説明

植物由来成分を有するヒドロキシアルコキシ芳香族カルボン酸の製造方法

【課題】耐熱性が良好なポリエステルの高い生物起源物質含有率を示すヒドロキシアルコキシ芳香族酸の製造方法の提供。
【解決手段】pH9〜11.5としたアルカリ水溶液中の生物起源のヒドロキシ芳香族カルボン酸に、酸化オレフィンを加え70〜100℃にて反応させた後、酸を加えpH2〜6とすることによる、下記一般式(3)で表されるヒドロキシアルコキシ芳香族カルボン酸の製造方法。


(上記一般式(3)中、Rは炭素数2〜8の脂肪族基であり、R、Rは、それぞれ独立にH、OH、OCH、OCのいずれかである。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物起源物質含有率が50〜100%であり、ポリマー原料として有用なヒドロキシアルコキシ芳香族カルボン酸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルは、ジカルボン酸化合物とジオール化合物とを重縮合させることにより得られたポリマーであり、その中でもテレフタル酸より得られるポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、以下「PET」と称することがある)は、成形時の透明性、ガスバリア性、耐熱性および機械的強度に優れた性質を有することから、例えば衣料用や産業資材用の繊維、包装用や磁気テープ用などのフィルムやシート、中空成形品であるボトル、その他エンジニアリングプラスチック成形品等多くの分野に用いられている。
【0003】
一般的にポリエステル樹脂は石油資源から得られる原料を用いて製造されるが、現在、石油資源の枯渇および二酸化炭素による地球温暖化が懸念されており、植物などの生物起源物質から得られる原料を用いて、必要な特性を有するポリマーを作る製造方法の確立が求められている。
【0004】
例えば、バイオマス由来の化学物質としては、トウモロコシ、サトウキビ、サツマイモなどから得られる澱粉や糖分を微生物で発酵させて得られたバイオマスエタノールが知られており、そのバイオマスエタノールを原料としたエチレングリコール、又は澱粉から発酵法により得ることができる1,3−プロパンジオールをジオール化合物として用いたポリエステルが報告されているが、もう一方の原料であるテレフタル酸等のジカルボン酸化合物は石油由来であるため、該ポリエステルの生物起源物質の含有率は低い水準でしかない(例えば、特許文献1及び2)。
【0005】
また、バイオマスエタノールを高温下にゼオライト触媒と接触させて芳香族炭化水素混合物に転化し、そこからp−キシレンを分離して、更にこれをテレフタル酸に転化して、PET樹脂を得る方法が報告されている(例えば、特許文献3)。しかし、この方法では生物起源物質から目的のポリマーを得るまでの工程が非常に長く、生産効率の面で好ましくない。
【0006】
一方、ポリ乳酸やコハク酸ポリマー等の種々の脂肪族バイオポリマーは、その原料を生物起源物質から製造する方法が確立されてはいるが、該ポリマーの物性、特に耐熱性や結晶性が不十分であり用途に制限がある(例えば、特許文献4及び5)。
【0007】
つまり、耐熱性や結晶性に優れ、かつ高い生物起源物質含有率のポリマーが得られる原料(モノマー化合物)を、植物などの生物起源物質から簡便な工程にて製造する方法は未だに確立されてはいない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−091694号公報
【特許文献2】特表2001−505041号公報
【特許文献3】特開2007−176873号公報
【特許文献4】特開昭61−36321号公報
【特許文献5】国際公開第2006/115226号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、耐熱性や結晶性に優れ、かつ高い生物起源物質含有率のポリマーが得られる原料(モノマー化合物)を、簡便な工程にて製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明者は、上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、ヒドロキシ芳香族カルボン酸と酸化オレフィンとを反応させることにより得られるヒドロキシアルコキシ芳香族カルボン酸が、耐熱性や結晶性に優れ、かつ高い生物起源物質含有率のポリマーとして好適であることを見出し、本発明を完成させた。本発明の要旨を以下に示す。
【0011】
1. 下記一般式(1)で表される、生物起源のヒドロキシ芳香族カルボン酸1molに対して、
【化1】

(上記一般式(1)中、R、Rは、それぞれ独立にH、OH、OCH、OCのいずれかである。)
下記一般式(2)で表わされる酸化オレフィン1.2〜2.0molを、
【化2】

