核酸の分析方法
【課題】一塩基の変異を簡便な操作で迅速且つ高精度で検出する。
【解決手段】標的塩基配列を含む核酸4をLCR反応に供して増幅し、得られたLCR反応生成物16を、LAMP反応する。LCR反応液6中のLCRプライマーセット10およびLAMP反応液26中のLAMPプライマーセット20は、好ましくは所定の濃度に設定する。LCR反応生成物26をLAMP反応に供することで、加熱と冷却とを繰り返すLCR反応のサイクル数を減らすことができ、また、加熱と冷却が不要なLAMP反応でリアルタイム測定によらずに高精度で変異を検出できる。このため、2本鎖DNAを分析する場合でも、加熱−冷却操作の工数を減らし、リアルタイム測定によらない高精度分析ができる。
【解決手段】標的塩基配列を含む核酸4をLCR反応に供して増幅し、得られたLCR反応生成物16を、LAMP反応する。LCR反応液6中のLCRプライマーセット10およびLAMP反応液26中のLAMPプライマーセット20は、好ましくは所定の濃度に設定する。LCR反応生成物26をLAMP反応に供することで、加熱と冷却とを繰り返すLCR反応のサイクル数を減らすことができ、また、加熱と冷却が不要なLAMP反応でリアルタイム測定によらずに高精度で変異を検出できる。このため、2本鎖DNAを分析する場合でも、加熱−冷却操作の工数を減らし、リアルタイム測定によらない高精度分析ができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、標的遺伝子配列を含む核酸を増幅して塩基配列を分析する核酸の分析方法に関し、特に標的遺伝子配列の塩基配列変異の有無を検出する分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
核酸の遺伝子領域における塩基配列の変異は、様々な体質の違いを生じる原因とされる。このため、特に医療分野を中心に、薬剤投与の効果や安全性を高める目的、あるいは特定の疾病にかかりやすいか否かを判断する目的等で、遺伝子領域における塩基配列の変異の有無を検出する分析が行なわれている。
【0003】
こうした変異の検出方法の一つに、リガーゼ連鎖反応(Ligase Chain Reaction:以下、「LCR反応」)と呼ばれる反応を利用する方法がある(非特許文献1)。LCR反応では、分析に供するデオキシリボ核酸(DNA)に相補的な塩基配列を有する1対のオリゴヌクレオチド(以下、「オリゴDNA」)を、僅かな隙間を有する状態で隣接させ、隣り合った一対のオリゴDNA同士をリガーゼにより連結する。LCR反応液は、分析対象とする1本鎖DNA(例えば、2本鎖DNAを分析する場合はセンス鎖またはアンチセンス鎖)に相補結合して互いに隣り合うように設定された2つのオリゴDNAおよび耐熱性リガーゼとを少なくとも含む。
【0004】
2つのオリゴDNAの一方(以下、「5’側オリゴDNA」)は、1本鎖DNAの標的遺伝子の5末端側領域と相補的に結合し、他方(以下、「3’側オリゴDNA」)は3末端側領域と相補的に結合する。このとき、5’側オリゴDNAと3’側オリゴDNAとは、両者の間にわずかな隙間を挟んで隣り合う状態で鋳型となる1本鎖DNAと相補的に結合するように設定されている。鋳型DNAの塩基配列に変異がなければ、5’側オリゴDNAと3’側オリゴDNAの両方が鋳型DNAと結合して、両者の間がリガーゼにより連結され増幅産物が得られる。変異がない場合、得られた増幅産物を鋳型として上記一連の反応が繰り返されるので、標的塩基配列部分が増幅された増幅産物が指数関数的に増加する。
【0005】
一方、鋳型DNAの標的塩基配列に変異があると、5’側オリゴDNAと3’側オリゴDNAの少なくともどちらか一方が鋳型である1本鎖DNAと完全には結合しない。このため、5’側オリゴDNAと3’側オリゴDNAとは連結されず、増幅反応が繰り返されないため、標的塩基配列に変異があるDNAは増幅されない。
【0006】
2本鎖DNAを分析する場合、LCR反応液は、一般には、2組4種類のオリゴDNA(第1の5’側オリゴDNAと第1の3’側オリゴDNA、および第2の5’側オリゴDNAと第2の3’側オリゴDNA)を含む。第1の5’側オリゴDNAと第1の3’側オリゴDNAとは、2本鎖DNAの一方(センス鎖)の標的塩基配列部分に相補的に結合する塩基配列を有するように設定されている。また、第2の5’側オリゴDNAと第2の3’側オリゴDNAは、2本鎖のDNAの他方(アンチセンス鎖)の標的塩基配列部分に相補的な塩基配列を有し、センス鎖、およびアンチセンス鎖について上記反応が生じる。
【0007】
このようにLCR法では、標的塩基配列に変異があれば、本来、増幅反応が繰り返されないため変異が検出できる。しかしLCR法では、オリゴDNA同士が平滑末端において連結するという、鋳型の存在に依存しない非特異的連結が生じる場合があるため、LCR法単独での変異の検出精度は必ずしも高くない。
【0008】
一方、拡散の標的塩基配列を増幅する方法としてLAMP法(Loop-Mediated Isothermal Amplification)が知られており(特許文献1、非特許文献2)、LAMP法を利用した変異検出法も提案されている(特許文献2、特許文献3)。LAMP法では、少なくとも2種類のインナープライマー(第1のインナープライマーと第2のインナープライマー)、2種類のアウタープライマー(第1のアウタープライマーと第2のアウタープライマー)、および鎖置換型DNAポリメラーゼが用いられる。インナープライマーは、該プライマーから伸長した部分の末端に当該プライマーと相補的な配列が含まれるように設計され、インナープライマーを起点として伸張した1本鎖(第1の伸長生成物)はループ構造を形成できる。
【0009】
すなわち、図6において符番35で示す第1の伸長生成物は、一方の末端側にインナープライマーを含んでおり、このインナープライマーから伸長された部分は該プライマーと相補的な配列の末端を有する。そして、アウタープライマーがインナープライマーよりさらに上流に結合し、その伸長生成物が生成される過程で第1の伸長生成物35が鋳型核酸から剥されて1本鎖にされると、この末端が該プライマー由来の部分と相補結合してループを形成する(図6(b)参照)。一方のインナープライマー(例えば第1のインナープライマーFIP)を起点として伸長された第1の伸長生成物35は、他方のインナープライマー(第2のインナープライマーBIP)を起点とする伸長反応の鋳型となり、第2の伸長生成物36が得られる(図6(c)参照)。第2の伸長生成物36の両端にはループが形成され、ループを起点とする更なる伸長反応が生じる(図6(d)参照)。
【0010】
このように、LAMP法では鎖置換型DNAポリメラーゼにより、2本鎖が剥されながら複数の位置から伸長反応と増幅反応とが同時に進行する。このため、LAMP法では核酸の増幅は超指数関数的に起こり、しかも等温条件下で反応が起こるため、2本鎖DNAを解離させるために加熱と冷却を繰り返す必要がない。
【0011】
このようなLAMP法を利用した変異検出法では、検出すべき変異部位を含む領域を有するインナープライマーを用いる(特許文献2参照)。分析対象とする核酸に変異がなければ場合、インナープライマーを起点として伸長された伸長生成物には、変異を含む領域と相補的な塩基配列が生成されないので、このような伸長生成物を解離させて1本鎖にしてもループは形成されない。このためLAMP反応はそれ以上、進行しない。一方、分析対象とする核酸が変異を含んでいる場合は、インナープライマーを起点として伸長された伸長鎖を1本鎖にするとループが形成され、超指数関数的な増幅が起こる。よって、LAMP反応の結果生じた生成物の量を測定することから、変異の有無を検出できる。
【特許文献1】国際公開第WO00/29082号パンフレット
【特許文献2】国際公開第WO01/34838号パンフレット
【特許文献3】特開2003−159100号公報
【非特許文献1】Barany F.(1991)、Genetic disease detection and DNA amplification using cloned thermostable ligase、Proc. Natl. Acad. Sci. USA.;88(1)、189−193
【非特許文献2】Notomi T. et al.(2000)、Loop-mediated isothermal amplification of DNA、Nucleic Acid Research;28(12)、e63
【非特許文献3】Iwasaki M. et al.(2003)、Validation of the Loop-Mediated Isothermal Amplification Method for Single Nucleotide Polymorphism Genotyping with Whole Blood、Genome Letters 2(3)、119−126
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
LAMP法は、本来はプライマーの位置選択に余裕があるため、高特異性での増幅有無の検証が可能であり、所定の時間、LAMP反応を行うことにより得られた最終産物(以下、「LAMP反応生成物」)を測定することで増幅の有無を判定できる。しかし、変異検出用として設計されるインナープライマーは、塩基の一つが野生型用のインナープライマーと異なっている他は野生型用のプライマーとほぼ同じであり、しかも異なる部位は末端塩基に限られるため、非特異的増幅が生じる可能性が高い。このため、変異検出精度を高めるためにはリアルタイム測定が推奨される。
【0013】
リアルタイム測定は定量性には優れるが、分析に供する試料中に含まれる鋳型となる核酸の量が重要であり、試料中にある程度の量の核酸が含まれていることが必要である上、ダイナミックレンジは低い。
【0014】
さらに、LAMP反応を行う場合に推奨される条件は、濃度測定を行なった精製ゲノムを使用することが推奨される。これに対し、本発明者が非特許文献3を参考にして未精製血液を試料としてLAMP反応を行なったところ、変異の検出が不可能であることが判明した。このため、未精製血液が使用できない場合、臨床現場でLAMP反応を利用した分析を行うことは困難となる。
【0015】
本発明は、上記課題に対し、非特異的増幅を抑制して高精度で塩基変異の有無を検出できる核酸の分析法を提供することを目的とする。特に、LCR反応とLAMP反応とは互いに干渉しあうおそれがあるのに対し、本発明は、LCR法とLAMP法とのそれぞれの長所を引き出すことにより、上記課題を解決することを目的とする。また、本発明は、LAMP反応を利用して未精製血液を試料とする変異検出を可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の請求項1に係る発明は、標的塩基配列を含む核酸の分析方法であって、前記核酸を有する試料とLCR反応用のLCRプライマーセットとを含むLCR反応液中でLCR反応を行ってLCR反応生成物を生成させ、前記LCR反応生成物を、LAMP反応用のLAMPプライマーセットが含まれたLAMP反応液中でLAMP反応させる分析方法である。
【0017】
本発明では、LCR法により増幅した増幅産物をLAMP法の鋳型とする。具体的には、所定の範囲の温度、時間での加熱処理を行った後、所定の範囲の温度とする冷却操作を行い所定範囲の時間、連結反応を行う操作を1サイクルとして、10〜30サイクル程度を繰り返すLCR反応の結果得られた増幅産物を含む液状物(LCR反応生成物)をLAMP反応に供する。
【0018】
本発明の請求項2に係る発明は、前記LCR反応生成物を熱変性処理することなく前記LAMP反応させる請求項1に記載の核酸の分析方法である。
【0019】
LAMP法では、従来、2本鎖DNAを分析対象とし、これを鋳型とする場合は、2本鎖DNAを1本鎖にしてインナープライマーが結合できるように、2本鎖DNAを熱変性させる処理が必要である。ここで、LCR反応では、LCR反応の鋳型とする2本鎖DNAのそれぞれに対する連結反応は同等ではなく、どちらか一方の1本鎖はもう一方の1本鎖より合成量が多くなる。一方の1本鎖より多く合成され標的遺伝子配列を含む増幅産物は、1本鎖の状態でLCR反応生成物に含まれる。本発明では、このようなLCR反応生成物をLAMP反応に供するので、1本鎖の状態で存在し標的遺伝子配列を含むLCR反応の増幅産物をLAMP反応の鋳型とできる。よって、LAMP反応工程において熱変性処理を省略でき、操作を簡便かつ迅速にできる。
【0020】
本発明の請求項3に係る発明は、前記LCR反応液中の前記LCRプライマーセットの濃度、および前記LAMP反応液中の前記LAMPプライマーセットの濃度が所定の範囲に調整されている請求項1に記載の核酸の分析方法である。
【0021】
LCR反応生成物には、LCR反応の結果得られた増幅産物以外にLCR反応用のプライマーが含まれる場合がある。LCR反応生成物中にLCR反応用のプライマーが残存する場合、LAMP反応が適正に進行しないおそれがある。これに対し、LCR反応を行う際に用いる、複数種類のプライマー(LCRプライマーセット)の濃度を所定の範囲にするとよい。同様に、LAMP反応を行う際に用いる、複数種類のプライマー(LAMPプライマーセット)の濃度も所定の範囲にするとよい。このように、LCR反応およびLAMP反応に用いるプライマーの濃度を所定の濃度に調整することで、LCR反応とLAMP反応とが互いに干渉するおそれを回避できる。
【0022】
本発明の請求項4に係る発明は、前記LCR反応液中の前記LCRプライマーセットの濃度は、0.1μM以上0.5μM以下である請求項3に記載の核酸の分析方法である。
【0023】
本発明の請求項5に係る発明は、前記LAMPプライマーセットは、インナープライマーセットを少なくとも含み、前記LAMP反応液中の前記インナープライマーセットの濃度は、0.2μM以上1.0μM以下である請求項3または4に記載の核酸の分析方法である。
【0024】
本発明の請求項6に係る発明は、前記LAMPプライマーセットは、ループプライマーとアウタープライマーとをさらに含み、前記LAMP反応液中の前記ループプライマーの濃度は、0.1μM以上0.5μM以下であり、前記アウタープライマーの濃度は、0μM以上0.1μM以下である請求項5に記載の核酸の分析方法である。
【0025】
本発明の請求項7に係る発明は、前記LCR反応は、94℃の温度条件で30秒間の熱変性処理を行なった後65℃以上70℃以下の温度条件で10秒以上30秒間以下の連結反応を行なう処理を1サイクルとし、該LCR反応のサイクル数は30サイクル以下である請求項1から6のいずれかに記載の核酸の分析方法である。
【0026】
本発明の請求項8に係る発明は、前記LAMPプライマーセットは、インナープライマーセットと、ループプライマーとを少なくとも含み、前記LCR反応のサイクル数は10サイクル以上25サイクル以下である請求項7に記載の核酸の分析方法である。
【0027】
上述したとおり、従来、LAMP反応を行なうためには2種類のインナープライマーと2種類のアウタープライマーとが必要であった。しかし、本発明者による研究の結果、LCR反応生成物を鋳型としてLAMP反応を行なう場合は、アウタープライマーが省略可能なことが判明した。よって、本発明によればLAMP反応に要するプライマーの種類を減らすことができる。
【0028】
本発明の請求項9に係る発明は、前記LAMP反応を行なう反応時間は、30分以下である請求項1から8のいずれかに記載の核酸の分析方法である。
【0029】
本発明では、LCR反応とLAMP反応を組み合わせることにより、LCR法単独で変異を検出する場合に必要なサイクル数より少ないサイクル数でLCR反応を終了できる。よって、分析に要する時間を短縮できる。
