浸透させても十分な効果を得ることができず、濃度が高いと中果皮2の細胞内の水分が脱水作用を起こし、形が崩れてしまうことがあるからである。浸透時間は、例えば1時間から10時間程度とすることが好ましく、2時間から6時間程度とすればより好ましく、2時間から3時間程度とすれば更に好ましい。時間が短いと中果皮2に保護溶液を十分浸透させることができず、時間が長いと内果皮3に浸透する保護溶液の量が徐々に多くなって次の冷凍工程における内果皮3の破壊作用が小さくなってしまい、また、製造に要する時間が長くなってしまうからである。
【0033】
次いで、保護溶液を浸透させた核果類の果実を内果皮3の凝固点温度以下であって、かつ中果皮2の凝固点温度を上回る温度領域において冷凍する(一次冷凍工程;ステップ102)。これにより、内果皮3では細胞内溶液が凍って結晶化し、細胞が破壊される。中果皮2は凍らないので細胞破壊は生じない。一次冷凍工程では、徐冷凍とすることが好ましい。結晶を肥大させ、内果皮3の細胞をより破壊させることができるからである。なお、徐冷凍というのは、0℃から−5℃の温度域を30分よりも長い時間をかけて通過させる冷凍方法である。
【0034】
一次冷凍工程ののち、続いて、核果類の果実を中果皮2の細胞内溶液の凝固点温度以下の温度領域で冷凍する(二次冷凍工程;ステップ103)。これにより果実全体が冷凍される。その際、中果皮2には保護溶液が浸透されているので、中果皮2では細胞内溶液が凍ってできる結晶の成長が抑制され、細胞構造が保護される。すなわち、一次冷凍工程および二次冷凍工程により、内果皮3の細胞組織は破壊され、中果皮2の細胞組織は保護された状態で果実全体が冷凍される。二次冷凍工程では、急速冷凍とすることが好ましい。中果皮2における結晶の成長を抑制し、細胞破壊をより抑制することができるからである。なお、急速冷凍というのは、0℃から−5℃の温度域を30分以内で通過させる冷凍方法である。
【0035】
続いて、必要に応じて、例えば、冷凍された核果類の果実の表面のみを解凍し中果皮2の解凍を抑制した状態で外果皮1を剥く(一次解凍工程・外果皮剥離工程;ステップ104)。具体的には、例えば、冷凍したままの核果類の果実を加温したアルカリ性水溶液に浸漬し、核果類の果実の表面のみをアルカリ性水溶液により解凍して溶かす。果実の表面以外は凍っているので果肉の崩れは抑制される。そののち、水に晒して外果皮1を洗い流す。
【0036】
アルカリ性水溶液としては、例えば、水酸化ナトリウム水溶液等の強アルカリ性水溶液が好ましい。アルカリ性水溶液の温度は、例えば、70℃以上沸騰しない温度以下例えば97℃以下の範囲内とすることが好ましい。温度が低いと外果皮1を容易に剥くことが難しく、また、沸騰させると果肉まで解凍させてしまい、外果皮1を剥く際に中果皮2が崩れやすくなるからである。また、アルカリ性水溶液の温度は、80℃以上、更には85℃以上、更には90℃以上とすればより好ましい。中果皮2を溶かさずに短時間でより容易に外果皮1を剥くことができるからである。アルカリ性水溶液の濃度は、例えば、0.5質量%以上10質量%以下の範囲内とすることが好ましい。濃度が低いと外果皮1を容易に剥くことが難しいが、必要以上に濃度を高くしなくてもこの範囲内であれば十分に剥くことができるからである。アルカリ性水溶液を作用させる時間は、例えば、30秒から300秒の範囲内とすることが好ましい。時間が短いと外果皮1を十分に剥くことができず、時間が長いと、中果皮2まで解凍してアルカリで溶けてしまうからである。
【0037】
次いで、例えば、表面のみ解凍されている核果類の果実を常温の水または水溶液に浸漬して果実全体を解凍する(二次解凍工程;ステップ105)。すなわち解凍工程を2段階に分け、外果皮1を一次解凍工程で解凍し、残り全体を二次解凍工程で解凍する。その際、アスコルビン酸などの酸化防止剤を含む水溶液などの酸化防止液を用いることが好ましい。二次解凍工程と共に、中果皮2に酸化防止液を浸透させ、中果皮2の酸化を防止することができるからである(酸化防止工程)。続いて、例えば、必要に応じて果実の頭を切り落とし、柄5を取る(柄取り工程;ステップ106)。そののち、例えば、柄を取った核果類の果実を常温または冷却したアスコルビン酸などの酸化防止剤を含む酸化防止液に再び浸漬して、切り落とした部分の酸化を防止することが好ましい。
【0038】
