説明

核酸増幅方法および核酸増幅用チップ

【課題】核酸増幅において反応液を所定の温度範囲に留める時間を制御できる核酸増幅方法および核酸増幅用チップを提供する。
【解決手段】反応液を用いた核酸増幅方法は、前記反応液より比重が異なり、かつ、前記反応液と混和しない液体が第2のチャンバーに充填された核酸増幅用チップの第1のチャンバーに前記反応液を導入する工程と、遠心によって前記第1のチャンバーの前記反応液を前記第2のチャンバーに導入させる工程と、前記核酸増幅用チップの少なくとも一方の端部の温度を調節することにより、前記反応液の温度を調節する工程と、回転軸を中心として所定の速度で前記核酸増幅用チップを回転させる工程と、を含み、前記核酸増幅用チップを回転させる工程は、前記核酸増幅用チップを第1の方向に回転させることによって前記反応液を第1の温度範囲に所定時間留めると共に、前記核酸増幅用チップを第1の方向と反対方向である第2の方向に回転させることによって前記反応液を第2の温度範囲に制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核酸増幅方法および核酸増幅用チップに関する。
【背景技術】
【0002】
DNAやRNA等の遺伝子を検査するための方法として、PCR(Polymerase Chain Reaction)が研究用および臨床検査用に広く用いられている。このPCRでは通常、標的核酸を含みうる検体および試薬を含む反応液を容器に入れ、サーマルサイクラーと呼ばれる温度制御装置を用いて、例えば95℃、74℃、55℃という複数段階の温度変化を繰り返すことにより標的核酸を増幅させる。
【0003】
しかしながら、PCRでは通常、反応液を一定の温度に調節するのが難しく、また、反応液を一定の温度に調節できたとしても、温度調節に時間がかかることが作業効率の向上を妨げる一要因となっている。また、作業時間短縮のために反応液を急速に加熱または冷却すると、消費電力が大きくなるうえ、サーマルサイクラーの温度制御を司る温度制御素子の耐久性を下げるおそれがある。
【0004】
そこで、特許文献1において、PCR反応をより効率良く行うために、所定の温度に制御されたサーマルサイクラーの温度制御素子に対して反応液を重力を利用して移動させ、反応液の温度変化を生じさせる技術が提案されている。この技術のPCR反応方法によれば、反応液の量を少なくでき、かつ温度制御が容易で消費電力を削減できる。しかしながら、この方法では、反応液を所定温度に維持する時間を制御するのが困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009‐136250号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、核酸増幅において反応液を所定の温度範囲に留める時間を制御することができる核酸増幅方法および核酸増幅用チップを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様に係る核酸増幅方法は、反応液を用いた核酸増幅方法であって、
核酸増幅用チップの第1のチャンバーに前記反応液を導入する工程と、
遠心によって前記第1のチャンバーの前記反応液を、前記反応液より比重が異なり、かつ、前記反応液と混和しない液体が充填された第2のチャンバーに導入させる工程と、
前記核酸増幅用チップの少なくとも一方の端部の温度を調節することにより、前記反応液の温度を調節する工程と、
回転軸を中心として所定の速度で前記核酸増幅用チップを回転させる工程と、を含み、
前記核酸増幅用チップを回転させる工程は、前記核酸増幅用チップを第1の方向に回転させることによって前記反応液を第1の温度範囲に所定時間留めると共に、前記核酸増幅用チップを前記第1の方向とは反対方向である第2の方向に回転させることによって前記反応液を第2の温度範囲に制御する。
【0008】
前記核酸増幅方法によれば、前記核酸増幅用チップを回転させる工程において、前記核酸増幅用チップを前記第1の方向に回転させることによって前記反応液を前記第1の温度範囲に留めると共に、前記核酸増幅用チップを前記第2の方向に回転させることによって前記反応液を前記第2の温度範囲に調節することにより、前記核酸増幅用チップの回転方向に応じて前記反応液を所定の位置に配置させることができる。これにより、前記反応液を所定の温度範囲に留める時間を制御することができる。
【0009】
本発明の第2の態様に係る核酸増幅用チップは、反応液が導入される核酸増幅用チップであって、
第1のチャンバーと、
連通する第1の反応部と、第2の反応部と、第3の反応部と、を含み、前記反応液と比重が異なり、かつ、前記反応液とは混和しない液体が充填された第2のチャンバーと、
前記第2のチャンバーの最小幅よりも小さい最大幅を有し、前記第1のチャンバーと前記第3の反応部とを接続する連結部と、を有し、
前記第2の反応部は、前記第1のチャンバーから前記第2のチャンバーに向かう方向の距離が、前記第1の反応部よりも長く、
前記第3の反応部は、前記第1の反応部の端部と、前記第2の反応部の端部とを接続する。
【0010】
前記核酸増幅用チップによれば、前記第2の反応部が、前記第1のチャンバーから前記第2のチャンバーに向かう方向の距離が前記第1の反応部より長く、前記第3の反応部は、前記第1の反応部の端部と、前記第2の反応部の端部とを接続することにより、前記第2のチャンバーに前記反応液を導入した場合に、前記反応液を所定の位置に配置させることができる。これにより、前記反応液を所定の温度範囲に留める時間を制御することができる。
【0011】
本発明の第3の態様に係る核酸増幅方法は、核酸増幅用チップを用いた核酸増幅方法であって、
前記核酸増幅用チップは、
第1のチャンバーと、
連通する第1の反応部と、第2の反応部と、第3の反応部と、を含み、前記反応液と比重が異なり、かつ、前記反応液とは混和しない液体が充填された第2のチャンバーと、
前記第2のチャンバーの最小幅よりも小さい最大幅を有し、前記第1のチャンバーと前記第3の反応部とを接続する連結部と、を有し、
前記第2の反応部は、前記第1チャンバーから前記第2のチャンバーに向かう方向の距離が前記第1の反応部よりも長く、
前記第3の反応部は、前記第1の反応部の端部と、前記第2の反応部の端部とを接続する核酸増幅用チップであり、
前記核酸増幅方法は、
前記核酸増幅用チップの第1のチャンバーに反応液を導入する工程と、
遠心によって前記第1のチャンバーの前記反応液を第2のチャンバーに導入させる工程と、
前記核酸増幅用チップの少なくとも一方の端部の温度を調節することにより、前記反応液の温度を調節する工程と、
回転軸を中心として所定の速度で前記核酸増幅用チップを回転させる工程と、を含み、
前記核酸増幅用チップを回転させる工程は、前記反応液が前記第2のチャンバーに導入された場合に、前記核酸増幅用チップを第1の方向に回転させることにより、前記第2のチャンバー内の前記反応液が前記回転軸から所定距離範囲内に留まるようにし、かつ、前記核酸増幅用チップを第1の方向と反対方向である第2の方向に回転させることにより、前記反応液が前記第2の反応部から放射方向に移動させることを特徴とする。