【0030】
本発明の請求項10に係る発明は、前記標的塩基配列は、変異部位を含み、前記第LAMP反応による増幅産物の有無を調べることにより、前記核酸の変異の有無を検出する請求項1から9のいずれかに記載の核酸の分析方法である。
【0031】
従来、LAMP法単独で塩基配列の変異の有無を検出する場合は、高い精度を得るためにはリアルタイム測定が必要であり、蛍光検出法を用いたリアルタイム測定により、LAMP反応による増幅の有無を調べていた。本発明ではLCR反応生成物を鋳型としてLAMP反応を行うため、最終産物を調べることで増幅の有無を判断して変異の有無を検出できる。このため、リアルタイム測定は必要でなく、蛍光検出法以外、例えば電気泳動法等で増幅有無を検出できる。
【0032】
本発明の請求項11に係る発明は、前記試料は、2×10〜2×103ヒト・ゲノム/μLを含む請求項1から10のいずれかに記載の核酸の分析方法である。
としたものである。
【0033】
本発明の請求項12に係る発明は、前記試料中の核酸は、精製されていない、またはゲノム濃度測定されていない請求項1から11のいずれかに記載の核酸の分析方法である。
【0034】
本発明の請求項13に係る発明は、前記試料は、純水で希釈した未精製血液である請求項1から12のいずれかに記載の核酸の分析方法である。
【0035】
本発明の請求項14に係る発明は、前記試料は、純水による希釈倍率が10倍である請求項13に記載の核酸の分析方法である。
【0036】
本発明では、リアルタイム測定を行なわずとも高精度でLAMP反応を利用した塩基の変異有無を検出できる。このため、精製していない核酸、および濃度を測定していない核酸を試料として分析に供することができ、例えば未精製の血液を純水に希釈するだけで変異の有無を検出できる。
【発明の効果】
【0037】
本発明によれば、核酸の塩基配列の変異の有無を、高精度で、しかも短時間で分析できる。また本発明によれば、ゲノムの精製や濃度測定を行わずに塩基配列の変異の有無を分析でき、未精製の血液を純水に希釈しただけで分析できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
以下、図面を参照して本発明について詳細に説明する。以下において、同一部材には同一符号を付し、説明を省略または簡略化する。
【0039】
本発明は、核酸の遺伝子領域の一部を標的塩基配列とし、この標的塩基配列の特定部分の変異の有無を分析するものとする。分析対象とするゲノムは、精製されたゲノムである必要はなく、ゲノムの濃度が測定されている必要もない。このため、例えば、未精製血液を純水に5〜15倍程度、特に10倍希釈し、これを試料として本発明に係る分析試料とできる。
【0040】
分析対象は核酸を含み、LCR反応でこの核酸を増幅した後、LCR反応により得られた増幅産物を含む反応生成物をLAMP反応に供する。そこで、まず、LCR反応を行う工程(LCR工程)について説明する。
【0041】
《LCR工程》
図1および図2は、本発明の一実施態様に係る分析方法においてLCR工程を説明する模式図である。まず、図1(a)に示すように、符号4で示す分析対象とする2本鎖DNAを、LCRプライマーセット10、および耐熱性リガーゼ2を含むLCR反応液6に混合する。図1(b)に、2本鎖DNA4、およびLCRプライマーセット10を構成する4種類のオリゴDNAの模式図を示す。本実施態様では、2本鎖DNAの遺伝子領域のうち、図1(b)においてXで示す領域の塩基配列を標的塩基配列とし、破線で囲った座位の変異の有無を分析するものとする。
【0042】
2本鎖DNA4は、94℃〜99℃程度で10秒〜120秒間、加熱処理することで熱変性させ、図2(a)に示すように2本鎖を解離させる。加熱処理時間は20秒〜40秒、特に25秒〜35秒とすることが好ましい。次いで熱処理したLCR反応液6を50℃〜70℃程度に冷却すると、2本鎖DNA4が解離して得られた1本鎖の一方であるセンス鎖4(+)、および他方であるアンチセンス鎖4(−)に、LCRプライマーセット10として添加されたオリゴDNAがハイブリダイズする。冷却による連結反応は、65℃以上70℃以下の温度条件で30秒〜60秒、特に30秒間行うとよい。
【0043】
LCRプライマーセット10は、第1のオリゴDNA対としてセンス鎖4(+)の標的塩基配列と相補的な配列を有する2つのオリゴDNA(第1の3’オリゴDNAと第1の5’オリゴDNA)を含んでいる。LCRプライマーセットは、第2のオリゴDNA対として、アンチセンス鎖4(−)の標的塩基配列と相補的な配列を有する1対のオリゴDNA(第2の3’オリゴDNAと第2の5’オリゴDNA)をさらに含む。以下、第1のオリゴDNA対をそれぞれ「3’オリゴDNA」「5’オリゴDNA」と記載し、第2のオリゴDNA対はそれぞれ「3’オリゴDNAc」「5’オリゴDNAc」と記載する。
【0044】
これらのオリゴDNAのうち、3’オリゴDNAと5’オリゴDNAとは、センス鎖4(+)の標的塩基配列と相補的な塩基配列を有し、センス鎖4(+)にハイブリダイズした際、互いにわずかな隙間を有する状態で隣接するように設計されている。一方、3’オリゴDNAcと5’オリゴDNAcとは、アンチセンス鎖4(−)の標的塩基配列と相補的で、互いにわずかな隙間を有して隣接した状態で、この1本鎖4(−)にハイブリダイズするように設計されている。
【0045】
よって、本実施態様では、センス鎖4(+)の標的塩基配列領域に、3’オリゴDNAと5’オリゴDNAがハイブリダイズし、両者は互いにわずかな隙間を有した状態で隣接する。同様に、3’オリゴDNAcと5’オリゴDNAcとは、アンチセンス鎖4(−)の標的塩基配列領域にハイブリダイズして、わずかな隙間を挟んで隣接する(図2(b)参照)。
【0046】
センス鎖4(+)の標的塩基配列に変異がなければ、3’オリゴDNAと5’オリゴDNAとは、センス鎖4(+)の標的塩基配列にハイブリダイズし、耐熱性リガーゼ2が3’オリゴDNAと5’オリゴDNAとの間の隙間を連結し、LCR反応による増幅産物である連結産物15が得られる(図2(c)参照)。
【0047】
LCR工程は、2本鎖を解離させる加熱操作と、加熱処理後の反応液を冷却してハイブリダイズおよび連結反応を行なわせる操作とを1つのサイクルとし、このサイクルを10〜60サイクル、好ましくは20〜30サイクル、特に好ましくは23サイクル繰り返す。連結産物は、次のサイクルにおける鋳型となるため、上記反応を繰り返すことで、標的塩基配列をコピーしたLC連結産物15が指数関数的に増幅され(図3(a)参照)、連結産物15を含むLCR反応生成物16が得られる(図3(b)参照)。LCR工程は、全体で(すなわち23サイクル行う場合は第1サイクル開始から第23サイクル終了まで)30分以内でよい。
【0048】
なお、LCRプライマーセット10は、2本鎖DNA4の少なくともどちらか一方の1本鎖上の標的塩基配列とハイブリダイズするように設計された1対2種類のオリゴDNAを含んでいればよい。すなわち、本実施態様における第1のオリゴDNA対(3’オリゴDNAと5’オリゴDNA)または第2のオリゴDNA対(3’オリゴDNAcと5’オリゴDNAc)のどちらか一方を含んでいればよい。
【0049】
LCRプライマーセット10の各オリゴDNAは、0.1μM以上0.5μM以下の濃度でLCR反応液6に含有させることが好ましく、0.2μM程度の濃度とすることがさらに好ましく、特に0.25μMを最適濃度とする。
【0050】
LCR反応では、DNA4の標的塩基配列に変異があると、LCRプライマーセット10として添加されたオリゴDNAは標的塩基配列領域にハイブリダイズしない(図3(c)参照)。このため、標的塩基配列上で隣り合う3’オリゴDNAと5’オリゴDNA(または3’オリゴDNAcと5’オリゴDNAc)とは、本来、連結されず、連結産物が得られない。このため、変異があればLCR反応を行っても本来は標的塩基配列が増幅されない。
【0051】
しかし、オリゴDNAの平滑末端において非特異的連結が生じて増幅が生じることがあるため、LCR法単独で変異を検出する場合の精度は必ずしも高くない。そこで、本発明では、LCR反応により得られた連結産物をLAMP法の鋳型として用いることで一塩基変異の検出精度を向上させる。以下、LAMP反応を行う工程(LAMP工程)について説明する。
【0052】
《LAMP工程》
LAMP工程ではLAMP反応に用いるプライマーとして、少なくとも2種類のインナープライマーを含むLAMPプライマーセット20を用いる。具体的には、LAMPプライマーセット20は、一対のインナープライマーFIPおよびBIPを少なくとも含む。LAMPプライマーセット20はさらに、少なくとも一つのループプライマー(ループプライマーFLPまたはBLP)を含むことが好ましい。またLAMPプライマーセット20は、少なくとも一つのアウタープライマー(アウタープライマーFOPまたはBOP)をさらに含んでもよい。LAMPプライマーセット20は、LAMP反応液26中で、鎖置換型DNAポリメラーゼ12の存在下、LCR反応生成物16と混合する(図4参照)。
【0053】
第1のインナープライマーFIPおよび第2のインナープライマーBIPは、5’側がループ構造を形成するように構成されている。これら一対のインナープライマーFIP、BIPのどちらか一方、または両方が標的塩基配列における変異の有無をチェックするチェックプライマーとして機能するように設計されている。チェックプライマーは、標的塩基配列の変異が存在しうる特定の領域の塩基配列と予測される塩基配列を含むように設計され、変異があればループ構造を形成しないことによって変異の有無をチェックする。
【0054】
図5および図6を用いてLAMP反応の概要を説明する。図5(a)は、前記LCR反応により得られた連結産物15を模式的に示している。本発明では、図4に示すように連結産物15を含むLCR反応生成物16をLAMP反応に供する。LCR反応生成物16は、変異が存在しうる座位を含む領域を標的塩基配列として増幅された連結産物15を含み、連結産物15は変異が存在しうる特定の領域(変異領域)を含む。連結産物15の標的塩基配列を含む領域の3’側にある一部の領域を、標的塩基配列の3’側を規定する領域(第1規定領域)F2とする。また、標的塩基配列を含む領域の5’側にある一部の領域を、標的塩基配列の5’側を規定する領域(第2規定領域)B2とする。変異が存在しうる領域は、第1規定領域F2と第2規定領域B2との間に位置し、以下、この領域を変異領域と称する。
【0055】
なお、LCR工程では2本鎖DNAが合成されており、2本鎖DNAの一方の鎖(センス鎖)上の第1規定領域F2に対し、他方の鎖(アンチセンス鎖)上にあって第1規定領域F2の塩基配列と予測される配列と相補的な塩基配列を有する領域をアンチ第1規定領域F2cと記載する。以下、同様とし、センス鎖上の第2規定領域B2の塩基配列と予想される配列と相補的な塩基配列を有する領域をアンチ第2規定領域B2cと記載する。図面では、センス鎖に符号15(+)を、アンチセンス鎖に符号15(−)を付すが、文中では表記を簡潔にするためこれらについては符番の記載を省略する。
【0056】
第1のインナープライマーFIPをチェックプライマーとする場合、センス鎖における第1規定領域F2は、変異領域F1の5’側の隣にある領域とし、第1のインナープライマーFIPがセンス鎖の第1規定領域F2にハイブリダイズするように設定する。具体的には、第1のインナープライマーFIPは、3’側に第1規定領域F2の塩基配列と予測される塩基配列と相補的な塩基配列で構成されたアンチ第1規定領域F2cを有する。また、第1のインナープライマーFIPは、5’側に変異領域F1の塩基配列と予測される塩基配列で構成された変異領域F1を有するように設計されている。
【0057】
よって、LCR反応生成物15と前記第1のインナープライマーFIPとを混合して65℃付近の温度条件下でインキュベートすると、2本鎖DNAが動的平衡状態となることにより、第1のインナープライマーFIPのアンチ第1規定領域F2c部分が、センス鎖の第1規定領域F2にハイブリダイズする(図5(b)参照)。LAMP工程では、反応液中に鎖置換型のDNAポリメラーゼ12が含まれており、センス鎖にハイブリダイズした第1のインナープライマーFIPの3’を起点としてセンス鎖と相補的なDNA鎖(第1の伸長生成物)35が合成される(図5(c)参照)。
【0058】
本実施態様では、LAMPプライマーセット20は、一対のアウタープライマーFOP、BOPであるアウタープライマーセットを含んでいる。アウタープライマーFOP、BOPはそれぞれ、鎖置換型DNAポリメラーゼの働きにより、各インナープライマーFIP、BIPにより合成された伸長生成物35を鋳型DNAから剥しながら伸長反応を行うように設計されている。具体的には、第1のアウタープライマーFOPは、センス鎖の第1規定領域F2の5’側にある剥離用の領域F3の塩基配列と相補的な塩基配列を3’側に有するように構成されている。このため、第1のアウタープライマーFOPは、図5(d)に示すようにセンス鎖の第1規定領域F2より5’側にある領域F3にハイブリダイズする。
【0059】
このように、アウタープライマーFOPが、第1のインナープライマーFIPによる伸長生成物35とこれの鋳型となったセンス鎖との間に挟まるようにハイブリダイズしてアウタープライマーFOPを起点とするDNA合成により、センス鎖を複製した相補鎖15(−)´が合成される(図6(a)参照)。一方、アウタープライマーFOPを起点とするDNA合成により複製された相補鎖15(−)´が合成されることにより1本鎖とされた第1の伸長生成物35は、5’側にループ構造を形成する。
【0060】
ここで、第1の伸長生成物35は、5’側に第1のインナープライマーFIP由来の部分(F1とF2c)を含み、その3’側は、第1のインナープライマーFIPを起点として伸長された領域(伸長領域)である。伸長領域の5’側は、センス鎖の第1規定領域F2の5’側に隣接する変異領域F1がコピーされている。よって、第1伸長生成物35は図6(b)に示すように5’側にあるF1とF1cとが相補的に結合してループを形成する。
【0061】
一方、第1の伸長生成物35の3’側には、センス鎖の第2規定領域B2がコピーされたアンチ第2規定領域B2cが含まれる。ここで第2のインナープライマーBIPは、3’側に第2規定領域B2の塩基配列と予測される塩基配列と相補的な塩基配列で構成されたアンチ第2規定領域B2cを有し、5’側には、第2規定領域B2cの5’側にある領域B1の塩基配列と予測される塩基配列で構成された領域B1を有する。よって、第2のインナープライマーBIPは、アンチセンス鎖とハイブリダイズできるのみならず、図6(b)に示すように第1の伸長生成物35とハイブリダイズできる。
【0062】
第1の伸長生成物35に第2のインナープライマーBIPがハイブリダイズすることにより、第1の伸長生成物35を鋳型として第2の伸長生成物36が合成される。そして、第1の伸長生成物35に第2のアウタープライマーBOPがハイブリダイズすることにより、第2の伸長生成物36は第1の伸長生成物35から剥離され1本鎖となる。このとき、第2の伸長生成物36は両端にループを形成し(図6(d)参照)、3’側のループを起点とする合成反応が始まる。
【0063】
このように、変異領域F1に変異がなければ、LAMP反応による伸長生成物からも標的塩基配列が合成される。一方、変異領域F1に変異があれば、本来であればアンチ変異領域F1cが形成される領域の塩基配列は、変異領域F1と相補的な塩基配列とならない。このため、変異があれば、ループ構造が形成されず、第2の伸長生成物36が合成された時点でLAMP反応が止まる。
【0064】
