説明

栽培システムおよびその制御方法

【課題】 栽培室内外の環境に応じて光強度、温度、CO2などを細かく制御し、効率よく良好に植物を育成することができる栽培システムおよびその制御方法を提供する。
【解決手段】 CO2を排出する燃料電池システムと、蓄電池と、光の強さを感知し得る光強度感知手段と、栽培室と、前記栽培内の温度を検知し得る温度センサと、前記栽培内のCO2濃度を検知し得るCO2センサとを備える栽培システム、ならびに、栽培室内のCO2と温度を制御することにより光合成速度を制御する栽培システムの制御方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池を利用した栽培システムおよびその制御方法に関し、特に植物に対する栽培環境を制御し得る栽培システムおよびその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、植物を栽培する植物栽培施設と、植物栽培施設内における植物に対する栽培環境を人為的に制御するための人工光源、温度調整装置などを有する植物栽培システムの開発が進められている。従来、この種の栽培環境を調節するエネルギの供給に燃料電池を主体とするものが特許文献1、2に記載されている。これらによると、栽培施設における動力源として燃料電池を用い、発電に伴って排出される熱、水、二酸化炭素(CO2)をそれぞれ冷暖房、光合成などに利用するというものである。
【特許文献1】特開平2−163007号公報
【特許文献2】特開平11−275965号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
これらの栽培システムにおいては、駆動の維持にあたっては、商用電源を必要とするため、災害時などの非常停電時には駆動することができない。また近来の環境問題に対応するための省エネルギーシステムを実現するためには、できるだけ商用電源の使用を減らし、自然エネルギーなどの新エネルギーを利用したシステムの構築が望まれる。また、植物の栽培を良好に行うためには、光合成速度をできるだけ高める必要があるが、この光合成速度は、光強度、CO2量、温度に依存することが知られている。
【0004】
しかしながら、図7に示すように光強度がある一定以上の強度を有していない場合、CO2濃度は比較的低い温度で飽和し、それ以上CO2濃度を増加させても、光合成速度は増加しない。また、図8に示すように温度に関しても、光強度が低い場合、温度に依存せず光合成速度は低い値で一定となってしまう。
【0005】
さらに、光強度がある一定以上である場合においても、図9に示すように光合成速度の温度依存性をみると、ある温度(最適温度)において光合成速度が最も高くなり、それ以上温度が高くも低くても光合成速度は小さくなる。また、CO2濃度も、光強度が高い場合でも、ある量で飽和する。
【0006】
すなわち、温室などの植物栽培システムにおいても、最も効率よく良好に植物を育成するためには、温室内外の環境を細かく見極め、それらに応じて光強度、温度、CO2などを細かく制御する必要がある。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的とするところは、栽培室内外の環境に応じて光強度、温度、CO2などを細かく制御し、効率よく良好に植物を育成することができる栽培システムおよびその制御方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の栽培システムは、CO2を排出する燃料電池システムと、蓄電池と、光の強さを感知し得る光強度感知手段と、栽培室と、前記栽培内の温度を検知し得る温度センサと、前記栽培内のCO2濃度を検知し得るCO2センサとを備えることを特徴とする。
【0009】
ここにおいて、前記光強度感知手段は太陽電池素子であることが好ましい。
【0010】
本発明の栽培システムは、照明システムをさらに有することが好ましい。当該照明システムは、LEDを用いたものであることが好ましい。
【0011】
本発明は、栽培室内のCO2と温度を制御することにより光合成速度を制御する栽培システムの制御方法をも提供する。
【0012】
ここにおいて、栽培室内の光強度の違いにより栽培室内の温度を制御して、光合成速度を制御することが、好ましい。
【0013】
