説明

格子不整合コア・シェル量子ドット

本開示は格子不整合コア・シェル量子ドット(QD)に関する。ある特定の実施形態では、格子不整合コア・シェルQDは、光起電力用途または光伝導用途のための方法に用いられる。それはまた、多色分子画像診断、細胞画像診断、および生体内画像診断にも有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、格子不整合コア・シェル量子ドット(QD)に関する。ある特定の実施形態では、格子不整合コア・シェルQDは、光起電力用途または光伝導用途のための方法に用いられる。それはまた、多色分子画像診断(multicolor molecular imaging)、細胞画像診断、および生体内画像診断にも有用である。
【背景技術】
【0002】
典型的には半導体物質中に見いだされる金属からなるナノメートルスケールの粒子は、一般に量子ドット(QD)と呼ばれる。同じ物質であってもサイズの異なる量子ドットは、異なる色の光を発することができる。有機ポリマーでQDの表面改質を行うと、その特性を調整することができ、より大きな物質の中に粒子を取り込むことができる。QDは現在、数多くの電子用途および生物学的用途に使用されている。
【0003】
タイプIIバンド半導体物質の特性を示す量子ドットは、Kim et al.,J.Am.Chem.Soc 125,11466−11467(2003)に記載されている。米国特許第7,390,568号明細書も参照されたい。タイプIIQDは、電子電荷担体が空間的に分離しているため、有用な特性を有すると期待される。タイプII構造では、普通は単一物質では得られないであろう波長を得ることができる。さらに、タイプIIナノ結晶の最低の励起状態における電荷の分離により、こうした物質は光起電力用途または光伝導用途においてより適したものとなる。それゆえに、改善されたタイプIIQDを特定することが必要とされている。
【発明の概要】
【0004】
本開示は、格子不整合コア・シェル量子ドット(QD)に関する。ある特定の実施形態では、本開示は、圧縮シェル(例えば、ZnS、ZnSe、ZnTe、CdSまたはCdSe)を、軟質コア(例えば、CdTe、あるいはコアは体積弾性率が約52、51、50、54、53、52、51、50、49、48、47、46、45、44、または43GPa未満である)上にエピタキシャル析出させることによって形成された、格子不整合QDに関する。
【0005】
ある特定の実施形態では、格子不整合量子ドットは、コアと圧縮シェルとを含み、格子不整合率(lattice mismatches)が、約7.5、8.0、8.5、9.0、9.5、10.0、10.5、11.0、または11.5%より大きい。ある特定の実施形態では、コアは、エピタキシャル析出した圧縮シェルと比べて、約0.5、0.6、0.7、0.8、または0.9オングストローム大きな格子定数を有する。ある特定の実施形態では、コア物質はCdTeであり、圧縮シェルの格子定数は、約6.0、5.9、5.8、5.7、または5.6オングストローム未満である。
【0006】
ある特定の実施形態では、本開示は、圧縮シェルで被覆されたXTeコアを含む格子不整合コア・シェル量子ドットにおいて、XがCdまたはHgであり、コアおよびシェルがCdTe/CdSeではない、格子不整合コア・シェル量子ドットに関する。典型的には、コアはCdTeであり、圧縮シェルはZnS、ZnSeおよび/またはCdSを含む。ある特定の実施形態では、コア直径は、約1.8、2.0、2.2、2.5、2.8、3.0、3.5、または4.0nmであるか、またはコア直径は約2.0、2.5、3.0、3.5、4.0 4.5、または5.0nm未満である。ある特定の実施形態では、圧縮シェルは、ZnS、ZnSe、ZnTe、CdSまたはCdSeの2つ以上の単層を有するか、あるいはZnO、ZnS、ZnSe、ZnTe、CdO、CdS、CdSe、CdTe、MgO、MgS、MgSe、MgTe、HgO、HgS、HgSe、HgTe、AlN、AlP、AlAs、AlSb、GaN、GaP、GaAs、GaSh、InN、InP、InAs、InSb、TlN、TlP、TlAs、TlSb、TlSb、Pbs、PbSe、PbTe、またはそれらの混合物の1つまたは複数の単層を有する。ある特定の実施形態では、圧縮シェルの厚さは、1.8、2.0、2.2、2.5、2.8、3.0、3.5、4.0、5.0、6.0、7.0、8.0、9.0、または10.0nmより厚い。
【0007】
ある特定の実施形態では、QDは、圧縮シェルの上に、カルボン酸基、チオール基を有するモノマー、およびアミノ基を有するモノマーを含むポリマーがある。ある特定の実施形態では、ポリマーは、ポリエチレングリコールモノマーを含まない。ある特定の実施形態では、本明細書に開示されている量子ドットは、ポリマーマトリックスまたはガラスマトリックス中に含まれる。
【0008】
ある特定の実施形態では、QDは、圧縮シェルに結合した生体物質(核酸、ポリペプチド、細胞、抗体、エピトープ、タンパク質、阻害因子、受容体、または受容体基質など)を有する。ある特定の実施形態では、格子不整合コア・シェルQDは、多色分子画像診断、細胞画像診断、および生体内画像診断の方法に使用される。
【0009】
ある特定の実施形態では、本開示は、本明細書に記載の量子ドットを含む光起電力セルおよび光起電力デバイスに関する。ある特定の実施形態では、本開示は、本明細書に記載の量子ドットを含む発光ダイオードに関する。ある特定の実施形態では、本開示は、本明細書に開示されているQDを含むレーザーに関する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、格子歪みによって引き起こされる量子ドット内のバンドエネルギー変化を示す。a.通常の歪んだ(CdTe)ZnSeナノ結晶の格子歪み。b.aにおける対応する構造の価電子バンドおよび伝導バンドのエネルギー準位。波状の矢印およびその色は、バンド端の蛍光放射とそのおおよその波長を示している。水平バンドの長さは、コアおよびシェルの厚さに対応している。緩和ナノ構造は標準的なタイプIヘテロ結合を形成するが、ヘテロエピタキシャル成長からくる歪みによってコアが「スクイズ」され、シェルが「延伸」されると、それはタイプII挙動に変換される。歪みの影響は、モデル固体理論および連続弾性モデル(continuum elasticity model)を用いて計算される。
【図2】図2は、歪み調整されたQDの光学特性に関するデータを示す。aとb.厚さの異なるZnSeで覆われた(CdTe)ZnSe QDの吸収スペクトル(左側)および蛍光スペクトル(右側)(CdTeコアは1.8nm(a)および6.2nm(b)である)。c.種々のCdTeコアサイズについての歪み調整可能なスペクトル範囲(0〜5MLのシェル成長の蛍光放射ピークで測定)。d.厚さの異なるZnSeシェルで覆われた3.8nmのCdTeコアの時間分解法による蛍光減衰曲線。励起状態寿命を計算すると、18.4(コア)、35.5(1.5ML)、59.8(3.0ML)および115.0ns(6.0ML)となった。
【図3】図3は、様々な(コア)シェルおよび多層構造に関して発光波長および量子収率を比較したものを示す。a.CdSe(紫)、ZnSe(赤)またはZnTe(緑)、あるいはCdSeの1つの単層とその後のZnSe(CdSe/ZnSe;黒)、またはZnTeの1つの単層とその後のZnSe(ZnTe/ZnSe;青)で覆われた、3.8nmのCdTeコアの発光波長。b.1〜5MLのCdSe(紫)またはZnSe(赤)で覆われた3.8nmのCdTeコア、あるいは1〜5MLのZnS(茶色)で覆われた3.8nmのCdSeコアの量子収率。c.aにおける物質のバルクバンド構造。d.モデル固体理論(model−solid theory)および連続弾性モデルを用いて計算された、量子閉じ込め歪みバンド構造。
