説明

植物生産用ハウスの消毒装置及びその方法

【課題】植物生産用ハウスの消毒装置により、出入口からの病原菌の侵入を防止して植物を病原菌から防ぐ。
【解決手段】放電部(62)に直流電圧を印加し、水貯留部(61)内の水中でストリーマ放電を行って過酸化水素を発生させ、供給部(50)により過酸化水素を含む消毒水を植物生産用ハウス(10)の出入口(13)側へ供給し、入室者(99)の消毒を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物生産用ハウスに出入りする入室者の消毒をする消毒装置及びその方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、植物生産設備として太陽光を取り入れるビニルハウスなどの植物生産用ハウスが知られている。この種の植物生産用ハウスは、屋外に設置されるものであり、一般に出入口が簡単な構造となっている。このため、出入口から作業者が出入りするときに、衣服や靴底に付着した病原菌が持ち込まれたり、空気中の病原菌が侵入したりし易い。一度病原菌がハウス内に侵入すると、一気に植物が病気にかかり、大きな被害をもたらす。
【0003】
そこで、ハウス内の消毒装置として、例えば、特許文献1のように、園芸施設内において、空気中の浮遊菌を除去する手段を備えるようにした施設園芸作物の病害防除機構が知られている。この施設園芸作物の病害防除機構では、空気中の浮遊菌を除去する手段として光触媒反応を利用した除菌装置を空気攪拌装置と共に併設するようにしている。
【0004】
また、特許文献2のように、酸化チタン光触媒液を塗布したプラスチックシート、織布又は不織布をガラス室、ハウスなどの園芸施設内にカーテン状などに吊り下げ、園芸施設内の循環空気と接触させることにより病原菌胞子を死滅させる施設園芸作物の病害防除方法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−186364号公報
【特許文献2】特開2005−89314号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の消毒方法では、ハウス内の除菌を目的とし、病原菌の浸入を未然に防ぐことはできない。
【0007】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、植物生産用ハウスの出入口からの病原菌の侵入を防止して植物を病原菌から防ぐことにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、この発明では、植物生産用ハウス(10)の出入口(13)で過酸化水素を含む消毒水により入室者(99)を消毒するようにした。
【0009】
具体的には、第1の発明では、
植物生産用ハウス(10)に入室する入室者(99)に対して消毒を行う植物生産用ハウス(10)の消毒装置(20)を対象とし、
上記植物生産用ハウス(10)の消毒装置(20)は、
水を貯留する水貯留部(61)と、
上記水貯留部(61)内の水中でストリーマ放電を行って過酸化水素を発生させる放電部(62)と、
上記放電部(62)に直流電圧を印加する直流電源(70)と、
上記過酸化水素を含む消毒水を上記植物生産用ハウス(10)の出入口(13)側へ供給する供給部(50)とを備えている。
【0010】
上記の構成によると、直流電源(70)から直流電圧を印加された放電部(62)が水貯留部(61)内でストリーマ放電により過酸化水素を発生させ、供給部(50)が、この過酸化水素を含む消毒水を植物生産用ハウス(10)の出入口(13)に供給する。このことで、室内に入室する入室者(99)が、過酸化水素の殺菌作用により除菌され、室内に病原菌が侵入するのが防止される。このとき、植物生産用ハウス(10)内に消毒水が混入しても、過酸化水素は最終的には無害な水と酸素に分解するため植物に悪影響を与えない。
【0011】
第2の発明では、第1の発明において、
上記供給部(50)は、上記消毒水を上記出入口(13)上方に設けた噴射ノズル(56)に供給する構成とする。
【0012】
