説明

桜香のお香および製造方法

【課題】 燃焼しているとき、桜香を発生するお香。
【解決手段】 原料として、凍結させた桜の葉を含むことを特徴とするお香およびお香の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、仏事用のお香と室内で香りを楽しむお香のうち、燃焼しているときに桜の香りを発するお香に関するものである。
【背景技術】
【0002】
お香にはいろいろ種類があるが、燃焼して使用する焚香や線香は、仏事のときや香りや匂いを楽しむ場面において、欠かせないものである。焚香や線香は、燃焼しているとき香りが発生し、燃焼が止むと香りの発生も止むので、常時香りを発している芳香剤とは異なり、香りの発生をコントロールできるものである。
【0003】
桜は日本の国花であり、桜餅の桜の葉の匂いでおなじみの桜の香りは、独特の甘い香りを有し、気分を和ませ、昔から日本人に親しまれてきた。お香についてもこのような桜の香りを得るために、さまざま開発されてきた。
【0004】
一つは、数ヶ月間塩漬けした桜の葉を、乾燥、粉砕し、お香の原料の一部に使用している。また、一つは、この塩漬けした桜の葉から有機溶媒等で桜の香りの成分等を抽出し、お香に添加している。別の一つは、桜の香りの正体とされる化合物の一つであるクマリンをお香に添加している。(例えば、特許文献1参照)
【特許文献1】特公開2005−198854号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
桜餅で用いられる桜の葉の香りは、桜の葉を数ヶ月間、塩漬けすることにより得られるが、このように処理した葉をお香の原料に用いても、お香を燃焼した際の桜の香りは非常に弱い。さらに、塩漬けは、数ヶ月間と長期間にわたるため、生産性が低い。この塩漬けした桜の葉の葉から有機溶媒等で桜の香りの成分を抽出し、お香に添加しても、全ての香りの成分を添加できる訳でなく、成分の量のバランスも天然のものとは異なる。また、有機溶媒を用いると、毒性や安全性の問題や管理上の問題がある他、有機溶媒の除去工程が必要なため、そのための装置を用意したりするため、コストも高くなる。
【0006】
天然の桜の香りは、クマリンの他にベンズアルデヒド、ファルネセン、ノナジエナール、メチルベンゾエートやその他多数の化合物が総合されたものであり、クマリンの香りは、桜本来が有する天然の香りとは似て異なるものである。また、特許文献1では、桜の葉を添加しているが、桜のポリフェノールに着目し、その抗菌作用を求めているものであり、桜の香りのためではない。別に添加したクマリンが桜の香りを担っている。
【0007】
本発明はこのような従来の桜香のお香やその製造法の問題を解決しようとするものであり、燃焼しているときに、天然の桜の香りが発生するお香を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは桜香のお香について、鋭意検討した結果、上記の課題を解決する方法を見出し、本発明を完成した。
【0009】
桜の木から葉を採取し、凍結する。この凍結させた桜の葉を原料や原料の一部として、そのまま、もしくは解凍したり乾燥させてから利用するお香である。原料として、この冷凍させた桜の葉が、乾燥重量でお香の5〜100重量%含むお香である。
【0010】
また、燃焼しているときに桜の香りを発するお香の製造方法は、桜の木から採取した桜の葉を凍結するものであり、次に凍結した桜の葉を乾燥し、粉末化した葉をお香の原料として含み、その他植物系粉末基剤や結合剤や燃焼補助剤などを添加して混錬、成形するものである。
