説明

植物乾燥エキスの製造方法

【課題】クエルセチン配糖体やケンフェロール配糖体の熱による分解を抑制して、これらを多量にまた安定して含有する植物エキスの製造方法を提供する。また水への溶解性に優れ、不都合な着色が抑制されて、飲料や化粧水などの水系の組成物への配合に適した植物エキス、特に乾燥粉末形態の植物エキスを製造する方法を提供する。
【解決手段】クエルセチン配糖体またはケンフェロール配糖体を含有する植物またはその抽出物を、酸またはその塩の存在下で加熱処理する工程を経て植物エキスを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クエルセチン配糖体またはケンフェロール配糖体(以下、これらを総称して「フラボノール類」ともいう)を含有する乾燥形態の植物エキスの製造方法に関する。より詳細には、本発明は加熱処理によるフラボノール類の分解を抑制し、より多くのフラボノール類を安定して含有する植物乾燥エキスの製造方法に関する。また本発明は、水への溶解性に優れ、また着色が抑制された植物乾燥エキスを製造する方法に関する。さらに本発明は、当該方法によって調製される植物乾燥エキスおよびこれを用いて調製される食品または化粧品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、クエルセチン配糖体やケンフェロール配糖体などのフラボノール類に抗酸化作用、抗動脈硬化作用、血糖上昇抑制作用などの優れた生理作用があることが知られており、かかるフラボノール類を含有する天然の素材として、例えば、桑の葉、柿の葉、イチョウの葉、茶葉、ビワ、グアバ、蕎麦、モロヘイヤまたは玉ねぎなどの多くの植物の抽出物が注目されている。
【0003】
かかる植物抽出物の調製に際しては、フラボノール類を効率よく、かつ安定的に抽出することが必要である。しかしながら、上記フラボノール類は一般に熱や保存中の経時変化により分解しやすく、植物から安定的に抽出し加工することは難しい。また、食品への適用を考えると、植物抽出物は高い水溶解性を有し、食品中で沈殿や析出することなく安定な状態で配合されることが望ましい。
【0004】
こうした問題を解決する方法として、例えば、桑葉を一旦凍結乾燥し、凍結乾燥した桑からポリフェノール成分を抽出することによってポリフェノール成分の分解を抑制する方法が提案されている(特許文献1など参照)。また、植物抽出物を含む飲料において保存中の析出や沈殿を防止する方法として、飲料中にクエン酸やリンゴ酸などの有機酸を配合する方法が提案されている(特許文献2または3など参照)。
【特許文献1】特開2004−147605号公報
【特許文献2】特開2004−222640号公報
【特許文献3】特開平6−14746号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、クエルセチン配糖体やケンフェロール配糖体の熱による分解を抑制して、これらを多量にまた安定して含有する乾燥形態の植物エキスの製造方法を提供することを目的とする。また本発明は、水への溶解性に優れ、また不都合な着色が抑制されて、飲料や化粧液などの水性の組成物への配合に適した植物乾燥エキス、特に粉末形態の植物乾燥エキスを製造する方法を提供することを目的とする。さらに、本発明は、かかる植物乾燥エキスを含有する食品または化粧品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題の解決を目指して検討を重ねていたところ、植物乾燥エキスの製造工程において、植物またはその抽出物を酸の存在下で加熱処理することによって、加熱によるクエルセチン配糖体やケンフェロール配糖体の分解が有意に抑制されて、これらのフラボノール類を多量にかつ安定的に含有する植物乾燥エキスが調製できることを見出した。さらに酸の存在下で加熱処理して調製した植物乾燥エキスは水への溶解性が高く、さらに不都合な着色が有意に抑制されることを見出した。
【0007】
本発明はかかる知見に基づいて完成したものであり、下記の態様を包含するものである:
(I)植物乾燥エキスの製造方法
I-1.クエルセチン配糖体またはケンフェロール配糖体を含有する植物またはその抽出物を、酸またはその塩の存在下で加熱処理する工程を有することを特徴とする、植物乾燥エキスの製造方法。
I-2.クエルセチン配糖体またはケンフェロール配糖体を含有する植物を、酸またはその塩を含有する溶媒を用いて加熱下で抽出する操作を有する、I-1記載の植物乾燥エキスの製造方法。
I-3.クエルセチン配糖体またはケンフェロール配糖体を含有する植物またはその抽出物を、酸またはその塩の存在下で加熱殺菌処理する操作を有する、I-1記載の植物乾燥エキスの製造方法。
I-4.酸が、クエン酸、アスコルビン酸、乳酸、コハク酸、酒石酸、リンゴ酸、フマル酸、酢酸、および塩酸からなる群から選択される少なくとも1種である、I-1乃至I-3のいずれかに記載の植物乾燥エキスの製造方法。
I-5.クエルセチン配糖体またはケンフェロール配糖体を含有する植物が桑の葉である、I-1乃至I-4のいずれに記載の植物乾燥エキスの製造方法。
I-6.植物乾燥エキスが粉末形態を有するものである、I-1乃至I-5のいずれかに記載の植物乾燥エキスの製造方法。
【0008】
(II)植物乾燥エキスおよびその用途
II-1.I-1乃至I-6のいずれかに記載の製造方法で得られる植物乾燥エキス。