よって、LAMP工程における最終産物の量を後述するように電気泳動法等で測定することで変異の有無を検出できる。このように、本発明によればリアルタイム測定を行う必要がないため、分析に供するゲノムを精製し、また濃度測定する必要はなく、未精製血液を純水で希釈した試料を測定できる。また、LAMP工程では鎖置換型DNAポリメラーゼを用いることから温度条件を60℃〜65℃付近にした状態で増幅反応が進行するため、LCR反応のように加熱と冷却を繰り返す必要がない。さらに、1本鎖の状態で存在するLCR反応による増幅産物を含むLCR反応生成物がLAMP反応に供されるため、LCR反応生成物は熱変性させることなくLAMP反応を行なうことができる。
【0065】
なお、本実施態様では、LAMPプライマーセット20は、一対のループプライマーFLP、BLPを含むループプライマーセットをさらに含んでいる。ループプライマーFLP、BLPはそれぞれ、各インナープライマーFIP、BIPにより合成された伸長生成物35、36の別々の末端に形成されるループにハイブリダイズするように設計されている。具体的には、第1のループプライマーFLPは、第1規定領域F2に相補的な配列F2cを有し、第2のループプライマーBLPは、第2規定領域B2に相補的な配列B2cを有する。第1のインナープライマーFIPにより合成された伸長生成物の3’側において、アンチ第1規定領域F2cは、変異領域F1とこれに相補的な配列を有するアンチ変異領域F1cに挟まれる。伸長生成物が1本鎖とされると、変異領域F1とアンチ変異領域F1cとがハイブリダイズしてループが形成される。第1のループプライマーFLPは、ループの環状部分となるアンチ第1規定領域F2cにハイブリダイズする(図6(d)参照)。
【0066】
そして、第1のループプライマーFLPが起点となり、合成反応が進行する。このように、LAMPプライマーセット20にループプライマーFLP、BLPを含ませることで、DNA合成の起点を増やすことができる。このため、LAMP反応に要する時間を短くできる。また、本発明においては、後述するようにLCR反応のサイクル数を少なくできる。
【0067】
本実施態様では、一対のアウタープライマーFIP、BIPを用いているが、アウタープライマーFIP、BIPどちらか一方でもよい。同様に、ループプライマーも一対としているが、ループプライマーFLP、BLPのどちらか一方でよい。なお、本発明では、ループプライマーのみならずアウタープライマーをも省略可能であり、インナープライマーのみでLAMP反応を行なうこともできる。
【0068】
本発明においては、LCR反応による反応生成物を鋳型としてLAMP反応を行うため、それぞれの反応に用いる反応液中のプライマーの濃度を所定の範囲に設定するとよい。具体的には、LCR反応については上述したとおりであり、LAMP反応についてはインナープライマーの濃度を0.2μM以上1.0μM以下、特に0.4μMとするとよい。アウタープライマーについては省略することも可能であることから、その濃度は0μM以上0.1μM以下とし、特に0.05μMとするとよい。さらに、LAMPプライマーセットにループプライマーを含ませる場合、ループプライマーの濃度は0.1μM以上0.5μM以下、特に0.2μMとするとよい。
【0069】
LAMP工程は、30分以内とすることが好ましく、特に15分〜20分程度とするとよい。LAMP工程終了後、LAMP工程から得られた反応済液に含まれる最終産物を測定して、標的塩基配列が増幅されているか否かを分析すれば変異の有無を検出できる。標的塩基配列が増幅されていれば、LAMP工程から得られた反応済液には増幅産物が多く含まれるため、蛍光検出法によらずに増幅の有無が分析できるため、反応済み液は蛍光検出法以外、例えば電気泳動法、拡散電気化学法、拡散分光高度測定、または濁度測定等で分析できる。
【0070】
[参考例1]
参考例1では、精製したゲノム由来のDNAを分析に供する試料とした。精製ゲノムとしては、市販されている精製ヒトゲノム(Roche社製、Human Genomic DNA、Cat. No.11-691-001)を使用した。精製ゲノム由来のDNAの濃度は0.5ng/μLとした。以下では、試料とするDNAの塩基配列のうちヒトCYP2C19遺伝子を標的遺伝子配列とし、CYP2C19遺伝子のG636A1塩基多型を標的変異として変異の有無を検出することを想定した。CYP2C19遺伝子の野生型の塩基配列を配列番号1に示す。1塩基変異型は、配列番号1の56番目(以下に示す配列の下線を付した座位)がGではなくAとなる。
CYP2C19遺伝子;配列番号1
Ttct taacttgatg gaaaaattga atgaaaacat caggattgta agcaccccct ggatccaggt aaggccaagt tttttgcttc ctgagaaacc acttacagtc tttttttctg gg
【0071】
まず、LCR反応に要する時間を検討することとし、第1の3’側オリゴDNA、第2の3’側オリゴDNA、第1の5’側オリゴDNA、および第2の5’側オリゴDNAからなるLCRプライマーセットを用意した。第1の3’側オリゴDNAの塩基配列を配列番号2に、第2の3’側オリゴDNAの塩基配列を配列番号3に、第1の5’側オリゴDNAの塩基配列を配列番号4に、第2の5’側オリゴDNAの塩基配列を配列番号5に示す。
第1の3’側オリゴDNA(WT−sp−FIP);配列番号2
tct taacttgatg gaaaaattga atgaaaacat caggattgta agcaccccct gG
第2の3’側オリゴDNA(WT−sp−rFIP);配列番号3
Ccagggggtgcttacaatcctgatgttttcattcaatttttccatcaagttaaga
第1の5’側オリゴDNA(sp-BIP);配列番号4
atccaggt aaggccaagt tttttgcttc ctgagaaacc acttacagtc tttttttctg gg
第2の5’側オリゴDNA(sp-rBIP);配列番号5
cccagaaaaaaagactgtaagtggtttctcaggaagcaaaaaacttggccttacctggat
【0072】
第1の3’側オリゴDNAと第1の5’側オリゴDNA(以下、「第1のオリゴDNA対」)はセンス鎖に相補的塩基配列を有し、第2の3’側オリゴDNAと第2の5’側オリゴDNA(以下、「第2のオリゴDNA対」はアンチセンス鎖に相補的な塩基配列を有する。
【0073】
4種類のオリゴDNAは、いずれも終濃度2μMとなるようにLCR反応液中に混合した。耐熱性リガーゼとしてはAmpligase(商品名、5U/μM、Epicentre社製)用い、この酵素に付属しているバッファーを推奨濃度で使用した。LCR反応液の組成を以下に記載する。
【0074】
〈LCR反応液〉
精製ゲノム(10ng/μL) :1μL
蒸留水 :12μL
Ampligase付属バッファー(10倍希釈):2μL
耐熱性リガーゼ(5U/μL) :1μL
各プライマー(それぞれ40μM) :1μL
【0075】
Ampligaseを用いてLCR反応を行う場合の推奨温度反応は94℃120秒での反応させた後、68℃60秒で反応させるというものであったが、参考例1では、LCR反応の条件を変化させた10パターンの試験および温度サイクルなしの1パターン、合計11パターンの試験を行なった。各パターンの実験条件を表1に示す。
【0076】
【表1】
【0077】
結果を図7に示す。図7では、各レーンを丸付き括弧で示している。94℃で保持する時間および68℃で保持する時間をどちらも30秒に短縮した場合(図7の第9レーンおよび第10レーン)でも、増幅産物量は減少するものの、酵素活性に著しい影響は起きないことが判明した。
【0078】
[参考例2]
【0079】
参考例2では、LCR反応による増幅産物をLAMP反応の鋳型とする際に必要となるLCR反応の長さ(サイクル数)を検討した。
【0080】
参考例2では、参考例1で用いた精製DNAを、それぞれ100ng/μL、10ng/μL、1ng/μL、または0.1ng/μLの濃度としてLCR反応に供した。LCR反応の反応液は、鋳型とする精製ゲノムの濃度が異なる以外は参考例1と同様とした。また、LCR反応に用いたLCRプライマーセットも参考例1と同じとした。
【0081】
参考例2では、LCR反応の1サイクルは、94℃30秒での熱変性処理後、68℃30秒で反応させるものとし、反応サイクル数を10サイクル、30サイクル、または50サイクルとした。また、参考例2においてコントロールとして、94℃60秒で反応させた後、68℃120秒で反応させる増幅反応を1サイクルとし、これを50サイクル繰り返すことにより増幅産物を含むLCR反応生成物を得た。
【0082】
得られたLCR反応生成物を混合したLAMP反応液を調整し、LAMP反応を行った。LAMP反応液の組成を以下に記載する。なお、各実験区についてLAMP反応液にループプライマーセットを加えた場合と加えない場合とを設定した。
【0083】
LAMPプライマーセットを構成する一対のインナープライマーの一方(第1のインナープライマーFIP)の塩基配列を配列番号6、他方(第2のインナープライマーBIP)の塩基配列を配列番号7に示す。
第1のインナープライマーFIP;配列番6
TCCAGGGGTCTTAACTTGATGGAAAAAT
第2のインナープライマーBIP;配列番号7
GGATCCAGGCCCAGAAAAAAAGACTGT
【0084】
LAMPプライマーセットに含まれる一対のループプライマーの一方(第1のループプライマーFLP)の塩基配列を配列番号8、他方(第2のループプライマーBLP)の塩基配列を配列番号9に示す。
第1のループプライマーFLP;配列番8
GCTTACAATCCTGATGTT
第2のループプライマーBLP;配列番号9
GTAAGGCCAAGTTTTTTG
【0085】
LAMPプライマーセットに含まれる一対のアウタープライマーの一方(第1のアウタープライマーFOP)の塩基配列を配列番号10、他方(第2のアウタープライマーBOP)の塩基配列を配列番号9に示す。
第1のアウタープライマーFOP;配列番10
TCCAGAAACGTTTCG
第2のアウタープライマーBOP;配列番号11
AGGGCTTGGTCAATAT
【0086】
〈LAMP反応液〉
LCR反応生成物 :1.0μL
蒸留水 :0.45μL
付属バッファー(10倍希釈) :0.8μL
2.5mM各dNTP :1.0μL
ベタイン(5M) :1.0μL
鎖置換型DNAポリメラーゼ(5U/μL):0.25μL
プライマーミックス :0.5μL
【0087】
なお、プライマーとしては、栄研化学株式会社製Loopamp(登録商標) P450タイピング試薬キットに付属のプライマーミックスを用いた。プライマーミックスの組成は以下の通りである。
〈プライマーミックス〉
インナープライマー(16pmol/μL)
アウタープライマー(2pmol/μL)
ループプライマー(8pmol/μL)
【0088】
LAMP反応は、60℃で30分間を行い、LAMP反応終了後の反応済み液を電気泳動法による分析に供して増幅の有無を調べた。結果は図8に示すとおりである。
【0089】
参考例2より、LCR反応のサイクル数を30サイクル以上とすれば、LCR反応で得られたLCR反応生成物を鋳型とするLAMP反応による増幅が起きることが判明した。また、LAMP反応を行う際に、反応液にループプライマーを含ませればLCR反応のサイクル数を30サイクル以下にでき、10サイクル以上でよいことが判明した。
【0090】
[参考例3]
参考例3では、LCR反応の際に用いるプライマー(LCRプライマー)が、LCR反応生成物に残留して含まれることによってLAMP反応の増幅率および変異識別能に及ぼす影響を調べた。参考例3では、特異性の判断を的確に行なえるかどうかを見当するため、参考例1および2で用いた精製ゲノムに代えてGホモであるLSI74T培養細胞由来の精製ゲノムを用いた。GアレルとAアレルとはそれぞれ別の孤立した反応で行い、Gアレル検出用のLCR反応で用いるプライマーセットは、参考例1で用いたLCRプライマーセット(以下、「LCRプライマーセット(G)」)を用いた。
【0091】
一方、Aアレル検出用のLCR反応で用いるLCRプライマーセット(LCRプライマーセット(A))としては、LCRプライマーセット(G)の第1の3’側オリゴDNAに代えて配列番号12に示す塩基配列を有するオリゴDNA(以下、「第1の3’側オリゴDNA(A)」)を用いた。また、LCRプライマーセット(G)第2の3’側オリゴDNAに代えて配列表13に示す塩基配列を有するオリゴDNA(以下、「第2の3’オリゴDNA(A)」)を用いた。
Aアレル検出用の第1の3’側オリゴDNA(MT−sp−FIP);配列番号12
tct taacttgatg gaaaaattga atgaaaacat caggattgta agcaccccct gA
Aアレル検出用第2の3’側オリゴDNA(MT−sp−rFIP);配列番号13
Tcagggggtgcttacaatcctgatgttttcattcaatttttccatcaagttaaga
【0092】
これらLCRプライマーセット(G)または(A)を、それぞれのオリゴDNAの終濃度が2.0μM、1.5μM、1.0μM、0.5μM、または0.2μMとなるようにLCR反応液を調製した。また、鋳型とする精製ゲノム由来のDNAの濃度は、10ng/μLの濃度とし、添加量は1μLとした。LCR反応液に含まれるその他の成分の濃度および添加量は参考例1と同じとした。
【0093】
参考例3でも参考例2と同じくLCR反応は、94℃30秒で反応させた後68℃30秒で反応させる反応を1サイクルとして、これを10、23、37、または50サイクル繰り返した。参考例3ではネガティブコントロールとして、DNAの代わりに栄研化学社製Loopamp(登録商標) P450タイピング試薬キットの付属品である蒸留水を用いた。
【0094】
LAMP反応は非特許文献2に基づいて行い、Gアレル検出用のプライマーセット(LAMPプライマーセット(G))として参考例2で用いたLAMPプライマーを用いた。
【0095】
Aアレル検出用のプライマーセット(LAMPプライマーセット(A))としては、LAMPプライマーセット(G)の第1のインナープライマーFIPに代えて、配列番号14に示す塩基配列を有するAアレル用第1のインナープライマーMT−FIPを用いた。また、LAMPプライマーセット(A)では、LAMPプライマーセット(G)の第2のインナープライマーBIPに代えて、配列番号15に示す塩基配列を有するAアレル用第2のインナープライマーMT−BIPを用いた。
Aアレル検出用の第1のインナープライマー(MT−FIP);配列番号14
TTCAGGGGTCTTAACTTGATGGAAAAAT
Aアレル検出用の第2のインナープライマー(MT−BIP);配列番号15
GAATCCAGGCCCAGAAAAAAAGACTGT
【0096】
LAMP反応の反応液には、一対2種類のインナープライマーをそれぞれ1.6μMの濃度で、一対2種類のループプライマーをそれぞれ0.8μMの濃度で、一対2種類のアウタープライマーをそれぞれ0.2μM(いずれも終濃度)で含有させた。LAMP反応は、反応時間を20分で行った。結果を図9に示す。図9において、レーン名は、アリール・タイプ(GかA)とLCR反応に使用した添加プライマー濃度示す。また、D01およびD02は、ネガティブコントロールとして、精製ゲノム由来のDNAに代えて蒸留水を使用した場合のレーンを示す。
【0097】
図9に示すようLCR工程での反応を10サイクルとした場合は、LCR反応で増幅は起こったものの特異性がなく、サイクル数を10以上、特に23とすると特異性が得られた。また、LCRプライマーの濃度が特異性に影響を与えていることが判明した。
【0098】
