説明

植林装置及びこれを用いた植林システム

【課題】培土上側を含めて全体に片寄り無く安定して雨水を供給することができ、荒漠地の植林などの場合に容器縦寸法を大きく設定しても、初期成長から根が下方に張るまで、常に雨水を最適な状態で必要な箇所に安定供給するでき、これにより土壌の保水性と保肥性が失われた荒漠地において、保肥性・保水性を維持しつつ、土壌劣化を長期にわたり防止し、効率的に樹木の植林を可能にする植林技術を提供する。
【解決手段】地中に一部埋設される上端開口した外側容器2と、該外側容器2内に隙間を介して設けられ、樹木の生育に必要な栄養素を含む培土9が収容される内側容器3とを備え、内側容器3の上端に口部3aを設け、内側容器3の上端が外側容器2の上端開口部2aよりも上方に突出した状態とし、側壁間の隙間には雨水を貯留する貯水部Wを形成し、内側容器3の側壁30に、貯水部Wの雨水を徐々に内側へ浸入させる細孔31を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば保水性・保肥性に欠ける荒漠地土壌においても畝を作らずに樹木を植林できる植林装置及びこれを用いた植林システムに関する。
【背景技術】
【0002】
広範囲に森林の伐採が行われた地面や鉱山の採掘による砂礫土砂がうち捨てられた地面は、自然界の生態系が破壊されることによりエネルギーの調和的な循環サイクルが破壊され、太陽熱により地表の温度は極端に上昇し蒸発により表土は乾燥化すると同時に、降雨により地表面は絶えず洗い流され、土中に吸収された水分は土中の栄養素を溶出し流失させるために、いわゆる土壌が痩せて殆どの樹木の生育が阻害される環境にある。このように一定の降雨はあるが森林の伐採等により土壌の養分が失われ樹木の生育が困難な植栽不適地を荒漠地というが、このような荒漠地に植林を行い、本来の自然の生態系を回復することは二酸化炭素の削減など環境問題の解決のための大きな課題である。
【0003】
一方、草花、野菜、観葉植物等の種々の植物を家庭内で栽培するための植物栽培装置としては、栽培用水を収容する水槽と、該水槽内の下部側に設けた空気噴出手段と、底部に吸水体挿通穴及び通気穴が形成され、前記栽培用水の水面との間に空気層を形成した状態で該水槽に載置され、内部に植生土壌を収容する栽培用容器と、該栽培用容器の吸水体挿通穴に挿通されて垂下し、前記水槽内の栽培用水に浸漬される吸水体とから構成してなる植物栽培装置が提案されている(特許文献1参照)。しかし、このような従来の家庭用の植物栽培装置では、下方に溜まった水道水を上側に移動させるため、家庭で生育させる上記草花等では可能であっても、荒漠地の植林などの場合、根が長く容器も比較的縦長のものも適用できるためには、このような従来装置の水分供給構造では、初期成長期に必要となる培土上側への安定した水分供給ができず、採用することができない。
【0004】
【特許文献1】特開2002−272275号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明が前述の状況に鑑み、解決しようとするところは、培土上側を含めて全体に片寄り無く安定して雨水を供給することができ、荒漠地の植林などの場合に容器縦寸法を大きく設定しても、初期成長から根が下方に張るまで、常に雨水を最適な状態で必要な箇所に安定供給するでき、これにより土壌の保水性と保肥性が失われた荒漠地において、雨水中に肥料成分等を含ませることで、保肥性・保水性を維持しつつ、土壌劣化を長期にわたり防止し、効率的に樹木の植林を可能にする植林技術を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、前述の課題解決のために、地中に一部埋設される上端開口した外側容器と、該外側容器内に隙間を介して設けられ、樹木の生育に必要な栄養素を含む培土が収容される内側容器とを備え、前記内側容器の上端に生育した樹木が延び出ることのできる口部を設け、前記内側容器の上端を前記外側容器の上端開口よりも上方に突出させ、前記内側容器および外側容器の側壁間の隙間に、上端開口から入る雨水を貯留する貯水部を設け、前記内側容器の前記貯水部に臨む側壁に、該貯水部に溜められている雨水を徐々に内側へ浸入させる細孔を設けてなることを特徴とする植林装置を構成した。