【0012】
前記核酸増幅方法によれば、前記核酸増幅用チップを回転させる工程において、前記反応液が前記第2のチャンバーに導入された場合に、前記核酸増幅用チップを第1の方向に回転させることにより、前記第2のチャンバー内の前記反応液が前記回転軸から所定距離範囲内に留まるようにすることができる。さらに、前記核酸増幅用チップを第2の方向に回転させることで前記反応液を前記第2の反応部から放射方向に移動させることができるので、前記核酸増幅用チップの回転方向に応じて前記反応液を所定の温度範囲に移動させることができる。
【0013】
本発明の第4の態様に係る核酸増幅用チップは、反応液が導入される核酸増幅用チップであって、
第1のチャンバーと、
前記反応液と比重が異なり、かつ、前記反応液とは混和しない液体が充填された第2のチャンバーと、
前記第2のチャンバーの最小幅よりも小さい最大幅を有し、前記第1のチャンバーと、前記第2のチャンバーとを接続する連結部と、を有し、
前記第2のチャンバーは、端部にフック形状の反応部を有する、前記核酸増幅用チップ。
【0014】
前記核酸増幅用チップによれば、前記第2のチャンバーが、端部にフック形状の反応部を有することにより、前記核酸増幅用チップの回転方向に応じて、核酸増幅において前記反応液を所定の位置に配置させることで、前記反応液を所定の温度範囲に留める時間を制御することができる。
【0015】
上記第1または第4の態様に係る核酸増幅用チップにおいて、前記連結部は、前記第1のチャンバーと、前記第3の反応部と、前記第1の反応部と、を直線で結んだ方向に設けられていることができる。
【0016】
上記第1または第3の態様に係る核酸増幅方法において、前記核酸増幅用チップにおいて、前記連結部は、前記第1のチャンバーと、前記第3の反応部と、前記第1の反応部と、を直線で結んだ方向に設けられていることができる。
【0017】
上記第1または第3の態様に係る核酸増幅方法において、前記遠心によって前記反応液を前記第2のチャンバーに導入させる工程は、前記反応液を前記第1の反応部に導入させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第1実施形態に係る核酸増幅用チップの平面図。
【図2】図1の核酸増幅用チップに設けられた第2のチャンバーの拡大平面図。
【図3】図1の核酸増幅用チップに液体および反応液を充填する方法を説明する断面図(図3(a)〜図3(c))。
【図4】図1の核酸増幅用チップに液体および反応液が充填された状態を説明する図。
【図5】図1の核酸増幅用チップを用いて核酸増幅を行う工程を説明する平面図(図5(a)および図5(b))。
【図6】図1の核酸増幅用チップの一変形例である核酸増幅用チップの平面図。
【図7】図6の核酸増幅用チップに設けられた第2のチャンバーの拡大平面図。
【図8】本発明の第2実施形態に係る核酸増幅用チップの平面図。
【図9】図8の核酸増幅用チップに設けられた第2のチャンバーの拡大平面図。
【図10】図8の核酸増幅用チップを用いて核酸増幅を行う工程を説明する平面図(図10(a)〜図10(d))。
【図11】図8の核酸増幅用チップの一変形例である核酸増幅用チップの平面図。
【図12】図11の核酸増幅用チップに設けられた第2のチャンバーの拡大平面図。
【図13】図8の核酸増幅用チップの一変形例である核酸増幅用チップの平面図。
【図14】図13の核酸増幅用チップに設けられた第2のチャンバーの拡大平面図。
【図15】図8の核酸増幅用チップの一変形例である核酸増幅用チップの平面図。
【図16】図11の核酸増幅用チップに設けられた第2のチャンバーの拡大平面図。
【図17】図1の核酸増幅用チップの一変形例である核酸増幅用チップに設けられた第2のチャンバーの拡大平面図。
【図18】図8の核酸増幅用チップの一変形例である核酸増幅用チップに設けられた第2のチャンバーの拡大平面図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明の一実施形態に係る核酸増幅方法および核酸増幅用チップ(以下単に「チップ」ともいう。)について具体的に説明する。
【0020】
1.第1実施形態
図1は、本発明の第1実施形態に係る核酸増幅用チップ100の平面図である。図2は、図1の核酸増幅用チップ100に設けられた第2のチャンバー20の拡大平面図である。図3(a)〜図3(c)は、図1の核酸増幅用チップ100に液体および液滴を充填する方法を説明する断面図である。図4は、図1の核酸増幅用チップ100に液体31が充填された状態を説明する図である。図5(a)および図5(b)は、図1の核酸増幅用チップ100を用いて核酸増幅を行う工程を説明する平面図である(図5(a)および図5(b)において穴26の図示を省略する)。なお、図3(a)〜図3(c)は、図1のX−X’線における断面を示しており、図3(a)は図1のチップ100の断面に相当する。
【0021】
1.1.核酸増幅装置の構成
本実施形態に係る核酸増幅用チップ100は核酸増幅を行うために用いられるものであり、核酸増幅にあたり反応液32(図3(c)参照)が導入される。チップ100は図1に示されるように、第1のチャンバー10と、第2のチャンバー20と、連結部30とを含む。本実施形態では、チップ100は円形の平面を有し、複数の第2のチャンバー20がチップ100の中心から放射線状に配置されている。なお、第2のチャンバー20は、反応容器と称することもある。
【0022】
第1のチャンバー10は、複数の反応液供給部11を含む。チップ100では、1個の反応液供給部11は、1個の連結部30を介して1個の第2のチャンバー20と接続されている。また、第1のチャンバー10は、穴12,13と、溝14,15とを有する。チップ100では、穴13から第1のチャンバー10の各反応液供給部11に反応液32を導入することができる。また、図1に示されるように、各反応液供給部11の容積を等しくすることにより、穴13から導入された反応液32を、各反応液供給部11から各第2のチャンバー20へと均等量導入することができる。
【0023】
第2のチャンバー20は図1および図2に示されるように、連通する第1の反応部21と、第2の反応部22と、第3の反応部23と、を含む。チップ100に反応液32を導入する前に、第2のチャンバー20には、後述する反応液32と比重が異なり、かつ、反応液32とは混和しない液体31を充填しておく。また、第2の反応部22の先端(第3の反応部23との接合部と反対側の先端)には、穴26が設けられている。この穴26から液体31が導入される。
【0024】
連結部30は図1に示されるように、第2のチャンバー20の最小幅よりも小さい最大幅を有し、第1のチャンバー10と、第2のチャンバー20の第3の反応部23とを接続する。連結部30は、第1のチャンバー10および第2のチャンバー20に接続する溝であることができる。
