説明

椅子及びこれと机との組合せ

【課題】 主として大学の講義室等で使用される椅子11において、前後の机1,1の間で人が出入りするスペースを十分に確保できるようにする。
【解決手段】 本発明に係る椅子11は、床面Fに固定されたベース12と、ベース12に対して下端部回りに前後回動可能に取り付けられた脚柱13と、脚柱13の上端部に設けられたガイド手段16で前後スライド可能に支持された座体14とを備える。ベース12には、脚柱13を常時前向きに回動させるように付勢するゴム体を設ける。ガイド手段16には、座体14を脚柱13に対して常時前向きにスライドさせるように付勢する引張りばねを設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として大学の講義室等で使用される椅子の構造、及びこれと机との組合せに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、大学の講義室等では、1つの机(長机)に対して複数人が並んで講義を受けられるように、床面に固定された左右一対の支柱で机天板を下方から支持してなる机が、前後に適宜間隔を空けて並列状に配置され、各机の後方には一人掛けの椅子が複数個(人数分)配置されている。
【0003】
通常、前後の机の配置間隔は余り大きくないことが多いので、各机の後方に配置される椅子は、非使用時には前方に移動させて、座体を机天板の下方に収容すると共に背もたれを机天板の後端縁に接近させ、使用時には後方に移動させて人が着座し得るように構成されている。
【0004】
この種の椅子としては主に2つのタイプのものが知られている。その1つは、床面に固定されたベースに対して、座体が固着された脚柱を前後回動可能に設けたものである(例えば特許文献1参照)。もう1つは、床面に立設固定された脚柱に対して座体を前後スライド可能に設けたものである(例えば特許文献2参照)。
【特許文献1】特許第2815341号公報
【特許文献2】実用新案登録第3016453号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、前者のタイプの椅子では、座体が脚柱に固着され、座体が脚柱と共に一体的に前後回動することから、使用状態(人が着座して机に向かう状態)を基準にして、脚柱を支持するベースの固定位置を決めると、離席するに際しては、座体及び背もたれと前方の机天板との間隔が近い(狭い)ので離席し難い。
【0006】
逆に、離席する際に座体及び背もたれと前方の机天板との間隔が大きく空くように、脚柱を支持するベースの固定位置を決めると、例えば身長の低い人等が当該椅子に座った場合に、前方の机天板の後端縁と背もたれとの間隔が空き過ぎるため、机に向かった状態では背もたれに寄り掛かり難い。
【0007】
以上のように、前者のタイプの椅子では、着座者の体形や離着席のし易さ等を考慮して座体及び背もたれの位置を調節することができないから、使い勝手が悪いという問題があった。その上、着座者の後ろを別の人が通る場合は、着座者は一々少し腰を浮かして(中腰になって)座体及び背もたれを前向き回動させなければならず、面倒であるという問題もあった。
【0008】
他方、後者のタイプの椅子では、座体を前後にスライドさせることにより、着席時の座体及び背もたれの位置を調節することは可能である。
【0009】
しかし、後者の構成では、座体を前後スライドさせる機構と当該座体との大きさの関係上、座体の摺動ストローク(前後スライド可能距離)には限界があり、且つ脚柱を床面に固定する構造であるから、脚柱の固定位置をできるだけ前方の机に近付けなければ、非使用時に、前方へスライドさせた座体及び背もたれと、後方の机又は壁等との間のスペースを十分に確保するのが難しいという問題があった。この問題を回避すべく、脚柱の固定位置を前方の机に近付けると、着座者の足元に脚柱が位置することになり、当該脚柱が邪魔になるという別の問題を招来するのであった。
【0010】