【0007】
ここで、前記外側容器の周囲に、該外側容器の上端開口縁部より外側下方に延び、地表に支持されて当該外側容器の傾斜ないし転倒を防止する姿勢保持片を設けたものが好ましい。
【0008】
更に、前記外側容器の底部に接続されるとともに前記内側容器の内部に連通可能な開口部を有し、同じく樹木の生育に必要な栄養素を含む培土が収容される下側連結容器を設けたものが好ましい。
【0009】
また、前記内側容器内に上部所定空間を残して培土を収容するとともに、該空間に別途成形した発芽ベッドを装着することが好ましい。
【0010】
また本発明は、上記した植林装置を用いた植林システムであって、前記内側容器に収容される培土内の水分を測定する水分測定センサーと、前記貯水部に対してホースを介して水又は液肥入り水を供給する水供給装置と、前記水分測定センサーからの信号を受け、内側容器の培土内の水分を最適状態に維持するべく、前記水供給装置の水供給を制御する制御コンピュータとよりなることを特徴とする植林システムをも提供する。
【発明の効果】
【0011】
以上にしてなる本願発明によれば、外側容器と内側容器の間の貯水部に雨水ないしポンプ等で供給される水を溜めて、内側容器内の培土に、外部から供給される樹木の生育に必要な栄養素ならびに土壌の劣化を防止するための有用なバクテリアやミミズの繁殖を可能にする酸素を、上記雨水に溶けた溶液の状態で供給することが可能となり、樹木にとり最適な土壌環境を維持し、保水性と保肥性を確保しつつ土壌の劣化を防止する該装置により植林が可能となる。したがって、広範な地域を客土することなく保水・保肥性を最適に維持しつつ、培土の土壌品質の劣化を防止し、荒漠地や降雨量の極端に少ない砂漠地においても長期にわたり適切な植林を行うことができる。
【0012】
特に、外側容器と内側容器の二重構造とし、隙間に形成される貯水部から内側容器側壁の細孔を通じて、該貯水部に溜まる雨水を横方向に徐々に内側の培土へ浸入させる構造を有するので、従来のように下方に溜まった雨水を上側に移動させるものに比べ、培土上側を含めて全体に片寄り無く安定して雨水を供給することができ、内側容器の縦寸法を大きく設定しても、初期成長から根が下方に張るまで、常に雨水を最適な状態で必要な箇所に安定供給することが可能である。具体的には、好ましくは内側容器側壁の細孔を通じて毛細管現象と水の浸透圧の両方を利用して雨水が移動するものであり、内側容器内部の土壌が渇水状態であれば多くの水が浸透し、逆に飽和状態であれば水分の移動は起こらない。
【0013】
また、外側容器の周囲に、該外側容器の上端開口縁部より外側下方に延び、地表に支持されて当該外側容器の傾斜ないし転倒を防止する姿勢保持片を設けたので、軟弱な地盤や雨水、風などで本装置全体が移動、傾斜、転倒するのを防止することができ、従来のように植林する樹木の周囲の土を盛り土して畝を作る作業は不要となる。また強力な流水がきても樹木が流されたり周辺の土壌が失われることはない。
【0014】
また、前記外側容器の底部に接続されるとともに前記内側容器の内部に連通可能な開口部を有し、同じく樹木の生育に必要な栄養素を含む培土が収容される下側連結容器を設けたので、植林される樹木が根部の長い直根系統の樹木の場合にも根に負担を掛けることなく生育を補助することができる。
【0015】