また当該栽培システムにおいて、太陽電池の発電量により照明システムの光強度を制御することが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明を用いることによって、一年を通して安定的に植物を十分に効率よく育成させることが可能な栽培システムを提供することが可能となる。また、商用電源を用いずに燃料電池、太陽電池、蓄電池などのエネルギーを用いることにより、環境にもやさしく、経済的で、かつ非常時においても駆動することができる。さらに、太陽電池の発電量を用いて日射強度を感知することができるため、太陽電池の電力も使いつつセンサの役割を果たすことが可能となり、システム内の装置を簡素化できる。また、燃料電池システムを用いることにより、システム内の装置を簡素化できる。また、燃料電池システムを用いることにより、システム内の電気を供給しつつCO2濃度、温度を制御することが可能となる。さらに、LEDを照明として用いた構成においては、冬場、夜間、雨天時などにおいても、植物の光合成速度を落とすことなく、良好に生育させることが可能となり、極めて経済的で、環境にもやさしい植物栽培システムを提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1は、本発明の好ましい一例の栽培システム1を模式的に示す図である。本発明の栽培システム1は、CO2を排出する燃料電池システム2と、蓄電池3と、光の強さを感知し得る光強度感知手段4と、栽培室5と、温度センサ6と、CO2センサ7とを基本的に有することを特徴とする。このような構成を有する本発明の栽培システム1によれば、商用電源を用いず、燃料電池および蓄電池により栽培システムを構築するため、省エネルギーを実現しつつ、災害時などの非常時にも駆動可能で、かつ植物に対しても最も成長を促すことのできる光合成速度を選択できるシステムを実現することができる。
【0016】
図1に示す例の栽培システム1においては、たとえば温室などの栽培室5内に、植物10を栽培している。燃料電池システム2は、たとえば、燃料電池11、改質器12、栽培室5外から天然ガスなどの燃料を改質器12に供給するための供給パイプ13、ならびに、CO2以外の排出ガス(たとえば水素)を栽培室5外に排出するための排出パイプ14を基本的に備える。燃料電池11は、上記供給パイプ13を介して改質器12に供給された燃料を改質器12内で改質し発生した水素および酸素を含む空気を取り込み、水素と酸素により直流の電気を発生する。燃料電池には、一般に固体高分子型(PEFC)、固体酸化物型(SOFC)などの種類があるが、本発明に用いる燃料電池11はそのいずれを用いてもよい。この中で、固体高分子型の燃料電池は、動作時の温度が100℃前後であり他の燃料電池と比較して取り扱いが容易なため、固体高分子型の燃料電池を本発明における燃料電池11として用いるのが好ましい。
【0017】
畜電池3は、燃料電池11で発生した電気を蓄積し得るものである。このような蓄電池3としては、たとえばLi−ion、Ni−Hなどの電池が用いられる。また図1に示す例においては、蓄電池3に電気的に接続されたインバータ15をさらに備える。インバータ15は、燃料電池11または蓄電池3から発生した直流の電流を交流に交換する。なお、図1に示す例において、蓄電池3およびインバータ15は栽培室5外に配置されているが、栽培室5内に配置されていても勿論よい。
【0018】
図1に示す例においては、光強度感知手段4として太陽電池モジュールを備える。光強度感知手段4としては、光の強さを感知し得るものであれば特に制限されるものではなく、図1に示すような太陽電池素子以外にもたとえばフォトダイオードなどを適宜用いることができるが、太陽電池の発電量により光の量を感知しつつ、商用電源を用いずに温度制御手段(後述)などによる栽培室5内の温度制御が可能となり、環境問題にも十分対応したシステムの構築が可能となることから、光強度感知手段4としては太陽電池素子を用いるのが好ましい。図1に示す例では、太陽電池モジュールは、栽培室5外に配置され、インバータ17を介して蓄電池3に電気的に接続されている。インバータ17は、太陽電池モジュールが太陽光を受けて発生した直流の電流を交流に変換する。
【0019】
図1に示す栽培システム1は、栽培室5内の温度を検知し得る温度センサ6を有する。温度センサ6としては、たとえばサーミスタ、赤外線センサ、熱電対などを用いることができるが、応答速度の観点からは、サーミスタを温度センサ6として用いるのが好ましい。
【0020】
