説明

梳鋏

【課題】 櫛歯に捉えられた髪の剪断性能を損なうことなく、かつ髪を傷めずに髪梳き操作を行うことができる梳鋏を提供すること。
【解決手段】 棒刃体200の刃縁211のうち、梳鋏10の閉じ操作の際に櫛刃体100に設けられた櫛歯111の先端部と重なり合う位置に凹部212を形成し、この凹部212の内部にのみ刃付けを行う。すなわち、棒刃体200の刃縁211には、凹部212以外の部分には刃を形成せずに、櫛刃体100の櫛歯111との間で髪を剪断するのに必要な部分にのみ刃を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、理美容鋏の一種である梳鋏の改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、髪を梳く時には、図9に示すような梳鋏が用いられている。梳鋏は、一般に、櫛歯と櫛溝とが交互に形成された櫛刃体と、刃縁の全長に刃が形成された棒刃体とを枢着することによって形成されている。そして、この梳鋏を用いて髪をカットするときには、図10に示すように、棒刃体の刃と櫛刃体の櫛歯の先端部との間に捉えられてカットされる髪と、棒刃体の刃と櫛刃体の櫛溝との間にできる空隙に入り込んでカットされない髪とに振り分けられて髪が梳き切られる。そして、櫛刃体と棒刃体とを閉じきったとき、すなわち、梳鋏で髪を梳き切ったときには、図11に示すように、櫛溝にカットされなかった髪が残り、この髪を櫛溝から引き抜いて梳鋏を移動させるのである。
【0003】
ところが、櫛溝に髪が残った状態で梳鋏を移動させようとすると、髪が棒刃体の刃に当たって髪を傷つけてしまい、これが切れ毛や枝毛の原因となる虞があった。
【0004】
このようなカット後における梳鋏の移動操作を、髪を傷つけることなく行えるようにした梳鋏としては、例えば、棒刃体の刃縁には刃を全く形成せず、櫛歯の先端部にのみ切り刃部を形成し、刃の形成されていない棒刃体で髪を櫛歯の刃に押しつけて切断するようにした梳鋏(特許文献1参照)や、櫛刃体の櫛歯の先端部にのみ刃を形成し、棒刃体には刃を形成せずに櫛歯の先端が接触する位置に切り欠きを形成した梳鋏(特許文献2参照)が提案されている。これらの梳鋏では、棒刃体の刃縁には全く刃が形成されていないので、櫛溝に振り分けられた髪を梳鋏から引き抜く際に、髪が刃に当たって傷つけられることがない。しかし、櫛歯の先端部に設けた刃のみで髪の剪断を行うものであることから、櫛刃体と棒刃体との間に挟まれた髪の剪断は櫛歯側からしか進行せず、十分な剪断性能が確保されたものではなかった。
【特許文献1】特開2003−190672号公報
【特許文献2】特許第2967269号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明は、櫛歯に捉えられた髪の剪断性能を損なうことなく、かつ髪を傷めずに髪梳き操作を行うことができる梳鋏を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、請求項1に記載した発明が採った手段は、櫛歯111と櫛溝112とが交互に設けられた櫛刃体100と、棒刃体200とが枢着されてなる梳鋏10であって、棒刃体200の刃縁211には、櫛刃体100と棒刃体200とを閉じるときに櫛歯111の少なくとも先端部111bと重なり合う位置に凹部212が形成されており、凹部212の内周にのみ刃213が形成されていることを特徴とする梳鋏10、である。
【0007】
一般の梳鋏では、棒刃体の刃縁の全長に亘って刃が形成されているが、本発明における梳鋏10では、棒刃体200の刃縁211のうち梳鋏10の閉じ操作の際に櫛刃体100に設けられた櫛歯111の先端部111bと重なり合う位置に凹部212を形成し、この凹部212の内部にのみ刃付けを行っている。すなわち、棒刃体200の刃縁211には、この凹部212以外の部分には刃を形成せずに、櫛刃体100の櫛歯111との間で髪を剪断するのに必要な部分にのみ刃を設けたのである。これにより、櫛溝112に入り込んでカットされずに残った髪が刃と接触しなくなるので、櫛溝112に残った髪を傷つけることなく梳鋏10を移動させることができるようになる。
【0008】
また、請求項2に記載の発明が採った手段は、凹部212の開口幅が、櫛歯111の先端部111bの幅よりも狭く形成されていることを特徴とする請求項1記載の梳鋏10、である。
