説明

栽培装置及びこれを用いた植物の栽培方法

【課題】 簡単な構成でもって栽培管理を行うことができるとともに、その設置及び撤去を容易に行うことができる栽培装置を提供する。
【解決手段】 下側栽培容器4と、下側栽培容器4の上側に積み重ねられた上側栽培容器6と、を備える。上側栽培容器6の底部8には複数の第1貫通孔18が設けられ、下側栽培容器4の内部には、複数の第1貫通孔18から排出される養液を貯めるための貯液空間30が形成され、上側栽培容器6の内部には、植物12を定植するための培地14が充填される培地充填空間16が形成されている。培地充填空間16内の培地14に定植された植物12の根部20は、培地14内を延びた後に複数の第1貫通孔18を通して貯液空間30に延び、培地充填空間16内の培地14に養液が供給されると、この養液の余剰分は、複数の第1貫通孔18を通して排出されて貯液空間30に貯められる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物を養液栽培するための栽培装置及びこれを用いた植物の栽培方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、養液を用いて例えば野菜や果物などの植物を栽培する養液栽培が行われており、この養液栽培は、固形培地耕栽培と水耕栽培とに大別されている。固形培地耕栽培は、例えばロックウールや砂、礫、ピートモス、ヤシガラ、パーライトなどの培地に植物の根部を張らせ、この培地に養液を供給する栽培方法である(例えば、特許文献1参照)。一方、水耕栽培は、培地を使用せずに植物の根部を養液中に直接浸漬する栽培方法である(例えば、特許文献2参照)。
【0003】
【特許文献1】特許第3561781号公報
【特許文献2】特許第3060208号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した従来の養液栽培方法では、次のような問題がある。第1に、水耕栽培では、植物の根部の大部分が養液中に浸漬されるので、植物の根部に酸素を供給するためのエアポンプなどが必要となり、栽培設備が大がかりになってしまう。第2に、固形培地耕栽培では、培地中に植物の根部が深く浸入してしまうため、栽培終了後に植物の根部と培地とを分離するのは難しく、それ故に、栽培設備を一旦設置するとその撤去や再設置が困難である。例えば、栽培施設において果菜類を栽培するための栽培設備を設置した場合において、栽培終了後の栽培施設の空き期間に果菜類の栽培設備を撤去し、軟弱野菜を栽培するための栽培設備を新たに設置するのは困難であり、このようなことから、例えば小規模経営の農家などにおいて栽培施設の空き期間を有効に利用することができる養液栽培方法の実現が強く望まれている。第3に、養液を循環させて再利用する循環式の水耕栽培及び固形培地耕栽培では、根部伝染性の病害が発生した場合には、栽培設備全体に病害が蔓延するおそれがある。
【0005】
本発明の目的は、簡単な構成でもって栽培管理を行うことができるとともに、その設置及び撤去を容易に行うことができ、また根部伝染性の病害の蔓延を防止することができる栽培装置及びこれを用いた植物の栽培方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の請求項1に記載の栽培装置では、植物を栽培するための栽培装置であって、
下側栽培容器と、前記下側栽培容器の上側に積み重ねられた上側栽培容器と、を備え、前記上側栽培容器の底部には複数の第1貫通孔が設けられ、前記下側栽培容器の内部には、前記複数の第1貫通孔から排出される養液を貯めるための貯液空間が形成され、前記上側栽培容器の内部には、植物を定植するための培地が充填される培地充填空間が形成され、
前記培地充填空間内の前記培地に定植された植物の根部は、前記培地内を延びた後に前記複数の第1貫通孔を通して前記貯液空間に延び、前記培地充填空間内の前記培地に養液が供給されると、この養液の余剰分は、前記複数の第1貫通孔を通して排出されて前記貯液空間に貯められることを特徴とする。
【0007】
また、本発明の請求項2に記載の栽培装置では、前記貯液空間の深さは、20〜50mmであることを特徴とする。
さらに、本発明の請求項3に記載の栽培装置では、前記培地充填空間には、前記培地が10〜60mmの深さで充填されることを特徴とする。
【0008】
また、本発明の請求項4に記載の栽培装置では、前記上側栽培容器及び前記下側栽培容器はそれぞれ水稲育苗箱から構成され、前記下側栽培容器の底部には複数の第2貫通孔が設けられ、前記貯液空間には、前記複数の第2貫通孔を覆うための不透水性シートが配設されていることを特徴とする。
