説明

植物由来の可溶性カルシウム成分及びその製法

【課題】他の食品成分の影響を受けにくく、また、他の食品成分への影響を与えにくい可溶性に優れたカルシウム成分、および該カルシウム成分を含む飲食品やカルシウム強化用食品添加剤を提供する。
【解決手段】カルシウムの溶解度が670mg/100g以上であることを特徴とする、ケール等の植物から抽出した可溶性に優れたカルシウム成分を用いる。当該可溶性カルシウム成分の製造方法は、植物の搾汁液を酸でpH4.0に調製し、ペクチン分解酵素を添加して酵素反応させた後、酵素を失活させろ過することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物由来のカルシウム成分に関する。
【背景技術】
【0002】
日本人はカルシウムの摂取不足であると指摘されている。
カルシウム摂取増進として牛乳や小魚をはじめカルシウムを添加したカルシウム強化食品が提案されている。
また、野菜類の搾り汁である野菜飲料は、各種ビタミン、ミネラルを豊富に含むため、消費者の野菜不足への意識や健康志向の高まりに伴い、その需要が増大し、カルシウムなどのミネラル等の栄養成分の補給用飲料として注目され、飲用されている。特にケールを原料とする青汁に代表される緑色野菜を含有した飲料は、年々その消費が拡大している。しかし、その一方で、これらの各種野菜含有飲料は特有の苦味や渋味を有しており、その使用に抵抗感を抱く消費者も多く、飲用上で妨げとなっている。
【0003】
本出願人は、ケールの搾汁を基にした青汁を提供し、また、ケールに含まれている成分の各種機能を分析研究し、活用研究開発を継続している。例えば、ケール全草粉末にケール搾汁フリーズドライ物を混合、粉砕した粗材を用いて混合、造粒することで、野菜成分を高濃度に含有する青汁用粉末が製造できることを見出し、ケール全草粉末とケール搾汁液とを用い造粒して得られた高濃度野菜青汁用粉末を提案(特願2006−244545号)した。また、ケール抽出物にメラニン生成抑制作用があることを見出し、この作用を活用したメラニン生成抑制剤及びメラニン生成抑制作用を利用した美白剤(特許文献1:特開2004−91396号公報)等を提案した。
【0004】
特許文献2(特開平5−64566号公報)には、イノシトール二リン酸あるいはイノシトール三リン酸および可溶性カルシウムを含むカルシウム吸収効率の高い飲食品が提案されている。可溶性カルシウムとして、塩化カルシウム、グリセロリン酸カルシウム、クエン酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、第二リン酸カルシウム、第三リン酸カルシウムが例示され、実施例として塩化カルシウムが用いられている。
【0005】
特許文献3(特表2005−523034号公報)には、水酸化カルシウム等の可溶性カルシウムと、安定化剤を添加してカルシウム強化した牛乳が提案されている。
【0006】
特許文献4(特開2006−61064号公報)には、豆乳に乳酸カルシウムや塩化カルシウムなどの可溶性カルシウム塩、ピロリン酸第二鉄などの難溶性重金属塩およびクエン酸ナトリウムなどのキレート剤を含有させ、重金属イオン濃度を1.5mg/100g以下としたミネラル強化蛋白飲料が提案されている。
【0007】
特許文献5(特表2004−530424号公報)には、水酸化カルシウム等のカルシウム塩基とクエン酸等の酸とを沈殿を少なくするように制御しつつオレンジ果汁等に含有させたカルシウム強化フルーツドリンクが開示されている。
【0008】
【特許文献1】特開2004−91396号公報
【特許文献2】特開平5−64566号公報
【特許文献3】特表2005−523034号公報
【特許文献4】特開2006−61064号公報
【特許文献5】特表2004−530424号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ケールなどの緑色野菜飲料には、各種ビタミン、ミネラルを豊富に含むがそのまま摂取するには限界があり、牛乳や小魚も同様である。一方、カルシウム単体あるいはカルシウム塩は、沈殿し易く、特に、結着剤や品質改良剤、安定剤などの食品添加剤と反応して沈殿する傾向があって、可溶性を維持できず、生物体内への吸収が困難となる問題がある。さらに、牛乳や豆乳などのタンパク質を多く含む飲料への溶解したカルシウムの添加はタンパク質などを沈殿させ易い。本発明は、他の食品成分の影響を受けにくく、他の食品成分への影響を与えにくい可溶性に優れたカルシウム成分を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の主な構成は次のとおりである。
(1) カルシウムの溶解度が670mg/100g以上であることを特徴とする植物から抽出した可溶性カルシウム成分。
(2) 植物がケールであることを特徴とする請求項1記載の可溶性カルシウム成分。
(3) (1)又は(2)記載の可溶性カルシウム成分を含む飲食品。
(4) (1)又は(2)記載の可溶性カルシウム成分であるカルシウム強化用食品添加剤。
(5) 植物を搾汁して得た搾汁液に酸を添加してpH4.0以下に調製し、ペクチン分解酵素添加して酵素反応させ、その後酵素を失活させた後ろ過する工程を含むことを特徴とする植物から可溶性カルシウム成分を製造する方法。
(6) 植物がケールであることを特徴とする(5)記載の植物から可溶性カルシウム成分を製造する方法。
(7) 酸がクエン酸、リンゴ酸、酒石酸、グルコン酸のいずれかであり、ろ過に濾過助剤として珪藻土を用いることを特徴とする(5)又は(6)記載の植物から可溶性カルシウム成分を製造する方法。
【発明の効果】
【0011】
可溶性に優れた植物由来のカルシウム成分を提供することができる。特に、ケールから抽出した可溶性カルシウム成分である。本発明のカルシウム成分は飲食品あるいは食品添加剤とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
ケールなどに含まれている成分を表1に示す。本願発明は、ケールなどに含まれるカルシウム成分を抽出して利用するものである。表1は、ケール、キャベツそれぞれの100g中に含まれる主なミネラル成分、ビタミン成分を示している。ケールにはキャベツの5倍以上のカルシウムが含まれることがわかる。この含有量は牛乳の約2倍である。このカルシウム成分の構造は、リン酸カルシウムや炭酸カルシウム等のイオン結合とは異なり、配位結合であると想定される。ケール等の植物から抽出したカルシウム成分はリン酸水素ナトリウム(NaHPO)と混合しても塩を形成して沈殿しにくいことから、含まれるカルシウムの多くがカルシウムイオンに有機酸等が配位した、配位結合の形で可溶化していると想定される。
【0013】
【表1】