(上記一般式(2)中、Rは炭素数2〜8の脂肪族基である)
pH9〜11.5としたアルカリ水溶液中に加え、70〜100℃にて反応させた後、酸を加えpH2〜6とすることによる、下記一般式(3)で表される、生物起源物質含有率が50〜100%であるヒドロキシアルコキシ芳香族カルボン酸の製造方法。
【化3】

(上記一般式(3)中、Rは炭素数2〜8の脂肪族基であり、R、Rは、それぞれ独立にH、OH、OCH、OCのいずれかである。)
2. pH9〜11.5のアルカリ水溶液が、周期律表第I族からなる群から選ばれた少なくとも一つの元素を含む化合物であるアルカリ性触媒の水溶液である上記1項記載の製造方法。
3. アルカリ性触媒が水酸化ナトリウムである上記2項記載の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、高い生物起源物質含有率を示すヒドロキシアルコキシ芳香族カルボン酸の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための具体的な形態について例示する。
本発明のヒドロキシアルコキシ芳香族カルボン酸の製造方法は、前記式(1)で表される、生物起源のヒドロキシ芳香族カルボン酸を原料とする。該ヒドロキシ芳香族カルボン酸として、具体的には、4−ヒドロキシ安息香酸、3,4−ジヒドロキシ−安息香酸、3,4,5−トリヒドロキシ−安息香酸、3,4−ジヒドロキシ−5−メトキシ−安息香酸、3,4−ジヒドロキシ−5−エトキシ−安息香酸、4−ヒドロキシ−3−メトキシ−安息香酸(以下、バニリン酸と称することがある)、4−ヒドロキシ−3−エトキシ安息香酸、4−ヒドロキシ−3,5−ジメトキシ−安息香酸(以下、シリンガ酸と称することがある)、4−ヒドロキシ−3,5−ジエトキシ−安息香酸が挙げられる。中でも、バニリン酸(下記化学式(A))及びシリンガ酸(下記化学式(B))は特に好ましい。
【0014】
【化4】

