説明

梳き鋏用櫛刃およびその製造方法

【課題】新規な形状をもつ梳き鋏の刃の要素を備えた梳き鋏用櫛刃およびその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明による梳き鋏用櫛刃は、櫛刃の原形となるブランクを準備し、前記ブランクの表面に機械加工をし、櫛刃の要素の切り出し、先端の加工を砥石を用いて自動的に行われる。各櫛刃の要素2・2・・・の先端に形成される梳き髪把握用の凹溝6を挟む一方側の刃の厚さは他方よりも薄くして構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、櫛刃の要素の先端に刃付けをした梳き鋏用櫛刃および前記梳き鋏用櫛刃の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
髪を梳くために梳き鋏が利用されている。梳き鋏は一方が櫛刃であって、先端の刃に凹状の刃(U字形またはV字形の刃と呼ばれている。)が設けられているものが多い。このU字部分で捕らえた髪を切断することにより、髪を梳く。この様な櫛刃の刃体を加工するために、放電加工機が用いられることがある。
【0003】
本願発明者は、以下の特許文献1により梳き鋏用櫛刃の製造方法を提案している。この発明は櫛刃の要素の先端に回転砥石によりV溝を設けるとともに、櫛刃の底の面取りを行ったものである。
この方法は数値制御の加工機を用いて回転砥石で加工を行う梳き鋏用櫛刃の製造方法に適している。
特許文献2記載の発明は、刃先の先端にU状の刃部を設けた梳き鋏である。この鋏は鋏の枢結部近傍に比較して先部の毛髪切断量を少なくすることで、切断抵抗を少なくし、枢結部近傍での毛髪切断時の操作感と、先部での毛髪切断時の操作感の差異を同等程度にしたものである。
特許文献3,4記載の発明は、回転砥石を用いて櫛刃を加工する本件発明者の発明に係るものである。特許文献3記載の発明は、櫛刃の先端のV溝以外で挟まれ髪を無くするために谷側に逃がしの斜面を設けたものである。特許文献4記載の発明は、櫛刃の先端のV溝を含めて、先端を種々の形状に加工できるようにしたものである。
【特許文献1】特開平11−19342号公報
【特許文献2】特開平11−57240号公報
【特許文献3】特開2005−65934号公報
【特許文献4】特開2005−87256号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
梳き鋏の刃の加工において、回転砥石を用いる方法は、放電加工によるものに比較して、仕上りが良好であるという特徴を備えている。
焼き入れ後に回転砥石を用いて刃つけを行い、さらに羽布加工により表面を仕上げる場合に、回転砥石で加工された櫛刃の要素の先端のV溝に仕上がりが余り良くないという問題が残されている。
理容の業界では梳く髪の量をカット率として目安としているが、このカット率は梳き鋏の刃先の形状によって決まってしまう。
【0005】
本発明の目的は、櫛刃の要素の先端に段差を設けることにより、カット率が変化しにくい形状の梳き鋏用櫛刃とその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明による請求項1記載の梳き鋏用櫛刃は、
櫛刃の原形となるブランクを準備し前記ブランクの表面に機械加工をし、櫛刃の要素の切り出し、先端の加工を砥石を用いて自動的に行う梳き鋏用の櫛刃において、
各櫛刃の要素の先端に形成される梳き髪把握用の凹溝を挟む一方側の刃の厚さを他方よりも薄くして構成されている。
【0007】
本発明による請求項2記載の梳き鋏用櫛刃の製造方法は、
梳き鋏用櫛刃のブランクを用意し、表面の加工により櫛刃の形状を仕上げて整え、焼き入れを行い、続いて歪みとりを行った後に、回転砥石を用いて、
溝または谷の加工をし、各櫛刃の先端に梳き髪把握用の凹溝を形成する梳き鋏用櫛刃の製造方法であって、
前記凹溝を挟む一方側の刃の厚さが他方よりも薄くなるように回転砥石で加工するステップを設けて構成されている。
本発明による請求項3記載の梳き鋏用櫛刃の製造方法は、
