説明

椅子

【課題】背板と背凭れフレームの両者の支持剛性を向上させて強固な支持力を得るとともに、背板が後方に効果的に弾性変形しうるようにして、快適な座り心地が得られるようにした椅子を提供する。
【解決手段】背板3における枠部4の左右両側部の上下複数箇所を、背凭れフレーム2における左右の縦フレームにより、前後方向に移動不能に支持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、座体の後部から上方に延出した背凭れフレームの前面に、合成樹脂等の硬質弾性体からなる背板を支持してなる椅子に関する。
【背景技術】
【0002】
背凭れフレームの前面に、硬質弾性体からなる背板を取り付けた椅子は、たとえば特許文献1により公知である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−128785号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載される発明においては、背板の上部に上下方向の長孔を穿設し、この長孔と、背凭れフレームの上部に設けた突軸とを係合させて上下方向への移動を可能とするとともに、背凭れフレームの下部に、円弧状で上向きに開口する左右方向の嵌合溝を設けた包持片を前向きに突設し、背板に、前記包持片と対応する位置に、前記嵌合溝に上方より圧嵌される左右方向の膨出部を設けて、背板を背凭れフレームに支持してある。
これにより、背板が後向きに撓曲可能となっている。しかし、この背板においては、着座者を左右側方から包み込むような撓曲は得られない。
また、背板は、全体が硬質弾性材よりなり、その左右両側部を、支持枠の左右の縦杆により支持してあるので、着座者の背中による後向きの荷重によって、背板を後方に効果的に弾性変形させるのが難しい。
【0005】
本発明は、背板と背凭れフレームの両者の支持剛性を向上させて強固な支持力を得るとともに、着座者の背中による後向きの荷重によって、背板が後方に効果的に弾性変形しうるようにし、快適な座り心地が得られるようにした椅子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によると、上記課題は、特許請求の範囲における各請求項に記載するように、次のようにして解決される。
(1)座体の後部から上方に延出する背凭れフレームと、この背凭れフレームによって、その前面側に支持された背板とを備える椅子において、前記背板は、左右両側部と上下両端部を高剛性とした枠部と、この枠部により囲まれた内方に形成され、多数の開口を設けることにより、弾性変形可能とした可撓部とを備え、前記背凭れフレームは、前面が前記枠部の左右両側部の後面と対向する左右1対の縦フレームを備え、前記背板における枠部の左右両側部の上下複数箇所を、前記左右の縦フレームにより、前後方向に移動不能に支持する。
【0007】
このような構成とすると、高剛性とした枠部の左右両側部の上下複数箇所を、背凭れフレームにおける左右の縦フレームにより、前後方向に移動不能に支持したことにより、着座者の背中による後向きの荷重によって、背板の可撓部を後方に効果的に弾性変形させることができ、快適な座り心地が得られるとともに、背板の支持剛性も大となる。
【0008】
(2)上記(1)項において、左右1対の縦フレームの上部同士を互いに連結する。
【0009】
このような構成とすると、背凭れフレームの強度が大となるので、背板の可撓部が後方に弾性変形し易くなる。
【0010】
(3)上記(1)または(2)項において、枠部の左右両側部の後面と、背凭れフレームにおける左右の縦フレームの前面との対向面のいずれか一方に、上下複数の係合部を、かつ他方に、複数の係止部をそれぞれ設け、この係止部を前記係合部に嵌合させることにより、背板を背凭れフレームの前面により前後方向に移動不能に支持する。
【0011】
このような構成とすると、ねじ等を使用することなく、係止部を係合部に嵌合させるだけの簡単な作業で、背板を背凭れフレームの前面により前後方向に移動不能に支持することができる。
【0012】
(4)上記(3)項において、係合部を、上面が閉塞された筒状体とするとともに、係止部を、前記筒状体に下方より嵌合可能な上下方向の軸部とする。
【0013】
このような構成とすると、筒状体とした係合部に、軸部とした係止部を、下方より簡単に嵌合することができる。