【化5】

【0015】
これは、糖質や木質、またはグルコースからの発酵により、これらの前駆体であるバニリンやシリンガアルデヒドを作る方法が広く知られているため、バニリン酸やシリンガ酸を、生物起源の再生可能資源として製造又は入手することが比較的容易だからである。なお、バニリン酸又はシリンガ酸を化学反応により、上記の他のヒドロキシ芳香族カルボン酸に転化させても良い。
【0016】
本発明のヒドロキシアルコキシ芳香族カルボン酸の製造方法においては、上記一般式(1)で表される、生物起源のヒドロキシ芳香族カルボン酸1molに対して、上記一般式(2)で表わされる酸化オレフィン1.2〜2.0molを反応させる。該酸化オレフィンとしては、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、1−ブテンオキサイド、2−ブテンオキサイド、イソブチレンオキサイド、1−ペンテンオキサイド、2−ペンテンオキサイド、1−ヘキセンオキサイド、1−オクテンオキサイドなどが挙げられ、中でもエチレンオキサイドおよびプロピレンオキサイドが好ましく、特にエチレンオキサイドが好ましい。エチレンオキサイドはバイオマスエタノールから製造することができ、植物由来のバニリン酸等と合わせて用いることにより、生物起源物質含有率が100%のヒドロキシアルコキシ芳香族カルボン酸およびそれよりなるポリエステルを製造することが可能だからである。上記一般式(2)の酸化オレフィンは、単独で用いても良く、また、2種以上の混合して用いても構わない。
【0017】
本発明のヒドロキシアルコキシ芳香族酸の製造方法における、上記式(1)のヒドロキシ安息香酸誘導体と、上記式(2)の酸化オレフィンとの反応時の仕込み比は、反応促進の為や副反応抑制の為に、モル比1:1〜1:2、つまり酸化オレフィンを過剰に用いる。それらの反応性や価格、除去や再使用の容易さにもよるが、モル比1:1.3〜1:1.8であると好ましい。
【0018】
本発明のヒドロキシアルコキシ芳香族カルボン酸の製造方法においては、上記一般式(1)で表される、生物起源のヒドロキシ芳香族カルボン酸をアルカリ水溶液に加えpH9〜11.5とした液に上記一般式(2)で表わされる酸化オレフィンを加え、70〜100℃にて反応させる。
【0019】
該アルカリ水溶液のpHが9未満では、上記一般式(3)のヒドロキシアルコキシ芳香族カルボン酸の生成が遅く、また上記一般式(1)のヒドロキシ芳香族カルボン酸のエステル化物が生じ易くなりポリマー原料としての使用に支障が生じる。該アルカリ水溶液のpHが11.5より大きいと、上記一般式(2)で表わされる酸化オレフィン同士での反応が起きやすくなりポリアルキレンエーテル化合物の副生量が増え、ポリマー原料としての使用に支障が生じる。該アルカリ水溶液のpHを上記範囲とするには、硫酸などの酸を加えても良く、また、緩衝液となる成分(NH−NHClなど)を適宜加え該アルカリ水溶液を緩衝液としても良い。
【0020】
また、反応温度が70℃未満では反応速度が遅くなるという問題が生じ、100℃より高いと副反応起こりやすくなる。
反応系内の圧力は反応温度、上記一般式(2)の酸化オレフィンの量等により影響を受け、適度に加圧すると反応速度が早くなり好ましいが、5MPaを超過すると暴走反応の危険が増すので好ましくない。
【0021】
本発明において用いるpH9〜11.5のアルカリ水溶液は、周期律表第I族からなる群から選ばれた少なくとも一つの元素を含む化合物であるアルカリ性触媒の水溶液であると好ましい。該アルカリ性触媒としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化セシウムなどのアルカリ金属水酸化物、ナトリウムメチラート、カリウムメチラートなどのアルカリ金属アルコラート、金属カリウム、金属ナトリウムなどのアルカリ金属単体、炭酸カリウム、炭酸ナトリウムなどアルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属炭酸水素塩、アルカリ金属有機カルボン酸塩およびこれら二種以上の混合物が挙げられる。これらのうち好ましいものはアルカリ金属水酸化物および炭酸塩であり、さらに好ましくは水酸化ナトリウムである。
【0022】
これらアルカリ性触媒の使用量は、ヒドロキシ安息香酸誘導体1molに対して、アルカリ金属元素が0.8mol〜1.2molとなる量であると好ましく、1.0mol〜1.1molとなる量であるとより好ましい。
【0023】
本発明の製造方法では、上記反応により生成したヒドロキシアルコキシ芳香族カルボン酸は、アルカリ性触媒として用いた化合物との塩の水溶液の状態になっているため、該アルカリ水溶液に酸を加えてpH2〜6とする、つまり酸析を行う必要がある。酸析に用いる酸としては、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸等が好ましく、特に硫酸が好ましい。これら酸の使用量としては、酸析時、確実にヒドロキシアルコキシ芳香族カルボン酸を回収するために、0.5mol/L〜5mol/Lとなる量であると好ましく、0.5mol/L〜2mol/Lとなる量であると特に好ましい。
【0024】
本発明の製造方法によって得られる、上記式(3)のヒドロキシアルコキシ芳香族カルボン酸は、その融点が195℃〜205℃であることが好ましく、より好ましくは200℃〜205℃である。融点が195℃よりも低いと不純物を多く含んでおり、モノマー化合物として使用する時に重合性の低下が起きるので好ましくない。
【0025】
本発明のヒドロキシアルコキシ芳香族酸は、前記式(3)で表されるヒドロキシアルコキシ芳香族酸であり、ASTM D6866 06a準拠して測定された生物起源物質含有率が50〜100%であると好ましい。特に好ましくは、バニリン酸とエチレンオキサイドを原料として得られる、下記式(4)で表される4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−メトキシ安息香酸である。
【0026】
【化6】