【0009】
さらに、本発明の請求項5に記載の栽培装置では、前記下側栽培容器には、前記上側栽培容器の底部を下方より支持するための支持部材が設けられていることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の請求項6に記載の植物の栽培方法では、植物を栽培するための栽培装置を用いた植物の栽培方法であって、
前記栽培装置は、下側栽培容器と、前記下側栽培容器の上側に積み重ねられた上側栽培容器と、を備え、前記上側栽培容器の底部には複数の第1貫通孔が設けられ、前記下側栽培容器の内部には、前記複数の第1貫通孔から排出される養液を貯めるための貯液空間が形成され、また前記上側栽培容器の内部には、植物を定植するための培地が充填される培地充填空間が形成されており、
前記下側栽培容器を設置し、前記下側栽培容器の上側に前記上側栽培容器を積み重ね、前記上側栽培容器の前記培地充填空間に前記培地を充填し、前記培地充填空間内の前記培地に植物を定植し、植物が定植された前記培地充填空間内の前記培地に養液を供給することを特徴とする。
【0011】
さらに、本発明の請求項7に記載の植物の栽培方法では、前記上側栽培容器及び前記下側栽培容器はそれぞれ水稲育苗箱から構成され、前記下側栽培容器の底部には複数の第2貫通孔が設けられ、また前記貯液空間には、前記複数の第2貫通孔を覆うための不透水性シートが配設され、
前記下側栽培容器を設置し、前記下側栽培容器の前記貯液空間に前記不透水性シートを配設して前記複数の第2貫通孔を覆い、その後に、前記下側栽培容器の上側に前記上側栽培容器を積み重ねることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の請求項1に記載の栽培装置によれば、下側栽培容器の上側に上側栽培容器が積み重ねられ、植物の根部は、上側栽培装置の培地充填空間に充填された培地内を延びた後に複数の第1貫通孔を通して下側栽培装置の貯液空間に延びるので、培地の表面よりその内部に拡散浸透した酸素を培地内に延びる根部に供給することができ、また、培地に養液を供給することにより、培地内に浸透された養液を培地内に延びる根部に供給することができるとともに、貯液空間に貯められた養液を貯液空間内に延びる根部に供給することができる。従って、比較的簡単な構成でもって、植物の根部に養液及び酸素を充分に供給することができ、これにより植物の生育を良好に保つことができるとともに、栽培管理を容易に行うことができる。また、栽培装置の設置及び撤去を容易に行うことができ、例えば、特定品種の植物を栽培するための栽培施設において、特定品種の植物の栽培終了後に栽培装置を容易に設置することができ、栽培施設の空き期間を有効に利用して養液栽培を効率良く行うことができる。また、栽培装置を複数設置した場合において、各栽培装置は独立しているので、根部伝染性の病害発生時には、病害の発生した栽培装置のみを除去すればよく、病害の蔓延を防止することができる。
【0013】
また、本発明の請求項2に記載の栽培装置によれば、貯液空間の深さは20〜50mmであるので、養液が植物の根部に吸収されることによる貯液空間内の養液の減少率が大きくなり、これにより植物の根部が養液の水面と上側栽培容器の底部との間の空気供給空間に露出される頻度が高くなり、植物の根部への酸素の供給を充分に行うことができる。
【0014】
さらに、本発明の請求項3に記載の栽培装置によれば、培地充填空間には培地が10〜60mmの深さで充填されるので、植物の根部が培地内において充分に延びることができ、培地に供給された養液を培地内の根部に充分に吸収させることができる。また、貯液空間の満水時において、複数の第1貫通孔を通して吸い上げられた養液を培地内にほぼ均一に供給することができる。また、培地の表面からその内部に浸透した酸素が培地内にほぼ均一に拡散浸透され、これにより根腐れを防止することができる。
【0015】
また、本発明の請求項4に記載の栽培装置によれば、上側栽培容器及び下側栽培容器はそれぞれ水稲育苗箱から構成されているので、例えば水稲育苗を行うための栽培施設において、水稲育苗の終了後に使用しない既存の水稲育苗箱を利用して養液栽培を行うことができ、水稲育苗が行われない栽培施設の空き期間を有効に利用して効率良く養液栽培を行うことができる。また、貯液空間には不透水性シートが配設されるので、貯液空間に貯まった養液が複数の第2貫通孔を通して漏出されるのを防止することができる。
【0016】