上記の構成によると、噴射ノズル(56)から噴射された消毒水によって入室者(99)の衣服に付いた病原菌が除菌されると共に、空気中の病原菌も除菌されるので、入室者(99)が出入りするときに病原菌が植物生産用ハウス(10)の室内に持ち込まれない。
【0013】
第3の発明では、第2の発明において、
上記供給部(50)は、上記消毒水を上記出入口(13)床面に配置した消毒プール(57)に供給する構成とする。
【0014】
上記の構成によると、消毒プール(57)に蓄えられた消毒水により入室者(99)の靴底が除菌されるので、靴底に付着した病原菌が植物生産用ハウス(10)の室内に持ち込まれない。
【0015】
第4の発明では、第1乃至第3のいずれか1つの発明において、
上記出入口(13)の周辺に検知センサ(58)を備え、
上記供給部(50)は、上記検知センサ(58)が上記入室者(99)を検知したときに消毒水を上記植物生産用ハウス(10)の出入口(13)側へ供給するように構成されている。
【0016】
上記の構成によると、入室者(99)が出入口(13)にいるときだけ消毒装置(20)が作動するので、無駄なエネルギーや水を消費しない。
【0017】
第5の発明では、第1乃至第4のいずれか1つの発明において、
上記水貯留部(61)は、上記ハウス(10)の天頂部(12)に配置され、該水貯留部(61)内の水が太陽光により温められる構成とする。
【0018】
上記の構成によると、太陽光により暖められた水貯留部(61)内の暖かい水の中では、同じ放電電力でも過酸化水素がより多く発生するので、病原菌の除去効率が向上し、ハウス(10)内への病原菌の侵入が防止される。
【0019】
第6の発明では、
植物生産用ハウス(10)に入室する入室者(99)に対して消毒を行う消毒方法を対象とし、
上記消毒方法は、
水貯留部(61)内の水中でストリーマ放電を行って過酸化水素を発生させ、
上記過酸化水素を含む消毒水を上記植物生産用ハウス(10)の出入口(13)に供給し、上記入室者(99)の消毒を行う構成とする。
【0020】
上記の構成によると、水貯留部(61)内で発生させた過酸化水素を含む消毒水を植物生産用ハウス(10)の出入口(13)に供給することで、室内に入室する入室者(99)が、過酸化水素の殺菌作用により除菌され、室内に病原菌が侵入するのが防止される。植物生産用ハウス(10)内に消毒水が混入しても、過酸化水素は最終的には無害な水と酸素に分解するため植物に悪影響を与えない。
【発明の効果】
【0021】
以上説明したように、上記第1の発明によれば、水貯留部(61)内で放電部(62)が発生させた過酸化水素を含む消毒水を供給部(50)によって植物生産用ハウス(10)の出入口(13)側へ供給するようにしたことにより、入室者(99)の出入りに伴う病原菌の室内への侵入を効果的に防いで植物を健康な状態で育てることができる。
【0022】
また、直流電圧(70)を用いてストリーマ放電を行っているので、例えばパルス電源と比較して、電源部の簡素化、低コスト化、小型化を図ることができる。また、パルス電源を用いると、放電に伴って水中で発生する衝撃波や騒音が大きくなってしまう。これに対し、直流電源(70)を用いると、このような衝撃波や騒音も低減できる。
【0023】
上記第2の発明によれば、消毒水を植物生産用ハウス(10)の出入口(13)上方に設けた噴射ノズル(56)に供給するようにしたことにより、簡単な構成で、入室者(99)の衣服に付着した病原菌や空気中の病原菌が室内に侵入するのを効果的に防止することができる。
【0024】
上記第3の発明によれば、消毒水を出入口(13)床面に配置した消毒プール(57)に供給するようにしたことにより、簡単な構成で、入室者(99)の靴底に付着した病原菌が室内に侵入するのを効果的に防止することができる。
【0025】
上記第4の発明によれば、植物生産用ハウス(10)の出入口(13)の周辺に設けた検知センサ(58)が入室者(99)を検知したときに消毒水を植物生産用ハウス(10)の出入口(13)側へ供給するようにしたことにより、必要なときだけ消毒装置(20)を作動させることができるので、無駄なエネルギーや水を消費せず、ランニングコストを低減できる。
【0026】