そこで、本発明は、以上のような問題を解消した椅子、及びこれと机との組合せを提供することを技術的課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この技術的課題を解決するため、請求項1の発明に係る椅子では、床面に固定されたベースと、当該ベースに対して下端部回りに前後回動可能に取り付けられた脚柱と、この脚柱の上端部に設けられたガイド手段(支持手段又は座受け部と言ってもよい)で前後スライド可能に支持された座体とを備えている。前記ベースと前記脚柱とのうち少なくとも一方には、前記脚柱を常時前向きに回動させるように付勢する脚柱用付勢部材が設けられている。前記ガイド手段には、前記座体を前記脚柱に対して常時前向きにスライドさせるように付勢する座体用付勢部材(座体用付勢手段と言ってもよい)が設けられている。
【0012】
請求項2の発明では、請求項1に記載した椅子において、前記脚柱は、後ろ向き回動させた状態では側面視で後ろ斜め上向きの傾斜状に起立している。
【0013】
請求項3の発明では、請求項1又は2に記載した椅子において、前記脚柱用付勢部材を弾性を有するゴム体としている。そして、このゴム体は、前記脚柱の下端部のうちその回動支軸よりも下方で且つ前面部位に常時当接するように前記ベースに配置されている。
【0014】
本発明は、請求項4に記載したように、請求項1〜3のいずれかに記載した椅子と机との組合せも含んでいる。この請求項4の発明では、床面に固定された支柱で机天板を支持してなる机が、前後に適宜間隔を空けて並列状に配置されている。前記各机の後方には、請求項1〜3のいずれかに記載した椅子が配置されている。前記椅子には、着座した人の背を支持する背もたれを備えている。そして、前記脚柱を前向き回動させた状態では、前記背もたれの前面と前記机天板の後端縁との間に適宜隙間が空くように設定されている。
【発明の効果】
【0015】
請求項1の構成において、着席するために座体を後方に引き出すと、ガイド手段における座体用付勢部材の付勢力に抗して、前記座体が脚体に対して後方へスライドするとともに、脚柱用付勢部材の付勢力に抗して、前記脚柱が下端部回りに後ろ向き回動する。
【0016】
逆に、前記椅子から離席した場合は、前記座体が前記座体用付勢部材の付勢力により自動的に前方にスライドする。そして、前記座体がある程度前方までスライドすると、前記脚柱用付勢部材の付勢力により、前記脚柱が下端部回りに前向き回動する。
【0017】
従って、前記椅子の使用時には、前記座体を前後にスライドさせることにより、着座者の体形や離着席のし易さ等に合わせて前記座体の位置を調節することができ、着座者にとって使い勝手がよいものとなる。
【0018】
非使用時には、前記脚柱を含めた椅子全体を前方の机に近付けることができるから、前後の机間や机とその後方の壁との間等の限られた配置スペースの中であっても、前記椅子と後方の机又は壁等との間のスペース(人が出入りするスペース)を十分に広く確保することが容易に行える。
【0019】
以上のことから、請求項1に係る椅子によると、座体を前後にスライドさせて前記座体の位置を調節することにより着座者の使い勝手に配慮したものでありながら、非使用時には、椅子の存在が邪魔にならず、椅子と後方の机又は壁等との間のスペースをスムーズに人が出入りすることができ、人の足が後方の机側の支柱や椅子側のベースに衝突したりつまずいたりするおそれもなくなるという効果を奏する。
【0020】
請求項2の構成によると、椅子の使用時には、脚柱が後方斜め上向きの傾斜状に起立することになるので、着座した人の体重及び椅子の自重に起因して、前記椅子全体には、これを下端部回りに下向き回動(更なる後傾動)させる方向にモーメントが作用する。このモーメントの作用により、前記椅子の使用時には、例えば着座者が少し腰を浮かしたりしても、前記脚柱が前記脚柱用付勢部材の付勢力で安易に前向き回動することがなくなるので、前記椅子の使い勝手が向上するという効果を奏する。
【0021】
請求項3のように、弾性を有するゴム体を脚柱用付勢部材として採用すると、構造が簡単で故障し難いし、部品点数も少なくて済むのでコストの抑制に寄与できるという効果を奏する。
【0022】