さらに、本発明の請求項5に記載の栽培装置によれば、下側栽培容器には支持部材が設けられているので、上側栽培容器の底部が培地の重量によって下方に撓むのを防止することができる。これにより、貯液空間内の養液が減少した際に、貯液空間内の養液の水面と上側栽培容器の底部との間の空気供給空間を確保することができ、複数の第1貫通孔を通して延びる植物の根部を空気供給空間に露出させて空気供給空間内の酸素を根部に供給することができる。
【0017】
また、本発明の請求項6に記載の植物の栽培方法によれば、下側栽培容器の上側に上側栽培容器が積み重ねられ、植物の根部は、上側栽培装置の培地充填空間に充填された培地内を延びた後に複数の第1貫通孔を通して下側栽培装置の貯液空間に延びる栽培装置を用いるので、培地の表面よりその内部に拡散浸透した酸素を培地内に延びる根部に供給することができ、また、培地に養液を供給することにより、培地内に浸透された養液を培地内に延びる根部に供給することができるとともに、貯液空間に貯められた養液を貯液空間内に延びる根部に供給することができる。従って、比較的簡単な構成でもって、植物の根部に養液及び酸素を充分に供給することができ、これにより植物の生育を良好に保つことができるとともに、栽培管理を容易に行うことができる。また、栽培装置の設置及び撤去を容易に行うことができ、例えば特定品種の植物を栽培するための栽培施設において、特定品種の植物の栽培終了後に栽培装置を容易に設置することができ、栽培施設の空き期間を有効に利用して養液栽培を効率良く行うことができる。また、栽培装置を複数設置した場合において、各栽培装置は独立しているので、根部伝染性の病害発生時には、病害の発生した栽培装置のみを除去すればよく、病害の蔓延を防止することができる。
【0018】
さらに、本発明の請求項7に記載の植物の栽培方法によれば、上側栽培容器及び下側栽培容器はそれぞれ水稲育苗箱から構成されているので、例えば水稲育苗を行うための栽培施設において、水稲育苗の終了後に使用しない既存の水稲育苗箱を利用して養液栽培を行うことができ、水稲育苗が行われない栽培施設の空き期間を有効に利用して効率良く養液栽培を行うことができる。また、貯液空間には不透水性シートが配設されるので、貯液空間に貯まった養液が複数の第2貫通孔を通して漏出されるのを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、添付図面を参照して、本発明に従う栽培装置及びこれを用いた植物の栽培方法の各種実施形態について説明する。
[第1の実施形態]
まず、図1〜図6を参照して、第1の実施形態の栽培装置及びこれを用いた植物の栽培方法について説明する。図1は、本発明の第1の実施形態による栽培装置を示す斜視図であり、図2は、図1の栽培装置を示す分解斜視図であり、図3は、貯液空間内の養液が満水であるときの図1の栽培装置を示す概略断面図であり、図4は、貯液空間内の養液が減少したときの図1の栽培装置を示す概略断面図であり、図5は、図1の栽培装置を用いた植物の栽培方法において、下側栽培容器の上側に上側栽培容器を積み重ねた状態を示す斜視図であり、図6は、図5の状態より、培地充填空間に培地を充填するとともに植物を定植した状態を示す斜視図である。
【0020】
図1〜図4を参照して、図示の栽培装置2は、下側栽培容器4と、下側栽培容器4の上側に分離自在に積み重ねられた上側栽培容器6と、を備えている。上側栽培容器6は、長方形状の第1底壁部8と、第1底壁部8の外周部より上方に延びる第1側壁部10と、を有している。第1側壁部10の内側には、植物12を定植するための培地14が充填される培地充填空間16が形成されている。第1底壁部8には円形状の第1貫通孔18が複数設けられており、第1貫通孔18の大きさは、培地14の落下を防止することができるとともに植物12の根部20を通過させることができる大きさ(例えば、直径約4mm)に構成されている。本実施形態では、第1底壁部8の幅L1は約300mm、長さL2は約600mmに構成されている。また、第1底壁部8の下面側の外周部には位置決め用凹部22が設けられている。
【0021】
なお、培地充填空間16に充填される培地14は多孔質性のものを使用するのが好ましく、例えば、もみ殻くん炭などの多孔質性の植物残渣の培地や、バーミキュライトやパーライトなどの多孔質性の人工培地などを使用するのが好ましい。また、以下のような理由から、培地充填空間16に充填される培地14の深さD1は10〜60mmであるのが好ましい。即ち、培地14の深さD1が10mm以下であると、植物12の根部20が培地14内において充分に延びることができず、培地14に供給された養液が培地14内の根部20に充分に吸収されなくなり、また、後述するように貯液空間30の満水時において培地14が過湿状態となり、培地14内へ酸素が充分に拡散浸透せず根腐れの原因となる。また、培地14の深さD1が60mmを超えると、培地14の表面からその内部に浸透した酸素が培地14内にほぼ均一に拡散浸透されなくなり、根腐れの原因となり、また、後述するように貯液空間30の満水時において複数の第1貫通孔18を通して吸い上げられた養液が培地14内にほぼ均一に供給されなくなる。このようなことから、充填される培地14の深さD1は10〜60mmであるのが好ましく、20〜50mmであるのがより好ましく、30mmであるのが最も好ましい。