続いて、必要に応じて、核果類の果実を例えば水または水溶液中において加熱し、果実全体の硬さを調整する(加熱工程;ステップ107)。その際、内果皮3は冷凍による細胞破壊が進んでいるので、加熱により細胞破壊がさらに促進される。また、中果皮2は冷凍による細胞破壊が抑制されているので、加熱による細胞破壊も抑制される。加熱は、水または水溶液が沸騰しない温度に調整することが好ましい。沸騰すると中果皮2が崩れやすくなるからである。加熱温度は、例えば、90℃以上沸点未満、例えば98℃以下に調整することが好ましい。温度が低いと時間がかかり、沸騰すると中果皮2が崩れやすくなるからである。加熱時間は、目的とする硬さ、食感などに応じて異なるが、例えば20分から150分程度でよい。また加熱は、アスコルビン酸水溶液などの酸化防止液中において行なうことが好ましい。中果皮2の酸化を防止することができるからである。また、必要に応じ、果実表面の色彩を留めたい場合には、銅鍋を用いるか、または、銅片を果実と共に水または水溶液中に浸漬させ加熱することが好ましい。銅イオンの作用により葉緑素を銅固定した銅葉緑素とすることができ、色鮮やかな黄緑色に仕上げることができるからである。
【0039】
なお、加熱工程は解凍工程と別に行なうようにしてもよいが、一次解凍工程後の表面のみ解凍されている核果類を水または水溶液中において加熱し、二次解凍と加熱とを連続または一部並行して行なうようにしてもよい。更に、必要に応じて、一次解凍と二次解凍と加熱とを連続または並行して行うようにしてもよい。
【0040】
次いで、必要に応じて、核果類の果実に例えば調味料を浸透させて味付けする(味付け工程;ステップ108)。具体的には、例えば、瓶、缶、樹脂袋、あるいはプラスチック容器などの包装容器に核果類の果実を調味料と共に入れて密封する。その際、内果皮3の浸透率は細胞破壊により中果皮2の浸透率に近づいているので、内果皮3および中果皮2には同様に調味料が浸透する。続いて、例えば、核果類の果実の中心温度が80℃程度になるまで加熱して殺菌したのち、冷却する(殺菌工程;ステップ109)。これにより、核果類果実加工食品が得られる。
【0041】
なお、味付け工程は解凍工程または加熱工程と別に行なうようにしてもよいが、一次解凍工程後の冷凍されている核果類を調味料に浸漬して解凍し、二次解凍と味付けを共に行なうようしてもよく、また、二次解凍した核果類を調理料に浸漬して加熱し、加熱と味付け、または、加熱と味付けと殺菌を共に行なうようにしてもよい。更に、一次解凍工程後の表面のみ解凍されている核果類の果実を調味料に浸漬して加熱し、二次解凍と加熱と味付け、または、二次解凍と加熱と味付けと殺菌とを連続または並行して行なうようにしてもよい。加えて、必要に応じて、一次解凍と二次解凍と味付け、または、一次解凍と二次解凍と加熱と味付け、または、一次解凍と二次解凍と加熱と味付けと殺菌とを連続または並行して行なうようにしてもよい。
【0042】
このように、本実施の形態によれば、中果皮2に保護溶液を浸透させるようにしたので、一次冷凍工程において内果皮3を冷凍することにより内果皮3の細胞破壊を促進することができると共に、二次冷凍工程において中果皮2における氷の結晶成長を抑制することができる。よって、中果皮2の崩れを防止しつつ内果皮3まで柔らかくすることができ、内果皮3と中果皮2の食感、例えば歯ごたえ、硬さ、あるいは弾力性を均質化することができる。また、製造時間を大幅に短縮することができ、製造効率を向上させることができる。
【0043】
特に、解凍したのち更に加熱するようにすれば、冷凍による細胞破壊が進んでいる内果皮3については、加熱により細胞破壊をより促進させることができる。一方、中果皮2は冷凍による細胞破壊が抑制されているので、加熱による細胞破壊も抑制することができる。よって、内果皮3と中果皮2の食感を均質化しながら、果実全体の硬さを調整することができる。
【0044】
また、必要に応じて、冷凍された核果類の果実の表面のみを解凍して中果皮2の解凍を抑制した状態で外果皮1を剥くようにすれば、外果皮1を剥く際の果肉の崩れを抑制しつつ、容易に外果皮1を剥くことができる。
【0045】
更に、解凍工程ののち、または、解凍工程と共に、調味料を浸透させて味付けをするようにすれば、細胞破壊により内果皮3の浸透率が中果皮2の浸透率に近づいているので、内果皮3および中果皮2に調味料を同様に浸透させることができる。よって、味付け濃度の均質化を図ることができる。
【実施例】
【0046】
以下本発明の実施例と比較例の対照について、図3を用いて詳細に説明する。図3は、実施例および比較例の製造条件と得られた核果類果実加工食品の品質とを対比して表したものである。
【0047】
(実施例1−1)
