説明

椅子

【課題】オフィスにおける着座者の動作により良く適合し得る新規有用な椅子を新たに提供する。
【解決手段】背凭れ3の幅方向中央を縦断する中心線mが、着座者の右肩上がりの挙動若しくは右肩下がりの挙動に追従して左右に傾倒し得るように背凭れ3を可動とした

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オフィス等において好適に適用される椅子に係り、ワーカーの挙動に適合したバックアップ機能を与える背支持装置、座支持装置及び椅子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
オフィス等で使用される椅子は、長時間のデスクワーク等を考慮して、体を適切にバックアップすべく、執務中の体に負担が掛からないための背座の形状や角度、リフレッシュや安息のためのチルト機能やロッキング機能など、様々な工夫が凝らされている。
【0003】
しかしながら、オフィス等においては、片肘にもたれ足を組む等して休息したり、着座したまま振り向いて側方ないし斜め後方のワーカーと簡単なやりとりをしたり、書類その他の物品を周辺に移動させるケース等が少なくない。このような場合、前後方向の動作に重点をおいて作られている従来の椅子では、背が動作の妨げになることは多々あり得る。
【0004】
オフィスで使用される椅子ではないが、従来とは異なる体の動きに配慮したものとして、特許文献1に示すように、自動車において後方確認等のために必要な体の動きをバックアップし得るようにした自動車用座席の機能が提案されている。この座席は、幅方向中心を縦断する位置に回転軸を設け、下半部と独立に設けた背の上半部をこの回転軸回りに回転させることで、体のひねり動作に対応するようにしたものである。
【特許文献1】実公平4−34111号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、かかる座席機能は、確かにハンドルを握ったままで振り向く動作をバックアップするものとしては適しているかも知れないが、オフィス等で行なわれる動作をバックアップする機能としては必ずしも妥当しない。オフィス等においては、上述した着座時に安息や周辺へのアクセスを行なう際に背骨を動かさずに背骨を中心に体をねじるといった上記特許公報の如き動作はむしろ不自然であり、実際には右肩を上げ下げしながら、体を傾ける挙動を伴うものである。
【0006】
本発明は、このような知見に基づき、オフィスにおける着座者の動作により良く適合し得る新規有用な椅子を新たに提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、かかる目的を達成するために、次のような手段を講じたものである。
すなわち、本発明の椅子は、背凭れの幅方向中央を縦断する中心線が、着座者の右肩上がりの挙動若しくは右肩下がりの挙動に追従して左右に傾倒し得るように背凭れを可動としたことを特徴とする。
【0008】
一般的な椅子において着座したまま体の重心を幅方向に移動させれば、右肩が上がり下がりしながら、背骨が左右に傾くのが通例である。本発明によれば、まさにこのような動作を背凭れに行わせることで、着座者と背凭れとの相対関係を維持することができ、着座者が動いても背凭れが邪魔にならず、かつ適切なサポート状態を持続することが可能となる。
【0009】
簡素な構成で上記の機能を実現するためには、背凭れが略前後方向の回動支点回りに回動動作を行うように構成しておくことが有効である。
【0010】
背凭れを背の動きにより適切に追従させるためには、背凭れの下端近傍の右側縁部及び左側縁部に回動支点となり得る基点を設け、背反的に左右の基点の何れか一方を回動支点、他方を遊動点として背凭れが左右への回動動作を行うようにしておくことが望ましい。
【0011】