【0025】
また、図2に示されるように、第2のチャンバー20において、第2の反応部22は、第1のチャンバー10から第2のチャンバー20に向かう方向Iの距離が第1の反応部21よりも長い。また、第1の反応部21を第1の温度範囲に制御するために、第1の反応部21の方向Iの長さを所定範囲内にすることが好ましい。また、第3の反応部23は図2に示されるように、第1の反応部21の端部21mと、第2の反応部22の端部22mとを接続する。
【0026】
例えば、チップ100の中央部には、図示しない温度制御装置を設置することができる。温度制御装置は例えば、回転中心から所定距離に第1のヒーターが組み込まれており、回転中心から外周に向かって放射状に温度が低くなるような温度勾配を有する。温度制御装置は例えば、チップ100の第1の反応部21および第3の反応部23の属する範囲が第1の温度範囲(例えば95℃)になるように制御することができる。チップ100を温度制御装置に設置する際には、チップ100の中央部が温度制御装置の回転中心に位置するようにチップ100を配置することができる。
【0027】
ここで、第3の反応部23における方向I(図2参照)と直交する方向IIの距離が、第1のチャンバー10から所定の距離範囲にあることにより、温度制御装置によって第2のチャンバー20中の反応液32を所定の温度範囲に制御することができる。
【0028】
すなわち、チップ100において、温度制御装置の回転中心から所定範囲内に第3の反応部23が配置されるように第2のチャンバー20を設けることにより、第2のチャンバー20の第1の反応部21、第3の反応部23に反応液32が存在する際に、反応液32を第1の温度範囲に制御することができる。
【0029】
さらに、温度制御装置は例えば、外周部に第2のヒーターが組み込まれていてもよく、この場合、例えば、外周部で第2の温度範囲(例えば64℃)になるように制御することができる。この第2のヒーターによって、第2のチャンバー20の第2の反応部22のうち第3の反応部23との接続部分と反対側の端部に存在する反応液32を第2の温度範囲に制御することができる。
【0030】
本実施形態に係るチップ100では、図2に示されるように、第1の反応部21の長手方向と第2の反応部22の長手方向とが平行に配置され、第1の反応部21の端部21mにおいて第1の反応部21と第3の反応部23とのなす角、ならびに第2の反応部22の端部22mにおいて第3の反応部23と第2の反応部22とのなす角がいずれも直角である場合を示している。なお図示はしないが、第1の反応部21の端部21mにおいて第1の反応部21と第3の反応部23とのなす角、ならびに第2の反応部22の端部22mにおいて第3の反応部23と第2の反応部22とのなす角は、直角または鋭角であれば本実施形態で述べる作用効果を得ることができる。
【0031】
また、図3(a)に示されるように、チップ100は2枚の透明基板(第1基板110および第2基板112)から構成されている。具体的には、第1基板110は、溝14(図示せず),15ならびに第1のチャンバー10、第2のチャンバー20および連結部30を表面(第1の面)110aに有し、第2基板112は、穴12(図示せず)、穴13および穴26を有し、穴12,13は第1のチャンバーに、穴26は第2のチャンバー20に接続されるよう接着されている。
【0032】
第1基板110および第2基板112の材質は限定されないが、耐熱性で自家蛍光が低いものが好ましく、例えば、ポリカーボネート等の樹脂が挙げられる。第1基板110および第2基板112の材質は撥水性を有するため、後述する反応液32がチップ100中を容易に移動できる点で、樹脂が好ましい。また、後述するように、第2のチャンバー20には、例えばマイクロピペットによる充填や真空充填などの方法により、所定の温度範囲内(例えば45℃〜100℃)で反応液32より比重が低くかつ反応液32と混和しない液体31を充填させることができる。
【0033】
第1のチャンバー10は、反応液32を導入しうる穴(供給口)13を有する。すなわち、後述するように、第1のチャンバー10の穴13から、核酸増幅を行うための反応液32(図3(c)参照)が導入される。
【0034】
第2のチャンバー20は、液体31を導入しうる穴(供給口)26を有する。すなわち、後述するように、第2のチャンバー20の穴26から、液体31(図3(b)参照)が導入される。
【0035】
第2のチャンバー20内部では、反応液32の核酸増幅が行われる。反応液32の核酸増幅に先立って、第2のチャンバー20には、後述するように、液体31(図3(b)参照)が充填される。また、第2のチャンバー20内(例えば第2のチャンバー20内部の表面)には、増幅対象となる標的核酸を増幅するための試薬が塗布されていてもよい。この試薬には、例えばプライマーや蛍光プローブが含まれる。この試薬は第2のチャンバー20内部の表面に塗布された後、乾燥させた状態で該表面に配置されていてもよい。あるいは、試薬が液体31内に液滴の状態で存在していてもよい。第2のチャンバー20内部の表面に試薬が塗布されている場合、反応液32と接触することにより、反応液32中に試薬が溶解することができる。なお、試薬は、標的核酸の種類に応じて適切なものを選択できる。したがって、第2のチャンバー20毎に異なる標的核酸を同時に増幅することができ、この場合、各標的核酸に応じた試薬を選択することが好ましい。
【0036】
なお、標的核酸としては、例えば、血液、尿、唾液、髄液等の検体中のDNA、または該検体から抽出したRNAから逆転写したcDNA等が挙げられる。
【0037】
図1に示されるように、連結部30の最大幅は、第2のチャンバー20の最小幅よりも小さい。これにより、後述する反応液32(図3(c)参照)が第2のチャンバー20から第1のチャンバー10へと侵入するのを効果的に防止することができ、かつ、第1のチャンバー10から第2のチャンバー20への気泡の混入を防止するとともに、遠心処理による反応液32の導入時に第2のチャンバー20に気泡が残留してしまうことを効果的に防止することができる。なお、図示される連結部30は、第2のチャンバーの第2の反応部22側に接続されているが、第1の反応部21側に接続されていても良い。
【0038】
1.2.核酸増幅方法
次に、本実施形態に係る核酸増幅方法について説明する。
本実施形態に係る核酸増幅方法は、反応液32を用いて核酸増幅を行う方法であって、
反応液32より比重が異なり、かつ、反応液32と混和しない液体31が第2のチャンバー20に充填された核酸増幅用チップ100の第1のチャンバー10に反応液32を導入する工程と、
遠心によって第1のチャンバー10の反応液32を第2のチャンバー20に導入させる工程と、
核酸増幅用チップ100の一方の端部の温度を調節することにより、反応液32の温度を調節する工程と、