【図4】図4は、歪み調整可能なQDの粉末X線回折(XRD)および透過型電子顕微鏡(TEM)データを示す。a.3.8nmのCdTeおよび(CdTe)ZnSe QD(2、6または9MLのシェルを有する)に関するXRDパターン。閃亜鉛鉱型の(ZB)ZnSe(上部)およびZBCdTe(下部)のバルク回折ピークが指し示されている。b.3.8nmCdTe QD(左上)および(CdTe)ZnSe QD(2MLのシェル(右上)、6MLのシェル(左下)または9MLのシェル(右下))のTEM。c.3.8nmCdTe QD(上部)および(CdTe)ZnSe QD(6MLのシェルを有する)(下部)についての、高速フーリエ変換によるHRTEM。d.6MLのシェルを有する(CdTe)ZnSe QDのHRTEM。スケールバー:b.20nm;c.5nm;d.5nm。
【図5】図5は、高度に歪んだ(CdTe)ZnSe QDの連続弾性シミュレーションデータを示す。a.左側:同心球(黒の実線)または同心円筒(赤の点線)としてモデル化された6MLのZnSeシェルで被覆された3.8nm CdTeナノ結晶の歪み分布。コアの歪みは等方圧縮性だが、シェルの歪みは接線方向に伸張性があり(上部の線)、半径方向に圧縮性がある(下部の線)。右側:球形および円筒形の歪み特性に対応する計算格子定数と、実験格子定数(青色の破線)との比較。b.コアのサイズおよびシェルの厚さに応じて変化するコヒーレント結晶成長とインコヒーレント結晶成長。
【図6】図6は、種々のシェル物質および厚さで被覆されたCdTeコアに関して光調整性(optical tunability)および蛍光量子収率を比較したデータを示す。(A)シェルの厚さに応じて変化するZnSe、CdS、またはZnSで覆われた3.8nmのCdTeコアの発光波長。(B)シェルの厚さに対してプロットした同じQDの蛍光量子収率。
【図7】図7は、本明細書に開示されている、典型的なQD上のポリマー配位子被覆の製法を示す。典型的には、最初にもともとの配位子をチオグリセロールと交換する。次いで、こうした一価の極性配位子を多座配位子で置き換える。不活性条件下においてDMSO中で1〜2時間加熱(60〜70℃)した後、緻密に被覆された安定したQDが生じる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
エピタキシャル層とその基材は互いに相助作用的に歪み(すなわち、相互作用的な歪み)、それぞれの特性を変化させることができるので、歪みはコロイド中で固有のものとなる。実験に基づく計算および理論計算により、小さなナノ結晶中のほうがそれに対応するバルクよりもずっと大きな歪みを許容できることが明らかになっている。小さなナノ結晶(5nm未満)は、表面積と体積との比が大きく、面が高度に湾曲しており、それにより、格子不整合エピタキシャル・シェルからのストレスを構成原子のかなりの部分にわたって分散させることができる。より大きなナノ結晶およびバルク基材では、原子の総数が多くなり、エピタキシャル・ストレスが表面(含まれる構成原子の割合が小さい)に加わり、均質な歪みではなく、歪みを緩和する結晶欠陥の形成が促進される。
【0012】
コア・シェルQD内のヘテロエピタキシャル歪みを用いて、こうしたナノ結晶の光学特性を変えることができる。特に、小さくて軟らかいナノ結晶コア(CdTe)上での、圧縮シェル物質(ZnS、ZnSe、ZnTe、CdSまたはCdSe)のエピタキシャル成長により、伝導エネルギーバンドが劇的に変化する。格子歪みは、電荷担体の場所を制御し、励起状態寿命を調節し、広い波長範囲にわたって吸収スペクトルと発光スペクトルを調整し、吸収と発光との間のスペクトルオーバーラップを最小限にすることができる。こうした効果は、CdSe QDに関してChenらが観察した小さなスペクトルシフト(5〜7nm)とは異なり、小さなスペクトルシフトはおそらく格子歪みによって生じるものではなく、その実験条件下でCdSeコア(CdSシェルではない)の連続成長から生じると思われる。Chen et al.,Nano Lett.3,799−803(2003)。歪み調整可能なQDは、誘導放出抑制(stimulated emission depletion)に基づいて、太陽エネルギー変換、多色生物医学的画像診断、および超高分解能光学顕微鏡法で利用される。
【0013】
コロイドナノ結晶内の格子歪み
小さな圧縮性ナノ結晶コア上に秩序正しくシェル物質が成長するとき、格子歪みは、かなりのバンドギャップエネルギー変化を引き起こすことができる。図1を参照されたい。バルク状態では、CdTeおよびZnSeのヘテロ構造は、CdTe内の電子および正孔の両方を局在化するように整列される(タイプI挙動)価電子バンドおよび伝導バンドを有する。しかし、ナノメートルスケールでは、ZnSeシェルのエピタキシャル成長によりCdTeナノ結晶が強く圧縮される。これは、ZnSeの格子定数(5.668A)がCdTeの格子定数(6.482A)よりもかなり小さいためである。閃亜鉛鉱型のII−VIおよびIII−V半導体では、電子エネルギーギャップは、加えられる圧縮力とともに増大し、引張歪みが加わると減少する。伝導バンドは価電子バンドよりもかなりの程度シフトし、それゆえにシェル成長によって引き起こされるCdTeの圧縮変形により伝導バンドのエネルギーは増大する。同時に、シェル物質は引張歪みが加わった状態にあり、その結果としてその伝導バンドエネルギーが減少する。これらの2つの歪み作用が協調的に働いて(すなわち、二重歪み)エネルギーバンドオフセット(energy band offsets)を変え、標準的なタイプIのQDがタイプIIのヘテロ構造に変換され、その結果、電子および正孔が空間的に分離される。シェルの厚さが増大するにつれ、シェルからの圧縮歪みが増大するので、コアの伝導バンドエネルギーが上昇するが、量子閉じ込めが緩和されるのでシェルの伝導バンドエネルギーは減少する。
【0014】
歪み調整されたナノ結晶の特性
CdTe上でのZnSeのエピタキシャル・シェル成長が進むにつれて、光吸収スペクトルおよび蛍光放射スペクトルは長波長(低エネルギー)側に劇的にシフトする(図2a)。シェルの有限ポテンシャル井戸によりコアとシェルとの間で電子と正孔のトンネリングが可能になると、タイプIのQDでも小さなスペクトル変化が観察される。しかし、(CdTe)ZnSeの場合、シェル成長がさらに続いて吸収バンド端および発光極大がシフトし、バルクのバンド端エネルギー(CdTe(1.50eV)およびZnSe(2.82eV))を超える(図2aを参照)。様々な証拠は、この赤方偏移がタイプIIバンド配列への変換によることを示唆している:(i)明確な光吸収の特徴が徐々に減少していること;(ii)バンド端の振動子強度の減少、および(iii)励起状態寿命のかなりの増大(図2d)。こうした変化は、コアへ入る正孔とシェルへ入る電子との空間的分離によって引き起こされ、結果として電子−正孔の重なり積分が減少する。(CdTe)CdSeなどのコロイド状タイプII量子ドットは、コアおよびシェルに関して、バンドオフセットが互い違いになっている特定の物質を選択すれば、電荷担体の分離を達成することができる。Kim et al.,J.Am.Chem.Soc.125,11466−11467(2003)を参照されたい。タイプIIバンド配列により、個々の半導体のいずれかのバルクバンドギャップエネルギーよりも低いエネルギーで空間的な間接再結合が可能である。
【0015】
最大のスペクトルシフトが非常に小さなコア(1.8nmのCdTeなど)で観察され、緑から近赤外スペクトルへ調整が可能である。それに対して、もっと大きなCdTeコアはエピタキシーを介して効果的に圧縮できず、それらの発光スペクトルは格子歪みでは大して調整できない。サイズの異なるCdTeコアに関して、歪み調整可能なスペクトル範囲を図2cに示す。小さなコアのQDは、発光スペクトルの青側と赤側の両方で大きなドットのスペクトル範囲を超えて発光するよう調整できることは注目に値する。この目新しい現象は、他のタイプの量子ドットでは観察されたことがない。コアのサイズおよびシェルの厚さに応じて、こうしたQDは25から60%の間の量子効率で500から1,050nmの間で発光するよう調整できる。蛍光ピーク幅は、近赤外(700〜900nm)では、一貫して40から90nmの間(半値全幅、FWHM)であり、これは生物医学的画像診断用途に十分に適した「クリアウィンドウ(clear window)」である。