回動支点が左右の基点間で入れ替わる動作に対応するためには、基点を背凭れに固定した軸部とし、この軸部を背支桿側に設けた軸受部に軸支させて、背凭れの回動時に回動支点となる軸部を軸受部に軸支させたままで遊動点となる軸部を軸受部から遊離させるようにしておくことが好適である。
【0012】
この場合の好ましい実施の態様としては、軸受部が長孔を有する支持部材の長孔下端に設定され、遊動する軸部がこの長孔に沿って当該長孔上端まで遊動するようにしているものが挙げられる。
【0013】
或いは、回動支点が左右の基点間で入れ替わる動作に対応するための他の構成としては、基点が背凭れに設けた軸受部であって、この軸受部を背支桿側に設けた軸部に軸支させておき、背凭れの回動時に回動支点となる軸受部を軸部に軸支させたままで遊動点となる軸受部を軸部から遊離させるようにしているものも好適である。
【0014】
この場合の好ましい実施の態様としては、軸受部が長孔を有する支持部材の上端に設定され、遊動する軸受部がこの長孔に沿って軸部を長孔下端まで遊動させるようにしているものが挙げられる。
【0015】
目的・用途に応じて適切な利用を可能とするためには、軸部が止着具を兼ね、この止着具を支持部材に締着することによって背凭れを選択的に固定し得るようにしておくことが望ましい。
【0016】
本発明の他の構成からなる椅子として、背凭れの幅方向中央を縦断する中心線が、着座者の右肩上がりの挙動若しくは右肩下がりの挙動に追従して左右に傾倒ないし湾曲し得るように背凭れを可撓としたものであっても、上記に準じた作用効果が奏される。
【0017】
着座者の動きにより的確に対応するためには、着座者の右肩上がりの挙動に伴う平面視左回りのねじり動作、若しくは、着座者の右肩下がりの挙動に伴う平面視右回りのねじり動作に追従して、背凭れがそのねじり方向に向きを変え得るものであることが望ましい。
【0018】
このような機能を簡素に実現するためには、背凭れの背面に形成した可動面が背支桿側に形成したバックアップ面上を異なる曲率の下に接触して幅方向に転動するように構成しているものが効果的である。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、以上説明した構成であるから、着座者が安息したい方向やアクセスしたい方向に体を傾ける挙動を行なっても背凭れを邪魔にならないように追従させ、これにより適切なバックアップ状態を維持できるようにした新規有用な背支持装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
【0021】
図1及び図2に示す本実施形態の椅子は、背支桿1に背支持装置2を介して背凭れ3を支持するものであり、その背支持装置2は、座8に着座した着座者の側方ないし斜め後方へのねじり動作や側方への倒れ動作に適合すべく、背凭れ3を同方向に可動に支持する機能を備えている。また、この椅子はランバーサポート4を備え、そのランバーサポート4を簡単な構造及び操作を通じて所望の突出量、高さ位置にダイレクトに調節できるようにしている。
【0022】
具体的に説明すると、背支桿1は対をなして後上方に突設され、その突出端にブラケット11を介してバックアップ部材12を横架してなるもので、このバックアップ部材12は図3等に示すように前面をバックアップ面12aとする金属板状をなし、中央の平坦部12xに隣接させて、左右の端部に至る領域に塑性変形加工によって所定曲率の湾曲部12yを形成している。また、背支桿1の腰椎対応付近には、ブラケット13を介して図2及び図4等に示す軸受部材14が取り付けてある。この軸受部材14は、略上下方向に延びる長孔141aを開口させた立壁141を有し、この立壁141を背凭れ3の下方側縁に対向する部位に位置づけている。
【0023】