回転軸を中心として所定の速度で核酸増幅用チップ100を回転させる工程と、を含み、
核酸増幅用チップ100を回転させる工程は、核酸増幅用チップ100を第1の方向に回転させることによって反応液32を第1の温度範囲に留めると共に、核酸増幅用チップ100を第1の方向と反対方向である第2の方向に回転させることによって反応液32を第2の温度範囲にする。ここで、第1の温度範囲および第2の温度範囲は、PCRの温度サイクルで設定される温度である。
【0039】
本実施形態に係る核酸増幅方法によれば、チップ100の回転方向に応じて反応液32を所定の位置に配置させることにより、反応液32を所定の温度範囲に留める時間を制御することができる。
【0040】
以下に、反応液32を用いた核酸増幅方法について説明する。まず、チップ100への液体31の充填方法について説明する。
【0041】
図3(a)に示されるチップ100の第2のチャンバー20に、例えばマイクロピペットや真空充填などの方法により、図3(b)に示されるように、穴26から液体31を充填する。図4は、図3(b)のチップ100に液体31が充填された状態を説明する図である。
【0042】
液体31としては、例えばオイルが挙げられる。オイルは、水より比重が軽く、水と混和せず、核酸増幅に使用する試薬および検体に影響を与えないものであれば特に限定されないが、例えばミネラルオイル、シリコンオイルが挙げられる。なお、液体31の粘度を調節することにより、反応液32の移動速度を調節する(すなわち、反応液32の温度変化を調節する)ことができる。一方、反応液32としては、例えば水溶液が挙げられる。また、液体31として例えば水溶液を用い、水溶液より比重が軽い液体を反応液32として用いても良い。
【0043】
ここで、第2のチャンバー20に気泡が残り難くなる観点から、液体31は、第2のチャンバー20の容積から反応液32の容積を引いた量以上、かつ、第1のチャンバー10の容積から反応液32の容積を引いた量と、第2のチャンバー20の容積と、連結部30の容積と、を足した量以内を充填させることができる。
【0044】
次に、図3(c)に示されるように、穴13から第1のチャンバー10に反応液32を導入する。
【0045】
反応液32は例えば、マイクロピペット34を用いて第1のチャンバー10に導入することができる。また、反応液32は例えば、標的核酸を含みうる検体、PCRマスターミックス、プライマー、蛍光プローブを適切な濃度に調整して混合されたものである。なお、第2のチャンバー20の表面にプライマーや蛍光プローブ等の試薬が塗布されている場合、反応液32は該試薬を含まないものであってもよい。
【0046】
続いて、チップ100を用いて核酸増幅を行う(図5(a)および図5(b)参照)。
まず、第1のチャンバー10の穴12,13および第2のチャンバー20の穴26を例えばシール等の蓋部(図示せず)で封止した状態で、遠心装置(図示せず)の回転中心から第2のチャンバー20までの距離が、遠心装置の回転中心から第1のチャンバー10までの距離よりも大きくなるような配置にて、遠心機にチップ100を取り付ける。遠心装置としては、市販されている公知の遠心分離機を使用することができる。
【0047】
次に、遠心によって第1のチャンバー10の反応液32を第2のチャンバー20に導入する。すなわち、遠心装置によって、図5(a)に示されるように、遠心力を利用して、第1のチャンバー10から第2のチャンバー20の方向に反応液32を移動させる。このとき、連結部30が図示する通り第2のチャンバーの第1の反応部21側に接続されていれば、反応液32は第1の反応部21に移動する。或いは、図示しないが、連結部30が第2のチャンバーの第2の反応部22側に接続されていれば、反応液32は第2の反応部22に移動する。反応液32は第2のチャンバー20内の液体31と混和しないため、液体31中で液滴として存在することができる。この遠心処理により、反応液32は第1のチャンバー10から連結部30を介して第2のチャンバー20に導入される。PCR反応を開始する時点で反応液を高温に制御するホットスタート法を行う場合、連結部30を高温に制御される反応部側に接続しておくと、反応開始前に反応液32を移動させることなく反応を開始でき、より好適である。
【0048】
次いで、図5(a)の下方を重力方向Gとして、第1の方向A(反時計回り)に、反応液32に対して重力が作用するように所定の速さでチップ100を回転させる(工程1)。ここで、第2のチャンバー20に第1の反応部21が設けられているため、反応液32は、第2のチャンバー20の第1の反応部21、或いは第3の反応部23に留まり、第2の反応部22に反応液32が移動するのを防止することができる。
【0049】
上述したように、チップ100の中心は温度制御装置により第1の温度範囲(例えば95℃)に制御されており、第1の反応部21はチップ100の中心部の近傍に位置する。チップ100を回転させると第1の反応部21内、或いは第3の反応部23内に反応液32が保持され、反応液32が回転軸(回転中心)から所定距離範囲内に留まる。これにより、反応液32を第1の温度範囲に保持される時間を制御することができる。図示するような、放射線状に複数の第2のチャンバー20が配置された核酸増幅用チップを用いてホットスタート法を行う場合にも、PCR反応開始のタイミング、および反応開始時点の温度条件を一律にすることができるので、反応結果の信頼度を向上させることができる。
【0050】
なお、回転軸から所定距離範囲内に保持され第1の温度に制御されている状態では、チップ100を回転させ続けても良いが、回転を止めることで消費電力を抑制することができ、より好適である。
【0051】
続いて、図5(b)に示される第2の方向B(時計回り)にチップ100を回転させる(工程2)。これにより、第2のチャンバー20の第1の反応部21或いは第3の反応部に留まっていた反応液32を、重力を利用して、第2の反応部22の端部22n(図2参照)へと放射方向に移動させることができる。上述したように、チップ100の外周部は温度制御装置により第2の温度範囲に制御されており、第2の反応部22の端部22nはチップ100の外周部に位置するため、第2の反応部22の端部22n(図2参照)に保持されることにより、反応液32を第2の温度範囲(例えば64℃)に制御することができる。なお、チップ100の1回転につき反応液32は第1の反応部21と第2の反応部22との間を1往復するため、この1往復において反応液32の温度を、第1の温度範囲から第2の温度範囲を経て再び第1の温度範囲へと変化させることができ、この温度変化がPCRの温度サイクルに相当する。
【0052】
上記の工程1および工程2を繰り返すことにより、反応液32に含まれうる標的核酸の増幅を行うことができる。なお、工程1および工程2の繰り返しは例えば、1〜20回/分行なうことができる。
【0053】