【0016】
歪みによって引き起こされるスペクトル変化はゆるやかであり、タイプIからタイプIIへの切り替わりの場合に予想される急激な変換がないという点は興味深い発見である。直径が4nm未満であるコアサイズの場合、我々のデータは、2〜3の単層(ML)のシェル物質で覆った後のタイプII挙動への移行(最初のエキシトン吸収ピークの完全な消滅で定義される)は「完全」であることを示している。しかし、0と2〜3MLとの間では、こうしたQDの挙動は、タイプIとタイプIIとの間の状態である。ここでは、電荷担体の一方はナノ結晶の1つの領域に強力に閉じ込められるが(我々の場合、正孔はコアに閉じ込められる)、他の電荷担体(電子)は弱く閉じ込められ、ナノ結晶全体にわたって広く非局在化する。
【0017】
多層構造の歪み
こうした歪んだナノ構造中の電子および正孔の分離をさらに理解するために、中間シェル層を用いて正孔または電子のいずれかに対する特定のエネルギーバリヤーを生じさせる体系的なキャッピング(capping)実験を実施した(図3)。CdTeをCdSeシェルで覆うと、シェル中に電子が置かれるタイプIIのQDを生み出すことが知られているが、これはCdTeと比べてCdSeの伝導バンドエネルギー準位が低いためである。それに対して、ZnTeシェルまたはZnTe中間層でCdTeを覆うと、QDのコアからの電子拡散に対して大きなバリヤーとなるが、コアからの正孔拡散に対してはほとんど障害とならない。CdTeをCdSeで覆うと、バンドギャップがかなり減少するタイプIIのQDが生じるが、ZnTeで覆ってもバンドギャップはほんの少ししか変化しない。正孔または電子の拡散を防ぐバリヤーとしてこうした物質の1つの単層を使用すると、ZnSeの過成長によりタイプII構造がもたらされるが、それはCdSe中間層と一緒に成長した場合のみである。ZnTe中間層を有するQDではほとんど赤方偏移は観察されず、歪みによって引き起こされるタイプII構造が機能するためには、シェルへの電子拡散が重要であることを確証している。コアへの正孔の閉じ込めは、こうした(コア)シェルQDの高い量子効率によっても支持される。これは、表面正孔トラップのほうが、電子トラップよりもQDの光学特性に悪影響をもたらすからである。
【0018】
高度に歪んだ(CdTe)ZnSeヘテロ構造(14.4%の格子不整合率)が優れたホトルミネセンス特性を維持できることは注目に値する。高い量子収率は、初期CdTeコアの高い結晶性(最大80%までの量子収率)、および高温でのシェル成長の均質性(シェル成長は200C未満では不完全で不均一であった)に起因するのであろう。また、格子圧縮性は、一般的に使用されるQDの物質CdSe(Bu(体積弾性率)=53.1GPa)およびZnS(Bu=77.1GPa)よりも、CdTe(Bu=42.4GPa)およびZnSe(Bu=62.4GPa)のほうが非常に高い(モジュラス値が低いので柔らかいと見なされる)。したがって、大きなストレスにさらされたときに、緩和して欠陥トラップ部位を形成するのではなく、CdTeおよびZnSeが弾性的に圧縮可能であるので、こうしたQDは優れた分光特性を維持できる。こうしたQDは、2MLのシェル成長後に高い量子収率を維持する(図3b)。これは、おおよそ1.5MLのシェル成長後に量子収率のピークに達する、同様に歪んだ(CdSe)ZnS QD(12%の格子不整合率)とは異なる。この違いは、弾性の小さいCdSeおよびZnSの場合、欠陥を生じないで歪みに耐えることができないせいであると考えられる。もっと軟らかいCdTeコアを使用して、CdSおよびZnSシェルの両方を成長させると(それぞれ11.4%および19.8%の格子不整合率)、3MLのシェル成長後であっても高い量子収率が維持されるQDが生み出される。
【0019】
歪みによって引き起こされる欠陥形成の概念は、(コア)シェルQDのホトルミネセンス効率を理解するための支配的なパラダイムとなってきたが、この概念はタイプIIのQDの量子収率が低いことの説明とはならない。タイプIIの(ZnTe)CdSe QDは量子収率が15〜20%であり、それは1.5MLの成長後に、格子不整合率がほんの0.6%であるにもかかわらず量子収率が減少することを、Xieらは報告した(Adv.Mater.17,2741−2745(2005))。図3bでは、タイプIIの(CdTe)CdSe QD(7.1%の格子不整合率)は、ほんの1MLのシェル成長後に蛍光効率のピークに達するが、高度に歪んだ(CdTe)ZnS QD(19.8%の格子不整合率)は、2.5〜3MLのシェル成長後にピーク蛍光効率に達する(図6を参照)ことを示唆するデータを示している。したがって、(CdTe)ZnSおよび(CdTe)ZnSeのQDは、蛍光を赤方偏移または赤外偏移させるのに十分な肉厚シェルを有しており、かつ十分な量子収率を維持して、可視波長および近赤外波長の広域スペクトル(500〜1,050nm)にわたって高い量子収率(60%)での発光をもたらすであれば、(CdTe)CdSe QDよりもいっそう望ましい。
【0020】
タイプIIQD中の電荷担体の分離により、放射再結合の確率が減少する結果になりうる。また励起状態寿命が延びると、非発光性再結合事象の確率が増大しうる。さらに、タイプIIQD内の電荷担体の一方がシェル領域に閉じ込められ、したがってこの担体は表面欠陥部位に閉じ込められる確率(QDのホトルミネセンス効率を支配する主要因子)が増大する。
【0021】
構造特性
粉末X線回折(XRD)データ(図4a)は、特定のQDが、均一結晶領域として均質に成長することを示している。CdTeコアは閃亜鉛鉱型の結晶構造を示し、これはシェル成長に伴って結合距離が小さくなるほうにシフトする。6ML(単層)のシェル成長の後、格子定数は閃亜鉛鉱型のCdTeと比べて5.1%収縮した。このことは、バルクと比較してZnSeシェル格子が8.5%拡張したことを示す。さらにシェルの厚さを9MLに増やすと、ナノ結晶の全体量がほぼ二倍になるが、格子パラメーターは少ししか変化しない。生じる結晶領域が大きくなるため、回折ピークは狭くなるが、純粋なZnSeまたはCdTeの領域が存在する証拠はない。透過型電子顕微鏡(TEM)画像で観察されるこうした粒子の疑似球形形態と合わせて考えると(図4b)、コア物質とシェル物質との間にある大きな歪みにもかかわらず、これらのデータは結晶成長がコヒーレントでありかつ均質であることを示唆している。XRDスペクトルは、シェル成長による六方格子パターンを示している。これは、(111)反射の分裂および(220)反射と(311)反射との間のピークの発生によって示唆される。しかし、こうした構造の回折パターンをシミュレーションするなら、これらの観察は相変化を示していないことが明らかである。そうではなく、これらの変化はII−VI物質の多形性を表す。それらの物質は一般的に、バルク中のウルツ鉱型(六方)および閃亜鉛鉱型(立方)の相の多型であることが分かっており、またナノ構造として見いだされる。この多型は、[111]閃亜鉛鉱型方向において積層欠陥に現れる。このことは、これら2つの構造間にわずかなエネルギー差があるため高結晶物質においてさえ一般的でありうる。我々の構造的シミュレーションデータは、図4で特徴付けられている(コア)シェルのナノ結晶はすべて大部分が閃亜鉛鉱型であり、30〜40%の(111)格子面が六角形状で積層されていることを実証している。それゆえに、回折パターンの六角性(hexagonal nature)の増大は、コヒーレントシェル成長に伴って回折ピークが狭くなることだけに起因する。このことは、小さなコアの広い回折ピークによって不明瞭にされる立方−六方多型(cubic−hexagonal polytypism)が基礎をなしていることを示す。