また、内側容器内に上部所定空間を残して培土を収容するとともに、該空間に別途成形した発芽ベッドを装着してなるので、発芽ベッドで大量・効率的に発芽させた幼苗を内側容器上部に載せて一体化することができ、手間の省略と定植前の植え替えによる根傷めを未然に防止できる。通常の植林では一般的に「マルチング」とよばれる処理、すなわち樹の根元の周りを水ゴケや「ハイドロボール」等と呼称される多孔質セラミックを敷いて保水や日焼け防止を行う必要があるが、本発明によれば発芽ベッドで別に発芽させた後に一体化するため従来のマルチングが不要となる。
【0016】
また、前記内側容器に収容される培土内の水分を測定する水分測定センサーと、前記貯水部に対してホースを介して水又は液肥入り水を供給する水供給装置と、前記水分測定センサーからの信号を受け、内側容器の培土内の水分を最適状態に維持するべく、前記水供給装置の水供給を制御する制御コンピュータとよりなる植林システムを構成したので、各植林装置への肥料玉や水分等の人力に依る投入を省力化できるとともに、投入量や投入時期を効率良く適切に管理することができ、例えば降雨がゼロないし極端に少ない砂漠地においても植林が容易となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
次に、本発明の実施形態を添付図面に基づき詳細に説明する。
【0018】
図1は、本発明に係る植林装置1により樹木を生育させている植林状態を示す縦断面図であり、図1〜4は植林装置1の第1実施形態、図5、6は第2実施形態を示し、図7は植林装置1を用いた植林システムSを示している。また図中符号1は植林装置、2は外側容器、3は内側容器をそれぞれ示している。
【0019】
本発明の植林装置1は、図1に示すように、地中に一部埋設される上端開口した外側容器2と、該外側容器2内に隙間を介して設けられ、樹木の生育に必要な栄養素を含む培土9が収容される内側容器3とを備えており、特に、内側容器3の上端に生育した樹木が延び出ることのできる口部3aが設けられるとともに、内側容器3の上端が外側容器2の上端開口部2aよりも上方に突出した状態とされ、内側容器3および外側容器2の側壁30、20間の隙間には、上端開口部2aから入る雨水を貯留する貯水部Wが設けられ、更に、内側容器3の前記貯水部Wに臨む側壁30には、該貯水部Wに溜められている雨水(本例の場合、肥料玉8の存在により液肥となる)を徐々に内側(培土9側)へ浸入させる細孔31,…が設けられている。
【0020】
先ず、図1〜4に基づき、本発明の第1実施形態を説明する。
【0021】
外側容器2は、上部が開放された直方体であり、上方ほど径の大きくなる逆台形とされ、これにより雨水を効率よく捉えるように構成されている。ただし、ストレート形状、或いは逆に上方ほど径の小さくなる形状とすることも勿論可能である。また、直方体以外に、内側容器と同様の円筒形やその他の形状とすることもできる。外側容器2の素材としては、木製や紙製、合成樹脂製、特に生分解性樹脂とすることが好ましいが、金属製、その他の素材を採用することもできる。
【0022】
外側容器2の周囲には、上端開口部2aの縁部から外側下方に鋭角に延び、地表に支持されて当該外側容器2の傾斜ないし転倒を防止するための姿勢保持片21が設けられており、軟弱な地盤や雨水、風などで本装置全体が移動、傾斜、転倒するのを防止することができるのである。本例では、開口部2aの四方から4枚、板状の姿勢保持片21がそれぞれ外側容器2の上端開口部2aの縁部にヒンジ部23を介して回動自在に設けられている。ヒンジ部23は動摩擦を調整した蝶番で構成されており、このように姿勢保持片21を回動自在とし、角度調節できるように構成することにより、植林を行う地面の状態、つまり土壌の硬軟や起伏に応じて各姿勢保持片21を最適な角度に姿勢制御するとともに樹木の安定確保を図ることが可能となる。
【0023】