[参考例4]
参考例4では、LCR反応による増幅産物を鋳型としてLAMP反応を行う場合おけるLAMPプライマー濃度について検討した。具体的には、参考例3において、LAMPプライマーの濃度を、2倍、4倍、または8倍に希釈した。参考例4では、LAMPプライマー濃度以外は参考例3と同様とし、LCR反応は10サイクル、または23サイクルとした。参考例4においてLAMP反応により得られたLAMP増幅産物を電気泳動法による分析に供したところ、図10に示す結果が得られ、LAMPプライマー濃度を参考例3の4倍希釈とすることがよいことが判明した。
【0099】
[参考例5]
さらに、参考例3で用いた精製ゲノム由来のDNAの濃度を、100ng/μL、10ng/μL、または1ng/μL濃度とし、LCR反応を行なった後、LAMP反応させた。LCR反応液は、LCRプライマー濃度が20pmol/μL、15pmol/μL、10pmol/μL、5pmol/μL、または2pmol/μLとなるようにし、それ以外は参考例1と同様とした。LCR反応は、94℃30秒での反応後、68℃30秒で反応させる操作を1サイクルとしてサイクル数は23サイクルとした。
【0100】
LAMP反応は、プライマーミックスの濃度を、2倍、または4倍希釈とした以外は上記参考例2で使用したLAMP反応液と同じLAMP反応液を使用し、60℃で20分間の反応を行なった。結果を図11に示す。
【0101】
図11に示すように、鋳型とする精製ゲノムDNAの濃度範囲での違いは認められず、LCRプライマーの濃度と、LAMPプライマーの濃度とを調整することで、非特異的増幅を制御できる可能性が高くなることが示された。また、LAMPプライマーを2倍希釈した場合、4倍希釈した場合とも、特異性は得られたものの特異性が高い範囲が異なった。そして、LAMPプライマーの濃度が低いほどLCRプライマーが高濃度であっても特異的増幅が得られること、およびLCRプライマーの濃度が低くなりすぎると多少の非特異的増幅が見られることが判明した。
【0102】
[参考例6]
参考例6として、参考例3におけるLAMP反応時間を10分、15分、17分とした。参考例5では、LAMP反応の時間以外は参考例3と同様とした。参考例6においてLAMP反応により得られたLAMP増幅産物を電気泳動法による分析に供したところ、LAMP反応時間を17分とすればよいことが判明した。
【0103】
[参考例7]
参考例7では、参考例3で用いた精製ゲノムDNAを100ng/μL、10ng/L、または1ng/Lに希釈して試料とした。参考例7では、LCR反応液のLCRプライマー濃度は、濃度5μMのものを、全反応液量20μLに対して添加量1μLで添加し、終濃度0.25μMとした。LCR工程のその他の条件は、参考例3と同様にした。また、LAMP反応は、各LAMPプライマーの終濃度が、インナープライマーについて0.4μM、アウタープライマーについて0.05μM、ループプライマーについて0.2μMとなるように添加し、それ以外の条件は参考例3と同様にし、LAMP反応の時間は17分とした。
【0104】
さらに、参考例7ではコントロールとして、LCR反応を行うことなく上記3段階希釈した精製ゲノムをLAMP反応に供した。コントロールについては、LAMP栄研化学株式会社製Loopamp(登録商標) P450タイピング試薬キットを用い、インナープライマー、アウタープライマー、およびループプライマーは、いずれもキット付属品を希釈することなくそのまま用い、LAMP反応の時間35分として3段階希釈した試料をLAMP反応に供した。
【0105】
結果を図12に示す。図12に示すように、LCR反応生成物をLAMP反応の鋳型とする場合、LCR反応なしでLAMP反応を単独で行う場合に比べて、ダイナミックレンジを1桁以上多くできることが示された。
【0106】
[参考例8]
参考例8として、LAMPプライマーセットにアウタープライマーFOP、BOPを含めない場合と含めた場合とを比較する実験を行った。参考例8では、LCR反応は参考例1に記載した組成のLCR反応液を用い、94℃30秒での反応後、68℃30秒での反応を行なう操作を1サイクルとし、サイクル数は23サイクルとした。なお、LCR反応液としては、LCRプライマー濃度が5pmol/μLのものと2pmol/μLのものとの2種類を用いた。
【0107】
LAMP反応は、プライマーミックスとして以下の組成のものを使用した以外は上記参考例2で使用したLAMP反応液を用い、60℃15分間の反応を行なった。
〈プライマーミックス〉
インナープライマー(8pmol/μL)
ループプライマー(4pmol/μL)
アウタープライマー(1.6pmol/μL)
【0108】
結果を図13に示す。図13に示すように、アウタープライマーを用いる場合と比べ、アウタープライマーを用いない場合は、反応効率はやや低下するが、検出精度には大きな影響を及ぼさないことが明らかとなった。
【0109】
[実施例1]
実施例1として、参考例3で用いたLSI74T培養細胞由来の精製ゲノムDNA(Gアレルホモ)を10ng/μLの濃度とした試料を用いて、参考例1で示した組成のLCR反応液でLCR反応を行った。LCR反応の1サイクルは、94℃30秒での加熱処理後、68℃30秒で反応させるものとし、反応サイクル数は23サイクルとした。
【0110】
次に、得られたLCR反応生成物を、LAMP反応に供した。LAMP反応液の組成は以下に示す通りであり、LAMPプライマーセットとしては、Gアレル検出用、Aアレル検出用共に参考例3で用いたプライマーセットと同じプライマーを用いた。
【0111】
〈LAMP反応液〉
LCR反応生成物 :1.25μL
蒸留水 :5.25μL
キット付属RMバッファー :5.0μL
鎖置換型DNAポリメラーゼ(8U/μL):0.5μL
【0112】
LAMPプライマーとしては、参考例2で用いたプライマーミックスを用い、添加量を0.5μLとして、インナープライマーの終濃度0.4μM、アウタープライマーの終濃度0.05μM、ループプライマーの終濃度0.2μMとした。
【0113】
実施例1では、ポジティブコントロールとしてLSI74T培養細胞由来の精製ゲノムDNA(Gアレルホモ)に代えて、へテロの精製ゲノム由来のDNAを用いた実験も行った。さらに、ネガティブコントロールとして精製ゲノム由来のDNAに代えて純水を用いた実験も行った。
【0114】
[比較例1]
比較例として、実施例1でLCR反応に供した精製ゲノムをそのまま、LAMP法に供した。すなわち、比較例1ではLAMP法を単独で行った。比較例1では、LAMP反応を開始する前に、栄研化学株式会社製Loopamp(登録商標) P450タイピング試薬キットの取扱説明書に記載されていたとおり、精製ゲノムを95℃で5分間、熱変性処理させた後、5分間、氷上冷却を行なった。なお、実施例1ではLCR反応生成物はこのような熱変性および冷却処理することなく、LAMP反応に供している。
【0115】
[実施例1および比較例1の結果]
実施例1と比較例1の実験を20回、繰り返すことにより、LAMP反応単独と本発明とを比較し、繰り返し検証により反応の安定性を検証した。実験結果の一例を図14に示す。図14において、PCはポジティブコントロール(GとAが陽性)、LSはヘテロ(G陽性、A陰性)、DDWはネガティブコンコトール(GとAがともに陰性)を示す。
【0116】
実施例1および比較例1では、ポジティブコントロールについて、Gアレル検出用のプライマーセット、Aアレル検出用プライマーセットどちらを用いた場合でも特異的増幅が起これば、正しい結果が得られたことになる。一方、GアレルホモのLSI74T培養細胞由来の精製ゲノムDNAを用いた場合については、Gアレル検出用のプライマーセットを用いた場合しか特異的増幅が起こらなければ、実験結果が正しかったことになる。さらに、ネガティブコントロールについては、どちらのプライマーを用いても特異的増殖が起こらなければ実験結果は正しいことになる。
【0117】
実施例1ではポジティブコントロール、ネガティブコントロール、およびLSI74T培養細胞由来の精製ゲノムDNAについて、実験結果が正しくなかったのは、3回であった。比較例1では、図14に示すようにLSI74T培養細胞由来の精製ゲノムDNAで、Gアレル検出用プライマーを用いた場合でも増幅が起こらないというように、約6回に1回の頻度で増幅が生じないか、増幅しても非特異的増幅であり誤判定を誘導することが明らかとなった。
【0118】
[実施例2]
実施例2として、精製ゲノムDNAに代えて未精製血液を純水で10倍希釈した試料を用いた実験を行った。実施例2では、添加物なしで−80℃の条件下、3ヶ月間保存した血液、添加物なしで保存していない血液、EDTAを添加して4℃で3ヶ月保存した血液、の3種類から試料を調製した。実施例2では、CYP2C19遺伝子のG636A変異の有無を検出することとした。
【0119】
実施例2では、試料を純水で希釈した未精製血液とした以外は、実施例1と同様の条件で実験を行ったところ、図15に示す結果が得られ、全ての試料について特異的な増幅が得られた。
【0120】
以下に、未精製血液を試料として用いる場合において、本発明で推奨される核酸の分析方法を記載するが、本発明はこれに限定されない。
【0121】
〈試料〉
純水製造装置(Millipore社製、商品名Milli-Q GPAII)で調製した純水で血液を10倍希釈する。
【0122】
〈LCR反応液〉
未精製血液(10倍希釈) :1μL
純水 :5.5μL
耐熱性リガーゼ(Epicentre社製、5U/μL):0.5μL
各プライマー(それぞれ5μM):0.5μL
【0123】
〈LCR反応〉
94℃30秒間の熱処理の後、68℃30秒間で反応させる操作を1サイクルとし、23サイクルでLCR反応を終了してLCR反応生成物を得る。
【0124】
〈LAMP反応液〉
LCR反応生成物 :1.25μL
純水 :5.25μL
バッファー(4倍希釈) :5μL
LAMPプライマーセット :0.5μL
鎖型DNAポリメラーゼ(8U/μL):0.5μL
【0125】
LAMP反応液中のバッファー、LAMPプライマーセットおよび鎖置換型DNAポリメラーゼとしては、栄研化学株式会社製のLoopamp P450タイピング試薬キット、RNA増幅試薬キット、DNA増幅試薬キット等に付属の試薬を用いればよい。ただし、試薬はこれらに限定されず、例えば非特許文献3に従ったLAMP反応液を調整してもよい。ただし、非特許文献3の組成のLAMP反応液とする場合は、LAMPプライマーの濃度は4分の1とする。LAMP反応は、60℃で17分行えばよい。
【0126】
表2にEpicentre社製Ampligase(商品名)を用いた場合に推奨されるLCR法、栄研化学株式会社製Loopamp P450タイピング試薬キットを用いた場合に推奨されるLAMP法、および本発明について、それぞれの特徴を記載する。なお、表2において「急冷」とは、2本鎖DNAを熱変性させた後、DNAが元の2本鎖に戻ることを防止するために4℃以下に急冷する操作を意味する。かかる操作を「急冷」とするには、LCR反応で加熱処理後に連結反応を行なわせるために冷却する操作と区別するためである。
【0127】
【表2】
【0128】
表2に示すように、本発明によれば、簡便な操作で迅速に塩基配列の変異が検出でき、ダイナミックレンジもLAMP法に比べて広い。また、LCR反応とLAMP反応を組み合わせて2種類の化学反応で変異の有無を検出するため、表2に示すように操作を簡便化しながら実施例1および実施例2に示すように変異検出精度を高くできる。さらに、未精製血液を試料とできるため、本発明は臨床での分析に適しており、本発明方法による分析機器には冷却機構を省略することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0129】
本発明は、遺伝子の塩基配列変異の検出に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0130】
【図1】本発明の一実施態様におけるLCR工程を示す模式図。
【図2】本発明の一実施態様におけるLCR工程を示す模式図。
【図3】本発明の一実施態様におけるLCR工程を示す模式図。
【図4】本発明の一実施態様におけるLAMP工程を示す模式図。
【図5】本発明の一実施態様におけるLAMP工程を示す模式図。
【図6】本発明の一実施態様におけるLCR工程を示す模式図。
【図7】参考例1の結果を示す電気泳動写真の図。
【図8】参考例2の結果を示す電気泳動写真の図。
【図9】参考例3の結果を示す電気泳動写真の図。
【図10】参考例4の結果を示す電気泳動写真の図。
【図11】参考例5の結果を示す電気泳動写真の図。
【図12】参考例7の結果を示す電気泳動写真の図。
【図13】参考例8の結果を示す電気泳動写真の図。
【図14】実施例1および比較例1の結果を示す電気泳動写真の図。
【図15】実施例2の結果を示す電気泳動写真の図。
【符号の説明】
【0131】
2 :耐熱性リガーゼ
4 :DNA(核酸)
6 :LCR反応液
10 :LCRプライマーセット
12 :鎖置換型DNAポリメラーゼ
16 :LCR反応生成物
20 :LAMPプライマーセット
26 :LAMP反応液
【技術分野】
【0001】
本発明は、標的遺伝子配列を含む核酸を増幅して塩基配列を分析する核酸の分析方法に関し、特に標的遺伝子配列の塩基配列変異の有無を検出する分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
核酸の遺伝子領域における塩基配列の変異は、様々な体質の違いを生じる原因とされる。このため、特に医療分野を中心に、薬剤投与の効果や安全性を高める目的、あるいは特定の疾病にかかりやすいか否かを判断する目的等で、遺伝子領域における塩基配列の変異の有無を検出する分析が行なわれている。
【0003】
こうした変異の検出方法の一つに、リガーゼ連鎖反応(Ligase Chain Reaction:以下、「LCR反応」)と呼ばれる反応を利用する方法がある(非特許文献1)。LCR反応では、分析に供するデオキシリボ核酸(DNA)に相補的な塩基配列を有する1対のオリゴヌクレオチド(以下、「オリゴDNA」)を、僅かな隙間を有する状態で隣接させ、隣り合った一対のオリゴDNA同士をリガーゼにより連結する。LCR反応液は、分析対象とする1本鎖DNA(例えば、2本鎖DNAを分析する場合はセンス鎖またはアンチセンス鎖)に相補結合して互いに隣り合うように設定された2つのオリゴDNAおよび耐熱性リガーゼとを少なくとも含む。
【0004】
2つのオリゴDNAの一方(以下、「5’側オリゴDNA」)は、1本鎖DNAの標的遺伝子の5末端側領域と相補的に結合し、他方(以下、「3’側オリゴDNA」)は3末端側領域と相補的に結合する。このとき、5’側オリゴDNAと3’側オリゴDNAとは、両者の間にわずかな隙間を挟んで隣り合う状態で鋳型となる1本鎖DNAと相補的に結合するように設定されている。鋳型DNAの塩基配列に変異がなければ、5’側オリゴDNAと3’側オリゴDNAの両方が鋳型DNAと結合して、両者の間がリガーゼにより連結され増幅産物が得られる。変異がない場合、得られた増幅産物を鋳型として上記一連の反応が繰り返されるので、標的塩基配列部分が増幅された増幅産物が指数関数的に増加する。
【0005】
一方、鋳型DNAの標的塩基配列に変異があると、5’側オリゴDNAと3’側オリゴDNAの少なくともどちらか一方が鋳型である1本鎖DNAと完全には結合しない。このため、5’側オリゴDNAと3’側オリゴDNAとは連結されず、増幅反応が繰り返されないため、標的塩基配列に変異があるDNAは増幅されない。
【0006】