【0022】
高解像度のTEMデータ(図4c、d)は、これらのQDのコヒーレント結晶性をさらに明らかにしており、格子面がナノ結晶全体にわたって広がっている。格子の反りおよび電子密度の差も、歪んだコア・シェル構造で観察された。しかし、低エネルギー積層欠陥以外に、主な結晶欠陥は観察されず、これはシェル成長の全体を通して観察される高い量子収率およびバンド端発光と調和する。2MLより厚いシェルを有するほとんどすべてのQDは、閃亜鉛鉱型(111)面がTEMグリッドと平行になるように配向していることが確認された。この異方性は、肉厚シェルを有する試料のXRDパターンおよびシミュレーションと一致しており(図4a)、[111]軸に垂直なナノ結晶反射のピークが狭くかつ強くなっていることを示す。この優先的な成長は、基礎をなす閃亜鉛鉱型CdTeコアの異方性に起因しており、そのコアは、[111]方向に少し引き延ばされていることが分かる(図4c)。この方向にウルツ鉱型の積層欠陥が広がることにより、基礎をなす結晶格子に基本的な程度の異方性がもたらされる。重要な点として、コア物質とシェル物質のウルツ鉱型構造の間の格子不整合率は、a方向では、c方向と比べて少し大きく、ウルツ鉱型II−VI物質の圧縮性はc軸と垂直な方向において高くなっている。このことは、シェル成長が、円筒形状のQDに沿って外側の放射方向に好ましく起こりうることを示唆している。この様式のシェル成長は、ほとんどのCdSeナノ結晶で観察されるものとは対照をなす。ほとんどのCdSeナノ結晶では、典型的にはウルツ鉱型構造のc方向への成長が促進されるが、それは一般的に、c末端面(c−terminal facet)での高い反応性およびこの方向の格子整合率がいっそう大きいことに起因する。
【0023】
CdTeは、テルル化水銀を除くすべてのII−VIおよびIII−V物質のうちでもっとも圧縮性があり、その変形ポテンシャルも高い。このことは、CdTeの格子は容易に圧縮され、圧縮時にその電子エネルギーバンドがかなりの程度シフトすることを意味する。ZnSeも変形ポテンシャルが高いが、体積弾性率はずっと大きい。より変形しにくい、高度に不整合なシェル物質としてのその役割は、報告されている独特の光学特性を生み出す上で重要と思われる。それに対し、格子整合性に優れたコア・シェルQD((CdTe)CdSおよび(CdSe)CdSなど)は、格子歪みの減少および変形ポテンシャル値の低下のせいでスペクトルシフトがかなり小さい。さらに、ほぼすべての(コア)シェルのナノ結晶および他のタイプのナノヘテロ構造は、構造的不整合のせいで、様々な程度の格子歪みにさらされる。
【0024】
連続弾性モデル化
歪み調整のメカニズムについて更なる洞察を得るために、球形CdTeコア上にコヒーレント成長したエピタキシャルZnSeシェルについての連続弾性モデルを構築した(図5)。シェルからの半径方向圧縮により、コアは等方性の圧縮歪みがかかることが分かる。シェル格子は、コアの周囲の接線方向に引張歪みがかかり、半径方向に圧縮歪みがかかる。シェル内のこの歪みは、界面からの距離が増大するにつれて減衰するが、完全にゼロにはならない。この結果は、肉厚シェルは、臨界値を超えてコアを圧縮することはできず、かなりの量の弾性歪みがシェル内に残ることを示している。XRDおよびTEMでの実験的に観察された格子定数によると、コアの圧縮はずっと大きいはずである。この食い違いは、[111]方向に対して垂直に起こるシェルの非球状成長により、ヘテロ構造が、同心球というよりは同心円筒によりいっそう似ることにたぶん起因すると考えられる。図5aに示すように、この系を円筒としてモデル化すると歪みの多くがシェルに再配分され、実験的に観察された格子パラメーターといっそう強く相関する。理論的に導き出されたこの格子変形を用い、モデル固体理論によって様々な(コア)シェル構造のバンドオフセットおよびバンドギャップを計算した。シェル・エピタキシャル成長の様々な段階でのこうした構造のバンドギャップを予測した。さらに、連続弾性モデルを用いて、転位ループの形成がコヒーレントエピタキシャル成長よりもエネルギー的により好ましいシェルの厚さを予測できる。図5bは、種々のコアサイズでのこの厚さを示しており、直径が約3.5nm未満のCdTe QDは、基本的にどれほどの厚さのZnSeシェルでもその歪んだコヒーレント成長を許容できることを示している。
【0025】
こうしたモデル化計算では、粒径に対する物質特性の依存に関して一般的な傾向が現れなかったので、バルク物質パラメーターを使用する。圧縮性は、典型的には粒径と共に変化し、通常、粒径の減少とともに軟化作用を示す。他の場合には、それらの圧縮性値は、バルクと比べてナノ粒子では変化しないことが見いだされている。II−VIの半導体では、CdS QDは、バルクと比べて類似の圧縮性を有するが、CdSe QDはバルク物質よりもいっそう圧縮されることが報告されている。量子閉じ込め自体によって、半導体ナノ結晶における構造変更が引き起こされうる。またこうしたナノ結晶は、その不動態化配位子の性質に応じて圧縮力または引張力にさらされうる。本明細書に開示されている歪み調整可能なQDの場合、ナノスケールのZnSeおよびCdTeの弾性は、粒径の関数としては測定されなかった。コアおよびシェル物質の弾性が均等に減少する場合、こうしたドット内の全弾性歪みエネルギーは減少するであろう。このエネルギー減少が、結晶変形を変えるとは考えられず、また我々のバンドギャップ計算における大きな正味の変化をもたらすとも考えられない。物質うちの1種のみがより弾性のあるものになる場合をさらに調べるため、コア物質またはシェル物質のいずれかについてもっと小さい(例えば、バルクより20%小さい)弾性係数を用いて、理論モデルを構築した。この軟化効果により、歪みによって引き起こされるバンドシフトの大きさがわずかに(3%未満だけ)変わる。観察された結晶の多型は、計算バンドギャップにわずかに影響を及ぼしうる。Weiおよびその同僚らは、閃亜鉛鉱型CdTeについてはバンドギャップ1.50eV、ウルツ鉱型についてはバンドギャップ1.547eVを計算した。ZnSeの場合、バンドギャップの実験データは、閃亜鉛鉱型では2.82eV、ウルツ鉱型では2.85eVという非常に小さな差も明らかにしている。
【0026】
電子デバイス
ある特定の実施形態では、本開示は、本明細書に開示されている量子ドットを含む電子デバイスに関する。ある特定の実施形態では、表示装置は、本明細書に開示されている量子ドットを含む発光ダイオードを利用する。量子ドットを含む物質は、陽極と陰極との間に配置される。電荷担体(電子および正孔)は、電圧の異なる電極から接合部に流れ込む。電子は正孔に出会うと、低いエネルギー準位に下がり、光子の形でエネルギーを放出する。
【0027】
ある特定の実施形態では、本開示は、発光ダイオードの隣に配置された量子ドットを含むフィルムに関する。発光ダイオードは、量子ドットが吸収する光を発生し、それによって量子ドットは光(例えば、蛍光)を発する。
【0028】
ある特定の実施形態では、装置は、正孔輸送(hole−transporter)層(HTL)と電子輸送層(ETL)との間に量子ドットおよび発光層を含んでいる透明フィルムを含む。
【0029】
有機エレクトロルミネセンス物質は、通常、電子ではなく正孔の注入および輸送に有利である。そのため、電子−正孔の再結合は一般に陰極の近くで生じる。生み出された励起子または正孔が陰極に近づかないようにするために、正孔遮断層は、陰極に向かって移動する正孔を遮断し、電子を発光QD層へ輸送するという二重の役割を果たす。トリスアルミニウム(Alq3)、バトクプロイン(BCP)、およびTAZが、通常、正孔遮断物質として使用される。
