説明

植物におけるデンプン合成酵素の過剰発現

本発明は、可溶性デンプン合成酵素IIをコードする外来核酸分子を導入することにより、遺伝子組み換え植物細胞のデンプンのリン酸塩含有量を、遺伝子組み換えしない野生型の対応する植物細胞由来のデンプンに比べて増加させるプロセスに関する。さらに本発明は、遺伝子組み換え植物細胞における、この可溶性デンプン合成酵素IIの過剰発現に関する。さらに本発明は、品質特性が向上した米デンプンおよび米粉、この米デンプンを含む米粒、ならびにこれらの米粒を成長させるイネに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可溶性デンプン合成酵素IIをコードする外来核酸分子を導入することにより、植物細胞の遺伝子組み換えを行い、このデンプン合成酵素IIを過剰発現させ、遺伝子組み換え植物細胞のデンプンのリン酸塩含有量を、遺伝子組み換えしない野生型の対応する植物細胞より得られるデンプンに比べて増加させるプロセスに関する。
【0002】
さらに本発明は、品質特性が向上した米デンプンおよび米粉、この米デンプンを含む米粒、およびこれらの米粒が成長するイネに関する。
【0003】
米は、世界人口の半分以上にとって最も重要な食料である。国によっては、米は、全食品摂取量の約80%にも達する。全世界の米の年間生産量は5億5千万トンである。
【0004】
米粒は、約76%のデンプンおよび約7〜8%のタンパク質からなる。脂肪の含有量はわずか1.3%であり、リン、鉄、およびマグネシウム等の、多数の微量元素(0.6%)を含んでいる。
【0005】
経済的に最も重要な米の品種はオリザ・サティバ(Oryza sativa)であり、その基本品種(basic varieties)は、2つのグループ:長粒米のみを含む「インディカ(indica)」群、および
中短粒米を含む「ジャポニカ(japonica)」群、に大別される。
【0006】
長粒米(炊飯時に粒が分離している米の品種(rice varieties))は、主にインドおよびジャワ由来であり;短粒米(炊飯時に粒が粘り気を帯びる、「プディング米」等の米の品種)は、主に日本由来である。中国および東南アジア産の品種は、両者の中間である。
【0007】
同様に、全ての品種には、大きく分けて、2種類:透明粒と不透明粒がある。これらには、デンプンの組成に相違があり:透明米のデンプンは、約20%のアミロースと80%のアミロペクチンからなるのに対し、不透明米のデンプンは、ほぼアミロペクチンのみからなる。
【0008】
アミロペクチンは、特有のクラスター状構造を有しており、4種類の酵素:可溶性デンプン合成酵素(SS)、デンプン分岐酵素(SBE)、デンプン脱分岐酵素(SDE)およびADPグルコースピロホスホリラーゼの、種々のサブユニットまたはアイソフォームにより合成する(Nakamura 2002, Plant Cell Physiol. 43(7): 718-725)。
【0009】
調理および食味特性は、主に米の内胚乳のアミロース含有量によって決定される。アミロース含有量の低い品種は、炊飯後に湿り気と粘り気を帯びるのに対し、アミロース含有量の高い粒は、炊飯後に、乾燥してフワフワになる(H. ten Have in Hoffmann Mudra Plarre (HMP) 1985: Lehrbuch der Zuchtung landw. Kulturpflanzen, Volume 2, pp. 110-123)。
【0010】
穀粒の品質は、消費者のみならず、製粉業者にとっても重要である;粒径、粒の形状および穀粒の品質等の米粒の特性は、米粉の収率および粒の砕け率に影響を与えるため、重要である(ten Have 1985、前出)。
【0011】
米粉は、食味にあまり癖がなく、そのため、マイルドな味の製品の基材として、または混合物として非常に好適である。低刺激性であるため、乳児用の調製物またはアレルギー患者用の食品としても非常に好適である。
【0012】
油、脂肪およびタンパク質に加えて、多糖類は、最も重要な植物由来の再生可能な原料である。セルロースに加えて、高等植物における最も重要な貯蔵物質の1つであるデンプンは、多糖類のうち最も重要なものである。
【0013】
多糖類であるデンプンは、化学的に単一の単位であるグルコース分子のポリマーである。しかし、デンプンは、重合度、グルコース鎖の分岐の存在および分岐鎖の長さに関して異なる様々な形態の分子からなる非常に複雑な混合物よりなっており、さらに、例えばリン酸化等の誘導体化を受けていてもよい。したがって、デンプンは均一な原料を構成しない。具体的には、α−1,4−グリコシル結合したグルコース分子からなる実質的に分岐を有しないポリマーであるアミロースデンプンは、分岐度の異なるグルコース鎖の複雑な混合物であるアミロペクチンデンプンとは異なっている。分岐は、さらにα−1,6−グリコシド結合が生じることによって形成される。トウモロコシ、小麦、ジャガイモ等の、デンプンの工業的生産に用いられる通常の植物において、合成デンプンは、約20%〜25%のアミロースデンプンおよび約70%〜75%のアミロペクチンデンプンからなる。
【0014】
デンプンの機能的性質は、アミロース/アミロペクチン比およびリン酸塩含有量だけでなく、分子量、側鎖の分布パターン、イオン含有量、脂質およびタンパク質含有量、デンプン粒の平均寸法、デンプン粒の形態等によっても影響を受ける。これに関連して言及される重要な機能的性質としては、例えば、溶解度、老化挙動、水との結合容量、膜形成特性、粘度、糊化特性、凍結−解凍安定性、酸に対する安定性、ゲル強度等がある。
【0015】
デンプンの合成の基本的な生合成経路は、概略しか知られていない。しかし、デンプン粒およびデンプンの合成に至る一連のステップの詳細な機構は未だ解明されておらず、現在も研究課題となっている。
【0016】
植物の品種改良のみによって、共有結合したリン酸デンプンの量に影響を及ぼすことは、現在のところ不可能である。
【0017】
植物の品種改良法に代わる方法は、遺伝子組み換え法によるデンプン産生能を有する植物の標的改変である。しかし、この方法の必要条件は、デンプンの合成および/またはデンプンの改変に関与する酵素の同定および評価、ならびにこれらの酵素をコードする核酸分子の単離およびそれに続くトランスジェニック植物の機能解析である。
【0018】
植物細胞中において、デンプン合成は、光合成活性を有する組織においては葉緑体、光合成活性を有しない組織においてはアミロプラストである色素体において進行する。デンプン合成に関与する重要な酵素は、R1タンパク質(=α−グルカン水ジキナーゼ、EC 2.7.9.4、Lorberthら、(1998) Nature Biotechnology 16: 473-477)、デンプン合成および分岐酵素(=BE、例えば、Ponsteinら、Plant Physiol. 29 (1990), 234-241、Kossmannら、1991 , Mol. Gen. Genet. 230, 39-44、Saffordら、1998, Carbohydrate Polymers 35, 155-168、Joblingら、1999, The Plant Journal 18(2): 163-171を参照されたい)。分岐酵素は、直鎖状のα−1,4−グルカンへのα−1,6−分岐の導入を触媒する。デンプン合成酵素において、種々のアイソフォームが報告されているが、それらは全て、ADP−グルコースからα−1,4−グルカンへのグルコシル基の転移による重合反応を触媒する。
【0019】
デンプンの生合成に関与する酵素の変化が観測される種々の植物種から単離した天然のデンプンに関する総説としては、KossmannおよびLloydに見ることができる(2000, Critical Reviews in Plant Sciences 19(3): 171-226)。
【0020】
デンプン合成酵素(EC 2.4.1.21)は、2つのクラスに大別される:デンプン粒結合型デンプン合成酵素(「粒結合デンプン合成酵素I」、GBSSI)、および可溶性デンプン合成酵素(「可溶性デンプン合成酵素」;SSSで、SSSは「SS」とも呼ばれる)。デンプン合成酵素のいくつかは、デンプン粒結合型および可溶型の双方の形態で存在するため、このような区別は一義的ではない(Denyer ら., Plant J. 4 (1993), 191-198; Mu ら., Plant J. 6 (1994), 151-159)。
【0021】
アミロースの合成を導くGBSSIと対照的に、デンプンの生合成における色々な種類の可溶性デンプン合成酵素の正確な酵素の機能については、未だほとんど知られていない。
【0022】
生化学的特性解析により、可溶性デンプン合成酵素は、分子量約60kDa〜約180kDaのタンパク質であることを同定した。デンプン合成酵素をコードするcDNAのクローニングにより、配列の相同性の結果、および(可溶性)デンプン合成酵素の機能的特性の結果、定義した異なる種類を区別することが可能になった。
【0023】
現在までに、高等植物において8つのクラスのデンプン合成酵素が同定されている(特に、Liら、(2003) Funct. Intergr. Genomics 3:76-85):
・デンプン粒結合型デンプン合成酵素I(Granule-Bound Starch Synthase I=GBSSI)(米:例えば、 Okagaki (1992) Plant MoI Biol. 19:513-516、ジャガイモ:van der Leijら、(1991) Mol. Gen Genet. 228:240-248、トウモロコシ:例えば、Kloesgenら、(1986) Mol. Gen Genet. 203:237-244);
・可溶性デンプン合成酵素I(=SSI、米: Babaら、(1993) Plant Physiol. 103:565-573; ジャガイモ:Kossmannら、(1999) Planta 208: 503-511、トウモロコシ:Knightら、(1998) Plant J. 14:613-622);
・可溶性デンプン合成酵素II(=SSII、エンドウマメ:Dryら、(1992) Plant J. 2:193-202, ジャガイモ:Edwardsら、(1995) Plant J 8: 283-294、トウモロコシ:Harnら、(1998) Plant Mol. Biol. 37(4): 639-649、小麦:Walterら、(1996) Genbank Acc. No. U66377、米:Yamamoto およびSasaki (1997) Plant Mol. Biol. 35:135-144、オオムギ:Li ら、(2003), Funct. Integr. Genomics 3: 76-85);
・可溶性デンプン合成酵素III(=SSIII、ジャガイモ:Abelら、(1996) Plant J 10:981-991、アカエンドウ:GenBank Acc. No. AJ225088);
・可溶性デンプン合成酵素IV(=SSIV、小麦:GenBank Acc. No. AY044844);
・可溶性デンプン合成酵素V(=SSV、アカエンドウ:GenBank Acc. No. VUN006752、シロイヌナズナ:GenBank Acc. No. AL021713、トウモロコシ:国際公開第97/26362号);および
・dull(Gaoら、(1998) Plant Cell 10:399-412);
・可溶性デンプン合成酵素VI(=SSVI、トウモロコシ:国際公開第01/12826号)。
【0024】
共有結合したリン酸デンプンの含有量は、植物種に応じて変化する。したがって、例えば、トウモロコシのある突然変異株は、リン酸デンプンの含有量が増加したデンプンを合成(モチ性トウモロコシでは0.002%、高アミローストウモロコシでは0.013%)するが、従来のトウモロコシの品種は、リン酸デンプンを微量しか含んでいない。少量のリン酸デンプンは小麦(0.001%)に見られるが、オート麦やキビからはリン酸デンプンは検出されない。同様に、米の突然変異株からは、従来の米の品種(0.013%)に比べ少量のリン酸デンプンしか検出されない(もち米で0.003%)。塊茎または根への貯蔵デンプンを合成する植物、例えばタピオカ(0.008%)、サツマイモ(0.011%)、クズウコン(0.021%)、およびジャガイモ(0.089%)において、有意な量のリン酸デンプンが検出された。それぞれの場合において、リン酸デンプンの含有量に対するこれらの割合は、デンプンの乾燥重量に対する値で、Janeらが決定した(1996, Cereal Foods World 41 (11), 827-832)。SSI−アンチセンスジャガイモに関する研究より、これらのリン酸塩含有量が、野生型よりも30〜70%増加することがわかった(国際公開第96/15248号)。
【0025】
国際公開第00/08184号には、デンプン合成酵素III(=SSIII)および分岐酵素I(=BEI)の活性が共に低下している植物が記載してある。野生型植物から得られるデンプンに比べ、このような植物から得られるデンプンにおいてリン酸塩の含有量が増加している。ジャガイモ由来R1遺伝子が過剰発現した結果、R1タンパク質の活性が増加し、かつリン酸デンプンの含有量が増加した小麦が、国際公開第02/34923号に記載してある。
【0026】
植物が合成したデンプン(天然デンプン)中のリン酸塩の分布は、通常、約30%〜40%のリン酸残基がグルコース分子のC3位に共有結合し、約60%〜70%のリン酸残基がグルコース分子のC6位に共有結合していることによって区別される(Blennowら、2000, Int. J. of Biological Macromolecules 27: 211-218)。一方、化学的にリン酸化したデンプンは、化学反応が間接的に進行するため、さらにグルコースのC2位にもリン酸残基が結合している。
【0027】
国際公開第03/023024号には、DSC T−開始温度が69.5℃以下であり、かつ/またはDSC T−ピーク温度が73.6℃以下である米デンプンを開示しており、ジャポニカ群およびインディカ群に属する約400種類の品種について、これらの特徴に関する分析を行った。
【0028】
Umemotoら(2002, Theor. Appl. Genet. 104:1-8)は、ジャポニカ品種(日本晴)とインディカ品種(Kasalath)との戻し交配近交系の分析について報告している。彼らは、得られた結果から、ジャポニカおよびインディカ品種における糊化開始温度(DSC T−開始)の違いに関与しているalk(t)、gel(t)およびacl(t)遺伝子座が、デンプン合成酵素のアイソフォームSSIIaだと思われると結論付けた。
【0029】
国際公開第03/23024号には、インディカ形態IR36由来のデンプン合成酵素IIa(SSIIa)遺伝子を形質転換した、ジャポニカ品種の米(金南風)の形質転換体(#78−1)について記載している。アミロペクチンの側鎖プロファイルについて得られる変化、および結果として、ジャポニカ品種からインディカ品種のプロファイルに変化していることが示してある(国際公開第03/23024号の図22)。
【0030】
国際公開第03/23024号には、米デンプンまたは米粉のリン酸塩含有量、アミロース含有量、および粘弾性特性については記載していない。
【0031】
SSIIaによって起こるアミロペクチンの側鎖プロファイルの変化と、デンプンのDSC T−開始温度との関係を、形質転換細胞についての値、ならびに対応する「供与体」および「受容体」の系列に関連して、最近の論文(Nakamuraら、(2005) PMB; 58(2): 213-27)で、再度示している(図6B)。図6Bは、生成されたSSIIa形質転換体由来のデンプンのDSC T−開始温度を示す。どんな場合も、DSC T−開始は70℃を越えない。国際公開第03/023024号(21〜24ページ)に詳述されているように、T−開始の最高値は69.5℃である。
【0032】
このように、国際公開第03/023024号およびNakamuraらの文献(2005)のいずれも、DSC T−開始温度が70℃を超える米デンプンを生成する方法について教示していない。
【0033】
しかし、DSC T−開始温度はデンプンの熱安定性向上、およびそれに伴う熱効果の結果による結晶構造の変化に関する重要な特徴であるため、それを上昇させることが望ましい。
【0034】
新規な性質、具体的には熱安定が向上した米デンプンおよび米粉、ならびにこれらを調製する手段および方法を提供することが本発明の目的である。
【0035】
可溶性デンプン合成酵素II遺伝子発現の増加が、植物中のデンプンの性質にどのような影響を及ぼすかは今のところわかっていない。デンプンの物理化学的性質に変化を引き起し、それによりデンプンの新たな用途を与えるため、リン酸塩含有量が高いことが望ましい。
【0036】
したがって、インビボで植物のデンプンのリン酸塩含有量を増加させることのできる手段によりプロセスを提供することも、本発明の別の目的である。
【0037】
これらの目的は、特許請求の範囲に定めている使用態様を提供することにより達成される。
【0038】
本発明は、遺伝子組み換え植物細胞のデンプンのリン酸塩含有量を、遺伝子組み換えしない野生型の対応する植物細胞より得られるデンプン(100%)と比較して、150〜500%に増加させる方法に関するもので、
a)可溶性デンプン合成酵素IIをコードする外来核酸分子を導入することにより、植物細胞の遺伝子組み換えを行い、
b)この可溶性デンプン合成酵素IIを過剰発現させる。
【0039】
本発明との関連で、「デンプンのリン酸塩含有量」という用語は、デンプンのグルコースモノマーに共有結合したリン酸基を意味すると理解される。
【0040】
本発明において、「デンプンのリン酸塩含有量を増加させる」という用語は、C6位におけるリン酸塩の含有量を、対応する野生型植物細胞からのデンプン(100%)と比較して、150〜500%、好ましくは160〜400%、特に好ましくは170〜380%に増加させることを意味すると理解される。
【0041】
本発明との関連で、「C6位におけるリン酸塩含有量」という用語は、デンプンにおけるグルコースモノマーの「6」位の炭素原子に結合したリン酸残基の含有量を意味すると理解される。原則として、インビボでは、デンプンにおけるグルコース単位のC3およびC6位がリン酸化を受けることができる。本発明との関連で、C6位におけるリン酸塩含有量(=C−6−P含有量)は、後述する酵素可視化アッセイを用いてグルコース−6−リン酸を決定することにより決定される(Nielsenら、1994, Plant Physiol. 105, 111-117)、(C6位におけるリン酸塩含有量(C6−P含有量)の決定)。
【0042】