各姿勢保持片21の先端部には、該姿勢保持片21の幅方向に沿って複数の凸部22,…が形成され、外側容器2を地表に設置する際、姿勢保持片21を地表内に容易に差し込むことができるとともに、設置後の横滑りを防止でき、安定した姿勢を保持できるように構成されている。本例では、先端の尖った凸部22が複数連続してノコギリ状に設けられているが、特にこのような形態に何ら限定されず、櫛歯状など種々の形態が採用できる。姿勢保持片21の素材は、外側容器2と同様、木製や紙製、合成樹脂製(例えば生分解性樹脂製)のものが好ましいが、同様に金属製その他の素材で構成することも可能である。また、同素材であれば一体的に成形し、折り曲げた部分をヒンジ部23とすることも可能であり、
【0024】
内側容器3は、円錐形状(フラスコ形状)又は四角錐形状であり、内側容器3の底部34が外側容器2の底部24の隅部に接合され一体化されており、これにより底部34からの雨水の浸入が防止されている。その素材は木製、紙製、合成樹脂製など種々の素材を適用できるが、木や古紙、生分解性樹脂などで構成され、遮光性とすることが好ましい。本例では、底板のない底部34を底部24を構成する底板の隅部に接合したものであるが、底部24、34の双方を底板のあるものとし、上下に重ねるようにしてもよい。また、双方を底板なしに構成し、一つの底部材で両底板を兼用してもよい。
【0025】
底部24には通孔26が設けられており、装置下の地中から培土9への多量の水の浸入を遮断するとともに培土9内の余分な水分を排出でき、培土中の水分を適切にコントロールできるように構成されている。尚、内部の培土の荷重に耐えつつ根が成長した際に容易に突破し、下方の地中又は後述の下側連結容器4内に延びることができるように、底部24を複数の穴やスリットの入った古紙やセメント袋等として使用されている強度のあるクラフト紙ないしヤシなどの天然植物繊維や生分解性樹脂の糸で編んだネット(網)等で構成したり、通孔26を根が貫通できる大きさに設定することが好ましい。
【0026】
内側容器3内に収容される培土9は、植林される樹木に土壌条件を最適に調整されたものであり、培土9は樹木の生育を長期間維持するものであるから、樹木にとり最適な栄養状態に事前に調整されている。
【0027】
側壁30の細孔31は、貯水部Wの雨水(本例では雨水と肥料と酸素が混合した液肥)を毛管管現象と水の浸透圧により内側の培土9側に徐々に浸透させることのできる微小孔とされており、培土の乾燥度合いに応じて貯水部Wで保持されている液肥が培土9に供給されることとなる。この細孔31の数は、側壁30の下側ほど少なくなるように設けられている。これにより下方ほど圧力が大きく浸入しやすくなるにもかかわらず初期に水が必要となる上側に効果的に雨水を供給でき、そこから下方に浸透させることで培土全体に効率よく雨水を供給できる。尚、数だけでなく孔の大きさについても、上方の孔をほど大きく設定することが好ましい。また、外側容器2と内側容器3の間の貯水部Wの空隙は、過給水による根腐れや貯水の水そのものの腐敗を防止するべく、あまり広くなりすぎないように設定することが好ましい。
【0028】
内側容器3上端の口部3aは、図4に示すように成長した樹木の予想幹直径Dよりもやや広い径を有する円形形状に開口したドーム状の蓋部32より構成し、これにより貯水部Wから培土9中に浸入した水分の蒸発を最小限にすることができるとともに生育した木の幹を支えて風等による倒れを防止することができる。この口部3aは外側容器の開口部2aよりも上方位置に開口しているため、貯水部Wの雨水が口部3aから直接浸入することはない。
【0029】
蓋部32は、光を通さない部材で構成されており、例えば内側容器3本体とは別の部材で構成し、上端に接合したものでもよい。蓋部32のみ別に構成する場合、その素材は木製、紙製、合成樹脂製など種々の素材を適用できる。
【0030】