【0022】
下側栽培容器4は、長方形状の第2底壁部24と、第2底壁部24の外周部より上方に延びる第2側壁部26と、を有している。下側栽培容器4の大きさは、上側栽培容器6とほぼ同じ大きさに構成されている。第2側壁部26の開口縁部28は、上側栽培容器6の第1底壁部8の位置決め用凹部22に着脱自在に係合される。第2側壁部26の内側には、養液を貯めるための貯液空間30が形成されており、この貯液空間30の深さD2は例えば約30mmに構成されている。
【0023】
なお、以下のような理由から、貯液空間30の深さD2は20〜50mmであるのが好ましい。即ち、貯液空間30の深さD2が20mm以下であると、貯液空間30の満水時において貯液空間30に貯められる養液の量が少なくなり、それ故に、養液が植物12の根部20に吸収されることにより、貯液空間30内の養液が枯渇し易くなる。従って、養液の供給管理が難しくなり、また、養液が過剰に供給された場合には、下側栽培容器4の開口縁部28と上側栽培容器6の位置決め用凹部22との間の隙間32から養液が多量に漏出されてしまう。更に、貯液空間30内の養液が上記隙間32から漏出するのを防止すべく、栽培装置2を実質上水平に精度良く設置しなければならず、栽培装置2の設置が困難となる。一方、貯液空間30の深さD2が50mmを超えると、養液が植物12の根部20に吸収されることによる貯液空間30内の養液の減少率が低下し、植物12の根部20が養液の水面と第1底壁部8との間の空気供給空間34に露出される頻度が低下してしまい、植物12の根部20への酸素の供給を充分に行うことができなくなる。このようなことから、貯液空間30の深さD2は20〜50mmであるのが好ましく、30〜40mmであるのがより好ましく、30mmであるのが最も好ましい。
【0024】
次に、図5及び図6をも参照して、上述した栽培装置2を用いた植物12の栽培方法について説明する。まず、例えばビニルハウスなどの栽培施設(図示せず)の地面に複数の下側栽培容器4をその長さ方向に縦列配置し、各下側栽培容器4を実質上水平に調整する。その後に、下側栽培容器4の開口縁部28と上側栽培容器6の位置決め用凹部22とが相互に係合されるようにして、下側栽培容器4の上側に上側栽培容器6を積み重ねる(図5参照)。更にその後、培地充填空間16に培地14を例えば約30mmの深さで充填し、各栽培装置2の培地14に植物12を例えば3株ずつ定植し、養液を培地14に供給するための灌水チューブ36を縦列配置された複数の栽培装置2に沿って配設する(図6参照)。この灌水チューブ36には複数の供給孔38が設けられ、また、灌水チューブ36の一端部には接続パイプ(図示せず)を介して養液タンク(図示せず)が接続され、この接続パイプには送給ポンプ(図示せず)が配設されている。
【0025】
送給ポンプが作動されると、この送給ポンプの作用によって養液タンク内の養液が接続パイプを通して灌水チューブ36に送給され、灌水チューブ36の複数の供給孔38から養液が噴出される。灌水チューブ36からの養液が培地14の表面に供給されると、図4中の白色の矢印で示すように、この養液は培地14内に拡散浸透し、培地14内に延びる植物12の根部20に吸収される。培地14内の植物12の根部20に吸収されなかった養液の余剰分は、培地14内を下方に浸透して複数の第1貫通孔18を通して排出され、貯液空間30に貯められる。このように植物12が養液を吸収して成長すると、その根部20が培地14内を延びた後に複数の第1貫通孔18を通して貯液空間30に延びるようになる。
【0026】