本発明において非常に驚くべきことは、野生型(100%)と比較して150%を大幅に上回る量まで、リン酸塩含有量を増加させることが可能であったことである。
【0043】
本発明との関連で、デンプンのリン酸塩含有量の増加は、例えば、予め抽出したデンプンの化学的リン酸化等のインビトロではなく、インビボで行われる。したがって、本発明の利点は、化学的リン酸化に用いられる化学薬品が不要であることである。
【0044】
本発明との関連で、「遺伝子組み換え植物細胞」という用語は、植物細胞が遺伝子組み換えされ、その遺伝子組み換えの結果、可溶性デンプン合成酵素II(=SSII)の活性が、遺伝子組み換えしない、対応する野生型植物細胞のSSII活性よりも増加していることを意味する。
【0045】
本発明との関連で、「野生型植物細胞」という用語は、これらが、本発明のプロセスに対する出発材料として働く植物細胞であること、すなわち導入し、かつ可溶性デンプン合成酵素II(=SSII)の活性が増加した遺伝子組み換えを除いて、その遺伝情報が遺伝子組み換えされた植物細胞の遺伝子情報に対応すること、を意味する。
【0046】
本発明との関連で、「対応する」という用語は、複数の対象を比較する場合、互いに比較する、問題となっている対象が、同一条件下で維持されていることを意味する。本発明において、「対応する」という用語を、野生型植物細胞との関連で用いる場合、互いに比較する植物細胞が、同一の培養条件下で生育し、好ましくは同一の(培養における)年齢を有することを意味する。
【0047】
「培養年齢」という用語は、生物(植物)が栄養培地中で過ごす/生育する期間を意味すると理解される。この期間は、例えば、播種から収穫までであってよく、あるいは、組織培養培地中で、植物細胞がある成長段階まで培養される期間であってもよい。本発明において、この用語は、互いに比較される植物細胞が、同一の培養条件下で過ごす同一の成長期間を意味する。
【0048】
本発明との関連で、「外来核酸分子」という用語は、対応する野生型植物細胞中において天然に見られるものではなく、または対応する野生型植物細胞中において、天然に見られない特定の空間配置を取り、または植物細胞のゲノム中において、天然に見られない位置に局在化している核酸分子を意味する。外来核酸分子/ポリヌクレオチドは、好ましくは、組み合わせおよび空間配置が植物細胞において天然に見られるものではない種々の要素を含む組み換え分子である。このことは、例えば、サザンブロット解析を用いて確認することができる。
【0049】
本発明との関連で、「過剰発現した」という用語は、遺伝子組み換えを行った植物細胞において、SSIIタンパク質の酵素活性が、遺伝子組み換えしない対応する野生型植物細胞と比較して増加していることを意味する。本発明の目的のためには、「過剰発現した」という用語は、検出可能なSSII活性を天然では示さない植物または植物細胞が、可溶性デンプン合成酵素IIをコードする外来核酸分子を植物細胞のゲノムに導入する、本発明に記載の遺伝子組み換え後に、ザイモグラムによって検出可能なSSII活性を有することも意味する。細胞におけるSSIIタンパク質の酵素活性の増加は、好ましくは、後述のザイモグラム法(「活性ゲルを用いるSSII活性の決定」)により決定する。
【0050】
この関連で、SSII活性の増加とは、遺伝子組み換えしない対応する野生型植物細胞と比較してSSII活性が少なくとも200%、具体的には350〜2000%、好ましくは600〜1500%、特に好ましくは700〜1200%に増加することを意味する。本発明との関連で、「SSII活性の増加」とは、検出可能なSSII活性を示さない植物または植物細胞が、植物細胞のゲノムに可溶性デンプン合成酵素をコードする外来核酸分子を導入する本発明記載の遺伝子組み換え後に、検出可能なSSII活性を有することも意味する。
【0051】
本発明との関連で、「可溶性デンプン合成酵素II」とは、可溶性デンプン合成酵素タンパク質(ADP−グルコース1,4−α−D−グルカン4−α−D−グルコシルトランスフェラーゼ、EC2.4.1.21)のクラスIIを意味すると理解される。可溶性デンプン合成酵素は、ADP−グルコース基質のグルコース残基が、α−1,4−結合の形成を伴ってα−1,4−結合したグルカン鎖に転移するグリコシル化反応(ADP−グルコース+{(1,4)−α−D−グルコシル}(N)⇔ADP+{(1,4)−α−D−グルコシル}(N+1))を触媒する。
【0052】
SSIIタンパク質の構造は、特異的なドメインの配列を示す。「N」末端に、SSIIタンパク質は、色素体の内部への輸送のためのシグナルペプチドを有している。N末端領域および触媒ドメインが、C末端に向かう方向に続いている(Liら、2000, Plant Physiology 123, 613-624)。一次配列比較(http://hits.isb-sib.ch/cqi-bin/PFSCAN)に基づいて、種々のSSIIタンパク質についてさらに解析を行った結果、SSIIタンパク質は、3つの特異的なドメインを有することが明らかになった。これらのドメインは、配列番号1で示される小麦SSII遺伝子のヌクレオチドの塩基対1190〜1279(領域1)、塩基対1493〜1612(領域2)、および塩基対2147〜2350(領域3)によりコードされるアミノ酸を含んでいる。
【0053】
したがって、本発明との関連で、SSIIタンパク質は、そのアミノ酸配列が、配列番号3で示される領域1と、少なくとも86%、好ましくは少なくとも93%、特に好ましくは100%の同一性を有し、配列番号4で示される領域2と、少なくとも83%、好ましくは少なくとも86%、特に好ましくは100%の同一性を有し、配列番号5で示される領域3と、少なくとも70%、好ましくは少なくとも82%、好ましくは86%、特に好ましくは98%、特に好ましくは100%の同一性を有する可溶性デンプン合成酵素であると理解される。
【0054】
本発明との関連で、「同一性」という用語は、他のタンパク質のアミノ酸とアミノ酸が一致する割合(同一性)を意味すると理解される。同一性は、好ましくはコンピュータプログラムを用いて決定する。互いに比較する配列の長さが異なる場合、短い方の配列が長い方の配列と共有するアミノ酸数が同一性の割合を決定するといった方法で、同一性を決定することになる。同一性は、例えば、ClusterW(Thompsonら、(1994) Nucleic Acids Research 22: 4673-4680)等の公的に入手可能な既知のコンピュータプログラムを用いて定常的に決定することができる。
【0055】
ClusterWは、ヨーロッパ分子生物学研究所(Meyerhofstrasse 1 , D -69117 Heidelberg、ドイツ)のJulie Thompson(Thompson@EMBL-Heidelberg.DE)およびToby Gibson(Gibson@EMBL-Heidelberq.DE)によって公的に入手できるようにされている。ClusterWは、種々のインターネットのページ、特に、IGBMC(遺伝子分子生物細胞学研究所、B. P.163, 67404 Illkirch Cedex, France; ftp://ftp-igbmc.u-strasbg.fr/pub/)、およびEBI(ftp://ftp.ebi.ac.uk/pub/software/)およびEBIを映している全てのインターネットのページ(ヨーロッパバイオインフォマティクス研究所、ウェルカムトラストゲノムキャンパス、Hinxton, Cambridge CB10 1SD, UK)から容易にダウンロードすることができる。
【0056】
本明細書に記載のタンパク質および他のタンパク質の同一性の決定には、ClusterWコンピュータプログラムのバージョン1.8を用いることが好ましい。パラメータを以下のように設定する:KTUPLE=1、TOPDIAG=5、WIND0W=5、PAIRGAP=3、GAPOPEN=10、GAPEXTEND=0.05、GAPDIST=8、MAXDIV=40、MATRIX=GONNET、ENDGAPS(OFF)、NOPGAP、NOHGAP。
【0057】
本明細書に記載の核酸分子の核酸配列および他の核酸分子の核酸配列の相同性の決定には、ClusterWコンピュータプログラムのバージョン1.8を用いることが好ましい。パラメータを以下のように設定する:KTUPLE=2、TOPDIAGS=4、PAIRGAP=5、DNAMATRIX:IUB、GAPOPEN=10、APEXT=5、MAXDIV=40、TRANSITIONS: unweighted。
【0058】
本発明との関連で、「SSII活性を増加させる」とは、遺伝子組み換えしない対応する野生型イネ又はイネ細胞と比較してSSII活性が少なくとも100%、具体的には200〜2000%、好ましくは400〜1400%、特に好ましくは500〜900%に増加することを意味する。本発明において、SSII活性は、後述の方法(「活性ゲルによるSSII活性の決定」)を用いて決める。本発明との関連で、「SSII活性を増加させる」とは、検出可能なSSII活性を示さない植物または植物細胞が、植物細胞のゲノムに可溶性デンプン合成酵素をコードする外来核酸分子を導入する本発明の遺伝子組み換え後に、検出可能なSSII活性を有することも意味する。
【0059】
好ましい実施態様では、本発明のプロセスは、さらに、外来核酸分子が、異種の可溶性デンプン合成酵素IIのコード領域の形態を取るプロセスである。
【0060】
本発明との関連で、「異種の可溶性デンプン合成酵素II」とは、植物細胞中に天然には存在しないが、例えば細胞の形質転換等の組み換え法を用いてそのコーディングDNA配列が細胞内に導入された可溶性デンプン合成酵素IIであると理解される。この関連で、該コーディングDNA配列は、形質転換を受けた植物細胞または植物のコードDNA配列とは異なる植物種に由来するか、またはそのそれ自身のプロモーターの制御を受けていない。該コーディングDNA配列は、好ましくは、形質転換を受けた植物細胞または植物のコーディングDNA配列とは異なる植物属に由来する。
【0061】
本発明との関連で、「植物属」という用語は、生物系の階層レベルを意味すると理解される。属には1種類以上の種が含まれる。属の一例は、Triticum L.(小麦)である。属に属する全ての種は、常に、属名以外に種を表す修飾詞をさらに有する二名式名称を有する。したがって、Triticum aestivum L.(通常のパン小麦)は、Triticum属の種である。
【0062】
本発明との関連で、「SSII遺伝子」という用語は、「可溶性デンプン合成酵素II」をコードする核酸分子またはポリヌクレオチド(DNA、cDNA)を意味すると理解される。他の実施態様では、SSII遺伝子は、単子葉植物に由来する。好ましい実施態様では、SSII遺伝子は小麦に由来する。
【0063】
他の実施態様では、本発明に記載のプロセスは、単子葉植物に由来する可溶性デンプン合成酵素IIを用いるプロセスである。特に好ましい実施態様では、SSIIは、配列番号1で示されるヌクレオチド配列のコード領域によってコードされ、または配列番号2で示されるアミノ酸配列を有している。
【0064】
デンプンが本発明に記載のプロセスによって改変した、遺伝子組み換えを受けた植物は、任意の植物種、つまり単子葉植物および双子葉植物の双方に属することができる。植物は、好ましくは農業用穀物、つまり、食品用途、または技術的用途、特に工業用途のために人が栽培する穀物、またはこれらの細胞の形態を取ることができる。本発明に記載のプロセスは、例えば、エンドウマメ、ジャガイモ、サツマイモ、キャッサバ、トウモロコシ、および米等のデンプンを貯蔵する植物に好ましくは、適用される。
【0065】
特に好ましい実施態様では、本発明に記載のプロセスは、イネにおいて実施される。
【0066】
本発明はさらに、DSC T−開始温度が70℃〜80℃である米デンプンに関する。
【0067】
米の内胚乳のデンプンおよび米粉の熱特性は、示差走査熱量測定法(DSC)を用いて分析することができる。これらは、DSC T−開始(最低糊化温度)およびDSC T−ピーク(最高糊化温度)を伴う糊化温度として表される。
【0068】
本発明との関連で、「DSC T−開始温度」という用語は、デンプンまたは粉末サンプルの相転移の開始を示す温度を意味すると理解される。DSC T−開始温度は、ベースラインのプロジェクション(projection)、および変曲点と交わるピークの上面接触面(ascendeing flank)で引いた接線(tangent)で特徴付けられる。
【0069】
驚くべきことに、本発明に記載のイネは、DSC T−開始温度が70℃〜80℃、具体的には77℃〜80℃のデンプンを合成する。本発明に記載の米デンプンは、72℃〜79℃、好ましくは74℃〜79℃、非常に特に好ましくは76℃〜78℃のDSC T−開始を有している。
【0070】
他の実施態様では、本発明に記載の米デンプンは、高い、DSC T−ピーク温度(DSC T−ピーク)を有している。
【0071】
驚くべきことに、本発明に記載のイネは、DSC T−ピーク温度が80℃〜87℃、好ましくは81℃〜86℃のデンプンを合成する。本発明に記載の米デンプンは、DSC T−ピーク温度が82℃〜83℃であることが特に好ましい。
【0072】
本発明との関連で、「DSC T−ピーク温度」という用語は、DSC曲線が最大値に達し、曲線の一次微分(first defferentiation)がゼロである温度を意味すると理解される。
【0073】
本発明との関連で、「DSC T−開始」温度、および「DSC T−ピーク」温度は、後述の方法(「示差走査熱量測定法による米粉/米デンプンの熱分析」)により決定する。
【0074】
本発明に記載の米デンプンのDSC T−開始温度が該程度まで上昇するという事実は、特に、本発明に記載の米デンプンのリン酸デンプン含有量が同時に上昇しているため、当業者にとって非常に驚くべきことであった。これは、今まで、リン酸化率が増加すると、デンプン粒における二重らせんおよび結晶配列が不安定になり、DSCにおける吸熱開始温度が低下すると仮定されていたためである(Saffordら、(1998) Carbohydrate Polymers 35: 155-168)。リン酸化率の高い天然のデンプンは、リン酸化率の低い同様なデンプンよりも非常に低い温度で通常、結晶性を失う。
【0075】
しかし、多くの熱処理工程および応用に、粒状の米デンプンを用いることは望ましい。したがって、非常に有利な点は、本発明に記載の米デンプンの非常に高いDSC T−開始およびピーク温度、換言すると、本発明の米粉のRV分析の間の非常に高い糊化温度である。なぜならばこのような性質は、高い処置温度でもデンプン粒の構造を保持することができるためである。
【0076】
他の実施態様では、本発明の米デンプンのC6位におけるリン酸塩(C−6−P)含有量は、加水分解したデンプン1mgあたり0.70〜2.5nmolリン酸塩である。
【0077】
好ましい実施態様では、本発明の米デンプンのC6位におけるリン酸塩含有量は、デンプン1mgあたり0.9〜2.3nmolリン酸塩である。特に好ましい実施態様では、C6位におけるリン酸塩含有量は、デンプン1mgあたり1.5〜2.0nmolのリン酸塩である。
【0078】
さらに、本発明は、本発明に記載の米デンプンを含む誘導体化された米デンプンにも及ぶ。
【0079】
本発明との関連で、「誘導体化米デンプン」という用語は、植物細胞から単離後に、熱処理、化学処理、酵素処理、または機械的処理によって性質を改変した本発明に記載の米デンプンを意味する。
【0080】
本発明に記載の米デンプンは、リン酸デンプン含有量がより多いため、反応性の官能基の割合が高くなっており、また本発明に記載の米デンプンは、リン酸塩含有量が同程度のデンプンよりも、糊化温度がより高く、または熱安定性が向上しているため、従来のデンプンよりも誘導体化米デンプンを調製する出発物質として好適である。
【0081】
したがって、本発明は、本発明に記載の米デンプンをその後改変する、本発明に記載の誘導体化米デンプンを作る方法にも関する。
特に、本発明に記載の該誘導体化米デンプンは、熱処理および/または酸処理されたデンプンの形態を取る。
【0082】
他の実施態様では、該誘導体化米デンプンは、デンプンエーテル、具体的には、デンプンアルキルエーテル、O−アリルエーテル、ヒドロキシアルキルエーテル、O−カルボキシメチルエーテル、窒素含有デンプンエーテル、リン酸塩含有デンプンエーテル、またはイオウ含有デンプンエーテルの形態を取る。
【0083】
他の実施態様では、該誘導体化米デンプンは、架橋デンプンの形態を取る。
【0084】
他の実施態様では、該誘導体化米デンプンは、デンプングラフトポリマー(starch graft polymers)の形態を取る。
【0085】
他の実施態様では、該誘導体化米デンプンは、酸化デンプンの形態を取る。
【0086】
他の実施態様では、該誘導体化米デンプンは、デンプンエステル、具体的には、有機酸を用いてデンプンに導入されたデンプンエステルの形態を取る。特に好ましくは、該誘導体化米デンプンは、リン酸デンプン、硝酸デンプン、硫酸デンプン、キサントゲン酸デンプン、酢酸デンプン、またはクエン酸デンプンの形態を取る。
【0087】
本発明に記載の誘導体化米デンプンは、製薬産業、食品分野、および/または非食料品分野における種々の用途に好適である。本発明に記載の誘導体化デンプンを調製する方法は、当業者に公知であり、一般文献に詳細に記載されている。誘導体化デンプンの調製に関する総説は、例えば、Orthoeferの文献(Corn, Chemistry and Technology, 1987, WatsonおよびRamstad編, Chapter 16, 479-499に収録)に記載されている。米デンプンの誘導体化についても、例えば、Shih およびDaigleの論文(2003, Nahrung 47(1): 64-67)に記載されている。
【0088】
本発明はさらに、誘導体化デンプンを調製するための、本発明に記載の米デンプンの使用にも関する。
天然型または誘導体型の本発明に記載の米デンプンは、食品または非食料品分野における種々の用途に好適である。他の実施態様は、本発明に記載の誘導体化米デンプンの産業分野における使用を含む。本発明に記載の米デンプンは、粒径が小さいため、後者は印画紙の製造にも特に好適である。
【0089】
本発明はさらに、本発明に記載の米デンプンを含む組成物にも及ぶ。
【0090】
他の実施態様では、本発明は、本発明に記載の米デンプンを含む米粉にも及ぶ。
【0091】
他の実施態様では、本発明に記載の米粉は、72℃〜81℃、好ましくは74℃〜80℃、特に好ましくは77℃〜80℃のDSC T−開始温度を有している。76℃〜79℃のDSC T−開始温度を有する本発明に記載の米粉が特に好ましい。