【0027】
本発明の製造方法によって得られる上記一般式(3)のヒドロキシアルコキシ芳香族カルボン酸を原料(モノマー化合物)として溶融重合反応を行い、ポリエステルを製造することができる。溶融重合の方法としては、上記一般式(3)のヒドロキシアルコキシ芳香族カルボン酸を、好ましくは重合触媒の存在下常圧で加熱し、予備反応させた後、減圧下で300℃以下の温度で加熱しながら撹拌して、生成する水を留出させる。反応系は窒素などの原料、反応混合物に対し不活性なガスの雰囲気に保つことが好ましい。窒素以外の不活性ガスとしては、アルゴンなどを挙げることができる。重合反応を適切に進める為には重合温度は200℃〜300℃の範囲であることが好ましく、より好ましくは200℃〜285℃の範囲である。上記溶融重合反応において、必要に応じて酸化防止剤や可塑剤等の添加剤を加えてもよい。
【0028】
溶融重合によって得られたポリエステルを粉末状もしくはチップ状に粉砕し、窒素雰囲気下もしくは減圧下で固相重合を行っても良い。固相重合の反応温度は、ガラス転移温度(Tg)以上、融点(Tm)以下で行い、具体的には230〜260℃の範囲であることが好ましく、より好ましくは240〜260℃である。固相重合反応時の温度が高すぎると得られるポリエステルが架橋してしまい、成形性に大きく影響する。
【0029】
重合触媒としては、周期律表第I族のリチウム、ナトリウム、カリウム等、周期律表第II族のベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム等、及び、亜鉛、カドミウム、モリブデン、ニッケル、銅、銀、水銀、鉛、白金、パラジウム、アルミニウム、ガリウム、ゲルマニウム、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、マンガン、鉄、及びコバルトの、酸化物、水酸化物、アルコキシド、カルボン酸塩、炭酸塩、蓚酸塩、有機錯体、及びハロゲン化物等からなる群から選択された少なくとも1種の金属元素成分が含有された化合物および含窒素有機化合物を使用するのが好ましい。
【0030】
重合触媒として用いるチタン化合物としては、具体的には、例えば、テトラ−n−プロピルチタネート、テトラ−i−プロピルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネートテトラマー、テトラ−t−ブチルチタネート、テトラシクロヘキシルチタネート、テトラフェニルチタネート、テトラベンジルチタネート、酢酸チタン、蓚酸チタン、乳酸チタン、チタンアセチルアセトナート、蓚酸チタンカリウム、蓚酸チタンナトリウム、チタン酸カリウム、チタン酸ナトリウム、チタン酸−水酸化アルミニウム混合物、塩化チタン、塩化チタン−塩化アルミニウム混合物、臭化チタン、フッ化チタン、六フッ化チタン酸カリウム、六フッ化チタン酸コバルト、六フッ化チタン酸マンガン、六フッ化チタン酸アンモニウム、チタンアセチルアセトナート等が挙げられ、中でも、テトラ−n−プロピルチタネート、テトラ−i−プロピルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネート、蓚酸チタン、蓚酸チタンカリウムが好ましい。
【0031】
また、重合触媒として用いるアンチモン化合物としては、具体的には、例えば、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、酢酸アンチモン、メトキシアンチモン、トリフェニルアンチモン、アンチモングリコレート等が挙げられ、中でも、三酸化アンチモンが好ましい。また、周期律表第I族の金属化合物としては、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム等、周期律表第II族の金属の化合物としては、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、マグネシウムアルコキシド、酢酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、酢酸カルシウム、炭酸カルシウム等が挙げられる。その他、酢酸亜鉛、安息香酸亜鉛、亜鉛メトキサイド、亜鉛アセチルアセトナート、塩化亜鉛等の亜鉛化合物、二酸化ゲルマニウム、四酸化ゲルマニウム、水酸化ゲルマニウム、ゲルマニウムテトラエトキシド、ゲルマニウムテトラブトキシド、蓚酸ゲルマニウム等のゲルマニウム化合物、酸化マンガン、水酸化マンガン、マンガンメトキサイド、酢酸マンガン、安息香酸マンガン、マンガンアセチルアセトナート、塩化マンガン等のマンガン化合物、蟻酸コバルト、酢酸コバルト、ステアリン酸コバルト、ナフテン酸コバルト、安息香酸コバルト、コバルトアセチルアセトナート、炭酸コバルト、蓚酸コバルト、塩化コバルト、臭化コバルト等のコバルト化合物、酸化鉛等の鉛化合物、酢酸カドミウム等のカドミウム化合物等が挙げられる。
【0032】