上記第5の発明によれば、ハウス(10)の天頂部(12)に配置した水貯留部(61)の水を太陽光により温め、過酸化水素の発生効率を向上させるようにしたことにより、ハウス(10)内へ入出者が出入りする際の病原菌の侵入を更に効果的に防ぐことができるので、植物を健康な状態で育てることができる。
【0027】
上記第6の発明によれば、水貯留部(61)内でストリーマ放電により発生させた過酸化水素を含む消毒水を植物生産用ハウス(10)の出入口(13)側へ供給するようにしたことにより、入室者(99)の出入りに伴う病原菌の室内への侵入を効果的に防いで植物を健康な状態で育てることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】図1は、実施形態1に係る植物生産用ハウスの消毒装置を設けたハウスを示す正面図である。
【図2】図2は、実施形態1に係る消毒ユニットの全体構成図であり、動作を開始する前の状態を示すものである。
【図3】図3は、実施形態1に係る絶縁ケーシングの斜視図である。
【図4】図4は、実施形態1に係る消毒ユニットの全体構成図であり、動作中に気泡が安定した状態を示すものである。
【図5】図5は、実施形態1の変形例に係る消毒ユニットの全体構成図である。
【図6】図6は、実施形態1の変形例に係る絶縁ケーシングの斜視図である。
【図7】図7は、実施形態2に係る消毒ユニットの全体構成図であり、動作を開始する前の状態を示すものである。
【図8】図8は、実施形態2に係る消毒ユニットの全体構成図であり、動作中に気泡が安定した状態を示すものである。
【図9】図9は、実施形態2の変形例に係る絶縁ケーシングの蓋部の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0030】
(実施形態1)
図1は本発明の実施形態1に係る消毒装置(20)を備えた、一般にビニルハウスと呼ばれる、植物生産用ハウス(10)を示す。ハウス(10)の形状や材質は特に限定されない。ハウス(10)の正面壁部(11)には、入室者(99)が出入りするための出入口(13)が設けられている。通常、出入口(13)は、正面壁部(11)と同様に鋼管などのフレームにビニルシートを貼り付けたドア状の簡単な構成よりなる。
【0031】
そして、正面壁部(11)には、ハウス(10)に入室する入室者(99)に対して消毒を行う消毒ユニット(60)が設けられている。この消毒ユニット(60)は、内部に水を貯留する水貯留部(61)を備えている。図2にも示すように、この水貯留部(61)内には、水貯留部(61)の水中でストリーマ放電を行って過酸化水素を発生させる放電部(62)が内蔵されている。水貯留部(61)は、発生させた過酸化水素を含む消毒水を植物生産用ハウス(10)の出入口(13)に供給する供給部(50)に接続されている。消毒ユニット(60)は、水中でのストリーマ放電によって水中に過酸化水素等の除菌成分を生成し、この除菌成分によって植物の病原菌などの雑菌の除菌(殺菌、滅菌)を行うものである。
【0032】
水貯留部(61)は、密閉型の直方体状の容器で、供給部(50)を構成する流入管(51)及び流出管(52)が接続されている。流入管(51)と流出管(52)とは、ビニルホースで構成されている。なお、流入管(51)と流出管(52)とを銅管で構成し、その内壁から銅イオンを生成することで、水貯留部(61)に銅イオンを供給するようにしてもよい。
【0033】
放電部(62)は、放電電極(64)及び対向電極(65)からなる電極対(64,65)と、この電極対(64,65)に電圧を印加する電源部(70)と、放電電極(64)を内部に収容する絶縁ケーシング(71)とを備えている。
【0034】
電極対(64,65)は、水中でストリーマ放電を生起するためのものである。放電電極(64)は、絶縁ケーシング(71)の内部に配置されている。放電電極(64)は、上下に扁平な板状に形成されている。放電電極(64)は、電源部(70)の正極側に接続されている。放電電極(64)は、例えばステンレス、銅等の導電性の金属材料で構成されている。
【0035】