また、栽培システム1は、栽培室5内のCO2濃度を検知し得るCO2センサ7をさらに有する。CO2センサ7としては、たとえば赤外線方式のセンサ、半導体方式のセンサなどを用いることができるが、精度よく測定できるという観点からは、赤外線方式のCO2センサを用いるのが好ましい。
【0021】
本発明の栽培システムは、照明システムをさらに備えるのが好ましい。照明システムをさらに備えることにより、夜間や冬場などの日照のない場合あるいは日照の弱い場合においても関係なく植物を良好に栽培することが可能となる。照明システムには、たとえば、LED、蛍光灯などを用いることができるが、照明によって消費される電力を最低限に抑制することができ、かつ植物栽培に最も適した波長の光源を任意に選択することが可能となることから、LEDを用いた照明システムが好ましい。図1に示す例においては、LEDを用いた照明システム18を、栽培室5内に配置してなる。
【0022】
図1に示す例の栽培システム1においては、栽培室5内の温度を制御するための温度制御手段19(たとえば、エアコンディショナなどで実現される)、ならびに、植物10に水を供給するための散水ポンプ20をさらに備える。
【0023】
本発明の栽培システム1は、燃料電池12、蓄電池3および光強度感知手段4で発生した電気の出力を制御する制御手段21をさらに備える。制御手段21は、上述した電気の出力を制御し、栽培室5内の照明システム18、温度制御手段19および散水ポンプ20などの負荷を運転させる。また、上述した温度センサ6およびCO2センサ7の出力は制御手段21へ送られ、制御手段21は、その出力をもとに燃料電池11、畜電池3および光強度検知手段4の出力の制御を行い得るように構築される。このような制御手段21は、たとえばCPUを搭載したパーソナルコンピュータを用いて実現される。
【0024】
本発明はまた、栽培室内のCO2と温度を制御することにより光合成速度を制御する栽培システムの制御方法をも提供する。植物の光合成速度は、栽培システム内のCO2濃度と温度に依存するため、本栽培システムではこれらを最適になるよう制御することで植物の栽培に最も適した環境を創出することが可能となる。このような本発明の栽培システムの制御方法を行うための栽培システムは特に制限されるものではないが、上述した本発明の栽培システムを用いることで、好適に行うことが可能である。
【0025】
植物の栽培を効率よく良好に育成するためには、光合成速度をできるだけ高くする必要がある。効率的な光合成速度を実現するためには、光強度、CO2量、温度の制御が重要となる。以下、図1に示した本発明の栽培システム1を用いた夏場の晴天時における制御に関する各態様について具体的に説明する。
【0026】
<第1の態様>
光強度感知手段4である太陽電池は、夏場の晴天時には、発電量が高くなる。たとえば、3kW程度の太陽電池の出力電力(W)と日射強度(kW/m2)とは、図2に示すような関係を示す。この場合、太陽電池の持っている仕様(最高発電量)によって変わる。すなわち、発電量を制御手段21でモニタリングすることで、光強度を特定することができる。
【0027】
光強度がある一定以上になると、光合成速度は飽和し、周囲の温度に大きく依存する。その際、光合成速度を最も早くする最適な温度が存在する。たとえば、図3は、2003年8月のある日の奈良県における日の出から日没までの、太陽電池発電量(kW)と外気温(℃)との関係について示した図である。この場合、太陽電池の発電量は日射量に比例するため、予め太陽電池の日射量と発電量の関係を明確化しておけば、制御手段21でモニタリングされる太陽電池の発電量から光合成に必要とされる日射強度が推定できる。
【0028】
この条件下で、たとえば、図4に示すような光合成速度(μmol/m2・sec)−日射強度(kW/m2)の特性を有する植物を考える。この場合、たとえば0.3kW/m2以上の日射強度があれば、光合成速度は飽和してくる。また、最も光合成速度を高くするためには、栽培室5内の温度を30℃近辺にする必要がある。また、CO2の濃度も、光合成速度に関係してくるので、CO2センサ7でモニタリングする。そこで、日射量が0.3kW/m2となるのは、太陽電池の発電量が0.6kW以上となる場合なので、この条件下で、かつCO2センサ7でモニタリングしたCO2の濃度が定められた量以下、温度が30℃以下の場合である、早朝の7時12分以降で気温30℃以下の9時43分までの間は、温度を30℃に上げるために、供給パイプ13より燃料を改質器12に供給して水素を発生させ、発生した水素を燃料電池11に送り込む。同時に空気中の酸素を取り込んで、燃料電池11を稼動させる。その間、改質器12は、CO2を排出し続け、かつ燃料電池11から熱を排出し続けることで、温度を上昇させることができる。また、燃料電池11が稼動中は、畜電池3に電気を送り、蓄電池3に電気を貯めることとする。この場合、燃料電池が長時間駆動しても問題がないように十分容量の大きい蓄電池を設置するか、あるいは蓄電池を並列に配する方が好ましい。