【0014】
(5)上記(3)項において、複数の係合部の一部を枠部の左右両側部に設け、この係合部を、縦フレームに設けた係止部としての軸部に上方より嵌合可能な上面が閉塞された筒状体とするとともに、他の係合部を、係止部としての他の軸部との対向面が開口され、この開口を弾性変形により拡開させて前記軸部に嵌合可能な平面視弧状の左右1対の係合片よりなるものとする。
【0015】
このような構成とすると、縦フレームに設けた軸部に、枠部の左右両側部に設けた筒状体を上方より嵌合すると、背凭れフレームに対し、背板が下方に移動するのが防止され、この状態で、平面視弧状の左右1対の係合片よりなる他の係合部に、他の軸部を容易に嵌合しうるので、背凭れフレームの前面に背板を簡単に取付けることができる。
【0016】
(6)上記(1)〜(5)項のいずれかにおいて、背板の可撓部の左右両側部と、背凭れフレームにおける左右の縦フレームとの対向面に、撓み空間を設ける。
【0017】
このような構成とすると、背板の可撓部の両側部が、後方に弾性変形し易くなるので、より快適な座り心地が得られる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、高剛性とした枠部の左右両側部の上下複数箇所を、背凭れフレームにおける左右の縦フレームにより、前後方向に移動不能に支持したことにより、着座者の背中による後向きの荷重によって、背板の可撓部を後方に効果的に弾性変形させることができ、快適な座り心地が得られるとともに、背板の支持剛性も大となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明を実施した椅子の側面図である。
【図2】図1におけるII−II線拡大端面図である。
【図3】図2におけるIII−III線断面図である。
【図4】図1におけるIV−IV線拡大端面図である。
【図5】図4におけるV−V線断面図である。
【図6】図1における破線円VI内の要部拡大分解斜視図である。
【図7】同じく、図1における破線円VII内の要部拡大分解斜視図である。
【図8】背板の拡大正面図である。
【図9】背板の拡大背面図である。
【図10】背板を背凭れフレームに支持させる手順を示す図である。
【図11】図8におけるXI−XI線端面図である。
【図12】同じく、図8におけるXII−XII線端面図である。
【図13】同じく、図8におけるXIII−XIII線端面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照して説明する。
図1は、本発明を実施した椅子の側面図、図2は、図1におけるII−II線拡大端面図、図4は、図1におけるIV−IV線拡大端面図、図8は、背板の拡大正面図、図9は、背板の拡大背面図である。
【0021】
図1に示すように、本発明における椅子は、座体1の後部から上方に延出された背凭れフレーム2の前面に、合成樹脂等の硬質弾性体からなる背板3が支持されている。
【0022】
背板3は、図8,図9に示すように、背板3の周縁、すなわち左右側部と上下端部とを高剛性の枠部4とし、このやや縦長のほぼ四角形の枠部4より内方の部位を、着座者の背中による後向きの荷重によって弾性変形する可撓部5としてある。この可撓部5は、前面から後面へ貫通する縦長の開口部6を多数設けることにより弾性変形が容易なように形成されている。
【0023】
背板3と背凭れフレーム2の両者は、図1に示すように、下端部よりも若干上方の部位が、前方へ突出するように屈曲する側面視ほぼくの字状となっている。
【0024】
背板3は、枠部4における前記屈曲部7aと上端近傍とのそれぞれの左右側部において、上下方向の軸線まわりに回動可能に背凭れフレーム2に支持されている。
【0025】
図3は、図2におけるIII−III線断面図、図6は、図1における破線円VI内の要部拡大分解斜視図である。図1〜図3、および図6に示すように、背凭れフレーム2の上端近傍の左右側部に、それぞれ第1係止部8,8が設けられるとともに、背板3の上端近傍の左右側部にそれぞれ第1係合部9,9が設けられ、前記第1係止部8,8を、第1係合部9,9に下方から嵌合させることにより、背板3が背凭れフレーム2に上端部近傍において支持されている。
【0026】