【0092】
他の実施態様では、本発明に記載の米粉は、81℃〜90℃、好ましくは82℃〜86℃のDSC T−ピーク温度を有している。82℃〜85℃のDSC T−ピーク温度を有する米粉が特に好ましい。
【0093】
他の実施態様では、本発明に記載の米粉は、RVA(ラピッドビスコアナライザー(Rapid Visco Analyser))分析において、75℃〜90℃、好ましくは78℃〜88℃、特に83℃〜86℃、特に好ましくは80℃〜85℃のRVA PT糊化温度を有している。
【0094】
本発明との関連で、「糊化温度」(RVA PT)という用語は、RVA分析により糊化の進行の開始時に測定された値は、加熱工程の間の粘度曲線がベースラインを離れ、0.1分以内に粘度が36cPより多い量だけ変化する際の温度であることを意味する。
【0095】
本発明との関連で、「RVA PT糊化温度」は、後述する「ラピッドビスコアナライザー(RVA)による米粉の分析」方法を用いて決定される。
【0096】
対応する野生型イネ由来の米粉と比較して、本発明に記載の米粉は、糊化温度(RVA PT)が上昇している。
【0097】
本発明との関連で、「上昇した糊化温度(RVA PT)」という用語は、糊化温度(RVA RT)が、対応する野生型イネ由来の米粉の糊化温度(RVA PT)と比較して、5℃〜15℃、特に6℃〜14℃、好ましくは8℃〜12℃高くなっていることを意味する。
【0098】
他の実施態様では、本発明の米粉は、糊化温度に到達後、最高粘度に到達するまでの時間が短いという特徴を有する。
【0099】
本発明との関連で、「糊化温度に到達後、最高粘度に到達するまでの時間の短縮」(ピーク時間−糊化時間(pasting time))という用語は、後述のRVA分析による時間差が、40秒〜130秒、特に好ましくは50〜100秒、特に好ましくは60〜75秒であることを意味する。
【0100】
他の実施態様では、本発明は、本発明の米粒、好ましくは精白した本発明の米粉を粉砕する米粉の調製方法に関する。米粒の精白および粉砕方法は当業者に公知であり、例えば、Fitzgeraldらによる論文(2003, J. of Agrocult. And Food Chemistry 51 : 2295-2299)またはRameshらによる論文(1999, Carbohydrate Polymers 38: 337-347)に記載している。
【0101】
「米粒」とは、当業者によって、成熟し、受精したイネの花であると理解される。
【0102】
本発明は、食品および/または動物用飼料を調製するための、本発明に記載の米粉の使用にも及ぶ。
【0103】
本発明はさらに、本発明に記載の米粉を含む組成物にも関する。
【0104】
他の実施態様では、本発明は、本発明に記載の米デンプンを含む米粒にも及ぶ。
【0105】
好ましい実施態様では、米粒は加工された米粒の形態を取る。
【0106】
加工とは、当業者によって、もみ(水稲)を、玄米または白米にすることを意味すると理解され;加工方法は当業者に公知であり、特に、Fitzgeraldらによる論文(2003, J. of Agrocult. And Food Chemistry 51 : 2295-2299)またはRameshらによる論文(1999, Carbohydrate Polymers 38: 337-347)に記載している。
【0107】
他の実施態様では、本発明の米粒を調理に用いることができる。
【0108】
他の実施態様では、米粒は調理後に変化した特性を有している。
【0109】
本発明において、「調理後に変化した特性」とは、質感、粒の硬さ、および調理後、特に調理した米を冷却後または再加熱後の粒の粘性等の、品質に関連する米粒の特性が変化することを意味すると理解される。
【0110】
好ましい実施態様では、本発明の米粒は、−10〜−200g、好ましくは−12g〜−150g、特に好ましくは−15g〜−130g(gの張力として測定される)の粘性を有している。
【0111】
「粘性」という用語は、当業者によって、調理中の水の吸収および加熱による効果、ならびに調理後に生じる米粒の粘稠度、および他の米粒または他の表面(フォーク、箸等)への米粒の付着性を意味すると理解される。本発明との関連で、粘性は、「調理特性および調理した米粒の質感の決定」方法の項で述べるように、最適に調理した米粒について予め圧縮した後、質感ナライザーで測定した最大の負の力(張力)を意味すると理解されたい。この関連で、大きい負の値は、小さい負の値よりも高い粘性を意味する。本発明との関連で、「最適に調理した米粒」とは、最小調理時間(Juliano 1984; J. of Tex. Studies 15: 357-376に記載のガラスシート試験において、粒の90%が、白い芯を有しなくなった時点)に到達後、さらに2分間長く調理した米粒を意味すると理解される。
【0112】
本発明において、該粘性は、最適に調理し、4℃で22時間保存し、再び室温に戻し、または4℃で(22時間)保存後、オーブンを用いて80℃で5分間再加熱し、または4℃で(22時間)保存後、電子レンジで再加熱(600W/3分間)した米粒を用いて測定する。
【0113】
再加熱とは、電子レンジ、オーブン、水浴、または加熱用キャビネットを用いて、調理し、間に再加熱して、例えば室温に放置することにより冷却した、米を1回〜4回再加熱することを意味し、好ましくは単一の再加熱経路を意味すると当業者によって理解される。
【0114】
「粘性」は、米にとって重要な品質パラメータであるため、本発明に記載の米粒には、有利な用途が与えられる。特に、このような用途には、製造時に短時間だけ調理した後に再乾燥し、最終的に消費される少し前に(構内、食堂内等で)、風味や粘稠度を何ら損なうことなく再加熱または煮る、半完成品分野への応用が含まれる。
【0115】
この意味において、さらなる品質パラメータは、水煮する時の長軸方向での粒寸法の膨張である。このような形状の変化は、特に長粒種の場合において重要な視覚的品質パラメータである。本発明の他の実施態様では、本発明の米粒は、1.50〜1.90、好ましくは1.55〜1.80、特に好ましくは1.60〜1.70の伸び率(ER)を有することにより区別される。
【0116】
本発明の他の実施態様では、本発明の米粒は、対応する野生型のイネの米粒と比較して伸び率が増加している。
【0117】
本発明との関連で、伸び率の増加とは、伸び率が、5%〜25%、好ましくは10%〜20%、特に好ましくは14%〜18%増加していることを意味すると理解される。
【0118】
この関連において、「伸び率」とは、未調理の米粒の長さに対する調理後の米粒の長さの比を意味すると理解される。粒の長さを、例えば、「調理による粒の寸法変化の測定」方法において、mmで測定し;測定は、好ましくはスライドゲージを用いて行う。
【0119】
他の実施態様では、本発明の米粒は、2.8〜6.2、好ましくは3.5〜5.5、特に好ましくは4.0〜5.0のCDC値を有している。
【0120】
「CDC値」(CDC=寸法変化係数)とは、幅方向の寸法の変化に対する、長さ方向の寸法の変化の比、すなわち、未調理状態の粒の幅(Wu)に対する調理状態の粒の幅(Wc)の比に対する、未調理状態の粒の長さ(Lu)に対する調理状態の粒の長さ(Lc)の比=(Lc/Lu)/(Wc/Wu)を意味すると理解される。
【0121】
本発明のさらなる主題は、少なくとも1つの本発明に記載の米粒を含む組成物に関する。
【0122】
本発明はさらに、少なくとも1つの本発明に記載の米粒を成長させ、かつ/または本発明に記載の米デンプンを含むイネを含んでいる。
【0123】
他の実施態様では、本発明は、遺伝子組み換えしない対応する野生型のイネ、または野生型のイネ細胞と比較して、遺伝子組み換えが可溶性デンプン合成酵素II(SSII)の活性を増加させる、遺伝子組み換えを受けたイネ細胞およびイネを含んでいる。
【0124】
さらに驚くべきことは、本発明に記載の米デンプンは、対応する野生型植物細胞または野生型植物由来の米デンプンと比較して、ある側鎖の分布が変化していることである。
【0125】
本発明の他の実施態様では、dp(重合度)が20〜25であるアミロペクチン側鎖の含有量が、対応する野生型イネ由来の米デンプンと比較して5〜35%増加していることが明らかになった。
【0126】
本発明との関連で、「dp(重合度)が20〜25であるアミロペクチン側鎖の含有量の増加」という用語は、DPが20〜25であるアミロペクチン側鎖の含有量が、対応する野生型イネ細胞又はイネ由来のDPが20〜25であるアミロペクチン側鎖の含有量と比較して5〜35%、好ましくは6%〜30%、特に好ましくは8%〜24%増加していることを意味する。
【0127】
本発明のさらなる実施態様では、dpが6〜10であるアミロペクチン側鎖の含有量が減少している。
【0128】
本発明との関連で、「dpが6〜10であるアミロペクチン側鎖の含有量の減少」という用語は、DPが6〜10であるアミロペクチン側鎖の含有量が、対応する野生型イネ細胞又はイネ由来のDPが6〜10であるアミロペクチン側鎖の含有量と比較して20〜60%、好ましくは25%〜55%、特に好ましくは30%〜55%減少していることを意味する。
【0129】
本発明との関連で、側鎖分布の判定は、後述の方法(「高圧陰イオン交換クロマトグラフィーによるアミロペクチン側鎖分布を解析するための米粉/デンプンの処理」)を用いて行う。短い側鎖の割合は、全側鎖の総量に対する特定の側鎖の割合を決定することにより決定する。全側鎖の総量は、HPLCクロマトグラムにおける、重合度DP6〜48を示すピーク下の全面積の決定により決定する。特定の短い側鎖の全側鎖の総量に対する割合は、HPLCクロマトグラムにおける、この側鎖を示すピーク下の面積の全面積に対する割合の決定により決定する。ピーク面積の決定には、例えば、米国Dionex社製のChromelion 6.60プログラムを用いることができる。
【0130】
本発明との関連で、「野生型イネ」という用語は、これらが、本発明に記載のイネの出発材料として働くイネを意味し、すなわち可溶性デンプン合成酵素II(SSII)の活性を増加させる、導入された遺伝子組み換えは別にして、遺伝情報は、遺伝子組み換えが行われたイネの遺伝子情報に対応する。
【0131】
好ましくは、「野生型イネ」という用語は、25.2%のS−型アミロペクチンを有するイネ品種である、寄託機関であるNCIMB社(Ferguson Building, Craibstone Estate, Bucksburn, Aberdeen, Scotland, AB21 9YA, United Kingdom)に、寄託番号NCIMB41352で2005年11月17日に寄託した品種M202を意味する。
【0132】
本発明との関連で、遺伝子組み換えは、好ましくは、可溶性デンプン合成酵素II(SSII)をコードする少なくとも1つの外来核酸分子を、植物細胞のゲノムに導入することを含んでおり、該少なくとも1つの外来核酸分子の導入により、遺伝子組み換え植物細胞およびこの細胞から再生した植物から得られるデンプンは、導入されたSSIIが発現することにより、遺伝子組み換えしない対応する野生型植物細胞と比較して、C6位におけるリン酸塩含有量が増加するという結果が得られる。
【0133】
本発明のさらなる実施態様では、少なくとも1つの外来核酸分子が導入されることにより、本発明に記載の米デンプンが合成される。
【0134】
好ましい実施態様では、本発明に記載のイネおよびイネ細胞は、外来核酸分子が、異種の可溶性デンプン合成酵素IIのコーディング領域であるものである。
【0135】
植物宿主細胞にDNAを導入するために、複数の手法を用いることができる。これらの手法には、アグロバクテリウムトゥメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)またはアグロバクテリウムリゾゲネス(Agrobacterium rhizogenes)を形質転換剤として用いるT−DNAによる植物細胞の形質転換、プロトプラスト融合、注入、DNAのエレクトポレーション、バイオリステックス(biolistic)法によるDNAの導入、および他の可能な方法が含まれる。
【0136】
アグロバクテリウムを用いた形質転換に基づくベクターによる単子葉植物の形質転換については、例えば、Chanら、1993, Plant Mol. Biol. 22: 491-506、Hieiら、1994, Plant J. 6: 271-282、Dengら、1990, Science in China 33: 28-34、Wilminkら、1992, Plant Cell Reports 11: 76-80、Mayら、1995, Bio/Technology 13: 486-492、ConnerおよびDomisse, 1992, Int. J. Plant Sci. 153: 550-555、およびRitchieら、1993, Transgenic Res. 2: 252-265に記載している。単子葉植物の形質転換のための他の系としては、バイオリステックス法による形質転換(WanおよびLemaux, 1994, Plant Physiol. 104: 37-48、Vasilら、1993, Bio/Technology 11: 1553-1558、Ritalaら、1994, Plant Mol. Biol. 24: 317-325、Spencerら、1990, Theor. Appl. Genet. 79: 625-631)、プロトプラストの形質転換、部分的に透過化した細胞のエレクトロポレーション、およびグラスファイバーによるDNAの導入がある。例えば、大麦(WanおよびLemaux、前出、Ritalaら、前出、Krensら、1982, Nature 296: 72-74)、小麦(Nehraら、1994, Plant J. 5: 285-297)、米(Ishidaら、1996, Nature Biotechnology 14 (6): 745-750)およびトウモロコシ(Kozielら、(1993), Biotechnology 11: 194-200)等の種々の穀物種について、形質転換の成功例を報告している。
【0137】
本発明の遺伝子組み換え細胞の再生により、遺伝情報が対応する遺伝子組み換えしない野生型植物に対応し、本発明の方法の遺伝子組み換え植物細胞において既に存在する、可溶性デンプン合成酵素IIの活性を増加させるために導入されたものと同一の遺伝子組み換えを含んでいる遺伝子組み換え植物が生じる。
【0138】
好ましい実施態様では、本発明は、ジャポニカ群(Oryza sativa var. japonica)に由来し、例えば、もち米(glutinous rice)、プディング米(pudding rice)、もち米(mochi rice)、ニシキ米(nishiki rice)、リベ米(ribe rice)、赤米、黒米、スシ米(sushi rice)等の、短粒および中粒品種を含むイネに関する。本発明の特に好ましい実施態様では、ジャポニカ群に由来する野生型イネは、本発明に記載のイネを生成するための出発材料として用いられる。
【0139】
さらに、非常に好ましい実施態様では、本発明はS−型アミロペクチンを含むイネに関する。
【0140】
米アミロペクチンでは、L−型およびS−型は区別される。L−型アミロペクチンは、主にインディカ群に由来する米において見られるのに対し、S−型アミロペクチンは、主にジャポニカ群に由来する米において見られる。本発明との関連で、S−型アミロペクチンは、L−型と比較して、短いα−1,4−グルカン鎖(DP≦10)の量が、DP≦24であるα−1,4−グルカン鎖の合計量の20%を上回ることによって区別している(Nakamura、2002, Starch 54: 117-131)。
【0141】
非常に好ましい実施態様では、本発明は、形質転換体GAOS0353-02301、GAOS0353-01301、およびGAOS0353-01502の遺伝子組み換えイネ(Oryza sativa var. japonica)を含んでいる。形質転換体M202 GAOS0353-01502の種子は、NCIMB Ltd.(Ferguson Building, Craibstone Estate, Bucksburn, Aberdeen, Scotland, AB21 9YA, United Kingdom)に、寄託番号NCIMB 41353で2005年11月17日に寄託した。
【0142】
他の実施態様では、本発明に記載の米粉は、対応する野生型イネの米粉と比較して、明白なアミロース含有量が低い。本発明との関連で、明白なアミロース含有量は、後述の「明白なアミロース含有量の決定」方法を用いて決定される。好ましい実施態様では、本発明に記載の米粉の明白なアミロース含有量は、対応する野生型イネ由来の米粉の明白なアミロース含有量と比較して、10%〜20%、特に好ましくは12%〜18%、非常に特に好ましくは13%〜15%減少している。
【0143】
本発明の他の実施態様では、可溶性デンプン合成酵素IIをコードする、導入された外来核酸分子は、内胚乳特異的なプロモーターの制御を受けている。内胚乳特異的なプロモーターは、対応する野生型植物の内胚乳と比較して、本発明に記載の植物の内胚乳中の可溶性デンプン合成酵素IIをコードする外来核酸分子の発現量を増加させることができる。
【0144】
内胚乳特異的な発現のためのプロモーター、例えば、米由来グルテリンプロモーター(Leisyら、(1990) Plant Mol. Biol. 14: 41-50、Zhengら、(1993) Plant J. 4:357-366)、小麦由来HMWGプロモーター(Andersonら、(1989) Nucleic Acid Res 17:461-462)、小麦由来GBSSIIプロモーター(国際公開第02/02785号)、USPプロモーター(Baumleinら、(1991) Mol. Gen Genetics 225: 121-128)、エンドウマメ由来ファゼオリンプロモーター(KawagoeおよびMurai(1992) Plant J 2 (6):927-36)、トウモロコシ由来ゼイン遺伝子プロモーター(Pedersenら、(1982) Cell 29: 1015-1026、Quatroccioら、(1990) Plant Mol. Biol. 15: 81-93)、トウモロコシ由来shrunken-1プロモーター(sh-1)(Werrら、(1985) EMBO J. 4:1373-1380)または米由来プロラミンプロモーター(QuおよびTakaiwa(2004) Plant Biotechnology Journal, 2:113-125)を用いることが好ましい。