II-2.II-1記載の植物乾燥エキスを用いて調製される食品または化粧品。
【0009】
(III)植物乾燥エキスの水溶解性向上方法
III-1.クエルセチン配糖体またはケンフェロール配糖体を含有する植物乾燥エキスの水溶解性を向上する方法であって、当該植物乾燥エキスの製造工程において、クエルセチン配糖体またはケンフェロール配糖体を含有する植物またはその抽出物を、酸またはその塩の存在下で加熱処理する工程を有することを特徴とする方法。
III-2.上記加熱処理工程が、クエルセチン配糖体またはケンフェロール配糖体を含有する植物を、酸またはその塩を含有する溶媒を用いて加熱下で抽出する工程である、III-1に記載する植物乾燥エキスの水溶解性向上方法。
III-3.上記加熱処理工程が、クエルセチン配糖体またはケンフェロール配糖体を含有する植物またはその抽出物を、酸またはその塩の存在下で加熱殺菌処理する工程である、III-1に記載する植物乾燥エキスの水溶解性向上方法。
III-4.酸が、クエン酸、アスコルビン酸、乳酸、コハク酸、酒石酸、リンゴ酸、フマル酸、酢酸、および塩酸からなる群から選択される少なくとも1種である、III-1乃至III-3のいずれかに記載する植物乾燥エキスの水溶解性向上方法。
III-5.クエルセチン配糖体またはケンフェロール配糖体を含有する植物が桑の葉である、III-1乃至III-4のいずれに記載する植物乾燥エキスの水溶解性向上方法。
III-6.植物乾燥エキスが粉末形態を有するものである、III-1乃至III-5のいずれかに記載する植物乾燥エキスの水溶解性向上方法。
【0010】
(IV)植物エキスの着色抑制方法
IV-1.クエルセチン配糖体またはケンフェロール配糖体を含有する植物エキスの着色を抑制する方法であって、当該植物エキスの製造工程において、クエルセチン配糖体またはケンフェロール配糖体を含有する植物またはその抽出物を、酸またはその塩の存在下で加熱処理する工程を有することを特徴とする方法。
IV-2.上記加熱処理工程が、クエルセチン配糖体またはケンフェロール配糖体を含有する植物を酸またはその塩を含有する溶媒を用いて加熱下で抽出する工程である、IV-1記載の植物エキスの着色抑制方法。
IV-3.上記加熱処理工程が、クエルセチン配糖体またはケンフェロール配糖体を含有する植物またはその抽出物を、酸またはその塩の存在下で加熱殺菌処理する工程である、IV-1記載の植物エキスの着色抑制方法。
IV-4.酸が、クエン酸、アスコルビン酸、乳酸、コハク酸、酒石酸、リンゴ酸、フマル酸、酢酸、および塩酸からなる群から選択される少なくとも1種である、IV-1乃至IV-3のいずれかに記載する植物エキスの着色抑制方法。
IV-5.クエルセチン配糖体またはケンフェロール配糖体を含有する植物が桑の葉である、IV-1乃至IV-4のいずれに記載する植物エキスの着色抑制方法。
IV-6.植物エキスが乾燥粉末形態を有するものである、IV-1乃至IV-5のいずれかに記載する植物エキスの着色抑制方法。
【0011】
(V)クエルセチン配糖体またはケンフェロール配糖体の加熱分解抑制方法
V-1.クエルセチン配糖体またはケンフェロール配糖体の加熱による分解を抑制する方法であって、当該配糖体を含有する被験物を、酸またはその塩の存在下で加熱処理することを特徴とする方法。
V-2.上記配糖体を含有する被験物が、クエルセチン配糖体またはケンフェロール配糖体を含有する植物またはその抽出物である、V-1に記載する加熱分解抑制方法。
V-3.上記加熱処理が、クエルセチン配糖体またはケンフェロール配糖体を含有する植物を酸またはその塩を含有する溶媒を用いて加熱下で抽出する処理である、V-2に記載する加熱分解抑制方法。
V-4.上記加熱処理が、クエルセチン配糖体またはケンフェロール配糖体を含有する植物またはその抽出物を、酸またはその塩の存在下で加熱殺菌する処理である、V-2に記載する加熱分解抑制方法。
V-5.酸が、クエン酸、アスコルビン酸、乳酸、コハク酸、酒石酸、リンゴ酸、フマル酸、酢酸、および塩酸からなる群から選択される少なくとも1種である、V-1乃至V-4のいずれかに記載する加熱分解抑制方法。
IV-6.クエルセチン配糖体またはケンフェロール配糖体を含有する植物が桑の葉である、V-1乃至V-5のいずれに記載する加熱分解抑制方法。
【発明の効果】
【0012】
従来よりクエルセチン配糖体やケンフェロール配糖体などのフラボノール類には、抗酸化作用、抗動脈硬化作用および血糖上昇抑制作用などの優れた生理作用があることが知られている。本発明の製造方法によれば、かかるフラボノール類の加熱による分解が有意に抑制されるため、安定して多量のクエルセチン配糖体またはケンフェロール配糖体を含有する植物乾燥エキスを得ることができる。また、本発明の製造方法によれば、水への溶解性に優れ、かつ不都合な着色が抑制された植物乾燥エキスを得ることができる。このため、本発明の製造方法で調製された植物乾燥エキスは、クエルセチン配糖体やケンフェロール配糖体の生理作用を有効に利用した食品や化粧品、特に飲料や化粧水などへの配合成分として有効に利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
(1)植物乾燥エキスの調製方法
本発明の植物乾燥エキスの製造方法は、クエルセチン配糖体またはケンフェロール配糖体を含有する植物またはその抽出物を、酸またはその塩の存在下で加熱処理する工程を有することを特徴とする。
【0014】