一方、背凭れ3は、図1及び図2等に示すように、弾性を有する比較的硬質な樹脂製の背凭れインナーシェル31の前面側に図示しないクッション材を貼着し、その上より張地33を背面に亘る部位まで被覆したもので、背凭れインナーシェル31の成形時に、バックアップ部材12の対応部位に図3及び図5等に示す可動部材34を一体成形している。この可動部材34は後面を可動面34aとする板状をなし、中央の平坦部34xに隣接させて、左右の端部に至る領域に前記バックアップ面12aよりも大きい所定曲率の湾曲部34yを形成している。そして、この可動面34aを前記バックアップ面12aに対面する位置に配置している。すなわち、バックアップ面12aと可動面34aとの対向距離dは、湾曲部12y、34yにおいて中心から幅方向へ変位するにつれて漸次広がる関係をなすように設定してあり、両面12a、34aが添接した状態で可動面34aがバックアップ面12aに対して例えば図3→図5のように接触位置を変えつつ転動し、背凭れ3が図5において矢印で示すように向きを変え得るようにしている。
【0024】
また、本実施形態は、図2、図3、図6及び図7等に示すように、背凭れインナーシェル31の成形時に可動部材34に連続する位置に断面アングル状の補助部材35を一体成形している。この補助部材35は、可動面34aとの間に所定の空隙P(図7参照)を形成する位置に規制面35aを設けたもので、規制面35aは幅方向中央から端部に至る領域に後方に凸となる緩やかな曲面を2つ連接した形態をなし、前記空隙Pは下方に解放されている。そして、これら可動部材34及び補助部材35をバックアップ部材12に上方から被せることによって、可動面34aと規制面35aとの空隙P内にバックアップ面12aを相対揺動可能に収容している。すなわち、可動面34aが揺動していない図3の状態では、バックアップ面12aと規制面35aとの間の少なくとも幅方向中央以外の部分にクリアランスCを確保し、図5に示す揺動端で規制面35aをバックアップ面12aに当接させてそれ以上の可動面34aの揺動を規制するようにしている。図においては規制面35aの端縁35axがバックアップ面12aに局所的に当接しているが、湾曲に沿って幅広く当接させるようにしてもよい。また、バックアップ面12aと規制面35aとの間における前記幅方向中央部に、ウレタン等の圧縮性素材やバネ素材等からなる付勢手段36を介在させており、これにより補助部材35を後方に付勢して、可動面34aをバックアップ面12aに押し付けるようにしている。
【0025】
さらに、この背凭れ3には、図2及び図4等に示すように、下端近傍の右側縁部及び左側縁部に回動支点となり得る基点たる軸部37を、前記背支桿1側に設けた軸受部材14の略上下方向に延びる長孔141aに貫通させた上で固定しており、長孔141aの下端を軸受部14xとして利用して、背反的に左右の軸部37の何れか一方を回動支点、他方を遊動点とすることによって、図4に想像線で示すように背凭れ3に左右への回動動作を行わせ得るようにしている。そして、遊動点となる軸部37を軸受部14xから解離し、長孔141aに沿って当該長孔141aの上端まで遊動させ得るようにしている。また、本実施形態では前記軸部37をボルト状のものにして止着具としての役割を兼ねさせており、立壁141に向かって締め着けることによって背凭れ3を選択的に軸受部材14に傾動不能に固定し得るようにしている。
【0026】
このように構成される背凭れ3は、傾動可能な状態下にあっても下方を背支桿1側に前記軸部37及び軸受部材14を介して少なくとも前後方向に固定されるが、上方は前記可動面34aが少なくともバックアップ面12aに前後方向に添接する以外に基本的に拘束を受けない。このため、着座者から背凭れ3に対して中心から幅方向へ変位した位置に図5に矢印Wで示すような偏った荷重が作用した場合に、主として背凭れ3を構成する背凭れインナーシェル31の弾性を利用して当該背凭れ3の上方を下方に対してねじり変形させつつ、可動面34aをバックアップ面12aに対して接触部分を移動させながら転動させ、バックアップ面12aとともに背凭れ3の上部の向きを左右に変更することとなる。
【0027】