【0030】
ある特定の実施形態では、デバイスは、金属陰極(例えば、AuおよびAg)、電子輸送層(ETL)(例えば、ZnO:SnO2(比率1:3))、本明細書に開示されている量子ドットを含む発光層、エネルギーバリヤー層(例えば、SiO)、および正孔輸送層(HTL)(例えば、p−ケイ素)を含む。p型ケイ素の抵抗率は、約10〜100オームcmであってよい。上部の金属陰極を介して発光を見ることができる。
【0031】
量子ドットの配列は、回転成形法として知られる方法で自己集合により製造でき、有機物質中に量子ドットを含む溶液を基材に注ぎ入れ、次いでそれを回転状態にして溶液が均等にまき散らされるようにする。
【0032】
QD薄膜を形成するための密着焼付け法は、Kim et al.,(2008)Nano Letters 8:4513−4517に大まかに記載されている。密着焼付けの方法全体は、典型的には、ポリジメチルシロキサン(PDMS)成形スタンプを用意し;上面のPDMSスタンプをパリレン−c(化学蒸着(CVD)芳香族有機ポリマー)の薄膜で被覆し;パリレン−c被覆スタンプのインク付けを、有機溶剤中にコロイドQDを懸濁させた溶液の回転成形によって行い;さらに溶剤の蒸発後に、形成され変えられたQD単層を基材に密着焼き付けすることを含む。
【0033】
ある特定の実施形態では、本開示は、電極(p−パラフェニレンビニレンで被覆されたインジウムスズ酸化物など)と本明細書に開示されている量子ドットを含む膜とを含むデバイスに関する。量子ドットは、多座配位子(アルキルジチオ、ヘキサンジチオールなど)と一緒に保持され、電極の表面に保持されうる。Colvin et al.,Nature 1994,370,354(引用により本明細書に組み込む)を参照されたい。
【0034】
ある特定の実施形態では、本開示は、共役ポリマー(ポリ[2−メトキシ−5−(2−エチルヘキシルオキシ)−1,4−フェニレンビニレン](MEH−PPV)およびまたはポリ[(9,9−ジヘキシルフルオレニル−2,7−ジイル)−co−(1,4−{ベンゾ−[2,1’,3]チアジアゾール})](F6BT)など)の膜と本明細書に開示されている量子ドットとを含む発光ダイオードに関する。Tessler et al.,Science 2002,295,1506(引用により本明細書に組み込む)を参照されたい。
【0035】
ある特定の実施形態では、本開示は、トリオクチルホスフィンオキシド(TOPO)および/またはトリオクチルホスフィン(TOP)の層で被覆された、本明細書に開示されている量子ドットを含む、発光ダイオードに関する。被覆量子ドットは、正孔輸送物質(N,N’−ジフェニル−N,N’−ビス(3−メチルフェニル)−(1,1’−ビフェニル)−4,4’−ジアミン(TPD)層など)に隣接させて、電極(例えば、ガラス基材上に被覆されたインジウムスズ酸化物(ITO))間に配置することができる。Coe et al.,Nature 2002,420,800(引用により本明細書に組み込む)を参照されたい。TPD層の反対側で、量子ドット層は、陰極と接触したトリス−(8−ヒドロキシキノリン)アルミニウム(Alq3)の膜と隣接していてよいか、または任意選択でAlq3層間に導入された3−(4−ビフェニリル)−4−フェニル−5−t−ブチルフェニル−1,2,4−トリアゾール(TAZ)の層と隣接していてよい。他の実施形態では、量子ドットは、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン):ポリスチレンスルホン酸塩などの導電性ポリマーの層の上部の層の中にある。Hikmet et al.,J.Appl.Phys.2003,93,3509(引用により本明細書に組み込む)を参照されたい。
【0036】
太陽エネルギー変換
ある特定の実施形態では、本開示は、量子ドット太陽電池(例えば、ナノ結晶の被覆を持つ太陽電池)に関する。ナノ結晶の薄膜は、スピンコーティングによって得る。量子ドットをベースにした光起電力セルでは、典型的には色素増感コロイドTiO膜を利用した。
【0037】
ある特定の実施形態では、太陽電池は、本明細書に開示されている量子ドットの層が電極(典型的には、ポリマー膜、例えば、ポリ(3−ヘキシルチオフェン)の中に含まれている)間にある、一対の電極を含む。1つの電極は、インジウムスズ酸化物基材であってよく、それは任意選択で、ポリスチレンスルホン酸がドープされたポリ(エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT:PSS、導電性ポリマー)で被覆されている。Huynh et al.,Nature 2002,295,2425(引用により本明細書に組み込む)を参照されたい。
【0038】
ある特定の実施形態では、太陽電池は、本明細書に開示されている量子ドットに隣接したTiO膜と、共役ポリマーであるポリ(9,9−ジオクチル−フルオレン−co−N−(4−ブチレンフェニル)ジフェニルアミン)の正孔輸送層とを含む。電池は、典型的には、塩基性溶液中にポリカチオン、ポリ(エチレンイミン)(PEI)、ポリ(ジアリルジメチル塩化アンモニウム)(PDDA)、負電荷を帯びたTiOナノ粒子を含む水溶液、および負電荷を帯びた本明細書に開示されている量子ドットを使用し、層ごとの成長に従って、フッ素化酸化スズ(FTO)で被覆されたガラス上に作製する。Kniprath et al.,Thin Solid Films.518(1),295−298(2009)(引用により本明細書に組み込む)を参照されたい。
【0039】
生物学的用途
伝統的な有機染料が利用されるどんな生物学的用途にも量子ドットを使用できる。QDは通常、伝統的な有機染料よりも優れているが、それは輝き(大きな吸光係数と蛍光染料に匹敵する量子収率とが組み合わさっているおかげ)および安定性(光退色をずっと少なくすることが可能)のためである。
【0040】
量子ドットの光安定性により、高解像度の三次元画像に再構成できる多数の連続的な焦点面画像を取得できる。量子ドットプローブの別の用途には、長期間にわたる分子および細胞の実時間追跡がある。抗体、ストレプトアビジン、ペプチド、核酸アプタマー、または小分子配位子を使用して、細胞の特異タンパク質を量子ドットの標的にすることができる。
【0041】
ある特定の実施形態では、本開示は、事前標識(pre−labeled)細胞の体外画像診断(例えば、胎児性細胞、癌細胞、幹細胞、およびリンパ球についての、リアルタイムでの単細胞移動の画像診断)における本明細書に開示されている量子ドットの使用に関する。例えば、本明細書に開示されている量子ドットは、能動的ターゲィングおよび受動的ターゲィングによる生体内条件下での腫瘍ターゲィングに使用できる。能動的ターゲティングの場合、量子ドットは、腫瘍細胞または腫瘍内微小環境に選択的に結合する腫瘍特異的な結合部位で官能基化される。受動的ターゲィングでは、癌組織内の血管の血管透過性が増大していることを、量子ドットプローブの送達に利用する。腫瘍は通常、正常組織よりもいっそう透過性ある内皮を有しており、そのため小さなナノ粒子が癌組織の間隙に漏出する。さらに、腫瘍細胞には効果的なリンパ排出の仕組みがなく、そのためナノ粒子がその後に蓄積する。
【0042】
本明細書に開示されている量子ドットの表面は、静電相互作用および水素結合相互作用により、または特定の配位子−受容体相互作用(アビジン−ビオチン相互作用など)により、生体試料と相互作用するように調整できる。ある特定の実施形態では、本明細書に開示されている量子ドットは、シリカ層で被覆する。例えば、水溶性にするために、あるいは細胞核と結合するためのメトキシシリルプロピル尿素およびアセテートにするために3−(トリヒドロキシルシリル)プロピルメチルホスホネートで被覆する。他の実施形態では、ビオチンは量子ドットの表面と共有結合する。Bruchez et al.,Science 1998,281,2013(引用により本明細書に組み込む)を参照されたい。