請求項4の構成によると、非使用時には、脚柱に対する最前位置にある背もたれの前面と前方の机天板との後端縁との間に、適宜隙間が空くことになるので、前記前方の机天板と前記背もたれとの衝突を防止することができる。これにより、衝撃音の発生がなくなるだけでなく、前記机天板や前記背もたれの保護に対しても効果的である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下に、本発明を具体化した実施形態を図面(図1〜図9)に基づいて説明する。図1は講義室用の椅子と机との配置関係を示す側面図、図2は同じく平面図、図3のうち(a)はベースを上面側から見た斜視図、(b)はベースを下面側から見た斜視図、図4はベースと脚柱との関係を示す分解斜視図、図5は脚柱の前後回動態様を示す一部切欠き側断面図、図6はガイド手段の分解斜視図、図7は座受ブロック体の分解斜視図、図8はガイド手段の正断面図、図9のうち(a)は座体が脚体に対する最前位置にあるときのガイド手段の側断面図、(b)は座体が脚体に対する最後位置にあるときのガイド手段の側断面図である。
【0024】
まず最初に、本実施形態における机と椅子との全体概要について説明する。
【0025】
図1及び図2に示すように、本実施形態の机1は、平面視横長矩形状の机天板2と、この机天板2を下方から支持する左右一対の支柱3,3とを備えている。各支柱3の下端に溶接等で固定されたベース体4を床面Fにアンカーボルト(図示せず)で強固に固定することにより、各支柱3が床面Fに対して立設されている。各支柱3は側面視で前斜め上向きの傾斜状に起立している。
【0026】
なお、各机天板2の上面のうち前寄りの箇所には、電力用コードや通信用コード等に接続するためのコンセントボックス5が各座席箇所に対応するように設けられている(実施形態では3箇所)。なお、図1に示す最前列の机1のように、各机1における左右一対の支柱3,3の間には幕板6を架設することができる。
【0027】
この実施形態では、複数の机1が前後に所定間隔L1(略450mm程度)を空けて並列状に配置されている。前後に並ぶ机1,1の間には、複数個の椅子11(実施形態では3個)が左右に所定間隔W(略160mm程度)を空けて横並びに配置されている。
【0028】
次に、図1及び図2だけでなく図3〜図9を参照しながら、各椅子11の構成について説明する。
【0029】
各椅子11は、床面Fに固定されたベース12と、当該ベース12に対して下端部回りに前後回動可能に枢着された縦長の脚柱13と、この脚柱13の上端部に設けられたガイド手段16で前後スライド可能に支持された座体14と、当該座体14の後端上部に一体的に設けられた背もたれ15とを備えている。
【0030】
この実施形態の椅子11は、最前位置(図1の一点鎖線状態及び図9(a)参照)から最後位置(図1の実線状態及び図9(b)参照)までの摺動ストロークL2(略170mm程度)で、座体14及び背もたれ15が脚柱13に対して前後スライドすると共に、前方斜め上向きの最前傾位置(図1及び図5の二点鎖線状態参照)から後方斜め上向きの最後傾位置(図1及び図5の実線状態参照)までの回動ストロークθ(略14°程度)で、脚柱13がベース12に対して筒状の回動支軸30(詳細は後述する)回りに前後回動するように構成されている。
【0031】
図3及び図4に示すように、ベース12は、アルミダイカスト等の金属製又は合成樹脂製であって正面視略凸型に形成されたものである。ベース12の左右両水平部21,21には、上下方向に貫通する取付け穴22がそれぞれ2箇所ずつ形成されている。当該各取付け穴22に上方から挿入されたアンカーボルト(図示せず)を床面Fにねじ込むことにより、ベース12は床面Fに対して強固に固定されている。この実施形態では、椅子におけるベース12及び座体14の後端から後方の机天板2の前端縁までの前後距離L3が略292.5mm程度に設定されている(図1及び図2参照)。
【0032】
ベース12の中央凸部23には、脚柱13の下端部を上方から差し込み装着するための嵌合穴24が上下に貫通するように形成されている。この実施形態では、嵌合穴24は前後に長い平面視略楕円形状に形成されている。この中央凸部23のうち嵌合穴24を挟んで左右両側の側壁には、左右方向の同心状に貫通する左右一対の枢支穴25,25が、それぞれ嵌合穴24に連通するように形成されている。中央凸部23の内周部のうち各枢支穴25よりも下方で且つ相対向する前後2箇所には、下向き及び半径内向きに開口する上下長手の装着溝26,26が凹み形成されている。