硬核期以前の新鮮な桃の果実を糖度7%の水溶液よりなる保護溶液に常温において2時間から3時間浸漬し、中果皮2に保護溶液を浸透させた(浸透工程;ステップ101)。次いで、保護溶液を浸透させた桃の果実を内果皮3の細胞内溶液の凝固点温度以下であり、中果皮2の細胞内溶液の凝固点温度を上回る温度である−10℃まで、12時間から24時間かけて徐冷凍した(一次冷凍工程;ステップ102)。そののち、中果皮2の細胞内溶液の凝固点温度以下である−23℃以下の雰囲気中において果実全体を冷凍した(二次冷凍工程;ステップ103)。次いで、冷凍された桃の果実を冷凍した状態のまま95℃に加温した0.5質量%から10質量%の濃度の水酸化ナトリウム水溶液に30秒から300秒間浸漬したのち、直ちに桃の果実を水に晒して外果皮1を洗い流した(一次解凍工程・外果皮剥離工程;ステップ104)。そののち、桃の果実を水溶液中において解凍した。(二次解凍工程;ステップ105)、次いで、桃の果実の頭を切り落として柄5を取り除いた(柄取り工程;ステップ106)。次いで、95℃に加熱した水溶液に桃の果実を入れ、必要に応じて時間を調整して20分から150分間加熱した(加熱工程;ステップ107)。続いて、包装容器に桃の果実を糖液よりなる調味料と共に入れ密封し(味付け工程;ステップ108)、桃の果実の中心温度が80℃程度になるまで加熱して殺菌したのち冷却した(殺菌工程;ステップ109)。これにより、核果類果実の加工食品を得た。
【0048】
(実施例1−2)
実施例1−2では、加熱工程(ステップ107)を行なわなかったことを除き、他は実施例1−1と同様にして核果類果実の加工食品を製造した。
【0049】
(比較例1−1)
比較例1−1では、実施例1−1における浸透工程(ステップ101)から二次解凍工程(ステップ105)を行わずに、柄取り工程(ステップ106)、加熱工程(ステップ107)、および味付け工程(ステップ108)のみを行い、核果類果実の加工食品を製造した。具体的には、硬核期以前の新鮮な桃の果実を95℃に加温した0.5質量%から10質量%の濃度の水酸化ナトリウム水溶液に30秒から300秒間浸漬したのち、直ちに桃の果実を水に晒して外果皮1を洗い流した。次いで桃の果実の頭を切り落とし、柄5を取り除いたのち、糖液により沸騰させないようにして4日間煮込んだ。
【0050】
(実施例1−1,1−2と比較例1−1との比較)
実施例1−1では、内果皮3と中果皮2からほぼ均質化した良好な食感と味付け濃度が得られた。また、実施例1−1では内果皮3が柔らかくなっているにもかかわらず中果皮2の崩れは見られなかった。実施例1−2では、全体的に食感が実施例1−1よりも硬かったものの、内果皮3と中果皮2の食感の均質化および味付け濃度の均質化を確認できた。実施例1−2でも中果皮2の崩れは見られなかった。これに対して、比較例1−1では、内果皮3が柔らかくなるまで煮込んでいるので、中果皮2の細胞破壊が過度に進行して食感がかなり柔らかくなってしまい、内果皮3と中果皮2の食感の均質化には至らなかった。また、内果皮3と中果皮2の味付け濃度についても良好な均質化には至らなかった。更に、比較例1−1では中果皮2の崩れが見られた。
【0051】
すなわち、浸透工程(ステップ101)、一次冷凍工程(ステップ102)、および二次冷凍工程(ステップ103)を行なうようにすれば、中果皮2の細胞破壊を抑制しつつ、内果皮3の細胞破壊を促進することができ、内果皮3と中果皮2との食感および味付け濃度の均質化を図ることができることが分かった。
【0052】
また、実施例1−1,1−2を比較すると、加熱工程を行わなかった実施例1−2に比べて、加熱工程を行なった実施例1−1では、内果皮3と中果皮2の食感と味付け濃度をより一層均質化しつつ、果実全体の硬さを調節できることが分かった。
【0053】
(実施例2−1〜2−4)
実施例2−1〜2−4では、浸透工程(ステップ101)において保護溶液を浸透させる時間を変化させたことを除き、他は実施例1−1と同様にして核果類果実の加工食品を製造した。浸透時間は、実施例1−1が2時間から3時間であるのに対して、実施例2−1が1時間から1時間30分、実施例2−2が4時間から6時間、実施例2−3が8時間から10時間、実施例2−4が12時間から14時間とした。
【0054】