【0043】
生体物質と量子ドットとの結合は、様々な方法で成し遂げることができる。生体物質は、タンパク質、核酸、またはウイルスなどの特定の分析物を認識できる。メルカプト酢酸は、可溶化およびタンパク質共有結合のための配位子として使用できる。ZnSで覆われたQDと反応する場合に、メルカプト基はZn原子と結合し、極性カルボン酸基によりQDは水溶性になる。遊離カルボキシル基は、反応性アミン基との架橋による様々な生体分子(タンパク質、ペプチド、および核酸など)との共有結合に利用可能である。Chan & Nie,Science 1998,281,2016(引用により本明細書に組み込む)を参照されたい。
【0044】
ある特定の実施形態では、本明細書に開示されている量子ドットは生体分子で被覆されるが、これは、負電荷を帯びたリポ酸と、生物工学(biologically engineered)二官能性組換え(キメラ)タンパク質(所望の生物関連領域と遺伝子的に融合している正電荷を帯びた結合領域(ロイシンジッパーを含む)を含む)との間の静電引力を利用して行う。Mattoussi el al.,J.Am.Chem.Soc.2000,122,12142(引用により本明細書に組み込む)を参照されたい。
【0045】
ある特定の実施形態では、本開示は、配位子で被覆された本明細書に開示されている量子ドットに関する。ある特定の実施形態では、配位子は多座ポリマーである。ポリマー配位子は、QDの流体力学的粒径を最小限にし、コロイド安定性をもたらし、光退色を防ぐ。ある特定の実施形態では、本開示は、チオール(−SH)およびアミン(−NH)基が線状ポリマーにグラフト化された混合組成物を含むポリマー配位子に関する。Smith & Nie,J Am Chem Soc.(2008)130(34):11278−11279(引用により本明細書に組み込む)を参照されたい。代表的な両親媒性ポリマーは、Smith et al.Phys.Chem.Chem.Phys 2006;8:3895−3903;Pons et al.,J.Phys.Chem.B 2006;110:20308−20316、およびPellegrino et al.,Nano Lett 2004;4:703−303(本明細書にすべてを援用する)に開示されている。
【0046】
ある特定の実施形態では、配位子は、生体分子または標的分子(それは、核酸、ポリペプチド、細胞、抗体、エピトープ、タンパク質、阻害因子、受容体、または受容体基質でありうる)と結合する。核酸分子は、特定の遺伝子型を示す既知の多型配列にハイブリダイズするプローブであってよい。ポリペプチドは、所望の細胞マーカー(すなわち、細胞型を示す細胞の表面に示されるタンパク質の受容体)を標的にすることができる。それらは、樹状細胞マーカー、内皮細胞マーカー、B細胞マーカー、T細胞マーカー、ナチュラルキラー細胞マーカー、癌細胞マーカー、血漿細胞マーカー、または造血細胞マーカーであってよい。
【0047】
本明細書に開示されている量子ドットは、生体分子(抗体、オリゴヌクレオチド、または小分子配位子など)が生物学的ターゲットに固有となるように、生体分子に架橋されていてよい。Smith et al.,Adv.Drug Deliv.Rev.60,1226−1240(2008)(引用により本明細書に組み込む)を参照されたい。標準的なバイオ分子固定化手順(bioconjugation protocols)(マレイミド活性化QDと還元抗体のチオールとの結合など)を使用してこれを達成できる。非特異的結合と考えられるものを除去するか、または静脈内注射の後の血流からの除去速度を減少させるために、QDの表面を生体不活性な親水性分子(ポリエチレングリコールなど)で変性させてもよい。本明細書に開示されているQDは、生物発光反応を触媒する酵素に結合した場合、生物発光共鳴エネルギー移動(BRET)のおかげで外部の励起源がなくても蛍光を発することができる。So et al.,Nat.Biotechnol.24(2006),pp.339−343(引用により本明細書に組み込む)を参照されたい。
【0048】
ある特定の実施形態では、本明細書に開示されている量子ドットは、多くのいろいろな細胞の受容体および標的に高特異的に結合できる、小分子配位子、阻害因子、ペプチド、またはアプタマーに架橋される。Lidke et al.,Nat.Biotechnol.22(2004),pp.198−203(引用により本明細書に組み込む)を参照されたい。
【0049】
ある特定の実施形態では、本明細書に開示されている量子ドットは、特定の核酸配列を検出するためのセンサーに使用できる。検出する一本鎖核酸を、(a)標的の一端と相補的である核酸フラグメントに結合した受容体のフルオロフォアおよび(b)標的核酸の反対の端と相補的であるビオチン化核酸フラグメントと混ぜ合わせると、こうしたヌクレオチドはハイブリダイズしてビオチン−核酸−フルオロフォア結合体が生み出される。この結合体を本明細書に開示されている量子ドットと混ぜ合わせると、フルオロフォア結合体への無放射エネルギー移動により蛍光が消失する。その後この染料受容体は蛍光性になり、標的核酸の存在を明確かつ定量的に示す。Zhang et al.,Nat.Mater.4(2005),pp.826−831(引用により本明細書に組み込む)を参照されたい。
【0050】
用語
「体積弾性率」は、均一圧縮に対する物質の抵抗性を指す。すなわち、基本単位で、体積の所与の相対的減少を生じさせるのに必要な圧力はパスカルである。ナノ粒子のコアの場合、それはコア物質の体積弾性率を示し、より大きな寸法、例えば、ミリメートルの寸法で求められるものである。体積弾性率は、圧力を加えた状態での粉末回折によって、あるいは当該技術分野において知られている他の方法で測定できる。例えば、Al−Douri et al.,Physica B:Condensed Matter,322,(1−2),2002,179−182を参照されたい。
【0051】
「格子定数」または「格子パラメーター」は、結晶格子中の単位格子間の一定距離を指す。三次元における格子は一般に、a、b、およびcと呼ばれる3つの格子定数を有する。立方晶結晶構造の場合、これらの定数はすべて等しい。同様に、六方晶系構造では、aおよびb定数が等しい。特に示されていない限り、「格子定数」は、3次元の平均格子定数を指す。格子定数は通常、数オングストローム(すなわち、ナノメートルの数分の一)のオーダーである。格子定数または格子不整合率は、X線回折または原子間力顕微鏡などの技法を用いて求めることができる。一部の格子定数を以下の表に示す。

【実施例】
【0052】
実験
実施例1:CdTeコアの合成
(コア)シェルのQDは、高温の配位溶剤(coordinating solvent)中での2段階式有機金属手法(two−step organometallic approach)を用いて調製した。室温のトリオクチルホスフィン(TOP)テルリド溶液(0.1mmolが5mlのオクタデセン中に含まれる)を、熱い(300C)酸化カドミウム(0.2mmol)とテトラデシルホスホン酸(0.44mmol)、ヘキサデシルアミン(5.7mmol)とオクタデセンとの溶液(合計10ml)に迅速に注入することにより、様々なサイズのCdTeコア(1.8〜6.2nm)を合成した。成長温度は265Cに設定し、CdTe QDのコアの最終サイズは、成長時間を変化させることにより、また追加の前駆体をゆっくり注入することにより(大きなサイズを望む場合)制御した。室温に冷却した後、発光ナノ粒子(量子効率40〜80%)をヘキサンで希釈し、遠心分離機にかけて不溶性カドミウム前駆体を除去し、ヘキサン−メタノールによる抽出を繰り返して精製し、最後に再び遠心分離機にかけてナノ結晶凝集体と考えられるものを取り出した。
【0053】
実施例2:シェル成長