なお、第1基板110が例えば樹脂からなる場合、チップ100を構成する第1基板10aの表面が撥水性を有するため、反応液32がチップ100の表面110aに付着するのを防止することができる。これにより、反応液32をチップ100中で容易に移動させることができる。
【0054】
1.3.特徴
本実施形態に係る核酸増幅方法によれば、核酸増幅用チップ100を回転させる工程において、チップ100を第1の方向に回転させることによって反応液32を第1の温度範囲に留めると共に、チップ100を第1の方向と反対方向である第2の方向に回転させることによって反応液32を第2の温度範囲にすることができる。これにより、チップ100の回転方向に応じて、核酸増幅において反応液を所定の温度範囲に制御することができる。
【0055】
すなわち、本実施形態に係る核酸増幅用チップ100によれば、公知のPCR用の温度調節方法(例えば、チューブを差し込んだヒートブロックについて過熱冷却を繰り返す方法や、反応チューブを複数のヒートブロック間で移動させる方式)に比べて、核酸増幅に要する反応液量を低減することができる。さらに、反応液を異なる複数の温度範囲に制御することができる。また、消費電力を低減することができ、短時間で核酸増幅を行うことができるうえ、所定の温度に留める時間を制御することができるという特徴を有する。
【0056】
1.4.変形例1
図6は、図1の核酸増幅用チップ100の一変形例である核酸増幅用チップ200の平面図であり、図7は、図6の核酸増幅用チップ200に設けられた第2のチャンバー120の拡大平面図である。
【0057】
図6に示される核酸増幅用チップ200は、第2のチャンバー120の形状が核酸増幅用チップ100の第2のチャンバー20と異なる点以外は、核酸増幅用チップ100と同様の構成を有する。よって、核酸増幅用チップ200につき、核酸増幅用チップ100と同じ構成を有する点については共通の符号を付して、詳しい説明は省略する。
【0058】
図6に示されるチップ200は、反応液32が導入される核酸増幅用チップであって、第1のチャンバー10と、反応液32と比重が異なり、かつ、反応液32とは混和しない液体31が充填された第2のチャンバー120と、第2のチャンバー120の最小幅よりも小さい最大幅を有し、第1のチャンバー10と第2のチャンバー120とを接続する連結部30と、を有する。また、第2のチャンバー120は、一方の端部121mにフック形状の反応部121を有する。すなわち、核酸増幅用チップ200において、第2のチャンバー120は、一方の端部121mがJ字型形状(フック形状)を有する。
【0059】
核酸増幅用チップ200によれば、上述した核酸増幅用チップ100と同様の核酸増幅方法によって、反応液32中の核酸を増幅させることができる。
【0060】
この場合、上述した第1実施形態に係るチップ100と同様に、第1の方向(反時計回り)にチップ200を反応液32に重力が作用するように回転させると(図5(a)参照)、重力の作用により反応液32は第2のチャンバー120の反応部121(図7参照)に留まる。すなわち、反応液32はチップ200の回転軸(回転中心)から所定距離範囲内に留まることができる。上述した第1実施形態に係るチップ100と同様に、チップ200の中心は温度制御装置(図示せず)により第1の温度範囲(例えば95℃)に制御されているため、反応液32は、第2のチャンバー120の反応部121に留まることで、反応液32を第1の温度範囲に留める時間を制御することができる。
【0061】
続いて、上述した第1実施形態に係るチップ100と同様に、第2の方向B(時計回り)にチップ200を回転させると(図5(b)参照)、反応液32は重力により、第2のチャンバー120の反応部121から他方の端部121n(図7参照)へと放射方向に移動する。上述した第1実施形態に係るチップ100と同様に、チップ200の外周部は温度制御装置により第2の温度範囲に制御されており、第2のチャンバー120の他方の端部121nはチップ200の外周部に位置するため、反応液32が第2の反応部22の端部22n(図2参照)に保持されることにより、反応液32を第2の温度範囲(例えば64℃)に制御することができる。なお、チップ200の1回転につき反応液32は、第2のチャンバー120の反応部121(一方の端部121m)と他方の端部121nとの間を1往復するため、この1往復において反応液32の温度を、第1の温度範囲から第2の温度範囲を経て再び第1の温度範囲へと変化させることができ、この温度変化がPCRの温度サイクルに相当する。
【0062】
核酸増幅用チップ200によれば、核酸増幅用チップ100と同様の作用効果を有する。
【0063】
2.第2実施形態
図8は、本発明の第2実施形態に係る核酸増幅用チップ300の平面図であり、図9は、図8の核酸増幅用チップ300に設けられた第2のチャンバー220の拡大平面図であり、図10は、図8の核酸増幅用チップ300を用いて核酸増幅を行う工程を説明する平面図(図10(a)〜図10(d))である(図10(a)〜図10(d)において穴26の図示を省略する)。なお、図10において、Gは重力方向を示す。
【0064】
2.1.核酸増幅用チップの構成
本実施形態に係る核酸増幅用チップ300は、第2のチャンバー20の代わりに第2のチャンバー220が設けられている点以外は、第1実施形態に係る核酸増幅用チップ100と同様の構成を有する。第2のチャンバー220の形状は、第1実施形態に係る核酸増幅用チップ100の第2のチャンバー20と異なる。本実施形態に係る核酸増幅用チップ300において、第1実施形態に係る核酸増幅用チップ100と共通の構成については共通の符号を付して、詳しい説明を省略する。
【0065】
チップ300において、図9に示されるように、第2のチャンバー220は、第2の反応部222の両端部にそれぞれ、第3の反応部223および第5の反応部225が設けられており、第3の反応部223は第1の反応部221と接続し、第5の反応部225は第4の反応部224と接続する。
【0066】
第1の反応部221、第2の反応部222および第3の反応部223はそれぞれ、第1実施形態に係る核酸増幅用チップ100の第1の反応部21、第2の反応部22および第3の反応部23と同じ構造を有する。
【0067】
すなわち、第3の反応部223の構造は、第1実施形態に係る核酸増幅用チップ100の第3の反応部23と同様であり、第3の反応部223と第1および第2の反応部221,222との接続構造も、第1実施形態に係る核酸増幅用チップ100の第3の反応部23と第1および第2の反応部21,22との接続構造と同様である。
【0068】
また、第2のチャンバー220は図9の線Cに対して線対称である形状を有する。第4の反応部224および第5の反応部225はそれぞれ、第1の反応部221および第3の反応部223と同じ形状を有する。すなわち、第2の反応部222は、第4の反応部224よりも方向Iに長い。また、第5の反応部225は図9に示されるように、第4の反応部224の端部224mと、第2の反応部222の端部222mとを接続する。
【0069】