【0033】
図4及び図5に示すように、ベース12における中央凸部23の上面には、中央部に脚柱13が貫通する楕円穴37を有する蓋カバー体36が取り付けられている。蓋カバー体36のうち楕円穴37を挟んで前後両側には、前後長手のガイド溝38,38が形成されている。当該蓋カバー体36は、ベース12の中央凸部23上に、各ガイド溝38に上方から挿通したねじ29でねじ止めされている。そして、蓋カバー体36は、脚柱13の前後回動に連動して、ベース12の中央凸部23上をガイド溝38に沿った前後方向に摺動することにより、常時脚柱13と嵌合穴24との隙間を塞いで指詰めを防止するように構成されている。
【0034】
なお、図4及び図5に示すように、中央凸部23における内周部の後端上部側に(更には前端上部側にも)、NBRゴム等の軟質弾性材からなる平面視略円弧状の緩衝体27を取り付けてもよい。このような緩衝体27を内周部における前後端の上部側に取り付けておくと、脚柱13が後ろ向き回動するに際しては、脚柱13における下端部の後面が緩衝体27に当接することにより、後ろ向き回動の衝撃が吸収されるから、振動及び衝撃音の低減と、脚柱13及びベース12の保護とに効果を発揮する。
【0035】
図4〜図6に示すように、脚柱13は、ベース12の嵌合穴24に対応するように断面略楕円筒状に形成された金属製のものである。脚柱13の下端部には、左右方向に貫通する軸穴がバーリング加工等により形成されている。当該軸穴には、補強用の筒状部材28が脚柱13の内側又は外側からの溶接で固着されている。筒状部材28の左右両端部には、環状ブッシュ29,29が嵌め込み装着されている。なお、脚柱13の断面形状は、略楕円形に限らず、小判形や角筒状等の形状を採用することができる。
【0036】
ベース12の嵌合穴24に脚柱13の下端部を上方から差し込んだ状態で、筒状の回動支軸30が一方の枢支穴25から筒状部材28を経て他方の枢支穴25にまで挿通されている。回動支軸30の両端部には、当該回動支軸30の直径よりも大径の頭部を有する固定ピン32がワッシャ31を介してねじ込み装着されている(図3及び図4参照)。これにより、脚柱13の下端部は、ベース12における中央凸部23の左右両側壁に対して回動支軸30回りに前後回動可能で、且つ嵌合穴24から抜け不能に構成されている。
【0037】
ベース12における嵌合穴24の長径寸法は、脚柱13の前後方向の外径寸法よりも大きく、且つ脚柱13の前後回動角度θを適宜範囲(略14°程度)に規制するような寸法に設定されている。従って、脚柱13(ひいては椅子11)の回動ストロークθは、脚柱13における下端部の前後面がベース12における中央凸部23の内周部の前後上寄り箇所に当たることによって所定角度(実施形態では略14°程度)に規制されている。
【0038】
これにより、脚柱13は、前向き回動させた状態(脚柱13における下端部の前面が中央凸部23における内周部の前端上寄り箇所に当接した状態)では側面視で前方斜め上向きに傾斜する一方、後ろ向き回動させた状態(脚柱13における下端部の後面が中央凸部23における内周部の後端上寄り箇所(緩衝体27)に当接した状態)では側面視で後ろ斜め上向きの傾斜状に起立することになる。
【0039】
脚柱13が後ろ向き回動して側面視で後ろ斜め上向きの傾斜状に起立した状態では、その上端部に設けられた座体14はほぼ水平になっている(図1の実線状態参照)。また、図1及び図2に示すように、脚柱13を前方斜め上向きの最前傾位置まで前向き回動させた状態(特に図1の二点鎖線状態参照)では、脚柱13に対する最前位置にある背もたれ15の前面と前方の机天板2との後端縁との間に、微小間隔の隙間L4が空くように設定されている。なお、嵌合穴24の短径寸法は、脚柱13の下端部を左右方向にずれ不能に保持するような寸法に設定されている。
【0040】
ベース12における中央凸部23の内周部に凹み形成された前後の装着溝26には、合成樹脂製等の弾性を有する平面視略台形状のゴム体33a(33b)が下方から嵌め込み装着されている。これら各ゴム体33a(33b)の下面側では、平面視略矩形板状の受け金具34が下方からのねじ35でベース12の下面に固定されている。これにより、各ゴム体33a(33b)はベース12の装着溝26から抜け不能に構成されている。
