説明

植物繁殖移転方法

組織培養培地から、無機栄養素を含む水性ゲル培地(13)を収容し、かつ支持チューブ(12)の中で支持される根部透過性容器(10)の中へ、小植物(14)を隔離する工程を有して成る植物繁殖移転方法。容器(10)を支持チューブ(12)から隔離し、容器(10)に入ったまま移植させる前に、根部が容器(10)の底部に向かって延在するまで、光を当て空気に触れさせて、隔離した小植物(14)を順化させる。ある割合ポリオレフィン繊維を有するヒートシール可能な不織セルロース組織材料から形成した根部透過性スリーブを有して成る容器(10)についても開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の分野
本発明は、植物繁殖移転方法に関する。
【0002】
本発明は、限定するわけではないが、根付いた小植物(または十分に成長していない植物)を丈夫にして移植するための植物繁殖移転方法に特に適用でき、説明のために、この用途を参照して更に説明する。しかしながら、本発明を、一般的には移植のような他の用途で用いることができることは理解されるであろう。
【背景技術】
【0003】
先行技術
明確に反対の事項であると断わらない限り、以下の先行技術のいずれも、当該技術分野における共通の認識を構成しない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
急速に植物を繁殖させる条件のもとで、特に組織培養を用いて成長させた植物は、しばしばより支援的でない条件のもとに移すには準備が不十分で小さく弱々しい小植物であり、その結果、高いレベルの消滅(または自然減、attrition)、成長の遅れが生じ、および一層の手入れの注意が必要となる。本明細書で用いる「〜をより支援的でない条件に移す」には、管、植木鉢または別のものの中に関わらず、土壌または土壌類似物に移植するような、異なる生育媒体へ移転させることが含まれるが、それに限定されない。移転を実施するには複数の労力を要する工程がしばしば必要であり、それらは植物にとってしばしばストレスである。
【0005】
例えば、組織培養条件のもと寒天培地(agarified media)にて植物を成長させる場合、これらは糖および他の有機栄養素を一般的に含む。この工程の小植物は大部分光合成をせず、自立的に成長する準備ができていない。通常、組織培養条件のもとで成長させた植物の移転における第1工程は、栄養素が菌類の増殖を助けないように、根部から有機栄養素を含有する寒天を除去することである。この寒天除去工程は、根部にダメージを与えやすい。
【0006】
次に、寒天が除去された小植物を土壌に配置し、種類に応じて、低光量で霧吹きしながら育てる。徐々に霧吹きを減らし光強度を増やして、植物が自身の生理機能を新しい条件に適応させられるようにする。30%の消滅は、ex−vitro移転させるための標準的な手順において珍しいことではない。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の説明
本明細書で用いる場合、「含んで成る(または有して成る)」なる用語およびその一部は、特に断らない限り、非排他的なものとして理解されるべきである。
【0008】
1つの要旨において本発明は:
組織培養の繁殖培地から、無機栄養素を含む水性ゲル培地を有する根部透過(または通過)性容器に小植物を隔離する工程;
根部が容器の底部に向かって伸びるまで、光および空気中で、該隔離した小植物を順化させる工程;および
容器内で順化させた小植物を移植する工程
を含む植物繁殖移転方法に、広くは存する。
【0009】
根部透過性容器を、穿孔材料のような、根部が本質的に透過性の材料から作ってもよく、あるいは移植前に穿孔した状態になる、実質的に不透過性の材料から作ってもよい。別の実施態様において、その材料は生物学的分解または環境的分解によって、根部が不透過性状態から透過性状態に変化してもよい。その上、更なる別の実施態様において、容器を織成材料で形成してもよく、根部はそれを通過して成長し、最終的にはその織成物にとって代わる。根部の成長が妨げられ得る前に、その環境にて少なくとも部分的に分解する材料を選択することが好ましい。
【0010】
適当な環境的に分解可能な材料の例には、織成および非織成(または不織)のセルロース繊維材料、フィルムおよびレーヨンのような再成セルロース材料、カルボキシメチルセルロースのような変性セルロース材料、ならびに織成または非織成布帛の綿および他の天然繊維が含まれる。本発明の特定の実施態様において、容器は、ヒートシール性を提供するために、ある割合でポリオレフィン繊維を組み込んだヒートシール可能な不織セルロース組織材料の管状ストックから形成されている。