対向電極(65)は、絶縁ケーシング(71)の外部に配置されている。対向電極(65)は、放電電極(64)の上方に設けられている。対向電極(65)は、上下に扁平な板状であって、且つ上下に複数の貫通孔(66)を有するメッシュ形状乃至パンチングメタル形状に構成されている。対向電極(65)は、放電電極(64)と略平行に配設されている。対向電極(65)は、電源部(70)の負極側に接続されている。対向電極(65)は、例えばステンレス、真鍮等の導電性の金属材料で構成されている。
【0036】
電源部(70)は、電極対(64,65)に所定の直流電圧を印加する直流電源で構成されている。すなわち、電源部(70)は、電極対(64,65)に対して瞬時的に高電圧を繰り返し印加するようなパルス電源ではなく、電極対(64,65)に対して常に数キロボルトの直流電圧を印加する。電源部(70)のうち、対向電極(65)が接続される負極側は、アースと接続されている。また、電源部(70)には、電極対(64,65)の放電電力を一定に制御する定電力制御部が設けられている(図示省略)。
【0037】
絶縁ケーシング(71)は、水貯留部(61)の底部に設置されている。絶縁ケーシング(71)は、例えばセラミックス等の絶縁材料で構成されている。絶縁ケーシング(71)は、一面(上面)が開放された容器状のケース本体(72)と、該ケース本体(72)の上方の開放部を閉塞する板状の蓋部(73)とを有している。
【0038】
ケース本体(72)は、角型筒状の側壁部(72a)と、該側壁部(72a)の底面を閉塞する底部(72b)とを有している。放電電極(64)は、底部(72b)の上側に敷設されている。絶縁ケーシング(71)では、蓋部(73)と底部(72b)との間の上下方向の距離が、放電電極(64)の厚さよりも長くなっている。つまり、放電電極(64)と蓋部(73)との間には、所定の間隔が確保されている。これにより、絶縁ケーシング(71)の内部では、放電電極(64)とケース本体(72)と蓋部(73)との間に空間(S)が形成される。
【0039】
図2及び図3に示すように、絶縁ケーシング(71)の蓋部(73)には、該蓋部(73)を厚さ方向に貫通する1つの開口(74)が形成されている。この開口(74)により、放電電極(64)と対向電極(65)との間の電界の形成が許容されている。蓋部(73)の開口(74)の内径は、0.02mm以上0.5mm以下であることが好ましい。以上のような開口(74)は、電極対(64,65)の間の電流経路の電流密度を上昇させる電流密度集中部を構成する。
【0040】
以上のように、絶縁ケーシング(71)は、電極対(64,65)のうちの一方の電極(放電電極(64))のみを内部に収容し、且つ電流密度集中部としての開口(74)を有する絶縁部材を構成している。
【0041】
加えて、絶縁ケーシング(71)の開口(74)内では、電流経路の電流密度が上昇することで、水がジュール熱によって気化して気泡(B)が形成される。つまり、絶縁ケーシング(71)の開口(74)は、該開口(74)に気相部としての気泡(B)を形成する気相形成部として機能する。
【0042】
流入管(51)は、ハウス(10)の正面壁部(11)に沿って取り付けられ、下端が、水道水、井戸水、地下水等を供給する水供給装置(54)に接続されている。
【0043】
流出管(52)も同様に正面壁部(11)に沿って取り付けられ、途中の分岐点(55)で2つに分岐し、一方が出入口(13)上方に設けた噴射ノズル(56)に接続されている。噴射ノズル(56)は、出入口(13)の真上に設けられ、その先端は出入口(13)の前に立つ入室者(99)の上方へ向けられるようになっている。噴射ノズル(56)は、流出管(52)内の消毒液を霧状に噴射させ、入室者(99)の全身を消毒する役割を果たす。
【0044】
一方、流出管(52)の他方は、出入口(13)の床面に配置した底の浅い消毒プール(57)に接続されている。流出管(52)から流れ込む消毒水が消毒プール(57)に溜められ、入出者が足をひたすことで、靴底の病原菌等が消毒されるようになっている。噴射ノズル(56)と消毒プール(57)とで消毒水の供給割合を調整するために分岐点(55)に適宜バルブを設けたり、消毒プール(57)の供給口にもノズルを設けてもよい。
【0045】