ここでクエルセチン配糖体としては、植物由来のクエルセチンの配糖体であれば特に制限されず、例えばルチン、イソクエルシトリン、クエルセチンマロニルグルコシド、クエルセチンアセチルグルコシドなどを挙げることができる。また、ケンフェロール配糖体としては、同様に、植物由来のケンフェロールの配糖体であれば特に制限されないが、例えばアストラガリン、ケンフェロールアセチルグルコシドなどを挙げることができる。
【0015】
本発明が対象とする植物は、かかるクエルセチン配糖体またはケンフェロール配糖体を含有する植物であり、例えば、桑、柿、イチョウ、茶、ビワ、グアバ、蕎麦、モロヘイヤ、および玉ねぎなどを挙げることができる。好ましくは、桑、柿、およびモロヘイヤであり、より好ましくは桑である。植物の部位は、クエルセチン配糖体またはケンフェロール配糖体を含有する部位(例えば、花、芽、葉、茎、枝、枝先、根、根茎、及び種子等)であればよく、特に制限されない。桑、柿、イチョウ、茶、ビワ、グアバおよびモロヘイヤの場合、好ましくは葉の部分であり、また蕎麦の場合は、好ましくは種子部、玉ねぎの場合はりん茎である。
【0016】
本発明において使用される酸としては、好適にはクエン酸、アスコルビン酸、乳酸、コハク酸、酒石酸、リンゴ酸、フマル酸または酢酸などの有機酸、および塩酸などの無機酸を挙げることができる。好ましくはクエン酸、リンゴ酸、乳酸であり、より好ましくはクエン酸である。なお、酸は塩の形態を有するものであってもよい。かかる塩としては、ナトリウムやカリウムなどのアルカリ金属塩、カルシウムやマグネシウムなどのアルカリ金属塩を挙げることができる。当該酸またはその塩は、1種または2種以上を組み合わせて使用することもでき、また2種以上の組み合わせ物として、上記酸を含有する果汁を用いることもできる。
【0017】
本発明の製造方法は、酸存在下での加熱処理工程を一部に含んでいればよい。例えば、かかる加熱処理工程としては、(1)植物を、酸またはその塩を含む溶媒を用いて加熱下で抽出する工程、(2)植物または植物抽出物を酸存在下で加熱処理する工程を挙げることができる。なお、(2)の加熱処理には加熱殺菌処理が含まれる。
【0018】
(1)の工程
(1)の工程に際して、抽出に使用される溶媒としては、制限されないが、例えば、水;またはメタノール、エタノール、イソプロパノール、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、アセトン、酢酸エチル、クロロホルム、ペンタン、ヘキサン、およびヘプタン等の有機溶媒を挙げることができる。これらは1種単独、或いは2種以上を組み合わせて用いることができる。上記抽出溶媒の中で、好ましくは、水;メタノール、エタノール、イソプロパノール等の低級アルコール;あるいは水と低級アルコールの混合液を挙げることができる。
【0019】
抽出は、植物全草、或いはクエルセチン配糖体またはケンフェロール配糖体を含む部位(例えば、花、芽、葉、茎、枝、枝先、根、根茎、及び種子等)をそのまま或いは必要に応じて、乾燥、細切、破砕、圧搾、煮沸或いは発酵処理したものを、加熱条件下、酸またはその塩を含む上記の抽出溶媒で抽出することにより行うことができる。加熱温度は、制限されず、通常40℃以上、より好ましくは50℃以上、さらに好ましくは75℃以上を挙げることができる。その上限としては、通常100℃を挙げることができるが、これを超えることに制限はされない。酸の配合割合としては、限定されないが、通常0.001〜1重量%、好ましくは0.05〜0.2重量%である。かかる割合で酸を配合することにより、抽出溶媒は通常pH6以下、好ましくはpH5.5以下、あるいはpH5以下に調整される。なお、抽出溶媒のpHの下限は、特に制限されないが、通常pH2、好ましくはpH3、より好ましくはpH4.5である。
【0020】
かくして得られる植物抽出物は、そのまま、または必要に応じて濃縮した後、乾燥させることにより、植物乾燥エキスとして調製することができる。また、必要に応じて、植物乾燥エキス内により高濃度のクエルセチン配糖体またはケンフェロール配糖体が含まれるように、上記で得られる植物抽出物に対して、固液分離、溶媒抽出、塩析、透析、酸析、再結晶、溶媒分画法、活性炭処理法、各種の樹脂処理法(ゲル濾過法、イオン交換法、吸着法)および膜処理法(限外濾過膜処理法、逆浸透膜処理法、イオン交換膜処理法、ゼータ電位膜処理法)などの各種慣用の分画操作を施してもよい。なお、植物乾燥エキスを調製する方法としては、制限されないが、例えば、減圧蒸留等により抽出溶媒を除去する方法、減圧乾燥や凍結乾燥等の乾燥処理を施して抽出溶媒を除去する方法、ドライスプレーや噴霧乾燥処理などを挙げることができる。
【0021】
(2)の工程
(2)の工程は、植物または植物抽出物に対して行われる。植物に対する加熱処理としては、植物全草、或いはクエルセチン配糖体またはケンフェロール配糖体を含む部位(例えば、花、芽、葉、茎、枝、枝先、根、根茎、及び種子等)をそのまま或いは必要に応じて乾燥、細切、破砕または圧搾したものを、酸存在下で蒸したり、煮沸、加温発酵、または加熱殺菌処理する方法を挙げることができる。
【0022】