【0041】
前装着溝26に嵌め込まれた前ゴム体33aは、脚柱13の下端部のうちその回動支軸30よりも下方の前面に常時当接するように設定されている。脚柱13は、この前ゴム体33aの弾性付勢力により常時前向き回動する方向に付勢されている。従って、この実施形態では、前装着溝26に嵌め込まれた前ゴム体33aが特許請求の範囲に記載した脚柱用付勢部材に相当する。
【0042】
後ろ装着溝26に嵌め込まれた後ろゴム体33bは、主に脚柱13の前向き回動による衝撃を吸収するための緩衝体としての役割を担っている。また、副次的には、脚柱13が後ろ向き回動する際の推進力として、当該脚柱13における下端部の後面に回動支軸30回りの時計方向の付勢力を加える役割も担っている。
【0043】
図6〜図9に示すように、ガイド手段16は、座体14の下面にねじ止めされた断面下向きコ字状の座受体41と、脚柱13の上端部に固定された前後開放略箱型の座受ブロック体42とを備えている。
【0044】
座受体41における左右両側板43,43の内面には、前後長手で断面略コ字状の案内レール44,44が溶接等で固定されている。また、当該各案内レール44の下板と、各側板43の下縁部を内向きに折り曲げてなる縁板部とにより、補助レール45が形成されている。従って、座受体41における左右の側板43,43の内面には、上側に案内レール44が下側に補助レール45が互いに平行状に配置されている。
【0045】
一方、略箱型の座受ブロック体42の左右両側板には、前後長手のフランジ片46,46が左右外向きに突設されている。これら各フランジ片46には、摩擦係数の小さい素材からなる断面コ字状のスライダ部材47が被嵌されている。
【0046】
座受ブロック体42の下面側には、当該座受ブロック体42の下板と左右両側板とに沿う上向き略コ字状の姿勢調節板48,49が前後に並べて配置されている。
【0047】
前姿勢調節板48は、その左右両側板部の後端寄り部位を座受ブロック体42の左右両側板に対して一対の枢支ねじ50,50で枢着することにより、当該両枢支ねじ50,50回りに上下揺動回動可能に構成されている。前姿勢調節板48における左右両側板部の前端下寄り箇所には、左右一対の転動ローラ51,51が取り付けられている。前姿勢調節板48の平板部と座受ブロック体42の下板との間には、複数の圧縮ばね52(実施形態では2個)が側面視で転動ローラ51の略直下に位置するように設けられている。
【0048】
後ろ姿勢調節板49は、その左右両側板部の前後中途部位を座受ブロック体42の左右両側板に対して一対の枢支ねじ53,53で枢着することにより、当該両枢支ねじ53,53回りに上下揺動回動可能に構成されている。後ろ姿勢調節板49における左右両側板部の後端上寄り箇所には、左右一対の転動ローラ54,54が取り付けられている。後ろ姿勢調節板49の平板部と座受ブロック体42の下板との間には、複数の圧縮ばね55(実施形態では2個)が側面視で枢支ねじ53よりも前方下側に位置するように設けられている。
【0049】
座受ブロック体42の上下両板に形成された挿通穴56には、脚柱13の上端部が嵌め込まれて溶接等で固定されている。
【0050】
この実施形態では、座受体41の左右両案内レール44,44に座受ブロック体42の左右両スライダ部材47,47を嵌め込むと共に、座受体41の左右両補助レール45,45に座受ブロック体42の転動ローラ51,54群を嵌め込むことにより、座受体41(ひいては座体14及び背もたれ15)が座受ブロック体42(ひいては脚柱13)に対して前後スライド可能に支持されている。
【0051】
この場合、前姿勢調節板48側の左右両転動ローラ51,51は、圧縮ばね52の押圧付勢力により、座受体41における左右両側板43,43の縁板部に上方から密着している。後ろ姿勢調節板49側の左右両転動ローラ54,54は、圧縮ばね55の押圧付勢力により、座受体41における案内レール44の下板に下方から密着している。
【0052】