請求項2記載の梳き鋏用櫛刃の製造方法において、前記各櫛刃の要素の先端の凹溝を含む表面を羽布研磨で仕上げるステップを設けて構成されている。
【発明の効果】
【0008】
本発明による梳き鋏用櫛刃は、各櫛刃の要素の先端に形成される梳き髪把握用の凹溝を挟む一方側の刃の厚さを他方よりも薄くして構成されている。
したがって、従来の梳き鋏の先端の刃が厚い(高い)ものは髪の毛の案内になり、カットの方向によっては凹溝に大量の髪を案内して余計にカットし、安定したカット率が得られないという問題を解決できる。
また前述のように、一方側の刃の厚さを他方よりも薄くして構成されている。凹溝に羽布が入り易くなり、良好な羽布仕上げが可能となる。なお薄くするのは片側のみで、両方薄くするのではないから鋏の強度が落ちてしまうことはない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下図面等を参照して、本発明を実施するための最良の形態を説明する。
図1は、本発明による梳き鋏用櫛刃の要素の先端の形状を示す斜視図である。
図2は、本発明による梳き鋏用櫛刃の要素の先端の形状を示す図である。
図2において(A)は、左側面図、(B)は、C2 −C2 断面図、(C)は、平面図、(D)は、C1 −C1 断面図、(E)は、右側面図、(F)は、正面図である。
図3は、梳き鋏用櫛刃の要素の先端に凹溝が形成されている梳き刃の平面図である。
図4は、梳き刃の加工を説明するために櫛刃のブランクと回転砥石の配置を例示した斜視図である。
図5は、櫛刃の先端に形成される梳き髪把握用の凹溝を挟む一方側の刃の厚さを他方よりも薄くする加工における回転砥石と櫛刃の要素の位置関係を説明するための略図である。なお本発明の実施例において、各図(図1〜図5)において符号と座標(x,y,z)を共通して利用することとする。
【0010】
図3において直角座標のxy平面に平行な櫛刃の裏面を基準面(他の刃を結合したときの合わせ面)とする。各図において、yを櫛刃の要素の方向、x軸を櫛刃の要素の先端面を連ねる直線に略平行な方向とする。なお櫛刃の要素の先端面を連ねる線は大きな円弧で必ずしも直線で無い場合もあるが、櫛刃の要素に直角で前記円弧に近い直線の方向をx方向とする。z方向は櫛刃の厚さの方向である。
【0011】
本発明による梳き鋏用櫛刃は、櫛刃の原型となるブランクを準備し前記ブランクの表面に機械加工を行い図4に示されているように刃の表裏の面、刃先の先端面7や、刃の表面の傾斜面等を機械加工する。
櫛刃の要素2の切り出しは、数値制御によりブランク1と砥石9の相対位置をX方向に1ピッチあて移動させるとともにy方向に移動させて行う。
櫛刃の谷または溝の面取りは特許文献1に示したようにブランク1をy軸回りに回転させて、回転砥石に接触させて行う。
【0012】
図1,2は、本発明による梳き鋏用櫛刃の要素の先端の形状を示す図である。
図2において(A)は、櫛刃の要素の先端の左側面図であり、略仕上げられたブランクのz方向の形状を止めている。先端の左側面21、先端の面25、先端の斜面23が現れている。櫛刃の要素の先端には、平面図(C)によく現れているようにV字状の凹溝6(溝面29,30)が設けられている。
凹溝6を挟む一方側の斜面24を有する刃の厚さを他方の斜面23を有する刃の厚さよりも薄くしてある。なお各図において22は右側面であり、26は薄い方の先端面、28は櫛刃の裏面(あわせ面)である。
【0013】
次に、前記構成の先端形状をもつ櫛刃の要素を備えた櫛刃の加工方法を説明する。
(ブランク準備ステップ)
ブランク準備ステップで梳き鋏用櫛刃のブランクを用意する。
(ブランク仕上げステップ)
表面の機械加工により櫛刃の表裏,先端,峰等の形状を仕上げて整える。図4に仕上げ済のブランク1を示す。
(ブランク焼き入れ歪みとりステップ)
ブランクの焼き入れを行い、続いて歪みとりを行う。
(溝または谷の加工ステップ)
溝または谷3(図3参照)の加工用の回転砥石で、溝または谷の加工を行う。溝または谷の加工は、溝幅に相当する砥石を送り込むことにより成される。回転砥石の外周面(砥粒の付着面)の断面形状は円筒面である。なお櫛刃の1ピッチ送りにより順次行うが、数値制御送りにより異なるピッチの設定が可能である。