また、第2のチャンバー220では、第4の反応部224と第2の反応部222とが平行に設けられ、第4の反応部224の端部224mにおいて第4の反応部224と第5の反応部225とのなす角、ならびに第2の反応部222の端部222mにおいて第5の反応部225と第2の反応部222とのなす角がいずれも直角である場合を示している。なお、第4の反応部224の端部224mにおいて第4の反応部224と第5の反応部225とのなす角、ならびに第2の反応部222の端部222mにおいて第5の反応部225と第2の反応部222とのなす角は、図示しないが鋭角であっても同様の効果を得ることができる。
【0070】
2.2.核酸増幅方法
次に、本実施形態に係る核酸増幅方法について説明する。本実施形態においては、原則として、上記第1実施形態に係る核酸増幅方法と共通する箇所については説明を省略する。
【0071】
本実施形態に係る核酸増幅方法は、反応液32を用いて核酸増幅を行う方法であって、
反応液32より比重が異なり、かつ、反応液32と混和しない液体31が充填された核酸増幅用チップ300の第1のチャンバー10に反応液32を導入する工程と、
遠心によって第1のチャンバー10の反応液32を第2のチャンバー220に導入させる工程と、
核酸増幅用チップ300の一方の端部の温度を調節することにより、反応液32の温度を調節する工程と、
回転軸を中心として所定の速度で核酸増幅用チップ300を回転させる工程と、を含み、
核酸増幅用チップ300を回転させる工程は、核酸増幅用チップ300を第1の方向に回転させることによって反応液32を第1の温度範囲に留めると共に、核酸増幅用チップ300を第1の方向と反対方向である第2の方向に回転させることによって反応液32を第2の温度範囲に移動させる。
【0072】
本実施形態に係る核酸増幅方法によれば、核酸増幅用チップ300の回転方向に応じて反応液32を所定の位置に配置させることにより、反応液32を所定の温度範囲に留める時間を制御することができる。
【0073】
まず、チップ300への液体31の充填方法は、上記第1実施形態に係る核酸増幅方法と同様であるため、説明を省略する。
【0074】
次に、チップ300を用いて核酸増幅を行う(図10(a)〜図10(d)参照)。
【0075】
まず。遠心によって第1のチャンバー10の反応液32を第2のチャンバー220に導入する。この工程は、上記第1実施形態に係る核酸増幅方法と同様であるため、説明を省略する。
【0076】
次に、図10(a)に示される第1の方向A(反時計回り)に、反応液32に重力が作用するようにチップ100を回転させる(工程1)。ここで、第2のチャンバー220に第1の反応部221が設けられているため、反応液32は、第2のチャンバー220の第1の反応部221に留まり、第2の反応部222に反応液32が移動するのを防止することができる。また、チップ300の中心は、上記第1実施形態と同様に、温度制御装置により第1の温度範囲(例えば95℃)に制御されており、第1の反応部221はチップ300の中心部近傍に位置する。このため、反応液32が第1の反応部221に保持されることにより、反応液32が回転軸(回転中心)から所定距離範囲内に留まることになるため、反応液32を第1の温度範囲に留める時間を制御することができる。
【0077】
次いで、図10(b)に示される第2の方向B(時計回り)にチップ300を回転させる(工程2)。これにより、第2のチャンバー220の第1の反応部221に留まっていた反応液32を、第3の反応部223、第2の反応部222および第5の反応部225を介して第4の反応部224に移動させることができる(図10(c)参照)。上述したように、チップ300の外周部は温度制御装置により第2の温度範囲(例えば64℃)に制御されており、第4の反応部224はチップ300の外周部に位置するため、反応液32を第2の温度範囲に制御することができる。チップ300のすべての第2のチャンバー220内の反応液32を第4の反応部224に移動させるためには、チップ300を360°以上回転させる必要がある。
【0078】
続いて、図10(d)に示されるように、再び第1の方向A(反時計回り)にチップ100を回転させる(工程1)。これにより、反応液32は、第2のチャンバー220の第4の反応部224に留まっていた反応液32を、第5の反応部225、第2の反応部222および第3の反応部223を介して第1の反応部221へと放射方向に移動させることができる。上述したように、チップ300の中心は、上記第1実施形態と同様に、温度制御装置により第1の温度範囲に制御されており、第1の反応部221はチップ300の中心近傍に位置するため、反応液32を第1の温度範囲に制御することができる。図10(a)〜図10(d)で示される処理が、PCRにおける1温度サイクルに相当する。
【0079】
このように、上記の工程1および工程2を繰り返すことにより、反応液32に含まれうる標的核酸の増幅を行うことができる。なお、工程1および工程2の繰り返しは例えば、1〜20回/分行うことができる。
【0080】
2.3.特徴
本実施形態に係る核酸増幅方法によれば、上述した第1実施形態に係る核酸増幅方法と同様の作用効果を有する。さらに、上述した第1実施形態に係る核酸増幅方法では、チップ100を1回転がPCRの温度サイクル1回に相当するのに対して、本実施形態に係る核酸増幅方法によれば、チップ300の回転方向の切り替えによってPCRの温度サイクルを制御することができるため、反応液を所定の温度に留める時間の制御がより容易である。
【0081】
2.4.変形例2
図11は、図8の核酸増幅用チップ300の一変形例である核酸増幅用チップ400の平面図であり、図12は、図11の核酸増幅用チップ400に設けられた第2のチャンバー320の拡大平面図である。
【0082】
図11に示されるチップ400は、第2のチャンバー20の代わりに第2のチャンバー320が設けられている点以外は、上記第2実施形態に係る核酸増幅用チップ300と同様の構成を有する。このため、チップ300と同様の機能を有する構成要素については同じ符号を付して、詳しい説明は省略する。また、チップ400を用いて、上記第2実施形態に係る核酸増幅方法と同様の方法によって核酸増幅を行うことができる。
【0083】
チップ400は図11に示されるように、反応液32が導入される核酸増幅用チップ400であって、第1のチャンバー10と、反応液32と比重が異なり、かつ、反応液32とは混和しない液体31が充填された第2のチャンバー320と、第2のチャンバー320の最小幅よりも小さい最大幅を有し、第1のチャンバー10と第2のチャンバー320とを接続する連結部30とを有する。
【0084】