【0011】
根部透過性容器は、小植物ならびに順化および移植用のそのゲル培地を支持するのにふさわしい、いずれの選択した物理的形状をとってもよい。本発明の特定の実施態様において、容器はチューブまたは類似の形状をとってもよい。チューブは自立性であってもよい。別の実施態様において、チューブは、ポリマーチューブまたはワックスペーパーもしくはラミネート紙のチューブのような移送スリーブの中で支持されていてもよい。
【0012】
根部透過性容器は、チューブ内部で培地を支持するために、底部クロージャー部分を有するように形成したシリンダー状スリーブであってもよい。一般的には、チューブの直径は約15mm〜約25mmであってよく、長さは約25mmより大きい必要はない。しかしながら、培地はいくらか自立性を有する。したがって、開口底部に向かって先細り得る根部透過性容器を用いるオプションもあり、その先細りは、取り扱う間、培地が根部透過性容器内部で自立するのに十分なものである。一般的に、直径が名目上25mmの容器は、約15mmの下側開口部に向かってテーパー状であってもよい。根部透過性容器は、開口底部に向かって先細った短い部分を有する、側面が平行な(parallel sided)根部透過性容器であってもよい。一般的に、頂部の直径および底部の直径を測り、かつ2つの間に線を引くことによって規定される有効な先細りは、8度〜11度である。
【0013】
根部透過性容器は、順化の間、根部を横断方向に拘束することなく、根部が成長できるように十分な長さを有して、小植物を受容するように選択したいずれかのサイズであってよい。本発明の1つの実施態様において、容器は、湿潤強度のために合成繊維で強化した薄葉紙のチューブからなり、高さが約50mm、直径が約16mmであり、このサイズの支持チューブにはまる。
【0014】
無機栄養素を含む水性ゲル培地は、無機栄養素溶液を含んで成るいずれの植物適合性支持ゲルであってよい。例えば、有効量の親水コロイドゲル成形材料によって、溶液をゲル化させてよい。ゲル成形材料を、海草由来のゲル化剤、寒天、変性炭水化物ゲル化剤もしくは同様のもののような天然または合成の親水コロイド成形材料から選択してよい。材料は、低濃度で自立ゲルを形成することが好ましい。例えば、ネットワークゲルポリマー(固形分0.4%以下)が好ましい。
【0015】
無機栄養素は、水耕栽培および繁殖培地の当該技術分野において既知の濃度で、いずれか栄養素または栄養素の組み合わせを含んで成ってもよい。菌類のような汚染微生物が増殖する可能性を減らすために、有機栄養素を避けることが好ましい。更に、水性ゲル培地を無菌条件のもとで調製することが好ましく、特に、無菌の植物繁殖ストックから小植物を隔離する。驚くべきことに、本発明に基づき、また、チューブ培地に糖のような有機栄養素が実質的に存在していない順化は、小植物の成長を悪化させないことが分かった。順化時および移植時の双方において、ゲルに起因する消滅はなく、かつ真菌感染症は減る。
【0016】
無機栄養素を含む水性ゲル培地への小植物の隔離は、栄養源の除去を伴っても、伴わなくてもよい。頑固な寒天培地で育った小植物の場合、培地の幾らかの通り抜けがあるのが適切なことがあり、過剰な洗浄による根部のダメージを防ぐ。他方、適当な洗浄液によって穏やかに洗浄することにより、より頑固でない培地を除去してもよい。
【0017】
関連する植物の種類を考慮して、順化条件を選択できる。条件は、少なくとも、常套の丈夫にするための最低条件と同じくらい植物にとって厳しいものである。光に関して、本発明の順化方法は、周囲の苗床の光条件を含む、広い範囲の光条件のもとで行なえることが分かった。更に、温度および湿度の標準的な苗床条件が適当であれば、霧吹き(ミスティング)の必要はない。特別な雰囲気は必要でなく、Oが少なくCOが多い雰囲気から取り出した種は、周囲の雰囲気(または外気)条件のもとで順化できる。
【0018】
移植する小植物の生命力によって主に決められるいずれか適当な期間でも、順化は起きてもよく、それは種類毎に変わる。一般的には、植物根部が容器の底部に接近するまで、順化は植物に利益をもたらし続ける。
【0019】