【0014】
本願発明は、ケール等の植物を粉砕、搾汁し、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、グルコン酸などの酸を添加してpH4.0以下とし、ペクチン分解酵素を添加し、珪藻土など?濾過助剤による濾過処理を経てカルシウム成分を含む抽出成分を得る。
この植物カルシウム成分を含む抽出成分は、青汁独特の匂いは少なく、透明で淡黄色〜褐色を示す。また、粘性もなくそのまま飲食料あるいは食品添加剤として適している。
【実施例】
【0015】
図1にケールの地上部を収穫して、カルシウム成分を含む抽出液を製造する工程を示す。
A〜Pの工程を経て、カルシウム成分を含む抽出液を製造する。
得られた抽出液の性状は、青汁独特の匂いは少なく、透明で淡黄色〜褐色を示し粘性もない。
【0016】
図1に示す製造工程は次のとおりであり、B、C工程は搾汁工程Dの前処理であり、殺 菌工程E、Nは衛生上必要に応じて講じられている。
A工程:収穫したケール葉を水洗浄する。
B工程:1〜5cm角にカットする。小さくカットするのであって、寸法に格別の意味は ない。
C工程:80〜95℃で20秒〜1分30秒間処理して酵素を失活させる。
D工程:公知の搾汁方法を施し、緑葉の搾汁を得る。必要があれば水を加えた後、搾汁方 法としては例えばミンチ機、ミキサー、ジューサー、押し出し搾汁器などの装置を 用いることができ、さらに遠心分離や濾過などの固液分離の手段を用いることによ り、搾汁を得る。
E工程:食品衛生法に準じた殺菌処理を施す。
F工程:クエン酸を用いてpH4.0以下へ調製する。クエン酸の外、リンゴ酸、酒石酸 、グルコン酸などの酸味料を用いることができる。
G工程:30〜50℃に加温する。
H工程:ペクチン分解酵素添加し、2〜5時間酵素反応させる。
I工程:5000〜8000×gで20〜60秒間遠心分離する。
J工程:80〜95℃で20秒〜1分30秒間加熱処理して酵素を失活させる。
K工程:20℃以下に冷却する。
L工程:珪藻土を濾過助剤に用いて濾過する。
M工程:約5倍に濃縮する。濃縮装置は、公知の手段を用いることができる、例えば、効 用缶による減圧濃縮である。
N工程:食品衛生法に準じた殺菌処理を施す。
P工程:20℃以下に冷却して、抽出液を得る。
【0017】
[可溶性試験]
実施例で得られたケール由来の抽出液について、食品添加成分によって沈殿(不溶化)が発生するか確認試験、及び、可溶性成分にカルシウムが含まれるか確認試験を行った。
試料として、上記実施例で得られたケール抽出液と一般的に可溶性カルシウム塩として知られている塩化カルシウムと乳酸カルシウムを水溶液にして比較例に用いた。反応剤として飽和NaHPO水溶液を用いた。
【0018】
可溶性試験工程を図2に示す。
乳酸カルシウムはA工程においてすでに溶解しきれずに沈殿を生じた。
C工程において、飽和NaHPO水溶液を添加混合した。この結果、塩化カルシウム、ケール抽出物(試験管では「植物性Ca」と表記)も沈殿が認められるが、特に、ケール抽出物は目視においても乳酸カルシウムの1/10以下であった(図3参照)。
【0019】
C工程に引き続き、D工程ではNaOH(5N)水溶液、HCl(1N)を用いて上記の溶液のpHを6.8付近に調製し、上澄み液をフィルターでろ過して不溶成分を取り除いてそれぞれに含まれるカルシウム濃度を原子吸光法により測定した。その結果を表2に示す。なお、乳酸カルシウムは沈殿量が明らかに大量であったので、原子吸光による測定は省略した。
これらの結果から、ケール抽出物には、塩化カルシウムと比較して可溶性カルシウム成分が多量に残留していることが判明した。
【0020】
以上の結果より、この抽出成分が、粘着剤や品質改良剤、安定剤などとして食品添加剤として用いられているリン酸水素ナトリウム(NaHPO)と混合しても沈殿せず、可溶化したカルシウムが含まれていることを原子吸光により確認された。
即ち、リン酸水素ナトリウム(NaHPO)添加後、塩化カルシウムは73%であるのに対して、植物性カルシウムは97%残存しており、殆ど溶解状態が維持されていることが分かる。乳酸カルシウムは初期溶解時点で670mg/100gの溶解が不可能であり、図3の写真でも明らかなように大量の沈殿が生じ、カルシウム成分の析出が明白である。
【0021】
【表2】

