説明

梱包用受け型の作製方法

【課題】搬送時の振動や衝撃による力が被搬送物の表面に均等に加わるようにすることができる梱包用受け型を作製する方法を提供する。
【解決手段】非接触レーザースキャナ2を用いて被搬送物である彫像の外形データを取得するスキャニング工程と、上記彫像の外形データを用いて等身大の雌型データを作成するデータ作成工程と、上記雌型データを数値制御工作機械に与えて発泡スチロールなどの緩衝体を加工して上記梱包用受け型を作製する受け型作製工程と、を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、外形が異なる被搬送物の梱包に適する梱包用受け型を作製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
彫像を美術館や修理所などへ搬送するときには振動や衝撃を吸収する緩衝性を備えた梱包を行うことが要求される。そして、このような彫像は一体一体が異なる外形を有するため、従来は、彫像を薄葉紙で包み、更に真綿を薄葉紙で包んで成る緩衝材を要所にあてがうことを行っている。そして、このように緩衝を施した彫像を搬送用の梱包木枠に縛り付けて固定し搬送している。
【0003】
また、下記の特許文献1は、壷などの梱包に利用できる梱包装置として、脱気口を有する袋体が収容配置された容積可変の梱包箱に被搬送物を収容する構造を開示している。より具体的には、上記梱包箱内に被搬送物を収容した状態で梱包箱容積を小さくしていくと、上記袋体が脱気して被搬送物の外形に沿うように変形し、更にこの脱気によって上記袋体内の粒状体が固化して被搬送物を緩衝保持する。そして、脱気状態を解除することにより上記粒状体は非固化状態となり、被搬送物に対する上記袋体の保持状態が解除される。
【0004】
また、貴重品の輸送に利用できる方法として、下記の特許文献2は、貴重品を貴重品保護袋内に収納し、この貴重品保護袋の全周囲に十分な量の緩衝材粒子を詰め込むことを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−163361号公報
【特許文献2】特開2002−234578号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記いずれの従来技術も、不定形緩衝材が被搬送物の外形に沿った形に変形できるということを利用したものであり、このような不定形緩衝材の形状変形を利用した技術では、搬送時の振動や衝撃による力が被搬送物の表面に均等に加わらないということが生じる。また、このような不定形緩衝材を用いて彫像等の被搬送物を適切に梱包するには豊富な経験が必要とされる。
【0007】
この発明は、搬送時の振動や衝撃による力が被搬送物の表面に均等に加わるようにすることができる梱包用受け型を作製する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明の梱包用受け型の作製方法は、上記の課題を解決するために、梱包枠と被搬送物との間に介在して上記被搬送物を受け止める梱包用受け型を作製する方法であって、上記被搬送物の立体データから上記被搬送物の等倍の雌型を得る加工データを作成するデータ作成工程と、上記加工データを用いて型材を加工して梱包用受け型を作製する受け型作製工程と、を有することを特徴とする。
【0009】
上記の構成であれば、被搬送物の立体データから当該被搬送物の雌型に相当する定形の梱包用受け型を作製するので、上記被搬送物と梱包枠との間に介在させられた上記梱包用受け型は上記被搬送物の表面に均等に接することができる。これにより、搬送時の振動や衝撃は上記梱包用受け型を介して被搬送物の表面に均等に加わり、被搬送物の損傷や変形が防止されることになる。
【0010】
上記の梱包用受け型の作製方法において、上記被搬送物の外形を非接触で計測して外形データを取得するスキャニング工程を有することとしてもよい。上記被搬送物が文化財などであればその立体データが既に存在していることがあるが、そのような立体データが存在していない場合には上記被搬送物の外形データを取得する。この場合、上記外形データは非接触の計測によって得るので上記被搬送物の表面に疵等が付く虞れはない。
【0011】
上記の梱包用受け型の作製方法において、上記被搬送物における複数の部分に対応した複数の梱包用受け型を作製することとしてもよい。これによれば、被搬送物の全体を包む梱包用受け型を作製する場合に比べて、梱包用受け型の材料の使用量を減らすことができる。