【0029】
さらに、温度が30℃に達した場合、CO2センサ7によりモニタリングしたCO2濃度が予め定めた量以上になっていれば、制御手段21を通じて、改質器12、燃料電池11を停止する。しばらく放置していれば、日中にわたって温度が上昇して光合成速度が低下していくため、太陽電池で温度制御手段19を動作させて、温度が30℃近辺に落ち着くように制御する。この場合、温室内を冷房するために必要な温度制御手段19の出力を考慮して、温度制御手段19が十分動作させるに足るだけの太陽電池の出力容量を決めるべきである。
【0030】
この態様においては、たとえば日中必要に応じて太陽電池を用いて散水ポンプ20を稼動させて、植物10に水をやる。
【0031】
また、図3に示す場合では、夕刻でも温度が30℃を下回らないが、温度が30℃を下回った場合は、温度計からの信号を制御手段21が感知して、改質器12、燃料電池11が稼動を始めて温度が30℃近辺になるように調整を行う。
【0032】
本方法の場合、改質器12の立ち上がり時間を考慮して、設定温度より高めの温度で改質器を立ち上げても構わない。
【0033】
本方法を用いることにより、夏の昼間、晴天時には、太陽電池を用いることで日射量を感知でき、かつ太陽電池の発電を用いて、温度が上昇した場合の冷房もでき、光合成速度が最も早くなるように温度調節が可能となり、かつ改質器と燃料電池を用いることで、温度が低い場合の温度調節が可能となるとともに、CO2を排出して、光合成速度を最も高くすることが出来るため、栽培室内の植物を最も効率よく良好に育成することが可能となる。
【0034】
<第2の態様>
本態様では、第1の態様で示した夏場の晴天時に、図4の特性を有する植物を栽培する際、温度が30℃に達してもCO2濃度が予め定めた量以上になっていない場合について説明する。第1の態様で示したように、太陽電池の発電量で十分な日射強度が得られている場合、燃料電池で暖房する必要はなく、改質器12のみでCO2を排出させ、発生した水素は、排出パイプ14を通って、別途設けられたボンベ(図示せず)に貯蔵されるようにする。そうすることによって、燃料電池11を駆動させることなくCO2のみを排出させることができる。
【0035】
また、温度が30℃以上になって室温内の温度が上昇した場合には、太陽電池にて温度制御手段19を駆動させ、栽培室5内の温度をたとえば30℃前後の、最も光合成速度が高くなる温度に維持する。CO2センサ7によってCO2濃度が一定量以上になった場合は、制御手段21を通じて改質器12を停止させる。こうすることによって、温度が光合成に適した温度に達しかつCO2濃度が達していない場合においても、栽培室5内の植物の光合成を最も効率的に行わせることが可能となる。
【0036】
<第3の態様>
本態様では、第1の態様で示した、夏場の晴天時に、図4の特性を有する植物を栽培する際、温室内の温度が30℃に達せずにかつCO2濃度が一定量になっている場合を示す。日射強度は、第1の態様で示したように、太陽電池の発電量で十分な日射強度が得られているものとする。地球環境のことを考慮すれば、できるだけCO2の排出は避けた方が好ましいので、この場合、改質器12と燃料電池11を作動させない。その代わり、温度センサ6により栽培室5内の温度を感知して、制御手段21を通して太陽電池の発電を利用して温度制御手段19を暖房として作動させる。それにより、CO2の排出を抑えつつ温度を光合成に最も適した温度に上昇させることができる。またCO2量が定められた量以下になった場合は、CO2センサ7がCO2量を感知して制御手段21に信号を送り、温度制御手段19を止めて、改質器12、燃料電池11を作動させる。これにより、CO2の排出を抑えつつも、最も光合成速度を高くできる植物の栽培が可能となる。
【0037】
本発明の栽培システムの制御方法においては、この第3の態様のように、栽培室内の光強度の違いにより栽培室内の温度を制御して、光合成速度を制御するのが好ましい。植物の光合成速度は、光強度と温度にも大きく依存するため、本栽培システムではこれらを最適になるように制御することで植物の栽培に最も適した環境を創出することが可能となるためである。
