説明

植物育成用金網とその製造方法

【課題】
コンクリートなどの人工物によって囲まれた都市空間は、ヒートアイランド現象の原因のひとつとされている。都市空間を美化、緑化するため用いられるつる草を支えるための金網構造において、植物の育成中で未だその金網がつる草に覆われる以前に、金網が太陽熱によって過熱し、つる草に熱傷を与えることがあった。
【解決手段】
縦鋼線と横鋼線とを抵抗溶接して網状にした素金網の表面に、相変化物質をアクリル系塗料からなる遮熱塗幕を塗布することによって被覆したものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植栽用ネットやネット形フェンスのように、蔓草を這わせて生育させるのに好適な植物育成用金網とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリートなどの人工物によって囲まれた都市空間は味気ないばかりか、ヒートアイランド現象の原因のひとつとされている。
【0003】
本発明は主として、都市空間をなす壁面を緑化することによって緑の面積を増大させることを目的として、植物の成長を大幅に促進する物と、その製造方法に辿りついたので、それについて技術を開示していく。
【0004】
従来、ペロブスカイトマンガン酸化物、および、コランダムバナジウム酸化物が、相変化によって熱の伝導を制御できることが知られている
【特許文献1】。これらの物質は砂状粉体として、ニシコートXの商標を付して市販されている。
【0005】
この物質は、これを構成する成分の比率を調節することによって、相転移温度(一定の温度になろうとする性質)を250Kから350K(−23℃から77℃)の範囲で任意に選択できる。発明者らは実験の結果、植物の育成において、22℃以上で33℃以下のものが、よい結果を生むことを見つけたので、それらの物質を利用して建物に好適な壁面緑化植物の良好な育成を図った。
【特許文献1】特許第3221412号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
壁面緑化植物にはいろいろあるが、もっとも代表的なツル植物ヘデラについて記述する。ヘデラはウコギ科の常緑ツル性植物で、和名を西洋キヅタ、英名をアイビーといゝ、ガーデニングなどに広く使用されている。このヘデラをコンクリート壁に繁茂させるには、天然あるいは人工の土に植え、コンクリート壁から大略10cmくらい離して支持棒を立てかけ、これに巻きつかせて生育させる。
【0007】
このヘデラを少し大規模に繁茂させようとすれば、その重量を支えるため、前記支持棒に代えて金網を用いるのが合理的であるが、金網は日中、太陽光を受けて昇温し、夏季には65℃を超える高温となってヘデラに熱傷を与え、成長を妨げた。また、冬季には過度に冷却して同様に、ヘデラの成長を妨げた。
【0008】
このような不具合を解消するには、金網を構成する鋼線と大気との間を遮熱すればよいのであるが、その遮熱にすぐれた性質を発揮する前記ペロブスカイトマンガン酸化物、あるいはコランダムバナジウム酸化物などの相変化させることのできる物質を1.0mm程度に厚く塗布することが容易でなかった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、物の発明として、縦鋼線と横鋼線とを抵抗溶接して網状にした素金網の表面に、相変化物質とアクリル系塗料からなる遮熱塗幕を付着させることによって被覆させることを最も主要な特徴とする。また、製法の発明として、縦鋼線と横鋼線とを抵抗溶接して網状にした素金網を、相変化物質をアクリル系塗料で溶いた浴槽に全体を浸漬して表面を被覆することを最も主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本願の物に係る植物育成用金網は、素金網の表面を相変化物質を含む遮熱塗幕によって被覆したものであるから、直射日光が作用して金網が熱せられるとき、金網の温度が低いときは、伝熱がよく素金網の昇温に寄与し、高温になっているときは、伝熱性が低下して吸熱を少なく放熱を大きくする。よって、素金網の温度が低いときは速やかに昇温して植物の育成を促し、高いときはそれ以上の昇温を抑制するから、素金網の温度が