2本鎖DNAを分析する場合、LCR反応液は、一般には、2組4種類のオリゴDNA(第1の5’側オリゴDNAと第1の3’側オリゴDNA、および第2の5’側オリゴDNAと第2の3’側オリゴDNA)を含む。第1の5’側オリゴDNAと第1の3’側オリゴDNAとは、2本鎖DNAの一方(センス鎖)の標的塩基配列部分に相補的に結合する塩基配列を有するように設定されている。また、第2の5’側オリゴDNAと第2の3’側オリゴDNAは、2本鎖のDNAの他方(アンチセンス鎖)の標的塩基配列部分に相補的な塩基配列を有し、センス鎖、およびアンチセンス鎖について上記反応が生じる。
【0007】
このようにLCR法では、標的塩基配列に変異があれば、本来、増幅反応が繰り返されないため変異が検出できる。しかしLCR法では、オリゴDNA同士が平滑末端において連結するという、鋳型の存在に依存しない非特異的連結が生じる場合があるため、LCR法単独での変異の検出精度は必ずしも高くない。
【0008】
一方、拡散の標的塩基配列を増幅する方法としてLAMP法(Loop-Mediated Isothermal Amplification)が知られており(特許文献1、非特許文献2)、LAMP法を利用した変異検出法も提案されている(特許文献2、特許文献3)。LAMP法では、少なくとも2種類のインナープライマー(第1のインナープライマーと第2のインナープライマー)、2種類のアウタープライマー(第1のアウタープライマーと第2のアウタープライマー)、および鎖置換型DNAポリメラーゼが用いられる。インナープライマーは、該プライマーから伸長した部分の末端に当該プライマーと相補的な配列が含まれるように設計され、インナープライマーを起点として伸張した1本鎖(第1の伸長生成物)はループ構造を形成できる。
【0009】
すなわち、図6において符番35で示す第1の伸長生成物は、一方の末端側にインナープライマーを含んでおり、このインナープライマーから伸長された部分は該プライマーと相補的な配列の末端を有する。そして、アウタープライマーがインナープライマーよりさらに上流に結合し、その伸長生成物が生成される過程で第1の伸長生成物35が鋳型核酸から剥されて1本鎖にされると、この末端が該プライマー由来の部分と相補結合してループを形成する(図6(b)参照)。一方のインナープライマー(例えば第1のインナープライマーFIP)を起点として伸長された第1の伸長生成物35は、他方のインナープライマー(第2のインナープライマーBIP)を起点とする伸長反応の鋳型となり、第2の伸長生成物36が得られる(図6(c)参照)。第2の伸長生成物36の両端にはループが形成され、ループを起点とする更なる伸長反応が生じる(図6(d)参照)。
【0010】
このように、LAMP法では鎖置換型DNAポリメラーゼにより、2本鎖が剥されながら複数の位置から伸長反応と増幅反応とが同時に進行する。このため、LAMP法では核酸の増幅は超指数関数的に起こり、しかも等温条件下で反応が起こるため、2本鎖DNAを解離させるために加熱と冷却を繰り返す必要がない。
【0011】
このようなLAMP法を利用した変異検出法では、検出すべき変異部位を含む領域を有するインナープライマーを用いる(特許文献2参照)。分析対象とする核酸に変異がなければ場合、インナープライマーを起点として伸長された伸長生成物には、変異を含む領域と相補的な塩基配列が生成されないので、このような伸長生成物を解離させて1本鎖にしてもループは形成されない。このためLAMP反応はそれ以上、進行しない。一方、分析対象とする核酸が変異を含んでいる場合は、インナープライマーを起点として伸長された伸長鎖を1本鎖にするとループが形成され、超指数関数的な増幅が起こる。よって、LAMP反応の結果生じた生成物の量を測定することから、変異の有無を検出できる。
【特許文献1】国際公開第WO00/29082号パンフレット
【特許文献2】国際公開第WO01/34838号パンフレット
【特許文献3】特開2003−159100号公報
【非特許文献1】Barany F.(1991)、Genetic disease detection and DNA amplification using cloned thermostable ligase、Proc. Natl. Acad. Sci. USA.;88(1)、189−193
【非特許文献2】Notomi T. et al.(2000)、Loop-mediated isothermal amplification of DNA、Nucleic Acid Research;28(12)、e63
【非特許文献3】Iwasaki M. et al.(2003)、Validation of the Loop-Mediated Isothermal Amplification Method for Single Nucleotide Polymorphism Genotyping with Whole Blood、Genome Letters 2(3)、119−126
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
LAMP法は、本来はプライマーの位置選択に余裕があるため、高特異性での増幅有無の検証が可能であり、所定の時間、LAMP反応を行うことにより得られた最終産物(以下、「LAMP反応生成物」)を測定することで増幅の有無を判定できる。しかし、変異検出用として設計されるインナープライマーは、塩基の一つが野生型用のインナープライマーと異なっている他は野生型用のプライマーとほぼ同じであり、しかも異なる部位は末端塩基に限られるため、非特異的増幅が生じる可能性が高い。このため、変異検出精度を高めるためにはリアルタイム測定が推奨される。
【0013】
リアルタイム測定は定量性には優れるが、分析に供する試料中に含まれる鋳型となる核酸の量が重要であり、試料中にある程度の量の核酸が含まれていることが必要である上、ダイナミックレンジは低い。
【0014】
さらに、LAMP反応を行う場合に推奨される条件は、濃度測定を行なった精製ゲノムを使用することが推奨される。これに対し、本発明者が非特許文献3を参考にして未精製血液を試料としてLAMP反応を行なったところ、変異の検出が不可能であることが判明した。このため、未精製血液が使用できない場合、臨床現場でLAMP反応を利用した分析を行うことは困難となる。
【0015】
本発明は、上記課題に対し、非特異的増幅を抑制して高精度で塩基変異の有無を検出できる核酸の分析法を提供することを目的とする。特に、LCR反応とLAMP反応とは互いに干渉しあうおそれがあるのに対し、本発明は、LCR法とLAMP法とのそれぞれの長所を引き出すことにより、上記課題を解決することを目的とする。また、本発明は、LAMP反応を利用して未精製血液を試料とする変異検出を可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の請求項1に係る発明は、標的塩基配列を含む核酸の分析方法であって、前記核酸を有する試料とLCR反応用のLCRプライマーセットとを含むLCR反応液中でLCR反応を行ってLCR反応生成物を生成させ、前記LCR反応生成物を、LAMP反応用のLAMPプライマーセットが含まれたLAMP反応液中でLAMP反応させる分析方法である。
【0017】
本発明では、LCR法により増幅した増幅産物をLAMP法の鋳型とする。具体的には、所定の範囲の温度、時間での加熱処理を行った後、所定の範囲の温度とする冷却操作を行い所定範囲の時間、連結反応を行う操作を1サイクルとして、10〜30サイクル程度を繰り返すLCR反応の結果得られた増幅産物を含む液状物(LCR反応生成物)をLAMP反応に供する。
【0018】
本発明の請求項2に係る発明は、前記LCR反応生成物を熱変性処理することなく前記LAMP反応させる請求項1に記載の核酸の分析方法である。
【0019】
LAMP法では、従来、2本鎖DNAを分析対象とし、これを鋳型とする場合は、2本鎖DNAを1本鎖にしてインナープライマーが結合できるように、2本鎖DNAを熱変性させる処理が必要である。ここで、LCR反応では、LCR反応の鋳型とする2本鎖DNAのそれぞれに対する連結反応は同等ではなく、どちらか一方の1本鎖はもう一方の1本鎖より合成量が多くなる。一方の1本鎖より多く合成され標的遺伝子配列を含む増幅産物は、1本鎖の状態でLCR反応生成物に含まれる。本発明では、このようなLCR反応生成物をLAMP反応に供するので、1本鎖の状態で存在し標的遺伝子配列を含むLCR反応の増幅産物をLAMP反応の鋳型とできる。よって、LAMP反応工程において熱変性処理を省略でき、操作を簡便かつ迅速にできる。
【0020】
本発明の請求項3に係る発明は、前記LCR反応液中の前記LCRプライマーセットの濃度、および前記LAMP反応液中の前記LAMPプライマーセットの濃度が所定の範囲に調整されている請求項1に記載の核酸の分析方法である。
【0021】
LCR反応生成物には、LCR反応の結果得られた増幅産物以外にLCR反応用のプライマーが含まれる場合がある。LCR反応生成物中にLCR反応用のプライマーが残存する場合、LAMP反応が適正に進行しないおそれがある。これに対し、LCR反応を行う際に用いる、複数種類のプライマー(LCRプライマーセット)の濃度を所定の範囲にするとよい。同様に、LAMP反応を行う際に用いる、複数種類のプライマー(LAMPプライマーセット)の濃度も所定の範囲にするとよい。このように、LCR反応およびLAMP反応に用いるプライマーの濃度を所定の濃度に調整することで、LCR反応とLAMP反応とが互いに干渉するおそれを回避できる。
【0022】
本発明の請求項4に係る発明は、前記LCR反応液中の前記LCRプライマーセットの濃度は、0.1μM以上0.5μM以下である請求項3に記載の核酸の分析方法である。
【0023】
本発明の請求項5に係る発明は、前記LAMPプライマーセットは、インナープライマーセットを少なくとも含み、前記LAMP反応液中の前記インナープライマーセットの濃度は、0.2μM以上1.0μM以下である請求項3または4に記載の核酸の分析方法である。
【0024】
本発明の請求項6に係る発明は、前記LAMPプライマーセットは、ループプライマーとアウタープライマーとをさらに含み、前記LAMP反応液中の前記ループプライマーの濃度は、0.1μM以上0.5μM以下であり、前記アウタープライマーの濃度は、0μM以上0.1μM以下である請求項5に記載の核酸の分析方法である。
【0025】
本発明の請求項7に係る発明は、前記LCR反応は、94℃の温度条件で30秒間の熱変性処理を行なった後65℃以上70℃以下の温度条件で10秒以上30秒間以下の連結反応を行なう処理を1サイクルとし、該LCR反応のサイクル数は30サイクル以下である請求項1から6のいずれかに記載の核酸の分析方法である。
【0026】
本発明の請求項8に係る発明は、前記LAMPプライマーセットは、インナープライマーセットと、ループプライマーとを少なくとも含み、前記LCR反応のサイクル数は10サイクル以上25サイクル以下である請求項7に記載の核酸の分析方法である。
【0027】
上述したとおり、従来、LAMP反応を行なうためには2種類のインナープライマーと2種類のアウタープライマーとが必要であった。しかし、本発明者による研究の結果、LCR反応生成物を鋳型としてLAMP反応を行なう場合は、アウタープライマーが省略可能なことが判明した。よって、本発明によればLAMP反応に要するプライマーの種類を減らすことができる。
【0028】
本発明の請求項9に係る発明は、前記LAMP反応を行なう反応時間は、30分以下である請求項1から8のいずれかに記載の核酸の分析方法である。
【0029】
本発明では、LCR反応とLAMP反応を組み合わせることにより、LCR法単独で変異を検出する場合に必要なサイクル数より少ないサイクル数でLCR反応を終了できる。よって、分析に要する時間を短縮できる。
【0030】
本発明の請求項10に係る発明は、前記標的塩基配列は、変異部位を含み、前記第LAMP反応による増幅産物の有無を調べることにより、前記核酸の変異の有無を検出する請求項1から9のいずれかに記載の核酸の分析方法である。
【0031】
従来、LAMP法単独で塩基配列の変異の有無を検出する場合は、高い精度を得るためにはリアルタイム測定が必要であり、蛍光検出法を用いたリアルタイム測定により、LAMP反応による増幅の有無を調べていた。本発明ではLCR反応生成物を鋳型としてLAMP反応を行うため、最終産物を調べることで増幅の有無を判断して変異の有無を検出できる。このため、リアルタイム測定は必要でなく、蛍光検出法以外、例えば電気泳動法等で増幅有無を検出できる。
【0032】
本発明の請求項11に係る発明は、前記試料は、2×10〜2×103ヒト・ゲノム/μLを含む請求項1から10のいずれかに記載の核酸の分析方法である。
としたものである。
【0033】
本発明の請求項12に係る発明は、前記試料中の核酸は、精製されていない、またはゲノム濃度測定されていない請求項1から11のいずれかに記載の核酸の分析方法である。
【0034】
本発明の請求項13に係る発明は、前記試料は、純水で希釈した未精製血液である請求項1から12のいずれかに記載の核酸の分析方法である。
【0035】
本発明の請求項14に係る発明は、前記試料は、純水による希釈倍率が10倍である請求項13に記載の核酸の分析方法である。
【0036】
本発明では、リアルタイム測定を行なわずとも高精度でLAMP反応を利用した塩基の変異有無を検出できる。このため、精製していない核酸、および濃度を測定していない核酸を試料として分析に供することができ、例えば未精製の血液を純水に希釈するだけで変異の有無を検出できる。
【発明の効果】
【0037】
本発明によれば、核酸の塩基配列の変異の有無を、高精度で、しかも短時間で分析できる。また本発明によれば、ゲノムの精製や濃度測定を行わずに塩基配列の変異の有無を分析でき、未精製の血液を純水に希釈しただけで分析できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
以下、図面を参照して本発明について詳細に説明する。以下において、同一部材には同一符号を付し、説明を省略または簡略化する。
【0039】
本発明は、核酸の遺伝子領域の一部を標的塩基配列とし、この標的塩基配列の特定部分の変異の有無を分析するものとする。分析対象とするゲノムは、精製されたゲノムである必要はなく、ゲノムの濃度が測定されている必要もない。このため、例えば、未精製血液を純水に5〜15倍程度、特に10倍希釈し、これを試料として本発明に係る分析試料とできる。
【0040】
分析対象は核酸を含み、LCR反応でこの核酸を増幅した後、LCR反応により得られた増幅産物を含む反応生成物をLAMP反応に供する。そこで、まず、LCR反応を行う工程(LCR工程)について説明する。
【0041】
《LCR工程》
図1および図2は、本発明の一実施態様に係る分析方法においてLCR工程を説明する模式図である。まず、図1(a)に示すように、符号4で示す分析対象とする2本鎖DNAを、LCRプライマーセット10、および耐熱性リガーゼ2を含むLCR反応液6に混合する。図1(b)に、2本鎖DNA4、およびLCRプライマーセット10を構成する4種類のオリゴDNAの模式図を示す。本実施態様では、2本鎖DNAの遺伝子領域のうち、図1(b)においてXで示す領域の塩基配列を標的塩基配列とし、破線で囲った座位の変異の有無を分析するものとする。
【0042】
2本鎖DNA4は、94℃〜99℃程度で10秒〜120秒間、加熱処理することで熱変性させ、図2(a)に示すように2本鎖を解離させる。加熱処理時間は20秒〜40秒、特に25秒〜35秒とすることが好ましい。次いで熱処理したLCR反応液6を50℃〜70℃程度に冷却すると、2本鎖DNA4が解離して得られた1本鎖の一方であるセンス鎖4(+)、および他方であるアンチセンス鎖4(−)に、LCRプライマーセット10として添加されたオリゴDNAがハイブリダイズする。冷却による連結反応は、65℃以上70℃以下の温度条件で30秒〜60秒、特に30秒間行うとよい。