また、着座者が右肩上がりの挙動若しくは右肩下がりの挙動を行い、背凭れ3に背面視右回り又は左回りに旋回する方向の付勢力(例えば図4における矢印T)が作用した場合には、軸部35及び軸受部材14を介して背凭れ3が回動し、その幅方向中央を縦断する中心線mを図4に想像線で示すように着座者の右肩上がりの挙動若しくは右肩下がりの挙動に追従させて傾倒させ得るようにしている。適宜の部位に樹脂バネ等を配置して傾倒した背凭れ3を通常位置に復帰させるようにしてもよい。
【0028】
このような構成に加えて、背支桿1の腰椎対応部分には、図2等に示すように、前記ブラケット13を利用してランバーサポート4を位置決めし且つ上下方向にガイドするための本発明に係るガイド部たるガイド部材5が取り付けてある。このガイド部材5は樹脂製のもので、図8に示すように前後に対をなす対向壁51、52の間に形成した長孔5aにランバーサポート軸着用の金属製の支軸6を挿通して上下移動させ得るものであり、その一部が支軸6と協働してランバーサポート4に対する上下位置決め機構Aを構成している。
【0029】
この上下位置決め機構Aは、前記支軸6と、この支軸6を係合させるべく前記ガイド部材5の対向壁52の前向き面に上下方向に沿って間欠位置に設けた部分円筒状の凹所53とからなるもので、この凹所53において対向壁51,52間を前後方向に拡開させている。
【0030】
そして、ガイド部材5の一部、具体的には前方の対向壁51の幅方向中間位置に設けた板状の弾性体54を、支軸6の挿通方向から見た場合に長孔5aを狭める位置に配しており、これにより支軸6が何れの凹所53に係合した状態にあっても図9(a)に示すように当該支軸6を凹所53に向けて弾性付勢するとともに、同図(b)に示すように弾性体54に抗して凹所53、53間を支軸6が移動し得るようにしている。かかる上下位置決め機構Aの弾性体54は、支軸6を凹所53に押し付けることで支軸6に回転抵抗を付与し、回り難くして、ランバーサポート4の上下位置のみならず回転角度をも仮保持する作用をなしている。
【0031】
一方、背凭れ3側は、図1及び図2等に示すように、前記背凭れインナーシェル31のうちランバー領域31aにU字形のスリット31bを設けて弾性変形可能としており、前記ガイド部材5の外壁をそのランバー領域31aの側方に対応させて背支桿1に固定し、ランバー領域31aに対応させてランバーサポート4を位置づけている。すなわち、ランバーサポート4はこのランバー領域31aを弾性変形させながらクッション材32を前方に押圧する位置に配される。勿論、背凭れインナーシェル31の一部を切除して弾性変形可能な樹脂板を配置することで対応する構造を妨げるものではない。
【0032】
このような構成により、支軸6が上下移動すれば、凹所53ごとに支軸6が係合してその高さ方向の位置決めがなされることになる。凹所53は弾性体54より付勢される方向に存するため、着座者から背凭れ3に荷重を掛ければ、支軸6はより強く凹所53に押し付けられて係合する。
【0033】
そして、かかる支軸6の左右両端に、背凭れ3の左右の縁部近傍に位置づけて図1及び図10に示すグリップ状の操作部7を設け、着座者が着座した状態で腕を後方に回して左右の操作部7を把持し、これにより支軸6の上下移動操作をなし得るようにしている。
【0034】
このとき、支軸6が上下方向に移動するにつれて間欠的に左右の凹所53に係合し、係合する度に支軸6がクリックストップしてクリック感が支軸6を介して体感されるため、上記支軸6と凹所53との係合は位置決め機能と別の見方をすれば支軸6の水平を保ちながら移動させるための手掛かりとなるものである。また、前述した凹所53は水平に延びる部分円筒面をなしているため、この凹所53の形状も支軸6を水平に誘導する手掛かりを与え得る。
【0035】
他方、この実施形態におけるランバーサポート4は、図2等に示すように、角柱状のブロック部41と、このブロック部41の柱軸nから変位した部位に形成した支軸取付部42とを樹脂一体成形してなるもので、この支軸取付部42に支軸6を軸着するためのねじ等による回り止め部43を設け、各ブロック部41の略平坦な面を図12(a)〜(d)に示すようなサポート面S(S(1)、S(2)、S(3)、S(4))となすとともに、隣接するサポート面S、S間に角丸部Rを設けている。そして、その支軸取付部42に前記支軸6を取り付け、回り止め部43で両者を一体回転可能に固定している。