また、重合触媒として用いる含窒素有機化合物としては、具体的には、例えば、4−ジメチルアミノピリジン(DMAP)、2−ジメチルアミノピリジン、1−メチルイミダゾール、2−メチルイミダゾール、1−エチルイミダゾール、2−エチルイミダゾール、ビピリジン、4−ピロリジノピリジン、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2.]オクタン(DABCO)、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン(DBU)等が挙げられる。
【0033】
また、2種類以上のものを混合使用することもある。例えば、酢酸コバルト/酸化鉛、酢酸コバルト/酸化アンチモン、酢酸亜鉛/酢酸カドミウム/酸化アンチモン、酢酸亜鉛/酸化アンチモン、酢酸マンガン/酸化アンチモン、酸化マグネシウム/酸化亜鉛/酸化鉛等が挙げられる。
【0034】
これら重合触媒の使用量は、上記一般式(3)のヒドロキシアルコキシ芳香族カルボン酸1モルに対し、好ましくは1×10−9〜1×10−3モル、より好ましくは1×10−8〜5×10−4モルの範囲で選ばれる。
【0035】
本発明の製造方法によって、2種類以上の上記一般式(3)のヒドロキシアルコキシ芳香族カルボン酸を製造し、それらを上記のような条件にて共重合させてポリエステルとしても良い。また、ヒドロキシ芳香族カルボン酸、グリコール酸や乳酸等のヒドロキシ脂肪族カルボン酸、テレフタル酸やアジピン酸などのポリカルボン酸、および多価アルコール、並びにこれらのエステル化物またはオリゴマーを共重合させたものでも良い。
【0036】
本発明の製造方法によって得られる上記一般式(3)のヒドロキシアルコキシ芳香族カルボン酸のポリエステルに対して、目的に応じて他の熱可塑性ポリマー(例えば、ポリアルキレンテレフタレート、ポリアリレート、液晶性ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリウレタン、シリコーン、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、ポリスルホン、ポリエチレンおよびポリプロピレンなどのポリオレフィンなど)、充填剤(ガラス繊維、炭素繊維、天然繊維、有機繊維、セラミックスファイバー、セラミックビーズ、タルク、クレーおよびマイカなど)、天然高分子(ポリヒドロキシブチレート(PHB)、ポリヒドロキシブチレート/バリレート、ポリヒドロキシバリレート/ヘキサノエート、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリブチレンサクシネート/アジペート、ポリエチレンサクシネート、ポリ乳酸、ポリリンゴ酸、ポリグリコール酸、ポリジオキサノン、ポリ(2−オキセタノンなどの脂肪族ポリエステル;ポリブチレンサクシネート/テレフタレート、ポリブチレンアジペート/テレフタレート、ポリテトラメチレンアジペート/テレフタレート等の脂肪族芳香族コポリエステル;デンプン、セルロース、キチン、キトサン、グルテン、ゼラチン、ゼイン、大豆タンパク、コラーゲン、ケラチン)、酸化防止剤(ヒンダードフェノール系化合物、イオウ系酸化防止剤など)、難燃添加剤(リン系、ブロモ系など)、紫外線吸収剤(ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、シアノアクリレート系など)、流動改質剤、着色剤、光拡散剤、赤外線吸収剤、有機顔料、無機顔料、離形剤、可塑剤などを混練などにより添加してもよい。
【実施例】
【0037】
以下の実施例により本発明の詳細をより具体的に説明する。しかし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。本発明の趣旨に合致する限り他の実施の形態も本発明の範疇に属し得ることは言うまでもない。各種物性の測定方法について、以下に示す。
【0038】
(1)生物起源物質含有率
ASTM D6866 06に準拠し、放射性炭素濃度(percent modern carbon;C14)による生物起源物質含有率試験から、試料の生物起源含有物質率を測定した。
【0039】
(2)融点、ガラス転移温度、結晶化温度
TA Instruments社製 示差走査熱量計(DSC) 型式 DSC2920により測定した。
【0040】
(3)還元粘度 ηsp/C
試料を1,1,2,2−テトラクロロエタンとp−クロロフェノールとの質量比8:5の混合液に、濃度が約0.6g/dLとなるよう溶解して、温度35℃にて、ウベローデ粘度計を使用して測定した。なお還元粘度ηsp/Cは下記式から求められる。
ηsp/C=(t/t−1)/0.6
ここで、t:試料溶液のフロータイム、
:溶媒のみのフロータイム。
【0041】
(4)5%重量減少温度
Rigaku社製 熱天秤(TGA) 型式 TG 8120 Thermo plusにより測定した。
【0042】
[実施例1]