加熱処理する対象の植物抽出物は、上記のように酸存在下での加熱抽出により調製されたものであってもよいが、これに関わらず、通常の抽出操作(非加熱下での抽出操作を含む)によって調製されたものであってもよい。また植物抽出物は、さらに高濃度のクエルセチン配糖体またはケンフェロール配糖体が含まれるように、固液分離、溶媒抽出、塩析、透析、酸析、再結晶、溶媒分画法、活性炭処理法、各種の樹脂処理法(ゲル濾過法、イオン交換法、吸着法)および膜処理法(限外濾過膜処理法、逆浸透膜処理法、イオン交換膜処理法、ゼータ電位膜処理法)などの各種慣用の分画操作を施したものであってもよい。
【0023】
(2)の工程は、植物抽出物を対象とする場合、通常、植物抽出物を加熱処理する前に、当該植物抽出物に酸またはその塩を添加して行われる。ただし、酸存在下で溶媒抽出して調製された植物抽出物を使用する場合、当該植物抽出物中に下記に示す濃度の酸が含まれている場合は、酸の再度の添加を省略することもできる。
【0024】
加熱処理する植物抽出物中に含まれる酸の割合としては、限定はされないが、通常0.001〜1重量%、好ましくは0.05〜0.2重量%である。かかる割合で酸を配合することにより、植物抽出物は通常pH6以下、好ましくはpH5.5以下、あるいはpH5以下に調整される。なお、かかる植物抽出物のpHの下限は、特に制限されないが、通常pH2、好ましくはpH3、より好ましくはpH4.5である。
【0025】
加熱温度は、制限されないが、通常40℃以上、好ましくは50℃以上、より好ましくは60℃以上を挙げることができる。その上限としては、通常100℃を挙げることができるが、これを超えることに制限はされない。
【0026】
かくして得られる加熱処理物は、そのまま、または必要に応じて濃縮した後、乾燥処理して、植物乾燥エキスとして調製することができる。
【0027】
対象とする植物乾燥エキスの形状は特に制限されない。例えば、塊状、破砕状、粉末状、顆粒状、錠剤状、丸剤状などを例示することができる。好ましくは、噴霧乾燥して調製される粉末(乾燥粉末)、またはこれから加工される顆粒もしくは錠剤であり、より好ましくは乾燥粉末である。乾燥粉末の調製は、凍結乾燥法、ドライスプレー法、噴霧乾燥法、および減圧濃縮後粉砕細粒化する方法など、定法に従って行うことができる。
【0028】
斯くして調製される乾燥形態の植物エキスは、酸不存在下で加熱処理して調製した植物乾燥エキスに比して、水に対する溶解性が有意に優れ、また不都合な着色が抑制されるという特徴を備えている(実験例1および2参照)。また、斯くして調製される植物エキスは、酸不存在下で加熱処理して調製した植物エキスよりも、多くのクエルセチン配糖体またはケンフェロール配糖体を含んでおり、これらの配糖体の加熱による分解が抑制されるという特徴を備えている(実験例3および4参照)
この観点から、本発明は、前述するように、植物乾燥エキスの水溶解性向上方法(「課題を解決する手段」の(III)を参照)、植物エキスの着色抑制方法(「課題を解決する手段」の(IV)を参照)、ならびにクエルセチン配糖体またはケンフェロール配糖体の加熱分解抑制方法((「課題を解決する手段」の(V)を参照)を提供するものでもある。これらの方法における各操作や条件は、上記「植物乾燥エキスの製造方法」で用いる操作や条件を同様に用いることができる。
【0029】
かかる特性を有し、またクエルセチン配糖体またはケンフェロール配糖体に基づいて有用な生理作用を有することに基づいて、本発明の植物乾燥エキスは、飲料を始めとする水性の食品やローションや化粧液などの水性化粧品の成分として有効に用いることができる。
【0030】
(2)食品組成物
本発明の食品組成物は、前述の方法で調製された植物乾燥エキスを用いて調製されることを特徴とする。
【0031】
本発明の食品組成物は、前述の植物乾燥エキスをそのまま、又はこれに食品に通常用いられている賦形剤または添加剤を配合して、錠剤、丸剤、顆粒剤、散剤、粉剤、カプセル剤、水和剤、乳剤、液剤、エキス剤、またはエリキシル剤等の剤型に、公知の手法にて製剤化することもできる。好ましい剤型は錠剤、丸剤、顆粒剤、散剤、粉剤およびカプセル剤などの固形投与形態であり、より好ましくは顆粒剤、または錠剤や丸剤等の圧縮成型された剤型である。
【0032】
食品に通常用いられる賦形剤としては、例えば、結合剤(例えば、シロップ、アラビアゴム、ショ糖、乳糖、粉末還元麦芽糖、セルロース糖、マンニトール、マルチトール、デキストラン、デンプン類、ゼラチン、ソルビット、トラガント、ポリビニルピロリドンなど)、滑沢剤(例えば、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、タルク、ポリエチレングリコール)、崩壊剤(例えば、ジャガイモ澱粉)、湿潤剤(例えば、ラウリル硫酸ナトリウム)、固結防止剤(例えばシリカ)等を挙げることができる。添加剤としては、香料、緩衝剤、増粘剤、着色剤、安定剤、乳化剤、分散剤、懸濁化剤、防腐剤などを例示することができる。
【0033】
かかる食品組成物中に配合される植物乾燥エキスの含有量は特に制限されないが、通常固形換算で10〜100重量%、好ましくは50〜100重量%の範囲から適宜選択して用いることができ、クエルセチン配糖体またはケンフェロール配糖体の量(総量)に換算して、通常0.1〜30重量%、好ましくは0.1〜3重量%の範囲を例示することができる。
【0034】
なお、本発明が対象とする食品組成物には、上記の製剤形態を有するサプリメント〔保健機能食品(特定保健用食品、栄養機能食品)および栄養補助食品などのいわゆる健康食品も含まれる〕に加えて、前記植物乾燥エキスを、飲食物の製造原料の一つとして用いて調製される食品〔一般食品(健康食品を含む)のほか、保健機能食品(特定保健用食品、栄養機能食品)も含まれる〕も含まれる。