また、図11に示されるチップ400は、上述した第2の実施形態に係る核酸増幅用チップ300と同様の核酸増幅方法を行うことにより、同様の作用効果を有することができる。すなわち、第2のチャンバー320は図12に示されるように、両端部にフック形状の反応部321a,321bを有する。これにより、チップ400は、上述した第2の実施形態に係る核酸増幅用チップ300と同様の核酸増幅方法を行う際に、チップ400を第1の方向Aに回転させることにより、反応液32を反応部321aに保持することで、反応液32を第1の温度範囲に留める時間を制御することができる。また、チップ400を第1の方向Bに回転させることにより、反応液32を反応部321aから反応部321bへと放射方向に移動させた後、反応液32を反応部321bに保持することで、反応液32を第2の温度範囲に留める時間を制御することができる。このように、チップ400の回転方向の切り替えによって、PCRの温度サイクル、および第1或いは第2の温度範囲に留める時間を制御することができる。
【0085】
2.5.変形例3
図13は、図8の核酸増幅用チップ300の一変形例である核酸増幅用チップ500の平面図であり、図14は、図13の核酸増幅用チップ500に設けられた第2のチャンバー420の拡大平面図である。
【0086】
図13に示されるチップ500は、第2のチャンバー420の形状が図8に示されるチップ300と異なる点以外は、チップ300と同様の構成を有する。このため、チップ300と同様の機能を有する構成要素については同じ符号を付して、詳しい説明は省略する。
【0087】
図13に示されるチップ500は、反応液32が導入される核酸増幅用チップ500であって、第1のチャンバー10と、反応液32と比重が異なり、かつ、反応液32とは混和しない液体31が充填された第2のチャンバー420と、第2のチャンバー420の最小幅よりも小さい最大幅を有し、第1のチャンバー10と第2のチャンバー420とを接続する連結部30とを有する。
【0088】
また、図13に示されるチップ500は、上述した第2の実施形態に係る核酸増幅用チップ300と同様の核酸増幅方法を行うことにより、同様の作用効果を有することができる。すなわち、第2のチャンバー420は図14に示されるように、両端部に弧状の反応部421a,421bを有する。これにより、チップ500は、上述した第2の実施形態に係る核酸増幅用チップ300と同様の核酸増幅方法を行う際に、チップ500を第1の方向Aに回転させることにより、反応液32を反応部421aに保持することで、反応液32を第1の温度範囲に留める時間を制御することができる。また、チップ500を第1の方向Bに回転させることにより、反応液32を反応部421aから反応部421bへと放射方向に移動させた後、反応液32を反応部421bに保持することで、反応液32を第2の温度範囲に留める時間を制御することができる。このように、チップ500の回転方向の切り替えによってPCRの温度サイクルを制御することができる。
【0089】
2.6.変形例4
図15は、図8の核酸増幅用チップ300の一変形例である核酸増幅用チップ600の平面図であり、図16は、図15の核酸増幅用チップ600に設けられた第2のチャンバー520の拡大平面図である。
【0090】
図15に示されるチップ600は、第2のチャンバー520の形状が図8に示されるチップ300と異なる点以外は、チップ300と同様の構成を有する。このため、チップ300と同様の機能を有する構成要素については同じ符号を付して、詳しい説明は省略する。
【0091】
図15に示されるチップ600は、反応液32が導入される核酸増幅用チップ600であって、第1のチャンバー10と、反応液32と比重が異なり、かつ、反応液32とは混和しない液体31が充填された第2のチャンバー520と、第2のチャンバー520の最小幅よりも小さい最大幅を有し、第1のチャンバー10と第2のチャンバー520とを接続する連結部30とを有する。
【0092】
また、図15に示されるチップ600は、上述した第2の実施形態に係る核酸増幅用チップ300と同様の核酸増幅方法を行うことにより、同様の作用効果を有することができる。すなわち、第2のチャンバー520は図16に示されるように、両端部に渦巻状の反応部521a,521bを有する。これにより、チップ600は、上述した第2の実施形態に係る核酸増幅用チップ300と同様の核酸増幅方法を行う際に、チップ600を第1の方向Aに回転させることにより、反応液32を反応部521aに保持することで、反応液32を第1の温度範囲に留める時間を制御することができる。また、チップ600を第1の方向Bに回転させることにより、反応液32を反応部521aから反応部521bへと放射方向に移動させた後、反応液32を反応部521bに保持することで、反応液32を第2の温度範囲に留める時間を制御することができる。このように、チップ600の回転方向の切り替えによってPCRの温度サイクルを制御することができる。
【0093】
本発明に係る実施の形態の説明は以上である。本発明は、実施の形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法及び結果が同一の構成、あるいは目的及び結果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【0094】
2.7.変形例5
上記の実施形態では、チップ100の中央部に第1のヒーターを設置し、チップ100の外周部に第2のヒーターを設置することにより、回転中心から外周に向かって放射状に温度が低くなるような温度勾配を有する構成になっていた。これに限らず、チップ100の外周に第1のヒーターを設置し、チップ100の中央部に第2のヒーターを設置して外周から回転中心に向かって温度が低くなるような温度勾配を形成してもよい。
【0095】
2.8.変形例6
上記の実施形態および変形例では、第2のヒーターをチップ100の外周部または中央部に組み込む構成としたが、第1のヒーターである程度の温度勾配を形成できるので、第2のヒーターを組み込まなくてもよい。第2のヒーターを組み込まない場合は、設置するヒーターが少なくなる分、消費電力をより低減させることができる。
【0096】
2.9.変形例7
図17は、図1の核酸増幅用チップ100の一変形例である核酸増幅用チップ(図示せず)に設けられた第2のチャンバー520の拡大平面図である。本変形例に係る核酸増幅用チップでは、図1の核酸増幅用チップ100の第2のチャンバー20が図17の第2のチャンバー520で置き換えられている。すなわち、本変形例に係る核酸増幅用チップにおいて、第2のチャンバー520以外の構成要素はチップ100と同様である。
【0097】
第2のチャンバー520は図17に示されるように、第1の反応部621、第2の反応部622、および第3の反応部623を有する。第1の反応部621と第2の反応部622との間は隔壁626によって隔てられている。第2のチャンバー520は、図1の核酸増幅用チップ100の第2のチャンバー20と同様の機能を有する。本変形例のチップによれば、図1の核酸増幅用チップ100と同様の方法にて拡散増幅を行うことができ、チップ100と同様の作用効果を有する。
【0098】
2.10.変形例8