【0145】
米由来グロブリンプロモーターを用いることが特に好ましい(Nakaseら、(1996) Gene 170(2): 223-226)。
【0146】
他の実施態様では、本発明は、本発明に記載のイネが本発明に記載のイネ細胞から再生され、再生後に、可溶性デンプン合成酵素IIの過剰発現によりSSII活性が増加しているイネを選抜することを含む、本発明のイネを生成する方法に関する。
【0147】
本発明との関連で、選抜という用語は、集団内で意図的に選択された特性が、それによって、その特性を示す植物が栽培され、一方その望ましい特性を示さない植物は破棄されるという基準であることを意味する。
【0148】
本発明との関連で、選抜される植物は、SSII活性が増加したという特性を有するものである。
【0149】
本発明はさらに、本発明に記載のイネ細胞を含む本発明の遺伝子組み換えイネの繁殖物に関する。
【0150】
この場合において、「繁殖物」という用語は、無性生殖または有性生殖による子孫の生成に好適な植物の一部を含んでいる。無性繁殖に適した部分としては、例えば、切片またはカルス培養体がある。繁殖物には、例えば、果実、種子、苗、プロトプラスト、および培養細胞がある。繁殖物は、好ましくは内胚乳を含む穀粒である。
【0151】
遺伝子組み換えを受けた植物細胞を含む本発明に記載のイネの米粒は、本発明の他の目的である。
【0152】
他の実施態様では、本発明には、本発明に記載のイネおよび/または本発明に記載の米粒および/または本発明に記載の米粉からデンプンを単離することを含む本発明に記載の改変した米デンプンの製造方法が含まれる。抽出方法は当業者に公知であり、例えば、WangおよびWang(2004, Journal of Cereal. Science 39: 291-296)または PatindolおよびWang(2003, J. Agric Food Chem. 51 : 2777-2784)に記載されている。
【0153】
他の実施態様では、本発明は、野生型植物のデンプンの消化率と比較して消化率の低下した、難消化性デンプンに関する。
【0154】
食物の消化率はとりわけ、含むデンプンのタイプによって判定される。多くの食品成分は、内部においてと同様に胃および小腸へ向かう途中でさえも分解されている。しかしながら、大腸でのみ分解され、そのため難消化性デンプン(=RS)と呼ばれているデンプンがある。これらは4つのタイプに分けることができる。第1のタイプ(RS1)には、無傷細胞に取り込まれるデンプンが挙げられる。したがって消化酵素の接触性は乏しい。例えばこれは、丸ごとの、または粗引きの穀類のデンプン、ならびにマメ科デンプンの一部に当てはまる。第2のタイプ(RS2)には、小腸で原型のままでは消化されないデンプンが挙げられる。この場合の原因は、デンプン穀類の構造とデンプン穀類のデンプン分子の配列にある。それには、例えば、生のジャガイモ、青いバナナまたはアミロースに富んだトウモロコシ品種(アミロトウモロコシ)中のデンプンが挙げられる。第3のタイプ(RS3)は、いわゆる老化デンプンを包含している。これはパンや調理済みのジャガイモなどの加熱済みでデンプンを含む食料品を冷却した後に産生される。この間、いくつかのデンプン分子が再編成し、結晶性領域が形成され、消化酵素に接触できなくなる(例えばアミロース)。第4のタイプ(RS4)には、例えば架橋またはエステル化(アセチル化等)によって産生される難消化性の、化学修飾されたデンプンが挙げられる。
【0155】
難消化性デンプンの健康促進効果は、細菌反応に影響を与え、大便重量を増加させ、大腸粘膜細胞の主要なエネルギー供給体を代表する短鎖脂肪酸の産生を導く発酵から成る。さらに、腫瘍阻害の重要な役割は、ブチル化にあると考えられる(さらなる詳細はとりわけ、Wisker (2001), UGB-Forum 01:75-77にある)。
【0156】
例えば全穀類を高い割合で含有しているパン(したがってRS1)の消費者のグルコースおよび/またはインシュリンのレベルは細挽きの穀類から作られたパンの消費者よりも低い。同様に血糖のわずかな上昇が多くのマメ科の消費者で見られている。このことは、食料品が有する血糖への効果にタイプ1難消化性デンプンが影響を与えていることを示している。血糖およびインシュリン以外に、脂肪を燃焼させることにも炭水化物は非常に重要である。絶えず変動するインシュリンレベルは、脂肪の燃焼を阻害し、また空腹感を増幅させる。このため、消化率が低いか減少し、そのためインシュリンレベルがわずかしか上昇しない炭水化物は有利である。したがって、適切な製品において、炭水化物を少量吸収することに関与する食事(=「低炭水化物」)のすべての要件を満たすことは、このようなデンプンで可能となる。
【0157】
本発明に記載の方法のデンプンは、野生型デンプンと比較して明確に消化率が減少していることがはっきりしてきた。このことは、単離したデンプン(図3)を調査して明らかになった。したがって、本発明に記載の方法によって産生されたデンプンは、高繊維食事および「低炭水化物」領域の両方に、ならびにその他の領域に対して使用を可能にする高い栄養価を示す。
【0158】
当業者は消化に要する時間にしたがって、デンプン類を区別する:消化に20分かかるデンプンを「急速消化デンプン(RDS)」と名づけ、60分かかるデンプンを「遅延消化デンプン(SDS)」と名づけ、120分後以降も残っているデンプンを「難消化性デンプン(RS)」と名づける。
【0159】
驚くべきことに、単離したデンプンの消化率は減少している。野生型と比較して消化率が10〜65%減少しているデンプンが好ましく、消化率が10〜55%減少していることが特に好ましく、12〜45%減少していることが非常に特に好ましく、15〜30%の減少が特に最も好ましい。
【0160】
このことは、本発明に記載のデンプン中の難消化性デンプンRSのパーセンテージが野生型と比較して上昇していることを意味する。RS含有量は、120分後の総デンプンから、考慮したグルコースのパーセンテージを差し引いた総デンプン乾燥重量(100%)との差として判定する(下記の方法15に記載)。この関連で、上昇とは、RS含有量が100〜750%まで、好ましくは150〜700%まで、特に好ましくは200〜600%まで上昇することを意味する。
【0161】
他の実施態様において、本発明に記載の米デンプンのRS含有量は、15%〜45%、好ましくは17%〜40%、最も好ましくは20%〜38%である。
【0162】
本発明はさらに、本発明に記載の方法によって産生され、対応する野生型植物由来のデンプンと比較して消化率が低いデンプンを含む植物および植物細胞、もしくは野生型植物を包含している。
【0163】
材料と方法
以下の方法を実施例で使用した。これらの方法は本発明に記載の方法を実施するために使用することが可能である;それらは本発明の具体的な実施態様を提供するものであるが、本発明をこれらの方法に限定するものではない。記述した方法を修正することで、および/または個々の方法論的な項を別の方法論的な項で置き換えることで、本発明を等しく実施できることを当業者は分かっている。唯一の例外が、方法「デンプン結合グルコース−6−リン酸の含有量の決定」であり、これは本発明の関連において、14)以降に後述する方法でしか実施できない。
【0164】
1)植物材料および栽培
イネ:Oryza sativa、Japonica群品種M202
【0165】
種子をNCIMB Ltd.(National Collection of Industrial Bacteria, Ferguson Building, Craibstine Estate, Bucksburn; Aberdeen, AB21 9YA、UK)に2005年、11月17日寄託した。種子品種M202−野生型に、寄託番号NCIMB41352が付された;形質転換体M202−GAOS0353−01502の種子に、寄託番号NCIMB41353が付された。
【0166】
イネ植物を以下の方法条件下の温室で栽培した:播種:基材:100%ミズゴケ泥炭および100l/qmの砂、および粘土の混合物:1.6lのバラ用鉢に入った180kg/qm(メーカー:H. Meyer、ドイツ)、pH:5.4〜6.2;穀物肥料:Hakaphos(Compo、ドイツ)14%N−16%P−18%K+2%Mg;2kg/qm;栄養補給:開花するまで3.5g/植物:NHNO(1.75g)およびFlory 2 Basis(メーカー:Euflor、ドイツ):1.75g;3%N−16%P−15%K+5%Mg。
温度:日中28℃/夜間:24℃(16h/8h);相対的大気湿度:85〜95%;光:16h、350μのEinstein/s x qm
【0167】
2)形質転換に使用される配列および構造物の起源
小麦由来の配列Ta_SSIIaを米の形質転換に使用した。単離とクローニングを、国際公開第97−45545号(そこでは「pTaSS1」の名の下で)の記載どおりに行った。使用の形質転換ベクター、AH32−191は実施例1に記述している。
【0168】
3)イネの形質転換および再生
イネを、Ishidaら(1996, Nature BioTechnology, 14 (6):745-750)が記述した方法で形質転換し、再生した。
【0169】
4)米粒の処理
十分な量の試験材料を作製するために、イネを温室条件下で栽培し、十分に成熟したときに回収した。さらに乾燥させるため、成熟した(すなわち、完全に成長した)米粒を37℃で3〜7日間保存した。
【0170】
その後、シェラー(Laboratory Paddysheller、Grainman、Miami、Florida、USA)を使用し、粒から殻を取り去り、得た玄米を1分間精白処理(Pearlest Rice Polisher, Kett, Villa Park、CA)し、白米を得る。後者は全粒の分析用の出発原料として使用する。その分析は例えばアルカリ拡散値、粒寸法、粒の重量等である。
【0171】
穀類組成およびデンプンおよび粉体の性質を研究するために、白粒を実験用ミル(Cyclotec, Sample mill, Foss、デンマーク)を使用して製粉し、米粉を得る。実験用ミルの原理として、粒のサイズが0.5mm未満になったとき、ミルストックは製粉チャンバーから出る。すべてのサンプル材料が製粉チャンバーから出たとき製粉過程は完了する。
【0172】
5)ノーザンブロット法によるデンプン合成酵素IIの発現レベルの分析
小麦由来のデンプン合成酵素IIの米における発現をノーザンブロット法によって分析した。この目的のため、3つの未成熟の米粒(開花から約15日後)を、個々の独立した遺伝子組み換え事象について研究した。均質化のために、凍結させた米粒を、4.5mmの鋼球を使用し、96ウェルプレート中のRetschミル(MM300モデル)中で、30hertzの周波数で30秒間振盪した。その後RNAを、メーカーの説明書にしたがって96ウェルスケールでPromegaのRNA抽出キットを用いて単離した(SV 96 Total RNA Isolation System、注文番号Z3505, Promega、マンハイム)。
【0173】
1サンプルにつき2μgのRNAを一定の量にし、同一量のRNAサンプルバッファー(65%(v/v)のホルムアミド、8%のホルムアルデヒド、13%(v/v)のゲルバッファー(上記を参照)、50μg/mlのエチジウムブロマイド)で処理した。加熱(65℃で10分間)および氷上の即時冷却の後、RNAを、50〜80mAの一定のアンペア数で、1.2%強度(w/v)のアガロースゲル(20mMのMOPS pH8.0、5mMの酢酸Na、1mMのEDTA、6%(v/v)のホルムアルデヒド)上で、RNAランニングバッファー(20mMのMOPS pH8.0、5mMの酢酸Na、1mMのEDTA)を使用して約2時間分離した。
【0174】
その後、RNAは、10xSSC(1.5MのNaCl、150mMのクエン酸ナトリウム pH7.0)を使用して核酸ブロットでHybond N膜に移動され、UV照射によって膜に固定した。
【0175】
SSIIcDNAの5’領域を構成するプラスミドAH32−191(Bp4568〜5686)の約1kbのSpel/BspHIフラグメントを、ノーザンブロットのハイブリダイゼーションのために使用した。メーカーの説明書にしたがって、DNAフラグメントを、32P−α−dCTPを使用してRoche(注文番号1004 760)から購入したRandom primed DNA標識キットで放射標識化した。
【0176】
ノーザンブロットを、軽く振盪しながら水浴中で、ハイブリダイゼーションバッファー(250mMのリン酸Naバッファー pH7.2、1mMのEDTA、6%(w/v)のSDS、1%(w/v)のBSA)を使用し60℃で4時間プレインキュベートし、その後、放射標識したDNAをハイブリダイゼーションのために添加した。16時間のインキュベートの後、ハイブリダイゼーション液を除去し、60℃で軽く振盪しながら水浴中で連続的に、3xSSCおよび2xSSC(上記を参照)で膜を洗浄し、非特異的に結合したDNA分子を除去した。標識RNAを検出するため、−70℃で1〜3日間、X線フィルムに膜をオートラジオグラフさせた。
【0177】
6)活性ゲルによるSSII活性の決定
未成熟の米粒の様々なデンプン合成酵素活性を、活性ゲル(ザイモグラム)によって検出した。そこではタンパク質エキスを、自然条件下のポリアクリルアミドゲル中で分離し、次いで好適な基質と共にインキュベートする。生成した反応産物(デンプン)を、ゲル中でLugol's溶液(2%(w/v)のKl;0.2%(w/v)のI)で染色した。
【0178】
単一の未成熟の米粒(開花の約15日後、開花開始の日から測定した)を液体窒素中でショック凍結(shock-frozen)し、150〜200μlの冷した抽出バッファー(50mMのTris/HCl pH7.6、2.5mMのEDTA、2mMのDTT、4mMのPMSF、0.1%(w/v)のグリコーゲン、10%(v/v)のグリセロール)中で均質にした。遠心分離(15分間、13000g、4℃)後、透明な上清を新鮮な反応器に移し、抽出物のアリコートを、Bradford(1976, Anal Biochem 72: 248-254)の方法によってタンパク質含有量を測定するために使用した。
【0179】
タンパク質抽出物を、単一濃縮ランニングバッファー(25mMのTris/HCl、192mMのグリシン)を使用して、連続的な7.5%強度のポリアクリルアミドゲル(7.5%のAA/BAA 37.5:1; 25mMのTris/HCl pH7.6、192mMのグリシン、0.1%(w/v)のAPS、0.05%(v/v)のTEMED)法によって分離した。ゲルに添加する前に、フリーラジカルを除去するため、事前泳動を8mA、4℃で30分間行った。15μgのタンパク質を各サンプルに対して添加し、4℃で2〜2.5時間電気泳動した。
【0180】
その後、ゲルを、15mlのインキュベーションバッファー(0.5Mのクエン酸ナトリウム pH7.0、25mMの酢酸カリウム、2mMのEDTA、2mMのDTT、0.1%(w/v)のアミロペクチン、50mMのトリシン/NaOH pH8.5、1mMのADP−グルコース)中で、連続的に振盪しながら室温で一晩インキュベートした。生成したデンプンをLugol's溶液で染色した。
【0181】
ザイモグラムによりSSII活性の増加の程度を判定するため、遺伝子組み換え系のタンパク質抽出物を段階的に希釈し、上述の方法にしたがって使用した。ザイモグラムをLugol's溶液染色した後に、様々な希釈度のSSIIバンドの強度を未希釈の野生型と目視で比較することによって、活性の増加の程度を判定した。
【0182】
7)米粉からの米デンプンの抽出
WangおよびWang(2004; Journal of Cereal Science 39: 291-296)の記述に類似した方法によって、米粉から米デンプンを抽出した。
【0183】
10gの米粉を、40mlの0.05%(w/v)NaOHと共に振盪器において室温で16〜18時間インキュベートした。その後、懸濁液をWarringブレンダーに移し、消化を完了し、低速度で15秒、その後高速度で45秒間混合した。粗成分(例えば細胞壁)を除去するために、懸濁液を125μmのメッシュサイズの篩に、その後63μmのメッシュサイズの篩に通した。1500rpmで15分間遠心分離(Microfuge 3. OR; Heraeus)をした後、上清をデカンテーションし、ペレットの表面にあるタンパク質層をスパーテルで除去した。ペレットの残部を0.05%(w/v)のNaOHに再懸濁し、上述の手順を繰り返した。その後、ペレットを水に再懸濁し、懸濁液のpHを、HClを使って6.5〜7にした。得られた米デンプンを水で洗浄し(全3回)、各洗浄工程は沈降(1500rpm、15分、RT)、上清の廃棄、および新鮮な水への再懸濁を含む。最終洗浄工程の前に、pHを再度調べ、適切な場合、HClでpH7にした。最終洗浄工程の米デンプンのペレットを、アセトンに再懸濁し、沈降させ、上清を廃棄した。ペレットを再度アセトンに再懸濁した後、懸濁液をペトリ皿に注ぎ、ヒューム(fume)キャビネット中、室温で少なくとも18時間乾燥した。
【0184】
最終工程で、米デンプンを、乳棒と乳鉢で粉末状にし、さらなる分析のすべてに直接使用する微粉末を得た。
【0185】
8)高圧陰イオン交換クロマトグラフィーによるアミロペクチン側鎖分布を解析するための米粉/デンプンの処理
各サンプルで、10mgの米粉または米デンプンを2mlのEppendorfカップに計り入れ、250μlの90%(v/v)DMSOで処理した。サンプルを60℃で振盪しながら溶解した後、375μlの水を添加し、混合物を95℃で1時間インキュベートした。300μlの16.7mM酢酸ナトリウム、pH3.5および0.5Uのシュードモナス種(Pseudomonas sp.)由来イソアミラーゼ(Megazyme; Bray, Ireland)を200μlの反応混合物に添加した。37℃で24時間インキュベートした後、さらに0.5Uのイソアミラーゼを添加し、さらに24時間インキュベートし続けた。
クロマトグラフィーのために、100μlの反応混合物を水で1:5に希釈し、次いでUltrafree-MCフィルターチューブ(Millipore)でろ過した。約90μlのろ液を注入した。
【0186】
クロマトグラフィー:
方法:
HPLCシステム:GP50 Dionex グラジェント ポンプ
ED50 Dionex Electrochem. 検出器/ PAD
AS50 オートサンプラー
カラムオーブン
カラム:Dionex CarboPac PA100 4x250 mm (P/N 046110)
ならびにガードカラムPA100 4x50 mm (P/N 046115)
【0187】
【表1】