左右両案内レール44,44の前端部及び座受体41のうち左右両案内レール44,44の後端部に臨む箇所には、合成樹脂製等で左右一対のクッション体57,57が取り付けられている。座受体41の座受ブロック体42に対する摺動ストロークL2は、これらクッション体57,57に左右両スライダ部材47,47の前端又は後端が当接することによって所定距離(実施形態では略170mm程度)に規制されている。
【0053】
座受体41の後端と座受ブロック体42の前端との間には、左右一対の引張りばね58,58が装架されている。これにより、座受体41(ひいては座体14及び背もたれ15)は、座受ブロック体42(ひいては脚柱13)に対して常時前向きにスライドするように付勢されている。従って、この実施形態では、左右両引張りばね58,58が特許請求の範囲に記載した座体用付勢部材に相当する。
【0054】
なお、座受体41及び座受ブロック体42は、脚柱13が前後スライド可能な状態で貫通する前後長手の長穴60を有するカバー体59で下方から覆われている。このカバー体59は座体14の下面にねじ止めされている。
【0055】
以上の構成において、椅子11に着席するために、背もたれ15の上端部を持って座体14及び背もたれ15を後方に引き出すと、ガイド手段16における左右両引張りばね58,58の弾性に抗して、座体14及び背もたれ15が脚体13に対する最後位置(図1の実線状態及び図9(a)参照)まで後方へスライドすると共に、ベース12内の前ゴム体33aの弾性に抗して、脚柱13が後方斜め上向きの最後傾位置(図1及び図5の実線状態参照)まで回動支軸30回りに後ろ向き回動する。その結果、椅子11は図1に実線で示す着座姿勢となる。
【0056】
椅子11の使用時、すなわち椅子11が着座姿勢のときには、脚柱13が後方斜め上向きの傾斜状に起立しているので、着座した人の体重や椅子11の自重に起因して、椅子11全体には、これを回動支軸30回りに下向き回動(更なる後傾動)させる方向(図1の矢印M方向参照)にモーメントが作用する。この場合、脚柱13の下端部のうちその回動支軸30よりも下方の前面は、ベース12内の前ゴム体33aに押し付けられ、その結果、脚柱13が後方斜め上向きの最後傾位置に安定的に保持されることになる。従って、椅子11の使用時には、例えば着座者が少し腰を浮かしたりしても、脚柱13が安易に前向き回動することがなく、当該椅子11の使い勝手(着座感)がよいのである。
【0057】
椅子11から離席した場合は、座体14及び背もたれ15が、左右両引張りばね58,58の弾性復原力により自動的に前方にスライドする(図1の一点鎖線状態参照)。そして、座体14及び背もたれ15が脚体13に対する最前位置(図1の一点鎖線状態及び図9(a)参照)付近まで前方にスライドすると、ベース12内の前ゴム体33aの押圧付勢力により、脚柱13が前方斜め上向きの最前傾位置(図1及び図5の二点鎖線状態参照)まで回動支軸30回りに前向き回動する。その結果、椅子11は図1に二点鎖線で示す収容姿勢となる。
【0058】
この場合、座体14が前方の机天板2の下側空間に入り込むと共に背もたれ12が机天板2の後端縁に近接することに加えて、脚柱13が前方斜め上向きに傾斜状に保持されるから、非使用時には、脚柱13を含めた椅子11全体を前方の机1に近付けることができる。これにより、椅子11が収容姿勢のときには、前後の机1,1間の限られた配置スペースの中であっても、椅子11と後方の机1との間のスペース(人が出入りするスペース)を十分に広く確保することが容易に行える。
【0059】
従って、この実施形態の椅子11によると、座体14を前後にスライドさせることにより、着席時の座体14及び背もたれ15の位置を調節し得るものでありながら、非使用時には、椅子11の存在が邪魔にならず、椅子11と後方の机1との間のスペースをスムーズに人が出入りでき、人の足が後方の机1側の支柱3や椅子11側のベース12に衝突したりつまずいたりするおそれもなくなるのである。
【0060】
また、椅子11が収容姿勢のときには、脚柱13に対する最前位置にある背もたれ15の前面と前方の机天板2との後端縁との間に、微小間隔の隙間L4を空けていることにより、前方の机天板2と背もたれ15との衝突が防止されるので、衝撃音の発生がなくなるだけでなく、机天板2や背もたれ15の保護に対しても効果的である。