【0011】
これらの解決手段による作用は、解明されていないが、おそらくは、凍結することにより、桜の持つ香り成分が桜の細胞内に生成、蓄積し、お香の原料に桜の葉が使われ燃焼すると、桜の香り成分がお香の外に発散するため、天然の桜餅の葉と同じ香りが得られるものと思われる。
【発明の効果】
【0012】
本発明のお香は、燃焼しているとき桜香が発生するものである。このとき発する桜の香りは、天然の桜の香りである。
【0013】
また、本発明のお香の製造方法についても、従来の製造方法に比較すると、簡単な工程でかつ有機溶媒等を利用しなく、燃焼したときに自然の桜の香りが得られる方法である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明についてその好ましい様態をあげ、より具体的に述べる。
【0015】
桜の葉は、ソメイヨシノ、サトザクラ、ヤマザクラ、エドヒガンザクラなどの種類がある。また、桜の葉は、桜の木から採取したばかりの新鮮な桜の葉が好ましいが、冷蔵庫にて数週間保存したものでも可能である。桜の葉の採取時期は、桜の葉が木に繁っている4月〜10月の間であればよく、桜餅で用いられている葉のように時期が4〜6月の間などと限定されるものでない。
【0016】
桜の葉の凍結手段は、冷凍庫でも、液体窒素、ドライアイスでもよい。凍結温度は桜の葉が凍結する温度であればよく、広く普及している冷凍庫の温度である零下20℃くらいから、もちろん零下20℃以下でもよく、また、零下20℃より高い零下10℃でも零下7℃でもよい。また、桜の葉は凍結すればよいので、桜の葉が凍結している時間は関係なく、数分〜数ヶ月で有効である。例えば液体窒素を用いると、一瞬にして桜の葉が凍結するので、桜の葉の量にもよるが、液体窒素に桜の葉を浸漬してから数分でよい。
【0017】
桜の葉を凍結させた後、お香の原料として用いる時は、そのまま用いて成形等行ってもよいが、普通は乾燥させてから用いる。冷凍した桜の葉を乾燥させるときは、零度以下の環境から取り出し、桜の葉を容器等に広げて、室温でドラフト中にて送風したり、乾燥機や恒温機内で加熱してもよい。ドラフト中にて乾燥、風乾させるときは、概ね数日かかる。乾燥機などでの加熱温度は桜の葉が乾燥すればよく、10〜90℃の間の範囲で有効であり、高温で加熱するほど時間は短くなる。桜の葉の乾燥中、送風すると乾燥が早い。
【0018】
この凍結させた桜の葉をお香である焚香の原料に用いるときは、数ミリメートルから数cmの大きさの範囲に粉砕し、他の葉と一緒に用いてもよい。粉砕前に乾燥してたほうが、粉砕しやすい。桜の葉は乾燥重量で、全体の5〜100重量%の範囲で有効であるが、10%以上の含量が望ましい。
【0019】
また、線香の原料として用いるときは、普通は、乾燥、粉末化したものを用いるが、凍結したものをそのまま破砕し、線香を成形後に乾燥してもよい。桜の葉は、乾燥重量で全体の5〜100%の範囲で有効であるが、10%以上の含量が望ましい。桜の葉以外に、通常の線香の基材としての各種木質、植物系粉末が用いられ、その他、燃焼効率を向上させるため酸素供給材として働く燃焼補助剤を添加することもあり、また、成形のための結合剤などが用いられことも多い。
【0020】
例えば、植物系の基材としては椨粉や支那粉、杉粉や松粉などの木粉や杉葉の粉末やその他の乾燥植物粉、炭などが用いられる。燃焼補助剤としては、硝酸カリウム、硝酸アルミニウム、硝酸ナトリウム、硝酸鉄、硝酸バリウム、硝酸マグネシウム、硝酸ストロンチウムなどの硝酸塩や過塩素酸ナトリウム、過塩素酸カリウム、過塩素酸アンモニウム、過塩素酸マグネシウムなどの過ハロゲン酸塩、過炭酸ナトリウム、過塩化ナトリウムなどの過酸化物、その他塩素酸カリウム、二酸化マンガンなどがあげられる。燃焼補助剤の量は、線香の成型後の形態にもよるが、概ね全体の量の10〜40重量%程度が用いられる。燃焼補助剤の量が少ないと点火後、途中で立ち消えしやすい。また、燃焼補助剤の量が多すぎると燃焼時に火花が飛んで、危険である。