貯液空間30に貯められた養液の水位が上昇し、上側栽培容器6の第1底壁部8まで到達されると、貯液空間30内の養液は満水となる(図3参照)。この満水時において、複数の第1貫通孔18より延びる植物12の根部20の大部分が養液中に浸漬され、貯液空間30内の養液は植物12の根部20に吸収される。貯液空間30内の養液は、図3中の白色の矢印で示すように、毛管現象によって複数の第1貫通孔18を通して培地充填空間16内の培地14に吸い上げられる。この吸い上げられた養液は培地14内にほぼ均一に供給され、これにより培地14内に延びる植物12の根部20にも養液を供給することができる。また、図3中の黒色の矢印で示すように、外部の酸素が培地14の表面よりその内部にほぼ均一に拡散浸透し、これにより培地14内に延びる植物12の根部20に酸素を供給することができる。更に、この拡散浸透された酸素の一部は、複数の第1貫通孔18を通して貯液空間30内の養液に溶解し、これにより養液中に浸漬された植物12の根部20にも酸素を供給することができる。
【0027】
貯液空間30内の養液が植物12の根部20により吸収されると、貯液空間30内の養液の量が減少してその水位が低下し、養液の水面と上側栽培容器6の第1底壁部8との間に空気供給空間34が形成され、複数の第1貫通孔18より延びる植物12の根部20の少なくとも一部がこの空気供給空間34に露出される(図4参照)。この養液の減少時において、図4中の黒色の矢印で示すように、外部の酸素が培地14の表面よりその内部にほぼ均一に拡散浸透し、これにより培地14内に延びる植物12の根部20に酸素を供給することができる。また、外部の酸素が下側栽培容器4の開口縁部28と上側栽培容器6の位置決め用凹部22との間の隙間32を通して空気供給空間34に流入し、これにより空気供給空間34に露出された植物12の根部20にも酸素を供給することができる。空気供給空間34内の酸素の一部は、貯液空間30内の養液に溶解されるとともに、複数の第1貫通孔18を通して培地14に拡散浸透され、これにより養液中に浸漬された根部20及び培地14内に延びる根部20にも酸素を供給することができる。
【0028】
なお、このように貯液空間30内の養液の量が減少してその水位が所定水位まで低下すると、送給ポンプが作動され、上述のように灌水チューブ36からの養液が培地14に供給される。
【0029】
従って、本実施形態の栽培装置2及び栽培方法では、次のような作用効果が達成される。第1に、比較的簡単な構成でもって、植物12の根部20に養液及び酸素を充分に供給することができ、栽培管理を容易に行うことができる。第2に、栽培装置2の設置及び撤去を容易に行うことができ、例えば特定品種の植物を栽培するための栽培施設において、特定品種の植物の栽培終了後に本実施形態の栽培装置2を容易に設置することができ、栽培施設の空き期間を有効に利用して養液栽培を効率良く行うことができる。第3に、各栽培装置2は独立しているので、根部伝染性の病害発生時には、病害の発生した栽培装置2のみを除去すればよく、病害の蔓延を防止することができる。
【0030】
なお、本実施形態の栽培装置2及び栽培方法では、例えば果菜類や葉菜類、花卉類、果樹類などの種々の植物に対して適用することができる。果菜類としては、例えばキュウリ、メロン、マクワウリ、カボチャ、スイカ、ニガウリ、トウガン、カンピョウ、ヘチマ、ハヤトウリ、トマト、ナス、パプリカ、ピーマン、トウガラシ、イチゴ、インゲン、エンドウ、エダマメ、ソラマメなどに適用することができる。葉菜類としては、例えばレタス、チコリ、サラダナ、エンダイブ、シュンギク、コマツナ、チンゲンサイ、タアサイ、ミズナ、ミブナ、カラシナ、ロケット、ホウレンソウ、ビートなどに適用することができる。花卉類としては、例えばチューリップ、スイセン、ユリ、カーネーション、バラ、キク、アスター、ストック、トルコギキョウ、キンギョソウ、ルドベキア、ジニア、デルフィニウム、ケイトウ、ラークスパー、ハボタン、キンセンカ、ヒアシンス、リコリス、ネリネ、マーガレット、オミナエシ、センニチコウ、ノコギリソウ、オダマキ、ドイツアザミ、オキシペタルム、ツキミソウ、エキナセア、スカビオサ、アガパンサス、アルストロメリア、カラー、コスモス、ハナムギ、ナデシコ、ハナショウブ、アヤメ、カキツバタ、ミヤコワスレ、ルピナス、シャスターデージー、ハナトラノオ、ソリダゴ、スターチス、シュウメイギク、ゼラニウム、ツツジ、サツキ、ヤナギ、シダ類、コケ類、シバ、アマリリス、グラジオラス、ユーコミス、グロリオサ、ベゴニア、カラジューム、ヒメヒオウギズイセン、クルクマ、サボテン、パンジー、マリーゴールド、プリムラ、観葉植物などに適用することができる。また、果樹類としては、例えばイチジク、ブルーベリー、ラズベリー、ブラックベリー、ボイセンベリー、ブドウ、ユスラウメ、クランベリー、ハスカップ、スグリ、フサスグリ、パパイア、パッションフルーツ、ドラゴンフルーツなどに適用することができる。
【0031】
また、本実施形態では、灌水チューブ36により養液を供給するように構成したが、灌水チューブ36により養液及び水の双方を供給するように構成してもよい。