図6に示すように、第1係止部8は、上下方向の第1軸部10をもって形成され、この第1軸部10の後面に設けられた上下方向の支持体11により、背凭れフレーム2の前面に前向きに突設されている。
【0027】
第1係合部9は、横断面がほぼC字状の一端がスリット状に開口する上下方向の筒状体12の上面の一部を閉塞することにより形成されている。第1係止部8における第1軸部10を、第1係合部9における筒状体12内に下方から遊嵌状態で嵌合させるとともに、支持体11を筒状体12におけるスリット状開口13内に嵌挿させることにより、第1軸部10が、上下方向の軸線まわりに筒状体12に対して相対的に回動可能に嵌合されている。
【0028】
図5は、図4におけるV−V線断面図、図7は、図1における破線円VII内の要部拡大分解斜視図である。
【0029】
図1,図4,図5,図7に示すように、背板3の屈曲部7aにおける左右側部に、それぞれ第2係止部14,14が設けられるとともに、背凭れフレーム2の屈曲部7bにおける左右側部に、それぞれ第2係合部15,15が設けられている。この第2係合部15,15に前記第2係止部14,14を前方から嵌合させることにより、背板3が背凭れフレーム2に屈曲部7a,7bにおいて支持されている。
【0030】
図7に示すように、第2係合部15は、左右1対の係合片16,16を、左右方向に適寸離間して設けられるとともに、両係合片16,16の遊端近傍の対向する内面16a,16aを、平面視弧状となるように凹ませることにより形成されている。
【0031】
第2係止部14としての第2軸部17は、前記係合片16よりもやや長い上下方向の軸体18の上下面に、軸体18の径よりもやや大きい上下板19,19を設けることにより形成されている。
【0032】
第2係止部14における軸体18を、前方から第2係合部15における1対の係合片16,16の遊端間の開口20に押しつけて、前記開口20を弾性変形により拡開させて、平面視弧状に形成された対向内面16a,16a間に嵌合させることにより、第2係止部14における第2軸部17が、上下方向の軸線まわりに相対的に回動可能に第2係合部15に嵌合されている。
【0033】
図10は、背板3を背凭れフレーム2に支持させる手順を示す図である。
【0034】
まず、図10(a)、図6に示すように、背板3を背凭れフレーム2の前方上方に位置させて、下方に移動させ、背凭れフレーム2における左右1対の縦フレームの上端近傍に設けられた第1係止部8の第1軸部10を、背板3の枠部4の左右側部における上端部近傍に設けられた第1係合部9の筒状体12に下方から遊嵌状態で嵌合させるとともに、第1軸部10を背凭れフレーム2に固定している支持体11を筒状体12におけるスリット状開口13内に嵌挿させて、図10(b)に示す状態とする。
【0035】
次いで、図10(b)、図7に示すように、背板3の枠部4の左右側部における屈曲部7aに設けられている第2係止部14の軸体18を、背凭れフレーム2の左右1対の縦フレームの屈曲部7bに設けられている第2係合部15における1対の係合片16,16の遊端間の開口20に、前方から押しつけて、前記開口20を拡開させて、両係合片16,16間に嵌合させて、図10(c)に示す状態にする。
【0036】
これにより、背板3は、背凭れフレーム2に、左右側部における上端部近傍および屈曲部7a,7bの4箇所において、充分な強度をもって取付けられ支持される。
【0037】
各支持部においては、軸部10,17が上下方向の軸線まわりに回動可能に支持されている。
【0038】
図11,図12,図13は、それぞれ図8におけるXI-XI線端面図、XII−XII線端面図、XIII−XIII線端面図である。
【0039】
図11に示すように、背板3における枠部4より内方の可撓部5において、屈曲部7aよりも上方の部位における前後方向の肉厚は、左右の枠部4から左右方向の中央へ向かうにしたがって漸次大きくなっている。
【0040】
図11と図12を対比することにより理解されるように、背板3の枠部4より内方の可撓部5において、屈曲部7aよりも上方の部位の前後方向の肉厚D1は、前記屈曲部7aにおける肉厚d1よりも大きく形成されている。
【0041】
さらに、図13に示すように、背板3の前記屈曲部7aよりも上方の可撓部5における上下方向の中央部における前後方向の肉厚D2は、この中央部の上下外方における前後方向の肉厚d2よりも大きく形成されている。
【0042】