図18は、図8の核酸増幅用チップ300の一変形例である核酸増幅用チップ(図示せず)に設けられた第2のチャンバー620の拡大平面図である。本変形例に係る核酸増幅用チップでは、図8の核酸増幅用チップ300の第2のチャンバー220が図18の第2のチャンバー620に置き換えられている。すなわち、本変形例に係る核酸増幅用チップにおいて、第2のチャンバー620以外の構成要素はチップ300と同様である。
【0099】
第2のチャンバー620は図18に示されるように、第1の反応部721、第2の反応部722、第3の反応部723、第4の反応部724、および第5の反応部725を有する。第1の反応部721と第2の反応部722との間は隔壁726によって隔てられ、第2の反応部722と第4の反応部724との間は隔壁727によって隔てられている。第2のチャンバー620は、第1の反応部721および第2の反応部722と、第4の反応部724および第5の反応部725とが線Dに関して線対称である形状を有する。第2のチャンバー620は、図8の核酸増幅用チップ300の第2のチャンバー220と同様の機能を有する。本変形例のチップによれば、図8の核酸増幅用チップ300と同様の方法にて拡散増幅を行うことができ、チップ300と同様の作用効果を有する。
【符号の説明】
【0100】
10…第1のチャンバー、11…反応液供給部、12,13…穴、14,15…溝、20,120,220,320,420,520,620…第2のチャンバー、21,221,621,721…第1の反応部、21m…第1の反応部の端部、22,222,622,722…第2の反応部、22m,22n…第2の反応部の端部、23,223,623,723…第3の反応部、26…穴、30…連結部、31…液体、32…液滴(反応液)、34…ピペット、100,200,300,400,500,600…チップ、110…基板(第1基板)、110a…第1の面、112…基板(第2基板)、121…反応部、121m,121n…反応部121の端部、224,724…第4の反応部、225,725…第5の反応部、321a,321b,421a,421b,521a,521b…反応部、626,726…隔壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応液を用いた核酸増幅方法であって、
核酸増幅用チップの第1のチャンバーに前記反応液を導入する工程と、
遠心によって前記第1のチャンバーの前記反応液を、前記反応液より比重が異なり、かつ、前記反応液と混和しない液体が充填された第2のチャンバーに導入させる工程と、
前記核酸増幅用チップの少なくとも一方の端部の温度を調節することにより、前記反応液の温度を調節する工程と、
回転軸を中心として所定の速度で前記核酸増幅用チップを回転させる工程と、を含み、
前記核酸増幅用チップを回転させる工程は、前記核酸増幅用チップを第1の方向に回転させることによって前記反応液を第1の温度範囲に所定時間留めると共に、前記核酸増幅用チップを前記第1の方向とは反対方向である第2の方向に回転させることによって前記反応液を第2の温度範囲に制御する、核酸増幅方法。
【請求項2】
反応液が導入される核酸増幅用チップであって、
第1のチャンバーと、
連通する第1の反応部と、第2の反応部と、第3の反応部と、を含み、前記反応液と比重が異なり、かつ、前記反応液とは混和しない液体が充填された第2のチャンバーと、
前記第2のチャンバーの最小幅よりも小さい最大幅を有し、前記第1のチャンバーと前記第3の反応部とを接続する連結部と、を有し、
前記第2の反応部は、前記第1のチャンバーから前記第2のチャンバーに向かう方向の距離が、前記第1の反応部より長く、
前記第3の反応部は、前記第1の反応部の端部と、前記第2の反応部の端部とを接続する、前記核酸増幅用チップ。
【請求項3】
核酸増幅用チップを用いた核酸増幅方法であって、
前記核酸増幅用チップは、
第1のチャンバーと、
連通する第1の反応部と、第2の反応部と、第3の反応部と、を含み、前記反応液と比重が異なり、かつ、前記反応液とは混和しない液体が充填された第2のチャンバーと、
前記第2のチャンバーの最小幅よりも小さい最大幅を有し、前記第1のチャンバーと前記第3の反応部とを接続する連結部と、を有し、
前記第2の反応部は、前記第1のチャンバーから前記第2のチャンバーに向かう方向の距離が、前記第1の反応部よりも長く、
前記第3の反応部は、前記第1の反応部の端部と、前記第2の反応部の端部とを接続する核酸増幅用チップであり、
前記核酸増幅方法は、
前記核酸増幅用チップの第1のチャンバーに反応液を導入する工程と、
遠心によって前記第1のチャンバーの前記反応液を第2のチャンバーに導入させる工程と、
前記核酸増幅用チップの少なくとも一方の端部の温度を調節することにより、前記反応液の温度を調節する工程と、
回転軸を中心として所定の速度で前記核酸増幅用チップを回転させる工程と、を含み、
前記核酸増幅用チップを回転させる工程は、前記反応液が前記第2のチャンバーに導入された場合に、前記核酸増幅用チップを第1の方向に回転させることにより、前記第2のチャンバー内の前記反応液が前記回転軸から所定距離範囲内に留まるようにし、かつ、前記核酸増幅用チップを第1の方向と反対方向である第2の方向に回転させることにより、前記反応液が前記第2の反応部から放射方向に移動させることを特徴とする、前記核酸増幅方法。
【請求項4】
反応液が導入される核酸増幅用チップであって、
第1のチャンバーと、
前記反応液と比重が異なり、かつ、前記反応液とは混和しない液体が充填された第2のチャンバーと、
前記第2のチャンバーの最小幅よりも小さい最大幅を有し、前記第1のチャンバーと、前記第2のチャンバーとを接続する連結部と、を有し、
前記第2のチャンバーは、端部にフック形状の反応部を有する、前記核酸増幅用チップ。
【請求項5】
請求項2または4に記載の核酸増幅用チップであって、
前記連結部は、前記第1のチャンバーと、前記第3の反応部と、前記第1の反応部と、を直線で結んだ方向に設けられている、前記核酸増幅用チップ。
【請求項6】
請求項1または3に記載の核酸増幅方法であって、
前記核酸増幅用チップにおいて、前記連結部は、前記第1のチャンバーと、前記第3の反応部と、前記第1の反応部と、を直線で結んだ方向に設けられている、前記核酸増幅方法。
【請求項7】
請求項1または3に記載の核酸増幅方法であって、
前記遠心によって前記反応液を前記第2のチャンバーに導入させる工程は、前記反応液を前記第1の反応部に導入させる、前記核酸増幅方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2011−205925(P2011−205925A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−74979(P2010−74979)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】