[第2の実施形態]
次に、図7を参照して、第2の実施形態の栽培装置及びこれを用いた植物の栽培方法について説明する。図7は、本発明の第2の実施形態による栽培装置を示す概略断面図である。なお、以下に示す各実施形態において、上記第1の実施形態と実質上同一の構成要素には同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0032】
第2の実施形態の栽培装置2Aでは、上側栽培容器6及び下側栽培容器4Aはそれぞれ水稲育苗を行うための水稲育苗箱から構成されており、上側栽培容器6の第1底壁部8及び下側栽培容器4Aの第2底壁部24Aにはそれぞれ複数の第1及び第2貫通孔18,40が設けられている。また、下側栽培容器4Aの貯液空間30Aには、複数の第2貫通孔40を覆うための不透水性プラスチックフィルム42(不透水性シートを構成する)が配設されており、これにより貯液空間30Aに貯められた養液が複数の第2貫通孔40より漏出されるのが防止される。
【0033】
上述した栽培装置2Aを用いた植物12の栽培方法について説明すると、次の通りである。例えばビニルハウスなどの栽培施設(図示せず)の地面に複数の下側栽培容器4Aをその長さ方向に縦列配置し、各下側栽培容器4Aを実質上水平に調整した後に、下側栽培容器4Aの貯液空間30Aに不透水性プラスチックフィルム42を配設して複数の第2貫通孔40を覆う。その後に、下側栽培容器4Aの上側に上側栽培容器6を積み重ね、培地充填空間16に培地14を充填し、この充填された培地14に植物12を定植する。更にその後に、上記第1の実施形態と同様に、養液を培地14に供給するための灌水チューブ36を縦列配置された複数の栽培装置2Aに沿って配設し、灌水チューブ36からの養液を培地に供給する。
【0034】
従って、本実施形態の栽培装置2A及び栽培方法では、例えば水稲育苗を行うための栽培施設において、水稲育苗の終了後に使用しない既存の水稲育苗箱4A,6を利用して養液栽培を行うことができ、水稲育苗が行われない栽培施設の空き期間を有効に利用して効率良く養液栽培を行うことができる。
【0035】
[第3の実施形態]
次に、図8及び図9を参照して、第3の実施形態の栽培装置について説明する。図8は、本発明の第3の実施形態による栽培装置を示す概略断面図であり、図9は、図8の下側栽培容器を示す斜視図である。
【0036】
第3の実施形態の栽培装置2Bでは、下側栽培容器4Bの第2底壁部24Bには、上側栽培容器6の第1底壁部8を下方より支持するための支持部材44が上方に延びて設けられている。この支持部材44は、下側栽培装置4Bの長さ方向(図9において左右方向)に延びており、その両端部と第2側壁部26との間にはそれぞれ流路46が形成されている。このように構成されているので、上側栽培容器6の第1底壁部8が培地14の重量によって下方に撓むのを防止することができ、貯液空間30B内の養液が減少した際に空気供給空間34Bを確保することができる。また、複数の第1貫通孔18を通して貯液空間30Bに排出された養液は流路46を流れ、これにより養液を貯液空間30B内にほぼ均一に貯めることができる。なお、本実施形態では、支持部材44と第2底壁部24Bとを一体に構成したが、これらを別体に構成してもよい。
【0037】
[実施例及び比較例]
本発明の効果を確認するために、実験を次の通りに行った。実施例1として、図7に示す形態の栽培装置を用い、トマトの雨よけ夏秋栽培を行った。上側栽培容器の幅は300mm、長さは600mm、培地充填空間の深さは30mmであり、下側栽培容器の幅は300mm、長さは600mm、貯液空間の深さは30mmであった。培地としてもみ殻くん炭5リットルを使用し、このもみ殻くん炭を培地充填空間に深さ30mmで充填した。栽培装置1個あたりトマトを2株定植し、24個の栽培装置を縦列配置した。養液として、T−Nを1.35%(うちNO−Nを1.24%、NH−Nを0.06%)、Pを0.65%、KOを1.95%、MgOを0.35%、CaOを1.10%、MnOを0.009%、Bを0.009%、Feを0.01%、Cuを0.00015%、Znを0.00045%、Moを0.00015%含む液肥を灌水チューブに配設した液肥混入器により希釈し、希釈濃度をEC値0.8〜1.4dS/mとして使用した。
【0038】
比較例1として、土耕栽培により実施例1と同数のトマトの株を栽培した。その結果は、表1に示す通りであった。
【表1】

表1に示すように、実施例1における主茎長は比較例1と同程度であった。また、実施例1における総収量は比較例1より僅かに劣ったものの、販売することのできない裂果や空洞などの下物の収量は比較例1よりも少なく、可販収量は比較例1よりも約10%多かった。