【0009】
凹部212の開口幅を櫛歯111の幅よりも狭く形成することで、凹部212と櫛歯111とが重なったときに、凹部212が櫛歯111に完全に塞がれることとなるので、髪をカットした後に櫛溝112に残った髪を引き抜きながら移動させる際に、髪が凹部212に入り込むことがない。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る梳鋏によれば、棒刃体の刃縁に、髪を捉えるための凹部を、梳鋏を閉じたときに櫛歯の先端と重なり合う位置に形成し、この凹部の内部にのみ刃を形成したことにより、切れ味を損なうことなく櫛歯と凹部とで捉えられた髪だけをカットできるとともに、櫛溝へと振り分けられた髪を、梳鋏を移動させて櫛溝から引き抜く際に傷つけることがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明は、櫛刃体と、棒刃体とからなる梳き鋏であり、棒刃体の刃縁上に凹部を形成し、この凹部の内部にのみ刃を設けたことを特徴とするものである。
【0012】
櫛刃体には、櫛歯と櫛溝とが交互に形成される。櫛歯の形状は特には限定されるものではなく、例えば、基端部から真っ直ぐに伸びた直線状に形成してもよいし、円弧状に形成してもよい。また、櫛歯の先端部についても同様であり、例えば、先端部の全体に刃付けをしてもよいし、カットされる髪を捉えやすくするための凹部や溝部を形成してもよい。また、櫛歯の間隔及び幅は、カットする髪の量に合わせて設定すればよい。
【0013】
棒刃体には、その刃縁に凹部が形成される。この凹部は、櫛刃体の櫛歯と対向する位置、すなわち、櫛刃体と棒刃体とを閉じる操作をしたときに、櫛刃体の櫛歯の先端と重なる位置に形成される。そして、棒刃体には凹部の内部にのみ刃が形成され、一の凹部と他の凹部とに挟まれる刃縁部分には刃が形成されない。つまり、凹部に入り込んだ髪のみがカットされることとなる。
【0014】
凹部の形状は特には限定されるものではなく、例えば、半円形状、三角形状、矩形状に形成することが考えられる。また、凹部の幅、深さは櫛歯と同様にカットされる髪の量に合わせて設定すればよいが、凹部の幅については、櫛歯の幅を超えない幅の範囲内で設定することが好ましい。凹部の幅を櫛歯の幅よりも広くすると、カット後にカットされずに残った髪を櫛溝から引き抜くときに、髪が凹部の刃と接触して傷つけられる虞があるからである。
【0015】
以下に、本発明の実施例を図に基づいて説明する。
【実施例】
【0016】
図1には、実施例1に係る梳鋏10が示されており、図2には、図1における梳鋏10のA−A部分拡大図が示されている。梳鋏10は、櫛刃体100と、棒刃体200とが枢着軸300により枢着されてなる。櫛刃体100は、刃部110と指環120とを備える。刃部110は、櫛歯111と櫛溝112とが交互に連設されている。櫛歯111は基端部111aから先端部111bにかけて真っ直ぐに伸びた直線状に形成されている。そして、櫛歯111は、基端部111aから先端部111bに向かうにつれてその厚みが薄くなっており、先端部111bには刃113が形成されている。
【0017】
棒刃体200は、刃部210と、指環220とを備える。棒刃体200の刃部210の刃幅B−Bは、櫛刃体100の刃部110の刃幅C−Cのおよそ3分の2に形成されており、図2に示すように、櫛刃体100と棒刃体200とを閉じた状態で、棒刃体200の刃縁211と櫛溝112との間に空隙Xができるようになっている。棒刃体200の刃縁211には、略半円形状の凹部212と直線部211aとが交互に形成されている。
【0018】
図3には棒刃体200の刃部210が示されている。凹部212は、櫛刃体100と棒刃体200とを閉じたときに、櫛歯111の先端部111aが重なる位置に形成されており、その開口幅は櫛歯111の先端部111bの幅よりも狭く形成されている。そして、刃縁211には、凹部212の内部にのみ刃213が形成されており、直線部分211aには刃が形成されておらず、面取り加工のみがされている。
【0019】