【0061】
さらに、この実施形態では、脚柱用付勢部材として合成樹脂製の前ゴム体33aを採用したので、構造が簡単で故障し難いし、部品点数も少なくて済むのでコストの抑制にも寄与することができるのである。
【0062】
本発明は、前述の実施形態に限らず、様々な態様に具体化できる。例えば、座体14を前後スライド可能とするガイド手段16の構成は、前述の形態に限らず、座受体41の左右両案内レール44と座受ブロック体42の間にリテーナで自転可能に保持された多数個のボールを一列状に介挿して、座受体41ひいては座体14を軽い力で前後スライド可能とするサスペンション手段であってもよい。座体は前傾状態で自重によって前向きスライドさせてもよい。
【0063】
また、特許請求の範囲に記載した各付勢部材は、ゴム体33aや引張りばね58に限らず、ガススプリングや油圧ダンパ等、種々のものを採用することができる。脚柱用付勢部材は、ベースと脚柱とのうち少なくとも一方にあればよい。
【0064】
その他、各部の構成は図示の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】講義室用の椅子と机との配置関係を示す側面図である。
【図2】同じく平面図である。
【図3】(a)はベースを上面側から見た斜視図、(b)はベースを下面側から見た斜視図である。
【図4】ベースと脚柱との関係を示す分解斜視図である。
【図5】脚柱の前後回動態様を示す一部切欠き側断面図である。
【図6】ガイド手段の分解斜視図である。
【図7】座受ブロック体の分解斜視図である。
【図8】ガイド手段の正断面図である。
【図9】(a)は座体が脚体に対する最前位置にあるときのガイド手段の側断面図、(b)は座体が脚体に対する最後位置にあるときのガイド手段の側断面図である。
【符号の説明】
【0066】
1 机
2 机天板
3 支柱
11 椅子
12 ベース
13 脚柱
14 座体
15 背もたれ
16 ガイド手段
23 中央凸部
24 嵌合穴
25 枢支穴
26 装着溝
30 回動支軸
33a,33b ゴム体
41 座受体
42 座受ブロック体
44 案内レール
45 補助レール
47 スライダ部材
48 前姿勢調節板
49 後ろ姿勢調節板
50 枢支ねじ
51 転動ローラ
52 圧縮ばね
53 枢支ねじ
54 転動ローラ
55 圧縮ばね
58 引張りばね

【特許請求の範囲】
【請求項1】
床面に固定されたベースと、当該ベースに対して下端部回りに前後回動可能に取り付けられた脚柱と、この脚柱の上端部に設けられたガイド手段で前後スライド可能に支持された座体とを備え、
前記ベースと前記脚柱とのうち少なくとも一方には、前記脚柱を常時前向きに回動させるように付勢する脚柱用付勢部材が設けられ、前記ガイド手段には、前記座体を前記脚柱に対して常時前向きにスライドさせるように付勢する座体用付勢部材が設けられている、椅子。
【請求項2】
前記脚柱は、後ろ向き回動させた状態では側面視で後ろ斜め上向きの傾斜状に起立している、
請求項1に記載した椅子。
【請求項3】
前記脚柱用付勢部材は弾性を有するゴム体であり、このゴム体は、前記脚柱の下端部のうちその回動支軸よりも下方で且つ前面部位に常時当接するように前記ベースに配置されている、
請求項1又は2に記載した椅子。
【請求項4】
床面に固定された支柱で机天板を支持してなる机が、前後に適宜間隔を空けて並列状に配置され、前記各机の後方には、請求項1〜3のいずれかに記載した椅子が配置され、
前記椅子には、着座した人の背を支持する背もたれを備え、
前記脚柱を前向き回動させた状態では、前記背もたれの前面と前記机天板の後端縁との間に適宜隙間が空くように設定されている、
椅子と机との組合せ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−122460(P2006−122460A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−316370(P2004−316370)
【出願日】平成16年10月29日(2004.10.29)
【出願人】(000139780)株式会社イトーキ (833)
【Fターム(参考)】