小植物を適切に根付かせる場合、成長中の小植物を含むゲル化溶液のそのままのカラムを、土壌へ移転することを助けるために、容器を用いる。小植物の根部は、その容器によって元の状態のままに保持されているゲル内で保護されている。根部は、このシステムによって保護されるだけでなく、それらは容器内で、土壌内でより良く根付くように機能する。更に、ゲル化溶液のカラムは、給水管理が変動する場合には、植物にバッファーの役割を果たす水源を供給する。日々の水やりなどによって、標準的に丈夫になった小植物の場合と同様に、小植物は育つ。
【0020】
別の要旨では、本発明は、広くは、ある割合でポリオレフィン繊維を組み込んだヒートシール可能な不織セルロース組織材料から形成した根部透過性スリーブを有して成る、植物繁殖容器に存する。
【0021】
隔離および/または順化の間、移送スリーブの中にて支持されるように、容器を構成してよい。根部透過性容器は、チューブ内部で培地を支持するために、底部クロージャー部分を有するように形成したシリンダー状スリーブであってもよい。別の実施態様において、根部透過性容器は、開口底部に向かって先細ってもよく、その先細りは、取り扱う間、培地が根部透過性容器内部で自立するのに十分なものである。根部透過性容器が、開口底部に向かう短いテーパー状部分を有する側面が平行な根部透過性容器である、有効なテーパーが提供され得る。
【0022】
通過する複数の穿孔を設けることによって、スリーブの根部透過性を高めてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図面の簡単な説明
本発明をより容易に理解し、実用的な効果を出すために、本発明の1つの実施態様について言及し、図面にてその要素を説明する。
【0024】
【図1】図1は、本発明の方法で用いる器具の分解図である。
【図2】図2は、図1の器具を示す図面であり、順化している植物を含む。
【図3】図3は、移植の準備が整った順化した植物、容器およびゲルを示す図面である。
【図4−6】図4〜図6は、本発明の方法で用いる根部透過性容器の別の実施態様を示す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
実施態様の説明
図1〜図3では、湿潤強度およびヒートシール性のために強化したポリオレフィン繊維である薄葉紙のチューブを有して成る、容器または「小植物ソックス(plantlet sock)」(10)を提供している。熱融着によってチューブを形成し、側壁には穿孔(11)が設けられている。組織材料は固有的に根部透過性であるが、追加の穿孔が植物の伸びを助ける。容器は、高さが約50mm、直径が16mmで、このサイズの支持チューブ(12)内にはまる。
【0026】
全ての材料を無菌条件のもとにおき、じゃがいも用の繁殖培地の無機成分を含み、かつ寒天ゲル化剤(Gelita Australia Pty LtdからのJ3で、0.4%寒天当量)を含有する液状栄養素溶液(13)を、チューブが支持する小植物ソックスの中に注入する。根部から始まった、繁殖させたじゃがいも小植物(14)を、繁殖培地を最低限除去して(生理的に許容され得る温度まで冷却した後、)ゲル、チューブおよび小植物ソックスのアセンブリ(または組立体)中に植える。
【0027】
チューブ(12)をラックに配置して、主要な根が約50mmの長さになるまで、小植物(14)を外光(または周囲光)および標準的な雰囲気のもとで順化させる。小植物ソックス、ゲルおよび植物をチューブ(12)からユニットとして引き出し、次に、小植物ソックス全体を受容するために、穴を開けた土壌の中に単純に直接移転させる。簡単な毎日の水やりによって植物を維持し、根部は小植物ソックスを突き抜け、土壌の中で直接その成長を続ける。そのじゃがいも小植物は、先行の組織培養形態の速い成長を維持した。消滅(attrition)は起きなかった。
【0028】
図4〜図6の実施態様において、湿潤強度およびヒートシール性のために強化したポリオレフィン繊維である薄葉紙の円錐台形部を有して成る容器を提供している。先の実施態様の場合と同様に、穿孔(図示せず)を設けていた側壁を形成するために、(21)にて熱融着させることによって2つの半割部から本体部(20)を形成する。容器は、高さが約50mm、上側直径が約17.6mm、かつ下側直径が約13mmである。容器は、同様の形状の支持チューブ(図示せず)内にはまる。
【0029】