【0038】
<第4の態様>
本態様では、第1の態様で示した図4のような特性を有する植物について、夏場の昼のように温度が高く、かつ雨天時のように太陽電池の発電量により、光合成に必要な日射強度が得られない場合を示す。
【0039】
図5に、2003年8月の奈良県の雨天時の温度推移と発電量を示す。瞬間的に発電量が2.5kW程度まで上がっているが、この程度では負荷を動作させることができないため、日射強度がほとんど得られないと考える。この場合、太陽電池の発電量によって、光合成に必要な日射強度が得られていないことが検出可能であり、その信号を制御手段21が感知する。
【0040】
日射強度が得られていない場合、栽培室5内の植物は光合成をすることが不可能となるため、この場合、制御手段21が太陽電池の発電量より日射強度不足を感知し、照明システム18であるLEDを点灯させる。この場合、栽培している植物の光合成速度を最も高くすることのできる波長のLEDを選択するべきで、たとえば光源の波長が640nm〜690nmのLEDと、420nm〜470nmのLEDを組み合わせ、前者と後者の光強度の比をたとえば5:1にする。
【0041】
この場合、図5での温度が30℃に達していない時間帯では、改質器12と燃料電池11を作動させてCO2を排出するとともに、温室内の温度を上昇させる。燃料電池から発電する電気は、LEDを点灯させるとともに、畜電池3を充電する。温度が上昇し、30℃に達した場合に、CO2センサ7によりCO2の濃度が予め定められた量に達していなければ、制御手段21が感知して燃料電池11を停止させ、改質器12のみを作動させる。発生する水素は、排出パイプ14を通って、ボンベ(図示せず)に貯蔵される。また、LEDは、蓄電池3を電源として点灯させる。この場合、LEDの点灯時間に見合っただけの容量を有する蓄電池3を備える必要がある。
【0042】
改質器12の立ち上がりに時間を要する場合、改質器12を立ち上げている間、排出パイプ14を通して予め貯蔵してある水素を用いて燃料電池11を作動させてもよく、改質器12が立ち上がれば、改質器12から発生する水素を用いるというプロセスを経てもよい。あるいは、改質器12の立ち上がり時用に、別途市販の水素ボンベを十分な量備えていてもよい。この場合、経済的にも問題なく、かつ必要なときに燃料電池11を作動させることができる。
【0043】
このような態様によれば、夏場の雨天時や夜間のように、温度は高いが光合成に必要な日射強度が得られない場合においても、植物に十分な光合成をさせることによって、植物を育成させることが可能となる。
【0044】
本発明の栽培システムの制御方法においては、この第4の態様のように、太陽電池の発電量により照明システムの光強度を制御するのが、好ましい。このように照明システム18(具体的にはLED)の光強度を制御するために太陽電池を用いることにより、太陽電池の発電量がそのまま日照の強度に関わるために別途センサを設けることなく、太陽電池の電力を利用しながら、照明システムの制御も可能となり、効率よくまた簡易な栽培システムを構築することが可能となる。
【0045】
<第5の態様>
本態様では、第1の態様で示した植物を栽培する場合で、日射強度がほとんどなく、温度も定められた温度以下の場合である、冬場、および夏の夜などについて示す。
【0046】
図6に奈良県の2月のある1日の太陽電池発電量および気温を示す。図6における太陽光発電量で示すように、きわめて短い時間、ほぼ瞬間的に太陽電池の発電量が2kW程度まで上がるが、極めて短い周期で発電量が変動するため、太陽電池はほとんど発電に寄与しないと考えられる。すなわち、光合成に必要な日射強度はほとんど得られないと考える。また、CO2濃度が定められた量より下回っている場合を想定する。
【0047】
この場合、まず、太陽電池の発電量が制御手段21で感知されて、日射強度が得られないことが分かる。また、温度センサ6より、温室内の気温が定められた温度、例えば30℃を下回っている。さらに、CO2センサ7により、CO2濃度が定められた量を下回っていることが感知されるため、制御手段21からの信号が改質器12、燃料電池11に送られて作動し、改質器12からCO2を排出し、栽培室5内のCO2の濃度を高めるとともに、燃料電池11より排出される熱により栽培室5内の空気を温める。また、燃料電池11からの発電により、照明システム18であるLEDを点灯させる。この場合、光合成速度を最も高くするようにLEDを点灯させるべきで、たとえば、光源の波長が640nm〜690nmのLEDと、420〜470nmのLEDを組み合わせ、前者と後者の光強度の比を5:1にする。また、余剰電力を用いて蓄電池3を充電する。