貯水部Wには、肥料及び酸素発生材をボール状に固めてなる肥料玉8が収容されることが好ましく、これが貯水部Wに溜まる雨水に溶けることで植林された樹木にとって最適に調整された肥料その他の栄養素および酸素が溶存した液肥(培液)となり、これが細孔31,…を通じて培土9に徐々に供給されることとなる。肥料玉8は、窒素、りん、カリ、及びその他微量元素を植林される樹木に最適に混合された肥料、並びに酸素発生材をボール状に固めたて固形化したものであり、定期的に貯水部Wに投入することが好ましい。勿論、肥料と酸素玉を別々に収容することも可能である。
【0031】
ここで酸素は土質の劣化を防止するのに有益なバクテリアの土中培養やミミズの養殖を行うために定期的な供給が不可欠である。ちなみに従来の植林の場合のように樹木の周辺地表面に単純に施肥を行うことは、荒漠地では大部分が雨水で茫出してしまい、必要な根部まで行き渡らないし土中で一定の必要量の肥料も保肥することが難しいが、本例の如く貯水部Wに肥料玉8を入れて雨水により液肥を作ることで、確実且つ安定的に培土に対して液肥を供給することが可能となるのである。
【0032】
本例では、図3に示すように、外側容器2の底部24に接続されるとともに内側容器3の内部に連通可能な開口部4aを有し、同じく樹木の生育に必要な栄養素を含む培土9が収容される下側連結容器4が着脱自在に設けられ、もし、植林される樹木が根部の長い直根系統の樹木である場合には、このような下側連結容器4を設けることで長根・直根の樹木も植林も可能となる。
【0033】
本例では、外側容器2の底部24四隅に接合用突起25を設けるとともに、下側連結容器4の開口部4aを底部24と略同じ外形寸法に設定し、当該開口部4aの上辺四隅に、前記突起25に嵌合する凹部40(接合ホゾ)を形成し、これにより着脱自在に接合できるように構成している。尚、このように下側連結容器4を連結して装置を拡張する場合は、底部24の底板は取り外すか、或いは根が容易に突破できる複数の穴やスリットの入った古紙やセメント袋等として使用されている強度のあるクラフト紙ないしヤシなどの天然植物繊維や生分解性樹脂の糸で編んだネット(網)等で構成しておくことが好ましい。
【0034】
次に、図5〜7に基づき、本発明の第2実施形態を説明する。
【0035】
本実施形態では、図5、6に示すように、内側容器3の形状を円筒又は四角筒のストレートの筒状体とし、第1実施形態のような円錐形や四角錐に比べて培養土を容器に詰め易い構造にするとともに、内側容器3内に上部所定空間35を残して培土9を収容するとともに、該空間35に別途成形した発芽ベッド10を装着できるように構成されている。上記第1実施形態においては内側容器3に種子を直接埋設することとなるが、発芽しなかった容器から種子を取り出し新しい種子を埋設する作業が生じ、発芽体と非発芽体の仕分け作業なども加わり作業が煩雑化することとなるのに対し、本実施形態では、別の場所で専用の発芽ベッド10を大量に並べ、発芽体だけを植林装置にセットするようにすれば装置はすべて発芽した幼苗となり、それをつぎつぎに地面に埋設してゆけばよいこととなる。なお、上方ほど径の大きくなる逆台形の逆円錐や逆四角錐の形状やその他の形状とすることも勿論できる。
【0036】
発芽ベッド10(苗床)は、たとえば「オアシス」と呼称される一般的な生け花用の石油系スポンジでもよいが、土に還元するものとして、廃棄物扱いされている天然素材を用いて吸水性、通気性並びに保温性を確保した発芽ベッドを構成した。すなわち、発芽ベッド10は、図7(a)〜(b)に示すように、天然コケを乾燥させて細かく粉体化したピートモス90とヤシの実の殻の繊維(セルロース)を細粒の粉体にしたココピート(登録商標)と呼ばれる木の切り屑に似た粉体91を混ぜて、天然の糊材(とうもろこしの澱粉から作った増粘材であるコーンスターチなどの澱粉性の糊)を少しいれて所定の形状に成型し、内側容器3の上部空間35に嵌まりこむように内側容器3の内径と同じ径の円形底面を有する半球状(ドーム状)に成型したものである。実験の結果、上記石油系スポンジよりも発芽率は遥かに高い数値を示した。尚、内側容器3の断面形状に合わせて底面を四角や多角形、その他の形状に成型することができる。