過度に上昇することがなく、生育途中の植物の葉が金網で熱傷を受けて生育が遅れる不具合が解消されるので、植物は比較的短期間に壁面に沿ってつるや葉を繁茂させることができるという利点がある。
【0011】
本願の製法に係る植物育成用金網の製造方法によれば、素金網の表面を相変化物質で被覆するに際し、これをアクリル系塗料で溶いた浴槽に浸漬して行うから、比較的厚い被覆を短時間で行うことができる。また、素金網の表面に行う浸漬塗装を数回に分けて行うことにより、単に、塗膜の厚さを厚くできるというだけでなく、繰り返しごとに生じる境界面での遮熱が期待できるという利点がある。
【実施例1】
【0012】
図1は、植物育成用の金網10を示す外観図である。図1中、植物育成用金網10は地表あるいはプランタ12から鉛直方向上方へ向けて設置され、やや太い外枠10aと、その外枠10aの内面を埋めるやや細い素金網10bとによって構成されている。
【0013】
図中、14は地表あるいはプランタ12に植えられたつる草で、ノウゼンカツラやヘデラによって代表される、いわゆる登はん形のつる草である。これらつる草は地上10m以上に成長するので、それを支持する部材にかなりの強さが求められ、鉄材を利用した金網が用いられる。
【0014】
金網10には前記つる草14が成長してしまうまでの間、強い太陽光が直射して高温になり、つる草14の成長を阻害することがあり、これを防ぐため金網10をなす鋼製の素線11には、図2で示すように、表面に遮熱塗膜20が施されている。
【0015】
前記遮熱塗膜20は合成樹脂系の塗料に、相変化物質であるペロブスカイトマンガン酸化物、およびコランダムバナジウム酸化物などを合成樹脂系の塗料中に混入したものである。相変化物質は常温域において、相対的に高温では絶縁が高く、かつ、熱放射量が大きい。そして、低温では金属的な導電率が高く、かつ、熱放射量が小さい。また、結晶構造が立方晶であり、光学的性質は結晶軸の方向に左右されないので、放熱面への配置は接着、蒸着、塗装など各種の方法が利用可能とされている。
【0016】
この実施例で、遮熱塗膜20は図2で示すように、金網10の縦鋼線11aと横鋼線11bによって構成された素金網10bの素線11に比較的薄く、かつ相変化物質の割合が少ない塗膜からなる第1層16と、比較的厚く、かつ相変化物質の割合が多い塗膜からなる第2層18との2層で構成されている。
【0017】
このように素金網10bの素線11に、相変化物質を溶かしたアクリル系塗料の被覆を施すことによって、前記金網10が直射日光に照らされている間、前記素線11の温度が低い間は熱伝導性がよく、素線11の温度上昇に寄与するが、高温になってくると伝熱性が低下し、かつ、放熱性が増して過度の温度上昇を阻止する傾向を生む。なお、被覆の方法は吹きつけ塗装、浸漬塗装など、種々の塗装方法が利用できることは前述した通りである。
【0018】
よって、素線11が植物育成に適した温度に保持される時間が長い上、熱傷や凍結傷を与えることがなくなる。また、被覆塗膜の層を多層にすると、素線11と第1層16、第1層16と第2層18との境界面における反射のため遮熱性を向上させることができる。さらに、隣接する層の組成や厚さを不等にすることによって、遮熱性を一層向上させることができる。
【実施例2】
【0019】
図4は植物育成用金網10が建造物25のために用いられる場合を示している。この場合、素金網10bは日本工業規格の一般構造用炭素鋼の棒材を用い、一端を地表と他端を屋上近傍とに固定して縦鋼線11aとし、各縦鋼線11a、11aの間を連結する水平方向に伸びる横鋼線11bとによって四角形に形成されている。よって、素金網10bは前出のプランタ12に用いる場合に比して著しく大型となるが、それら縦鋼線11aと横鋼線11bとの表面が相変化物質を溶かしたアクリル系塗料によって被覆されている点で一致している。
【0020】