【0021】
結合剤としてはでんぷん糊、松脂、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、マンナン、各種ガム類、カゼイン、流動パラフィン、各種合成高分子、各種合成樹脂接着剤などがあり、単独または数種類の混合で用いられ、線香の5〜40重量%程度が使用される。結合剤の含有量が少ないと強度が脆くなり、多いと燃焼性に悪影響を与える。
【0022】
これらの原料を混練後、棒状、コーン状、円筒状、平板状、渦巻状などにプレス成型機、押出成型機、打出成型機、射出成型機などにより 成型し、乾燥し完成である。
【0023】
以下に実施例を示して本発明を具体的に説明するが、これは単に例示の目的で述べるものであり、本発明はこれらの実施例に限定されるものでない。
【実施例1】
【0024】
初夏にソメイヨシノの桜の木から葉25gを採取し、水で洗浄した後、零下20℃の冷凍庫に一晩保存した。冷凍庫から桜の葉を取り出し、送風乾燥機に入れて、40℃で一晩乾燥した。得られた桜の葉の重量は、11gであった。乾燥した桜の葉を手で大きさ5mm〜2cmの大きさに切断した。
【0025】
この粉砕した葉を2g集めて、軽くコーン状に固めマッチにて着火したところ、燃焼している間、桜餅の桜の葉の匂いと同じ独特の甘い香りを発した。
【実施例2】
【0026】
初夏にソメイヨシノの桜の木から葉を採取し、水で洗浄した後、零下20℃の冷凍庫に一晩保存した。冷凍庫から桜の葉を取り出し、送風乾燥機に入れて、40℃で一晩乾燥した。乾燥した桜の葉から柄を除き、粉砕機(ミルサー、岩谷産業社製)で1分間粉砕した。粉砕した桜の葉0.2gと市販のタブ粉0.8gを乳鉢で混合し、これにお湯を加えて、よく混錬し団子状に固めた。これを押し出し機にて押し出し成形し、直径2〜3mm長さ7cmの線香状に切り揃えた。この線香を送風乾燥機に入れて、30℃で2日間乾燥した。
【0027】
乾燥した線香の先端にマッチにて着火した。燃焼している間、桜餅の桜の葉の匂いと同じ独特の甘い香りを発した。
【実施例3】
【0028】
初夏にソメイヨシノの桜の木から葉を採取し、水で洗浄した後、零下40℃の冷凍庫に4時間保存した。冷凍庫から桜の葉を取り出し、ドラフト内で広げて3日間、室温で自然乾燥した。乾燥した桜の葉を粉砕機(ミルサー、岩谷産業社製)で1分間粉砕した。別に杉の木のおが屑20gを粉砕機(ミルサー、岩谷産業社製)で1分間粉砕した。これを150μmのふるいにて分別し、150μm以下の大きさの杉の木の粉末を集めた。
【0029】
粉砕した桜の葉0.2gと上記の杉の木の粉末0.8gと硝酸アルミニウム0.2gを乳鉢で混合し、市販のでんぷん糊を加えて、よく混錬し団子状に固めた。これを押し出し機にて押し出し成形し、直径2〜3mm長さ7cmの線香状に切り揃えた。この線香を送風乾燥機に入れて、30℃で2日間乾燥した。
【0030】
乾燥した線香の先端にマッチにて着火した。燃焼している間、桜餅の桜の葉の匂いと同じ独特の甘い香りを発した。
【実施例4】
【0031】