【0014】
(溝または谷底の面取りステップ)
溝または谷底の面取りは前記溝または谷の加工ステップに引き続いて、同一の砥石を用いて行われる。なおこの加工の際のブランクと砥石の位置関係は前述の特許文献1に詳述してある。
(梳き刃の要素の先端の凹溝加工ステップ)
梳き刃の要素の先端の凹溝加工は、凹溝の断面形状に相補形状の回転砥石を用いて行われる。凹溝がV溝である場合の加工には、回転中心を含む面で切断して示すと、先端がV字形となる砥石を用いる。
(凹溝を挟む一方側の刃の減厚加工ステップ)
各櫛刃要素の先端に形成される髪を捕獲する凹溝を挟む一方側の刃の厚さを他方よりも薄く加工する。回転砥石9が用いられる。回転砥石9として、外周が円筒状のものを用いることができる(図5参照)。
(羽布による仕上げ加工)前記加工の工程により羽布(バフ)かけにより仕上げる。
羽布はz軸に沿って上から下におろされて、表面に接触させられ、回転させられる。
【産業上の利用可能性】
【0015】
前記櫛刃を用いた梳き鋏は回転砥石で加工されるから仕上がりが良く理容の分野から、個人用に至るまで広く利用できる。
また前記櫛刃の製造方法によれば、櫛刃の要素の加工に砥石を使用して数値制御で行うことができるので櫛刃を合理的な価格で製造でき、鋏製造業で特に熟練を要する作業者でなくても精度の高い理容用の梳き鋏の櫛刃を提供することができる。
また、本発明による櫛刃を用いた梳き鋏は髪に対する角度を変えたり、鋏の裏表を変えても安定したカット率が得られ、熟練した理容士の技量を存分に発揮させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明による梳き鋏用櫛刃の要素の先端の形状を示す斜視図である。
【図2】本発明による梳き鋏用櫛刃の要素の先端の形状を示す図である。
【図3】梳き鋏用櫛刃の要素の先端に凹溝が形成されている梳き刃の平面図である。
【図4】梳き刃の加工を説明するために櫛刃のブランクと回転砥石の配置を例示した斜視図である。
【図5】櫛刃の先端に形成される梳き髪把握用の凹溝を挟む一方側の刃の厚さを他方よりも薄くする加工における回転砥石と櫛刃の要素の位置関係を説明するための略図である。
【符号の説明】
【0017】
1 櫛刃のブランク
2 櫛刃の要素
3 櫛刃の溝または谷
4 櫛刃の峰
5 鋏の軸孔
6 櫛刃の要素の先端の凹溝
7 櫛刃のブランクの刃先
9 回転砥石
10(x’) 砥石の回転軸
21 櫛刃の要素の左側面
22 櫛刃の要素の右側面
23 櫛刃の要素の先端表面側斜面(厚い方)
24 櫛刃の要素の先端表面側斜面(薄い方)
25 櫛刃の要素の先端面(厚い方)
26 櫛刃の要素の先端面(薄い方)
28 櫛刃の裏面(あわせ面)
29,30 凹溝斜面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
櫛刃の原形となるブランクを準備し前記ブランクの表面に機械加工をし、櫛刃の要素の切り出し、先端の加工を砥石を用いて自動的に行う梳き鋏用の櫛刃において、
各櫛刃の要素の先端に形成される梳き髪把握用の凹溝を挟む一方側の刃の厚さを他方よりも薄くして構成された梳き鋏用櫛刃。
【請求項2】
梳き鋏用櫛刃のブランクを用意し、表面の加工により櫛刃の形状を仕上げて整え、焼き入れを行い、続いて歪みとりを行った後に、回転砥石を用いて、溝または谷の加工をし、各櫛刃の先端に梳き髪把握用の凹溝を形成する梳き鋏用櫛刃の製造方法であって、
前記凹溝を挟む一方側の刃の厚さが他方よりも薄くなるように回転砥石で加工するステップを設けて構成した梳き鋏用櫛刃の製造方法。
【請求項3】
請求項2記載の梳き鋏用櫛刃の製造方法において、前記各櫛刃の要素の先端の凹溝を含む表面を羽布研磨で仕上げるステップを設けた梳き鋏用櫛刃の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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