【0043】
LCRプライマーセット10は、第1のオリゴDNA対としてセンス鎖4(+)の標的塩基配列と相補的な配列を有する2つのオリゴDNA(第1の3’オリゴDNAと第1の5’オリゴDNA)を含んでいる。LCRプライマーセットは、第2のオリゴDNA対として、アンチセンス鎖4(−)の標的塩基配列と相補的な配列を有する1対のオリゴDNA(第2の3’オリゴDNAと第2の5’オリゴDNA)をさらに含む。以下、第1のオリゴDNA対をそれぞれ「3’オリゴDNA」「5’オリゴDNA」と記載し、第2のオリゴDNA対はそれぞれ「3’オリゴDNAc」「5’オリゴDNAc」と記載する。
【0044】
これらのオリゴDNAのうち、3’オリゴDNAと5’オリゴDNAとは、センス鎖4(+)の標的塩基配列と相補的な塩基配列を有し、センス鎖4(+)にハイブリダイズした際、互いにわずかな隙間を有する状態で隣接するように設計されている。一方、3’オリゴDNAcと5’オリゴDNAcとは、アンチセンス鎖4(−)の標的塩基配列と相補的で、互いにわずかな隙間を有して隣接した状態で、この1本鎖4(−)にハイブリダイズするように設計されている。
【0045】
よって、本実施態様では、センス鎖4(+)の標的塩基配列領域に、3’オリゴDNAと5’オリゴDNAがハイブリダイズし、両者は互いにわずかな隙間を有した状態で隣接する。同様に、3’オリゴDNAcと5’オリゴDNAcとは、アンチセンス鎖4(−)の標的塩基配列領域にハイブリダイズして、わずかな隙間を挟んで隣接する(図2(b)参照)。
【0046】
センス鎖4(+)の標的塩基配列に変異がなければ、3’オリゴDNAと5’オリゴDNAとは、センス鎖4(+)の標的塩基配列にハイブリダイズし、耐熱性リガーゼ2が3’オリゴDNAと5’オリゴDNAとの間の隙間を連結し、LCR反応による増幅産物である連結産物15が得られる(図2(c)参照)。
【0047】
LCR工程は、2本鎖を解離させる加熱操作と、加熱処理後の反応液を冷却してハイブリダイズおよび連結反応を行なわせる操作とを1つのサイクルとし、このサイクルを10〜60サイクル、好ましくは20〜30サイクル、特に好ましくは23サイクル繰り返す。連結産物は、次のサイクルにおける鋳型となるため、上記反応を繰り返すことで、標的塩基配列をコピーしたLC連結産物15が指数関数的に増幅され(図3(a)参照)、連結産物15を含むLCR反応生成物16が得られる(図3(b)参照)。LCR工程は、全体で(すなわち23サイクル行う場合は第1サイクル開始から第23サイクル終了まで)30分以内でよい。
【0048】
なお、LCRプライマーセット10は、2本鎖DNA4の少なくともどちらか一方の1本鎖上の標的塩基配列とハイブリダイズするように設計された1対2種類のオリゴDNAを含んでいればよい。すなわち、本実施態様における第1のオリゴDNA対(3’オリゴDNAと5’オリゴDNA)または第2のオリゴDNA対(3’オリゴDNAcと5’オリゴDNAc)のどちらか一方を含んでいればよい。
【0049】
LCRプライマーセット10の各オリゴDNAは、0.1μM以上0.5μM以下の濃度でLCR反応液6に含有させることが好ましく、0.2μM程度の濃度とすることがさらに好ましく、特に0.25μMを最適濃度とする。
【0050】
LCR反応では、DNA4の標的塩基配列に変異があると、LCRプライマーセット10として添加されたオリゴDNAは標的塩基配列領域にハイブリダイズしない(図3(c)参照)。このため、標的塩基配列上で隣り合う3’オリゴDNAと5’オリゴDNA(または3’オリゴDNAcと5’オリゴDNAc)とは、本来、連結されず、連結産物が得られない。このため、変異があればLCR反応を行っても本来は標的塩基配列が増幅されない。
【0051】
しかし、オリゴDNAの平滑末端において非特異的連結が生じて増幅が生じることがあるため、LCR法単独で変異を検出する場合の精度は必ずしも高くない。そこで、本発明では、LCR反応により得られた連結産物をLAMP法の鋳型として用いることで一塩基変異の検出精度を向上させる。以下、LAMP反応を行う工程(LAMP工程)について説明する。
【0052】
《LAMP工程》
LAMP工程ではLAMP反応に用いるプライマーとして、少なくとも2種類のインナープライマーを含むLAMPプライマーセット20を用いる。具体的には、LAMPプライマーセット20は、一対のインナープライマーFIPおよびBIPを少なくとも含む。LAMPプライマーセット20はさらに、少なくとも一つのループプライマー(ループプライマーFLPまたはBLP)を含むことが好ましい。またLAMPプライマーセット20は、少なくとも一つのアウタープライマー(アウタープライマーFOPまたはBOP)をさらに含んでもよい。LAMPプライマーセット20は、LAMP反応液26中で、鎖置換型DNAポリメラーゼ12の存在下、LCR反応生成物16と混合する(図4参照)。
【0053】
第1のインナープライマーFIPおよび第2のインナープライマーBIPは、5’側がループ構造を形成するように構成されている。これら一対のインナープライマーFIP、BIPのどちらか一方、または両方が標的塩基配列における変異の有無をチェックするチェックプライマーとして機能するように設計されている。チェックプライマーは、標的塩基配列の変異が存在しうる特定の領域の塩基配列と予測される塩基配列を含むように設計され、変異があればループ構造を形成しないことによって変異の有無をチェックする。
【0054】
図5および図6を用いてLAMP反応の概要を説明する。図5(a)は、前記LCR反応により得られた連結産物15を模式的に示している。本発明では、図4に示すように連結産物15を含むLCR反応生成物16をLAMP反応に供する。LCR反応生成物16は、変異が存在しうる座位を含む領域を標的塩基配列として増幅された連結産物15を含み、連結産物15は変異が存在しうる特定の領域(変異領域)を含む。連結産物15の標的塩基配列を含む領域の3’側にある一部の領域を、標的塩基配列の3’側を規定する領域(第1規定領域)F2とする。また、標的塩基配列を含む領域の5’側にある一部の領域を、標的塩基配列の5’側を規定する領域(第2規定領域)B2とする。変異が存在しうる領域は、第1規定領域F2と第2規定領域B2との間に位置し、以下、この領域を変異領域と称する。
【0055】
なお、LCR工程では2本鎖DNAが合成されており、2本鎖DNAの一方の鎖(センス鎖)上の第1規定領域F2に対し、他方の鎖(アンチセンス鎖)上にあって第1規定領域F2の塩基配列と予測される配列と相補的な塩基配列を有する領域をアンチ第1規定領域F2cと記載する。以下、同様とし、センス鎖上の第2規定領域B2の塩基配列と予想される配列と相補的な塩基配列を有する領域をアンチ第2規定領域B2cと記載する。図面では、センス鎖に符号15(+)を、アンチセンス鎖に符号15(−)を付すが、文中では表記を簡潔にするためこれらについては符番の記載を省略する。
【0056】
第1のインナープライマーFIPをチェックプライマーとする場合、センス鎖における第1規定領域F2は、変異領域F1の5’側の隣にある領域とし、第1のインナープライマーFIPがセンス鎖の第1規定領域F2にハイブリダイズするように設定する。具体的には、第1のインナープライマーFIPは、3’側に第1規定領域F2の塩基配列と予測される塩基配列と相補的な塩基配列で構成されたアンチ第1規定領域F2cを有する。また、第1のインナープライマーFIPは、5’側に変異領域F1の塩基配列と予測される塩基配列で構成された変異領域F1を有するように設計されている。
【0057】
よって、LCR反応生成物15と前記第1のインナープライマーFIPとを混合して65℃付近の温度条件下でインキュベートすると、2本鎖DNAが動的平衡状態となることにより、第1のインナープライマーFIPのアンチ第1規定領域F2c部分が、センス鎖の第1規定領域F2にハイブリダイズする(図5(b)参照)。LAMP工程では、反応液中に鎖置換型のDNAポリメラーゼ12が含まれており、センス鎖にハイブリダイズした第1のインナープライマーFIPの3’を起点としてセンス鎖と相補的なDNA鎖(第1の伸長生成物)35が合成される(図5(c)参照)。
【0058】
本実施態様では、LAMPプライマーセット20は、一対のアウタープライマーFOP、BOPであるアウタープライマーセットを含んでいる。アウタープライマーFOP、BOPはそれぞれ、鎖置換型DNAポリメラーゼの働きにより、各インナープライマーFIP、BIPにより合成された伸長生成物35を鋳型DNAから剥しながら伸長反応を行うように設計されている。具体的には、第1のアウタープライマーFOPは、センス鎖の第1規定領域F2の5’側にある剥離用の領域F3の塩基配列と相補的な塩基配列を3’側に有するように構成されている。このため、第1のアウタープライマーFOPは、図5(d)に示すようにセンス鎖の第1規定領域F2より5’側にある領域F3にハイブリダイズする。
【0059】
このように、アウタープライマーFOPが、第1のインナープライマーFIPによる伸長生成物35とこれの鋳型となったセンス鎖との間に挟まるようにハイブリダイズしてアウタープライマーFOPを起点とするDNA合成により、センス鎖を複製した相補鎖15(−)´が合成される(図6(a)参照)。一方、アウタープライマーFOPを起点とするDNA合成により複製された相補鎖15(−)´が合成されることにより1本鎖とされた第1の伸長生成物35は、5’側にループ構造を形成する。
【0060】
ここで、第1の伸長生成物35は、5’側に第1のインナープライマーFIP由来の部分(F1とF2c)を含み、その3’側は、第1のインナープライマーFIPを起点として伸長された領域(伸長領域)である。伸長領域の5’側は、センス鎖の第1規定領域F2の5’側に隣接する変異領域F1がコピーされている。よって、第1伸長生成物35は図6(b)に示すように5’側にあるF1とF1cとが相補的に結合してループを形成する。
【0061】
一方、第1の伸長生成物35の3’側には、センス鎖の第2規定領域B2がコピーされたアンチ第2規定領域B2cが含まれる。ここで第2のインナープライマーBIPは、3’側に第2規定領域B2の塩基配列と予測される塩基配列と相補的な塩基配列で構成されたアンチ第2規定領域B2cを有し、5’側には、第2規定領域B2cの5’側にある領域B1の塩基配列と予測される塩基配列で構成された領域B1を有する。よって、第2のインナープライマーBIPは、アンチセンス鎖とハイブリダイズできるのみならず、図6(b)に示すように第1の伸長生成物35とハイブリダイズできる。
【0062】
第1の伸長生成物35に第2のインナープライマーBIPがハイブリダイズすることにより、第1の伸長生成物35を鋳型として第2の伸長生成物36が合成される。そして、第1の伸長生成物35に第2のアウタープライマーBOPがハイブリダイズすることにより、第2の伸長生成物36は第1の伸長生成物35から剥離され1本鎖となる。このとき、第2の伸長生成物36は両端にループを形成し(図6(d)参照)、3’側のループを起点とする合成反応が始まる。
【0063】
このように、変異領域F1に変異がなければ、LAMP反応による伸長生成物からも標的塩基配列が合成される。一方、変異領域F1に変異があれば、本来であればアンチ変異領域F1cが形成される領域の塩基配列は、変異領域F1と相補的な塩基配列とならない。このため、変異があれば、ループ構造が形成されず、第2の伸長生成物36が合成された時点でLAMP反応が止まる。
【0064】
よって、LAMP工程における最終産物の量を後述するように電気泳動法等で測定することで変異の有無を検出できる。このように、本発明によればリアルタイム測定を行う必要がないため、分析に供するゲノムを精製し、また濃度測定する必要はなく、未精製血液を純水で希釈した試料を測定できる。また、LAMP工程では鎖置換型DNAポリメラーゼを用いることから温度条件を60℃〜65℃付近にした状態で増幅反応が進行するため、LCR反応のように加熱と冷却を繰り返す必要がない。さらに、1本鎖の状態で存在するLCR反応による増幅産物を含むLCR反応生成物がLAMP反応に供されるため、LCR反応生成物は熱変性させることなくLAMP反応を行なうことができる。
【0065】
なお、本実施態様では、LAMPプライマーセット20は、一対のループプライマーFLP、BLPを含むループプライマーセットをさらに含んでいる。ループプライマーFLP、BLPはそれぞれ、各インナープライマーFIP、BIPにより合成された伸長生成物35、36の別々の末端に形成されるループにハイブリダイズするように設計されている。具体的には、第1のループプライマーFLPは、第1規定領域F2に相補的な配列F2cを有し、第2のループプライマーBLPは、第2規定領域B2に相補的な配列B2cを有する。第1のインナープライマーFIPにより合成された伸長生成物の3’側において、アンチ第1規定領域F2cは、変異領域F1とこれに相補的な配列を有するアンチ変異領域F1cに挟まれる。伸長生成物が1本鎖とされると、変異領域F1とアンチ変異領域F1cとがハイブリダイズしてループが形成される。第1のループプライマーFLPは、ループの環状部分となるアンチ第1規定領域F2cにハイブリダイズする(図6(d)参照)。
【0066】
そして、第1のループプライマーFLPが起点となり、合成反応が進行する。このように、LAMPプライマーセット20にループプライマーFLP、BLPを含ませることで、DNA合成の起点を増やすことができる。このため、LAMP反応に要する時間を短くできる。また、本発明においては、後述するようにLCR反応のサイクル数を少なくできる。
【0067】
本実施態様では、一対のアウタープライマーFIP、BIPを用いているが、アウタープライマーFIP、BIPどちらか一方でもよい。同様に、ループプライマーも一対としているが、ループプライマーFLP、BLPのどちらか一方でよい。なお、本発明では、ループプライマーのみならずアウタープライマーをも省略可能であり、インナープライマーのみでLAMP反応を行なうこともできる。
【0068】
本発明においては、LCR反応による反応生成物を鋳型としてLAMP反応を行うため、それぞれの反応に用いる反応液中のプライマーの濃度を所定の範囲に設定するとよい。具体的には、LCR反応については上述したとおりであり、LAMP反応についてはインナープライマーの濃度を0.2μM以上1.0μM以下、特に0.4μMとするとよい。アウタープライマーについては省略することも可能であることから、その濃度は0μM以上0.1μM以下とし、特に0.05μMとするとよい。さらに、LAMPプライマーセットにループプライマーを含ませる場合、ループプライマーの濃度は0.1μM以上0.5μM以下、特に0.2μMとするとよい。
【0069】
LAMP工程は、30分以内とすることが好ましく、特に15分〜20分程度とするとよい。LAMP工程終了後、LAMP工程から得られた反応済液に含まれる最終産物を測定して、標的塩基配列が増幅されているか否かを分析すれば変異の有無を検出できる。標的塩基配列が増幅されていれば、LAMP工程から得られた反応済液には増幅産物が多く含まれるため、蛍光検出法によらずに増幅の有無が分析できるため、反応済み液は蛍光検出法以外、例えば電気泳動法、拡散電気化学法、拡散分光高度測定、または濁度測定等で分析できる。
【0070】
[参考例1]