また、出入口(13)の周辺には、赤外線などによる人体を検知する検知センサ(58)が設けられている。この検知センサ(58)の信号は、消毒ユニット(60)や水供給装置(54)に送られ、検知センサ(58)が入室者(99)を検知したときに、消毒ユニット(60)及び水供給装置(54)を作動させ、消毒水を噴射ノズル(56)と消毒プール(57)とに供給するように構成されている
−消毒装置の運転動作−
次に、本実施形態に係る消毒装置(20)の運転動作について説明する。
【0046】
出入口(13)に入室者(99)が近付くと、検知センサ(58)が人体を検知し、消毒ユニット(60)及び水供給装置(54)に信号を送る。そして、消毒装置(20)の運転が開始され、水供給装置(54)から流入管(51)を通して水が供給される。すると、図2に示すように、絶縁ケーシング(71)の内の空間(S)が浸水した状態となる。電源部(70)から電極対(64,65)に所定の直流電圧(例えば1kV)が印加されると、電極対(64,65)の間に電界が形成される。この際、放電電極(64)の周囲は、絶縁ケーシング(71)で覆われている。このため、電極対(64,65)の間での漏れ電流が抑制されとともに、開口(74)内の電流経路の電流密度が上昇した状態となる。
【0047】
開口(74)内の電流密度が上昇すると、開口(74)内のジュール熱が大きくなる。その結果、絶縁ケーシング(71)では、開口(74)の近傍において、水の気化が促進されて気泡(B)が形成される。この気泡(B)は、図4に示すように、開口(74)のほぼ全域を覆う状態となり、対向電極(65)に導通する負極側の水と、正極側の放電電極(64)との間に気泡(B)が介在する。従って、この状態では、気泡(B)が、放電電極(64)と対向電極(65)との間での水を介した導電を阻止する抵抗として機能する。これにより、放電電極(64)と対向電極(65)との間の漏れ電流が抑制され、電極対(64,65)間では、所望とする電位差が保たれることになる。すると、気泡(B)内では、絶縁破壊に伴いストリーマ放電が発生する。
【0048】
以上のようにして、気泡(B)でストリーマ放電が行われると、水貯留部(61)内の水中では、過酸化水素等が生成される。酸化水素は、ストリーマ放電に伴う熱によって水貯留部(61)内を対流する。これにより、水中での過酸化水素の拡散が促される。また、気泡(B)でストリーマ放電が行われると、このストリーマ放電に伴ってこの気泡(B)でイオン風を生成し易くなる。よって、水浄化タンク(61)内では、このイオン風を利用して、活性種や過酸化水素の拡散効果を更に向上できる。しかも、水貯留部(61)がハウス(10)の天頂部(12)に配置されているので、内部の水が太陽光により暖められ、それによって温度上昇した水貯留部(61)内の水では、同じ放電電力でも過酸化水素がより多く発生する。
【0049】
以上のようにして、過酸化水素を含む消毒水が水貯留部(61)内で生成され、流入管(51)から次々に送られてくる水によって流出管(52)側へ押し出される。すると、噴射ノズル(56)から霧状に消毒水が噴出され、入室者(99)の頭から足までに付着した病原菌などの雑菌が除菌される。同時に消毒プール(57)に消毒水が供給され、消毒水で満たされ、入室者(99)が足をひたすことで、靴底に付着した病原菌などの雑菌が消毒される。
【0050】
そして、入室者(99)が出入口(13)を開けてハウス(10)の内部に入るときには、噴射ノズル(56)から噴射された消毒水で空気中の病原菌等の雑菌が消毒されるので、室内に外気が混入しても、病原菌が侵入しない。一方、過酸化水素は最終的には無害な水と酸素に分解するため、消毒水が室内に混入しても、植物に悪影響を与えない。
【0051】
検知センサ(58)が入室者(99)を検知しなくなると、消毒装置(20)の作動は停止する。このように、入室者(99)が出入口(13)にいるときだけ消毒装置(20)が作動するので、無駄なエネルギーや水を消費しない。
【0052】
−実施形態1の効果−