【0022】
[沈殿物生成試験]
実施例で得られたケール由来の抽出液を、タンパク質を多く含む飲料である豆乳に添加し沈殿物が生成されるか確認を行った。
試料として、上記実施例で得られたケール抽出液と食品添加物に用いられるカルシウム原料で溶解性の高い乳酸カルシウムを比較として用いた。
【0023】
沈殿物生成試験の工程を図4に示す。
D工程において、上澄みを除去した後の試験管の状態を、図5に示す。この結果、ケール抽出物(試験管では「植物性Ca」と表記)に沈殿はほとんど認められなかった。一方、乳酸カルシウムでは沈殿が認められた。
【0024】
以上の結果より、当該発明の可溶性カルシウム成分は、たんぱく質含有量の多い飲料へのカルシウム強化剤としても優れていることが確認された。
【0025】
〔処方例1〕
図1によって得られた可溶性カルシウム成分を清涼飲料水の原料として配合した。(以下の処方は重量g/L)
【0026】
【表3】

【0027】
ニアウォーター系のさっぱりした飲み口の飲料を得ることができた。長期間保存してもカルシウムの析出等は認められなかった。
【0028】
[処方例2]
図1によって得られた可溶性カルシウム成分を清涼飲料水の原料として配合した。(以下の処方は重量%)
【0029】
【表4】

【0030】
後味のすっきりした果汁飲料を得ることができた。60℃5日間の虐待試験でも、カルシウムの析出等は認められなかった。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】カルシウム成分を含む抽出液を製造する工程を示す図。
【図2】可溶性試験工程を示す図。
【図3】沈殿状態を示す写真。
【図4】沈殿物生成試験工程を示す図。
【図5】沈殿状態を示す写真。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルシウムの溶解度が670mg/100g以上であることを特徴とする植物から抽出した可溶性カルシウム成分。
【請求項2】
植物がケールであることを特徴とする請求項1記載の可溶性カルシウム成分。
【請求項3】
請求項1又は2記載の可溶性カルシウム成分を含む飲食品。
【請求項4】
請求項1又は2記載の可溶性カルシウム成分であるカルシウム強化用食品添加剤。
【請求項5】
植物を搾汁して得た搾汁液に酸を添加してpH4.0以下に調製し、ペクチン分解酵素を添加して酵素反応させ、その後酵素を失活させた後ろ過する工程を含むことを特徴とする植物から可溶性カルシウム成分を製造する方法。
【請求項6】
植物がケールであることを特徴とする請求項5記載の植物から可溶性カルシウム成分を製造する方法。
【請求項7】
酸がクエン酸、リンゴ酸、酒石酸、グルコン酸のいずれかであり、
ろ過に濾過助剤として珪藻土を用いることを特徴とする請求項5又は6記載の植物から可溶性カルシウム成分を製造する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−194021(P2008−194021A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−60880(P2007−60880)
【出願日】平成19年2月10日(2007.2.10)
【出願人】(593106918)株式会社ファンケル (310)
【Fターム(参考)】