初夏にソメイヨシノの桜の木から葉を採取し、水で洗浄した後、零下80℃の冷凍庫に一晩保存した。冷凍庫から桜の葉を取り出し、凍結乾燥機(東京理化器械株式会社製)に入れて、一晩乾燥した。乾燥した桜の葉を粉砕機(ミルサー、岩谷産業社製)で1分間粉砕した。別に杉の木のおが屑20gを粉砕機(ミルサー、岩谷産業社製)で1分間粉砕した。これを150μmのふるいにて分別し、150μm以下の大きさの杉の木の粉末を集めた。
【0032】
粉砕した桜の葉0.2gと上記の杉の木の粉末0.8gと硝酸アルミニウム0.2gを乳鉢で混合し、市販のでんぷん糊を加えて、よく混錬し団子状に固めた。これを押し出し機にて押し出し成形し、直径2〜3mm長さ7cmの線香状に切り揃えた。この線香を送風乾燥機に入れて、30℃で2日間乾燥した。
【0033】
乾燥した線香の先端にマッチにて着火した。燃焼している間、桜餅の桜の葉の匂いと同じ独特の甘い香りを発した。
【実施例5】
【0034】
初夏にソメイヨシノの桜の木から葉を採取し、水で洗浄した後、零下7℃の冷凍庫に4時間保存した。冷凍庫から桜の葉を取り出し、送風乾燥機に入れて、40℃で2晩乾燥した。乾燥した桜の葉を粉砕機(ミルサー、岩谷産業社製)で1分間粉砕した。別に杉の木のおが屑20gを粉砕機(ミルサー、岩谷産業社製)で1分間粉砕した。これを150μmのふるいにて分別し、150μm以下の大きさの杉の木の粉末を集めた。
【0035】
粉砕した桜の葉0.2gと上記の杉の木の粉末0.5gとの粉炭0.3gを乳鉢で混合し、市販のでんぷん糊を加えて、よく混錬し団子状に固めた。これを押し出し機にて押し出し成形し、直径2〜3mm長さ7cmの線香状に切り揃えた。この線香を送風乾燥機に入れて、30℃で2日間乾燥した。
【0036】
乾燥した線香の先端にマッチにて着火した。燃焼している間、桜餅の桜の葉の匂いと同じ独特の甘い香りを発した。
【実施例6】
【0037】
初夏にソメイヨシノの桜の木から葉を採取し、水で洗浄した後、4℃の冷蔵庫にて3週間保存した。この桜の葉を零下20℃の冷凍庫に一晩保存した。冷凍庫から桜の葉を取り出し、送風乾燥機に入れて、80℃で3時間乾燥した。乾燥した桜の葉を粉砕機(ミルサー、岩谷産業社製)で1分間粉砕した。別に杉の木のおが屑20gを粉砕機(ミルサー、岩谷産業社製)で1分間粉砕した。これを150μmのふるいにて分別し、150μm以下の大きさの杉の木の粉末を集めた。
【0038】
粉砕した桜の葉0.5gと上記の杉の木の粉末0.5gと硝酸カリウム0.2gを乳鉢で混合し、市販のでんぷん糊を加えて、よく混錬し団子状に固めた。これを押し出し機にて押し出し成形し、直径2〜3mm長さ7cmの線香状に切り揃えた。この線香を送風乾燥機に入れて、30℃で2日間乾燥した。
【0039】
乾燥した線香の先端にマッチにて着火した。燃焼している間、桜餅の桜の葉の匂いと同じ独特の甘い香りを発した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
桜の葉を凍結させ、その桜の葉を原材料に含むことを特徴とするお香。
【請求項2】
凍結させた桜の葉を、お香の全重量に対し乾燥重量として5〜100重量%含有する請求項1に記載のお香。
【請求項3】
桜の葉を凍結し、その後乾燥し、粉末化した葉に、植物系粉末基剤や結合剤や燃焼補助剤などを添加して混錬、成形することを特徴とするお香の製造方法。

【公開番号】特開2010−116335(P2010−116335A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−289513(P2008−289513)
【出願日】平成20年11月12日(2008.11.12)
【出願人】(309015019)地方独立行政法人青森県産業技術センター (52)
【Fターム(参考)】