従って、本実施形態に係る消毒装置(20)によると、水貯留部(61)内で放電部(62)が発生させた過酸化水素を含む消毒水を供給部(50)によって植物生産用ハウス(10)の出入口(13)側にある噴射ノズル(56)及び消毒プール(57)へ供給するようにしたことにより、入室者(99)の出入りに伴う病原菌の室内への侵入を効果的に防いで植物を健康な状態で育てることができる。
【0053】
また、直流電圧(70)を用いてストリーマ放電を行っているので、例えばパルス電源と比較して、電源部の簡素化、低コスト化、小型化を図ることができる。また、パルス電源を用いると、放電に伴って水中で発生する衝撃波や騒音が大きくなってしまう。これに対し、直流電源(70)を用いると、このような衝撃波や騒音も低減できる。
【0054】
〈実施形態1の変形例〉
上記実施形態1では、絶縁ケーシング(71)の蓋部(73)に1つの開口(74)が形成されている。しかしながら、例えば図5及び図6に示すように、絶縁ケーシング(71)の蓋部(73)に複数の開口(74)を形成してもよい。この変形例では、絶縁ケーシング(71)の蓋部(73)が、略正方形板状に形成され、この蓋部(73)に複数の開口(74)が等間隔を置きながら碁盤目状に配列されている。一方、放電電極(64)及び対向電極(65)は、全ての開口(74)に跨るような正方形板状に形成されている。
【0055】
この変形例においても、各開口(74)が、電流密度集中部、及び気相形成部として機能する。これにより、電源部(70)から電極対(64,65)に直流電圧が印加されると、各開口(74)の電流密度が上昇し、各開口(74)で気泡(B)が形成される。その結果、各気泡(B)でそれぞれストリーマ放電が生起され、水酸ラジカル等の活性種や、過酸化水素が生成される。
【0056】
(実施形態2)
図7及び図8は本発明の実施形態2を示し、放電部(62)の構成が異なる点で上記実施形態1と異なる。なお、以下の各実施形態及び変形例では、図1〜図6と同じ部分については同じ符号を付してその詳細な説明は省略する。
【0057】
図7に示すように、実施形態2の放電部(62)は、水貯留部(61)の外側から内部に向かって挿入されて固定される、いわゆるフランジユニット式に構成されている。また、実施形態2の放電部(62)は、放電電極(64)と対向電極(65)と絶縁ケーシング(71)とが一体的に組立てられている。
【0058】
実施形態2の絶縁ケーシング(71)は、大略の外形が円筒状に形成されている。絶縁ケーシング(71)は、ケース本体(72)と蓋部(73)とを有している。
【0059】
実施形態2のケース本体(72)は、ガラス質又は樹脂製の絶縁材料で構成されている。ケース本体(72)は、円筒状の基部(76)と、該基部(76)から水貯留部(61)側に向かって突出する筒状壁部(77)と、該筒状壁部(77)の外縁部から更に水貯留部(61)側に向かって突出する環状凸部(78)とを有している。また、ケース本体(72)には、環状凸部(78)の先端側に先端筒部(79)が一体に形成されている。基部(76)の軸心部には、円柱状の挿入口(76a)が軸方向に延びて貫通形成されている。筒状壁部(77)の内側には、挿入口(76a)と同軸となり、且つ挿入口(76a)よりも大径となる円柱状の空間(S)が形成されている。
【0060】
実施形態2の蓋部(73)は、略円板状に形成されて環状凸部(78)の内側に嵌合している。蓋部(73)は、セラミックス材料で構成されている。蓋部(73)の軸心には、実施形態1と同様、蓋部(73)を上下に貫通する円形状の1つの開口(74)が形成されている。
【0061】
放電電極(64)は、軸直角断面が円形状となる縦長の棒状の電極で構成されている。放電電極(64)は、基部(76)の挿入口(76a)に嵌合している。これにより、放電電極(64)は、絶縁ケーシング(71)の内部に収容されている。実施形態2では、放電電極(64)のうち水貯留部(61)とは反対側の端部が、水貯留部(61)の外部に露出される状態となる。このため、水貯留部(61)の外部に配置される電源部(70)と、放電電極(64)とを電気配線によって容易に接続することができる。
【0062】