【0036】
すなわち、各サポート面Sは、所定回転位置で図11(a)に示すように仮に均等に荷重Fを受ける受圧面となっている状態で、同図(b)に矢印Vで示すようにランバーサポート4が回転変位しようとすると、その回転により前方に移動する領域(図ではサポート面Sの下半部)が背凭れ3に接近して、回転により後方に移動する領域(サポート面Sの上半部)よりも優先して荷重Fの受圧を負担する。換言すれば、各サポート面Sが受圧面となるとき、支軸6からの距離が最も小さい部位を受圧の中心位置とする姿勢でランバーサポート4は安定し、そこからランバーサポート4が支軸6からの距離を増大させる方向に回転しようとすると、着座者からランバーサポート4に対してその距離を小さくする方向の押圧力が発生するため、ランバーサポート4は安定方向に戻ろうとし、結果的にランバーサポート4を前記所定回転位置に安定保持する作用が営まれる。そして、図12に示すようにサポート面Sの支軸6からの距離L(L(1)、L(2)、L(3)、L(4))が基本的に異なるため、何れのサポート面S(S(1)、S(2)、S(3)、S(4))が受圧面になるかによって、サポート面Sの突出量(すなわちL)を変化させ得るようにしている。
【0037】
そして、前述した操作部7を着座したまま両手で把持して回転操作を加えた場合には、支軸6とともにランバーサポート4が回転して、所望のサポート面Sが選択可能となる。
【0038】
なお、着座者から背凭れ3に荷重が掛からない状態で、最も突出量の小さいサポート面S(3)が受圧面となったときでも背凭れ3の背面の樹脂板31aが押圧されてクッション材32がやや圧縮された状態にあるように、支軸6の位置を規定している。また、サポート面S(2)とS(4)とは支軸6の設定上、そこからの距離L(2)、L(4)が本実施形態では同距離となっているが(図12における(b)、(d)参照)、これらが受圧面となるときの支軸6を基準とした高さ位置が異なるため、回転を利用した簡便な高さ位置変更機能を有するものということができる。
【0039】
なお、図示しないが、背支桿1には当該背支桿1や背凭れ3の背面に付帯する機構部品を隠蔽するアウターシェルが取り付けられる。このアウターシェルの一形態として、その内側の一部に背凭れ1に向かって周回状に突出する壁部を有し、その壁部の外壁であって後方から隠蔽可能な位置に背支桿を配置するとともに、内側の空洞に前述した機構部品を収容する構造が考えられるが、この場合、前述した張地33の背凭れ背面への巻き込みは、その壁部の周囲に密着させてこれを包囲するような状態で取り付けることが好適である。
【0040】
以上のように、本実施形態の椅子は、背凭れ3の幅方向中央を縦断する中心線mが、着座者の右肩上がりの挙動若しくは右肩下がりの挙動に追従して左右に傾倒し得るように背凭れ3を可動としたものである。
【0041】
すなわち、着座者が着座したままで重心を幅方向に移動させる際には、右肩が上がり下がりしながら、背骨が左右に傾く挙動を伴うのが通例である。本実施形態によれば、まさにこのような動作を背凭れ3に行わせることで、着座者と背凭れ3との相対関係を一定に保ち、着座者が動いても背凭れ3が追従して邪魔にならず、適切なサポート状態を持続するといった有用な効果を奏することが可能となる。
【0042】
この観点から見た場合、基本的に背凭れ3を略前後方向の回動支点回りに回動させるようにしているだけなので、簡素に構造であり、また、背の動きの少ない部位に回動支点を位置づけることで、体の動きとの間に大きな不一致が生じることも有効に防止することができる。
【0043】