【0037】
発芽ベッド10の上部には、種子12を入れるための凹穴11が形成され、いわば「富士山」のような形状であり、頂上のカルデラ部分(凹穴11)に種子12を入れて水を掛ければ、全体に水分が行き渡り、温度と通気性が最適化されて極めて短時間に発芽します。発芽ベッド10には肥料や水は不要であり、水と酸素(空気)と温度の3要素を適切に調整すればよい。この発芽ベッド10は、天然植物のセルロースを毛玉状態に成型したものであるから多孔質であり、種子の発芽発根に不可欠な通気性、保水性及び保温性を備え、マルチングと同様の効果もある。
【0038】
図7(c)に示すように、この「富士山」型の発芽ベッドの中で種子は発根し根を伸ばし、茎を出す。根は下方に、茎は上方に伸び、根が一定の長さに達すると次に茎が上方に伸びで子葉(双葉)が開く。この段階で、発芽ベッド全体を装置の内側容器の上部にセットする。第1実施形態のようなドーム(蓋部)が無くても、発芽ベッド10が遮光・遮水の役目をする。しかも幼苗を植え替える訳ではないので、植物を傷めることなく、効率的に植栽作業を行うことができる。
【0039】
発芽・発根して根がベッドの下方に伸張し続いて茎が伸びて子葉(双葉)が開いたら、植林装置の内側容器の上部にセットする。根部は生育に伴い、図7(d)のように発芽ベッド10から水と栄養をもとめて内側容器3内部の最適化された培土9に入ってゆく。発芽して暫くしたら装置にセットして樹高が例えば30cm程度までなれば装置のまま荒漠地の地面に埋設する。一般に直播は発芽率が悪いが、本例によれば発芽は発芽ベッドで大量に行えるとともに、植え替えによる幼苗の根傷めを防止しつつ樹木の生育に欠かせないマルチング効果をもたせることができる。
【0040】
その他、植林装置1を構成している外側容器2や内側容器3などの形状、構造、素材や外側容器との連結構造、その他の変形例などについては、基本的には上記第1実施形態と同様であり、同一構造には同一符号を付して説明を省略する。
【0041】
次に、図8に基づき、本例の植林装置1を用いた植林システムSを説明する。尚、本例では植林装置1を複数管理するものを説明するが、一つのみ管理するものであっても勿論よい。
【0042】
植林システムSは、図8に示すように、設置されている植林装置1の各内側容器3に収容される培土9内の水分を測定する水分測定センサー5と、各植林装置1の貯水部Wに対してホース65を介して水又は液肥入り水を供給する水供給装置6と、水分測定センサー5からの信号を受け、内側容器の培土9内の水分を最適状態に維持するべく、水供給装置6の水供給を制御する制御コンピュータ7とを備えており、これにより各植林装置1への肥料玉8の人力に依る投入を省力化し、かつ投入量と時期をより厳密に管理することができる。
【0043】
水供給装置6は、貯水場60からポンプ63で揚水した水を貯水槽61に一旦溜め、該貯水槽61には液肥タンク62から適宜液肥が混入され、該貯水槽61からホース65を介して各植林装置1の貯水部Wに液肥入りの水が供給される設備よりなり、本例では貯水槽61からホース65に排出するためのポンプ64のスイッチ、或いはホース途中部に設けた電磁流水バルブ(電磁弁)が制御コンピュータ7に接続され、水供給が制御されている。降雨がゼロないし極端に少ない砂漠地においては、本システムのように降雨による代わりに貯水場60から揚水した水を本システムに利用して貯水槽61に供給すれば植林が可能となる。また、水分測定センサー5は、例えば誘電率から土中水分を測定する誘電率水分測定センサーなど公知のセンサーを使用でき、水供給を制御する際には、培土9中の水分を制御コンピュータ7にフィードバックして最適制御が為される。