【0012】
上記の梱包用受け型の作製方法において、内部が空洞で芯材を有する彫像が被搬送物である場合に上記芯材の位置に合わせて梱包用受け型を作製することとしてもよい。これによれば、上記芯材が存在する比較的強い部分を上記梱包用受け型で受け止める梱包を行うことができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の梱包用受け型の作製方法であれば、搬送時の振動や衝撃は梱包用受け型を介して被搬送物の表面に均等に加わり、被搬送物の損傷や変形が防止される。また、梱包箱内で被搬送物の位置がずれてしまう事態も防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態に係る梱包用受け型の作製工程を示したフローチャートである。
【図2】図1の作製工程におけるスキャニング工程の一例を示した説明図である。
【図3】同図の(a)〜(f)はそれぞれ作成された雌型データの描画像を示した説明図である。
【図4】被搬送物である脱活乾漆像の外形及び内部の芯材の配置を示した説明図である。
【図5】被搬送物である彫像に梱包用受け型を嵌め込んだ状態を示した説明図である。
【図6】被搬送物である彫像に梱包用受け型を嵌め込み更に梱包木枠に固定した状態を示した説明図である。
【図7】本発明に係る梱包用受け型の他の作製例を示した説明図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
次に、この発明の実施形態に係る梱包用受け型の作製方法を添付図面に基づいて具体的に説明する。なお、本発明に係る梱包用受け型の作製方法は、下記の実施形態に示したものに限定されず、その要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施できるものである。
【0016】
この実施形態に係る梱包用受け型の作製方法は、図1に示すように、非接触レーザースキャナを用いて被搬送物である彫像の外形データを取得するスキャニング工程と、上記彫像の外形データを用いて等身大の雌型データを作成するデータ作成工程と、上記雌型データを数値制御工作機械に与えて緩衝体(型材)を加工して上記梱包用受け型を作製する受け型作製工程と、を有する。
【0017】
上記のスキャニング工程では、図2に示すように、彫像1の高さ方向の全体をスキャンできる位置に非接触レーザースキャナ2を配置してスキャン処理を行い、この配置状態でのスキャン処理が終了したら上記非接触レーザースキャナ2を移動させ、この移動させた位置で再びスキャン処理を行う。このスキャン処理を複数回繰り返すことによって彫像1の全周囲の外形データ(スキャナから彫像までの測距データ(点群データ))を取得することができる。なお、彫像1を回転台上に載せ置くことができるなら、非接触レーザースキャナ2を移動させずに彫像1を回転させて外形データを得ることもできる。
【0018】
上記スキャニング工程を2種類の非接触スキャナを用いて2段階で行うことも可能である。例えば、第1の非接触スキャナを用いて彫像1の全周囲の外形データを取得した後に、更に詳細な外形データを取得するために、第2の非接触スキャナを用いる。この第2の非接触スキャナを用いる2回目の測定では、測定箇所に対してできるだけ平行に上記第2の非接触スキャナを配置して行うのがよい。ここに、第1の非接触スキャナとしては、レーザーによる光パルス飛行時間計測法を用いた三次元レーザースキャナなどを用いることができ、また、第2の非接触スキャナとしては、レーザーを用いた三角測距原理で距離測定する三次元レーザースキャナなどを用いることができる。もちろん、他の原理を用いて測距する非接触スキャナを用いてもよい。また、これら非接触スキャナが取得した彫像の外形データは、例えば、スキャナに内蔵された図示しない記憶装置に保持される。そして、当該スキャナとワークステーション(情報処理装置)とをデータ転送ラインで接続することにより、外形データを上記ワークステーションに転送することができる。また、上記記憶装置として着脱自在なメモリカードなどを用いると、このメモリカードを上記ワークステーションに装着して上記外形データを与えることもできる。
【0019】