HPAEC プログラム:
圧力 下限値=50
圧力 上限値=3500
%A.エクアート(Equate)=“NaOH 0.15M”
%B.エクアート(Equate)=“NaOAc 1.0M”
%C.エクアート(Equate)=“NaOH 0.15M中NaOAc 1.0M”
%D.エクアート(Equate)=“ミリポア水”
ECD.データ コレクション レート=1.0
波形時間=0.00,ポテンシャル=0.05
波形時間=0.20,ポテンシャル=0.05,インテグレーション=開始
波形時間=0.40,ポテンシャル=0.05,インテグレーション=終了
波形時間=0.41,ポテンシャル=0.75
波形時間=0.60,ポテンシャル=0.75
波形時間=0.61,ポテンシャル=−0.15
波形時間=1.00,ポテンシャル=−0.15
セル=オン
フラッシュ容量=500
フラッシュ状況待機
針高さ=2
カットセグメント容量=10
シリンジスピード=4 ;
サイクル=0
温度待機=仮(False)
サンプル準備待機
0.000 フロー =1.00
%B=0.0
%C=0.0
%D=0.0
曲線=5
ロード
インジェクト
待機
ECD.オートゼロ
ECD_1.Acqオン
フロー=1.00
%B=0.0
%C=0.0
%D=0.0
曲線=5
5.000 フロー =1.00
%B=11.0
%C=0.0
%D=0.0
曲線=5
フロー=1.00
%B=11.0
%C=0.0
%D=0.0
曲線=4
130.000 フロー =1.00
%B=35.0
%C=0.0
%D=0.0
曲線=4
132.000 フロー=1.00
%B=0.0
%C=100.0
%D=0.0
曲線=5
133.000 フロー=1.00
%B=0.0
%C=100.0
%D=0.0
曲線=5
142.000 フロー=1.00
%B=0.0
%C=0.0
%D=0.0
曲線=5
143.000 フロー=1.00
%B=0.0
%C=0.0
%D=95.0
曲線=5
152.000 フロー=1.00
%B=0.0
%C=0.0
%D=95.0
曲線=5
ECD_1.Acqオフ
終了
【0188】
データ評価はDionex Chromeleon v6.60(Dionex Corporation, Sunnyvale, カリフォルニア州、USA)を使用して行う。「解説およびユーザーマニュアル」6.60バージョン(2004年3月)はDionexから取り寄せ、あるいはそのホームページ(http://www.dionex.com)からダウンロードできる。
【0189】
互いにクロマトグラムを比較するため、異なるマルトオリゴ糖の中で同定されたピークを、各クロマトグラムについて平均正規化した(すべてのピーク領域の合計=1)。「対数ベースライン」についてDionex Chromeleon v.6.60に記述されたとおり、評価は「力の一般的(force common)ベースライン」に基づいて行った。そうするために、最初の側鎖ピーク直前と、測定経路の最短クロマトグラムの最後の評価可能ピークまで、対数ベースラインを設置する;このことは、すべてのクロマトグラムについての最後の評価可能ピークを算出するための基礎となる。
【0190】
9)調理特性および調理した米粒の質感の決定
後述の4)「米粒の処理」で処理した白米粒を、調理特性を決めるために使用した。調理前に、粒の寸法および粒の重量を測定した。調理には、水−米の割合は20:1であった。
【0191】
水を沸騰させ、米を加え、水が軽く沸騰するように弱火にした(この処理の間、米を3分毎に攪拌した)。Juliano(1984; J. of Tex. Studies 15: 357-376)が記述したガラスシート試験によって、最小限の調理時間を決めた。そのように行うために、各場合で、1分間隔で2枚のガラスシートの間で10粒を押しつぶした。粒の90%にもはや白い核が見えなくなる時点で、最小限の調理時間に達するとした。最適な調理時間には、さらに2分間調理過程を延長することで到達した。米を篩で裏ごしして、室温で調理した。その後、調理した粒の寸法および重量を再度測定した。新たに調理した米粒を(調理の約1時間後に)使用し、それを4℃で22時間保存し室温で戻した米粒、および4℃で(22時間)保存しその後オーブンまたは電子レンジを使用し再加熱した米粒について、質感を評価した。オーブン中の調理済み米粒を再加熱するために、前者をアルミニウム製の皿に入れ、水分喪失を防止するためにアルミホイルで密封した。皿をオーブン中、80℃で20分間インキュベートした。好適な電子レンジ用容器に入れ、電子レンジ中で粒を360ワットで3分間、再加熱した。この2つの再加熱処理後、粒を室温で30分間保存し、測定中、粒の温度が確実に一定になるようにした。
【0192】
上述の実験から得た調理済み米の質感を、直径2.5cmの円状プローブおよび測定法として二重圧縮試験を利用して、Texture Analyser TAXT2(Stable Micro Systems, Godalming、UK)にて測定した(出典、Champagneら、(1998) Cereal Chem. 75 (2): 181-186)。そのように行うため、米粒を第一のサイクルで圧縮し、次いで減圧し、また再度圧縮し、粒がプローブに与える力(押す力または引く力)を連続的に記録した。分析の各サンプルを、各場合3個の粒について10回の測定に供し、該米粒を、互いに接触しないように、またプローブの端部を越えないように、プローブの下に設置する。記録したパラメータは、調理した米粒の硬度(H)(第一の圧縮工程中の最大の力)および粘性(−H)(第一の圧縮工程後の最小の力)であり、図2を参照されたい。1つのサンプルのすべての測定は個別に評価し、問題のパラメータについての平均をその後求めた。
【0193】
10)調理による粒の寸法変化の測定
粒の寸法(長さ、幅および面積)を、Systat(Erkrath、ドイツ)のソフトウエア「SigmaScan Pro」Version 5.0.0を使用して測定した。そのように行うために、各場合につき30個の米粒(未調理および調理済)をスキャンし、形成された画像をソフトウエアによって評価した。以下のパラメータを記録あるいは算出した:
−未調理米の粒長 W−未調理米の粒幅
−未調理米の粒長 W−未調理米の粒幅
L/W比=L/WまたはL/W
ER−伸長速度=L/L
CDC−寸法の変化率=(L−L)/(W−W
【0194】
11)示差走査熱量測定法(=DSC)による、米粉/デンプンの熱分析
約10mg(乾燥重量)の米粉または米デンプンをステンレス製の鍋(Perkin Elmer,「Large Volume Stainless Steel Pans」[03190218]、容量60μl)に計り入れ、過剰量の2回蒸留水(好ましくは30μl)を入れ、鍋を密閉した。サンプルをDiamondタイプのDSC装置(Perkin Elmer)中で、加熱速度10℃/分で20℃から150℃まで加熱した。参照として、空の密閉ステンレス製鍋を使用した。所定量のインジウムでシステムを較正した。
【0195】
Pyris(Perkin Elmer, Version 7.0)のソフトウエアプログラムによってデータを分析した。T−開始(℃)、T−ピーク(℃)、T−終了(℃)へと移行する一次相転移の個々のピークおよびdH(J/g)(標準は直線のベースラインである)を分析することによって評価可能な生データを処理した。
【0196】
DSC T−開始は、ベースラインのプロジェクション、および変曲点と交わるピークの上昇接触面で引かれた接線で特徴付けられる。それは相転移の開始を特徴付ける。
【0197】
最高温度であるDSC T−ピークは、DSC曲線が最高に達した最高温度(すなわち曲線の一次微分がゼロであるときの温度)を意味する。
【0198】
Pyrisで使用した関数(計算のピーク領域)では、ベースライン適合のために開始温度および最終温度を手動で入力する。
【0199】
12)明白なアミロース含有量の決定
明白なアミロース含有量を、Juliano(1971, Cereal Science Today 16 (10): 334-340)から適合させた方法により決定した。
【0200】
各サンプルで、50mgの米粉を100mlのErlenmeyerフラスコに計り入れ(2回)、1mlの95%強度のエタノールおよび9mlの1MのNaOHで連続的に湿らせた。
【0201】
平行して、標準曲線を確立するために、規定量の純アミロースが入ったフラスコを粉末サンプルと同一に処理する。フラスコを手早く膨張させサンプルを混合し、次いで軽く振盪しながら、沸騰水槽中で20分間インンキュベートした。RTで5〜10分間冷却した後、水を加えて量を100mlにした。
【0202】
100μlのアリコートを1mlの試験液(10mlの酢酸、0.004%(w/v)のI;0.04%(w/v)のKl)で処理し、完全に混合し、対応する空試験値に対して620nmで吸収を判定した。較正曲線を確立するために使用するアミロース標準品を使用してアミロース含有量を算出した。
【0203】
13)ラピッドビスコアナライザー(RVA)による米粉の分析
この分析の原理は、水と米粉の懸濁液を規定の温度およびせん断プロトコールに供することに基づいており、この間、懸濁液の粘度は連続的に記録する。使用の測定装置は、Newport Scientific(Macclesfield、UK)のRVA Super3であり、対応するソフトウエア「Thermocline for Windows(登録商標)」、バージョン2.3を使用している。
【0204】
分析では、(水分0%に対して補正したサンプル物質の純乾燥重量として量った)3gの米粉を分析容器に計り入れ、25mlの水で処理し、攪拌器を設置した装置に分析容器を導入した。
【0205】
以下の温度およびせん断プロファイルを適用した:
【表2】