放電電極(64)のうち水貯留部(61)側の端部(64a)は、絶縁ケーシング(71)の内部の空間(S)に臨んでいる。なお、図7に示す例では、放電電極(64)の端部(64a)が、挿入口(76a)の開口面よりも上側(水貯留部(61)側)に突出しているが、この端部(64a)の先端面を挿入口(76a)の開口面と略面一としてもよいし、端部(64a)を挿入口(76a)の開口面よりも下側に陥没させてもよい。また、放電電極(64)は、実施形態1と同様、開口(74)を有する蓋部(73)との間に所定の間隔が確保されている。
【0063】
対向電極(65)は、円筒状の電極本体(65a)と、該電極本体(65a)から径方向外方へ突出する鍔部(65b)とを有している。電極本体(65a)は、絶縁ケーシング(71)のケース本体(72)に外嵌している。鍔部(65b)は、水貯留部(61)の壁部に固定されて放電部(62)を保持する固定部を構成している。放電部(62)が水貯留部(61)に固定された状態では、対向電極(65)の電極本体(65a)の一部が浸水された状態となる。
【0064】
対向電極(65)は、電極本体(65a)よりも小径の内側筒部(65c)と、該内側筒部(65c)と電極本体(65a)との間に亘って形成される連接部(65d)とを有している。内側筒部(65c)及び連接部(65d)は、水貯留部(61)内の水中に浸漬している。内側筒部(65c)は、その内部に円柱空間(67)を形成している。内側筒部(65c)の軸方向の一端は、蓋部(73)と当接して該蓋部(73)を保持する保持部を構成している。また、電極本体(65a)と内側筒部(65c)と連接部(65d)の間には、ケース本体(72)の先端筒部(79)が内嵌している。内側筒部(65c)の軸方向の他端側には、円柱空間(67)を覆うようにメッシュ状の漏電防止材(68)が設けられている。この漏電防止材(68)は、対向電極(65)と接触することで、実質的にアースされている。これにより、漏電防止材(68)は、水貯留部(61)の内部の空間(水中)のうち、円柱空間(67)の内側から外側への漏電を防止している。
【0065】
対向電極(65)は、電極本体(65a)の一部が水貯留部(61)の外部に露出される状態となる。このため、電源部(70)と対向電極(65)とを電気配線によって容易に接続することができる。
【0066】
−消毒装置の運転動作−
実施形態2のハウス(10)においても、消毒装置(20)が運転されることで、入室者(99)が消毒される。
【0067】
消毒装置(20)の運転の開始時には、図7に示すように、絶縁ケーシング(71)の内の空間(S)が浸水した状態となっている。電源部(70)から電極対(64,65)に所定の直流電圧(例えば1kV)が印加されると、開口(74)の内部の電流密度が上昇してく。
【0068】
図7に示す状態から、電極対(64,65)へ更に直流電圧が継続して印加されると、開口(74)内の水が気化されて気泡(B)が形成される(図8を参照)。この状態では、気泡(B)が開口(74)のほぼ全域を覆う状態となり、円柱空間(67)内の負極側の水と、放電電極(64)との間に気泡(B)の抵抗が付与される。これにより、放電電極(64)と対向電極(65)との間の電位差が保たれ、気泡(B)でストリーマ放電が発生する。その結果、水中では、過酸化水素等が生成され、消毒水が生成される。
【0069】
〈実施形態2の変形例〉
上記実施形態2では、円板状の蓋部(73)の軸心に1つの開口(74)を形成しているが、この蓋部(73)に複数の開口(74)を形成してもよい。図9に示す例では、蓋部(73)の軸心を中心とする仮想ピッチ円上に、5つの開口(74)が等間隔置きに配列されている。このように蓋部(73)に複数の開口(74)を形成することで、各開口(74)の近傍でそれぞれストリーマ放電を生起させることができる。
【0070】
(その他の実施形態)
本発明は、上記実施形態について、以下のような構成としてもよい。
【0071】
すなわち、上述した実施形態では、検知センサ(58)を出入口(13)の外側のみ設けているが、室内側にも設けてもよい。そうすれば、入室者(99)が外に出る場合にも、出入口(13)を開く前から噴射ノズル(56)から消毒液が噴射されるので、外気が室内に混入した場合でも病原菌が室内に侵入しない。
【0072】