連続イオン層吸着/反応(successive ion layer adsorption and reaction)(SILAR)手順(もともとは、Peng et al.,J.Am.Chem.Soc.119,7019−7029(1997)に記載)を変更したものを使用した。具体的には、初期キャッピング温度(TML1)で、陽イオン前駆体を含む溶液(0.1Mのジエチル亜鉛またはジメチルカドミウムのTOP溶液)(0.25MLのシェルを構成するのに必要な量の前駆体を含む)を注入した。10分後に(これは、シェル物質の均質核形成を防ぐのに十分な時間であると実験的に判断された時間である)、陰イオン前駆体(0.1Mの硫黄、セレンまたはテルルのTOP溶液)を注入した。この2番目の注入の後、初期成長温度とシェル組成とに依存する時間の間、シェル成長を進行させた。例えば、CdTe上のZnSeの成長では、以下の反応時間を用いた:150 8Cでは4時間、170 8Cでは2時間、さらに210〜225 8Cでは30分間。しかし、他のシェル物質の場合、シェル成長速度が前駆体の反応性に強く依存していることが見いだされた。ジエチル亜鉛およびジメチルカドミウムのどちらも、この作業で使用した温度すべてで反応性が高かった。これらの反応は、カルコゲンの沈着速度によって制限された。一般に、テルルおよびセレンは低い温度で効率的に反応したが(例えば、170Cで2時間の反応時間)、CdSおよびZnSの初期成長には、140Cで1.8nmのコアが完成するまでに長い時間(最高8時間)が必要とされた。TML1での最初の2回の注入後に、最初の0.5MLの場合と同じ反応時間を用いて、さらに2回の注入を行って、合計で1MLのシェルをコア上に成長させた。
【0054】
このシェル物質の薄層がいったんQD上に付着すると(スペクトルの赤方偏移で示される)、熟成におけるこれらのQDの温度閾値はかなり高くなった。これは、ナノ結晶の外形寸法が増大していること、この調査で用いたシェル物質(CdS、CdSe、ZnSe、ZnSおよびZnTe)の接着強度および熱安定性がコア(CdTe)と比べて大きいこと、ならびにシェル物質とのアミンおよびホスフィン配位子の結合力がCdTeと比べて大きいことが組み合わさったことによる。それゆえにちょうど1MLが付着した後、熟成の視覚的兆候がなくても反応温度を劇的に増大させることができた。このように、成長温度は、反応がずっと効率的になるポイントまで増大し、シェル成長を完了させるための反応時間を短くすることができた。CdTe上へのZnSeの付着は、試験を行ったすべてのサイズに関して最適化したが、他のシェル物質(ZnS、ZnTe、CdSおよびCdSe)の付着は3.8nmのQDのコアに関して最適化した。この手順では、陰イオンおよび陽イオンの表面化学量論性が0.5MLのシェル成長のそれぞれのサイクルで似たようになるように、増分を0.25MLとした。0.5MLの増分で実施すると、もともとPengらによって記載されたSILAR手順と同様に、各陰イオンの注入後に量子収率がかなり減少し、したがって蛍光量子収率の相対的変化が不明瞭になった。このことは、以前の知見と調和している。歪み調整可能なQDの合成に関する重要な実験パラメーターを表1に要約してある。またシェルの厚さのデータは表2に示してある。


【0055】
実施例3:ナノ結晶の特性
分光蛍光計(Photon Technology International)を用いて、定常状態の蛍光スペクトルを得た。励起させるのにキセノンランプを使用し、スペクトル範囲400〜800nm用の検出器として光電子倍増管を使用し、さらに800〜1,700nmの範囲用の検出器としてInGaAs検出器を使用した。分光計のスリットの幅は通常4nmで操作した。量子収率の測定は、溶剤屈折率の差を考慮に入れ、エタノール中に溶かしたAtto染料(520、565、610または680)と比較して実施した。吸収スペクトルはShimadzu分光光度計(スリット幅1nm)で測定した。時間分解蛍光減衰スペクトルを、478nmのパルス出力ダイオードレーザー(pulsed diode laser)からの励起で得た。光電子倍増管を用いて検出したピーク発光の波長を、分光計を使用して分解した。Hitachi H−7500 TEMでTEM画像を得、Hitachi H−9500で高解像度の画像診断を実施した。X線回折スペクトルは、Bruker SMART 1000 CCD/Hi−Starの二重検出器回折計(dual−detector diffractometer)(コバルトX線源を使用)を用いて測定した。
【0056】
実施例4:X線回折スペクトルのシミュレーション
デバイ方程式を用いて小さなナノ結晶のX線回折スペクトルをシミュレートする方法が、以前から詳しく説明されている。Bawendi,et al.,J.Chem.Phys.91,7282−7290(1989)を参照されたい。簡単に言えば、特定の頻度(0〜100%)でウルツ鉱型積層欠陥を[111]方向にランダムに分散させて、20の閃亜鉛鉱型結晶格子構造を構成した。特定のナノ結晶の形状およびサイズの外側にある原子をこれらの構造から取り除いた。コアCdTe QDは約850個の原子の六角柱としてシミュレートし、(コア)シェル構造は亜鉛およびセレン原子を用いてそれらのコアの格子を延長することによってシミュレートした。次いで、DISCUSソフトウェアパッケージを用いてそれらの構造に関してデバイ方程式を解いた。スペクトルを平均化して、積層欠陥の分布をシミュレートした。そのような大きな構造では長い処理時間が必要となるため、6および9MLの試料について10のスペクトルだけを平均化した。熱効果はデバイ−ワラー因子によって組み入れた。ただし、原子の熱ゆらぎに対して歪みの影響があることが予想されるであろうが、直接には予測できない仕方で影響することに注目すべきである。表面緩和はシミュレーションに組み込まなかった。実験データとの比較のため、最初に実験スペクトルのバックグラウンドを控えめに差し引いた。
【0057】
実施例5:ポリマー合成

ポリアクリル酸(PAA、MW 1773)、N−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)、N,N’−ジイソプロピルカルボジイミド(DIC)、システアミン、β−メルカプトエタノール(BME)、1−チオグリセロール、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、酸化カドミウム、テルル、ジオクチルエーテル(DOE)、5,5’−ジチオビス(2−ニトロ安息香酸)(エルマン試薬)、グリシン、L−システイン、アセトン、クロロホルム、メタノール、ヘキサン、およびピペリジンを、Sigmaから購入した。N−Fmocエチレンジアミン(Fmoc−EDA)はABD Bioquestから購入した。テトラデシルホスホン酸(TDPA)は、Alfa Aesarから入手した。オレイルアミンはAcros Organicsから、トリオクチルホスフィン(TOP)はStremから、フルオレサミンはInvitrogenから購入した。PAA(1g、13.9mmolのカルボン酸)を、150mLの三つ口フラスコ中で25mLのDMSOと混合した。35℃で24時間攪拌した後、新たに調製したシステアミン(187mg、2.43mmol)およびFmoc−EDA(686mg、2.43mmol)の無水溶液(それぞれ、6mLのDMSOに溶かしたもの)を加えた。その溶液を光から保護し、35℃において30分間アルゴンで泡立たせた。6mLのDMSO中にNHS(1.12mg、9.71mmol)を含む無水溶液の添加後、激しく攪拌している間にDIC(736mg、5.83mmol)を40分間にわたってゆっくり加えた。30分間継続して泡立て、その後、暗所において40℃で7日間反応を進行させた。次いでピペリジン(18mL)を加え、その溶液を4時間攪拌して第一アミンを脱保護した。BME(501mg、6.41mmol)を加えて反応を停止させ、溶液を40℃で2時間攪拌し、次いで室温まで冷やして濾過した。混合物を真空下において(約40Pa)45℃で約4mLに濃縮し、氷冷したアセトン:クロロホルム(2:1)の混合物を加えてポリマーを沈殿させ、遠心分離で分離した。ポリマーを約5mLの無水DMFに溶かし、濾過し、アセトン−クロロホルムで再び沈殿させた。この過程を3回繰り返し、ポリマーを最後にアセトンで洗い、真空下で乾燥させ、アルゴン下で保存した。この変性ポリマーは白色粉末であり、水、DMSO、DMF、またはメタノールに可溶性であるが、PAAとは異なりアセトンには不溶性である。空気中で保存すると、このポリマーは数週間の間に黒ずんで黄褐色になった。また様々な溶剤にますます溶けにくくなった。