【0044】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこうした実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の第1実施形態に係る植林装置により樹木を生育させている植林状態を示す縦断面図。
【図2】同じく植林装置の斜視図。
【図3】同じく植林装置の縦断面図。
【図4】同じく縦断面図。
【図5】本発明の第2実施形態に係る植林装置により樹木を生育させている植林状態を示す縦断面図。
【図6】同じく植林装置の発芽ベッド装着前の斜視図。
【図7】(a)〜(d)は、発芽ベッドの成型から内側容器への装着までの過程を示す説明図。
【図8】同じく植林装置を用いた植林システムを示す説明図。
【符号の説明】
【0046】
1 植林装置
2a 開口部
2 外側容器
3 内側容器
3a 口部
4 下側連結容器
4a 開口部
5 水分測定センサー
6 水供給装置
7 制御コンピュータ
8 肥料玉
9 培土
10 発芽ベッド
11 凹穴
12 種子
21 姿勢保持片
22 凸部
23 ヒンジ部
24 底部
25 突起
26 通孔
30 側壁
31 細孔
32 蓋部
34 底部
35 空間
40 凹部
60 貯水場
61 貯水槽
62 液肥タンク
63 ポンプ
64 ポンプ
65 ホース
90 ピートモス
91 粉体
D 直径
S 植林システム
W 貯水部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地中に一部埋設される上端開口した外側容器と、該外側容器内に隙間を介して設けられ、樹木の生育に必要な栄養素を含む培土が収容される内側容器とを備え、
前記内側容器の上端に生育した樹木が延び出ることのできる口部を設け、
前記内側容器の上端を前記外側容器の上端開口よりも上方に突出させ、
前記内側容器および外側容器の側壁間の隙間に、上端開口から入る雨水を貯留する貯水部を設け、
前記内側容器の前記貯水部に臨む側壁に、該貯水部に溜められている雨水を徐々に内側へ浸入させる細孔を設けてなることを特徴とする植林装置。
【請求項2】
前記外側容器の周囲に、該外側容器の上端開口縁部より外側下方に延び、地表に支持されて当該外側容器の傾斜ないし転倒を防止する姿勢保持片を設けてなる請求項1記載の植林装置。
【請求項3】
前記内側容器内に上部所定空間を残して培土を収容するとともに、該空間に別途成形した発芽ベッドを装着してなる請求項1又は2記載の植林装置。
【請求項4】
前記外側容器の底部に接続されるとともに前記内側容器の内部に連通可能な開口部を有し、同じく樹木の生育に必要な栄養素を含む培土が収容される下側連結容器を設けてなる請求項1〜3の何れか1項に記載の植林装置。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか1項に記載の植林装置を用いた植林システムであって、
前記内側容器に収容される培土内の水分を測定する水分測定センサーと、
前記貯水部に対してホースを介して水又は液肥入り水を供給する水供給装置と、
前記水分測定センサーからの信号を受け、内側容器の培土内の水分を最適状態に維持するべく、前記水供給装置の水供給を制御する制御コンピュータと、
よりなることを特徴とする植林システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−22209(P2010−22209A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−183622(P2008−183622)
【出願日】平成20年7月15日(2008.7.15)
【出願人】(508214352)日本バイオエナジー株式会社 (3)
【Fターム(参考)】