このようにすることにより、背板3の屈強部7aより上方の部位における可撓部5の中央部分の過度の撓みが防止され、前記可撓部5における中央部分以外の周辺部分が適度に変位し、図11,図13に破線で示すように、着座者の背を左右上下から包み込むように作用する背板3が得られる。
【0043】
図11,図12に示すように、背板3における枠部4の後面には、上下方向に延びるリブ21a,21bが設けられている。これにより、枠部4の上下方向の曲げ剛性が向上し、好ましい適度の剛性を有する背板3が得られる。
【0044】
図2,図4に示すように、背凭れフレーム2における左右1対の縦フレーム2a,2aの屈曲部7bよりも上方における横断面は、後向きに突出するハ字状に形成されており、縦フレーム2aの前面と、背板3の後面との間には、着座者の背中による後向きの荷重により、背板3の前記可撓部5が後方に撓んで湾曲しうるように、撓み空間22が設けられている。
【0045】
以上、代表的な実施形態を説明したが、たとえば、第1係止部8,第1係合部9と第2係止部14,第2係合部15との両者間で、具体的形態を相互に入れ換えたり、あるいは、背凭れフレーム2と背板3間で、第1係止部8と第1係合部9,または第2係止部14と第2係合部15とを入れ換えたりすることもできる。
【符号の説明】
【0046】
1 座体
2 背凭れフレーム
2a 縦フレーム
3 背板
4 枠部
5 可撓部
6 開口部
7a,7b 屈曲部
8 第1係止部
9 第1係合部
10 第1軸部
11 支持体
12 筒状体
13 スリット状開口
14 第2係止部
15 第2係合部
16 係合片
16a 対向内面
17 第2軸部
18 軸体
19 上板、下板
20 開口
21a,21b リブ
22 撓み空間


【特許請求の範囲】
【請求項1】
座体の後部から上方に延出する背凭れフレームと、この背凭れフレームによって、その前面側に支持された背板とを備える椅子において、
前記背板は、左右両側部と上下両端部を高剛性とした枠部と、この枠部により囲まれた内方に形成され、多数の開口を設けることにより、弾性変形可能とした可撓部とを備え、
前記背凭れフレームは、前面が前記枠部の左右両側部の後面と対向する左右1対の縦フレームを備え、
前記背板における枠部の左右両側部の上下複数箇所を、前記左右の縦フレームにより、前後方向に移動不能に支持したことを特徴とする椅子。
【請求項2】
左右1対の縦フレームの上部同士を互いに連結したことを特徴とする請求項1記載の椅子。
【請求項3】
枠部の左右両側部の後面と、背凭れフレームにおける左右の縦フレームの前面との対向面のいずれか一方に、上下複数の係合部を、かつ他方に、複数の係止部をそれぞれ設け、この係止部を前記係合部に嵌合させることにより、背板を背凭れフレームの前面により前後方向に移動不能に支持したことを特徴とする請求項1または2記載の椅子。
【請求項4】
係合部を、上面が閉塞された筒状体とするとともに、係止部を、前記筒状体に下方より嵌合可能な上下方向の軸部としたことを特徴とする請求項3記載の椅子。
【請求項5】
複数の係合部の一部を枠部の左右両側部に設け、この係合部を、縦フレームに設けた係止部としての軸部に上方より嵌合可能な上面が閉塞された筒状体とするとともに、他の係合部を、係止部としての他の軸部との対向面が開口され、この開口を弾性変形により拡開させて前記軸部に嵌合可能な平面視弧状の左右1対の係合片よりなるものとしたことを特徴とする請求項3記載の椅子。
【請求項6】
背板の可撓部の左右両側部と、背凭れフレームにおける左右の縦フレームとの対向面に、撓み空間を設けたことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の椅子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−86071(P2012−86071A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−23035(P2012−23035)
【出願日】平成24年2月6日(2012.2.6)
【分割の表示】特願2006−305987(P2006−305987)の分割
【原出願日】平成18年11月10日(2006.11.10)
【出願人】(000000561)株式会社岡村製作所 (1,415)
【Fターム(参考)】