実施例2−1〜2−4で製造した核果類果実の加工食品においても、実施例1−1と同様に、内果皮3が柔らかくなっており、内果皮3と中果皮2とでほぼ均質化した食感と味付け濃度が得られ、中果皮2の崩れもほとんど見られなかった。中でも、実施例1−1と実施例2−2は、内果皮3と中果皮2とで食感に全く差がなかった。一方、実施例2−3,2−4では、実施例1−1,2−2−に比べて、内果皮3の食感が若干硬く感じられるものが僅かに見られ、その程度は実施例2−4の方が大きかった。また、実施例2−1では、実施例1−1,2−2に比べて、中果皮2の食感が若干柔らかく感じられるものが僅かに見られた。すなわち、保護溶液を浸透させる時間は、1時間から10時間程度とすることが好ましく、2時間から6時間程度とすればより好ましいことが分かった。また、製造時間の短縮という点からは、浸透工程の時間は2時間から3時間程度で十分であることが分かった。
【0055】
(実施例3−1)
実施例3−1では、一次解凍工程・外果皮剥離工程(ステップ104)における水酸化ナトリウム水溶液の温度を70℃としたことを除き、他は実施例1−1と同様にして核果類果実の加工食品を製造した。
【0056】
実施例3−1で製造した核果類果実の加工食品においても、実施例1−1と同様に、内果皮3が柔らかくなっており、内果皮3と中果皮2とでほぼ均質化した食感と味付け濃度が得られ、中果皮2の崩れは見られなかった。また、実施例1−1は外果皮1が綺麗に剥けたが、実施例3−1では、外果皮1の剥け残りのあるものが僅かに見られた。すなわち、一次解凍工程・外果皮剥離工程におけるアルカリ性水溶液の温度は、70℃以上沸騰しない温度以下の範囲内とすれば、中果皮2の崩れを防止しつつ、容易に外果皮1を剥くことができることが分かった。
【0057】
以上、実施の形態および実施例を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態および実施例に限定されるものではなく、種々変形可能である。例えば、上記実施の形態では、製造工程を具体的に説明したが、全ての製造工程を含んでいなくてもよく、また、他の製造工程を含んでも良い。例えば、果実の種類により外果皮を剥く必要がない場合には、外果皮剥離工程は含まなくてもよく、一次解凍工程と二次解凍工程とに分けずに、果実全体を解凍するようにしてもよい。また、例えば、果実の種類により柄を取る必要がない場合には、柄取り工程は含まなくてもよい。
【0058】
また、上記実施の形態では、一次解凍工程・外果皮剥離工程において外果皮1を剥いたのちに二次解凍工程を行なう場合について説明したが、例えば、冷凍したままの核果類を加温したアルカリ性水溶液に浸透して表面を溶かした一次解凍ののち、水に晒して外果皮1を洗い流す際に、果実の一部または全部を二次解凍するようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0059】
硬核期以前の核果類の果実を加工した加工食品に用いることができる。
【符号の説明】
【0060】
1…外果皮、2…中果皮、3…内果皮、4…胚、5…柄

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬核期以前の核果類果実の中果皮に、凝固点降下作用を有する保護溶液を浸透させる浸透工程と、
前記浸透工程ののち、前記核果類果実の内果皮の凝固点温度以下であって、かつ前記中果皮の凝固点温度を上回る温度領域において前記核果類果実を冷凍する一次冷凍工程と、
前記一次冷凍工程ののち、前記中果皮の凝固点温度以下の温度領域で前記核果類果実を冷凍する二次冷凍工程と、
前記二次冷凍工程ののち、前記核果類果実を解凍する解凍工程と
を含むことを特徴とする核果類果実加工食品の製造方法。
【請求項2】
更に、前記解凍工程ののち、前記核果類の果実を加熱する加熱工程を含むことを特徴とする請求項1記載の核果類果実加工食品の製造方法。
【請求項3】
前記冷凍工程ののち、冷凍された前記核果類の果実の表面のみを解凍して外果皮を剥く外果皮剥離工程を含むことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の核果類果実加工食品の製造方法。
【請求項4】
更に、前記解凍工程ののち、または前記解凍工程と共に、前記核果類の果実に調味料を浸透させて味付けをする味付け工程を含むことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1に記載の核果類果実加工食品の製造方法。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1に記載の核果類果実加工食品の製造方法により製造されることを特徴とする核果類果実加工食品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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