【0035】
ここで食品の種類は特に制限されず、飲料(乳飲料、乳酸菌飲料、果汁入り清涼飲料、炭酸飲料、果汁飲料、野菜飲料、野菜・果実飲料、アルコール飲料、コーヒー飲料、粉末飲料、スポーツ飲料、サプリメント飲料、紅茶飲料、緑茶、ゼリー入り飲料、ブレンド茶等の茶飲料等)、菓子類〔カスタードプリン、ミルクプリン、果汁入りプリン等のプリン類、ゼリー、ババロア及びヨーグルト等のデザート類;ミルクアイスクリーム、果汁入りアイスクリーム及びソフトクリーム、アイスキャンディー等の冷菓類;チューインガムや風船ガム等のガム類(板ガム、糖衣状粒ガム);マーブルチョコレート等のコーティングチョコレートの他、イチゴチョコレート、ブルーベリーチョコレート及びメロンチョコレート等の風味を付加したチョコレート等のチョコレート類;ハードキャンディー(ボンボン、バターボール、マーブル等を含む)、ソフトキャンディー(キャラメル、ヌガー、グミキャンディー、マシュマロ等を含む)、ドロップ、タフィ等のキャラメル類;ハードビスケット、クッキー、おかき、煎餅等の焼き菓子類〕、パン類、スープ類(コンソメスープ、ポタージュスープ等)、魚肉加工品(魚肉ハム、魚肉ソーセージ、魚肉すり身、蒲鉾、竹輪、はんぺん、薩摩揚げ、伊達巻き、鯨ベーコンなど)、畜肉加工品(ハム、ソーセージ、焼き豚等の)、麺類(うどん、冷麦、そうめん、ソバ、中華そば、スパゲッティ、マカロニ、ビーフン、はるさめ及びワンタン等)、ソース類(セパレートドレッシング、ノンオイルドレッシング、ケチャップ、たれ、ソース)、総菜などを例示することができる。中でも継続的に摂取するという観点から、より好ましくは飲料である。
【0036】
本発明の食品組成物は、植物乾燥エキスに含まれるクエルセチン配糖体またはケンフェロール配糖体が有する抗酸化作用、抗動脈硬化作用、血糖上昇抑制作用、血中コレステロール上昇抑制などの各種の生理作用により、動脈硬化症、糖尿病、高コレステロール血症等の疾患、特に生活習慣病の予防または改善に有効に使用することができる。
【0037】
このため本発明の食品組成物には、一般食品のほか、抗酸化作用、抗動脈硬化作用(動脈硬化の進展抑制作用)、または血糖上昇抑制作用を効能とし、その特定の保健用途で使用される食品が含まれる。かかる食品として特定保健用食品またはこれに準じる健康食品を挙げることができる。なお、特定保健用食品(条件付き特定保健用食品を含む)は、その包装容器などに、日本国厚生労働省が承認または認可した機能表示または保健用途の表示をすることが可能な食品である。本発明において特定の保健の目的は、抗酸化(活性酸素消去)、具体的には活性酸素に起因する各種疾患の予防または改善、または抗動脈硬化、具体的には動脈硬化(好ましくはアテローム性動脈硬化)の進展抑制または改善であり、表示の一例として、「抗酸化作用」、「酸化を予防する」、「動脈硬化を抑制または予防する」、「血液の流れ[血行]を良好にする」、「血糖上昇抑制」、「血糖値が気になる方へ」、「コレステロール低下作用」、「コレステロール値が気になる方へ」などを挙げることができる。特定保健用食品は、こうした機能表示ができる点で、機能表示ができない一般食品と差別化を図ることができるため、本発明でいう食品の好適な一態様である。
【0038】
(3)化粧品組成物
本発明の化粧品組成物(医薬部外品も含まれる)は、前述の植物乾燥エキスを用いて調製されることを特徴とする。
【0039】
本発明の化粧品組成物は、当該植物乾燥エキスに加えて、通常化粧品に用いられる成分、例えば精製水、低級アルコールや多価アルコール等のアルコール類、油脂類、ロウ類、炭化水素類等の基剤、ならびに保湿剤、界面活性剤、増粘剤、紫外線吸収剤、紫外線散乱剤、美白剤、安定剤、防腐剤、着色剤、香料等の成分を配合して調製することができる。その形態は、特に制限されず、例えば化粧水、クリーム、乳液、ゲル剤、エアゾール、エッセンス、パック、洗浄剤、ファンデーション、打粉、各種メーク剤(口紅、チークなど)を挙げることができる。
【0040】
本発明の化粧品組成物の調製に使用される植物乾燥エキスの割合は、特に制限されない。本発明の化粧品組成物に配合されるクエルセチン配糖体またはケンフェロール配糖体の量(総量)に換算して、通常0.1〜30重量%、好ましくは0.1〜3重量%の範囲を例示することができる。
【0041】
本発明の化粧品組成物は、植物乾燥エキスの有効成分であるクエルセチン配糖体またはケンフェロール配糖体の各種生理作用(抗酸化作用)に基づいて、活性酸素によるダメージ(シミ、シワ、たるみなどの老化)から皮膚を防御する作用を有することができる。このため、本発明の化粧品組成物は、特にシミやシワ抑制またはアンチエイジ(抗老化)効果を有する化粧品組成物として有用である。
【実施例】
【0042】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。また、特に記載のない限り「部」とは「重量部」を、「%」とは「重量%」を意味するものとする。
【0043】
調製例1 植物乾燥エキスの調製