参考例1では、精製したゲノム由来のDNAを分析に供する試料とした。精製ゲノムとしては、市販されている精製ヒトゲノム(Roche社製、Human Genomic DNA、Cat. No.11-691-001)を使用した。精製ゲノム由来のDNAの濃度は0.5ng/μLとした。以下では、試料とするDNAの塩基配列のうちヒトCYP2C19遺伝子を標的遺伝子配列とし、CYP2C19遺伝子のG636A1塩基多型を標的変異として変異の有無を検出することを想定した。CYP2C19遺伝子の野生型の塩基配列を配列番号1に示す。1塩基変異型は、配列番号1の56番目(以下に示す配列の下線を付した座位)がGではなくAとなる。
CYP2C19遺伝子;配列番号1
Ttct taacttgatg gaaaaattga atgaaaacat caggattgta agcaccccct ggatccaggt aaggccaagt tttttgcttc ctgagaaacc acttacagtc tttttttctg gg
【0071】
まず、LCR反応に要する時間を検討することとし、第1の3’側オリゴDNA、第2の3’側オリゴDNA、第1の5’側オリゴDNA、および第2の5’側オリゴDNAからなるLCRプライマーセットを用意した。第1の3’側オリゴDNAの塩基配列を配列番号2に、第2の3’側オリゴDNAの塩基配列を配列番号3に、第1の5’側オリゴDNAの塩基配列を配列番号4に、第2の5’側オリゴDNAの塩基配列を配列番号5に示す。
第1の3’側オリゴDNA(WT−sp−FIP);配列番号2
tct taacttgatg gaaaaattga atgaaaacat caggattgta agcaccccct gG
第2の3’側オリゴDNA(WT−sp−rFIP);配列番号3
Ccagggggtgcttacaatcctgatgttttcattcaatttttccatcaagttaaga
第1の5’側オリゴDNA(sp-BIP);配列番号4
atccaggt aaggccaagt tttttgcttc ctgagaaacc acttacagtc tttttttctg gg
第2の5’側オリゴDNA(sp-rBIP);配列番号5
cccagaaaaaaagactgtaagtggtttctcaggaagcaaaaaacttggccttacctggat
【0072】
第1の3’側オリゴDNAと第1の5’側オリゴDNA(以下、「第1のオリゴDNA対」)はセンス鎖に相補的塩基配列を有し、第2の3’側オリゴDNAと第2の5’側オリゴDNA(以下、「第2のオリゴDNA対」はアンチセンス鎖に相補的な塩基配列を有する。
【0073】
4種類のオリゴDNAは、いずれも終濃度2μMとなるようにLCR反応液中に混合した。耐熱性リガーゼとしてはAmpligase(商品名、5U/μM、Epicentre社製)用い、この酵素に付属しているバッファーを推奨濃度で使用した。LCR反応液の組成を以下に記載する。
【0074】
〈LCR反応液〉
精製ゲノム(10ng/μL) :1μL
蒸留水 :12μL
Ampligase付属バッファー(10倍希釈):2μL
耐熱性リガーゼ(5U/μL) :1μL
各プライマー(それぞれ40μM) :1μL
【0075】
Ampligaseを用いてLCR反応を行う場合の推奨温度反応は94℃120秒での反応させた後、68℃60秒で反応させるというものであったが、参考例1では、LCR反応の条件を変化させた10パターンの試験および温度サイクルなしの1パターン、合計11パターンの試験を行なった。各パターンの実験条件を表1に示す。
【0076】
【表1】
【0077】
結果を図7に示す。図7では、各レーンを丸付き括弧で示している。94℃で保持する時間および68℃で保持する時間をどちらも30秒に短縮した場合(図7の第9レーンおよび第10レーン)でも、増幅産物量は減少するものの、酵素活性に著しい影響は起きないことが判明した。
【0078】
[参考例2]
【0079】
参考例2では、LCR反応による増幅産物をLAMP反応の鋳型とする際に必要となるLCR反応の長さ(サイクル数)を検討した。
【0080】
参考例2では、参考例1で用いた精製DNAを、それぞれ100ng/μL、10ng/μL、1ng/μL、または0.1ng/μLの濃度としてLCR反応に供した。LCR反応の反応液は、鋳型とする精製ゲノムの濃度が異なる以外は参考例1と同様とした。また、LCR反応に用いたLCRプライマーセットも参考例1と同じとした。
【0081】
参考例2では、LCR反応の1サイクルは、94℃30秒での熱変性処理後、68℃30秒で反応させるものとし、反応サイクル数を10サイクル、30サイクル、または50サイクルとした。また、参考例2においてコントロールとして、94℃60秒で反応させた後、68℃120秒で反応させる増幅反応を1サイクルとし、これを50サイクル繰り返すことにより増幅産物を含むLCR反応生成物を得た。
【0082】
得られたLCR反応生成物を混合したLAMP反応液を調整し、LAMP反応を行った。LAMP反応液の組成を以下に記載する。なお、各実験区についてLAMP反応液にループプライマーセットを加えた場合と加えない場合とを設定した。
【0083】
LAMPプライマーセットを構成する一対のインナープライマーの一方(第1のインナープライマーFIP)の塩基配列を配列番号6、他方(第2のインナープライマーBIP)の塩基配列を配列番号7に示す。
第1のインナープライマーFIP;配列番6
TCCAGGGGTCTTAACTTGATGGAAAAAT
第2のインナープライマーBIP;配列番号7
GGATCCAGGCCCAGAAAAAAAGACTGT
【0084】
LAMPプライマーセットに含まれる一対のループプライマーの一方(第1のループプライマーFLP)の塩基配列を配列番号8、他方(第2のループプライマーBLP)の塩基配列を配列番号9に示す。
第1のループプライマーFLP;配列番8
GCTTACAATCCTGATGTT
第2のループプライマーBLP;配列番号9
GTAAGGCCAAGTTTTTTG
【0085】
LAMPプライマーセットに含まれる一対のアウタープライマーの一方(第1のアウタープライマーFOP)の塩基配列を配列番号10、他方(第2のアウタープライマーBOP)の塩基配列を配列番号9に示す。
第1のアウタープライマーFOP;配列番10
TCCAGAAACGTTTCG
第2のアウタープライマーBOP;配列番号11
AGGGCTTGGTCAATAT
【0086】
〈LAMP反応液〉
LCR反応生成物 :1.0μL
蒸留水 :0.45μL
付属バッファー(10倍希釈) :0.8μL
2.5mM各dNTP :1.0μL
ベタイン(5M) :1.0μL
鎖置換型DNAポリメラーゼ(5U/μL):0.25μL
プライマーミックス :0.5μL
【0087】
なお、プライマーとしては、栄研化学株式会社製Loopamp(登録商標) P450タイピング試薬キットに付属のプライマーミックスを用いた。プライマーミックスの組成は以下の通りである。
〈プライマーミックス〉
インナープライマー(16pmol/μL)
アウタープライマー(2pmol/μL)
ループプライマー(8pmol/μL)
【0088】
LAMP反応は、60℃で30分間を行い、LAMP反応終了後の反応済み液を電気泳動法による分析に供して増幅の有無を調べた。結果は図8に示すとおりである。
【0089】
参考例2より、LCR反応のサイクル数を30サイクル以上とすれば、LCR反応で得られたLCR反応生成物を鋳型とするLAMP反応による増幅が起きることが判明した。また、LAMP反応を行う際に、反応液にループプライマーを含ませればLCR反応のサイクル数を30サイクル以下にでき、10サイクル以上でよいことが判明した。
【0090】
[参考例3]
参考例3では、LCR反応の際に用いるプライマー(LCRプライマー)が、LCR反応生成物に残留して含まれることによってLAMP反応の増幅率および変異識別能に及ぼす影響を調べた。参考例3では、特異性の判断を的確に行なえるかどうかを見当するため、参考例1および2で用いた精製ゲノムに代えてGホモであるLSI74T培養細胞由来の精製ゲノムを用いた。GアレルとAアレルとはそれぞれ別の孤立した反応で行い、Gアレル検出用のLCR反応で用いるプライマーセットは、参考例1で用いたLCRプライマーセット(以下、「LCRプライマーセット(G)」)を用いた。
【0091】
一方、Aアレル検出用のLCR反応で用いるLCRプライマーセット(LCRプライマーセット(A))としては、LCRプライマーセット(G)の第1の3’側オリゴDNAに代えて配列番号12に示す塩基配列を有するオリゴDNA(以下、「第1の3’側オリゴDNA(A)」)を用いた。また、LCRプライマーセット(G)第2の3’側オリゴDNAに代えて配列表13に示す塩基配列を有するオリゴDNA(以下、「第2の3’オリゴDNA(A)」)を用いた。
Aアレル検出用の第1の3’側オリゴDNA(MT−sp−FIP);配列番号12
tct taacttgatg gaaaaattga atgaaaacat caggattgta agcaccccct gA
Aアレル検出用第2の3’側オリゴDNA(MT−sp−rFIP);配列番号13
Tcagggggtgcttacaatcctgatgttttcattcaatttttccatcaagttaaga
【0092】
これらLCRプライマーセット(G)または(A)を、それぞれのオリゴDNAの終濃度が2.0μM、1.5μM、1.0μM、0.5μM、または0.2μMとなるようにLCR反応液を調製した。また、鋳型とする精製ゲノム由来のDNAの濃度は、10ng/μLの濃度とし、添加量は1μLとした。LCR反応液に含まれるその他の成分の濃度および添加量は参考例1と同じとした。
【0093】
参考例3でも参考例2と同じくLCR反応は、94℃30秒で反応させた後68℃30秒で反応させる反応を1サイクルとして、これを10、23、37、または50サイクル繰り返した。参考例3ではネガティブコントロールとして、DNAの代わりに栄研化学社製Loopamp(登録商標) P450タイピング試薬キットの付属品である蒸留水を用いた。
【0094】
LAMP反応は非特許文献2に基づいて行い、Gアレル検出用のプライマーセット(LAMPプライマーセット(G))として参考例2で用いたLAMPプライマーを用いた。
【0095】
Aアレル検出用のプライマーセット(LAMPプライマーセット(A))としては、LAMPプライマーセット(G)の第1のインナープライマーFIPに代えて、配列番号14に示す塩基配列を有するAアレル用第1のインナープライマーMT−FIPを用いた。また、LAMPプライマーセット(A)では、LAMPプライマーセット(G)の第2のインナープライマーBIPに代えて、配列番号15に示す塩基配列を有するAアレル用第2のインナープライマーMT−BIPを用いた。
Aアレル検出用の第1のインナープライマー(MT−FIP);配列番号14
TTCAGGGGTCTTAACTTGATGGAAAAAT
Aアレル検出用の第2のインナープライマー(MT−BIP);配列番号15
GAATCCAGGCCCAGAAAAAAAGACTGT
【0096】
LAMP反応の反応液には、一対2種類のインナープライマーをそれぞれ1.6μMの濃度で、一対2種類のループプライマーをそれぞれ0.8μMの濃度で、一対2種類のアウタープライマーをそれぞれ0.2μM(いずれも終濃度)で含有させた。LAMP反応は、反応時間を20分で行った。結果を図9に示す。図9において、レーン名は、アリール・タイプ(GかA)とLCR反応に使用した添加プライマー濃度示す。また、D01およびD02は、ネガティブコントロールとして、精製ゲノム由来のDNAに代えて蒸留水を使用した場合のレーンを示す。
【0097】
図9に示すようLCR工程での反応を10サイクルとした場合は、LCR反応で増幅は起こったものの特異性がなく、サイクル数を10以上、特に23とすると特異性が得られた。また、LCRプライマーの濃度が特異性に影響を与えていることが判明した。
【0098】
[参考例4]
参考例4では、LCR反応による増幅産物を鋳型としてLAMP反応を行う場合おけるLAMPプライマー濃度について検討した。具体的には、参考例3において、LAMPプライマーの濃度を、2倍、4倍、または8倍に希釈した。参考例4では、LAMPプライマー濃度以外は参考例3と同様とし、LCR反応は10サイクル、または23サイクルとした。参考例4においてLAMP反応により得られたLAMP増幅産物を電気泳動法による分析に供したところ、図10に示す結果が得られ、LAMPプライマー濃度を参考例3の4倍希釈とすることがよいことが判明した。
【0099】
[参考例5]
さらに、参考例3で用いた精製ゲノム由来のDNAの濃度を、100ng/μL、10ng/μL、または1ng/μL濃度とし、LCR反応を行なった後、LAMP反応させた。LCR反応液は、LCRプライマー濃度が20pmol/μL、15pmol/μL、10pmol/μL、5pmol/μL、または2pmol/μLとなるようにし、それ以外は参考例1と同様とした。LCR反応は、94℃30秒での反応後、68℃30秒で反応させる操作を1サイクルとしてサイクル数は23サイクルとした。
【0100】
LAMP反応は、プライマーミックスの濃度を、2倍、または4倍希釈とした以外は上記参考例2で使用したLAMP反応液と同じLAMP反応液を使用し、60℃で20分間の反応を行なった。結果を図11に示す。
【0101】
図11に示すように、鋳型とする精製ゲノムDNAの濃度範囲での違いは認められず、LCRプライマーの濃度と、LAMPプライマーの濃度とを調整することで、非特異的増幅を制御できる可能性が高くなることが示された。また、LAMPプライマーを2倍希釈した場合、4倍希釈した場合とも、特異性は得られたものの特異性が高い範囲が異なった。そして、LAMPプライマーの濃度が低いほどLCRプライマーが高濃度であっても特異的増幅が得られること、およびLCRプライマーの濃度が低くなりすぎると多少の非特異的増幅が見られることが判明した。
【0102】
[参考例6]
参考例6として、参考例3におけるLAMP反応時間を10分、15分、17分とした。参考例5では、LAMP反応の時間以外は参考例3と同様とした。参考例6においてLAMP反応により得られたLAMP増幅産物を電気泳動法による分析に供したところ、LAMP反応時間を17分とすればよいことが判明した。
【0103】
[参考例7]
参考例7では、参考例3で用いた精製ゲノムDNAを100ng/μL、10ng/L、または1ng/Lに希釈して試料とした。参考例7では、LCR反応液のLCRプライマー濃度は、濃度5μMのものを、全反応液量20μLに対して添加量1μLで添加し、終濃度0.25μMとした。LCR工程のその他の条件は、参考例3と同様にした。また、LAMP反応は、各LAMPプライマーの終濃度が、インナープライマーについて0.4μM、アウタープライマーについて0.05μM、ループプライマーについて0.2μMとなるように添加し、それ以外の条件は参考例3と同様にし、LAMP反応の時間は17分とした。
【0104】
さらに、参考例7ではコントロールとして、LCR反応を行うことなく上記3段階希釈した精製ゲノムをLAMP反応に供した。コントロールについては、LAMP栄研化学株式会社製Loopamp(登録商標) P450タイピング試薬キットを用い、インナープライマー、アウタープライマー、およびループプライマーは、いずれもキット付属品を希釈することなくそのまま用い、LAMP反応の時間35分として3段階希釈した試料をLAMP反応に供した。
【0105】
結果を図12に示す。図12に示すように、LCR反応生成物をLAMP反応の鋳型とする場合、LCR反応なしでLAMP反応を単独で行う場合に比べて、ダイナミックレンジを1桁以上多くできることが示された。
【0106】
[参考例8]