【0048】
なお、栽培室5内の温度が30℃に達した後、なおCO2濃度が定められた量に達していない場合は、燃料電池11を停止させて改質器12のみを作動させる。発生した水素は、排出パイプ14を通じて水素ボンベなどの貯蔵装置(図示せず)に貯蔵する。また、燃料電池11を停止させたので、LEDは蓄電池3により点灯させる。蓄電池3は、LEDの照明に支障のないよう、十分に大きな容量のものを選択するのが好ましい。
【0049】
本態様の場合においても、第4の態様で示したように、改質器12の立ち上がりに時間を要する場合、改質器12を立ち上げている間、排出パイプ14を通して予め貯蔵してある水素を用いて燃料電池11を作動させてもよく、改質器12が立ち上がれば、改質器12から発生する水素を用いるというプロセスを経てもよい。あるいは、改質器12の立ち上がり時用に、別途市販の水素ボンベを十分な量備えておいてもよい。この場合、経済的にも問題なく、かつ必要なときに燃料電池11を作動させることができる。
【0050】
かかる態様によれば、冬場、温度が低くかつ光合成に必要な日射強度が得られない場合においても、植物に十分な光合成をさせることによって、植物を育成させることが可能となる。
【0051】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の好ましい一例の栽培システム1を模式的に示す図である。
【図2】3KWの発電容量をもつ太陽電池の、日射強度に対する発電量を示すグラフである。
【図3】奈良県における、晴天時の8月のある一日の太陽電池発電量と気温を示すグラフである。
【図4】本発明で用いた植物の、日射強度に対する光合成速度を示すグラフである。
【図5】奈良県における雨天時の8月のある一日の太陽電池発電量と気温を示すグラフである。
【図6】奈良県における2月のある一日の太陽光発電量と気温を示すグラフである。
【図7】光強度に対する植物の光合成速度の依存性をCO2濃度をパラメータにして示したグラフである。
【図8】光強度に対する植物の光合成速度の依存性を気温をパラメータにして示したグラフである。
【図9】温度に対する植物の光合成速度の依存性を示したグラフである。
【符号の説明】
【0053】
1 栽培システム、2 燃料電池システム、3 蓄電池、4 光強度感知手段、5 栽培室、6 温度センサ、7 CO2センサ、10 植物、11 燃料電池、12 改質器、13 供給パイプ、14 排出パイプ、15,17 インバータ、18 照明システム、19 温度制御手段、20 散水ポンプ、21 制御手段。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
CO2を排出する燃料電池システムと、蓄電池と、光の強さを感知し得る光強度感知手段と、栽培室と、前記栽培内の温度を検知し得る温度センサと、前記栽培内のCO2濃度を検知し得るCO2センサとを備える栽培システム。
【請求項2】
前記光強度感知手段が太陽電池素子であることを特徴とする請求項1に記載の栽培システム。
【請求項3】
照明システムをさらに有する、請求項1に記載の栽培システム。
【請求項4】
上記照明システムがLEDを用いたものである請求項3に記載の栽培システム。
【請求項5】
栽培室内のCO2と温度を制御することにより光合成速度を制御することを特徴とする栽培システムの制御方法。
【請求項6】
栽培室内の光強度の違いにより栽培室内の温度を制御して、光合成速度を制御することを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
太陽電池の発電量により照明システムの光強度を制御することを特徴とする請求項5に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−262852(P2006−262852A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−89136(P2005−89136)
【出願日】平成17年3月25日(2005.3.25)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】