本発明の方法は、ぶどうのツルに関する試験も上手くいっており、限定するわけではないが、種々のユーカリノキおよびチークおよびマホガニを含む、培養での繁殖に適するいずれの他の業務用の植物に関しても、適用することができる。その方法は、苗床条件への移転に適しており、環境条件が適当な場合、機械操作によって直接土壌に植え付けることを可能にする。より有効に土壌に根付かせ、土壌条件への直接移転を可能にするために、小植物の移転を実質的に単純化する手順を説明している。
【0030】
上記のことを、本発明の説明に役立つ例として提供しているが、それら全てならびに当該技術分野の当業者にとって明らかであろう、それらに対する他の改良および変化が、以下の請求項で規定される本発明の広い範囲および領域に含まれると考えることは、当然理解されるであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
組織培養繁殖培地から、無機栄養素を含む水性ゲル培地を有する根部透過性容器の中へ、小植物を隔離する工程;
根部が容器の底部に向かって伸びるまで、光および空気中で、該隔離した小植物を順化させる工程;および
容器にて順化させた該小植物を移植する工程;
を含む植物繁殖移転方法。
【請求項2】
根部透過性容器は、ある割合でポリオレフィン繊維を組み込んだヒートシール可能な不織セルロース組織材料の管状材料から形成されている、請求項1に記載の植物繁殖移転方法。
【請求項3】
隔離および/または順化の間、容器は移送スリーブ内で支持されている、請求項1に記載の植物繁殖移転方法。
【請求項4】
根部透過性容器は、シリンダー状スリーブであり、チューブ内で培地を支持する底部クロージャー部分を有するように形成されている、請求項1に記載の植物繁殖移転方法。
【請求項5】
根部透過性容器は開口底部に向かって先細っており、その先細りは、取り扱いのために、培地が根部透過性容器内部で自立するのに十分である、請求項1に記載の植物繁殖移転方法。
【請求項6】
根部透過性容器は、開口底部に向かって先細った短い部分を有する、側面が平行な根部透過性容器である、請求項5に記載の植物繁殖移転方法。
【請求項7】
無機栄養素を含む水性ゲル培地は、有効量の親水コロイドゲル成形材料によってゲル化した無機栄養素溶液を含んで成る植物適合性支持ゲルを含む、請求項1に記載の植物繁殖移転方法。
【請求項8】
水性ゲル培地を無菌条件のもとで調製し、小植物を実質的に無菌な植物繁殖ストックから隔離する、請求項1に記載の植物繁殖移転方法。
【請求項9】
順化条件は、光、温度および湿度の標準的な苗床条件である、請求項1に記載の植物繁殖移転方法。
【請求項10】
植物根部が容器の底部に接近するまで順化を進める、請求項1に記載の植物繁殖移転方法。
【請求項11】
ある割合でポリオレフィン繊維を組み込んだヒートシール可能な不織セルロース組織材料から形成した根部透過性スリーブを有して成る、植物繁殖容器。
【請求項12】
容器は、隔離および/または順化の間、透明なスリーブの中で支持されるように構成された、請求項11に記載の植物繁殖容器。
【請求項13】
根部透過性容器は、シリンダー状スリーブであり、チューブ内で培地を支持する底部クロージャー部分を有するように形成されている、請求項11に記載の植物繁殖容器。
【請求項14】
根部透過性容器は開口底部に向かって先細っており、その先細りは、取り扱いのために、培地が根部透過性容器内部で自立するのに十分である、請求項11に記載の植物繁殖容器。
【請求項15】
根部透過性容器は、開口底部に向かって先細った短い部分を有する、側面が平行な根部透過性容器である、請求項14に記載の植物繁殖容器。
【請求項16】
スリーブの根部透過性は、貫通する複数の穿孔を設けることによって高められている、請求項11〜請求項15のいずれかに記載の植物繁殖容器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公表番号】特表2010−535476(P2010−535476A)
【公表日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−519311(P2010−519311)
【出願日】平成20年8月11日(2008.8.11)
【国際出願番号】PCT/AU2008/001157
【国際公開番号】WO2009/021274
【国際公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【出願人】(510036746)ニュープラント・プロプライエタリー・リミテッド (1)
【氏名又は名称原語表記】NuPlant Pty Ltd
【Fターム(参考)】