(1)5L容量のビーカーに入れた水道水2Lの中に乾燥桑葉200gを入れ、沸騰させた状態で1時間浸漬して桑葉に含まれる成分を抽出した。冷却後、No.2ろ紙(アドバンテック社製)にて濾過して残渣を除去し、濾液を桑葉抽出液として得た。200mL容量のビーカーを7つ用意し、これに得られた桑葉抽出液を各100mLずつ入れ、このうち6つのビーカーには、酸(アスコルビン酸、クエン酸、乳酸、コハク酸、酢酸、または塩酸)を最終濃度が0.1%(w/v)になるように加えた(pH4.8〜5.6)。また残りの一つは、比較対照のため酸無添加とした(コントロール)。次いで、これらの各桑葉抽出液を、殺菌の目的で沸騰水(約100℃)中で30分間加熱処理し、植物エキスとした。
【0044】
(2)上記(1)で調製した各桑葉抽出液(植物エキス)を、それぞれ噴霧乾燥装置(ヤマト社製パルビスミニスプレー(GA 32))を用いて噴霧乾燥し、乾燥粉末形態を有する植物エキス(「植物乾燥エキス」という)を得た。なお、噴霧乾燥の条件は、下記の通りである。
・入口温度150℃
・出口温度75℃
・乾燥空気量0.56m/秒
・噴霧空気圧力1.5kg/cm
【0045】
調製例2 植物乾燥エキスの調製
(1)水道水2Lを入れた5L容量のビーカーを8つ用意し、各ビーカーに酸(アスコルビン酸、クエン酸、乳酸、コハク酸、酒石酸、リンゴ酸、フマル酸、または酢酸)をおのおの最終濃度が1%(w/v)(pH2.2〜2.8)になるように加えた。次いで、これらの各々に、乾燥桑葉100gを入れて、沸騰させた状態(約100℃)で30分間浸漬させて桑葉に含まれる成分を抽出した。冷却後、No.2ろ紙(アドバンテック社製)にて濾過して残渣を除去し、濾液を桑葉抽出液(植物エキス)として得た。また比較対照用に、抽出溶媒として使用した水道水2Lに酸を配合しない以外は、上記と同様にして桑葉抽出液(植物エキス)を調製した(コントロール)。具体的には、乾燥桑葉100gを、水道水(熱水)2Lに、100℃で30分間浸漬処理して、次いで固液分離して植物エキスを調製した。
【0046】
(2)上記(1)で調製した各桑葉抽出液(植物エキス)を、それぞれ噴霧乾燥装置(ヤマト社製パルビスミニスプレー(GA 32))を用いて噴霧乾燥し、乾燥粉末形態を有する植物エキス(植物乾燥エキス)を得た。なお、噴霧乾燥の条件は、下記の通りである。
・入口温度150℃
・出口温度75℃
・乾燥空気量0.56m/秒
・噴霧空気圧力1.5kg/cm
【0047】
実験例1 植物乾燥エキスの溶解性
調製例1で調製した各植物乾燥エキス(アスコルビン酸、クエン酸、乳酸、コハク酸、酢酸または塩酸を含有)について、水に対する溶解性を調べた。
【0048】
具体的には、長さ20mmのスターラーバーを入れた20mL容量のビーカー(7個)に、各々10mLの蒸留水を加えて、このうち6つのビーカーに上記調製例1で調製した各植物乾燥エキス(粉末形態)100mgを入れた。また、残りの一つのビーカーには、比較対照のために、調製例1で酸を添加せずに調製した植物乾燥エキス(粉末形態)(コントロール)を100mg入れた(コントロール)。
【0049】
これらをマグネチックスターラー(マスダ社、SM-15H)を用いて一定速度(目盛:3)にて撹拌し、蒸留水に各植物乾燥エキスが完全に溶解するまでの時間を測定した。結果を表1に示す。
【0050】
【表1】

【0051】
表1に示すように、酸存在下で加熱処理して調製した植物乾燥エキスの水への溶解性は、酸不存在下で加熱処理して調製した植物乾燥エキス(コントロール)の水への溶解性に比して、顕著に向上していた。このことから、植物抽出液を酸存在下での加熱処理することにより、その乾燥物の水溶解性が向上することが分かる。
【0052】
実験例2 植物乾燥エキスの着色抑制
調製例1で調製した各植物乾燥エキス(アスコルビン酸、クエン酸、乳酸、コハク酸、酢酸または塩酸を含有)、および比較対照のために酸を用いないで調製した植物乾燥エキス(コントロール)について、おのおの着色度を調べた。
【0053】
具体的には、各植物乾燥エキス(粉末形態)100mgに蒸留水10mlを加えて完全に溶解し、次いで、これらの溶液を、蒸留水で10倍希釈した後、200μlを96ウェルプレートへ加えて、波長405nmでの吸光度を測定した。なお、吸光度は吸光光度計〔マルチラベルカウンター1420型、パーキンエルマーライフサイエンス社製)を用いて行った。
【0054】
結果を表2に示す。
【0055】
【表2】

【0056】
表2に示すように、酸存在下で加熱処理して調製した植物乾燥エキスの着色度は、酸不存在下で加熱処理して調製した植物乾燥エキス(コントロール)の着色度よりも有意に低かった。このことから、植物抽出液を酸存在下での加熱処理することにより、乾燥物を調製した場合の着色が抑制できることが分かる。
【0057】
実験例3 フラボノール類の安定性
(1)調製例1で得られた植物乾燥エキス(アスコルビン酸、クエン酸、乳酸、コハク酸、酢酸または塩酸を含有)中に含まれるフラボノール類(クエルセチン配糖体およびケンフェロール配糖体)の量を測定した。また、比較対照のために酸を用いないで調製した植物乾燥エキス(コントロール)についても同様に、フラボノール類(クエルセチン配糖体およびケンフェロール配糖体)の量を測定した。
【0058】
具体的には、調製例1で調製した各植物乾燥エキス(粉末形態)50mgに蒸留水10mlを加えて完全に溶解し、これらの溶解液を、下記条件の高速液体クロマトグラフィー(AKTA purifier(アマシャムバイオサイエンス社製))に供し、ルチン、イソクエルシトリン、クエルセチンマロニルグルコシド(以上、クエルセチン配糖体)およびアストラガリン(ケンフェロール配糖体)の量を測定した。