図4は前記相変化物質を建造物25のための素金網10bへ塗布した時の、植物の育成する過程を示すもので、(a)は建造物25の竣工時であり、建造物25の外面に一辺が50cmから100cmの網目の素金網10bで外面を覆ってある。(b)は竣工後一年経過したときのつる草14の育成状態を、(c)は竣工後二年を経過したときの育成状態をそれぞれ示す。
【0021】
次に、植物育成用金網10の製造方法を図3によって説明する。まず、材料として、縦鋼線11aと横鋼線11bを抵抗溶接によって溶着してなる素金網10bの、所要の大きさに切断されたものを準備する。素金網10bは、一般に硬鋼線のフープの多数から鋼線を解き出して縦鋼線11aとし、その縦鋼線11aの上に所定長さに切断され、あるいは、折り曲げて作られた横鋼線11bを載せて電気抵抗法によって溶着されたものである。なお、これまでの素金網10bを準備する工程は、特に新規なものでないので、これ以上の詳しい説明は省略する。
【0022】
そのようにして準備された素金網10bは、第1浸漬槽に浸漬される。この第1浸漬工程は素金網10bと塗料との密着を重視したもので、第1浸漬槽にはベースとなるアクリル系塗料の中に、体積比でおよそ10%の相変化物質たるペロブスカイトマンガン酸化物と、コランダムバナジウム酸化物とのいずれかを混ぜてある。第1浸漬槽での処理を終えた素金網10bは引き上げられ、滴を切った後、約2時間かけて乾燥され、ついで、第2浸漬槽に浸漬される。
【0023】
第2浸漬槽に準備される塗料は、十分な厚さを持った相変化物質の層を形成することを重視したもので、第2浸漬槽には、ベースとなるアクリル系塗料と、体積比でおよそ40%の相変化物質とを混じたものが入れてある。この塗料の粘度は第1浸漬槽のそれに比して粘ったものとなっている。そのため、第2浸漬槽におけるによる第2浸漬工程の塗膜は第1浸漬槽の場合より厚いものが得られる。
【0024】
以上のようにして素金網10bの外面には比較的薄い第1層16と、比較的厚く、かつ相変化物質の割合が多い第2層18との2層の塗膜が形成され、それらの塗膜は素金網10bへ密着し剥離などの不具合を生じることがなく、かつ、伝熱を制御するのに十分な厚さが得られる。なお、必要がある場合は第2浸漬工程を終えたものを、乾燥させた後、再度、第2浸漬槽に浸漬する付加浸漬工程を行うことも可能であり、この付加浸漬工程を行うことによって第2層と同質の第3層18aが形成され、さらに強力な遮熱塗膜20を得ることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本願発明に係る植物育成用金網の一例を示す外観図である。
【図2】図1中の鋼線を取り出して示す断面図である。
【図3】植物育成用金網の製造方法を示した図である。
【図4】植物育成の過程を示す建物の外観図である。
【符号の説明】
【0026】
10 植物育成用金網
10a 外枠
10b 素金網
11 素線
11a 縦鋼線
11b 横鋼線
12 プランタ
14 つる草
16 第1層
18 第2層
18a 第3層
20 遮熱塗膜
25 建造物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
縦鋼線と横鋼線とを抵抗溶接して網状にした素金網の表面に、相変化物質とアクリル系塗料からなる遮熱塗幕を付着させることによって被覆してなる植物育成用金網。
【請求項2】
請求項1において、前記相変化物質はペロブスカイトマンガン酸化物と、コランダムバナジウム酸化物のいずれかである植物育成用金網。
【請求項3】
縦鋼線と横鋼線とを抵抗溶接して網状にした素金網を、相変化物質をアクリル系塗料で溶いた浴槽に全体を浸漬して表面を被覆した植物育成用金網の製造方法。
【請求項4】
請求項3において、前記浴槽に全体を複数回浸漬して被覆する植物育成用金網の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−202421(P2007−202421A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−22108(P2006−22108)
【出願日】平成18年1月31日(2006.1.31)
【出願人】(306000359)株式会社 フジネット (2)
【Fターム(参考)】