図4には、梳鋏10により、髪がカットされるときの様子が示されている。カットは櫛刃体100と棒刃体200との間に髪束をくわえた状態にして、櫛刃体100と棒刃体200とを閉じることによって行われるが、このとき、櫛歯111によって髪束はカットされる髪と、カットされない髪とに振り分けられる。つまり、髪束は櫛歯111の先端部111bで捉えられた髪と、櫛歯111の先端部111bから逃げて櫛溝112に振り分けられた髪とに分けられる。そして、櫛歯111の先端部111bに捉えられた髪は、櫛歯111と凹部212とが重なり始めるとともに櫛歯111の先端部111bに形成される刃113と、棒刃体200の凹部212に形成された刃213との双方によって剪断されることとなる。一方、櫛溝112に振り分けられた髪は、櫛歯111の刃113及び凹部212の刃213のいずれにも接触しないのでカットされることがない。
【0020】
そして、櫛刃体100と棒刃体200とを閉じきってカットを終えた後は、カットされずに残った髪を櫛溝112から引き抜くようにして梳鋏10を移動させるのであるが、このとき、櫛溝112と相俟って空隙Xを形成する棒刃体100の刃縁211の直線部211aには刃が形成されていないので、櫛溝112に残った髪が刃に触れることがない。
【0021】
このように、本実施例に係る梳鋏10は、棒刃体200の刃縁211のうち櫛歯111の先端部111bと重なり合う位置に凹部212を形成し、この凹部212の内部にのみ刃213を形成したものであり、これにより櫛歯111と凹部212とで捉えられた髪だけを切れ味を損なわずにカットできる。また、棒刃体200の刃縁211には凹部212にのみ刃213が形成され、直線部211aには刃が形成されないので、櫛溝112に入り込んでカットされなかった髪を、櫛溝112から引き抜いて梳鋏10を移動するときにも、髪が刃に触れて傷つくことがない。
【0022】
尚、上記実施例では、凹部の形状を略半円形としているが、これに限定されるものではなく、例えば、図5に示すような略矩形状の凹部としてもよいし、図6に示すような略三角形状の凹部としてもよい。また、櫛歯の形状も直線状に限られるものではなく、例えば、図7に示すように、櫛歯111を枢着軸300を中心とした同心円弧状に形成してもよい。また、櫛歯の先端部の形状も図8(イ)〜(ハ)に示すように、先端部の一端に凸部を形成した山型状に形成してもよいし、図8(ニ)に示すように、面取り加工を行っても良い。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】実施例1に係る梳鋏を開いた状態で示した正面図である。
【図2】図1の梳鋏のA−A部分拡大図である。
【図3】実施例1に係る梳鋏の棒刃体の刃部の斜視図である。
【図4】実施例1に係る梳鋏で髪がカットされる状態を示した図である。
【図5】実施例1の係る梳鋏の棒刃体の刃部の他の実施形態を示した斜視図である。
【図6】実施例1の係る梳鋏の棒刃体の刃部の他の実施形態を示した斜視図である。
【図7】実施例1に係る梳鋏の他の実施形態を示した正面図である。
【図8】実施例1に係る梳鋏の櫛歯の先端部の他の実施形態を示した図である。
【図9】従来の梳き鋏を開いた状態で示した正面図である。
【図10】従来の梳き鋏で髪がカットされる状態を示した図である。
【図11】梳鋏を閉じた状態で、髪が櫛溝に入り込んだ状態を示した図である。
【符号の説明】
【0024】
10 梳鋏
100 櫛刃体
111 櫛歯
111b 先端部
112 櫛溝
200 棒刃体
211 刃縁
212 凹部
213 刃

【特許請求の範囲】
【請求項1】
櫛歯と櫛溝とが交互に設けられた櫛刃体と、棒刃体とが枢着されてなる梳鋏であって、
前記棒刃体の刃縁には、前記櫛刃体と前記棒刃体とを閉じるときに前記櫛歯の少なくとも先端部と重なり合う位置に凹部が形成されており、該凹部の内部にのみ刃が形成されていることを特徴とする梳鋏。
【請求項2】
凹部の開口幅が、櫛歯の先端部の幅よりも狭く形成されていることを特徴とする請求項1記載の梳鋏。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2007−244548(P2007−244548A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−70418(P2006−70418)
【出願日】平成18年3月15日(2006.3.15)
【出願人】(390038209)足立工業株式会社 (24)
【Fターム(参考)】