【0059】
<HPLC条件>
カラム:ODS−80Ts(東ソー社製、4.5×250 mm)
移動相: アセトニトリル:水=20:80 (0.1%ギ酸を含む)
流速:1 ml / 分
UV検出:波長370 nm。
【0060】
結果を図1に示す。図1からわかるように、酸存在下で加熱処理して調製した植物乾燥エキスのフラボノール類の含有量は、酸不存在下で加熱処理して調製した植物乾燥エキス(コントロール)中の含有量よりも有意に多かった。このことから、植物乾燥エキスの製造に際して、加熱処理を酸存在下で行うことにより、フラボノール類の分解を有意に抑制することができ、フラボノール類を多量に含む植物乾燥エキスが調製できることがわかる。
【0061】
(2)調製例2の(1)の段階で得られた各桑葉抽出液(アスコルビン酸、クエン酸、乳酸、コハク酸、酒石酸、リンゴ酸、フマル酸、または酢酸を含有)をさらに70℃で19時間インキュベートして、得られた桑葉抽出液中に含まれるフラボノール類(クエルセチン配糖体およびケンフェロール配糖体)の量を、上記(1)で使用した条件のHPLCを用いて測定した。また、調製例2(1)で調製した比較対照用の桑葉抽出液(コントロール)についても同様に、70℃で19時間インキュベートして、フラボノール類の量を測定した。
【0062】
結果を図2に示す。図2のAおよびBは、各桑葉抽出液についてそれぞれインキュベーション(70℃、19時間)前および後のフラボノール類の量を示すものである。図2からわかるように、酸を含まない桑葉抽出液の場合(コントロール)は、加熱処理によってフラボノール類がほとんど消失したのに対して、酸を含む桑葉抽出液の場合、加熱処理してもフラボノール類はほとんど残っていた。このことから、酸存在下で植物抽出液を加熱処理することにより、加熱処理によるフラボノール類の分解を顕著に抑制することができ、フラボノール類を安定に多量に含む植物エキスが調製できることがわかる。
【0063】
実験例4 フラボノール類の安定性
乾燥桑葉50gに対して水を500ml加え、沸騰水中(約100℃)で1時間抽出した(加熱抽出工程)。得られた抽出液をさらに沸騰水中(約100℃)で1時間加熱した(加熱工程)。なお、上記加熱抽出工程および加熱工程において、次に示すように酢酸を最終濃度が0.1%となるように添加した〔(2)〜(4)〕。また比較対照のため酢酸を添加しない系も同様に作成した(1)。
(1)酢酸無添加
(2)加熱抽出工程前に0.1%の酢酸を添加
(3)加熱抽出工程前に0.05%の酢酸、加熱工程前に0.05%の酢酸を添加
(4)加熱工程前に0.1%の酢酸を添加。
【0064】
上記で調製した4種類の桑葉抽出液((1)、(2)、(3)および(4))を調製例1(2)の方法に従ってスプレードライにかけ、植物乾燥エキスを得た。次いでこれを実験例3と同様にして、各植物乾燥エキスに含まれるフラボノール類の含有量を測定した。結果を図3に示す。
【0065】
この結果、酸存在下で加熱抽出または/および加熱処理することによってフラボノール類の分解が有意に抑制されることが認められた((2)〜(4))。特に、抽出後、加熱処理前に酸を添加して、酸存在下で加熱処理することによって、加熱によるフラボノール類の分解が顕著に抑制されることが認められた(4)。また、加熱抽出前と加熱工程前の両方に酸を添加しておくことにより、クエルセチン配糖体の中でも特に、クエルセチンマロニルグルコシドの減少が有意に抑えられた(3)。このことから、酸存在下での加熱処理によって、クエルセチンマロニルグルコシドのマロニル基脱離によるイソクエリシトリンへの変換が抑制されると考えられる。
【0066】
実施例1
桜江町桑茶生産組合製乾燥桑葉50kgに、水道水500リットルを加えた後、加熱して沸騰状態で1時間抽出を行った。固液を分離した後、得られた抽出溶液450リットルに対し0.1%(w/v)量のクエン酸を添加した(pH5.2程度)。次いで減圧下72℃に加熱することで抽出溶液を濃縮し、80リットルの抽出液を得た。これを、90℃で30分間加熱殺菌操作後、スプレードライにて噴霧乾燥することで、熱水抽出による植物乾燥エキス(粉末)を7.3kg得た。
【0067】
実施例2
桜江町桑茶生産組合製乾燥桑葉50kgに、水道水を202リットル、95%エタノールを147リットル加えた後、40〜50℃に加熱して3時間抽出を行った。固液を分離した後、得られた抽出溶液250リットルに対し0.1%(w/v)量のクエン酸を添加した(pH5.2程度)。次いで減圧下72℃に加熱することで抽出溶液を濃縮し、75リットルの抽出液を得た。これを、90℃で30分間加熱殺菌操作後、スプレードライにて噴霧乾燥することで、含水エタノール抽出による植物乾燥エキス(粉末)を5.1kg得た。
【0068】
実施例1と2で得られた、各植物乾燥エキス(粉末)のクエルセチン配糖体およびケンフェロール配糖体量を測定した結果を図4に示す。
【0069】
実施例3
桜江町桑茶生産組合製乾燥桑葉300kgに、水道水を1215リットル、95%エタノールを884リットル加えた後、40〜50℃に加熱して3時間抽出を行った。固液を分離した後、得られた抽出溶液1500リットルに対し0.05%(w/v)量のクエン酸を添加した(pH5.6程度)。次いで減圧下72℃に加熱することで抽出溶液を濃縮し、350リットルの抽出液を得た。これを、90℃で30分間加熱殺菌操作後、スプレードライにて噴霧乾燥することで、含水エタノール抽出による植物乾燥エキス(粉末)を37kg得た。