すなわち、本実施形態では、背凭れ3の下端近傍の右側縁部及び左側縁部に回動支点となり得る基点を軸部37によって設け、背反的に左右の軸部37の何れか一方を回動支点、他方を遊動点として背凭れ3に左右への回動動作を行わせるようにしているが、着座者が体を左右に傾ける挙動を行なうときには腰の左側縁又は右側縁あたりはさほど動かないので、この部位に支点を位置づけることで背凭れ3を背の動きに適切に追従させることができる。
【0044】
その軸部37は、背支桿1側に設けた軸受部14xに軸支させておき、背凭れ3の回動時に回動支点となる軸部37を軸受部14xに軸支させたままで遊動点となる軸部37を軸受部14xから遊離させるようにしているので、回動支点が左右の基点間で瞬時に転移する動作も簡単に実現することができる。
【0045】
その際、軸受部14xを長孔141aを有する軸受部材14の長孔下端に設定し、遊動する軸部37をこの長孔141aに沿って当該長孔上端まで遊動させるようにしているので、遊動する軸部37をガイドできるだけでなく、軸部37と軸受部材14との間で適切な作動抵抗を与えることができ、また、遊動端を規制して背凭れ3の可動範囲を有効に制限することができる。
【0046】
また、軸部37が止着具を兼ね、この止着具を軸受部材14に締着することによって背凭れ3を選択的に固定し得るようにしているので、目的・用途に応じて、或いは着座者の好みに応じて、背凭れ3の傾倒機能を利用するか否かを簡単に選択することができる。
【0047】
特に、背凭れ支持装置2が、着座者から背凭れ3に掛かる荷重Wが背凭れ3の幅方向中心より同方向に偏った場合に、可動面34aを左右に向きを変えて追従させ得るようにも構成されており、上述した背の傾動動作とあいまって、着座者の右肩上がりの挙動に伴う平面視左回りのねじり動作、或いは、着座者の右肩下がりの挙動に伴う平面視右回りのねじり動作に追従して、背凭れ3をそのねじり方向に姿勢変更できるようにしている。
【0048】
このため、着座者の安息時や周辺へのアクセス時に体をねじりながら右肩上がりや右肩下がりの傾倒動作を複合的に行う場合にも、着座者の挙動に背凭れ3をより的確に従動させることが可能となる。
【0049】
特に、体を捩る際は、背中のうちの背骨に平行な部分が背凭れ3に接触しながら体の転動とともに背骨から離れる方向に移動するのが自然な動きであるが、本実施形態では、背凭れ3の背面に形成した可動面34aが背支桿1側に形成したバックアップ面12a上を異なる曲率の下に接触して幅方向に転動するように構成しており、全体として背凭れ3に着座者とほぼ同じ動きを与えて、背の動きに背凭れ3を適切に追従させることが可能となる。
【0050】
なお、各部の具体的な構成は、上述した実施形態のみに限定されるものではない。
【0051】
例えば、図13に示すように、基点として背凭れ3に軸受部114xを設け、この軸受部114xを背支桿1側に設けた軸部137に軸支させて、背凭れ3の回動時に回動支点となる軸受部114xを軸部137に軸支させたままで遊動点となる軸受部114xを軸部137から遊離させるようにしてもよい。このような構成によっても、回動支点が左右の基点間で転移する動作を簡単確実に与えることができる。
【0052】
この場合、軸受部114xが長孔141aを有する軸受部材14の上端に設定され、遊動する軸受部114xがこの長孔141aに沿って軸部137を長孔下端まで遊動させるように構成することで、遊動する軸受部114xを支持できるだけでなく、上記実施形態と同様に軸部137と軸受部材14との間で適切な作動抵抗を与えることができ、また、遊動端を規制して背凭れ3の可動範囲を有効に規定することができる。
【0053】
また、背凭れ3を傾倒させる代わりに、図14に示すように、背凭れ3の幅方向中央を縦断する中心線mが、着座者の右肩上がりの挙動若しくは右肩下がりの挙動に追従して左右に傾倒ないし湾曲し得るように背凭れ3を可撓としても、上記に準じた作用効果を得ることができる。この場合、背凭れ3全体を可撓変形可能に構成してもよいが、図示のように背凭れ3の下端近傍の側縁に背凭れ3の傾倒動作を促す括れ部3pを設けることで、背凭れ3それ自体の自立保形性をある程度有効に保ちつつ、所要の動作を効果的に実現することができる。