上記の図1に示したデータ作成工程は、上記ワークステーションにおいて実行することができる。例えば、このワークステーションには、上記外形データ(測距データ)を処理して立体データ(モデリングデータ)を生成するソフトウェアが格納されており、このソフトウェアを用いて上記外形データから彫像1の等倍の立体データを作成し、この立体データから上記彫像1の雌型を得るための加工データを作成する。なお、上述した第1,第2の非接触スキャナを用いる場合、上記のワークステーションにおいて両スキャナによる外形データを照合して合成する処理を行うことになる。以上のようなデータ処理においては、例えばRapidForm(登録商標)や Geomagicなどのソフトウェアを用いることができる。
【0020】
この実施例では、彫像1の前面及び背面の各々の複数の部分に対応した複数の梱包用受け型を作製するようにしている。このため、図3に示しているように、複数の雌型を得る加工データを作成している。図3の(a)(b)(c)はそれぞれ彫像1の前面側の胸部と腹部と太股部の雌型の描画像であり、図3の(d)は彫像1の背中から臀部に掛けての雌型の描画像であり、図3の(e)は彫像1の前面側の足部及び台部の雌型の描画像であり、図3の(f)は彫像1の背面側の足部及び台部の雌型の描画像である。
【0021】
ここで、上記図3の(a)(b)(c)に示したごとく、彫像1の前面側において3つの雌型データを作成することとしたのは、図4に示しているように、彫像1が、乾漆像のように内部が空洞で胸部と腹部と太股部の3箇所に芯材1aを有する場合を想定していることによる。すなわち、上記芯材1aの位置に合わせて雌型(梱包用受け型)を作製する例をここでは示している。
【0022】
また、この雌型データの作製工程では、当該雌型が押出型となるようにデータを作成している。ここで、上記押出型と対比されるくり抜き型は、例えば彫像における曲げられた肘の外側に対応する凹部が型材において形成されるが、上記肘の内側の非彫像部となる箇所の型材が残される形状となるため、彫像の肘を上記凹部に入れ込むときに上記残される型材部分が干渉することになる。このため、このような残される型材部分が存在しない(上記肘に対応する凹部へ至る箇所の型材が除去される)押出型となる雌型データを作成している。なお、この雌型データと彫像1の立体データ(モデリングデータ)とをコンピュータ上で嵌め合わせて事前検証を行うようにしてもよい。
【0023】
上記の受け型作製工程では、上記複数の雌型を得る加工データに基づいて型材の加工を行って複数の梱包用受け型を作製する。ここで、上記型材として発泡スチロールを用いることができる。この発泡スチロールの硬さは、発泡倍率(体積と重量の比)によって表すことができ、この実施例では硬すぎず適度に衝撃を吸収できる発泡倍率が50倍の発泡スチロールを採用している。そして、この加工工程では、図示しない数値制御工作機械に直方体形状の発泡スチロールを固定し、上記数値制御工作機械にセットされたドリルによって上記発泡スチロールを削り込んで梱包用受け型を作製する。
【0024】
図5は、複数の梱包用受け型3A,3B,3C,3D,3E,3Fを彫像1に嵌め込んだ状態を示している。上記梱包用受け型3A,3B,3C,3D,3E,3Fは、上記図3の(a)〜(f)の雌型データに基づいて作製されたものである。彫像1の前面に位置する梱包用受け型3A,3B,3Cの背面は共通の位置にあって全体として面一とされている。また、梱包用受け型3A,3B,3Cは、彫像1の厚みに対してその前面から概ね1/3の範囲を覆い、梱包用受け型3Dは、彫像1の厚みに対してその背面から概ね1/3の範囲を覆っている。勿論、このような1/3の範囲に限るものではない。
【0025】
図6は、彫像1の梱包状態を例示している。この梱包においては、彫像1の背面側に梱包木枠4が配置されている。梱包用受け型3Fの背面と梱包用受け型3Dの背面の位置には段差が在り、この段差を埋めるようにスペーサ5を配置している。また、彫像1の前面側に配置した上記梱包用受け型3A等の背面側に梱包木枠6を配置している。上記の梱包木枠4,6,スペーサ5、及び他の図示しない枠材などが釘などによって固定されて全体として箱形状をなす。また、補強のために筋違い板7が釘などによって打ち付けられる。
【0026】
以上説明したように、被搬送物である彫像1の外形データから彫像1の雌型に相当する定形の梱包用受け型を作製するので、上記彫像1と梱包木枠6等との間に介在した梱包用受け型3A等は、上記彫像1の表面に均等に接することができる。これにより、搬送時の振動や衝撃は上記梱包用受け型3等を介して彫像1の表面に均等に加わり、彫像1の損傷や変形が防止されることになる。また、上記外形データは非接触計測により得るので彫像1の表面に疵等が付く虞れもない。