参考例8として、LAMPプライマーセットにアウタープライマーFOP、BOPを含めない場合と含めた場合とを比較する実験を行った。参考例8では、LCR反応は参考例1に記載した組成のLCR反応液を用い、94℃30秒での反応後、68℃30秒での反応を行なう操作を1サイクルとし、サイクル数は23サイクルとした。なお、LCR反応液としては、LCRプライマー濃度が5pmol/μLのものと2pmol/μLのものとの2種類を用いた。
【0107】
LAMP反応は、プライマーミックスとして以下の組成のものを使用した以外は上記参考例2で使用したLAMP反応液を用い、60℃15分間の反応を行なった。
〈プライマーミックス〉
インナープライマー(8pmol/μL)
ループプライマー(4pmol/μL)
アウタープライマー(1.6pmol/μL)
【0108】
結果を図13に示す。図13に示すように、アウタープライマーを用いる場合と比べ、アウタープライマーを用いない場合は、反応効率はやや低下するが、検出精度には大きな影響を及ぼさないことが明らかとなった。
【0109】
[実施例1]
実施例1として、参考例3で用いたLSI74T培養細胞由来の精製ゲノムDNA(Gアレルホモ)を10ng/μLの濃度とした試料を用いて、参考例1で示した組成のLCR反応液でLCR反応を行った。LCR反応の1サイクルは、94℃30秒での加熱処理後、68℃30秒で反応させるものとし、反応サイクル数は23サイクルとした。
【0110】
次に、得られたLCR反応生成物を、LAMP反応に供した。LAMP反応液の組成は以下に示す通りであり、LAMPプライマーセットとしては、Gアレル検出用、Aアレル検出用共に参考例3で用いたプライマーセットと同じプライマーを用いた。
【0111】
〈LAMP反応液〉
LCR反応生成物 :1.25μL
蒸留水 :5.25μL
キット付属RMバッファー :5.0μL
鎖置換型DNAポリメラーゼ(8U/μL):0.5μL
【0112】
LAMPプライマーとしては、参考例2で用いたプライマーミックスを用い、添加量を0.5μLとして、インナープライマーの終濃度0.4μM、アウタープライマーの終濃度0.05μM、ループプライマーの終濃度0.2μMとした。
【0113】
実施例1では、ポジティブコントロールとしてLSI74T培養細胞由来の精製ゲノムDNA(Gアレルホモ)に代えて、へテロの精製ゲノム由来のDNAを用いた実験も行った。さらに、ネガティブコントロールとして精製ゲノム由来のDNAに代えて純水を用いた実験も行った。
【0114】
[比較例1]
比較例として、実施例1でLCR反応に供した精製ゲノムをそのまま、LAMP法に供した。すなわち、比較例1ではLAMP法を単独で行った。比較例1では、LAMP反応を開始する前に、栄研化学株式会社製Loopamp(登録商標) P450タイピング試薬キットの取扱説明書に記載されていたとおり、精製ゲノムを95℃で5分間、熱変性処理させた後、5分間、氷上冷却を行なった。なお、実施例1ではLCR反応生成物はこのような熱変性および冷却処理することなく、LAMP反応に供している。
【0115】
[実施例1および比較例1の結果]
実施例1と比較例1の実験を20回、繰り返すことにより、LAMP反応単独と本発明とを比較し、繰り返し検証により反応の安定性を検証した。実験結果の一例を図14に示す。図14において、PCはポジティブコントロール(GとAが陽性)、LSはヘテロ(G陽性、A陰性)、DDWはネガティブコンコトール(GとAがともに陰性)を示す。
【0116】
実施例1および比較例1では、ポジティブコントロールについて、Gアレル検出用のプライマーセット、Aアレル検出用プライマーセットどちらを用いた場合でも特異的増幅が起これば、正しい結果が得られたことになる。一方、GアレルホモのLSI74T培養細胞由来の精製ゲノムDNAを用いた場合については、Gアレル検出用のプライマーセットを用いた場合しか特異的増幅が起こらなければ、実験結果が正しかったことになる。さらに、ネガティブコントロールについては、どちらのプライマーを用いても特異的増殖が起こらなければ実験結果は正しいことになる。
【0117】
実施例1ではポジティブコントロール、ネガティブコントロール、およびLSI74T培養細胞由来の精製ゲノムDNAについて、実験結果が正しくなかったのは、3回であった。比較例1では、図14に示すようにLSI74T培養細胞由来の精製ゲノムDNAで、Gアレル検出用プライマーを用いた場合でも増幅が起こらないというように、約6回に1回の頻度で増幅が生じないか、増幅しても非特異的増幅であり誤判定を誘導することが明らかとなった。
【0118】
[実施例2]
実施例2として、精製ゲノムDNAに代えて未精製血液を純水で10倍希釈した試料を用いた実験を行った。実施例2では、添加物なしで−80℃の条件下、3ヶ月間保存した血液、添加物なしで保存していない血液、EDTAを添加して4℃で3ヶ月保存した血液、の3種類から試料を調製した。実施例2では、CYP2C19遺伝子のG636A変異の有無を検出することとした。
【0119】
実施例2では、試料を純水で希釈した未精製血液とした以外は、実施例1と同様の条件で実験を行ったところ、図15に示す結果が得られ、全ての試料について特異的な増幅が得られた。
【0120】
以下に、未精製血液を試料として用いる場合において、本発明で推奨される核酸の分析方法を記載するが、本発明はこれに限定されない。
【0121】
〈試料〉
純水製造装置(Millipore社製、商品名Milli-Q GPAII)で調製した純水で血液を10倍希釈する。
【0122】
〈LCR反応液〉
未精製血液(10倍希釈) :1μL
純水 :5.5μL
耐熱性リガーゼ(Epicentre社製、5U/μL):0.5μL
各プライマー(それぞれ5μM):0.5μL
【0123】
〈LCR反応〉
94℃30秒間の熱処理の後、68℃30秒間で反応させる操作を1サイクルとし、23サイクルでLCR反応を終了してLCR反応生成物を得る。
【0124】
〈LAMP反応液〉
LCR反応生成物 :1.25μL
純水 :5.25μL
バッファー(4倍希釈) :5μL
LAMPプライマーセット :0.5μL
鎖型DNAポリメラーゼ(8U/μL):0.5μL
【0125】
LAMP反応液中のバッファー、LAMPプライマーセットおよび鎖置換型DNAポリメラーゼとしては、栄研化学株式会社製のLoopamp P450タイピング試薬キット、RNA増幅試薬キット、DNA増幅試薬キット等に付属の試薬を用いればよい。ただし、試薬はこれらに限定されず、例えば非特許文献3に従ったLAMP反応液を調整してもよい。ただし、非特許文献3の組成のLAMP反応液とする場合は、LAMPプライマーの濃度は4分の1とする。LAMP反応は、60℃で17分行えばよい。
【0126】
表2にEpicentre社製Ampligase(商品名)を用いた場合に推奨されるLCR法、栄研化学株式会社製Loopamp P450タイピング試薬キットを用いた場合に推奨されるLAMP法、および本発明について、それぞれの特徴を記載する。なお、表2において「急冷」とは、2本鎖DNAを熱変性させた後、DNAが元の2本鎖に戻ることを防止するために4℃以下に急冷する操作を意味する。かかる操作を「急冷」とするには、LCR反応で加熱処理後に連結反応を行なわせるために冷却する操作と区別するためである。
【0127】
【表2】
【0128】
表2に示すように、本発明によれば、簡便な操作で迅速に塩基配列の変異が検出でき、ダイナミックレンジもLAMP法に比べて広い。また、LCR反応とLAMP反応を組み合わせて2種類の化学反応で変異の有無を検出するため、表2に示すように操作を簡便化しながら実施例1および実施例2に示すように変異検出精度を高くできる。さらに、未精製血液を試料とできるため、本発明は臨床での分析に適しており、本発明方法による分析機器には冷却機構を省略することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0129】
本発明は、遺伝子の塩基配列変異の検出に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0130】
【図1】本発明の一実施態様におけるLCR工程を示す模式図。
【図2】本発明の一実施態様におけるLCR工程を示す模式図。
【図3】本発明の一実施態様におけるLCR工程を示す模式図。
【図4】本発明の一実施態様におけるLAMP工程を示す模式図。
【図5】本発明の一実施態様におけるLAMP工程を示す模式図。
【図6】本発明の一実施態様におけるLCR工程を示す模式図。
【図7】参考例1の結果を示す電気泳動写真の図。
【図8】参考例2の結果を示す電気泳動写真の図。
【図9】参考例3の結果を示す電気泳動写真の図。
【図10】参考例4の結果を示す電気泳動写真の図。
【図11】参考例5の結果を示す電気泳動写真の図。
【図12】参考例7の結果を示す電気泳動写真の図。
【図13】参考例8の結果を示す電気泳動写真の図。
【図14】実施例1および比較例1の結果を示す電気泳動写真の図。
【図15】実施例2の結果を示す電気泳動写真の図。
【符号の説明】
【0131】
2 :耐熱性リガーゼ
4 :DNA(核酸)
6 :LCR反応液
10 :LCRプライマーセット
12 :鎖置換型DNAポリメラーゼ
16 :LCR反応生成物
20 :LAMPプライマーセット
26 :LAMP反応液
【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的塩基配列を含む核酸の分析方法であって、
前記核酸を有する試料とLCR反応用のLCRプライマーセットとを含むLCR反応液中でLCR反応を行ってLCR反応生成物を生成させ、
前記LCR反応生成物を、LAMP反応用のLAMPプライマーセットが含まれたLAMP反応液中でLAMP反応させる分析方法。
【請求項2】
前記LCR反応生成物を熱変性処理することなく前記LAMP反応させる請求項1に記載の核酸の分析方法。
【請求項3】
前記LCR反応液中の前記LCRプライマーセットの濃度、および前記LAMP反応液中の前記LAMPプライマーセットの濃度が所定の範囲に調整されている請求項2に記載の核酸の分析方法。
【請求項4】
前記LCR反応液中の前記LCRプライマーセットの濃度は、0.1μM以上0.5μM以下である請求項3に記載の核酸の分析方法。
【請求項5】
前記LAMPプライマーセットは、インナープライマーセットを少なくとも含み、
前記LAMP反応液中の前記インナープライマーセットの濃度は、0.2μM以上1.0μM以下である請求項3または4に記載の核酸の分析方法。
【請求項6】
前記LAMPプライマーセットは、ループプライマーとアウタープライマーとをさらに含み、
前記LAMP反応液中の前記ループプライマーの濃度は、0.1μM以上0.5μM以下であり、前記アウタープライマーの濃度は、0μM以上0.1μM以下である請求項5に記載の核酸の分析方法。
【請求項7】
前記LCR反応は、94℃の温度条件で10秒以上30秒間以下の熱変性処理を行なった後65℃以上70℃以下の温度条件で30秒間の連結反応を行なう処理を1サイクルとし、該LCR反応のサイクル数は30サイクル以下である請求項1から6のいずれかに記載の核酸の分析方法。
【請求項8】
前記LAMPプライマーセットは、インナープライマーセットと、ループプライマーとを少なくとも含み、
前記LCR反応のサイクル数は10サイクル以上25サイクル以下である請求項7に記載の核酸の分析方法。
【請求項9】
前記LAMP反応を行なう反応時間は、30分以下である請求項1から8のいずれかに記載の核酸の分析方法。
【請求項10】
前記標的塩基配列は、変異部位を含み、
前記LAMP反応による増幅産物の有無を調べることにより、前記核酸の変異の有無を検出する請求項1から9のいずれかに記載の核酸の分析方法。
【請求項11】
前記試料は、2×10〜2×103ヒト・ゲノム/μLを含む請求項1から10のいずれかに記載の核酸の分析方法。
【請求項12】
前記試料中の核酸は、精製されていない、またはゲノム濃度測定されていない請求項1から11のいずれかに記載の核酸の分析方法。
【請求項13】
前記試料は、純水で希釈した未精製血液である請求項1から12のいずれかに記載の核酸の分析方法。
【請求項14】
前記試料は、純水による希釈倍率が10倍である請求項13に記載の核酸の分析方法。
【請求項1】
標的塩基配列を含む核酸の分析方法であって、
前記核酸を有する試料とLCR反応用のLCRプライマーセットとを含むLCR反応液中でLCR反応を行ってLCR反応生成物を生成させ、
前記LCR反応生成物を、LAMP反応用のLAMPプライマーセットが含まれたLAMP反応液中でLAMP反応させる分析方法。
【請求項2】
前記LCR反応生成物を熱変性処理することなく前記LAMP反応させる請求項1に記載の核酸の分析方法。
【請求項3】
前記LCR反応液中の前記LCRプライマーセットの濃度、および前記LAMP反応液中の前記LAMPプライマーセットの濃度が所定の範囲に調整されている請求項2に記載の核酸の分析方法。
【請求項4】
前記LCR反応液中の前記LCRプライマーセットの濃度は、0.1μM以上0.5μM以下である請求項3に記載の核酸の分析方法。
【請求項5】
前記LAMPプライマーセットは、インナープライマーセットを少なくとも含み、
前記LAMP反応液中の前記インナープライマーセットの濃度は、0.2μM以上1.0μM以下である請求項3または4に記載の核酸の分析方法。
【請求項6】
前記LAMPプライマーセットは、ループプライマーとアウタープライマーとをさらに含み、
前記LAMP反応液中の前記ループプライマーの濃度は、0.1μM以上0.5μM以下であり、前記アウタープライマーの濃度は、0μM以上0.1μM以下である請求項5に記載の核酸の分析方法。
【請求項7】
前記LCR反応は、94℃の温度条件で10秒以上30秒間以下の熱変性処理を行なった後65℃以上70℃以下の温度条件で30秒間の連結反応を行なう処理を1サイクルとし、該LCR反応のサイクル数は30サイクル以下である請求項1から6のいずれかに記載の核酸の分析方法。
【請求項8】
前記LAMPプライマーセットは、インナープライマーセットと、ループプライマーとを少なくとも含み、
前記LCR反応のサイクル数は10サイクル以上25サイクル以下である請求項7に記載の核酸の分析方法。
【請求項9】
前記LAMP反応を行なう反応時間は、30分以下である請求項1から8のいずれかに記載の核酸の分析方法。
【請求項10】
前記標的塩基配列は、変異部位を含み、
前記LAMP反応による増幅産物の有無を調べることにより、前記核酸の変異の有無を検出する請求項1から9のいずれかに記載の核酸の分析方法。
【請求項11】
前記試料は、2×10〜2×103ヒト・ゲノム/μLを含む請求項1から10のいずれかに記載の核酸の分析方法。
【請求項12】
前記試料中の核酸は、精製されていない、またはゲノム濃度測定されていない請求項1から11のいずれかに記載の核酸の分析方法。
【請求項13】
前記試料は、純水で希釈した未精製血液である請求項1から12のいずれかに記載の核酸の分析方法。
【請求項14】
前記試料は、純水による希釈倍率が10倍である請求項13に記載の核酸の分析方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2008−228589(P2008−228589A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−69594(P2007−69594)
【出願日】平成19年3月16日(2007.3.16)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年3月16日(2007.3.16)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】
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