【0070】
また先の固液分離後の桑葉残渣に、さらに水道水2100リットルを加えた後、加熱して沸騰状態で1時間抽出を行った。固液を分離した後、得られた抽出溶液2200リットルに対し0.05%(w/v)量のクエン酸を添加した(pH5.2程度)。次いで減圧下72℃に加熱することで抽出溶液を濃縮し、380リットルの抽出液を得た。これを、90℃で30分間加熱殺菌操作後、スプレードライにて噴霧乾燥することで、熱水抽出による植物抽出エキス(粉末)を22kg得た。
【0071】
食品処方例1
調製例1で調製した各植物乾燥エキス(粉末形態)(アスコルビン酸、クエン酸、乳酸またはコハク酸を含有)(250mg)を、ゼラチン製のハードカプセル基剤(60mg)に充填して、カプセル形態のサプリメントを調製した。
【0072】
食品処方例2
水に、玄米エキス、緑茶エキス、および調製例1で調製した各植物乾燥エキス(粉末形態)(アスコルビン酸、クエン酸、乳酸またはコハク酸を含有)を添加混合して溶解し、下記処方からなる茶飲料を調製した。
【0073】
植物乾燥エキス(粉末) 1.0%
玄米エキス 0.5%
緑茶エキス 0.4%
水 残 部。
【0074】
食品処方例3
調製例1で調製した各植物乾燥エキス(粉末形態)(アスコルビン酸、クエン酸、乳酸またはコハク酸を含有)(250mg)を、スティック包装した。スティック包装からコップに取り出した乾燥粉末に、約200mlの熱水を注ぐことで、茶殻のでないお茶飲料を調製することができる。
【0075】
食品処方例4
市販の桑の実ジャム(有限会社桜江町桑茶生産組合製)100gに、調製例1で調製した各植物乾燥エキス(アスコルビン酸、クエン酸、乳酸またはコハク酸を含有)(20g)を添加し、ジャムを調製した。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】図1は、実験例3(1)において測定した、調製例1で調製した植物乾燥エキス(クエン酸、アスコルビン酸、コハク酸、乳酸、酢酸または塩酸を含有)中に含まれる各種フラボノール類(アストラガリン、クエルセチンマロニルグルコシド、イソクエルシトリン、ルチン)の量を示す。
【図2】図2は、実験例3(2)において測定した、調製例2(1)で調製した各桑葉抽出液(アスコルビン酸、クエン酸、乳酸、コハク酸、酒石酸、リンゴ酸、フマル酸、または酢酸を含有)をインキュベート(70℃、19時間)した前後の桑葉抽出液中に含まれる各種のフラボノール類(アストラガリン、クエルセチンマロニルグルコシド、イソクエルシトリン、ルチン)の量を示す。図2Aはインキュベーション前、図2Bはインキュベーション後の結果を示す。
【図3】図3は、実験例4において測定した、4種類((1)酢酸無添加、(2)加熱抽出工程前に酢酸添加(0.1%)、(3)加熱抽出工程前(0.05%)と加熱工程前(0.05%)に酢酸添加、(4)加熱工程前に酢酸添加(0.1%))して調製した桑葉の乾燥エキスに含まれる各種フラボノール類(アストラガリン、クエルセチンマロニルグルコシド、イソクエルシトリン、ルチン)の含有量を示す。
【図4】実施例1で調製した熱水抽出植物乾燥エキスと、実施例2で調製した含水エタノール植物乾燥エキス中に含まれる各種フラボノール類(アストラガリン、クエルセチンマロニルグルコシド、イソクエルシトリン、ルチン)の含有量を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クエルセチン配糖体またはケンフェロール配糖体を含有する植物またはその抽出物を、酸またはその塩の存在下で加熱処理する工程を有することを特徴とする、植物乾燥エキスの製造方法。
【請求項2】
クエルセチン配糖体またはケンフェロール配糖体を含有する植物を、酸またはその塩を含有する溶媒を用いて加熱下で抽出する操作を有する、請求項1記載の植物乾燥エキスの製造方法。
【請求項3】
クエルセチン配糖体またはケンフェロール配糖体を含有する植物またはその抽出物を、酸またはその塩の存在下で加熱殺菌処理する操作を有する、請求項1記載の植物乾燥エキスの製造方法。
【請求項4】
酸が、クエン酸、アスコルビン酸、乳酸、コハク酸、酒石酸、リンゴ酸、フマル酸、酢酸、および塩酸からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1乃至3のいずれかに記載の植物乾燥エキスの製造方法。
【請求項5】
クエルセチン配糖体またはケンフェロール配糖体を含有する植物が桑の葉である、請求項1乃至4のいずれかに記載の植物乾燥エキスの製造方法。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載の製造方法で得られる植物乾燥エキス。
【請求項7】
請求項6記載の植物乾燥エキスを用いて調製される食品または化粧品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−282632(P2007−282632A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−76224(P2007−76224)
【出願日】平成19年3月23日(2007.3.23)
【出願人】(591282205)島根県 (122)
【Fターム(参考)】