測定終了後、以下のパラメータを判定した:
ピーク粘度(2〜7分の測定期間の間の最高粘度)
トラフ粘度(7〜12分の測定期間の間の最低粘度)
最終粘度(測定終了での粘度)
ブレークダウン=ピーク−トラフ
セットバック=ファイナル−トラフ
糊化温度(0.1分の時間間隔の間、36cpを超えて粘度が変化する温度)
ピーク時間(ピーク粘度に達する時間)
【0206】
14)C6位におけるリン酸塩含有量(C6−P含有量)の決定
デンプンにおいて、グルコース単位でのC3およびC6位がリン酸化を受ける場合がある。デンプンのC6−P含有量を測定するため(Nielsenら、1994, Plant Physiol. 105: 111-117の変法)、50gの米粉を、連続的に振盪しながら500μlの0.7MのHCl中で95℃にて4時間加水分解した。その後、サンプルを15500gで10分間遠心分離し、ろ過膜(0.45μM)により濁りを上清から除去した。20μlの透明な加水分解物を、180μlのイミダゾールバッファー(300mMのイミダゾール、pH7.4;7.5mMのMgCl、1mMのEDTAおよび0.4mMのNADP)と混合した。光度計で測定を340nmで行った。基本吸収を記録した後、2単位のグルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼ(Leuconostoc mesenteroides, Boehringer Mannheimから)を添加して酵素反応を開始した。吸収の変化は、グルコース−6−リン酸およびNADPの、6−ホスホグルコン酸およびNADPHへの等モル変換に起因し、NADPHの生成は上述の波長で記録する。プラトーに達するまで反応を監視した。この測定の結果から、加水分解物中のグルコース−6−リン酸含有量が分かる。加水分解度を、遊離したグルコースの含有量を参照にして同一の加水分解物から測定した。生重量に由来する加水分解デンプンの割合にグルコース−6−リン酸含有量を関連付けるために、加水分解度を利用する。この目的のために、10μlの加水分解物を、10μlの0.7MのNaOHで中和し、次いで水で1:100に希釈した。4μlのこの希釈液を196μlの測定バッファー(100mMのイミダゾール pH6.9;5mMのMgCl、1mMのATP、0.4mMのNADP)で処理し、基本吸収を決めるために使用した。プラトーに達するまで、2μlの酵素混合物(測定バッファー中のヘキソキナーゼ1:10;酵母由来のグルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼ1:10)を添加して340nmで反応を監視した。測定の原理は最初の反応のものに対応している。
【0207】
この測定の結果から、出発物質中に存在するデンプンから加水分解している間遊離したグルコースの量(g)が分かる。
【0208】
その後、加水分解デンプン1mgあたりのグルコース−6−リン酸の含有量を表すために、2つの測定結果は互いに関連している。グルコース−6−リン酸の量をサンプルの生重量に関連付ける場合とは対照的に、この計算により、グルコース−6−リン酸の量を、グルコースを与えるために十分に加水分解し、それゆえグルコース−6−リン酸の供給源としても構成できる、デンプンの一部だけに関連付けられる。
【0209】
15)難消化性デンプン含有量の決定(消化性)
難消化性デンプン含有量は、Englystら(1992, Europ. J. of Clinical Nutrition, 46/2: 33-50)による記述に基づいて以下で述べるように改変した方法によって決定する。
【0210】
酵素液を、8mlの水中で1.2gのパンクレアチン(Merck)を37℃で10分間抽出することによって調製する。遠心分離(3000rpm;RT、10分)後、5.4mlの上清を84Uのアミログルコシダーゼ(Sigma-Aldrich, Taufkirchen)と混合し、水で終量が7mlになるように調製する。
【0211】
平行して、1サンプルにつき10mg(生重量)の米デンプンを、2mlの反応槽中で、0.75mlの酢酸ナトリウムバッファー(0.1Mの酢酸ナトリウム、pH5.2;4mMのCaCl)と混合し、37℃で5分間インキュベートし混合液を加温する。
【0212】
デンプンの消化を、0.25mlの酵素液を各混合液に添加して開始する。対照の混合液は酵素液を添加する代わりに水を添加する。100μlのアリコートを、20、60および120分後に除去し、4倍量のエタノールに直接加え、そうすることによって酵素が不活性化される。この希釈を利用し、グルコース含有量を測定する。
【0213】
この目的のため、2μlの希釈したサンプルを200μlの測定バッファー(100mMのイミダゾール/HCl pH6.9、5mMのMgCl、1mMのATP、2mMのNADP)と混合し、サンプルの340nmでの吸光を測定する。グルコースの変換を、2μlの酵素混合液(10μlのヘキソキナーゼ、10μのグルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼ、80μlの測定バッファー)を添加して開始し、続いてNADPのNADPHへの等モル変換を340nmで、プラトーに達するまで行う。グルコースの測定量とデンプンの乾燥重量(生重量から水含有量を差し引いて計算)の関係から、適当な期間を置いてグルコースとして遊離したサンプルの割合が分かる。
【0214】
難消化性デンプンの量を以下のように算出した:
RS[%]=100x非遊離のグルコース(mg)/デンプン乾燥重量(mg)
【0215】
実施例
実施例1:米中の小麦デンプン合成酵素IIaを発現するための形質転換ベクター
米形質転換ベクターIR103−123(国際公開第05/030941号に記載)およびプラスミドCF31−191(pTaSS1の名の下で国際公開第97/45545号に記載)を使用した。米形質転換ベクターIR103−123は、米由来グロブリンプロモーターによる標的遺伝子の内胚乳特異的発現に役立つ。第1のステップa)では、ベクターIR103−123を、制限酵素EcoRVおよびXhoIを使用して直線化する。プラスミドCF31−191は、小麦(Triticum aestivum)由来のデンプン合成酵素II(SSII)のcDNAを含む。第2のステップb)では、SSIIのcDNAを、制限酵素Ecl136IIおよびXhoIを使用してプラスミドCF31−191から切り離す。ステップa)で直線化されたベクターIR103−123と、ステップb)で得られたプラスミドCF31−191のフラグメントをライゲーションし、ベクターAH32−191が得られる。
【0216】
実施例2:SSII活性が増加した、遺伝子組み換えイネの生成
デンプン合成酵素II(SSII)活性が増加した遺伝子組み換え植物を生成するために、プラスミドAH32−191のT−DNAを、Ishidaら(1996, Nature Biotechnology 14 (6): 745-750)の記述にしたがってアグロバクテリアを利用してイネに移動した。SSII活性の増加をザイモグラムにより判定する。
【0217】
図1には、野生型と比較したSSII活性を判定するための3つの遺伝子組み換え米系のザイモグラムを示している。使用した材料は、野生型の未成熟粒(開花開始の15日後)および各遺伝子組み換え系から得たすべてのタンパク質抽出物であり、各場合は同一量で使用した。遺伝子組み換え系由来のタンパク質抽出物を段階的に希釈し、活性が増加するまでの程度を、これらのレーンのSSIIバンドの強度と「野生型レーン」とを目視で比較することによって判定した。系GAOS0353−01502のSSII活性は野生型粒のものよりも10倍高く、系GAOS0353−01301では6倍、および系GAOS0353−02301では2倍高い。
【0218】
実施例3:異なるSSII活性レベルを有する異なるトランスジェニック系由来の米デンプンの性質
実施例2の記載どおりに生成された植物から米粒を回収し、次いで上述の方法(「4) 米粒の処理」)によって処理し米粉を得た。その後米粉のデンプン成分を上述の方法(「7) C6位におけるリン酸塩含有量(C6−P含有量)の決定」)により、それらのC6位でのリン酸塩含有量について分析した。
【0219】
【表3】