バニリン酸300gを、30%NaOH水溶液249.7gとイオン交換水1332.6gアルカリ水溶液に溶解させ、pH10.6に調整したものを反応器に入れ、窒素雰囲気下、エチレンオキサイド137.3gを系内に吹き込みながら90℃で2時間加熱撹拌した。その結果、4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−メトキシ安息香酸ナトリウム水溶液が得られた。
該水溶液に、2mol/L硫酸水溶液をpHが3になるまで滴下することにより酸析し、収率81%にて、生物起源物質含有率が80%、融点が202℃の4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−メトキシ安息香酸を得た。
【0043】
[比較例1]
バニリン酸300gを、30%NaOH水溶液249.7gとイオン交換水1332.6gからなるアルカリ水溶液のpHを7.9に調整した以外は実施例1と同様に操作を行った。収率33%にて、生物起源物質含有率が80%、融点が201℃の4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−メトキシ安息香酸を得た。
【0044】
[参考例1]
実施例1にて得られた4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−メトキシ−安息香酸30g(0.141モル)を反応器に入れ、重合触媒としてテトラ−n−ブチルチタネートを0.0.014g(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−メトキシ−安息香酸成分1モルに対して3×10−5モル)を仕込んで窒素雰囲気下常圧で210℃に加熱し溶融させた。
撹拌下、反応槽内を90分かけて徐々に10Torr(1.33kPa)まで徐々に減圧し、留出する水を除去した。次いで、270℃まで徐々に昇温し、到達したら減圧した。減圧後さらに昇温することで最終的に、0.75Torr(0.1kPa)、285℃で5時間反応せしめた。その結果、還元粘度0.2dL/gのポリエステルが得られた。さらにこのポリエステルを減圧下、240℃で48時間固相重合を行うことにより、最終的に還元粘度0.4dL/gのポリエステルが得られた。このポリエステルの生物起源物質含有率は77.3%であり、融点が267℃であり、ガラス転移温度(Tg)が81℃であり、且つ5%重量減少温度(Td)が390℃と耐熱性、熱安定性いずれも良好であった。
【0045】
[参考例2]
実施例1にて得られた4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−メトキシ−安息香酸と、重合触媒としてメチルメルカプチド鉛を用いて、上記参考例1と同様に反応せしめた。その結果、還元粘度0.43のポリマーが得られた。このポリマーの生物起源物質含有率は77.3%であり、融点が265℃であり、ガラス転移温度(Tg)が82℃であり、且つ5%重量減少温度(Td)が390℃と耐熱性、熱安定性いずれも良好であった。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の製造方法は、合成繊維、成形体、フィルムなどの各種の用途に適した、耐熱性や結晶性に優れ、かつ高い生物起源物質含有率のポリマーの原料であるヒドロキシアルコキシ芳香族カルボン酸を得ることができ、産業上非常に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される、生物起源のヒドロキシ芳香族カルボン酸1molに対して、
【化1】

(上記一般式(1)中、R、Rは、それぞれ独立にH、OH、OCH、OCのいずれかである。)
下記一般式(2)で表わされる酸化オレフィン1.2〜2.0molを、
【化2】

(上記一般式(2)中、Rは炭素数2〜8の脂肪族基である)
pH9〜11.5としたアルカリ水溶液中に加え70〜100℃にて反応させた後、酸を加えpH2〜6とすることによる、下記一般式(3)で表される、生物起源物質含有率が50〜100%であるヒドロキシアルコキシ芳香族カルボン酸の製造方法。
【化3】

(上記一般式(3)中、Rは炭素数2〜8の脂肪族基であり、R、Rは、それぞれ独立にH、OH、OCH、OCのいずれかである。)
【請求項2】
pH9〜11.5のアルカリ水溶液が、周期律表第I族からなる群から選ばれた少なくとも一つの元素を含む化合物であるアルカリ性触媒の水溶液である請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
アルカリ性触媒が水酸化ナトリウムである請求項2記載の製造方法。

【公開番号】特開2011−1310(P2011−1310A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−146486(P2009−146486)
【出願日】平成21年6月19日(2009.6.19)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】