【0039】
実施例2として、図7に示す形態の栽培装置を用い、キュウリの雨よけ夏秋栽培を行った。栽培装置1個あたりキュウリを1株定植し、24個の栽培装置を縦列配置した。養液の希釈濃度をEC値2.0〜2.4dS/mとし、その他の実験条件は上記実施例1と同様であった。
【0040】
比較例2として、土耕栽培により実施例2と同数のキュウリの株を栽培した。その結果は、表2に示す通りであった。
【表2】

表2に示すように、実施例2における草丈は比較例2よりも高く、生育が旺盛であった。また、実施例2における総収量及び可販収量は比較例2と同程度であった。
【0041】
実施例3として、図7に示す形態の栽培装置を用い、メロンの抑制栽培を行った。栽培装置1個あたりメロンを1株定植し、16個の栽培装置を縦列配置した。養液の希釈濃度をEC値0.5〜2.0dS/mとし、その他の実験条件は上記実施例1と同様であった。
【0042】
比較例3として、土耕栽培により実施例3と同数のメロンの株を栽培した。その結果は、表3に示す通りであった。
【表3】

表3に示すように、実施例3における草丈は比較例3よりも高く、また栽培終了時の摘心長、葉長及び茎径も比較例3より大きく、生育が旺盛であった。また、実施例3における平均果重は、比較例3よりも約700g大きく、また、一般に大きな果実では上がりにくいとされる果肉糖度は、平均16.5度となって比較例3と同じく高い値となった。
【0043】
実施例4として、図7に示す形態の栽培装置を用い、トマトの抑制栽培を行った。栽培装置1個あたりトマトを3株定植し、10個の栽培装置を縦列配置した。養液として、T−Nを2.60%(うちNO−Nを2.33%、NH−Nを0.23%)、Pを1.20%、KOを4.05%、MgOを0.60%、CaOを2.30%、MnOを0.015%、Bを0.015%、Feを0.027%、Cuを0.0003%、Znを0.0009%、Moを0.0003%含む液肥を灌水チューブに配設した液肥混入器により希釈し、希釈濃度をEC値0.8〜2.0dS/mとして使用した。
【0044】
比較例4として、養液は実施例4と同じものを使用し、ロックウールかけ流し栽培により実施例4と同数のトマトの株を栽培した。その結果は、表4に示す通りであった。
【表4】

【0045】
表4に示すように、実施例4における草丈は比較例4よりも高く、生育が旺盛であった。また、実施例4では、空洞果が比較例4よりも多かったものの、裂果が比較例4よりも少なく、可販収量は比較例4よりも約12%多かった。
【0046】
上述した実験結果より、本発明の栽培装置及び栽培方法では、下側栽培容器の上側に上側栽培容器が積み重ねられ、植物の根部は、上側栽培装置の培地充填空間に充填された培地内を延びた後に複数の第1貫通孔を通して下側栽培装置の貯液空間に延びるので、植物の根部に養液及び酸素を充分に供給することができ、このことから、例えば土耕栽培やロックウールかけ流し栽培などの従来の栽培方法と同程度又はこれよりも高い生育度や可販収量などを確保することができたものと考えられる。
【0047】
以上、本発明に従う栽培装置及びこれを用いた植物の栽培方法の種々の実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱することなく種々の変形乃至修正が可能である。
【0048】
例えば、上記各実施形態では、養液及び水を供給するための灌水チューブ36を1本のみ配設したが、灌水チューブを2本配設し、一方の灌水チューブにより養液を供給し、他方の灌水チューブにより水を供給するように構成してもよい。
【0049】
また例えば、上記各実施形態では、下側栽培容器4(4A)(4B)をその長さ方向に縦列配置したが、その幅方向に縦列配置するようにしてもよい。
また例えば、上記各実施形態では、下側栽培容器4(4A)(4B)の上側に1個の上側栽培容器6を積み重ねるようにしたが、例えば上側栽培容器6を2個の上側栽培容器体から構成し、下側栽培容器4(4A)(4B)の上側にこれら2個の上側栽培容器体を上下に積み重ねるようにしてもよい。かかる場合において、各上側栽培容器体は上述した上側栽培容器6の構成と同様に構成され、各上側栽培容器体の内部には培地14が充填される。なお、上側栽培容器6を構成する上側栽培容器体の数は3個でも4個以上でもよい。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の第1の実施形態による栽培装置を示す斜視図である。