【0054】
その他の構成も、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の一実施形態に係る椅子の斜視図。
【図2】同分解斜視図。
【図3】同一部破断した平面図。
【図4】同背面図。
【図5】同作用説明図。
【図6】同一部破断した側面図。
【図7】図6の要部拡大図。
【図8】同実施形態におけるガイド部材の拡大斜視図。
【図9】同実施形態における上下位置決め機構の作用説明図。
【図10】同実施形態における操作部の取り扱い説明図。
【図11】同実施形態におけるランバーサポートの作用説明図。
【図12】同実施形態におけるランバーサポートの作用説明図。
【図13】本発明の変形例を示す図。
【図14】本発明の他の変形例を示す図。
【符号の説明】
【0056】
3…背凭れ
37…基点(軸部)
m…中心線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
背凭れの幅方向中央を縦断する中心線が、着座者の右肩上がりの挙動若しくは右肩下がりの挙動に追従して左右に傾倒し得るように背凭れを可動としたことを特徴とする椅子。
【請求項2】
背凭れが略前後方向の回動支点回りに回動動作を行うように構成している請求項1記載の椅子。
【請求項3】
背凭れの下端近傍の右側縁部及び左側縁部に回動支点となり得る基点を設け、背反的に左右の基点の何れか一方を回動支点、他方を遊動点として背凭れが左右への回動動作を行う請求項1記載の椅子。
【請求項4】
基点が背凭れに固定した軸部であって、この軸部を背支桿側に設けた軸受部に軸支させておき、背凭れの回動時に回動支点となる軸部を軸受部に軸支させたままで遊動点となる軸部を軸受部から遊離させるようにしている請求項3記載の椅子。
【請求項5】
軸受部が長孔を有する支持部材の長孔下端に設定され、遊動する軸部がこの長孔に沿って当該長孔上端まで遊動するようにしている請求項4記載の椅子。
【請求項6】
基点が背凭れに設けた軸受部であって、この軸受部を背支桿側に設けた軸部に軸支させておき、背凭れの回動時に回動支点となる軸受部を軸部に軸支させたままで遊動点となる軸受部を軸部から遊離させるようにしている請求項3記載の椅子。
【請求項7】
軸受部が長孔を有する支持部材の上端に設定され、遊動する軸受部がこの長孔に沿って軸部を長孔下端まで遊動させるようにしている請求項6記載の椅子。
【請求項8】
軸部が止着具を兼ね、この止着具を支持部材に締着することによって背凭れを選択的に固定し得るようにしている請求項4〜7記載の椅子。
【請求項9】
背凭れの幅方向中央を縦断する中心線が、着座者の右肩上がりの挙動若しくは右肩下がりの挙動に追従して左右に傾倒ないし湾曲し得るように背凭れを可撓としたことを特徴とする椅子。
【請求項10】
着座者の右肩上がりの挙動に伴う平面視左回りのねじり動作、若しくは、着座者の右肩下がりの挙動に伴う平面視右回りのねじり動作に追従して、背凭れがそのねじり方向に向きを変え得るものである請求項1〜9記載の椅子。
【請求項11】
背凭れの背面に形成した可動面が背支桿側に形成したバックアップ面上を異なる曲率の下に接触して幅方向に転動するように構成している請求項10記載の椅子。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2007−130349(P2007−130349A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−328204(P2005−328204)
【出願日】平成17年11月11日(2005.11.11)
【出願人】(304046982)コクヨファニチャー株式会社 (112)
【出願人】(000108627)タカノ株式会社 (250)
【Fターム(参考)】