【0220】
表1:野生型(wt)と比較した、SSII活性が増加した米デンプンの性質である。データからSSII活性(野生型に対する倍数)およびデンプン結合グルコース−6−リン酸(C−6−P)含有量が分かる。
【0221】
デンプン合成酵素IIの活性レベルは、C6位におけるリン酸塩含有量のレベルと相関していることが分かる。系GAOS0353−01301の発現は6倍増加し、C−6−P含有量は、野生型と比較してほとんど2倍である。最も顕著な効果は系GAOS0353−02501で見られ、そのSSII発現は10倍増加し、C6−P含有量は、野生型(100%)と比較して350%を超えて増加する。
【0222】
実施例4:SSII発現の異なるレベルを有する異なる遺伝子組み換え系の米粒、米デンプンおよび米粉の性質のリスト
【0223】
【表4】

【0224】
得られたデータは、未成熟の米粒中のSSII活性(野生型に対する倍数)、野生型から大幅に改変したデンプンのアミロペクチン側鎖(AP−SC)の範囲、リン酸塩含有量(C6P)および、米デンプンのDSCの℃および%での値(野生型に対する)である。(n.d.=不検出)
【0225】
遺伝子組み換えした系由来のデンプンのC6位でのリン酸塩含有量は、SSII活性のレベルの関数として野生型と比較して有意に増加している。
【0226】
【表5】