【図2】図1の栽培装置を示す分解斜視図である。
【図3】貯液空間内の養液が満水であるときの図1の栽培装置を示す概略断面図である。
【図4】貯液空間内の養液が減少したときの図1の栽培装置を示す概略断面図である。
【図5】図1の栽培装置を用いた植物の栽培方法において、下側栽培容器の上側に上側栽培容器を積み重ねた状態を示す斜視図である。
【図6】図5の状態より、培地充填空間に培地を充填するとともに植物を定植した状態を示す斜視図である。
【図7】本発明の第2の実施形態による栽培装置を示す概略断面図である。
【図8】本発明の第3の実施形態による栽培装置を示す概略断面図である。
【図9】図8の下側栽培容器を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0051】
2,2A,2B 栽培装置
4,4A,4B 下側栽培装置
6 上側栽培装置
12 植物
14 培地
16 培地充填空間
18 第1貫通孔
20 根部
30,30A,30B 貯液空間
40 第2貫通孔
42 不透水性プラスチックフィルム
44 支持部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物を栽培するための栽培装置であって、
下側栽培容器と、前記下側栽培容器の上側に積み重ねられた上側栽培容器と、を備え、前記上側栽培容器の底部には複数の第1貫通孔が設けられ、前記下側栽培容器の内部には、前記複数の第1貫通孔から排出される養液を貯めるための貯液空間が形成され、前記上側栽培容器の内部には、植物を定植するための培地が充填される培地充填空間が形成され、
前記培地充填空間内の前記培地に定植された植物の根部は、前記培地内を延びた後に前記複数の第1貫通孔を通して前記貯液空間に延び、前記培地充填空間内の前記培地に養液が供給されると、この養液の余剰分は、前記複数の第1貫通孔を通して排出されて前記貯液空間に貯められることを特徴とする栽培装置。
【請求項2】
前記貯液空間の深さは、20〜50mmであることを特徴とする請求項1に記載の栽培装置。
【請求項3】
前記培地充填空間には、前記培地が10〜60mmの深さで充填されることを特徴とする請求項1又は2に記載の栽培装置。
【請求項4】
前記上側栽培容器及び前記下側栽培容器はそれぞれ水稲育苗箱から構成され、前記下側栽培容器の底部には複数の第2貫通孔が設けられ、前記貯液空間には、前記複数の第2貫通孔を覆うための不透水性シートが配設されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の栽培装置。
【請求項5】
前記下側栽培容器には、前記上側栽培容器の底部を下方より支持するための支持部材が設けられていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の栽培装置。
【請求項6】
植物を栽培するための栽培装置を用いた植物の栽培方法であって、
前記栽培装置は、下側栽培容器と、前記下側栽培容器の上側に積み重ねられた上側栽培容器と、を備え、前記上側栽培容器の底部には複数の第1貫通孔が設けられ、前記下側栽培容器の内部には、前記複数の第1貫通孔から排出される養液を貯めるための貯液空間が形成され、また前記上側栽培容器の内部には、植物を定植するための培地が充填される培地充填空間が形成されており、
前記下側栽培容器を設置し、前記下側栽培容器の上側に前記上側栽培容器を積み重ね、前記上側栽培容器の前記培地充填空間に前記培地を充填し、前記培地充填空間内の前記培地に植物を定植し、植物が定植された前記培地充填空間内の前記培地に養液を供給することを特徴とする植物の栽培方法。
【請求項7】
前記上側栽培容器及び前記下側栽培容器はそれぞれ水稲育苗箱から構成され、前記下側栽培容器の底部には複数の第2貫通孔が設けられ、また前記貯液空間には、前記複数の第2貫通孔を覆うための不透水性シートが配設され、
前記下側栽培容器を設置し、前記下側栽培容器の前記貯液空間に前記不透水性シートを配設して前記複数の第2貫通孔を覆い、その後に、前記下側栽培容器の上側に前記上側栽培容器を積み重ねることを特徴とする請求項6に記載の植物の栽培方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−261274(P2009−261274A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−112221(P2008−112221)
【出願日】平成20年4月23日(2008.4.23)
【出願人】(391048049)滋賀県 (81)
【Fターム(参考)】