【0058】
実施例6:CdTeナノ結晶の合成
CdO(25.7mg、0.2mmol)、TDPA(122mg、0.44mmol)、およびDOE(2mL)を三つ口フラスコに加え、CdOが完全に溶解するまでアルゴン下で250℃に加熱した。室温まで冷やした後、オレイルアミン(1g、3.74mmol)および6.5mLのDOEを加えた。この溶液を1時間、真空下で加熱還流し(約20Pa、約65℃)、その後、アルゴン気流下で300℃に加熱した。テルル(12.76mg、0.1mmol)、TOP(2mL)、およびDOE(3mL)を含む別の溶液をカドミウム前駆体溶液に注入し、成長温度を265℃に設定した。この方法を使って、20秒間から10分間の間の反応時間の後に、直径が2.5から3.5nmの間にある高度に単分散のナノ結晶を成長させることができた。より大きなナノ結晶を成長させるために、最初の注入後4分してから更なるカドミウムおよびテルルの前駆体を順次に反応溶液に一滴ずつ注入した。所望のサイズに達した後、反応混合物を冷却して室温にし、85mLのヘキサンで希釈し、遠心分離機にかけて過剰のカドミウム前駆体の大部分を除去した。ヘキサン−メタノール抽出を少なくとも6回行ってQDを分離した。最後の抽出では、メタノールを追加してQDを約1mLに濃縮した。次いでこうしたQDをクロロホルムで希釈して約20mLにし、アルゴンで30分間泡立て、暗所において4℃で保存した。QDのサイズは、最初のエキシトンピーク波長との既知の相関から求め、TEMによって確認した。
【0059】
実施例7:1−チオグリセロールとの配位子交換
クロロホルム(7mL、約150μM)中に含まれる精製CdTe QD(2.5nm)を、シュレンク管(Schlenk line)に接続された三つ口(1−チオグリセロールとの配位子交換)フラスコに加えた。激しく攪拌しながら、凝集の兆しが最初に見えるまで純粋な1−チオグリセロールを滴加した。次いで4mLのDMSOを滴加した。次いで過剰の1−チオグリセロール(3mL)を加え、クロロホルムを真空下において25℃で除去した。アルゴン下において25℃でさらに2時間攪拌した後、アセトン:クロロホルム(1:1、合計で193mL)の氷冷混合物を加えてQDを沈殿させた。遠心分離の後、ペレットをアセトンで洗い、真空下で乾燥させた。
【0060】
実施例8:ポリマー多座配位子による量子ドットの被覆
図7に示されているように、2つの技法を用いて1−チオグリセロールQDを変性ポリマーで被覆した。最初の方法では、1−チオグリセロールで被覆されたCdTe QDを塩基性水(50mM水酸化ナトリウム)中に懸濁させ、7000gで10分間遠心分離機にかけてから、濾過して凝集ナノ結晶を取り出した。塩基性水に溶かした様々な量のポリマーをそのQDに加え、次いでそれらを穏やかに混合した。この方法を使い、過剰の配位子を加えると、数時間にわたってQDの完全な沈殿が生じた。2番目の方法では、1−チオグリセロールで被覆されたQDをDMSO中に懸濁させ、7000gで10分間遠心分離機にかけて、ナノ結晶凝集体と考えられるものを取り出した。ナノ結晶を、小さいサイズのもの(2.5〜3.5nm)については約5〜20μMに希釈し、もっと大きいナノ結晶については約2〜5μMに希釈した。次いでQDを室温で徹底的にガス抜きし、アルゴンを充填した。激しく攪拌しながら、ポリマーの無水DMSO溶液(約5mg/mL)を加えた。次いでその溶液を、小さいQD(2.5〜3.5nm)については90分間60℃に加熱し、もっと大きなナノ結晶については120分間70〜75℃に加熱した。ポリマーの非存在下で、加熱している間にナノ結晶が凝集し、溶液から沈殿した。約130℃まで2.5nmのコアがオストワルド熟成するという証拠はなかったので、実際に、多座ポリマーがこうしたナノ結晶の熱安定性を大きく向上させる。QDを室温まで冷却した後、氷冷した水酸化ナトリウム水溶液(50mM、DMSOの2倍の量)をゆっくり加え、その溶液を2時間攪拌した。次いで、25kDaの分子量のカットオフ透析チュービング(cutoff dialysis tubing)(Spectra/Por)を使用して、QDを2〜3日間徹底的に塩基性水から透析により分離した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コアと圧縮シェルとを含む格子不整合量子ドット。
【請求項2】
請求項1に記載の量子ドットにおいて、前記コアが52GPa未満の体積弾性率を有することを特徴とする量子ドット。
【請求項3】
請求項1に記載の量子ドットにおいて、前記コアが、前記圧縮シェルよりも約0.5オングストロームより大きい格子定数を有することを特徴とする量子ドット。
【請求項4】
請求項1に記載の量子ドットにおいて、前記格子不整合率が約8%より大きいことを特徴とする量子ドット。
【請求項5】
請求項1に記載の量子ドットにおいて、前記コアがCdTeであることを特徴とする量子ドット。
【請求項6】
請求項1に記載の量子ドットにおいて、前記コアの直径が約1.8nmであることを特徴とする量子ドット。
【請求項7】
請求項1に記載の量子ドットにおいて、前記コアの直径が約5.0nm未満であることを特徴とする量子ドット。
【請求項8】
請求項1に記載の量子ドットにおいて、前記圧縮シェルがZnSまたはZnSeの2つ以上の単層であることを特徴とする量子ドット。
【請求項9】
請求項1に記載の量子ドットにおいて、前記圧縮シェル上にポリマーをさらに含むことを特徴とする量子ドット。
【請求項10】
請求項9に記載の量子ドットにおいて、前記ポリマーが、カルボン酸基を有するモノマー、チオール基を有するモノマー、およびアミノ基を有するモノマーを含むことを特徴とする量子ドット。
【請求項11】
請求項9に記載の量子ドットにおいて、前記ポリマーがポリエチレングリコールモノマーを含まないことを特徴とする量子ドット。
【請求項12】
請求項1に記載の量子ドットにおいて、前記圧縮シェルに結合した生体物質をさらに含むことを特徴とする量子ドット。
【請求項13】
請求項12に記載の量子ドットにおいて、前記生体物質が、核酸、ポリペプチド、細胞、抗体、エピトープ、タンパク質、阻害因子、受容体、または受容体基質であることを特徴とする量子ドット。
【請求項14】
請求項1に記載の量子ドットを含むことを特徴とする、光起電力セル。
【請求項15】
請求項1に記載の量子ドットを含むことを特徴とする、発光ダイオード。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2013−511157(P2013−511157A)
【公表日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−539053(P2012−539053)
【出願日】平成22年11月15日(2010.11.15)
【国際出願番号】PCT/US2010/056694
【国際公開番号】WO2011/060353
【国際公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【出願人】(509304896)エモリー ユニバーシティ (5)
【Fターム(参考)】