【0227】
得られたデータは、未成熟の米粒中のSSII発現(野生型に対する倍数)、米粉のDSC値の℃での変化、および野生型のDSC値のパーセント(%)での変化である。
【0228】
遺伝子組み換え系の明白なアミロース含有量からは、微量の修飾しか見られない;それらすべては野生型のものよりもやや低度である。
【0229】
米粉およびそれから単離したデンプンの両方の熱安定性は、SSII活性の関数として異なる遺伝子組み換え系で段階的に高まる(図1ならびに表1および表2を比較されたい)。高まったDSC T−開始およびDSC T−ピークが最も高く現れたのは、SSII活性が10倍増加した系である。データは、各場合で野生型に対して約120%である。
【0230】
実施例5:野生型(WT)と比較した、活性レベルおよびアミロペクチン側鎖に関する異なる遺伝子組み換え米系の比較
表4は野生型と比較した、異なる遺伝子組み換え米系のアミロペクチン側鎖の分布を示している。示された曲線は、分析したグルカンの鎖長(DP=重合度での)対、試験したすべての総DPのうちの特定のDPのパーセンテージをプロットした結果である。
【0231】
【表6】

【0232】
SSII活性が増加すると必然的に、アミロペクチン側鎖分布が個別に変化することがわかる。SSII活性が増加すると、結果として、DPが6〜10の側鎖は段階的に、異なって明確に減少し、DPが20〜25の側鎖は増加する。
【0233】
実施例6:調理済米粒の質感
異なる遺伝子組み換え系および対応する野生型の米粒を、問題の最適調理時間まで調理した(方法「調理した米粒の性質の判定」を参照)。調理後に4℃で22時間保存した(表5a、示されたデータは各サンプルの10回の測定の平均である(各場合で3粒))米粒、又は新たに調理した米粒(調理の約1時間後)、および冷蔵保存(4℃、22時間、その後オーブンまたは電子レンジで再加熱)した米粒について質感を判定した(表5b)。
【0234】
【表7】

【0235】
調理した米粒の粘着性は、SSII活性の増加とともに減少する(表5a)。系GAOS0353−02301の粘着性の減少は、約半分に減少し、系GAOS0353−01301では約3倍減少し、GAOS0353−01502では約13倍減少している。
【0236】
【表8】

【0237】
調理およびオーブンまたは電子レンジでの再加熱後(4℃で22時間保存後)の調理済み米粒の粘着性を判定するためのデータのまとめ。変化させた各処理において、系GAOS0353−01502の粘着性は野生型のものよりも顕著に低い。
【0238】
実施例7:未調理および調理済み米粒の寸法の決定
遺伝子組み換え系および対応する野生型の未調理および調理済み米粒の寸法を、SigmScanソフトウエアを用いて決定した。そこから得られた結果およびパラメータを表5aおよびbに示す。
【0239】
【表9】

【0240】
示されたデータは、30回の個々の測定の平均である(L=粒長;W=粒幅;u=未調理;c=調理済み;ER=伸長率(Lc/Lu):CDC=寸法の変化率(Lc/Lu)/(Wc/Wu))。
【0241】
【表10】

【0242】
調理した米粒の寸法に関して、米のSSII活性が増加すると、調理の間、粒は長軸方向にかなり高度に伸長する。このことは、伸長率(ER)の増加、および長/幅割合(Lc/Wc)の増加から明らかである。さらに、SSII活性が2倍増加する系(GAOS0353−02301)では、上記のパラメータに関して変化率が小さく、一方、SSII活性が6倍(GAOS0353−01301)および10倍(GAOS0353−01502)増加した2つの系では、その発現がかなり顕著である。
【0243】
実施例8:ラピッドビスコアナライザー(RVA)による米粉の物理化学的性質の分析
異なる遺伝子組み換え系および対応する野生型から得た米粉を、方法「RVAによる米粉の分析」に記載のとおり、その物理化学的性質について分析した。
米粉/水懸濁液の粘度を、規定の温度およびせん断プログラムで記録した。異なる系のグラフおよび分析データを表6a+bに示す。
【0244】
【表11】

【0245】
【表12】

【0246】
野生型および遺伝子組み換え系から得た粉の粘度の経過は複数のパラメータで異なっている。遺伝子組み換えサンプルは、顕著に後の方の時点で糊化し始め、これは「糊化温度」の上昇から分かる。引き続き、粘度の上昇は、遺伝子組み換えサンプルの短い「ピーク時間」から分かるように、粘度のピークまで非常に急速に進行する。他の粘度パラメーター(ピーク、トラフ、最終)は全て、野生型の場合よりも遺伝子組み換えサンプルの場合の方が低い。野生型での変化の程度はSSII活性レベルと相関していることを本明細書で述べておくことが必要である。SSII活性が最も高い系(GAOS0353−01502)は、最も低いピーク、トラフおよび最終粘度を示し、また、10℃を超える値で糊化温度差が最も大きい。
【0247】
別の非常に明白な態様は、遺伝子組み換えサンプルの粘度の急速な増長であり、これは糊化の開始とピーク粘度時間の間の非常に短い間隔に反映している。さらに、このパラメータは、その効果が、SSII活性が増加する程度に著しく依存していることを示している。
【0248】
実施例9:単離デンプンの消化率
形質転換体GAOS353−2501およびGAOS353−1301のデンプンでは、野生型と比較して顕著に消化率が低下している。
【0249】
野生型に対する形質転換体GAOS353−1301の場合の単離デンプンの酵素分解は、20分後で53%、60分後で67%、120分後で84%である。
【0250】
野生型に対する形質転換体GAOS353−2501の場合の単離デンプンの酵素分解は、20分後で39%、60分後で49%、120分後で68%である(図3)。
【0251】
【表13】

【図面の簡単な説明】
【0252】
【図1】遺伝子組換え系列におけるSSII活性の決定。
【図2】米粒の質感の決定。
【図3】米粉から単離デンプンの20、60、120分後の消化率(デンプンの乾燥重量に対するパーセントで遊離グルコースとして測定)。野生型および形質転換体GAOS353−1301および形質転換体GAOS353−2501の比較。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
遺伝子組み換え植物細胞のデンプンのリン酸塩含有量を、遺伝子組み換えしない野生型の対応する植物細胞由来のデンプン(100%)と比較して、150〜500%に増加させるプロセスであって、
a)可溶性デンプン合成酵素IIをコードする外来核酸分子を導入することにより、植物細胞の遺伝子組み換えを行い、および
b)この可溶性デンプン合成酵素IIを過剰発現させる、
プロセス。
【請求項2】
前記外来核酸が、異種の可溶性デンプン合成酵素IIのコーディング領域である、請求項1記載のプロセス。
【請求項3】
前記可溶性デンプン合成酵素IIが、単子葉植物由来の可溶性デンプン合成酵素IIである、請求項1記載のプロセス。
【請求項4】
前記可溶性デンプン合成酵素IIが、小麦由来の可溶性デンプン合成酵素IIである、請求項1記載のプロセス。
【請求項5】
前記可溶性デンプン合成酵素IIが、配列番号1に示すヌクレオチド配列を有する、請求項1記載のプロセス。
【請求項6】
前記遺伝子組み換え植物細胞が、ジャガイモ、トウモロコシまたはイネ細胞である、請求項1〜5のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項7】
DSC T−開始温度が70℃〜80℃である米デンプン。
【請求項8】
前記DSC T−開始温度が72℃〜79℃である、請求項7記載の米デンプン。
【請求項9】
請求項7または8記載の米デンプンを含む誘導体化米デンプン。
【請求項10】
請求項7〜9のいずれか1項に記載の米デンプンを含む組成物。
【請求項11】
請求項7または8記載の米デンプンを含む米粉。
【請求項12】
請求項10記載の米粉を含む組成物。
【請求項13】
請求項7または8記載の米デンプンを含む米粒。
【請求項14】
請求項13記載の少なくとも1つの米粒を含む組成物。
【請求項15】
請求項13記載の少なくとも1つの米粒を成長させ、および/または請求項7または8記載の米デンプンを含む、イネ。

【図2】
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【図3】
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【図1】
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【公表番号】特表2009−502127(P2009−502127A)
【公表日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−521910(P2008−521910)
【出願日】平成18年7月24日(2006.7.24)
【国際出願番号】PCT/EP2006/007389
【国際公開番号】WO2007/009823
【国際公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【出願人】(507203353)バイエル・クロップサイエンス・アーゲー (172)
【氏名又は名称原語表記】BAYER CROPSCIENCE AG
【Fターム(参考)】