【0027】
また、この実施例では、彫像1の複数の部分に対応する複数の梱包用受け型3A等を作製するので、彫像1の全体を包む梱包用受け型を作製する場合に比べて、梱包用受け型の材料の使用量を減らすことができる。
【0028】
更に、この実施例では、上記複数の芯材1aの位置に合わせて複数の梱包用受け型3A等を作製するので、上記芯材1aが存在する比較的強い部分を上記梱包用受け型3A等で受け止める梱包が行える。
【0029】
勿論、このような実施例に限るものではなく、図7に示すように、例えば彫像1の背面全体を一つの梱包用受け型31で受けるようにしてもよいし、上記芯材が存在するかどうかとは無関係に複数の梱包用受け型を作製するようにしてもよいし、更に、彫像のお顔部分を受けることになる梱包用受け型を作製するようにしてもよいものである。
【0030】
また、上記の実施形態では、梱包用受け型の型材として発泡スチロールを用いたが、型材をこのような発泡スチロールなどの緩衝材に限定するものではない。例えば、木材やプラスチックを用いて梱包用受け型を作製し、この梱包用受け型と彫像1と間にスポンジや厚手の布などの衝撃吸収材を介在させるようにしてもよい。このように衝撃吸収材が介在する場合の梱包用受け型の精度(彫像1の外形再現精度)は、直に彫像1を受ける梱包用受け型の精度より低くしておいてもよい。勿論、発泡スチロールなどの緩衝材で形成した梱包用受け型と彫像1との間にスポンジや厚手の布などの衝撃吸収材を介在させてもよい。
【0031】
また、彫像の搬送に限らず、壷などを被搬送物とする梱包用受け型の作製にも本発明を用いることができる。
【0032】
また、上記の実施例では、上記被搬送物である彫像1の外形を非接触で計測して外形データを取得するスキャニング工程を有したが、上記被搬送物の立体データが既に存在している場合には、そのような立体データを用いて梱包用受け型を作製することとしてもよい。また、非接触計測を非接触レーザースキャナを用いて行ったが、レーザー光を用いないで非接触計測する非接触スキャナを用いることもできる。
【符号の説明】
【0033】
1 彫像(被搬送物)
1a 芯材
2 非接触レーザースキャナ
3A,3B,3C,3D,3E,3F 梱包用受け型
31 梱包用受け型
4 梱包木枠
5 スペーサ
6 梱包木枠
7 筋違い板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
梱包枠と被搬送物との間に介在して上記被搬送物を受け止める梱包用受け型を作製する方法であって、上記被搬送物の立体データから上記被搬送物の等倍の雌型を得る加工データを作成するデータ作成工程と、上記加工データを用いて型材を加工して梱包用受け型を作製する受け型作製工程と、を有することを特徴とする梱包用受け型の作製方法。
【請求項2】
請求項1に記載の梱包用受け型の作製方法において、上記被搬送物の外形を非接触で計測して外形データを取得するスキャニング工程を有することを特徴とする梱包用受け型の作製方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の梱包用受け型の作製方法において、上記被搬送物における複数の部分に対応した複数の梱包用受け型を作製することを特徴とする梱包用受け型の作製方法。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の梱包用受け型の作製方法において、内部が空洞で芯材を有する彫像が被搬送物である場合に上記芯材の位置に合わせて梱包用受け型を作製することを特徴とする梱包用受け型の作製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−17119(P2012−17119A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−154653(P2010−154653)
【出願日】平成22年7月7日(2010.7.7)
【特許番号】特許第4628492号(P4628492)
【特許公報発行日】平成23年2月9日(2011.2.9)
【出願人】(510188263)株式会社アコード (1)
【Fターム(参考)】