また、上述した各実施形態の電源部(70)には、ストリーマ放電の放電電力を一定に制御する定電力制御部を用いている。しかしながら、定電力制御部に代えて、ストリーマ放電時の放電電流を一定に制御する定電流制御部を設けることもできる。この定電流制御を行うと、水の導電率によらず放電が安定するため、スパークの発生も未然に回避できる。
【0073】
また、上述した各実施形態では、電源部(70)の正極に放電電極(64)を接続し、電源部(70)の負極に対向電極(65)を接続している。しかしながら、電源部(70)の負極に放電電極(64)を接続し、電源部(70)の正極に対向電極(65)を接続することで、電極対(64,65)の間で、いわゆるマイナス放電を行うようにしてもよい。
【0074】
なお、以上の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物や用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0075】
以上説明したように、本発明は、ビニルハウスなどの植物生産設備である、消毒装置について有用である。
【符号の説明】
【0076】
10 植物生産用ハウス
12 天頂部
13 出入口
50 供給部
56 噴射ノズル
57 消毒プール
58 検知センサ
61 水貯留部
62 放電部
70 直流電源
99 入室者

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物生産用ハウス(10)に入室する入室者(99)に対して消毒を行う植物生産用ハウスの消毒装置であって、
水を貯留する水貯留部(61)と、
上記水貯留部(61)内の水中でストリーマ放電を行って過酸化水素を発生させる放電部(62)と、
上記放電部(62)に直流電圧を印加する直流電源(70)と、
上記過酸化水素を含む消毒水を上記植物生産用ハウス(10)の出入口(13)側へ供給する供給部(50)とを備えている
ことを特徴とする植物生産用ハウスの消毒装置。
【請求項2】
請求項1に記載の植物生産用ハウスの消毒装置において、
上記供給部(50)は、上記消毒水を上記出入口(13)上方に設けた噴射ノズル(56)に供給する
ことを特徴とする植物生産用ハウスの消毒装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の植物生産用ハウスの消毒装置において、
上記供給部(50)は、上記消毒水を上記出入口(13)床面に配置した消毒プール(57)に供給する
ことを特徴とする植物生産用ハウスの消毒装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1つに記載の植物生産用ハウスの消毒装置において、
上記出入口(13)の周辺に検知センサ(58)を備え、
上記供給部(50)は、上記検知センサ(58)が上記入室者(99)を検知したときに消毒水を上記植物生産用ハウス(10)の出入口(13)側へ供給するように構成されている
ことを特徴とする植物生産用ハウスの消毒装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1つに記載の植物生産用ハウスの消毒装置において、
上記水貯留部(61)は、上記ハウス(10)の天頂部(12)に配置され、該水貯留部(61)内の水が太陽光により温められる
ことを特徴とする植物生産用ハウスの消毒装置。
【請求項6】
植物生産用ハウス(10)に入室する入室者(99)に対して消毒を行う消毒方法であって、
水貯留部(61)内の水中でストリーマ放電を行って過酸化水素を発生させ、
上記過酸化水素を含む消毒水を上記植物生産用ハウス(10)の出入口(13)に供給し、上記入室者(99)の消毒を行う
ことを特徴とする消毒方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2012−75335(P2012−75335A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−220658(P2010−220658)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】